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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172559
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20241205BHJP
   F04C 29/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F04C18/02 311W
F04C29/02 311D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090348
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 仁
(72)【発明者】
【氏名】除補 義信
【テーマコード(参考)】
3H039
3H129
【Fターム(参考)】
3H039AA03
3H039AA05
3H039AA12
3H039BB11
3H039CC02
3H039CC03
3H039CC08
3H039CC24
3H039CC44
3H129AA02
3H129AA14
3H129AA21
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB01
3H129BB50
3H129CC02
3H129CC10
3H129CC18
3H129CC34
(57)【要約】
【課題】可動スクロールとフローティング部材との潤滑不良を抑制する。
【解決手段】スクロール圧縮機(10)は、固定スクロール(31)及び可動スクロール(35)を有する圧縮機構(30)と、可動スクロールを固定スクロールに対して押し付けるフローティング部材(50)と、を備える。可動スクロールは、第1接触面(111)と、第1隙間形成面(112)と、を含む。フローティング部材は、第2接触面と、第2隙間形成面と、を含む。第1隙間形成面は、第1接触面よりも外周側(Ro)に配置されている。第2隙間形成面は、第2接触面よりも内周側(Ri)に配置されている。可動スクロールの第1軸心(Z1)から第1隙間形成面の内周端部(112i)までの距離(R1)と、フローティング部材の第2軸心(Z2)から第2隙間形成面の外周端部(122o)までの距離(R2)と、第1軸心と第2軸心との距離(r)とは、(R2-r)<R1<(R2+r)の関係にある。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定スクロール(31)及び可動スクロール(35)を有する圧縮機構(30)と、
前記可動スクロール(35)を前記固定スクロール(31)に対して軸方向(Z)に押し付けるフローティング部材(50)と、を備え、
前記可動スクロール(35)における前記フローティング部材(50)に対向する第1対向面(110)は、前記フローティング部材(50)に接触する第1接触面(111)と、前記フローティング部材(50)との間で隙間(H)を形成する第1隙間形成面(112)と、を含み、
前記フローティング部材(50)における前記可動スクロール(35)に対向する第2対向面(120)は、前記可動スクロール(35)に接触する第2接触面(121)と、前記可動スクロール(35)との間で隙間(H)を形成する第2隙間形成面(122)と、を含み、
前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)よりも径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの一方側(Ra)に配置されており、
前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)よりも前記径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの他方側(Rb)に配置されており、
前記可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から前記第1隙間形成面(112)の前記径方向(R)における前記他方側(Rb)の端部(112b)までの距離(R1)と、
前記フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から前記第2隙間形成面(122)の前記径方向(R)における前記一方側(Ra)の端部(122a)までの距離(R2)と、
前記第1軸心(Z1)と前記第2軸心(Z2)との距離(r)とは、
(R2-r)<R1<(R2+r)又は(R1-r)<R2<(R1+r)の関係を満たす、
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)に対して傾斜した第1傾斜部(113)で構成されおり、
前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)に対して傾斜した第2傾斜部(123)で構成されている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記第1傾斜部(113)は、前記径方向(R)における前記一方側(Ra)に延びるに従って前記軸方向(Z)における前記フローティング部材(50)とは反対側に延びており、
前記第2傾斜部(123)は、前記径方向(R)における前記他方側(Rb)に延びるに従って前記軸方向(Z)における前記可動スクロール(35)とは反対側に延びている、
請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)に対して前記軸方向(Z)における前記フローティング部材(50)とは反対側に凹む第1凹部(114)で構成されており、
前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)に対して前記軸方向(Z)における前記可動スクロール(35)とは反対側に凹む第2凹部(124)で構成されている、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記径方向(R)における前記一方側(Ra)は、外周側(Ro)であり、
前記径方向(R)における前記他方側(Rb)は、内周側(Ri)であり、
前記可動スクロール(35)の前記第1軸心(Z1)から前記第1隙間形成面(112)の内周端部(112i)までの距離(R1)と、
前記フローティング部材(50)の前記第2軸心(Z2)から前記第2隙間形成面(122)の外周端部(122o)までの距離(R2)と、
前記第1軸心(Z1)と前記第2軸心(Z2)との距離(r)とは、
(R2-r)<R1<(R2+r)の関係を満たす、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つ記載のスクロール圧縮機(10)を備える、冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スクロール圧縮機及び冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のスクロール圧縮機は、固定スクロール及び可動スクロールを有する圧縮機構と、フローティング部材と、を備える。フローティング部材の背面側に高圧又は中間圧が供給されることで、フローティング部材が押し上げられる。フローティング部材は、可動スクロールを固定スクロールに対して押し付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020―193576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フローティング部材は、可動スクロールを軸方向に支持するスラスト軸受として、機能する。フローティング部材は、可動スクロールの転覆に追従して傾く。フローティング部材は、可動スクロールに対してほとんど隙間なく接触した状態で、可動スクロールを好適に支持し得る。
【0005】
その反面、可動スクロールとフローティング部材との間には、潤滑油が流入しにくくなる。可動スクロールとフローティング部材との接触部(摺動部)は、潤滑不良により焼き付きが生じかねない。
【0006】
本開示の目的は、スクロール圧縮機において、可動スクロールとフローティング部材との間での潤滑不良を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、スクロール圧縮機(10)を対象とする。スクロール圧縮機(10)は、固定スクロール(31)及び可動スクロール(35)を有する圧縮機構(30)と、前記可動スクロール(35)を前記固定スクロール(31)に対して軸方向(Z)に押し付けるフローティング部材(50)と、を備え、前記可動スクロール(35)における前記フローティング部材(50)に対向する第1対向面(110)は、前記フローティング部材(50)に接触する第1接触面(111)と、前記フローティング部材(50)との間で隙間(H)を形成する第1隙間形成面(112)と、を含み、前記フローティング部材(50)における前記可動スクロール(35)に対向する第2対向面(120)は、前記可動スクロール(35)に接触する第2接触面(121)と、前記可動スクロール(35)との間で隙間(H)を形成する第2隙間形成面(122)と、を含み、前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)よりも径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの一方側(Ra)に配置されており、前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)よりも前記径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの他方側(Rb)に配置されており、前記可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から前記第1隙間形成面(112)の前記径方向(R)における前記他方側(Rb)の端部(112b)までの距離(R1)と、前記フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から前記第2隙間形成面(122)の前記径方向(R)における前記一方側(Ra)の端部(122a)までの距離(R2)と、前記第1軸心(Z1)と前記第2軸心(Z2)との距離(r)とは、(R2-r)<R1<(R2+r)又は(R1-r)<R2<(R1+r)の関係を満たす。
【0008】
第1の態様によれば、可動スクロール(35)の第1接触面(111)とフローティング部材(50)の第2接触面(121)とが互いに対向して接触する一の領域と、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)とが互いに対向して両者の間で隙間(H)が形成される他の領域と、が形成される。
【0009】
一の領域では、フローティング部材(50)の第2接触面(121)は、可動スクロール(35)の第1接触面(111)を支持して、可動スクロール(35)を固定スクロール(31)に対して軸方向(Z)に押し付ける。
【0010】
他の領域では、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)との隙間(H)に対する潤滑油の供給によって、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)の潤滑が行われる。
【0011】
スクロール圧縮機(10)において、フローティング部材(50)によって可動スクロール(35)を支持しつつ、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との間での潤滑不良を抑制することができる。
【0012】
第2の態様は、第1の態様に係るスクロール圧縮機(10)を対象とする。スクロール圧縮機(10)では、前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)に対して傾斜した第1傾斜部(113)で構成されおり、前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)に対して傾斜した第2傾斜部(123)で構成されている。
【0013】
第2の態様によれば、第1隙間形成面(112)及び第2隙間形成面(122)を、第1傾斜部(113)及び第2傾斜部(123)によって、簡単に形成することができる。
【0014】
第3の態様は、第2の態様に係るスクロール圧縮機(10)を対象とする。スクロール圧縮機(10)では、前記第1傾斜部(113)は、前記径方向(R)における前記一方側(Ra)に延びるに従って前記軸方向(Z)における前記フローティング部材(50)とは反対側に延びており、前記第2傾斜部(123)は、前記径方向(R)における前記他方側(Rb)に延びるに従って前記軸方向(Z)における前記可動スクロール(35)とは反対側に延びている。
【0015】
第3の態様によれば、潤滑油を、第1傾斜部(113)及び第2傾斜部(123)に沿わせて、スムーズに流すことができる。
【0016】
第4の態様は、第1~第3の態様に係るスクロール圧縮機(10)を対象とする。スクロール圧縮機(10)では、前記第1隙間形成面(112)は、前記第1接触面(111)に対して前記軸方向(Z)における前記フローティング部材(50)とは反対側に凹む第1凹部(114)で構成されており、前記第2隙間形成面(122)は、前記第2接触面(121)に対して前記軸方向(Z)における前記可動スクロール(35)とは反対側に凹む第2凹部(124)で構成されている。
【0017】
第4の態様によれば、第1隙間形成面(112)及び第2隙間形成面(122)を、第1凹部(114)及び第2凹部(124)によって、簡単に形成することができる。
【0018】
第5の態様は、第1~第4の態様に係るスクロール圧縮機(10)を対象とする。スクロール圧縮機(10)では、前記径方向(R)における前記一方側(Ra)は、外周側(Ro)であり、前記径方向(R)における前記他方側(Rb)は、内周側(Ri)であり、前記可動スクロール(35)の前記第1軸心(Z1)から前記第1隙間形成面(112)の内周端部(112i)までの距離(R1)と、前記フローティング部材(50)の前記第2軸心(Z2)から前記第2隙間形成面(122)の外周端部(122o)までの距離(R2)と、前記第1軸心(Z1)と前記第2軸心(Z2)との距離(r)とは、(R2-r)<R1<(R2+r)の関係を満たす。
【0019】
第5の態様によれば、第1隙間形成面(112)及び第2隙間形成面(122)を簡単に形成することができる。
【0020】
第6の態様は、冷凍装置(1)を対象とする。冷凍装置(1)は、第1~第5の態様に係るスクロール圧縮機(10)を備える。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、第1実施形態に係る冷凍装置(1)を示す。
図2図2は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機(10)を正面断面図で示す。
図3図3は、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との位置関係を正面図で示す。
図4図4は、フローティング部材(50)による可動スクロール(35)に対する支持及び可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部の潤滑を正面図で示す。
図5図5は、フローティング部材(50)による可動スクロール(35)に対する支持及び可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部の潤滑を平面図で模式的に示す。
図6図6は、第2実施形態に係る図4相当図である。
図7図7は、第3実施形態に係る図4相当図である。
図8図8は、第4実施形態に係る図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1実施形態>
(冷凍装置)
第1実施形態に係るスクロール圧縮機(10)について説明する。スクロール圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に適用される。図1は、冷凍装置(1)を示す。冷凍装置(1)は、作動流体としての冷媒が循環する冷媒回路(1a)を、含む。冷凍装置(1)の冷媒回路(1a)は、スクロール圧縮機(10)と、凝縮器(放熱器)(2)と、減圧機構(膨張機構)(3)と、蒸発器(4)と、を備える。減圧機構(3)は、例えば、膨張弁やキャピラリーチューブなどである。冷媒回路(1a)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う。冷凍装置(1)は、例えば、空気調和機や冷却機などに適用される。
【0023】
(圧縮機)
図2は、スクロール圧縮機(10)を正面断面図で示す。スクロール圧縮機(10)は、ケーシング(20)と、圧縮機構(30)と、駆動軸(40)と、フローティング部材(50)と、フレーム(60)と、モータ(70)と、下部軸受部材(80)と、油ポンプ(90)と、を備える。
【0024】
以下、駆動軸(40)の軸心の延びる方向を、軸方向として、(Z)で示す。駆動軸(40)の軸方向は、上下方向に延びている。軸方向(上下方向)における上側を、(Za)で示す。軸方向(上下方向)における下側を、(Zb)で示す。
【0025】
駆動軸(40)の軸心に直交する方向を、径方向として、(R)で示す。径方向における駆動軸(40)の軸心に遠い側を、外周側として、(Ro)で示す。径方向における駆動軸(40)の軸心に近い側を、内周側として、(Ri)で示す。外周側は、径方向における外周側及び内周側のうちの一方側であり、(Ra)でも表される。内周側は、径方向における外周側及び内周側のうちの他方側であり、(Rb)でも表される。駆動軸(40)の回転方向を、周方向として、(T)で示す。
【0026】
スクロール圧縮機(10)は、縦置きである。ケーシング(20)内には、上側から下側に向けて順に、圧縮機構(30)と、フローティング部材(50)と、フレーム(60)と、モータ(70)と、下部軸受部材(80)と、が収容されている。駆動軸(40)は、ケーシング(20)内を軸方向(上下方向)に延びている。油ポンプ(90)は、駆動軸(40)の下端部に設けられている。
【0027】
(ケーシング)
ケーシング(20)は、軸方向(上下方向)に縦長に延びる円筒状の密閉容器である。ケーシング(20)内の上部には、仕切部材(21)が設けられている。仕切部材(21)は、径方向に延びている。仕切部材(21)は、ケーシング(20)の内部空間を軸方向(上下方向)に仕切る。仕切部材(21)よりも下側には、低圧空間(Sa)が構成される。仕切部材(21)よりも上側には、高圧空間(Sb)が構成される。
【0028】
ケーシング(20)には、吸入管(22)と吐出管(23)とが接続されている。吸入管(22)は、ケーシング(20)の側壁部を貫通している。吸入管(22)は、低圧空間(Sa)に連通している。吐出管(23)は、ケーシング(20)の上壁部を貫通している。吐出管(23)は、高圧空間(Sb)に連通している。ケーシング(20)の下底部には、油貯留部(24)が設けられている。油貯留部(24)には、潤滑油(L)が貯留される。潤滑油(L)は、スクロール圧縮機(10)の各摺動部を潤滑する。
【0029】
(圧縮機構)
圧縮機構(30)は、ケーシング(20)内に設けられている。圧縮機構(30)は、作動流体(例えば冷媒など)を圧縮する。作動流体は、ガスである。圧縮機構(30)は、固定スクロール(31)と、可動スクロール(35)と、を有する。可動スクロール(35)は、固定スクロール(31)に噛み合わされている。
【0030】
固定スクロール(31)は、固定側鏡板部(32)と、固定側ラップ(33)と、外周壁部(34)と、を含む。固定側鏡板部(32)は、円板状である。固定側ラップ(33)は、インボリュート曲線を描く渦巻壁状であり、固定側鏡板部(32)の下面から下方に突出している。外周壁部(34)は、固定側ラップ(33)を外周側から囲むように形成されており、固定側鏡板部(32)の下面から下方に突出している。外周壁部(34)の先端面(下端面)は、固定側ラップ(33)の先端面(下端面)と略面一となっている。
【0031】
可動スクロール(35)は、旋回スクロールとも呼ばれる。可動スクロール(35)は、固定スクロール(31)よりも下側に配置されている。可動スクロール(35)は、可動側鏡板部(36)と、可動側ラップ(37)と、ボス部(38)と、を含む。可動側鏡板部(36)は、円板状である。可動側ラップ(37)は、インボリュート曲線を描く渦巻壁状であり、可動側鏡板部(36)の上面から上方に突出している。ボス部(38)は、円筒状であり、可動側鏡板部(36)の下面の中央部から下方に突出している。ボス部(38)の内周には、軸受(38a)が嵌め込まれている。
【0032】
圧縮機構(30)では、可動スクロール(35)の可動側ラップ(37)は、固定スクロール(31)の固定側ラップ(33)に噛み合わされている。固定スクロール(31)における固定側鏡板部(32)及び固定側ラップ(33)と可動スクロール(35)における可動側鏡板部(36)及び可動側ラップ(37)とに囲まれた領域には、圧縮室(C)が形成される。圧縮室(C)では、作動流体が圧縮される。
【0033】
固定スクロール(31)の外周壁部(34)には、吸入ポート(図示省略)が形成されている。吸入ポートは、圧縮室(C)に連通している。吸入ポートは、低圧空間(Sa)に連通している。固定スクロール(31)の固定側鏡板部(32)の中央部には、吐出ポート(P)が軸方向に貫通している。吐出ポート(P)は、圧縮室(C)に連通している。吐出ポート(P)は、高圧空間(Sb)に連通している。
【0034】
低圧の作動流体は、吸入管(22)を通じてケーシング(20)内の低圧空間(Sa)に流入した後に、吸入ポートを通じて圧縮室(C)に至る。作動流体は、圧縮室(C)で圧縮されて高圧になる。高圧の作動流体は、吐出ポート(P)を通じて高圧空間(Sb)に流出した後に、吐出管(23)を通じてケーシング(20)外(例えば冷媒回路(1a)の凝縮器(2)など)へ吐出される。
【0035】
(駆動軸)
駆動軸(40)は、ケーシング(20)内を軸方向(上下方向)に延びている。駆動軸(40)は、主軸部(41)と、偏心軸部(42)と、を有する。偏心軸部(42)は、主軸部(41)の軸方向上端に設けられている。偏心軸部(42)の外径は、主軸部(41)の外径よりも小さい。偏心軸部(42)の軸心(42a)は、主軸部(41)の軸心(41a)に対して、偏心距離(r)だけ偏心している。
【0036】
駆動軸(40)の偏心軸部(42)は、可動スクロール(35)のボス部(38)に対して、軸方向下側から挿入されている。駆動軸(40)の偏心軸部(42)は、軸受(38a)を介して、可動スクロール(35)のボス部(38)に、回転可能(摺動可能)に支持されている。可動スクロール(35)は、駆動軸(40)の偏心軸部(42)と同心にある。
【0037】
駆動軸(40)の内部には、軸方向(上下方向)に延びる油通路(43)が、形成されている。油通路(43)は、スクロール圧縮機(10)における各摺動部に連通している。
【0038】
(フローティング部材)
フローティング部材(50)は、フロートハウジングとも呼ばれる。フローティング部材(50)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。フローティング部材(50)は、ケーシング(20)内において可動スクロール(35)の下側且つフレーム(60)の上側に設けられている。
【0039】
フローティング部材(50)は、ケーシング(20)に対して、揺動自在に支持されている。フローティング部材(50)は、ケーシング(20)に直接的には固定されていない。フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)を軸方向に支持する。フローティング部材(50)は、スラスト軸受として機能する。フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)を、固定スクロール(31)に対して軸方向に押し付ける。フローティング部材(50)の内周には、駆動軸(40)が挿入されている。
【0040】
フローティング部材(50)は、スクロール支持部(51)と、主軸支持部(52)と、を有する。スクロール支持部(51)は、円筒状であって、フローティング部材(50)の上側部分を構成する。
【0041】
主軸支持部(52)は、円筒状であって、フローティング部材(50)の下側部分を構成する。スクロール支持部(51)の外径は、主軸支持部(52)の外径よりも大きい。スクロール支持部(51)の内径は、主軸支持部(52)の内径よりも大きい。スクロール支持部(51)と主軸支持部(52)とは、軸方向(上下方向)に互いに接続されている。
【0042】
スクロール支持部(51)は、可動スクロール(35)の直下に位置する。スクロール支持部(51)の上面は、可動スクロール(35)の下面に接触する。スクロール支持部(51)の内周側(中央部)には、下方に凹む凹部によって、クランク室(53)が形成されている。クランク室(53)は、可動スクロール(35)のボス部(38)を収容する。
【0043】
スクロール支持部(51)の外周面の下端寄りには、シール部材(例えばOリングなど、図示省略)が収容される第1環状溝(54)が、形成されている。
【0044】
主軸支持部(52)の内周側には、軸方向(上下方向)に貫通する貫通穴が、空けられている。主軸支持部(52)の貫通穴には、軸受(52a)が嵌め込まれている。駆動軸(40)の主軸部(41)は、軸受(52a)を介して、フローティング部材(50)の主軸支持部(52)に回転可能(摺動可能)に支持されている。フローティング部材(50)は、駆動軸(40)の主軸部(41)と同心にある。
【0045】
主軸支持部(52)の外周面の上端寄りには、シール部材(例えばOリングなど、図示省略)が収容される第2環状溝(55)が、形成されている。
【0046】
(フレーム)
フレーム(60)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。フレーム(60)は、ケーシング(20)内においてフローティング部材(50)の下側且つモータ(70)の上側に設けられている。フレーム(60)は、低圧空間(Sa)において、ケーシング(20)の内周面に、固定されている。ケーシング(20)に対するフレーム(60)の固定は、固定具を用いて行われたり、圧入によって行われたりする。
【0047】
フレーム(60)は、固定部(61)と、突出部(62)と、を有する。固定部(61)は、円筒状であって、フレーム(60)の外周側部分を構成する。突出部(62)は、円筒状であって、フレーム(60)の内周側部分且つ下側部分を構成する。
【0048】
固定部(61)の外周面は、ケーシング(20)の内周面に、例えば固定具(図示省略)などによって固定されている。固定部(61)の内周面は、フローティング部材(50)のスクロール支持部(51)の外周面の下端寄り(第1環状溝(54)を含む部分)に、径方向に臨んでいる。
【0049】
突出部(62)は、固定部(61)の内周面から内周側に突出している。突出部(62)の内周側には、軸方向(上下方向)に貫通する貫通穴(63)が、空けられている。貫通穴(63)には、駆動軸(40)の主軸部(41)を支持した状態のフローティング部材(50)の主軸支持部(52)が、挿入されている。
【0050】
突出部(62)の内周面は、フローティング部材(50)の主軸支持部(52)の外周面の上端寄り(第2環状溝(55)を含む部分)に、径方向に臨んでいる。
【0051】
突出部(62)の上面は、フローティング部材(50)のスクロール支持部(51)の下面に臨んでいる。突出部(62)の上面の内周寄りには、シール部材(例えばOリングなど、図示省略)が収容される第3環状溝(64)が、形成される。
【0052】
(モータ)
モータ(70)は、ケーシング(20)内においてフレーム(60)の下側且つ下部軸受部材(80)の上側に設けられている。モータ(70)は、駆動軸(40)を回転させることによって、圧縮機構(30)を駆動する。モータ(70)は、ロータコア(71)と、ステータコア(72)と、を有する。
【0053】
ロータコア(71)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。ロータコア(71)の内周側には、駆動軸(40)の主軸部(41)が挿入されて固定されている。ステータコア(72)は、軸方向(上下方向)に延びる円筒状である。ステータコア(72)は、ケーシング(20)の内周面に固定されている。ステータコア(72)は、ロータコア(71)を外周側から囲むように配置されている。ステータコア(72)とロータコア(71)とは、径方向に所定の間隔を空けている。ロータコア(71)は、ステータコア(72)の内周側に回転可能に挿入されている。
【0054】
(下部軸受部材)
下部軸受部材(80)は、軸方向(上下方向)に延びる略円筒状である。下部軸受部材(80)は、ケーシング(20)内において、モータ(70)と油貯留部(24)(ケーシング(20)の下底部)との間に設けられている。下部軸受部材(80)は、ケーシング(20)の内周面に固定されている。下部軸受部材(80)は、円筒部(81)と、突出部(82)と、を有する。円筒部(81)は、円筒状である。突出部(82)は、円筒部(81)の外周面から外周側に突出している。
【0055】
円筒部(81)の内周には、軸受(81a)が嵌め込まれている。駆動軸(40)の主軸部(41)は、軸受(81a)を介して、下部軸受部材(80)に回転可能(摺動可能)に支持されている。下部軸受部材(80)の突出部(82)は、ケーシング(20)の内周面に固定されている。
【0056】
(油ポンプ)
油ポンプ(90)は、駆動軸(40)の主軸部(41)の下端部に設けられている。油ポンプ(90)のノズル(91)は、油貯留部(24)に貯留された潤滑油(L)に、浸かっている。油ポンプ(90)は、油貯留部(24)から潤滑油(L)を吸い上げる。潤滑油(L)は、駆動軸(40)の油通路(43)を通じて、スクロール圧縮機(10)における各摺動部に供給される。
【0057】
スクロール圧縮機(10)における摺動部として、可動スクロール(35)のボス部(38)の軸受(38a)と駆動軸(40)の偏心軸部(42)との間、フローティング部材(50)の主軸支持部(52)の軸受(52a)と駆動軸(40)の主軸部(41)との間、下部軸受部材(80)の円筒部(81)の軸受(81a)と駆動軸(40)の主軸部(41)との間、などがある。
【0058】
スクロール圧縮機(10)における摺動部として、その他にも、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)がある。
【0059】
(圧縮機の運転動作)
スクロール圧縮機(10)の運転動作について説明する。モータ(70)が駆動すると、駆動軸(40)が回転して圧縮機構(30)の可動スクロール(35)が駆動される。可動スクロール(35)は、自転が規制された状態で、駆動軸(40)の主軸部(41)の軸心(41a)を中心に公転する。低圧作動流体(例えば低圧冷媒ガス)は、吸入管(22)から、低圧空間(Sa)に流入して、吸入ポートを通じて、圧縮室(C)に吸入されて圧縮され、高圧作動流体(例えば高圧冷媒ガス)となる。高圧作動流体は、圧縮室(C)から、吐出ポート(P)を通じて、高圧空間(Sb)へ流出されて、吐出管(23)を通じて、ケーシング(20)の外部(例えば冷媒回路(1a)の凝縮器(2))へ、吐出される。
【0060】
圧縮室(C)で圧縮されて高圧となった作動流体の一部は、流体通路(図示省略)を通じて、フローティング部材(50)の第2環状溝(55)とフレーム(60)の第3環状溝(64)との間の第1空間(S1)に、供給される。第1空間(S1)で発生した高圧によって、フローティング部材(50)は、軸方向上側に押し上げられて、可動スクロール(35)を固定スクロール(31)に対して軸方向上側に押し付ける。
【0061】
圧縮室(C)で圧縮される途中で中間圧(低圧と高圧との間の圧力)となった作動流体の一部は、流体通路(図示省略)を通じて、フローティング部材(50)の第1環状溝(54)とフレーム(60)の第3環状溝(64)との間の第2空間(S2)に、供給される。第2空間(S2)で発生した中間圧によって、フローティング部材(50)は、軸方向上側に押し上げられて、可動スクロール(35)を固定スクロール(31)に対して軸方向上側に押し付ける。
【0062】
(潤滑不良)
このように、フローティング部材(50)の背面側(下面側)に高圧又は中間圧が供給されることによって、フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)を固定スクロール(31)に対して軸方向に押し付けて、可動スクロール(35)を軸方向に支持する。
【0063】
フローティング部材(50)は、ケーシング(20)に直接的には固定されておらず、ケーシング(20)に対して揺動自在なので、可動スクロール(35)の転覆に追従して傾くことができる。フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)に対してほとんど隙間なく接触した状態で、可動スクロール(35)を好適に支持し得る。
【0064】
その反面、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との間には、潤滑油(L)が流入しにくくなる。可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)は、潤滑不良により焼き付きが生じかねない。
【0065】
本実施形態では、以下の手法によって、スクロール圧縮機(10)において、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との間での潤滑不良を抑制する。
【0066】
(可動スクロールとフローティング部材との位置関係)
図3は、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との位置関係を正面図で示す。ただし、図3において、フローティング部材(50)のみを断面にて示す。図3において、可動スクロール(35)及びフローティング部材(50)の図示を簡略化しており、図2とは形状が異なる場合がある(図4~8についても同様)。図3では、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)とを互いに離間して示している。
【0067】
なお、上述したように、径方向(R)の外周側(Ro)は、径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの一方側(Ra)である。径方向(R)の内周側(Ri)は、径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの他方側(Rb)である。
【0068】
上述したように、駆動軸(40)において、偏心軸部(42)の軸心(42a)は、主軸部(41)の軸心(41a)に対して、偏心距離(r)だけ偏心している。可動スクロール(35)は、駆動軸(40)の偏心軸部(42)と同心にある。フローティング部材(50)は、駆動軸(40)の主軸部(41)と同心にある。
【0069】
可動スクロール(35)の軸心を、第1軸心(Z1)とする。可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)は、駆動軸(40)の偏心軸部(42)の軸心(42a)に一致する。フローティング部材(50)の軸心を、第2軸心(Z2)とする。フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)は、駆動軸(40)の主軸部(41)の軸心(41a)に一致する。可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)とフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)とは、偏心距離(r)だけ径方向に離れている(偏心している)。
【0070】
可動スクロール(35)は、フローティング部材(50)よりも、軸方向(Z)の上側(Za)に配置されている。フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)よりも、軸方向(Z)の下側(Zb)に配置されている。
【0071】
可動スクロール(35)の可動側鏡板部(36)の下面(背面)と、フローティング部材(50)のスクロール支持部(51)の上面とは、軸方向(Z)において互いに対向している。可動スクロール(35)の可動側鏡板部(36)の下面(背面)を、第1対向面(110)とする。フローティング部材(50)のスクロール支持部(51)の上面を、第2対向面(120)とする。
【0072】
可動スクロール(35)の第1対向面(110)は、軸方向(Z)に見て、円形状である。可動スクロール(35)の第1対向面(110)の径方向(R)における中央部からは、円筒状のボス部(38)が軸方向(Z)に延びている。可動スクロール(35)の第1対向面(110)は、軸方向(Z)において、フローティング部材(50)の第2対向面(120)に対向する。
【0073】
フローティング部材(50)の第2対向面(120)は、軸方向(Z)に見て、円形状である。フローティング部材(50)の第2対向面(120)の径方向(R)における中央部には、凹部によって、クランク室(53)が形成されている。フローティング部材(50)のクランク室(53)は、可動スクロール(35)のボス部(38)を収容する。フローティング部材(50)の第2対向面(120)は、軸方向(Z)において、可動スクロール(35)の第1対向面(110)に対向する。
【0074】
可動スクロール(35)の第1対向面(110)は、第1接触面(111)と、第1隙間形成面(112)と、を含む。第1隙間形成面(112)は、第1接触面(111)よりも、径方向(R)の外周側(Ro)に配置されている。第1接触面(111)は、第1隙間形成面(112)よりも、径方向(R)の内周側(Ri)に配置されている。第1接触面(111)は、第1対向面(110)における径方向(R)の中央部(正確にはボス部(38)より外周側)に配置されている。第1隙間形成面(112)は、第1対向面(110)において、第1接触面(111)を径方向(R)の外周側(Ro)から囲むように配置されている。第1接触面(111)及び第1隙間形成面(112)は、周方向(T)の全周に亘って設けられている。
【0075】
第1接触面(111)は、フラット面で構成されている。第1接触面(111)は、軸方向(Z)に直交するように径方向(R)に真直ぐに延びている。可動スクロール(35)の第1接触面(111)は、フローティング部材(50)の第2接触面(121)に接触する。
【0076】
第1隙間形成面(112)は、第1接触面(111)に対して傾斜した第1傾斜部(113)で構成されている。第1隙間形成面(112)(第1傾斜部(113))は、径方向(R)における外周側(Ro)に延びるに従って、軸方向(Z)の上側(Za)に延びている。換言すると、第1隙間形成面(112)(第1傾斜部(113))は、径方向(R)における外周側(Ro)に延びるに従って、軸方向(Z)におけるフローティング部材(50)とは反対側に延びている。
【0077】
可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)は、フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)との間で、後述する隙間(H)を形成する。
【0078】
可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から第1隙間形成面(112)の径方向(R)における内周側(Ri)の内周端部(112i)まで、第1距離(R1)だけ離れている。可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)の内径(d1)は、第1距離(R1)の2倍である(d1=2×R1)。なお、内周端部(112i)は、径方向(R)における他方側(Rb)の端部(112b)でも表される。
【0079】
フローティング部材(50)の第2対向面(120)は、第2接触面(121)と、第2隙間形成面(122)と、を含む。第2隙間形成面(122)は、第2接触面(121)よりも径方向(R)の内周側(Ri)に配置されている。第2接触面(121)は、第2隙間形成面(122)よりも、径方向(R)の外周側(Ro)に配置されている。第2隙間形成面(122)は、第2対向面(120)における径方向(R)の中央部(正確にはクランク室(53)より外周側)に配置されている。第2接触面(121)は、第2対向面(120)において、第2隙間形成面(122)を径方向(R)の外周側(Ro)から囲むように配置されている。第2接触面(121)及び第2隙間形成面(122)は、周方向(T)の全周に亘って設けられている。
【0080】
第2接触面(121)は、フラット面で構成されている。第2接触面(121)は、軸方向(Z)に直交するように径方向(R)に真直ぐに延びている。フローティング部材(50)の第2接触面(121)は、可動スクロール(35)の第1接触面(111)に接触する。
【0081】
第2隙間形成面(122)は、第2接触面(121)に対して傾斜した第2傾斜部(123)で構成されている。第2隙間形成面(122)(第2傾斜部(123))は、径方向(R)における内周側(Ri)に延びるに従って、軸方向(Z)の下側(Zb)に延びている。換言すると、第2隙間形成面(122)(第2傾斜部(123))は、径方向(R)における内周側(Ri)に延びるに従って、軸方向(Z)における可動スクロール(35)とは反対側に延びている。
【0082】
フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)は、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)との間で、後述する隙間(H)を形成する。
【0083】
フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から第2隙間形成面(122)の径方向(R)における外周側(Ro)の外周端部(122o)まで、第2距離(R2)だけ離れている。フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)の外径(D2)は、第2距離(R2)の2倍である(D2=2×R2)。なお、外周端部(122o)は、径方向(R)における一方側(Ra)の端部(122a)でも表される。
【0084】
可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から第1隙間形成面(112)の径方向(R)における内周側(Ri)の内周端部(112i)までの第1距離(R1)と、フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から第2隙間形成面(122)の径方向(R)における外周側(Ro)の外周端部(122o)までの第2距離(R2)と、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)とフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)との偏心距離(r)とは、以下の関係を満たす。(R2-r)<R1<(R2+r)。
【0085】
可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)の内径(d1)と、フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)の外径(D2)と、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)とフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)との偏心距離(r)とは、以下の関係を満たす。(D2-2×r)<d1<(D2+2×r)。
【0086】
(フローティング部材による可動スクロールに対する支持及び両者の接触部の潤滑)
図4,5は、フローティング部材(50)による可動スクロール(35)に対する支持、及び可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部の潤滑を、示す。図4は正面図であり、図5は軸方向(Z)から見た模式的な平面図である。
【0087】
図4,5に示すように、第1領域(A1)と第2領域(A2)とは、周方向(T)における位置が互いに異なる。第1領域(A1)と第2領域(A2)とは、径方向(R)において互いに反対側の位置にある(周方向(T)において略180°ずれた位置にある)。図4,5では、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)は、フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)に対して、第1領域(A1)側に、偏心距離(r)だけ偏心している。
【0088】
第1領域(A1)は、図5において、可動スクロール(35)におけるハッチングの無い部分(白部分)とフローティング部材(50)におけるハッチングの無い部分(白部分)とが重なる領域である。第1領域(A1)において、可動スクロール(35)の第1接触面(111)とフローティング部材(50)の第2接触面(121)とは、軸方向(Z)において互いに対向しており、互いに接触する。第1領域(A1)において、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)とは、互いに対向しない。
【0089】
第1領域(A1)において、フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)を軸方向(Z)に支持する。第1領域(A1)において、フローティング部材(50)は、可動スクロール(35)を、固定スクロール(31)に対して軸方向(Z)に押し付ける。
【0090】
第2領域(A2)は、図5において、可動スクロール(35)におけるハッチング部分とフローティング部材(50)におけるハッチング部分とが重なる領域である。第2領域(A2)において、可動スクロール(35)の第1接触面(111)とフローティング部材(50)の第2接触面(121)とは、軸方向(Z)において互いに対向しない。第2領域(A2)において、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)とは、互いに対向しており、両者の間に隙間(H)が形成される。
【0091】
第2領域(A2)において、潤滑油(L)は、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)との隙間(H)に対して、供給される。隙間(H)に供給された潤滑油(L)は、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との間を径方向(R)及び周方向(T)に巡らされて、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)を潤滑する。
【0092】
このように、第1領域(A1)において、フローティング部材(50)の第2接触面(121)による可動スクロール(35)の第1接触面(111)に対する支持が行われる。一方、第2領域(A2)において、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)との隙間(H)に対する潤滑油(L)の供給によって、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)の潤滑が行われる。
【0093】
可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)がフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)に対して偏心しているので、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)は、フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)を中心に公転する。このため、図示しないが、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)は、フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)に対して、第2領域(A2)側に、偏心距離(r)だけ偏心することもある。この場合、第1領域(A1)及び第2領域(A2)での可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との位置関係(及び当該位置関係に基づく作用)は、上述の場合とは逆になる。
【0094】
(作用効果)
本実施形態によれば、可動スクロール(35)の第1接触面(111)とフローティング部材(50)の第2接触面(121)とが互いに対向して接触する第1領域(A1)と、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)とが互いに対向して両者の間で隙間(H)が形成される第2領域(A2)と、が形成される。
【0095】
第1領域(A1)では、フローティング部材(50)の第2接触面(121)は、可動スクロール(35)の第1接触面(111)を軸方向(Z)に支持して、可動スクロール(35)を固定スクロール(31)に対して軸方向(Z)に押し付ける。
【0096】
第2領域(A2)では、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)とフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)との隙間(H)に対する潤滑油(L)の供給によって、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との接触部(摺動部)の潤滑が行われる。
【0097】
以上、スクロール圧縮機(10)において、フローティング部材(50)によって可動スクロール(35)を支持しつつ、可動スクロール(35)とフローティング部材(50)との間での潤滑不良を抑制することができる。
【0098】
可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)及びフローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)を、第1傾斜部(113)及び第2傾斜部(123)によって、簡単に形成することができる。
【0099】
潤滑油(L)を、第1隙間形成面(112)(第1傾斜部(113))及び第2隙間形成面(122)(第2傾斜部(123))に沿わせて、スムーズに流すことができる。
【0100】
可動スクロール(35)において、第1隙間形成面(112)を、第1接触面(111)よりも径方向(R)の外周側(Ro)に配置する。第1隙間形成面(112)を、可動スクロール(35)を可動側鏡板部(36)の外周縁部に、簡単に形成することができる。
【0101】
フローティング部材(50)において、第2隙間形成面(122)を、第2接触面(121)よりも径方向(R)の内周側(Ri)に配置する。第2隙間形成面(122)を、フローティング部材(50)のスクロール支持部(51)の内周縁部(クランク室(53)の内周壁部)に、簡単に形成することができる。
【0102】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るスクロール圧縮機(10)について説明する。図6は、第2実施形態に係る図4相当図である。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0103】
可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)は、第1凹部(114)で構成されている。第1凹部(114)は、段差でもある。第1隙間形成面(112)(第1凹部(114))は、第1接触面(111)に対して軸方向(Z)の上側(Za)に凹む。換言すると、第1隙間形成面(112)(第1凹部(114))は、第1接触面(111)に対して軸方向(Z)におけるフローティング部材(50)とは反対側に凹む。
【0104】
フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)は、第2凹部(124)で構成されている。第2凹部(124)は、段差でもある。第2隙間形成面(122)(第2凹部(124))は、第2接触面(121)に対して軸方向(Z)の下側(Zb)に凹む。換言すると、第2隙間形成面(122)(第2凹部(124))は、第2接触面(121)に対して軸方向(Z)における可動スクロール(35)とは反対側に凹む。
【0105】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0106】
本実施形態によれば、第1隙間形成面(112)及び第2隙間形成面(122)を、第1凹部(114)及び第2凹部(124)によって、簡単に形成することができる。
【0107】
<第3実施形態>
第3実施形態に係るスクロール圧縮機(10)について説明する。図7は、第3実施形態に係る図4相当図である。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0108】
本実施形態では、径方向(R)の内周側(Ri)は、径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの一方側(Ra)である。径方向(R)の外周側(Ri)は、径方向(R)における外周側(Ro)及び内周側(Ri)のうちの他方側(Ra)である。
【0109】
可動スクロール(35)において、第1隙間形成面(112)は、第1接触面(111)よりも、径方向(R)の内周側(Ri)に配置されている。第1隙間形成面(112)は、第1接触面(111)に対して傾斜した第1傾斜部(113)で構成されている。第1隙間形成面(112)(第1傾斜部(113))は、径方向(R)における内周側(Ri)に延びるに従って、軸方向(Z)におけるフローティング部材(50)とは反対側に延びている。
【0110】
可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から第1隙間形成面(112)の径方向(R)における外周側(Ro)の外周端部(112o)まで、第1距離(R1)だけ離れている。可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)の外径(D1)は、第1距離(R1)の2倍である(D1=2×R1)。なお、外周端部(112o)は、径方向(R)における他方側(Rb)の端部(112b)である。
【0111】
フローティング部材(50)において、第2隙間形成面(122)は、第2接触面(121)よりも径方向(R)の外周側(Ro)に配置されている。第2隙間形成面(122)は、第2接触面(121)に対して傾斜した第2傾斜部(123)で構成されている。第2隙間形成面(122)(第2傾斜部(123))は、径方向(R)における外周側(Ro)に延びるに従って、軸方向(Z)における可動スクロール(35)とは反対側に延びている。
【0112】
フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から第2隙間形成面(122)の径方向(R)における内周側(Ri)の内周端部(122i)まで、第2距離(R2)だけ離れている。フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)の内径(d2)は、第2距離(R2)の2倍である(d2=2×R2)。なお、内周端部(122i)は、径方向(R)における一方側(Ra)の端部(122a)である。
【0113】
可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)から第1隙間形成面(112)の径方向(R)における外周側(Ro)の外周端部(112o)までの第1距離(R1)と、フローティング部材(50)の第2軸心(Z2)から第2隙間形成面(122)の径方向(R)における内周側(Ri)の内周端部(122i)までの第2距離(R2)と、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)とフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)との偏心距離(r)とは、以下の関係を満たす。(R1-r)<R2<(R1+r)。
【0114】
可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)の外径(D1)と、フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)の内径(d2)と、可動スクロール(35)の第1軸心(Z1)とフローティング部材(50)の第2軸心(Z2)との偏心距離(r)とは、以下の関係を満たす。(D1-2×r)<d2<(D1+2×r)。
【0115】
その他の構成は、第1実施形態と同様である。本実施形態によれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0116】
<第4実施形態>
第4実施形態に係るスクロール圧縮機(10)について説明する。図8は、第4実施形態に係る図4相当図である。以下の説明において、上記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0117】
本実施形態では、可動スクロール(35)の第1隙間形成面(112)は、第1接触面(111)に対して軸方向(Z)におけるフローティング部材(50)とは反対側に凹む第1凹部(114)で構成されている。フローティング部材(50)の第2隙間形成面(122)は、第2接触面(121)に対して軸方向(Z)における可動スクロール(35)とは反対側に凹む第2凹部(124)で構成されている。
【0118】
その他の構成は、第3実施形態と同様である。本実施形態によれば、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0119】
<その他の実施形態>
その他の実施形態について説明する。
【0120】
可動スクロール(35)における第1接触面(111)及び第1隙間形成面(112)並びにフローティング部材(50)における第2接触面(121)及び第2隙間形成面(122)は、周方向(T)の全周に亘って設けられる必要はなく、周方向における一部にのみ設けられてもよい。
【0121】
スクロール圧縮機(10)は、横置きでもよい。すなわち、軸方向(Z)は、水平方向でもよい。
【0122】
スクロール圧縮機(10)は、冷凍装置(1)に適用されなくてもよく、例えば、単体として用いられてもよい。
【0123】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。以上の実施形態、変形例、その他の実施形態に係る要素を適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【符号の説明】
【0124】
Z 軸方向
R 径方向
Ro 外周側
Ri 内周側
Ra 一方側
Rb 他方側
Z1 第1軸心
Z2 第2軸心
r 偏心距離
R1 第1距離
R2 第2距離
H 隙間
L 潤滑油
d1 内径
d2 内径
D1 外径
D2 外径
1 冷凍装置
10 スクロール圧縮機
20 ケーシング
30 圧縮機構
31 固定スクロール
35 可動スクロール
38 ボス部
40 駆動軸
41 主軸部
41a 軸心
42 偏心軸部
42a 軸心
50 フローティング部材
53 クランク室
60 フレーム
70 モータ
80 下部軸受部材
90 油ポンプ
110 第1対向面
111 第1接触面
112 第1隙間形成面
112o 外周端部
112i 内周端部
112b 端部
113 第1傾斜部
114 第1凹部
120 第2対向面
121 第2接触面
122 第2隙間形成面
122o 外周端部
122i 内周端部
122a 端部
123 第2傾斜部
124 第2凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8