IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千住金属工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-フラックス及びソルダペースト 図1
  • 特開-フラックス及びソルダペースト 図2
  • 特開-フラックス及びソルダペースト 図3
  • 特開-フラックス及びソルダペースト 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172560
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】フラックス及びソルダペースト
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20241205BHJP
   B23K 35/26 20060101ALI20241205BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K35/363 C
B23K35/363 E
B23K35/26 310C
B23K35/26 310A
C22C12/00
B22F1/00 R
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090350
(22)【出願日】2023-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000199197
【氏名又は名称】千住金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 竜史
(72)【発明者】
【氏名】高木 朋子
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 陽也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 久彦
(72)【発明者】
【氏名】小賀 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】岡 直正
(72)【発明者】
【氏名】森 丞太郎
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018BA20
4K018BD04
4K018BD10
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高く、フラックス残渣の黒色化が抑えられ、かつ、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好なフラックス、及びこれを用いたソルダペーストを提供する。
【解決手段】本発明にかかるフラックスは、ロジンと、一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマーと、溶剤と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、を含有することを特徴とする。一般式(p1)中、Rは、メチル基又は水素原子である。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基又は水素原子である。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンと、下記一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)と、溶剤と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、を含有する、フラックス。
【化1】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子である。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基又は水素原子である。]
【請求項2】
前記ポリマー(P)の重量平均分子量が300~8000である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記ポリマー(P)の含有量が、フラックスの総質量に対して1~15質量%である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項4】
前記溶剤が、モノアルキルプロピレングリコールを含む、請求項1に記載のフラックス。
【請求項5】
前記モノアルキルプロピレングリコールが、ブチルプロピレントリグリコール及びブチルプロピレンジグリコールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項4に記載のフラックス。
【請求項6】
前記モノアルキルプロピレングリコールの含有量が、フラックスの総質量に対して5~50質量%である、請求項4に記載のフラックス。
【請求項7】
前記ポリマー(P)と、前記モノアルキルプロピレングリコールと、の混合比率が、
ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比として0.05以上である、請求項4に記載のフラックス。
【請求項8】
前記ジカルボン酸が、下記一般式(c1)で表される化合物である、請求項1に記載のフラックス。
【化2】
[式中、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基、フェニレン基又は単結合を表す。ただし、アルキレン基を構成するメチレン基が酸素原子に置換していてもよい。]
【請求項9】
前記ジカルボン酸の含有量が、フラックスの総質量に対して0.5質量%以上7.5質量%以下である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項10】
前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量が、フラックスの総質量に対して1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項11】
前記ジカルボン酸と、前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、の混合比率が、
ジカルボン酸/ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、で表される質量比として0.2以上3以下である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項12】
前記ロジンの含有量が、フラックスの総質量に対して10質量%以上である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項13】
前記ロジンが、アクリル酸変性水添ロジン、水添ロジン及び重合ロジンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のフラックス。
【請求項14】
前記チキソ剤が、ポリアミドを含む、請求項1に記載のフラックス。
【請求項15】
さらに、フェニル基置換のイミダゾールを含有する、請求項1に記載のフラックス。
【請求項16】
ハロゲン化合物を含有しない、請求項1に記載のフラックス。
【請求項17】
はんだ合金粉末と、請求項1~16のいずれか一項に記載のフラックスと、を含有するソルダペースト。
【請求項18】
前記はんだ合金粉末は、SnとBiとを含むはんだ合金からなる、請求項17に記載のソルダペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス及びソルダペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の実装では、基板に対する部品の固定、及び、基板に対する部品の電気的な接続は、一般に、はんだ付けにより行われる。はんだ付けにおいては、フラックス、はんだ合金、並びに、フラックス及びはんだ合金粉末を混合したソルダペーストが用いられる。フラックスは、はんだ付けの対象となる接合対象物の金属表面及びはんだ合金に存在する金属酸化物を化学的に除去し、両者の境界で金属元素の移動を可能にする効能を持つ。このため、フラックスを使用してはんだ付けを行うことで、両者の間に金属間化合物が形成されるようになり、強固な接合が得られる。
【0003】
はんだ付けにおいては、接合対象物のサイズ等に応じて、フローはんだ付け、リフローはんだ付け等の方法が採用されている。
フローはんだ付けにおいては、まず、部品を搭載した基板にフラックスが塗布される。次いで、部品が搭載された基板を搬送しつつ、下方から噴流させた溶融はんだをはんだ付け面に接触させることにより、はんだ付けを行う。
リフローはんだ付けにおいては、まず、基板にソルダペーストが印刷される。次いで、部品が搭載され、リフロー炉と称される加熱炉で、部品が搭載された基板を加熱することにより、はんだ付けを行う。
【0004】
近年、はんだ付けでは、環境への悪影響を考慮し、鉛フリーはんだが用いられている。Snを主成分とする鉛フリーはんだは、融点が高いため、はんだ付けの際に、より高温まで加熱して溶融させる必要がある。溶融したはんだは、高温であるほど、多くの酸化物を生じやすい。
これに対して、基板への熱ダメージ低減、省エネルギー等の観点から、より低温の条件ではんだ付けが可能である、SnとBiとを含むはんだ合金が用いられるようになってきている。SnとBiとを含むはんだ合金を用いる場合、Biが酸化されやすい金属元素であることから、これに対応したフラックスがこれまでに提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7075028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ソルダペーストにおいては、リフローはんだ付けのリフロー時、はんだ合金粉末が溶融した際に、はんだ合金粉末の凝集性が高いこと(はんだボールが発生しにくいこと)が望まれる。
はんだ合金粉末の凝集性は、JIS Z 3284-4:2014の「4.2 ソルダボール試験」で評価される。リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が低い場合、はんだボールが発生しやすくなる。このはんだボールは、基板上の電気回路を短絡させるおそれがある。
【0007】
本発明者らは、検討により、はんだ合金粉末の凝集性に対し、フラックスに配合する活性剤として、ジカルボン酸が効果的であることを見出した。
しかしながら、ジカルボン酸を含有するフラックスをソルダペーストに用いると、リフロー後、はんだ付け部のフラックス残渣が、経時的に黒く変色して、電気的な信頼性の低下を生じるおそれがあった。
このフラックス残渣の黒色化に対し、本発明者らは更なる検討により、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を併用すること、が効果的であることを見出した。
しかしながら、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、を併用したフラックスにおいては、経時に伴って、フラックス中で、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が起こりやすい、というあらたな問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高く、フラックス残渣の黒色化が抑えられ、かつ、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好なフラックス、及びこれを用いたソルダペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用した。
【0010】
[1] ロジンと、下記一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)と、溶剤と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、を含有する、フラックス。
【0011】
【化1】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子である。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基又は水素原子である。]
【0012】
[2] 前記ポリマー(P)の重量平均分子量が300~8000である、前記[1]に記載のフラックス。
[3] 前記ポリマー(P)の含有量が、フラックスの総質量に対して1~15質量%である、前記[1]又は[2]に記載のフラックス。
【0013】
[4] 前記溶剤が、モノアルキルプロピレングリコールを含む、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のフラックス。
[5] 前記モノアルキルプロピレングリコールが、ブチルプロピレントリグリコール及びブチルプロピレンジグリコールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記[4]に記載のフラックス。
【0014】
[6] 前記モノアルキルプロピレングリコールの含有量が、フラックスの総質量に対して5~50質量%である、前記[4]又は[5]に記載のフラックス。
【0015】
[7] 前記ポリマー(P)と、前記モノアルキルプロピレングリコールと、の混合比率が、ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比として0.05以上である、前記[4]~[6]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0016】
[8] 前記ジカルボン酸が、下記一般式(c1)で表される化合物である、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0017】
【化2】
[式中、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基、フェニレン基又は単結合を表す。ただし、アルキレン基を構成するメチレン基が酸素原子に置換していてもよい。]
【0018】
[9] 前記ジカルボン酸の含有量が、フラックスの総質量に対して0.5質量%以上7.5質量%以下である、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0019】
[10] 前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量が、フラックスの総質量に対して1質量%以上10質量%以下である、前記[1]~[9]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0020】
[11] 前記ジカルボン酸と、前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、の混合比率が、ジカルボン酸/ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、で表される質量比として0.2以上3以下である、前記[1]~[10]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0021】
[12] 前記ロジンの含有量が、フラックスの総質量に対して10質量%以上である、前記[1]~[11]のいずれか一項に記載のフラックス。
[13] 前記ロジンが、アクリル酸変性水添ロジン、水添ロジン及び重合ロジンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記[1]~[12]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0022】
[14] 前記チキソ剤が、ポリアミドを含む、前記[1]~[13]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0023】
[15] さらに、フェニル基置換のイミダゾールを含有する、前記[1]~[14]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0024】
[16] ハロゲン化合物を含有しない、前記[1]~[15]のいずれか一項に記載のフラックス。
【0025】
[17] はんだ合金粉末と、前記[1]~[16]のいずれか一項に記載のフラックスと、を含有するソルダペースト。
[18] 前記はんだ合金粉末は、SnとBiとを含むはんだ合金からなる、前記[17]に記載のソルダペースト。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高く、フラックス残渣の黒色化が抑えられ、かつ、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好なフラックス、及びこれを用いたソルダペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施例の評価における、リフローのプロファイルを示した図である。
図2】本実施例における、濡れ広がり性の評価方法を説明する模式図である。
図3】本実施例の[フラックス残渣の黒色化抑制の評価]における、フラックス残渣の黒色化の状態を示す図である。
図4】本実施例の[経時安定性(経時に伴うフラックス分離)の評価]における、所定期間保管した後、ソルダペーストの表面にフラックスが浮いている(分離している)状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(フラックス)
フラックスの一実施形態は、ロジンと、後述の一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)と、溶剤と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、必要に応じてその他成分と、を含有するものである。
本実施形態のフラックスにおいては、経時に伴う析出、すなわち、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出を抑える手段として、一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)を採用していること、を特徴とする。
【0029】
<ロジン>
本実施形態のフラックスは、ロジンを含有する。
本発明において「ロジン」とは、アビエチン酸を主成分とする、アビエチン酸とこの異性体との混合物を含む天然樹脂、及び天然樹脂を化学修飾したもの(ロジン誘導体と呼ぶ場合がある)を包含する。
【0030】
天然樹脂におけるアビエチン酸の含有量は、一例として、天然樹脂に対して、40質量%以上80質量%以下である。
本明細書において「主成分」とは、化合物を構成する成分のうち、その化合物中の含有量が40質量%以上の成分をいう。
【0031】
アビエチン酸の異性体の代表的なものとしては、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマル酸等が挙げられる。
前記「天然樹脂」としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が挙げられる。
【0032】
本発明において「天然樹脂を化学修飾したもの(ロジン誘導体)」とは、前記「天然樹脂」に対して水素化、脱水素化、中和、アルキレンオキシド付加、アミド化、二量化及び多量化、エステル化並びにDiels-Alder環化付加からなる群より選択される1つ以上の処理を施したものを包含する。
【0033】
ロジン誘導体としては、例えば、精製ロジン、変性ロジン等が挙げられる。
変性ロジンとしては、水添ロジン、重合ロジン、重合水添ロジン、不均化ロジン、酸変性ロジン、ロジンエステル、酸変性水添ロジン、無水酸変性水添ロジン、酸変性不均化ロジン、無水酸変性不均化ロジン、フェノール変性ロジン及びα,β不飽和カルボン酸変性物(アクリル化ロジン、マレイン化ロジン、フマル化ロジン等)、並びに該重合ロジンの精製物、水素化物及び不均化物、並びに該α,β不飽和カルボン酸変性物の精製物、水素化物及び不均化物、ロジンアルコール、ロジンアミン、水添ロジンアルコール、ロジンエステル、水添ロジンエステル、ロジン石鹸、水添ロジン石鹸、酸変性ロジン石鹸等が挙げられる。
【0034】
ロジンアミンとしては、例えば、デヒドロアビエチルアミン、ジヒドロアビエチルアミン等が挙げられる。ロジンアミンは、いわゆる不均化ロジンアミンを意味する。
【0035】
本実施形態のフラックスにおいて、ロジンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
ロジンは、ロジン誘導体を含むことが好ましく、酸変性ロジン、水添ロジン、重合ロジン、酸変性水添ロジン及びロジンエステルからなる群より選択される1種以上を含むことがより好ましく、酸変性水添ロジン、水添ロジン及び重合ロジンからなる群より選択される1種以上を含むことがさらに好ましく、酸変性水添ロジンを少なくとも含むことが特に好ましい。
酸変性水添ロジンとしては、アクリル酸変性水添ロジンが好ましい。
本実施形態のフラックスにおいて用いられるロジンは、酸変性水添ロジン単独でもよいし、酸変性水添ロジンと水添ロジンとの組合せでもよいし、水添ロジンと重合ロジンとの組合せでもよいし、重合ロジン単独でもよい。
【0036】
本実施形態のフラックス中の、ロジンの含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
ロジンの含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、ソルダペーストのランドへの濡れ広がり性がより良好となり、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、フラックス残渣の低減化が図られやすい。
【0037】
<一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)>
本実施形態のフラックスは、下記一般式(p1)で表される繰り返し単位(以下「繰り返し単位(p1)」ともいう)を有するポリマー(P)(以下「(P)成分」ともいう)を含有する。(P)成分を含有することにより、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられ、フラックスにおいては、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が高められる。
【0038】
【化3】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子である。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基又は水素原子である。]
【0039】
≪繰り返し単位(p1)≫
前記式(p1)中、Rは、メチル基であることが好ましい。
における、炭素原子数2の炭化水素基は、飽和炭化水素基(エチル基)でもよいし、不飽和炭化水素基(エテニル基、エチニル基)でもよい。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0040】
以下に、繰り返し単位(p1)の具体例を挙げる。
【0041】
【化4】
【0042】
(P)成分が有する繰り返し単位(p1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
繰り返し単位(p1)としては、上記の化学式(p1-1)、化学式(p1-2)、化学式(p1-3)、化学式(p1-4)、化学式(p1-5)のいずれかで表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、上記の化学式(p1-3)、化学式(p1-4)、化学式(p1-5)のいずれかで表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがより好ましく、上記の化学式(p1-3)、化学式(p1-4)のいずれかで表される繰り返し単位からなる群より選択される少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
繰り返し単位(p1)の割合は、当該(P)成分を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、10モル%以上でもよいし、20モル%以上でもよいし、50モル%超でもよいし、70モル%以上でもよいし、75モル%以上でもよいし、80モル%以上でもよいし、100モル%(すなわちホモポリマー)でもよい。
【0043】
≪繰り返し単位(p2)≫
(P)成分は、繰り返し単位(p1)と、これ以外の繰り返し単位(以下「繰り返し単位(p2)」ともいう)とを有するポリマーであってもよい。
繰り返し単位(p2)としては、例えば、アルケン由来の繰り返し単位、ブタジエン由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0044】
以下に、繰り返し単位(p2)の具体例を挙げる。
【0045】
【化5】
【0046】
(P)成分が有する繰り返し単位(p2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
繰り返し単位(p2)の割合は、当該(P)成分を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対して、例えば50モル%未満であり、30モル%以下でもよいし、1~25モル%でもよいし、5~20モル%でもよい。
【0047】
本実施形態のフラックスにおいて、(P)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態で用いる(P)成分は、前記繰り返し単位(p1)を少なくとも有するポリマーであり、繰り返し単位(p1)を主成分として有するポリマーが好ましく、当該(P)成分を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対する繰り返し単位(p1)の割合が50モル%を超えるポリマーがより好ましく、繰り返し単位(p1)からなるホモポリマーでもよい。
好ましい(P)成分としては、前記化学式(p1-3)で表される繰り返し単位からなるホモポリマー、前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位からなるホモポリマー、前記化学式(p1-5)で表される繰り返し単位からなるホモポリマー、前記化学式(p1-3)で表される繰り返し単位と前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位とを有するコポリマー、前記化学式(p1-5)で表される繰り返し単位と前記化学式(p2-4)で表される繰り返し単位とを有するコポリマーが挙げられる。
これらの中でも、前記化学式(p1-3)で表される繰り返し単位と前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位とを有するコポリマー、及び前記化学式(p1-5)で表される繰り返し単位を有するポリマーからなる群より選択される1種以上がより好ましく、前記化学式(p1-3)で表される繰り返し単位と前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位とを有するコポリマー(以下「コポリマー(P34)」ともいう。)がさらに好ましい。
前記コポリマー(P34)としては、前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位を主成分として有するコポリマーが好ましく、当該コポリマー(P34)を構成する全繰り返し単位の合計(100モル%)に対する、前記化学式(p1-4)で表される繰り返し単位の割合が50モル%を超えるコポリマーがより好ましい。
【0048】
本実施形態で用いる(P)成分は、合成したものでもよいし、市販品でもよい。
市販品としては、日石ポリブテン(ENEOS株式会社製)、インドポールポリブテン(INEOS Oligomers社製)、日油ポリブテン(登録商標)(日油株式会社製);液状ポリブタジエンNISSO-PB(日本曹達株式会社製)、ポリブタジエンタイプの液状ポリマーPoly bdTM(ポリビーディー)(出光興産株式会社製)等が挙げられる。
【0049】
(P)成分の重量平均分子量(Mw)(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算基準)は、200~10000が好ましく、250~9000がより好ましく、300~8000がさらに好ましい。
(P)成分の数平均分子量(Mn)(GPCによるポリスチレン換算基準)は、200~7000が好ましく、250~6000がより好ましく、300~5000がさらに好ましい。
(P)成分のMw及びMnが、前記の好ましい範囲であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上する。
【0050】
本実施形態のフラックス中の、(P)成分の含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
(P)成分の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上し、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、経時安定性(経時に伴うフラックス分離抑制)が高められやすくなる。
【0051】
<溶剤>
本実施形態のフラックスは、溶剤を含有する。
溶剤としては、例えば、水、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、テルピネオール類等が挙げられる。
【0052】
アルコール系溶剤としては、例えば、イソプロピルアルコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、イソボルニルシクロヘキサノール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,1,1-トリス(ヒドロキシメチル)プロパン、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2,2’-オキシビス(メチレン)ビス(2-エチル-1,3-プロパンジオール)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール、1,2,6-トリヒドロキシヘキサン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2-ヘキシル-1-デカノール、オクタンジオール等が挙げられる。
【0053】
グリコールエーテル系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール:HeDG)、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテル;モノアルキルプロピレングリコール等が挙げられる。
【0054】
テルピネオール類としては、例えば、α-ターピネオール、β-ターピネオール、γ-ターピネオール、ターピネオール混合物(すなわち、その主成分がα-ターピネオールであり、β-ターピネオール又はγ-ターピネオールを含有する混合物)等が挙げられる。
その他溶剤としては、例えば、セバシン酸ジオクチル、流動パラフィン等が挙げられる。
【0055】
本実施形態のフラックスにおいて、溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、溶剤は、グリコールエーテル系溶剤が好ましく、特にはソルダペーストの粘度増加が抑えられやすいことから、モノアルキルプロピレングリコールがより好ましい。
モノアルキルプロピレングリコールとしては、ブチルプロピレントリグリコール、ブチルプロピレンジグリコール及びブチルプロピレン(モノ)グリコールからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、ブチルプロピレントリグリコール及びブチルプロピレンジグリコールからなる群より選択される1種以上を含むことがより好ましい。
【0056】
本実施形態のフラックス中の、溶剤の含有量は、フラックスにおける残部であり、他の成分の含有量に応じて決定される。
例えば、本実施形態のフラックス中の、溶剤の含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、30質量%以上70質量%以下であってもよいし、35質量%以上60質量%以下であってもよいし、35質量%以上55質量%以下であってもよいし、40質量%以上50質量%以下であってもよい。
【0057】
本実施形態のフラックスにおいて、溶剤としてモノアルキルプロピレングリコールを選択する場合、フラックス中の、モノアルキルプロピレングリコールの含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~35質量%であることがさらに好ましい。
モノアルキルプロピレングリコールの含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、ソルダペーストの粘度増加が抑えられやすくなり、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上する。
【0058】
本実施形態のフラックスにおいては、前記ポリマー(P)と、前記モノアルキルプロピレングリコールと、の混合比率が、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の観点から、ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比として0.05以上であることが好ましく、0.10以上3以下であることがより好ましい。
かかる質量比が、前記の好ましい範囲内であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上する。
【0059】
本実施形態のフラックスにおいては、前記ポリマー(P)と、前記モノアルキルプロピレングリコールと、の混合比率が、ソルダペーストの粘度増加抑制と経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)との両立の観点から、ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比として0.05以上であることが好ましく、0.05以上1.5以下であることがより好ましく、0.06以上1.0以下であることがさらに好ましく、0.10以上0.50以下であることが特に好ましい。
かかる質量比が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上し、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、ソルダペーストの粘度増加が抑えられやすくなる。
【0060】
<チキソ剤>
本実施形態のフラックスは、チキソ剤を含有する。
チキソ剤としては、例えば、アミド系チキソ剤、エステル系チキソ剤、ソルビトール系チキソ剤等が挙げられる。
【0061】
アミド系チキソ剤としては、例えば、モノアミド、ビスアミド、ポリアミドが挙げられる。
モノアミドとしては、例えば、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、飽和脂肪酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、4-メチルベンズアミド(p-トルアミド)、p-トルエンメタンアミド、芳香族アミド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アミド、置換アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールアミド、脂肪酸エステルアミド等が挙げられる。
ビスアミドとしては、例えば、エチレンビス脂肪酸(脂肪酸の炭素原子数C6~24)アミド、エチレンビスヒドロキシ脂肪酸(脂肪酸の炭素原子数C6~24)アミド、ヘキサメチレンビス脂肪酸(脂肪酸の炭素原子数C6~24)アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシ脂肪酸(脂肪酸の炭素原子数C6~24)アミド、芳香族ビスアミド等が挙げられる。前記ビスアミドの原料である脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸(炭素原子数C18)、オレイン酸(炭素原子数C18)、ラウリン酸(炭素原子数C12)等が挙げられる。
ポリアミドとしては、例えば、飽和脂肪酸ポリアミド、不飽和脂肪酸ポリアミド、芳香族ポリアミド、1,2,3-プロパントリカルボン酸トリス(2-メチルシクロヘキシルアミド)、環状アミドオリゴマー、非環状アミドオリゴマー等が挙げられる。
【0062】
前記環状アミドオリゴマーは、ジカルボン酸とジアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とジアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸とトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とジアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸とジアミン及びトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、トリカルボン酸とジアミン及びトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー、ジカルボン酸及びトリカルボン酸とジアミン及びトリアミンとが環状に重縮合したアミドオリゴマー等が挙げられる。
【0063】
また、前記非環状アミドオリゴマーは、モノカルボン酸とジアミン及び/又はトリアミンとが非環状に重縮合したアミドオリゴマーである場合、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸とモノアミンとが非環状に重縮合したアミドオリゴマーである場合等が挙げられる。モノカルボン酸又はモノアミンを含むアミドオリゴマーであると、モノカルボン酸、モノアミンがターミナル分子(terminal molecules)として機能し、分子量を小さくした非環状アミドオリゴマーとなる。また、非環状アミドオリゴマーは、ジカルボン酸及び/又はトリカルボン酸と、ジアミン及び/又はトリアミンとが非環状に重縮合したアミド化合物である場合、非環状高分子系アミドポリマーとなる。更に、非環状アミドオリゴマーは、モノカルボン酸とモノアミンとが非環状に縮合したアミドオリゴマーも含まれる。
【0064】
エステル系チキソ剤としては、例えばエステル化合物が挙げられ、具体的には硬化ひまし油、ミリスチン酸エチル等が挙げられる。
【0065】
ソルビトール系チキソ剤としては、例えば、ジベンジリデン-D-ソルビトール、ビス(4-メチルベンジリデン)-D-ソルビトール、(D-)ソルビトール、モノベンジリデン(-D-)ソルビトール、モノ(4-メチルベンジリデン)-(D-)ソルビトール等が挙げられる。
【0066】
本実施形態のフラックスにおいて、チキソ剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、チキソ剤は、アミド系チキソ剤及びエステル系チキソ剤からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、アミド系チキソ剤より選択される1種以上を含むことがより好ましい。
アミド系チキソ剤の中でも、特には経時安定性(経時に伴うフラックス分離の抑制)が高められやすいことから、ポリアミドを含むことがさらに好ましい。ポリアミドを選択することは、特に、(P)成分の含有量が多い場合(フラックスの総質量(100質量%)に対して、例えば10質量%以上になる場合)に有効である。
【0067】
本実施形態のフラックス中の、チキソ剤の含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、4質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上9質量%以下であることがさらに好ましい。
チキソ剤の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、経時安定性(経時に伴うフラックス分離の抑制)が高められやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、ソルダペーストの初期粘度が高くなり過ぎることを抑えられやすくなる。
【0068】
<ジカルボン酸>
本実施形態のフラックスは、ジカルボン酸を含有する。有機酸の中でジカルボン酸を選択することにより、リフローはんだ付けのリフロー時、はんだ合金粉末が溶融した際に、はんだ合金粉末の凝集性が高められる(はんだボールの発生が抑えられる)。
ジカルボン酸としては、二塩基性カルボン酸が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸でもよいし、芳香族ジカルボン酸でもよい。
【0069】
好ましいジカルボン酸として、下記一般式(c1)で表される化合物が挙げられる。
【0070】
【化6】
[式中、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基、フェニレン基又は単結合を表す。ただし、アルキレン基を構成するメチレン基が酸素原子に置換していてもよい。]
【0071】
前記式(c1)中、Rにおけるアルキレン基の炭素原子数は、2~8が好ましい。Rにおけるアルキレン基は、直鎖状でもよいし、分岐鎖状でもよいし、直鎖状であることが好ましい。
ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、ジグリコール酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、o-フタル酸、m-フタル酸(イソフタル酸)、p-フタル酸(テレフタル酸)が挙げられる。
【0072】
本実施形態のフラックスにおいて、ジカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、ジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸が好ましく、前記式(c1)中のRが炭素原子数2~8のアルキレン基であるジカルボン酸がより好ましく、その中でもグルタル酸、アジピン酸がさらに好ましく、アジピン酸が特に好ましい。
【0073】
本実施形態のフラックス中の、ジカルボン酸の含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、0.5質量%以上7.5質量%以下であることが好ましく、1質量%以上6質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上4質量%以下であることがさらに好ましい。
ジカルボン酸の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高められやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、ソルダペーストの粘度増加が抑えられやすくなる。
【0074】
<ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物>
本実施形態のフラックスは、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物(以下「(AZ1)成分」ともいう)を含有する。(AZ1)成分を含有することで、フラックス残渣の黒色化が抑えられるようになる。
【0075】
本明細書において、「ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物」とは、窒素原子を3つ含む複素5員環とベンゼン環とが縮合環を形成している化合物を意味する。
【0076】
(AZ1)成分としては、例えば、下記一般式(AZ1-1)で表される化合物、又は下記一般式(AZ1-2)で表される化合物が挙げられる。
【0077】
【化7】
[式中、R11は、有機基又は水素原子である。R12は、置換基である。n1は、0~4の整数を表す。R21は、有機基又は水素原子である。R22は、置換基である。n2は、0~4の整数を表す。]
【0078】
・一般式(AZ1-1)で表される化合物について
11は、有機基又は水素原子であり、水素原子であることが好ましい。
11が有機基である場合、前記有機基としては、例えば、置換基を有してもよい炭素原子数1~40の鎖状炭化水素基、置換基を有してもよい炭素原子数3~40の脂環式炭化水素基、-R101-N(R102a)(R102b)等が挙げられる。
前記置換基としては、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0079】
11が鎖状炭化水素基である場合、前記鎖状炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよく、分岐鎖状であることが好ましい。前記鎖状炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基であることが好ましい。
11が脂環式炭化水素基である場合、前記脂環式炭化水素基は、多環式基であってもよく、単環式基であってもよい。単環式の脂環式炭化水素基としては、モノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。多環式の脂環式炭化水素基としては、ポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。
【0080】
11が-R101-N(R102a)(R102b)である場合、R101は、例えば、炭素原子数1~5の炭化水素基であってもよい。R101における炭化水素基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基等が挙げられ、炭素原子数が1~10であることが好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が最も好ましい。
101における直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状のアルキレン基が好ましく、具体的には、メチレン基[-CH-]、エチレン基[-(CH-]、トリメチレン基[-(CH-]、テトラメチレン基[-(CH-]、ペンタメチレン基[-(CH-]等が挙げられる。
101における分岐鎖状の脂肪族炭化水素基としては、分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、具体的には、-CH(CH)-、-CH(CHCH)-、-C(CH-、-C(CH)(CHCH)-、-C(CH)(CHCHCH)-、-C(CHCH-等のアルキルメチレン基;-CH(CH)CH-、-CH(CH)CH(CH)-、-C(CHCH-、-CH(CHCH)CH-、-C(CHCH-CH-等のアルキルエチレン基;-CH(CH)CHCH-、-CHCH(CH)CH-等のアルキルトリメチレン基;-CH(CH)CHCHCH-、-CHCH(CH)CHCH-等のアルキルテトラメチレン基等のアルキルアルキレン基等が挙げられる。
【0081】
102a及びR102bは、それぞれ独立に、例えば、置換基を有してもよい炭素原子数1~20の鎖状炭化水素基又は水素原子であってもよい。前記置換基としては、上記したものが挙げられる。
102a及びR102bが鎖状炭化水素基である場合、前記鎖状炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。前記鎖状炭化水素基は、飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基であり、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0082】
上記一般式(AZ1-1)におけるR12としては、例えば、炭素原子数1~5の炭化水素基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
12が炭素原子数1~5の炭化水素基である場合、前記炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。また、前記炭化水素基は、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよく、飽和炭化水素基が好ましい。
12における炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられ、メチル基が好ましい。
12におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
n1が2以上の場合、複数存在するR12は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。n1は、0又は1であることが好ましい。
【0083】
上記一般式(AZ1-1)で表される化合物としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール等が挙げられ、これらの中でも、1,2,3-ベンゾトリアゾール及び5-メチルベンゾトリアゾールからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、1,2,3-ベンゾトリアゾールがより好ましい。
【0084】
・一般式(AZ1-2)で表される化合物について
21は、有機基又は水素原子である。R21が有機基である場合、前記有機基としては、例えば、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基、置換基を有してもよい炭素原子数1~40の鎖状炭化水素基、置換基を有してもよい炭素原子数3~40の脂環式炭化水素基等が挙げられ、芳香族炭化水素基が好ましい。
【0085】
21における鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基についての説明は、上記R11における鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基についての説明と同様である。
前記芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1個有する炭化水素基であり、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環、芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環、芳香族炭化水素環と芳香族複素環が縮合した縮合環等が挙げられる。
21における芳香族炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、炭素原子数1~20の炭化水素基、芳香族炭化水素基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられ、炭化水素基又はヒドロキシ基が好ましい。前記置換基が炭化水素基である場合、前記炭化水素基としては、例えば、R11における炭化水素基と同様のものが挙げられる。前記置換基が芳香族炭化水素基である場合、前記芳香族炭化水素基としては、上記したものが挙げられる。
【0086】
上記一般式(AZ1-2)におけるR22としては、上記一般式(AZ1-1)におけるR12と同様のものが挙げられる。
一般式(AZ1-2)で表される化合物は、複数個のベンゾトリアゾール骨格を有するものであってもよい。ここで、複数個とは、例えば2~5個であり、2個であることが好ましい。
【0087】
上記一般式(AZ1-2)で表される化合物としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6’-tert-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール等が挙げられ、これらの中でも、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0088】
本実施形態のフラックスにおいて、(AZ1)成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記の中でも、(AZ1)成分は、1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール及び2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、1,2,3-ベンゾトリアゾールを少なくとも含むことがより好ましい。
本実施形態のフラックスにおいて用いられる(AZ1)成分は、1,2,3-ベンゾトリアゾール単独でもよいし、5-メチルベンゾトリアゾール単独でもよいし、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール単独でもよいし、1,2,3-ベンゾトリアゾールと5-メチルベンゾトリアゾールとの組合せでもよいし、1,2,3-ベンゾトリアゾールと2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールとの組合せでもよい。これらの中でも、1,2,3-ベンゾトリアゾール単独、1,2,3-ベンゾトリアゾールと5-メチルベンゾトリアゾールとの組合せ、1,2,3-ベンゾトリアゾールと2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールとの組合せを用いることがさらに好ましい。
【0089】
本実施形態のフラックス中の、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量は、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、1質量%以上6質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、フラックス残渣の黒色化が抑えられやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、ソルダペーストのランドへの濡れ広がり性がより良好となる。
【0090】
本実施形態のフラックス中、前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、ロジンの含有量が、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上であり、かつ、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量が、好ましくは6質量%以下、より好ましくは5質量%以下であると、ソルダペーストのランドへの濡れ広がり性がより良好となりやすくなる。
【0091】
本実施形態のフラックスにおいては、前記ジカルボン酸と、前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、の混合比率が、ジカルボン酸/ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、で表される質量比として0.2以上3以下であることが好ましく、0.4以上2以下であることがより好ましく、0.5以上1.5以下であることがさらに好ましく、0.5を超え1.5未満であることが特に好ましい。
かかる質量比が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高められやすくなり、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、フラックス残渣の黒色化が抑えられやすくなる。
【0092】
<その他成分>
本実施形態のフラックスは、上述したロジン、ポリマー(P)、溶剤、チキソ剤、ジカルボン酸及びベンゾトリアゾール骨格を有する化合物以外に、必要に応じてその他成分を含有してもよい。
その他成分としては、活性剤、ロジン以外の樹脂成分、金属不活性化剤、界面活性剤、シランカップリング剤、酸化防止剤、着色剤等が挙げられる。
【0093】
≪活性剤≫
活性剤としては、アミン、ジカルボン酸を除く有機酸、ハロゲン化合物が挙げられる。
【0094】
・アミンについて
アミンとしては、例えば、ロジンアミン、アゾール類、グアニジン類、アルキルアミン化合物、アミノアルコール化合物等が挙げられる。ロジンアミンとしては、上記<ロジン>において例示したものが挙げられる。
【0095】
アゾール類としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ビニル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2,4-ジアミノ-6-メタクリロイルオキシエチル-s-トリアジン、エポキシ-イミダゾールアダクト、2-メチルベンゾイミダゾール、2-オクチルベンゾイミダゾール、2-ペンチルベンゾイミダゾール、2-(1-エチルペンチル)ベンゾイミダゾール、2-ノニルベンゾイミダゾール、2-(4-チアゾリル)ベンゾイミダゾール、ベンゾイミダゾール、1,2,4-トリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール]、6-(2-ベンゾトリアゾリル)-4-tert-オクチル-6’-tert-ブチル-4’-メチル-2,2’-メチレンビスフェノール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2’-[[(メチル-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]イミノ]ビスエタノール、1-(1’,2’-ジカルボキシエチル)ベンゾトリアゾール、1-(2,3-ジカルボキシプロピル)ベンゾトリアゾール、1-[(2-エチルヘキシルアミノ)メチル]ベンゾトリアゾール、2,6-ビス[(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)メチル]-4-メチルフェノール、5-メチルベンゾトリアゾール、5-フェニルテトラゾール等が挙げられる。
【0096】
グアニジン類としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。
【0097】
アルキルアミン化合物としては、例えば、エチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、シクロヘキシルアミン、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。
【0098】
アミノアルコール化合物としては、例えば、1-アミノ-2-プロパノール、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。
【0099】
アミンを用いる場合には、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記の中でも、アミンとしては、アゾール類、グアニジン類を用いることが好ましい。アゾール類の中でも、特にはソルダペーストの粘度増加が抑えられやすくなることから、フェニル基置換のイミダゾールを用いることが好ましく、2-フェニル-4-メチルイミダゾールを用いることが特に好ましい。グアニジン類の中でも、1,3-ジ-o-トリルグアニジンを用いることが特に好ましい。
本実施形態のフラックスにおいて用いられるアミンは、アゾール類とグアニジン類との組合せを用いることが好ましく、例えば、2-フェニル-4-メチルイミダゾールと1,3-ジ-o-トリルグアニジンとの組合せが好適に挙げられる。
【0100】
上述したベンゾトリアゾール骨格を有する化合物以外のアミンを用いる場合、前記フラックス中のアミン(上述したベンゾトリアゾール骨格を有する化合物に該当するものを除く)の含有量は、前記フラックスの総量(100質量%)に対して、4質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上12質量%以下であることがより好ましく、6質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましい。
アミンの含有量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であると、ソルダペーストの粘度増加が抑えられやすくなり、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であると、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高められやすくなる。
【0101】
・ジカルボン酸を除く有機酸について
ジカルボン酸を除く有機酸としては、例えば、カルボン酸、有機スルホン酸が挙げられる。このカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等が挙げられる。脂肪族カルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。
【0102】
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、イソペラルゴン酸、カプリン酸、カプロレイン酸、ラウリン酸(ドデカン酸)、ウンデカン酸、リンデル酸、トリデカン酸、ミリストレイン酸、ペンタデカン酸、イソパルミチン酸、パルミトレイン酸、ヒラゴン酸、ヒドノカーピン酸、マーガリン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、ペトロセリン酸、モロクチン酸、エレオステアリン酸、タリリン酸、バクセン酸、リミノレイン酸、ベルノリン酸、ステルクリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリスチン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸等が挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、例えば、サリチル酸、パラヒドロキシフェニル酢酸、安息香酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2-キノリンカルボン酸、3-ヒドロキシ安息香酸、p-アニス酸;ピコリン酸、3-ヒドロキシピコリン酸等が挙げられる。
【0103】
有機スルホン酸としては、例えば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸等が挙げられる。脂肪族スルホン酸としては、例えば、アルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸等が挙げられる。
【0104】
アルカンスルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、2-ブタンスルホン酸、ペンタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、デカンスルホン酸、ドデカンスルホン酸等が挙げられる。
アルカノールスルホン酸としては、例えば、2-ヒドロキシエタン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシブタン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシペンタン-1-スルホン酸、1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸、4-ヒドロキシブタン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシヘキサン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシデカン-1-スルホン酸および2-ヒドロキシドデカン-1-スルホン酸等が挙げられる。
芳香族スルホン酸としては、例えば、1-ナフタレンスルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、p-フェノールスルホン酸、クレゾールスルホン酸、スルホサリチル酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸およびジフェニルアミン-4-スルホン酸等が挙げられる。
【0105】
ジカルボン酸を除く有機酸を用いる場合には、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、本実施形態のフラックスにおいては、ジカルボン酸の効果が十分に高く、フラックス残渣の低減化の点からも、ジカルボン酸を除く有機酸を含有しないことが好ましい。
【0106】
・ハロゲン化合物について
ハロゲン化合物としては、例えば、アミンハロゲン化水素酸塩、アミンハロゲン化水素酸塩以外の有機ハロゲン化合物等が挙げられる。
【0107】
アミンハロゲン化水素酸塩は、アミンとハロゲン化水素とを反応させた化合物である。ここでのアミンとしては、脂肪族アミン、アゾール類、グアニジン類等が挙げられる。ハロゲン化水素としては、例えば、塩素、臭素、ヨウ素の水素化物が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、例えば、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。
グアニジン類及びアゾール類としては、上記アミンについての説明の中で例示したものが挙げられる。
【0108】
アミンハロゲン化水素酸塩以外の有機ハロゲン化合物としては、例えば、ハロゲン化脂肪族化合物が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素基は、脂肪族炭化水素基を構成する水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換されたものをいう。
ハロゲン化脂肪族化合物としては、ハロゲン化脂肪族アルコール、ハロゲン化複素環式化合物が挙げられる。
【0109】
ハロゲン化合物を用いる場合には、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、本実施形態のフラックスにおいては、ソルダペーストの粘度増加が抑えられやすいことから、ハロゲン化合物を含有しないことが好ましい。
【0110】
≪ロジン以外の樹脂成分≫
ロジン系樹脂以外の樹脂成分としては、例えば、テルペン樹脂、変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペンフェノール樹脂、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂、キシレン樹脂、変性キシレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル-ポリエチレン共重合樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
変性テルペン樹脂としては、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、水添芳香族変性テルペン樹脂等が挙げられる。変性テルペンフェノール樹脂としては、水添テルペンフェノール樹脂等が挙げられる。変性スチレン樹脂としては、スチレンアクリル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂等が挙げられる。変性キシレン樹脂としては、フェノール変性キシレン樹脂、アルキルフェノール変性キシレン樹脂、フェノール変性レゾール型キシレン樹脂、ポリオール変性キシレン樹脂、ポリオキシエチレン付加キシレン樹脂等が挙げられる。
【0111】
≪金属不活性化剤≫
金属不活性化剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、窒素化合物等が挙げられる。
ここでいう「金属不活性化剤」とは、ある種の化合物との接触により金属が劣化することを防止する性能を有する化合物をいう。
ヒンダードフェノール系化合物とは、フェノールのオルト位の少なくとも一方に嵩高い置換基(例えばt-ブチル基等の分岐状又は環状アルキル基)を有するフェノール系化合物をいう。
金属不活性化剤における窒素化合物としては、例えば、ヒドラジド系窒素化合物、アミド系窒素化合物、トリアゾール系窒素化合物、メラミン系窒素化合物等が挙げられる。
【0112】
≪界面活性剤≫
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族アルコールポリオキシエチレン付加体、芳香族アルコールポリオキシエチレン付加体、多価アルコールポリオキシエチレン付加体、脂肪族アルコールポリオキシプロピレン付加体、芳香族アルコールポリオキシプロピレン付加体、多価アルコールポリオキシプロピレン付加体等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、例えば、末端ジアミンポリエチレングリコール、末端ジアミンポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体、脂肪族アミンポリオキシエチレン付加体、芳香族アミンポリオキシエチレン付加体、多価アミンポリオキシエチレン付加体、多価アミンポリオキシプロピレン付加体等が挙げられる。
【0113】
以上説明したように、本実施形態のフラックスは、ロジンと、溶剤と、チキソ剤と、ジカルボン酸と、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物とに加えて、一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)を併用する。このポリマー(P)を採用したことにより、理由は定かではないが、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高く、フラックス残渣の黒色化が抑えられ、かつ、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好なフラックスを提供することができる。
【0114】
フラックスの他の実施形態としては、モノアルキルプロピレングリコールを含む溶剤を含有する。このフラックスを用いることにより、ソルダペーストの粘度変化(増粘)が抑制される。
さらに、モノアルキルプロピレングリコールとポリマー(P)との混合比率を制御することで、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出抑制と、ソルダペーストの粘度増加の抑制と、の両立を容易に図ることができる。
【0115】
(ソルダペースト)
ソルダペーストの一実施形態は、はんだ合金粉末と、上述した実施形態のフラックスと、を含有するものである。
はんだ合金粉末を構成するはんだ合金としては、公知の組成のはんだ合金を使用することができる。
はんだ合金は、Sn単体のはんだ、又は、Sn-Ag系、Sn-Cu系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Bi系、Sn-In系等、あるいは、これらの合金にSb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、Ge、P等を添加したはんだ合金であってもよい。
はんだ合金は、Sn-Pb系、あるいは、Sn-Pb系にSb、Bi、In、Cu、Zn、As、Ag、Cd、Fe、Ni、Co、Au、Ge、P等を添加したはんだ合金であってもよい。
はんだ合金は、Pbを含まないはんだ合金が好ましく、SnとBiとを含むはんだ合金からなるものであることがより好ましい。
【0116】
はんだ付け工程における、はんだ付けの条件は、はんだ合金の融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、Sn-Ag-Cu系のはんだ合金を用いる場合には、溶融はんだの温度は、230~280℃であることが好ましく、250~270℃であることがより好ましい。あるいは、Sn-Bi系のはんだ合金(SnとBiとを含むはんだ合金)を用いる場合には、溶融はんだの温度は、170~220℃であることが好ましく、180~200℃であることがより好ましい。
【0117】
フラックスの含有量:
本実施形態のソルダペースト中、フラックスの含有量は、ソルダペーストの全質量に対して、5~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。
【0118】
以上説明した本実施形態のソルダペーストによれば、上述した実施形態のフラックスが用いられているため、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高く(はんだボールの発生が抑えられ)、かつ、フラックス残渣の黒色化が抑えられる。
加えて、本実施形態のソルダペーストによれば、ランドへの濡れ広がり性が良好となり、ソルダペーストの粘度変化(増粘)が抑制され、経時安定性(経時に伴うフラックス分離抑制)が高められる。
また、本実施形態のソルダペーストは、上述した実施形態のフラックスが用いられているため、SnとBiとを含むはんだ合金(いわゆる低温はんだ)を、はんだ合金粉末として用いる場合に特に好適なものである。
【実施例0119】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
<フラックスの調製>
(実施例1~174、比較例1~12)
表1~31に示す組成の、実施例及び比較例の各フラックスを調合した。
表中、各原料の含有量は、フラックスの総質量(100質量%)に対する割合(質量%)を示している。
使用した原料を以下に示した。
【0121】
・ロジン
アクリル酸変性水添ロジン、水添ロジン、重合ロジンを用いた。
【0122】
・一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)
上記の化学式(p1-3)で表される繰り返し単位と、化学式(p1-4)で表される繰り返し単位とを有するコポリマーである、下記ポリブテン(P1)~(P6)をそれぞれ用いた。ポリブテン(P1)~(P6)は、イソブテンを主体として一部ノルマルブテンが反応した長鎖状炭化水素の分子構造を持った共重合物質である。
また、上記の化学式(p1-5)で表される繰り返し単位を有するポリマーである、下記ポリブタジエン(P7)を用いた。ポリブタジエン(P7)は、化学式(p1-5)で表される繰り返し単位90%以上であり、化学式(p2-4)で表される繰り返し単位10%以下であるポリマーである。
【0123】
ポリブテン(P1):重量平均分子量3370、数平均分子量1558;ENEOS株式会社製、商品名「グレードHV-300」
ポリブテン(P2):重量平均分子量345、数平均分子量332;ENEOS株式会社製、商品名「グレードLV-7」
ポリブテン(P3):重量平均分子量1130、数平均分子量689;ENEOS株式会社製、商品名「グレードHV-15」
ポリブテン(P4):重量平均分子量2114、数平均分子量944;ENEOS株式会社製、商品名「グレードHV-50」
ポリブテン(P5):重量平均分子量2578、数平均分子量1136;ENEOS株式会社製、商品名「グレードHV-100」
ポリブテン(P6):重量平均分子量7773、数平均分子量4808;ENEOS株式会社製、商品名「グレードHV-1900」
【0124】
ポリブタジエン(P7):重量平均分子量3991、数平均分子量2778;日本曹達株式会社製、商品名「NISSO-PB B-2000」
【0125】
[ポリマー(P)の分子量の測定方法]
ポリマー(P)の重量平均分子量及び数平均分子量(ポリスチレン換算)は、分析試料をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し希釈して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。測定条件を以下のとおりとした。
【0126】
分析装置:Waters製 e2695
移動相:THF
カラム:東ソー製TSKguardcolumn HXL(ガードカラム)
+東ソー製TSKgel G3000HXL
+東ソー製TSKgel G2000HXL
カラム温度:40℃
流速:1.0(mL/min)
検出器:RI検出器、Po(+)、Res(1.0s)
注入量:50μL
標準物質:東ソー製の「GPC用標準ポリスチレンキットPStQuick F」を使用。これに伴い、分析結果はポリスチレン換算になる。
【0127】
・溶剤
ブチルプロピレントリグリコール、ブチルプロピレンジグリコール、ブチルプロピレン(モノ)グリコール、テトラエチレングリコールジメチルエーテルを用いた。
【0128】
・チキソ剤
ポリアミド、硬化ひまし油を用いた。
【0129】
・ジカルボン酸
アジピン酸、グルタル酸、ジグリコール酸、コハク酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フタル酸を用いた。
【0130】
・モノカルボン酸
ステアリン酸を用いた。
【0131】
・ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物
1,2,3-ベンゾトリアゾール、5-メチルベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを用いた。
【0132】
・その他成分
アミンとして、アゾール類とグアニジン類とを用いた。
アゾール類には、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾールを用いた。
グアニジン類には、1,3-ジ-o-トリルグアニジンを用いた。
【0133】
<ソルダペーストの調製>
各フラックスと、下記のはんだ合金粉末と、をそれぞれ混合してソルダペーストを調合した。調合したソルダペーストは、いずれも、フラックスを10.5質量%、はんだ合金粉末を89.5質量%とした。
はんだ合金粉末:Biが58質量%と、残部がSnとのはんだ合金からなる粉末。このはんだ合金の固相線温度は139℃であり、液相線温度は141℃である。
前記はんだ合金粉末のサイズは、JIS Z 3284-1:2014における粉末サイズの分類(表2)において、記号4を満たすサイズ(粒度分布)である。
【0134】
<評価>
以下に示すようにして、濡れ広がり性の評価、はんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)の評価、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価、ソルダペーストの粘度変化(増粘抑制)の評価、フラックス残渣の黒色化抑制の評価、経時安定性(経時に伴うフラックス分離)の評価をそれぞれ行った。これらの評価結果を表1~31に示した。
【0135】
本実施例の評価における、リフローのプロファイルを図1に示した。
リフロー炉内の温度について、50~130℃における昇温速度を、1.3~2.2℃/秒とした。130~150℃を、60~90秒間保持した。150~170℃における昇温速度を0.4~1℃/秒とした。170℃に達した以降は、放冷状態で30~90秒間保持した。
【0136】
各評価において、はんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)の評価は、酸素濃度1000ppmの雰囲気下で行った。その他評価は、大気雰囲気下で行った。
【0137】
[濡れ広がり性の評価]
濡れ広がり性の評価において、基板には、Cu-OSP処理ガラスエポキシ基板を用いた。ランド数41、ランド幅0.27mm、ソルダレジスト幅0.37mmとした。
【0138】
図2に、本実施例における、濡れ広がり性の評価方法を説明する模式図を示した。
図2に示すように、基板上に形成されたランド26(薄緑部)及びソルダレジスト28(濃緑部)の上部に、一文字でソルダペースト20を、長さ0.3mm、マスク厚0.15mmで印刷してリフローを行った。リフロー後、ランド26に濡れ広がった、はんだ合金22の長さを測定した。下記の判定基準に基づき、濡れ広がり性を評価した。
【0139】
判定基準
ランク1:ランド26に濡れ広がった、はんだ合金22の長さが平均700μm以上。
ランク2:ランド26に濡れ広がった、はんだ合金22の長さが平均650~700μm未満。
ランク3:ランド26に濡れ広がった、はんだ合金22の長さが平均600~650μm未満。
ランク4:ランド26に濡れ広がった、はんだ合金22の長さが平均600μm未満。
【0140】
[はんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)の評価]
はんだ合金粉末の凝集性についての評価を以下のようにして行った。
セラミック板に、ソルダペーストをφ6.5mm、マスク厚0.20mmで印刷してリフローを行った。リフロー後、はんだボールの発生状態を確認した。下記の判定基準に基づき、はんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)を評価した。
【0141】
判定基準
ランク1:はんだ合金粉末が溶融した後、凝集して一つの大きな球となる。その大きな球の周辺に、15個未満の、粒子径150μm以下のはんだ合金粒子が確認された。
ランク2:はんだ合金粉末が溶融した後、凝集して一つの大きな球となる。その大きな球の周辺に、15個以上30個未満の、粒子径150μm以下のはんだ合金粒子が確認された。
ランク3:はんだ合金粉末が溶融した後、凝集して一つの大きな球となる。その大きな球の周辺に、30個以上40個未満の、粒子径150μm以下のはんだ合金粒子が確認された。
ランク4:はんだ合金粉末が溶融した後、凝集して一つの大きな球となる。その大きな球の周辺に、40個以上の、粒子径150μm以下のはんだ合金粒子が確認された、又は、粒子径150μmを超えるはんだ合金粒子が確認された、又は、未凝集が確認された。
【0142】
[経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価]
経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)についての評価を以下のようにして行った。
フラックスを、温度25℃相対湿度50%で保管した。前記保管の期間が、1週間後、1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後の各フラックスについて、スライドガラスに、フラックスを厚さ100μmで印刷して析出物を確認した。下記の判定基準に基づき、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)を評価した。
【0143】
判定基準
ランク1:3ヶ月間の保管後、析出物が確認されなかった。
ランク2:2ヶ月間の保管後、析出物が確認されなかった。
ランク3:1ヶ月間の保管後、析出物が確認されなかった。
ランク4:1週間の保管後、析出物が確認された(すなわち、1週間以内に析出が起きた)。
なお、表中の※は、評価途中であることを示している。いずれの※についても、前記保管の期間が「6週間の経過時点」で、析出物は確認されなかった。
【0144】
[ソルダペーストの粘度変化(増粘抑制)の評価]
ソルダペーストの粘度変化についての評価を、JIS Z 3284-3:2014「4.2粘度特性試験」に準拠して行った。
粘度計には、マルコムPCU-205を用いた。
測定条件を、温度25℃、回転数10rpm、初期粘度は測定開始30分間後の粘度とした。
下記の判定基準に基づき、ソルダペーストの粘度変化(増粘抑制)を評価した。
【0145】
判定基準
ランク1:測定開始24時間後の粘度が、初期粘度の1.05倍以下。
ランク2:測定開始12時間後の粘度が、初期粘度の1.05倍以下。
ランク3:測定開始8時間後の粘度が、初期粘度の1.05倍以下。
ランク4:測定開始8時間後の粘度が、初期粘度の1.05倍超。
【0146】
[フラックス残渣の黒色化抑制の評価]
フラックス残渣の黒色化抑制についての評価を以下のようにして行った。
Cu-OSP基板に、ソルダペーストをφ5.0mm、マスク厚0.15mmで印刷した後、温度25℃相対湿度50%で2時間静置した。その後、リフローを行い、フラックス残渣の黒色化の状態を、二値化処理により確認した。下記の判定基準に基づき、フラックス残渣の黒色化抑制を評価した。
図3は、リフロー後におけるはんだ合金32の外周に残存する、フラックス残渣34が黒色化した状態を示している。
【0147】
判定基準
上方から見た平面視で、
ランク1:フラックス残渣34の表面積中、黒色化の面積が0%以上10%未満。
ランク2:フラックス残渣34の表面積中、黒色化の面積が10%以上30%未満。
ランク3:フラックス残渣34の表面積中、黒色化の面積が30%以上50%未満。
ランク4:フラックス残渣34の表面積中、黒色化の面積が50%以上。
【0148】
[経時安定性(経時に伴うフラックス分離)の評価]
経時安定性(経時に伴うフラックス分離)についての評価を以下のようにして行った。
容器には、容器開口部の面積が24cm(容器開口部の直径が約5.5cm)であるものを用いた。
この容器に、ソルダペースト500gを充填して、温度25℃相対湿度50%で7日間保管した。その後、ソルダペーストの表面に浮いている(分離している)フラックスの面積(容器開口部を占める、分離しているフラックスの割合:面積率)を確認した。下記の判定基準に基づき、経時安定性(経時に伴うフラックス分離)を評価した。
図4は、容器40に充填されたソルダペーストが所定期間保管された後における、ソルダペースト42の表面にフラックス44が浮いている(分離している)状態を示している。
【0149】
判定基準
ランク1:フラックス44の分離なし。
ランク2:フラックス44の分離あり、分離したフラックス44が容器開口部の面積の0%超10%未満を占めている。
ランク3:フラックス44の分離あり、分離したフラックス44が容器開口部の面積の10%以上30%未満を占めている。
ランク4:フラックス44の分離あり、分離したフラックス44が容器開口部の面積の30%以上を占めている。
【0150】
【表1】
【0151】
表1に示す結果から、本発明を適用した実施例1のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
【0152】
一方、ジカルボン酸を欠く比較例1のフラックスを用いた場合、はんだ合金粉末の凝集性の評価が劣る結果であった。
ジカルボン酸に代えて、モノカルボン酸を含有する比較例4のフラックスを用いた場合も、はんだ合金粉末の凝集性の評価が劣る結果であった。
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を欠く比較例2のフラックスを用いた場合、フラックス残渣の黒色化抑制の評価が劣る結果であった。
ポリマー(P)を欠く比較例3のフラックスを用いた場合、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価が劣る結果であった。
【0153】
【表2】
【0154】
表2において、比較例5のフラックスを用いた場合の結果から、はんだ合金粉末の凝集性に対し、フラックスに配合する活性剤としてジカルボン酸が効果的であること、及びその反面、フラックス残渣の黒色化抑制の評価が劣ること、が確認できる。
比較例6のフラックスを用いた場合の結果から、フラックス残渣の黒色化に対し、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物が効果的であること、及びその反面、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価が劣ること、が確認できる。
これに対して、実施例1及び実施例15の各フラックスを用いた場合の結果から、ポリマー(P)をさらに併用することにより、はんだ合金粉末の凝集性、フラックス残渣の黒色化抑制、及び経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価がいずれも良好となること、が確認できる。
【0155】
【表3】
【0156】
表3において、実施例1と実施例34との対比から、溶剤としてモノアルキルプロピレングリコールを含むことにより、ソルダペーストの粘度変化を、より小さくできる(増粘抑制の効果を高められる)ことが確認できる。
ポリマー(P)及びモノアルキルプロピレングリコールの両方を欠く比較例7のフラックスを用いた場合、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)、及びソルダペーストの粘度変化(増粘抑制)の評価がいずれも劣る結果であった。
【0157】
【表4】
【0158】
【表5】
【0159】
表4~5に示す結果から、本発明を適用した実施例1~15のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
実施例1、5、7の対比から、溶剤としてモノアルキルプロピレングリコールの中でも、ブチルプロピレントリグリコール及びブチルプロピレンジグリコールからなる群より選択されるものを採用することにより、ソルダペーストの粘度変化を、より小さくできる(増粘抑制の効果を高められる)ことが確認できる。
【0160】
【表6】
【0161】
【表7】
【0162】
【表8】
【0163】
【表9】
【0164】
【表10】
【0165】
【表11】
【0166】
【表12】
【0167】
表6~12に示す結果から、モノアルキルプロピレングリコールの含有量が5質量%以上、好ましくは10質量%以上、より好ましくは10質量%超であると、ソルダペーストの粘度変化を、より小さくできる(増粘抑制の効果を高められる)ことが確認できる。
【0168】
表6~12に示す結果から、ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比が0.05以上であると、フラックス中での、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の析出が抑えられやすくなり、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)が向上すること、が確認できる。
【0169】
【表13】
【0170】
【表14】
【0171】
本発明を適用した実施例59~70のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
ジカルボン酸を欠く比較例8のフラックスを用いた場合、はんだ合金粉末の凝集性の評価が劣る結果であった。
【0172】
【表15】
【0173】
本発明を適用した実施例71~76のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物を欠く比較例9のフラックスを用いた場合、フラックス残渣の黒色化抑制の評価が劣る結果であった。
【0174】
【表16】
【0175】
本発明を適用した実施例77~80のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
【0176】
【表17】
【0177】
本発明を適用した実施例81~90のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
ポリマー(P)を欠く比較例10のフラックスを用いた場合、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価が劣る結果であった。
【0178】
【表18】
【0179】
【表19】
【0180】
【表20】
【0181】
【表21】
【0182】
【表22】
【0183】
【表23】
【0184】
【表24】
【0185】
本発明を適用した実施例91~133のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
ポリマー(P)を欠く比較例11のフラックスを用いた場合、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価が劣る結果であった。
【0186】
【表25】
【0187】
【表26】
【0188】
【表27】
【0189】
【表28】
【0190】
【表29】
【0191】
【表30】
【0192】
【表31】
【0193】
本発明を適用した実施例134~174のフラックスを用いた場合、リフロー時にはんだ合金粉末の凝集性(はんだボールの発生しにくさ)が高いこと、フラックス残渣の黒色化が抑えられていること、及び、経時に伴う析出が起こりにくく経時安定性が良好であること、が確認できる。
ポリマー(P)を欠く比較例12のフラックスを用いた場合、経時安定性(経時に伴う析出の起こりにくさ)の評価が劣る結果であった。
【符号の説明】
【0194】
20 ソルダペースト、22 はんだ合金、26 ランド、28 ソルダレジスト、32 はんだ合金、34 フラックス残渣、40 容器、42 ソルダペースト、44 フラックス
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-09-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジンと、
下記一般式(p1)で表される繰り返し単位を有するポリマー(P)と、
溶剤と、
ポリアミドを含むチキソ剤と、
下記一般式(c1)で表されるジカルボン酸と、
下記一般式(AZ1-1)で表される化合物、及び下記一般式(AZ1-2)で表される化合物からなる群より選択される、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、
を含有するフラックスであって、
前記フラックスの総質量(100質量%)に対して、
前記ロジンの含有量が10質量%以上40質量%以下であり、
前記ポリマー(P)の含有量が1質量%以上15質量%以下であり、
前記チキソ剤の含有量が2質量%以上15質量%以下であり、
前記ジカルボン酸の含有量が0.5質量%以上7.5質量%以下であり、
前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物の含有量が1質量%以上10質量%以下である、フラックス。
【化1】
[式中、Rは、メチル基又は水素原子である。Rは、炭素原子数1~2の炭化水素基又は水素原子である。]
【化2】
[式中、Rは、炭素原子数1~10のアルキレン基、フェニレン基又は単結合を表す。ただし、アルキレン基を構成するメチレン基が酸素原子に置換していてもよい。]
【化3】
[式中、R 11 は、有機基又は水素原子である。R 12 は、置換基である。n1は、0~4の整数を表す。R 21 は、有機基又は水素原子である。R 22 は、置換基である。n2は、0~4の整数を表す。]
【請求項2】
前記ポリマー(P)の重量平均分子量が300~8000である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
前記溶剤が、モノアルキルプロピレングリコールを含む、請求項1に記載のフラックス。
【請求項4】
前記モノアルキルプロピレングリコールが、ブチルプロピレントリグリコール及びブチルプロピレンジグリコールからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項に記載のフラックス。
【請求項5】
前記モノアルキルプロピレングリコールの含有量が、フラックスの総質量に対して5~50質量%である、請求項に記載のフラックス。
【請求項6】
前記ポリマー(P)と、前記モノアルキルプロピレングリコールと、の混合比率が、
ポリマー(P)/モノアルキルプロピレングリコール、で表される質量比として0.05以上である、請求項に記載のフラックス。
【請求項7】
前記ジカルボン酸と、前記ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物と、の混合比率が、
ジカルボン酸/ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、で表される質量比として0.2以上3以下である、請求項1に記載のフラックス。
【請求項8】
前記ロジンが、アクリル酸変性水添ロジン、水添ロジン及び重合ロジンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載のフラックス。
【請求項9】
さらに、フェニル基置換のイミダゾールを含有する、請求項1に記載のフラックス。
【請求項10】
ハロゲン化合物を含有しない、請求項1に記載のフラックス。
【請求項11】
はんだ合金粉末と、請求項1~10のいずれか一項に記載のフラックスと、を含有するソルダペースト。
【請求項12】
前記はんだ合金粉末は、SnとBiとを含むはんだ合金からなる、請求項11に記載のソルダペースト。