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特開2024-172566低分子量ヘパロサンの製造方法及びヘパロサン生産能を有する微生物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172566
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】低分子量ヘパロサンの製造方法及びヘパロサン生産能を有する微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20241205BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241205BHJP
   C12P 19/26 20060101ALI20241205BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C12N1/21
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12P19/26
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090359
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】522388154
【氏名又は名称】キリンバイオマテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(71)【出願人】
【識別番号】599161672
【氏名又は名称】レンセレイアー ポリテクニック インスティテュート
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳歩
(72)【発明者】
【氏名】氏原 哲朗
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF11
4B064AF21
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA01X
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA22
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】本発明は、低分子量のヘパロサンを製造するための組換え微生物を提供すること、及びその組換え微生物を用いて低分子量のヘパロサンを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており、且つ前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減されている、ヘパロサン生産用組換え微生物に関する。また、該細菌を用いたヘパロサンの製造方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、
少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており、且つ
前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減されている、ヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項2】
前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)の75%以下である、請求項1に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項3】
前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、前記β-Kdoリンカー合成酵素の活性が増大しており、且つ
前記β-Kdoリンカー合成酵素が少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素および少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼである、請求項1または2に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項4】
前記CMP-Kdo合成酵素をコードする1以上の遺伝子が、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子からなる群より選ばれる1以上の遺伝子である、請求項3に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項5】
前記β-Kdoトランスフェラーゼをコードする1以上の遺伝子が、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくともいずれか1の遺伝子である、請求項3または4に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項6】
ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、
少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており
前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、前記β-Kdoリンカー合成酵素の活性が増大しており、
前記β-Kdoリンカー合成酵素が少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素および少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼであり、
前記CMP-Kdo合成酵素をコードする1以上の遺伝子が、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子からなる群より選ばれる1以上の遺伝子であり、且つ
前記β-Kdoトランスフェラーゼをコードする1以上の遺伝子が、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくともいずれか1の遺伝子である、ヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項7】
前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数の増大および該遺伝子の発現調節配列の改変のうち少なくともいずれか1によって上昇した、請求項2~6のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項8】
さらにlpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が非改変株と比較して低下するように改変されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項9】
エシェリヒア(Escherichia)属細菌である、請求項1~8のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物を培地で培養することを含む、ヘパロサンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組換え微生物を用い、低分子量のN-アセチルヘパロサンを発酵生産により製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸化された多糖であるヘパリンは抗凝固薬の1つであり、血栓閉塞症、播種性血管内凝固症候群の治療や人工透析、体外循環での凝固防止などに用いられる。工業的には主に豚の腸粘膜から抽出、精製されたヘパリンが利用されている。
【0003】
2008年に豚由来ヘパリンへの不純物混入を原因とする死亡事故が発生したことから、製造および品質が管理された非動物由来のヘパリンの生産が求められている(非特許文献1)。具体例として、微生物の莢膜多糖であるN-アセチルヘパロサン(以下「ヘパロサン」と記載する)を化学的手法および酵素的手法により脱アセチル化および硫酸化することで、豚由来品と同等の構造、抗凝固活性を有するヘパリンを生産する方法が報告されている(特許文献1、2)。
【0004】
上記のヘパリン生産方法において原料となるヘパロサンは、グルクロン酸(GlcA)とN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)の二糖繰り返し構造で構成される多糖である。ヘパロサンを生産する微生物としてはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli) K5株やパスツレラ・ムルトシダ D型(Pasteurella multocida typeD)などが知られている(特許文献3、非特許文献2、3、4)。
【0005】
ヘパロサンはGroup2莢膜多糖に分類される。エシェリヒア・コリ K5株でのヘパロサンの合成、輸送にはゲノム上でクラスターを形成しているRegion I、IIおよびIIIの遺伝子群が関わっていることが知られている(非特許文献5)。
【0006】
これらの遺伝子群にコードされる蛋白質は以下のようにしてヘパロサンを合成する。まず、β-KdoトランスフェラーゼであるKpsS、KpsCにより内膜のホスファチジルグリセロールに複数の3-deoxy-D-manno-oct-2-ulosonic acid(Kdo)残基が転移されてβ-Kdoリンカーが形成され(非特許文献6)、さらに糖転移酵素KfiA、KfiCにより前駆体糖ヌクレオチドが付加されることでヘパロサンの合成が進行するとされている(非特許文献5)。そしてトランスポーターであるKpsM、KpsT、KpsE、KpsDにより、内膜上で合成されたヘパロサンは菌体外へと排出される(非特許文献7)。
【0007】
KfiDは前駆体糖ヌクレオチドであるUDP-GlcAの合成に、KpsF、KpsU、KdsD、KdsA、KdsC、KdsBはβ-Kdoリンカー合成の基質となるCMP-Kdoの合成に関わることが知られている(非特許文献5、11)。
【0008】
ところで、ヘパロサンを原料としてヘパリンに変換した場合、低分子量ヘパリンと高分子の未分画ヘパリンでは血液凝固に関する作用が異なることが知られている(非特許文献8)。実際に米国のマーケットでは売り上げの70%が低分子のヘパリンであるという報告もある(非特許文献1)。また、高分子量のヘパロサンを含有する水溶液は粘性が高く、製造工程において取り扱いが難しい。このように、低分子量のヘパロサンを生産する方法が求められており、生産されるヘパロサンの分子量の調整は重要である。
【0009】
発酵生産における多糖の分子量の制御方法に関しては、ヘパロサンと同様にN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸のポリマーからなるヒアルロン酸の生産において、鎖伸長酵素であるPmHAS、基質となるUDP糖及び合成起点となるヒアルロン酸の量をコントロールすることで、16kDaから2MDaまでのヒアルロン酸を生成できた例が報告されている(非特許文献9)。
【0010】
ヘパロサン生産に関しては、パスツレラ・ムルトシダ D型の糖転移酵素であるPmHS1およびPmHS2を用いたヘパロサン発酵生産において、ヒアルロン酸の分子量制御方法と同様に、基質となるUDP-糖の量をコントロールすることでヘパロサン分子量が制御できる可能性が示唆されている(非特許文献10)。また、大腸菌を用いた検討でも、UDP-糖の量をコントロールすることでヘパロサン分子量が制御できることが明らかになっている(非特許文献12)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第8,771,995号明細書
【特許文献2】国際公開第2018/048973号
【特許文献3】国際公開第2011/028668号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Natural Product Reports (2009) 26, 313-321
【非特許文献2】Biotechnology and Bioengineering (2010) 107, 964-973
【非特許文献3】Applied Microbiology and Biotechnology (2019) 103, 6771-6782
【非特許文献4】Carbohydrate Research (2012) 360, 19-24
【非特許文献5】Annual Review of Biochemistry (2006) 75, 39-68
【非特許文献6】Proceedings of the National Academy of Sciences of USA (2013) 110, 20753-20758
【非特許文献7】Carbohydrate Research (2013) 378, 35-44
【非特許文献8】British Journal of Clinical Pharmacology (2017) 83, 2356-2366
【非特許文献9】Journal of Biological Chemistry (2004) 279, 42345-42349
【非特許文献10】Carbohydrate Polymers (2013) 93, 38-47
【非特許文献11】Carbohydrate Research (2013) 380, 70-75
【非特許文献12】Enzyme and Microbial Technology (2022) 158, 110038
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記したように、生産されるヘパロサンの分子量を制御することの重要性が認識されているが、ヘパロサンの分子量を制御する方法はUDP糖の供給量制御に関してのみ知られており、その他の制御方法については十分に明らかになっていない。
【0014】
低分子量のヘパロサンは、低分子量ヘパリンの製造に使用でき、高分子量ヘパロサンと比べて粘性が低く扱いが容易である。そのため、本発明は、低分子量のヘパロサンを製造するための組換え微生物を提供すること、及びその組換え微生物を用いて低分子量のヘパロサンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ヘパロサン生産菌において少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性を非改変株と比較して増大するように改変した組換え微生物を用いることで、低分子量のヘパロサンの製造ができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、
少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており、且つ
前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減されている、ヘパロサン生産用組換え微生物。
[2] 前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)の75%以下である、前記[1]に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[3] 前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、前記β-Kdoリンカー合成酵素の活性が増大しており、且つ
前記β-Kdoリンカー合成酵素が少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素および少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼである、前記[1]または[2]に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[4] 前記CMP-Kdo合成酵素をコードする1以上の遺伝子が、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子からなる群より選ばれる1以上の遺伝子である、[3]に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[5] 前記β-Kdoトランスフェラーゼをコードする1以上の遺伝子が、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくともいずれか1の遺伝子である、[3]または[4]に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[6] ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、
少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており、
前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させることにより、前記β-Kdoリンカー合成酵素の活性が増大しており、
前記β-Kdoリンカー合成酵素が少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素および少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼであり、
前記CMP-Kdo合成酵素をコードする1以上の遺伝子が、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子からなる群より選ばれる1以上の遺伝子であり、且つ
前記β-Kdoトランスフェラーゼをコードする1以上の遺伝子が、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくともいずれか1の遺伝子である、ヘパロサン生産用組換え微生物。
[7] 前記β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現が、該遺伝子のコピー数の増大および該遺伝子の発現調節配列の改変のうち少なくともいずれか1によって上昇した、前記[2]~[6]のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[8] さらにlpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が非改変株と比較して低下するように改変されている、前記[1]~[7]のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[9] エシェリヒア(Escherichia)属細菌である、前記[1]~[8]のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物。
[10] 前記[1]~[9]のいずれか一項に記載のヘパロサン生産用組換え微生物を培地で培養することを含む、ヘパロサンの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヘパロサンの製造方法によれば、ヘパロサン生産菌において少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性を非改変株と比較して増大するように改変した組換え微生物を用いることで、低分子量のヘパロサンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、エシェリヒア・コリ K5株の染色体上のヘパロサン合成遺伝子クラスターの模式図を示す。
図2図2は、ヘパロサン生産に関わる酵素の模式図を示す。
図3図3は、ヘパロサンの生合成経路の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本明細書において使用される用語は特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。
【0020】
<組換え微生物>
本発明のヘパロサン生産は、ヘパロサンを生産する能力を有するヘパロサン生産用組換え微生物であって、少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されており、且つ前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減されている、ヘパロサン生産用組換え微生物を用いる。
【0021】
前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)の75%以下であることが好ましく、73%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることが最も好ましい。ピークトップ分子量(Mp)は、HPLC分析によって、例えば後述の[分析例]に記載の方法によって測定することができる。
【0022】
本明細書において、「低分子量のヘパロサン」とは、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減されているヘパロサンを示す。低分子量のヘパロサンとは、具体的には例えば、ヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)の好ましくは75%以下であり、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは60%以下、最も好ましくは50%以下である。
【0023】
β-Kdoリンカー合成酵素の活性が増大するように改変する方法としては、β-Kdoリンカー合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇する方法が挙げられる。
【0024】
酵素の活性が増大したことは、例えば、同酵素の活性を測定することで確認できる。酵素の活性の増大としては、酵素の活性が、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0025】
β-Kdoリンカー合成酵素は、少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素および少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼであることが好ましい。
CMP-Kdo合成酵素とは、リブロース-5-リン酸からCMP-Kdoを合成する反応を触媒する酵素である。CMP-Kdo合成酵素としては、例えば、KdsD、KdsA、KdsC、KdsB、KpsF、KpsU等が挙げられる。
β-Kdoトランスフェラーゼとは、CMP-Kdoを基質として、Kdo残基を細胞内膜のホスファチジルグリセロールに転移させ、β-Kdoリンカーを合成する反応を触媒する酵素である。β-Kdoトランスフェラーゼとしては、例えば、KpsC、KpsS等が挙げられる。
【0026】
すなわち、本発明のヘパロサン生産用組換え微生物においては、以下の(1)および(2)の遺伝子改変を有することが好ましい。
(1)少なくとも1種類のCMP-Kdo合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変
(2)少なくとも1種類のβ-Kdoトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変
【0027】
エシェリヒア属細菌の一例として、エシェリヒア・コリ K5株の染色体上のヘパロサン合成遺伝子クラスターの模式図を図1に示す[J. Nzakizwanayo et al., PLOS ONE, (2015)]。また、ヘパロサン生産に関わる酵素の模式図を図2に示す。
【0028】
<<CMP-Kdo合成酵素をコードする遺伝子>>
CMP-Kdo合成酵素をコードする遺伝子としては、例えば、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子が挙げられる。CMP-Kdo合成酵素のうち、KpsFおよびKpsUは図2に示されている。
【0029】
kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子としては、それぞれ、エシェリヒア属由来のkdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K-12株のkdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子およびkdsB遺伝子、並びにエシェリヒア・コリ K5株のkpsF遺伝子およびkpsU遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K-12株のkdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子およびkdsB遺伝子、並びにエシェリヒア・コリ K5株のkpsF遺伝子およびkpsU遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。
【0030】
エシェリヒア・コリ K-12株のkdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子およびkdsB遺伝子は、それぞれGenBank accession NP_417664.1、GenBank accession NP_415733.1、GenBank accession NP_417665.1、GenBank accession NP_415438.1として登録されている。エシェリヒア・コリ K5株のkpsF遺伝子、kpsU遺伝子は、それぞれGenBank accession CAA64561.1およびGenBank accession CAA52657.1として登録されている。
【0031】
kdsD遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号1に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kdsD遺伝子としては、配列番号1に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0032】
kdsA遺伝子としては、配列番号35に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号35に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kdsA遺伝子としては、配列番号35に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0033】
kdsC遺伝子としては、配列番号36に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号36に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kdsC遺伝子としては、配列番号36に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0034】
kdsB遺伝子としては、配列番号37に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号37に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kdsB遺伝子としては、配列番号37に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0035】
kpsF遺伝子としては、配列番号38に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号38に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kpsF遺伝子としては、配列番号38に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0036】
kpsU遺伝子としては、配列番号39に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号39に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kpsU遺伝子としては、配列番号39に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0037】
<<β-Kdoトランスフェラーゼをコードする遺伝子>>
β-Kdoトランスフェラーゼをコードする遺伝子としては、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子が挙げられる。図1に示すように、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子は、Region I、Region II、Region IIIの遺伝子群のうち、Region Iにコードされる遺伝子である。図2に示すように、KpsCおよびKpsSは、ヘパロサンの排出に関与しており、ヘパロサン生産において、KpsCおよびKpsSは、内膜のホスファチジルグリセロールに複数のKdoリンカーを付加する役割を果たす。
【0038】
kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子としては、エシェリヒア属由来のkpsC遺伝子およびkpsS遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K5株のkpsC遺伝子およびkpsS遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K5株のkpsC遺伝子およびkpsS遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。エシェリヒア・コリ K5株のkpsCおよびkpsS遺伝子は、それぞれ、GenBank accession CAA52658.1及びGenBank accession CAA52659.1として登録されている。
【0039】
kpsC遺伝子としては、配列番号6に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号6に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kpsC遺伝子としては、配列番号6に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0040】
kpsS遺伝子としては、配列番号11に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号11に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kpsS遺伝子としては、配列番号11に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される性質を有するDNAが挙げられる。
【0041】
また、本発明のヘパロサン生産用組換え微生物においては、以下の(3)~(5)のうち少なくとも1の遺伝子改変を有していてもよい。
(3)lpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現を低下させる遺伝子改変
(4)kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変
(5)yhbJ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を低下させる遺伝子改変
【0042】
<<lpp遺伝子>>
Lppは大腸菌の外膜を構成する主要なリポタンパク質であり、大腸菌外膜の保持に関わっていることが知られている。これまでにLppを欠損させることによりGroup2莢膜多糖の合成に影響が出ることは知られているが(American Society for Microbiology mBio 8 (2017) e00603-e00617)、ヘパロサン生産とLppの関連については知られていなかった。
【0043】
ヘパロサン生産菌において、少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性を非改変株と比較して増大するように改変した組換え微生物は糖消費速度が低下する場合があり、工業スケールでのヘパロサン生産にはかかる糖消費速度の低下を抑制することが好ましい。そのため、該微生物において、lpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現が低下していることで、該微生物の糖消費能の低下を抑制し、且つ従来と比して低分子量のヘパロサンの生産性に優れた微生物とし得る。
【0044】
lpp遺伝子としては、エシェリヒア属由来のlpp遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K-12株のlpp遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K-12株のlpp遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。エシェリヒア・コリ K-12株のlpp遺伝子は、GenBank accession NP_416192.1として登録されている。
【0045】
lpp遺伝子としては、配列番号34に示す塩基配列を含むDNAまたは配列番号34に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。lpp遺伝子としては、配列番号34に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を低下させた際に微生物の糖消費を改善する性質を有するDNAが挙げられる。
【0046】
<<kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子>>
図1に示すように、kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子は、Region I、Region II、Region IIIの遺伝子群のうち、RegionIIにコードされる遺伝子である。図2に示すように、KfiA、KfiB、KfiC及びKfiDは、ヘパロサンの合成に関与しており、糖を付加してヘパロサンを合成する役割を果たす。
【0047】
本発明のヘパロサン生産用組換え微生物において、kfiA、kfiB、kfiC及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変がなされていることで、より効率的にヘパロサンを製造できる。
【0048】
kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子又はkfiD遺伝子としては、エシェリヒア属由来のkfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子又はkfiD遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K5株のkfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子又はkfiD遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K5株のkfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子又はkfiD遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。kfiA遺伝子はGenBank accession CAA54711.1;kfiB遺伝子はGenBank accession CAE55824.1;kfiC遺伝子はGenBank accession CAA54709.1;kfiD遺伝子はGenBank accession CAA54708.1として登録されている。
【0049】
kfiA遺伝子としては、配列番号27に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号27に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kfiA遺伝子としては、配列番号27に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に糖を付加してヘパロサンを合成する性質を有するDNAが挙げられる。
【0050】
kfiB遺伝子としては、配列番号40に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号40に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kfiB遺伝子としては、配列番号40に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に糖を付加してヘパロサンを合成する性質を有するDNAが挙げられる。
【0051】
kfiC遺伝子としては、配列番号41に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号41に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kfiC遺伝子としては、配列番号41に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に糖を付加してヘパロサンを合成する性質を有するDNAが挙げられる。
【0052】
kfiD遺伝子としては、配列番号42に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号42に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。kfiD遺伝子としては、配列番号42に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際に糖を付加してヘパロサンを合成する性質を有するDNAが挙げられる。
【0053】
<<yhbJ遺伝子>>
図3にヘパロサンの生合成経路の模式図を示す。図3に示すように、GlmSは、ヘパロサンの前駆体であるUDP-N-アセチルグルコサミン供給経路の第1酵素でありフルクトース-6-リン酸からグルコサミン-6-リン酸への反応を触媒する酵素である。yhbJは、GlmSをネガティブに制御する酵素である。本発明のヘパロサン生産用組換え微生物において、yhbJ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を低下させる遺伝子改変がなされていることで、より効率的にヘパロサンを製造できる。
【0054】
yhbJ遺伝子としては、エシェリヒア属由来のyhbJ遺伝子が好ましい。具体的には例えば、エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子が挙げられる。エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子の塩基配列及び該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列は、公用のデータベースから取得できる。エシェリヒア・コリ K-12株のyhbJ遺伝子は、GenBank accession BAE77249.1として登録されている。
【0055】
yhbJ遺伝子としては、配列番号20に示す塩基配列を含むDNAまたは、配列番号20に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAが挙げられる。yhbJ遺伝子としては、配列番号20に示す塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含み、かつヘパロサン生産能を有する組換え微生物において発現を上昇させた際にGlmSをネガティブに制御する性質を有するDNAが挙げられる。
【0056】
上記(1)~(5)における各遺伝子は、例えば、上記した各遺伝子の塩基配列を用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、各遺伝子のホモログは、例えば、細菌等の微生物の染色体を鋳型にして、これら公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0057】
上記(1)~(5)における各遺伝子は、該遺伝子によりコードされるタンパク質の元の機能(例えば、活性や性質)が維持されている限り、該遺伝子のバリアントであってもよい。該遺伝子のバリアントによりコードされるタンパク質が元の機能を維持しているか否かは、具体的には例えば元の機能がヘパロサンの生産能を向上する機能である場合、該遺伝子のバリアントをヘパロサンの生産能を有するエシェリヒア属細菌に導入して、元の機能を有するか否かを確認できる。
【0058】
上記(1)~(5)における各遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるタンパク質の特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することによって取得することができる。また、上記(1)~(5)における各遺伝子のバリアントは、例えば、変異処理によっても取得され得る。
【0059】
上記(1)~(5)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0060】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0061】
また、上記(1)~(5)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記アミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
【0062】
また、上記(1)~(5)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、公知の遺伝子配列から調製され得るプローブ、例えば上記塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0063】
上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、各遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上記(1)~(5)における各遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0064】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、上記(1)~(5)における各遺伝子は、元の機能が維持されている限り、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。
【0065】
変異処理としては、上記(1)~(5)における各遺伝子の塩基配列を有するDNA分子をヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、上記(1)~(5)における各遺伝子を保持する微生物を、X線、紫外線、またはN-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、メチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤によって処理する方法等の方法が挙げられる。
【0066】
<<遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変>>
「遺伝子の発現の上昇」とは、非改変株と比較して該遺伝子の発現が上昇することをいう。遺伝子の発現の上昇の一態様としては、例えば、非改変株と比較して、該遺伝子の発現が好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇していることが挙げられる。ここでいう非改変株とは、標的の遺伝子の発現が上昇するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、後述するエシェリヒア属細菌の説明において例示した菌株も挙げられる。
【0067】
また、「遺伝子の発現が上昇する」とは、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることを含む。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを含む。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」、「遺伝子の発現が増大する」ともいう。
【0068】
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller I, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。
【0069】
例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。
【0070】
また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。相同組み換えは、例えば、直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、またはファージを用いたtransduction法により行うことができる。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報)。
【0071】
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
【0072】
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。形質転換の方法は特に限定されず、従来公知の方法を使用できる。
【0073】
ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであることが好ましい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターとしては、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等が挙げられる。
【0074】
エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとしては、具体的には例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社)、pACYC184、pMW219、pMW118、pMW119(いずれもニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233-2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。
【0075】
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、本発明における遺伝子改変を有する微生物に保持されていればよい。具体的には、遺伝子は、本発明の微生物で機能するプロモーター配列による制御を受けて発現するように導入されていればよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、後述するような、より強力なプロモーターを利用してもよい。
【0076】
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、本発明の微生物において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとしては、具体的には例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
【0077】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0078】
また、2以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2以上の遺伝子を導入する場合」としては、例えば、2またはそれ以上の酵素をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一の酵素を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0079】
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい[Gene, 60(1), 115-127 (1987)]。
【0080】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味する。
【0081】
「より強力なプロモーター」としては、例えば、公知の高発現プロモーターであるuspAプロモーター、T7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。
【0082】
また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第2000/18935号)。
【0083】
高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモーター(国際公開第2010/027045号)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、公知の文献[Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995)等]に記載されている。
【0084】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列[リボソーム結合部位(RBS)ともいう]をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。
【0085】
「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味する。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene, 1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、挿入又は欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0086】
本発明においては、プロモーター、SD配列、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の遺伝子の発現に影響する部位を総称して「発現調節領域」ともいう。発現調節領域は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節領域の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(国際公開第2005/010175号)により行うことができる。
【0087】
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。具体的には例えば、遺伝子の異種発現を行う場合等には、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
【0088】
コドンの置換は、例えば、DNAの目的の部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法[Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987)]や、ファージを用いる方法[Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987)]が挙げられる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」[http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000)]に開示されている。
【0089】
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0090】
遺伝子の発現が上昇したことは、例えば、該遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、該遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。また、遺伝子の発現が上昇したことは、例えば、該遺伝子から発現するタンパク質の活性が上昇したことを確認することにより確認できる。
【0091】
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、該遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる[Sambrook, J., et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001]。mRNAの量の上昇としては、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0092】
タンパク質の量が上昇したことは、例えば、抗体を用いてウエスタンブロットによって確認できる。タンパク質の量の上昇としては、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0093】
タンパク質の活性が上昇したことは、例えば、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。タンパク質の活性の上昇としては、タンパク質の活性が、非改変株と比較して、例えば、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上に上昇することが挙げられる。
【0094】
上記した遺伝子の発現を上昇させる手法は、上記した(1)、(2)及び(4)の各遺伝子の発現増強に利用できる。
【0095】
(1)CMP-Kdo合成酵素をコードする遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変としては、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変が好ましく、kdsD遺伝子、kdsA遺伝子、kdsC遺伝子、kdsB遺伝子、kpsF遺伝子およびkpsU遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現調節領域の改変並びに該遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方であることが好ましい。特に、kdsD遺伝子の発現調節領域の改変及び該遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方であることが好ましい。
【0096】
(2)β-Kdoトランスフェラーゼをコードする遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変は、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくとも一方の遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変が好ましく、kpsC遺伝子およびkpsS遺伝子のうち少なくとも一方の遺伝子の発現調節領域の改変並びに該遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方であることが好ましい。
【0097】
(4)kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現を上昇させる遺伝子改変としては、kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子から選択される少なくとも1の遺伝子の発現調節領域の改変並びに該遺伝子のコピー数を高めることの少なくとも一方であることが好ましい。kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子は図1に示すようにオペロンを構成しており、kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子により構成されるオペロン全体を強化する遺伝子改変が好ましく、kfiA遺伝子、kfiB遺伝子、kfiC遺伝子及びkfiD遺伝子の発現調節領域の改変がより好ましい。
【0098】
<<タンパク質の発現を低下させる遺伝子改変>>
タンパク質の発現が低下するとは、該タンパク質の発現が非改変株と比較して低下することをいい、より具体的には、非改変株と比較して、該タンパク質の細胞当たりの分子数が低下することを意味してもよい。なお、タンパク質の細胞当たりの分子数が低下することには、該タンパク質が全く存在していない場合も包含されてよい。すなわち、タンパク質の発現が低下するという場合の「発現」とは、タンパク質の触媒活性に限定されず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。タンパク質の発現の低下の程度は、タンパク質の発現が非改変株と比較して低下していれば特に制限されないが、例えば、改変株のタンパク質の発現が、非改変株のタンパク質の発現と比較して、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは0%に低下してよい。ここでいう非改変株とは、標的のタンパク質の発現が低下するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、後述するエシェリヒア属細菌の説明において例示した菌株も挙げられる。
【0099】
タンパク質の発現が低下するような遺伝子改変は、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。遺伝子の発現が低下するとは、該遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味してよい。遺伝子の発現が低下するとは、より具体的には、該遺伝子の転写量(mRNA量)が減少すること、および/または、該遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が減少することを意味してよい。遺伝子の発現が低下することには、該遺伝子が全く発現していない場合も包含されてよい。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。改変株の遺伝子の発現は、例えば、非改変株の遺伝子の発現と比較して、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは0%に低下してよい。
【0100】
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、1塩基以上、2塩基以上、または3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味してよい。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによっても達成できる。
【0101】
また、タンパク質の発現が低下するような遺伝子改変は、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。遺伝子を破壊するとは、正常に機能するタンパク質を産生しないように該遺伝子が改変されることを意味してよい。正常に機能するタンパク質を産生しないことには、該遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、該遺伝子から分子当たりの機能(例えば、活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合も包含されてよい。
【0102】
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の該遺伝子を欠失させることにより達成できる。遺伝子の欠失とは、遺伝子のコード領域の一部又は全部の欠失を意味してよい。また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドン(ナンセンス変異)を導入すること、または1~2塩基の付加または欠失(フレームシフト変異)を導入することによっても達成できる。また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の塩基配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入部位の前後の配列はリーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、挿入部位の下流でフレームシフトが生じ得る。他の塩基配列としては、コードされるタンパク質の発現を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
【0103】
上記のようなタンパク質の発現を低下させる方法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0104】
タンパク質の発現が低下したことは、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子の転写量が減少したことを確認することや、該遺伝子から発現するタンパク質の量が減少したことを確認することにより確認できる。
【0105】
遺伝子の転写量が減少したことの確認は、該遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR等が挙げられる[Sambrook, J., et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual/Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, Cold spring Harbor (USA), 2001]。改変株のmRNAの量は、非改変株のmRNAの量と比較して、例えば、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは0%に減少してもよい。
【0106】
タンパク質の量が減少したことは、例えば、抗体を用いてウエスタンブロットによって確認できる。改変株のタンパク質の量は、非改変株のタンパク質の量と比較して、例えば、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは0%に減少してもよい。
【0107】
上記したタンパク質の発現を低下させる手法は、上記した(3)のタンパク質の発現低下に利用できる。
(3)lpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現を低下させる遺伝子改変としては、lpp遺伝子の転写効率の低下、lpp遺伝子の翻訳効率の低下及びlpp遺伝子の破壊から選択される少なくとも1であることが好ましい。特に、lpp遺伝子の破壊が最も好ましい。なお、lpp遺伝子によりコードされるタンパク質の発現を低下させたか否かの確認方法は、前述した細胞当たりのmRNAの転写量や翻訳量(タンパク質量)を公知技術で非改変株と比較する等があげられる。
【0108】
<<タンパク質の活性を低下させる遺伝子改変>>
タンパク質の活性を低下させる遺伝子改変とは、前述の例えば、タンパク質の発現を低下させる遺伝子改変のみならず、タンパク質の発現の高低ではなく、タンパク質の分子当たりの機能を低下させる遺伝子改変を含む。ここで、タンパク質の分子当たりの機能を低下させる遺伝子改変とは、より具体的には、該タンパク質の分子当たり活性が改変前の遺伝子と比較してそのタンパク質が有する触媒活性や生理活を低下させる改変をいう。また、タンパク質の分子当たりの機能が低下することには、該タンパク質の機能が完全に消失している場合も包含されてよい。
【0109】
タンパク質の分子当たりの機能を低下させる遺伝子改変は、例えば、前述の遺伝子破壊により、破壊された遺伝子から分子当たりの機能(例えば、活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生させるように改変することや、タンパク質をコードする遺伝子に任意の塩基配列を挿入、欠失、置換またはこれらの組合せの改変により、改変後の当該遺伝子から生産されるたんぱく質が、改変前の当該遺伝子から生産されたタンパク質の有する触媒活性や生理活性等の機能に比べて低下させることで達成することができる。
【0110】
なお、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されないが、例えば、改変株のタンパク質の活性が、非改変株のタンパク質の活性と比較して、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、最も好ましくは0%に低下してよく、これらの低下は、目的のタンパク質の発現が遺伝子改変前に上昇しているがタンパク質の分子当たりの機能が低下していることにより、非改変株と比較して、タンパク質の活性が低下している場合も含まれる。
【0111】
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、上記した(5)のタンパク質の活性低下に利用できる。
(5)yhbJ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を低下させる遺伝子改変としては、yhbJ遺伝子の転写効率の低下、yhbJ遺伝子の翻訳効率の低下及びyhbJ遺伝子の破壊から選択される少なくとも1であることが好ましい。特に、yhbJ遺伝子の破壊が最も好ましい。なお、yhbJ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を低下させたか否かの確認方法は、前述した細胞当たりのmRNAの転写量や翻訳量(タンパク質量)を公知技術で非改変株と比較することや、yhbJ遺伝子によりコードされるタンパク質の活性が低下していることを非改変株と比較して確認すること、より具体的には、例えばglmS遺伝子の細胞あたりのmRNA量やタンパク質量が非改変株と比べて増加していることを確認する等があげられる。
【0112】
<<エシェリヒア属細菌>>
ヘパロサン生産用組換え微生物は、工業的利用の観点から、エシェリヒア属細菌であることが好ましい。
【0113】
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、文献[Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.]に記載されたものが挙げられる。
【0114】
エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとしては、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;エシェリヒア・コリNissle 1917株(DSM 6601);およびそれらの派生株が挙げられる。
【0115】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、BL21(DE3)株は、例えば、ライフテクノロジーズ社より入手可能である(製品番号 C6000-03)。
【0116】
本発明の細菌は、本来的にヘパロサン生産能を有するものであってもよく、ヘパロサン生産能を有するように改変されたものであってもよい。ヘパロサン生産能を有する細菌は、例えば、上記のような細菌にヘパロサン生産能を付与することにより取得できる。
【0117】
ヘパロサン生産能は、Metabolic Engineering14(2012)521-527やCarbohydrate Research 360 (2012) 19-24、米国特許第9,975,928号明細書等を参考にして、ヘパロサン生産に関与するタンパク質をコードする遺伝子を導入することにより、付与できる。ヘパロサン生産に関与するタンパク質としては、グリコシルトランスフェラーゼやヘパロサン排出担体タンパク質が挙げられる。本発明においては、1種の遺伝子を導入してもよく、2種以上の遺伝子を導入してもよい。遺伝子の導入は、上述した遺伝子のコピー数を増加させる手法と同様に行うことができる。
【0118】
<ヘパロサンの製造方法>
本発明のヘパロサンの製造法は、本発明の細菌を培地で培養することを含む。本発明のヘパロサンの製造法は、さらに、ヘパロサンを該培地中に生成蓄積すること、および/または該培地よりヘパロサンを採取することを含んでいてもよい。
【0119】
使用する培地は、本発明の細菌が増殖でき、ヘパロサンが生成蓄積される限り、特に制限されない。培地としては、例えば、細菌の培養に用いられる通常の培地を用いることができる。培地として、例えば、LB培地(Luria-Bertani培地)が挙げられるが、これらに限定されない。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分から選択される成分を必要に応じて含有する培地を用いることができる。培地成分の種類や濃度は、当業者が適宜設定してよい。
【0120】
炭素源は、本発明の細菌が資化してヘパロサンを生成し得るものであれば、特に限定されない。炭素源としては、例えば、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜、澱粉加水分解物、バイオマスの加水分解物等の糖類、酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸類、グリセロール、粗グリセロール、エタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種以上の炭素源を組み合わせてもよい。
【0121】
窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせてもよい。
【0122】
リン酸源としては、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせてもよい。
【0123】
硫黄源として、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせてもよい。
【0124】
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
【0125】
また、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地に要求される栄養素を補添することが好ましい。また、抗生物質耐性遺伝子を搭載するベクターを用いて遺伝子を導入した際は、培地に対応する抗生物質を添加するのが好ましい。
【0126】
培養条件は、本発明の細菌が増殖でき、ヘパロサンが生成蓄積される限り、特に制限されない。培養は、例えば、細菌の培養に用いられる通常の条件で実施できる。培養条件は、当業者が適宜設定してよい。
【0127】
培養は、例えば、液体培地を用いて、通気培養または振盪培養により、好気的に実施できる。培養温度は、例えば、30~37°Cであってよい。培養期間は、例えば、16~72時間であってよい。培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施できる。また、培養は、前培養と本培養とに分けてもよい。前培養は、例えば、平板培地や液体培地を用いて行ってよい。
【0128】
上記のようにして本発明の細菌を培養することにより、培地中にヘパロサンが蓄積する。
【0129】
培養液からヘパロサンを回収する方法は、ヘパロサンが回収されうる限り、特に制限されない。培養液からヘパロサンを回収する方法としては、例えば、実施例に記載する方法が挙げられる。具体的には、例えば、培養液から培養上清を分離し、次いで、エタノール沈殿によって上清中のヘパロサンを沈降できる。添加するエタノールの量は、例えば、上清液量の2.5~3.5倍量であってよい。ヘパロサンの沈降には、エタノールに限られず、水と任意に混和する有機溶媒を使用できる。
【0130】
前記有機溶媒としては、エタノールに加えて、メタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、sec-ブタノール、プロピレングリコール、アセトニトリル、アセトン、DMF、DMSO、N-メチルピロリドン、ピリジン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、THFが挙げられる。
【0131】
沈殿したヘパロサンは、例えば、元の上清液量の2倍量の水に溶解できる。回収されるヘパロサンは、ヘパロサン以外に、細菌菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。ヘパロサンは、所望の程度に精製されていてよい。ヘパロサンの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【0132】
ヘパロサンの検出および定量は、公知の方法により実施できる。具体的には例えば、実施例で後述するように、ヘパロサンは、カルバゾール法にて検出および定量できる。カルバゾール法は、ウロン酸の定量方法として広く用いられる手法であり、ヘパロサンを硫酸の存在下でカルバゾールと熱反応させ、生成した呈色物質による530nmの吸収を測定することにより、ヘパロサンを検出及び定量できる[Bitter T. and Muir H.M., (1962) “A modified uronic acid carbazole reaction.” Analytical Biochemistry, 4(4): 330-334]。また、例えば、ヘパロサンをヘパロサン分解酵素であるヘパリナーゼIIIで処理し、二糖組成分析を行うことによって、ヘパロサンを検出及び定量できる。
【実施例0133】
以下に実施例を示すが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0134】
[分析例]
実施例において、ヘパロサンの分子量(Mp)の測定は以下に示す手順で行った。培養後の微生物を含む培養液を95℃で10分間加熱し、超音波破砕した後、遠心分離し、上清を回収した。該上清に濃塩酸を10%(v/v)、10N 水酸化ナトリウムを6%(v/v)添加し、イソプロパノール沈殿によりヘパロサンを回収した。回収したヘパロサンを蒸留水に溶解したものをヘパロサンサンプルとした。下記の条件でHPLC分析を行った。
【0135】
[HPLC分析条件]
カラム:TSK Gel G6000 PW
カラム温度:30℃
溶離液組成:100mM 酢酸アンモニウム水溶液
流速:0.6ml/min
検出器:RID-10A(島津製作所製)
【0136】
標準試薬としてプルラン(Shodex社製、STANDARD P-82)のP-20,50,100,200,400,800を用いた。標準試薬をそれぞれ5g/Lとなるよう蒸留水に溶解させ、HPLC分析を行った。標準試薬のピークトップ分子量Mpの検量線をLab Solutions(島津製作所製)のGPC計算ソフトを用いて作成した。作成した検量線を用いて、ヘパロサンサンプルのピークトップ分子量Mpを算出した。
【0137】
[実施例1]ヘパロサンの製造に用いる微生物の造成
(1)kdsD発現用プラスミドの造成
大腸菌 Nissle 1917株のヘパロサン合成遺伝子kdsD(配列番号1)を発現させるプラスミドを、以下の手順で作製した。
【0138】
大腸菌 Nissle 1917株を周知の培養方法により培養し、微生物の染色体DNAを単離精製した。調製したDNAを用い、表1の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして、表1の「鋳型」に記載されたDNAを鋳型としてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0139】
【表1】
【0140】
上記で得られたkdsD断片及びトリプトファンプロモーター断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号4及び3で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとしてPCRを実施し、kdsD断片及びトリプトファンプロモーター断片を連結させた約2.0kbのDNA断片(以下、トリプトファンプロモーター-kdsD断片という。)を得た。
【0141】
トリプトファンプロモーター-kdsD断片と発現ベクターpMW118(ニッポンジーン社製)を、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現用プラスミドpMW118-kdsD(以下、pKDO1という。)を得た。
【0142】
(2)kpsC発現用プラスミドの造成
大腸菌 Nissle 1917株のヘパロサン合成遺伝子kpsC(配列番号6)を発現させるプラスミドを、以下の手順で作製した。
【0143】
大腸菌 Nissle 1917株を周知の培養方法により培養し、微生物の染色体DNAを単離精製した。調製したDNAおよび発現ベクターpMW218(ニッポンジーン社製)を用い、表2の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして、表2の「鋳型」に記載されたDNAを鋳型としてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0144】
【表2】
【0145】
上記で得られたkpsC断片及びカナマイシン耐性遺伝子断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号7及び9で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとしてPCRを実施し、kpsC断片及びカナマイシン耐性遺伝子断片を連結させた約3.3kbのDNA断片(以下、kpsC断片-カナマイシン耐性遺伝子断片という。)を得た。
【0146】
kpsC断片-カナマイシン耐性遺伝子断片と発現ベクターpTrc99a(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現用プラスミドpTrc99a-kpsC(以下、pKDO2という。)を得た。
【0147】
(3)kpsS発現用プラスミドの造成
大腸菌 Nissle 1917株のヘパロサン合成遺伝子kpsS(配列番号11)を発現させるプラスミドを、以下の手順で作製した。
【0148】
大腸菌 Nissle 1917株を周知の培養方法により培養し、微生物の染色体DNAを単離精製した。調製したDNAを用い、表3の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして、表3の「鋳型」に記載されたDNAを鋳型としてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0149】
【表3】
【0150】
上記で得られたkpsS断片及びuspAプロモーター断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号14及び13で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとしてPCRを実施し、kpsS断片及びuspAプロモーター断片を連結させた約1.5kbのDNA断片(以下、uspAプロモーター断片-kpsS断片という。)を得た。
【0151】
uspAプロモーター断片-kpsS断片と発現ベクターpSTV29(タカラバイオ社製)を、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて連結することにより、発現用プラスミドpSTV29-kpsS(以下、pKDO3という。)を得た。
【0152】
(4)ヘパロサン生産用宿主の造成
<遺伝子欠損の際にマーカーとして用いるDNA断片の取得>
表4の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして、表4の「鋳型」に記載されたDNAを鋳型としてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0153】
【表4】
【0154】
Bacillus subtilis 168株のゲノムDNAは定法により調製した。増幅DNA断片のcatは、pHSG396上のcat(クロラムフェニコールアセチル転移酵素)遺伝子の上流約200bpから下流約50bpを含む。増幅DNA断片のsacBは、バチルス・サブチルス168株のゲノムDNA上のsacB(レバンシュクラーゼ)遺伝子の上流約300bpから下流約100bpを含む。
【0155】
次に、増幅DNA断片のcat及びsacBを等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号16及び19で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして用いてPCRを行い、cat遺伝子及びsacB遺伝子を含むDNA断片(以下、cat-sacBという。)を得た。
【0156】
<yhbJ遺伝子を欠損した大腸菌>
大腸菌 Nissle 1917株を宿主として、N-アセチルノイラミン酸(NeuAc)生合成に関わるL-グルタミン-D-フルクトース6リン酸アミノトランスフェラーゼをコードするglmS遺伝子の活性を負に制御する転写制御因子yhbJ遺伝子(配列番号20)を破壊した大腸菌を、以下の手順で作製した。
【0157】
常法により調製したNissle 1917株の染色体DNAを鋳型として、表5の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして用いてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0158】
【表5】
【0159】
yhbJ上流1及びyhbJ上流2は、yhbJ遺伝子の開始コドンからその上流約1000bpを含む。yhbJ下流1及びyhbJ下流2は、yhbJ遺伝子の終止コドンからその下流約1000bpを含む。
yhbJ上流1、yhbJ下流1、及びcat-sacB断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号21及び24で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、yhbJ遺伝子周辺領域の配列にcat-sacB断片が挿入された配列からなるDNA断片(以下、yhbJ::cat-sacBという。)を得た。
yhbJ上流2及びyhbJ下流2を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号21及び24で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、yhbJを含まず、yhbJ上流とyhbJ下流が直接連結した配列からなるDNA断片(以下、ΔyhbJという。)を得た。
yhbJ::cat-sacB断片を、λリコンビナーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドpKD46[Datsenko, K.A., Warner,B.L., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, Vol.97, 6640-6645 (2000)]を保持するNissle 1917株に、エレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール耐性、かつシュクロース感受性を示した形質転換体(yhbJ遺伝子がyhbJ::cat-sacBに置換した形質転換体)を得た。
ΔyhbJ断片を、当該形質転換体にエレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール感受性かつシュクロース耐性を示す形質転換体 (yhbJ::cat-sacBがΔyhbJに置換した形質転換体) を得た。当該形質転換体をNissle 1917ΔyhbJ株と命名した。
【0160】
<kfiA遺伝子の上流配列を置換した大腸菌>
Nissle 1917ΔyhbJ株を宿主として、ヘパロサンの生合成に関与するN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼをコードするkfiA遺伝子(配列番号27)の上流にuspAプロモーターを挿入した大腸菌を、以下の手順で作製した。
常法により調製したNissle 1917株の染色体DNAを鋳型として表6の「プライマーセット」で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットとして用いてPCRを行い、各増幅DNA断片を得た。
【0161】
【表6】
【0162】
kfiA上流1及びkfiA上流2は、kfiA遺伝子の開始コドン上流100bp周辺からさらにその上流約1000bpを含む。kfiA下流1及びkfiA下流2は、kfiA遺伝子の開始コドンからその下流約1000bpを含む。
kfiA上流1、kfiA下流1、及びcat-sacB断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号28及び31で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、kfiA遺伝子周辺領域の配列にcat-sacB断片が挿入された配列からなるDNA断片(以下、PkfiA::cat-sacBという。)を得た。
kfiA上流2、kfiA下流2、及びuspAプロモーター断片を等モルの比率で混合したものを鋳型とし、配列番号28及び31で表される塩基配列からなるDNAをプライマーセットに用いてPCRを行い、kfiA遺伝子の開始コドン周辺領域の配列にuspAプロモーターが挿入された配列DNA断片(以下PkfiA::PuspAという。)を得た。
PkfiA::cat-sacB断片を、λリコンビナーゼをコードする遺伝子を含むプラスミドpKD46を保持するNissle 1917ΔyhbJ株に、エレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール耐性、かつシュクロース感受性を示した形質転換体(kfiA遺伝子の開始コドン周辺領域にcat-sacBが挿入された形質転換体)を得た。
PkfiA::PuspA断片を、当該形質転換体にエレクトロポレーション法により導入し、クロラムフェニコール感受性かつシュクロース耐性を示す形質転換体(PkfiA::cat-sacBがPkfiA::PuspAに置換した形質転換体)を得た。当該形質転換体をNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA株と命名した。
【0163】
<lpp遺伝子を欠損した大腸菌>
大腸菌の主要外膜リポタンパク質をコードするlpp遺伝子(配列番号34)を破壊した大腸菌を、以下の手順で作製した。
【0164】
大腸菌 Nissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA株を宿主として用い、Babaら[Baba T. et al. (2006) Mol systems Biol]と同様の方法により、lpp遺伝子を完全に欠失させた株Nissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp株を得た。
【0165】
(5)ヘパロサン生産用プラスミドを有する微生物の造成
上記(1)、(2)及び(3)で得られたプラスミドpKDO1、pKDO2及びpKDO3を、上記(4)で造成したNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA株及びNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp株へそれぞれ形質転換した。形質転換にあたっては、定法に従い、アンピシリンナトリウム100mg/L、カナマイシン硫酸塩25mg/L及びクロラムフェニコール25mg/Lを含むLB寒天培地で選抜した。形質転換により取得した株をそれぞれNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA/pKDO123株及びNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp/pKDO123株と命名した。
【0166】
[実施例2]発酵法によるヘパロサンの製造
Nissle 1917株(野生株)及び、実施例1で得られたNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA/pKDO123株及びNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp/pKDO123株を下記の手順で培養し、ヘパロサンの生産試験を行った。なお、各菌株について2サンプルずつ培養及び培養液の分析を行い、測定結果は2サンプルの平均値で示した。
【0167】
まず、各菌株をLBプレート上で30℃にて終夜培養した後、LB培地5mlが入った太型試験管に植菌して、30℃で18時間培養した。
次に、該培養液を生産培地[グルコース 20g/L、硫酸マグネシウム7水和物 1.0g/L、リン酸1カリウム 13.5g/L、リン酸アンモニウム 4g/L、クエン酸 1.7 g/L、ビタミンB1 10mg/L、硫酸鉄7水和物 100mg/L、塩化カルシウム 20mg/L、硫酸亜鉛7水和物 22mg/L、 硫酸マンガン4水和物 5mg/L、硫酸銅5水和物 10mg/L、モリブデン酸アンモニウム4水和物 1mg/L、ホウ酸ナトリウム10水和物 0.2mg/L(水酸化ナトリウム水溶液によりpH6.8に調整した後オートクレーブした)(硫酸鉄7水和物、塩化カルシウム、硫酸亜鉛7水和物、硫酸マンガン4水和物、硫酸銅5水和物、モリブデン酸アンモニウム4水和物及びホウ酸ナトリウム10水和物は塩酸に溶解させ別途調整し、オートクレーブ前に混合した)(グルコース及び硫酸マグネシウム7水和物水溶液は別途調整してオートクレーブし、冷却後に混合した)]が5ml入った太型試験管に0.25ml植菌後、37℃で20時間振とう培養した。なお、Nissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA/pKDO123株及びNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp/pKDO123株の培養には、上記の各培地にアンピシリン200mg/L(LBプレート培養時は100mg/L)、カナマイシン硫酸塩25mg/L、クロラムフェニコール25mg/Lを添加した培地を使用した。
【0168】
培養終了後、培養液を適宜希釈したサンプルを調製し、各サンプルの660nmにおける吸光度(単位は任意単位)、およびグルコース濃度(単位はg/L)を測定した。結果を表7に示す。
【0169】
【表7】
【0170】
また、培養液を分析例に記載の方法で前処理し、HPLC分析によってヘパロサン分子量(Mp)を測定した。結果を表8に示す。表中の分子量比は、Nissle 1917株のヘパロサン分子量(Mp)を1としたときの分子量の相対値を表す。
【0171】
【表8】
【0172】
表7及び表8の結果は、β-Kdoの生合成に関与するkdsD遺伝子、ヘパロサンの生合成に関与するkpsC、kpsSおよびkfiABCD遺伝子群の発現強化は、野生株と比較して低分子量のヘパロサン生産をもたらすことを示した。しかし同時に、培養終了時の培地中のグルコース濃度が4.0g/Lから8.5g/Lへと上昇したことは、グルコース消費速度が低下する場合があることを示す。グルコース消費速度の低下が培養スケールアップへの適性低下をもたらすため、Nissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA/pKDO123株を工業スケールでの発酵生産に用いるためには、グルコース消費速度の向上が望ましいと考えられる。
【0173】
ここで、さらに外膜リポタンパク質をコードするlpp遺伝子を欠損させたNissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspAΔlpp/pKDO123株では、Nissle 1917ΔyhbJΔPkfiA::PuspA/pKDO123株で低下したグルコース消費速度を野生株以上に回復でき、かつ野生株と比較して低分子量(野生株のヘパロサン分子量の0.73倍)のヘパロサンを生産できることが明らかになった。
【0174】
これらの結果から、ヘパロサン生産能を有し、且つβKdo生合成経路が強化されており、且つ外膜リポタンパク質遺伝子lppが破壊されている微生物を用いることで、生育およびグルコース消費能の低下を抑制し、従来と比して低分子量のヘパロサンをより効率的に製造できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、ヘパロサンを生産する能力を有し、少なくとも1種類のβ-Kdoリンカー合成酵素の活性が非改変株と比較して増大するように改変されている、ヘパロサン生産用組換え微生物を用いることによって、前記微生物によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)が、前記非改変株によって生産されるヘパロサンのピークトップ分子量(Mp)と比較して低減される。
【配列表フリーテキスト】
【0176】
配列番号1:大腸菌 Nissle 1917株由来kdsD遺伝子の塩基配列
配列番号2:大腸菌 Nissle 1917株由来kdsD遺伝子増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号3:大腸菌 Nissle 1917株由来kdsD遺伝子増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号4:トリプトファンプロモーター増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号5:トリプトファンプロモーター増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号6:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsC遺伝子の塩基配列
配列番号7:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsC遺伝子増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号8:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsC遺伝子増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号9:カナマイシン耐性遺伝子増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号10:カナマイシン耐性遺伝子増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号11:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsS遺伝子の塩基配列
配列番号12:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsS遺伝子増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号13:大腸菌 Nissle 1917株由来kpsS遺伝子増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号14:uspAプロモーター増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号15:uspAプロモーター増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号16:pHSG396上のcat遺伝子の上流約200bpから下流約50bpを含むDNA断片catの増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号17:pHSG396上のcat遺伝子の上流約200bpから下流約50bpを含むDNA断片catの増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号18:バチルス・サブチルス168株のゲノムDNA上のsacB遺伝子の上流約300bpから下流約100bpを含むDNA断片sacBの増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号19:バチルス・サブチルス168株のゲノムDNA上のsacB遺伝子の上流約300bpから下流約100bpを含むDNA断片sacBの増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号20:大腸菌 Nissle 1917株由来yhbJ遺伝子の塩基配列
配列番号21:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の開始コドンからその上流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子上流1増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号22:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の開始コドンからその上流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子上流1増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号23:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の終止コドンからその下流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子下流1増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号24:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の終止コドンからその下流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子下流1増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号25:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の開始コドンからその上流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子上流2増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号26:大腸菌 Nissle 1917株由来の、yhbJ遺伝子の終止コドンからその下流約1000bpを含む、yhbJ遺伝子下流2増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号27:大腸菌 Nissle 1917株由来kfiA遺伝子の塩基配列
配列番号28:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドン上流約100bpからさらにその上流約1000bpを含む、kfiA遺伝子上流1増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号29:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドン上流約100bpからさらにその上流約1000bpを含む、kfiA遺伝子上流1増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号30:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドンからその下流約1000bpを含む、kfiA遺伝子下流1増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号31:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドンからその下流約1000bpを含む、kfiA遺伝子下流1増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号32:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドン上流約100bpからさらにその上流約1000bpを含む、kfiA遺伝子上流2増幅用プライマーRの塩基配列
配列番号33:大腸菌 Nissle 1917株由来の、kfiA遺伝子の開始コドンからその下流約1000bpを含む、kfiA遺伝子下流2増幅用プライマーLの塩基配列
配列番号34:大腸菌由来lpp遺伝子の塩基配列
配列番号35:大腸菌由来kdsA遺伝子の塩基配列
配列番号36:大腸菌由来kdsC遺伝子の塩基配列
配列番号37:大腸菌由来kdsB遺伝子の塩基配列
配列番号38:大腸菌由来kpsF遺伝子の塩基配列
配列番号39:大腸菌由来kpsU遺伝子の塩基配列
配列番号40:大腸菌由来のkfiB遺伝子の塩基配列
配列番号41:大腸菌由来のkfiC遺伝子の塩基配列
配列番号42:大腸菌由来のkfiD遺伝子の塩基配列
配列番号43:大腸菌由来のトリプトファンプロモーターの塩基配列
配列番号44:大腸菌由来のuspAプロモーターの塩基配列
図1
図2
図3
【配列表】
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