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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172579
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】検査装置管理システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241205BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01M99/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090377
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】草野 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
(72)【発明者】
【氏名】上地 昇一
【テーマコード(参考)】
2G024
2G041
【Fターム(参考)】
2G024CA13
2G024FA06
2G024FA15
2G041CA01
2G041FA03
2G041FA06
2G041LA06
(57)【要約】
【課題】質量分析装置である検査装置に関する異常診断または異常予兆などの状態を好適に検知・診断できる技術を提供する。
【解決手段】検査装置管理システムは、質量分析装置である検査装置11を管理する検査装置管理システムであって、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータシステム(診断装置2、製造管理装置3)を備え、コンピュータシステムは、検査装置11についての時系列上のモニタリングとして、検査装置11によるマススペクトル計測データ(データD1)と、検査装置11の構成部位に関する所定のセンサパラメータ値についてのセンサ12によるセンサデータD2と、検査装置11に関する設置環境情報を含む管理情報D3と、を含む稼働情報D0を、収集および蓄積し、稼働情報D0を可視化する画面(GUI画面50)を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析装置である検査装置を管理する検査装置管理システムであって、
プロセッサおよびメモリを有するコンピュータシステムを備え、
前記コンピュータシステムは、
前記検査装置についての時系列上のモニタリングとして、前記検査装置によるマススペクトル計測データと、前記検査装置の構成部位に関する所定のセンサパラメータ値についてのセンサによるセンサデータと、前記検査装置に関する設置環境情報を含む管理情報と、を含む稼働情報を、収集および蓄積し、
前記稼働情報を可視化する画面を提供する、
検査装置管理システム。
【請求項2】
請求項1記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、
前記稼働情報に基づいて、前記検査装置の異常または異常予兆を含む状態に関して診断し、前記異常または異常予兆を検知し、前記検査装置の状態を含む診断結果情報を生成し、
前記診断結果情報を可視化する画面を提供する、
検査装置管理システム。
【請求項3】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、
前記稼働情報および前記診断結果情報に基づいて、前記検査装置の保守または交換または製造の計画を立案して、前記検査装置の交換時期および交換部品を含む計画情報を生成し、
前記計画情報を可視化する画面を提供する、
検査装置管理システム。
【請求項4】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、
特定の試料を前記検査装置が計測して得られるマススペクトル計測データを前記稼働情報の一部として取得し、
前記特定の試料の前記マススペクトル計測データを、学習データとして、機械学習を行うことにより、前記診断を行う、
検査装置管理システム。
【請求項5】
請求項4記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、前記検査装置での定期チェックとして前記特定の試料を計測して得られるマススペクトル計測データを取得する、
検査装置管理システム。
【請求項6】
請求項4記載の検査装置管理システムにおいて、
前記特定の試料は、陽イオンおよび陰イオンに関するm/zの幅を持つ試料であり、水、メトキシフェナミン、酸素、TCP(トリクロロフェノール)、TBP(トリブロモフェノール)、のうち少なくとも1つを含む、
検査装置管理システム。
【請求項7】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記センサデータは、前記検査装置のマススペクトル計測部を含む前記構成部位についての前記センサパラメータ値として、温度、電圧、電流、圧力、流量、のうち少なくとも1つのセンサパラメータ値を含み、
前記コンピュータシステムは、前記センサデータを、学習データとして、機械学習を行うことにより、前記診断を行う、
検査装置管理システム。
【請求項8】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記設置環境情報は、前記検査装置が設置される顧客環境における、空港、港湾、工場、研究所、のうち少なくとも2つの環境の違いを表す情報であり、
前記コンピュータシステムは、前記設置環境情報を、学習データとして、機械学習を行うことにより、前記診断を行う、
検査装置管理システム。
【請求項9】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記管理情報は、前記検査装置が設置される顧客環境における、設置態様として、据置、車載、の違いを表す情報を含み、前記車載の場合には、前記検査装置の移動距離または振動状態を表す情報を含み、
前記コンピュータシステムは、前記設置態様の情報を、学習データとして、機械学習を行うことにより、前記診断を行う、
検査装置管理システム。
【請求項10】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記管理情報は、前記検査装置が設置される顧客環境における、前記検査装置の検査回数、保守回数、連続稼働時間、のうち少なくとも1つを含む情報であり、
前記コンピュータシステムは、前記検査回数、前記保守回数、または前記連続稼働時間を、学習データとして、機械学習を行うことにより、前記診断を行う、
検査装置管理システム。
【請求項11】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、前記マススペクトル計測データに基づいて、前記検査装置の設置環境に応じた、マススペクトルのベースラインの状態を診断する、
検査装置管理システム。
【請求項12】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記コンピュータシステムは、前記マススペクトル計測データに基づいて、
信号強度がピークとなるm/zをm/zピーク値とした場合に、
前記m/zピーク値の信号強度の高低の分析と、
前記m/zピーク値のピークずれ幅の分析と、
前記m/zピーク値を中心とするマス幅または中間マス幅の大小の分析と、
前記m/zピーク値の数の分析と、
[前記マス幅]/[前記中間マス幅]で規定される分解能の分析と、
[前記ピークずれ幅]/[前記マス幅]で規定されるマスマーカ値の分析と、
のうち少なくとも1つの分析を行う、
検査装置管理システム。
【請求項13】
請求項2記載の検査装置管理システムにおいて、
前記検査装置は、正電荷を持つ陽イオンと負電荷を持つ陰イオンとを計測可能なマススペクトル計測部を備え、陽イオンの計測時には、陽イオン向けの電圧極性に切り替え、陰イオンの計測時には、陰イオン向けの電圧極性に切り替える、電圧極性切り替え機能を有し、マス軸調整テーブルとして、陽イオン用マス軸調整テーブルと、陰イオン用マス軸調整テーブルとを有し、
前記コンピュータシステムは、正負の極性を持つ特定の試料のマススペクトル計測データに基づいて、前記陽イオン用マス軸調整テーブルと前記陰イオン用マス軸調整テーブルとを決定する、
検査装置管理システム。
【請求項14】
質量分析装置である検査装置を管理する検査装置管理方法であって、
プロセッサおよびメモリを有するコンピュータシステムが実行するステップとして、
前記検査装置についての時系列上のモニタリングとして、前記検査装置によるマススペクトル計測データと、前記検査装置の構成部位に関する所定のセンサパラメータ値についてのセンサによるセンサデータと、前記検査装置に関する設置環境情報を含む管理情報と、を含む稼働情報を、収集および蓄積するステップと、
前記稼働情報を可視化する画面を提供するステップと、
を有する、検査装置管理方法。
【請求項15】
請求項14記載の検査装置管理方法において、
前記コンピュータシステムが、前記稼働情報に基づいて、前記検査装置の異常または異常予兆を含む状態に関して診断し、前記異常または異常予兆を検知し、前記検査装置の状態を含む診断結果情報を生成するステップと、
前記診断結果情報を可視化する画面を提供するステップと、
を有する、検査装置管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析装置(言い換えると検査装置)等を管理する技術に関し、特に、検査装置等の状態を診断するコンピュータシステムや情報処理等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
化学品・食品・医薬品などの素材産業やプロセス産業における、開発・設計・製造・検査・検証などの各プロセスでは、原材料・中間品・製品などの物が扱われる。当該物を構成する、または当該物に含有される物質として、微量化学物質、大気・土壌・水源などの環境汚染の要因となる微量有害物質、検診などで人体から採取される血液・尿・汗などの検体がある。また、当該物質としては、港・空港・駅などの公共施設・輸送施設・大規模商業施設・イベント会場などでの防犯・防災対策として衣服・荷物などの表面に付着した微量の不正薬物・爆発物などがある。
【0003】
上記物質を対象とした質量分析技術(Mass Spectrometry)がある。質量分析は、試料を、原子・分子のレベルでイオン化し、質量を計測し分析して、物質の同定や定量を行う方法である。質量分析装置(言い換えると検査装置)は、高電圧をかけた真空中で試料をイオン化し、静電力によって飛行するイオンを、電磁気的な作用によって、質量電荷比に応じて分離し、分離した成分を検出する。このような計測により、マススペクトル(Mass Spectrum)(マスと記載する場合がある)が得られる。マススペクトルは、横軸がm/z(質量電荷比、m:質量、z:電荷)、縦軸が信号強度(イオン相対強度)である。質量分析装置は、マススペクトル情報から、既知物質の同定・推定などが可能である。
【0004】
質量分析装置は、例えば、計測・検知の対象となる試料(言い換えると、サンプル、検体、対象物など)を導入する試料導入部と、導入した試料をイオン化するイオン源および真空室と、イオンを異なる質量電荷比によって分離・検出するマススペクトル計測部(言い換えると検出部、分析部)と、マス計測の正負イオン化切り替えを制御する制御部とを備える。
【0005】
質量分析装置は、上記マス計測・質量分析を用いて、物質の成分の分析・解析、異物・危険物などの計測・検知、安心・安全性評価、特性評価、効能評価などを行うことで、高信頼化などを実現する。高精度・高感度な計測が可能である質量分析装置は、素材産業やプロセス産業、環境分野、生化学分野、セキュリティ分野などの幅広い分野における安心・安全性評価などの重要な工程で活用・運用される。
【0006】
先行技術例として、特開2013-181910号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、質量分析システムの例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-181910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
質量分析装置である検査装置は、対象となる試料の種類・特長、計測・検知の回数、連続稼働、装置設置環境などの違いによって、構成部位の汚れ・消耗・劣化などの程度・頻度・状況が異なる。例えば、検査装置が設置される顧客環境としては、空港、港湾、工場、研究所などがあり、それぞれの環境による影響が異なる。このため、質量分析装置は、高精度・高感度な計測が不定期に不可/不安定の状態となる場合があり、それにより検査装置の稼働を停止しなければならない場合もある。
【0009】
特に、不具合現象として、高精度・高感度な計測が不可になる状態である感度異常が発生した場合、検査装置の稼働が停止し、安心・安全性評価などの重要な工程での含有物質の計測ができなくなるほか、検査装置の信頼性を損なう結果となるため、対策が必要および重要である。対策は、構成部位の洗浄・清掃・交換などの対処作業、言い換えると保守作業が一般的である。しかしながら、質量分析装置では、異常発生原因となり得る構成部位が多く、また、部品などの構成部位の汚れ・消耗・劣化などを作業者が目視確認できないことも多い。例えば汚れや劣化等が微小であり、目視ではわかりにくい。そのような状況下で、検査装置の稼働状態を確認する必要があるほか、部品を交換する場合の設置・調整の精度も要求される。このことから、専門知識を持った作業者であっても、感度異常の原因の特定は難しく、交換などの対処作業に要する対策期間も含めて正常復帰させるまでに多大な時間を要する場合がある。
【0010】
従来、質量分析装置における安心・安全性・健全性・安定稼働を維持するための保守作業者やサービスエンジニアや監督者は、質量分析装置の稼働状況を定期的に収集・確認・点検・記録するほか、過去の感度異常などの事象を記録・保管する。また、作業者等は、構成部位の洗浄や交換の時期に備えて、点検作業や予備品購入などの計画・予算を立て、在庫管理などを行う。また、作業者等は、感度異常などの事象が発生した際に、正常復帰までに要する長期間を考慮し、短期間での代替機の準備や、運用計画・運転員の調整などを行う。従来では、検査装置の不具合などが発生した後に、サービスエンジニア等が、異常原因の特定を試みる。
【0011】
しかしながら、上記のような異常原因特定や保守交換を含む人的な作業には、専門知識を要し、多くの手間や時間がかかる。また、感度異常などの事象の発生時期の予測を人が高精度に行うことも難しい。事象の予測が難しいので、好適な保守交換時期や在庫などの計画も難しい。すなわち、検査装置を使用する顧客環境側での好適な管理や計画が難しい。顧客環境での検査装置の停止期間が長くなりがちである。
【0012】
感度異常などの事象が発生した際に、迅速な対応や、運用への悪影響の最小化が求められる。また、多大な保守管理費用の低減、適切な保守管理業務が遂行できる人材の確保や育成などが求められる。
【0013】
本開示の目的は、上記質量分析装置などの技術に関して、異常原因の特定を容易化し、保守等の対処を効率化できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のうち代表的な実施の形態は以下に示す構成を有する。実施の形態は、質量分析装置である検査装置を管理する検査装置管理システムであって、プロセッサおよびメモリを有するコンピュータシステムを備え、前記コンピュータシステムは、前記検査装置についての時系列上のモニタリングとして、前記検査装置によるマススペクトル計測データと、前記検査装置の構成部位に関する所定のセンサパラメータ値についてのセンサによるセンサデータと、前記検査装置に関する設置環境情報を含む管理情報と、を含む稼働情報を、収集および蓄積し、前記稼働情報を可視化する画面を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本開示のうち代表的な実施の形態によれば、上記質量分析装置などの技術に関して、異常原因の特定を容易化し、保守等の対処を効率化できる。上記した以外の課題、構成および効果等については、発明を実施するための形態において示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1の検査装置管理システムの構成を示す図。
図2】実施の形態1で、検査装置の外観の構成例を示す図。
図3】実施の形態1で、検査装置のハードウェア・ソフトウェアの構成例を示す図。
図4】実施の形態1で、検査装置におけるセンサの設置例を示す図。
図5】実施の形態1の検査装置管理システムのビジネスモデルおよびサービス・機能について示す図。
図6】実施の形態1で、検査装置管理システムのコンピュータシステムの構成例を示す図。
図7】実施の形態1で、検査装置管理システムのコンピュータシステムの処理例を示す図。
図8】実施の形態1で、稼働情報のデータ例を示す図。
図9】実施の形態1で、検査装置におけるマス計測の方式を示す図。
図10】実施の形態1で、検査装置におけるマス計測部の構成例を示す図。
図11】実施の形態1で、検査装置によって計測されるマススペクトルの例を示す図。
図12】実施の形態1で、特定試料の例を示す図。
図13】実施の形態1で、顧客環境と診断装置との間での、定期チェックを含むシーケンス例を示す図。
図14】実施の形態1で、顧客環境に応じた物質のマススペクトルの例を示す図。
図15】実施の形態1で、マススペクトルのパラメータ値、および感度異常の判定例を示す図。
図16】実施の形態1で、マススペクトルのパラメータ値の変動例を示す図。
図17】実施の形態1で、装置設置環境に応じたベースラインの変動例を示す図。
図18】実施の形態1で、機械学習について示す図。
図19】実施の形態1で、診断方式(LSC法)について示す図。
図20】実施の形態1の変形例で、学習モデルの流用について示す図。
図21】実施の形態1で、車載の検査装置の場合について示す図。
図22】実施の形態1で、第1画面例(モニタリング)を示す図。
図23】実施の形態1で、第2画面例(診断)を示す図。
図24】実施の形態1で、第3画面例(計画)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、構成要素の表現は、発明の理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、範囲等を表していない場合があるが、限定する意図は無い。説明上、記号「・」は、「および(AND)」を表す場合があり、記号「/」は、「または(OR)」を表す場合がある。
【0018】
説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、所定の機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPU/MPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC、CPLD等が適用可能である。
【0019】
プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばメモリカードやディスクでもよい。プログラムは、複数のモジュールから構成されてもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアント・サーバシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoTシステム等で構成されてもよい。各種のデータや情報は、例えばテーブルやリスト等の構造で構成されるが、これに限定されない。識別情報、識別子、ID、名前、番号等の表現は互いに置換可能である。
【0020】
[課題や解決手段]
従来、検査装置を扱う事業者による顧客へのサービスの体系は例えば以下である。顧客環境である空港や港湾などに、検査装置が設置される。顧客環境では、検査装置を用いて、薬物検査などの検査の業務が行われる。検査装置は、感度異常などが生じる場合がある。現場の作業者は、検査装置から検査実績や異常発生履歴などを収集・記録する。顧客または事業者のサービスエンジニア等の人は、作業者が手動で収集した情報に基づいて、異常原因の分析や、検査装置の保守計画などを行う。保守交換作業を要する場合、その人は、作業者に保守交換作業を依頼し、事業者の製造部門に交換部品または代替の検査装置を手配する。現場の作業者は、検査装置の構成部位を確認し、交換が必要な構成部位の部品を交換し、または、検査装置自体を代替の検査装置に交換し、正常動作するか確認する。
【0021】
しかしながら、前述のように、検査装置の状態は、複数の要因が関係していて複雑であり、人が異常原因をすぐに特定することは難しく、検査装置の停止期間が長くなる場合がある。また、作業者や交換部品などをすぐに確保できるとも限らず、人員や製造・在庫の管理・計画が煩雑化する場合がある。
【0022】
前述の高精度・高感度な計測が不可になる状態である感度異常は、一般的に、質量分析における感度の異常である。例えば、正常な状態の検査装置では、既知の基準物質を計測した際に、マススペクトルにおいて、所定のピーク等の波形が検出される(図15)。それに対し、感度が低下している検査装置の場合では、既知の基準物質を計測した際に、マススペクトルにおいて、検出されるピーク等の波形は、正常時の基準の波形に対し、ずれ等の変化が生じる(図16)。マススペクトルの信号強度の状態とは、例えば、ピークずれ幅、マス幅、分解能、マスマーカなどのパラメータ値の挙動が挙げられる。
【0023】
このようなマススペクトルの変化が、感度異常などの状態と対応関係を有している。感度異常は、試料の計測によって得られるマススペクトルの信号強度の状態が不安定になる影響によって発生すると言える。言い換えると、感度異常が発生した場合には、マススペクトルの信号強度の状態は不安定となっている。
【0024】
そこで、実施の形態の検査装置管理システムは、特定試料の正負のイオンのマススペクトルのパラメータ値(信号強度の挙動、時系列の変動など)を、検査装置の状態の診断のための機械学習に学習データとして利用する。本システムは、陽イオン(ポジティブ)および陰イオン(ネガティブ)のそれぞれのマススペクトルの幅(マス幅とも記載)を持った特定試料のマススペクトル計測データを用いる(図12)。これにより、本システムは、検査装置の感度異常などの状態を高精度に診断・分析する。
【0025】
実施の形態の検査装置管理システムは、以下のような解決手段を有する。上記のように、検査装置の感度異常などの状態は、試料のマススペクトルの信号強度の状態と対応関係を有する。このことから、実施の形態の検査装置管理システムは、以下のような機能などを提供することにより、課題を解決する。
【0026】
(1).本システムは、まず、モニタ機能により、顧客環境の検査装置での特定試料のマススペクトル計測データ、構成部位のセンサデータ、および顧客環境の管理情報を含む、複数の種類の稼働情報を、監視(モニタ)・収集・取得し、DBに蓄積する。
【0027】
(1A).本システムは、感度異常の検知・予知の精度向上のために、検査装置の設置環境に応じた、特定の試料およびベースラインから得られるマススペクトルの信号強度の状態を、稼働情報としてモニタ・収集する。本システムは、マススペクトルのマス軸や分解能などの所定のパラメータ値の時間的な変動のデータを取得する。特定の試料とは、後述するが、好適な校正に係わる物質であり、例えば、水、メトキシフェナミン、酸素、TCP(トリクロロフェノール)、TBP(トリブロモフェノール)、の5種類の物質のうちの少なくとも1つである。
【0028】
(1B).本システムは、検査装置の構成部位の状態(例えば温度や電圧などのセンサパラメータ値)を、センサによってモニタ・収集する。言い換えると、本システムは、各構成部位のセンサパラメータ値をセンサデータとして収集・蓄積する。
【0029】
本システムは、顧客環境の検査装置について、これまでの装置納入・運用実績や異常事象対応実績などの経験に基づいて、感度異常の発生要因となる可能性の高い構成部位についての、例えば温度・電圧などの状態(センサパラメータ値)を、各種センサによって検出・測定して、稼働情報の一部として収集・蓄積する。また、本システムは、その他の異常(例えばポンプ異常、流量異常、電源異常、Heボンベ異常など)の発生要因となる可能性が高い構成部位についての温度・電圧などの状態を、各種センサによって検出・測定して、稼働情報の一部として収集・蓄積する。
【0030】
(1C).本システムは、顧客環境の装置設置環境情報などを管理情報として取得・蓄積する。本システムは、一般的な管理情報(例えば顧客環境情報)や、従来人手で収集している各種情報(例えば検査実績情報、保守実績情報、異常事象情報など)も、収集・蓄積する。本システムは、検査装置が設置される顧客環境の情報(例えば空港や港湾などの設置場所情報)、設置態様の情報、検査回数などの情報、各構成部位の保守情報などの、非制御データについても、稼働情報あるいは関連情報の一部として適時に収集・蓄積する。
【0031】
(2).本システムは、上記稼働情報に基づいて、複数の種類の稼働情報の挙動から成る複雑な状態である検査装置の状態を、診断機能によって学習・診断する。これにより、本システムは、顧客環境の検査装置の感度異常やその他の異常について、異常または異常予兆として検知/予知し、当該異常の原因/要因となる構成部位などを特定する。言い換えると、本システムは、構成部位の劣化や故障を検知/予測する。
【0032】
特に、本システムは、診断で、機械学習などの学習を適用する。本システムは、機械学習の学習用データ(言い換えると教師データ)として、検査装置の設置環境に応じた稼働情報を用いる。特に、本システムは、装置設置環境に応じて、特定試料のマススペクトルの計測データを用いて、学習を行う。本システムは、機械学習によって、マススペクトルのパラメータ値の挙動と、検査装置の感度異常などの状態との対応関係を学習する。本システムは、装置設置環境に応じた稼働情報の複数のパラメータ値の挙動から成る複雑な状態を、機械学習(例えば多次元モデル)によって分析する。これにより、装置設置環境に応じた影響を考慮した、感度異常等に関する診断結果を得る。
【0033】
本システムは、実際の診断の際には、学習済みの学習モデルに、装置設置環境の検査装置から取得した稼働情報を入力することで、学習モデルによる感度異常などの装置状態の推定の結果が、診断結果の出力として得られる。
【0034】
また、本システムは、異常/異常予兆の検知・予知に基づいて、当該異常/異常予兆の原因を特定/推定する。本システムは、例えば原因/要因となる構成部位を特定/推定する。特に、本システムは、原因特定でも、機械学習(例えば多次元モデル)により、装置設置環境による影響を考慮した、異常原因に関する診断結果を得る。
【0035】
(3).さらに、本システムは、上記異常検知および原因特定を含む診断結果に基づいて、計画機能(言い換えると保全機能)によって、顧客環境の検査装置または構成部位についての、好適な保守・交換などの計画を立案する。本システムは、例えば、感度異常に関する構成部位および関連部位についての好適な部品交換および交換時期を立案する。また、本システムは、事業者側の検査装置および部品の製造管理に連携し、事前に部品の手配などを行う。
【0036】
(4).検査装置は、検査装置の設置環境(例えば空港、港湾など)に応じて試料に付着/混入し得る物質(環境物質とも記載)についての成分の計測が可能である。そこで、本システムは、特定試料の計測(例えば定期チェック)に伴う、そのような成分(環境物質)の計測結果を利用して、上記異常および原因についての学習・診断を行う。
【0037】
実施の形態の検査装置管理システムを提供・運営する事業者は、上記のような一連の機能を、検査オペレーションサービスとして顧客に提供する。
【0038】
<実施の形態1>
図1図24を用いて、実施の形態1の検査装置管理システムおよび方法について説明する。実施の形態1の検査装置管理システムは、図1等に示すように、顧客環境1の検査装置11の状態に関するモニタリング機能、診断機能、および保全機能(言い換えると計画機能)などを有するシステムである。実施の形態1の検査装置管理方法は、実施の形態1の検査装置管理システムのコンピュータによって実行される方法である。
【0039】
なお、実施の形態1の検査装置管理システムは、検査装置11やセンサ12などのハードウェア構成詳細については限定せず、コンピュータシステムおよびソフトウェアに関する特徴を有する。本システムによる管理対象となる検査装置11は、マス計測部を備える質量分析装置であればよく、詳細を限定しない。検査装置11の検査の対象となる試料7は、検査の種類に応じて異なり、詳細を限定しない。試料7などの物質は、気体/液体/固体などを限定しない。本システムは、サービス提供対象である顧客環境1とその顧客環境1に応じて設けられた検査装置11の種別やIDなども把握し、その把握に応じて後述のモニタリングや診断や保全などを行う。なお、質量分析装置と検査装置とを同じ装置とみなしてもよいし、質量分析装置を構成要素として含んで構成される装置を検査装置とみなしてもよい。
【0040】
[検査装置管理システム]
図1は、実施の形態1の検査装置管理システムの構成を示す。図1のシステムは、顧客環境1と、実施の形態1の検査装置管理システムと、ユーザ端末5とを含み、それらは通信網9(例えばLANや広域通信網)を介して適宜に接続される。実施の形態1の検査装置管理システムは、診断装置2と、製造管理装置3と、情報表示装置4とを有し、これらは通信で接続される。診断装置2と製造管理装置3と情報表示装置4は、例えばサーバなどのコンピュータで構成される。図1でのユーザU1は、検査装置管理システムを利用する人である。検査者U2は、顧客環境1で試料7の検査を行う人である。
【0041】
顧客環境1は、検査装置11、センサ12、および管理装置13を含む。検査装置11は、顧客環境1(例えば空港)で設置・使用され、検査作業の際に、試料7のマススペクトルを計測し、成分物質を分析する。検査装置11は、検査結果を記憶および出力する。検査装置11は、計測結果/検査結果のデータD1を、稼働情報D0の一部として、診断装置2へ出力・送信する。
【0042】
センサ12は、検査装置11に設置される各種のセンサ、検知器、計測器などであり、センサ値を含むセンサデータD2を、診断装置2へ出力・送信する。センサ12は、検査装置11に内蔵されているものを利用してもよいし、新たに設置されてもよい。センサ12の種別やID、設置箇所なども、情報として管理される。
【0043】
管理装置13は、顧客環境1に設けられ、検査装置11などを管理している任意の装置やシステムである。管理装置13は、顧客の管轄であり、顧客環境1に応じて、管理装置13が有っても無くてもよい。管理装置13が有る場合、管理装置13は、検査装置11の情報(例えばID、設置場所、検査日時、検査者、検査結果など)を管理・保持する。そのような情報を管理情報D3とする。診断装置2は、管理装置13からそのような管理情報D3を取得してもよい。管理装置13は、管理情報D3を、診断装置2へ出力・送信する。管理装置13が無い場合、検査装置11(例えば後述のPC)は、同様の管理情報D3を保持していてもよく、その管理情報D3を、診断装置2へ出力・送信する。
【0044】
診断装置2は、対象の顧客環境1側から、通信で、上記データD1、センサデータD2、および管理情報D3、を含むデータ・情報を、稼働情報D0として、受信・取得・収集し、DB(データベース)21Aに蓄積する。なお、上記稼働情報D0の収集は、通信によって基本的に自動で行われるものとするが、これに限らず、一部の情報(例えば管理情報D3)を人が手動で授受・入力・設定するものとしてもよい。この収集は、診断装置2側から検査装置11に要求を送信し、応答として取得するものとしてもよい。
【0045】
また、顧客環境1で、検査装置11の保守・交換などの作業が生じた場合、その際の保守情報(保守情報D8とする)を、顧客環境1から診断装置2に出力・送信してもよい。例えば、作業者が保守作業を行い、その際の保守情報D8を任意のコンピュータ(例えば管理装置13、検査装置11のPC、または保守用端末)に入力し、そのコンピュータが診断装置2に保守情報D8を送信してもよい。本実施例では、保守情報D8も稼働情報D0の一部とするが、これに限定されない。なお、この保守情報D8は、後述の定期チェックの情報(特定試料のマス計測データ)とは別とするが、これらを同じ情報として扱ってもよい。保守情報D8は、主に、事業者側での異常分析などに活用できる。
【0046】
診断装置2は、データ収集・蓄積部21と、異常予兆検知部22と、学習部23とを有する。各部はプロセッサによる処理などで実現される。データ収集・蓄積部21は、言い換えるとモニタ部であり、顧客環境1側から稼働情報D0{データD1,センサデータD2,管理情報D3,保守情報D8}を収集し、DB21Aに格納し、データとして管理する。
【0047】
異常予兆検知部22は、言い換えると診断部や分析部であり、DB21Aに蓄積された稼働情報D0(データD4とする)に基づいて、検査装置11の異常/異常予兆などの状態を診断し、診断結果情報(データD6とする)を生成し、DB21Aに格納する。なお、診断結果情報を格納するDBを別に設けてもよい。
【0048】
学習部23は、DB21Aに蓄積された稼働情報D0(データD4)および診断結果情報(データD6)に基づいて、後述の機械学習の学習モデル23Aを構築および訓練する。異常予兆検知部22は、訓練済みの学習モデル23A(データD5とする)を用いて診断を行う。学習部23は、診断装置2内にあるものとしているが、これに限らず、診断装置2外にあるものとしてもよい。本検査装置管理システムとは別に、機械学習のサービスを行う事業者やコンピュータシステムが存在してもよく、それらと連携してもよい。
【0049】
製造管理装置3は、言い換えると生産計画スケジューラ装置であり、交換判断部31を有する。交換判断部31は、言い換えると計画部、保全部であり、稼働情報D0(データD4)および診断部22の診断結果情報(データD6)に基づいて、検査装置11の保守・交換に関する計画(後述の交換提案など)を立案して、計画情報(データD7とする)を生成し、メモリ資源に記憶する。なお、計画情報などを格納するDBを別に設けてもよい。
【0050】
なお、本実施例では診断装置2と製造管理装置3とが別のサーバ等のコンピュータシステムで構成されるが、これに限らずに、診断装置2と製造管理装置3とが一体のコンピュータシステムで構成されてもよい。変形例としては、顧客環境1の検査装置11に、診断装置2や製造管理装置3などの機能を一体的に実装した形態としてもよい。
【0051】
情報表示装置4は、診断装置2および製造管理装置3と連携して、所定のユーザU1に対し、各種の情報、GUI画面50を提供する装置である。ユーザU1は、所定のサービスを受けるユーザであり、事業者側のユーザまたは顧客環境1側のユーザである。ユーザU1は、PCやスマートフォンなどのユーザ端末5を使用する。情報表示装置4は、GUI画面提供部41、アラート出力部42を有する。情報表示装置4は、診断装置2からの稼働情報D0(データD4)や診断結果情報(データD6)、製造管理装置3からの計画情報(データD7)を受信・参照する。GUI画面提供部41は、それらの情報に基づいて、GUI画面データを生成し、ユーザ端末5に送信する。ユーザ端末5は、情報表示装置4から受信したGUI画面データに基づいて、自身のディスプレイにGUI画面50を表示する。ユーザU1は、GUI画面50を見て、稼働情報、診断結果情報、計画情報などを確認できる。
【0052】
また、アラート出力部42は、診断結果情報が所定の異常などを表している場合に、所定のアラートを、所定の出力先43へ出力する。所定の出力先43は、ユーザU1のユーザ端末5でもよいし、顧客環境1側の管理装置13や所定の設備、所定の担当者などでもよい。所定のアラートは、画面表示、音声出力、メール通知、ランプ発光、振動など、各種の態様が可能である。
【0053】
なお、図1では1つの顧客環境1を図示しているが、事業者に対し、サービス提供対象となる複数の顧客環境1が存在してもよい。実施の形態1の検査装置管理システムは、事業者側のシステムであり、顧客環境1側の管理装置13等から管理情報D3を参照・収集する。管理情報D3は、検査装置11などに関する管理・制御用の情報である。本システムは、管理情報D3を、モニタリングや診断や保全などの一部に使用する。
【0054】
なお、図1のシステムでは、診断装置2および製造管理装置3による主要な処理機能に対し、情報表示装置4による情報出力機能やユーザ・インタフェース機能を分ける形態を示したが、これに限定されず、診断装置2等に情報出力機能等が統合されていてもよい。また、図1では、GUI機能を担う情報表示装置4であるサーバに対し、ユーザ端末5がクライアント端末装置として接続される、クライアント・サーバ方式の形態を示したが、これに限定されず、診断装置2等や情報表示装置4に、ユーザ端末5の機能が統合されていてもよい。ユーザU1が情報表示装置4を操作し、情報表示装置4のディスプレイにGUI画面50を表示してもよい。ユーザU1が診断装置2等を操作し、診断装置2等のディスプレイにGUI画面50を表示してもよい。
【0055】
なお、クライアント・サーバ方式での通信の例は以下である。ユーザU1は、ユーザ端末5を操作し、ユーザ端末5は要求をサーバである情報表示装置4に送信する。情報表示装置4は、要求に対し、Webページ等によるGUI画面データを応答する。ユーザ端末5は、応答を受信し、自身のディスプレイにWebページ等によるGUI画面50を表示する。ユーザU1は、GUI画面50の情報を見て、指示や設定を入力できる。ユーザ端末5は、指示や設定の情報を情報表示装置4に送信する。情報表示装置4は、受信した情報に基づいて、診断装置2などの対応する機能による処理を行い、処理結果情報をユーザ端末5に送信する。ユーザ端末5は、受信した処理結果情報に基づいてGUI画面50の表示を更新する。
【0056】
[検査装置の外観]
図2は、検査装置11の外観の構成例を示す。検査装置11は、本体201、カバー202、PC203等を備える。図2の(A)は、通常使用時の、カバー202が閉じられた状態であり、カバー202を台としてカバー202上にPC(コンピュータ)203が設置されている状態である。図2の(B)は、保守作業等の際に、カバー202が開けられた状態であり、本体201の内部に設置されている構成部位204(後述)が見える状態である。PC203は、検査装置11の操作および入出力のためのコントローラとなるコンピュータであり、データ処理機能を有し、検査装置11を検査者U2(図1)等が操作する際のグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を提供する。
【0057】
実施の形態1では、PC203は、検査装置11の稼働情報D0(図1)をまとめ、通信で診断装置2へ送信する。PC203は、マス計測データや質量分析結果などのデータD1を取得し、診断装置2へ送信する。また、PC203は、センサ12のセンサデータD2を取得し、診断装置2へ送信する。また、PC203は、管理情報D3を取得し、診断装置2へ送信してもよい。また、PC203は、保守情報D8を取得し、診断装置2へ送信してもよい。データD1、センサデータD2、管理情報D3、および保守情報D8は、それぞれ別のタイミングで送信されてもよいし、関連付けた態様のデータとして同じタイミングで送信されてもよい。また、PC203は、データD1やセンサデータD2をそのまま診断装置2へ送信してもよいが、データD1やセンサデータD2から演算処理を行って所定のパラメータ値を生成し、そのデータを診断装置2へ送信してもよい。すなわち、PC203は、診断装置2の機能の一部を担ってもよい。
【0058】
検査装置11のPC203は、診断装置2や製造管理装置3から、通信で、検査装置管理に関する指示や設定の情報を受信してもよく、その情報に応じた動作を行うようにしてもよい。これにより、例えば、検査装置11の状態(診断結果など)に応じて、例えば感度異常などの理由で検査装置11を遠隔で一時停止させる等の機能を実現可能である。また、例えば、検査装置11の状態(診断結果など)に応じて、後述のマス軸調整テーブル(言い換えると校正用情報)などの設定情報が遠隔で自動更新される等の機能を実現可能である。
【0059】
PC203は、作業者による検査装置11の保守作業時にも使用され、保守情報D8(例えば保守日時、保守内容などの情報)を入力・記憶することもできる。これに限らずに、管理装置13に保守情報D8を入力・記憶してもよいし、作業者が保守用端末を携帯し、保守作業時に保守用端末を検査装置11に接続して保守作業を行い、保守情報D8を入力してもよい。PC203または管理装置13または保守用端末は、そのような保守情報D8を、稼働情報D0の一部として、診断装置2へ出力・送信してもよい。あるいは、作業者等が、情報表示装置4やユーザ端末5を使用して、GUI画面50で保守情報D8を入力できるようにしてもよい。この場合、GUI画面50で入力された保守情報D8が、本システムのDB21Aに蓄積される。
【0060】
PC203は、一般的なノートPCなどを適用できるが、これに限定されない。PC203は、プロセッサ、メモリ、通信インタフェース、入力デバイス(例えばキーボードやマウス)、出力デバイス(例えばディスプレイ)などを備え、本体201から得られる検出信号などを処理してマス計測データや検査結果データを得る。PC203は、マス計測データなどのデータD1やセンサデータD2を、メモリに保持し、適時に診断装置2へ送信する。
【0061】
検査者U2などのユーザは、PC203を操作することで、検査装置11の稼働のオン/オフの切り替え、検査実行、設定、保守などが可能である。
【0062】
[検査装置の構成例]
図3は、検査装置11のハードウェアおよびソフトウェアの構成例を示す。図3ではカバー202を省略している。図3では、検査者U2および対象者U3も図示している。対象者U3は、人体から採取した試料7を検査(例えば薬物検査)する場合の検査対象の人である。
【0063】
検査装置11は、本体201において、真空室310、ワイパローダ320、ワイパローダ(WL)制御ユニット330、マスフローコントローラ(MFC)340、電源部350、排気ポンプ(DP)360、Heガスボンベ370などを備える。真空室310には、マス計測部(言い換えると質量分析部)301、イオン源302、ターボ分子ポンプ303、He制御部304、制御基板305などを備える。
【0064】
図3の検査装置11は、イオントラップ型で正負極性自動切り替え機能付きのマス計測部301を備えた質量分析装置である。例えば、薬物検査の場合、検査者U2は、対象者U3の首元の皮脂を、専用のガーゼ(ワイプ)によって拭き取り、試料7として、ワイパホルダ380に保持する。
【0065】
ワイパローダ320は、拭き取り型の試料7を導入する試料導入部であり、装置正面に開口した投入口や、ファンを有しており、試料7が保持されたワイパホルダ380を導入(ロード)する。ロードされたワイパホルダ380からは、試料7に対応するサンプルガスが、真空室310内に導入される。
【0066】
ワイパローダ(WL)制御ユニット330は、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)などを備え、ワイパローダ320の動作を制御するユニットである。
【0067】
マスフローコントローラ(MFC)340は、サンプルガス、バッファーガス(例えばHeガス)などのガスの流れを制御するユニットである。MFC340は、制御基板305と接続されており、制御基板305からの制御に基づいて、エアポンプ、流量、圧力などを制御する。MFC340は、装置正面に開口するフィルタなどを有し、余分なサンプルガスを外部へ排気する。
【0068】
ターボ分子ポンプ303は、マス計測部301と接続されており、真空排気を行う。排気ポンプ(DP)360は、ターボ分子ポンプ303と接続されており、制御基板305からの制御に基づいて、外部へ真空排気を行う。
【0069】
Heガスボンベ370は、配管を通じて、Heガスを、He制御部304に供給する。なお、Heガスボンベ370は、検査装置11の構成要素として図示しているが、検査装置11の外部にある設置物と捉えても構わない。He制御部304は、Heガスボンベ370から供給されたHeガスを、マス計測部301に供給する。
【0070】
電源部350は、外部からのAC電源入力に基づいて、DC電力を生成し、各部へ必要な電力を供給する。
【0071】
真空室310において、制御基板305は、真空室310の構成要素などを制御する。制御基板305は、検査装置11の計測の主要な制御を行うコントローラに相当する。制御基板305は、PC203からの指示を受け付ける。PC203は、WL制御ユニット330や真空室310の制御基板305などに指示を与えることができる。
【0072】
マス計測部(質量分析部)301は、詳細を後述するが、イオン源302を通じて供給されるイオン化されたサンプルガスについて、マススペクトルを計測する。マス計測部301で計測されたマススペクトルの信号は、PC203に送られてデータ処理される。
【0073】
[センサ例]
図4には、図3の検査装置11に設置するセンサ12の具体例を示す。図4では、構成部位に対し、温度センサ、電圧・電流計、圧力計、流量計、マイク/振動センサ等のセンサを設ける一例を模式で示している。
【0074】
感度異常の発生要因となる構成部位としては、マス計測部301などが考えられる。他の異常として、ポンプ異常、流量異常、電源異常、Heボンベ異常などの発生要因となる構成部位としては、排気ポンプ(DP)360、配管、MFC340、電源部350、Heガスボンベ370などが考えられる。そこで、実施の形態1では、各構成部位に設置したセンサ12によって、各構成部位に関するセンサパラメータ値として、温度、電圧、電流、圧力、流量などを、時系列データであるセンサデータD2としてモニタする。
【0075】
本体201の外側に露出する位置には、温度センサTS1が設置されている。温度センサTS1は、室温、外気温などを検出する。マス計測部301には、温度センサTS2が設置されている。温度センサTS2は、マス計測部301の温度を検出する。温度センサTS2は、イオン源302に設置されてもよい。制御基板305には、温度センサTS3が設置されている。温度センサTS3は、制御基板305の温度を検出する。ワイパローダ320には、温度センサTS4が設置されている。温度センサTS4は、ワイパローダ320の温度を検出する。その他、配管などに温度センサが設置されてもよい。
【0076】
制御基板305には、電圧・電流計ES1が設置されている。電圧・電流計ES1は、制御基板305の各端子の電圧や電流を検出する。電圧・電流計ES1は、マス計測部301に備える電極の電圧や電流を検出するものとしてもよい。
【0077】
マス計測部301には、圧力計PS1が設置されている。圧力計PS1は、マス計測部301の圧力を検出する。Heガスベンベ370には、圧力計PS2が設置されている。圧力計PS2は、Heガスベンベ370の圧力を検出する。排気ポンプ(DP)360には、圧力計PS3が設置されている。圧力計PS3は、排気ポンプ(DP)360の圧力を検出する。MFC340には、圧力計PS4が設置されている。圧力計PS4は、MFC340での圧力を検出する。
【0078】
Heガスベンベ370からの配管には、流量計FS1が設置されている。流量計FS1は、Heガスの流量を検出する。ワイパローダ320、イオン源302、およびMFC340間の配管には、流量計FS2が設置されている。流量計FS2は、サンプルガスの流量(出力流量)を検出する。
【0079】
マス計測部301には、マイク/振動センサMS1が設置されている。マイク/振動センサMS1は、マス計測部301の発生音あるいは振動を検出する。マイク/振動センサMS1は、超音波センサなどでもよい。その他、顧客環境によっては、環境物質の量としてオイル量を検出するためのセンサなどが個別に設けられてもよい。例えば、排気ポンプ(DP)360に、オイル量/漏れ量/汚れ量を検出するためのセンサ(例えば漏洩センサ、オイルクオリティセンサ)などが設置される。他のセンサ類としては、稼働時間などを測定するためのタイマや、真空度を測定する真空計などが設置されてもよい。電源部350には、発電量やエンジン回転数などを測定するセンサ類が設置されてもよい。
【0080】
検査装置11の構成部位の汚れや劣化、位置ずれ等の影響によって、マス計測の感度・精度が低下する場合がある。しかしながら、前述のように、微細な汚れや劣化の検出は人には難しい。そこで、本システムは、センサデータD2を含む稼働情報D0のモニタリングに基づいて、診断装置2が検査装置11の状態を診断する。これにより、作業者による目視確認に頼らずに、検査装置11の状態を診断でき、好適な保守が可能となる。
【0081】
[ビジネスモデル]
図5は、図1の実施の形態1の検査装置管理システムにおける、ビジネスモデルとしての構成を示す。実施の形態1の検査装置管理システムは、以下に説明する3つのビジネスモデルをすべて実装した例である。
【0082】
(第1ビジネスモデル)
実施の形態1の検査装置管理システムは、第1ビジネスモデルとして、顧客環境1に対し、検査装置11に関するモニタリングサービスSV1(言い換えると稼働情報提供サービス)を提供する。事業者側の診断装置2は、顧客環境1側に対し、検査装置11の状態に関する稼働情報D0を可視化するGUI画面50を提供する。モニタリングサービスSV1では、検査装置11から稼働情報D0をモニタしてGUI画面50に表示する。事業者側の診断装置2は、前述のように、顧客環境1の検査装置11などから稼働情報D0を収集し、DB21Aに蓄積する。この稼働情報D0であるモニタリングデータの中には、前述のセンサデータD2や管理情報D3を含む。診断装置2は、稼働情報D0のパラメータ値を可視化するGUI画面50を、所定のユーザU1に提供する。ユーザU1は、GUI画面50で、稼働情報D0の内容をグラフ等の形式でわかりやすく確認できる(後述)。
【0083】
なお、図5では、所定のユーザU1として、事業者側のユーザU1aと、顧客環境1側のユーザU1b(例えば保全課の作業者などの人)とがいる場合を示し、一方でも両方でもよい。事業者側のユーザU1aは、例えばユーザ端末5に表示されたGUI画面50で情報を確認し、顧客環境1側のユーザU1bに情報を通知してもよい。顧客環境1側のユーザU1bは、例えばユーザ端末5に表示されたGUI画面50で情報を確認し、確認の結果、管理装置13等に連携して情報管理や制御指示などを行ってもよい。また、顧客環境1側のユーザU1bは、確認の結果、検査装置11に対し、保守・交換などの作業を行ってもよい。
【0084】
従来では、顧客環境1における検査装置11の状態や挙動、特に感度異常などが把握しにくかった。従来のビジネスモデルは、検査装置11という物の販売である。顧客は、検査装置11を設置・管理し、顧客自身で検査装置11の保守交換計画、在庫計画等を立てる。顧客は、検査装置11を交換する場合、事業者から検査装置11を購入して交換する。
【0085】
一方、第1ビジネスモデルでは、診断装置2によって、顧客環境1の検査装置11の状態を、稼働情報D0としてモニタリングし、実績情報としてDB21Aに蓄積する。顧客側のユーザU1bは、GUI画面50で確認した稼働情報D0に基づいて、検査装置11の保守交換計画、在庫計画などを、従来よりも好適に立案・実行できる。
【0086】
事業者は、顧客に対し、第1ビジネスモデルのモニタリングサービスSV1を販売・提供する。例えば、事業者は、当該サービスを、データセンタ上の定額サービスなどの形態で提供し、顧客からサービス利用料の定期支払いを受け取ってもよい。事業者は、顧客から、検査装置11または構成部品の交換の依頼を受けた場合には、交換先の物を提案・販売する。
【0087】
(第2ビジネスモデル)
実施の形態1の検査装置管理システムは、第2ビジネスモデルとして、顧客環境1側に対し、検査装置11の異常/異常予兆の状態に関する診断サービスSV2を提供する。第2ビジネスモデルは、第1ビジネスモデルに機能等が追加されたものである。事業者側の診断装置2は、前述のように、DB21Aの稼働情報D0に基づいて、装置設置環境の影響を考慮して検査装置11の状態を診断し、異常/異常予兆を検知・予知する。診断装置2は、診断結果情報を可視化するGUI画面50を、所定のユーザU1(事業者側のユーザU1aや顧客側のユーザU1b)に提供する。
【0088】
ユーザU1は、GUI画面50で、診断結果情報として異常/異常予兆などの状態を見て確認できる。また、ユーザU1は、その状態に対応したアラートを受けとることができる。顧客側のユーザU1bは、診断結果情報やアラートに基づいて、異常/異常予兆が検知されている場合、検査装置11の保守・交換などの対処を検討できる。また、診断結果情報に基づいて、診断装置2から、通信で、管理装置13または検査装置11等に連携してもよい。例えば、診断装置2は、検知した異常の度合いが大きい場合には、即時にその旨を管理装置13やユーザU1bに通知し、管理装置13やユーザU1bから検査装置11の制御(例えば稼働停止)を即時に行ってもよい。あるいは、診断装置2は、直接的に検査装置11の制御(例えば稼働停止)を即時に行ってもよい。
【0089】
事業者は、例えば診断装置2をデータセンタ上にクラウドコンピューティングサービスとして構築してもよい。事業者は、その診断装置2による診断サービスSV2を、顧客に対し提供する。事業者は、診断サービスSV2に相当する診断ツールや診断アプリケーションを、顧客に対し提供してもよい。顧客は、顧客環境1のコンピュータシステム内で、その診断ツール等をインストールして利用してもよい。
【0090】
診断装置2は、顧客環境1から稼働情報D0を取得し、機械学習および診断を行い、診断結果情報を可視化するGUI画面50をユーザU1に提供する。顧客側のユーザU1bは、GUI画面50で、稼働情報D0の閲覧とともに、診断サービスSV2(診断ツール等)を利用でき、診断結果情報を閲覧できる。顧客は、稼働情報D0および診断結果情報に基づいて、検査装置11の保守・交換計画、在庫計画などを、従来よりも好適に立案・実行できる。
【0091】
事業者は、顧客に対し、第2ビジネスモデルの診断サービスSV2を販売・提供する。例えば、事業者は、データセンタ上の診断サービスSV2の利用料を顧客から受け取ってもよい。利用量は、定期定額、または従量課金でもよい。事業者は、顧客から、検査装置11や構成部品の交換の依頼を受けた場合には、交換先の物を提案・販売する。
【0092】
(第3ビジネスモデル)
実施の形態1の検査装置管理システムは、第3ビジネスモデルとして、顧客環境1側に対し、検査装置11の保守・交換に関する保全サービスSV3(言い換えると交換提案サービス等)を提供する。第3ビジネスモデルは、第1および第2ビジネスモデルに機能等が追加されたものである。事業者側の製造管理装置3は、DB21Aの稼働情報D0および診断結果情報に基づいて、検査装置11の状態を考慮した、保守・交換計画、生産・在庫計画を立案する。製造管理装置3は、立案した計画情報を可視化するGUI画面50を、所定のユーザU1(事業者側のユーザU1aや顧客側のユーザU1b)に提供する。ユーザU1は、GUI画面50で、計画情報として交換時期や交換部位などを見て確認できる。顧客側のユーザU1bは、計画情報に基づいて、検査装置11の保守・交換などの検討や決定、スケジュールに従った交換作業ができる。
【0093】
事業者は、顧客に対し、第3ビジネスモデルの保全サービスSV3を販売・提供する。事業者は、例えば製造管理装置3をデータセンタ上にクラウドコンピューティングサービスとして構築してもよい。事業者は、製造管理装置3による保全サービスSV3に相当する保全ツールや保全アプリケーションを、顧客に対し提供してもよい。顧客は、顧客環境1のコンピュータシステム内で、その保全ツール等をインストールして利用してもよい。事業者は、保全サービスSV3の利用料を顧客から受け取ってもよい。利用料は、定期定額、または従量課金でもよい。事業者は、顧客から、検査装置11や構成部位の交換の依頼を受けた場合には、交換先の検査装置や部品を販売する。
【0094】
事業者側のユーザU1aは、計画情報に基づいて、検査装置11の製造計画を立ててもよいし、新製品の仕様を検討してもよい。事業者は、保全サービスSV3で交換計画を立案した場合、顧客から交換の依頼を受ける前であっても、その交換計画に対応した検査装置11の製造計画を立てて、事業者の製造部門に手配してもよい。これにより、製造計画の効率化ができる。
【0095】
実施の形態1の検査装置管理システムは、上記第1~第3ビジネスモデルを実装した形態であるが、勿論、これに限定されず、第1ビジネスモデルのみを実装した形態や、第2ビジネスモデルのみを実装した形態も可能である。顧客は、第1~第3ビジネスモデルのうちから顧客環境1に応じて選択したビジネスモデルでのサービスを受けることができる。
【0096】
[コンピュータシステム]
図6は、実施の形態1の検査装置管理システムを構成するコンピュータシステムの構成例を示す。例えば図1の診断装置2、製造管理装置3、および情報表示装置4は、それぞれ図6のようなコンピュータシステムで構成されてもよい。また、それらの装置が1つのコンピュータシステムとして統合されて構成されてもよい。
【0097】
図6のコンピュータシステムは、コンピュータ1000と、コンピュータ1000に外部接続される入力装置1005および出力装置1006と、コンピュータ1000に対し通信網1020(図1での通信網9に相当する)を介して接続されるクライアント端末装置1030(図1でのユーザ端末5に相当する)とを有する。事業者の管理者は、コンピュータシステムを管理する。所定のユーザU1は、入力装置1005および出力装置1006、または、クライアント端末装置1030を操作することで、コンピュータシステムの機能を利用する。
【0098】
コンピュータ1000は、プロセッサ1001、メモリ1002、通信インタフェース装置1003、入出力インタフェース装置1004等を備え、それらはバス等のアーキテクチャを介して相互に接続されている。プロセッサ1001は、例えばCPU、ROM、RAM等で構成される。メモリ1002は、不揮発性記憶装置や補助記憶装置等で構成される。通信インタフェース装置1003は、通信網1020等に対応した通信インタフェースを備える。入出力インタフェース装置1004には入力装置1005および出力装置1006が接続されている。
【0099】
メモリ1002には、例えば、制御プログラム1011、設定情報1012、DB1013、画面データ1014などが格納される。制御プログラム1011は、診断装置2などの機能を実現するプログラムである。プロセッサ1001は、メモリ1002から読み出した制御プログラム1011に従った処理を実行することで、所定の機能を実行モジュールとして実現する。設定情報1012は、制御プログラム1011に関するシステム設定情報やユーザ設定情報である。DB1013は、例えば図1でのDB21A等のデータベースである。画面データ1014は、例えば図1での情報表示装置4によるGUI画面50を構成するWebページ等のデータである。
【0100】
[基本処理フロー]
図7は、実施の形態1の検査装置管理システムの基本処理フローを示す。図6のコンピュータシステム(図1の診断装置2や製造管理装置3や情報表示装置4)は、図7のフローに従った処理を実行する。本フローは、ステップS1~S7を有する。
【0101】
ステップS1で、診断装置2のデータ収集・蓄積部21は、顧客環境1の検査装置11等から、所定のタイミングで、稼働情報D0{データD1,センサデータD2,管理情報D3,保守情報D8}を収集し、DB21Aに蓄積する。所定のタイミングは、常時でも定期でもよいし、収集する対象のパラメータごとに決められたタイミングでもよい。収集する管理情報D3は、顧客環境1のID、検査装置11のIDや種別、検査の種別、対象の試料7や物質などの情報を含んでもよい。
【0102】
ステップS2で、診断装置2は、DB21Aに蓄積した稼働情報D0のデータD4に基づいて、情報表示装置4と連携して、モニタリングサービスSV1における、稼働情報D0を可視化するGUI画面50を、ユーザU1に対し表示させる。ユーザU1は、ユーザ端末5から情報表示装置4にアクセスすることで、所望の時にそのGUI画面50を閲覧できる。
【0103】
ステップS3で、診断装置2の学習部23は、DB21Aに蓄積されている稼働情報D0のデータD4を学習データとして用いて、稼働情報D0と検査装置11の異常等の状態との関係を機械学習する。すなわち、学習部23は、学習データを用いて、学習モデル23Aを訓練する。具体的には、学習部23は、例えば、特定試料のマス計測のデータD1やセンサデータD2の時系列の変動の状態と、検査装置11の異常等の状態との関係を学習し、学習モデル23Aのパラメータを調整する。学習部23は、学習モデル23Aが十分な精度に達したかを確認し、達した場合には、実際の診断への利用を可能とする。
【0104】
ステップS4で、診断装置2の診断部22は、実際の診断を行う場合に、顧客環境1の検査装置11等から取得した稼働情報D0{データD1,センサデータD2,管理情報D3,保守情報D8}を、訓練済みの学習モデル23A(データD5)に入力して、学習モデル23Aによる推定の結果として、検査装置11の異常/異常予兆の状態を診断・検知する。診断部22は、診断結果情報のデータD6を生成し、DB21Aに格納する。
【0105】
ステップS5で、診断装置2は、診断結果情報のデータD6に基づいて、情報表示装置4と連携して、診断サービスSV2における、診断結果情報を可視化するGUI画面50を、ユーザU1に対し表示させる。ユーザU1は、ユーザ端末5から情報表示装置4にアクセスすることで、所望の時にそのGUI画面50を閲覧できる。診断装置2は、診断結果として異常/異常予兆の検知結果などを即時に通知すべき場合には、管理装置13や所定のアラート出力先43へ通知する。
【0106】
ステップS6で、診断装置2に連携する製造管理装置3は、計画部31によって、診断結果情報のデータD6に基づいて、検査装置11の保守・交換計画などを立案して、計画情報のデータD7を生成し、自身のメモリ資源(またはDB21A)に格納する。立案は、検査装置11や構成部品の交換時期や、交換先の検査装置や部品の仕様などを含む。
【0107】
ステップS7で、製造管理装置3は、計画情報のデータD7に基づいて、情報表示装置4と連携して、保全サービスSV3における、計画情報を可視化するGUI画面50を、ユーザU1に対し表示させる。ユーザU1は、ユーザ端末5から情報表示装置4にアクセスすることで、所望の時にそのGUI画面50を閲覧できる。以上のようなフローが同様に繰り返される。
【0108】
[稼働情報D0]
図8は、稼働情報D0の構成例を示す。稼働情報D0は、検査装置11の稼働時に常時または定期にモニタリングされる情報である。図8での稼働情報D0は、データD1、センサデータD2、管理情報D3、および保守情報D8を有する。
【0109】
データD1は、言い換えるとマス計測データ、検査結果データ等である。データD1は、計測日時(例えば定期チェック日時)、特定試料情報、マススペクトル計測データ、ベースライン情報、ピークずれ量、マス幅、中間マス幅、積算値、分解能、マスマーカ値などのデータ・情報を有する。詳細は後述する。
【0110】
センサデータD2は、検出日時、センサと構成部位(設置箇所)との対応関係を表す情報、センサパラメータ(例えば温度、電圧など)、センサ値などのデータ・情報を有する。
【0111】
管理情報D3は、顧客環境ID、装置設置環境情報(設置場所情報)、検査種別、検査装置ID、機種、検査回数、連続稼働時間、設置態様(据置/車載)、移動距離・振動情報、などのデータ・情報を有する。
【0112】
装置設置環境情報(言い換えると設置場所情報)は、例えば、空港、港湾、工場、研究所といった情報である。例えば、空港の場合には、航空機などによる騒音がある。例えば、港湾の場合には、試料7に海水の塩分が混入する場合がある。例えば、工場の場合には、製造機械によるオイル成分が試料7に混入する場合がある。このような顧客環境1の違いがマス計測に影響する。
【0113】
検査回数は、検査装置11の使用開始から現在までの期間において検査(マス計測を含む通常の検査)が実行された総回数の情報である。連続稼働時間は、検査装置11を稼働状態で連続的に使用された時の時間(例えば最大時間)である。検査回数のほかにも、保守回数(保守作業が実行された総回数)などを扱ってもよい。
【0114】
設置態様は、検査装置11の設置における、据置(固定)、車載(可搬型)などの態様を表す情報である。例えば、検査環境が港湾である場合において、複数の場所の各場所に、各検査装置11を設置するのではなく、車載の検査装置11として、各場所に移動可能な構成とする場合がある。車載の場合、検査装置11が適宜に移動される。その移動の際には、振動が発生する。移動距離・振動情報は、検査装置11が移動した総距離の情報や、振動状態を表す情報である。
【0115】
保守情報D8は、例えば、装置状態、保守日時、構成部位、保守内容、などのデータ・情報を有する。保守情報D8は、保守・交換作業が行われた検査装置11および構成部位についての実績情報である。装置状態は、正常、異常/異常予兆、故障、停止などの状態を表す情報である。保守内容は、クリーニング、点検、交換などがある。保守情報D8は、クリーニング回数や部品交換回数などを含んでもよい。保守情報D8は、作業者によるコメント等を含んでもよい。
【0116】
診断装置2は、データ収集・蓄積部21(モニタリング機能)による稼働情報D0のモニタリングの際に、データD1、センサデータD2、管理情報D3等の各種のパラメータ値を、それぞれ、設定された周期や日時などのタイミングで取得してもよい。例えば、特定試料のマス計測データであるデータD1については、顧客環境1での運用に合わせて、例えば1日1回、朝の定時などのタイミングとしてもよい。本システムの診断装置2が、顧客環境1の検査装置11での特定試料のマス計測(定期チェック)に関するスケジュールを管理してもよい。スケジュールに従って、診断装置2が、顧客環境1の検査装置11に、特定試料を用いたマス計測の実施の要求を送信し、その要求を受けて確認した作業者が、検査装置11で特定試料を用いたマス計測を実施し、検査装置11がその結果のデータD1を送信し、診断装置2が受信・取得するようにしてもよい。
【0117】
また、診断装置2は、顧客環境1での定期的な保守点検作業、あるいは突発的な保守作業が発生した時に、保守情報D8を収集するようにしてもよい。
【0118】
[マス計測部(1):方式]
図9は、図3の検査装置11のマス計測部(質量分析部)301やイオン源302などの構成例を示す。実施の形態1でのマス計測・検知方式の概要は以下の通りである。
【0119】
ステップ1: 検査者U2は、ワイパホルダ380によって試料7をサンプリングし、ワイパホルダ380をワイパローダ320にロードする。
【0120】
ステップ2: ワイパローダ320は、WL制御ユニット330による制御に基づいて、試料7に対応するサンプルガスを真空室310のイオン源302に供給する。詳しくは、ワイパローダ320は、試料導入器により試料7からサンプルガス(例えば薬物分子)を生成する。サンプルガスは、MFC340による制御に基づいて、配管を通じて、真空室310のイオン源302に供給される。
【0121】
ステップ3: イオン源302において、サンプルガスは、イオン化される。イオン化されたサンプルガスは、マス計測部301に供給される。余分なサンプルガスは、MFC340を通じて外部へ排気される。
【0122】
ステップ4: マス計測部301において、導入されたイオン化されたサンプルガスは、質量分離と構造解析が行われる。詳細については後述する。
【0123】
ステップ5: マス計測部301での計測によってマススペクトル計測信号が得られる。計測信号(検出信号)は、PC203に送られ、データ処理される。PC203では、マススペクトル計測データと、内部データベース情報とに基づいて、試料7に対応する物質(例えば薬物)の同定が行われ、検査結果が生成される。
【0124】
[マス計測部(2):構成例]
図10は、図9のマス計測部(質量分析部)301の構成例を示す。マス計測部301の室内には、エンドキャップ電極501,503(言い換えるとレンズ電極)と、リング電極502とを有する。室内に導入されたイオン化されたサンプルガス511(言い換えるとイオン)は、エンドキャップ電極501、リング電極502、エンドキャップ電極503、を順に経由して検出される。エンドキャップ電極501,503には高周波電圧504が印加される。リング電極502には高周波電圧505が印加される。本構成例ではリング電極502を有するイオントラップ型を示しているが、電極が線形であるリニアイオントラップ型でもよい。
【0125】
本実施例の方式では、エンドキャップ電極501,503およびリング電極502によって構成されるトラップに、イオン512が保持される。リング電極502の高周波電圧を上昇させると、m/zが小さいイオン512から放出されて検出される。すなわち、検出器510を通じてマス計測部301から検出信号が出力される。このようにして、成分(イオン)のm/zに応じた分離によって、マススペクトルが得られる。
【0126】
[マス計測部(3):マス軸調整]
同じ図10では、マス軸調整に関する構成例も示している。制御基板305は、電圧極性切り替え機能520、陽イオン用マス軸調整テーブル521、陰イオン用マス軸調整テーブル522、を備える。制御基板305のプロセッサは、処理によって機能を実現する。制御基板305のメモリにはテーブル等のデータが保持されている。
【0127】
制御基板305の電圧極性切り替え機能520は、陽イオンの計測時には、レンズ電極501,503の極性が、陽イオン向けの電圧になるように、高周波電圧504を制御し、陰イオンの計測時には、レンズ電極501,503の極性が、陰イオン向けの電圧になるように、高周波電圧504を制御する。
【0128】
陽イオン用マス軸調整テーブル521は、陽イオンの計測に対応したマス軸(例えば後述の図15でのマス軸1502)を調整するためのデータが設定されたテーブルである。陰イオン用マス軸調整テーブル522は、陰イオンの計測に対応したマス軸を調整するためのデータが設定されたテーブルである。
【0129】
実施の形態1では、上記電圧極性切り替え機能520および正負のマス軸調整テーブルに対応した診断が可能となっている。試料7および環境物質の陰陽のイオンに応じて、影響が異なる。例えば、レンズ電極501,503やリング電極502の位置ずれや劣化などの状態を診断可能となる。また、診断結果に応じて、保守の一種(言い換えると校正)としてのマス軸調整(正負のマス軸調整テーブルの補正など)に関する提案も可能となる。
【0130】
[マス計測部(4):マススペクトル]
図11は、図10のマス計測部(質量分析部)301で検出・計測されたマススペクトルの例を示す。図11の(A)は、計測で得られたマススペクトルの例を波形で図示している。横軸がm/z、縦軸が信号強度である。サンプルガスに複数の成分物質が含まれているため、マススペクトルは、複数のピーク(例えばピーク1101,1102など)が混在している。ピークごとに、後述の図15図16で示すような判定が可能である。例えば、m/zピーク値を中心とした計測範囲内での信号強度積算値と、閾値との比較による、特定の成分物質に該当するかどうかの判定が可能である。
【0131】
図11の(B)は、別のマススペクトルの例である。この例では、例えばピーク1111やピーク1112が観測できる。ピーク1111は、m/z200付近にあり、ピーク1112は、m/z230付近にある。ピーク1111に対応している成分物質の例は、トリクロロフェノールである。ピーク1112に対応している成分物質の例は、テトラクロロフェノールである。
【0132】
[特定試料]
図12は、特定試料(標準物質とも記載する)の例を示す。実施の形態1では、これらの5種類の特定試料を、標準物質として、後述の学習を行う。図12の表は、特定試料の情報を管理する場合のデータテーブルの例(特定試料データ1200)を示している。診断装置2は、例えば管理情報D3の一部として、特定試料データ1200を管理してもよい。この表は、試料名、m/z、極性を有する。極性は、イオンの正負の極性である。
【0133】
実施の形態1で、特定試料は、陽イオン(ポジティブ)として、水(m/z=37)、メトキシフェナミン(m/z=179.5)を有し、陰イオン(ネガティブ)として、酸素(m/z=32)、TCP(m/z=195)、TBP(m/z=331)を有する。ここでのm/zとは、後述の図15での計測範囲(マス幅)1503に相当する。
【0134】
[運用例:定期チェック]
顧客環境1での検査装置11の保守時には、作業者により、各構成部位の点検やクリーニング等が行われる。検査装置11の保守は、顧客環境1に応じて異なるが、例えば1日1回など、通常の検査業務の開始前に事前の定期チェック(言い換えると定期メンテナンス、事前検査)として行われる場合がある。なお、ここでの定期チェックは、突発的な異常の発生時の事業者による保守対応とは別のものである。
【0135】
実施の形態1の検査装置管理システムでは、上記のような顧客環境1での検査装置11の定期チェックの際に、図12の特定試料を用いたマス計測を実施させる。顧客環境1の検査装置11に、予め特定試料が用意され、特定試料を用いた計測の手順を含む定期チェックが、通常の検査業務とともに、運用の一部として規定される。
【0136】
定期チェックにより、特定試料のマス計測データを含んだデータD1または保守情報D8が得られる。診断装置2は、検査装置11から、そのデータD1または保守情報D8を取得し、DB21Aに格納する。この定期チェック結果データは、長期にもわたって時系列データとして保存される。
【0137】
また、この定期チェック時には、マススペクトルのベースライン(後述の図17)の計測なども行われる。ベースラインの計測は、検査装置11に何の試料7も入力しない状態でのマススペクトルの計測によって得られる。あるいは、ベースラインの計測は、検査装置11にブランク紙を入力した状態での波形の計測によって得られるものでもよい。ベースラインの計測にも、環境物質の影響が反映される場合がある。
【0138】
実施の形態1の検査装置管理システムは、稼働情報D0の一部としてDB21Aに蓄積された、定期チェックのデータ(特に特定試料のマス計測データ)を、診断機能の学習データおよび診断対象データとして利用する。
【0139】
図13は、実施の形態1の検査装置管理システムにおける、検査装置11の定期チェックの運用例を示す。図13では、図12の特定試料を計測するタイミングについての実施例を示している。図13では、ある顧客環境1の検査装置11と、本システムの診断装置2との間での通信などのシーケンスを示す。縦軸は日時である。
【0140】
顧客環境1において、検査者または作業者は、通常の検査業務の開始前、例えば1日1回、朝の定時に、検査装置11の定期チェックを実行する(ステップ1301)。この定期チェックでは、検査装置11で、図12の水などの特定試料を用いたマス計測が行われる。検査装置11(例えばPC203)または管理装置13等は、その特定試料のマス計測のデータD1を含む定期チェック結果データを、通信で、本システムの診断装置2に送信する(ステップ1302)。定期チェック結果データには、同時に測定されたセンサデータD2も伴う。言い換えると、診断装置2は、定期チェック後のタイミングで、顧客環境1の検査装置11または管理装置13等から、通信で、その定期チェック結果データを、稼働情報D0の一部として収集する。診断装置2は、取得した定期チェック結果データなどをDB21Aに格納する(ステップ1303)。なお、定期チェック結果データの収集・蓄積の際には、顧客環境情報(図8の管理情報D3の装置設置環境情報など)をあわせて取得してもよいし、予め取得されている顧客環境情報と関連付けてそれらのデータを格納してもよい。
【0141】
顧客環境1において、検査者は、通常の検査業務を行う(ステップ1304)。検査装置11、センサ12、または管理装置13は、検査装置11の稼働中にセンサ12により検出されたセンサデータD2を、適宜のタイミング(例えばセンサ12ごとに予め設定されたタイミング)で、診断装置2に送信する(ステップ1305)。診断装置2は、センサ12のセンサデータD2を取得し、DB21Aに格納する(ステップ1306)。
【0142】
学習フェーズでは、上記のような、一定量以上の定期チェック結果データを用いて、学習が行われる。診断装置2は、DB21Aに蓄積された稼働情報D0のデータを用いて、学習モデル23Aを訓練・学習する(ステップ1307)。十分な学習が済むと、診断フェーズに移行する。
【0143】
診断フェーズでは、診断装置2は、検査装置11から通信で得た稼働情報D0(例えばデータD1およびセンサデータD2)を、学習モデル23Aに入力して、検査装置11の状態を診断する。なお、診断の際には、DB21Aに収集済みの顧客環境情報などの管理情報D3も使用される。図13では、定期チェック(ステップS1311)による定期チェック結果データ等が送信される(ステップS1312)。診断装置2は、その定期チェック結果データ等を格納する(ステップS1313)。また、通常の検査(ステップS1314)による検査結果データ等が送信される(ステップS1315)。診断装置2は、その検査結果データ等を格納する(ステップS1316)。
【0144】
そして、診断装置2は、それらの定期チェック結果データや検査結果データ等に対応する稼働情報D0を用いて診断を行う(ステップS1317)。診断装置2は、その稼働情報D0から得た所定のパラメータ値を、学習モデル23Aに入力し、出力として、検査装置11の状態および異常原因に関する診断結果情報を得る。この結果、診断装置2は、検査装置11の感度異常や、故障の異常予兆などを検知した場合には、ユーザU1に対し出力する(ステップS1318)。また、その際、診断装置2は、検知した異常などの状態に対応する構成部位や、異常原因となる構成部位に関する情報を、ユーザU1に対し出力する。また、診断装置2は、製造管理装置3による保全サービスとも連携して、異常原因の構成部位に関するクリーニングや部品交換などの保守計画を提案する。
【0145】
[環境影響によるマススペクトル]
図14は、環境影響によるマススペクトルの例を示す。図14では、顧客環境1の検査装置11が試料7(環境物質)として鉱油を計測した場合のマススペクトルの例を示している。このマススペクトルでは、m/z300~600程度の広い範囲1400で、多くのマススペクトルが観測されている。
【0146】
顧客環境1に応じて、環境物質(言い換えると背景物質)として、鉱油を多く有する場合がある。例えば、工場の工作機械などには、鉱油が多く使用されている。このような顧客環境1に検査装置11が設置されている場合、試料7の計測は、その鉱油の影響を受ける。装置設置環境に応じて、このようなマス計測のバックグラウンド、環境影響としてのマススペクトルがある。
【0147】
図14の鉱油のマススペクトルに対し、破線で重畳して図示しているスペクトル1401は、TCPのm/z195である。また、破線で重畳して図示しているスペクトル1402は、TBPのm/z331である。TCPのm/z195のスペクトル1401は、m/z300~600の範囲1400の外にあるため、バックグラウンド値が低く、高感度の計測が期待できる。他方、TBPのm/z331のスペクトル1402は、m/z300~600の範囲1400内にあるため、バックグラウンド値が高く、検出される信号強度が低くなる場合には、計測が難しくなる(言い換えると感度が低くなる)と予想される。なお、このような課題の解決方法の1つとしては、MSMS分析法が知られている。
【0148】
上記例のように、検査装置11の設置環境、例えば環境物質に応じて、検査対象物質の計測に影響が生じる。他の顧客環境1の例で、港湾の場合には、海水の塩分などによる影響が生じる。
【0149】
そこで、実施の形態1では、TCPなどの特定試料の正負のイオンのマス計測データと装置設置環境情報とを含むパラメータ値を、学習データ(言い換えると教師データ)として学習モデル23Aを構築・学習する。これにより、装置設置環境の環境物質などの影響を反映したモデルを提供でき、その影響を考慮した装置状態診断、マス軸調整、および試料成分物質推定が可能となる。好適な学習・診断のために、特定試料は、図12のように、観測m/zが、正負の両極性での広い計測範囲をカバーするように設計される。
【0150】
実施の形態1では、特定試料として図12の5種類の標準物質を用いて、正(ポジティブ)・負(ネガティブ)のマス計測を行い、マス軸調整を行う。検査装置11のマススペクトルの計測範囲は、機種にも依るが、例えばm/z30~450である。この計測範囲では、正(ポジティブ)・負(ネガティブ)の両極性のイオンが計測可能である。実施の形態1では、対象となる検査装置11は、正電荷を持つイオン(陽イオン)と負電荷を持つイオン(陰イオン)とを計測可能である。検査装置11は、陽イオンの計測時と、陰イオンの計測時とでは、イオン光学系(図10)のレンズ電極501,503の電圧極性を切り替える(電圧極性切り替え機能520)。
【0151】
その際、電極の形状や電源などの影響によって、正極性と負極性との絶対値がずれる場合がある。そのため、質量分析装置である検査装置11では、校正用に、陽イオン用マス軸調整テーブル521と陰イオン用マス軸調整テーブル522との2つのテーブルを持っている。検査装置11は、標準物質の極性が正と負との両極性で計測しているが、それは、上記2つの校正用のマス軸調整テーブルを決定するためである。また、検査装置11の計測範囲は上記m/z30~450であり、実施の形態1では、このうちの例えば図12の特定試料のm/zに対応したm/z32~331の範囲を用いて、マス軸調整テーブルを決定する。
【0152】
異常原因分析の一例としては以下が挙げられる。装置設置環境が工場である場合に、機械等で用いる鉱油(環境物質)が、試料7のサンプルガスに混入する。その影響によって、マススペクトルのピーク値のずれ、既知物質の検出感度の低下などが生じる。本システムは、そのようなサンプルガスの計測データを用いた学習および診断により、環境物質(鉱油)による影響によって、マス計測の感度異常がどの程度生じるか等がわかる。異常原因としては例えばマス計測部等のオイルによる汚れ等であるとわかる。
【0153】
異常原因分析の他の例としては、設置態様が車載である場合に、検査装置11が移動によって振動する。その振動の影響によって、構成部位(例えばマス計測部301の電極)の位置ずれが生じる。本システムは、そのような振動に関するセンサデータD2を用いた診断により、その位置ずれの影響によって、感度異常がどの程度生じるか等がわかる。異常原因としては例えば車載の移動距離や運用状況等であるとわかる。
【0154】
[不具合事象]
次に、従来、検査装置11での不具合事象の発生の具体例は、以下が挙げられる。不具合事象として、前述の感度異常などがある。ここでは、感度異常の場合を例示する。感度異常をより詳細に分析すると、以下のように分類が可能である。まず、感度異常を発生させる要因となる構成部位の違いがある。その構成部位として、例えば図3の構成の場合、イオン源302を含むマス計測部301、電源部350、制御部(制御基板305など)、PC203(ソフトウェアを含む)、電気的ケーブル、排気ポンプ(DB)360、配管(流量)、Heガスボンベ370などが挙げられる。さらに、詳細には、構成部位ごとに、複数の要因が挙げられる。例えば、マス計測部301については、イオン源302の汚れ、電極の劣化、電極の電圧変動、圧力アラーム、フィルタの詰まり等がある。
【0155】
感度異常の発生原因は、1つの構成部位の要因のみとは限らず、複数の構成部位、複数の要因が重なる場合もある。直接的な原因を特定するためには、多くの確認や評価などが必要となり、多くの手間・時間を要する場合がある。その感度異常の発生の間、顧客環境1では、検査装置11および検査業務を停止する必要がある。この停止時間はなるべく短いことが望ましい。そのため、直接的な原因の特定ができるまでの間、代替機に交換して運用するか、あるいは、以下のような一時的な対処を行う場合がある。
【0156】
事業者は、過去の経験、すなわち異常発生履歴や保守実績などから、異常の要因や事象として多い要因や事象がわかる。例えば、最も多い要因や事象が、マス計測部301の汚れであるとする。この場合に、一時的な対処としては、異常の要因を、マス計測部301の汚れと仮定し、保守対応として当該構成部位のクリーニングを実施する。これにより、その検査装置11および当該構成部位を交換せずに、現状復帰を優先する。しかしながら、この一時的な対処は、直接的な原因の特定ではないので、改善が望まれる。
【0157】
[感度異常の事例]
図15は、マススペクトルの波形と感度異常の事例を示す。図15の(A)は、検査装置11の感度が正常な状態の場合のマススペクトルの波形の一例を示し、横軸がm/z、縦軸が信号強度である。波形1501は、マススペクトルの波形を示す。一点鎖線で示すマス軸1502は、信号強度がピーク1504(信号強度ピーク値1504A)となるm/z(言い換えるとm/zピーク値1504B)である。丸印で示すピーク1504は、信号強度がピーク(信号強度ピーク値1504A)となる点である。
【0158】
マス軸1502に対し両側にある破線および矢印で示す計測範囲1503は、マス幅を示す。ピークずれ幅1506は、マス軸1502に関する、正常な状態からのずれ幅(ずれ量、変動量)である。本例では、ピークずれ幅1506は0である。
【0159】
矢印で示す範囲1505は、信号強度が中間値(ベース値とピーク値1504Aとの中間値)となる、m/zの幅であり、中間マス幅とも記載する。
【0160】
中間マス幅を記号A、ピークずれ幅を記号B、マス幅を記号Cで表すとする。分解能を記号D、マスマーカ値を記号Eで表すとする。除算を用いて、分解能は、D=C/Aで規定される。マスマーカ値は、E=B/Cで規定される。
[分解能(D)]=[マス幅]/[中間マス幅]=C/A
[マスマーカ値(E)]=[ピークずれ幅]/[マス幅]=B/C
【0161】
また、斜線ハッチングで示す、計測範囲1503内にある領域1507は、波形1501における信号強度の積算値(Fとする)を示す。
【0162】
上記例のようなマススペクトルのパラメータ値(A~F)を用いて、感度異常かどうかの判定が可能である。図15の(B)および(C)は、図12の水などの特定試料において、横軸を時間、縦軸を(A)の積算値1507とした場合を示す。積算値1507に関する閾値1511が設定されている。(B)の例では、時系列上で、積算値1507は、閾値1511未満となっており、特定試料の積算値1507が陰性と判断されていることから、感度異常と判定される。(C)の例では、時系列上で、特定試料の積算値1507は、時間1512以降で、閾値1511以上となっていることから、感度異常ではないと判定される。
【0163】
検査装置が正常の状態での(A)のようなマススペクトルのデータは、診断のための基準となるデータとして利用できる。
【0164】
図16は、検査装置11が感度異常となる場合における、マススペクトルの状態の事例を示す。図16の(A)の波形1601は、第1例として、信号強度のピーク1504が、図15の(A)のような基準に比べて低くなっている場合を示す。この場合、積算値1507も、(A)の基準に比べて小さくなっている。比較のため、基準でのピーク1504も丸印で示している。
【0165】
図16の(B)の波形1602は、第2例として、信号強度のピーク1504に対応するm/zピーク値1504B(マス軸1502)が、図15の(A)のような基準に比べて、ずれがある場合を示す。このピーク値ずれ幅1506を、基準のマス軸1502(二点鎖線で示す)からのずれとして、一方向矢印で示している。
【0166】
図16の(C)の波形1603は、第3例として、信号強度のマス幅1503および中間マス幅1505が、図15の(A)のような基準に比べて、狭くなっている場合を示す。
【0167】
図16の(D)の波形1604は、第4例として、信号強度のピーク1504が、図15の(A)のような基準に比べて、複数になっている場合を示す。この例では、複数のピーク1504として3つのピーク1504(1504a,1504b,1504c)が観測されており、信号強度が大きい順に、ピーク1504a、ピーク1504b、ピーク1504c、で示している。また、この例では、ピークずれ幅1506は、基準に対するピーク1504aのずれとして示している。
【0168】
検査装置11の感度異常は、上記のような各種のマススペクトルの状態と関係しており、信号強度ピーク値、m/zピーク値、マス幅、ピークずれ幅、積算値などのパラメータ値との関係を有している。検査装置11の感度異常は、上記のようなマススペクトルの状態の影響によって発生している。
【0169】
上記のような各種のマススペクトルの状態の挙動、パラメータ値の時系列上の変動についても、図15と同様に、例えば閾値を用いて、状態判定が可能である。実施の形態1では、特に、機械学習による学習モデル(後述)を用いて、多次元のパラメータ値についての状態判定が可能である。
【0170】
[ベースライン]
図17は、マススペクトルのベースラインについての説明図である。例えば、検査装置11の設置場所の違いが、マススペクトルのベースラインに影響する。設置場所に応じて、ベースラインが、安定な場合もあるし、不安定な場合もある。ベースラインは、検査装置11が試料の計測を行っていない状態での、マススペクトルの信号強度の状態である。
【0171】
図17は、装置設置環境(言い換えると設置場所)に応じたマススペクトルのベースラインの例を示す。(A)は、設置場所が研究所である場合であり、ベースラインは、概略的に一定値に保持されて、安定している。これは、研究所の環境に存在する夾雑成分による影響が低いことと対応していると考えられる。
【0172】
(B)は、設置場所が空港である場合であり、ベースラインは、全体的に上下に変動する場合があり、不安定である。これは、空港に存在する夾雑成分(例えば人の出入りよる埃)による影響があることと対応していると考えられる。
【0173】
(C)は、設置場所が港湾(沿岸近郊)である場合であり、ベースラインは、時系列上で大きく変動する場合があり、不安定である。これは、港湾に存在する夾雑成分(例えば海水の塩分)による影響があることと対応していると考えられる。
【0174】
また、例えば設置場所が同じ港湾であっても、異なる港湾(例えば港1、港2、港3など)では、影響が異なる場合もある。
【0175】
[診断機能]
次に、診断装置2による診断機能の詳細について説明する。実施の形態1では、診断装置2は、稼働情報D0のパラメータ値を、機械学習(例えば後述のLSC法)の入力データ(例えば多次元パラメータ値。言い換えると評価項目値)として、学習・診断を行う。これにより、装置設置環境を含め、様々な要因を考慮した装置状態推定や異常原因分析が可能である。
【0176】
稼働情報D0のうちのデータD1には、前述の特定試料のマス計測データを含む。このマス計測データは、図15等で説明したパラメータ値(ピーク、マス幅、分解能、マスマーカ値、積算値など)を含むデータ、または、当該パラメータ値を計算可能なデータである。診断装置2は、マス計測データから、図15等で説明したパラメータ値を計算して得てもよい。
【0177】
また、稼働情報D0には、監視対象の構成部位についてのセンサデータD2を含む。センサデータD2は、例えば、マス計測部301の温度、電圧、電流、圧力、流量などのセンサ値を含む。また、センサデータD2は、例えば、制御基板305の電圧や温度、Heガスボンベ370の圧力、排気ポンプ(DP)360のオイル量、オイル漏れ量、オイル汚れ量、稼働音/異音、などを含む。また、管理情報D3には装置設置環境情報などを含む。
【0178】
[機械学習]
図18は、実施の形態1で、診断装置2が行う機械学習に関する説明図を示す。この機械学習は、図示の学習フェーズと診断フェーズとを有する。診断装置2は、稼働情報D0を学習データ(教師データ)として学習モデル23Aに入力して学習する。学習モデル23Aは、入力である稼働情報D0のパラメータ値と出力である検査装置11の状態との関係を学習するモデルである。学習モデル23Aによる推論結果である出力は、検査装置11の状態に関する確率値を有する。学習フェーズでは、入出力データに合わせて、学習モデル23Aのパラメータ値が調整・更新される。
【0179】
学習フェーズでは、図1の学習部23は、DB21Aの稼働情報D0および診断結果情報(データD6)に基づいた学習データ23Bを用いて、学習モデル23Aを訓練して、パラメータを調整する。学習データ23Bは、前述のマス計測のデータD1、センサデータD2、および管理情報D3を含む。また、学習データ23Bは、診断結果情報のデータD6を含む。学習用の診断結果情報は、特に、過去の異常/異常予兆の検知結果の実績情報を含む。また、学習データ23Bは、検査装置11の故障などの異常実績情報を含んでもよい。異常実績情報は、過去の保守情報D8を利用してもよいし、ユーザが手動で入力・設定してもよい。
【0180】
診断フェーズ(言い換えると推定フェーズ)では、診断部22は、入力データ23Cとして、検査装置11を含む顧客環境1からリアルタイム等で取得した稼働情報D0のパラメータ値を、訓練済みの学習モデル23Aに入力し、学習モデル23Aによる推論結果である出力データ23Dとして、診断結果情報(データD6)を得る。この診断結果情報は、検査装置11の異常/異常予兆の状態を表す情報であり、また、その異常/異常予兆の状態と関連付けられた、原因を特定/推定する情報である。
【0181】
[診断方法(1)]
図19は、診断装置2による機械学習を用いた異常予兆の診断の方式(システム、方法、装置、プログラム等の総称)についての説明図を示す。図19では診断方式の第1例を示している。実施の形態1では、この異常検知や評価のための方法として、特に、公知の局所部分空間法(LSC:Local Sub-space Classifier)を用いる。LSC法は、未知データ(言い換えると診断データ)のk-近傍データを用いてk-1次元のアフィン部分空間を作成し、その部分空間への投影距離(言い換えると最近点)に基づいて、異常かどうかを判定する方法である。
【0182】
診断装置2は、稼働情報D0の前述の各種のパラメータ値を得る。診断部22は、これらのパラメータ値を、診断処理の入力とする。診断部22は、これらのパラメータ値のうち、選択された複数(ここではNとする)のパラメータ値を用いて、LSC法での多次元空間(N次元空間)を構成する。診断部22および学習部23は、これらのN次元のパラメータ値を用いて、学習モデル23Aを構築する。学習部23は、検査装置11が正常な状態の時に計測された稼働情報D0も学習データとして用いる。診断装置2は、実際の診断時には、学習モデル23Aに入力された稼働情報D0のパラメータ値に対し、LSC法を用いて、検査装置11の正常の状態の時に計測された稼働情報D0のデータから、類似データを探索・比較することで、異常/異常予兆の状態を判定する。
【0183】
図19の(A)は、LSC法の概要として、N次元部分空間を示す。図示の軸(言い換えるとセンサ軸)A1~ANは、N次元のパラメータであり、本例ではN=5である。空間領域1901は、学習用の正常時稼働情報によるN次元のパラメータ値によって形成される空間領域を示す。局所部分空間1902は、空間領域1901のうちの局所領域の例である。データ値1903は、診断・評価対象データ値の例であり、診断時に入力された稼働情報D0のパラメータ値である。距離1904は、対象のデータ値1903と、局所部分空間1902との距離であり、言い換えると、評価指標値である。診断部22は、この距離1904を、検査装置11の状態に関する評価指標値として用いる。言い換えると、診断部22は、この距離1904を、異常/異常予兆に関する度合いを表す異常測度として用いる。距離1904は、例えばマハラノビス距離として計算できる。
【0184】
実施の形態1では、学習・診断のパラメータとして、特定試料のマス計測のデータD1に基づいた、ピークずれ量などの所定のパラメータ値のうちの少なくとも1つと、センサデータD2に基づいた少なくとも1つのセンサ値と、管理情報D3に基づいた顧客環境情報の少なくとも1つとを用いる。
【0185】
図19の(B)は、(A)のN次元部分空間に、N次元のパラメータとして、例えば、以下の5つの評価指標値を適用した場合を示す。
A1 = マス計測のピークずれ量(図15でのB)
A2 = マス計測の積算値(図15でのF)
A3 = マス計測部301の温度(T1とする)
A4 = マス計測部301の圧力(P1とする)
A5 = 設置場所(E1とする)
【0186】
パラメータ値の組み合わせはこれに限定されずに様々に可能である。診断部22は、各パラメータ値を正規化した値を、このN次元部分空間にプロットする。空間領域1911は、それら5つのパラメータ値により形成される領域(言い換えるとデータ集合)である。
【0187】
学習部23は、学習データとして過去の稼働情報D0(検査装置11の正常の状態に対応する稼働情報D0)に基づいて、学習モデル23Aにより、診断対象のデータ値1913に対して比較するための部分空間領域1911を形成する。
【0188】
診断部22は、実際の診断時には、診断対象のデータ値1913を、学習モデル23Aによる部分空間領域1911と比較し、データ値1913と局所領域1912との距離1914を算出する。そして、診断部22は、その距離1914を、異常/異常予兆の状態の推定に関する評価指標値(言い換えると異常測度)とする。または、診断部22は、その距離1914から、その評価指標値を計算する。
【0189】
また、診断部22および学習部23は、学習モデル23Aにおいて、異常/異常予兆を判定するための閾値を自動的に作成・設定する。図19の(C)は、閾値の生成について示す。図示のように、診断部22は、部分空間領域1911のデータ値集合(時系列の各時点のデータ値を含む)から、閾値1921を作成する。図示の閾値1921は例えば過去のデータ値の最大値によって作成されている。
【0190】
診断部22は、診断の際には、例えば、距離1914(異常測度)が閾値1921を超える場合に、例えば感度異常の異常/異常予兆として判定する。
【0191】
なお、図19の方式および例の場合、顧客環境1ごとに1つの学習モデル23Aで学習・診断が行われる。複数の顧客環境1がある場合には、顧客環境1ごとに学習モデルおよび閾値が構築される。診断部22は、診断の際には、稼働情報D0のうち管理情報D3を参照し、顧客環境1に合わせた学習モデル23Aを適用する。また、ある顧客環境1に複数の検査装置11があってもよく、検査装置11ごとに学習モデルを構築してよもよいが、同種の複数の検査装置11がある場合には、共通の1つの学習モデルを構築して適用してもよい。これは、学習モデル23Aの構成や管理が容易となる利点がある。
【0192】
変形例では、学習の際の他のパラメータ値として、マス計測部301などの構成部位を構成する材料や特性(物性)の情報を用いてもよい。例えば、図10でのレンズ電極501などの情報を用いてもよい。
【0193】
[診断方法(2):変形例]
診断装置2による異常予兆診断の方式は、上記例に限定されない。変形例として以下のような方式も可能である。図20は、変形例として、診断方式の第2例を示す。本例では、検査装置11を備える顧客環境1が複数ある場合に、診断装置2の学習部23は、顧客環境1ごとに学習モデル23Aを設けることを基本とする。そのうえで、診断装置2の学習部23は、顧客環境1間で学習モデル23Aを流用することで、共通学習モデルを構築する。
【0194】
図20の例では、顧客環境1として、A1,A2,B1,B2などがある。A1,A2は空港、B1,B2は港湾であるとする。学習モデル2001は、顧客環境A1のための学習モデル23Aである。学習モデル2002は、異なる顧客環境A2のための学習モデル23Aである。
【0195】
この場合に、診断装置2は、空港や港湾などの装置設置環境が同じである顧客環境1については、それらの顧客環境1間で、学習モデル23Aを流用する。診断機能において、学習DB(学習モデル23A)に、装置設置環境での実績がある学習DBを反映して活用する。
【0196】
例えば、顧客環境A1では検査装置11が設置済みであり、学習モデル2001が構築・学習済みであり、運用の実績があるとする。新規の顧客環境A2に検査装置11を設置してサービスを開始するとする。この際に、顧客環境A2の学習モデルを一から構築・学習するのではなく、既に実績がある同じ空港に関する学習モデル2001を流用して、顧客環境A2用の学習モデル2002を構築する。
【0197】
同様に、図20の下部には、装置設置環境が港湾である顧客環境B1,B2について、学習モデル2004から学習モデル2005への流用によって、共通学習モデル2006を構築する例を示している。
【0198】
図20の方式は、言い換えると、複数の顧客環境1のための学習モデル23Aに関して、空港などの装置設置環境に応じて1つに統合された共通学習モデル2003を構築・管理する方式に相当する。それぞれの共通学習モデルは、空港や港湾などの違いを反映したモデルとなっており、環境の特性に合わせた好適な診断が可能である。これにより、顧客環境1ごとの学習モデルの構築および訓練を迅速化、短縮化でき、作業やコストを低減でき、新たな環境で早期に高精度の診断サービスが開始可能となる。
【0199】
他の例では、新たに検査装置11を導入する顧客環境1における、設置場所(言い換えると環境物質の影響)や設置態様などの複数の要素を考慮し、複数の要素が類似する既存の顧客環境1から学習モデルを流用してもよい。また、要素別として、既存の2つ以上の学習モデルを流用して、1つの学習モデルを構築してもよい。
【0200】
[診断機能(3):設置態様]
検査装置11の設置態様として、据置(固定)と車載の違いがある場合の具体例は以下である。複数の検査場所にそれぞれ検査装置11を固定で設置するとコストが高くなることから、共用する1台の検査装置11とし、その検査装置11を車載型にし、適宜に検査場所に移動して使用する場合がある。
【0201】
図21には、顧客環境1の例として港湾において、複数の検査場所で、車載型の検査装置11を適宜に移動して使用する例を示す。このような場合に、診断装置2は、検査装置11の移動前、移動時、移動後を含め、稼働情報D0を収集し、この顧客環境1のための学習モデル2010を構築する。本システムは、個々の検査場所および移動距離のみならず、移動中の振動状態などを表すセンサデータD2を収集してもよい。この学習モデル2010は、検査装置11の移動による影響が反映されたものとなる。例えば移動によってマス計測部301の電極などが位置ずれを生じ、それによる計測ずれが生じる可能性がある。そのため、本システムは、移動距離や振動などの情報を用いて、学習・診断を行う。これにより、移動による影響を診断・分析可能となる。
【0202】
[診断機能(4):温度]
検査装置11の装置設置環境に応じて、太陽光などの外光などによるエネルギーが検査装置11に照射される場合やその照射の度合いの違いがある。例えば、日向において検査が実施される場合と、日陰において検査が実施される場合とがある。そのような違いによるマス計測への影響も異なる。例えば温度が高くなると、計測ずれが生じる可能性がある。また、連続稼働状況等に応じて、検査装置11の温度が高くなる場合もある。そのため、本システムは、温度センサのセンサデータD2によって、装置周囲温度や装置内部温度を検出し(図4)、温度を用いて学習・診断を行う。これにより、温度による影響を診断・分析可能となる。
【0203】
[計画機能]
図1の製造管理装置3による計画機能の詳細について説明する。製造管理装置3の計画機能は、診断機能による診断結果に基づいて、検査装置11の状態を考慮した、好適な保全計画や在庫計画などを高速に立案する。保全計画は、異常原因となる構成部位や関連する構成部位についての部品交換および交換時期の提案を含む。在庫計画は、交換部品の手配を含む。本システムは、立案された計画情報を、GUI画面50でユーザU1に対し出力する。これにより、顧客環境1側の計画作業の負荷を低減するとともに、事業者側の製品・部品の製造を効率化する。
【0204】
製造管理装置3の計画部31は、診断装置2からの診断結果情報のデータD6に基づいて、検査装置11の異常等の状態および原因を考慮して、検査装置11自体または各構成部品の保守や交換の要否を判断する。計画部31は、例えば感度異常の原因となる構成部位の点検やクリーニングなどの保守を提案する。あるいは、計画部31は、異常の度合いが大きい場合に、感度異常の原因となる構成部位の部品の交換を提案する。計画部31は、例えば、感度異常に関する異常予兆を検知した場合には、検査装置11が故障などに至る前における対策としての保守交換を可能とするように、好適な交換時期を含む交換計画を立案する。計画部31は、例えば、対象の構成部位と、交換する元と先の部品と、交換時期とを立案する。計画部31は、交換先の部品の候補として複数(例えば仕様が異なる部品)があり得る場合には、複数の候補を立案してもよい。計画部31は、交換時期などのスケジュールを含む計画情報を生成する。そして、製造管理装置3は、計画情報を提示するための簡単で使いやすいGUI画面50を提供する。製造管理装置3は、部品交換の計画のみならず、例えば、異常測度に応じて保守作業の頻度の調整等も可能である。
【0205】
[計画立案]
製造管理装置3による計画立案の処理ロジック例を以下に示す。
【0206】
(1).まず、単純な例として、以下の第1処理ロジックを適用してもよい。予め、製造管理装置3において、検査装置11または構成部品の交換時期については、異常/異常予兆の検知時からの所定の期間として設定しておく。また、製造管理装置3は、交換先の検査装置11または構成部品の仕様としては、元の検査装置11や構成部品と同じ仕様のものを提案する。
【0207】
(2).つぎに、より高度な例として、以下の第2処理ロジックを適用してもよい。予め、製造管理装置3に、過去の実績情報や製品の仕様情報に基づいて、交換先の検査装置11や構成部品についての交換準備期間および交換作業期間を設定しておく。交換準備期間は、例えば手配手続き期間と納入期間との和として算出できる。
【0208】
製造管理装置3は、診断結果情報での異常/異常予兆の検知の時点から、上記交換準備期間および交換作業期間の設定値を用いて、対象の検査装置11や構成部品の保守交換計画情報(後述のガントチャート)上に、交換準備期間および交換作業期間の工程を展開する。
【0209】
また、製造管理装置3は、このガントチャート上に計画情報として交換工程を展開する際には、検査装置11の稼働や休止の状況、作業者の人員・スキル情報、交換元や交換先の検査装置11や構成部品などの数量や入荷・製造状況、作業優先度などの、スケジュール調整用情報を考慮して、好適な工程を自動的に生成する。
【0210】
また、製造管理装置3は、交換先の検査装置11や構成部品の入荷・製造状況や、作業者の確保状況などの、任意の要因に応じて、対象の検査装置11の交換計画を変更することも可能である。製造管理装置3は、交換計画を変更する際には、上記スケジュール調整用情報に従い、要因に対応した条件にあった工程となるように自動調整する。
【0211】
製造管理装置3は、交換作業を行う作業者や管理者などのユーザU1に対し、交換計画情報を、GUI画面50またはメールやアラームなどによって報せる。ユーザU1は、それを受けて交換計画情報を確認し、交換提案を受け入れて交換作業を行うべきか等を判断し、行う場合には交換作業のスケジュール等を把握する。作業者は、GUI画面50のガントチャート上に展開された工程のスケジュールに従って、対象の検査装置11の交換作業を実施する。
【0212】
(3).上記処理ロジック例に限らず可能である。例えば、コンピュータが、検査装置11や構成部品の寿命などを推定計算してもよい。コンピュータは、交換などの対策をしない場合に検査装置11が故障や感度異常などに至るまでの時間を推定計算する。コンピュータは、推定した寿命などの時間に基づいて、寿命などに至るよりも前にその検査装置11や構成部品の交換が可能となるように、好適な交換時期などを算出する。また、コンピュータは、検査装置11の異常/異常予兆の度合いの情報(例えば前述の異常測度)、または上記推定時間などに基づいて、交換先の候補となる好適な仕様の検査装置11や構成部品を選定してもよい。また、コンピュータは、上記選定とともに、顧客に対し、交換および購入に必要なコストなども算定して、併せて提示してもよい。ユーザU1は、GUI画面50で交換提案情報を確認し、交換提案を了承するかどうかや、複数の候補からの選択などを行う。
【0213】
異常予兆の度合いに応じて異なる交換提案の例は以下である。製造管理装置3は、例えば、異常測度が第1レベルである場合に、交換時期を3か月後とし、仕様Aの検査装置11または構成部品を交換候補として提案する。製造管理装置3は、例えば、異常測度が第1レベルよりも大きい第2レベルである場合に、交換時期を1か月後とし、仕様Bの検査装置11または構成部品を交換候補として提案する。製造管理装置3は、例えば、異常測度が第2レベルよりも大きい第3レベルである場合に、交換時期を即時とし、仕様Cの検査装置11または構成部品を交換候補として提案する。
【0214】
上記のように、計画機能では、検査装置11の診断結果の状態に応じて、検査装置11や構成部位の好適な交換時期や交換先を提案できる。また、本システムは、顧客環境1の影響を診断・分析できるので、例えば、環境物質を除去するためのフィルタ等の構成部品に関する提案や、検査業務の運用の見直しの提案なども可能である。
【0215】
[GUI画面例]
図22等は、実施の形態1の検査装置管理システムが提供するGUI画面例を示す。
【0216】
[画面例(1)-稼働情報モニタリング情報]
図22は、第1画面例として稼働情報モニタリング機能の画面例を示す。診断装置2は、モニタリングに基づいた稼働情報D0をグラフ等にしてGUIとともに本画面に表示する。本画面は、情報欄3001、マスパラメータ値欄3002、センサデータ欄3003などを有する。
【0217】
情報欄3001には、顧客環境1の情報、検査装置11の情報、検査種別の情報などが表示され、ユーザU1がそれらを選択可能である。マスパラメータ値欄3002には、特定試料のマススペクトルのパラメータ値のグラフが表示される。表示するパラメータ値は、例えばピークずれ量などの所定のパラメータから選択できる。センサデータ欄3003には、選択したセンサのセンサ値(例えば温度、圧力など)のグラフが表示される。ユーザU1は、対象期間や日時などを選択可能である。ユーザU1は、これらの情報を見てパラメータ値の大小や変動などを確認できる。これに限らず、本画面では、稼働情報D0の内容を表示可能である。
【0218】
[画面例(2)-診断結果情報]
図23は、第2画面例として診断機能の画面例を示す。図23の画面は、診断結果情報として異常予兆検知結果情報等を表示する。図23の画面は、前述の装置利用前の準備(定期チェック)として特定試料を計測した結果を表示してユーザU1が確認できる画面である。本画面は、指定した特定試料のマススペクトルおよび信号強度積算値をグラフで表示するとともに、所定のパラメータ値として、ピークずれ幅、分解能、マスマーカなどの状態を表示する。また、本画面は、異常診断状態に影響を与えている構成部位およびセンサの影響度合いを表現して表示する。
【0219】
図23の画面は、計測試料情報3101、マススペクトル3102、パラメータ値項目3103、信号強度積算値3104、影響部位リスト3105などを有する。
【0220】
計測試料情報3101は、計測日、計測(スキャン)した特定試料の情報などを表示する。計測試料情報3101では、特定試料のポジティブ/ネガティブを選択指定できる。マススペクトル3102は、計測したマススペクトルを表示する。パラメータ値項目3103は、マススペクトル3102の所定のパラメータ(前述のピークずれ幅、分解能、マスマーカなど)について、パラメータ値と異常有無を表示する。パラメータ値項目3103では、ピークずれ幅などの各パラメータについて、診断結果として異常/異常予兆の有無が色などで区別して表示される。例えば、項目の四角が白色の場合には異常無しの状態を表し、赤色の場合には感度異常などの異常/異常予兆の有りの状態を表す。
【0221】
信号強度積算値3104では、指定された特定試料の信号強度積算値の時系列データのグラフが表示される。図示しないが、ピークずれ幅などの複数のパラメータから画面にグラフとして表示するパラメータを選択できる欄を設けてもよい。
【0222】
影響部位リスト3105は、上記計測結果での異常/異常予兆の状態に関する、影響度合いが高いと推定される順序で、構成部位とそれに対応付けられたセンサ12の情報を表示する。この影響部位リスト3105の表は、構成部位、センサ(そのセンサに対応するパラメータ)、影響度を有する。構成部位は、前述のマス計測部301(分析部)などである。センサは、そのセンサに対応する温度や電流などのパラメータを表示する。影響度は、例えば棒グラフで表現されている。ユーザU1は、影響部位リスト3105を見て確認することで、異常予兆に関して、どの構成部位およびセンサパラメータが影響しているのかを、わかりやすく把握できる。
【0223】
図23の画面では、ほかに、前述の学習モデル、異常測度、閾値、異常検知区間などを表示してもよい。異常有無に限らず、異常の度合いを複数のレベルで表現してもよい。
【0224】
[画面例(3)-計画情報]
図24は、第3画面例として計画機能の画面例を示す。図24の画面は、計画情報に基づいた交換提案情報等を表示する。図24の画面は、設備ごとのガントチャート3201として、顧客環境1の検査装置11ごとのガントチャートと、交換計画情報3202とを有する。ガントチャート3201は、設備コード、設備名、およびスケジュール情報を有する。ガントチャート3201では、検査装置11ごとに、稼働、休止、保守点検、交換などの作業や状態を表す情報が表示される。ユーザU1は、ガントチャート3201上で、マウス操作等のGUI操作によって、検査装置11ごとに、稼働、保守点検、交換などの時間を確認し、必要に応じて変更できる。本例に限らず、ガントチャート3201では、検査装置11と対応付けられた検査スケジュールや製造スケジュールなどを表示してもよい。
【0225】
交換計画情報3202は、検査装置11または構成部位の交換に関する計画情報を表示する。交換計画情報3202は、対象(言い換えると交換元)の検査装置11または構成部位の情報、交換先(言い換えると候補)の検査装置11または構成部位の情報、交換時期の情報、および、交換時期を含むスケジュール情報を有する。交換先の情報は、製造管理装置3がユーザU1に対し提案する交換先の候補の情報が表示される。ユーザU1は、詳細ボタンの操作で詳細な仕様などを確認できる。ユーザU1は、提案された候補から変更したい場合には、変更ボタンの操作で変更できる。交換時期の情報は、製造管理装置3がユーザU1に対し提案する交換時期の情報が表示される。ユーザU1は、提案された交換時期から変更したい場合には、変更ボタンの操作で変更できる。下部のスケジュール情報では、例えば検査装置C1の分析部#1を分析部#2に交換する場合のスケジュールが表示されており、交換時期が2023年1月の場合である。
【0226】
製造管理装置3は、顧客環境1側の管理装置13とシームレスに連携してもよい。連携により、顧客環境1側は、製造管理装置3側からの計画情報に従った工程進捗などを容易に把握できる。また、顧客環境1側の都合等に応じて、計画の変更などがある場合には、ユーザU1は、製造管理装置3に対し、再計画のスケジューリングの依頼を行うことができる。これにより、製造管理装置3は、既存の計画情報を再度スケジューリングして更新し、更新された計画情報を提供する。顧客環境1側は、更新された計画情報に従った工程進捗などを容易に把握できる。
【0227】
また、上記画面例は、顧客環境1側が検査装置11の保守交換の計画を把握しやすいように情報を提供する例であるが、これに限らず、顧客環境1側の計画と対応させて、事業者側が検査装置11の製造などの計画を把握しやすいように情報を提供するものとしてもよい。
【0228】
[実施の形態1の効果等]
以上説明したように、実施の形態1の検査装置管理システムおよび方法によれば、以下の効果を実現できる。実施の形態1によれば、顧客環境1の検査装置11の異常原因の特定を容易化し、保守等の対処を効率化できる。顧客環境1における、好適な検査業務、好適な保守交換作業などが実現できる。
【0229】
実施の形態1によれば、顧客環境1から収集した稼働情報D0に基づいて、感度異常やその他の異常の状態を迅速に検知・予知し、異常原因を迅速に特定できる。実施の形態1によれば、検査装置11または構成部位の保守・交換の対策期間を含めた正常復帰までの時間を短縮できる。実施の形態1によれば、検査装置11の感度異常などを予知し、異常原因を特定するので、作業者等による異常原因特定が容易化できる。作業者等は、検査装置11の稼働状況を人手で収集・確認・記録する作業を低減できる。作業者等は、検査装置11の状態や履歴や計画を画面でわかりやすく確認できる。
【0230】
実施の形態1によれば、異常・故障の予測の高精度化に基づいて、点検作業・予備品交換などの好適な保守計画や製造計画の立案・実行ができる。実施の形態1によれば、棚卸の削減、保管作業の軽減により、感度異常になった際の迅速な対応や、運用への悪影響の最小化が実現でき、多大な保守管理費用の削減ができる、実施の形態1によれば、作業者等の人員をより確保しやすくなり、保守管理業務を遂行できる人材の確保・育成に寄与できる。実施の形態1によれば、安心・安全性評価、特性評価、効能評価などの高信頼化と、安全性・健全性・安定稼働の長期維持とが実現できる。
【0231】
[変形例:型式]
実施の形態1の変形例として以下も可能である。実施の形態1では、対象の検査装置11は、ある1つの型式(機種)やマス計測・検知方式である場合を想定して説明したが、実装上、詳しくは、様々な型式や方式や詳細構造が異なる場合がある。どのような型式などであっても、前述の診断機能などに関する構成は、基本的に同様に適用可能である。実施の形態1では、診断の際には、検査装置11の型式などに依らずに、同じ学習モデルを適用する場合(図19)を説明した。これに限定されず、変形例としては、さらに、検査装置11の型式などの違いを考慮し、型式などに応じて異なる学習モデルを適用するようにしてもよい。診断装置2は、例えば管理情報D3の一部として検査装置11の型式などの情報を参照し、その型式などに応じた学習モデルを学習・診断に適用する。この変形例の場合は、検査装置11の型式などの違いに応じて感度状態などに違いが生じる場合の診断や解析も可能となる。
【0232】
[変形例:実績DB]
変形例のシステムは、従来人手で収集していた異常事象情報、保守履歴情報などを、データとして実績DBに蓄積して利用する。図1でいえば、診断装置2は、稼働情報D0の一部として収集した保守情報D8を、他の各データと関連付けて、DB21Aに蓄積する。さらに、本システムは、そのDBの保守情報D8に基づいて、顧客環境1での検査装置11の過去の異常や保守を分析する。例えば、どの構成部位でどのような種別の異常が発生しているか、異常発生の回数や頻度、部品交換や検査装置11の交換の回数や頻度、停止期間などが分析される。そして、本システムは、分析結果に基づいて、どのような種別の異常や構成部位を重視してモニタすべきか決定する。本システムは、構成部位に設置するセンサなどを選定、調整してもよいし、モニタリングの頻度などを選定、調整してもよい。これにより、より好適なモニタ、診断、計画などが可能となる。
【0233】
(付記)
一実施の形態の検査装置管理システムは、以下でもよい。検査装置管理システムにおけるコンピュータシステムは、稼働情報に基づいた学習データを用いて、稼働情報と検査装置の異常等の状態との関係に関する機械学習を行って、学習モデルを訓練し、診断の際には、稼働情報を学習モデルに入力して、学習モデルによる推定の結果として、検査装置の異常等の状態を出力する。学習データは、検査装置または構成部位の正常状態と異常または異常予兆の状態とにおける、マス計測データのパラメータ値の変動のデータを含む。
【0234】
一実施の形態の検査装置管理システムにおけるコンピュータシステムは、診断の際に、機械学習、例えば局所部分空間法を用いて、検査装置の状態を診断し、機械学習、例えば局所部分空間法による、多次元空間を構成するパラメータは、少なくとも、マス計測データのパラメータ値を含む。
【0235】
以上、本開示の実施の形態について具体的に説明したが、前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態は、必須構成要素を除き、構成要素の追加・削除・置換などが可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。各実施の形態や変形例を組み合わせた形態も可能である。
【符号の説明】
【0236】
1…顧客環境、2…診断装置、3…製造管理装置、4…情報表示装置、5…ユーザ端末、7…試料、11…検査装置、12…センサ、13…管理装置、50…GUI画面。
図1
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