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特開2024-172594フック係留装置及びそれを備えた建設機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172594
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】フック係留装置及びそれを備えた建設機械
(51)【国際特許分類】
   B66C 23/88 20060101AFI20241205BHJP
   E21B 7/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B66C23/88 N
E21B7/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090413
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】503032946
【氏名又は名称】住友重機械建機クレーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原井 猛
【テーマコード(参考)】
2D129
3F205
【Fターム(参考)】
2D129BA11
2D129DA11
3F205AA07
3F205KA10
(57)【要約】
【課題】建設機械の多様な構成に対応可能なフック係留装置及びそれを備えた建設機械を提供する。
【解決手段】建設機械(1)に吊り下げられたフック(122)を係留するフック係留装置(30)であって、フック(122)を保持すると共に、フック(122)の巻動作に伴って移動可能に構成された保持部材(40)を有し、保持部材(40)が所定の保持位置まで移動することで、フックが所定の係留位置で係留するように構成され、保持位置は調整可能に構成されている、ことを特徴とする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械に吊り下げられたフックを係留するフック係留装置であって、
前記フックを保持すると共に、前記フックの巻動作に伴って移動可能に構成された保持部材を有し、
前記保持部材が所定の保持位置まで移動することで、前記フックが所定の係留位置で係留するように構成され、
前記保持位置は調整可能に構成されている、
ことを特徴とするフック係留装置。
【請求項2】
請求項1に記載のフック係留装置において、
前記保持部材が前記保持位置に位置することを検出する第1位置検出手段を有する、
ことを特徴とするフック係留装置。
【請求項3】
請求項2に記載のフック係留装置において、
前記保持部材が前記保持位置よりも前記フックに近い境界位置に位置することを検出する第2位置検出手段を有し、
前記境界位置は調整可能に構成されている、
ことを特徴とするフック係留装置。
【請求項4】
請求項2に記載のフック係留装置において、
前記第1位置検出手段は、前記保持部材に設けられた当接部に押圧されて作動するリミットスイッチを含み、
前記当接部の位置または前記リミットスイッチの位置を変更することで、前記第1位置検出手段により検出される前記保持位置が調整される、
ことを特徴とするフック係留装置。
【請求項5】
請求項1に記載のフック係留装置を備えた、ことを特徴とする建設機械。
【請求項6】
請求項5に記載の建設機械において、
前記フック係留装置は、
前記保持部材が前記保持位置に位置することを検出する第1位置検出手段を有し、
前記建設機械は、
前記第1位置検出手段の検出結果に基づいて、前記保持部材の移動を停止するための処理を行う停止処理手段を有する、
ことを特徴とする建設機械。
【請求項7】
請求項6に記載の建設機械において、
前記停止処理手段としての表示装置を有し、
前記表示装置は、前記第1位置検出手段の検出結果に基づいて、前記保持部材の移動を停止することを促す情報を表示する、
ことを特徴とする建設機械。
【請求項8】
請求項7に記載の建設機械において、
前記表示装置は、掘削作業および前記フックを使用する作業に対応した複数の画面を表示可能であり、
前記第1位置検出手段の検出結果に基づいて、前記表示装置に表示される前記複数の画面間の遷移が制限される、
ことを特徴とする建設機械。
【請求項9】
請求項6に記載の建設機械において、
旋回体と、
前記旋回体に俯仰動可能に設けられるフロントアタッチメントと、を備え、
前記第1位置検出手段により前記保持部材が前記保持位置に位置することが検出されると、前記停止処理手段は、前記フックの巻速度、前記フロントアタッチメントの動作速度のうち、少なくとも何れかの速度を制限する、
ことを特徴とする建設機械。
【請求項10】
請求項9に記載の建設機械において、
前記フック係留装置は、
前記保持部材が前記保持位置よりも前記フックに近い境界位置に位置することを検出する第2位置検出手段を有し、
前記第2位置検出手段により前記保持部材が前記境界位置に位置することが検出されると、前記停止処理手段は、前記フックの巻動作、前記フロントアタッチメントの動作のそれぞれが停止する、
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フック係留装置及びそれを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、例えば特許文献1には、「フックなどの吊り部材がシーブ側へ所定の距離移動したことを検出する移動検出手段を設け、移動検出手段の信号により吊り部材の巻上げまたはブームやリーダの倒伏の少なくともいずれか一方の作動をロックさせる制御装置を備えた建設機械」が記載されている。この特許文献1によれば、誤操作などによって吊り部材が巻上げられることを未然に防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-231394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャブ内のオペレータにとって、フックが係留状態になっていることを目視により直接確認しづらい場合がある。また、特許文献1では、フックが所定の距離だけ移動すると、移動検出手段の信号により建設機械の動作にロックが掛かる構成となっているため、建設機械の構成や機種に応じてロックが掛かるタイミングを任意に調整できない。そのため、特許文献1に記載の格納装置は、建設機械の多様な構成に柔軟に対応できないといった課題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、建設機械の多様な構成に対応可能なフック係留装置及びそれを備えた建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、建設機械に吊り下げられたフックを係留するフック係留装置であって、前記フックを保持すると共に、前記フックの巻動作に伴って移動可能に構成された保持部材を有し、前記保持部材が所定の保持位置まで移動することで、前記フックが所定の係留位置で係留するように構成され、前記保持位置は調整可能に構成されている、ことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、建設機械の多様な構成に対応可能なフック係留装置及びそれを備えた建設機械を提供できる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るアースドリル機の側面図である。
図2】フックがフック係留装置に係留されている状態を示す図である。
図3】フック係留装置の平面図である。
図4】フック係留装置の正面図である。
図5図3のV-V断面図である。
図6】フック係留装置の左側面図である。
図7】フック係留装置の右側面図である。
図8図4のVIII-VIII断面図である。
図9】(a)はインナーサポートがアウタサポートに正常に格納されている状態(係留状態)を示す図、(b)はインナーサポートがアウタサポートから所定位置を越えて引き出された状態(過巻状態)を示す図である。
図10】アースドリル機の電気的構成の概要を示すブロック図である。
図11】ウインチ駆動モータ及び各種油圧シリンダの制御手順を示すフローチャートである。
図12】表示装置の処理の手順を示すフローチャートである。
図13】(a)は表示装置の掘削作業画面の一例を示す図、(b)は表示装置の補巻作業画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係るアースドリル機1の側面図である。建設機械の一例であるアースドリル機1は、走行体2と、走行体2上に旋回可能に支持された旋回体3と、旋回体3に支持されたフロントアタッチメント100と、を備える。走行体2及び旋回体3は、本体10を構成する。但し、本体10は、フロントアタッチメント100を支持可能であれば、走行体2及び旋回体3の組み合わせに限定されない。また、フロントアタッチメント100はブーム式に限定されず、例えば、リーダ式のフロントアタッチメントでもよい。
【0011】
走行体2は、走行モータ(図示省略)が回転駆動することによって走行する。旋回体3は、旋回モータ(図示省略)が回転駆動することによって、走行体2に対して旋回する。また、旋回体3は、キャブ4と、カウンタウェイト5と、リヤウインチ6と、フロントウインチ7と、を備える。
【0012】
キャブ4は、旋回体3の前端に設けられている。キャブ4には、アースドリル機1のオペレータが搭乗する内部空間が形成されている。また、キャブ4の内部空間には、アースドリル機1を操作する各操作装置(レバー、スイッチなど)や各種情報を表示する表示装置70(図10参照)が設けられている。そして、キャブ4の内部空間に搭乗したオペレータが操作装置を操作することによって、走行体2が走行し、旋回体3が旋回し、フロントアタッチメント100が動作する。フロントアタッチメント100が動作すると、掘削作業及び吊作業が行われる。
【0013】
カウンタウェイト5は、旋回体3の後端に設けられている。カウンタウェイト5は、フロントアタッチメント100及び荷物(図示省略)の重量とのバランスをとる重量物である。リヤウインチ6は、リヤウインチ駆動モータ60b(図10参照)によって回転駆動されて、主巻ロープ116を巻上げ或いは巻下げる。フロントウインチ7は、フロントウインチ駆動モータ60a(図10参照)によって回転駆動されて、補巻ロープ117を巻上げ或いは巻下げる。これにより、荷物を吊上げ或いは吊下げできる。なお、主巻ロープ116は必ずしもリヤウインチ6により巻上げ或いは巻下げられなくても良く、フロントウインチ7により巻上げ或いは巻下げられても良い。
【0014】
フロントアタッチメント100は、ブーム110、フロントフレーム112、ロータリフレーム113、主巻シーブ114、補巻シーブ115、ケリーバ118、ロータリドライブ120、ブーム起伏シリンダ124、ブーム伸縮シリンダ(図示省略)、フロントフレーム起伏シリンダ125、ロータリフレーム起伏シリンダ126、スラスタシリンダ127を含む。
【0015】
ブーム110は、旋回体3に起伏可能に支持されている。本実施形態において、ブーム110はテレスコピックブーム式タイプであるが、その他にラチスブーム式タイプであっても良い。ブーム110は、ブーム起伏シリンダ124の伸縮動作に伴って、旋回体3に対して起立または倒伏する。
【0016】
フロントフレーム112は、ブーム110にフロントフレーム起伏シリンダ125を介して起伏可能に支持されている。フロントフレーム112の角度は、フロントフレーム起伏シリンダ125の伸縮(操作)により調整することができる。なお、フロントフレーム112の先端部には、補巻ロープ117をガイドするためのロープガイド130が設けられている。
【0017】
ロータリフレーム113は、フロントフレーム112の先端に、ロータリフレーム起伏シリンダ126を介して回動可能に設けられている。ロータリフレーム113の角度は、ロータリフレーム起伏シリンダ126の伸縮(操作)により調整することができる。このロータリフレーム113に、ロータリドライブ120及びスラスタシリンダ127が取り付けられている。
【0018】
ロータリドライブ120は、スラスタシリンダ127の伸縮動作に伴って昇降する。ケリーバ118は、長尺な管状の部材である。ケリーバ118は、主巻シーブ114の前端から垂下された主巻ロープ116の下端に吊下されており、ケリーバ118の先端にはドリリングバケット等の掘削ツール(図示省略)が取り付けられている。そして、ロータリドライブ120がケリーバ118を回転駆動することで、ケリーバ118の先端側に設けられる掘削ツールが地盤を掘削する。
【0019】
フック122は、補巻シーブ115の前端から垂下された補巻ロープ117の下端に吊下されている。フック122は、荷物を係止可能に構成されている。そして、フロントウインチ7で補巻ロープ117を巻上げると、フック122が上昇する。また、フロントウインチ7で補巻ロープ117を巻下げると、フック122が下降する。これにより、フック122に係止された荷物が昇降する。
【0020】
通常、アースドリル機1で掘削作業を行っている間、荷物の吊り作業は行われない。使用しないフック122がフリーな状態であると、掘削作業の邪魔になる可能性がある。そこで、アースドリル機1は、フック122を係留するためのフック係留装置30を備えている。
【0021】
図2は、フック122がフック係留装置30に係留されている状態を示す図である。図2に示すように、フック係留装置30の基端部は、旋回体3にピンを介して回動可能に取り付けられている。フック係留装置30の先端部は、係留ロープ135を介してフック122と間接的に係合している(連結している)。なお、フック122が小型の場合には、フック122をフック係留装置30の先端部に直接連結させても良い。
【0022】
フロントウインチ7で補巻ロープ117を巻上げて、補巻ロープ117に適切な張力を付与することで、補巻ロープ117が緩むことなくフック122がフック係留装置30に係留される。この状態を、本明細書では「係留状態」と言うことにする。フック122が係留状態となることで、フック122が掘削作業の邪魔になることが防止される。一方、補巻ロープ117が過度に巻上げられ、補巻ロープ117に過度な張力が付与された状態でフック122がフック係留装置30に係留された状態のことを、本明細書では「過巻状態」と言うことにする。また、フック122がフック係留装置30に係留されていない状態のことを、本明細書では「非係留状態」と言うことにする。
【0023】
(フック係留装置30)
次に、フック係留装置30の詳細構造について説明する。図3はフック係留装置30の平面図、図4はフック係留装置30の正面図、図5図3のV-V断面図、図6はフック係留装置30の左側面図、図7はフック係留装置30の右側面図、図8図4のVIII-VIII断面図である。
【0024】
図3図8に示すように、フック係留装置30は、アウタサポート(外装体)31と、インナーサポート(保持部材)40と、ロッド45と、リミットスイッチ50(第1位置検出手段)と、リミットスイッチ51(第2位置検出手段)と、を備える。
【0025】
アウタサポート31は、円筒状の部材から成り、フック係留装置30のケーシングを構成する。アウタサポート31は、基端側に円板状の底板35が取り付けられ、先端側に角フランジ34が取り付けられる。底板35には、一対の取付板36,37が設けられている。取付板36,37にはピン孔36a,37aが設けられており、ピン孔36a,37aにピン136を挿入することで、フック係留装置30が旋回体3に固定される(図2参照)。また、角フランジ34には、上下に2分割されたカバー32,33がボルト38及びナット39を介して取り付けられている(図7)。よって、アウタサポート31の先端側は、カバー32,33によって覆われている。
【0026】
インナーサポート40は、アウタサポート31に伸縮可能に収容される。インナーサポート40は、図5に示すように、パイプ状の胴体部40aと、胴体部40aの先端側に設けられた係合部40bと、胴体部40aの基端側に設けられたバネ受42と、を有する。係合部40bには、係留ロープ135(図2参照)を係止するための係止孔40cが設けられている。また、圧縮バネ41が胴体部40aの外周側に装着されており、圧縮バネ41はバネ受42と当接している。
【0027】
よって、インナーサポート40がアウタサポート31に収容された状態において、インナーサポート40は、圧縮バネ41(抑制手段)の付勢力により常時、縮退する方向(図5の左方向)に付勢されている。そして、インナーサポート40に対して、圧縮バネ41の付勢力に抗する方向(図5の右方向)に力が作用した場合(例えば、フック122を係留ロープ135を介して係合部40b(係止孔40c)に係合させた状態で、フロントウインチ7で補巻ロープ117が巻上げられた場合)、インナーサポート40は、圧縮バネ41の付勢力に抗して伸長する。
【0028】
ロッド45は、丸棒状の部材から成り、アウタサポート31の上面に配置される。ロッド45は、丸みを帯びた三角形状の連結板43を介してインナーサポート40と一体的に固定されている(図7)。図7に示す通り、連結板43は、インナーサポート40の軸方向から見てインナーサポート40の胴体部40aとロッド45とを覆う程度の大きさを有する。そして、ロッド45は、連結板43の上部に設けられた連結孔43aに挿入され、一対のナット44a,44bにより連結板43に固定される。この構成により、インナーサポート40が軸方向に沿って伸縮すると、ロッド45はインナーサポート40と連動して軸方向に移動する。この際、ロッド45が、角フランジ34の上部に設けられた位置決め孔34a(図8)に挿通されることで、インナーサポート40の軸周りの回転が防止される。
【0029】
ロッド45の基端側にはネジ部45aが形成されている。このネジ部45aには、L字状のストライカ46がナット47a,47bを介して固定され、かつ、L字状のストライカ48がナット49a,49bを介して固定されている。よって、ストライカ46,48は、ロッド45と一体で移動する。そして、ロッド45が所定位置まで移動すると、ストライカ46,48がリミットスイッチ50,51を作動させる。
【0030】
ここで、ストライカ46,48の位置は、ナット47a,47b,49a,49bを緩めることで調整できる。ストライカ46,48の位置を調整することで、リミットスイッチ50,51の作動タイミングが変化する。ゆえに、建設機械の機種や構造に応じて、ストライカ46,48の位置を調整することで、インナーサポート40の好適な位置を検出できる(詳細後述)。ネジ部45aと、ネジ部45aに挿入されたストライカ46,48と、ナット47a,47b,49a,49bとは、本発明の調整手段の一例である。勿論、ストライカ46,48の位置を調整する代わりに、リミットスイッチ50,51の位置を調整することで、インナーサポート40の検出位置を調整しても良い。
【0031】
次に、インナーサポート40の動作と、リミットスイッチ50,51の作動タイミングについて説明する。図9(a)はインナーサポート40がアウタサポート31に正常に格納されている状態(係留状態)を示す図、図9(b)はインナーサポート40がアウタサポート31から所定位置を越えて引き出された状態(過巻状態)を示す図である。
【0032】
図9(a)に示す係留状態では、インナーサポート40は圧縮バネ41の付勢力に抗して伸長するが、補巻ロープ117に適切な張力が付与されているため、インナーサポート40は、第1位置(保持位置)に保持されている。この係留状態では、ストライカ48がリミットスイッチ50を押圧するため、リミットスイッチ50が作動する(オン)。しかし、ストライカ46はリミットスイッチ51を押圧していないため、リミットスイッチ51は作動していない(オフ)。
【0033】
図9(b)に示す過巻状態では、インナーサポート40は、圧縮バネ41の付勢力に抗してさらに伸長する。そのため、インナーサポート40は、図9(b)に示す第2位置まで引き出される。なお、第2位置(境界位置)は、第1位置より長さLだけインナーサポート40が引き出された位置である。この過巻状態では、ストライカ48がリミットスイッチ50を押圧するため、リミットスイッチ50が作動する(オン)。さらに、ストライカ46がリミットスイッチ51を押圧するため、リミットスイッチ51が作動する(オン)。つまり、リミットスイッチ50とリミットスイッチ51とが同時に作動する。
【0034】
よって、コントローラ80は、2つのリミットスイッチ50,51の検出信号を監視すれば、インナーサポート40のアウタサポート31に対する相対位置(所定位置)を検出することができる。なお、フック122がフック係留装置30に係留されていない場合(即ち、非係留状態)では、インナーサポート40が引っ張られていないため、インナーサポート40は、図9(a)よりさらに左側に位置している。そのため、リミットスイッチ50,51が作動しない。よって、コントローラ80は、リミットスイッチ50,51が何れもオフの場合、フック122がフック係留装置30に係留されていない状態であることを判定できる。
【0035】
次に、アースドリル機1の電気的構成について説明する。図10は、アースドリル機1の電気的構成の概要を示すブロック図である。
【0036】
コントローラ80は、図示しないが、各種演算等を行うCPU、CPUによる演算を実行するためのプログラムを格納するROMやHDD等の記憶装置、CPUがプログラムを実行する際の作業領域となるRAM、及び他の機器とデータを送受信する際のインタフェースである通信インタフェースを含むハードウェアと、記憶装置に記憶され、CPUにより実行されるソフトウェアとから構成される。コントローラ80の各機能は、CPUが、記憶装置に格納された各種プログラムをRAMにロードして実行することにより、実現される。
【0037】
コントローラ80の入力側には、各種センサ(図示省略)が接続されているほか、リミットスイッチ50,51が接続されている。コントローラ80からの操作信号の出力によりウインチ駆動モータ60a,60b、各種油圧シリンダが作動し、表示装置70に情報が表示される。ウインチ駆動モータ60aは、フロントウインチ7を駆動するためのものであり、ウインチ駆動モータ60bはリヤウインチ6を駆動するためのものである。また、各種油圧シリンダとは、具体的には、ブーム起伏シリンダ124、ブーム伸縮シリンダ、フロントフレーム起伏シリンダ125、ロータリフレーム起伏シリンダ126、スラスタシリンダ127である。
【0038】
コントローラ80は、リミットスイッチ50,51から入力された検出信号に基づいて、ウインチ駆動モータ60a,60bの駆動及び各種油圧シリンダの駆動を制御すると共に、表示装置70の表示制御を行っている。
【0039】
(フロントアタッチメント100の駆動制御)
図11は、コントローラ80によるウインチ駆動モータ60a,60b及び各種油圧シリンダの制御手順を示すフローチャートである。図11に示すように、コントローラ80は、リミットスイッチ50がオンしたか否かを判定し(ステップS11)、リミットスイッチ50がオンした場合(ステップS11/Yes)、リミットスイッチ51がオンしたか否かを判定する(ステップS12)。
【0040】
次いで、コントローラ80は、リミットスイッチ51がオンしていないと判定した場合(ステップS12/No)、即ち、フック122が係留状態の場合(インナーサポート40が第1位置の場合)、コントローラ80は、ウインチ駆動モータ及び各種油圧シリンダの動作を制限する(ステップS13)。具体的には、例えば、コントローラ80は、ウインチ駆動モータ60aに供給する圧油の流量を制限して、フロントウインチ7が高速で回転しないように速度を制限する。また、コントローラ80は、ブーム起伏シリンダ124及びフロントフレーム起伏シリンダ125に供給する圧油の流量を制限して、ブーム110及びフロントフレーム112が高速で俯仰動しないように動作を制限する。これにより、誤動作による過巻停止の衝撃が緩和される。なお、コントローラ80は、アクチュエータに供給する圧油の流量を制限する代わりに、圧油の供給圧力を制限してフロントウインチ7、ブーム100、及びフロントフレーム112の動作を制限しても良い。また、コントローラ80は、フロントウインチ7、ブーム100、及びフロントフレーム112の動作範囲自体を制限しても良い。例えば、フロントウインチ7による巻上げ量を制限する、あるいは、ブーム110及びフロントフレーム112の俯仰角度を制限するなどの動作制限を行っても良い。何れの場合であっても、誤動作による衝撃が緩和される。
【0041】
一方、コントローラ80は、リミットスイッチ51がオンしていると判定した場合(ステップS12/Yes)、即ち、フック122が過巻状態の場合(インナーサポート40が第2位置の場合)、コントローラ80は、ウインチ駆動モータ及び各種油圧シリンダの動作を停止する(ステップS14)。具体的には、コントローラ80は、ウインチ駆動モータ60aへの圧油の供給を停止して、フロントウインチ7が回転しないようにする。また、コントローラ80は、ブーム起伏シリンダ124及びフロントフレーム起伏シリンダ125への圧油の供給を停止して、ブーム110及びフロントフレーム112が俯仰動しないようにする。
【0042】
(表示装置70の表示制御)
図12は、コントローラ80による表示装置70の処理の手順を示すフローチャートである。図12に示すように、コントローラ80は、リミットスイッチ50がオンしたか否かを判定する(ステップS21)。リミットスイッチ50がオンしていない場合(ステップS21/No)、コントローラ80は、フック122が非係留状態である旨を表示装置70に表示する(ステップS22)。具体的には、コントローラ80は、表示装置70の領域V1に「フック係留」の文字を表示し、領域V2の丸印を消灯する(図13(a)参照)。キャブ4内にいるオペレータは、領域V2の丸印が消灯していることから、フック122がフック係留装置30に係留されていない状態、即ち、フック122がフリーの状態であることを認識できる。
【0043】
リミットスイッチ50がオンしている場合(ステップS21/Yes)、コントローラ80は、リミットスイッチ51がオンしたか否かを判定する(ステップS23)。リミットスイッチ51がオンしていない場合(ステップS23/No)、コントローラ80は、フック122が係留状態である旨を表示装置70に表示する(ステップS24)。具体的には、コントローラ80は、表示装置70の領域V1に「フック係留」の文字を表示し、領域V2の丸印を橙色で点灯する(図13(a)参照)。キャブ4内にいるオペレータは、領域V2の丸印が橙色で点灯していることから、フック122がフック係留装置30に正常に係留された状態(係留状態)であることを認識できる。
【0044】
一方、リミットスイッチ51がオンしている場合(ステップS23/No)、コントローラ80は、フック122が過巻状態である旨を表示装置70に表示する(ステップS25)。具体的には、コントローラ80は、表示装置70の領域V1に「フック係留」の文字を表示し、領域V2の丸印を赤色で点灯する(図13(a)参照)。キャブ4内にいるオペレータは、領域V2の丸印が赤色で点灯していることから、フック122が過巻状態(フック122が過度に引っ張られている状態)であることを認識できる。
【0045】
図13(a)は、表示装置70の掘削作業画面の一例を示す図、図13(b)は、表示装置70の補巻作業画面の一例を示す図である。掘削作業画面では、上述したように、リミットスイッチ50,51のオンまたはオフに応じて、領域V2の表示態様が変化する。より詳細には、フック122が非係留状態の場合、領域V2の丸印は消灯しており、フック122が係留状態の場合、領域V2の丸印が橙色で点灯し、フック122が過巻状態の場合、領域V2の丸印が赤色で点灯する。
【0046】
一方、補巻作業画面では、フック122をフック係留装置30に係留する必要がないので、リミットスイッチ50,51はオフである。よって、領域V2の丸印は消灯している。
【0047】
ここで、本実施形態では、コントローラ80が、作業の種類に応じて、掘削作業画面(図13(a))から補巻作業画面(図13(b))への遷移を制限するよう、表示装置70の画面表示を制御している。具体的には、アースドリル機1による作業が掘削作業から吊作業に切り換わった場合において、コントローラ80は、掘削作業画面から補巻作業画面に画面を遷移する際、フック122の係留状態が解除されていない場合には、画面の遷移を制限している。なお、「画面の遷移を制限する」とは、画面遷移しない場合と、何らかのアラートを出してオペレータに注意喚起しながら画面遷移する場合との両方を含む意味である。
【0048】
補巻作業ではフック122で荷物を吊る必要があるため、フック122がフック係留装置30に係留されていない状態が望ましい。そこで、本実施形態では、掘削作業画面から補巻作業画面に画面が遷移するタイミングで、コントローラ80がリミットスイッチ50,51のオン/オフの状態に基づいて、フック122が非係留状態(図12のステップS21でNo)であるか否かを判定し、フック122が非係留状態となっていない場合に、掘削作業画面から補巻作業画面への遷移をしないことで、画面遷移を制限し、オペレータに注意喚起をしている。具体的には、フック122が非係留状態のまま補巻作業に移ろうしていないかどうかを注意する。
【0049】
また、補巻作業画面から掘削作業画面に画面を遷移する際、フック122がフック係留装置30に係留されていない場合(図12のステップS21でNo)には、コントローラ80は、画面遷移自体はするが、オペレータにフック122をフック係留装置30に係留するよう促すようにすることで、画面遷移を制限している。
【0050】
このように、画面の遷移に制限を設けることで、フック122がこれから行う作業に適した状態、即ち、フック122がフック係留装置30に係留されるべきか、或いはフック122のフック係留装置30への係留が解除されるべきか、をオペレータに報知している。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0052】
本実施形態に係るフック係留装置30は、ロッド45に設けられたストライカ46,48の位置を調整できる構成であるため、ストライカ46,48の位置を建設機械の機種や構成の違い(フックの大きさや重量など)に応じて調整することにより、フック122の適切な係留状態を検出できる。そのため、本実施形態に係るフック係留装置30は、建設機械の機種や構成の違いに柔軟に対応でき、使い勝手の良いものとなる。
【0053】
また、2つのリミットスイッチ50,51により、フック122が係留状態にあるのか、過巻状態にあるのかを検出できる。そして、それぞれの状態を表示装置70に表示することにより、オペレータは視覚的にフック122が適切に係留されているか否かを知ることができる。よって、キャブ4内からフック122の状態を目視確認し難い場合であっても、表示装置70を見るだけで、フック122の正確な状態を把握できる。
【0054】
また、オペレータは、表示装置70の表示態様によって、フック122が係留状態であることを正しく確認できるため、安心して掘削作業に専念できる。一方、フック122が過巻状態である旨が報知された場合には、オペレータは、ブーム110やフロントウインチ7を駆動して、フック122が適切な係留状態になるように調整できる。よって、補巻ロープ117に過度な張力が付与された状態を回避でき、部品の破損を未然に防ぐことができる。
【0055】
しかも、本実施形態は、リミットスイッチ50,51によりフック122の係留状態を検出する構成であるため、構成が簡単であるうえ、フック122の係留状態及び過巻状態を精度良く検出できる。仮に、フックと本体を繋ぐ連結部にロードセル(センサ)を設け、ロードセルで検出される荷重からフックに作用する張力を判定して、フックが所定位置にあるか否かを判定する構成の場合、センサが高価で装置も大掛かりとなってしまう。
【0056】
この点、本実施形態は、フック122の巻上げまたは巻下げに伴ってインナーサポート40が移動し、インナーサポート40の位置をリミットスイッチ50,51で検出するという構成であるため、安価で製造でき、センサを調整するような面倒な作業は必要ない。また、リミットスイッチ50,51の位置やストライカ(当接部)46,48の位置を物理的に移動させれば、容易に第1位置(保持位置)や第2位置(境界位置)を調整できるため、使い勝手が良い。
【0057】
また、表示装置70に表示される掘削作業画面から補巻作業画面に画面が遷移する際、フック係留装置30の状態に応じて、画面の遷移が制限されるため、オペレータに注意喚起を促すことができ、オペレータの作業性が向上する。
【0058】
また、フック係留装置30の状態に応じて、フロントアタッチメント100の動作を制限する構成としたので、不適切な作業が防止され、作業性の向上が図られる。具体的には、ウインチ6,7の巻上げ速度を制限したり、フロントアタッチメント100の倒伏速度を制限することで、フック122の過剰な巻上げを防止できる。さらに、フック122が過巻状態の場合、フロントアタッチメント100の動作が停止するため、予期せぬトラブルを防止でき、作業性がより一層向上する。また、フック122が過巻状態になると、フロントアタッチメント100の動作を制限した状態から動作が停止するため、誤動作による過巻状態急停止の衝撃が緩和され、安全性がより一層向上する。
【0059】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であり、特許請求の範囲に記載された技術思想に含まれる技術的事項の全てが本発明の対象となる。前記実施形態は、好適な例を示したものであるが、当業者ならば、本明細書に開示の内容から、各種の代替例、修正例、変形例あるいは改良例を実現することができ、これらは添付の特許請求の範囲に記載された技術的範囲に含まれる。
【0060】
例えば、アースドリル機1のキャブ4内に設けた表示装置70にフック122の係留状態を表示する構成を説明したが、この構成に代えて、タブレット等の携帯端末や外部端末に表示する構成にしても良い。この場合、アースドリル機1のキャブ4から離れた場所にいる現場作業員や現場管理者が当該端末を用いてフック122が正しく係留されているかを知ることができるため、利便性が高まる。
【0061】
また、コントローラ80は、リミットスイッチ50,51からの検出信号に基づいて、補巻ロープ117が緩んでいると判定した場合(例えば、リミットスイッチ50がオンした後、オフになった場合)、フロントウインチ7を駆動して補巻ロープ117を自動的に巻上げるようにしても良い。例えば、フック122が係留状態であると判定された場合に、オペレータは、キャブ4内に設けられたモード選択ボタンを押して、フック自動係留モードに設定する。フック自動係留モードが開始すると、コントローラ80は、リミットスイッチ50,51を監視する。フック自動係留モード中に、オペレータが杭芯合わせなどで、ブーム110やフロントフレーム起伏シリンダ125の微動作を行った場合には、補巻ロープ117が緩む場合があり得る。補巻ロープ117が緩むと、インナーサポート40が圧縮バネ41の付勢力により縮退する方向に移動する。すると、リミットスイッチ50がオンからオフに変化する。
【0062】
コントローラ80は、フック自動係留モード中に、リミットスイッチ50がオンからオフに変化した場合に、補巻ロープ117が緩んだと判定できるため、フロントウインチ7を駆動して補巻ロープ117を自動的に巻上げる。そして、再びリミットスイッチ50がオンとなったことに基づいて、フロントウインチ7の駆動を停止する。このようにすれば、補巻ロープ117が何らかの理由で緩んだ場合においても、自動的にフック122を係留状態にすることができるため、緩んだ補巻ロープ117が掘削作業に邪魔になるのを防止できる。
【0063】
また、表示装置70にフック係留状態の表示を行う構成に代えて、例えば、ランプ等の表示装置を用いてフック係留状態を表示しても良い。この場合、フック122の係留状態に応じて異なるランプが点灯する構成としても良いし、1つのランプで点灯する色を変更する構成としても良い。
【0064】
また、インナーサポート40の位置を3カ所以上で検出したい場合には、リミットスイッチとストライカとを3つ以上設ければ良い。この場合、係留状態と過巻状態のほか、任意の状態を複数検出できるため、よりきめ細かくオペレータにフック係留装置の状態を報知でき、作業効率の向上を図ることができる。
【0065】
なお、上記実施形態では、建設機械の一例として、アースドリル機を例示したが、本発明は、これに限らず、クローラクレーン、ホイールクレーン、トラッククレーン、ラフテレーンクレーン、オールテレーンクレーン等の他の移動式クレーンに加えて、タワークレーン、天井クレーン、ジブクレーン、引込みクレーン、スタッカークレーン、門型クレーン、など、フックが吊り下げられた建設機械に適用可能である。
【0066】
また、リミットスイッチ50,51等を用いずに、インナーサポート40の移動範囲を物理的に規制するような構成を用いても、フック122の係留状態(保持位置)を好適に調整できる。
【符号の説明】
【0067】
1 アースドリル機
2 走行体
3 旋回体
4 キャブ
5 カウンタウェイト
6 リヤウインチ
7 フロントウインチ
10 本体
30 フック係留装置(保持部材)
31 アウタサポート
32,33 カバー
34 角フランジ
34a 位置決め孔
35 底板
36,37 取付板
36a,37a ピン孔
38 ボルト
39 ナット
40 インナーサポート(保持部材)
40a 胴体部
40b 係合部
40c 係止孔
41 圧縮バネ(抑制手段)
42 バネ受
43 連結板
43a 連結孔
44a,44b ナット
45 ロッド
45a ネジ部
46 ストライカ(当接部)
47a,47b ナット
48 ストライカ(当接部)
49a,49b ナット
50,51 リミットスイッチ(第1位置検出手段、第2位置検出手段)
70 表示装置
80 コントローラ(停止処理手段)
100 フロントアタッチメント
110 ブーム
112 フロントフレーム
113 ロータリフレーム
114 主巻シーブ
115 補巻シーブ
116 主巻ロープ
117 補巻ロープ
118 ケリーバ
120 ロータリドライブ
122 フック
124 ブーム起伏シリンダ
125 フロントフレーム起伏シリンダ
126 ロータリフレーム起伏シリンダ
127 スラスタシリンダ
130 ロープガイド
135 係留ロープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13