(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001726
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】はんだ組成物および電子基板
(51)【国際特許分類】
B23K 35/363 20060101AFI20231227BHJP
B23K 35/26 20060101ALN20231227BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
B23K35/363 E
B23K35/363 C
B23K35/26 310A
C22C13/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100577
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 澄怜
(72)【発明者】
【氏名】市川 大悟
(72)【発明者】
【氏名】岡田 直樹
(57)【要約】
【課題】印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、前記(C)成分は、(C1)示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線が、複数の吸熱ピークを有し、かつ、前記吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にあるアミド化合物を含有する、はんだ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、
前記(C)成分は、(C1)示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線が、複数の吸熱ピークを有し、かつ、前記吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にあるアミド化合物を含有する、
はんだ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記DSC曲線が、3つ以上の吸熱ピークを有する、
はんだ組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のはんだ組成物において、
前記吸熱ピークのうち、最も高い温度にある吸熱ピークが、190℃以上220℃以下の範囲にある、
はんだ組成物。
【請求項4】
請求項2に記載のはんだ組成物において、
前記吸熱ピークのうち、最も低い温度にある吸熱ピークが、120℃以上150℃以下の範囲にある、
はんだ組成物。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物および電子基板に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤など)を混練してペースト状にした混合物である(特許文献1参照)。このはんだ組成物では、印刷性およびはんだ付性とともに、リフロー工程でのプリヒート時におけるダレ(プリヒート時にはんだ組成物の塗布膜の形が崩れること)を抑制する性質(加熱時のダレ性)が求められる。また、近年、微小ランドへの実装が進んでいることから、加熱時のダレ性の更なる向上が求められる。しかしながら、加熱時のダレ性を向上させるために、はんだ組成物の粘度またはチクソ性を高くすると、はんだ組成物の印刷性が低下してしまう傾向にある。このように、印刷性と加熱時のダレ性を両立させることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、以下に示すはんだ組成物および電子基板が提供される。
[1](A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、
前記(C)成分は、(C1)示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線が、複数の吸熱ピークを有し、かつ、前記吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にあるアミド化合物を含有する、
はんだ組成物。
[2][1]に記載のはんだ組成物において、
前記DSC曲線が、3つ以上の吸熱ピークを有する、
はんだ組成物。
[3][1]または[2]に記載のはんだ組成物において、
前記吸熱ピークのうち、最も高い温度にある吸熱ピークが、190℃以上220℃以下の範囲にある、
はんだ組成物。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のはんだ組成物において、
前記吸熱ピークのうち、最も低い温度にある吸熱ピークが、120℃以上150℃以下の範囲にある、
[5][1]~[4]のいずれかに記載のはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備える、
電子基板。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物、並びに、これを用いた電子基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】調製例1で得られたアミド化合物のDSC曲線を示すグラフである。
【
図2】調製例2で得られたアミド化合物のDSC曲線を示すグラフである。
【
図3】比較例1で用いるチクソ剤AのDSC曲線を示すグラフである。
【
図4】比較例2で用いるチクソ剤BのDSC曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態のはんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有するものである。
【0009】
本実施形態によれば、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れるはんだ組成物が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
すなわち、(C1)示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線が、複数の吸熱ピークを有し、かつ、前記吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にあるアミド化合物により、印刷性を維持しつつ、加熱時のダレ性を向上できるメカニズムは、次の通りであると本発明者らは推察する。
まず、(C1)アミド化合物は、はんだ組成物のチクソ性に寄与するが、アミド化合物の吸熱ピークに応じて、チクソ性への寄与度が異なっている。また、チクソ性への寄与度は、はんだ組成物の温度によっても変化する。そして、本実施形態の(C1)成分においては、比較的に低温での吸熱ピークを有するとともに、130℃以上220℃以下の範囲にある、比較的に高温での吸熱ピークを有する。この比較的に高温での吸熱ピークと、比較的に低温での吸熱ピークとにより、はんだ組成物の温度によってチクソ性への寄与度を変えている。そして、本実施形態の(C1)成分であれば、印刷時には、印刷性に優れる範囲にチクソ比を調整でき、また、加熱時には、加熱ダレに優れる範囲にチクソ比を調整できる。以上のようにして、上記本発明の効果が達成されるものと本発明者らは推察する。
【0010】
[フラックス組成物]
まず、本実施形態に用いるフラックス組成物について説明する。本実施形態に用いるフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、以下説明する(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)チクソ剤を含有するものである。
【0011】
[(A)成分]
本実施形態に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジンおよびトール油ロジンなどが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。水素添加ロジンとしては、完全水添ロジン、部分水添ロジン、並びに、不飽和有機酸((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β-不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸など)の変性ロジンである不飽和有機酸変性ロジンの水素添加物(「水添酸変性ロジン」ともいう)などが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限以上であれば、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付け性を向上でき、はんだボールを十分に抑制できる。また、(A)成分の配合量が前記上限以下であれば、フラックス残さ量を十分に抑制できる。
【0013】
[(B)成分]
本実施形態に用いる(B)活性剤としては、有機酸、非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤(ハロゲン系活性剤)、およびアミン系活性剤などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの中でも、(B1)有機酸を含有することが好ましい。また、(B)成分は、(B2)アミン系活性剤をさらに含有することが好ましい。
(B1)成分としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸などの他に、その他の有機酸が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、およびグリコール酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、およびジグリコール酸などが挙げられる。これらの中でも、活性作用の観点から、コハク酸、グルタル酸、ドデカン二酸などが好ましい。
その他の有機酸としては、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ダイマー酸、トリマー酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、アニス酸、クエン酸、およびピコリン酸などが挙げられる。これらの中でも、活性作用の観点から、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を用いることがより好ましい。
また、微小ランドでのはんだ溶融性の向上の観点からは、複数の有機酸を併用することが好ましく、コハク酸、グルタル酸、ドデカン二酸、および3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を併用することが特に好ましい。
【0014】
(B1)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上7質量%以下であることが特に好ましい。(B1)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0015】
(B2)成分としては、イミダゾリン類(2-フェニルイミダゾリンなど)、アミン類(エチレンジアミンなどのポリアミンなど)、アミン塩類(トリメチロールアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミンなどのアミンやアミノアルコールなどの有機酸塩や無機酸塩(塩酸、硫酸、臭化水素酸など))、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)、アミド系化合物などが挙げられる。具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩(塩酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、セバシン酸塩など)、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、これらのアミンの臭化水素酸塩などが挙げられる。これらの中でも、活性作用の観点から、イミダゾリン類が好ましく、2-フェニルイミダゾリンが特に好ましい。
また、微小ランドでのはんだ溶融性の向上の観点からは、(B1)成分と(B2)成分を併用することが好ましく、(B1)成分と、2-フェニルイミダゾリンを併用することが特に好ましい。
【0016】
(B2)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上7質量%以下であることが特に好ましい。(B2)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0017】
(B)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、3質量%以上25質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上15質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限以上であれば、活性作用を向上できる傾向にあり、他方、前記上限以下であれば、フラックス組成物の絶縁性を維持できる傾向にある。
【0018】
[(C)成分]
本実施形態に用いる(C)チクソ剤は、(C1)示差走査熱量測定(DSC)によるDSC曲線が、複数の吸熱ピークを有し、かつ、前記吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にあるアミド化合物を含有することが必要である。このような(C1)成分であれば、印刷性を維持しつつ、加熱時のダレ性を向上できる。ここで、DSC曲線は、適宜公知の示差走査熱量計を用いて測定でき、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量計「DSC6200」を用いて測定できる。
【0019】
DSC曲線が、複数の吸熱ピークを有さない場合、印刷性と加熱時のダレ性との両立はできない。
DSC曲線は、同様の観点から、3つ以上の吸熱ピークを有することが好ましく、印刷時のダレ性と加熱時のダレ性とのバランスの観点から、3つの吸熱ピークを有することが特に好ましい。
【0020】
吸熱ピークの少なくとも1つが、130℃以上220℃以下の範囲にない場合には、加熱時のダレを抑制できない。
吸熱ピークのうち、最も高い温度にある吸熱ピークは、190℃以上220℃以下の範囲にあることが好ましい。このような吸熱ピークを有することにより、加熱時のダレをより確実に抑制できる。また、同様の観点から、最も高い温度にある吸熱ピークは、200℃以上220℃以下の範囲にあることがより好ましく、210℃以上220℃以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0021】
吸熱ピークのうち、最も低い温度にある吸熱ピークは、印刷時のダレをより確実に抑制するという観点から、120℃以上150℃以下の範囲にあることが好ましく、125℃以上140℃以下の範囲にあることがより好ましく、125℃以上135℃以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0022】
DSC曲線が、複数の吸熱ピークを3つ有する場合、低温側から2つ目の吸熱ピークは、150℃以上190℃以下の範囲にあることが好ましい。このような吸熱ピークを有することにより、印刷時のダレ性と加熱時のダレ性とのバランスをとることができる。また、同様の観点から、低温側から2つ目の吸熱ピークは、160℃以上180℃以下の範囲にあることが好ましく、165℃以上175℃以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0023】
本実施形態において、印刷性を維持しつつ、加熱時のダレ性を向上するという観点で特に好適なDSC曲線は、次の条件を満たすことが好ましい。すなわち、DSC曲線が、3つの吸熱ピークを有し、かつ、低温側から1つ目の吸熱ピークは、125℃以上135℃以下の範囲にあり、低温側から2つ目の吸熱ピークは、165℃以上175℃以下の範囲にあり、低温側から3つ目の吸熱ピークは、210℃以上220℃以下の範囲にあることが好ましい。本実施形態においては、このような条件を満たす成分(以下、場合により(C1-1)成分ともいう)を含有することが特に好ましい。
【0024】
本実施形態においては、(C1)成分の2種以上を併用することが好ましい。このようにすれば、はんだ組成物の性状を更に好ましいものとできる。また、(C1-1)成分と、(C1-1)成分以外の(C1)成分とを併用することがより好ましい。
【0025】
この(C1)成分は、例えば、ヒドロキシ脂肪族モノカルボン酸を含む炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸、および、炭素数2から16のジアミンを縮合させることで作製できる。
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分のDSC曲線における吸熱ピークの温度が低くなる傾向にある。
炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分のDSC曲線における吸熱ピークの温度が低くなる傾向にある。
炭素数2から16のジアミンの中でも、炭素数の少ないものを用いるほど、(C1)成分のDSC曲線における吸熱ピークの温度が低くなる傾向にある。
【0026】
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸に対する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の配合量が多いほど、(C1)成分のDSC曲線における最も低い温度にある吸熱ピークの温度範囲が高くなる傾向にある。
炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸と、炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の合計のカルボキシル基の量と、炭素数2から16のジアミンのアミノ基の量は、等しいことが好ましい。これらの量が等しいときには、縮合反応が進行しやすい。
【0027】
縮合反応時の温度は、100℃以上250℃以下であることが好ましく、120℃以上210℃以下であることがより好ましく、150℃以上190℃以下であることが特に好ましい。この温度が高いほど、(C1)成分のDSC曲線における最も低い温度にある吸熱ピークの温度範囲が高くなる傾向にある。
縮合反応にかける時間は、1時間以上15時間以下であることが好ましく、3時間以上11時間以下であることがより好ましく、5時間以上8時間以下であることが特に好ましい。この時間が長いほど、(C1)成分のDSC曲線における最も低い温度にある吸熱ピークの温度範囲が高くなる傾向にある。
すなわち、(C1)成分のDSC曲線における吸熱ピークの数、最も高い温度にある吸熱ピークの温度範囲、並びに、最も低い温度にある吸熱ピークの温度範囲は、(i)(C1)成分の原料の種類および配合量を調整すること、(ii)縮合反応時の温度を調整すること、並びに、(iii)縮合反応にかける時間を調整することなどにより、適宜調整することができる。
【0028】
(C1)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上16質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(C1)成分の配合量が前記下限以上であれば、印刷時のダレおよび加熱時のダレを抑制できる。(C1)成分の配合量が前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることはなく、印刷不良を抑制できる。
【0029】
(C)成分は、(C1)成分以外のチクソ剤(以下、(C2)成分)を含有していてもよい。(C2)成分としては、硬化ひまし油、(C1)成分以外のアミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、およびガラスフリットなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上25質量%以下であることが好ましく、3質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上16質量%以下であることがさらに好ましく、6質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。(C)成分の配合量が前記下限以上であれば、チクソ性が得られ、印刷時のダレを抑制できる。(C)成分の配合量が前記上限以下であれば、チクソ性が高すぎることはなく、印刷不良を抑制できる。
【0031】
[溶剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらに溶剤を含有することが好ましい。ここで用いる溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の溶剤を用いることが好ましい。また、グリコール系溶剤が好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5-ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、およびジブチルマレイン酸などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
溶剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0033】
[酸化防止剤]
本実施形態のフラックス組成物においては、はんだ溶融性などの観点から、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。ここで用いる酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤を適宜用いることができる。酸化防止剤としては、硫黄化合物、ヒンダードフェノール化合物、およびホスファイト化合物などが挙げられる。これらの中でも、ヒンダードフェノール化合物が好ましい。
【0034】
ヒンダードフェノール化合物としては、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)]、N,N’-ビス[2-[2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチルカルボニルオキシ]エチル]オキサミド、および、N,N’-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}ヒドラジンなどが挙げられる。
【0035】
[他の成分]
本実施形態に用いるフラックス組成物には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、溶剤、および酸化防止剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、改質剤、つや消し剤、および発泡剤などが挙げられる。これらの添加剤の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0036】
[はんだ組成物]
次に、本実施形態のはんだ組成物について説明する。本実施形態のはんだ組成物は、前述の本実施形態のフラックス組成物と、以下説明する(D)はんだ粉末とを含有するものである。
フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0037】
[(D)成分]
本実施形態に用いる(D)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。また、このはんだ粉末におけるはんだ合金は、スズ(Sn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、アンチモン(Sb)、鉛(Pb)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズを主成分とする合金が好ましい。また、このはんだ合金は、スズ、銀および銅を含有することがより好ましい。さらに、このはんだ合金は、添加元素として、アンチモン、ビスマスおよびニッケルのうちの少なくとも1つを含有してもよい。本実施形態のフラックス組成物によれば、アンチモン、ビスマスおよびニッケルなどの酸化しやすい添加元素を含むはんだ合金を用いた場合でも、ボイドの発生を抑制できる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、300質量ppm以下であることが好ましい。
【0038】
鉛フリーのはんだ粉末の合金系としては、具体的には、Sn-Ag-Cu系、Sn-Cu系、Sn-Ag系、Sn-Bi系、Sn-Ag-Bi系、Sn-Ag-Cu-Bi系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Bi-Sb系、Sn-Ag-Bi-In系、Sn-Ag-Cu-Bi-In-Sb系などが挙げられる。
【0039】
(D)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、2μm以上35μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上32μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0040】
[はんだ組成物の製造方法]
本実施形態のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(D)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0041】
[電子基板]
次に、本実施形態の電子基板について説明する。本実施形態の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いたはんだ付け部を備えることを特徴とするものである。本発明の電子基板は、前記はんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装することで製造できる。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、およびジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0042】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、プリヒート温度は、140℃以上200℃以下であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。プリヒート時間は、60秒間以上120秒間以下であることが好ましい。ピーク温度は、230℃以上270℃以下であることが好ましく、240℃以上255℃以下であることがより好ましい。また、220℃以上の温度の保持時間は、20秒間以上60秒間以下であることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、およびInGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、並びに、気体レーザー(He-Ne、Ar、CO2、およびエキシマーなど)が挙げられる。
【実施例0044】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂A:水添酸変性ロジン(軟化点:124~134℃、酸価:230~245mgKOH/g)、商品名「パインクリスタルKE-604」、荒川化学工業社製
ロジン系樹脂B:完全水添ロジン(軟化点:79~88℃、酸価:158~173mgKOH/g)、商品名「フォーラルAX」、理化ファインテク社製
((B1)成分)
有機酸A:コハク酸
有機酸B:グルタル酸
有機酸C:ドデカン二酸
有機酸D:3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
((B2)成分)
アミン系活性剤:2-フェニルイミダゾリン
((C1)成分)
アミド化合物A:下記調製例1で得られたアミド化合物(DSC曲線において、低温側から1つ目の吸熱ピーク温度が128℃であり、2つ目の吸熱ピーク温度が170℃であり、3つ目の吸熱ピーク温度が216℃である)
アミド化合物B:下記調製例2で得られたアミド化合物(DSC曲線における低温側から1つ目の吸熱ピーク温度が136℃であり、2つ目の吸熱ピーク温度が171℃であり、3つ目の吸熱ピーク温度が195℃である)
((C2)成分)
チクソ剤A:エチレンビスオレイン酸アミド(DSC曲線において、低温側から1つ目の吸熱ピーク温度が78℃であり、2つ目の吸熱ピーク温度が88℃であり、3つ目の吸熱ピーク温度が121℃である)、商品名「スリパックスO」、日本化成社製
チクソ剤B:ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド(DSC曲線において、吸熱ピーク温度が112℃である)、商品名「スリパックスZHO」、日本化成社製
(他の成分)
アミン化合物:2-フェニルイミダゾリン
酸化防止剤:商品名「イルガノックス245」、BASF社製
溶剤:ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(2-エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、沸点:272℃)、日本乳化剤社製
((D)成分)
はんだ粉末:合金組成はSn-3.0Ag-0.5Cu、粒子径分布は15~25μm(IPC-J-STD-005Aのタイプ5に相当)、はんだ融点は217~220℃
【0045】
[調製例1]
攪拌器、温度計、および分水器を備えた反応装置に、水素添加ひまし油脂肪酸由来の12-ヒドロキシステアリン酸、および炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸を、それぞれ所定量ずつ加え、80~100℃に加温して溶融させた。その後、所定量のヘキサメチレンジアミンを加え、温度150℃~190℃で、窒素雰囲気下にて、5~8時間、脱水しながら縮合反応を行いアミド化させ、酸価5mgKOH/g以下のアミド化合物Aを得た。
【0046】
[調製例2]
使用する炭素数2から12の脂肪族ジカルボン酸の種類および配合量を変更するとともに、縮合反応時の温度および時間を変更した以外は、調製例1と同様にして、酸価5mgKOH/g以下のアミド化合物Bを得た。
【0047】
[アミド化合物の示差走査熱量測定(DSC)]
調製例1および2で得られたアミド化合物、並びに、チクソ剤Aおよびチクソ剤BのDSC曲線を、示差走査熱量計により、測定した。なお、測定時の条件については下記のとおりである。得られた結果を
図1、
図2、
図3および
図4にそれぞれに示す。
・示差走査熱量計:DSC6200(セイコーインスツル社製)
・試料:10mg
・測定雰囲気:窒素雰囲気
・測定温度:30℃から250℃
・昇温速度:20℃/min
【0048】
[実施例1]
ロジン系樹脂A31質量%、ロジン系樹脂B9質量%、有機酸A0.5質量%、有機酸B0.5質量%、有機酸C1質量%、有機酸D2.5質量%、アミン系活性剤5質量%、溶剤32.5質量%、酸化防止剤2質量%、およびアミド化合物A16質量%を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11質量%、溶剤1.2質量%およびはんだ粉末87.8質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0049】
[実施例2~9]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1~2]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0050】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(性状、加熱ダレ、印刷性)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)性状
はんだ組成物に光沢が有るか否かを目視で確認する。その後、はんだ組成物を、へらを用いて容器の中央と側面をかき混ぜ、滑らかさを確認する。そして、下記の基準に従って、性状を評価した。
◎:光沢および滑らかさに問題はない。
〇:光沢に問題ないが、滑らかさに若干問題がある。
△:光沢および滑らかさの少なくともいずれか一方に問題がある。
×:光沢および滑らかさのいずれにも問題がある。
(2)加熱ダレ
試験基板(両面銅張積層板)上に、0.1mmから1.2mmまで0.1mmピッチで配置しているパターン孔を有するメタルマスクを使用して、はんだ組成物を印刷して、温度150℃1分加熱した。加熱後の試験基板を観察し、パターン孔のうち、印刷されたはんだ組成物が一体にならない最小間隔を測定する。複数のパターン孔について、この測定を行い、その平均をとる。そして、下記の基準に従って、加熱ダレを評価した。
◎:最小間隔の平均が、0.2mm以下である。
○:最小間隔の平均が、0.2mm超0.3mm以下である。
△:最小間隔の平均が、0.3mm超0.4mm以下である。
×:最小間隔の平均が、0.4mm以上である。
(3)印刷性
試験基板(FR4基材、ソルダレジスト開口直径75μm)と、この試験基板に対応するパターンを有するメタルマスク(厚さ30μm、メタルマスク開口直径95μm、ピッチサイズ130μm)を使用した。試験基板上に印刷装置(製品名:SP-0601、パナソニック ファクトリー ソリューションズ(株)製)にて、はんだ組成物をメタル硬度90、印刷角度60℃のウレタンスキージで印刷した。
印刷後の試験基板を、金属顕微鏡を用いて観察し、はんだ組成物がCuランド上(9,800箇所)に転写されていない比率(未転写率)と、Cuランドが見えている部分の有無を観察し、以下の基準に従って、印刷性を評価した。
◎:はんだ組成物が、100%転写されている。
○:未転写率が、0.1%未満である。
△:未転写率が、0.1%以上0.5%未満である。
×:未転写率が、0.5%以上であるか、或いは、はんだ組成物が基板上に転写されず、Cuランドが見えている部分がある。
【0051】
【0052】
表1に示す結果からも明らかなように、本発明のはんだ組成物(実施例1~9)は、性状、加熱ダレ、および印刷性の全ての結果が良好であることが確認された。
従って、本発明のはんだ組成物によれば、印刷性と加熱時のダレ性の両方が優れることが確認された。