(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172607
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A62D 5/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A62D5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090440
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光明
(72)【発明者】
【氏名】村田 眞志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】中山 学
(57)【要約】
【課題】漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させる。
【解決手段】貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、
大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うことを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項2】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、
大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆う第1工程を有し、
前記第1工程の後に、前記堆積層上に空気泡の追加堆積層を形成する第2工程を有することを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項3】
前記第1工程終了後から設定時間後に前記第2工程を行うことを特徴とする請求項2に記載された液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項4】
前記第1工程終了後、前記堆積層上のアンモニアガスが設定量検知された時点で前記第2工程を行うことを特徴とする請求項2に記載された液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項5】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、
大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆う第1工程を有し、前記第1工程の後に、滞留している液体アンモニアに希釈水を送る第2工程を有することを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項6】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する装置であって、
大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を覆う空気泡の堆積層を形成する泡発生器と、
前記泡発生器を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記泡発生器が空気泡を放出するタイミングを断続的に制御することを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を図る方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体アンモニア貯蔵タンク又はそれに附設された配管などが不測の事態で破損し、液体アンモニアが漏洩した場合に、漏洩した液体アンモニアの表面にアンモニアガスを含有する気泡を形成せしめて、液体アンモニアの大気への蒸発拡散を抑制する方法が知られている(下記特許文献1参照)。
【0003】
この従来技術は、地表面等に滞留している液体アンモニアの液面に、水溶性泡形成剤の水溶液を散布する。これにより、前述の水溶液中の水が液体アンモニアを希釈する際の発熱で、アンモニアガスを内包する気泡が液体アンモニアの表面に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術によると、散布する水溶液中の水の量を調整して、適正な発熱量から、適正な気泡発生を促す必要がある。しかしながら、不測の事態で発生する液体アンモニアの漏洩現場では、現場の状況が様々であると共に緊急時の即応性が求められるので、このような煩雑な調整を行う必要がある従来技術は、現実的には採用し難い問題があった。
【0006】
また、前述した従来技術は、水溶性泡形成剤の水溶液を液体アンモニアの液面に散布した後、発熱によって液体アンモニア自体が発泡することでアンモニアガスを内包する気泡が形成される。これによると、水溶液を散布してから気泡が液体アンモニアの液面全域に形成されるまでには、相当の時間を要することになり、その間に、液体アンモニアの蒸発拡散が進行してしまう問題がある。すなわち、前述した従来技術は、漏洩した液体アンモニアに対して即効性の高い対処を行うことができない問題があった。
【0007】
また、前述した従来技術は、アンモニアガスを内包する気泡で液体アンモニアの表面全体が覆われたとしても、時間経過に伴って気泡が消失すると、直ちに内包されたアンモニアガスが大気拡散されることになり、時間経過とともに拡散抑止効果が低下してしまう問題がある。すなわち、前述した従来技術は、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができない問題があった。
【0008】
そして、液体アンモニアやアンモニアガスは、水への溶解性が高いため、通常の泡ではアンモニアガスが泡に対して溶解してしまい、泡に拡散抑止効果を長時間持続させることが困難な問題があった。
【0009】
本発明は、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、前述した従来技術の問題点を解消することを課題としている。すなわち、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができること、などが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
一つには、貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うことを特徴とする。
【0011】
また一つには、貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する装置であって、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、前記液体アンモニアの表面を覆う空気泡の堆積層を形成する泡発生器と、前記泡発生器を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記泡発生器が空気泡を放出するタイミングを断続的に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する本発明によると、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処が可能であり、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実施するための装置例を示した説明図。
【
図2】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法の工程例(第1例)を示した説明図。
【
図3】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法の工程例(第2例)を示した説明図。
【
図4】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法の工程例(第3例)を示した説明図。
【
図5】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実施するための他の装置例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0015】
本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置は、貯蔵施設又はその付帯設備等から漏洩した液体アンモニアを対象としている。ここでは、液化アンモニア(液安:NH3)とアンモニア水(安水:NH4OH)を総称して、液体アンモニアという。本発明の実施形態に係る方法によると、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うことで、大気圧下に滞留している液体アンモニアを大気から遮蔽する。
【0016】
この方法によると、漏洩した液体アンモニアの表面と大気との間に空気泡の堆積層が介在することで、液体アンモニアから蒸発したアンモニアガスが大気に拡散するのを効果的に抑止することができる。そして、この方法によると、空気泡の堆積量などを事前に設定して、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して効果的に堆積層を形成することができるので、漏洩現場で煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応が可能になる。
【0017】
また、この方法によると、空気泡の泡倍率を高めて、例えば、泡倍率が7倍以上、好ましくは40倍以上の高倍率の泡にすると、放出される空気泡の体積流量を高めることができるので、短時間に滞留している液体アンモニアの表面を空気泡で覆うことができ、即効性の高い対処が可能である。なお、ここでの泡倍率とは、泡水溶液の体積とそこから生成された空気泡の体積の体積比を示している。更に、空気泡は、粘度を調整することで消失し難い性質を持たせることができるので、これを必要な厚さに堆積させ、更に断続的に追加の空気泡を堆積させることで、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【0018】
図1は、前述した液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実行するための装置(液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置)1の構成例を示している。ここでは、設置施設として液体アンモニアの貯蔵タンクTを収容したタンク舎Tsを例にして説明するが、設置施設の形態は特にこれに限らない。特に、設置施設としては、タンク舎Tsの無い施設であっても構わない。
【0019】
図示の例では、液体アンモニアの貯蔵タンクTは、プール状の囲壁Wの底面に台座Pを介して設置されている。ここでは、既設の囲壁Wが装備されている例を示しているが、囲壁Wの無い施設では、液体アンモニアの漏洩が発生した後に、漏洩した液体アンモニアを囲むように囲壁Wを仮設するようにしてもよい。
【0020】
図示の例は、貯蔵タンクTやその周辺に設置される配管等の付帯設備(図示省略)から液体アンモニアが漏洩すると、プール状の囲壁Wの底面に液体アンモニアが滞留する。この滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層Dで覆うために、液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1は、囲壁Wの周囲に、単数又は複数の泡発生器10を備えている。
【0021】
泡発生器10は、供給管12にて供給された泡水溶液に対してアスピレーター式に吸引される空気やブロアによって送風される空気を当てて、物理的処理で空気泡を形成するものであり、発生した空気泡を滞留している液体アンモニアSに対して放出することで、滞留している液体アンモニアSの表面に堆積層Dを形成する。
【0022】
泡水溶液を生成する設備は、各種の形態での実施が可能である。
図1に示した例では、混合器20に、泡薬剤が貯留された泡薬剤貯留部21と希釈水が貯留された貯水槽22が接続されている。また、混合器20には、必要に応じて、増粘剤等の添加剤を加えるための添加剤槽23が接続されている。これに限らず、泡水溶液は、希釈水を用いずに、高粘度液体と泡薬剤の2液混合で形成することもできる。
【0023】
泡薬剤貯留部21に貯留された泡薬剤は、容積ポンプ21Pによって、所定量が注入管31を介して混合器20に送られる。ここでの泡薬剤は、泡消火器や洗剤などに使用される界面活性剤を用いることができ、炭化水素系界面活性剤やフッ素系界面活性剤などの界面活性剤を主成分とする水溶液を用いることができる。
【0024】
貯水槽22に貯留された希釈水は、容積ポンプ22Pによって、所定量が注入管32を介して混合器20に送られる。混合器20は、送られてきた泡薬剤(原液)と希釈水とを混合して、必要に応じて増粘剤等の添加剤を添加することで、泡水溶液を生成する。生成された泡水溶液は、流出管30を介して、各供給管12に送られる。供給管12に送られる泡水溶液の流量は、流出管30に設けられた流量調整弁30Vによって調整される。
【0025】
図1に示した液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1は、制御部40を備えている。制御部40は、容積ポンプ21P、22Pの作動を制御する。また、制御部40は、流出管30に設けた流量調整弁30Vの流量調整を行うと共に、供給管12に設けられる開閉弁12Vを開閉制御する。また必要に応じて、制御部40は、添加剤の添加量を調整する添加剤調整弁23Vを制御する。これによって制御部40は、泡発生器10が空気泡を放出するタイミング、空気泡の体積流量、空気泡の泡倍率、空気泡の耐久性(粘度)などを制御することができる。
【0026】
制御部40は、操作盤41からのマニュアル信号をよって、液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1の各種動作を制御することができる。また、タンク舎Ts内に監視カメラ42やアンモニアガスを検知できるガスセンサ43を設けて、監視カメラ42の監視画像やガスセンサ43の検出信号を受信することで、液体アンモニアの漏洩を検知して、液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1の動作を自動制御するようにしてもよい。この際、液体アンモニアの漏洩に対しての1回目の空気泡の放出に際しては、温度検知による放出を行うことができる。液体アンモニアの沸点は-33.34℃であるから、表面温度を検知して、表面温度が-50℃付近になった場合に、漏洩と判断して空気泡の放出を開始することができる。
【0027】
制御部40の制御例として、空気泡の放出タイミングの制御について説明する。
図2~
図4に示した例は、空気泡の放出タイミングを断続的に行うことで、大気圧下に滞留した液体アンモニアSの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させている。断続的な空気泡の放出に際しては、後述する各工程で放出を開始した後には、所定のタイミングで完全に放出を停止する。この際の停止のトリガーは、監視カメラ42の検知画像によって確認するか、或いは、ガスセンサ43の発報時間を集計し、徐々に発報のタイミングが長くなったことを確認するなどして、所定のタイミングで、操作盤41での手動操作又は自動操作で、放出を停止する。
【0028】
図2に示した例は、図示(a)で示した第1工程を有し、この第1工程では、大気圧下に滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層D1で覆う。そして、第1工程から所定時間後に、図示(b)で示した第2工程を行う。第2工程では、第1工程で形成した堆積層D1上に空気泡の追加堆積層D2を形成する。また、必要に応じて、第2工程から所定時間後に、図示(c)で示した第3工程を行う。第3工程では、第2工程で形成した堆積層D2上に空気泡の追加堆積層D3を形成する。ここで、第3工程は省いてもよいし、更に第3工程後に同様の工程を追加するようにしてもよい。この際、空気泡を断続的に放出するタイミングは、例えば、空気泡上にフロート(浮き)を設けて、フロートの上昇又は下降で空気泡の厚さ検知し、フロートが所定高さに達したときに、空気泡放出の開始または停止を判断することができる。
【0029】
ここで、第2工程又は第3工程を前工程実行後に行う間隔は、制御部40が備える計時機能(タイマー機能)を利用して、前工程終了後からタイマーによる設定時間後に次工程を行うようにしてもよいし、前工程終了後、堆積層D1(又は追加堆積層D2)上のアンモニアガスが所定量検知された時点で次工程を行うようにしてもよい。この際のアンモニアガス検知は、図示の例では、監視カメラ(赤外線カメラ)42やガスセンサ43によって行うことができる。
【0030】
より具体的には、例えば囲壁Wの壁面に空気泡の高さを識別するための基準となるスケールを設置しておき、それを監視カメラ42で撮影することで、空気泡の高さを識別することが可能となる。また、アンモニアガスを検知できるガスセンサ43によりアンモニアのガス漏れ量を常時検知し、制御部40でガス漏れ量を判断できるようにしてもよい。なお、空気泡を断続的に放出させるタイミング(第1工程終了から第2工程開始までの時間)としては、タイマーによる所定時間で構わないが、この所定時間としては、泡の還元時間を考慮するとよい。泡の還元時間とは、泡が水溶液に戻る時間のことであり、この時間に基づき、泡が所定量減ったタイミングで追加の泡を放出することが好ましい。
【0031】
図2に示した例によると、第1工程で形成した堆積層D1の空気泡が時間経過とともに一部消失して、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果が低下した段階で、第2工程による追加堆積層D2を堆積層D1の上に堆積させることで、低下した効果の回復を図ることができ、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続することができる。また、第3工程等の次工程を更に追加することで、長期間に渡って液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を継続させることができる。このように泡を断続的に放出することで、泡が減った際に追加の泡を供給でき、常に囲壁W内に、泡の積み上げ高さ(泡の堆積量)が、所定高さとなることを保持できるように制御する。
【0032】
図3に示した例は、図示(a)で示した第1工程では、大気圧下に滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層D01で覆い、第1工程から所定時間後に、図示(b)で示した第2工程で追加堆積層D02を堆積し、更に第2工程から所定時間後に、図示(c)で示した第3工程で追加堆積層D03を堆積する。ここでの追加堆積層D02と追加堆積層D03は、堆積層D01の空気泡に対して、耐久性(粘度)の高い空気泡を放出する。ここでの耐久性の調整は、
図1における添加剤調整弁23Vを制御して、増粘剤の添加量を調整することによって行うことができる。
【0033】
図3に示した例によると、第1工程で形成した堆積層D01による液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果が低下した段階で、第2工程(及び第3工程)で、耐久性の高い空気泡からなる追加堆積層D02(及び追加堆積層D03)を堆積させることで、長期間に渡って液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を継続させることができる。この際、追加堆積層D02(及び追加堆積層D03)を高粘度の空気泡にすることで、追加堆積層D02(及び追加堆積層D03)の堆積厚さを比較的小さくすることができ、第2工程(及び第3工程)の処理時間を短縮することができる。
【0034】
図4に示した例は、図示(a)で示した第1工程では、大気圧下に滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層D11で覆い、第1工程から所定時間後に、図示(b)で示した第2工程で追加堆積層D12を堆積し、更に第2工程から所定時間後に、図示(c)で示した第3工程で追加堆積層D13を堆積する。ここでは、第1工程の堆積層D11は、泡倍率の高い空気泡を堆積し、追加堆積層D12と追加堆積層D13を堆積層D11の空気泡に対して低い泡倍率の空気泡にする。
【0035】
図4に示した例によると、第1工程の堆積層D11では、高い泡倍率の空気泡で迅速に滞留した液体アンモニアSの表面を覆うことができ、第2工程の堆積層D12(及び第3工程の堆積層D13)では、比較的低い泡倍率の空気泡で気密性の高い遮断層を形成することができる。これによると、初期段階の処理を迅速に進めて第1段階での蒸発拡散抑止を行い、その後、段階的に気密性の高い空気泡の追加堆積層D12(追加堆積層D13)を堆積することで、遮蔽効果を徐々に高めることができる。
【0036】
図5は、
図1に示した液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1の変形例を示している。ここでは、貯水槽22に貯められた希釈水を、滞留している液体アンモニアSに加えて、滞留している液体アンモニアSを希釈することで、アンモニアガスの蒸発拡散を抑制する。この例では、滞留している液体アンモニアSが溜まった囲壁Wの底部に、給水管24を接続し、給水管24に設けた容積ポンプ24Pを作動させて、希釈水を滞留している液体アンモニアSに加える。
【0037】
この際、滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層Dで覆う第1工程を行った後に、滞留している液体アンモニアSに希釈水を加える第2工程を行う。この方法によれば、初期対応として、堆積層Dによる液体アンモニアの蒸発拡散抑制を迅速に行い、その後の対処として、滞留している液体アンモニアSを水で希釈することでアンモニアガスの発生能力を低下させる処理を行う。このような段階的な対処によっても、迅速且つ液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【0038】
なお、前述した説明では、液体アンモニアの貯蔵タンクTなどを囲む囲壁W内に空気泡の堆積層や追加堆積層を形成する例を示したが、貯蔵タンクTなどが設けられた施設の床面に、漏洩した液体アンモニアを回収するスロープを設け、スロープを流れる液体アンモニアを回収ピットに集め、回収ピット内に、空気泡の堆積層や追加堆積層を形成するようにしてもよい。このように回収ピットを設けると、少ない量の空気泡で効果的に液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うことができる。
【0039】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法によると、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。特に、第1工程後に第2工程を行うように、段階的な対処を実行することで、初期段階で優先すべき迅速性と、その後の蒸発拡散抑止効果の持続性の両立を図ることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置として説明したが、本実施形態の方法及び装置は、火災を消火する消火装置、例えば、プラント等に設置される高膨張泡消火設備などに適用することも可能であり、その際には、火災に対して、迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、火災の抑制効果を所定期間持続させることができるという、同等の効果を得ることが可能である。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1:液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置,
10:泡発生器,12:供給管,12V:開閉弁,
20:混合器,21:泡薬剤貯留部,22:貯水槽,
23:添加剤槽,23V:添加剤調整弁,
21P,22P,24P:容積ポンプ,24:給水管,
30:流出管,30V:流量調整弁,31,32,33:注入管,
40:制御部,41:操作盤,42:監視カメラ,43:ガスセンサ,
T:貯蔵タンク,Ts:タンク舎,W:囲壁,S:滞留している液体アンモニア,
D,D1,D01,D11:堆積層,
D2,D3,D02,D03,D12,D13:追加堆積層