IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 能美防災株式会社の特許一覧

特開2024-172608液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置
<>
  • 特開-液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置 図1
  • 特開-液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置 図2
  • 特開-液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172608
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 5/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A62D5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090441
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光明
(72)【発明者】
【氏名】村田 眞志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】中山 学
(57)【要約】
【課題】煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【解決手段】貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、大気圧下に滞留している液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うに際して、供給水と第1材料を混合する第1混合工程と、第1混合工程で生成された混合液に第2材料を混合する第2混合工程を有し、第2混合工程で生成された泡水溶液から空気泡を発生させ、堆積層を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、
大気圧下に滞留している液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うに際して、供給水と第1材料を混合する第1混合工程と、前記第1混合工程で生成された混合液に第2材料を混合する第2混合工程を有し、前記第2混合工程で生成された泡水溶液から空気泡を発生させ、前記堆積層を形成することを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項2】
前記第1材料と前記第2材料の一方が増粘剤であり他方が泡薬剤であることを特徴とする請求項1に記載された液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法。
【請求項3】
貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する装置であって、
泡発生器と、
前記泡発生器に泡水溶液を供給する泡水溶液生成部を備え、
前記泡水溶液生成部は、
第1材料を貯留する第1材料貯留部と、
第2材料を貯留する第2材料貯留部と、
供給水と前記第1材料を混合する第1混合部と、
前記第1混合部にて生成された混合液に第2材料を混合する第2混合部を備え、
前記第2混合部にて生成された泡水溶液を前記泡発生器に供給して生成された空気泡を、前記液体アンモニアの表面に堆積させることを特徴とする液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置。
【請求項4】
前記第1材料と前記第2材料の一方が増粘剤であり他方が泡薬剤であることを特徴とする請求項3に記載された液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を図る方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体アンモニア貯蔵タンク又はそれに附設された配管などが不測の事態で破損し、液体アンモニアが漏洩した場合に、漏洩した液体アンモニアの表面にアンモニアガスを含有する気泡を形成せしめて、液体アンモニアの大気への蒸発拡散を抑制する方法が知られている(下記特許文献1参照)。
【0003】
この従来技術は、地表面等に滞留している液体アンモニアの液面に、水溶性泡形成剤の水溶液を散布する。これにより、前述の水溶液中の水が液体アンモニアを希釈する際の発熱で、アンモニアガスを内包する気泡が液体アンモニアの表面に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53-35700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術によると、散布する水溶液中の水の量を調整して、適正な発熱量から、適正な気泡発生を促す必要がある。しかしながら、不測の事態で発生する液体アンモニアの漏洩現場では、現場の状況が様々であると共に緊急時の即応性が求められるので、このような煩雑な調整を行う必要がある従来技術は、現実的には採用し難い問題があった。
【0006】
また、前述した従来技術は、水溶性泡形成剤の水溶液を液体アンモニアの液面に散布した後、発熱によって液体アンモニア自体が発泡することでアンモニアガスを内包する気泡が形成される。これによると、水溶液を散布してから気泡が液体アンモニアの液面全域に形成されるまでには、相当の時間を要することになり、その間に、液体アンモニアの蒸発拡散が進行してしまう問題がある。すなわち、前述した従来技術は、漏洩した液体アンモニアに対して即効性の高い対処を行うことができない問題があった。
【0007】
また、前述した従来技術は、アンモニアガスを内包する気泡で液体アンモニアの表面全体が覆われたとしても、時間経過に伴って気泡が消失すると、直ちに内包されたアンモニアガスが大気拡散されることになり、時間経過とともに拡散抑止効果が低下してしまう問題がある。すなわち、前述した従来技術は、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができない問題があった。
【0008】
そして、液体アンモニアやアンモニアガスは、水への溶解性が高いため、通常の泡ではアンモニアガスが泡に対して溶解してしまい、泡に拡散抑止効果を長時間持続させることが困難な問題があった。
【0009】
本発明は、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、前述した従来技術の問題点を解消することを課題としている。すなわち、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができること、などが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために、本発明は、以下の構成を具備するものである。
一つには、貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する方法であって、大気圧下に滞留している液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うに際して、供給水と第1材料を混合する第1混合工程と、前記第1混合工程で生成された混合液に第2材料を混合する第2混合工程を有し、前記第2混合工程で生成された泡水溶液から空気泡を発生させ、前記堆積層を形成することを特徴とする。
【0011】
また一つには、貯蔵施設又はその付帯設備から漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散を抑止する装置であって、泡発生器と、前記泡発生器に泡水溶液を供給する泡水溶液生成部を備え、前記泡水溶液生成部は、第1材料を貯留する第1材料貯留部と、第2材料を貯留する第2材料貯留部と、供給水と前記第1材料を混合する第1混合部と、前記第1混合部にて生成された混合液に第2材料を混合する第2混合部を備え、前記第2混合部にて生成された泡水溶液を前記泡発生器に供給して生成された空気泡を、前記液体アンモニアの表面に堆積させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このような特徴を有する本発明によると、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処が可能であり、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実施するための装置例を示した説明図。
図2】本発明の実施形態における泡水溶液生成部の構成を示す説明図。
図3】本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実施するための他の装置例を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0015】
本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法は、貯蔵施設又はその付帯設備等から漏洩した液体アンモニアを対象としている。ここでは、液化アンモニア(液安:NH3)とアンモニア水(安水:NH4OH)を総称して、液体アンモニアという。本発明の実施形態に係る方法によると、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して、液体アンモニアの表面を空気泡の堆積層で覆うことで、大気圧下に滞留している液体アンモニアを大気から遮蔽する。その際、供給水と第1材料を混合する第1混合工程と、第1混合工程で生成された混合液に第2材料を混合する第2混合工程を有し、第2混合工程で生成された泡水溶液から空気泡を発生させ、前述した堆積層を形成する。
【0016】
この方法によると、漏洩した液体アンモニアの表面と大気との間に空気泡の堆積層が介在することで、液体アンモニアから蒸発したアンモニアガスが大気に拡散するのを効果的に抑止することができる。また、この方法によると、泡水溶液の生成を第1混合工程と第2混合工程によって行うので、第1混合工程で混合される第1材料と第2混合工程で混合される第2材料の配分割合を独立して任意に設定することができ、液体アンモニアの蒸発拡散抑制に適した空気泡の性質を任意に設定できる。そして、この配合割合は事前に設定して、大気圧下に滞留している液体アンモニアに対して効果的に堆積層を形成することができるので、漏洩現場で煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応が可能になる。
【0017】
ここで混合される第1材料と第2材料は、例えば、一方が増粘剤(高粘度成分)であり、他方が、泡薬剤(界面活性成分)である。増粘剤の配合割合を比較的高くした泡水溶液は、消失し難く耐久性の高い空気泡を形成することができる。また、泡薬剤の配合割合を高くした泡水溶液は、流動性が高く広範囲に広がり易い空気泡を形成することができる。消失し難く耐久性の高い空気泡を形成することで、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができ、流動性が高く広範囲に広がり易い空気泡を形成することで、迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処が可能になる。
【0018】
そして、本発明の実施形態によると、第1混合工程で中間的な混合液を生成した後、直ちに第2混合工程で最終的な泡水溶液を生成するので、中間的な混合液を貯留するためのスペースが不要になる。これによって、装置のコンパクト化が可能になる。
【0019】
図1は、前述した液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実行するための装置(液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置)1の構成例を示している。ここでは、設置施設として液体アンモニアの貯蔵タンクTを収容したタンク舎Tsを例にして説明するが、設置施設の形態は特にこれに限らない。特に、設置施設としては、タンク舎Tsの無い施設であっても構わない。
【0020】
図示の例では、液体アンモニアの貯蔵タンクTは、プール状の囲壁Wの底面に台座Pを介して設置されている。ここでは、既設の囲壁Wが装備されている例を示しているが、囲壁Wの無い施設では、液体アンモニアの漏洩が発生した後に、漏洩した液体アンモニアを囲むように囲壁Wを仮設するようにしてもよい。
【0021】
図示の例は、貯蔵タンクTやその周辺に設置される配管等の付帯設備(図示省略)から液体アンモニアが漏洩すると、プール状の囲壁Wの底面に液体アンモニアが滞留する。この滞留している液体アンモニアSの表面を空気泡の堆積層Dで覆うために、液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1は、囲壁Wの周囲に、単数又は複数の泡発生器10を備えている。
【0022】
泡発生器10は、供給管12にて供給弁12Vを介して供給された泡水溶液に、吸引空気や送風空気を当てて、物理的処理で空気泡を形成するものであり、発生した空気泡を滞留している液体アンモニアSに対して放出することで、滞留している液体アンモニアSの表面に空気泡の堆積層Dを形成する。
【0023】
液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置1は、泡発生器10に泡水溶液を供給する泡水溶液生成部20を備える。泡水溶液生成部20は、図2に示すように、第1材料を貯留する第1材料貯留部21と、第2材料を貯留する第2材料貯留部22と、供給水と第1材料を混合する第1混合部31と、第1混合部31にて生成された混合液に第2材料を混合する第2混合部32を備え、第2混合部32にて生成された泡水溶液が、流出管30と流量調整弁30Vを経由して供給管12から泡発生器10に供給される。
【0024】
第1材料貯留部21に貯留された第1材料は、注入弁21Vを介して、設定量が第1混合部31に注入される。第2材料貯留部22の貯留された第2材料は、注入弁22Vを介して、設定量が第2混合部32に注入される。供給水は、貯水槽40から給水ポンプ41Pで汲み上げられ、給水管41を介して第1混合部31に供給される。注入弁21V,22Vによる注入量の調整は、第1材料と第2材料の設定された配合割合に応じて決められている。また、注入弁21V,22Vによる注入量は、給水ポンプ41Pによる供給水の流量に応じて調整される。
【0025】
ここで、第1材料が増粘剤である場合は、第1混合部31にて生成される混合液は高粘度液体になり、増粘剤の注入割合が高いほど粘度の高い高粘度液体になる。そして、第2材料が泡薬剤である場合は、第2混合部32において、第1混合部31にて生成された高粘度液体に対して、泡薬剤が混合される。また、逆に、第1材料が泡薬剤である場合は、第1混合部31にて生成される混合液は泡水溶液になり、第2材料が増粘剤である場合は、第2混合部32において、第1混合部31にて生成された泡水溶液に対して、増粘剤が混合される。なお、第1混合部31を省いて、高粘度液体と泡薬剤の2液混合で泡水溶液を形成してもよい。
【0026】
なお、増粘剤を第1材料とした場合、水に含まれる不純物が少ないため、より高い増粘効果が期待できる。但し、増粘剤を第1材料にすると、増粘効果の出現タイミングや圧力損失により、第2材料(泡薬剤)との混合が不安定になる恐れがあるので、これを解消するために、第1混合部31と第2混合部32の間にポンプを設けて第2混合部32での混合を適正に行える流速を確保することが好ましい。そして、増粘剤を第2材料とした場合には、放出直前に混合させた場合、配管内の圧力損失の影響を受けにくくすることができる。
【0027】
図3は、本発明の液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法を実施するための別形態を示している。ここでは、小規模の漏洩で、滞留している液体アンモニアSの滞留範囲が狭い場合の対処例を示している。このような場合は、携帯型泡発生器50を作業者Mが手で持って、滞留している液体アンモニアSに対して空気泡を放出して、滞留している液体アンモニアSの表面に堆積層Dを形成する。この際、作業者Mは、当然ながら安全を確保するための装備(ガスマスク、保護衣やゴム手袋やゴム長靴などの保護具など)を身にまとうことが必要になる。
【0028】
携帯型泡発生器50には、ホース51を介して、前述した泡水溶液生成部20が接続されている。泡水溶液生成部20は、図2に示す構成要素を内部に備えており、漏洩現場近くの海水や河川水或いは貯水池などを利用した貯水槽40から、給水ポンプ41Pによって給水管41を介して供給水を得て、これを泡水溶液生成部20に供給している。
【0029】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び抑止装置によると、漏洩した液体アンモニアの蒸発拡散抑止を行うに際して、煩雑な調整を行うことなく迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処が可能となり、液体アンモニアの蒸発拡散抑止効果を所定期間持続させることができる。
【0030】
なお、本実施形態では、液体アンモニアの蒸発拡散抑止方法及び装置として説明したが、本実施形態の方法及び装置は、火災を消火する消火装置、例えば、プラント等に設置される高膨張泡消火設備などに適用することも可能であり、その際には、火災に対して、迅速な緊急時対応を可能とし、即効性の高い対処を可能とし、火災の抑制効果を所定期間持続させることができるという、同等の効果を得ることが可能である。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、上述の各実施の形態は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1:液体アンモニアの蒸発拡散抑止装置,
10:泡発生器,12:供給管,12V:供給弁,
20:泡水溶液生成部,
21:第1材料貯留部,21V,22V:注入弁,22第2材料貯留部,
30:流出管,30V:流量調整弁,
31:第1混合部,32:第2混合部,
40:貯水槽,41:給水管,41P:給水ポンプ,
T:貯蔵タンク,Ts:タンク舎,W:囲壁,S:滞留している液体アンモニア,
D:堆積層
図1
図2
図3