(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172646
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/40 20120101AFI20241205BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16H48/40
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090490
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 直樹
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FB02
3J027HB07
3J027HC08
(57)【要約】
【課題】簡易な構造により溶接部の破損を抑制して高い伝達トルク容量を有する差動装置を提供する。
【解決手段】リングギヤ20とデフケース30とが溶接された溶接部60を有する差動装置10であって、(a)リングギヤ20及びデフケース30が嵌合された嵌合部40と、(b)リングギヤ20及びデフケース30の両方に跨るように、嵌合部40に設けられたキー溝52と、(c)キー溝52の内部にリングギヤ20の周方向に圧入されたキー材54と、が備えられる。これにより、差動装置10は、溶接部60と、キー溝52及びキー材54すなわちキー部50と、でトルク伝達における荷重が分担される。これにより、溶接部60が分担する荷重が過大となることが抑制されることで溶接部60の破損が抑制され、差動装置10は高い伝達トルク容量Tcを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リングギヤとデフケースとが溶接された溶接部を有する差動装置であって、
前記リングギヤ及び前記デフケースが嵌合された嵌合部と、
前記嵌合部において前記リングギヤ及び前記デフケースの両方に跨るように設けられたキー溝と、
前記キー溝の内部に前記リングギヤの周方向に圧入されたキー材と、
を備えることを特徴とする差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リングギヤとデフケースとが溶接された溶接部を有する差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リングギヤの嵌合穴にデフケースの挿入部が圧入(=しまり嵌め)で嵌合された嵌合部を有し且つその嵌合部が溶接された溶接部を有する、差動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、何らかの要因でリングギヤに過大なトルクが入力される場合がある。特許文献1に記載の差動装置にそのような過大なトルクが嵌合部の摩擦力を超過して入力されると、差動装置が伝達するトルク(以下、「伝達トルク」と記す。)のうち溶接部が分担する量(=荷重)が急激に大きくなる。これにより、溶接部が破損すると、差動装置が伝達可能な伝達トルクの最大値である伝達トルク容量が嵌合部の摩擦力に基づいたトルク値以下に制限されてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、簡易な構造により溶接部の破損を抑制して高い伝達トルク容量を有する差動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、リングギヤとデフケースとが溶接された溶接部を有する差動装置であって、(a)前記リングギヤ及び前記デフケースが嵌合された嵌合部と、(b)前記嵌合部において前記リングギヤ及び前記デフケースの両方に跨るように設けられたキー溝と、(c)前記キー溝の内部に前記リングギヤの周方向に圧入されたキー材と、を備えることにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の差動装置によれば、(a)前記リングギヤ及び前記デフケースが嵌合された嵌合部と、(b)前記嵌合部において前記リングギヤ及び前記デフケースの両方に跨るように設けられたキー溝と、(c)前記キー溝の内部に前記リングギヤの周方向に圧入されたキー材と、が備えられる。これにより、差動装置は、溶接部と、キー溝及びキー材すなわちキー部と、でトルク伝達における荷重が分担される。これにより、溶接部が分担する荷重が過大となることが抑制されることで溶接部の破損が抑制され、差動装置は高い伝達トルク容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】差動装置の説明図であって、
図1(a)は、
図1(b)に示す切断線a-aの断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示す矢印bの方向から見たリングギヤ及びデフケースである。
【
図2】本実施例においてキー部が設けられていない場合において、リングギヤの周方向における周方向位置と、溶接部での応力と、の関係を示す図である。
【
図3】差動装置において、溶接部及びキー部でのトルク伝達における荷重の分担について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0010】
図1は、差動装置10の説明図であって、
図1(a)は、
図1(b)に示す切断線a-aの断面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示す矢印bの方向から見たリングギヤ20及びデフケース30である。なお、
図1(a)においては、デフケース30内に設けられているピニオンシャフト及び一対のピニオンは、不図示とされている。また、
図1(a)に示す後述のキー部50のうち、上側についてはキー溝52の内部にキー材54が嵌め入れられる前の状態であり、下側についてはキー溝52の内部にキー材54が嵌め入れられた後の状態である。
【0011】
差動装置10は、入力された走行用の動力を受けて、不図示の一対のドライブシャフトを介して一対の駆動輪に対し適宜回転速度差を許容しつつ相互に等しい駆動トルクを伝達するディファレンシャルギヤである。差動装置10は、リングギヤ(=デフリングギヤ)20及びデフケース30を備える。差動装置10におけるリングギヤ20及びデフケース30以外の構成については、周知の構成である。軸線Cは、リングギヤ20及びデフケース30に共通の回転中心線である。
【0012】
リングギヤ20の内周部22には、嵌合穴22aが設けられている。リングギヤ20には、その内周部22と外周部との間から軸線C方向の一方側(矢印bと同じ方向)に突出した円筒状部24が設けられている。円筒状部24の軸線C方向の一方側とは反対側である他方側は、リングギヤ20に連結されている。
【0013】
デフケース30の外周部32には、円柱状の挿入部32aが設けられている。デフケース30には、その外周部32にフランジ部34が設けられている。リングギヤ20の嵌合穴22aには、デフケース30の挿入部32aがとまり嵌めにより嵌合されている。「とまり嵌め」とは、すきま嵌めとしまり嵌めの中間で、公差によって隙間又は締め代ができる嵌合である。リングギヤ20とデフケース30とが嵌合されている嵌合穴22a及び挿入部32aは、リングギヤ20及びデフケース30の嵌合部40であって、本発明における「嵌合部」に相当する。リングギヤ20とデフケース30とが嵌合された状態では、円筒状部24の先端部とフランジ部34の先端部とは、互いに対向して近接した位置となっている。なお、圧入の場合に比較して、本実施例ではとまり嵌めのため、円筒状部24の先端部とフランジ部34の先端部との位置関係は、これらの寸法の製造誤差に起因した変動が少なく溶接の品質が向上させられる。
【0014】
円筒状部24の先端部とフランジ部34の先端部とは、その全周にわたって軸線C方向の一方から他方(矢印bとは反対の方向)に向けて、例えばレーザーによる溶接が施される。これにより、円筒状部24とフランジ部34とが溶接された溶接部60により、リングギヤ20とデフケース30との間での相対回転が阻止される。
【0015】
嵌合部40には、キー部50が設けられている。キー部50は、嵌合部40においてリングギヤ20とデフケース30との間での相対回転を阻止する機能を有する。キー部50は、キー溝52及びキー材54を備える。キー溝52は、嵌合部40においてリングギヤ20及びデフケース30の両方に跨るように、複数(本実施例では4箇所)設けられた溝である。周方向においてキー溝52が配置される好適な位置については、後述する。キー溝52は、例えば嵌合部40において周方向に延びる直方体状の溝である。キー溝52の内部には、それぞれ周方向にキー材54が圧入されている。キー材54は、例えばキー溝52に嵌め入れ可能な形状であって、周方向に延びる直方体状のものである。キー材54は、差動装置10の温度が変化しても周方向における圧入状態が維持されるものである。好適には、キー材54は、リングギヤ20及びデフケース30と同じ熱膨張率の材料であって、熱膨張或いは熱収縮に対して周方向の圧入状態が維持されるものである。
【0016】
図2は、本実施例においてキー部50が設けられていない場合において、リングギヤ20の周方向における周方向位置θ[deg]と、溶接部60での応力F[N]と、の関係を示す図である。周方向位置θは、
図1(b)に示している。
【0017】
図2に示すように、差動装置10が回転すると、溶接部60に加わる応力Fは、周方向位置θ毎に異なる。これは、デフケース30には、一対のサイドギヤ等を組み付けるための開口部が部分的に設けられているために、デフケース30は周方向位置θによって剛性が異なるからである。これにより、例えば
図2に示すように、周方向位置θ毎に溶接部60での応力Fが高い箇所と低い箇所とが生じ、例えば周方向位置θが45[deg]、135[deg]、225[deg]、315[deg]と、90[deg]の間隔毎に前進トルク及び後進トルクのいずれかで応力Fが高くなっている。
【0018】
キー部50は、例えば
図2に示す前進方向及び後進方向における溶接部60での応力Fが高い周方向位置θにそれぞれ設けられている。これにより、差動装置10でのトルク伝達における荷重は、溶接部60のみではなく、溶接部60に加えてキー部50でも分担される。このような周方向位置θにキー部50が設けられることにより、
図2に示す白抜き矢印のように、溶接部60での応力Fが高い箇所における応力値が低められる。例えば、キー部50が、軸線Cを挟んで対向する位置に設けられることで、差動装置10の重心が軸線Cからずれることが抑制され、差動装置10の回転中における偏心が抑制される。
【0019】
図3は、差動装置10において、溶接部60及びキー部50でのトルク伝達における荷重の分担について説明する図である。差動装置10に入力される入力トルクTin[Nm]が実線で示され、本実施例におけるキー部50が分担する荷重が破線で示され、比較例における後述の嵌合部140が分担する荷重が二点鎖線で示されている。
【0020】
比較例は、本実施例における嵌合部40の替わりに圧入で嵌合された不図示の嵌合部140が設けられ且つキー部50が設けられていない点が本実施例とは異なる。
【0021】
比較例においては、伝達トルクTd[Nm]による荷重は、圧入された嵌合部140と溶接部60とで分担される。伝達トルクTdのうち嵌合部140で分担される量を嵌合部伝達トルクTp[Nm]とし、伝達トルクTdのうち溶接部60で分担される量を溶接部伝達トルクTy[Nm]とする。嵌合部伝達トルクTp及び溶接部伝達トルクTyは、見方を換えれば圧入された嵌合部140と溶接部60とにそれぞれ加わる荷重トルクである。溶接部伝達トルクTyは、入力トルクTinから嵌合部伝達トルクTpを減じた残余である。入力トルクTinの増加に伴って嵌合部伝達トルクTpは増加するが、嵌合部伝達トルクTpが最大静摩擦状態(=嵌合部140でのリングギヤ20とデフケース30との間の摩擦力が最大静止摩擦力となっている状態)での嵌合部伝達トルクTpsを超過すると、嵌合部140は動摩擦状態(=嵌合部140でのリングギヤ20とデフケース30との間の摩擦力が動摩擦力となっている状態)での嵌合部伝達トルクTpd(<Tps)しか分担できなくなる。これにより、溶接部60に加わる荷重がそれまでよりも急激に大きくなって溶接部60が破損すると、伝達トルク容量Tc[Nm]が嵌合部140の動摩擦状態における嵌合部伝達トルクTpd以下に制限されてしまうおそれがある。
【0022】
本実施例においては、伝達トルクTdによる荷重は、キー部50と溶接部60とで分担される。なお、嵌合部40はとまり嵌めのため、嵌合部40は伝達トルクTdによる荷重をほとんど分担しない。伝達トルクTdのうちキー部50で分担される量をキー部伝達トルクTk[Nm]とし、伝達トルクTdのうち溶接部60で分担される量を溶接部伝達トルクTyとする。キー部伝達トルクTk及び溶接部伝達トルクTyは、見方を換えればキー部50と溶接部60とにそれぞれ加わる荷重トルクである。溶接部伝達トルクTyは、入力トルクTinからキー部伝達トルクTkを減じた残余である。入力トルクTinの増加に伴ってキー部伝達トルクTkは増加する。なお、キー部50は、リングギヤ20とデフケース30とが周方向に相対回転すること、すなわち滑ることを阻止する。したがって、入力トルクTinの増加に伴って溶接部伝達トルクTyは、次第に増加する。本実施例では、比較例のように溶接部60に加わる荷重が急激に大きくなることが無く、入力トルクTinが高い領域において、比較例に係る溶接部伝達トルクTyに比較して、本実施例に係る溶接部伝達トルクTyが低い。これにより、本実施例は、比較例に比較して溶接部60が破損しにくく、伝達トルク容量Tcが制限されてしまうおそれが低い。
【0023】
本実施例によれば、リングギヤ20とデフケース30とが溶接された溶接部60を有する差動装置10であって、(a)リングギヤ20及びデフケース30が嵌合された嵌合部40と、(b)嵌合部40においてリングギヤ20及びデフケース30の両方に跨るように設けられたキー溝52と、(c)キー溝52の内部にリングギヤ20の周方向に圧入されたキー材54と、が備えられる。これにより、差動装置10は、溶接部60と、キー溝52及びキー材54すなわちキー部50と、でトルク伝達における荷重が分担される。これにより、溶接部60が分担する荷重が過大となることが抑制されることで溶接部60の破損が抑制され、差動装置10は高い伝達トルク容量Tcを有する。
【0024】
なお、上述したのは本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0025】
前述の実施例では、キー部50が4箇所設けられた態様であったが、本発明はこれに限らず、キー部50が1箇所或いは4箇所以外の複数箇所設けられた態様にも適用される。
【0026】
前述の実施例では、
図2に示すように、周方向位置θが45[deg]、135[deg]、225[deg]、315[deg]と、90[deg]の間隔毎に前進トルク及び後進トルクのいずれか一方で応力Fが高く、これら周方向位置θにキー部50が設けられた態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、本発明は、前進トルク及び後進トルクのいずれか一方で応力Fが高くなる周方向位置θからずれてキー部50が設けられた態様にも適用される。
【0027】
前述の実施例では、溶接部60は円筒状部24とフランジ部34とが溶接された態様であったが、本発明はこれに限らない。溶接部60は、リングギヤ20とデフケース30とが溶接された態様であれば良い。例えば、前述の実施例で円筒状部24及びフランジ部34が設けられていない態様において、嵌合部40が全周にわたって軸線C方向の一方から他方(矢印bとは反対の方向)に向けて、例えばレーザーによる溶接が施された態様であっても良い。