(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172665
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】海草由来抽出物及びこれを使用した生体作用製品、並びに海草由来エクソソームの抽出方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20241205BHJP
A61K 8/9711 20170101ALI20241205BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 36/03 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/97 20170101ALI20241205BHJP
A61K 36/00 20060101ALI20241205BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241205BHJP
A23G 3/42 20060101ALI20241205BHJP
A23G 1/40 20060101ALI20241205BHJP
A23G 9/34 20060101ALI20241205BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K8/9711
A61Q19/00
A61K36/03
A61K8/97
A61K36/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P1/04
A23G3/42
A23G1/40
A23G9/34
A23L2/00 F
A23L2/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090525
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】519262238
【氏名又は名称】落谷 孝広
(71)【出願人】
【識別番号】501087870
【氏名又は名称】第一産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
(72)【発明者】
【氏名】江藤 博
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B117
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B014GL11
4B018LB01
4B018LB08
4B018MD33
4B018MD67
4B018ME06
4B018ME08
4B018ME14
4B018MF01
4B117LC04
4B117LK13
4C083AA021
4C083AA022
4C083BB22
4C083CC01
4C083EE11
4C083FF01
4C088AA13
4C088BA08
4C088BA40
4C088CA12
4C088CA17
4C088CA22
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA68
4C088ZB09
4C088ZB11
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】免疫力アップや抗癌作用が報告されているフコイダンについて、薬理効果を科学的に証明すると共に、有効利用を促進する。
【解決手段】原料のモズクを加水分解(煮沸)して低分子化フコイダンと成し、次いで、超遠心機1を使用した超遠心分離法等により、低分子化フコイダンからナノレベルの粒子群を抽出する。粒子群の大部分は50~200nmの大きさに収まっており、これは、miRNAやmeRNAを積み込んだエクソソームによって構成されている。フコイダン由来エクソソームは、潰瘍やガンのような異常化した組織に対するアポトーシス誘導作用と、正常な組織の増殖を促進する再生作用とを併有している。かつ、安全で耐性・依存性ない。従って、薬剤は初めとした様々に製品に展開できる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は動物のための生体作用製品に使用する海草由来抽出物であって、主要成分として50~200nmの大きさのエクソソーム又はエクソソーム様粒子を含んでいる、
海草由来抽出物。
【請求項2】
前記エクソソーム又はエクソソーム様粒子が1ml当たり5億個以上含まれている、
請求項1に記載した海草由来抽出物。
【請求項3】
ヒト又は動物に使用する生体作用製品であって、
主要成分として海草から抽出された50~200nmの大きさのエクソソームを含んでいる、
生体作用製品。
【請求項4】
前記生体作用製品は、医薬品、医薬部外品、健康補助食品、化粧品、清涼飲料、菓子類、のうちの少なくとも1つであって、ヒト又は動物に使用するものである、
請求項3に記載した生体作用製品。
【請求項5】
前記海草としてモズクが使用されている、
請求項3又は4に記載した生体作用物質。
【請求項6】
1種類又は複数種類の海草を原料として、これに酵素を加えて又は加えることなく加熱下で加水分解することによって低分子化フコイダンを生成し、次いで、超遠心分離法又は限外濾過法によって前記低分子化フコイダンからエクソソームを分離する、
海草由来エクソソームの抽出方法。
【請求項7】
前記海草として、モズク、ヒバマタ、コンブ、ヒジキ、ワカメ、カジメ、アラメ、クロメを含む褐藻類のうちの1種類又は複数種類を使用している、
請求項6に記載した海草由来エクソソームの抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、医薬品や健康補助食品のような生体作用製品、及び、これに使用する海草由来抽出物、並びに海草由来エクソソームの抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海草から抽出されたフコイダンに関し、抗炎症作用や抗潰瘍作用、免疫力増強作用などの薬理効果が報告されており、医薬品やサプリメント、化粧剤への適用について様々な研究が成されている(例えば特許文献1,2)。特に、フコイダンの抵炎症作用や抗潰瘍作用、抗ガン作用は医学的にも注目されており、ガン患者に投与して高い評価を得ている医院もみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-42804号公報
【特許文献2】特許第6859017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フコイダンは主として海草に含まれる硫酸化多糖類の一種であり、上記のとおり、抵炎症作用や抗潰瘍作用、免疫力向上のような薬理効果・生理活性作用が報告されているが、なぜ抵炎症作用等の薬理作用が発揮されるのか、メカニズムの解明はなされていない。また、フコイダンはサプリメントとして飲料の形態で市販されているものが多いが、薬理作用のメカニズムが未解明であるため、薬剤への適用は進んでいないのが実情である。また、市販されているサプリメントの全てが高い生理活性作用を持っているのか否かも不明であり、このような混沌とした状況により、効果について懐疑的な見解もみられる。
【0005】
さて、市販のフコイダン製品は一般にモズクを原料にしており、フコイダンの主成分であるL-フコースは分子量が約20万程度の高分子化合物(多糖類繊維質)であるが、分子量と効果との関係では、高分子であるから効果があるという説や、分子量千以下に低分子化することによって効果が発揮されるという説、或いは両者の間の中間的な分子量によって効果が発揮されるという説など、説が錯綜している。
【0006】
この点について検討するに、市販のフコイダン製品は基本的に飲料であるので、飲用後の作用をみる必要があるが、消化器系の潰瘍類にはフコイダンが直接接触するので、潰瘍類の治癒効果があったとして、治癒効果と分子量との因果関係は明定できない。これに対して、潰瘍類がない人が飲用して免疫力がアップしたと感じる場合は、フコイダンが腸壁から吸収されていると云えるが、腸壁から吸収されるためには低分子化が必要であるため、低分子化はフコイダンの薬理効果を得る条件であると解される。
【0007】
本願の共願者である第一産業株式会社は、低分子化されたフコイダンを含む外用クリームを開発して特許文献2で開示しており、この事例から、低分子化フコイダンが抗炎症作用を発揮していることを理解できるが、このことから、体内吸収後の免疫力アップ効果も消化器系潰瘍類の治癒効果も低分子化に起因していると考えることができる。従って、低分子化がフコイダンの薬理効果に貢献しているという説には合理性がある。
【0008】
そこで、次の問題として、フコイダンの低分子化は、薬理効果の終着点なのか出発点なのかということが現れる。すなわち、低分子化されたフコイダンはそれ自体として薬理効果を発揮しているのか、それとも、薬理効果を発揮している有効成分が他に存在しており、低分子化によって有効成分が働きやすくなったのか、ということである。この点、フコイダンの主成分とされているL-フコースが低分子化されてなぜ薬理効果を引き起こすのかメカニズムをイメージし難いことを考えると、L-フコースの他に有効物質・有効成分が存在しているのではないかと推測される。
【0009】
つまり、フコイダン(或いは海草)は、抗炎症作用や免疫力向上作用などを引き起こす有効物質・有効成分を内部に大量に含んでいるものの、通常の状態では有効物質・有効成分は細胞等でガードされているため、例えば食品として大量に摂取しても薬理作用は発揮されず、低分子化することにより、有効物質・有効成分が内部から現れて薬理作用を発揮するに至るか、又は、有効物質・有効成分の出現量が飛躍的に増大して薬理作用を如実に発現できるに至っている、という仮説を立てることができる。
【0010】
そして、薬理効果を発揮する有効物質・有効成分を特定できたら、薬剤への適用も容易になって、ヒトや動物は計り知れない恩恵を受けることができる。従って、抗炎症作用等の薬理作用を発揮させる有効物質・有効成分を解明し、その利用を促進することが要請されていると云える。本願発明は、この要請に応えようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
さて、フコイダンの持つ注目すべき作用の1つに、ガン細胞のような異常な細胞を破壊する(自己死させる)アポトーシス誘導作用がある。アポトーシス誘導作用は全ての生物の細胞に遺伝子情報プログラムとして組み込まれている作用であり、これが正常に機能することによって細胞のガン化が防止されている。
【0012】
そこでフコイダンの持つアポトーシス誘導作用であるが、フコイダンがヒトや動物の細胞に作用してアポトーシス誘導作用を発揮するのは、フコイダンに含まれている有効物質・有効成分が、ヒトや動物の細胞の遺伝子プログラムの異常を修復する機能を持っているからであると推測され、すると、フコイダンの有効物質・有効成分も、遺伝子プログラム(遺伝情報伝達作用)を備えている可能性が高いと推測できる。本願発明者たちはこのような推論の下で更に研究を続け、本願発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本願発明者たちは、フコイダンに含まれているエクソソーム(細胞外小胞、exosome、extracellular veside:EV)に着目して、エクソソームを薬理作用の主要な有効物質・有効成分として特定するに至り、本願発明を完成させるに至った。
【0014】
本願発明は多くの構成を含んでおり、これを各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は、
「ヒト又は動物のための生体作用製品に使用する海草由来抽出物であって、主要成分として50~200nmの大きさのエクソソームを含んでいる」
という構成になっている。
【0015】
請求項2の発明は請求項1を濃度の面から具体化したものであり、
「前記エクソソーム又はエクソソーム様粒子が1ml当たり5億個以上含まれている」
という構成になっている。
【0016】
請求項3の発明は、
「ヒト又は動物に使用する生体作用製品であって、
主要成分として海草から抽出された50~200nmの大きさのエクソソームを含んでいる」
という構成になっている。
【0017】
請求項4の発明は請求項3の展開例であり、
「前記生体作用製品は、医薬品、医薬部外品、健康補助食品、化粧品、清涼飲料、菓子類、のうちの少なくとも1つであって、ヒト又は動物に使用するものである」
という構成になっている。
【0018】
請求項4で生体作用製品を例示しているが、外観態様はそれぞれの製品に対応して異なってくる。例えば、液状、粒状、粉状、クリーム状などの外観を呈する。飴やキャンデーのような菓子類にフコイダン由来エクソソームを添加することも可能であるが、この場合は、それら菓子類の外観を呈する。なお、各製品について、フコイダン由来エクソソーム以外の成分を添加することは自由である。
【0019】
請求項5の発明は請求項2又は3において原料を特定したもので、
「前記海草としてモズクが使用されている」
という特徴を備えている。
【0020】
請求項6の発明は海草由来エクソソームの抽出方法に関するもので、
「1種類又は複数種類の海草を原料として、これに酵素を加えて又は加えることなく加熱下で加水分解することによって低分子化フコイダンを生成し、次いで、超遠心分離法又は限外濾過法によって前記低分子化フコイダンからエクソソームを分離する」
という構成になっている。
【0021】
請求項7の発明は請求項6の好適な展開例であり、
「前記海草として、モズク、ヒバマタ、コンブ、ヒジキ、ワカメ、カジメ、アラメ、クロメを含む褐藻類のうちの1種類又は複数種類を使用している」
という特徴を備えている。
【発明の効果】
【0022】
エクソソーム(細胞外小胞)は細胞から放出されるエンドソーム膜由来の小胞であり、構成成分として脂質、タンパク質、核酸を含んでいるが、特に、積み荷としての核酸に含まれるmiRNA(マイクロRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、DNAが注目される。
【0023】
最近の研究により、エクソソームが細胞間の(或いは細胞への)情報伝達機能を備えていることが解明されてきている。この場合、情報には正の作用と負の作用とがあり、例えば、母乳由来のエクソソームは乳児の免疫システムを促進するという正の役割を果たしている一方、ガン細胞由来のエクソソームは、悪玉エクソソームとして、炎症性サイトカインやmiRNAの作用などによってガン細胞を増殖させる負の作用を果たしている。
【0024】
ショウガ由来のエクソソームに関して、ヒトのアルコール誘導性肝障害に対する抑制効果を発揮しているとの研究報告があるが、これは、「ウコンが2日酔いに効く」という現象と符合している(但し、過剰摂取は却って肝機能障害を惹起する(暴走する)可能性があるようである。)。
【0025】
キラー細胞として名高い細胞傷害性T細胞に由来したエクソソームに関して、がん由来の間葉系幹細胞に選択的に取り込まれてアポトーシスを誘導してガンの拡大を抑制しているとの報告があると共に、間葉系幹細胞に由来したエクソソームもアポトーシス効果を持つとみられているが、間葉系幹細胞は骨や脂肪などのあらゆる細胞への分化能を持つ万能細胞であるため、エクソソームを利用して間葉系幹細胞を増殖できると、患部の治癒を促進できるのみでなく、再生医療にも貢献できると期待される。
【0026】
このようなエクソソームの作用・働きに照らすと、フコイダンの効果・効能として従来から言われていた抗炎症作用や抗潰瘍作用、免疫力増強作用などの作用・効果(薬理効果)がエクソソームに起因していると考えると疑問が氷解する。すると、フコイダン由来(海草由来)のエクソソームを抽出・高濃度化してヒトや動物に投与することにより、抗炎症作用や抗潰瘍作用等の作用・効果を確実化・増強できるといえるが、これが本願発明によって実現される。
【0027】
フコイダン由来エクソソームが患部の細胞・組織に対してどのように作用するのか十分には解明できていないが、大まかには、患部の組織のレセプタにエクソソームが受容されてから、エクソソームに積まれていたmiRNAやmRNA(或いはDNA)等の情報伝達成分が患部の細胞・組織に取り込まれて、患部の遺伝子に働きかけてプログラム(塩基配列又は塩基の組成)を正常な状態に修復したり、機能性タンパク質に翻訳されているのではないかと推測される。すなわち、フコイダン由来エクソソームは、ヒトや動物の組織の多種多様な遺伝子に働きかけてそのプログラムを書き換えるメッセンジャー機能・情報伝達機能を備えていると推測される。
【0028】
患部からは患部由来のエクソソーム(疾病を拡大する悪玉エクソソーム)も放出されている筈であるが、フコイダン由来エクソソームが組織に入り込むと、悪玉エクソソームは行き場を失って(組織に受容されずに)死滅するか、或いは、フコイダン由来エクソソームに攻撃されて破壊される(プログラム伝達機能を失う)と推測される。
【0029】
全ての細胞は固有のエクソソームを備えており、固有のエクソソームが正常に機能していたらガン化は生じないが、固有のエクソソームが機能せずにガン化した細胞にフコイダン由来エクソソームが作用して固有のエクソソームと同じ働きをするのは、フコイダン由来エクソソームが、ヒトや動物の様々な組織に取り込まれる受容性と、固有のエクソソームと同じ機能を発揮する代替性とを備えていることを意味している。
【0030】
このことは、フコイダン由来エクソソームが万能性を備えていることを示唆しているが、フコイダン由来エクソソームが患部に作用して組織を修復するメカニズムとして、仮説の域を出ないものの、万能細胞である間葉系幹細胞との連繋も推測できる。
【0031】
すなわち、組織の受容体にフコイダン由来エクソソームが吸着されると、miRNAやmRNAなどの成分が放出されて、組織自体が死滅するアポトーシス誘導作用が発揮されるが、これと並行して、mRNAのプログラム機能によって間葉系幹細胞が増殖してこれが正常細胞に自己変化(分化)していく、というメカニズムが進行し、やがて、患部全体が正常な新規細胞に置き換わると推測される。
【0032】
つまり、フコイダン由来エクソソームによる患部の修復は、万能細胞である間葉系幹細胞の増殖を通じて行われているのではないかと推測される。間葉系幹細胞を通じた組織の修復は再生医療にも通じるので、更に研究を進めていきたい。
【0033】
なお、フコイダン由来エクソソームによるアポトーシス誘導効果が遺伝子に対するプログラム作用であるのか、酵素等の化学物質による破壊作用であるのか不明であるが、正常な組織が破壊されないことに照らすと、プログラム作用である可能性が高いと思われる。いずれにしても、対象組織のアポトーシス誘導と修復とは並行しており、両者の進行度合に反比例して悪玉エクソソームの放出量は低下するため、治癒の好循環サイクルが形成される。
【0034】
さて、我が国において大腸ガンは男女とも死亡原因の上位を占めており、簡易で高い精度の検査方法があると死亡率の大幅低減を期待できるが、本願発明のフコイダン由来エクソソームは、大腸ガン検診のマーカーとしての使用も期待できる。例えば、フコイダン由来エクソソームが大腸ガン由来の悪玉エクソソームと結合すると仮定して、検査薬としてのフコイダン由来エクソソームを飲用してから便を超遠心機で分離し、フコイダン由来エクソソームの本来の質量よりも大きい質量の粒子が所定割合存在したら、大腸ガンに罹患していると推定できる。従って、便潜血検査と併用すると好適である。
【0035】
請求項1,2と請求項3,4とは、材料と製品との関係になるが、請求項1の抽出物はエクソソームの濃度が高いため、請求項3,4に記載した製品に適用するに当たって、少量で高い効果を発揮できる。請求項1の抽出物は、希釈したり濃縮したりして製品に適用できるが、健康補助食品や清涼飲料としてそのまま使用することも可能である。この場合、請求項2で下限値として特定したように1ml当たり5億個程度の濃度であれば、免疫力アップ等の高い効果を発揮できると思われる。
【0036】
本願発明では、フコイダン由来エクソソームを精製して不純物を無視できるレベルに除去できるため、薬剤化するにおいては、注射液、点滴液、カテーテル注入液、錠剤、軟膏(クリーム)、マイクロカプセルなどの様々な態様に具体化できる。従って、薬剤に適用する場合、治療方法の選択枝を拡大できると共に、治療対象の疾病も大幅に拡大できる。
【0037】
具体的には、有効物質・有効成分であるエクソソームの濃度を格段に高くできるため、従来と同様の抗炎症・抗潰瘍などに使用する場合、治療効果を格段に向上できる。また、錠剤や粉末、顆粒のような固形化製剤化も簡単であるため、治療方法の選択枝を広げて患者の負担も軽減できる。持ち運びが容易な状態に製剤化できることは、患者にとっては朗報であり治療効果も向上できる。薬剤認証による保険適用は患者の負担軽減になるため、現実的な貢献は著しい。
【0038】
既述のように、フコイダン由来エクソソームは間葉系幹細胞の正常組織への分化をサポートしていると推測されるが、点滴薬として血液中に投与することにより、血液やリンパ液を構成する細胞の疾病治癒機能を発揮できると期待される。
【0039】
例えば、白血病などの血液ガンに対して、万能プログラム機能により、造血幹細胞の増殖と正常細胞への分化を促進して治癒に貢献できる可能性がある。また、HIVは白血球を構成して免疫機能を司るD4細胞を宿主として増殖するが、フコイダン由来の高純度エクソソームを点滴液化して投与することにより、D4細胞の正常化を促進してHIVを消滅に導けるのではないかと期待される。フコイダン由来エクソソームが持つ万能プログラム機能により、HIV自体又はこれから放出された悪玉エクソソームを破壊できる可能性もあると云える。
【0040】
ガンについて触れると、現在、治療法として放射線治療や抗ガン剤投与、免疫療法、手術による患部摘出といった様々な方法が存在しているが、薬剤については耐性という難問が存在しており、また、いずれの方法もガン細胞の破壊や除去を目的としたもので、建設的であるとは云い難い。
【0041】
これに対してフコイダン由来エクソソームを使用した治療法は、ヒトや動物の組織が持っている組織再生メカニズムを外部から積極的にサポートすることにより、ガン細胞の破壊と正常細胞の増殖とを同時並行して行うものであり、継続使用しても耐性の問題は皆無であると共に治療後の機能障害もなくて、治療方法として非常に優れている。手術が不可能な程に進行(転移)が進んでいる場合でも治療可能であるというメリットもある。
【0042】
本願発明のエクソソームは医薬部外品や健康補助食品、化粧品にも使用できるが、有効物質・有効成分としてのエクソソームの濃度を高くできるため、それらの効果を助長できる。原料の海草は様々のものを使用できるが、フコイダンの含有率の点ではモズクが最適である。この場合、国内産としては沖縄産や青森産などの各地のものを使用できる。当然ながら海外産も使用可能であり、例えばトンガ産のような南太平洋産を使用できる。
【0043】
エクソソームがフコイダンの内部にどのような態様で存在しているのか解明していないが、簡単には分離(単離)できない状態に組織でガードされていることは間違いない。しかるに、請求項6のように、いったん低分子化してから遠心分離したり濾過したりすると、大量のエクソソームを抽出できる。従って、請求項6により、フコイダン由来エクソソームの有効利用を実現できる。
【0044】
海草の中で褐藻類はフコイダンの含有割合が高いため、請求項7のように原料として褐藻類を使用すると、エクソソームを効率良く抽出できる。請求項5でも述べたが、特にモズクを使用すると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】フコイダン原液と血液中のSOD3活性度を示す実験のグラフである。
【
図3】超遠心法により分離した粒子の粒径と個数とを示す図である。
【
図4】(A)(B)は肝機能障害に対するフコイダン由来エクソソームの効果を示すグラフ、(C)~(J)は肝機能障害に関して組織の染色像から効果を見た顕微鏡写真である。
【
図5】フコイダン由来エクソソームのNK細胞活性化作用を示すグラフである。
【
図6】ヒト細胞のACE2受容体に対するフコイダン由来エクソソームのCOVID-19吸着阻害効果を示すグラフである。
【
図7】5-アミノレブリン酸の含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
次に、図面を参照しつつ本願発明を具体的に説明する。
【0047】
(1).フコイダン及びこれにしたエクソソームの生理学的効果
さて、ヒトの生活習慣病を引き起こす原因の1つに酸化ストレスがあり、酸化ストレスによって発生する活性酸素の除去は酵素の一種であるスーパーオキシドディスムターゼ(Superoxide Dismutase:SOD)によって成されるが、SODの量が低下すると活性酸素の除去が不十分になって、細胞の損傷などを通じてガン等の生活習慣病に患りやすくなる。平たく述べると、SODの低下は免疫力の低下と云える。
【0048】
従って、SODの量は健康度合のバロメータであり、また、外部から体内に取り込んだ物質とSODの量との関係を知ると、取り込んだ物質の作用を知ることができる。そこで、被験者10名に低分子化フコイダンを飲用してもらい、血液中のSOD3の変化量を測定した。その結果を表したのが
図1のグラフである。
【0049】
低分子化フコイダンとしては、本願の共願者である第一産業株式会社が販売しているパワーフコイダンCG(トンガ産)を使用し、右下の凡例に示すように、飲用前、飲用後30分、1時間経過後、2時間経過後、4時間経過後)の5つの時間ポイントで血液を採取し、SOD3の量を測定した。
【0050】
すなわち、低分子化フコイダンによるSOD3活性度(Colorarimetric Activity:SOD3・A)を測定した。パワーフコイダンCGの飲用量は100gで、各時間毎に2回ずつ採血し、平均値を測定値とした。被験者の番号の右に記入したMは男性、Fは女性を示す。数字は年齢である。
【0051】
試料であるパワーフコイダンCGは、トンガ王国産のモズクを使用しており、酵素を添加して加水分解して低分子化したものである。フコイダンの分子量は概ね500程度であり、硫酸基がフコース比で約19重量%含まれている。
【0052】
血液中に含まれるSOD3の量は、健康な成人で1.95~4.60U/mlであるが、いずれの被験者もパワーフコイダンCGの摂取によって血液中のSOD3の値が上昇しており、このことから、低分子化フコイダンが活性酸素除去機能(免疫力増強強)を有していることを理解できる。
【0053】
SODの量は40才程度を境にして急減すると言われているが、各被験者の基本的なSOD3の量は、このような一般的見解に符合している(個人差はあるが。)。そして、D1~D3、D5、D6、D7のグループは、他のグループに比べて通常のSOD3値が低いが、パワーフコイダンCGの摂取によってSOD3活性値が目に見えて高くなっている。このことから、低分子化フコイダンが高いSOD3生成機能を発揮していることを理解できる。
【0054】
D10の被験者は若くてSOD3の値(活性度)が元々高いため、低分子化フコイダンを摂取してもその効果は殆ど現れていない。このことは、低分子化フコイダンを摂取してもSOD3は過剰生成されないことを意味しているが、このことから、ヒトの身体内(血液内)でのSOD3生成量を活性酸素量にバランスさせる機能が働いていることと、低分子化フコイダンを摂取し過ぎても生理学的弊害は現れないことを理解できる。
【0055】
図1の結果から、低分子化フコイダンが血液中でSOD3生成に貢献していることを理解できるが、検討すべきは、飲料として服用して大腸から吸収されたフコイダンが血液中のSOD3生成をサポートしているメカニズムである。
【0056】
そこでまず検討すべきは、造血幹細胞との関係である。血液中のSOD3は造血幹細胞から分泌されていると推測される一方で、SOD3は造血幹細胞の正常分化にも寄与していると推測されため、低分子化フコイダンが造血幹細胞に作用してSOD3の分泌を促しているか、又は、低分子化フコイダンが造血幹細胞の生成を促進していると推測されるが、すると、低分子化フコイダンは、造血幹細胞に作用するプログラム機能を備えていると解される。
【0057】
そして、多糖類であるL-フコース自体が造血幹細胞に作用するプログラム機能(情報伝達機能)を備えているとは想定できないので、造血幹細胞に作用しているのは、フコイダン由来エクソソームに格納されているmiRNAやmRNAである可能性が高い。SOD3とフコイダンとは全く異質な物質であるが、フコイダン由来エクソソームのプログラム機能を視野に入れると、フコイダン摂取後のSOD3活性値の上昇メカニズムを綺麗に証明できる。
【0058】
(2).フコイダン由来エクソソームの製造
図2では、フコイダン由来エクソソームの製法を簡単に示している。この方法では原料としてモズクを使用している。海で採取したモズクを洗浄すると共に異物を除去して、そのままの大きさ又は適宜裁断して釜に投入して煮沸によって加水分解し、次いで、表層の繊維質などの夾雑物をフィルターによって濾過精製し、低分子化されたフコイダン原液を得る。加水分解に際して、分解を助けるため酵素やアルコールを添加することも可能である。
【0059】
次いで、精製されたフコイダン原液をキットに封入して超遠心機にセットして、10万G以上の加速度を加えてエクソソームを分離する。なお、本実施形態では超遠心機は分析用を使用したが、量産工程では分離用超遠心機や限外濾過法と陰イオン交換樹脂などを組み合わせたTFFシステムなどを使用する。
【0060】
超遠心によって分離された粒子の粒径と量との関係例を
図3に表示している。各例は概ね50~200nmの粒径になっているが、この大きさの粒子の大部分はエクソソームであると推測される。分離した全ての粒子の組成や構造を解明することは不可能であるので、分離した粒子群は、正確にはフコイダン由来エクソソーム様粒子というべきであるが、本願では、フコイダン由来エクソソームとして扱っている。
【0061】
図3の曲線は多数のプロットよりなる図形の外形をなぞったものであるため、粒子の全体個数はプロットの個数の積算値として計算されるが、いずれの測定でも、1ml当たり50億個以上が存在していた。理論的には、上記したL-フコースの含有率の下で1ml当たり800億個のエクソソームが存在していると推測できるが、実際に分離(単離)できるエクソソームの全量のうち1割以下になっている。従って、分離率の向上は今後の課題として残っている。
【0062】
本実施形態では、エクソソーム(或いは、エクソソーム様粒子)の分離法として超遠心機を使用したが、膜フィルターを使用した分離(例えば限外濾過法)や分子篩を使用した分離法も検討に値する。
【0063】
エクソソームがL-フコース等の組織と分子結合しているのか、或いは、組織の中に絡まった状態で存在しているのか、フコイダンの中でのエクソソームの存在態様は解明していないが、フコース分画の処理を施すことなくエクソソームを抽出できることから、フコイダンエキスの中にエクソソームが独立した状態で満遍なく存在していると推測される。すると、量産手段として限外濾過法は有力な選択枝であると思われる。
【0064】
精密濾過法と限外濾過法とを併有する複数回濾過法や、遠心分離法と濾過法との組合せなども検討に値する。酵素やアルコール類などの薬剤の使用による分離法についても研究していきたい。つまり、安価で効率良く抽出できる方法を研究していきたい。
【0065】
(3).フコイダン由来エクソソームの評価(1)
さて、ヒトや動物の肝機能に関して、肝臓に障害が起きるとAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)及びALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の分泌が増大してその血中濃度が上昇する現象が見られる。そこで、フコイダン由来エクソソームの薬理効果の確認手段の1つとして、AST及びALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)の量を測定した。
【0066】
実験では8週齢の雌マウスを被験例として使用して、肝炎誘発剤であるコンカナバリンA(ConA)を体重1kg当たり20mgの割合で投与(注射)し、その後、フコイダン由来エクソソームを注射してから、24時間経過後に採血して血清中のAST及びALTを測定すると共に、肝組織のHE染色体の状態を顕微鏡で観察した。
【0067】
フコイダン由来エクソソームとしては、トンガ産モズクから抽出したものと、国産モズクから抽出したものとを使用した。比較例として、ConAを投与していない被験例と、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を投与した被験例とを用意した。各被験例の個体数はそれぞれ4匹で、(A)(B)では平均値を結果値とした。
【0068】
図4(A)(B)から、ConAを投与していない場合とPBSを投与した場合に比べて、ASTとALTとの値がいずれもが低下していることが判るが、このことから、ConAによって破壊された肝細胞がフコイダン由来エクソソームによって修復されていることを理解できる。
【0069】
図4のうち(C)(D)は対になっており正常な(ConAを投与していない)肝組織の写真である。(C)はHE染色写真、(D)は陽性免疫写真である。(E)(H)はConAを投与したままの異常組織の写真であり、(E)はHE染色写真、(H)は陽性免疫写真である。(F)と(I)は対になっており、トンガ産モズクから抽出したエクソソーム(EV)を投与した組織の写真である。(F)はHE染色写真、(I)は陽性免疫写真である。(G)と(J)は対になっており、国産モズクから抽出したエクソソーム(EV)を投与した組織の写真である。(G)はHE染色写真、(J)は陽性免疫写真である。
【0070】
(D)(H)~(J)の陽性免疫染色写真においてドット状に見えるのはヘルパーT細胞であり、細胞表面抗原の1つであるCD4の表面に集積している状態を確認できる。ヘルパーT細胞は造血幹細胞から分化しているが、(H)の写真から、ConAに対する免疫作用としてCD4の表面に多数集積している状態を理解できる。
【0071】
HE染色写真について見ると、(E)の異常組織との比較で、フコイダン由来エクソソームを投与した(F)(G)の組織が(C)の正常組織に非常に近づいていることを理解できる。すなわち、組織が緻密化して正常化している状態を把握できる。
【0072】
陽性免疫染色写真も同様であり、(H)に現れている異常組織との比較として、フコイダン由来エクソソームを投与した(I)(J)の組織が(D)の正常組織に非常に近づいていることを理解できる。すなわち、組織が緻密化して正常化することによってT細胞が減少している状態を把握できる。
【0073】
このように、
図4に表示されている結果から、フコイダン由来エクソソームが肝細胞の修復に大きく貢献していることを理解できる。
【0074】
(4).フコイダン由来エクソソームの評価(2)
ヒトや動物の免疫系を構成する主要物質の一つして、顆粒性リンパ球の一種であるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)がある。NK細胞は体内に侵入した異物をダイレクトに破壊する性質を備えており、その量が多くて活性度が高いほどヒトや動物の免疫力は高くなる。
【0075】
NK細胞は細胞質に富んだ一種の母艦であり、ウイルス等の侵入者に対する武器として、タンパク質の一種であるパーフォリンと酵素の一種であるグランザイムとを備えている。敵とみなした侵入者が接近するとパーフォリンを放出して侵入者に穴を空け、次いで、グランザイムが侵入者の組織内に入り込んでアポトーシスを誘導する。従って、侵入者は単に破壊されるだけでなく増殖できなくなる。
【0076】
フコイダンの免疫力はかねてから主張されてきたが、免疫系の雄であるNK細胞に対してフコイダン由来エクソソームがどのように作用するのかを実験した。その結果を
図5のグラフで表している。
【0077】
実験では、未処理のNK細胞の分泌するグランザイム量と試料が施されたNK細胞から分泌されるグランザイム量とを測定し、未処理の場合のグランザイム量を1.0として相対化した。これをグラフ化したのが
図5(A)である。試験では、FRET基質(フェルスター共鳴エネルギー移動基質)のキットを用い、グランザイムBの活性を蛍光度として検出した。
【0078】
上記のとおり、グランザイムはNK細胞の有力武器であり、その数が多いと免疫力は高くなるが、
図5(A)のとおり、フコイダン由来エクソソームを投与すると、NK細胞のグランザイム量の相対置は、未処理の場合の約8倍、間葉系幹細胞由来NK細胞(MSC・EV)を投与した場合に比べても約4倍になっている。このことから、フコイダン由来エクソソームがNK細胞のグランザイム放出機能を向上させていることを理解できる。
【0079】
また、グランザイム量が増大することは外敵に対するNK細胞の攻撃力が強くなることを意味しているが、
図5(A)から、フコイダン由来エクソソームがNK細胞に取り込まれることにより、NK細胞の外敵攻撃力が間葉系幹細胞由来エクソソーム細胞添加の場合よりも約4倍増大していることを理解できる。
【0080】
組織をアポトーシスに導く誘導因子として、II型膜貫通タンパク質であるFasL(ファスリガンド)がある。FasLを通じたアポトーシス誘導作用はパーフォリンを通じたアポトーシス誘導作用と並立しており、対象組織に侵入してシグナル伝達作用によって対象組織をアポトーシスに導いている。従って、NK細胞においてFasLが発現することは免疫作用として好ましい。
【0081】
そこで、FasLの出現量も測定してみた。測定には、ヒトFasL/CD測定ELISAキット(コスモ・バイオ株式会社製)を用い、比色法によって発現量を測定した。すなわち、エクソソームを添加していない未処理エクソソームの場合のFasLの発現値を1.0として、フコイダン由来エクソソームを添加した場合の発現量を指標として表示した。これが
図5(B)であり、この
図5(B)のとおり、フコイダン由来エクソソームを投与すると、投与していない場合に比べて約2.7倍のFasL発現量が見られる。
【0082】
このように、フコイダン由来エクソソームがNK細胞の働きを促進していることを理解できるが、このことは、フコイダンが免疫力を高めるという一般的評価を科学的に裏付けている。また、重要なことは、フコイダン由来エクソソームがNK細胞にとって外敵と認識されずに受容されていることであり、この受容性の故に、薬剤類への幅広い適用が可能になっている。
【0083】
フコイダン由来エクソソームがNK細胞に作用してグランザイムの放出やFasLの放出を増大させていることは確認できるが、そのメカニズムはまだ解明していない。NK細胞がフコイダン由来エクソソームに比べて極めて巨大であることを考慮すると、フコイダン由来エクソソームがNK細胞の中枢に作用するというよりも、NK細胞を構成している無数の細胞質に作用してグランザイムやFasLの放出を促している可能が高いと推測される。
【0084】
なお、FasLについては、侵入者やガン細胞をアポトーシスに導く正の作用の他に、増殖過多によって自己の組織を破壊したり、侵入組織に対するアポトーシス耐性を示したりする負の作用も報告されており、劇症肝炎の原因ではないかという報告も見られる。既述のとおり、ウコン由来のエクソソームについて過剰摂取による肝機能障害が報告されているが、その原因はFasLの暴走に起因しているのかもしれない。
【0085】
これに対して、
図5の(A)(B)の比較から、フコイダン由来エクソソームはFasLの増殖を適正に制御しているように見られる。つまり、フコイダン由来エクソソームは、NK細胞に元々組み込まれているプログラムの範囲内で増殖に貢献しているように見られる。従って、過剰摂取しても副反応はなくて安全性は極めて高いと云える。
【0086】
(5).フコイダン由来エクソソームの評価(3)
人の組織の表面には、外部からの信号を取り込む受容体(レセプタ)が存在している。受容体は特定のタンパク質で構成されていて複数種類存在しているが、呼吸系感染症の原因になるコロナウイルスは、ACE2(アンジテオテンシン変換酵素2)と呼ばれる酵素を受容体としてヒトの組織に結合しており、受容体に吸着したウイルスはヒトの細胞を利用して増殖していく(組織を食い荒らしていく。)。その典型が2019年から世界に広がったCOVID-19であるが、本願発明者たちは、ACE2に対するフコイダン由来エクソソーム等のCOVID-19結合阻害機能も測定した。
【0087】
その結果を
図6に表示している。測定には、試料として、PNT2(ヒト前立腺由来細胞)とタンパク溶解液であるMPER、トンガ産モズクを使用したパワーフコイダンの原液、間葉系幹細胞由来NK細胞(MSC・EV)、及び国産モズクから抽出したパワーフコイダンのエクソソームを使用した。
【0088】
キットとして、フナコシ株式会社製の「COVID-19 Spike-ACE2 Binding Assay Kit」を使用し、同社製「SARS-Cov-2 Spike」に結合した試料の量を比色法によって測定し、これをACE2の量とした。
【0089】
そして、PNT2とMPERには目立った結合阻害効果は見られない一方で、MSC・EVとフコイダン原液、フコイダン由来エクソソームは有意な結合阻害機能を発揮していることが判る。特に、フコイダン由来エクソソームは50%に近い結合阻害率を発揮している。このことから、フコイダン由来エクソソームをスプレーなどで霧状にして呼吸器系に吸引することにより、COVID-19(或いは他のコロナウイルス)に起因した感染症に対する予防効果を発揮できると推測できる。
【0090】
なお、COVID-19等のコロナウイルス自体に対するフコイダン由来エクソソームのアポトーシス誘導効果は実験していないが、フコイダン由来エクソソームのメッセンジャー機能に照らすと、高い死滅効果を発揮する可能性がある。死滅効果が見られる場合は、例えば、マスクにフコイダン由来エクソソームを担持させて、呼吸器系への侵入前又は排出後に駆除することが可能になる。
【0091】
5-アミノレブリン酸(5-ALA)は天然アミノ酸(塩基)の一種であって生命の根源物質として知られており、疲労回復効果などの生理的効果が注目されて、サプリメントや薬剤に利用されている。4量体化してヘムに至る過程でのユニークな光学的特性を利用したガンの診断マーカーとしても使用されている。
【0092】
そして、
図7のとおり、モズクを使用したパワーフコイダン(PF)から抽出したエクソソームも、ある程度の量の5-ALAを含有していることが判明した。赤ワインに比べると含有量は少ないが、フコイダン由来エクソソームに含まれる5-ALAが免疫調整機能に貢献している可能性は高いと推測できる。すなわち、含有量は少なくも生理学的作用・薬理学的作用は非常に高いと推測できる。
【0093】
なお、
図7に記載している試料を正確に表示すると、日本酒の銘柄は獺祭(旭酒造株式会社)、納豆はコンビニ販売品、赤ワインはBOURGONE PINOT NOIR 2018(フランス産)、日本茶は築地魚河岸茶(うおがし銘茶株式会社製)である。
【0094】
(6).むすび・その他
以上説明したように、フコイダン由来エクソソームは、ヒトや動物の組織・細胞に作用して、アポトーシス誘導作用と正常細胞増殖作用とを発揮する。このため、炎症、潰瘍、ガンなどの各種疾病や外傷の治療薬、生活習慣病の予防薬、健康維持増進のためのサプリメント、肌を本来の状態に戻す基礎化粧品など、幅広い用途への適用が期待される。
【0095】
そして、フコイダン由来エクソソームの特筆すべき長所として、ヒトや動物の組織・細胞に拒絶されることなく受け容れられる受容性、過剰使用しても弊害(例えば副反応)が生じない安全性、継続使用しても耐性が生じない効果持続性、対象組織が本来持っている働きをサポートすることによる非依存性、多種多様な組織に作用する万能性、といった特性が挙げられるが、このような特性により、様々な用途に様々な態様で製品を供給して社会に貢献できると云える。
【0096】
特に注目すべきは、多種多様な組織に作用する万能性と、対象組織の遺伝情報を是正して自己修復させるサポート機能であり、万能細胞である幹細胞に作用させることにより、様々な疾病の治療や再生医療に貢献できると期待される。
【0097】
実施形態の製法では原料を加水分解して低分子化フコイダンにしてから遠心分離機にかけたが、加水分解の工程を経ずに、モズク等の原料を洗浄処理してから摺り潰し等によって微細化して遠心分離機や濾過機に掛けることも可能である。
【0098】
また、エクソソームの精製物は溶液の状態で得られるが、製品化に当たっては、そのまま使用することも可能であるし、濃縮して使用することも可能である。注射液や点滴液に使用する場合は、定法に従い、濃縮してから生理食塩水や蒸留水等の溶媒に混合させたらよい。錠剤や粉末剤として使用する場合も、定法に従い、不定形賦形剤に混合してから乾燥させて打錠したり粒度調整して粉末状化等の処理を施したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本願発明は、フコイダン由来エクソソームに関連した技術に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0100】
1 超遠心機
2 キット