(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172700
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】軌条車両およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B61D 27/00 20060101AFI20241205BHJP
B61D 33/00 20060101ALI20241205BHJP
B61D 49/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B61D27/00 V
B61D33/00 A
B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090579
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大島 佑己
(72)【発明者】
【氏名】冨田 斉央
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 尚志
(72)【発明者】
【氏名】松居 亮稔
(72)【発明者】
【氏名】南海 昂輝
(72)【発明者】
【氏名】矢部 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】市木 佑樹
(57)【要約】
【課題】排気流路への異物の混入の抑制と、流路を伝わって伝達する空調換気装置からの騒音の低減を安価で簡素な構造で実現できる軌条車両およびその製造方法を提供する。
【解決手段】軌条車両は、下方筒部と上方筒部と座席と座席台の開口又は切欠とにより形成された折り返し流路構造を有し、前記折り返し構造を介して空気が車室内から、床下の排気流路につながる排気口へと流れるとき、前記下方筒部の外周と前記上方筒部の内周との間を通過する流れの方向が、前記下方筒部の内側を通過する流れの方向と逆である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室の床上に配置され、開口又は切欠を備えた座席台と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して配置された座席と、
床下に配置された排気流路と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して前記床に形成され、前記排気流路と車室内とを連通する排気口と、
前記床に設置されて、前記排気口を内包する下方筒部と、
前記座席台の下方に配設され、前記下方筒部の一部を内包する上方筒部と、を有する軌条車両において、
前記下方筒部と前記上方筒部と前記座席と前記座席台の前記開口又は前記切欠とにより、折り返し流路構造が形成され、
前記折り返し構造を介して空気が前記車室内から前記排気口へと流れるとき、前記下方筒部の外周と前記上方筒部の内周との間を通過する流れの方向が、前記下方筒部の内側を通過する流れの方向と逆である、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項2】
請求項1に記載の軌条車両において、
前記座席は、前記開口又は前記切欠に対向する面に座席吸音部材を有する、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項3】
請求項1に記載の軌条車両において、
前記開口又は前記切欠に吸音材を配設した、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項4】
請求項1に記載の軌条車両において、
前記下方筒部および前記上方筒部のうち一方の少なくとも内周面の一部に吸音材を配置した、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項5】
請求項1に記載の軌条車両において、
前記座席台は、第1の脚部と、第2の脚部と、前記第1の脚部と前記第2の脚部とにより支持される頂壁とを有し、前記頂壁に前記開口又は前記切欠が形成されており、
前記下方筒部は、複数の上方壁と、前記上方壁に接続される前記第2の脚部とにより周壁が構成され、
前記上方筒部は、複数の下方壁と、前記下方壁に接続される前記第2の脚部とにより周壁が構成される、
ことを特徴とする軌条車両。
【請求項6】
請求項5に記載の軌条車両の製造方法であって、
前記第1の脚部と前記第2の脚部と前記頂壁とを接合するとともに、前記複数の上方壁を前記第2の脚部に接続することにより前記上方筒部を備えた座席アッセンブリを形成し、
前記排気口に隣接して前記複数の下方壁を前記床に立設し、
前記座席アッセンブリの前記第2の脚部を、前記複数の下方壁に接続して前記下方筒部を形成する、
ことを特徴とする軌条車両の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の軌条車両の製造方法であって、
前記排気口に隣接して前記床に前記複数の下方壁と前記第2の脚部を立設して前記下方筒部を形成し、
前記第1の脚部と前記頂壁とを接合するとともに、前記複数の上方壁を備えた座席アッセンブリを形成し、
前記座席アッセンブリの頂壁に前記第2の脚部を接続するとともに、前記複数の上方壁を前記第2の脚部に接続することにより前記上方筒部を形成する、
ことを特徴とする軌条車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌条車両およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には客室内の温度や湿度、圧力を快適に保つために、空調換気装置が搭載されている。空調換気装置で温度や湿度・圧力が調整された調整空気は、調整空気流路を通じて車室内に送り込まれ、また、車室内で滞留している空気は、排気流路を通じて換気装置へと送られる。主に国内の高速鉄道車両では低重心化の観点から、空調換気装置は床下に搭載されるのが一般的であり、その場合、調整空気流路や排気流路は、床部の外構体と内装床の間の空間に設置される。
【0003】
このようなレイアウトの流路を採用したときは、車室内の気流による快適性の観点から、調整空気は窓の間を立ち上がって荷棚下部に設けられた吹き出し口から車内へ送られ、また、排気は床に設けられた排気口から排出される。このとき、床に落下した異物が床に設けられた排気口へと入り込み、混入した異物が流路を通じて空調換気装置へ移動して空調換気装置を損傷する懸念がある。また、空調換気装置には空気を吸引/送出するファンが設けられているため、その動作により空調換気装置内部で騒音が発生する。ここで、前記の排気流路は空調換気装置で発生した音の伝達経路ともなり得るため、車室内快適性の確保の観点から、排気流路を通じて車室内へ伝達される空調換気装置の騒音を抑制することが望まれる。
【0004】
このように床下に排気流路が設けられた空調流路構造を採用した鉄道車両では、排気流路への異物の混入による空調換気装置の損傷のリスク抑制と、流路を伝わって伝達する空調換気装置からの騒音の低減が課題となるが、このような課題に対する解決策として、特許文献1や特許文献2に開示されているような技術が提案されている。
【0005】
特許文献1では空調装置に連通する開口が内装床に設けられた車両において、開口の上に床と接触しないように支持されたカバーを配置し、床とカバーと支持部材により囲まれた空間を形成したうえで、該カバーに対して吸音材を張り付ける構造が提案されているほか、床にこぼれた液体の流入を防ぐ保護板についても提案されている。
【0006】
また、特許文献2では2列ないしは3列の座席の継ぎ目の直下に、内装床に設けられた排気口が位置しないように位置関係を調整したうえで、床の開口から鉛直方向に伸びた保護枠を設け、さらにこの保護枠のある位置が並列する座席の継ぎ目の真下に位置しないように配置することで、流路内への異物の混入を抑制するとともに、流路を極力直線的に設定することで流れが乱れることによる流体騒音を抑制する構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2023-14863号公報
【特許文献2】特開2022-99446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、内装床に設けられた排気口に対して吸音材を具備したカバーを設けることで排気口を通じて空調換気装置から車室内へ伝達する騒音の抑制を行っている。しかしながら空調換気装置で発生する騒音は、500Hz以下の低周波騒音が支配的であり、このような低周波の騒音を低減するには吸音材に十分な厚さが必要となるため、車室内スペースとの間で取り合いが生じることとなる。仮に、カバーの厚さに対して車室内スペースを優先した場合には、吸音材の設置による騒音低減効果は高周波に限られるため、大きな効果は得られない可能性がある。
【0009】
このように空調換気装置そのもので発生した低周波成分が支配的となる騒音を積極的に抑制するには吸音材の適用が効果的であるが、排気口のカバーに吸音材を搭載するという対策では、吸音材を設置するスペースが不足するという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の床の開口から鉛直方向に伸びた保護枠は、騒音伝達経路を稼ぐことによって騒音低減効果を得られる効果は見込まれるものの、積極的な吸音材の適用については言及されていない。また流体騒音の発生を抑制することを目的として流路が極力直線的になるよう設定することが特許文献2に記載されているが、空調換気装置や流路に関連した車内騒音で支配的なのは、流路を空気が流れることによって発生する流体騒音ではなく、空調換気装置そのもので発生した騒音が流路を経由して車室内に伝達する成分である。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、排気流路への異物の混入の抑制と、流路を伝わって伝達する空調換気装置からの騒音の低減を安価で簡素な構造で実現できる軌条車両およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の軌条車両の一つは、
車室の床上に配置され、開口又は切欠を備えた座席台と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して配置された座席と、
床下に配置された排気流路と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して前記床に形成され、前記排気流路と車室内とを連通する排気口と、
前記床に設置されて、前記排気口を内包する下方筒部と、
前記座席台の下方に配設され、前記下方筒部の一部を内包する上方筒部と、を有する軌条車両において、
前記下方筒部と前記上方筒部と前記座席と前記座席台の前記開口又は前記切欠とにより、折り返し流路構造が形成され、
前記折り返し構造を介して空気が前記車室内から前記排気口へと流れるとき、前記下方筒部の外周と前記上方筒部の内周との間を通過する流れの方向が、前記下方筒部の内側を通過する流れの方向と逆である、ことにより達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、排気流路への異物の混入の抑制と、流路を伝わって伝達する空調換気装置からの騒音の低減を安価で簡素な構造で実現できる軌条車両およびその製造方法を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態1に係る鉄道車両(以下「本車両」ともいう)の側面図である。
【
図2】
図2は、
図1のA-A断面図であり、基本構成である調整空気流路や排気流路、床部の外構体、内装床、排気口、座席などの位置関係を示すレール方向に垂直な断面の断面図である。
【
図3】
図3は、
図1のB-B断面図であり、基本構成である調整空気流路や排気流路、床部の外構体、内装床、排気口、座席などの位置関係を示すレール方向に垂直な断面の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態1を説明する図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態1の組立方法(製造方法)を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態2を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照しながら本発明を適用する上で前提となる構造について説明する。なお軌条車両とは、敷設された軌道に沿って運行される車両の総称であり、鉄道車両、路面電車、新交通システム車両、モノレール車両等を意味する。軌条車両の代表例として、鉄道車両を例示して、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は本車両1の側面図である。まず発明の実施を説明するために供される各方向について定義する。本車両1の長手方向またはレール方向をx方向とする。このx方向に垂直な水平面内方向で一般に枕木方向と呼ばれる方向をy方向とする。さらにx方向ならびにy方向に垂直な鉛直方向をz方向とする。
【0017】
図1に示す本車両1は、レール3の上に台車5を介して設置されている。本車両1の床は、強度部材である床部の外構体10と、車内の乗客が上を歩く内装床(単に床ともいう)11の二重構成となっており、床下機器20や空調換気装置21は床部の外構体10の下に吊られている。床下にある空調換気装置21で温度や湿度・圧力を調整された調整空気は、前記床部の外構体10と内装床11で二重構成となっている床構造の間に設けられた調整空気流路31を通じ、さらに窓50と窓50の間に設けられた立ち上がりダクトを経由して空調吹き出し口41から車室内へと送られる。
【0018】
一方で、車室内に滞留している空気は、内装床11に設けられた排気口42(
図3参照)から排気流路32を通じて再び空調換気装置21へ還流する。なお、床部の外構体10と内装床11で二重構成となっている床構造の間に設けられた調整空気流路31と排気流路32を総称して、空調ダクト30とも呼称する。
【0019】
図2と
図3は、x方向に垂直な断面内での空調気流の流れを説明するための図であり、
図2は、
図1のうち窓と窓の間で区切ったx方向に垂直なA-A断面を示す断面図で、
図3は、
図1のうち窓のある部分で区切ったx方向に垂直なB-B断面を示す断面図である。
図2、
図3に示すように、前述の空調ダクト30は、内装床11と、図示しないがその下にある床部の外構体10との間のスペースに設置されており、調整空気流路31と排気流路32とを有する。
【0020】
車室80は、側構体91と屋根構体92によって囲われており、屋根構体92の内側に内装吸音材94および内装パネル93が配設されて天井52を構成する。
【0021】
室内の気流による快適性の観点から、排気流路32よりもy方向の外側に配置された調整空気流路31から供給される調整空気は、
図2に示す立ち上がりダクト33を通って車両側面部をz方向に沿って立ち上がり、空調吹き出し口41から車室内80に放出される。
【0022】
一方で、前述のように車室内に滞留している空気は、
図3に示す内装床11に設けられた排気口42から、空調ダクト30のうちy方向内側に配置される排気流路32を通じて再び空調換気装置21へ還流する。この時、排気口42は、車室内での乗客の移動や、着座時に足を置く位置などを考慮して、座席70の座面部74の下に配置される。このようにすることで排気口42が車室内移動時の妨げになったり、着座時に足で排気口42を塞いだりすることがなくなり、また車室内の美観を確保する観点からも好ましい。ちなみに一般的な鉄道車両の座席70は、背もたれ72と座面部74とを有する。座面部74と座席台76との間の隙間は極力小さくすると好ましい。また、内装床11に固定された座席台76に対して座席70を前後反転できるような回転構造が、座席台76に配設されている。排気口42は座席台76の下方にあるため、座席70を前後反転させても、排気口42は邪魔にならない。
【0023】
ところでこのように内装床11に排気口42が設けられることにより課題が生じることがある。課題の一つは異物の混入抑制である。上述のように内装床11に排気口42が設けられると、足元のごみや誤ってこぼした飲み物などが排気口42に入り込み、やがて排気流路32を移動して空調換気装置21に到達し、場合によっては空調換気装置21を損傷する懸念があるため、その対策が望まれる。
【0024】
もう一つの課題は、騒音の抑制である。排気流路32が空調換気装置21で発生した騒音の伝達経路となりうるため、空気を吸引/送出するファンが動作することにより空調換気装置21で発生した騒音が、排気流路32を経由して車室80内に伝わる懸念があるため、その対策が望まれる。
【0025】
本実施形態によれば、上記のような異物の混入と空調換気装置21で発生した騒音が排気流路32を経由で車室80内に伝わることを抑止する構造を提供するものである。以下具体的な実施形態について図を用いて説明する。
【0026】
[実施形態1]
このような課題を解決できる実施形態1について、以下に説明する。
図4および
図5は、実施形態1による本車両1の座席70の座面部74からその下方にある内装床11付近の構造を示す図で、
図4はx方向正の側から見た断面図を、
図5はy方向正の側から見た断面図を示す図である。すなわち、
図5は
図4のC-C断面に相当し、逆に
図4は
図5のD-D断面に相当する。
【0027】
実施形態1によれば、排気口42が、座席70の座面部74の下方において内装床11に開口し、内装床11の下に設置された排気流路32に連通している。該排気口42は、例えば矩形状断面を有する。詳細は後述するが、矩形状断面の一辺は座席台76の脚部77により構成され、残り三辺は床上排気ダクト34により構成される。なお、座席台76は、脚部(第1の脚部)73および脚部(第2の脚部)77と、これら脚部の上端により支持される頂壁を備える。これ以外に脚部を有していてもよい。脚部77は、x方向およびz方向に延在する板状である。一方、脚部73はz方向に延在する複数の梁であるが、これに限られない。
【0028】
内装床11の上面に、床上排気ダクト34が設置されている。床上排気ダクト34は、座席台76の脚部77とは別途に設置されたz方向およびx方向に延在する1つの壁と、z方向およびy方向に平行して延在する2つの壁とを有し、これらの3つの壁(下方壁という)はz方向から見て該排気口42の三辺より外側において、コ字状に結合される。
【0029】
図4に示すように、床上排気ダクト34のz方向およびy方向に延在する2つの壁の先端(y方向端)を、座席台76の板状の脚部77に当接するように取り付けることで、床上排気ダクト34と脚部77とで軸線直交方向断面が矩形状の筒部(下方筒部LTという)が形成され、その内部が排気口42に連通する空気の流路となる。すなわち、下方壁と脚部77とで、下方筒部LTの周壁を構成する。下方筒部LTの上端と、座席台76の頂壁とは、所定間隔で離間する。なお、床上排気ダクト34を4つの壁からなる角筒状としてもよい。
【0030】
さらに、座面部74の下面に座席吸音部材75が下方に向かって露出するように設置されている。座席70の前後反転を想定して、座席吸音部材75は座席の両側に一対形成されており、いずれの位置でも座席吸音部材75は排気口42に対向する。座席台76の頂壁は、z方向に見て座席吸音部材75に対応する位置に開口79を備えている。開口79の代わりに切欠を設けてもよい。
【0031】
座席下排気ダクト35は、座席台76の頂壁に上端が接して(一部が開口79内に位置するように)配置され、脚部77とは別途に座席台76に設置されたz方向およびx方向に延在する1つの壁と、z方向およびy方向に平行に延在する2つの壁とを有する。これらの3つの壁(上方壁という)はz方向から見て、開口79および床上排気ダクト34の下方壁よりも外側にコ字状に結合される。
【0032】
図4に示すように、座席下排気ダクト35のz方向およびy方向に延在する2つの壁の先端(y方向端)を、座席台76の板状の脚部77に当接するように取り付けることで、座席下排気ダクト35と脚部77とで軸線直交方向断面が矩形状の筒部(上方筒部UTという)が形成される。すなわち、上方壁と脚部77とで、上方筒部UTの周壁を構成する。上方筒部UTの矩形状断面積は、下方筒部LTの矩形状断面積より大きく、上方筒部UTは下方筒部LTの上端側を内包する。上方筒部UTの下端と、内装床11とは所定間隔で離間する。なお、座席下排気ダクト35を4つの壁からなる角筒状としてもよい。
【0033】
下方筒部LTと上方筒部UTが、このような構成を有するため、車室80内の空気は、上方筒部UTの下端から上方筒部UTの内部に進入し、下方筒部LTの外周面と上方筒部UTの内周面との間を通過してz方向上方に向かい、座席台76の開口79を通って、座面部74の下面に配置された座席吸音部材75に当たり、ここで反転する。座席吸音部材75で反転した空気は、再び開口79を通ってz方向下方に向かい、下方筒部LTの上端から下方筒部LT内に進入し、排気口42から排気流路32に排出される。すなわち、下方筒部LTの外周と上方筒部UTの内周との間を通過する空気の流れの方向(z方向上向き)が、下方筒部LTの内側を通過する空気の流れの方向(z方向下向き)と逆になる。
【0034】
本実施形態によれば、下方筒部LTと上方筒部UTと座席70と座席台76の開口79とにより、座席吸音部材75を折り返し点とする折り返し流路構造が形成され、さらに最終的な空気の取入れ面が鉛直下方を向くようになる。折り返し流路構造とは、一方向正側に向かう空気の流れが、折り返し点を境に一方向負側に流れる構造をいい、換言すれば空気の流れを、一方向の正側と負側との間で少なくとも1度Uターンさせる構造である。ここでは、空気の取入れ部(上方筒部UTの下端)が鉛直下方を向くことで、課題の一つである異物の混入が抑制されると同時に、座席吸音部材75を折り返し点とする折り返し流路によって、空調換気装置21で発生した騒音の車室80内への伝達を抑制することができる。
【0035】
騒音伝達の抑制効果について、本実施形態を従来技術と比較する。例えば特許文献1に示される排気口カバーに具備される吸音材では、車室スペースを優先するために比較的厚い吸音材を取り付けられない場合、空調換気装置の低周波音については吸音効果が限定的となるという課題がある。また、特許文献2のように流体騒音の発生を回避するため流路を直線的に設定すると、流体騒音よりも支配的な空調換気装置自体が発する騒音の伝搬を抑制しにくいという課題がある。これに対して本実施形態では、座面部74の下面に設置された座席吸音部材75を折り返し点とする折り返し流路が形成されているため、排気流路32および排気口42を介して車室80内に進入した騒音は、排気口42の正面にある座席70の下面の座席吸音部材75により吸音される。このため、上記の従来技術にくらべて効果的に空調換気装置21自体から発生する騒音を抑制することができる。
【0036】
図6は、
図4および
図5に示した本実施形態の構造の製造方法を示す図である。ここでは2つの組立方法について説明するが、いずれの組立方法においても、まず、排気口42が開口した内装床11に対して、床上排気ダクト34(3つの下方壁)を予め取り付ける。このとき、脚部77が位置する部位において、下方壁がy方向に開放した状態となる。
【0037】
第1の組立方法は、
図6(a1)のように、座席台76を組み立てておき、後から筒部LTを形成するものである。具体的に、脚部73,77を頂壁に取り付けて座席台76を形成するとともに、脚部77に対して座席下排気ダクト35を取り付けることで、上方筒部UTを有する座席アッセンブリAS1を形成する。
【0038】
その後、座席アッセンブリAS1を上方から床上排気ダクト34に対して接近させ床上排気ダクト34の下方壁のy方向開放部を脚部77で遮蔽することで、下方筒部LTの周壁が全周にわたって形成される。また、周壁が形成された下方筒部LTを上方筒部UT内に収容するように配置し、脚部73,77の下端を内装床11に固定する(
図6(b))。
【0039】
一方、第2の組立方法は、脚部73を取り付けた頂壁と、脚部77とが分離/結合できる構成であって、これらを結合してなる座席台76の構造が乗客の荷重に十分耐えうることを前提とする。かかる場合、下方筒部LTを組み立てておき、後から上方筒部UTを形成する。具体的には、
図6(a2)のように、床上排気ダクト34の下方壁のy方向開放部を遮蔽するようにして、内装床11に対して脚部77を立設して固定する。これにより下方筒部LTの周壁が全周にわたって形成される。
【0040】
その後、脚部73のみを取り付けた頂壁に、座席下排気ダクト35(上方壁)を取り付けることにより、上方壁のy方向が開放した座席台アッセンブリAS2を形成する。座席アッセンブリAS2を上方から下部筒部LTに接近させ、脚部73の下端を内装床11上に固定するとともに、座席アッセンブリAS2の頂壁を脚部77の上端に固定する。このとき、座席下排気ダクト35の下方壁のy方向開放部を脚部77で遮蔽することで、下方筒部LTを収容する上方筒部UTの周壁が全周にわたって形成される(
図6(b))。
【0041】
第1の組立方法及び第2の組立方法のいずれによっても、
図6(b)に示す構成が得られる。その後、
図6(c)に示すように、下面に座席吸音部材75を設置した座席70を、座席台76に取り付けることで、本実施形態の構成が
図6(c)のように完成する。
【0042】
[実施形態2]
図7は、実施形態2についての構造を示す図であり、
図7(a)は
図4と同様な図であり、
図7(b)は
図5と同様な図である。上述した実施形態と共通する構成については、重複説明を省略する。本実施形態においては、実施形態1の構成に加えて、座席台76の座面部74に対向する頂壁の開口79内に、座席吸音部材75に対向して吸音材78を設置している。この実施形態によれば、実施形態1で座席吸音部材75のみを用いていた場合に比べ、吸音がさらに強化され、特に見かけの吸音材厚さが厚くなることにより、より低周波の騒音を吸収することが可能となる。なお、吸音材78のみで吸音効果が十分である場合、座席吸音部材75を省略してもよい。
【0043】
[実施形態3]
図8は、実施形態3についての構造を示す図であり、
図8(a)は
図4と同様な図であり、
図8(b)は
図5と同様な図である。上述した実施形態と共通する構成については、重複説明を省略する。本実施形態では、実施形態1の構成に加えて、吸音材78を座席下排気ダクト35の内周や、床上排気ダクト34の内周のうち、排気流路上での気流に影響を及ぼさない範囲に設置している。
【0044】
本実施形態によれば、実施形態1で座席吸音部材75のみを用いていた場合に比べ、吸音がさらに増強され、特に見かけの吸音材厚さが厚くなることにより、より低周波の騒音を吸収することが可能となる。
【0045】
実施形態1により折り返し流路構造が形成されることは既に説明した通りであるが、この折り返し流路構造のうち実際に排気の気流が係わっておらず、気流のデッドスペースとなっている部分も存在し、その多くは流路の内側の隅部である。すなわち、座席下排気ダクト35の内周全体や、床上排気ダクト34の内周全体に吸音材78を設ける必要はなく、少なくとも上方筒部UT又は下方筒部LTの内周面の一部であって、例えば隣接する壁同士が交差する隅部のみに吸音材78を設けることができる。この気流のデッドスペースとなっている部分に対して吸音材を設置することで、空調換気装置21そのものの騒音の伝搬を抑制することができる。
【0046】
なお、実施形態2と実施形態3を組み合わせてもよい。
【0047】
本明細書は、以下の発明の開示を含む。
(第1の態様)
車室の床上に配置され、開口又は切欠を備えた座席台と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して配置された座席と、
床下に配置された排気流路と、
前記座席台の前記開口又は前記切欠に対向して前記床に形成され、前記排気流路と車室内とを連通する排気口と、
前記床に設置されて、前記排気口を内包する下方筒部と、
前記座席台の下方に配設され、前記下方筒部の一部を内包する上方筒部と、を有する軌条車両において、
前記下方筒部と前記上方筒部と前記座席と前記座席台の前記開口又は前記切欠とにより、折り返し流路構造が形成され、
前記折り返し構造を介して空気が前記車室内から前記排気口へと流れるとき、前記下方筒部の外周と前記上方筒部の内周との間を通過する流れの方向が、前記下方筒部の内側を通過する流れの方向と逆である、
ことを特徴とする軌条車両。
【0048】
(第2の態様)
第1の態様の軌条車両において、
前記座席は、前記開口又は前記切欠に対向する面に座席吸音部材を有する、
ことを特徴とする軌条車両。
【0049】
(第3の態様)
第1の態様又は第2の態様の軌条車両において、
前記開口又は前記切欠に吸音材を配設した、
ことを特徴とする軌条車両。
【0050】
(第4の態様)
第1の態様~第3の態様のいずれかの軌条車両において、
前記下方筒部および前記上方筒部のうち一方の少なくとも内周面の一部に吸音材を配置した、
ことを特徴とする軌条車両。
【0051】
(第5の態様)
第1の態様~第4の態様のいずれかの軌条車両において、
前記座席台は、第1の脚部と、第2の脚部と、前記第1の脚部と前記第2の脚部とにより支持される頂壁とを有し、前記頂壁に前記開口又は前記切欠が形成されており、
前記下方筒部は、複数の上方壁と、前記上方壁に接続される前記第2の脚部とにより周壁が構成され、
前記上方筒部は、複数の下方壁と、前記下方壁に接続される前記第2の脚部とにより周壁が構成される、
ことを特徴とする軌条車両。
【0052】
(第6の態様)
第1の態様~第5の態様のいずれかの軌条車両の製造方法であって、
前記第1の脚部と前記第2の脚部と前記頂壁とを接合するとともに、前記複数の上方壁を前記第2の脚部に接続することにより前記上方筒部を備えた座席アッセンブリを形成し、
前記排気口に隣接して前記複数の下方壁を前記床に立設し、
前記座席アッセンブリの前記第2の脚部を、前記複数の下方壁に接続して前記下方筒部を形成する、
ことを特徴とする軌条車両の製造方法。
【0053】
(第7の態様)
第1の態様~第5の態様のいずれかの軌条車両の製造方法であって、
前記排気口に隣接して前記床に前記複数の下方壁と前記第2の脚部を立設して前記下方筒部を形成し、
前記第1の脚部と前記頂壁とを接合するとともに、前記複数の上方壁を備えた座席アッセンブリを形成し、
前記座席アッセンブリの頂壁に前記第2の脚部を接続するとともに、前記複数の上方壁を前記第2の脚部に接続することにより前記上方筒部を形成する、
ことを特徴とする軌条車両の製造方法。
【符号の説明】
【0054】
1 :鉄道車両(本車両)
3 :レール(軌道)
5 :台車
7 :台枠
10 :床部の外構体
11 :内装床
20 :床下機器
21 :空調換気装置
30 :空調ダクト
31 :調整空気流路
32 :排気流路
33 :立ち上がりダクト
34 :床上排気ダクト
35 :座席下排気ダクト
41 :空調吹き出し口
42 :排気口
50 :窓
51 :荷棚
52 :天井
70 :座席
72 :背もたれ
73 :脚部(第1の脚部)
74 :座面部
75 :座席吸音部材
76 :座席台
77 :脚部(第2の脚部)
78 :吸音材
80 :車室
91 :側構体
92 :屋根構体
93 :内装パネル
94 :内装吸音材
UT :上方筒部
LT :下方筒部