(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172712
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両の捩り振動制振方法および装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/00 20060101AFI20241205BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F02D29/00 C
F02D45/00 364A
F02D45/00 360A
F02D29/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090602
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】山中 真吾
(72)【発明者】
【氏名】間瀬 至紀
【テーマコード(参考)】
3G093
3G384
【Fターム(参考)】
3G093AA05
3G093AA06
3G093BA33
3G093CB08
3G093DA01
3G093DA05
3G093DA06
3G093DA07
3G093DA09
3G093DA11
3G093DB09
3G093DB10
3G093DB11
3G093EA13
3G093FA04
3G384AA01
3G384BA02
3G384BA04
3G384BA09
3G384BA24
3G384DA56
3G384EA01
3G384FA01Z
3G384FA06Z
3G384FA28Z
3G384FA52Z
3G384FA55Z
3G384FA58Z
3G384FA72Z
3G384FA73Z
(57)【要約】
【課題】駆動系の捩り振動を検知したときに内燃機関の出力トルク補正によって制振する制振制御を無条件に実行すると、燃費の悪化を招来する。
【解決手段】冷却水温が所定の上限温度TwH以下である場合に作動許可判定フラグがオンとなり、制振制御の実行が許可される。回転数変動から捩り振動を検知したときに、内燃機関の出力トルク補正によってアクティブな制振が実行される。冷却水温が上限温度TwHよりも高いときは、制振制御が禁止される。上限温度TwHは、内燃機関の暖機完了温度よりも低く、内燃機関1の燃焼トルクばらつきが大きい温度条件に対応して設定される。トルクコンバータのロックアップクラッチのロックアップが禁止される温度に対応して下限温度TwLを設けてもよい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と変速機と駆動輪とを含む駆動系の捩り振動を、フィードバック方式による内燃機関の出力トルク補正によって制振する車両の捩り振動制振方法において、
内燃機関の冷却水温が所定の上限温度以下にあることを条件として上記出力トルク補正による制振制御を許可する、車両の捩り振動制振方法。
【請求項2】
上記上限温度は、暖機完了水温よりも低く、内燃機関の燃焼トルクばらつきが大きい温度条件に対応して設定されている、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項3】
上記出力トルク補正は、点火時期リタードによって行われる、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項4】
上記上限温度よりも低い下限温度が設定されており、冷却水温がこの下限温度よりも低いときは上記出力トルク補正による制振制御を禁止する、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項5】
上記変速機は、有段自動変速機であり、
変速開始から変速完了までの変速中は上記出力トルク補正による制振制御を禁止する、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項6】
上記変速機は、有段自動変速機もしくは手動変速機であり、
さらに、1つあるいは複数の所定の変速段にあることを条件として上記出力トルク補正による制振制御を許可する、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項7】
上記変速機は、無段変速機であり、
さらに、上記無段変速機の変速比が所定の変速比範囲にあることを条件として上記出力トルク補正による制振制御を許可する、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項8】
上記変速機は、手動変速機であり、
クラッチが断状態であるときは上記出力トルク補正による制振制御を禁止する、
請求項1に記載の車両の捩り振動制振方法。
【請求項9】
内燃機関と変速機と駆動輪とを含む駆動系の捩り振動の発生を検出する検出部と、
捩り振動の検出時に、捩り振動を制振するようにフィードバック方式による内燃機関の出力トルク補正を行う制御部と、
を備えた車両の捩り振動制振装置において、
上記制御部は、内燃機関の冷却水温が所定の上限温度以下にあることを条件として上記出力トルク補正による制振制御を許可する、車両の捩り振動制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の駆動系で生じる捩り振動を内燃機関の出力トルク補正によってアクティブに制振する捩り振動制振技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の出力を変速機を介して駆動輪に伝達することで走行する車両にあっては、車両の駆動系(パワートレイン)に、例えば内燃機関の出力トルクの変動等に起因して、捩り振動が発生することがあり、車体の前後振動など不快な挙動が生じる。
【0003】
特許文献1には、このような捩り振動(特許文献1ではジャークと呼ばれている)の発生を検出もしくは予測し、フィードバック方式もしくはフィードフォワード方式による内燃機関の出力トルク補正によって捩り振動を打ち消すようにした捩り振動の制振制御が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術では、内燃機関の温度条件に無関係に常に制振制御が実行され得る構成となっているので、制振制御が不要な状況で制振制御による出力トルク補正が行われることがあり、不必要な出力トルク補正によって燃費の悪化が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、内燃機関と変速機と駆動輪とを含む駆動系の捩り振動を、フィードバック方式による内燃機関の出力トルク補正によって制振する車両の捩り振動制振方法において、
内燃機関の冷却水温が所定の上限温度以下にあることを条件として上記出力トルク補正による制振制御を許可する。
【0007】
低水温時は、内燃機関の燃焼安定性が低く、燃焼トルクのばらつきが大きいことで駆動系の捩り振動が生じやすい。従って、制振制御を許可することで、捩り振動検出時に出力トルク補正による制振が行われる。他方、冷却水温が上限温度よりも高いときは、例えば捩り振動が誤検出されたような場合でも制振制御が実行されない。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、冷却水温が十分に高い条件下では不必要な出力トルク補正が実行されず、出力トルク補正に伴う燃費の悪化を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施例の車両の駆動系の構成を示す構成説明図。
【
図2】冷却水温と作動許可判定との関係を示した説明図。
【
図3】有段自動変速機における変速期間と作動許可判定との関係を示した説明図。
【
図4】有段自動変速機もしくは手動変速機における変速段と作動許可判定との関係を示した説明図。
【
図5】手動変速機におけるクラッチ切断判定と作動許可判定との関係を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、一実施例の車両の駆動系の構成を示している。一実施例は後輪駆動の形式であって、内燃機関1に変速機2が接続されており、この変速機2の出力により終減速装置3を介して駆動輪4を駆動している。変速機2は、一実施例においては、有段の自動変速機である。自動変速機2は、詳細には図示しないが、ロックアップクラッチを有するトルクコンバータと、遊星歯車機構および複数の摩擦締結要素(クラッチないしブレーキ)を含んで構成される有段の変速機構と、から構成されている。この自動変速機2のロックアップクラッチおよび変速機構は、ATコントローラ5によって制御される。例えば図示しないセレクタが自動変速レンジ(いわゆるDレンジ)を選択している場合には、主にアクセルペダル開度と車速とをパラメータとして所定の変速マップに基づいて適当な変速段が選択され、自動に変速が行われる。ATコントローラ5には、車速信号およびアクセルペダル開度信号が直接にあるいは他のコントローラを介して間接に入力される。
【0011】
内燃機関1は、4ストロークサイクルの火花点火式内燃機関いわゆるガソリン機関である。内燃機関1は、エンジンコントローラ6によって制御される。ATコントローラ5とエンジンコントローラ6とは、車載ネットワーク7(例えばCAN通信)を介して互いに接続されており、必要な信号の送受信を行っている。上記エンジンコントローラ6には、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ11、負荷に相当する吸入空気量を検出するエアフロメータ12、冷却水温を検出する水温センサ13、運転者により操作されるアクセルペダルの開度(踏込量)を検出するアクセル開度センサ14、排気空燃比を検出する空燃比センサ15、等のセンサ類の検出信号が直接にあるいは他のコントローラを介して入力されている。エンジンコントローラ6は、これらの検出信号に基づき、燃料噴射弁による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグによる点火時期、スロットル弁の開度、等を最適に制御している。
【0012】
ここで、エンジンコントローラ6は、クランク角センサ11が検出するクランクシャフトの回転速度変動から駆動系の捩り振動の発生を検知する。そして、この捩り振動を相殺するように、フィードバック方式による内燃機関1の出力トルク補正を行い、いわゆるアクティブな制振を行う。一実施例では、点火時期リタードによるトルクダウンによって、制振のための出力トルク補正を実現する。このような内燃機関1の出力トルク補正は、車両の燃費の悪化要因となるので、内燃機関1の出力トルク補正による捩り振動に対する制振制御は、所定の条件に従って許可/禁止される。
【0013】
次に、具体的な制振制御の許可/禁止について
図2~
図5を用いて説明する。
【0014】
図2は、内燃機関1の冷却水温(a)と、許可/禁止を示す作動許可判定フラグ(b)のオン/オフと、の関係を示している。作動許可判定フラグがオンであるときに、捩り振動に対する出力トルク補正による制振制御の実行が許可される。図示するように、冷却水温が所定の上限温度TwH以下である場合に作動許可判定フラグがオンとなり、制振制御の実行が許可される。つまり、回転数変動から捩り振動を検知したときに、内燃機関1の出力トルク補正によってアクティブな制振が実行される。冷却水温が上限温度TwHよりも高いときは、制振制御が禁止される。上限温度TwHは、内燃機関1の暖機完了温度よりも低く、内燃機関1の燃焼トルクばらつきが大きい温度条件に対応して設定される。例えば40℃~60℃に設定される。
【0015】
低水温時には、内燃機関の燃焼安定性が低く、燃焼トルクのばらつきが大きいことで駆動系の捩り振動が生じやすい。従って、制振制御を許可することで、捩り振動検出時に出力トルク補正による制振が行われる。他方、冷却水温が上限温度TwHよりも高いときは、例えば捩り振動が誤検出されたような場合でも制振制御が実行されない。
【0016】
また、駆動系にトルクコンバータおよびロックアップクラッチを含む一実施例においては、冷却水温について上限温度TwHよりも低い下限温度TwLが設定されている。冷却水温がこの下限温度TwLよりも低いときは、作動許可判定フラグがオフとなる。この下限温度TwLは、ロックアップクラッチのロックアップが禁止される温度条件よりも相対的に低温側に設定されている。従って、冷却水温が下限温度TwLよりも低いときは、トルクコンバータの作用により捩り振動が抑制されるため、内燃機関1の出力トルク補正による制振制御が禁止される。
【0017】
このように、捩り振動が顕著とならない冷却水温領域で出力トルク補正による制振制御を禁止することにより、制振制御に伴う燃費の悪化が最小限となる。
【0018】
次に、
図3は、自動変速機2の変速機構の変速期間中は内燃機関1の出力トルク補正による制振制御を実行しないようにした実施例を示している。変速中判定フラグ(c)は、変速機構に変速指示が出力されたときにオンとなり、変速が完了したときにオフとなる。作動許可判定フラグ(b)に示すように、変速開始から変速完了までの変速中は作動許可判定フラグがオフとなり、出力トルク補正による制振制御が禁止される。なお、これは、冷却水温が上記の下限温度TwLと上限温度TwHとの間にあることを前提としている。
【0019】
仮に変速中に捩り振動が検知されて内燃機関1の出力トルク補正が実行されると、変速ショックが悪化する懸念がある。そのため、変速中は、出力トルク補正を行わないようにするのである。
【0020】
次に、
図4は、自動変速機2の変速段(d)と作動許可判定フラグ(b)との関係を示している。この実施例では、作動許可判定フラグに示すように、予め定められた1つあるいは複数の変速段にあることを条件として出力トルク補正による制振制御が許可される。図示例では、3速と5速とで制振制御の実行が許可され、それ以外の変速段では禁止される。なお、これは、冷却水温が上記の下限温度TwLと上限温度TwHとの間にあることを前提としている。
【0021】
変速機構における変速段が異なると、捩り振動に関与する実質的な駆動系の構成が異なるものとなる。そのため、内燃機関1の燃焼トルクばらつきが同じであったとしても、捩り振動が顕著に生じる変速段と、捩り振動があまり生じない変速段と、があり得る。従って、不要な変速段での出力トルク補正を禁止することで、燃費の悪化が最小限となる。
【0022】
この変速段に応じて許可/禁止を行う実施例は、変速機2が手動変速機の場合にも同様に適用することができる。
【0023】
また、変速機2が無段変速機である場合、有段変速機の場合と同様に、内燃機関1の燃焼トルクばらつきが同じであったとしても、捩り振動が顕著に生じる変速比範囲と、捩り振動があまり生じない変速比範囲と、があり得る。従って、無段変速機の場合に、無段変速機の変速比が所定の変速比範囲(捩り振動が問題となる変速比範囲)にあることを条件として出力トルク補正による制振制御を許可するように構成することができる。
【0024】
次に、
図5は、変速機2が手動変速機である場合に、クラッチが断状態であるときは内燃機関1の出力トルク補正による制振制御を実行しないようにした実施例を示している。変速機2が手動変速機の場合は、内燃機関1のクランクシャフトと変速機2の入力軸との間に、トルク伝達を断・接するクラッチが設けられる。クラッチ切断判定フラグ(e)は、クラッチが断状態であるときにオンとなる。作動許可判定フラグ(b)に示すように、クラッチが断状態である間は、作動許可判定フラグがオフとなり、出力トルク補正による制振制御が禁止される。なお、これは、冷却水温が上記の下限温度TwLと上限温度TwHとの間にあることを前提としている。
【0025】
クラッチが断状態にあると内燃機関1のクランクシャフトが変速機2や駆動輪4から切り離されるので、問題となるような捩り振動が生じない。出力トルク補正による制振制御を禁止することで、燃費の悪化を抑制できる。また、運転者がクラッチを切断した状態でアクセルペダルを踏み込むいわゆる空吹かしを行っている間に、出力トルク補正が実行された場合の違和感を回避することができる。
【0026】
以上、この発明の一実施例を説明したが、この発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、
図2~
図5に示した制振制御の許可/禁止の条件は、単独で、あるいは、適当に組み合わせて適用することができる。また、
図2の例において、下限温度TwLを設けないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1…内燃機関
2…変速機
3…終減速装置
4…駆動輪
5…ATコントローラ
6…エンジンコントローラ
11…クランク角センサ
13…水温センサ