(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172721
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】スクリーン印刷インキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/104 20140101AFI20241205BHJP
【FI】
C09D11/104
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090629
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優大
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AE04
4J039AE06
4J039BA04
4J039BA13
4J039BA21
4J039BA32
4J039BA35
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE16
4J039BE28
4J039CA07
4J039EA18
4J039EA19
4J039EA36
4J039EA42
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA10
(57)【要約】
【課題】
スクリーン印刷時の版詰まりによるカスレが少なく、機上安定性や細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好であり、塗工後の耐ブロッキング性及び耐擦過性に優れたスクリーン印刷インキを提供すること。
【解決手段】
バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、並びに、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体を含んでなるスクリーン印刷インキであって、前記バインダー樹脂が、水性ウレタン樹脂(A)及び/又は水性ポリエステル樹脂(B)を含み、前記全液状媒体に対する親水性有機溶剤の質量比率が、35~80質量%である、スクリーン印刷インキ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、並びに、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体を含んでなるスクリーン印刷インキであって、
前記バインダー樹脂が、水性ウレタン樹脂(A)及び/又は水性ポリエステル樹脂(B)を含み、
前記全液状媒体に対する親水性有機溶剤の質量比率が、35~80質量%である、スクリーン印刷インキ。
【請求項2】
インキ全質量に対するバインダー樹脂の質量比率が、5~20質量%である、請求項1に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項3】
せん断速度1[1/s]のときの粘度を、せん断速度10[1/s]のときの粘度で割った値が、2~10である、請求項1に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項4】
親水性有機溶剤の沸点が、110~280℃である、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項5】
バインダー樹脂のガラス転移温度が、10~120℃である、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項6】
体質顔料が、シリカである、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項7】
有機粒子の平均粒子径が、1~30μmである、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項8】
有機粒子のインキ中の含有量が、1~15質量%である、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項9】
有機粒子が、アミノ樹脂粒子及び/又はアクリル樹脂粒子を含む、請求項6に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項10】
更に、着色顔料を含む、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキ。
【請求項11】
基材上に、請求項1又は2に記載のスクリーン印刷インキにより形成された表面保護層を備えた印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷インキに関する。
【0002】
より具体的には、バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、水及び親水性有機溶剤を含むスクリーン印刷インキであって、高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、耐擦過性に優れた上記インキに関する。
【背景技術】
【0003】
従来から、各種基材および印刷層の最外層には、表面保護や意匠性、および機能性付与を目的に、各種コート剤が印刷、塗工されている。最外層に塗工し、基材および印刷層を被覆させることで、目的に応じて意匠性(高光沢性、低光沢性)、耐水性、耐熱性、耐ブロッキング性、耐擦過性、耐薬品性(耐酸・アルカリ性、耐アルコール性)、耐油性、耐スリップ性、ソフトフィール性など、種々の機能を付与することが可能となる。用途は、食品包装、医薬品包装、生活雑貨材料、建材、電子材包装、反射材料、エレクトロニクス関連部材など、多岐に渡る。
【0004】
オーバーコート剤などのコート剤の塗工方法としては、一般的にグラビア(凹版)印刷、フレキソ(凸版)印刷、オフセット(平版)印刷、スクリーン(孔版)印刷が用いられる。その中でも、スクリーン印刷は、他の印刷方式と比較して、製版・印刷方式が簡便で設備投資や印刷コストが低い利点がある。また、スクリーン版のメッシュ数や開口率、乳剤厚などを調整することで厚盛塗工が可能なことから、意匠性や機能性の付与が容易である。なお、乳剤とは、スクリーン版の非画線部に塗布される樹脂のことであり、乳剤厚とは、基材面側に塗布された乳剤の厚さである。
また、版のサイズを小~大面積まで幅広く適応できるだけでなく、様々な基材に適応可能であるとともに、版に弾力があるため曲面・粗雑面・堅い面等様々な対象物に印刷可能である。そのため、他の印刷方式で印刷困難な被印刷物を中心に産業分野で広く利用されている。
【0005】
また、コート剤に用いられる液状媒体は、目的の要求性能に応じて選定した原料を溶解、安定化させるために適切な液状媒体が選択され、主に有機溶剤を用いた油性、あるいは水、および/または親水性有機溶剤を用いた水性のコート剤に大別される。油性のコート剤は、水性と比較してバインダー樹脂の選択肢が広い一方、コート剤によって被覆される基材、或いは印刷層の種類によっては、基材や印刷層が膨潤、溶解する場合があり、最終的な積層体としての本来の機能を損なう場合がある。また、有機溶剤の暴露に伴う作業環境の安全衛生性への懸念もあるだけでなく、近年の各国の化学物質管理規制強化や地球環境保護の観点から、有機溶剤の使用自体がリスクとなり得る。そのため、水性のコート剤への要求が高まっている。
【0006】
特許文献1には、水性分散樹脂、水溶性樹脂、沸点120~250℃の水溶性有機溶剤、着色剤を含有してなる水性スクリーン印刷インキであって、印刷皮膜の耐水性、インキとしての再溶解性、乾燥性などの作業性に優れる水性スクリーン印刷インキが提案されている。しかしながら当該水性スクリーン印刷インキは、スクリーン印刷時の機上安定性や細線印刷性が高い反面、高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性や版詰まりによるカスレに懸念があり、課題が残るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、スクリーン印刷時の版詰まりによるカスレが少なく、且つ、機上安定性や細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好であり、塗工後にあっては高温・高湿度環境下の耐ブロッキング性に優れ、更に、耐擦過性に優れたスクリーン印刷インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究した結果、以下のスクリーン印刷インキが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、並びに、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体を含んでなるスクリーン印刷インキであって、
前記バインダー樹脂が、水性ウレタン樹脂(A)及び/又は水性ポリエステル樹脂(B)を含み、
前記全液状媒体に対する親水性有機溶剤の質量比率が、35~80質量%である、スクリーン印刷インキに関する。
【0011】
また、本発明は、インキ全質量に対するバインダー樹脂の質量比率が、5~20質量%である、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0012】
また、本発明は、せん断速度1[1/s]のときの粘度を、せん断速度10[1/s]のときの粘度で割った値が、2~10である、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0013】
また、本発明は、親水性有機溶剤の沸点が、110~280℃である、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0014】
また、本発明は、バインダー樹脂のガラス転移温度が、10~120℃である、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0015】
また、本発明は、体質顔料が、シリカである、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0016】
また、本発明は、有機粒子の平均粒子径が、1~30μmである、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0017】
また、本発明は、有機粒子のインキ中の含有量が、1~15質量%である、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0018】
また、本発明は、有機粒子が、アミノ樹脂粒子及び/又はアクリル樹脂粒子を含む、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0019】
また、本発明は、更に、着色顔料を含む、前記スクリーン印刷インキに関する。
【0020】
また、本発明は、基材上に、前記スクリーン印刷インキにより形成された表面保護層を備えた印刷物に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、スクリーン印刷時の版詰まりによるカスレが少なく、且つ、機上安定性や細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好であり、塗工後にあっては高温・高湿度環境下の耐ブロッキング性に優れ、更に、耐擦過性に優れたスクリーン印刷インキを提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0023】
本明細書において「スクリーン印刷インキ」は、単に「インキ」と表記する場合があるが同義である。スクリーン印刷インキからなる印刷層は、単に「印刷層」表記する場合があるが同義である。また、表面保護層を、オーバーコート層ともいうが同義である。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、並びに、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体を含んでなるスクリーン印刷インキであって、前記バインダー樹脂が、水性ウレタン樹脂(A)及び/又は水性ポリエステル樹脂(B)を含み、前記全液状媒体に対する親水性有機溶剤の質量比率が、35~80質量%である、スクリーン印刷インキに関する。当該スクリーン印刷インキは、印刷物の最外層に用いることが好ましく、オーバーコート剤としての使用形態であることが好ましい。
上記インキを用いることで、スクリーン印刷時の乾燥に起因した版詰まりによるカスレ、塗工後の乾燥不良によるブロッキングが発生しにくく、且つ、機上安定性や細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好となる粘度、及びチキソトロピー性となる。また、有機粒子が塗膜のバルク中に十分に保持され、且つ、表面に一部露出することで、印刷物の高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、及び、耐擦過性が良好となる。加えて、ウレタン樹脂(A)及び/又はポリエステル樹脂(B)を用いることで、高分子鎖中に存在するウレタン基、ウレア基、水酸基、酸基などの極性官能基による分子内、分子間相互作用により高分子鎖の絡み合いが高いため、樹脂皮膜としての可撓性が高くなることから、塗膜の割れが起こりにくく、また樹脂と有機粒子との界面の親和性(濡れ性)が増すことで、有機粒子が樹脂中に均一に分散され、フィラー効果により耐ブロッキング性や耐擦過性がより良好となる。
本発明において、上記のような好ましい粘度、及びチキソトロピー性にするためには、体質顔料を用い、バインダー樹脂と体質顔料との配合量を調整することが好ましい。また、インキ全質量中のバインダー樹脂の質量比率は、5~20質量%であることが好ましく、媒体中の親水性溶剤の比率は35~80質量%であることが好ましい。ただし、この作用機能は考察によるものであり、本願発明を特段限定するものではない。
【0025】
<バインダー樹脂>
本発明のインキは、バインダー樹脂を含む。本発明においては公知の樹脂を用いることができるが、インキを印刷した際の印刷皮膜の基材密着性や皮膜強度、耐屈曲性等の観点から、少なくとも水性ウレタン樹脂(A)及び/又は水性ポリエステル樹脂(B)を含むことが好ましく、水性ウレタン樹脂(A)を含むことがより好ましい。本発明の効果を損なわない範囲で2種以上の樹脂を併用してもよい。
【0026】
〈水性ウレタン樹脂(A)〉
水性ウレタン樹脂(A)とは、ウレタン結合を含む水性樹脂であれば制限なく、例えば、水性ウレタン樹脂(水性ウレタンアクリル樹脂である場合を除く)(A1)や水性ウレタンアクリル樹脂(A2)を含むことが好ましく、水性ウレタン樹脂(A)は、更にウレア結合を含む実施形態もまた好ましい。水性ウレタン樹脂(A)のガラス転移温度は、耐擦過性、耐ブロッキング性、耐屈曲性が良好になるため、10~120℃であることが好ましく、20~110℃であることがより好ましく、30~100℃であることが更に好ましい。
【0027】
(水性ウレタン樹脂(A1))
当該水性ウレタン樹脂(A1)は、ウレタン結合を含むものであれば特に限定されないが、水性ウレタンアクリル樹脂(A2)である場合を含まない。当該水性ウレタン樹脂(A1)は、のガラス転移温度は、耐擦過性、耐ブロッキング性、耐屈曲性が良好になるため、10~120℃であることが好ましく、20~110℃であることがより好ましく、30~100℃であることが更に好ましい。
当該水性ウレタン樹脂(A1)としては、ポリオール、ポリヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成されたウレタン樹脂である形態や、水性ウレタン樹脂の一実施形態であるウレタンウレア樹脂は、ポリオール、ポリヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成された末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとポリアミンにより鎖延長されたウレタン樹脂である形態が好ましい。水性ポリウレタン樹脂の製造においてポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、樹脂内にカルボキシル基、スルホン基等の酸性基を導入し、塩基性化合物により中和することにより、水溶化することが好ましい。耐水性の観点から当該酸性基としてはカルボキシル基が好ましい。
【0028】
(ポリオール)
上記ポリオールとしては、以下に限定されないが、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ダイマージオール、水素添加ダイマージオールなどが好適に挙げられる。これらのポリオールは、単独で用いても、2種以上併用してもよい。水性ウレタン樹脂はポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールおよびポリカーボネートポリオールより選ばれる少なくとも一種のポリオールからなる構成単位を含有することが好ましい。当該ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールがより好ましい。ポリオールの数平均分子量は500~5000であることが好ましい。
【0029】
(ポリエーテルポリオール)
上記ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれらの共重合物を好適に挙げることができる。水性ウレタン樹脂はポリエーテルポリオールからなる構成単位を含むことが好ましい。一実施形態において水性ウレタン樹脂(A1)はポリエチレングリコール由来の構成単位を含有することが好ましく、水性ウレタン樹脂総質量中に0.1~25質量%含有することが好ましく、2~15質量%含有することがなお好ましく、2~10質量%含有することが更に好ましい。
【0030】
(ポリエステルポリオール)
上記ポリエステルポリオールとしては、二塩基酸と分岐ジオールを含むジオールの縮合物であるポリエステルポリオール由来の構成単位を有する形態が好ましい。当該二塩基酸としては、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸などが好適に使用でき、分岐ジオールとしてはアルキレングリコールの炭素上に有する水素の少なくとも一つが置換基を有する形態のものをいう。具体的には、プロピレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールより選ばれる少なくとも一種を、ジオール総質量中に50質量%以上、好ましくは60質量%以上、含有することが好ましい。なおポリエステルポリオールの実施形態はこれらに限定されない。
【0031】
(ポリカーボネートポリオール)
上記ポリカーボネートポリオールとしては、製造方法やポリカーボネートポリオールを構成するジオール種により限定されるものではないが、アルキレングリコールからなるジオールとカーボネート化合物とのエステル交換反応による重縮合物が好適に挙げられる。なお、ポリカーボネートポリオールは脂環族および/または脂肪族のポリカーボネートジオールであることが好ましい。
【0032】
上記ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが好適であり、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。3-メチル-1,5-ペンタンジオールその他の分岐構造を有するジオール構造を有するポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
当該カーボネート化合物は、特に限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0033】
(ポリイソシアネート)
上記ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが好適に挙げられる。なおこれらは3量体となってイソシアヌレート環構造となっていても良い。
芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4'-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4'-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加された4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。中でも好ましくはトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体から選ばれる少なくとも一種である。これらのポリイソシアネートは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
(ポリヒドロキシ酸)
上記ポリヒドロキシ酸は、以下に限定されないが、カルボキシルを含有するポリオールを利用することができる。例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸などが好適に挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。ポリヒドロキシ酸は水性ウレタン樹脂の製造工程の中で用いられ、得られたウレタン樹脂中にそのカルボキシル基が導入され、酸価を有する。未反応のカルボキシル基は中和されて水性化される。
【0035】
(ポリアミン)
上記ポリアミンとして利用可能な化合物としては、各種公知のアミン類であり、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4'- ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等などが好適に挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
(反応停止剤)
上記ポリアミンと併用して反応停止剤を使用することもできる。かかる反応停止剤としては、例えば、ジ-n-ジブチルアミンなどのジアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、N-ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するアミン類、さらにグリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、バリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸などのモノアミン型アミノ酸類が挙げられる。
【0037】
(中和剤)
上記水性ウレタン樹脂(A1)の水性化のために、樹脂中のカルボキシル基を塩基性化合物で中和することが好ましい。
【0038】
(塩基性化合物)
塩基性化合物としては、アンモニア;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-エチル-1-プロパノール等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ類等が挙げられ、1種または2種以上を組み合わせて用いられるが、乾燥後の皮膜の耐水性を向上させるためには、水溶性であり、かつ熱によって容易に解離する揮発性の高いものが好ましく、特にアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンが好ましい。
また、上記水性ウレタン樹脂(A1)の酸価は5~100mgKOH/gであることが好ましく、10~60mgKOH/gであることがなお好ましい。これら酸価は上記塩基性化合物で中和されて水性化される。
【0039】
(合成法)
上記水性ウレタン樹脂(A1)は、公知の方法により適宜製造される。例えば、イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤を用いるアセトン法、溶剤を全く使用しない無溶剤合成法等が挙げられる。例えば特開2013-234214公報に記載の手法を適宜使用可能である。
【0040】
(水性ウレタンアクリル樹脂(A2))
以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の併記を意味する。
【0041】
上記水性ウレタンアクリル樹脂(A2)は、アクリル樹脂部とウレタン樹脂部を含むバインダー樹脂をいう。また水性ウレタンアクリル樹脂(A2)は、ウレア結合を有する実施形態もまた好ましい。当該水性ウレタンアクリル樹脂(A2)のガラス転移温度は、耐擦過性、耐ブロッキング性、耐屈曲性が良好になるため、10~120℃であることが好ましく、20~110℃であることがより好ましく、30~100℃であることが更に好ましい。
アクリル樹脂部とウレタン樹脂部は交互共重合体であってもよいし、主鎖がウレタン樹脂部、側鎖がアクリル樹脂部もしくは主鎖がアクリル樹脂部、側鎖がウレタン樹脂部である、いわゆるグラフト重合体であってもよい。また、コア部がウレタン樹脂部、シェル部がアクリル樹脂部であるコア/シェル型、海部にアクリル樹脂部、島部にウレタン樹脂部の海島構造を持つ水性樹脂エマルジョンであってもよい。ウレタン樹脂部は、上記水性ウレタン樹脂と同様に、ポリオール、ポリヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成されたウレタン樹脂である形態や、上記ウレタンウレア樹脂と同様に、ポリオール、ポリヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成された末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとポリアミンにより鎖延長されたポリウレタンウレアを含む形態が好ましい。
水性ウレタンアクリル樹脂(A2)の製造は、例えば特開平04-103614号公報、特開平10-139839号公報等に記載の方法で製造することができる。水性ウレタンアクリル樹脂は酸価を有することが好ましく、酸性基を中和することで水性化する。上記水性ウレタン樹脂(A1)の場合と同様にウレタン樹脂部にジメチロールアルカン酸を用いて、それに由来する酸性基を中和することで水性化してもよいし、アクリル樹脂部を構成するアクリルモノマーにおいて酸性モノマーを共重合して酸性基を導入し、その酸性基を中和することで水性化してもよい。
【0042】
なお水性ウレタン樹脂(A1)及び水性ウレタンアクリル樹脂(A2)は水溶性樹脂であっても水性樹脂エマルジョンであってもよい。水性ウレタンアクリル樹脂(A2)は、水性樹脂エマルジョンであることが好ましく、その平均粒子径は20nm~400nmの範囲になることが好ましく、30nm~200nmの範囲が更に好ましい。なお平均粒子径は動的光散乱法による測定値をいう。なおエマルジョンとは、樹脂そのものは水に不溶もしくは難溶であるが、当該樹脂が小さい粒子状に分散され、安定化された形態をいう。
【0043】
なお、水性ウレタンアクリル樹脂(A2)におけるウレタン樹脂部を構成する原料等は一般的に用いられる上記水性ウレタン樹脂(A1)の場合と同様のものを適宜使用可能である。ポリエーテルポリオールおよび/またはポリエステルポリオール由来の構造単位をウレタン樹脂部総質量中に50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがなお好ましい。
【0044】
水性ウレタンアクリル樹脂(A2)を構成するアクリル樹脂部を構成する原料アクリルモノマーは以下のものが好ましく、例えば、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールメタクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールアクリレート、フェノキシテトラエチレングリコールメタクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等の芳香族系アルキル基含有アクリルモノマー、
更には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート等の直鎖または分岐アルキル基含有アクリルモノマー、
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等の脂環式アルキル基含有アクリルモノマー、
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル基含有アクリルモノマー、
(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル-(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ(メトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-メトキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(エトキシメチル)アクリルアミド、N-エトキシメチル-N-プロポキシメチルメタアクリルアミド、N,N-ジ(プロポキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(プロポキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ブトキシメチル)アクリルアミド、N-ブトキシメチル-N-(メトキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジ(ペントキシメチル)アクリルアミド、N-メトキシメチル-N-(ペントキシメチル)メタアクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のアミド基含有アクリルモノマー、
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシビニルベンゼン、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、アリルアルコール等のヒドロキシル基含有アクリルモノマー、
ポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPE-90、200、350、350G、AE-90、200、400等)ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマー50PEP-300、70PEP-350等)、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(日本油脂社製、ブレンマーPME-400、550、1000、4000等)等のポリエチレンオキサイド基含有アクリルモノマー等を使用することができる。
なお、アクリルモノマー以外で、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族系モノマーを更に含有することが好ましい。
【0045】
アクリル樹脂部は、例えば、上記モノマーをウレタン樹脂部の存在下でラジカル重合することでグラフト重合樹脂としてエマルジョンを得ることができ、当該ラジカル重合の開始剤には公知の有機過酸化物を使用することができる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ(2-エチルヘキサノエート)、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、ジ-tert-ブチルパーオキサイドなど使用が好ましい。
【0046】
水性ウレタンアクリル樹脂(A2)の有する酸性基は塩基性化合物で中和されて水性化される。該当する塩基性化合物としては、上記水性ウレタン樹脂(A1)で例示したものと同じものを挙げられる。中でもアミン化合物が好ましく、アンモニアの使用が好ましい。
水性ウレタンアクリル樹脂(A2)の酸価は5~100mgKOH/gであることが好ましく、10~60mgKOH/gであることがなお好ましい。これら酸価は上記塩基性化合物で中和されて水性化される。
【0047】
アクリルウレタン樹脂(A2)のウレタン樹脂部とアクリル樹脂部の質量比(ウレタン樹脂部:アクリル樹脂部)は90:10~30:70が好ましい。アクリル樹脂部が10質量%以上でインキ被膜の耐水性が良好であり、アクリル樹脂部が70質量%以下であればプラスチック基材に対する密着性が十分に得ることができ、また耐ブロッキング性も良好である。
【0048】
上記水性ウレタンアクリル樹脂(A2)は、例えば、ウレタン樹脂を有機溶剤中で製造、塩基性化合物で中和したのち、更に溶剤を水に置換後、アクリルモノマーおよびラジカル重合開始剤として有機過酸化物を混合加熱して重合反応を行う事でエマルジョン状の水性ウレタンアクリル樹脂(A2)を得ることができる。なお、アクリルモノマーはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールその他のポリオールに由来する構造単位に含まれるアルキレン基上の水素原子による水素引抜反応によりラジカル重合が進むものと考えられる。なお、上記反応は40~140℃で反応を行うことが好ましく、反応時間は30分~10時間程度であることが好ましい。
【0049】
水性ウレタン樹脂(A1)の具体例としては、タケラックW-5030、W-5661、W-6010、W-6020、W-6061、W-6355、W-605、WPB-341(30)、WS-4022、(三井化学株式会社社製)等が挙げられる。水性ウレタンアクリル樹脂(A2)の具体例としては、WEM-200U、WEM-3000、WEM-505C(大成ファインケミカル株式会社製)、アクアブリッド46777、3756、UX-100、UX-110、AST531、AST49(ダイセルミライズ株式会社製)等が挙げられる。
【0050】
〈水性ポリエステル樹脂(B)〉
水性ポリエステル樹脂(B)は、多塩基酸及び/又はその無水物と多価アルコールとの重縮合反応(エステル化反応)により合成されたポリエステル樹脂の形態が好ましい。この反応は常圧下、減圧下のいずれで行ってもよく、また、分子量の調整は多塩基酸及び/又はその無水物と多価アルコールとの仕込み比率(過剰率:酸基に対する水酸基の当量比)によって行うことができる。水溶性化の方法としては、上記多塩基酸及び/又はその無水物と多価アルコールの反応の際、アクリル酸、メタクリル酸との共重合によるカルボキシル基の導入、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2、7-ジカルボン酸-5〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸等の金属塩やこれらのエステル形成性誘導体によるスルホン酸基導入などにより水溶性化することが例示できる。金属塩としては、Li、Na、K、Mg、Ca、Cu、Fe等の塩が挙げられる。特に好ましいものは、5-ナトリウムスルホイソフタル酸及びジメチル-5-ナトリウムスルホイソフタル酸である。
【0051】
水性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移温度は、耐擦過性、耐ブロッキング性が良好になるため、10~120℃であることが好ましく、20~110℃であることがより好ましく、30~100℃であることが更に好ましい。
【0052】
(多塩基酸及び/又はその無水物)
水性ポリエステル樹脂(B)の合成に使用できる多塩基酸及び/又はその無水物としては、二塩基酸及び/又はその無水物が好ましく用いられ、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸等の芳香族二塩基酸及びその無水物類、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸及び、その無水物類、(無水)コハク酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ハイミック酸等の脂肪族二塩基酸及びその無水物類が挙げられ、得られる塗膜の硬度と加工性を勘案してこれらの中から適宜選択して使用することができる。
【0053】
(多価アルコール)
また、上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、オクタンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等が挙げられ、得られる塗膜の硬度と加工性を勘案してこれらの中から適宜選択して使用することができる。
【0054】
上記、水性ポリエステル樹脂(B)は、溶剤に溶解した溶液の形で本発明のスクリーン印刷インキの調製に供されることが好ましい。この溶剤としては、ポリエステル樹脂を希釈可能なもので、水及び/又は、親水性有機溶剤であるものが好ましく使用できる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール(モノ、ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ、ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ、ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ、ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ、ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ、ジ)メチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ、ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル等が挙げられる。
【0055】
ポリエステル樹脂(B)の酸価は、80KOHmg/g以下が好ましく、より好ましくは60KOHmg/g以下、更に好ましくは40KOHmg/g以下である。上記範囲であることで、耐水性が向上し、高温・高湿環境下での耐ブロッキング性が良好となる。酸価は、使用するポリエステルポリオールとテトラカルボン酸二無水物の種類に応じて種々に変えることができるので、当業者ならば容易にポリエステルポリオールとテトラカルボン酸二無水物の種類を選定し、上記好適な範囲にすることができる。
【0056】
上記水性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量の範囲は、約3000~40000が好ましく、より好ましくは10000~30000である。重量平均分子量が3000以上で皮膜の耐擦過性や高温・高湿環境下での耐ブロッキング性が良好となり、重量平均分子量が40000以下で流動性が良好となりスクリーン印刷適性が向上する。
【0057】
水性ポリエステル樹脂(B)の具体例としては、プラスコートZ-446、Z-561、Z-565、Z-880、Z-3310、RZ-105、RZ-570、Z-730、Z-760(互応化学株式会社製)、アロンメルトPES-2155A30、2255A30、2500A30、2655A30、2405A30、2353A25(東亜合成株式会社製)等が挙げられる。
【0058】
インキ中のバインダー樹脂の質量比率は、5~20質量%であることが好ましい。更に好ましくは10~18質量%である。上記範囲にあることで、スクリーン印刷時の版詰まりによるカスレや塗工後の乾燥不良によるブロッキングが発生しにくく、且つ、機上安定性、細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好となる。また、バインダー樹脂塗膜のバルク中、及び、表面に有機粒子およびワックスが十分に保持されることで、印刷物の高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、及び、耐擦過性が良好となる。
【0059】
上記バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、20~120℃であることが好ましい。高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、耐擦過性、基材密着性が向上するためである。より好ましくは20~110℃、更に好ましくは30~90℃である。
ここで、ガラス転移温度(Tg)とは、JISK0129に基づいて測定した値をいう。示差走査熱量測定(DSC)による測定値を採用でき、測定機は株式会社リガク製DSC8231を使用することができる。
【0060】
<体質顔料>
本発明は、体質顔料を含む。体質顔料を含むことで、機上安定性、細線印刷性(画線部の太り抑制)、印刷物の高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、及び、耐擦過性が良好となる。
本発明に用いる体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、タルク、カオリン、雲母、マイカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等の無機化合物が挙げられ、中でも粘度、及びチキソ性等のレオロジーコントロールの観点から、シリカが好ましい。さらに、シリカの中でも、ヒュームドシリカを用いると、シリカ表面に存在するシラノール基による水素結合性の可逆的な三次元ネットワーク構造を形成することで、少量の添加でレオロジーコントロールが可能となり好ましい。体質顔料は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0061】
上記体質顔料のインキ中の含有量は、1~10質量%の範囲が好ましく、より好ましくは2~8質量%、更により好ましくは3~7質量%である。1質量%以上で、スクリーン版メッシュからの液だれを抑制することで、細線印刷性(画線部の太り抑制)が向上、10質量%以下で流動性が良好となりスクリーン印刷適性が向上する。
【0062】
上記体質顔料のBET法による比表面積m2/gは、35~410m2/gとすることが好ましく、75~330m2/gとすることがより好ましく、105~225m2/gとすることが更に好ましい。体質顔料の平均粒子径は0.1~500μmであることが好ましく、0.3~100μmであることがより好ましく、0.5~50μmであることが更に好ましい。上記範囲の体質顔料を用いることで、インキのレオロジーコントロールが容易となる。
【0063】
<有機粒子>
本発明は、有機粒子を含む。有機粒子を含むことで、印刷物の高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、及び、耐擦過性が良好となる。
本発明に用いる有機粒子としては、例えば、アミノ樹脂粒子、(メタ)アクリル樹脂粒子、スチレン-アクリル共重合樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリカーボネート樹脂粒子、ポリエチレン粒子、ポリスチレン樹脂粒子、が挙げられる。アミノ樹脂粒子には、メラミン樹脂粒子、メラミン-ベンゾグアナミン樹脂粒子、ホルムアルデヒド-ベンゾグアナミン樹脂粒子などのベンゾグアナミン系樹脂粒子が好適に挙げられる。中でも、アミノ樹脂粒子、(メタ)アクリル粒子、ポリエチレン樹脂粒子が好適である。水性媒体との親和性が良く、耐熱性も高いためである。
上記有機粒子は、水分散体など液状媒体中に分散された状態のものを用いても良く、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
有機粒子の平均粒子径は、1~30μmの範囲が好ましく、より好ましくは3~30μm、更により好ましくは5~30μmである。平均粒子径が1μm以上で高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性が向上し、30μm以下で印刷適性、耐擦過性が良好となる。なお、上記平均粒子径は、コールターカウンター法による体積平均粒子径をいい、例えばコールターMultisizer4e(ベックマン・コールター社製)により測定することができる。
【0065】
有機粒子のインキ中の含有量は1~15質量%の範囲が好ましく、より好ましくは2~12質量%、更により好ましくは3~10質量%である。上記範囲内であると、耐擦過性と高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、が向上する。また、流動性が良好となりスクリーン印刷適性が向上する。
【0066】
水性ウレタン樹脂(A)及び水性ポリエステル樹脂(B)の固形分の全質量と、有機粒子との質量比は90:10~20:80であることが好ましく、70:30~30:70であることがより好ましい。
【0067】
ウレタン樹脂粒子の具体例としては、例えば、アートパールC-1000透明、アートパールC-600透明、アートパールC-400透明、アートパールC-800、アートパールMM-120T、アートパールJB-800T、アートパールJB-600T、アートパールP-800T、アートパールP-400T(根上工業株式会社製)などの架橋ウレタンビーズ等が挙げられる。
【0068】
ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂粒子の具体例としては、例えば、テクポリマーPET微粒子TP-MG(積水化成品工業株式会社製)等が挙げられる。
【0069】
シリコーン樹脂粒子の具体例としては、KMP-594、KMP-597、KMP-598、KMP-600、KMP-601、KMP-602(信越化学工業株式会社製)、トレフィルE-506S、EP-9215(東レ・ダウコーニング株式会社製)等が挙げられる。
【0070】
メラミン樹脂粒子の具体例としては、エポスターSS、エポスターS、エポスターFS、エポスターS6、エポスターS12(株式会社日本触媒製)等が挙げられる。
メラミン-ベンゾグアナミン樹脂粒子の具体例としては、エポスターM30(株式会社日本触媒製)が挙げられる。
【0071】
アクリル樹脂粒子の具体例としては、エポスターMA1002、エポスターMA1004、エポスターMA1006、エポスターMA1010(株式会社日本触媒製)、タフチックFH-S005、タフチックFH-S008、タフチックFH-S010、タフチックFH-S015、タフチックFH-S020(東洋紡株式会社製)、ケミスノーMX-80H3wT、MX-150、MX-180TA、MX-300、MX-500、MX-1000、MX-1500H、MX-2000、MX-3000(綜研化学株式会社製)等が挙げられる。
【0072】
アクリル-スチレン共重合体樹脂粒子の具体例としてはエポスターMA2003(株式会社日本触媒社製)、FS-102、FS-201、FS-301、MG-451、MG-351、(日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製)等が挙げられる。
【0073】
ポリカーボネート樹脂粒子の具体例としては、特開2014-125495号公報記載の粒子、特開2011-26471号公報記載の製造法によって得られる粒子、特開2001-213970号公報記載の方法によって得られる粒子等が挙げられる。
【0074】
ポリエチレン樹脂粒子の具体例としてはミペロンXM-220、XM221U(三井化学株式会社製)、フロービーズLE-1080(住友精化株式会社製)、ケミパールW500(三井化学株式会社製)等が挙げられる。
ポリスチレン系粒子の具体例としては、ケミスノーSX-130H、SX-350H、SX-500H(綜研化学株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
ベンゾグアナミン樹脂粒子の具体例としては、エポスターMS、エポスターM05、エポスターL15(株式会社日本触媒製)等が挙げられる。
【0076】
<液状媒体>
液状媒体とは、インキに含まれる樹脂や粒子を媒介するものをいう。本発明においては、水及び水と混和する親水性有機溶剤を用いることができ、液状媒体中の親水性有機溶剤の質量比率は、35~80質量%であり、より好ましくは40~70質量%であり、さらに好ましくは45~60質量%である。親水性有機溶剤の質量比率がこの範囲にあることで、スクリーン印刷時の版詰まりによるカスレや塗工後の乾燥不良によるブロッキングが発生しにくく、且つ、機上安定性、細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好となる。
【0077】
<親水性有機溶剤>
本発明は、親水性有機溶剤を含む。親水性有機溶剤は、水に可溶であれば特に制限されず、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。親水性有機溶剤は、エーテル基や、水酸基などの親水性基を有している。親水性有機溶剤の沸点は、好ましくは100~290℃、より好ましくは110~280℃、更に好ましくは120~270℃である。100℃以上の親水性有機溶剤を含むことで、スクリーン印刷時の版詰まりによるヌケやカスレが抑制され、290℃以下の親水性有機溶剤を含むことで塗工後の乾燥不良によるブロッキング性が良好になる。
【0078】
親水性有機溶剤としては、グリコールエーテル系有機溶剤、アルコール系有機溶剤を用いることが好ましい。
【0079】
グリコールエーテル系有機溶剤としては、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメトキシメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0080】
アルコール系有機溶剤としては、ジアセトンアルコール、N-アミルアルコール、メチルイソブチルカルビノール、n-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-オクチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキシレングリコール、1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0081】
親水性有機溶剤は、スクリーン印刷インキの総質量に対して、10~70質量%含まれることが好ましく、20~60質量%含まれることがなお好ましい。印刷適性が向上するためである。
【0082】
(着色顔料)
本発明においては、必要に応じて、上記体質顔料以外の、有機顔料及び/または無機顔料である着色顔料を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。具体的には、無機顔料として、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等の着色顔料を挙げることができる。また、有機顔料として、油溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。上記顔料は、1種でも2種以上でも用いることができ、スクリーン印刷インキの総質量に対して、0.5~15質量%含まれることが好ましく、1~10質量%含まれることがなお好ましい。また、これらの顔料を用いる際には、例えば、ノニオン系活性剤として共重合されたポリエーテル系の分散樹脂を用いることも好適であり、ポリプロピレングリコール(プロピレンオキサイド)とポリエチレングリコール(エチレンオキサイド)が共重合された形態の化合物などが好ましい。顔料の分散安定性が向上し、耐擦過性が良好になる。
【0083】
(硬化剤)
本発明においては、必要に応じて、ポリイソシアネート型硬化剤を本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0084】
(添加剤)
本発明においては、必要に応じて、活性剤、消泡剤、レベリング剤、濡れ浸透剤、皮張り防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋剤、防腐剤、防カビ剤、粘度調整剤、pH調整剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0085】
(インキの粘度)
本発明において、レオメーターを用いて測定したインキの粘度は、せん断速度0.1[1/s]をγ1としたとき、せん断速度γ1のときの粘度η1が2以上10000以下Pa・sが好ましく、せん断速度100[1/s]をγ2としたとき、せん断速度γ2のときの粘度η2が0.25以上10以下Pa・sであることが好ましい。0.25Pa・s以上で機上安定性、細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好になり、10000Pa・s以下で転移性、着肉性が良好となる。なお、インキの粘度はレオメーター;TAインスツルメント社製のDHR-2を用い、JISK7117-2に準じ、液温25℃の条件下で、せん断速度γが0.01~1000[1/s]の範囲における粘度η[Pa・s]を測定した。
【0086】
チキソトロピックインデックス値(TI値)とは、低せん断速度における粘度(γ=low)と高せん断速度における粘度(γ=high)との比として定義され、TI値が1に近いほどニュートン流体に近く、TI値が1より大きい範囲で高いほどチキソ性(非ニュートン性)が高いと考えられる。
【0087】
スクリーン印刷インキに求められる流動特性としては、非ニュートン性であることが好ましい。本発明のスクリーン印刷インキは、せん断速度が高くなるほど、粘度が低下する挙動を示す。本発明のスクリーン印刷インキでは、スクリーン版のメッシュを通過する際に、インキに対し局所的に高せん断が付加されたとしても、高せん断速度時の粘度が高い場合、流動性が不足することなく転移性や着肉性が維持される。一方、インキが基材に転移、着肉したのちは、せん断速度の低下による粘度の安定により、画線部のエッジで液だれが発生することなく、細線印刷性が維持向上される。したがって目的の塗膜厚みが得ることが可能である。
【0088】
本発明において、上記TI値は、せん断速度γ1が1[1/s]のときの粘度η(;η
(γ=1))と、せん断速度γ2が10[1/s]のときの粘度η(;η(γ=10))との比、η(γ=1)/η(γ=10)として定義し、当該TI値は2~10の範囲が好ましく、3~8の範囲がより好ましく、3~6の範囲がより好ましい。機上安定性、細線印刷性(画線部の太り抑制)が良好となるためである。なお、TI値は、レオメーター;TAインスツルメント社製のDHR-2を用い、液温25℃の条件下で測定した粘度値を
用いて算出することができる。
【0089】
本発明において、インキのTI値を上記の範囲とするためには、体質顔料の使用、高せん断分散、過剰分散の防止等が有効である。
体質顔料については、上記に示したシリカ等を用いることが好ましい。親水性基を表面に有する体質顔料を用いることで、液状媒体中で体質顔料同士、或いは体質顔料と液状媒体との相互作用が生じ、インキを増粘させる効果があると考えられる。この相互作用の効果により、せん断が付されていないときは粘度が高く、せん断が付加されているときは粘度を低くすること、すなわち、チキソトロピー性の付与が可能になり、レオロジーコントロールが容易になる。
【0090】
製造プロセスにおいては、鋸歯型ブレード(ディゾルバーブレード)に依る高せん断分散によって製造することが好ましく、ディゾルバーブレードの先端周速を8m/s以上にすることが好ましい。高せん断分散においては、ブレードと混合槽のサイズ比(混合槽直径に対するブレード直径の比率)は、1/2~1/3とすることが好ましい。ブレードの高さは、ブレード直径の0.5~1倍の高さにすることが好ましい。上記の設定にすることで、より攪拌流が発生しやすくなり、体質顔料の湿潤化及び分散が進むためである。
【0091】
材料の添加順序は、最初にバインダー樹脂及び/または分散樹脂中に体質顔料を分散させた後に、添加剤などを添加することが好ましい。また、過剰分散を防ぐため、攪拌時間の不必要な長時間化を避けることが好ましく、分散時間としては5~20分であることが好ましい。
【0092】
本発明において、インキの粘度、TI値を好ましい範囲とするためには、体質顔料のインキ中の含有量は1~10質量%の範囲とすることが好ましく、2~8質量%とすることがより好ましく、3~7質量%とすることが更に好ましい。親水性有機溶剤のインキ中の含有量は、10~70質量%とすることが好ましく、20~60質量%とすることがなお好ましい。親水性有機溶剤の、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体の総質量に対する質量比率は35~80質量%とすることが好ましく、40~70質量%とすることがより好ましく、45~60質量%とすることが更に好ましい。インキ中のバインダー樹脂の比率は5~30質量%とすることが好ましく、10~25質量%とすることがより好ましい。
【0093】
<インキの製造>
本発明のインキは、バインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、水及び親水性有機溶剤を含む液状媒体、及び、必要に応じて、顔料、硬化剤、及び/又は、添加剤を必要量混合し、攪拌機等で良く撹拌する方法、又は、顔料、分散剤、水性媒体を含む分散体を先に調製しておき、さらにバインダー樹脂、体質顔料、有機粒子、水性媒体、及び、必要に応じて、硬化剤、及び/又は、添加剤を必要量混合し、攪拌機等で良く撹拌する方法がある。
【0094】
<基材>
本発明において用いられる基材は、特に限定されるものではなく、ガラス等の無機基材、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル基材、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニルその他のポリオレフィン基材、ポリアミド等のナイロン基材、アクリル基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリカーボネート基材、ポリウレタン基材、エポキシ基材等の樹脂基材が挙げられる。また、当該基材を用いた積層体であってもよい。シリカ、アルミナ、アルミニウム等の無機化合物を当該基材に蒸着した蒸着基材も用いることができ、更に蒸着処理面がポリビニルアルコール等によるコート処理を施されていてもよい。また、コロナ処理やフレーム処理、延伸処理が施されていてもよい。以上のうち、コロナ処理されたポリエチレンテレフタレート等のポリエステル基材であることが好ましい。
【0095】
<印刷>
本発明において、基材上に、印刷によって、本発明のインキを用いた表面保護層を形成することが好ましい。基材にインキを印刷するための印刷方法としては、スクリーン印刷、ロールコーター、バーコーター、ディスペンサー塗工、刷毛塗り等が挙げられ、中でも、スクリーン印刷が好ましい。印刷機としては、シリンダープレス印刷機や半自動印刷機を使用し、刷版としては、ナイロンやポリエステル等の樹脂素材、ステンレス等の樹脂素材を使用することが好ましい。
【0096】
<スクリーン印刷インキにより形成された表面保護層を備えた印刷物>
本発明のスクリーン印刷インキは、上記基材に印刷することで表面保護層として用いることができる。スクリーン印刷インキにより形成された表面保護層を備えた印刷物の製造方法としては、基材上に、本発明のスクリーン印刷インキを用いて、スクリーン印刷機で印刷する方法が例示できる。
【0097】
更に、表面保護層を備えた印刷物の印刷構成としては、従来あるアンカーコート層(アンカー層)、印刷層(インキ層)、表面保護層を任意に組み合わせることが可能である。印刷層は、さらに、本発明のインキからなるインキ層以外のインキ層を有してもよい。当該アンカー層、インキ層等は、特に制限はなく、公知のものを適宜使用することができる。印刷物の構成は例えば、
基材/表面保護層
基材/アンカー層/表面保護層
基材/インキ層/表面保護層
基材/アンカー層/インキ層/表面保護層
基材/インキ層/アンカー層/表面保護層
表面保護層/基材/表面保護層
表面保護層/アンカー層/基材/表面保護層
表面保護層/アンカー層/基材/アンカー層/表面保護層
表面保護層/アンカー層/基材/インキ層/表面保護層
表面保護層/インキ層/基材/インキ層/表面保護層
表面保護層/インキ層/基材/アンカー層/表面保護層
表面保護層/インキ層/アンカー層/基材/アンカー層/表面保護層
表面保護層/インキ層/アンカー層/基材/インキ層/表面保護層
表面保護層/インキ層/アンカー層/基材/アンカー層/インキ層/表面保護層
などを好適に挙げることができる。
【実施例0098】
以下、実施例として本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。本発明において、特に断らない限り、「部」は「質量部」、「%」は、「質量%」をそれぞれ表す。
【0099】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(Tg)は、JISK0129に記載の方法に従って求めた。具体的には、DSC(示差走査熱量測定装置)により求めた。なお、測定機は株式会社リガク製DSC8231を使用し、測定温度範囲-70~150℃、昇温速度10℃/分、DSC曲線におけるガラス転移に基づく吸熱開始温度を終了温度との中点をガラス転移温度とした。
【0100】
(平均粒子径)
平均粒子径は、コールターカウンター法による体積平均粒子径をいい、例えばコールターMultisizer4e(ベックマン・コールター社製)により測定することができる。
【0101】
(実施例1:スクリーン印刷インキS1の作成)
水性ウレタン樹脂A1-1(Tg70℃、固形分35%)を42部、アミノ樹脂粒子1(平均粒子径9μm)を6部、シリカ1(アエロジル200;ヒュームドシリカ、平均粒子径1μm、BET法による比表面積175~225m2/g)を5.5部、ポリエチレン樹脂粒子1/水分散体(平均粒径8μm)を5部、添加剤としてレベリング剤(アセチレノールE00P)を0.5部、消泡剤(テゴフォーメックス810;シリコーン系)を0.1部、液状媒体として水を8.5部、親水性有機溶剤1(プロピレングリコール、沸点188.2℃)を32.4部混合し、羽根つき撹拌機で20分撹拌してスクリーン印刷インキS1を得た。
【0102】
(実施例2~35:スクリーン印刷インキS2~S35の作製)
表1に記載した原料および配合を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、スクリーン印刷インキS2~S35を得た。表中、単位の標記のない数値は、部を表し、空欄は配合していないことを表す。なお、表中の略称は以下を表す。
水性ウレタン樹脂A1-2:Tg25℃、固形分30%
水性ウレタン樹脂A1-3:Tg120℃、固形分30%
水性ウレタンアクリル樹脂A2-1:Tg27℃、固形分38%
水性ポリエステル樹脂B-1:Tg64℃、固形分25%
水性ポリエステル樹脂B-2:Tg20℃、固形分25%
水性ポリエステル樹脂B-3:Tg110℃、固形分25%
水性ポリエステル樹脂B-4:Tg8℃、固形分25%
水性ポリエステル樹脂B-5:Tg125℃、固形分25%
水性アクリル樹脂1:Tg75℃、固形分48%
PVA1:Tg85℃、固形分20%
アミノ樹脂粒子2:平均粒子径2.5μm
アミノ樹脂粒子3:平均粒子径0.4μm
アクリル樹脂粒子1:平均粒子径10μm
アクリル樹脂粒子2:平均粒子径30μm
PET樹脂粒子1:平均粒子径35μm
シリカ2:カープレックスFPS-1;湿式(沈降)シリカ、平均粒子径2.3μm、BET法による比表面積200m2/g
ベントナイト:オスモスN(白石カルシウム株式会社製)
酸化チタン:タイペークCR-50(石原産業株式会社製)
カーボン:ミツビシカーボンMA100(三菱化学株式会社製)
親水性有機溶剤2:ジエチレングリコールモノブチルエーテル;BDG(沸点230.6℃)
親水性有機溶剤3:グリセリン(沸点290℃)
親水性有機溶剤4:イソブチルアルコール(沸点108℃)
【0103】
【0104】
【0105】
(比較例1~6:スクリーン印刷インキT1~T6の作成)
表2に記載した原料および配合を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、スクリーン印刷インキT1~T5を得た。表中、単位の標記のない数値は、部を表し、空欄は配合していないことを表す。
【0106】
【0107】
(粘度)
実施例1~35、及び比較例1~6のスクリーン印刷インキについて、JISK7117-2に準じ、レオメーターを用いて粘度-せん断速度曲線を測定した。レオメーターは、TAインスツルメント社製のDHR-2を用い、液温25℃の条件下で、せん断速度γが0.01~1000[1/s]の範囲における粘度η[Pa・s]を測定した。評価基準は下記の通りである。
A:せん断速度γが0.1[1/s]のときの粘度η(η(γ1=0.1))
η(γ=0.1)≦10000のとき:〇
η(γ=0.1)>10000のとき:×
B:せん断速度γが100[1/s]のときの粘度η(η(γ=100))
η(γ=100)≧0.25のとき:〇
η(γ=100)<0.25のとき:×
【0108】
(チキソトロピックインデックス値(TI値))
せん断速度γが1[1/s]のときの粘度η(η(γ=1))と、せん断速度γが10
[1/s]のときの粘度η(η(γ=10))との比;η(γ=1)/η(γ=10)
【0109】
(印刷)
厚さ75μmのコロナ処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETという)に実施例1~28、及び比較例1~5のスクリーン印刷インキを、乳剤厚15μm、ステンレス300メッシュの耐水版を用い、長さ50mmでラインアンドスペース(L/S)が各1000μmの配線パターン、および50mm×50mmのベタ印刷パターンを同時にスクリーン印刷し、100℃のオーブンにて1分間乾燥させ、膜厚が5~10μmのスクリーン印刷物を得た。
【0110】
(評価)
上記実施例および比較例にて得られたスクリーン印刷物を用いて以下の評価を行い、評価結果は表1および表2に示した。
【0111】
<耐目詰まり性>
実施例および比較例で得られたスクリーン印刷インキについて、耐目詰まり性を評価した。評価方法は、インキを乳剤厚15μm、ステンレス300メッシュの耐水版を用い、50mm×50mmのベタ印刷パターン形状を1回スクリーン印刷した後、1分間版停止し、それ以降は連続でスクリーン印刷した際の、ベタ印刷パターン部分にヌケやカスレが無くなるまでの印刷枚数を評価した。枚数が少ないほど、耐目詰まり性が高いことを示す。評価基準は次の通りである。
5(優):1~2枚
4(良):3~5枚
3(可):6~10枚
2(不可):11~20枚
1(劣):21枚以上
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0112】
<細線印刷性>
実施例および比較例で得られたスクリーン印刷インキを印刷した印刷物のうち、長さ50mmでラインアンドスペース(L/S)が各1000μmの配線パターン形状箇所のライン幅を、キーエンス社製のデジタルマイクロスコープ「VHX-8000」にて計測した。なお、印刷後のライン幅が大きいほど、細線印刷性は低いといえる。評価基準は次の通りである。
5(優):1000μm以上1010μm未満
4(良):1010μm以上1050μm未満
3(可):1050μm以上1200μm未満
2(不可):1200μm以上1400μm未満
1(劣):1400μm以上
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0113】
<耐ブロッキング性>
実施例および比較例で得られたスクリーン印刷インキを印刷した印刷物のうち、50mm×50mmのベタ印刷パターン形状箇所を40mm×40mmの大きさに切り取った印刷物の印刷面と、同様の大きさに切り取ったPETフィルムの裏面(コロナ未処理面)とを圧着し、温度:85℃、湿度:65%RH、荷重:1kg/m2の高温・高湿度・高荷重条件下で、24時間静置したのち、圧着面を剥離した際の剥離抵抗、および剥離面の状態を評価した。評価基準は次の通りである。
5(優):剥離抵抗が全くない。
4(良):剥離抵抗はあるが、印刷層の取られは見られない。
3(可):剥離抵抗が4よりは強く、印刷面積の20%未満で印刷層が取られる。
2(不可):剥離抵抗が強く、印刷面積の20%以上80%未満で印刷層が取られる。
1(劣):剥離抵抗が非常に強く、印刷面積の80%以上で印刷層が取られる。
上記で産業上利用できるレベルの評価は3、4および5である。
【0114】
<耐擦過性>
実施例および比較例で得られたスクリーン印刷インキを印刷した印刷物の耐擦過性は、JISK5600-5-4に準じた鉛筆硬度評価にて行った。各種硬度の鉛筆を45゜の角度で印刷層の表面にあて、荷重をかけて引っ掻き試験を行い、傷がつかない最も硬い鉛筆の硬さを鉛筆硬度とした。実施例および比較例で得られたスクリーン印刷インキを印刷した印刷物のうち、50mm×50mmのパターン形状箇所の印刷層上で評価した。評価基準は次の通りである。
5(優):H以上
4(良):HB
3(可):B
2(不可):2B
1(劣):3B以下
なお、実用上使用可能な評価は3、4および5である。
【0115】
本発明により、高温・高湿度環境下での耐ブロッキング性、及び、耐擦過性に優れたスクリーン印刷インキを提供することが可能となった。
【0116】
インキ中に体質顔料を含まない比較例1、有機粒子を含まない比較例2、インキ全質量中のバインダー樹脂の質量比率が、5~20質量%の範囲ではない比較例3及び4、バインダー樹脂が、水性ウレタン樹脂及び/又は水性ポリエステル樹脂ではない比較例5については、耐目詰まり性、細線印刷性、耐ブロッキング性、耐擦過性のいずれかが劣る結果となった。