(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172729
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】揚水構造及び冷却システム
(51)【国際特許分類】
B32B 3/18 20060101AFI20241205BHJP
E03B 11/14 20060101ALI20241205BHJP
E03F 1/00 20060101ALI20241205BHJP
F24F 5/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B3/18
E03B11/14
E03F1/00 Z
F24F5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090651
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪飼 正道
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康善
【テーマコード(参考)】
2D063
3L054
4F100
【Fターム(参考)】
2D063AA17
3L054BE10
4F100AK79B
4F100AR00B
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100BA03
4F100BA08
4F100DC24B
4F100HB31B
4F100JB05A
4F100JB05B
4F100JB05C
4F100JK17A
4F100JK17C
(57)【要約】
【課題】セラミックスで水路を形成する場合に比して、揚水能力を向上させる。
【解決手段】揚水材は、1つの積層構造体2又は複数の積層構造体2を積層させることで形成される。積層構造体2は、数~数十μm程度の厚さのアルミ箔、食品用ラップの膜等で形成される基板4と、基板4の一辺から対向する辺にまで所定の間隔を開けて同一方向に並べて基板4の上に配設されるジオポリマー膜6と、基板4と同一素材の薄膜8とを積層させて形成される。ジオポリマー膜6は、スクリーン印刷を利用して適切な粘度に調製されて基板4に印刷される。細孔10は、基板4、ジオポリマー膜6及び薄膜8により形成される。揚水材は、立設して利用されるが、細孔10は、下端側を入水口とし、上端側を出水口とする水路として利用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1層を形成する矩形形状の第1の板状部材と、前記第1の板状部材の一辺から対向する辺に向けて所定の間隔を開けて同一方向に並べて前記第1の板状部材の上に配設され、第2層を形成する複数の棒状部材と、前記複数の棒状部材の上の第3層を形成する矩形形状の第2の板状部材と、が積層されることで形成される積層構造体と、
前記第1の板状部材の表面と前記第2の板状部材の裏面と、前記棒状部材の側面とで形成される細孔と、
を備え、
前記細孔は、前記積層構造体が立設されて設置されているときに下端側を入水口とし、上端側を出水口とする水路として利用され、
毛管現象を利用して前記細孔の入水口から出水口まで揚水する構造を有することを特徴とする揚水構造。
【請求項2】
前記複数の棒状部材は、前記第1の板状部材の表面に印刷されることで形成されることを特徴とする請求項1に記載の揚水構造。
【請求項3】
前記複数の棒状部材は、ジオポリマー膜で形成されることを特徴とする請求項1に記載の揚水構造。
【請求項4】
前記細孔の面を形成する面は、親水加工されることを特徴とする請求項3に記載の揚水構造。
【請求項5】
前記細孔の入水口から出水口まで揚水するための前記積層構造体の揚水能力は、前記棒状部材の親水性と、前記所定の間隔により定められる前記細孔の幅と、を調整することで設定されることを特徴とする請求項1に記載の揚水構造。
【請求項6】
前記積層構造体は、前記第1の板状部材と前記複数の棒状部材との組を複数積層することで形成され、
前記第1の板状部材は、下層に位置する前記第2の板状部材として兼用されることを特徴とする請求項1に記載の揚水構造。
【請求項7】
第1の板状部材及び第2の板状部材は、柔軟性を有する薄膜部材で形成され、
前記積層構造体は、巻かれることによって円筒形状に形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の揚水構造。
【請求項8】
前記積層構造体は、円筒形状の芯材に巻き付けることによって円筒形状に形成されることを特徴とする請求項7に記載の揚水構造。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の揚水構造と、
貯水槽と、
を有し、
前記細孔の入水口から前記細孔の出水口まで吸い上げられた前記貯水槽の水が蒸発することによって前記揚水構造の周囲を冷却することを特徴とする冷却システム。
【請求項10】
前記揚水構造は、立設されて設置されているときに前記細孔の出水口の高さが異なるよう形成されることを特徴とする請求項9に記載の冷却システム。
【請求項11】
前記細孔は、複数の前記積層構造体を積層させることで多層的に形成され、
出水口の位置が相対的に高い前記細孔から蒸発される水によって頭上から、出水口の位置が相対的に低い前記細孔から蒸発される水によって側方から、周囲にいる人を冷却することを特徴とする請求項10に記載の冷却システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚水構造及びこれを用いた冷却システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から揚水能力を有する材料が提供されている。例えば、特許文献1では、径0.05~300μmの気孔が連通しかつ一元配向したセラミックス多孔体からなる揚水材が提案されている。また、この特許文献1では、貯水部から植物への給水手段として用いる植物栽培設備、揚水材を吸水加湿材として用いた加湿器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-301744号公報
【特許文献2】特開2011-144499号公報
【特許文献3】特許第05288380号明細書
【特許文献4】特開2005-15615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来において揚水材として利用するセラミックスは、ナイロン繊維やポリ乳酸樹脂などで直径10μmオーダー、長さ1mmを造孔材として混合してセラミックスの原料に混合した「押出成形」により製造される。このため、直径10μmオーダー、長さ1mmの細孔が一元方向に配向されているとしても、必ずしも全ての細孔が一元方向に配列されているとは限らない。このため、1mm長の細孔同士が連結せずに途切れている場合などがあることから、入水口から出水口まで1本の水路として形成されているわけではない。このように、セラミックスを用いた揚水構造では、十分な揚水能力を発揮できるとは限らない。
【0005】
本発明は、セラミックスで水路を形成する場合に比して、揚水能力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る揚水構造は、第1層を形成する矩形形状の第1の板状部材と、前記第1の板状部材の一辺から対向する辺に向けて所定の間隔を開けて同一方向に並べて前記第1の板状部材の上に配設され、第2層を形成する複数の棒状部材と、前記複数の棒状部材の上の第3層を形成する矩形形状の第2の板状部材と、が積層されることで形成される積層構造体と、前記第1の板状部材の表面と前記第2の板状部材の裏面と、前記棒状部材の側面とで形成される細孔と、を備え、前記細孔は、前記積層構造体が立設されて設置されているときに下端側を入水口とし、上端側を出水口とする水路として利用され、毛管現象を利用して前記細孔の入水口から出水口まで揚水する構造を有することを特徴とする。
【0007】
また、前記複数の棒状部材は、前記第1の板状部材の表面に印刷されることで形成されることを特徴とする。
【0008】
また、前記複数の棒状部材は、ジオポリマー膜で形成されることを特徴とする。
【0009】
また、前記細孔の面を形成する面は、親水加工されることを特徴とする。
【0010】
また、前記細孔の入水口から出水口まで揚水するための前記積層構造体の揚水能力は、前記棒状部材の親水性と、前記所定の間隔により定められる前記細孔の幅と、を調整することで設定されることを特徴とする。
【0011】
また、前記積層構造体は、前記第1の板状部材と前記複数の棒状部材との組を複数積層することで形成され、前記第1の板状部材は、下層に位置する前記第2の板状部材として兼用されることを特徴とする。
【0012】
また、前記第1の板状部材及び前記第2の板状部材は、柔軟性を有する薄膜部材で形成され、前記積層構造体は、巻かれることによって円筒形状に形成される、ことを特徴とする。
【0013】
また、前記積層構造体は、円筒形状の芯材に巻き付けることによって円筒形状に形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る冷却システムは、上記各発明に記載の揚水構造と、貯水槽と、を有し、前記細孔の入水口から前記細孔の出水口まで吸い上げられた前記貯水槽の水が蒸発することによって前記揚水構造の周囲を冷却することを特徴とする。
【0015】
また、前記揚水構造は、立設されて設置されているときに前記細孔の出水口の高さが異なるよう形成されることを特徴とする。
【0016】
また、前記細孔は、複数の前記積層構造体を積層させることで多層的に形成され、出水口の位置が相対的に高い前記細孔から蒸発される水によって頭上から、出水口の位置が相対的に低い前記細孔から蒸発される水によって側方から、周囲にいる人を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1~8に記載の発明によれば、セラミックスで水路を形成する場合に比して、揚水能力を向上させることができる。
【0018】
請求項9~11に記載の発明によれば、揚水構造の周囲にいる人を効果的に冷やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施の形態における積層構造体の製造過程を模式的に示す概略構成図である。
【
図2】本実施の形態における揚水材を示す正面図である。
【
図3】本実施の形態における角柱形状の揚水材の基本的な構成の一例を示す斜視図である。
【
図4】本実施の形態における角柱形状の揚水材の変形例を示す概略的な斜視図である。
【
図5】本実施の形態における角柱形状の揚水材の他の変形例を示す概略的な斜視図である。
【
図6】本実施の形態における角柱形状の揚水材の他の変形例を示す概略的な斜視図である。
【
図7】本実施の形態における円筒形状の揚水材の製造方法を説明するために用いる図であり、(a)は、その製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材を示す正面図である。
【
図8】本実施の形態における円筒形状の揚水材の基本的な構成の一例を示す斜視図である。
【
図9】本実施の形態における円筒形状の揚水材の変形例を示す概略的な斜視図である。
【
図10】(a)は、本実施の形態における円筒形状の揚水材の他の変形例の製造に用いる積層構造体を示す図であり、(b)は、(a)に示す積層構造体から形成される揚水材を示す概略的な斜視図である。
【
図11】本実施の形態における円筒形状の揚水材の他の変形例を示す概略的な斜視図である。
【
図12】本実施の形態における円筒形状の揚水材の他の製造方法を説明するために用いる図であり、(a)は、その製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材を示す正面図である。
【
図13】本実施の形態における円筒形状の揚水材の他の製造方法を説明するために用いる図であり、(a)は、その積層構造体及び製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材を示す正面図である。
【
図14】
図13(a)に示す積層構造体を矢印Cと逆方向に巻く場合の製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材を加工処理した後の揚水材を示す正面図である。
【
図15】本実施の形態における冷却システムを示す全体構成図である。
【
図16】
図15に示す冷却システムを側方から見たときの図である。
【
図17】本実施の形態において、接触角毎の細孔半径と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【
図18】本実施の形態において、細孔半径が5.0μmのときの接触角毎の時間と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【
図19】本実施の形態において、細孔半径が4.0μmのときの接触角毎の時間と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【
図20】本実施の形態において、細孔半径が3.0μmのときの接触角毎の時間と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【
図21】本実施の形態において、細孔半径が2.5μmのときの接触角毎の時間と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【
図22】本実施の形態において、細孔半径が2.0μmのときの接触角毎の時間と毛管上昇高さとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0021】
<揚水材の基本構成>
図1は、本実施の形態における揚水材の基本構成となる積層構造体2の製造過程を模式的に示す概略構成図である。このうち、
図1(a)は、積層構造体2の製造過程を示す図であり、積層構造体2の一部分を示す概略的な斜視図である。また、
図1(b)は、
図1(a)を用いて説明する製造方法により形成される積層構造体2の正面図である。なお、本実施の形態では、各図において、本実施の形態の特徴的な構造の説明の便宜を優先させており、各部材の寸法や各部材の大きさの比率は、一致していない場合がある。
【0022】
本実施の形態における積層構造体2は、3層構造で形成される。第1層を形成する第1の板状部材は、矩形形状をしている基板4であり、この基板4の上に第2層を形成するジオポリマー膜6が配設される。
【0023】
基板4は、数~数十μm程度の厚さのアルミ箔、食品用ラップの膜、プラスチックの薄い膜、グラシン紙などの薄い紙等で形成される。また、基板4は、後述する薄膜8を含め、ジオポリマーの薄膜(膜厚が数~数十μm程度)を作製して使用してもよい。
【0024】
ジオポリマーは、アルミナシリカ粉末(活性フィラー)とアルカリ溶液の反応で形成される非晶質の縮重合体(ポリマー)の総称である。ジオポリマーは、セメントと比較して原材料の製造時に発生するCO2排出量が8割近く削減できる。また、ジオポリマーは、100℃以下の低温で固化が可能となるため、低コストになる。更に、ジオポリマーの原料は、石炭火力発電所の副生産物のフライアッシュや下水汚泥などの廃棄物の有効利用をすることで安価に作製可能である。
【0025】
ジオポリマー膜6は、複数の棒状部材の一例であり、
図1(a)に示すように基板4の一辺(
図1(a)における手前の辺)から対向する辺(図示せず)に向けて所定の間隔を開けて同一方向に並べて基板4の上に配設される。本実施の形態では、押出成形法を利用せず、スクリーン印刷やインクジェット法等の印刷技術を利用して適切な粘度に調製したジオポリマー膜6を基板4の上に形成する。
【0026】
スクリーン印刷を利用する場合、溝幅が約1~20μmになるようなメッシュを準備し、そのメッシュを通して粘性のあるジオポリマーをインク材として基板4に印刷する。このようにして、ジオポリマー膜6は、基板4の表面に形成される。
【0027】
なお、ジオポリマー膜6は、ある程度の粘性を有しているので、基板4の表面に印刷された後のジオポリマー膜6の断面形状は、上面に角はできずに
図1(a)に示すように半円形状若しくは楕円形状となる。
【0028】
第3層を形成する第2の板状部材は、基板4と同じ素材であり、矩形形状をしている薄膜8である。薄膜8は、特に断らない限り、基板4と同じ素材であり、同じ形状を有している。本実施の形態においては、説明の便宜上、「基板」4及び「薄膜」8と、異なる要素名を付けて説明するが、実際は同じ部材で形成している。
【0029】
薄膜8は、基板4の上にスクリーン印刷されたジオポリマー膜6の上に配設され、これを積層圧着することにより、
図1(b)に示すように基板4、ジオポリマー膜6及び薄膜8による3層構造の積層構造体2が形成される。
【0030】
以上のようにして形成された積層構造体2には、基板4表面と薄膜8の裏面と隣接配置するジオポリマー膜6の対向する側面によって、断面を矩形形状とする細孔10が形成される。細孔10は、基板4及び薄膜8の一辺から対向する辺までの貫通孔となる。本実施の形態では、細孔10を揚水材の水路として利用する。本実施の形態では、
図1(a)に示すように半円形状のジオポリマー膜6の断面が、
図1(b)に示すように矩形形状となるよう圧力をかけるが、細孔10が形成できれば半円形状のままでもよい。
【0031】
本実施の形態では、積層構造体2の高さ(厚み)を例えば15μm以下(若しくは後述するように円筒形状で形成する場合は内直径15μm以下)、細孔10の積層構造体2が占める割合(空隙密度)を10~70%となるよう形成する。
【0032】
ところで、水路として利用する細孔10を形成する壁面は、親水的である方が揚水能力を向上させることができる。従って、ジオポリマー膜6の作製前又は後に、マイクロ波プラズマ処理などにより少なくとも細孔10を形成する壁面に親水加工処理を施すのが好適である。あるいは、親水基からなる分子を用いて表面修飾してもよい。積層構造体2の揚水能力に関する詳細は後述する。
【0033】
図2は、本実施の形態における揚水材の典型的な一例を示す正面図である。本実施の形態における揚水材12は、本発明に係る揚水構造を有する一形態である。本実施の形態における揚水材12は、
図1(b)に示す積層構造体単体による一層で構成してもよいが、基本的には複数の積層構造体2を積層し、圧着することで多層的に形成される。
図2では、細孔10が4層となるよう形成されている揚水材12を図示している。もちろん、4層構造に限定する必要はなく、揚水材12の用途や設置場所等を考慮して積層数を決めればよい。
【0034】
ところで、
図1では、水路として利用する細孔10の形成過程を示すために薄膜8を図示した。もちろん、
図1(b)に示す積層構造体2を積層させて揚水材12を形成してもよい。ただ、
図2に示す揚水材12では、積層されるジオポリマー膜6の間に1層分の部材(基板4又は薄膜8)しか設けていない。すなわち、
図2に示すように、複数の積層構造体2を積層させて揚水材12を形成する場合、
図1(a)に示す基板4とジオポリマー膜6との組を複数積層させ、最上層のみに薄膜8を設ける。すなわち、基板4は、直下の層に位置する薄膜8として兼用される。もちろん、図面上、最下層の基板4は、薄膜8を兼用する必要はない。
【0035】
図3は、本実施の形態における揚水材121の基本的な構成の一例を示す斜視図である。
図3に示すように揚水材121は、
図2に示した揚水材12を立設させている状態を示している。本実施の形態における揚水材12は、このように立設させて利用することにより、角柱形状の揚水材121を形成することになる。揚水材12を立設させて設置されているとき、細孔10は、下端側を入水口とし、上端側を出水口とする水路として利用される。そして、細孔10の入水口は、揚水材12の利用時には浸水される。本実施の形態における揚水材121は、毛管現象を利用して細孔10の入水口から出水口まで揚水する構造を有することを特徴としている。
【0036】
本実施の形態における揚水材121は、後述する冷却システムに適用されることを想定し、人の頭上から冷却できるように高さを2m以上で形成する。また、角柱形状の揚水材12の幅、また後述する円筒形状の揚水材12の直径は、2~20cmとすることを想定しているが、特に制限を設ける必要はないし、構造上の制限はない。揚水材12の幅は、用途に応じて決めればよい。また、揚水材12の奥行きは、
図1に示すように基板4、ジオポリマー膜6及び薄膜8それぞれの厚みと積層構造体2の積層数によって決定されるが、幅と同様に用途に応じて適宜設定すればよい。揚水材12の大きさについては、後述する変形例においても同様である。
【0037】
なお、本実施の形態では、細孔10の親水性、積層構造体2の製造方法、特に1本の貫通孔で細孔10を形成することを考慮し、棒状部材を形成するのに適切な素材としてジオポリマーを利用している。ジオポリマーの特性、及び揚水材にセラミックスを利用する場合に比してジオポリマーを利用することが優位であることについては、説明済みである。ただ、基板4の上に1本の貫通孔にて細孔10を形成できるのであれば、ジオポリマー以外の素材を用いて棒状部材を形成してもよい。
【0038】
<揚水材の変形例>
揚水材の変形例を示す図では、外観の形状や細孔10の位置等の特徴的な構成を示し、1つの積層構造体2の構造は、適宜省略して図示する。揚水材は、1又は複数の積層構造体2により形成され、基本的には
図1(b)あるいは
図2に示す構造を有する。なお、積層構造体2a,2b等、添え字を付けて説明する場合があるが、相互に区別する必要はない場合は「積層構造体2」と総称する。また、
図3~11に示す揚水材121~129に関して、全ての揚水材121~129に共通する説明の場合には、
図2と同様に「揚水材12」と総称する。
【0039】
図4は、
図3に示す揚水材121の変形例を示す概略的な斜視図である。
図3に示す揚水材121は、立設させたときの上面は、地面と水平であることから全ての細孔10の出水口の高さは同じとなる。これに対し、
図4に示す揚水材122では、全ての細孔10の高さは同じではなく異ならせる場合の一例を示している。なお、積層構造体2それぞれの上面は、地面に対して水平なので、1つの積層構造体2に含まれる細孔10の高さは同じである。もちろん、1つの積層構造体2においても上面を平面とせずに曲面とすることで、細孔10の高さを異ならせるよう積層構造体2を加工してもよい。
【0040】
図4に示す揚水材122では、積層構造の揚水材122の中心又は中心近傍に位置する積層構造体2aの高さを最も高くし、積層構造体2の並びの外側に行くに連れて積層構造体2bの高さを低くする。建物の屋根で例えると、
図3に示す揚水材12の上面は、陸屋根の形状であるのに対し、揚水材122の上面は、段差があるものの山型の切妻屋根の形状をしている。揚水材122を側方から見たときの上部は、凸型形状で形成されているともいえる。
【0041】
揚水材122を形成する積層構造体2それぞれの高さは、
図4に示すように最も高い積層構造体2aから外側に向けて1段ずつ徐々に低くし、一番外側の積層構造体2bを最も低くすることによって線対称かつ階段状に形成することを基本形とする。もちろん、各積層構造体2の高さを必ずしも隣接する積層構造体2と異ならせる必要はなく1又は複数の積層構造体2を同じ高さとしてもよい。つまり、外側に位置する積層構造体2の高さが高くならないように、具体的には低く若しくは同じにする。換言すると1つの段を1又は複数の積層構造体2で形成してもよい。また、
図4には、中心に位置する積層構造体2を中心として線対称に形成されている揚水材122が示されているが、必ずしも線対称に形成する必要はない。揚水材122を形成する積層構造体2の積層数、また各段を形成する積層構造体2の数や高さは、揚水材122の用途に応じて適宜決めればよい。以下の変形例において説明する揚水材12においても同様である。
【0042】
図5は、
図3に示す揚水材121の他の変形例を示す概略的な斜視図である。
図5では、
図4と同様に細孔10の高さを異ならせる変形例を示しているが、
図5に示す揚水材123では、積層構造の揚水材123の一番端の積層構造体2aの高さを最も高くし、他端側に行くに連れて高さが低くなり、一番端の積層構造体2bの高さを最も低くする。建物の屋根で例えると、揚水材123の上面は、段差があるものの片流れ屋根の形状をしている。
【0043】
図6は、
図3に示す揚水材121の他の変形例を示す概略的な斜視図である。
図5に示す揚水材123は、各積層構造体2の上面を水平としている。従って、細孔10の出水口は、地面と水平となる。これに対し、
図6に示す揚水材124は、揚水材124の上面が斜面となるように形成される。すなわち細孔10の出水口は、地面と水平となるのではなく斜めとなる。細孔10の出水口の面を斜めとすることで、出水口の面積が大きくなる。また、本実施の形態では、出水口に達した水は、蒸発することを想定しているが、細孔10の出水口の面を斜めとすると、出水口に達した水が流れ落ちることで冷却効果を高めることが可能となる。
【0044】
上記例示した揚水材122~124は、角柱形状をしており、上面の形状を建物の屋根の形状に例えて説明した。もちろん、揚水材12の上面の形状は、一例であって上記変形例に限定する必要はない。建物の屋根の形状に例えると、方形屋根やバタフライ型屋根などで形成してもよい。
【0045】
上記
図3~6では、角柱形状の揚水材12を例にして説明した。以下の説明では、円筒形状で形成されている揚水材12の変形例を示す。
【0046】
図7では、円筒形状の揚水材125の一例と共に製造方法を示している。
図7(a)は、
図1(b)と同じ積層構造体2を示している。
図7(a)において、矢印Aで示しているように、積層構造体2の両端を巻くように、換言すると丸めるように変形させ、これにより対向することになる端面2cと端面2dを接合することで円筒形状の揚水材125を形成する。
【0047】
円筒形状の揚水材125においては、中心が空洞になる。あるいは、積層構造体2を丸棒に巻き付けるように形成してもよい。円筒形状の揚水材125を形成する場合、上記のように積層構造体2を曲げて変形する必要があるので、基板4及び薄膜8を、柔軟性を有する素材で形成する必要がある。
【0048】
図8は、本実施の形態における円筒形状の揚水材126の基本的な構成の一例を示す斜視図である。円筒形状の揚水材126を形成するには、
図7を用いて説明したように、複数の積層構造体2をそれぞれ1つずつ巻き重ねることで多層的に形成してもよい。あるいは、
図2に示す積層構造の揚水材12を丸めるように形成してもよい。揚水材126は、積層構造体2の積層数を多くして厚みが大きくなると内周側と外周側とで長さが異なってくるので、積層構造体2の端面を確実に接合できるように調整する必要がある。
【0049】
図9は、
図8に示す揚水材126の変形例を示す概略構成図である。
図9に示す揚水材127は、
図4に示す角柱形状の揚水材122と同様に、全ての細孔10の高さは同じではなく異ならせる場合の一例を示している。揚水材127は、最も内側の細孔10の出水口の高さが最も高く、外周に行くに連れて細孔10の高さが低くするように形成されている。つまり、高さの異なる積層構造体2を高さの高い順に幾重にも巻いていくようにして多層的に形成される。
【0050】
図10は、円筒形状の揚水材12の他の変形例を示す概略構成図である。このうち、
図10(a)には、
図10(b)に示す揚水材128を形成するために用いる積層構造体2が示されている。揚水材128は、矩形形状の複数の積層構造体2を積層させて形成するのではなく、
図10(a)に示すように細孔10の出水口が形成される辺を斜めとする台形で形成し、長辺2eが中心にくるようにして巻くことで形成される。なお、積層構造体2は、細孔10の出水口が形成される辺を斜めとすれば、台形形状でなくても、例えば略直角三角形等他の形状の積層構造体2を用いて形成してもよい。
【0051】
図11は、円筒形状の揚水材12の他の変形例を示す概略構成図である。
図11に示す揚水材129は、
図6に示す角柱形状の揚水材124の円筒形状版といえる。すなわち、
図8に示す揚水材126は、各積層構造体2の上面を水平としているので、細孔10の出水口は、地面と水平となる。これに対し、
図11に示す揚水材129は、揚水材129の上面が斜面となるように形成されるので、細孔10の出水口は、地面と水平となるのではなく斜めとなる。
【0052】
上記説明では、
図7(b)に示す揚水材125の構造を円筒形状の基本となる構造として、種々の円筒形状の揚水材126~129を例示したが、以下の
図12~14を用いて説明する製造方法にて揚水材126~129を形成してもよい。
【0053】
図12は、本実施の形態における円筒形状の揚水材130の他の製造方法を説明するために用いる図であり、(a)は、揚水材130の製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材130を示す正面図である。
図7では、積層構造体2の両端から巻いて、端面2cと端面2dを接合するようにして、円筒形状の揚水材125を製造する例を示している。
図12に示す揚水材130は、矢印Bで示しているように、積層構造体2を丸める、すなわち積層構造体2の一端2fから他端2gに向けて巻くことによって円筒形状の揚水材130を製造する。この場合、他端2gに位置する薄膜8と、薄膜8と接する基板4とを接合する。また、他端2gを被覆して接合部分が剥がれにくくなるように加工してもよい。また、テープ等の接合部材により他端2gを被覆する場合、薄膜8と基板4とを接合する加工処理を省略してもよい。
図12(b)では、
図7(b)と同様に1周分の積層構造体2から構成される揚水材130を示しているが、横幅方向に長い積層構造体2を用意して巻くことによって、あるいは中心にできる空洞が小さくなるように丸めることによって、
図8に示す揚水材126のように多層的な揚水材130を形成することができる。
【0054】
図13は、本実施の形態における円筒形状の揚水材131の他の製造方法を説明するために用いる図であり、(a)は、積層構造体2及び揚水材131の製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材131を示す正面図である。
図12では、基板4、ジオポリマー膜6及び薄膜8から構成される積層構造体2を一端側から巻いて揚水材130を製造する例を示した。
図13では、
図2と同様に基板4が薄膜8を兼用する積層構造体2を用いる。なお、
図13(a)では、薄膜8が存在しない積層構造体2を示しているが、積層構造体2を巻くことによって、基板4が薄膜8を兼用する構造となる。
図13に示す揚水材131は、矢印Cで示しているように、積層構造体2を丸める、すなわち積層構造体2の一端2hから他端2iに向けて巻くことによって円筒形状の揚水材131を製造する。この場合、他端2iに位置する基板4の面と、この面と接する基板4の面とを接合する。また、
図12に示す揚水材130と同様に、他端2iを被覆して接合部分が剥がれにくくなるように加工してもよい。また、テープ等の接合部材により他端2iを被覆する場合、基板4同士を接合する加工処理を省略してもよい。
図13(b)では、多層的に形成される揚水材131を示しているが、
図12(b)に示すように1周分だけ巻くようにしてもよい。
【0055】
図14は、
図13(a)に示す積層構造体を矢印Cと逆方向に巻く場合の製造方法、(b)は、(a)に示す製造方法にて形成される揚水材を加工処理した後の揚水材を示す正面図である。
図13(a)に示す矢印Cのように、ジオポリマー膜6が基板4の内側となるように巻いてもよいし、
図14(a)に示すように矢印Cの反対方向に、つまりジオポリマー膜6が基板4の外側にくるように巻いてもよい。但し、矢印Cの反対方向に積層構造体2を巻く場合、揚水材131の外周に現れるジオポリマー膜6を除去してもよい。矢印Cの反対方向に積層構造体2を巻いた後に外周に現れるジオポリマー膜6を除去した後の揚水材131を
図14(b)に示す。
【0056】
図12~14に示す揚水材130,131の場合、丸棒や中空の円筒などの円筒形状の芯材に積層構造体2を巻き付けることによって製造するのが容易である。この場合、芯材を揚水材130,131の製造後に取り除いてもよいし、例えば揚水材130,131を立設させるための部材としてそのまま残して利用してもよい。芯材を利用する場合、芯材の表面に粘着剤を付着させて、積層構造体2が芯材からずれないように製造してもよい。あるいは、揚水材130,131の表面全体を被覆する部材を用いるようにしてもよい。
【0057】
ところで、前述した各種揚水材12は、用途に応じて高さを設定すればよい。また、積層構造体2の積層数によっては、極めて薄型もしくは細長の形状となり、自立が困難な場合がある。この場合、立設させるための支持部材が必要になってくるかもしれないが、支持部材の形状や揚水材への取付方法は、揚水材12の用途に応じて適宜決めればよい。
【0058】
<冷却システム>
前述した種々の形状の揚水材12は、様々な用途に適用できるが、本実施の形態では、冷却システムに適用する場合を代表させて説明する。
【0059】
図15は、本実施の形態における冷却システム100の全体構成を示す正面図である。
図16は、
図15に示す冷却システム100の側面図である。本実施の形態における冷却システム100は、通行路等人が行き来する屋外に設置され、夏季において冷却システム100の周囲にいる人を冷却することを目的として設置される。冷却システム100は、複数の揚水材120、貯水槽104、送風機106及び太陽電池パネル108を有している。
【0060】
図16に示すように、複数の揚水材120は、歩道102の歩行者をある程度の時間、冷却し続けることができるように、所定の間隔にて歩道102に沿って立設される。本実施の形態では、複数の揚水材120を歩道102に沿って一列に並べて設置するが、必ずしも一列に整列させる必要はない。例えば、複数の揚水材120を歩道102の片側にジグザグ形に設置したり、歩道102の両側に設置したりするなど複数の列で設置してもよい。揚水材120は、歩道102や周囲の建物等の設置環境や風の流れを参考にして設置すればよい。揚水材120は、
図3~
図14に示す構造あるいは異なる構造の揚水材12を組み合わせて実現できる。揚水材120が独立して立つことができない場合、外枠や基台などを利用して立設させる。円筒形状の揚水材120の場合は、中心に丸棒等を挿着して立たせるようにしてもよい。
【0061】
貯水槽104には、歩行者を冷却するために利用される水が貯められている。各揚水材120は、細孔の入水口が常に貯水槽104に浸水されている状態で設置される。貯水槽104に貯められる水は、雨水を利用することを想定しているが、例えば降水量が少なく細孔の入水口が浸水しない状態となることを防ぐために水道水を適宜利用してもよい。
【0062】
送風機106は、冷却システム100における冷却効果を高めるために、揚水材120に風を当てる。送風機106は、特に無風状態もしくは微風状態のときに有効である。太陽電池パネル108は、屋外に設置されている送風機106に電力を供給する。太陽電池パネル108が生成する電力を揚水材120の水の汲み上げに補助的に利用してもよいが、本実施の形態における揚水材120は、毛管現象を利用して揚水するので、基本的には揚水のために電力を使用しない。
図15では、送風機106と太陽電池パネル108とをそれぞれ1台ずつ示しているが、冷却システム100の大きさに応じて複数台設置してもよい。
【0063】
以下、本実施の形態における冷却システム100の作用について説明する。
【0064】
前述したように、揚水材120の細孔の入水口は、貯水槽104の水に浸水されている状態にある。従って、貯水槽104の水は、毛管現象により細孔の入水口から吸い上げられ、いずれ揚水材120の頂部、すなわち細孔の出水口に達する。細孔の出水口に達した水は、表面張力により揚水材120の頂部に留まるが、日射、外気温あるいは風を受けることによりいずれ蒸発する。このように、貯水槽104の水が蒸発することによって、揚水材120の周囲は、蒸発冷却される。また、揚水材120の頂部の水が蒸発することによって、更に吸水力が向上する。
【0065】
ところで、夏季晴天日の日中においては、外気温に対して、蒸発冷却壁の温度は10℃程度の冷却効果があり、壁面近傍の温度も5℃程度の冷却効果があるとされている。本実施の形態においては、揚水材120の揚水能力が従来に比して高く、地面から2m以上の高さまで水を汲み上げることができる。従って、頭上から歩行者を冷やすことができ、歩行者の冷却効果をより一層向上させることができる。また、所定の間隔を開けて立設されている揚水材120の間を風が通り抜けることによって、揚水材120の側面も蒸発冷却され、側方から歩行者を冷却することができる。
【0066】
また、揚水材120に含まれる細孔の出水口の高さは、全て同じとせずに異なるようにしてもよい。例えば、
図5や
図9,10に示したように、細孔10の高さが異なる揚水材120を用いたり、あるいは高さの異なる揚水材120を組み合わせて設置したりする。これにより、出水口の位置が相対的に高い細孔から蒸発される水によって頭上から、出水口の位置が相対的に低い細孔から蒸発される水によって側方から、周囲にいる人を冷却することができる。
図5,6,11に示す揚水材120を利用する場合、細孔の出水口の高さが相対的に低い方を冷却する側、すなわち歩行者に近い方に向けて設置する。換言すると、冷却する歩行者側に近い細孔の出水口の高さが低くなるよう揚水材120を形成する。このようにして、頭上からだけではなく側方からも歩行者を効果的に冷却することができる。
【0067】
また、
図6や
図11に示したように、揚水材120の頂部を斜めに切断したような形状とすることで、最高の表面積を大きくすることができる。これにより、水の蒸発効果を高めることができるので、冷却効果を更に向上させることができる。また、細孔の出水口を斜めにすることで、揚水材120の頂部に達した水が蒸発するだけでなく、揚水材120の側面に流れ落ちる場合も考えられるが、この場合は、揚水材120の側面からの冷却効果を向上させることができる。
【0068】
そして、前述したように、無風状態もしくは微風状態のときには、太陽電池パネル108の電力を利用して送風機106を駆動させることによって、冷却効果の低下を回避することができる。そのためには、例えば風速計及びコントローラを設け、コントローラは、風速計により測定される風速が所定の閾値に達しないことを検出すると、送風機106を動作させるよう制御してもよい。また、送風機106に細孔の出水口に向けて送風させるようにして、蒸発を促進させるために用いてもよい。
【0069】
本実施の形態における冷却システム100は、歩行者を頭上から冷却できるようにするために、揚水材120の高さを2m以上とした。この「2m」という揚水材120の高さの基準は、細孔の出水口のある揚水材120の頂部を設ける高さを表す値であり、「2m」以上に細孔の出水口を設けることによって多くの歩行者を頭上から冷却することが可能となる。例えば、子供のみが歩行可能な歩道に設置するのであれば、揚水材120の高さを相対的に低くして、2m未満としてもよい。
【0070】
なお、本実施の形態では、歩道に設置する場合を例にして説明するが、設置場所は、歩道に限定することなく、例えばバス停、広場、公園内、駐車場、高速道路のサービスエリア等、暑くなる場所に設置してよい。
【0071】
また、冷却効果を高めるために、歩道102にも冷却機能を持たせてもよい。例えば、歩道102をポーラスコンクリート等、揚水能力又は保水能力のある材質の部材にて形成してもよい。
【0072】
<揚水能力>
本実施の形態における冷却システム100は、貯水槽104の水を地面から2m以上の高さまで吸い上げ、頭上から人を冷却することを可能にするが、そのためには揚水能力を向上させる必要がある。以下、本実施の形態における揚水能力について説明する。
【0073】
図17は、本実施の形態において、接触角毎の細孔半径と毛管現象を利用した場合の水の上昇高さ(「毛管上昇高さ」)との関係を示すグラフ図である。
図17には、ジオポリマー膜6の表面の水に対する接触角30°から80°まで5°間隔で、細孔半径と毛管上昇高さとのシミュレーションの結果を各線a~kで示している。ジオポリマー膜6は、マイクロ波プラズマ処理などの親水加工処理を施すことで、接触角を30°から80°まで調整可能である。
【0074】
ところで、
図17に示すシミュレーションの結果は、以下の式(1)に示す平衡状態での毛管上昇の高さh
eqに基づく。
【数1】
【0075】
但し、γは25℃のときの水の表面張力(72.0mN/m)、θは水と細孔壁との接触角、ρは水の密度(1×103kg/m3)、gは重力加速度(9.8m/s2)、rは細孔半径である。
【0076】
なお、式(1)からは、およその高さは見積もられるが、平衡状態になるのにどのくらいの時間がかかるかはわからない。そこで、以下の式(2)を参照して、時間を考慮した高さhを算出する。
【数2】
【0077】
但し、reffは有効細孔半径、tは時間、ηは水の粘度である。
【0078】
しかしながら、揚水に要する時間が長時間になった場合、式(2)で算出される揚水高さ(上記「毛管上昇高さ」と同義)は、無限大∞になるため、カーブフィットしない。これは、重力の影響が考慮されていないからである。そこで、式(3)を用いることで、揚水高さと到達時間の見積りが可能となる。
【数3】
【0079】
式(3)を用いることで、水の粘度と重力の両方の効果を考慮することができる。
図17に戻り、説明を続ける。
【0080】
ここでは、本実施の形態における揚水材12を、前述した冷却システム100に適用する場合を想定して説明する。つまり、揚水の高さの基準を2mと設定する。また、以下に説明する「細孔半径」というのは、上記計算式に準じるものである。細孔半径は、本実施の形態における細孔10の幅の半分に相当する。
【0081】
図17を参照すると、揚水高さを2m以上にするために、細孔半径の値が6.5μm以下、つまり細孔10の幅を13μm以下にする必要がある。一方、スクリーン印刷で使用するメッシュの作製を考慮すると、細孔半径が1μm以上、つまり、細孔10の幅を2μm以上にする必要がある。
【0082】
このように、揚水高さを2m以上にするために、細孔半径を1μm以上6.5μm以下とする必要があるが、
図18から
図22それぞれには、この細孔半径の範囲の中から細孔半径が5.0,4.0,3.0,2.5,2.0μmの場合における接触角毎の、時間と毛管上昇高さとの関係を代表させて示している。ところで、接触角は、細孔10を形成する壁面(以下、「細孔壁面」)に対する親水加工の程度、つまり親水性の高低に応じて決まってくる。つまり、細孔10の入水口から出水口まで揚水するための積層構造体2の揚水能力は、細孔壁面の親水性と、細孔10の幅と、を調整することで設定することが可能であるが、この接触角で表される親水性と細孔10の幅との関係について、
図18~22を用いて説明する。
【0083】
図18には、細孔半径が5.0μm(つまり、細孔10の幅が10.0μm)の場合の時間と毛管上昇高さとの関係が示されている。細孔半径を5.0μmとすると、揚水高さは、接触角が50°(線c)程度では2mに到達しないため、約45°(線b)以下となるよう細孔壁面を親水加工するのが望ましい。
【0084】
図19には、細孔半径が4.0μm(つまり、細孔10の幅が8.0μm)の場合の時間と毛管上昇高さとの関係が示されている。細孔半径を4.0μmとすると、揚水高さは、接触角が60°(線d)程度では2mに到達しないため、約55°(線c)以下となるよう細孔壁面を親水加工するのが望ましい。
【0085】
図20には、細孔半径が3.0μm(つまり、細孔10の幅が6.0μm)の場合の時間と毛管上昇高さとの関係が示されている。細孔半径を3.0μmとすると、揚水高さは、接触角が70°(線f)程度では2mに到達しないため、約65°(線e)以下となるよう細孔壁面を親水加工するのが望ましい。
【0086】
図21には、細孔半径が2.5μm(つまり、細孔10の幅が5.0μm)の場合の時間と毛管上昇高さとの関係が示されている。細孔半径を2.5μmとすると、揚水高さは、接触角が75°(線d)程度では2mに到達しないため、約70°(線c)以下となるよう細孔壁面を親水加工するのが望ましい。
【0087】
図22には、細孔半径が2.0μm(つまり、細孔10の幅が4.0μm)の場合の時間と毛管上昇高さとの関係が示されている。細孔半径を2.0μmとすると、揚水高さは、接触角が75°(線c)程度では2mに到達しないため、約70°(線b)以下となるよう細孔壁面を親水加工するのが望ましい。
【0088】
以上説明したように、スクリーン印刷の精度を向上させて、より細い細孔10を形成すれば、細孔壁面に対する親水加工の程度を抑えることができる。その逆に、細孔壁面に対する親水性の程度を向上させて接触角がより小さくなるよう親水加工処理すれば、スクリーン印刷の精度を抑えることができる。このように、細孔壁面に対する親水加工とスクリーン印刷の精度、換言すると細孔壁面に対する接触角と細孔10の幅との関係は、トレードオフの関係にある。
【0089】
上記例では、冷却システム100に適用する場合を想定して揚水高さの基準値を2mとしたが、揚水材12の用途に応じて基準値を設定すればよい。そして、
図17を参照し、揚水高さの基準値に応じて、接触角と細孔10の幅とを決めればよい。
【0090】
ところで、揚水高さが2m以上になるには、ある程度の時間を要する。例えば、
図18を参照すると、接触角が45°(線b)の場合に吸い上げた水が2mに達するのは、1.5日以上の時間が必要になる。また、例えば、
図19を参照すると、接触角が55°(線c)の場合に吸い上げた水が2mに達するのは、約2日以上の時間が必要になる。このように、冷却システム100は、設置されてから即座に冷却効果を発揮することができないかもしれない。しかしながら、貯水槽104の水が揚水材120の頂部に達して冷却をいったん開始すると、その後は、毛管現象に伴う揚水能力が継続して発揮されることで、細孔の入水口から吸い上げられた貯水槽104の水は、連続して細孔の出水口に達することになり、歩行者を継続して冷却することが可能となる。
【0091】
上記説明では、揚水材12を冷却システム100に適用する場合を例にして説明したが、これに限る必要はない。例えば、建物の壁に貼り付けて利用して、無電源の冷却システムとして利用してもよい。また、揚水材12を無電源による揚水ポンプや水力発電機、舗装道路への散水冷却機や散水融雪機、また水以外の液体を汲み上げる液体ポンプや汲み上げた液体を利用する発電機等の機械に搭載して利用してもよい。
【0092】
[本願発明の構成]
構成1:
第1層を形成する矩形形状の第1の板状部材と、前記第1の板状部材の一辺から対向する辺に向けて所定の間隔を開けて同一方向に並べて前記第1の板状部材の上に配設され、第2層を形成する複数の棒状部材と、前記複数の棒状部材の上の第3層を形成する矩形形状の第2の板状部材と、が積層されることで形成される積層構造体と、
前記第1の板状部材の表面と前記第2の板状部材の裏面と、前記棒状部材の側面とで形成される細孔と、
を備え、
前記細孔は、前記積層構造体が立設されて設置されているときに下端側を入水口とし、上端側を出水口とする水路として利用され、
毛管現象を利用して前記細孔の入水口から出水口まで揚水する構造を有することを特徴とする揚水構造。
構成2:
前記複数の棒状部材は、前記第1の板状部材の表面に印刷されることで形成されることを特徴とする構成1に記載の揚水構造。
構成3:
前記複数の棒状部材は、ジオポリマー膜で形成されることを特徴とする構成1又は2に記載の揚水構造。
構成4:
前記細孔の面を形成する面は、親水加工されることを特徴とする構成1又は3のいずれか1つに記載の揚水構造。
構成5:
前記細孔の入水口から出水口まで揚水するための前記積層構造体の揚水能力は、前記棒状部材の親水性と、前記所定の間隔により定められる前記細孔の幅と、を調整することで設定されることを特徴とする構成1又は4のいずれか1つに記載の揚水構造。
構成6:
前記積層構造体は、前記第1の板状部材と前記複数の棒状部材との組を複数積層することで形成され、
前記第1の板状部材は、下層に位置する前記第2の板状部材として兼用されることを特徴とする構成1又は5のいずれか1つに記載の揚水構造。
構成7:
前記第1の板状部材及び前記第2の板状部材は、柔軟性を有する薄膜部材で形成され、
前記積層構造体は、巻かれることによって円筒形状に形成される、
ことを特徴とする構成1又は6のいずれか1つに記載の揚水構造。
構成8:
前記積層構造体は、円筒形状の芯材に巻き付けることによって円筒形状に形成されることを特徴とする構成7に記載の揚水構造。
構成9:
構成1から構成8のいずれか1つに記載の揚水構造と、
貯水槽と、
を有し、
前記細孔の入水口から前記細孔の出水口まで吸い上げられた前記貯水槽の水が蒸発することによって前記揚水構造の周囲を冷却することを特徴とする冷却システム。
構成10:
前記揚水構造は、立設されて設置されているときに前記細孔の出水口の高さが異なるよう形成されることを特徴とする構成9に記載の冷却システム。
構成11:
前記細孔は、複数の前記積層構造体を積層させることで多層的に形成され、
出水口の位置が相対的に高い前記細孔から蒸発される水によって頭上から、出水口の位置が相対的に低い前記細孔から蒸発される水によって側方から、周囲にいる人を冷却することを特徴とする構成10に記載の冷却システム。
【符号の説明】
【0093】
2,2a,2b 積層構造体、2c,2d 端面、2e 長辺、2f、2h 一端、2g,2i 他端、4 基板、6 ジオポリマー膜、8 薄膜、10 細孔、12,120~131 揚水材、100 冷却システム、102 歩道、104 貯水槽、106 送風機、108 太陽電池パネル。