(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172746
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 3/12 20060101AFI20241205BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B62D3/12 501B
B62D3/12 503Z
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090673
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒川 祥史
(72)【発明者】
【氏名】今関 太一
【テーマコード(参考)】
3D333
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB21
3D333CC25
3D333CD09
3D333CE16
(57)【要約】
【課題】異音の発生を抑えることのできる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】第1ピニオンギヤ91と噛み合う操舵ラック歯44を有する小径部41と第2ピニオンギヤ92と噛み合うアシストラック歯34を有する大径部31とを有するラックバー30と、小径部41を格納する小径ハウジング部21と大径部31を格納する大径ハウジング部11とを有するラックハウジング10と、大径ハウジング部11に配置されアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に押圧する第2押圧部65と、を備え、アシストラック歯34は、最大幅が大径部31においてアシストラック歯34が形成される部分における最大幅と直交する方向の幅よりも大きくなっており、大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11の中心軸が小径ハウジング部21の中心軸に対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれた位置で小径ハウジング部21に連結される。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ピニオンギヤと噛み合う第1ラック歯を有する小径部と、第2ピニオンギヤと噛み合う第2ラック歯を有し前記小径部よりも直径が大きい大径部とを有するラックバーと、
前記ラックバーの前記小径部を格納する小径貫通孔が形成される小径ハウジング部と、前記ラックバーの前記大径部を格納し内径が前記小径ハウジング部の内径よりも大きい大径貫通孔が形成される大径ハウジング部とを有するラックハウジングと、
前記大径ハウジング部に配置され、前記第2ラック歯を前記第2ピニオンギヤに押圧する第2押圧部と、
を備え、
前記第2ラック歯は、前記ラックバーの長手方向に直交する方向の最大幅が、前記大径部において前記第2ラック歯が形成される部分における前記最大幅と直交する方向の幅よりも大きくなっており、
前記大径ハウジング部は、前記大径ハウジング部における前記大径貫通孔の中心軸が前記小径ハウジング部における前記小径貫通孔の中心軸に対して前記第2ピニオンギヤが位置する側にずれた位置で前記小径ハウジング部に連結される電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記第1ラック歯は、前記小径部を中心軸に沿った方向に見た場合における前記小径部の投影形状の範囲内に形成される請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記大径部は、前記第2ラック歯が配置される部分の背面側における、前記大径部の長手方向に直交する方向の両端部に面取りを有する請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記小径ハウジング部に配置され、前記第1ラック歯を前記第1ピニオンギヤに押圧する第1押圧部を備え、
前記第2押圧部における前記大径ハウジング部の内周面からの突出量は、前記第1押圧部における前記小径ハウジング部の内周面からの突出量と同程度か、またはそれ以下である請求項1または2に記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、ステアリングホイールを操舵した際の回転トルクにより回転するピニオンギヤと、ピニオンギヤと噛み合うラック歯を有するラックバーと、操舵力を補助するアシスト力を発生する電動モータを有している。例えば、特許文献1には、操舵機構の第1ラックアンドピニオン機構と、補助トルク機構の第2ラックアンドピニオン機構とに分離した電動パワーステアリング装置が記載されている。この電動パワーステアリング装置では、ラック軸には、第1ラックアンドピニオン機構の第1ラックと、第2ラックアンドピニオン機構の第2ラックとが設けられており、運転者による操舵トルクは第1ラックアンドピニオン機構を介してラック軸に伝達され、電動機で発生した補助トルクは第2ラックアンドピニオン機構を介してラック軸に伝達される。
【0003】
また、電動パワーステアリング装置では、ラックをピニオンに押し付ける機構が備えられている。例えば、特許文献1に記載された電動パワーステアリング装置は、圧縮ばねの押圧力によってラック軸の第1ラックを第1ピニオンに押し付ける第1ラックガイドと、圧縮ばねの押圧力によってラック軸の第2ラックを第2ピニオンに押し付ける第2ラックガイドとを備えている。また、特許文献2に記載されたステアリング装置では、付勢部材の弾性力によってラックシャフトをピニオンシャフト側へ向けて付勢するラックガイドが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-146171号公報
【特許文献2】特開2017-132438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ラック軸をピニオンに押し付ける場合には、ラック軸を押圧する押圧部材を、ラック軸のハウジングであるラックハウジングの内側でラック軸に当接させることにより、押圧部材からラック軸に対してピニオンが位置する側への押圧力を付与する。このため、例えば、ラックハウジングの内周面とラック軸との距離が大きい場合には、ラックハウジングの内周面からの押圧部材の出代が大きくなった状態で、押圧部材はラック軸に当接し、ラック軸に対して押圧力を付与する。
【0006】
しかしながら、ラックハウジングの内周面からの押圧部材の出代が大きいと、押圧部材は傾き易くなる。つまり、ラックハウジングの内周面からの押圧部材の出代が大きい場合、押圧部材の全体の大きさに対する、押圧部材がラックハウジングによって支持される部分の割合が相対的に小さくなるため、例えば、ラック軸が直動運動をする際に、押圧部材はラック軸の動きにつられて傾き易くなる。押圧部材が傾いた場合、押圧部材からラック軸に対して押圧力を適切に付与し難くなるため、ラック軸をピニオンに押し付ける押圧力が小さくなり、ラック軸とピニオンとの噛み合い部分のバックラッシュが大きくなる。ラック軸とピニオンとの噛み合い部分のバックラッシュが大きくなると、噛み合い部分から異音が発生し易くなる。
【0007】
また、ラック軸に形成されるラック歯は、ラック軸の軸方向に直交する方向に対して斜めに形成されているため、ステアリングホイールを操舵した際には、ラック軸にはラック軸の軸方向の力が作用するのみでなく軸方向に直交する方向の力も作用することにより、ラック軸は軸方向に直交する方向にも平行移動する。このため、ラックハウジングの内周面からの押圧部材の出代が大きい場合には、押圧部材は、ステアリングホイールを操舵した際に軸方向に直交する方向に移動するラック軸の動きにつられて、ラック軸の軸方向に直交する方向にも傾く。また、ステアリングホイールの操舵時にラック軸の軸方向に直交する方向の力は、ステアリングホイールを操舵する方向によって互いに反対方向の力が作用する。従って、操舵の方向の切り替え時には、ラック軸の軸方向への移動方向が切り替わると共に、ラック軸の軸方向に直交する方向へのラック軸の移動方向も切り替わることにより、押圧部材は、ラック軸の軸方向への傾きの方向が切り替わると共に、軸方向に直交する方向への傾きの方向も切り替わる。
【0008】
その際に、押圧部材は、ラック軸に押し付けられながら傾きの方向が切り替わるため、押圧部材とラック軸との接触面においていわゆるスティックリップ現象が発生し、異音が発生することがある。押圧部材が傾きながらラック軸に接触する場合におけるスティックリップ現象は、ラック軸が軸方向に直線運動している間も継続的に発生することがあり、継続的に異音が発生することがある。さらに、押圧部材が傾くと、押圧部材はラックハウジングにおける押圧部材を保持している部分に当接し易くなるため、押圧部材がラックハウジングに当接した際に、衝突音が発生することがある。これらのため、ラック軸を押圧部材によってピニオンに押し付ける構造を有する電動パワーステアリング装置では、押圧部材の傾きに起因して発生し易くなる異音の観点で改善の余地があった。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、異音の発生を抑えることのできる電動パワーステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の電動パワーステアリング装置は、第1ピニオンギヤと噛み合う第1ラック歯を有する小径部と、第2ピニオンギヤと噛み合う第2ラック歯を有し前記小径部よりも直径が大きい大径部とを有するラックバーと、前記ラックバーの前記小径部を格納する小径貫通孔が形成される小径ハウジング部と、前記ラックバーの前記大径部を格納し内径が前記小径ハウジング部の内径よりも大きい大径貫通孔が形成される大径ハウジング部とを有するラックハウジングと、前記大径ハウジング部に配置され、前記第2ラック歯を前記第2ピニオンギヤに押圧する第2押圧部と、を備え、前記第2ラック歯は、前記ラックバーの長手方向に直交する方向の最大幅が、前記大径部において前記第2ラック歯が形成される部分における前記最大幅と直交する方向の幅よりも大きくなっており、前記大径ハウジング部は、前記大径ハウジング部における前記大径貫通孔の中心軸が前記小径ハウジング部における前記小径貫通孔の中心軸に対して前記第2ピニオンギヤが位置する側にずれた位置で前記小径ハウジング部に連結される。
【0011】
この構成によれば、大径ハウジング部は、中心軸がラックバーの大径部の中心軸に対して第2ピニオンギヤが位置する側にずれる状態になるため、ラックバーの大径部に当接する第2押圧部の突出量を小さくすることができる。従って、ラックバーが直線運動をする際に第2押圧部がラックバーに引きずられて傾くことなく、第2押圧部によってラックバーの第2ラック歯を第2ピニオンギヤに向けて押圧することができる。このため、第2ラック歯と第2ピニオンギヤとの噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができ、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第2押圧部が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、ラックハウジングにおける第2押圧部を保持する孔に第2押圧部が衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、異音の発生を抑えることができる。
【0012】
望ましい形態として、前記第1ラック歯は、前記小径部を中心軸に沿った方向に見た場合における前記小径部の投影形状の範囲内に形成される。
【0013】
この構成によれば、ラックバーの第1ラック歯は、小径部の投影形状の範囲内に形成されるため、小径部を格納するラックハウジングの小径ハウジング部の内径を、極力小さくすることができる。これにより、小径ハウジング部に配置され、ラックバーの小径部に当接することにより第1ラック歯を第1ピニオンギヤに押圧する第1押圧部の突出量を小さくすることができる。このため、ラックバーが直線運動をする際に、第1押圧部の押圧部材がラックバーに引きずられて傾くことなく、押圧部材によって、ラックバーの第1ラック歯を第1ピニオンギヤに向けて押圧することができる。従って、第1押圧部からラックバーに対して付与される押圧力によって、第1ラック歯と第1ピニオンギヤとの噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができるため、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第1押圧部の押圧部材が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、ラックハウジングにおける第1押圧部を保持する孔に第1押圧部が衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。
【0014】
望ましい形態として、前記大径部は、前記第2ラック歯が配置される部分の背面側における、前記大径部の長手方向に直交する方向の両端部に面取りを有する。
【0015】
この構成によれば、ラックバーの大径部に面取りが形成されることにより、大径ハウジング部の内周面と大径部との干渉を極力抑えることができる。これにより、ラックハウジングの大径ハウジング部の中心軸を、小径ハウジング部の中心軸に対して第2ピニオンギヤが位置する側にずらす際において、大径ハウジング部の内径を小さくすることができる。このため、大径ハウジング部の内周面からの第2押圧部の突出量を小さくしつつ、大径ハウジング部の内径を小さくすることができる。この結果、第2ラック歯と第2ピニオンギヤとの噛み合い部のバックラッシュに起因する異音の発生や、スティックリップ現象による異音の発生、ラックハウジングにおける第2押圧部を保持する孔に第2押圧部が衝突することによる異音の発生を抑えつつ、ラックハウジングの軽量化を図ることができる。
【0016】
望ましい形態として、前記小径ハウジング部に配置され、前記第1ラック歯を前記第1ピニオンギヤに押圧する第1押圧部を備え、前記第2押圧部における前記大径ハウジング部の内周面からの突出量は、前記第1押圧部における前記小径ハウジング部の内周面からの突出量と同程度か、またはそれ以下である。
【0017】
この構成によれば、第2押圧部における大径ハウジング部の内周面からの突出量は、第1押圧部における小径ハウジング部の内周面からの突出量と同程度か、またはそれ以下であるため、第2押圧部の突出量を適切に小さくすることができる。このため、ラックバーが直線運動をする際に、第2押圧部がラックバーに引きずられて傾くことなく、第2押圧部によって、ラックバーの第2ラック歯を第2ピニオンギヤに向けて適切に押圧することができる。従って、第2押圧部からラックバーに対して付与される押圧力によって、第2ラック歯と第2ピニオンギヤとの噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができるため、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第2押圧部が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、ラックハウジングにおける第2押圧部を保持する孔に第2押圧部が衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、異音の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0018】
本開示に係る電動パワーステアリング装置は、異音の発生を抑えることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、ステアリングギヤ周りの構成を示す説明図である。
【
図6】
図6は、
図3のB-B断面を含むラックバーの斜視図である。
【
図7】
図7は、電動パワーステアリング装置が有するラックハウジングとラックバーの断面図であり、アシストラック歯の断面を含む位置での断面図である。
【
図8】
図8は、電動パワーステアリング装置が有するラックハウジングとラックバーの断面図であり、操舵ラック歯の断面を含む位置での断面図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態におけるラックハウジングが有する大径ハウジング部と小径ハウジング部との相対的な位置関係を示す模式図である。
【
図13】
図13は、ラックハウジングの大径ハウジング部の中心軸と小径ハウジング部の中心軸とが一致して形成される場合の模式図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置が有するラックバーにおけるアシストラック歯形成部の断面図である。
【
図16】
図16は、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置が有するラックバーとラックハウジングの断面図である。
【
図17】
図17は、アシストラック歯形成部の張り出し部に面取りが形成されない場合におけるラックバーとラックハウジングの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0021】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80を説明するための模式図である。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、ステアリングシャフト82と、ユニバーサルジョイント84と、インタミシャフト85と、ユニバーサルジョイント86と、スタブシャフト87と、ステアリングギヤ90と、タイロッド93とを備える。また、電動パワーステアリング装置80は、制御装置(以下、ECU(Electronic Control Unit)という。)100と、トルクセンサ101と、電動モータ102を備える。車速センサ103は、車両に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU100に出力する。
【0022】
ステアリングシャフト82は、一方の端部でステアリングホイール81に連結され、他方の端部でユニバーサルジョイント84に連結される。
【0023】
インタミシャフト85は、一方の端部でユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部でユニバーサルジョイント86に連結される。スタブシャフト87は、一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、他方の端部でトルクセンサ101に連結される。トルクセンサ101は、一方の端部でスタブシャフト87に連結され、他方の端部でステアリングギヤ90が有する第1ピニオンギヤ91に連結されている。
【0024】
図2は、ステアリングギヤ90周りの構成を示す説明図である。第1ピニオンギヤ91は、スタブシャフト87に連結される側の反対側の端部に、ラックバー30と噛み合うギヤ91aが形成される軸状の部材になっており、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とは、トーションバー(図示省略)を介して連結されている。トーションバーは、一端がスタブシャフト87に連結され、他端が第1ピニオンギヤ91に連結され、トーションバーは、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91との間で回転トルクを伝達する。
【0025】
トルクセンサ101は、トルクセンサ101に連結されるシャフトに作用するトルクを検出するトルク検出装置になっており、トーションバーを介してスタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91との間で伝達される回転トルクを検出する。即ち、トーションバーを介して連結されるスタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とは、トルクセンサ101によってトルクを検出する際における検出対象のシャフトになっている。
【0026】
ステアリングギヤ90は、第1ピニオンギヤ91と、ラックバー30と、第2ピニオンギヤ92とを備える。第1ピニオンギヤ91は、トーションバーを介してスタブシャフト87に連結される。ラックバー30は、第1ピニオンギヤ91と噛み合う第1ラック歯である操舵ラック歯44と、第2ピニオンギヤ92と噛み合う第2ラック歯であるアシストラック歯34を有している。操舵ラック歯44は、第1ピニオンギヤ91のギヤ91aに噛み合う。アシストラック歯34は、ラックバー30の長手方向において操舵ラック歯44が配置される位置とは異なる位置に、ラックバー30に配置されている。このため、ラックバー30は、第1ピニオンギヤ91に噛み合う位置とは異なる位置で第2ピニオンギヤ92に噛み合う。
【0027】
第2ピニオンギヤ92には、ウォーム減速装置94を介して、電動モータ102が連結されており、第2ピニオンギヤ92は、電動モータ102から伝達される駆動力により回転される。電動モータ102は、ウォーム減速装置94を介して、第2ピニオンギヤ92を回転させる。電動モータ102は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。
【0028】
ステアリングギヤ90は、第1ピニオンギヤ91や第2ピニオンギヤ92に伝達された回転運動を、ラックハウジング10(
図7参照)の内側に配置されるラックバー30で直進運動に変換する。第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、ラックバー30が第1ピニオンギヤ91や第2ピニオンギヤ92から伝達される回転運動により直進運動を行うデュアルピニオンアシスト方式である。タイロッド93は、ラックバー30に連結される。すなわち、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、ラックアンドピニオン式の電動パワーステアリング装置80である。
【0029】
トルクセンサ101は、ステアリングホイール81を介してステアリングシャフト82に伝達された運転者の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ103は、電動パワーステアリング装置80が搭載される車両の走行速度(車速)を検出する。電動モータ102と、トルクセンサ101と、車速センサ103とがECU100に、電気的に接続される。
【0030】
ECU100は、電動モータ102の動作を制御する。また、ECU100は、トルクセンサ101及び車速センサ103のそれぞれから信号を取得する。すなわち、ECU100は、トルクセンサ101から操舵トルクTを取得し、かつ車速センサ103から車両の車速信号Vを取得する。ECU100は、イグニッションスイッチ104がオンの状態で、電源装置(例えば車載のバッテリ)105から電力が供給される。ECU100は、操舵トルクTと車速信号Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU100は、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ102へ供給する電力値Xを調節する。ECU100は、電動モータ102から誘起電圧の情報又は電動モータ102に設けられたレゾルバ等の回転検出装置から出力される情報を動作情報Yとして取得する。
【0031】
ステアリングホイール81に入力された操作者(運転者)の操舵力は、第1ピニオンギヤ91に伝達される。第1ピニオンギヤ91に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ90を介してタイロッド93に伝達され、車輪を変位させる。
【0032】
また、ステアリングホイール81に入力された操作者の操舵力は、ステアリングホイール81から第1ピニオンギヤ91までの操舵力の伝達経路に配置されるトルクセンサ101に伝わる。このとき、ECU100は、操舵トルクTをトルクセンサ101から取得し、かつ車速信号Vを車速センサ103から取得する。そして、ECU100は、電動モータ102の動作を制御する。電動モータ102が作り出した補助操舵トルクは、第2ピニオンギヤ92に伝達される。
【0033】
第2ピニオンギヤ92に伝達された補助操舵トルクは、ステアリングギヤ90を介してタイロッド93に伝達され、車輪を変位させる。すなわち、電動パワーステアリング装置80は、第1ピニオンギヤ91を介してラックバー30に伝達された操作者の操舵力に加え、第2ピニオンギヤ92を介してラックバー30に伝達された電動モータ102の補助操舵トルクも用いて車輪を変位させる。第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、このように第2ピニオンギヤ92にアシスト力が付与されるデュアルピニオン方式の電動パワーステアリング装置になっている。
【0034】
図3は、
図2に示すラックバー30の平面図である。
図4は、
図3のA-A断面図である。
図5は、
図3のB-B断面図である。ラックバー30は、ラックバー30の長手方向に直交する方向の最大幅が互いに異なる大径部31と小径部41とを有している。大径部31は、ラックバー30の長手方向に直交する方向の最大幅Waが、ラックバー30の長手方向に直交する方向の小径部41の最大幅Wbよりも大きくなっている。これらの大径部31と小径部41とは、ラックバー30の長手方向において互いに連結されている。大径部31と小径部41とは、例えば、摩擦圧接により接合されている。第1実施形態では、大径部31と小径部41とは、ラックバー30の長手方向における長さが同程度の長さになっている。
【0035】
小径部41は、第1ピニオンギヤ91(
図2参照)のギヤ91aに噛み合う操舵ラック歯44を有している。小径部41は、丸棒状の小径丸棒部42に、操舵ラック歯44が形成されている。このため、操舵ラック歯44は、小径部41の中心軸Bbに沿った方向、すなわち、小径丸棒部42の中心軸Bbに沿った方向に小径部41を見た場合における、小径部41の投影形状の範囲内に形成されている。これにより、ラックバー30の長手方向に直交する方向の小径部41の最大幅Wbは、小径丸棒部42の直径になっている。
【0036】
大径部31は、第2ピニオンギヤ92(
図2参照)に噛み合うアシストラック歯34を有している。大径部31が有するアシストラック歯34は、小径部41が有する操舵ラック歯44とは異なる方向を向いて形成されている。大径部31は、小径丸棒部42よりも直径が大きい丸棒状の大径丸棒部32と、アシストラック歯34が形成されるアシストラック歯形成部33とを有している。大径丸棒部32は、ラックバー30の長手方向におけるアシストラック歯形成部33の両側に配置されている。アシストラック歯形成部33は、大径丸棒部32の軸方向に直交する方向における最大幅Waが、アシストラック歯形成部33における最大幅Waと直交する方向の幅Wcよりも大きくなって形成されている。
【0037】
これらのように形成される小径部41と大径部31を有するラックバー30は、タイロッド93(
図7参照)のボールジョイント50(
図7参照)間の中心軸がそれぞれ一致している。つまり、ラックバー30の小径部41と大径部31とは、小径部41の端部に配置されるボールジョイント50の中心軸と、大径部31の端部に配置されるボールジョイント50の中心軸とが、互いに延長線上に位置する位置関係で形成されている。小径部41の端部に配置されるボールジョイント50の中心軸は、小径部41の中心軸Bbになっており、第1実施形態では、小径部41の中心軸Bbは小径丸棒部42の中心軸と一致している。大径部31の端部に配置されるボールジョイント50の中心軸は、大径部31の中心軸Baになっており、第1実施形態では、大径部31の中心軸Baは大径丸棒部32の中心軸と一致している。第1実施形態では、ラックバー30は、小径部41の中心軸Bbと大径部31の中心軸Baとが一致する位置関係で、小径部41の長手方向における端部と大径部31の長手方向における端部とが連結されている。
【0038】
図6は、
図3のB-B断面を含むラックバー30の斜視図である。ラックバー30の大径部31が有するアシストラック歯形成部33は、大径丸棒部32におけるアシストラック歯34が形成される面が、大径丸棒部32の軸方向に直交する方向に潰されることにより形成されている。アシストラック歯形成部33は、このように大径丸棒部32の軸方向に直交する方向に潰されることにより、大径丸棒部32の軸方向に直交する方向における、互いに反対方向に向かって突出する2箇所の張り出し部36を有している。アシストラック歯形成部33の最大幅Wa(
図5参照)は、2箇所の張り出し部36における、互いに他方の張り出し部36が位置する側の反対側の端部同士の間隔になっている。アシストラック歯34は、このように大径丸棒部32が潰されて平面状になった面に形成されており、2箇所の張り出し部36同士の間に亘って形成されている。
【0039】
また、アシストラック歯形成部33は、大径丸棒部32が一方向にのみ潰されるため、アシストラック歯形成部33におけるアシストラック歯34が形成される面の反対側の面は、アシストラック歯形成部33の両側に位置する大径丸棒部32から連続する形状で形成されている。つまり、アシストラック歯形成部33におけるアシストラック歯34が形成される面の反対側の面である背面35は、ラックバー30の長手方向に見た場合における形状が、大径丸棒部32の外周面の曲率半径と実質的に同じ大きさの曲率半径となる、円弧状の形状で形成されている。アシストラック歯形成部33の背面35は、アシストラック歯形成部33におけるアシストラック歯34が形成される側の反対側の面における、2箇所の張り出し部36同士の間に配置されている。
【0040】
さらに、アシストラック歯形成部33が有する2箇所の張り出し部36は、大径丸棒部32が潰されることにより、大径丸棒部32の軸方向に直交する方向における互いに反対方向に向かって突出して形成されている。このため、アシストラック歯形成部33は、2箇所の張り出し部36における、互いに他方の張り出し部36が位置する側の反対側の端部同士の間隔である最大幅Waが、アシストラック歯形成部33における最大幅Waと直交する方向の幅Wcよりも大きくなっている。
【0041】
また、第1実施形態では、アシストラック歯形成部33に形成されるアシストラック歯34は、ラックバー30の長手方向に直交する方向の最大幅Waが、大径部31におけるアシストラック歯34以外の部分に位置する大径丸棒部32の直径よりも大きくなっている。このように形成されるアシストラック歯形成部33の最大幅Waが、大径部31における、ラックバー30の長手方向に直交する方向の最大幅Waになっている。
【0042】
アシストラック歯34は、このように2箇所の張り出し部36が形成されることによって最大幅Waが大径丸棒部32の直径よりも大きいアシストラック歯形成部33に形成されている。これにより、アシストラック歯34は、大径丸棒部32に直接アシストラック歯34を形成する場合と比較して、アシストラック歯34の長さを長くすることができる。また、アシストラック歯34は、このように大径部31が有するアシストラック歯形成部33に形成されるため、歯の長さが、小径部41に形成される操舵ラック歯44の歯の長さよりも長くなっている。
【0043】
図7は、電動パワーステアリング装置80が有するラックハウジング10とラックバー30の断面図であり、アシストラック歯34の断面を含む位置での断面図である。
図8は、電動パワーステアリング装置80が有するラックハウジング10とラックバー30の断面図であり、操舵ラック歯44の断面を含む位置での断面図である。ラックバー30は、ラックハウジング10に格納されている。ラックハウジング10は、小径貫通孔22が形成される小径ハウジング部21と、小径貫通孔22に連通し小径貫通孔22の内径よりも内径が大きい大径貫通孔12が形成される大径ハウジング部11とを有している。大径ハウジング部11と小径ハウジング部21とは、それぞれ略円筒形の形成されており、軸方向において互いに連結して形成されている。大径貫通孔12は、略円筒形の大径ハウジング部11を軸方向に見た場合における形状が、略円形となって大径ハウジング部11を貫通する孔になっている。小径貫通孔22は、略円筒形の小径ハウジング部21を軸方向に見た場合における形状が、略円形となって小径ハウジング部21を貫通する孔になっている。
【0044】
ラックハウジング10の大径貫通孔12の最小径は、ラックバー30の大径部31の最大幅Waよりも大きくなっている。また、ラックハウジング10の小径貫通孔22の最小径は、ラックバー30の小径部41の最大幅Wbよりも大きくなっている。つまり、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の内径は、ラックバー30の大径部31の最大幅Waよりも大きくなっており、ラックハウジング10の小径ハウジング部21の内径は、ラックバー30の小径部41の最大幅Wbよりも大きくなっている。
【0045】
ラックハウジング10は、大径貫通孔12と小径貫通孔22との内部空間に、大径貫通孔12及び小径貫通孔22の軸方向とラックバー30の長手方向とが一致する向きでラックバー30を格納する。また、ラックハウジング10にラックバー30を格納する際におけるラックバー30の向きは、ラックバー30の大径部31側がラックハウジング10の大径ハウジング部11側に位置し、ラックバー30の小径部41側がラックハウジング10の小径ハウジング部21側に位置する向きで格納する。このため、ラックハウジング10の大径ハウジング部11に形成される大径貫通孔12は、ラックバー30の大径部31を主に格納し、ラックハウジング10の小径ハウジング部21に形成される小径貫通孔22は、ラックバー30の小径部41を主に格納する。
【0046】
ラックバー30の小径部41を格納するラックハウジング10の小径貫通孔22は、小径貫通孔22の最小径が、ラックバー30の大径部31の最大幅Waよりも小さくなっている。換言すると、ラックバー30は、大径部31の最大幅Waが、ラックハウジング10の小径貫通孔22の最小径よりも大きくなっている。さらに、ラックハウジング10の小径貫通孔22は、小径貫通孔22の最小径が、ラックバー30の大径部31が有する大径丸棒部32の直径よりも小さくなっている。
【0047】
ラックハウジング10の大径ハウジング部11には、小径ハウジング部21が位置する側の反対側の端部に、ボールジョイント収容部15が形成されている。大径ハウジング部11に形成されるボールジョイント収容部15は、内径が大径貫通孔12の内径より大きくなっている。このように大径ハウジング部11に形成されるボールジョイント収容部15は、大径ハウジング部11における大径貫通孔12が形成される部分よりも、小径ハウジング部21が位置する側の反対側に突出して形成されている。
【0048】
同様に、ラックハウジング10の小径ハウジング部21には、大径ハウジング部11が位置する側の反対側の端部に、ボールジョイント収容部25が形成されている。小径ハウジング部21に形成されるボールジョイント収容部25は、内径が小径貫通孔22の内径より大きくなっている。このように小径ハウジング部21に形成されるボールジョイント収容部25は、小径ハウジング部21における小径貫通孔22が形成される部分よりも、大径ハウジング部11が位置する側の反対側に突出して形成されている。
【0049】
ラックハウジング10に格納されるラックバー30の両端には、それぞれ配置されるボールジョイント50が配置されている。ボールジョイント50は、ラックバー30長手方向における両側の端部に形成されるねじ孔に螺合することにより、ラックバー30に取り付けられている。
【0050】
ラックバー30の両端に配置されるボールジョイント50は、ラックバー30に取り付けられる側の部分の反対側に、それぞれジョイント部51を有している。ボールジョイント50のジョイント部51は、ラックバー30に連結される側の反対側の部分が凹部状に形成されており、ジョイント部51には、凹部状の部分にタイロッド93の端部が入り込むことが可能になっている。これにより、ボールジョイント50には、タイロッド93が連結することが可能になっており、ラックバー30には、ボールジョイント50を介してタイロッド93が連結される。
【0051】
また、ラックハウジング10の大径ハウジング部11には、ウォーム減速装置94のギヤボックス17が設けられている。ギヤボックス17内には、第2ピニオンギヤ92や、電動モータ102で発生した駆動力を第2ピニオンギヤ92に伝達するウォームホイール95等が配置されている。第2ピニオンギヤ92は、ラックバー30の大径部31のアシストラック歯形成部33に形成されるアシストラック歯34に噛み合って配置されている。これにより、第2ピニオンギヤ92は、電動モータ102で発生してウォームホイール95を介して伝達された駆動力を、アシストラック歯34に伝達することができ、電動モータ102で発生した駆動力を、ラックバー30に伝達することができる。
【0052】
図9は、
図8のC部詳細図である。ラックハウジング10は、小径ハウジング部21側で、ラックバー30の小径部41に形成される操舵ラック歯44に第1ピニオンギヤ91を噛み合わせて支持している。ラックハウジング10の小径ハウジング部21には、操舵ラック歯44を第1ピニオンギヤ91に押圧する第1押圧部60が配置されている。小径ハウジング部21には、ラックバー30の操舵ラック歯44が形成される側の反対側の位置に小径ハウジング部21の内側と外側とを貫通する貫通孔26が形成されており、第1押圧部60は、小径ハウジング部21に形成される貫通孔26に配置されている。
【0053】
第1押圧部60は、押圧部材61と、バネ62と、封止部材63とを有しており、第1押圧部60が有する押圧部材61と、バネ62と、封止部材63とは、小径ハウジング部21に形成される貫通孔26に収容されている。押圧部材61は、一部が小径ハウジング部21の貫通孔26から露出し、小径ハウジング部21の内周面23から突出している。小径ハウジング部21の内周面23から突出する押圧部材61は、小径ハウジング部21の内側で、ラックバー30における第1ピニオンギヤ91が位置する側の反対側から、ラックバー30に当接している。封止部材63は、貫通孔26の開口部に配置されて開口部を封止している。
【0054】
バネ62は、圧縮バネからなり、封止部材63と押圧部材61との間で押し縮められた状態で封止部材63と押圧部材61との間に配置されている。このため、押圧部材61は、バネ62からの付勢力によりラックバー30に押し付けられており、ラックバー30の小径部41は、押圧部材61からの付勢力により、操舵ラック歯44が形成される面が、第1ピニオンギヤ91のギヤ91aに押し付けられている。これにより、ラックバー30は、操舵ラック歯44が第1ピニオンギヤ91のギヤ91aに対して噛み合う状態が維持される。
【0055】
図10は、
図7のD部詳細図である。ラックハウジング10は、大径ハウジング部11側で、ラックバー30の大径部31に形成されるアシストラック歯34に第2ピニオンギヤ92を噛み合わせて支持している。ラックハウジング10の大径ハウジング部11には、アシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に押圧する第2押圧部65が配置されている。大径ハウジング部11には、ラックバー30のアシストラック歯34が形成される側の反対側の位置に大径ハウジング部11の内側と外側とを貫通する貫通孔16が形成されており、第2押圧部65は、大径ハウジング部11に形成される貫通孔16に配置されている。
【0056】
第2押圧部65は、押圧部材66と、バネ67と、封止部材68とを有しており、第2押圧部65が有する押圧部材66と、バネ67と、封止部材68とは、大径ハウジング部11に形成される貫通孔16に収容されている。押圧部材66は、一部が大径ハウジング部11の貫通孔16から露出し、大径ハウジング部11の内周面13から突出している。大径ハウジング部11の内周面13から突出する押圧部材66は、大径ハウジング部11の内側で、ラックバー30における第2ピニオンギヤ92が位置する側の反対側から、ラックバー30に当接している。具体的には、押圧部材66は、ラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35に当接している。封止部材68は、貫通孔16の開口部に配置されて開口部を封止している。
【0057】
バネ67は、圧縮バネからなり、封止部材68と押圧部材66との間で押し縮められた状態で封止部材68と押圧部材66との間に配置されている。このため、押圧部材66は、バネ67からの付勢力によりラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35に押し付けられている。ラックバー30の大径部31は、押圧部材66からの付勢力により、アシストラック歯形成部33におけるアシストラック歯34が形成される面が、第2ピニオンギヤ92に押し付けられている。これにより、ラックバー30は、アシストラック歯34が第2ピニオンギヤ92に対して噛み合う状態が維持される。
【0058】
図11は、第1実施形態におけるラックハウジング10が有する大径ハウジング部11と小径ハウジング部21との相対的な位置関係を示す模式図である。
図12は、
図11のE-E矢視図である。なお、第1実施形態では、第1ピニオンギヤ91と第2ピニオンギヤ92は、ラックバー30の中心軸を中心とする周方向において互いに異なる位置に配置されているが、
図11では、第1ピニオンギヤ91と第2ピニオンギヤ92や、第1押圧部60と第2押圧部65は、便宜上同じ平面上に図示している。
【0059】
ラックハウジング10が有する大径ハウジング部11と小径ハウジング部21とは、大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとがずれた位置関係となって配置されている。この場合における大径ハウジング部11の中心軸Haは、略円形の孔となって大径ハウジング部11を貫通する大径貫通孔12における円の中心軸になっており、小径ハウジング部21の中心軸Hbは、略円形の孔となって小径ハウジング部21を貫通する小径貫通孔22における円の中心軸になっている。具体的には、大径ハウジング部11の中心軸Haは、大径貫通孔12における、ラックバー30の大径部31が有するアシストラック歯形成部33を格納する位置での中心軸になっている。また、小径ハウジング部21の中心軸Hbは、小径貫通孔22における、ラックバー30の小径部41に形成される操舵ラック歯44が位置する部分を格納する位置での中心軸になっている。ラックハウジング10が有する大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれた位置で小径ハウジング部21に連結されている。
【0060】
このように、大径ハウジング部11と小径ハウジング部21とが互いにずれて連結されるラックハウジング10に格納されるラックバー30は、ラックバー30の小径部41の中心軸Bbが、ラックハウジング10の小径ハウジング部21の中心軸Hbと一致する位置に配置される。このため、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して中心軸Haがずれた位置に配置される大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11で格納するラックバー30の大径部31の中心軸Baに対して、大径ハウジング部11の中心軸Haがずれた位置となって小径ハウジング部21に連結される。換言すると、大径ハウジング部11は、内側にラックバー30の大径部31を格納する状態では、大径部31の中心軸Baが、大径ハウジング部11の中心軸Haに対して偏心する位置に大径部31を格納する。
【0061】
大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対してずれる方向は、第2ピニオンギヤ92が位置する側であるため、ラックバー30の大径部31の中心軸Baに対して大径ハウジング部11の中心軸Haがずれる方向は、第2ピニオンギヤ92が位置する側となる。即ち、大径ハウジング部11の中心軸Haに対して偏心した位置で大径ハウジング部11に格納されるラックバー30の大径部31は、大径部31に対して第2ピニオンギヤ92が位置する側の反対側に偏心する状態で大径ハウジング部11の内側に格納される。これにより、大径ハウジング部11に格納されるラックバー30の大径部31は、大径部31におけるアシストラック歯34側部分よりも、アシストラック歯34側の反対側の面である背面35側の方が、大径ハウジング部11の内周面13からの距離が小さくなって格納される。
【0062】
ここで、ラックハウジング10の小径ハウジング部21には、ラックバー30を押圧することにより、ラックバー30が有する操舵ラック歯44を第1ピニオンギヤ91に押圧する第1押圧部60が配置されている。また、ラックハウジング10の大径ハウジング部11には、ラックバー30を押圧することにより、ラックバー30が有するアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に押圧する第2押圧部65が配置されている。
【0063】
これらの第1押圧部60や第2押圧部65は、小径ハウジング部21の内周面23や大径ハウジング部11の内周面13からラックハウジング10の内側に突出することにより、ラックハウジング10に格納されるラックバー30に接触してラックバー30を押圧する。つまり、第1押圧部60は、押圧部材61が小径ハウジング部21の内周面23からラックハウジング10の内側に突出し、第2押圧部65は、押圧部材66が大径ハウジング部11の内周面13からラックハウジング10の内側に突出することにより、それぞれラックバー30を押圧する。
【0064】
その際に、ラックハウジング10の小径ハウジング部21の内径は、ラックバー30の小径部41の最大幅Wbよりも大きくなっているが、ラックバー30の小径部41の最大幅Wb(
図3参照)は、ラックバー30の小径丸棒部42(
図3参照)の直径になっている。このため、小径ハウジング部21に格納されるラックバー30の小径部41と小径ハウジング部21の内周面23との距離は、小径ハウジング部21の中心軸Hbを中心とする周方向のいずれの位置においても同程度の大きさになっている。このため、ラックハウジング10の小径ハウジング部21の内径と、ラックバー30の小径丸棒部42の直径との差を小さくすることにより、小径ハウジング部21の内周面23から突出してラックバー30に接触する第1押圧部60の、小径ハウジング部21の内周面23からの突出量Pbを小さくすることができる。
【0065】
これに対し、ラックハウジング10の大径ハウジング部11に格納されるラックバー30の大径部31の最大幅Wa(
図5参照)は、アシストラック歯形成部33(
図5、
図6参照)の位置での最大幅Waになっており、アシストラック歯形成部33は、大径部31の大径丸棒部32(
図6参照)が潰されて2箇所の張り出し部36を有する形状で形成されている。このため、内径がラックバー30の大径部31の最大幅Waより大きくなっているラックハウジング10の大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11の内周面13とラックバー30の大径部31との距離が、大径ハウジング部11の中心軸Haを中心とする周方向における位置によって異なることになる。
【0066】
図13は、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとが一致して形成される場合の模式図である。
図14は、
図13のF-F矢視図である。例えば、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとが一致する場合、大径ハウジング部11の中心軸Haは、大径ハウジング部11に格納されるラックバー30の大径部31の中心軸Baとも一致する。この場合、内径がラックバー30の大径部31の最大幅Waより大きくなって形成される大径ハウジング部11の内周面13とラックバー30との距離は、大径部31のアシストラック歯形成部33における、最大幅Waの方向に沿った方向の距離が最も小さくなる。即ち、大径ハウジング部11の内周面13とラックバー30との距離は、大径ハウジング部11の内周面13と、アシストラック歯形成部33の張り出し部36との距離が最も小さくなる。
【0067】
一方で、大径ハウジング部11の内周面13とラックバー30との距離は、ラックバー30の大径部31の中心軸Baを中心とする周方向における、アシストラック歯形成部33の最大幅Waの方向に沿った方向とは異なる方向では、最大幅Waの方向に沿った方向よりも大きくなる。即ち、大径ハウジング部11の内周面13とラックバー30との距離は、アシストラック歯形成部33における最大幅Waの方向に沿った方向よりも、アシストラック歯形成部33における最大幅Waと直交する幅Wc(
図5参照)の方向に沿った方向の方が大きくなる。このため、ラックハウジング10における大径ハウジング部11の内周面13と、ラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35との距離は、大径ハウジング部11の内周面13とアシストラック歯形成部33の張り出し部36との距離より大きくなる。
【0068】
従って、大径ハウジング部11の内周面13から突出してラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35に接触する第2押圧部65の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pcは、
図13に示すように、小径ハウジング部21の内周面23からの第1押圧部60の突出量Pbよりも大きくなる。例えば、第1押圧部60の突出量Pbが2.5mmである場合は、第2押圧部65の突出量Pcは4~5mm程度になる。
【0069】
これに対し、第1実施形態では、
図11、
図12に示すように、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11の中心軸Haが小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して、第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれた位置に配置されている。このため、ラックハウジング10における大径ハウジング部11の内周面13と、ラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35との距離は、
図13、
図14に示すような、大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとが一致する場合よりも小さくなる。
【0070】
これにより、ラックハウジング10における大径ハウジング部11の内周面13から突出してラックバー30の大径部31の背面35に接触する第2押圧部65の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paは、
図13、
図14に示すような、大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとが一致する場合よりも小さくなる。つまり、第1実施形態における第2押圧部65が有する押圧部材66の、ラックハウジング10における大径ハウジング部11の内周面13から突出量Paは、
図13、
図14に示すような、大径ハウジング部11の中心軸Haと小径ハウジング部21の中心軸Hbとが一致する場合よりも小さくなる。
【0071】
第1実施形態では、
図11に示すように、第2押圧部65が有する押圧部材66の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paは、第1押圧部60が有する押圧部材61の、小径ハウジング部21の内周面23からの突出量Pbと同程度か、またはそれ以下の大きさになっている。例えば、第1押圧部60が有する押圧部材61の突出量Pbが2.5mmである場合は、第2押圧部65が有する押圧部材66の突出量Paは2.5mmであるのが好ましく、より好ましくは、突出量Paは1mm程度であるのが理想である。
【0072】
なお、これらの場合における第1押圧部60の突出量Pbは、第1押圧部60が有する押圧部材61の、小径ハウジング部21の内周面23からの突出量Pbになっており、第2押圧部65の突出量Pa、Pcは、第2押圧部65が有する押圧部材66の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pa、Pcになっている。
【0073】
次に、電動パワーステアリング装置80の作用について説明する。電動パワーステアリング装置80が搭載される車両の運転時に、ステアリングホイール81が操作をされた場合は、ステアリングホイール81に付与された操舵力は、ステアリングホイール81からステアリングシャフト82に伝えられる。ステアリングシャフト82に伝えられた操舵力は、操舵トルクとしてステアリングシャフト82からインタミシャフト85に伝達され、インタミシャフト85からスタブシャフト87を経て第1ピニオンギヤ91に伝達される。これにより、第1ピニオンギヤ91を有するステアリングギヤ90は、第1ピニオンギヤ91から伝達された回転運動を、ラックバー30の直線運動に変換し、タイロッド93を動作させる。
【0074】
また、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80は、運転者の操舵をアシストする補助操舵トルクを発生させる電動モータ102を有している。電動モータ102は、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91と間に亘って配置されるトルクセンサ101により検出した操舵トルクに基づいて補助操舵トルクを発生する。
【0075】
トルクセンサ101は、スタブシャフト87に付与された操舵トルクを、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とが相対回転した際における相対回転の角度に基づいて検出する。即ち、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とは、トーションバー(図示省略)を介して連結されているため、スタブシャフト87に操舵トルクが付与された際には、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91との間では、トーションバーを介して操舵トルクが伝達される。その際に、トーションバーが僅かに捩じれることにより、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とは、相対回転をする。トルクセンサ101は、トーションバーが僅かに捩じれることによるスタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91との相対回転を検出し、電気信号としてECU100に伝達する。
【0076】
ECU100は、トルクセンサ101から伝達された電気信号に基づいて電動モータ102を作動させ、電動モータ102に補助操舵トルクを発生させる。つまり、トルクセンサ101からECU100に伝達された電気信号は、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91との間で作用する操舵トルクTに基づいて変化する。このため、ECU100は、トルクセンサ101から伝達された電気信号を、スタブシャフト87及び第1ピニオンギヤ91に作用する操舵トルクTによって変化する情報として使用し、トルクセンサ101から伝達される電気信号に基づいて電動モータ102へ供給する電力値Xを調節し、電動モータ102に補助操舵トルクを発生させる。
【0077】
即ち、ECU100は、トルクセンサ101から操舵トルクTの信号を取得し、車速センサ103から車両の車速信号Vを取得し、さらに、電動モータ102に設けられた回転検出装置から電動モータ102の動作情報Yを取得し、これらの動作情報Yと操舵トルクTと車速信号Vとに基づいて電動モータ102に補助操舵トルクを発生させる。電動モータ102で発生した補助操舵トルクは、第2ピニオンギヤ92に伝達される。第2ピニオンギヤ92を有するステアリングギヤ90は、第2ピニオンギヤ92から伝達された回転運動を、ラックバー30の直線運動に変換する。これにより、運転者がステアリングホイール81に付与した操舵力は、電動モータ102で発生した補助操舵トルクによりアシストされる。
【0078】
詳しくは、運転者がステアリングホイール81を操舵した際には、スタブシャフト87と第1ピニオンギヤ91とは、操舵力が伝達されることにより回転をする。第1ピニオンギヤ91が回転をした場合、第1ピニオンギヤ91の操舵トルクは、第1ピニオンギヤ91から、第1ピニオンギヤ91に噛み合うラックバー30の操舵ラック歯44に伝達される。これにより、ラックバー30は、ラックハウジング10によって支持されながら軸方向に直線運動をする。
【0079】
また、電動モータ102で発生した駆動力は、ウォーム減速装置94を介して第2ピニオンギヤ92に伝達され、第2ピニオンギヤ92は電動モータ102で発生した駆動力により回転をする。第2ピニオンギヤ92が回転をした場合、第2ピニオンギヤ92の補助操舵トルクは、第2ピニオンギヤ92から、第2ピニオンギヤ92に噛み合うラックバー30のアシストラック歯34に伝達される。これにより、ラックバー30は、第1ピニオンギヤ91からの操舵トルクによる直線運動が、第2ピニオンギヤ92からの補助操舵トルクによってアシストされながら直線運動をする。
【0080】
ラックバー30の直線運動は、ラックバー30の両端に配置されるボールジョイント50から、ボールジョイント50の連結されるタイロッド93に伝達され、車輪は、タイロッド93の動きに伴い向きが変えられる。
【0081】
ラックバー30は、車輪の向きを変える際に、これらのように運転者がステアリングホイール81を操舵することにより直線運動をするが、ステアリングホイール81を操舵した際における操舵力や、電動モータ102で発生した駆動力は、第1ピニオンギヤ91や第2ピニオンギヤ92によってラックバー30に伝えられる。第1ピニオンギヤ91や第2ピニオンギヤ92を介してこれらの力が伝えられるラックバー30は、第1押圧部60によって操舵ラック歯44が第1ピニオンギヤ91に押圧され、第2押圧部65によってアシストラック歯34が第2ピニオンギヤ92に押圧されている。
【0082】
操舵ラック歯44と第1ピニオンギヤ91との噛み合い部や、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部は、これらのように第1押圧部60や第2押圧部65からラックバー30に対して付与される押圧力により、バックラッシュを極力小さくなった状態で噛み合う。これにより、操舵ラック歯44と第1ピニオンギヤ91との噛み合い部や、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部では、それぞれの噛み合い部のバックラッシュに起因する、動作時における異音の発生が抑制される。
【0083】
ここで、第2押圧部65が配置されるラックハウジング10の大径ハウジング部11は、小径ハウジング部21よりも内径が大きくなっている。大径ハウジング部11の内径は、ラックバー30の大径部31の最大幅Waに合わせて設定された大きさになっている。
【0084】
一方、ラックバー20に対してアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に押圧する方向の押圧力を付与する第2押圧部65は、ラックバー20の大径部31における背面35に当接して背面35を押圧する。ラックバー20の大径部31の背面35は、ラックバー20の大径部31の中心軸Baからの距離が、大径部31における最大幅Waとなる部分における最大幅Waの方向に沿った方向の、大径部31の中心軸Baからの距離よりも小さくなっている。このため、
図13に示すように、ラックハウジング10の大径ハウジング部11に格納されるラックバー20の大径部31の中心軸Baと、大径ハウジング部11の中心軸Haとが一致する場合、大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35に接触する第2押圧部65は、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pcが大きくなり易くなる。
【0085】
従って、大径ハウジング部11の内周面13から突出してラックバー30の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35に接触する第2押圧部65の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pcは、
図13に示すように、小径ハウジング部21の内周面23からの第1押圧部60の突出量Pbよりも大きくなり易くなる。即ち、ラックバー20の大径部31の中心軸Baと、大径ハウジング部11の中心軸Haとが一致する場合は、第2押圧部65が有する押圧部材66(
図10参照)の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pcが大きくなり易くなる。
【0086】
第2押圧部65が有する押圧部材66の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Pcが大きい場合、押圧部材66は、大径ハウジング部11の貫通孔16(
図10参照)に入り込んでいる部分が少なくなるため、貫通孔16により支持される部分が少なくなる。このように押圧部材66の突出量Pcが大きく、押圧部材66における貫通孔16によって支持される部分が少ない場合、押圧部材66は、押圧部材66が当接するラックバー30が直線運動をした際にラックバー30に引きずられて傾く虞がある(例えば、特許文献2の
図7参照)。
【0087】
押圧部材66が傾いた場合、押圧部材66は、ラックバー30の大径部31を適切に押圧し難くなり、ラックバー30のアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に押圧し難くなる。この場合、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュを第2押圧部65によって小さくし難くなるため、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュに起因する、動作時における異音の発生を抑制し難くなる。
【0088】
また、アシストラック歯34は、ラックバー30の大径部31の中心軸Baに直交する方向に対して斜めに形成されているため、第2ピニオンギヤ92からの補助操舵トルクによってアシストされながらラックバー30が直線運動をする際には、ラックバー30は中心軸Baに直交する方向にも移動する。ラックバー30の直線運動や、中心軸Baに直交する方向へのラックバー30の移動は、操舵の方向が切り替わる際にこれらの方向も切り替わるが、押圧部材66が傾いてラックバー30に当接している場合、押圧部材66の傾きの方向も切り替わることになる。その際に、押圧部材66は、ラックバー30に押し付けられながら傾きの方向が切り替わるため、押圧部材66とラックバー30との接触面においていわゆるスティックリップ現象が発生し、異音が発生することがある。押圧部材66が傾きながらラックバー30に接触する場合におけるスティックリップ現象は、ラックバー30が直線運動している間も継続的に発生することがあり、継続的に異音が発生することがある。
【0089】
さらに、第2押圧部65の押圧部材66が傾くと、押圧部材66はラックハウジング10における押圧部材66を保持している貫通孔16に当接し易くなるため、押圧部材66がラックハウジング10の貫通孔16に当接した際に、衝突音が発生することがある。第2押圧部65が有する押圧部材66の突出量Pcが大きいことにより押圧部材66が傾く場合、これらのように様々な要因で異音が発生し易くなる。
【0090】
これに対し、第1実施形態では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれた位置で小径ハウジング部21に連結されている(
図11参照)。このため、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haは、大径ハウジング部11に格納されるラックバー20の大径部31の中心軸Baに対して、第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれている。
【0091】
これにより、ラックバー20の大径部31におけるアシストラック歯形成部33の背面35は、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の内周面13からの距離が小さくなり、ラックバー20の大径部31における背面35に接触する第2押圧部65は、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paが小さくなる。
【0092】
つまり、第2押圧部65は、第2押圧部65が有する押圧部材66(
図10参照)の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paが小さくなり、押圧部材66は、大径ハウジング部11の貫通孔16により支持される部分が多くなる。従って、第2押圧部65の押圧部材66は、押圧部材66が当接するラックバー30が直線運動をした場合でも、ラックバー30に引きずられ難くなるため傾き難くなり、押圧部材66は、ラックバー30の大径部31を適切に押圧することができる。
【0093】
これにより、第2押圧部65の押圧部材66は、ラックバー30のアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に対して押圧することができ、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュを、第2押圧部65によって小さくすることができる。このため、ラックハウジング10の大径ハウジング部11に配置される第2押圧部65は、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュに起因する異音の発生を抑制することができる。
【0094】
また、第2押圧部65の押圧部材66が傾き難くなるため、押圧部材66とラックバー30との接触面でのスティックリップ現象の発生を抑制することができる。さらに、第2押圧部65の押圧部材66が傾き難くなるため、押圧部材66はラックハウジング10における押圧部材66を保持している貫通孔16に当接し難くなり、ラックハウジング10の貫通孔16に押圧部材66が当接することに起因する衝突音の発生を抑制することができる。
【0095】
これらにより、電動パワーステアリング装置80を用いて車輪の向きを変える際には、ラックバー30が有するアシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュに起因する異音や、スティックリップ現象による異音、押圧部材66がラックハウジング10の貫通孔16に衝突することによる異音の発生を抑えつつ、車輪の向きを変えることができる。
【0096】
以上のように、第1実施形態に係る電動パワーステアリング装置80では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、中心軸Haが小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれる位置で小径ハウジング部21に連結されている。これにより、大径ハウジング部11は、中心軸Haがラックバー20の大径部31の中心軸Baに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれる状態になるため、ラックバー20の大径部31における背面35に当接する第2押圧部65の突出量Paを小さくすることができる。従って、ラックバー30が直線運動をする際に第2押圧部65の押圧部材66がラックバー30に引きずられて傾くことなく、押圧部材66によってラックバー30のアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に向けて押圧することができる。このため、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができ、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第2押圧部65の押圧部材66が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、押圧部材66がラックハウジング10の貫通孔16に衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、異音の発生を抑えることができる。
【0097】
また、ラックハウジング10は、大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれる位置で小径ハウジング部21に連結されているため、第2ピニオンギヤ92におけるより多くの部分を、大径ハウジング部11の内側に位置させることができる。これにより、ラックハウジング10において、第2ピニオンギヤ92を格納するために大径ハウジング部11を円筒形の形状から第2ピニオンギヤ92に合わせて変形させる部分を、小さくすることができる。
【0098】
つまり、ラックハウジング10における大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbと一致する場合は、
図13示すように、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は第2ピニオンギヤ92を格納する部分を確保するために、円筒形の形状から第2ピニオンギヤ92に合わせて変形させる部分を大きくする必要がある。この場合、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、円筒形からの変形量が大きくなるため、ラックハウジング10の強度が低下したり、重さが重くなったりすることが考えられる。
【0099】
これに対し、第1実施形態では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haが、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずれている。このため、第1実施形態では
図11に示すように、大径ハウジング部11で第2ピニオンギヤ92を格納する部分を確保するために円筒形の形状から第2ピニオンギヤ92に合わせて変形させる部分の大きさを、
図13示す形態と比較して小さくすることができる。これにより、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、円筒形からの変形量が小さくなるため、ラックハウジング10の強度が低下したり、重さが重くなったりすることを抑制することができる。この結果、ラックハウジング10の強度を確保し、軽量化を図ることができる。
【0100】
また、ラックバー30が有する操舵ラック歯44は、小径部41を中心軸Bbに沿った方向に見た場合における小径部41の投影形状の範囲内に形成されるため、小径部41を格納するラックハウジング10の小径ハウジング部21の内径を、極力小さくすることができる。これにより、ラックバー20の小径部41に当接する第1押圧部60の突出量Pbを小さくすることができる。このため、ラックバー30が直線運動をする際に、第1押圧部60の押圧部材61がラックバー30に引きずられて傾くことなく、押圧部材61によって、ラックバー30の操舵ラック歯44を第1ピニオンギヤ91に向けて押圧することができる。従って、第1押圧部60の押圧部材61からラックバー30に対して付与される押圧力によって、操舵ラック歯44と第1ピニオンギヤ91との噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができるため、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第1押圧部60の押圧部材61が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、押圧部材61がラックハウジング10の貫通孔26に衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、異音の発生を抑えることができる。
【0101】
また、第2押圧部65における大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paは、第1押圧部60における小径ハウジング部21の内周面23からの突出量Pbと同程度かまたはそれ以下の大きさであるため、第2押圧部65が有する押圧部材66の突出量Paを適切に小さくすることができる。このため、ラックバー30が直線運動をする際に、第2押圧部65の押圧部材66がラックバー30に引きずられて傾くことなく、押圧部材66によって、ラックバー30のアシストラック歯34を第2ピニオンギヤ92に向けて適切に押圧することができる。従って、第2押圧部65の押圧部材66からラックバー30に対して付与される押圧力によって、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュを小さくすることができるため、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。また、第2押圧部65の押圧部材66が傾くことを抑制できるため、スティックリップ現象による異音の発生や、押圧部材66がラックハウジング10の貫通孔16に衝突することによる異音の発生を抑えることができる。これらの結果、バックラッシュに起因する異音の発生を抑えることができる。
【0102】
[第2実施形態]
次いで、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置80について説明する。第1実施形態と同一の構成部位には、同一符号を付けて説明を省略する。以下、第1実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0103】
図15は、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置80が有するラックバー30におけるアシストラック歯形成部33の断面図である。なお、
図15は、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置80が有するラックバー30における、
図3のB-B断面と同じ位置での断面図になっている。第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置80では、ラックバー30が有する大径部31は、アシストラック歯34が配置される部分の背面35側における、大径部31の長手方向に直交する方向の両端部に、面取り38を有している。
【0104】
面取り38は、ラックバー30の大径部31のアシストラック歯形成部33が有する2箇所の張り出し部36における、互いに他方の張り出し部36が位置する側の端部付近で、アシストラック歯形成部33の背面35が位置する側にそれぞれ形成されている。面取り38は、ラックバー30の長手方向におけるアシストラック歯形成部33の全域に亘って形成されている。
【0105】
図16は、第2実施形態に係る電動パワーステアリング装置80が有するラックバー30とラックハウジング10の断面図である。
図17は、アシストラック歯形成部33の張り出し部36に面取り38が形成されない場合におけるラックバー30とラックハウジング10の断面図である。第2実施形態では、ラックバー30の大径部31のアシストラック歯形成部33が有する張り出し部36には、面取り38が形成されている。アシストラック歯形成部33の張り出し部36は、ラックバー30の大径部31において、当該大径部31を格納するラックハウジング10の大径ハウジング部11の内周面13との距離が最も小さくなる部分になっている。このため、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の内径は、ラックバー30のアシストラック歯形成部33が有する張り出し部36との距離に基づいて設定される。
【0106】
第2実施形態では、ラックバー30のアシストラック歯形成部33が有する張り出し部36には、面取り38が形成されている。このため、ラックハウジング10の大径ハウジング部11は、大径ハウジング部11で格納するラックバー30の大径部31と、大径ハウジング部11の内周面13との距離を確保し易くなっている。つまり、第2実施形態では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の内径を小さくしても、大径ハウジング部11の内周面13がラックバー30の大径部31に対して当接し難くなっている。
【0107】
これにより、第2実施形態では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の内径R2(
図16参照)が、第1実施形態のようにラックバー30のアシストラック歯形成部33が有する張り出し部36に面取り38が形成されない場合におけるラックハウジング10の大径ハウジング部11の内径R1(
図17参照)と比較して、小さくなっている。つまり、第1実施形態のようにアシストラック歯形成部33の張り出し部36に面取り38が形成されない場合は、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haを、小径ハウジング部21(
図11参照)の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずらす際に、大径ハウジング部11の内周面13とアシストラック歯形成部33の張り出し部36との干渉を回避するために、大径ハウジング部11の内径R1を大きくする必要がある。
【0108】
これに対し、第2実施形態では、アシストラック歯形成部33の張り出し部36に面取り38が形成されることにより、大径ハウジング部11の内周面13とアシストラック歯形成部33の張り出し部36との干渉を極力抑えることができる。これにより、第2実施形態では、ラックハウジング10の大径ハウジング部11の中心軸Haを、小径ハウジング部21の中心軸Hbに対して第2ピニオンギヤ92が位置する側にずらす際において、大径ハウジング部11の内径R2を小さくすることができる。
【0109】
このため、第2実施形態では、第2押圧部65が有する押圧部材66の、大径ハウジング部11の内周面13からの突出量Paを小さくしつつ、大径ハウジング部11の内径R2を小さくすることができる。この結果、アシストラック歯34と第2ピニオンギヤ92との噛み合い部のバックラッシュに起因する異音の発生や、スティックリップ現象による異音の発生、押圧部材66がラックハウジング10の貫通孔16に衝突することによる異音の発生を抑えつつ、ラックハウジング10の軽量化を図ることができる。
【0110】
[変形例]
上述した第1実施形態では、ラックバー30の大径部31に形成されるアシストラック歯形成部33の背面35は、大径丸棒部32の外周面の形状と一致する形状で形成されているが、アシストラック歯形成部33の背面35は、大径丸棒部32の外周面の形状とは異ならせてもよい。アシストラック歯形成部33の背面35は、大径丸棒部32の外周面の形状よりも大きくても小さくてもよい。
【0111】
また、上述した第1実施形態では、ラックバー30の大径部31には、アシストラック歯形成部33の両側に丸棒状の大径丸棒部32が配置されているが、大径部31は、大径丸棒部32を有していなくてもよい。つまり、ラックバー30は、第1実施形態においてアシストラック歯形成部33の両側に位置する大径丸棒部32の部分の形状が、アシストラック歯形成部33と同様の形状で形成されていてもよい。
【0112】
また、上述した第1実施形態では、タイロッド93の両端に配置されるボールジョイント50の中心軸は、大径丸棒部32や小径丸棒部42の中心軸と一致しているが、タイロッド93のボールジョイント50の中心軸と、大径丸棒部32や小径丸棒部42の中心軸は一致していなくてもよい。例えば、大径丸棒部32の中心軸と小径丸棒部42の中心軸とがずれている場合は、タイロッド93の両端に配置されるボールジョイント50の中心軸は、大径丸棒部32の中心軸と小径丸棒部42の中心軸とのうちのいずれか一方のみと一致していてもよい。
【0113】
以上、本開示の好適な実施形態を説明したが、本開示は上記の実施形態に記載されたものに限定されない。実施形態や変形例として説明した構成は、適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0114】
10 ラックハウジング
11 大径ハウジング部
12 大径貫通孔
13、23 内周面
15 ボールジョイント収容部
16、26 貫通孔
17 ギヤボックス
21 小径ハウジング部
22 小径貫通孔
25 ボールジョイント収容部
30 ラックバー
31 大径部
32 大径丸棒部
33 アシストラック歯形成部
34 アシストラック歯
35 背面
36 張り出し部
38 面取り
41 小径部
42 小径丸棒部
44 操舵ラック歯
50 ボールジョイント
51 ジョイント部
60 第1押圧部
61、66 押圧部材
62、67 バネ
63、68 封止部材
65 第2押圧部
80 電動パワーステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 ステアリングシャフト
84、86 ユニバーサルジョイント
85 インタミシャフト
87 スタブシャフト
90 ステアリングギヤ
91 第1ピニオンギヤ
92 第2ピニオンギヤ
93 タイロッド
94 ウォーム減速装置
100 ECU
101 トルクセンサ
102 電動モータ
103 車速センサ
104 イグニッションスイッチ
105 電源装置