(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172747
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】振動伝達装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A61B5/055 390
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090675
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輝
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA18
4C096AA20
4C096AB44
(57)【要約】
【課題】被験者に効率的に振動を伝達する。
【解決手段】MRE(Magnetic resonance elastography)において、音波を発生する音波発生装置から振動を測定対象に伝達する振動伝達装置であって、それぞれ前記振動を伝達する複数の振動子を備える、振動伝達装置。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRE(Magnetic resonance elastography)において、音波を発生する音波発生装置から振動を測定対象に伝達する振動伝達装置であって、
それぞれ前記振動を伝達する複数の振動子を備える、
振動伝達装置。
【請求項2】
前記複数の振動子それぞれに対応して、前記音波発生装置と前記振動子とを接続し、前記音波を伝搬する複数の管を備え、
前記複数の管それぞれの長さは延長及び短縮が可能である、
請求項1に記載の振動伝達装置。
【請求項3】
前記複数の振動子は、湾曲可能な連結部分により連結される、
請求項1又は2に記載の振動伝達装置。
【請求項4】
前記複数の振動子は、前記音波発生装置との接続部分の反対側の端部どうしを、前記連結部分により連結される、
請求項3に記載の振動伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRE(Magnetic resonance elastography)の測定において、パッシブドライバにより測定対象である臓器などに対して振動を伝達する。非特許文献1から4の図で示されているように、通常、パッシブドライバとしては1枚の円盤形状のものが用いられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Magnetic resonance elastography by direct visualization of propagating acoustic strain waves, Science. 1995 Sep 29;269(5232):1854-7. doi: 10.1126/science.7569924.
【非特許文献2】Tissue characterization using magnetic resonance elastography: preliminary results, Phys Med Biol. 2000 Jun;45(6):1579-90. doi: 10.1088/0031-9155/45/6/313.
【非特許文献3】MR elastography of the liver: preliminary results, Radiology. 2006 Aug;240(2):440-8. doi: 10.1148/radiol.2402050606.
【非特許文献4】Magnetic resonance imaging of hepatic fibrosis: emerging clinical applications, Hepatology. 2008 Jan;47(1):332-42. doi: 10.1002/hep.21972.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常用いられるパッシブドライバは、体格の違いにより適切に固定できないことがある。不適切な位置でパッシブドライバが固定されることや固定されず位置が変動することは、MREの検査精度に悪影響を及ぼしうる。
本発明の目的は、上述した課題を解決する振動伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る振動伝達装置は、MRE(Magnetic resonance elastography)において、音波を発生する音波発生装置から振動を測定対象に伝達する振動伝達装置であって、それぞれ前記振動を伝達する複数の振動子を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、被験者に効率的に振動を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る磁気共鳴撮像装置を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る振動発生装置の構造を示す図である。
【
図4A】波パターンW2における振動を示す図である。
【
図4B】波パターンW3における振動を示す図である。
【
図5】それぞれの装置や波パターンを使用した測定により生成されたMRE画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0009】
〈磁気共鳴撮像装置の構成〉
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴撮像装置1を示す図である。磁気共鳴撮像装置1は、磁場発生装置2、寝台4、振動発生装置6及び制御装置21を有する。磁場発生装置2は、内部を水平方向に貫通する貫通孔3を有する。寝台4は、貫通孔3を通って磁場発生装置2に対して相対的に摺動可能に設置される。これにより、寝台4と寝台4に横になった被験者5は、貫通孔3を通り抜けることができる。
【0010】
磁場発生装置2は、静磁場発生装置11、傾斜磁場発生装置12、高周波磁場発生装置13及び電磁波受信装置14を備える。静磁場発生装置11は、例えば超伝導電磁石や永久磁石を含み、貫通孔3内に静磁場を発生させる。傾斜磁場発生装置12は静磁場発生装置11よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。傾斜磁場発生装置12は、貫通孔3に傾斜磁場を発生させる。高周波磁場発生装置13は傾斜磁場発生装置12よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。高周波磁場発生装置13は貫通孔3に高周波磁場を発生させる。電磁波受信装置14は、高周波磁場発生装置13よりも貫通孔側に配置され、例えばコイルを有する。電磁波受信装置14は、貫通孔3内の撮像対象で発生した電磁波を受信する。
【0011】
磁場発生装置2は制御装置21とケーブルを介して電気的に接続される。制御装置21は制御信号を磁場発生装置2に送信することで、傾斜磁場発生のタイミングや大きさなどを制御する。また、制御装置21は、電磁波受信装置14から電磁波に関する情報を取得する。制御装置21は、無線通信により磁場発生装置2と信号を送受信してもよい。
【0012】
振動発生装置6は、振動伝達装置15、音波発生装置16及び管17を備える。振動伝達装置15と音波発生装置16とは管17を介して接続される。音波発生装置16が発生した音波(空気中の振動)が管17を介して振動伝達装置15に伝搬するように構成される。管17は例えば中空であり、非磁性体材料から製造される。
【0013】
音波発生装置16は、例えばボイスコイルを備えることで音波を発生する。振動伝達装置15は、例えば被験者5の被検査部に対応する体表面に取り付けられる。音波発生装置16により発生された音波は、管17を介して振動伝達装置15に伝搬され、振動伝達装置15が取り付けられた被験者5の被検査部に対応する体表面に伝達される。
【0014】
音波発生装置16は制御装置21とケーブルを介して電気的に接続される。制御装置21は制御信号を音波発生装置16に送信することで、振動の周波数・位相や振動発生のタイミングなどを制御する。
【0015】
図2は、本実施形態に係る振動発生装置6の構造を示す図である。振動伝達装置15は、複数の振動子151と複数の連結部材155とを備える。
図2に示す例においては、振動伝達装置15は、5つの振動子151-1~151-5を備える。
振動子151はそれぞれ管17を介して音波発生装置16と接続される。管17は、第一管171、分岐部172及び第二管173を備える。管17は、振動子151の数と同じ数の第二管173を備える。
図2に示す振動発生装置6においては、管17は、5本の第二管173-1~173-5を備える。第一管171は、音波発生装置16と分岐部172とを接続する。分岐部172は、第一管171と第二管173とを接続する。第二管173はそれぞれ分岐部172と対応する振動子とを接続する。第二管173の長さは接続される振動子151ごとに異なってもよい。例えば、第二管173は管の中に管を含む構造であって、管同士をスライドさせることで長さが伸縮可能であり、長さが任意に調節可能である。また、振動子151に接続される第二管173の長さは、複数の異なる長さの管のうち任意の長さのものを振動子151に接続させること、第二管173が複数の短管で構成される場合に第二管173を構成する短管の数を任意に選択することで調節することができる。短管は、波長のN分の1の長さ(Nは整数)であることが好ましい。第二管173の長さを調節し、音波発生装置16から音波が伝達される経路長を変化させることで、振動子151が伝達する振動の位相を、振動子151ごとに任意に調整することができる。例えば第二管173の長さを、管17を伝搬する音波の波長の1/4の長さを延長することで、振動子151が発生する振動の初期位相をπ/2遅らせることができる。
【0016】
隣り合う振動子151どうしは連結部材155によって連結される。連結部材155は湾曲可能な材料(例えば可撓性樹脂やエラストマー)で構成される。これにより振動伝達装置15を体に巻き付けるように使用することができ、より振動を適切に対象に伝達することができる。複数の振動子151は一定間隔で振動伝達装置15の長手方向に並ぶ。振動伝達装置15は、連結部材155によって長手方向に直交する軸まわりに曲げることができる。
図3は、振動子151の使用方法の一例を示す図である。振動子151は、肋骨や肝臓を覆うように皮膚に密着される。振動子151は、肋骨に振動を伝達することで肝臓に振動を伝達する。
【0017】
振動子151は、接続部152、本体153を備える。振動子151のうち被験者5に接触させる側を底側、底側の反対側を上側と呼ぶ。本体153は底側に開口を有し、中空に構成される。接続部152は、本体153の上部に設けられる。接続部152には管17が接続される。これにより、振動子の151の底側を被験者5に接触させると、管17を介して接続部152に伝えられた音波は、本体153の内部の空気を振動させ、被験者5の接触部分を振動させる。
連結部材155は、振動子151の底側を連結する。本体153に含まれる空気の体積と、底側の開口の面積とは、以下の関係であることが望ましい。
本体内部体積(cm3)=[1.41(cm)×振動面積(cm2)]+24.90(cm3)
【0018】
各振動子151の大きさ、本体153に含まれる空気の体積や底側の開口の面積は、異なっていてもよい。また、各接続部152は異なる長さであってもよい。
なお、各振動子151の大きさ、本体153に含まれる空気の体積や底側の開口の面積は、同じ方が望ましく、各接続部152の長さは同じである方が望ましい。各振動子151の大きさなどを同じにし、各接続部152および第二管173の長さを同じにすることで、各振動子151から出力される同相の音波の重ね合わせにより生じる波を球面波にすることができる。
【0019】
振動子151は、底側に振動板を備え、振動板を介して本体153内部の空気の振動を接触させる被験者5に伝えてもよい。
【0020】
本実施形態において、振動伝達装置15は複数の振動子151を備える。振動伝達装置15は全体として通常使用されるパッシブドライバの大きさと同じくらいの大きさであり、振動子151の1つ1つの大きさは小さい。これにより、曲率のある体に密着させることができ、かつ振動強度を担保することができる。
また、複数の振動子151は連結部材155により連結される。特に複数の振動子151は、底側を連結部材155により連結される。これにより、体に密着させることが容易となり、被験者に振動を効率的に伝達することができる。
【0021】
本実施形態において、管17の長さを調節することで、音波発生装置16が発生する音の位相が一定であっても、振動伝達装置15は異なる位相の振動を伝達することができる。これにより、制御装置21や音波発生装置16に大きな変更を加えることなく新たな特徴を有する波を対象に伝達することができる。
【0022】
(実験結果)
従来の振動伝達装置(パッシブドライバ)と本実施形態に係る振動伝達装置とを比較するために、実験を行った。実験においては、従来のパッシブドライバと提案する振動伝達装置15として
図2に示す装置を使用した。また、振動伝達装置15を使用する際に、全ての振動子151から出力される振動が同じ位相であるパターン(波パターンW1)と異なる位相の振動を出力するパターン(波パターンW2・W3)により振動を伝達した。
【0023】
図4Aは、波パターンW2における振動位相を示す図である。
図4Bは、波パターンW3における振動位相を示す図である。波パターンW2においては、振動の波長をλとすると、第二管173-1は第二管173-3よりもλ/2長く、第二管173-2は第二管173-3よりもλ/4長く、第二管173-4は第二管173-3よりもλ/4短く、第二管173-5は第二管173-3よりもλ/2短い。これにより、振動子151-3から出力される振動の位相を基準とすると、振動子151-2から出力される振動の位相は+2/πずれており、振動子151-1から出力される振動の位相は+πずれており、振動子151-4から出力される振動の位相は-2/πずれており、振動子151-5から出力される振動の位相は-πずれている。
波パターンW3においては、振動の波長をλとすると、第二管173-2と第二管173-4の長さは同じであり、第二管173-1、173-3、173-5は、第二管173-2よりもλ/2長い。これにより、波パターンW2においては、振動子151-2、151-4から出力される振動の位相を基準とすると、振動子151-1、151-3、151-5から出力される振動の位相は+πずれている。
以上の第二管173の長さは一例であって、各々の第二管173の長さはλの整数倍の長さだけ長くする又は短くしても同様の波パターンの振動を伝達することができる。
【0024】
図5は、それぞれの装置や波パターンを使用した測定により生成されたMRE画像である。比較対象装置において使用した振動発生装置6においては、振動伝達装置15として1つの円盤状のパッシブドライバを使用した。本実施形態において提案する装置においては、比較対象装置と比較して被験者に振動伝達装置15をより密着させることができ、より振動を効率よく伝達することができ、より解像度が高いMRE画像を取得することができる。また、異なる波パターンにおける振動を伝達することで、測定対象となる器官を異なる方法で振動させることができる。これにより、異なるMRE画像を取得することができ、より多様な診断ができる可能性がある。
【0025】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0026】
振動伝達装置15は、必ずしも連結部材155を備えなくてもよい。このとき各振動子151を独立に体に密着させて使用する。このとき、連結部材155の長さが同じであることが望ましいのと同様に、体に密着させたときの各振動子151間の距離が等しい方が望ましい。
【符号の説明】
【0027】
1 磁気共鳴撮像装置、2 磁場発生装置、3 貫通孔、4 寝台、5 被験者、6 振動発生装置、11 静磁場発生装置、12 傾斜磁場発生装置、13 高周波磁場発生装置、14 電磁波受信装置、15 振動伝達装置、16 音波発生装置、17 管、21 制御装置、151 振動子、152 接続部、153 本体、154 振動板、155 連結部材