(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172749
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】核燃料未臨界計測システムおよび核燃料未臨界計測方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/06 20060101AFI20241205BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20241205BHJP
G01N 23/10 20180101ALI20241205BHJP
G01T 1/18 20060101ALI20241205BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20241205BHJP
G21C 19/40 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G21C17/06
G01N23/20
G01N23/10
G01T1/18 D
G01T1/20 A
G21C19/40 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090680
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉田 宰
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】宮寺 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】藤牧 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】中居 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 修治
【テーマコード(参考)】
2G001
2G075
2G188
【Fターム(参考)】
2G001AA08
2G001BA14
2G001CA08
2G001DA02
2G001DA06
2G001FA04
2G001KA20
2G001LA20
2G075AA01
2G075AA18
2G075BA03
2G075BA16
2G075CA38
2G075DA08
2G075FA18
2G075FB07
2G075FC11
2G075GA36
2G188BB02
2G188BB04
2G188BB09
2G188CC03
(57)【要約】
【課題】事前情報が少ない核燃料の核分裂反応に影響を与える体系の最大実効増倍率を評価して核燃料の臨界管理を行うことができる核燃料未臨界計測技術を提供する。
【解決手段】核燃料未臨界計測システム1は、核燃料の核分裂反応に影響を与える体系に関する複数の条件のそれぞれに対応した放射線検出器2の計測値を事前に評価する計測値評価部20と、複数の条件のそれぞれに対応した中性子増倍率を事前に評価する増倍率評価部21と、計測値評価部20で評価した計測値の結果と増倍率評価部21で評価した中性子増倍率の結果とを対応付け、計測値から実効増倍率を導出する評価関数を作成する評価関数作成部22と、放射線検出器2で実際に計測した計測値を集積する計測値集積部23と、計測値集積部23で集積した計測値と評価関数から実効増倍率を計算して体系の未臨界度を評価する未臨界評価部24とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象となる核燃料を通過する放射線または前記核燃料から放射される放射線の少なくとも一方を計測する放射線検出器と、
前記核燃料の核分裂反応に影響を与える体系に関する複数の条件のそれぞれに対応した前記放射線検出器の計測値を事前に評価する計測値評価部と、
前記複数の条件のそれぞれに対応した中性子増倍率を事前に評価する増倍率評価部と、
前記計測値評価部で評価した前記計測値の結果と前記増倍率評価部で評価した前記中性子増倍率の結果とを対応付け、前記計測値から実効増倍率を導出する評価関数を作成する評価関数作成部と、
前記放射線検出器で実際に計測した前記計測値を集積する計測値集積部と、
前記計測値集積部で集積した前記計測値と前記評価関数から前記実効増倍率を計算して前記体系の未臨界度を評価する未臨界評価部と、
を備える、
核燃料未臨界計測システム。
【請求項2】
前記核燃料を通過する放射線は、前記核燃料を収納する収納容器を通過する放射線であり、
前記計測値評価部で事前に評価する前記放射線検出器の前記計測値は、前記収納容器の内部で前記体系に関する前記複数の条件のそれぞれに対応した前記放射線検出器の前記計測値である、
請求項1に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項3】
前記放射線検出器は、ミュオンを計測し、かつ前記核燃料を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器である、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項4】
前記計測値評価部は、
前記体系をシミュレーションモデルとして再現し、
前記核燃料の含有量、組成、形状を変更した前記体系に関する前記複数の条件を設定し、
前記複数の条件のそれぞれに対応した前記放射線検出器の前記計測値を計算し、前記計測値の解析結果を作成する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項5】
前記増倍率評価部は、
前記核燃料の組成および形状に関する前記体系であり、基準組成の通常体系、前記基準組成に対して減速材を追加した減速材体系を含む評価用体系を作成し、
前記評価用体系に対する無限増倍率または前記実効増倍率の少なくとも一方を計算する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項6】
前記増倍率評価部は、
前記体系をシミュレーションモデルとして再現し、
前記核燃料の含有量、組成、形状を変更した前記体系に関する前記複数の条件を設定し、
前記複数の条件のそれぞれに対応する前記体系であり、基準組成の通常体系、前記基準組成に対して減速材を追加した減速材体系、前記基準組成に対して前記減速材を追加したものが複数隣接して形成される無限体系のそれぞれの前記実効増倍率を計算し、前記実効増倍率の解析結果を作成する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項7】
前記評価関数作成部は、
前記計測値評価部で評価した核燃料含有量に対する前記計測値の結果と、前記増倍率評価部で評価した前記核燃料含有量に対する前記中性子増倍率の結果とから、前記計測値と前記実効増倍率の関係を示す評価式を作成し、
前記計測値集積部で集積した前記計測値を前記実効増倍率に変換する前記評価関数を作成する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項8】
前記未臨界評価部は、
前記計測値集積部で集積した前記計測値と、前記評価関数作成部で作成した前記評価関数を用いて、
前記計測値を前記評価関数に入力することで前記実効増倍率を出力し、
出力された前記実効増倍率が、基準値を超える場合に前記核燃料が臨界であると判定し、前記基準値を下回る場合に前記核燃料が未臨界であると判定する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項9】
前記計測値評価部と前記増倍率評価部と前記評価関数作成部の少なくとも1つは、
前記体系をシミュレーションモデルとして再現し、
前記シミュレーションモデルで前記核燃料を非均質形状に設定し、
前記計測値の解析結果と前記実効増倍率の解析結果と前記評価関数の少なくとも1つを作成する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項10】
前記計測値評価部と前記増倍率評価部と前記評価関数作成部の少なくとも1つは、
前記体系をシミュレーションモデルとして再現し、
前記シミュレーションモデルで前記核燃料とその他の構造物を含有物質として設定し、
前記計測値の解析結果と前記実効増倍率の解析結果と前記評価関数の少なくとも1つを作成する、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項11】
前記放射線検出器は、前記核燃料を通過するX線、前記核燃料から放射されるガンマ線または中性子のうちの少なくともいずれかを計測するものである、
請求項1または請求項2に記載の核燃料未臨界計測システム。
【請求項12】
計測対象となる核燃料を通過する放射線または前記核燃料から放射される放射線の少なくとも一方を計測する放射線検出器を用いて行う方法であり、
計測値評価部が、前記核燃料の核分裂反応に影響を与える体系に関する複数の条件のそれぞれに対応した前記放射線検出器の計測値を事前に評価し、
増倍率評価部が、前記複数の条件のそれぞれに対応した中性子増倍率を事前に評価し、
評価関数作成部が、前記計測値評価部で評価した前記計測値の結果と前記増倍率評価部で評価した前記中性子増倍率の結果とを対応付け、前記計測値から実効増倍率を導出する評価関数を作成し、
計測値集積部が、前記放射線検出器で実際に計測した前記計測値を集積し、
未臨界評価部が、前記計測値集積部で集積した前記計測値と前記評価関数から前記実効増倍率を計算して前記体系の未臨界度を評価する、
核燃料未臨界計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、核燃料未臨界計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウランなどの核燃料は、核セキュリティの観点から国際的な取り扱いが厳しく管理されている。特に、核燃料は、その臨界性に応じた臨界管理が必要となる。核燃料の臨界管理を行う上で核燃料を含む体系の中性子増倍率を把握することが重要である。中性子増倍率とは、燃料を含む体系内で単位時間あたりに消滅する中性子数に対して、生成する中性子数の比率を示した値である。特に、有限な体系においては、生成した中性子のうち一定数が体系の外に漏れる効果を考慮した実効的な中性子増倍率を実効増倍率(keff)として取り扱う。体系のkeffが1となるとき、その体系は臨界であるとされるが、一般的に、臨界管理上は一定の裕度を含めてkeffが0.98または0.95以下などの制限値を設定し、体系中に中性子減速材が含まれる条件と反射体で覆われる条件などの臨界管理上の厳しい条件下においても、この制限値を超えることがないように管理が行われる。
【0003】
原子炉では、運転時に実際に臨界状態となるため炉内の中性子数の時間的な変動から、中性子増倍率を実際に計測することができる。一方、核燃料の保管時には臨界状態となっていないため、その体系が持つ増倍率を計測することは困難である。
【0004】
核燃料を保管する場合には、その体系が臨界とならないように臨界管理を行う必要がある。空気中に貯蔵されている核燃料の場合、周囲に中性子減速材がないため、臨界となる可能性は極めて低いが、臨界管理上は、通常状態で未臨界であるだけでなく、その体系に想定され得る最大の反応度が加わった場合でも、臨界とならない事を担保する必要がある。
【0005】
空気中に保管されている燃料の場合、現実的に想定される危険な事象は、体系が水没することにより体系内が減速材で満たされ、さらに体系の周囲が反射体に覆われることである。
【0006】
したがって、燃料の管理においては、核燃料そのものの増倍率だけでなく、核燃料を含む体系に減速材が追加されるような臨界管理上の厳しい条件での増倍率を評価する必要がある。
【0007】
現実的な計測条件においては、保管されている燃料に減速材を加えて臨界状態に近づけるような計測は、安全性の観点から実施することはできない。したがって、一般的な未臨界性の評価では、その体系をシミュレーション上に再現した上で、減速材を加えた条件での増倍率を評価する方法がとられる。しかしながら、燃料の組成と形状が未知の場合には適切なシミュレーションを行うことができない。
【0008】
既存の核燃料の未臨界度を計測する方法としては、燃料から放射されるガンマ線または中性子を計測する方法が知られている。しかしながら、従来の方法では、核燃料の形状と初期組成が既知の条件を前提として、計測した値から燃焼度を推定した上で未臨界度を判定する方法であるため、燃料に関する事前情報が不足している場合に適用することは困難であった。
【0009】
また、核燃料を含む物質を非破壊で計測する有効な方法として、宇宙線ミュオンを用いた非破壊計測方法が提案されている。ミュオン散乱法は、物質に入射するミュオンの軌跡と、物質を通過したミュオンの軌跡を計測し、その軌跡変化をミュオン散乱値として計測する方法である。
【0010】
ミュオン軌跡検出器としては、電離ガスを用いたドリフトチューブ検出器を積層させた装置、マルチチャンネルのシンチレーション検出器を積層させたものが用いられる。ミュオンは、高い透過力を持ち、計測対象に入射したミュオンの多くが物質内を通過する。ここで、ミュオンは、物質の組成および形状に応じて多重クーロン散乱を生じる。ミュオン散乱の散乱角θ0は、以下の数式1に示される。ここで、物質の原子番号に固有の放射長X0に依存して散乱角θ0が変化する。
【0011】
【0012】
なお、pは、ミュオンの運動量である。βcは、ミュオンの速度である。zは、ミュオンの電荷である。xは、ミュオンが物質中を通過する距離である。放射長X0は、物質に応じて異なるため、解析された散乱角θ0から、その散乱が起きた座標に存在する物質を推定することができる。ミュオン散乱は、原子番号の高い重元素に大きく散乱される性質を持つため、核燃料物質を多く含む物質におけるミュオン散乱の大きさを決める因子としては、物質中に含有する核燃料の重量が支配的となる。
【0013】
しかしながら、従来の方法では物質中の核燃料の量を推定することは可能であるが、その体系の臨界の評価を行うことはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2023-30894号公報
【特許文献2】特開2017-161465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
一般的な臨界管理においては、核燃料の総量および濃縮度等が既知の条件を想定して取扱量と形状の制限管理が行われていたため、事前情報を持たない燃料、事故により発生した燃料デブリには対応することができなかった。
【0016】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、事前情報が少ない核燃料の核分裂反応に影響を与える体系の最大実効増倍率を評価して核燃料の臨界管理を行うことができる核燃料未臨界計測技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態に係る核燃料未臨界計測システムは、計測対象となる核燃料を通過する放射線または前記核燃料から放射される放射線の少なくとも一方を計測する放射線検出器と、前記核燃料の核分裂反応に影響を与える体系に関する複数の条件のそれぞれに対応した前記放射線検出器の計測値を事前に評価する計測値評価部と、前記複数の条件のそれぞれに対応した中性子増倍率を事前に評価する増倍率評価部と、前記計測値評価部で評価した前記計測値の結果と前記増倍率評価部で評価した前記中性子増倍率の結果とを対応付け、前記計測値から実効増倍率を導出する評価関数を作成する評価関数作成部と、前記放射線検出器で実際に計測した前記計測値を集積する計測値集積部と、前記計測値集積部で集積した前記計測値と前記評価関数から前記実効増倍率を計算して前記体系の未臨界度を評価する未臨界評価部と、を備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態により、事前情報が少ない核燃料の核分裂反応に影響を与える体系の最大実効増倍率を評価して核燃料の臨界管理を行うことができる核燃料未臨界計測技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の核燃料未臨界計測システムを示す構成図。
【
図2】核燃料未臨界計測システムを示すブロック図。
【
図3】核燃料未臨界計測方法を示すフローチャート。
【
図7】収納容器中の核燃料充填率に対する実効増倍率を示すグラフ。
【
図8】収納容器中の核燃料充填率に対するミュオン散乱角を示すグラフ。
【
図9】ミュオン散乱角に対する実効増倍率を示すグラフ。
【
図10】第2実施形態の核燃料未臨界計測システムを示す構成図。
【
図11】第3実施形態の核燃料未臨界計測システムを示す構成図。
【
図12】第4実施形態の核燃料未臨界計測システムを示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、核燃料未臨界計測システムおよび核燃料未臨界計測方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図9を用いて説明する。
【0021】
図1の符号1は、第1実施形態の核燃料未臨界計測システムである。この核燃料未臨界計測システム1は、ミュオン軌跡検出器2と評価用コンピュータ5とを備える。ミュオン軌跡検出器2は、評価用コンピュータ5に接続されている。このミュオン軌跡検出器2が、第1実施形態の放射線検出器となっている。
【0022】
核燃料未臨界計測システム1は、計測対象である対象物6の未臨界度を計測するものである。例えば、この核燃料未臨界計測システム1は、核燃料に関する放射線を計測することにより、核燃料を含む体系の臨界性を評価する。なお、「体系」とは、核燃料の核分裂反応に影響を与える体系のことである。
【0023】
対象物6は、含有されている物質に関する事前情報が少ないものである。例えば、対象物6は、原子力発電所などで発生する核燃料を含む廃棄物(核燃料デブリ)などである。なお、対象物6は、使用済みの核燃料でもよい。
【0024】
未臨界度を評価する核燃料未臨界計測時に、対象物6は、所定の収納容器7に収納される。なお、収納容器7は、核燃料未臨界計測のために放射線の影響の少ない網目状の容器としてもよい。例えば、未臨界度の評価の結果、後述する無限体系(
図6)で核燃料が臨界となる可能性がある場合には、キャスクなどの核燃料の輸送または貯蔵に使われる専用の容器に対象物6が収納される。なお、キャスクは、対象物6から放射される放射線を遮蔽するものであり、収納される核燃料の未臨界が担保される容器である。一方、無限体系でも核燃料の未臨界が保てる場合には、対象物6の保管に、キャスクが用いられてもよいし、キャスクよりも低コストの収納容器7が用いられてもよい。
【0025】
対象物6を挟んで互いに向かい合う位置に設けられた少なくとも1組のミュオン軌跡検出器2は、荷電粒子であるミュオンμを計測する。これらミュオン軌跡検出器2は、収納容器7の外部、かつ収納容器7の上部と下部の位置に、それぞれ設けられている。このようにすれば、ミュオンμを利用して収納容器7の内部の核燃料の状態を非破壊で把握することができる。
【0026】
ミュオンμは、計測対象となる対象物6(核燃料)を収納する収納容器7を通過する放射線である。このミュオンμは、主に宇宙線として存在する。ミュオンμは、宇宙から地球に入射する1次宇宙線が地球の大気と反応することにより生じる2次宇宙線の一種である。ミュオンμは、正または負の電荷を持ち、平均3~4GeVの高いエネルギーを持つため、高い透過力を有する。また、ミュオンμは、加速器を用いて人工的に発生させることもできる。
【0027】
図2に示すように、評価用コンピュータ5は、処理回路10と入力部11と出力部12と記憶部13と通信部14とを備える。処理回路10は、計測値評価部20と増倍率評価部21と評価関数作成部22と計測値集積部23と未臨界評価部24とを備える。これらは、メモリまたはHDD(Hard Disk Drive)に記憶されたプログラムがCPU(Central Processing Unit)によって実行されることで実現される。本実施形態の核燃料未臨界計測方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0028】
核燃料未臨界計測システム1の各構成は、必ずしも1つの評価用コンピュータ5に設ける必要はない。例えば、1つの核燃料未臨界計測システム1が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されてもよい。例えば、計測値評価部20と増倍率評価部21と評価関数作成部22が搭載された一方のコンピュータと、計測値集積部23と未臨界評価部24が搭載された他方のコンピュータとで、1つの核燃料未臨界計測システム1が構成されてもよい。
【0029】
処理回路10は、例えば、CPU、GPU(Graphics Processing Unit)、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部13に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路10は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成されてもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路10は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0030】
入力部11には、評価用コンピュータ5を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部11には、マウス、キーボード、タッチパネルなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が評価用コンピュータ5に入力される。
【0031】
出力部12は、所定の情報の出力を行う。評価用コンピュータ5には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部12は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。
【0032】
記憶部13は、核燃料未臨界計測方法を実行するときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部13は、処理回路10が実行する所定のプログラムを記憶する。この記憶部13は、ミュオン軌跡検出器2で取得したそれぞれの計測値を記憶する。
【0033】
通信部14は、所定の通信回線を介して他のコンピュータおよび所定の機器と通信を行う。なお、所定の機器は、ミュオン軌跡検出器2を含む。
【0034】
つぎに、核燃料未臨界計測システム1を用いて実行される核燃料未臨界計測方法を説明する。核燃料未臨界計測システム1による評価手順は、主に、事前評価、計測、事後評価の3つの段階(ステージ)に分けられる。
【0035】
例えば、
図3のフローチャートに示すように、まず、事前評価において、計測値評価部20が計測値評価処理を実行し(ステップS1)、かつ増倍率評価部21が増倍率評価処理を実行する(ステップS2)。さらに、評価関数作成部22が評価関数作成処理を実行する(ステップS3)。
【0036】
ここで、計測値評価部20は、収納容器7の内部で核燃料の核分裂反応に影響を与える体系に関する複数の条件のそれぞれに対応したミュオン軌跡検出器2の計測値を事前に評価する。
【0037】
また、計測値評価部20は、体系をシミュレーションモデルとして再現する。この計測値評価部20は、計測体系に関する固定条件として、放射線検出器の配置および形状、収納容器7の有無を設定し、計測対象に関する変動条件として、核燃料の含有量、組成、形状を変更した複数の条件を設定する。そして、計測値評価部20は、複数の条件のそれぞれに対応したミュオン軌跡検出器2の計測値を計算し、計測値の解析結果を作成する。
【0038】
また、増倍率評価部21は、複数の条件のそれぞれに対応した中性子増倍率を事前に評価する。
【0039】
また、増倍率評価部21は、核燃料を含む計測対象に関する体系であり、基準組成の通常体系、基準組成に対して減速材を追加した評価用体系を作成し、評価用体系に対する無限増倍率または実効増倍率の少なくとも一方を計算する。
【0040】
また、増倍率評価部21は、体系をシミュレーションモデルとして再現し、計測体系に関する固定条件として、収納容器7の有無を設定し、計測対象に関する変動条件として、核燃料の含有量、組成、形状を変更した複数の条件を設定する。また、増倍率評価部21は、複数の条件のそれぞれに対応する体系であり、基準組成の通常体系、基準組成に対して減速材を追加した減速材体系、基準組成に対して減速材を追加したものが複数隣接して形成される無限体系のそれぞれの実効増倍率を計算する。そして、増倍率評価部21は、実効増倍率の解析結果を作成する。
【0041】
また、評価関数作成部22は、計測値評価部20で評価した計測値の結果と増倍率評価部21で評価した中性子増倍率の結果とを対応付け、計測値から実効増倍率を導出する評価関数を作成する。
【0042】
また、評価関数作成部22は、計測値評価部20で評価した核燃料含有量に対する計測値の結果と、増倍率評価部21で評価した核燃料含有量に対する中性子増倍率の結果とから、計測値と実効増倍率の関係を示す評価式を作成する。そして、評価関数作成部22は、計測値集積部23で集積した計測値を実効増倍率に変換する評価関数を作成する。
【0043】
つぎの計測段階において、計測値集積部23が計測値集積処理を実行する(ステップS4)。ここで、計測値集積部23は、ミュオン軌跡検出器2で実際に計測した計測値を集積する。
【0044】
つぎの事後評価において、未臨界評価部24が未臨界評価処理を実行する(ステップS5)。ここで、未臨界評価部24は、計測値集積部23で集積した計測値と評価関数作成部22で作成した評価関数から実効増倍率を計算して体系の未臨界度を評価する。
【0045】
また、未臨界評価部24は、計測値集積部23で集積した計測値と、評価関数作成部22で作成した評価関数を用いて、計測値を評価関数に入力することで実効増倍率を出力する。ここで、未臨界評価部24は、出力された実効増倍率が、基準値を超える場合に核燃料が臨界であると判定し、基準値を下回る場合に核燃料が未臨界であると判定する。なお、評価用コンピュータ5は、その判定結果を出力する。
【0046】
つぎに、核燃料未臨界計測方法の各段階の具体例を説明する。まず、事前評価において、評価用コンピュータ5は、ミュオン軌跡検出器2を用いた計測が行われる前に、計測値から増倍率を評価するための評価関数を作成するために、シミュレーションを用いた事前評価を行う。
【0047】
この事前評価では、粒子輸送解析を行うことが可能なモンテカルロシミュレーションコードを利用する。代表的なコードの例としては、MCNP、PHITS、Geant4などが挙げられる。第1実施形態では、MCNPを使用する形態が例示される。
【0048】
まず、評価用コンピュータ5に、計測体系を再現するシミュレーションモデルが作成される。このモデル上の基本的な装置体系は、固定として、サンプルを設置する収納容器7の内部のみを条件が可変するものとする。なお、モデルの作成は、評価用コンピュータ5が自動的に作成するものでもよいし、ユーザが手動で作成したモデルを評価用コンピュータ5に入力してもよい。
【0049】
評価用コンピュータ5は、収納容器7の内部に核燃料を含む組成を配置した解析ケースを設定する。ここで設定した解析ケースを1ケースとして、核燃料条件を変えた複数のケースについて、シミュレーションが行われる。
【0050】
評価用コンピュータ5は、1つの解析ケースあたり2つの値を評価する。1つは、体系の中性子増倍率であり、もう1つはミュオン散乱値である。
【0051】
まず、設定した解析ケースに対して、その体系が持つ中性子増倍率を計算する方法について説明する。中性子増倍率とは、体系中で発生した中性子数を基準として、つぎの核分裂を起こすことで生成された中性子数との比率を示す値である。基準とする体系を、物質組成が均質で無限体系と考えると、その無限増倍率は、以下の数式2で示される。
【0052】
【0053】
ここで、εは、U-238の高速中性子核分裂効果である。pは、U-238の共鳴吸収を逃れる割合である。fは、熱中性子利用率である。ηは、熱中性子の吸収あたりに放出される中性子数である。仮想的に均質な体系が無限大に広がっていると仮定すると、無限増倍率(k-inf)が1となるときに臨界となり、1に満たないときに未臨界となる。k-infの値は、物質組成の値から導出することができる。
【0054】
以上の説明は、体系が無限の仮想的な体系においての評価であるが、現実的な有限体系においては、体系からの中性子の漏れを考慮した実効増倍率(k-eff)が使用される。
【0055】
一定の大きさを持つ体系の実効増倍率(k-eff)は、以下の数式3で示される。なお、k-infは、無限増倍率である。M2は、移動面積である。B2は、バックリングである。
【0056】
【0057】
ここで、バックリングの値は、体系の形状によって異なり、代表的な形状に対しては、その値が一般的に決められている。一例として、体系が直方体の場合は、各辺の長さをx、y、zとすると、以下の数式4から求められる。
【0058】
【0059】
したがって、体系の組成および形状が指定されているとき、その体系が持つ無限増倍率および実効増倍率を評価することができる。
【0060】
一方で、事故により発生した燃料デブリの場合、様々な形状を持つ可能性と体系の内部の組成が非均質に分布している可能性が考えられる。したがって、より複雑な条件を含む体系に対応するために、評価用コンピュータ5は、シミュレーションによる実効増倍率の評価を行う。モンテカルロシミュレーションコードであるMCNPは、シミュレーションの体系中に中性子を発生させ、その中性子が核燃料と反応して核分裂を生じる反応を計算するプロセスを繰り返すことにより、体系が持つ実効増倍率を計算する。
【0061】
実効増倍率の計算は、1つのケースに対して、複数のサンプル条件で評価を行う。
図4から
図6に実効増倍率の評価用体系の例が示されている。
【0062】
図4は、通常体系(基準体系)である。収納容器7の内部に乾燥した燃料が含まれる条件である。これは、実際の計測におけるサンプルを再現した条件であり、増倍率は最も低くなる。
【0063】
図5は、減速材体系である。収納容器7の内部が減速材である水8で満たされ、さらに収納容器7の周辺が反射体である水8で囲まれた条件であり、単体の体系での最大の増倍率を評価する体系である。
【0064】
図6は、無限体系である。収納容器7の内部が減速材である水8で満たされた上に、同一の体系が無限に隣接する体系となっており、臨界安全上は最も厳しい条件である。この条件は核燃料を含む複数の収納容器7を保管する場合には、単体での中性子増倍だけでなく、隣接する体系からの中性子の入射も想定するものである。このような体系の評価を行うためには、同一の体系が無限に配置されている条件を想定した計算を行う必要がある。一般的にMCNPなどのモンテカルロコードでは、体系の境界面を全反射条件とすることで体系の外に流出した中性子が再度体系の中に流入する条件を再現する評価が行われる。
【0065】
以上の解析を行うことで、評価用コンピュータ5は、1つのケースに対して想定される最小の実効増倍率から、単一体系での最大実効増倍率、さらに複数の体系が隣接する場合の最大実効増倍率を評価することができる。
【0066】
以上の評価を1ケースとして、体系中に含まれる核燃料の量を変えた複数のケースでの評価が行われる。
【0067】
一例として、収納容器7の体系を500mm×500mm×500mmの立方体体系として、燃料として濃縮度5%のウランを含む二酸化ウラン(UO2)燃料の重量を変動させたときの、核燃料充填率と実効増倍率の関係を評価したものが示される。
【0068】
図7のグラフに収納容器7の内部の核燃料充填率に対する実効増倍率の関係が示される。実効増倍率は、設定した(a)通常体系、(b)減速材体系、(c)無限体系に対してそれぞれ評価される。ここで、それぞれの体系に対応する値を、実効増倍率(a)、実効増倍率(b)、実効増倍率(c)として説明する。
【0069】
実効増倍率(a)は、その体系自体の増倍率であるが、乾燥条件の場合、この値が1を超えて臨界となる可能性は極めて低い。
【0070】
実効増倍率(b)は、収納容器7単体の臨界可能性を評価した結果であり、収納容器7が水没した場合に、このグラフの増倍率となる可能性がある。収納容器7単体の未臨界を確認する場合は、この値が使用される。
【0071】
実効増倍率(c)は、同一の収納容器7を複数個並べて保管する条件を想定した上で、さらにその体系全体が水没した場合に、この増倍率となる可能性があり、最も厳しい評価結果となる。同一領域内に複数の収納容器7を保管する場合は、この値が参照される。
【0072】
図7のグラフに示されるように、核燃料の重量に対して、体系の実効増倍率は増減する。なお、ここで評価される実効増倍率は、解析からのみ求められる値で実際に計測することはできない。
【0073】
つぎに、評価用コンピュータ5は、作成したシミュレーションモデルを使用してミュオン散乱を評価する。
図1にミュオン散乱の計測体系の例が示されている。ミュオン散乱をシミュレーションする場合は、上段のミュオン軌跡検出器2の上方から下段のミュオン軌跡検出器2に向けてミュオンμを発生させる(入射ミュオン)。発生したミュオンμは、サンプルの物質を通過する際にクーロン多重散乱を起こすため、下段のミュオン軌跡検出器2で計測されるミュオンμ(散乱ミュオン)の軌跡が変動する。評価用コンピュータ5は、この上段と下段でのミュオンμの軌跡の変動をミュオン散乱値として記録する。
【0074】
ミュオン散乱の大きさは、サンプルの組成によって変動するため、サンプルの設定条件によりミュオン散乱のシミュレーション結果も変動する。
【0075】
ミュオン散乱をシミュレーションする場合には、
図4の通常体系でのみ解析が行われる。これは、通常の計測においては、臨界管理上最も安全な乾燥状態で計測を行うため、
図5の減速材体系と
図6の無限体系での計測は、実際には想定されていないためである。以上のような条件で、実効増倍率の解析と同様に、評価用コンピュータ5は、核燃料重量を変動させた条件で燃料重量に対するミュオン散乱の値を評価する。
【0076】
図8のグラフに収納容器7の内部の核燃料充填率とミュオン散乱の関係が示される。グラフに示すように体系中の核燃料重量に応じてミュオン散乱角が変動する。なお、実際の値が計測できない実効増倍率とは異なり、ミュオン散乱の値は、実際に計測可能な値である。
【0077】
ここで、計測により体系の未臨界度を評価するためには、計測値と未臨界度の関係性を示す関数を作成する必要がある。
【0078】
前述のシミュレーション評価プロセスから、設定したケースに対する実効増倍率の最小値および最大値と、ミュオン散乱の値が評価される。これらの値を組み合わせることで、ミュオン散乱からその体系の実効増倍率の最小値と最大値を導出する関数が作成される。
【0079】
図9のグラフにミュオン散乱から実効増倍率を導出する関数が示される。導出される実効増倍率は、体系が乾燥した基準条件の(a)通常体系に加えて、体系が減速材で満たされた条件の(b)減速材体系、減速材で満たされた体系が隣接する条件の(c)無限体系での評価結果がそれぞれ示されている。それぞれの評価関数を、評価関数(a)、評価関数(b)、評価関数(c)として説明する。
【0080】
以上の評価結果から、計測値からその体系が取り得る最大の実効増倍率を評価することができる。
【0081】
つぎに、計測段階において、評価用コンピュータ5は、核燃料を含む計測対象に対してミュオン散乱の計測を行う。
【0082】
評価用コンピュータ5は、
図1に示す計測体系のように、上下2台のミュオン軌跡検出器2により、計測対象である対象物6を含む収納容器7を挟む体系を作成する。ここで、対象物6は、核燃料を含む物質が想定されている。
【0083】
シミュレーションでの評価と同様に、ミュオン散乱の大きさは、収納容器7に含まれる核燃料の割合に応じて増加する。ただし、実測の際には、収納容器7の内部に含まれる核燃料の値が不明であるため、その臨界評価を直接行うことはできない。
【0084】
計測された計測値(ミュオン散乱の値)は、計測値集積部23(
図2)に送られて集積される。計測値は、統計量であるため、解析の際には、その平均値など統計的に処理した値が用いられる。この計測値が評価関数に入力されることで実効増倍率に変換される。
【0085】
評価用コンピュータ5は、以上のプロセスにより計測値から、その体系が持つ実効増倍率を導出することができる。
【0086】
つぎに、事後評価において、評価用コンピュータ5は、計測値から求められた実効増倍率から、体系の未臨界を判定する。未臨界の判定に用いる実効増倍率は、想定条件により異なる。一般的な判定条件として、計測に係る誤差が少ないと想定される場合は、keff=0.98、誤差が大きいと予想される場合は、keff=0.95などが基準条件となる。
【0087】
一例として、keff=0.95が未臨界条件とした場合は、評価関数から導出された実効増倍率が0.95未満となった場合に、その体系は、未臨界と判定される。
【0088】
ここで、評価関数(b)が0.95未満であれば、その体系は、単体で未臨界が担保される。また、評価関数(c)が0.95未満であれば、その体系を複数隣接させた条件でも未臨界が担保される。したがって、評価関数(c)で未臨界が担保された場合は、同等の収納容器7を複数個並べたり積層させたりして保管することが可能である。しかしながら、評価関数(b)でのみ未臨界となる場合は、複数の容器を並べた場合に臨界となる可能性があるため、複数の収納容器7を同一の領域に保管することはできない。
【0089】
つぎに、非均質効果の影響評価について説明する。例えば、前述の核燃料未臨界計測方法を基準として、より安全な評価を行うために、核燃料の非均質効果を考慮する方法が考えられる。
【0090】
例えば、評価用コンピュータ5(
図2)は、体系をシミュレーションモデルとして再現し、シミュレーションモデルで核燃料を非均質形状に設定し、計測値の解析結果と実効増倍率の解析結果と評価関数の少なくとも1つを作成する。これらの処理は、計測値評価部20と増倍率評価部21と評価関数作成部22の少なくとも1つが実行する。
【0091】
核燃料を対象物6と水8などの減速材が混合した減速材体系(
図5)においては、両者が均質に混合した条件よりも特定の条件で非均質に存在している方が中性子の増倍が起こりやすくなる現象が知られており、これを非均質効果という。
【0092】
特に、軽水炉で用いられる燃料集合体の様に燃料棒が一定の間隔で格子状に配置されている条件では非均質効果が高い。臨界安全の観点では、体系が取り得る最も高い増倍率を想定することが求められる。したがって、事前解析の際に、サンプル体系中の燃料を格子状の非均質体系とすることで、その体系が取り得る最も高い実効増倍率を計算することができる。非均質効果を反映した増倍率は、その後の未臨界評価プロセスに用いる未臨界評価関数に反映することで、より安全性の高い、核燃料未臨界計測方法とすることができる。
【0093】
つぎに、混合物の影響評価について説明する。前述の実施形態では、主に、臨界に影響を与える効果の高い核燃料と減速材に注目して評価が行われている。しかしながら、事故により発生した燃料デブリなどでは、核燃料に加えて原子炉内の構造物などが混入している可能性がある。
【0094】
このような混合物の影響を評価するために、シミュレーション条件に核燃料以外の物質組成を入れて解析を行う方法が考えられる。物質の組成およびその含有割合が既知の場合は、その値を使用することで、計測条件を再現可能である。しかしながら、未知の場合は、混合物の組成およびその含有量をパラメータとして変動させて評価が行われる。
【0095】
例えば、評価用コンピュータ5(
図2)は、体系をシミュレーションモデルとして再現し、シミュレーションモデルで核燃料とその他の構造物を含有物質として設定し、計測値の解析結果と実効増倍率の解析結果と評価関数の少なくとも1つを作成する。これらの処理は、計測値評価部20と増倍率評価部21と評価関数作成部22の少なくとも1つが実行する。
【0096】
最終的には、前述の実施形態と同様に、計測値から実効増倍率を推定する評価関数が作成される。ここで、変動要因がある場合、計測値と実効増倍率は、ばらつきを持つ散布図として作成される。この場合、最小二乗法などを用いたフィッティングなどの近似を用いて評価関数を作成することができる。
【0097】
以上のように第1実施形態によれば、事前情報が少ない核燃料物質を計測するときに、計測した体系の最大実効増倍率を評価することで、体系の臨界管理を行うことができる。
【0098】
なお、前述の実施形態では、宇宙線のミュオンμを用いたミュオン散乱法で計測が行われているが、その他の態様でもよい。例えば、人工的に発生させたミュオンμの利用が考えられる。宇宙線のミュオンμは、大気中で発生した自然のミュオンμであるが、加速器などを利用して人工的にミュオンμを生成することも可能である。この人工的に作り出されたミュオンμが、前述の実施形態に適用されるものでもよい。
【0099】
(第2実施形態)
つぎに、第2実施形態について
図10を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0100】
第2実施形態では、ミュオンμ以外の放射線を用いて計測が行われる。ミュオン散乱法は、透過力が高く、中性子吸収材および遮蔽材による影響が少ないため、最も適した計測方法であるが、他の計測方法を用いた場合でも、計測精度の低下が予測されるものの、原理的には評価を行うことができる。例えば、X線ラジオグラフィ、X線CTなどのX線の利用が考えられる。また、中性子ラジオグラフィが挙げられる。さらに、核燃料から放出される中性子またはガンマ線の利用が考えられる。
【0101】
第2実施形態の核燃料未臨界計測システム1は、X線発生器30とX線検出器31とを備える。X線発生器30とX線検出器31とは、評価用コンピュータ5に接続されている。
【0102】
X線発生器30とX線検出器31とは、収納容器7(
図1)を挟むように配置され、X線発生器30から放射される放射線としてのX線が、収納容器7および対象物6(
図1)を通過し、X線検出器31で検出される。このX線検出器31が、第2実施形態の放射線検出器となっている。
【0103】
X線検出器31は、対象物6を通過したX線を計測し、その値が評価用コンピュータ5に入力される。そして、評価用コンピュータ5は、計測値から増倍率を導出する評価関数を作成する。
【0104】
第2実施形態によれば、ミュオン軌跡検出器2のような大掛かりな機器が必要無くなり、比較的小型なX線発生器30から放射されるX線を利用して、体系の最大実効増倍率を評価することができる。
【0105】
(第3実施形態)
つぎに、第3実施形態について
図11を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0106】
第3実施形態の核燃料未臨界計測システム1は、中性子発生器32と中性子検出器33とを備える。中性子発生器32と中性子検出器33とは、評価用コンピュータ5に接続されている。
【0107】
中性子発生器32と中性子検出器33とは、収納容器7(
図1)を挟むように配置され、中性子発生器32から放射される放射線としての中性子が、収納容器7および対象物6(
図1)を通過し、中性子検出器33で検出される。この中性子検出器33が、第3実施形態の放射線検出器となっている。
【0108】
中性子検出器33は、対象物6を通過した中性子を計測し、その値が評価用コンピュータ5に入力される。そして、評価用コンピュータ5は、計測値から増倍率を導出する評価関数を作成する。
【0109】
第3実施形態によれば、ミュオン軌跡検出器2のような大掛かりな機器が必要無くなり、中性子発生器32から放射される中性子を利用して、体系の最大実効増倍率を評価することができる。
【0110】
(第4実施形態)
つぎに、第4実施形態について
図12を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0111】
第4実施形態の核燃料未臨界計測システム1は、中性子検出器34とガンマ線検出器35とを備える。中性子検出器34とガンマ線検出器35とは、評価用コンピュータ5に接続されている。
【0112】
中性子検出器34とガンマ線検出器35とは、収納容器7の内部に配置され、核燃料を含む対象物6(
図1)から放射される放射線としての中性子およびガンマ線が、中性子検出器34およびガンマ線検出器35で検出される。中性子検出器34とガンマ線検出器35とが、第4実施形態の放射線検出器となっている。
【0113】
中性子検出器33は、対象物6から放射される中性子を計測し、その値が評価用コンピュータ5に入力される。また、ガンマ線検出器35は、対象物6から放射されるガンマ線を計測し、その値が評価用コンピュータ5に入力される。そして、評価用コンピュータ5は、計測値から増倍率を導出する評価関数を作成する。
【0114】
第4実施形態によれば、中性子発生器32のような放射線を発生させる機器が必要無くなり、対象物6から放射される放射線を利用して、体系の最大実効増倍率を評価することができる。
【0115】
なお、第4実施形態では、核燃料未臨界計測システム1が、中性子検出器34とガンマ線検出器35の双方を備える形態を例示しているが、その他の形態でもよい。例えば、核燃料未臨界計測システム1が、中性子検出器34またはガンマ線検出器35のいずれか一方を備え、中性子またはガンマ線のいずれか一方を計測するものでもよい。
【0116】
第2から第4実施形態のように、計測方法を変えた場合において、核燃料未臨界計測システム1は、それぞれ解析ケースに対して、適用する計測方法の計測値を再現するシミュレーションを行うことで、計測値から増倍率を導出する評価関数を作成する。また、前述の複数の計測方法を組み合わせて計測することで、精度を向上させることもできる。
【0117】
以上、本発明が第1実施形態から第4実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。例えば、第2から第4実施形態の核燃料未臨界計測システム1が、追加的に第1実施形態のミュオン軌跡検出器2を備えるものでもよい。
【0118】
なお、前述のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わってもよい。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されてもよい。
【0119】
前述の評価用コンピュータ5は、制御デバイスと記憶デバイスと出力デバイスと入力デバイスと通信インターフェースとを備える。ここで、制御デバイスは、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、専用のチップなどの高集積化させたプロセッサを含む。記憶デバイスは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)などを含む。出力デバイスは、ディスプレイパネル、ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクタ、プリンタなどを含む。入力デバイスは、マウス、キーボード、タッチパネルなどを含む。この評価用コンピュータ5は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0120】
なお、前述の評価用コンピュータ5で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルとして、コンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。この記憶媒体は、CD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などを含む。
【0121】
また、この評価用コンピュータ5で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、この評価用コンピュータ5は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0122】
なお、前述の例では、評価用コンピュータ5が各種の処理(評価、作成、設定などの各種の処理を含む)を行う態様を例示しているが、その他の態様でもよい。例えば、前述の各種の処理のうち、一部の処理をユーザが行い、その処理結果の入力を評価用コンピュータ5が受け付けて自身の処理に用いてもよい。
【0123】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、計測値と評価関数から実効増倍率を計算して体系の未臨界度を評価することにより、事前情報が少ない核燃料の核分裂反応に影響を与える体系の最大実効増倍率を評価して核燃料の臨界管理を行うことができる。
【0124】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0125】
1…核燃料未臨界計測システム、2…ミュオン軌跡検出器、5…評価用コンピュータ、6…対象物、7…収納容器、8…水、10…処理回路、11…入力部、12…出力部、13…記憶部、14…通信部、20…計測値評価部、21…増倍率評価部、22…評価関数作成部、23…計測値集積部、24…未臨界評価部、30…X線発生器、31…X線検出器、32…中性子発生器、33,34…中性子検出器、35…ガンマ線検出器、μ…ミュオン。