(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172756
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両の特性制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20241205BHJP
B60W 10/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60W10/04
B60W10/22
B60W10/00 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090693
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】丸茂 宏貴
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241AA31
3D241AC04
3D241AD03
3D241AD10
3D241AF07
(57)【要約】
【課題】車両の特性を、ドライバの交代などの際に違和感を与え難くしながら、ドライバの嗜好に沿うように変更可能にする。
【解決手段】特性制御装置の制御装置のメモリは、車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、互いに異なる複数の車両の特性の制御目標値を対応付けて記録する。制御装置の制御実行部は、車両のドライバに応じたパーソナル特性情報としての車両の特性の制御目標値を取得し、対応する制御値を生成して装備部材へ出力する。車両のドライバが交代する際、制御実行部は、交代前の制御を実行する交代前期間と、交代後の制御を実行する交代後期間との間に、遷移期間を設け、交代の前後の制御目標値との間の特性の制御目標値による制御を実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、前記車両の特性に寄与する装備部材と、
前記装備部材が接続され、前記装備部材へ制御値を出力する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、互いに異なる複数の車両の特性の制御目標値を対応付けて記録するメモリと、制御実行部と、を有し、
前記制御実行部は、
前記車両のドライバに応じて、前記メモリに記録されている複数のパーソナル特性情報から、前記ドライバに対応するパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値を取得し、
取得している前記車両の特性の制御目標値に対応する制御値を生成して、前記装備部材へ出力する、ものであり、
前記制御実行部は、さらに、
前記車両のドライバが交代して、前記メモリから取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、
交代前の前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に、前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値と前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値との間の前記車両の特性の制御目標値により制御を実行する遷移期間を設け、前記遷移期間の後に、前記交代後期間の制御を開始する、
車両の特性制御装置。
【請求項2】
前記制御実行部は、
前記遷移期間での制御のために、交代前の前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値と、交代後の前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値との差が大きいほど、大きな値となる遷移レートを取得し、
前記遷移期間では、前記遷移レートで変化する前記車両の特性の制御目標値を演算により取得することを繰り返し、演算により取得する各前記車両の特性の制御目標値に対応する制御値を生成する、
請求項1記載の、車両の特性制御装置。
【請求項3】
前記メモリは、複数のパーソナル特性情報としての、複数の前記車両の特性の制御目標値の各々と対応付けて、前記車両の特性の制御目標値と昇順で対応する複数の参照番号の値を記録し、
前記制御実行部は、
交代前の前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値に対応する第一の参照番号の値と、交代後の前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値に対応する第二の参照番号の値との差を用いて、前記第一の参照番号の値と前記第二の参照番号の値との差が大きいほど大きな値となる遷移レートを演算して取得する、
請求項2記載の、車両の特性制御装置。
【請求項4】
前記メモリは、前記車両の車重範囲ごとの複数の補正値を記録し、
前記制御実行部は、
前記車両の重さが変化する場合、前記メモリから前記車両の重さが属する前記重量範囲の補正値を取得し、
取得する前記補正値を用いて、前記車両の制御に用いる前記車両の特性の制御目標値を増減させる、
請求項3記載の、車両の特性制御装置。
【請求項5】
前記車両に設けられ、前記車両を加速させるために前記車両のドライバにより操作されるアクセルペダル、を有し、
前記装備部材は、車両に設けられ、前記車両を加速させることができる駆動系部材であり、
前記制御装置は、前記駆動系部材、および前記アクセルペダルが接続され、前記アクセルペダルに対するドライバの操作に応じた制御値を、前記駆動系部材へ出力し、
前記制御装置の前記メモリは、前記車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、ドライバごとの複数の加速度の制御目標値を取得可能に記録する、
請求項1から4のいずれか一項記載の、車両の特性制御装置。
【請求項6】
前記装備部材は、車両に設けられ、前記車両への衝撃入力を緩和するサスペンション部材であり、
前記制御装置は、前記サスペンション部材が接続され、前記サスペンション部材の挙動を制御するための制御値を、前記サスペンション部材へ出力し、
前記制御装置の前記メモリは、前記車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、ドライバごとの複数のロールの制御目標値を取得可能に記録し、
請求項1から4のいずれか一項記載の、車両の特性制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の特性制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車といった車両には、車両が走行するために、エンジンなどの動力発生部材、トランスミッション部材、サスペンション部材、制動部材、操舵部材、などが設けられる。
そして、車両は、ドライバのアクセルペダルの操作に応じて動力発生部材により駆動力を発生し、駆動力をトランスミッション部材により増減し、車輪を駆動することにより、加速して走行できる。車両は、ドライバのブレーキペダルの操作に応じて制動部材により車輪の回転を抑制することにより、減速して停止できる。車両は、ドライバのステアリングの操作に応じて操舵部材により車輪の向きを変えることにより、進行方向を変えることができる。
また、車両は、走行中の路面などからの衝撃入力を、サスペンション部材の弾性機構やダンパ機構により減衰して吸収することができる。方向転換中の車両は、サスペンション部材があることにより、ロールする。
このように、車両に設けられる装備部材は、車両の特性に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-163893号公報
【特許文献2】特開2001-253219号公報
【特許文献3】特開昭62-151655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両に設けられる装備部材には、車両に設けられる制御装置から制御値が入力されることにより、装備部材の特性を変化可能なものがある。
たとえば、サスペンション部材は、そのダンパ機構の減衰特性や、スプリングバネなどによる弾性部材の特性を、設定により変更することができる。たとえば、サスペンション部材が弾性し易い特性である場合、車両は、サスペンション部材が弾性し難い特性である場合と比べて、ロールし易くなる。ただし、路面からの入力を、サスペンション部材で吸収し易くなる。
この他にもたとえば、エンジンなどの動力発生部材とトランスミッション部材との組み合わせによる駆動系部材は、動力発生部材の出力とトランスミッション部材の減速比との組み合わせにより、ある速度からの加速特性を変更することが可能である。たとえば、動力発生部材の出力を小さくするとともにトランスミッション部材の減速比を1に近づける第一の場合と、動力発生部材の出力を大きくするとともにトランスミッション部材の減速比を0に近づける第二の場合とで、車両は同じ速度で走行していたとしても、そこからの加速特性が異なる。そして、第一の場合、車両は、第二の場合と比べて加速し難い特性になる。車両は、急激な加速をし難くなり、マイルドに走行できる。
これらの車両の特性には、ドライバごとに異なる嗜好がある。
【0005】
特許文献1から3は、車両に設けられる装備部材の特性を変化させるための技術を開示する。
しかしながら、特許文献1から3の技術では、車両のドライバが交代する場合、車両に設けられる装備部材の特性は、交代前のドライバの特性から、交代後のドライバの特性へと即時的に変更される。この場合、交代後のドライバは、交代前から車両にいる場合に、それまでとは大きく異なるように変化する車両の特性について、違和感を受ける可能性がある。
【0006】
このように、車両では、車両の特性を、ドライバの交代などの際に違和感を与え難くしながら、ドライバの嗜好に沿うように変更可能にすることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の一形態に係る車両の特性制御装置は、車両に設けられ、前記車両の特性に寄与する装備部材と、前記装備部材が接続され、前記装備部材へ制御値を出力する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、互いに異なる複数の車両の特性の制御目標値を対応付けて記録するメモリと、制御実行部と、を有し、前記制御実行部は、前記車両のドライバに応じて、前記メモリに記録されている複数のパーソナル特性情報から、前記ドライバに対応するパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値を取得し、取得している前記車両の特性の制御目標値に対応する制御値を生成して、前記装備部材へ出力する、ものであり、前記制御実行部は、さらに、前記車両のドライバが交代して、前記メモリから取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、交代前の前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に、前記第一のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値と前記第二のパーソナル特性情報としての前記車両の特性の制御目標値との間の前記車両の特性の制御目標値により制御を実行する遷移期間を設け、前記遷移期間の後に、前記交代後期間の制御を開始する、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、制御装置のメモリに、車両を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報として、互いに異なる複数の車両の特性の制御目標値を対応付けて記録する。
そして、制御装置の制御実行部は、車両のドライバに応じて、メモリに記録されている複数のパーソナル特性情報から、ドライバに対応するパーソナル特性情報としての車両の特性の制御目標値を取得する。また、制御実行部は、取得している車両の特性の制御目標値に対応する制御値を生成して、装備部材へ出力する。これにより、車両は、車両にいるドライバに応じて、ドライバの嗜好に沿う車両の特性を提供することができる。
しかも、本発明において、制御装置の制御実行部は、車両のドライバが交代して、メモリから取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合に、次の処理を実行する。制御実行部は、まず、交代前の第一のパーソナル特性情報としての車両の特性に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての車両の特性の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に、遷移期間を設ける。そして、制御実行部は、遷移期間において、第一のパーソナル特性情報としての車両の特性の制御目標値と第二のパーソナル特性情報としての車両の特性の制御目標値との間の車両の特性の制御目標値により制御を実行する。これにより、車両のドライバが交代した場合での、車両の特性は、交代前のものから交代後のものへと即時的に変化し難くなる。その結果、交代後のドライバは、ドライバ交代による車両特性の変化について、交代前から車両にいたとしても違和感を受け難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車に設けられる、本発明の第一実施形態に係る自動車の特性制御装置として機能する、自動車の駆動装置の説明図である。
【
図3】
図3は、
図2の駆動メモリに記録される、複数のパーソナル特性情報の一例の説明図である。
【
図4】
図4は、
図3の複数のパーソナル特性情報に基づく、複数のドライバの加速度の制御目標値を示す図である。
【
図5】
図5は、
図2の駆動メモリに記録される、ドライバごとの特性値の一例の説明図である。
【
図6】
図6は、
図2の駆動CPUが周期的に実行する、加速制御のフローチャートの一例である。
【
図7】
図7は、
図2の駆動CPUが実行可能な、ドライバ交代を考慮した、自動車の特性の一例としての加速度の制御目標値の取得制御のフローチャートの一例である。
【
図8】
図8は、自動車のドライバ交代時の、走行制御に用いる加速度の制御目標値を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8の遷移期間での加速度の制御目標値の取得方法を説明する図である。
【
図10】
図10は、
図2の駆動CPUが
図6のステップST4で実行可能な、車重変化対応制御のフローチャートの一例である。
【
図11】
図11は、本発明の第二実施形態において、自動車の特性制御装置として機能する自動車の駆動装置の駆動メモリに記録される、車重別の制御目標値の補正値の一例の説明図である。
【
図12】
図12は、本発明の第二実施形態において、
図2の駆動CPUが実行可能な、ドライバ交代および車重変化を考慮した、自動車の特性の一例としての加速度の制御目標値の取得制御のフローチャートの一例である。
【
図13】
図13は、
図1の自動車に設けられる、本発明の第三実施形態に係る自動車の特性制御装置として機能する、自動車の挙動調整装置の説明図である。
【
図14】
図14は、
図13の挙動メモリに記録される、複数のパーソナル特性情報の一例の説明図である。
【
図15】
図15は、
図13の駆動メモリに記録される、ドライバごとの特性値の一例の説明図である。
【
図16】
図16は、本発明の第三実施形態における、自動車のドライバ交代時の、走行制御に用いる加速度の制御目標値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0011】
[第一実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の説明図である。
自動車1は、車両の一例である。車両には、この他にもたとえば、モータサイクル、パーソナルモビリティ、レジャーボート、などがある。
【0012】
図1の自動車1は、車体2を有する。車体2の四角には、複数の車輪8が設けられる。車輪8は、不図示のアームおよびサスペンション部材により、車体2に取り付けられる。複数の車輪8は、路面に接地する。これにより、車体2は、複数の車輪8により、路面から浮く。なお、サスペンション部材は、後述するように、弾性部材、ダンパ部材、を有してよい。
車体2の車室には、複数のシート3,4が前後に並べて設けられる。複数のシート3,4には、自動車1の走行操作をするドライバを含む複数の乗員が着座できる。
図1では、ドライバは、前側のシート3に着座する。このため、前側のシート3の近くには、ドライバが自動車1を走行させるために操作する操作部材として、ステアリング6、アクセルペダル7、ブレーキペダル、シフトレバー、が設けられてよい。後側のシート4の後側には、荷室のための荷室床5が設けられる。
【0013】
このような自動車1は、乗車するドライバが操作部材を操作することにより、道路を走行することができる。たとえば、ドライバがアクセルペダル7を踏み込むように操作することにより、エンジンなどの動力発生部材が発生した駆動力がトランスミッションなどを通じて車輪8へ伝達され、車輪8が駆動され、自動車1は加速する。ドライバがブレーキペダルを踏み込むように操作することにより、車輪8の回転が抑制されて、自動車1は減速して最終的には停止する。ドライバがステアリング6を回転操作することにより、車輪8の向きが変化して、進行方向を変えることができる。
また、自動車1は、走行中に、挙動が変化する。自動車1は、加速する場合、後側のサスペンション部材が縮短し、車体2は前上がりの姿勢になることがある。自動車1は、加速する場合、前側のサスペンション部材が縮短し、車体2は前下がりの姿勢になることがある。自動車1は、操舵などにより向きを変える場合、回転方向での外側のサスペンション部材が縮短し、車体2は回転の外側が内側より下がる姿勢になることがある。
これらの操作に対する自動車1の走行状態の変化や、自動車1の挙動は、自動車1の乗り心地などを決定する。自動車1に設けられるこれらの装備部材は、自動車1の走行時の特性に寄与することになる。
【0014】
したがって、自動車1には、自動車1を運転操作するドライバごとに異なる、各ドライバの嗜好に応じた特性を提供できることが、潜在的に求められている。
また、このように自動車1の特性が、各ドライバの嗜好に応じて変化する場合、その変化についてドライバが違和感を受けないようにすることも大切であると考えられる。たとえば
図1のID=001の第一ドライバから、ID=002の第二ドライバへと自動車1のドライバが交代する場合に、自動車1は、それに設けられる上述するような自動車1の各種の装備部材の特性を、交代前の第一ドライバの特性から、交代後の第二ドライバの特性へと変更することが考えられる。しかしながら、自動車1の特性が即時的に変更されると、交代後の第二ドライバは、その変化が何に起因して生じていることを理解できずに、違和感を受ける可能性がある。特に、交代後の第二ドライバが、交代前から自動車1に乗っていた場合、それまでとは体感的に大きく異なるように即時的に変化する自動車1の特性について、違和感を受け、自動車1の状態について不安になる、可能性がある。
このように、自動車1には、ドライバの嗜好に沿う自動車1の特性を、自動車1のドライバの交代などの際の違和感を与え難くしながら、各ドライバへ提供できるようにすることが望まれる。
また、自動車1の特性は、
図1のように、自動車1の荷室に、荷物が載せられることによっても変化することがある。
【0015】
図2は、
図1の自動車1に設けられる、本発明の第一実施形態に係る自動車1の特性制御装置として機能する、自動車1の駆動装置10の説明図である。
図2の自動車1の駆動装置10は、自動車1の加速を制御するための走行制御装置である。駆動装置10は、アクセルペダル7、乗員監視装置(DMS:Driver Monitoring System)31、加速度センサ32、駆動系部材20、および、これらが接続される駆動制御装置11、を有する。駆動制御装置11は、駆動入出力ポート12、駆動タイマ13、駆動メモリ14、駆動CPU15(Central Processing Unit)、および、これらが接続される駆動内部バス16、を有する。
【0016】
駆動系部材20は、スロットルバルブ21、エンジン22、トランスミッション23、などを有する。スロットルバルブ21は、エンジン22へ供給される燃料ガスや混合器の量をバルブ開度により調整する。エンジン22は、供給される燃料ガスや混合器を燃焼させて駆動力を発生する。トランスミッション23は、エンジン22が発生する駆動力を減速して、車輪8へ伝える。これにより、自動車1は、加速し、走行することができる。
スロットルバルブ21を開くと、エンジン22は大きな駆動力を発生し得る。トランスミッション23は、たとえばCVT(Continuously Variable Transmission)方式のものでよい。この場合、トランスミッション23は、エンジン22が発生する駆動力を無段階で減速することができる。トランスミッション23の減速比が小さい場合、車輪8には大きなトルクが作用し易くなり、自動車1の加速性能が高まる。トランスミッション23の減速比が大きい場合、自動車1は、高い速度で走行し易くなる。このため、駆動系部材20は、動力発生部材の出力とトランスミッション23の減速比との組み合わせにより、ある速度からの加速特性を異ならせるように変更可能である。たとえば、エンジン22の駆動力の出力を小さくするとともにトランスミッション23の減速比を1に近づける第一の場合と、エンジン22の駆動力の出力を大きくするとともにトランスミッション23の減速比を0に近づける第二の場合とで、自動車1は同じ速度で走行することが可能である。ただし、第一の場合は、第二の場合と比べて加速し難い特性となる。自動車1は、急激な加速をし難い特性となり、マイルドに走行できる。逆に、第二の場合は、第一の場合と比べて加速し易い特性となる。自動車1は、急激な加速をし易い特性となり、キビキビとして走行できる。このような自動車1の加速特性は、ドライバの嗜好に沿うように変更し得る。
【0017】
アクセルペダル7は、自動車1に設けられ、自動車1を加速させるために自動車1のドライバにより操作される操作部材である。アクセルペダル7は、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12に接続される。アクセルペダル7は、ドライバの踏込による操作量の情報を、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12へ出力してよい。
【0018】
乗員監視装置31は、自動車1の車室を監視し、自動車1のドライバを含む乗員を認識し、各乗員の状態を監視する。乗員監視装置31は、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12に接続されてよい。乗員監視装置31は、たとえば、自動車1のドライバの認識情報を、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12へ出力してよい。
【0019】
加速度センサ32は、走行する自動車1の加速度を検出する。加速度センサ32は、たとえば、自動車1の前後方向の加速度、車幅方向である左右方向の加速度、上下方向の加速度を検出する3軸のものでよい。また、加速度センサ32は、検出する3軸方向の加速度を変換して、自動車1のピッチ、ロール、ヨーの各方向の加速度を生成してよい。加速度センサ32は、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12に接続されてよい。加速度センサ32は、たとえば自動車1のピッチ、ロール、ヨーの各方向の加速度の情報を、駆動制御装置11の駆動入出力ポート12へ出力してよい。
【0020】
駆動入出力ポート12は、駆動制御装置11の入出力ポートである。
【0021】
駆動タイマ13は、時刻、時間を計測する。
【0022】
駆動メモリ14は、駆動CPU15が使用するプログラムや、駆動入出力ポート12から入出力する情報や設定情報を含む各種の情報を、記録する。駆動メモリ14は、たとえばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Device)などを組み合わせたものでよい。
図2には、駆動メモリ14に記録される情報として、駆動制御のための、複数のパーソナル特性情報17、ドライバごとの特性値18、車重別の補正値19、が例示されている。
【0023】
駆動CPU15は、駆動メモリ14に記録されているプログラムを読み込んで実行する。これにより、駆動制御装置11には、駆動制御実行部、が実現される。
駆動制御実行部としての駆動CPU15は、自動車1の駆動制御装置11のための各種の制御を実行する。
たとえば、駆動制御装置11には、少なくとも、駆動系部材20と、アクセルペダル7と、が接続される。この場合、駆動制御実行部としての駆動CPU15は、駆動制御装置11において、アクセルペダル7から操作量の情報を取得して、アクセルペダル7に対するドライバの操作に応じた制御値を生成し、駆動系部材20のスロットルバルブ21やトランスミッション23へ出力できる。
【0024】
図3は、
図2の駆動メモリ14に記録される、複数のパーソナル特性情報17の一例の説明図である。
ここで、パーソナル特性情報とは、自動車1を運転するドライバが好ましいと感じ得る自動車1の特性の情報をいう。このようなパーソナル特性情報には、たとえば、加減速度特性、速度や加速度の上下限の設定、自動運転などでの障害物回避支援の際の当該障害物からの横回避距離や通過速度などの設定、アクセルペダル7の踏み込み操作の変化量に対して発生させる加速度の特性、ブレーキペダルの踏み込み操作量に対して発生させる減速度の特性、ステアリング6の操舵に対して発生させる車輪8の向きの特性、サスペンション部材50の特性に応じたロール特性、駆動力配分の割合の設定、などが挙げられる。
図3の複数のパーソナル特性情報17のテーブルには、自動車1のドライバごとのパーソナル特性情報として使用可能な、複数の加速度の目標レートが記載されている。加速度の目標レートの単位[m/sec∧2]の「∧」は、べき乗を意味する。
図3のテーブルにおいて、複数の加速度の目標レートは、昇順に並んでいる。また、各加速度の制御目標値には、それと昇順で対応する複数の参照番号の値が、対応付けて記録される。
【0025】
図4は、
図3の複数のパーソナル特性情報17に基づく、複数のドライバの加速度の制御目標値を示す図である。
図4のグラフにおいて、横軸は、アクセルペダル7の操作の変化量である。アクセルペダル7は、踏み込んでいない状態から、最後まで踏み込んだ状態まで、操作することができる。これが、100%の操作の変化量である。
図4のグラフの縦軸は、パーソナル特性情報に基づく加速度の制御目標値である。
そして、
図4のグラフには、
図3の参照番号「1」、参照番号「2」、および参照番号「5」に対応する、3つの加速度の制御目標値の特性線が示されている。参照番号「1」の特性線は、加速度の目標レートが最も小さいため、アクセルペダル7の操作の変化量が大きくなっても、小さい加速度の制御目標値をとる。参照番号「5」の特性線は、加速度の目標レートが最も大きいため、アクセルペダル7の操作の変化量が小さくても、大きな加速度の制御目標値をとる。参照番号「2」の特性線は、参照番号「1」の特性線と参照番号「5」の特性線との間の加速度の制御目標値をとる。
【0026】
図5は、
図2の駆動メモリ14に記録される、ドライバごとの特性値18の一例の説明図である。
図5のテーブルには、
図1の自動車1の複数のドライバが、ドライバごとのIDにより識別可能に含まれる。各行は、各ドライバに対応する。そして、各行のドライバのIDには、そのドライバの特性値が対応付けられている。なお、各行のドライバのIDには、そのドライバの複数の特性値を対応付けることが可能である。
そして、
図5のテーブルでは、ID=001の第一ドライバの特性値として「1」が対応付けて記録されている。また、ID=002の第二ドライバの特性値として「5」が対応付けて記録されている。
また、
図5の特性値は、
図3のテーブルに含まれる複数の参照番号の値の中から、ドライバごとに選択されたものである。すなわち、第一ドライバが好ましいと感じる自動車1の加速度特性は、
図3の参照番号の値「1」から「5」の中の「1」であることから、特性値として「1」が対応付けられている。また、第二ドライバが好ましいと感じる自動車1の加速度特性は、
図3の参照番号の値「1」から「5」の中の「5」であることから、特性値として「5」が対応付けられている。なお、各ドライバの好ましいと感じる自動車1の加速度特性は、たとえば事前のアンケートなどに基づいて解析して特定することが可能である。
そして、本実施形態では、
図3の複数のパーソナル特性情報17のテーブルとは別に、
図5のドライバごとの特性値18のテーブルを、
図2の駆動メモリ14に記録している。これにより、たとえば、自動車1を開発する段階では、
図3の複数のパーソナル特性情報17のテーブルを記録し、その後の販売の段階では、
図5のドライバごとの特性値18のテーブルを記録する、ようにすることができる。
【0027】
図6は、
図2の駆動CPU15が周期的に実行する、加速制御のフローチャートの一例である。
駆動制御実行部としての駆動CPU15は、
図6の加速制御を、周期的に繰り返しに実行する。
【0028】
ステップST1において、駆動CPU15は、自動車1のアクセルペダル7に対するドライバによるアクセルペダル7の操作量の情報を取得する。
【0029】
ステップST2において、駆動CPU15は、ステップST1で取得するアクセルペダル7の操作量と、たとえば前回取得しているアクセルペダル7の操作量との差分により、アクセルペダル7の操作の変化量を演算する。アクセルペダル7の操作量に変化がない場合、操作の変化量は「0」である。
【0030】
ステップST3において、駆動CPU15は、ステップST2で演算しているアクセルペダル7の操作の変化量に基づいて、ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応する加速度の制御目標値を取得する。たとえば乗員監視装置31の情報により、自動車1のドライバがID=001の第一ドライバであると特定している場合、駆動CPU15は、
図5のテーブルにおけるID=001の第一ドライバの特性値「1」を取得し、
図3のテーブルにおいて特性値「1」と同じ値の参照番号「1」のパーソナル特性情報、すなわち
図3の第一行の加速度の目標レートを取得する。そして、駆動CPU15は、アクセルペダル7の操作の変化量と、
図4の参照番号「1」の特性線とに基づいて、ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応する加速度の制御目標値を取得する。これにより、駆動CPU15は、自動車1のドライバに応じて、駆動メモリ14に記録されている複数のパーソナル特性情報17から、ドライバに対応するパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値を取得することができる。
【0031】
ステップST4において、駆動CPU15は、ステップST4で取得する加速度の制御目標値に対応する制御値を演算する。駆動CPU15は、スロットルバルブ21のバルブ開度についての制御値を演算する。また、駆動CPU15は、トランスミッション23の減速比についての制御値などを併せて演算してもよい。
【0032】
ステップST5において、駆動CPU15は、ステップST4において演算した制御値を、駆動系部材20へ出力する。これにより、駆動CPU15は、自動車1のアクセルペダル7に対するドライバの操作に応じて、取得している加速度の制御目標値に対応する制御値を生成して、駆動系部材20へ出力することができる。また、駆動系部材20のたとえばスロットルバルブ21のバルブ開度は、ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応するものとなる。また、スロットルバルブ21を通じてエンジン22へ供給される燃料ガスや混合器の量が変化することにより、エンジン22の駆動力といった出力が、ドライバによるアクセルペダル7の操作に応じて変化する。これにより、自動車1は、ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応して、加速することができる。
【0033】
図7は、
図2の駆動CPU15が実行可能な、ドライバ交代を考慮した、自動車1の特性の一例としての加速度の制御目標値の取得制御のフローチャートの一例である。
駆動制御実行部としての駆動CPU15は、
図7の制御目標値の取得制御を、繰り返しに実行する。駆動CPU15は、
図7の制御目標値の取得制御を、たとえば
図6のステップST3において実行しても、
図6の加速制御とは別の制御として実行してもよい。駆動CPU15は、たとえば乗員監視装置31が自動車1のドライバの交代を検出している場合に、
図7の制御目標値の取得制御を実行してもよい。
【0034】
ステップST11において、駆動CPU15は、自動車1のドライバが交代しているか否かを判断する。自動車1のドライバが交代していない場合、駆動CPU15は、処理をステップST16へ進める。この場合、駆動CPU15は、後述することなくステップST16において既に処理に係るドライバの制御目標値を設定し、取得することになる。その後、駆動CPU15は、本制御を終了する。自動車1のドライバが交代している場合、駆動CPU15は、処理をステップST12へ進める。
【0035】
ステップST12において、駆動CPU15は、ドライバ交代の前後のドライバごとの制御目標値を、駆動メモリ14から取得する。
交代前のドライバが、ID=001の第一ドライバである場合、駆動CPU15は、
図5のテーブルにおけるID=001の第一ドライバの特性値「1」を取得し、
図3のテーブルにおいて特性値「1」と同じ値の参照番号「1」のパーソナル特性情報、すなわち
図3の第一行の加速度の目標レートを取得する。そして、駆動CPU15は、アクセルペダル7の操作の変化量と、
図4の参照番号「1」の特性線とに基づいて、交代前の第一ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応する加速度の制御目標値を取得できる。
また、交代後のドライバが、ID=002の第二ドライバである場合、駆動CPU15は、
図5のテーブルにおけるID=002の第二ドライバの特性値「5」を取得し、
図3のテーブルにおいて特性値「5」と同じ値の参照番号「5」のパーソナル特性情報、すなわち
図3の最終行の加速度の目標レートを取得する。そして、駆動CPU15は、アクセルペダル7の操作の変化量と、
図4の参照番号「5」の特性線とに基づいて、交代後の第二ドライバによるアクセルペダル7の操作に対応する加速度の制御目標値を取得できる。
【0036】
ステップST13において、駆動CPU15は、交代前のドライバの加速度の制御目標値から、交代後のドライバの加速度の制御目標値まで変化させる、遷移期間の加速度の制御目標値を得るための遷移レートを演算する。ここで、遷移期間とは、後述する
図8に示すように、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に追加される期間である。ドライバの交代があると、駆動CPU15は、遷移期間での加速度の制御目標値に基づく制御を実行した後、交代後期間での加速度の制御目標値に基づく制御を実行することになる。
この遷移期間において、駆動CPU15は、加速度の制御目標値を、交代前のドライバのものから、交代後のドライバのものへと、ある程度の時間をかけて変化させる。
図8に破線で示す加速度の制御目標値の特性線は、交代前のドライバの制御目標値と、交代後のドライバの制御目標値との差が小さい場合である。この場合の遷移期間が所定時間になるように、標準的な遷移レートを設定してよい。
そして、本実施形態では、駆動CPU15は、遷移期間の加速度の制御目標値を得るための遷移レートを、
図3の参照番号の値に基づいて、演算する。具体的には、駆動CPU15は、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に対応する第一の参照番号の値P1と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に対応する第二の参照番号の値P2との差を用いて、下記式1により、遷移レートを演算する。ここで、PMAXは、
図3の参照番号の最大値から最小値を減算した値をいう。
図3では、PMAX=4となる。このように、パーソナル特性情報そのものの値を用いなくとも、パーソナル特性情報と昇順で対応する参照番号の値を用いることにより、簡易な計算で、パーソナル特性情報の変化と良好に対応し得る遷移レートを演算することができる。駆動CPU15は、遷移期間での制御のために、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値との差が大きいほど、大きな値となる遷移レートを取得することになる。
【0037】
遷移レートR1 = 1/((P2―P1)/PMAX) = PMAX/(P2―P1) ・・・式1
【0038】
ステップST14において、駆動CPU15は、遷移期間における今回の加速度の制御目標値を演算する。駆動CPU15は、遷移期間の開始時点の加速度の制御目標値、すなわち交代前のドライバの制御目標値を基準として、遷移期間における現在までの経過時間でステップST13の遷移レートで変化する今回の加速度の制御目標値を演算する。
【0039】
ステップST15において、駆動CPU15は、遷移期間における今回の加速度の制御目標値が、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に達しているか否かを判断する。今回の加速度の制御目標値が、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に達していない場合、駆動CPU15は、処理をステップST14へ戻す。駆動CPU15は、ステップST14で演算する今回の加速度の制御目標値が、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に達するまで、遷移期間での制御を継続する。駆動CPU15は、ステップST14による加速度の制御目標値の演算処理を、遷移期間において繰り返しに実行する。そして、ステップST14で演算する今回の加速度の制御目標値が、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に達すると、駆動CPU15は、処理をステップST16へ進める。
【0040】
ステップST16において、駆動CPU15は、ドライバの制御目標値を設定する。ステップST15からステップST16へ処理が進んでいる場合、駆動CPU15は、交代後のドライバの制御目標値を設定する。その後、駆動CPU15は、本制御を終了する。自動車1のドライバが交代している場合、駆動CPU15は、処理をステップST12へ進める。
【0041】
図8は、自動車1のドライバ交代時の、走行制御に用いる加速度の制御目標値を示す図である。
図8のグラフにおいて、横軸は時間である。縦軸は、走行制御に用いられる加速度の制御目標値である。
【0042】
そして、
図8のグラフにおいて実線で示す加速度の制御目標値の特性線は、自動車1のドライバが、ID=002の第二ドライバから、ID=001の第一ドライバへ交代する場合を示している。実線の特性線は、
図8に破線で示す特性線と比べて、大きな遷移レートで変化する。実線の特性線において遷移レートで変化する遷移期間は、破線の特性線についての遷移期間より長い。ただし、実線の遷移レートは、破線の遷移レートより傾きが大きい。このため、実線の遷移レートについての遷移期間は、破線を単に延長する場合と比べて、格段に短くなっている。
また、
図8の時刻T1~T4に示すように、駆動CPU15は、遷移期間において、遷移レートで変化する加速度の制御目標値を演算により取得することを繰り返す。また、駆動CPU15は、各制御目標値に対応する制御値を演算する。
【0043】
図9は、
図8の遷移期間での加速度の制御目標値の取得方法を説明する図である。
図9のグラフにおいて、横軸は、アクセルペダル7の操作の変化量である。縦軸は、加速度の制御目標値である。
また、
図9のグラフには、
図8の時刻T1~T4の各々に対応する、4つの加速度の制御目標値の特性線が示されている。
【0044】
そして、駆動CPU15は、アクセルペダル7の操作の変化量と、各時刻の加速度の制御目標値の特性線とに基づいて、各時刻での加速度の制御目標値を取得する。
たとえば、遷移期間でのアクセルペダル7の操作の変化量が一定である場合、駆動CPU15は、
図9のグラフに破線で示すように、アクセルペダル7の操作の変化量と、各時刻の加速度の制御目標値の特性線とに基づいて、各時刻での加速度の制御目標値を取得する。そして、
図9のグラフで破線矢印は、時刻T1~T4の各々に対応する加速度の制御目標値を指している。
【0045】
このように、駆動CPU15は、自動車1のドライバが交代して、駆動メモリ14から取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、遷移期間を設ける。ここで、遷移期間は、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に設けられる。遷移期間の長さは、固定ではなく、遷移レートに応じて増減することになる。
そして、駆動CPU15は、遷移期間において、第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値と、第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値との間の加速度の制御目標値を取得する。
また、駆動CPU15は、遷移期間において交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御が実行され得るようになった後で、交代後期間の制御を開始する。
【0046】
図10は、
図2の駆動CPU15が
図6のステップST4で実行可能な、車重変化対応制御のフローチャートの一例である。
駆動CPU15は、たとえば必要に応じて
図6のステップST4において、
図10の車重変化対応制御を、繰り返しに実行してよい。
これにより、本実施形態の自動車1は、車重変化があったとしても、それに応じて制御値を更新し、これによりドライバが嗜好する加速度が得られるようにすることができる。
【0047】
ステップST21において、駆動CPU15は、車重情報を取得する。駆動CPU15は、たとえば乗員監視装置31の監視画像に基づいて、自動車1の乗員構成や、荷室の荷物の量などを判断し、この判断に基づいて車重を推定してよい。また、駆動CPU15は、不図示のシートの重量センサの検出値、荷室床5の重量センサの検出値、車輪8ごとに設けられるタイヤ圧センサの検出値などを集計して、車重情報を取得してもよい。また、駆動CPU15は、不図示のサスペンションの沈み込みの程度に基づいて、車重を推定してもよい。
【0048】
ステップST22において、駆動CPU15は、車重が増加または減少するように変化しているか否かを判断する。駆動CPU15は、たとえば前回の過去の車重変化対応制御の車重と、今回の車重とを比較して、車重が変化しているか否かを判断する。そして、車重が変化していない場合、駆動CPU15は、本制御を終了する。車重が変化している場合、駆動CPU15は、処理をステップST23へ進める。
【0049】
ステップST23において、駆動CPU15は、車重が変化する前の過去の車重の下で、加速度センサ32により検出されている加速度を、第一加速度として取得する。
【0050】
ステップST24において、駆動CPU15は、車重が変化した後の現在の車重の下で、加速度センサ32により検出されている加速度を、第二加速度として取得する。
【0051】
ステップST25において、駆動CPU15は、車重が変化した後の第二加速度を、車重が変化する前の第一加速度へ戻すための、制御値の補正値を演算する。ここで、駆動CPU15は、たとえば、車重の増減率に応じた補正値を演算してよい。また、駆動CPU15は、車重の増減率に応じた固定値の補正値を取得してもよい。
【0052】
ステップST26において、駆動CPU15は、制御値の補正値の遷移レートを取得する。ここで、制御値の補正値の遷移レートは、固定レートでもよい。また、制御値の補正値の遷移レートは、第一加速度と第一加速度との差に応じたレートでもよい。
【0053】
ステップST27において、駆動CPU15は、補正値を、制御値に対して遷移レートで加算し、今回の制御に使用する制御値を取得する。
【0054】
ステップST28において、駆動CPU15は、補正値についての制御値への加算が終了しているか否かに基づいて、補正が終了しているか否かを判断する。補正が終了していない場合、駆動CPU15は、処理をステップST26へ戻す。補正が終了すると、駆動CPU15は、本制御を終了する。
【0055】
以上のように、本実施形態では、駆動制御装置11の駆動メモリ14に、自動車1を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報17として、ドライバごとの複数の加速度の制御目標値を取得可能に記録する。ここで、パーソナル特性情報としての、加速度の制御目標値は、制御対象物である駆動系部材20に対して、そのまま制御値として与えることができない属性を有し、ドライバごとに、ドライバの嗜好に応じて異なる値に設定可能である。
そして、駆動制御装置11の駆動制御実行部としての駆動CPU15は、自動車1のドライバに応じて、駆動メモリ14に記録されている複数のパーソナル特性情報17から、ドライバに対応するパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値を取得する。また、駆動CPU15は、自動車1のアクセルペダル7に対するドライバの操作に応じて、取得している加速度の制御目標値に対応する制御値を生成して、駆動系部材20へ出力する。これにより、自動車1は、自動車1にいるドライバに応じて、ドライバの嗜好に沿う自動車1の加速度の特性、すなわち自動車1の特性を提供することができる。
しかも、本実施形態において、駆動制御装置11の駆動CPU15は、自動車1のドライバが交代して、駆動メモリ14から取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、次の処理を実行する。駆動CPU15は、まず、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に、遷移期間を設ける。そして、駆動CPU15は、遷移期間において、第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値と第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値との間の加速度の制御目標値により制御を実行する。また、駆動CPU15は、遷移期間において交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に基づく制御が実行され得るようになった後で、交代後期間の制御を開始する。これにより、自動車1のドライバが交代した場合での、自動車1の加速度の特性、すなわち自動車1の特性は、交代前のものから交代後のものへと即時的に変化し難くなる。その結果、交代後のドライバは、ドライバ交代による車両特性の変化について、交代前から自動車1にいたとしても違和感を受け難くなる。
【0056】
また、本実施形態において、駆動CPU15は、遷移期間の制御のために、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値との差が大きいほど、大きな値となる遷移レートを取得する。そして、駆動CPU15は、遷移期間では、遷移レートで変化する加速度の制御目標値を演算により取得することを繰り返し、演算により取得する各加速度の制御目標値に対応する制御値を生成する。これにより、遷移期間での加速度の制御目標値は、交代前後の差が大きいほど、大きいレートで変化するようになる。これにより、遷移期間は、過大とならないように適度な長さに抑制し得る。また、遷移期間での加速度の制御目標値が、一定の遷移レートで変化することにより、交代後の自動車1のドライバは、遷移期間での自動車1の加速度の変化について違和感を受け難くなる。
【0057】
特に、本実施形態において、駆動メモリ14は、複数のパーソナル特性情報17としての、複数の加速度の制御目標値の各々と対応付けて、加速度の制御目標値と昇順で対応する複数の参照番号の値を記録する。そして、駆動CPU15は、交代前の第一のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に対応する第一の参照番号の値と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての加速度の制御目標値に対応する第二の参照番号の値との差を用いて、遷移レートを演算する。駆動CPU15は、第一の参照番号の値と第二の参照番号の値との差が大きいほど大きな値となるように、遷移レートを演算する。
これにより、遷移レートを得るための演算処理は、仮にたとえば加速度の制御目標値そのものを演算に用いる場合と比べて、単純な数値に基づく簡易なものとすることができる。制御目標値は、それと昇順で対応する複数の参照番号の値により量子化されて、遷移レートを得るための演算処理を簡素化することができる。
【0058】
なお、本実施形態では、自動車1のアクセルペダル7の操作に応じた加速度を、ドライバの嗜好に応じて変更する場合について説明している。
この他にもたとえば、自動車1には、ステアリング6、ブレーキペダル、シフトレバー、などの自動車1の走行を操作するための操作部材が設けられる。上述した本実施形態の制御は、これら自動車1のアクセルペダル7以外の操作部材に基づく自動車1の走行特性を、ドライバの嗜好に応じて変更する場合においても用いることが可能である。
【0059】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る自動車1の駆動装置10について説明する。
上述した実施形態では、
図10に示すように、車重に応じて制御値を変更している。本実施形態では、車重に応じて加速度の制御目標値を変更する場合について説明する。
本実施形態において、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0060】
図11は、本発明の第二実施形態において、自動車1の特性制御装置として機能する自動車1の駆動装置10の駆動メモリ14に記録される、車重別の制御目標値の補正値の一例の説明図である。
図11の車重別の制御目標値の補正値のテーブルは、
図2の駆動メモリ14に記録されてよい。
【0061】
図11のテーブルは、自動車1についての車重範囲ごとの複数のレコードを含む。各車重範囲のレコードは、制御目標値の補正に使用する補正値を有する。
たとえば、「+1から+100kg」の車重範囲のレコードは、「+10」の補正値を有する。「+101から+200kg」の車重範囲のレコードは、「+10」の補正値を有する。
これにより、駆動メモリ14は、自動車1の車重範囲ごとの複数の補正値を記録することができる。
【0062】
図12は、本発明の第二実施形態において、
図2の駆動CPU15が実行可能な、ドライバ交代および車重変化を考慮した、自動車1の特性の一例としての加速度の制御目標値の取得制御のフローチャートの一例である。
駆動CPU15は、
図7に替えて、
図12の加速度の制御目標値の取得制御を、繰り返しに実行してよい。
図12のステップST11からステップST12は、
図7のものと同様である。ただし、ステップST11において自動車1のドライバが交代していないと判断した場合、駆動CPU15は、処理をステップST31へ進める。また、駆動CPU15は、ステップST12の後、処理をステップST31へ進める。
【0063】
ステップST31において、駆動CPU15は、車重が変化しているか否かを判断する。駆動CPU15は、たとえば前回の過去の車重変化対応制御の車重と、今回の車重とを比較して、車重が変化しているか否かを判断する。そして、車重が変化していない場合、駆動CPU15は、処理をステップST34へ進める。車重が変化している場合、駆動CPU15は、処理をステップST32へ進める。
【0064】
ステップST32において、駆動CPU15は、車重の変化前後の加速度の制御目標値の補正値を、駆動メモリ14に記録されている
図11のテーブルから取得する。
【0065】
ステップST33において、駆動CPU15は、車重の変化前後の加速度の制御目標値を、ステップST32で取得する補正値で補正して、車重の変化に対応した加速度の制御目標値を生成する。
【0066】
ステップST34において、駆動CPU15は、ドライバの交代、または車重の変化により、制御目標値の変更が必要であるか否かを判断する。駆動CPU15は、ドライバの交代、および車重の変化の中の少なくとも一方がある場合、制御目標値の変更が必要であると判断し、処理をステップST13へ進める。この場合、駆動CPU15は、ステップST13からステップST15の処理を実行し、遷移期間を用いた制御目標値の変更制御を実行する。その後、駆動CPU15は、処理をステップST16へ進める。
これに対し、ドライバの交代がなく、且つ、車重が変化していない場合、駆動CPU15は、制御目標値の変更が必要でないと判断し、処理をステップST16へ進める。
そして、ステップST15からステップST16へ進んでいる場合、駆動CPU15は、ステップST16において、交代後の現在のドライバの制御目標値や、現在の車重に対応する制御目標値を設定する。
また、ステップST34からステップST16へ進んでいる場合、駆動CPU15は、ステップST16において、交代前からのドライバの制御目標値や、交代前から変化していない車重に対応する制御目標値を設定する。
その後、駆動CPU15は、本制御を終了する。
【0067】
なお、
図12のステップST13で駆動CPU15が演算する遷移レートは、ドライバ交代の場合には、上述する式1による遷移レートR1でよい。
また、車重変化の場合には、駆動CPU15は、下記式2に基づいて、遷移レートを演算してもよい。具体的には、挙動CPU45は、交代前の第一の車重のW1と、交代後の第二の車重のW2との差を用いて、下記式2により、遷移レートを演算する。ここで、WMAXは、自動車1の乗員を含む最大積載量を用いてよい。駆動CPU15は、遷移期間での制御のために、交代前の第一の車重のW1と、交代後の第二の車重のW2との差が大きいほど、大きな値となる遷移レートを取得することになる。
【0068】
遷移レートR2 = 1/((W2―W1)/WMAX) = WMAX/(W2―W1) ・・・式2
【0069】
以上のように、本実施形態において、駆動メモリ14は、自動車1の車重範囲ごとの複数の補正値を記録する。そして、駆動CPU15は、自動車1の重さが変化する場合、駆動メモリ14から自動車1の重さが属する重量範囲の補正値を取得する。また、駆動CPU15は、取得する補正値を用いて、自動車1の制御に用いる加速度の制御目標値を増減させる。これにより、本実施形態では、自動車1のドライバが交代する場合だけでなく、それとともに車重が変化する場合や、またはドライバの交代がないままに車重が変化する場合においても、それに応じて自動車1の制御に用いる加速度の制御目標値を調整することができる。その結果、自動車1のドライバは、車重が変化しても、ドライバの嗜好に沿う自動車1の加速度の特性、すなわち自動車1の特性を享受することが可能になる。
【0070】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る自動車1の挙動調整装置40について説明する。
本実施形態では、自動車1の挙動調整装置40を例に、自動車1の特性制御装置の一例を説明する。
本実施形態では、上述した実施形態と同様の構成については同一の符号を使用して図示および説明を省略する。以下の説明では、主に上述した実施形態との相違点について説明する。
【0071】
図13は、
図1の自動車1に設けられる、本発明の第三実施形態に係る自動車1の特性制御装置として機能する、自動車1の挙動調整装置40の説明図である。
図13の自動車1の挙動調整装置40は、自動車1の走行中の挙動を制御する。挙動調整装置40は、ロールセンサ62、乗員監視装置31、操舵センサ63、サスペンション部材50、および、これらが接続される挙動制御装置41、を有する。挙動制御装置41は、挙動入出力ポート42、挙動タイマ43、挙動メモリ44、挙動CPU45、および、これらが接続される挙動内部バス46、を有する。
【0072】
サスペンション部材50は、自動車1において、車輪8と車体2との間に介在するように設けられる。
図13のサスペンション部材50は、弾性部材51、ダンパ部材52、を有する。弾性部材51は、バネ特性でサスペンション部材50を伸縮させる。弾性部材51には、バネ特性を設定可能なものがある。ダンパ部材52は、サスペンション部材50の伸縮を減衰する。ダンパ部材52には、減衰比を設定可能なものがある。
このようなサスペンション部材50を用いることにより、車輪8を通じて車体2へ入力される路面などからの衝撃が、車体2に伝わり難くできる。車体2への衝撃は、緩和できる。また、車輪8は、路面との接触を維持し易くなる。
その一方で、自動車1は、サスペンション部材50を備えることにより、操舵に応じて進行方向を変化させる場合や、操作に応じて加減速する場合などにおいて、車体2が傾き易くなる。たとえばステアリング6が操作されて自動車1が旋回すると、車体2は、旋回の外方向へ傾き易くなる。方向転換中の自動車1は、サスペンション部材50があることにより、ロールし易くなる。
【0073】
ロールセンサ62は、自動車1のロール量を検出する。ロールセンサ62には、加速度センサ32を用いることができる。
【0074】
操舵センサ63は、自動車1の進行方向を変化させるために自動車1のドライバにより操作されるステアリング6の操舵量を検出する。操舵センサ63は、ドライバによるステアリング6の操作量の情報を、挙動制御装置41の挙動入出力ポート42へ出力してよい。
【0075】
挙動制御装置41は、サスペンション部材50の挙動を制御するための制御値を、サスペンション部材50へ出力する。サスペンション部材50は、そのダンパ機構の減衰特性や、スプリングバネなどによる弾性特性を、設定に応じて変更する。たとえば、サスペンション部材50は、弾性し易い特性に設定できる。この場合、自動車1は、サスペンション部材50が弾性し難い特性に設定されている場合と比べて、ロールし易くなる。ただし、路面からの入力は、サスペンション部材50で吸収し易くなる。
このような自動車1の特性には、ドライバごとに異なる嗜好がある。
【0076】
挙動入出力ポート42は、挙動制御装置41の入出力ポートである。
【0077】
挙動タイマ43は、時刻、時間を計測する。
【0078】
挙動メモリ44は、挙動CPU45が使用するプログラムや、挙動入出力ポート42から入出力する情報や設定情報を含む各種の情報を、記録する。挙動メモリ44は、たとえばRAM、ROM、HDD、SSDなどを組み合わせたものでよい。
図13の挙動メモリ44には、挙動を制御するための、複数のパーソナル特性情報17、ドライバごとの特性値18、車重別の補正値19、が例示されている。
【0079】
挙動CPU45は、挙動メモリ44に記録されているプログラムを読み込んで実行する。これにより、挙動制御装置41には、挙動制御実行部、が実現される。
挙動制御実行部としての挙動CPU45は、自動車1の挙動を制御するための各種の制御を実行する。
たとえば、挙動制御装置41には、少なくとも、サスペンション部材50、が接続される。この場合、挙動制御実行部としての挙動CPU45は、挙動制御装置41において、自動車1のドライバに応じた制御値を生成し、サスペンション部材50の弾性部材51およびダンパ部材52へ出力する。
【0080】
図14は、
図13の挙動メモリ44に記録される、複数のパーソナル特性情報17の一例の説明図である。
図14の複数のパーソナル特性情報17のテーブルには、自動車1のドライバごとのパーソナル特性情報として使用可能な、複数の弾性部材51のバネ特性の制御目標値と、複数のダンパ部材52の減衰比の制御目標値と、が記載されている。
図3のテーブルにおいて、複数の制御目標値は、昇順に並んでいる。また、各制御目標値には、それと昇順で対応する複数の参照番号の値が、対応付けて記録される。
この場合、各車両挙動の制御目標値は、弾性部材51のバネ特性の制御目標値と、複数のダンパ部材52の減衰比の制御目標値とで構成されることになる。
【0081】
図15は、
図13の挙動メモリ44に記録される、ドライバごとの特性値18の一例の説明図である。
図15のドライバごとの特性値18のテーブルには、自動車1の挙動に関するドライバごとの特性値18が記録されている。
図15のテーブルにおいて、
図1の自動車1の複数のドライバが、ドライバごとのIDにより識別可能に含まれる。各行は、各ドライバに対応する。そして、各行のドライバのIDには、そのドライバの特性値が対応付けられている。なお、各行のドライバのIDには、そのドライバの複数の特性値を対応付けることが可能である。
【0082】
そして、
図15のテーブルでは、ID=001の第一ドライバの特性値として「1」が対応付けて記録されている。また、ID=002の第二ドライバの特性値として「5」が対応付けて記録されている。
また、
図15の特性値は、
図14のテーブルに含まれる複数の参照番号の値の中から、ドライバごとに選択されたものである。すなわち、第一ドライバが好ましいと感じる自動車1のロール特性は、
図3の参照番号の値「1」から「5」の中の「1」であることから、特性値として「1」が対応付けられている。また、第二ドライバが好ましいと感じる自動車1のロール特性は、
図3の参照番号の値「1」から「5」の中の「5」であることから、特性値として「5」が対応付けられている。なお、各ドライバの好ましいと感じる自動車1のロール特性は、たとえば事前のアンケートなどに基づいて解析して特定することが可能である。
【0083】
本実施形態では、
図14の複数のパーソナル特性情報17のテーブルとは別に、
図15のドライバごとの特性値18のテーブルを、
図13の挙動メモリ44に記録している。これにより、たとえば、自動車1を開発する段階では、
図14の複数のパーソナル特性情報17のテーブルを記録し、その後の販売の段階において、
図15のドライバごとの特性値18のテーブルを記録する、ことができる。
挙動メモリ44は、自動車1を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報17として、ドライバごとに互いに異なる複数のロールの大きさまたは減衰比の制御目標値を取得可能に記録することができる。
【0084】
そして、挙動CPU45は、自動車1のロール特性の設定を、ドライバごとの嗜好に応じて変更する。
挙動CPU45は、挙動制御実行部として、
図12と同様の制御目標値の取得制御を実行する。これにより、挙動CPU45は、
図14および
図15のテーブルから、たとえば交代前後のドライバのバネ特性の制御目標値と減衰比の制御目標値とを取得し、交代後のドライバのバネ特性の制御目標値をサスペンション部材50に設定することができる。
なお、挙動CPU45は、挙動制御実行部として、
図7と同様の制御目標値の取得制御を実行してもよい。
【0085】
図16は、本発明の第三実施形態における、自動車1のドライバ交代時の、走行制御に用いる加速度の制御目標値を示す図である。
図16のグラフは、
図8と同様のものである。
図16のグラフにおいて、横軸は時間である。ただし、縦軸は、車両挙動の制御目標値である。
【0086】
そして、
図16のグラフにおいて実線で示す車両挙動の制御目標値の特性線は、自動車1のドライバが、ID=002の第二ドライバから、ID=001の第一ドライバへ交代する場合を示している。実線の特性線は、
図16に破線で示す特性線と比べて、大きな遷移レートで変化する。実線の特性線において遷移レートで変化する遷移期間は、破線の特性線についての遷移期間より長い。ただし、実線の遷移レートは、破線の遷移レートより傾きが大きい。このため、実線の遷移レートについての遷移期間は、破線を単に延長した場合と比べて、格段に短くなっている。
また、
図16の時刻T1~T4に示すように、挙動CPU45は、遷移期間において、遷移レートで変化する車両挙動の制御目標値を演算により取得することを繰り返す。また、挙動CPU45は、各制御目標値を、各タイミングの制御値としてサスペンション部材50に設定する。
【0087】
このように、挙動CPU45は、自動車1のドライバが交代して、挙動メモリ44から取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、遷移期間を設ける。ここで、遷移期間は、交代前の第一のパーソナル特性情報としての車両挙動の制御目標値に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としての車両挙動の制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に設けられる。遷移期間の長さは、固定ではなく、遷移レートに応じて増減することになる。
そして、挙動CPU45は、遷移期間において、第一のパーソナル特性情報としての車両挙動の制御目標値と、第二のパーソナル特性情報としての車両挙動の制御目標値との間の車両挙動の制御目標値を取得する。
また、挙動CPU45は、遷移期間において交代後の第二のパーソナル特性情報としての車両挙動の制御目標値に基づく制御が実行され得るようになった後で、交代後期間の制御を開始する。
【0088】
以上のように、本実施形態では、挙動制御装置41の挙動メモリ44に、自動車1を運転する複数のドライバのための複数のパーソナル特性情報17として、ドライバごとに互いに異なる複数のロールの制御目標値を取得可能に記録する。ここで、パーソナル特性情報としての、ロールの制御目標値は、ドライバごとに、ドライバの嗜好に応じて異なる値に設定可能である。
そして、挙動制御装置41の挙動制御実行部としての挙動CPU45は、自動車1のドライバに応じて、挙動メモリ44に記録されている複数のパーソナル特性情報17から、ドライバに対応するパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値を取得する。また、挙動CPU45は、取得しているロールの制御目標値に基づく、自動車1に設定するロールの制御目標値をサスペンション部材50へ出力する。これにより、自動車1は、自動車1にいるドライバに応じて、ドライバの嗜好に沿う自動車1のロールの特性を提供することができる。
しかも、本実施形態において、挙動制御装置41の挙動CPU45は、自動車1のドライバが交代して、挙動メモリ44から取得するパーソナル特性情報を、交代前のドライバの第一のパーソナル特性情報から、交代後のドライバの第二のパーソナル特性情報へ交代する場合、次の処理を実行する。挙動CPU45は、まず、交代前の第一のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値に基づく制御を実行する交代前期間と、交代後の第二のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値に基づく制御を実行する交代後期間との間に、遷移期間を設ける。そして、挙動CPU45は、遷移期間において、第一のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値と第二のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値との間のロールの制御目標値により制御を実行する。また、挙動CPU45は、遷移期間において交代後の第二のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値に基づく制御が実行され得るようになった後で、交代後期間の制御を開始する。これにより、自動車1のドライバが交代した場合での、自動車1のロールの特性は、交代前のものから交代後のものへと即時的に変化し難くなる。その結果、交代後のドライバは、ドライバ交代による車両特性の変化について、交代前から自動車1にいたとしても違和感を受け難くなる。
【0089】
また、本実施形態において、挙動CPU45は、遷移期間の制御のために、交代前の第一のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値と、交代後の第二のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値との差が大きいほど、大きな値となる遷移レートを取得する。そして、挙動CPU45は、遷移期間では、遷移レートで変化するロールの制御目標値を演算により取得することを繰り返し、演算により取得する各ロールの制御目標値に対応する制御値を生成する。これにより、遷移期間でのロールの制御目標値は、交代前後の差が大きいほど、大きいレートで変化するようになる。これにより、遷移期間は、過大とならないように適度な長さに抑制し得る。また、遷移期間でのロールの制御目標値は、一定の遷移レートで変化するようになり、交代後の自動車1のドライバは、遷移期間でのロールの変化について違和感を受け難くなる。
【0090】
特に、本実施形態において、挙動メモリ44は、複数のパーソナル特性情報17としての、複数のロールの制御目標値の各々と対応付けて、ロールの制御目標値と昇順で対応する複数の参照番号の値を記録する。そして、挙動CPU45は、交代前の第一のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値に対応する第一の参照番号の値と、交代後の第二のパーソナル特性情報としてのロールの制御目標値に対応する第二の参照番号の値との差を用いて、遷移レートを演算する。挙動CPU45は、第一の参照番号の値と第二の参照番号の値との差が大きいほど大きな値となるように、遷移レートを演算する。
これにより、遷移レートを得るための演算処理は、仮にたとえば制御目標値そのものを演算に用いる場合と比べて、単純な数値に基づく簡易なものとすることができる。制御目標値は、それと昇順で対応する複数の参照番号の値により量子化されて、遷移レートを得るための演算処理を簡素化することができる。
しかも、遷移レートの演算処理に用いる元の値を、制御目標値ではなく、制御目標値と昇順で対応する値の参照番号とすることにより、遷移レートの変動範囲が参照番号の値の変動範囲により制限することができる。遷移レートが過大となって、即時的なものと同等の変化が生じないように遷移レートを制限することができる。また、遷移レートが過小となって、遷移期間が非常に長くなることが起きないように遷移レートを制限することができる。制御目標値そのものは、ユーザの嗜好の幅に応じた変動範囲を有するため、このような遷移レートの変動範囲を抑制することは難しい。
【0091】
本実施形態において、挙動メモリ44は、自動車1の車重範囲ごとの複数の補正値を記録する。そして、挙動CPU45は、自動車1の重さが変化する場合、挙動メモリ44から自動車1の重さが属する重量範囲の補正値を取得する。また、挙動CPU45は、取得する補正値を用いて、自動車1の制御に用いるロールの制御目標値を増減させる。これにより、本実施形態では、自動車1のドライバが交代する場合だけでなく、それとともに車重が変化する場合や、またはドライバの交代がないままに車重が変化する場合においても、それに応じて自動車1の制御に用いるロールの制御目標値を調整することができる。その結果、自動車1のドライバは、車重が変化しても、ドライバの嗜好に沿う自動車1のロールの特性を享受することが可能になる。
しかも、車重変化に応じて制御目標値が変化する場合においても、ドライバ交代の場合と同様に、制御目標値は、遷移レートで変化し得る。これにより、制御目標値は、瞬時的に変化し難くなる。自動車1のドライバは、遷移期間でのロールの変化について違和感を受け難い。
【0092】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…自動車(車両)、2…車体、3…前側のシート、4…後側のシート、5…荷室床、6…ステアリング、7…アクセルペダル、8…車輪、10…駆動装置、11…駆動制御装置、12…駆動入出力ポート、13…駆動タイマ、14…駆動メモリ、15…駆動CPU、16…駆動内部バス、17…複数のパーソナル特性情報、18…ドライバごとの特性値、19…車重別の補正値、20…駆動系部材、21…スロットルバルブ、22…エンジン、23…トランスミッション、31…乗員監視装置、32…加速度センサ、40…挙動調整装置、41…挙動制御装置、42…挙動入出力ポート、43…挙動タイマ、44…挙動メモリ、45…挙動CPU、46…挙動内部バス、50…サスペンション部材、51…弾性部材、52…ダンパ部材、62…ロールセンサ、63…操舵センサ