(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172761
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】油脂に対する分散性に優れた黒糖と当該黒糖を含む油脂食品および化粧料
(51)【国際特許分類】
C13B 50/00 20110101AFI20241205BHJP
A23D 7/005 20060101ALI20241205BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20241205BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/04 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/60 20060101ALI20241205BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20241205BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241205BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20241205BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C13B50/00
A23D7/005
A61Q19/00
A61Q19/10
A61K8/04
A61K8/60
A61K8/92
A61K9/10
A61K47/44
A61K47/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090711
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永澤 俊充
(72)【発明者】
【氏名】藤本 真帆
【テーマコード(参考)】
4B026
4C076
4C083
【Fターム(参考)】
4B026DG04
4B026DG05
4B026DL03
4B026DP01
4C076AA23
4C076AA30
4C076BB01
4C076BB31
4C076DD67
4C076EE52
4C076FF01
4C076FF11
4C083AA122
4C083AD191
4C083AD192
4C083BB11
4C083CC01
4C083CC02
4C083CC03
4C083CC23
4C083DD17
4C083DD21
4C083DD23
4C083DD30
4C083DD39
(57)【要約】
【課題】本発明は、油脂主体の食品や化粧料に対して分散性を向上させた黒糖を提供することである。本発明品は、黒糖以外の原材料を用いたり、一部を水に溶解させてから油脂と混合する方法ではなく、黒糖のみを直接油脂に分散できることを特徴とする。
【解決手段】黒糖を平均粒子径70μm以上170μm以下であり、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下に調整することにより、水だけでなく油脂への分散性に優れた黒糖を得ることが出来る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径70μm以上170μm以下、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下である黒糖。
【請求項2】
室温で液状を呈する油脂90重量部に黒糖10重量部を分散させて30分以上室温放置した後、目開き850μmの試験用ふるいを通過し、かつ、目開き250μmの試験用ふるいを通過しないことを特徴とする黒糖。
【請求項3】
請求項1または2に記載の黒糖を用いることを特徴とする、黒糖の油脂分散性改善方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の黒糖を分散した油脂含有食品または油脂含有化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂主体の食品や化粧料にも高い分散性を示す黒糖に関する。
【背景技術】
【0002】
黒糖はサトウキビの圧搾汁を煮詰めたものであり、糖蜜をそのまま含んだ含蜜糖である。黒糖のみからなるものを黒糖または黒砂糖と呼び、加工適性を高める目的で黒糖以外の原材料を含むものを加工黒糖と呼ぶ。黒糖の機能性は食品分野だけでなく化粧品分野でも応用されているが、含密糖であるため吸湿性が高く、保存状態が悪いと固結してしまう問題があった。
【0003】
このような課題に対して、特許文献1では、黒糖に難消化性デキストリンを混合して噴霧乾燥した黒糖含有粉末の製造方法について開示している。特許文献2では、粉末状の黒糖に脂肪酸エステルを添加し、湿式造粒機で顆粒状にした後、熱風乾燥機で乾燥させた顆粒状黒糖について開示している。これらの発明は、黒糖以外の原材料を用いて加工適性を高めていることから、加工黒糖に相当し、黒糖と表示することが出来なかった。
【0004】
一方で、特許文献3では、黒糖は粒子が肥大化しやすく湯煎しても容易に溶けないことや他の食材と混合すると粘りが発生することを課題とし、解決方法には黒糖の粒子径を0.01~0.05mm程度に調整することを開示している。しかしながら、これらの技術は溶媒を水にしたときにのみ有効であり、油脂への溶けやすさである油溶性や分散性については、改善の方法を見出していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-227300
【特許文献2】特開2022-191400
【特許文献3】特開平10-257857
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、油脂主体の食品や化粧料に対して分散性を向上させた黒糖を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題の解決につき鋭意研究を重ねた結果、平均粒子径70μm以上170μm以下であり、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下である黒糖は、水だけでなく油脂への分散性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)平均粒子径70μm以上170μm以下、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下である黒糖、
(2)室温で液状を呈する油脂90重量部に黒糖10重量部を分散させて30分以上室温放置した後、目開き850μmの試験用ふるいを通過し、かつ、目開き250μmの試験用ふるいを通過しないことを特徴とする黒糖、
(3)(1)または(2)に記載の黒糖を用いることを特徴とする、黒糖の油脂分散性改善方法、
(4)(1)または(2)に記載の黒糖を分散した油脂含有食品または油脂含有化粧料、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、平均粒子径70μm以上170μm以下、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下である黒糖は、水だけでなく油脂への分散性が向上し、従来直接混ぜることの出来なかった油脂含有食品や油脂含有化粧料への利用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施区1は、黒糖パウダーAの油脂に対する分散性を経時的に観察した結果である。
【
図2】実施区2は、黒糖パウダーBの油脂に対する分散性を経時的に観察した結果である。
【
図3】比較区1は、素焚糖の油脂に対する分散性を経時的に観察した結果である。
【
図4】比較区2は、黒砂糖の油脂に対する分散性を経時的に観察した結果である。
【
図5】比較区3は、沖縄黒糖の油脂に対する分散性を経時的に観察した結果である。
【
図6】実施区1は、黒糖パウダーAの篩分けの結果である。
【
図7】実施区2は、黒糖パウダーBの篩分けの結果である。
【
図10】比較区3は、沖縄黒糖の篩分けの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における黒糖とは、サトウキビの搾汁を煮詰めた含密糖であり、原料糖と糖蜜に分けることなく製造された黒糖、黒糖と原料糖と糖蜜を目的の品質に合わせて調整した加工黒砂糖、原料糖と糖蜜を合わせた赤糖、原料糖のみで調整したきび糖を含む。本発明の黒糖は、黒砂糖と同義であり、産地を問わない。
【0012】
本発明における黒糖の製造方法は、既知の製造方法に従ってよく、例えば特開2007-129922に記載の方法により得ることが出来る。具体的には粉末状の黒糖を流動式乾燥機で乾燥し、剪断式粉砕機で一次粉砕した後、衝撃式粉砕機で二次粉砕し、超微粉を集塵機で除去することにより得られる。当該乾燥工程おいて、黒糖の水分は0.01%以上1.5%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5%以上1.0%以下、さらに好ましくは0.1%以上0.4%以下に調整する。水分含量を目的とする数値に調整するには、一次粉砕と二次粉砕の間に、さらに乾燥工程を設けると精度高く調整することができ、本発明の実施例において、黒糖パウダーAおよび黒糖パウダーBの水分含量の差を作り出すことが出来る。また、当該粉砕工程において、黒糖の粒子径は平均粒子径が70μm以上170μm以下であることが好ましく、より好ましくは90μm以上160μm以下に調整する。平均粒子径を目的とする数値に調整するには、二次粉砕で使用する衝撃式粉砕機をピンディスクの回転数で調整する。本発明の実施例において、黒糖パウダーAおよび黒糖パウダーBの平均粒子径の差は、黒糖パウダーBよりも黒糖パウダーAを高速回転数で粉砕することにより作り出すことが出来る。
【0013】
本発明において黒糖の水分含量は、常圧加熱乾燥法により測定できる。
【0014】
本発明において黒糖の粒子径は、レーザー回析・散乱法により測定できる。
【0015】
本発明において黒糖を分散させる油脂は、食品または化粧料に使用される油脂であれば特に制限されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、ハイエルシン菜種油、米油、ごま油、べに花油、落花生油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、サフラワー油、ハイオレイックサフラワー油、キャノーラ油、カポック油、月見草油、オリーブ油、シア脂、サル脂、コクム脂、イリッペ脂、カカオ脂の植物油脂や、乳脂、牛脂、豚脂、鯨油等の動物油脂、ミネラルオイル、ホホバオイル、シリコーンオイル、ミリスチン酸イソプロピル、前記各油脂に水素添加、分別及びエステル交換した油脂類から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
本発明において黒糖を油脂に分散または溶解させる場合は、常温で固体または液体の油脂であれば特に制限されない。均質に分散させるには、油脂が液体の場合は液体油脂に黒糖をそのまま添加し、泡だて器、スタティックミキサー、卓上ミキサー、及び縦型ミキサーなどで分散させればよく、油脂が固体の場合は固体油脂を予め融点以上に加熱し、半流動状または液状にした後、液体油脂と同様に分散させるのが望ましい。均質に溶解する場合は、常温液体の油脂または固体油脂を予め融点以上に加熱して液状にした油脂に黒糖をそのまま添加し、必要に応じて融点の温度に保温しながら溶解するのが望ましい。
【0017】
本発明の黒糖は、油脂を使用する食品及び化粧品に添加して使用することができる。本発明品は、水に溶解することなく、油脂へ直接添加し、分散させることができる。本発明品は、油脂を使用する食品及び化粧品であれば、特に制限なく使用することができる。特に油分の多いチョコレート、生クリームなど、化粧品であれば、石鹸類、クリームなどでは、好適に使用することができる。添加量などは特に制限なく、当業者が選択できる添加量で良い。
【0018】
本発明における試験用ふるいとは、日本工業規格に定められた試験用ふるいまたは標準ふるいを用いる。ふるいの種類は特に限定されず、網ふるい、板ふるい、電成ふるいを用いることができる。各種ふるいの材質および孔形、規格値も特に限定されず、JIS Z 8801-1-2000、JIS Z 8801-2-2000、およびJIS Z 8801-3-2000に準じたいずれかの規格ふるいを用いる。
【実施例0019】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
以下の黒糖について、平均粒子径、水分含量を測定した。
実施区1:黒糖パウダーA 黒糖
実施区2:黒糖パウダーB 黒糖
比較区1:素焚糖(大東製糖株式会社製) きび糖
比較区2:黒砂糖(大東製糖株式会社製) 加工黒糖
比較区3:沖縄黒糖(大東製糖株式会社製) 黒糖
平均粒子径はレーザー回析・散乱法に従い、MT3300EX II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定し、各サンプルの粒度分布及び平均粒子径を調べた。
水分含量は常圧加熱乾燥法に従い測定した。定温乾燥器(105℃設定)で秤量皿を1時間前後予備乾燥し、デシケーター内で冷却した後、秤量皿の重量(W0)を測定した。各サンプルを2g前後秤量皿に秤取し、そのまま重量(W1)を測定した。115℃に設定した定温乾燥器に、サンプルの入った秤量皿を、蓋を開けた状態で静置し、4時間乾燥した。乾燥終了後、秤量皿の蓋を閉じてデシケーター内で1時間冷却した。冷却後、サンプルの入った秤量皿の重量(W3)を測定し、次式により水分含量を求めた。
水分含量(%)=(W2-W0/W1-W0)×100
【0021】
各試験区の平均粒子径および水分含量を表1に示した。
【0022】
【0023】
実施区1~比較区3のサンプルについて、サラダ油(昭和産業株式会社製、食用なたね油、食用大豆油)への分散性を評価した。試験管に1gのサンプルを秤量し、9mLのサラダ油を注加して30分室温放置した。スタティックミキサーで試験管内を1分間混合し、静置した。静置開始1分後、3分後、5分後について黒糖の分散状態を観察した。
【0024】
実施区1~比較区3のサンプルの油脂に対する分散性の結果を
図1~
図5に示した。実施区1および実施区2の黒糖は、サラダ油への分散性が高く、均質に分散し、静置開始後5分が経過しても沈殿や凝集がほとんど観察されなかった。一方、比較区1~比較区3の素焚糖、黒砂糖、沖縄黒糖は、混合しても均質に分散しにくく、静置開始後1分で沈殿や凝集が観察された。
【0025】
実施区1~比較区3のサンプルについて、黒糖の油脂に対する分散性を数値化するため、黒糖と油脂の混合液を篩い分けし、凝集の有無を確認した。篩はJIS規格の金属製網ふるいの公称目開き250μm、500μm、710μm、850μmを用い、篩下と篩上の有無で分散性を評価した。
【0026】
実施区1~比較区3のサンプルの篩分け試験の結果を
図1~
図5に示した。実施区1および実施区2の黒糖は、目開き500~850μmはメッシュを通過したが、250μmではわずかに粒子が観察された。比較区1~比較区3の黒糖は、目開き850μmの篩を通過することが出来なかった。
【0027】
以上の結果から、各サンプルをサラダ油に分散させたところ、実施区1と実施区2は均一に分散し、5分間以上分散させた状態を保持したが、比較区1~比較区3はスタティックミキサーで分散させた後、凝集塊を作り、1分後には沈殿部を観察した。凝集のサイズを篩分けで確認したところ、実施区1と実施区2は目開き250μmの篩上を作っていたが、比較区1~比較区3は850μmの篩上を作っており、実施区と比較区の間に分散性の差がみられた。各サンプルの平均粒子径と水分含量を測定したところ、油脂への分散性が向上していた実施区1および実施区2は、平均粒子径が比較区1~3より小さい傾向にあり、水分含量も比較区1~3より低くかった。黒糖の平均粒子径を70μm以上170μm以下、かつ、水分含量を0.01%以上1.5%以下に調整することにより、油脂分散性の向上が可能であることを示した。
平均粒子径70μm以上170μm以下、かつ、水分含量0.01%以上1.5%以下である黒糖を用いることにより、従来は水ばかりでなく油脂にも分散、溶解しにくかった液状媒体に黒糖を混合することが可能である。当該黒糖を用いることにより、油脂分の多いチョコレートや生クリームなどの食品、石鹸や美容クリームなどの化粧料にも、水に一旦溶解することなく、直接混合することが可能となる。