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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172782
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】内燃機関の燃料制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 19/02 20060101AFI20241205BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F02D19/02 D
F02M21/02 311B
F02M21/02 311K
F02M21/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090746
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(74)【代理人】
【識別番号】100192511
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 晃史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】菰田 孝夫
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA01
3G092AA05
3G092AB07
3G092BA02
3G092BA03
3G092BB01
3G092BB08
3G092DE04
3G092DE09
3G092DE10S
3G092DF09
3G092EA11
3G092EC01
3G092EC05
3G092FA32
3G092GA01
3G092HA05Z
3G092HB03X
3G092HB04X
3G092HB09Z
3G092HD05Z
3G092HE01Z
(57)【要約】
【課題】ガス欠状態で学習制御を行った内燃機関の再始動後に、より適切な学習補正値を使用することができる内燃機関の燃料制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の燃料制御装置100は、インジェクタ11と、インジェクタ11の上流側の燃料圧力を検出する下流燃圧センサ15と、Oセンサ19と、燃料ガスの供給量の学習補正値を算出する学習制御を行うと共に、学習補正値を用いてインジェクタ11に燃料ガスを供給させるECU20と、を備える。ECU20は、燃料圧力が所定のガス欠状態を判定するための判定閾値よりも大きい場合の学習補正値である第1学習値と、燃料圧力が判定閾値以下である場合の学習補正値である第2学習値と、を記憶し、エンジン2の再始動後において、判定閾値よりも大きい所定の切替閾値よりも燃料圧力が大きい場合には第1学習値を用い、燃料圧力が切替閾値以下である場合には第2学習値を用いる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料ガスの供給量について学習制御を行う内燃機関の燃料制御装置であって、
燃料タンクからの燃料ガスを前記内燃機関に供給するインジェクタと、
前記インジェクタの上流側の燃料圧力を検出する圧力センサと、
前記内燃機関の排気ガスの酸素濃度を検出する排気センサと、
前記排気センサの検出結果に基づく前記燃料ガスの供給量のフィードバック補正の結果を用いて前記燃料ガスの供給量の学習補正値を算出する前記学習制御を行うと共に、前記学習補正値を用いて前記インジェクタに燃料ガスを供給させる制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記燃料圧力が所定のガス欠状態を判定するための判定閾値よりも大きい場合の前記学習補正値である第1学習値と、前記燃料圧力が前記判定閾値以下である場合の前記学習補正値である第2学習値と、を記憶し、
前記内燃機関の再始動後において、前記判定閾値よりも大きい所定の切替閾値よりも前記燃料圧力が大きい場合には前記第1学習値を用い、前記燃料圧力が前記切替閾値以下である場合には前記第2学習値を用いて、前記インジェクタに燃料ガスを供給させる、内燃機関の燃料制御装置。
【請求項2】
前記切替閾値は、前記燃料タンクへの燃料の補給による前記ガス欠状態の解消を判定するように前記判定閾値よりも大きく設定された閾値である、請求項1に記載の内燃機関の燃料制御装置。
【請求項3】
前記燃料ガスの温度を検出する温度センサを更に備え、
前記切替閾値は、前記燃料ガスの温度が高いほど大きい値として設定される、請求項2に記載の内燃機関の燃料制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関の燃料制御装置として、プレッシャレギュレータの下流側に圧力センサを介装し、圧力センサで検出される圧力に基づいて気体燃料の噴射量を補正する技術が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-193571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の燃料ガスの供給量について学習制御を行う内燃機関において、燃料タンクの残量が少ない状態(ガス欠状態)において、同一の燃料噴射時間では燃料ガスの供給量が減少することがある。この場合、目標燃料量(目標空燃比)を得るために、インジェクタの噴射時間を長くするように燃料ガスの供給量の学習補正値が大きくなり得る。しかしながら、ガス欠状態で記憶した学習補正値を内燃機関の運転を停止してもそのまま保持すると、例えば内燃機関の次回の運転時にガス欠状態が解消されていた場合に、目標燃料量を得るために適切な値よりも学習補正値が過大な状態となることがある。その結果、噴射時間が過剰に長くなり、燃料ガスの供給量が過多となるおそれがある。
【0005】
本発明は、ガス欠状態で学習制御を行った内燃機関の再始動後に、より適切な学習補正値を使用することができる内燃機関の燃料制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、内燃機関の燃料ガスの供給量について学習制御を行う内燃機関の燃料制御装置であって、燃料タンクからの燃料ガスを内燃機関に供給するインジェクタと、インジェクタの上流側の燃料圧力を検出する圧力センサと、内燃機関の排気ガスの酸素濃度を検出する排気センサと、排気センサの検出結果に基づく燃料ガスの供給量のフィードバック補正の結果を用いて燃料ガスの供給量の学習補正値を算出する学習制御を行うと共に、学習補正値を用いてインジェクタに燃料ガスを供給させる制御部と、を備え、制御部は、燃料圧力が所定のガス欠状態を判定するための判定閾値よりも大きい場合の学習補正値である第1学習値と、燃料圧力が判定閾値以下である場合の学習補正値である第2学習値と、を記憶し、内燃機関の再始動後において、判定閾値よりも大きい所定の切替閾値よりも燃料圧力が大きい場合には第1学習値を用い、燃料圧力が切替閾値以下である場合には第2学習値を用いて、インジェクタに燃料ガスを供給させる。
【0007】
本発明の一態様に係る内燃機関の燃料制御装置によれば、燃料圧力と判定閾値との比較結果に応じて、ガス欠状態ではない状態に対応する学習補正値である第1学習値と、ガス欠状態に対応する学習補正値である第2学習値と、が記憶される。内燃機関の再始動後において、切替閾値と燃料圧力との比較結果に応じて第1学習値と第2学習値とが使い分けられる。これにより、ガス欠状態で学習制御を行った内燃機関の再始動後であっても、ガス欠状態ではなくなっている蓋然性が高い場合には、第1学習値を使用してインジェクタに燃料ガスを供給させることができる。したがって、ガス欠状態で学習制御を行った内燃機関の再始動後に、より適切な学習補正値を使用することができる。
【0008】
一実施形態において、切替閾値は、燃料タンクへの燃料の補給によるガス欠状態の解消を判定するように判定閾値よりも大きく設定された閾値であってもよい。この場合、ガス欠状態の解消が燃料タンクへの燃料の補給によるものと判定しやすくなる。
【0009】
一実施形態において、燃料ガスの温度を検出する温度センサを更に備え、切替閾値は、燃料ガスの温度が高いほど大きい値として設定されてもよい。この場合、燃料ガスの温度に応じた圧力変化が燃料圧力に含まれていても、ガス欠状態の解消をより精度良く判定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガス欠状態で学習制御を行った内燃機関の再始動後に、より適切な学習補正値を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る内燃機関の燃料制御装置を備える内燃機関システムを示す概略構成図である。
図2図1のECUの機能的構成を例示する概略ブロック図である。
図3】燃料タンクの残量が少ない状態(ガス欠状態)に近付くときの燃料圧力の推移を例示する図である。
図4】(a)は、内燃機関の再始動後において第2学習値を用いる場合を説明するためのタイミングチャートである。(b)は、内燃機関の再始動後において第1学習値を用いる場合を説明するためのタイミングチャートである。
図5】ECUの学習補正値の記憶処理の一例を示すフローチャートである。
図6】ECUの学習補正値の読出処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る内燃機関の燃料制御装置を備える内燃機関システムを示す概略構成図である。図1において、内燃機関システム1は、例えば車両に搭載されている。車両は、自動車でもよいし、フォークリフト等の産業車両でもよい。
【0014】
内燃機関システム1では、例えば、燃料としてLPG[Liquefied Petroleum Gas]が使用される。LPGは、プロパン及びブタンを主成分とした液化石油ガスである。LPGの蒸気圧は、プロパンとブタンとの比率及びLPGの温度により変化する。
【0015】
内燃機関システム1は、エンジン2(内燃機関)と、吸気流路3と、エアクリーナ4と、スロットル弁5と、LPGボンベ(燃料タンク)6と、燃料流路7と、電磁弁8と、レギュレータ9と、燃料流路10と、複数のインジェクタ11とを備えている。
【0016】
エンジン2は、例えば4気筒エンジンである。エンジン2は、燃料と空気との混合気に点火して燃料を着火させる点火プラグ(図示省略)を有している。
【0017】
吸気流路3は、エンジン2と接続されている。吸気流路3は、エンジン2に供給される空気(吸入空気)が流れる流路である。エアクリーナ4は、吸気流路3に配設されている。エアクリーナ4は、吸入空気に含まれる塵や埃等の異物を取り除く。スロットル弁5は、吸気流路3におけるエアクリーナ4とエンジン2との間に配設されている。スロットル弁5は、吸入空気の流量を制御する電磁式の流量制御弁である。
【0018】
LPGボンベ6は、燃料であるLPGを液体状態で貯留する燃料ボンベである。燃料流路7は、LPGボンベ6とレギュレータ9とを接続する。燃料流路7は、LPGボンベ6からレギュレータ9に液体燃料が流れる流路である。なお、LPGボンベ6と燃料流路7との接続部には、フィルタ(図示省略)が配置されていてもよい。電磁弁8は、燃料流路7の入口を開閉する開閉弁である。
【0019】
レギュレータ9は、LPGボンベ6内の燃料を減圧して気化させる減圧弁である。燃料流路10は、レギュレータ9と複数(例えば4つ)のインジェクタ11とを接続する。燃料流路10は、レギュレータ9により気化された燃料(燃料ガス)が各インジェクタ11に向かって流れる流路である。
【0020】
インジェクタ11は、LPGボンベ6からの燃料ガスをエンジン2に供給する電磁式の燃料噴射弁である。インジェクタ11は、吸気流路3におけるスロットル弁5とエンジン2との間に燃料ガスを噴射する。なお、インジェクタ11は、エンジン2内に燃料ガスを直接噴射してもよい。
【0021】
排気流路12は、エンジン2と接続されている。排気流路12は、エンジン2で吸入空気と燃料ガスとの混合気が点火プラグにより点火され、燃焼して生じた燃焼ガスが排気ガスとして流れる流路である。
【0022】
内燃機関システム1は、内燃機関の燃料制御装置100を備えている。内燃機関の燃料制御装置100は、上流燃圧センサ14と、下流燃圧センサ(圧力センサ)15と、燃料温度センサ(温度センサ)16と、吸気圧センサ17と、回転数センサ18と、Oセンサ(排気センサ)19と、各センサ14~19と電気的に接続されたECU[Electronic Control Unit]20とを備えている。
【0023】
上流燃圧センサ14は、レギュレータ9の上流側の燃料の圧力を検出する圧力センサである。上流燃圧センサ14は、燃料流路7を流れる液体燃料の圧力又はLPGボンベ6の出口圧力を検出する。レギュレータ9の上流側の燃料圧力は、LPGボンベ6内の圧力に相当する。
【0024】
下流燃圧センサ15は、インジェクタ11の上流側の燃料圧力を検出する圧力センサである。一例として、下流燃圧センサ15は、レギュレータ9の下流側の燃料流路10を流れる燃料ガスの圧力を燃料圧力として検出する。
【0025】
燃料温度センサ16は、燃料ガスの温度を検出する温度センサである。一例として、燃料温度センサ16は、燃料流路10を流れる燃料ガスの温度を検出する。
【0026】
吸気圧センサ17は、吸気流路3を流れる吸入空気の圧力を検出する圧力センサである。回転数センサ18は、エンジン2の回転数を検出するセンサである。
【0027】
センサ19は、エンジン2の排気ガスの酸素濃度を検出する排気センサである。Oセンサ19は、排気流路12を流れる排気ガスの酸素濃度を検出する。
【0028】
ECU20は、エンジン2を制御する電子制御ユニット(制御部)である。ECU20は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、CAN[Controller Area Network]通信回路等を有する。ECU20では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。ECU20は、複数の電子制御ユニットから構成されていてもよい。
【0029】
ECU20は、上流燃圧センサ14、下流燃圧センサ15、燃料温度センサ16、吸気圧センサ17、回転数センサ18、及びOセンサ19の各検出値に基づいて、所定の処理を実行し、スロットル弁5、電磁弁8、及びインジェクタ11を制御する。
【0030】
ECU20は、図2に示されるように、機能的構成として、エンジン状態量取得部21と、燃料フィードバック補正部22と、燃料学習補正部23と、燃料噴射制御部24と、スロットル制御部25とを有している。内燃機関の燃料制御装置100は、エンジン2の燃料ガスの供給量について学習制御を行う。
【0031】
エンジン状態量取得部21は、下流燃圧センサ15、燃料温度センサ16、吸気圧センサ17、回転数センサ18、及びOセンサ19の各検出値に基づいて、燃料圧力、燃料ガスの温度、吸入空気の圧力、エンジン2の回転数、及びエンジン2の排気ガスの酸素濃度を取得する。
【0032】
エンジン状態量取得部21は、エンジン2の運転中の下流燃圧センサ15の検出信号から、エンジン2の運転中における燃料圧力を検出する。エンジン状態量取得部21は、エンジン2が再始動された後の下流燃圧センサ15の検出信号から、エンジン2の再始動後の燃料圧力を検出する。
【0033】
燃料フィードバック補正部22は、Oセンサ19の検出結果に基づいて、排気ガスの空燃比が所定の目標空燃比となるように燃料ガスの供給量を補正(フィードバック補正)する燃料フィードバック制御を実行する。燃料フィードバック補正部22は、例えば、燃料フィードバック制御において、エンジン2の回転数及び吸入空気の圧力に基づいて算出される燃料ガスの基本供給量を補正するための燃料フィードバック補正量を算出する。
【0034】
燃料学習補正部23は、フィードバック補正の結果を用いて燃料ガスの供給量の学習補正値を算出する学習制御を行う。燃料学習補正部23は、例えば、所定の学習実行条件が成立しているときに、燃料フィードバック補正量に基づいて一定周期ごとに学習補正値が更新する。所定の学習実行条件は、例えば、エンジン2の冷却水温が所定値以上であるとの条件であってもよい。この所定値は、エンジン2が暖機されている状態であることを判定するための冷却水温の閾値である。
【0035】
ここで、ECU20は、ガス欠状態で学習制御を行った場合、エンジン2の再始動後において、ガス欠状態で記憶した学習補正値を使うか否かを再始動後に検出された燃料圧力に応じて切り替える。
【0036】
具体的には、燃料学習補正部23は、燃料圧力が所定の判定閾値よりも大きい場合、第1学習値を記憶する。第1学習値は、燃料圧力が判定閾値よりも大きい場合の学習補正値である。燃料学習補正部23は、エンジン2の運転停止前に燃料圧力が判定閾値よりも大きい場合に算出した学習補正値を第1学習値として記憶する。
【0037】
判定閾値は、所定のガス欠状態を判定するための燃料圧力の閾値である。所定のガス欠状態とは、インジェクタ11での燃料ガスの圧力低下に起因して、目標空燃比を得るためにインジェクタ11の噴射時間を長くさせる学習補正値が一時的に算出されるようなインジェクタ11での燃料ガスの圧力状態であることを意味する。判定閾値は、レギュレータ9の設定圧力よりも低い所定の圧力として設定することができる。判定閾値は、レギュレータ9の設定圧力よりも低く、且つ、燃料圧力がレギュレータ9の設定圧力と同等であるときに算出した学習補正値を維持できなくなるような所定の圧力として設定されてもよい。
【0038】
燃料学習補正部23は、燃料圧力が所定の判定閾値以下である場合、第2学習値を記憶する。第2学習値は、燃料圧力が判定閾値以下である場合の学習補正値である。燃料学習補正部23は、エンジン2の運転停止前に燃料圧力が判定閾値以下である場合に算出した学習補正値を第2学習値として記憶する。
【0039】
なお、学習補正値の個数は、1個であってもよいし、複数個であってもよい。学習補正値の個数が複数個である場合としては、例えば、エンジン2のアイドリング状態で用いられる1個と、アイドリング以外の運転領域を所定の吸気圧力閾値で4つの領域に分けた場合に各領域で用いられる4個と、の例を挙げることができる。第1学習値及び第2学習値は、それぞれ上述の個数の学習補正値を有することができる。例えば、学習補正値の個数が上述の5個の例では、第1学習値の個数が5個であり、第2学習値が5個である。
【0040】
図3は、燃料タンクの残量が少ない状態(ガス欠状態)に近付くときの燃料圧力の推移を例示する図である。図3に示されるように、LPGボンベ6内がガス欠状態に近付くと、圧力P1が徐々に低下する。圧力P1は、レギュレータ9の上流側の燃料の圧力である。燃料がLPGの場合、LPGボンベ6内がガス欠状態に近くなると、LPGボンベ6内は飽和状態であっても、LPGボンベ6内で気化が発生し、気化潜熱で燃料の温度が低下し、飽和圧が低下し得る。圧力P1の低下は、このような圧力の低下に対応している。
【0041】
圧力P2は、レギュレータ9の下流側の燃料流路10を流れる燃料ガスの燃料圧力である。圧力P2は、LPGボンベ6内がガス欠状態でないときには、レギュレータ9の上流側の燃料が気化されて、圧力P1からレギュレータ9の設定圧力P0と同等に減圧された圧力に対応する。圧力P2は、LPGボンベ6内がガス欠状態に近付くと、減圧後の圧力がレギュレータ9の設定圧力P0よりも低くなっていく。このように、圧力P1及び圧力P2が徐々に低下する。更にLPGボンベ6内がガス欠状態に近付くと、圧力P1及び圧力P2は、更に低下し、判定閾値Pxよりも低くなっていく。
【0042】
図4(a)及び図4(b)の紙面左側半分に示されるように、圧力P2が低下すると、ある時点で圧力P2は判定閾値Pxと等しくなり、その後、圧力P2は更に低下し続ける。圧力P2が判定閾値Pxよりも大きい期間では、算出された学習補正値が第1学習値として記憶される(図中の白抜き丸印)。第1学習値が略一定の値として示されていることは、圧力P2がレギュレータ9の設定圧力P0と同等である場合の噴射時間と同一の噴射時間であっても燃料ガスの供給量が減少しないことに対応する。圧力P2が判定閾値Px以下である期間では、算出された学習補正値が第2学習値として記憶される(図中の黒丸印)。第2学習値が、第1学習値よりも大きい値として示されていることは、圧力P2がレギュレータ9の設定圧力P0と同等である場合の噴射時間と同一の噴射時間では燃料ガスの供給量が減少することに対応する。算出される学習補正値のこのような挙動を考慮すると、圧力P2がレギュレータ9の設定圧力P0と同等である場合の噴射時間と同一の噴射時間で燃料ガスの供給量が減少するか否かの境界となる燃料圧力は、学習補正値がイレギュラーな値となるか否かの境界に対応するガス欠限界圧力であると考えることができる。判定閾値Pxは、燃料圧力がガス欠限界圧力以上である範囲で設定することができる。そして、図4(a)及び図4(b)の例では、圧力P2が判定閾値Pxよりも低いある圧力となったときに、エンジン2の運転が停止される。エンジン2の運転停止後、記憶された第1学習値及び第2学習値は、保持される。
【0043】
ECU20は、エンジン2の再始動後において、判定閾値よりも大きい所定の切替閾値よりも燃料圧力が大きい場合には第1学習値を用い、燃料圧力が切替閾値以下である場合には第2学習値を用いて、インジェクタ11に燃料ガスを供給させる。
【0044】
切替閾値は、エンジン2の再始動後において第1学習値と第2学習値とを使い分けるために判定閾値よりも大きく設定された燃料圧力の閾値である。切替閾値は、例えば、レギュレータ9の設定圧力P0よりも低く、上述のガス欠限界圧力よりも高い、所定の圧力として設定されてもよい。
【0045】
ここで、エンジン2の再始動後の燃料圧力は、例えば、エンジン2の運転停止前にガス欠状態となってからエンジン2の再始動後に同種の燃料が補給されたこと、及び、燃料流路10の燃料ガスの温度がエンジン2の運転停止前と比べて高くなったこと、の少なくとも何れかにより上昇し得る。そのため、ここでの切替閾値は、例えば、LPGボンベ6への燃料の補給によるガス欠状態の解消を判定するように判定閾値よりも大きく設定されていてもよい。切替閾値は、例えば、燃料流路10の燃料ガスの温度がエンジン2の運転停止前と比べて所定温度高くなったときに上昇する燃料圧力に対応する圧力値だけ判定閾値よりも大きく設定されていてもよい。所定温度は、車両が使用される環境に応じて想定可能な温度の上昇幅を意味する。
【0046】
切替閾値は、燃料ガスの温度が高いほど大きい値として設定されてもよい。燃料学習補正部23は、燃料温度センサ16に基づいて、燃料ガスの温度が高いほど上記所定温度を大きい値としてもよい。
【0047】
図4(a)の紙面右側半分に示されるように、エンジン2の再始動後の圧力P3が切替閾値Py以下である場合、燃料学習補正部23は、エンジン2の運転停止前に判定されたガス欠状態がエンジン2の再始動後に解消していないとして、第2学習値を使用する。一方、図4(b)の紙面右側半分に示されるように、エンジン2の再始動後の圧力P3が切替閾値Pyよりも大きい場合、燃料学習補正部23は、エンジン2の運転停止前に判定されたガス欠状態がエンジン2の再始動後に解消したとして、第1学習値を使用する。
【0048】
燃料噴射制御部24は、燃料ガスの供給量のフィードバック補正の結果と学習補正値とを用いてインジェクタ11に燃料ガスを供給させる。燃料噴射制御部24は、例えば、燃料フィードバック補正部22により算出された燃料フィードバック補正量と燃料学習補正部23により算出された学習補正値とで基本供給量を補正することで、インジェクタ11に燃料ガスを供給させるための噴射量に相当する噴射時間を算出する。燃料噴射制御部24は、算出した噴射時間に基づいてインジェクタ11の開弁を制御し、インジェクタ11に燃料ガスを供給させる。
【0049】
スロットル制御部25は、例えば、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ(図示省略)の検出結果に基づいて、スロットル弁5の開度を制御する。
【0050】
以上のようにして、ECU20は、Oセンサ19の検出結果に基づく燃料ガスの供給量のフィードバック補正の結果を用いて燃料ガスの供給量の学習補正値を算出する学習制御を行うと共に、学習補正値を用いてインジェクタ11に燃料ガスを供給させる。
【0051】
図5は、ECUの学習補正値の記憶処理の一例を示すフローチャートである。図5に示されるフローチャートの処理は、例えば、エンジン2の運転中に所定の学習実行条件が成立しているときに所定の演算周期ごとに繰り返し実行される。
【0052】
S01において、内燃機関の燃料制御装置100のECU20は、エンジン状態量取得部21により、燃料圧力の検出を行う。エンジン状態量取得部21は、例えば、下流燃圧センサ15の検出信号から、エンジン2の運転中における燃料圧力を検出する。
【0053】
S02において、ECU20は、燃料フィードバック補正部22及び燃料学習補正部23により、学習補正値の算出を行う。燃料フィードバック補正部22は、Oセンサ19で検出した排気ガスの酸素濃度に基づいて、燃料フィードバック制御を実行する。燃料学習補正部23は、燃料フィードバック制御の補正値に基づいて、学習補正値を算出する。
【0054】
S03において、ECU20は、燃料学習補正部23により、燃料圧力が判定閾値よりも大きいか否かの判定を行う。燃料圧力が判定閾値よりも大きいと判定された場合(S03:YES)、ECU20は、S04の処理に移行する。燃料圧力が判定閾値以下であると判定された場合(S03:NO)、ECU20は、S05の処理に移行する。
【0055】
S04において、ECU20は、燃料学習補正部23により、第1学習値の記憶を行う。燃料学習補正部23は、燃料圧力が判定閾値よりも大きい場合の学習補正値を第1学習値として記憶する。その後、ECU20は、図5の処理を終了する。
【0056】
S05において、ECU20は、燃料学習補正部23により、第2学習値の記憶を行う。燃料学習補正部23は、燃料圧力が判定閾値以下である場合の学習補正値を第2学習値として記憶する。その後、ECU20は、図5の処理を終了する。
【0057】
図6は、ECUの学習補正値の読出処理の一例を示すフローチャートである。図6に示されるフローチャートの処理は、例えばイグニッションスイッチ29の始動操作に応じて、図5の学習補正値の記憶処理の実行後にエンジン2が再始動された後に実行される。
【0058】
S11において、ECU20は、エンジン状態量取得部21により、再始動後の燃料圧力の検出を行う。エンジン状態量取得部21は、例えば、下流燃圧センサ15の検出信号から、エンジン2の再始動後の燃料圧力を検出する。
【0059】
S12において、ECU20は、燃料学習補正部23により、燃料圧力が切替閾値よりも大きいか否かの判定を行う。燃料圧力が切替閾値よりも大きいと判定された場合(S12:YES)、ECU20は、S13の処理に移行する。燃料圧力が切替閾値以下であると判定された場合(S12:NO)、ECU20は、S14の処理に移行する。
【0060】
S13において、ECU20は、燃料学習補正部23により、第1学習値の使用を行う。燃料学習補正部23は、エンジン2の再始動後に使用する学習補正値として、記憶していた第1学習値を読み出す。
【0061】
S14において、ECU20は、燃料学習補正部23により、第2学習値の使用を行う。燃料学習補正部23は、エンジン2の再始動後に使用する学習補正値として、記憶していた第2学習値を読み出す。
【0062】
S15において、ECU20は、燃料噴射制御部24により、インジェクタ11に燃料ガスを供給する。燃料噴射制御部24は、例えば、読み出された第1学習値又は第2学習値を用いて、燃料ガスの供給量を算出し、算出した供給量でインジェクタ11に燃料ガスを供給する。その後、ECU20は、図5の処理を終了する。
【0063】
以上のように構成された内燃機関の燃料制御装置100によれば、圧力P2(燃料圧力)と判定閾値Pxとの比較結果に応じて、ガス欠状態ではない状態に対応する学習補正値である第1学習値と、ガス欠状態に対応する学習補正値である第2学習値と、が記憶される。エンジン2の再始動後において、再始動後の圧力P3(燃料圧力)と切替閾値Pyとの比較結果に応じて第1学習値と第2学習値とが使い分けられる。これにより、ガス欠状態で学習制御を行ったエンジン2の再始動後であっても、ガス欠状態ではなくなっている蓋然性が高い場合には、第1学習値を使用してインジェクタ11に燃料ガスを供給させることができる。したがって、ガス欠状態で学習制御を行ったエンジン2の再始動後に、より適切な学習補正値を使用することができる。
【0064】
内燃機関の燃料制御装置100では、切替閾値Pyは、LPGボンベ6への燃料の補給によるガス欠状態の解消を判定するように判定閾値Pxよりも大きく設定された閾値である。これにより、ガス欠状態の解消がLPGボンベ6への燃料の補給によるものと判定しやすくなる。
【0065】
内燃機関の燃料制御装置100は、燃料ガスの温度を検出する燃料温度センサ16を更に備えている。切替閾値Pyは、燃料ガスの温度が高いほど大きい値として設定されている。これにより、燃料ガスの温度に応じた圧力変化が燃料圧力に含まれていても、ガス欠状態の解消をより精度良く判定することができる。
【0066】
[変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。
【0067】
上記実施形態では、切替閾値Pyは、LPGボンベ6への燃料の補給によるガス欠状態の解消を判定するように判定閾値Pxよりも大きく設定されていたが、この例に限定されない。例えば、エンジン2の運転停止前には気化潜熱でLPGボンベ6が冷えて圧力が下がりやすい。運転停止してから時間が経つとLPGボンベ6が外気温に戻るため、LPGボンベ6への燃料の補給をしなくとも、その温度上昇分で圧力P3が切替閾値Pyを超えることが起こり得る。その場合でも、インジェクタ11での燃料ガスの圧力低下が解消されているため、第1学習値を用いても構わない。
【0068】
上記実施形態では、切替閾値Pyは、燃料温度センサ16の検出結果に基づいて、燃料ガスの温度が高いほど大きい値として設定する例を示したが、この例に限定されない。例えば、切替閾値は、燃料温度センサ16の検出結果を用いず、固定値であってもよいし、変動し得る値であってもよい。切替閾値は、例えば、エンジン2の運転停止時の燃料圧力値に所定の圧力値を加算することで与えてもよい。これらの場合、燃料温度センサ16は省略されてもよい。
【0069】
上記実施形態では、圧力P2(燃料圧力)と判定閾値Pxとの比較結果に応じて、ガス欠状態ではない状態に対応する学習補正値である第1学習値と、ガス欠状態に対応する学習補正値である第2学習値と、が記憶されたが、圧力P2に代えて、レギュレータ9の上流側の燃料の圧力P1(燃料圧力)と判定閾値Pxとを比較してもよい。
【0070】
上記実施形態では、エンジン2の排気ガスの酸素濃度を検出する排気センサとしてOセンサ19を用いたが、リニアに空燃比を検出可能な空燃比センサを用いてもよい。
【0071】
上記実施形態では、燃料としてLPGが使用されているが、本発明は、燃料として圧縮天然ガス(CNG:[Compressed Natural Gas])等を使用する内燃機関にも適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
2…エンジン(内燃機関)、6…LPGボンベ(燃料タンク)、11…インジェクタ、15…下流燃圧センサ(圧力センサ)、16…燃料温度センサ(温度センサ)、19…Oセンサ(排気センサ)、100…内燃機関の燃料制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6