(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172786
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】方位算出装置及び方位算出方法
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20241205BHJP
G01C 19/00 20130101ALI20241205BHJP
【FI】
G01C21/28
G01C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090752
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 郁哉
(72)【発明者】
【氏名】長島 了太
【テーマコード(参考)】
2F105
2F129
【Fターム(参考)】
2F105AA01
2F105AA02
2F105AA03
2F105AA05
2F105AA06
2F105BB09
2F105BB17
2F129AA03
2F129AA06
2F129AA08
2F129AA11
2F129AA14
2F129BB02
2F129BB03
2F129BB20
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129GG17
2F129GG18
(57)【要約】
【課題】角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することが可能な方位算出装置を提供すること。
【解決手段】衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて第1方位を算出する第1方位演算部と、角速度信号に基づいて第2方位を算出する第2方位演算部と、前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算部と、角速度バイアスの温度特性情報を記憶する記憶部と、前記第2方位と前記第3方位とに基づいて温度センサーが検出した温度に対する前記角速度バイアスの温度特性を推定し、前記温度特性情報を更新する温度特性推定部と、前記温度と前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測部と、を備え、前記第2方位演算部は、予測された前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する、方位算出装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算部と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算部と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算部と、
角速度バイアスの温度特性情報を記憶する記憶部と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する前記角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報を更新する温度特性推定部と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測部と、を備え、
前記第2方位演算部は、前記角速度バイアス予測部が予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する、方位算出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記角速度バイアスは、温度変化を変数とする多項式で近似される、方位算出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記温度特性情報は、複数の温度の各々に対する前記多項式の係数の値を含む、方位算出装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記多項式は、1次多項式である、方位算出装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記角速度バイアスは、前記第2方位の角速度のバイアスである、方位算出装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記角速度バイアスは、前記角速度センサーが検出するヨー軸回りの角速度のバイアスである、方位算出装置。
【請求項7】
請求項3において、
前記温度特性推定部は、前記温度特性として前記係数の値を推定し、推定した前記係数の分散を算出し、前記温度特性情報に、前記温度センサーが検出した前記温度に対する前記係数の値が含まれている場合、前記分散が所定の閾値以下のときは、前記温度特性情報に含まれている前記係数の値を、推定した前記係数の値に更新し、前記分散が所定の閾値よりも大きいときは、前記温度特性情報に含まれている前記係数の値を更新しない、方位算出装置。
【請求項8】
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算工程と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算工程と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算工程と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、記憶部に記憶されている前記角速度バイアスの温度特性情報を更新する温度特性推定工程と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測工程と、を含み、
前記第2方位演算工程では、前記角速度バイアス予測工程で予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する、方位算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方位算出装置及び方位算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、移動体の停止時の温度検出値と角速度の検出値とに基づいて角速度バイアスの温度特性データを求め、角速度バイアスの温度特性データが有効であるとき、角速度センサーの温度特性と温度とから求めた角速度バイアスを初期値としてGSP/INS統合演算を行い、角速度バイアス及び角速度をリアルタイムに推定して、移動体の方位を求める、航法装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置では、移動体の停止時の温度検出値と角速度の検出値との関係を蓄積して角速度バイアスの温度特性データを求める必要があるため、移動体が停止する回数が少なく蓄積するデータの量が十分でない場合や、走行時の温度が停止時の温度と異なる場合には、角速度バイアスの推定精度が低下するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る方位算出装置の一態様は、
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算部と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算部と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算部と、
角速度バイアスの温度特性情報を記憶する記憶部と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する前記角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報を更新する温度特性推定部と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測部と、を備え、
前記第2方位演算部は、前記角速度バイアス予測部が予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する。
【0006】
本発明に係る方位算出方法の一態様は、
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算工程と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算工程と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算工程と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、記憶部に記憶されている前記角速度バイアスの温度特性情報を更新する温度特性推定工程と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報
とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測工程と、を含み、
前記第2方位演算工程では、前記角速度バイアス予測工程で予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の方位算出装置の構成例を示す図。
【
図5】本実施形態の方位算出方法の手順の一例を示すフローチャート図。
【
図6】第1実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図。
【
図7】第2実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図。
【
図8】第3実施形態の方位算出装置の構成例を示す図。
【
図9】第3実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図。
【
図10】第3実施形態の方位算出方法の具体的な手順の他の一例を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0009】
1.第1実施形態
1-1.方位算出装置
図1は、第1実施形態の方位算出装置の構成例を示す図である。
図1に示すように、第1実施形態の方位算出装置1は、第1方位演算部20、第2方位演算部30、第3方位演算部40、角速度バイアス予測部50、温度特性推定部60及び記憶部70を備えている。また、方位算出装置1は、衛星信号受信機11、車輪速センサー12、角速度センサー13、6Dofセンサー14及び温度センサー15を備えていてもよい。Dofは、Degrees Of Freedomの略称である。なお、方位算出装置1は、
図1の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
【0010】
方位算出装置1は、移動体に搭載される。方位算出装置1が搭載される移動体には、X軸、Y軸及びZ軸による3軸座標系であるローカル座標系が定義される。X軸は移動体の進行方向を正とする軸であり、Y軸は移動体の進行方向と直交する右方向を正とする軸であり、Z軸は移動体が走行する平面に垂直な下方向を正とする軸である。また、移動体が移動する空間にはグローバル座標系が定義される。グローバル座標系は、地球に固定された座標系である。以下の説明では、方位算出装置1が移動体である自動車に搭載される場合を想定する。
【0011】
衛星信号受信機11は、不図示のアンテナを介して、衛星から送信される衛星信号を受信する。衛星は、衛星測位システムの一部を構成する。衛星測位システムはGNSS(Global Navigation Satellite System)であってもよい。GNSSとしては、例えば、GPS(Global Positioning System)、EGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)、QZSS(Quasi Zenith Satellite System)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、GALILEO、BeiDou(BeiDou Navigation Satellite System)などが挙げられる。
【0012】
車輪速センサー12は、移動体である自動車の車輪の回転速度を検出し、車輪速信号を出力する。
【0013】
角速度センサー13は、角速度を検出し、角速度信号を出力する。具体的には、角速度センサー13は、1つの検出軸を有し、当該検出軸がZ軸に沿うように移動体に搭載されており、Z軸回りの角速度を検出し、Z軸角速度信号を出力する。例えば、角速度センサー13は、水晶を材料とする不図示のセンサー素子を有し、角速度を高精度に検出する水晶ジャイロセンサーであってもよい。
【0014】
6Dofセンサー14は、互いに直交する3軸回りの角速度及び当該3軸方向の加速度を検出し、3軸角速度信号及び3軸加速度信号を出力する。具体的には、6Dofセンサー14は、互いに直交する3つの検出軸を有し、当該3つの検出軸がそれぞれX軸、Y軸及びZ軸に沿うように移動体に搭載されている。そして、6Dofセンサー14は、X軸回りの角速度、Y軸回りの角速度及びZ軸回りの角速度を検出して3軸角速度信号を出力するとともに、X軸方向の加速度、Y軸方向の加速度及びZ軸方向の加速度を検出して3軸加速度信号を出力する。例えば、6Dofセンサー14は、シリコン基板をMEMS技術で加工した静電容量型のセンサーであってもよい。
【0015】
例えば、角速度センサー13及び6Dofセンサー14は、角速度センサー13の検出軸と6Dofセンサー14の3つの検出軸のいずれか1つが同じ方向となるように1つの筐体に収容され、3軸回りの角速度及び当該3軸方向の加速度を検出するセンサーモジュール10を構成してもよい。この場合、例えば、
図2に示すように、センサーモジュール10は、3軸がそれぞれX軸、Y軸及びZ軸に沿うように移動体である自動車5に搭載される。そして、角速度センサー13はZ軸回りの角速度を検出し、6Dofセンサー14は、X軸回りの角速度、Y軸回りの角速度、Z軸回りの角速度、X軸方向の加速度、Y軸方向の加速度及びZ軸方向の加速度を検出する。センサーモジュール10は、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度と、6Dofセンサー14が検出した3軸回りの角速度及び3軸方向の加速度とを含むデータを出力してもよい。また、例えば、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度が、6Dofセンサー14が検出したZ軸回りの角速度よりも精度が高い場合、センサーモジュール10は、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度と、6Dofセンサー14が検出したX軸回りの角速度、Y軸回りの角速度及び3軸方向の加速度とを含むデータを出力してもよい。
【0016】
ただし、角速度センサー13と6Dofセンサー14とは、互いに別体であってもよい。
【0017】
温度センサー15は、温度を検出し、温度信号を出力する。例えば、温度センサー15は、角速度センサー13の近傍に配置され、角速度センサー13の温度を検出する。あるいは、角速度センサー13と温度センサー15とは、1つの筐体に収容されていてもよい。
【0018】
第1方位演算部20は、衛星信号受信機11が受信した衛星信号に基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第1方位Ψgnss,kを算出する。第1方位演算部20は、例えば1秒等の所定の周期で第1方位Ψgnss,kを算出する。例えば、第1方位演算部20は、ドップラー効果により衛星の位置と移動体の速度との関係に応じて衛星信号の周波数がシフトする現象を利用して移動体の速度ベクトルを算出し、速度ベクトルの向きから第1方位Ψgnss,kを算出してもよい。また、例えば、第1方位演算部20は、衛星信号に基づいて、グローバル座標系における移動体の位置を算出し、位置を微分して速度ベクトルを算出し、速度ベクトルの向きから第1方位Ψgnss
,kを算出してもよい。また、例えば、移動体の異なる2つの位置にそれぞれ衛星信号を受信するアンテナが設けられており、衛星信号受信機11が2つのアンテナでそれぞれ受信した衛星信号に基づいて2つのアンテナの位置を算出し、算出した2つの位置から第1方位Ψgnss,kを算出してもよい。あるいは、移動体に2つの衛星信号受信機11が搭載されており、2つの衛星信号受信機11がそれぞれ受信した衛星信号に基づいて2つの位置を算出し、算出した2つの位置から第1方位Ψgnss,kを算出してもよい。なお、第1方位演算部20は、公知の衛星航法により、グローバル座標系における移動体の位置や速度をさらに算出してもよい。
【0019】
第2方位演算部30は、角速度センサー13から出力される角速度信号に基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第2方位Ψ
ins,kを算出する。第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が予測した前回の時刻k-1の角速度バイアスδΩ
k-1に基づいて、角速度バイアスが補正された時刻kの第2方位Ψ
ins,kを算出する。第2方位演算部30は、例えば0.01秒等の所定の周期で第2方位Ψ
ins,kを算出する。具体的には、第2方位演算部30は、角速度センサー13が検出した時刻kにおけるZ軸回りの角速度ω
zと、6Dofセンサー14が検出した時刻kにおけるX軸周りの角速度ω
x及びY軸周りの角速度ω
yとに基づいて、式(1)により、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψのそれぞれの角速度を算出する。
図2に示すように、ロール角φは、自動車5の進行方向に沿うX軸を回転軸とする回転角である。また、ピッチ角θは、自動車5の進行方向と直交する右方向に沿うY軸を回転軸とする回転角である。また、ヨー角ψは、自動車5が走行する平面に垂直な下方向に沿うZ軸を回転軸とする回転角である。ヨー角ψは、移動体の相対的な方位を表し、ロール角φ及びピッチ角θは、移動体の姿勢を表す。
【0020】
【0021】
そして、第2方位演算部30は、第3方位演算部40が算出した前回の時刻k-1における第3方位Ψest,k-1を初期方位として、第3方位Ψest,k-1に、ヨー角ψの角速度から角速度バイアスδΩk-1を減算して積分した値を加算して、時刻kにおける第2方位Ψins,kを算出する。なお、自動車5の走行制御では、ロール角φ、ピッチ角θ及びヨー角ψのうちヨー角ψが最も重要である。そのため、方位算出装置1は、ヨー角ψを高精度に算出するために、6Dofセンサー14に加えて、Z軸回りの角速度を高精度に検出する角速度センサー13を備えている。
【0022】
第3方位演算部40は、第1方位演算部20が算出した時刻kにおける第1方位Ψgnss,kと第2方位演算部30が算出した時刻kにおける第2方位Ψins,kとに基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第3方位Ψest,kを算出する。第3方位演算部40は、衛星航法と慣性航法とを複合した公知の複合航法により、例えば1秒等の所定の周期で第3方位Ψest,kを算出する。例えば、第3方位演算部40は、第1方位Ψgnss,kが算出されるタイミングでは、第1方位Ψgnss,kを第3方位Ψest,kとし、第1方位Ψgnss,kが算出されないタイミングでは第2方位Ψins,kを第3方位Ψest,kとしてもよい。また、第3方位演算部40は、カルマンフィルターを用いて、第3方位Ψest,kを算出してもよい。なお、第3方位演算部40は、移動体の速度、姿勢及び方位に基づいて、移動体の位置をさらに算出してもよい。移動体の速度は、第1方位演算部20が算出した速度であってもよいし、車輪速センサー12から出力される車輪速信号に基づいて算出される速度であってもよい。
また、移動体の姿勢は、ロール角Φest,k及びピッチ角Θest,kによって表され、第2方位演算部30が算出したロール角φ及びピッチ角θであってもよい。
【0023】
記憶部70は、角速度バイアスδΩkの温度特性情報71を記憶する。本実施形態では、角速度バイアスδΩkは、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψins,kの角速度のバイアスであり、式(2)で表される。式(2)におけるδΨins,kは、第2方位Ψins,kの誤差であり、式(3)に示すように、第2方位Ψins,kと第3方位演算部40が算出した時刻kにおける第3方位Ψest,kとの差分である。式(2)におけるΔtは、第3方位演算部40が第3方位Ψest,kを算出する周期であり、例えば1秒である。
【0024】
【0025】
【0026】
角速度バイアスδΩkは、式(4)のように、時刻kにおける温度変化ΔTkを変数とするn次多項式で近似される。温度変化ΔTkは、温度センサー15が検出した時刻kにおける温度Tkと時刻k-1における温度Tkとの差分である。
【0027】
【0028】
本実施形態では、温度特性情報71は、複数の温度の各々に対する多項式(4)の係数c
0,k~c
n,kの値を含む。
図3は、温度特性情報71の一例を示す図である。
図3の例では、温度特性情報71は、-40℃から+85℃までの1℃毎の温度に対する係数c
0,k~c
n,kの値を含む。なお、温度特性情報71は、少なくとも1つの温度に対して係数c
0,k~c
n,kの値の少なくとも1つを含んでいなくてもよい。
【0029】
温度特性推定部60は、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψ
ins,kと第3方位演算部40が算出した第3方位Ψ
est,kとに基づいて、温度センサー15が検出した温度T
kに対する角速度バイアスδΩ
kの温度特性を推定し、推定した温度特性に基づいて記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。温度特性推定部60は、温度T
kに対する角速度バイアスδΩ
kの温度特性として多項式(4)の係数c
0,k~c
n,kの値を推定し、推定した係数c
0,k~c
n,kの分散を算出してもよい。そして、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度T
kに対する多項式(4)の係数c
i,kの値が含まれている場合、係数c
i,kの分散が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている係数c
i,kの値を、推定した係数c
i,kの値に更新し、係数c
i,kの分散が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている係数c
i,kの値を更新しなくてもよい。すなわち、温度特性推定部60は、温度T
kに対する係数c
i,kの値の推定精度が所定値以上の場合のみ、温度特性情報71に含まれている温度T
kに対する係数c
i,kの値を更新してもよい。記憶部70に、
図3に示した温度特性情報71が記憶されている場合、例えば、温度T
kが25℃であり、係数c
0
,k~c
n,kの分散がすべて所定の閾値以下であれば、温度特性推定部60は、温度特性情報71に含まれている25℃に対する係数c
0,k~c
n,kの値c
0(+25℃)~c
n(+25℃)を、推定した係数c
0,k~c
n,kの値に更新する。
【0030】
なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する多項式(4)の係数c0,k~cn,kの値が含まれていない場合は、分散の値によらず、温度特性情報71に含まれている係数c0,k~cn,kの値を、推定した係数c0,k~cn,kの値に更新する。
【0031】
温度特性推定部60は、第3方位Ψ
est,kが更新される所定の周期、例えば1秒等の短い周期で角速度バイアスδΩ
kの温度特性を推定する。したがって、温度特性推定部60が温度特性を推定する各周期において、温度変化ΔT
kは微小である。
図4に示すように、温度変化ΔT
kが微小であれば、角速度バイアスδΩ
kは、温度変化ΔT
kに対して線形に変化するものとみなすことができる。すなわち、角速度バイアスδΩ
kは、式(5)のように、温度変化ΔT
kの1次多項式で近似される。式(5)は、nが1の場合の多項式(4)に相当する。
【0032】
【0033】
したがって、温度特性推定部60は、温度センサー15から出力される温度信号に応じた温度Tkに対する式(5)の多項式の1次係数c1,k及び0次係数c0,kを推定してもよい。本実施形態では、温度特性推定部60は、拡張カルマンフィルターを用いて、温度Tkに対する1次係数c1,k及び0次係数c0,kを推定する。
【0034】
本実施形態では、式(6)に示すように、1次係数c1,k、0次係数c0,k及び温度Tkを要素とする状態変数xkが定義される。
【0035】
【0036】
状態方程式は、式(7)で定義される。式(7)において、Fkは、状態遷移行列であり、式(8)に示すように、3×3の単位行列であるものとする。また、式(7)において、vkは駆動雑音であり、式(9)に示すように、あらかじめ適切な値に設定されたσv1,σv2,σv3を要素とする。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
本実施形態では、式(10)に示すように、角速度バイアスδΩk、角速度バイアス変化δΩk-δΩk-1、温度Tkを要素とする観測変数ykが定義される。
【0041】
【0042】
観測方程式は、式(11)で定義される。式(11)において、Hkは観測ヤコビアンであり、式(12)で表される。また、式(11)において、wkは観測雑音であり、式(13)に示すように、あらかじめ適切な値に設定されたσw1,σw2,σw3を要素とする。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
温度特性推定部60は、拡張カルマンフィルターの予測ステップ、観測ステップ及び更新ステップを実行し、角速度バイアスδΩkの温度特性を推定する。
【0047】
まず、温度特性推定部60は、予測ステップにおいて、状態方程式(7)に基づく式(14)により、時刻k-1の更新ステップで更新した状態変数x^k-1|k-1から、時刻kの状態変数x^k|k-1を予測する。すなわち、状態変数x^k-1|k-1は時刻k-1の事後推定値であり、状態変数x^k|k-1は時刻kの事前推定値である。
【0048】
【0049】
また、温度特性推定部60は、予測ステップにおいて、式(15)により、時刻k-1の更新ステップで更新した状態変数x^k-1|k-1の共分散行列Pk-1|k-1か
ら、時刻kの状態変数x^k|k-1の共分散行列Pk|k-1を予測する。式(15)において、Vkは、駆動雑音vkの共分散行列であり、式(16)によって算出される。
【0050】
【0051】
【0052】
次に、温度特性推定部60は、観測ステップにおいて、観測方程式(11)に基づく式(17)により、時刻kの予測ステップで予測した状態変数x^k|k-1から観測される値を算出する。式(17)において、温度変化ΔTkは、式(18)のように、状態変数x^k|k-1に含まれる温度Tk|k-1と状態変数x^k-1|k-1に含まれる温度Tk-1|k-1との差分である。また、温度変化ΔTk-1は、式(19)のように、状態変数x^k-1|k-1に含まれる温度Tk-1|k-1と状態変数x^k-2|k-2に含まれる温度Tk-2|k-2との差分である。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
そして、温度特性推定部60は、式(20)により、実際に観測された時刻kの観測変数ykの値と式(17)によって算出された値との差分である観測残差ekを算出する。
【0057】
【0058】
また、温度特性推定部60は、観測ステップにおいて、式(21)により、時刻kの予測ステップで予測した状態変数x^k|k-1の共分散行列Pk|k-1から、観測残差ekの共分散行列Skを算出する。式(21)において、Wkは、観測雑音wkの共分散行列であり、式(22)によって算出される。また、Hkは、観測ヤコビアン行列であり、式(23)によって算出される。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
最後に、温度特性推定部60は、更新ステップにおいて、時刻kの予測ステップで予測した状態変数x^k|k-1の共分散行列Pk|k-1と、時刻kの観測ステップで算出した観測残差ekの共分散行列Skとから、式(24)により、カルマンゲインKkを算出する。
【0063】
【0064】
そして、温度特性推定部60は、更新ステップにおいて、式(25)により、カルマンゲインKkと、時刻kの観測ステップで算出した観測残差ekとに基づいて、時刻kの予測ステップで予測した状態変数x^k|k-1を状態変数x^k|kに更新する。前述の通り、状態変数x^k|k-1は時刻kの事前推定値である。また、状態変数x^k|kは時刻kの事後推定値である。
【0065】
【0066】
このように、温度特性推定部60は、拡張カルマンフィルターを用いて、状態変数xkに含まれる1次係数c1,k及び0次係数c0,kを推定する。
【0067】
また、温度特性推定部60は、更新ステップにおいて、式(26)により、カルマンゲインKkに基づいて、時刻kの予測ステップで予測した状態変数x^k|k-1の共分散行列Pk|k-1を状態変数x^k|kの共分散行列Pk|kに更新する。
【0068】
【0069】
共分散行列Pk|kにおいて、p11は1次係数c1,kの分散であり、p22は0次係数c0,kの分散である。温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対
する1次係数c1,kの値が含まれている場合、分散p11が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている1次係数c1,kの値を、推定した1次係数c1,kの値に更新し、分散p11が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている1次係数c1,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する1次係数c1,kの値が含まれていない場合は、分散p11の値によらず、温度特性情報71に含まれている1次係数c1,kの値を、推定した1次係数c1,kの値に更新する。
【0070】
同様に、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれている場合、分散p22が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新し、分散p22が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれていない場合は、分散p22の値によらず、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新する。
【0071】
角速度バイアス予測部50は、温度センサー15が検出した温度Tkと、記憶部70に記憶されている温度特性情報71とに基づいて、角速度バイアスδΩkを予測する。例えば、角速度バイアス予測部50は、温度Tk-1と温度Tkと温度特性情報71に含まれる温度Tkに対する係数c0,k~cn,kとを多項式(4)に代入して角速度バイアスδΩkを予測してもよい。
【0072】
このように構成されている方位算出装置1は、移動体である自動車5が停止中か走行中かによらず、例えば1秒等の所定の周期で角速度バイアスδΩkを推定し、角速度バイアスが補正された高精度の第3方位Ψest,kを算出することができる。
【0073】
なお、角速度センサー13を製造する者や場所と、角速度センサー13を含む方位算出装置1の一部又は全部のモジュール化を行う者や場所とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0074】
1-2.方位算出方法
図5は、本実施形態の方位算出方法の手順の一例を示すフローチャート図である。
図5に示すように、本実施形態の方位算出方法は、第1方位演算工程S10と、第2方位演算工程S20と、第3方位演算工程S30と、温度特性推定工程S40と、角速度バイアス予測工程S50と、を含む。本実施形態では、方位算出装置1が
図5の手順に従って各工程の処理を行う。方位算出装置1は、不図示のプログラムを実行することにより、各工程の処理を行ってもよい。
【0075】
まず、第1方位演算工程S10において、方位算出装置1の第1方位演算部20が、衛星信号受信機11が受信した衛星信号に基づいて、第1方位Ψgnss,kを算出する。
【0076】
次に、第2方位演算工程S20において、方位算出装置1の第2方位演算部30が、角速度センサー13が角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位Ψins,kを算出する。第2方位演算部30は、後述する角速度バイアス予測工程S50で予測された前回の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位Ψins,kを算出する。
【0077】
次に、第3方位演算工程S30において、方位算出装置1の第3方位演算部40が、第1方位演算工程S10で算出された第1方位Ψgnss,kと第2方位演算工程S20で
算出された第2方位Ψins,kとに基づいて第3方位Ψest,kを算出する。
【0078】
次に、温度特性推定工程S40において、方位算出装置1の温度特性推定部60が、第2方位演算工程S20で算出された第2方位Ψins,kと第3方位演算工程S30で算出された第3方位Ψest,kとに基づいて、温度センサー15が検出した温度Tkに対する角速度バイアスδΩkの温度特性を推定し、推定した温度特性に基づいて、記憶部70に記憶されている角速度バイアスδΩkの温度特性情報71を更新する。
【0079】
温度特性推定部60は、角速度バイアスδΩkの温度特性として多項式(4)の係数c0,k~cn,kの値を推定し、推定した係数c0,k~cn,kの分散を算出し、温度特性情報71に、温度Tkに対する係数ci,kの値が含まれている場合、係数ci,kの分散が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている係数ci,kの値を、推定した係数ci,kの値に更新し、係数ci,kの分散が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている係数ci,kの値を更新しなくてもよい。
【0080】
次に、角速度バイアス予測工程S50において、方位算出装置1の角速度バイアス予測部50が、温度センサー15が検出した温度Tkと記憶部70に記憶されている温度特性情報71とに基づいて、角速度バイアスδΩkを予測する。
【0081】
方位算出装置1は、工程S60において方位の算出処理を終了するまで、工程S10~S50を繰り返し行う。
【0082】
図6は、第1実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図である。
【0083】
図6に示すように、まず、工程S1において、方位算出装置1は、時刻kを0に初期化する。
【0084】
次に、工程S2において衛星信号受信機11が衛星を受信できた場合、工程S11において、方位算出装置1の第1方位演算部20は、衛星信号受信機11が受信した衛星信号に基づいて、第1方位Ψ
gnss,kを算出する。工程S2において衛星信号受信機11が衛星を受信できなかった場合、第1方位演算部20は工程S11の処理を行わない。工程S11は、
図5の第1方位演算工程S10に相当する。
【0085】
次に、工程S21において、方位算出装置1の第2方位演算部30は、第2方位Ψins,kの初期値を設定する。具体的には、後述する工程S31で算出された前回の第3方位Ψest,k-1を第2方位Ψins,kの初期値に設定する。また、第2方位演算部30は、工程S31で前回の第3方位Ψest,k-1が算出されなかった場合は、後述する工程S23で算出された前回の第2方位Ψins,k-1を第2方位Ψins,kの初期値に設定する。また、第2方位演算部30は、時刻kが0のときは、第2方位Ψins,kを適当な初期値に設定する。
【0086】
次に、工程S22において、第2方位演算部30は、前出の式(1)により、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度ωz,kに基づいてヨー角ψの角速度を算出し、ヨー角ψの角速度から、後述する工程S51で予測された前回の角速度バイアスδΩk-1を減算してヨー角ψの角速度のバイアスを補正する。
【0087】
次に、工程S23において、工程S21で設定した第2方位Ψins,kの初期値に、工程S22でバイアスが補正されたヨー角ψの角速度を積分した値を加算して、角速度バイアスが補正された第2方位Ψins,kを算出する。
【0088】
工程S21,S22,S23は、
図5の第2方位演算工程S20に相当する。
【0089】
次に、工程S28において、工程S11で第1方位Ψ
gnss,kが算出された場合、工程S31において、方位算出装置1の第3方位演算部40は、工程S11で算出された第1方位Ψ
gnss,kと工程S23で算出された第2方位Ψ
ins,kとに基づいて、第3方位Ψ
est,kを算出する。工程S30において、工程S11で第1方位Ψ
gnss,kが算出されなかった場合、第3方位演算部40は工程S31の処理を行わない。工程S31は、
図5の第3方位演算工程S30に相当する。
【0090】
次に、工程S41において、方位算出装置1の温度特性推定部60は、前出の式(3)により、第2方位Ψins,kの誤差δΨins,kを算出する。
【0091】
次に、工程S42において、温度特性推定部60は、前出の式(2)により、第2方位Ψins,kの角速度のバイアスである角速度バイアスδΩkを算出する。
【0092】
次に、工程S43において、温度特性推定部60は、角速度バイアスδΩkの温度特性を算出する。具体的には、温度特性推定部60は、工程S42で算出した角速度バイアスδΩk及び温度センサー15が検出した温度Tkに基づいて前出の式(10)で示される観測変数ykを算出し、前述の拡張カルマンフィルターを用いて、前出の式(6)に示した、前出の多項式(5)の1次係数c1,k及び0次係数c0,kと温度Tkとを要素とする状態変数xkを算出する。
【0093】
次に、工程S44において、温度特性推定部60は、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。具体的には、温度特性推定部60は、前出の式(26)で示される共分散行列Pk|kを算出する。
【0094】
そして、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する1次係数c1,kの値が含まれている場合、分散p11が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている係数c1,kの値を、推定した係数c1,kの値に更新し、分散p11が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている係数c1,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する1次係数c1,kの値が含まれていない場合は、分散p11の値によらず、温度特性情報71に含まれている1次係数c1,kの値を、推定した1次係数c1,kの値に更新する。
【0095】
同様に、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれている場合、分散p22が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新し、分散p22が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれていない場合は、分散p22の値によらず、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新する。
【0096】
工程S41,S42,S43,S44は、
図5の温度特性推定工程S40に相当する。
【0097】
次に、工程S51において、方位算出装置1の角速度バイアス予測部50は、記憶部70に記憶されている温度特性情報71に基づいて、第2方位Ψ
ins,kの角速度バイアスδΩ
kを予測する。例えば、角速度バイアス予測部50は、温度T
k-1と温度T
kと温度特性情報71に含まれる温度T
kに対する1次係数c
1,k及び0次係数c
0,kと
を1次多項式(5)に代入して角速度バイアスδΩ
kを予測してもよい。工程S51は、
図5の角速度バイアス予測工程S50に相当する。
【0098】
そして、方位算出装置1は、工程S58において時刻kを1だけ増加させ、工程S60において方位の算出処理を終了するまで、工程S2~S58を繰り返し行う。
【0099】
このように、方位算出装置1は、移動体である自動車5が停止中か走行中かによらず、例えば1秒等の所定の周期で角速度バイアスδΩkを推定し、角速度バイアスが補正された高精度な第3方位Ψest,kを算出することができる。
【0100】
1-3.作用効果
以上に説明したように、第1実施形態では、方位算出装置1が搭載される移動体が停止中であっても移動中であっても、第1方位演算部20が衛星信号に基づいて第1方位Ψgnss,kを算出することができ、衛星信号が受信できない場合でも、第2方位演算部30が角速度センサー13から出力される角速度信号に基づいて第2方位Ψins,kを算出することができるので、第3方位演算部40は、第1方位Ψgnss,kと第2方位Ψins,kとに基づいて途切れなく周期的に第3方位Ψest,kを算出することができる。その結果、移動体が移動中であっても、温度特性推定部60が、第2方位Ψins,kと第3方位Ψest,kとに基づいて第2方位Ψins,kの角速度バイアスδΩkの温度特性を周期的に推定し、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新することができるので、第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が温度特性情報71に基づいて予測した前回の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位Ψins,kを算出することができる。また、温度特性推定部60は、温度センサー15が検出した温度Tkに対する角速度バイアスδΩkの温度特性を推定するので、角速度バイアスδΩkの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。したがって、第1実施形態によれば、方位算出装置1は、移動体が停止中であっても移動中であっても、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。
【0101】
また、第1実施形態では、角速度バイアスδΩkは、温度Tkを変数とする多項式で近似されるのではなく、温度変化ΔTkを変数とする多項式(4)で近似されるので、温度特性推定部60は、角速度バイアスδΩkの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。そして、狭い温度範囲では角速度バイアスδΩkは温度変化ΔTkを変数とする1次多項式(5)によって精度よく近似されるので、温度特性推定部60による角速度バイアスδΩkの温度特性の推定精度を維持しつつ推定のための計算負荷を低減させることができる。
【0102】
また、第1実施形態では、温度特性推定部60は、角速度バイアスδΩkを近似する多項式(4)の係数c0,k~cn,kの推定精度が所定値以上の場合のみ、温度特性情報71に含まれている係数c0,k~cn,kの値を更新するので、角速度バイアス予測部50は、温度特性情報71に基づいて、角速度バイアスδΩkを精度よく予測することができる。したがって、第1実施形態によれば、方位算出装置1は、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。
【0103】
2.第2実施形態
以下、第2実施形態について、第1実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態と異なる内容について説明する。
【0104】
第2実施形態では、角速度バイアスδΩkが第1実施形態と異なる。すなわち、第1実施形態では、角速度バイアスδΩkは、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψins
,kの角速度のバイアスであったが、第2実施形態では、角速度バイアスδΩkは、角速度センサー13が検出するZ軸回りの角速度ωz,kのバイアスである。Z軸はヨー軸に相当するので、換言すれば、角速度バイアスδΩkは、ヨー軸回りの角速度ωz,kのバイアスである。
【0105】
第2実施形態の方位算出装置1の構成例は、
図1と同様であるため、その図示を省略する。ただし、第2実施形態の方位算出装置1では、第2方位演算部30、角速度バイアス予測部50及び温度特性推定部60が行う処理が第1実施形態と異なる。
【0106】
第2方位演算部30は、角速度センサー13から出力される角速度信号に基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第2方位Ψins,kを算出する。第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が予測した前回の時刻k-1の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された時刻kの第2方位Ψins,kを算出する。具体的には、第2方位演算部30は、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度ωz,kから角速度バイアスδΩk-1を減算して角速度バイアスが補正されたZ軸回りの角速度を算出する。そして、第2方位演算部30は、第3方位演算部40が算出した前回の時刻k-1における第3方位Ψest,k-1を初期方位として、第3方位Ψest,k-1に、当該Z軸回りの角速度を前出の式(1)に代入して得られるヨー角ψの角速度を積分した値を加算して、時刻kにおける第2方位Ψins,kを算出する。
【0107】
温度特性推定部60は、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψins,kと第3方位演算部40が算出した第3方位Ψest,kとに基づいて、温度センサー15が検出した温度Tkに対する角速度バイアスδΩkの温度特性を推定し、推定した温度特性に基づいて記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。
【0108】
本実施形態では、温度特性推定部60は、前出の式(10)に示した観測変数ykの要素である角速度バイアスδΩkを式(27)によって算出する。
【0109】
【0110】
温度特性推定部60は、第3方位演算部40が算出した第3方位Ψest,k、ロール角Φest,k及びピッチ角Θest,kを用いて、式(28)により、式(27)に含まれる角速度ωest
z,kを算出する。式(29)において、ΔΘest,k及びΔΨest,kは、それぞれ式(29)及び式(30)で表される。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
そして、温度特性推定部60は、第1実施形態と同様の拡張カルマンフィルターを用いて、温度Tkに対する前出の1次多項式(5)の1次係数c1,k及び0次係数c0,kを推定する。
【0115】
角速度バイアス予測部50は、温度センサー15が検出した温度Tkと、記憶部70に記憶されている温度特性情報71とに基づいて、角速度バイアスδΩkを予測する。例えば、角速度バイアス予測部50は、温度Tk-1と温度Tkと温度特性情報71に含まれる温度Tkに対する係数c0,k~cn,kとを前出の多項式(4)に代入して角速度バイアスδΩkを予測してもよい。
【0116】
第2実施形態の方位算出装置1におけるその他の構成及び機能は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0117】
また、第2実施形態の方位算出方法の手順の一例を示すフローチャート図は、
図5と同様であるため、その図示及び説明を省略する。ただし、第2実施形態では、
図5の第2方位演算工程S20、温度特性推定工程S40及び角速度バイアス予測工程S50の具体的な手順が第1実施形態と異なる。
図7は、第2実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図である。
図7において、
図6と同じ工程には同じ符号が付されている。
【0118】
図7に示すように、まず、工程S1において、方位算出装置1は、時刻kを0に初期化する。
【0119】
次に、工程S2において衛星信号受信機11が衛星を受信できた場合、工程S11において、方位算出装置1の第1方位演算部20は、衛星信号受信機11が受信した衛星信号に基づいて、第1方位Ψ
gnss,kを算出する。工程S2において衛星信号受信機11が衛星を受信できなかった場合、第1方位演算部20は工程S11の処理を行わない。工程S11は、
図5の第1方位演算工程S10に相当する。
【0120】
次に、工程S21において、方位算出装置1の第2方位演算部30は、第2方位Ψins,kの初期値を設定する。具体的には、後述する工程S31で算出された前回の第3方位Ψest,k-1を第2方位Ψins,kの初期値に設定する。また、第2方位演算部30は、工程S31で前回の第3方位Ψest,k-1が算出されなかった場合は、後述する工程S23aで算出された前回の第2方位Ψins,k-1を第2方位Ψins,kの初期値に設定する。また、第2方位演算部30は、時刻kが0のときは、第2方位Ψins,kを適当な初期値に設定する。
【0121】
次に、工程S22aにおいて、第2方位演算部30は、角速度センサー13が検出したZ軸回りの角速度ωz,kから、後述する工程S51aで予測された前回の角速度バイアスδΩk-1を減算してヨー軸回りの角速度バイアスを補正する。
【0122】
次に、工程S23aにおいて、工程S21で設定した第2方位Ψins,kの初期値に、工程S22aでバイアスが補正されたヨー軸回りの角速度を前出の式(1)に代入して得られるヨー角ψの角速度を積分した値を加算して、第2方位Ψins,kを算出する。
【0123】
工程S21,S22a,S23aは、
図5の第2方位演算工程S20に相当する。
【0124】
次に、工程S28において、工程S11で第1方位Ψ
gnss,kが算出された場合、工程S31において、方位算出装置1の第3方位演算部40は、工程S11で算出された
第1方位Ψ
gnss,kと工程S23aで算出された第2方位Ψ
ins,kとに基づいて、第3方位Ψ
est,kを算出する。工程S30において、工程S11で第1方位Ψ
gnss,kが算出されなかった場合、第3方位演算部40は工程S31の処理を行わない。なお、工程S31において、第3方位演算部40は、ロール角Φ
est,k及びピッチ角Θ
est,kも算出する。工程S31は、
図5の第3方位演算工程S30に相当する。
【0125】
次に、工程S41において、方位算出装置1の温度特性推定部60は、前出の式(3)により、第2方位Ψins,kの誤差δΨins,kを算出する。
【0126】
次に、工程S42aにおいて、温度特性推定部60は、前出の式(27)により、ヨー軸回りの角速度ωz,kのバイアスである角速度バイアスδΩkを算出する。
【0127】
次に、工程S43aにおいて、温度特性推定部60は、角速度バイアスδΩkの温度特性を算出する。具体的には、温度特性推定部60は、工程S42aで算出した角速度バイアスδΩk及び温度センサー15が検出した温度Tkに基づいて前出の式(10)で示される観測変数ykを算出し、前述の拡張カルマンフィルターを用いて、前出の式(6)に示した、前出の多項式(5)の1次係数c1,k及び0次係数c0,kと温度Tkとを要素とする状態変数xkを算出する。
【0128】
次に、工程S44aにおいて、温度特性推定部60は、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。具体的には、温度特性推定部60は、前出の式(26)で示される共分散行列Pk|kを算出する。
【0129】
そして、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する1次係数c1,kの値が含まれている場合、分散p11が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている係数c1,kの値を、推定した係数c1,kの値に更新し、分散p11が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている係数c1,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する1次係数c1,kの値が含まれていない場合は、分散p11の値によらず、温度特性情報71に含まれている1次係数c1,kの値を、推定した1次係数c1,kの値に更新する。
【0130】
同様に、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれている場合、分散p22が所定の閾値以下のときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新し、分散p22が所定の閾値よりも大きいときは、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を更新しない。なお、温度特性推定部60は、温度特性情報71に、温度Tkに対する0次係数c0,kの値が含まれていない場合は、分散p22の値によらず、温度特性情報71に含まれている0次係数c0,kの値を、推定した0次係数c0,kの値に更新する。
【0131】
工程S41,S42a,S43a,S44aは、
図5の温度特性推定工程S40に相当する。
【0132】
次に、工程S51aにおいて、方位算出装置1の角速度バイアス予測部50は、記憶部70に記憶されている温度特性情報71に基づいて、ヨー軸回りの角速度バイアスδΩ
kを予測する。例えば、角速度バイアス予測部50は、温度T
k-1と温度T
kと温度特性情報71に含まれる温度T
kに対する1次係数c
1,k及び0次係数c
0,kとを1次多項式(5)に代入して角速度バイアスδΩ
kを予測してもよい。工程S51aは、
図5の角速度バイアス予測工程S50に相当する。
【0133】
そして、方位算出装置1は、工程S58において時刻kを1だけ増加させ、工程S60において方位の算出処理を終了するまで、工程S2~S58を繰り返し行う。
【0134】
以上に説明したように、第2実施形態では、移動体が移動中であっても、温度特性推定部60が、第2方位Ψins,kと第3方位Ψest,kとに基づいて、角速度センサー13が検出するヨー軸回りの角速度ωz,kの角速度バイアスδΩkの温度特性を周期的に推定し、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新することができるので、第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が温度特性情報71に基づいて予測した前回の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位Ψins,kを算出することができる。したがって、第2実施形態によれば、方位算出装置1は、移動体が停止中であっても移動中であっても、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。その他、第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0135】
3.第3実施形態
以下、第3実施形態について、第1実施形態又は第2実施形態と同様の構成要素には同じ符号を付し、第1実施形態又は第2実施形態と重複する説明は省略または簡略し、主に第1実施形態及び第2実施形態と異なる内容について説明する。
【0136】
図8は、第3実施形態の方位算出装置1の構成例を示す図である。
図8において、
図1と同様の構成要素には、同じ符号が付されている。
図8に示すように、第3実施形態の方位算出装置1は、第1実施形態と同様、第1方位演算部20、第2方位演算部30、第3方位演算部40、角速度バイアス予測部50、温度特性推定部60及び記憶部70を備えている。また、方位算出装置1は、車輪速センサー12、角速度センサー13、6Dofセンサー14、温度センサー15及び外界センサー16を備えていてもよい。なお、方位算出装置1は、
図8の構成要素の一部を省略又は変更し、あるいは、他の構成要素を付加した構成としてもよい。
【0137】
第3実施形態では、第1方位演算部20が、衛星信号受信機11に代えて外界センサー16を用いた処理を行う点が、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。
【0138】
外界センサー16は、移動体の周辺の情報を検出するセンサーであり、例えば、ADやADAS等に用いられる、LiDAR、カメラ、ミリ波レーダー等であってもよい。ADはAutonomous Drivingの略称であり、ADASはAdvanced Driver Assistance Systemの略称である。LiDARは、Light Detection and Ranging、あるいは、Laser Imaging Detection and Rangingの略称である。
【0139】
第1方位演算部20は、外界センサー16の検出結果に基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第1方位ΨEXT,kを算出する。第1方位演算部20は、例えば1秒等の所定の周期で第1方位ΨEXT,kを算出する。例えば、第1方位演算部20は、外界センサー16の検出結果である移動体の周辺の情報を、記憶部70に記憶されている地図情報72と照合することにより、グローバル座標系における移動体の向きである第1方位ΨEXT,kを算出する。なお、第1方位演算部20は、グローバル座標系における移動体の位置や速度をさらに算出してもよい。
【0140】
第1実施形態又は第2実施形態と同様、第2方位演算部30は、角速度センサー13から出力される角速度信号に基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第2方位Ψins,kを算出する。第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が予測した前回の時刻k-1の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された時刻kの第2方位Ψins,kを算出する。
【0141】
第3方位演算部40は、第1方位演算部20が算出した時刻kにおける第1方位ΨEXT,kと第2方位演算部30が算出した時刻kにおける第2方位Ψins,kとに基づいて、時刻kにおけるグローバル座標系の移動体の方位である第3方位Ψest,kを算出する。第3方位演算部40は、例えば1秒等の所定の周期で第3方位Ψest,kを算出する。例えば、第3方位演算部40は、第1方位ΨEXT,kが算出されるタイミングでは、第1方位ΨEXT,kを第3方位Ψest,kとし、第1方位ΨEXT,kが算出されないタイミングでは第2方位Ψins,kを第3方位Ψest,kとしてもよい。また、第3方位演算部40は、カルマンフィルターを用いて、第3方位Ψest,kを算出してもよい。
【0142】
第1実施形態又は第2実施形態と同様、記憶部70は、角速度バイアスδΩkの温度特性情報71を記憶する。角速度バイアスδΩkは、前出の式(2)で示されるように、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψins,kの角速度のバイアスであってもよい。また、角速度バイアスδΩkは、前出の式(27)で示されるように、角速度センサー13が検出するヨー軸回りの角速度ωz,kのバイアスであってもよい。また、第3実施形態では、記憶部70は、第1方位演算部20による第1方位ΨEXT,kの算出に用いられる地図情報72を記憶する。
【0143】
第1実施形態又は第2実施形態と同様、温度特性推定部60は、第2方位演算部30が算出した第2方位Ψins,kと第3方位演算部40が算出した第3方位Ψest,kとに基づいて、温度センサー15が検出した温度Tkに対する角速度バイアスδΩkの温度特性を推定し、推定した温度特性に基づいて記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。前述の通り、温度特性推定部60は、拡張カルマンフィルターを用いて、温度Tkに対する1次係数c1,k及び0次係数c0,kを推定してもよい。
【0144】
第1実施形態又は第2実施形態と同様、角速度バイアス予測部50は、温度センサー15が検出した温度Tkと、記憶部70に記憶されている温度特性情報71とに基づいて、角速度バイアスδΩkを予測する。前述の通り、角速度バイアス予測部50は、温度Tk-1と温度Tkと温度特性情報71に含まれる温度Tkに対する係数c0,k~cn,kとを前出の多項式(4)に代入して角速度バイアスδΩkを予測してもよい。
【0145】
第3実施形態の方位算出装置1のその他の構成及び機能は、第1実施形態又は第2実施形態の方位算出装置1と同様であるため、その説明を省略する。
【0146】
第3実施形態の方位算出方法の手順の一例を示すフローチャート図は、
図5と同様であるため、その図示を省略する。第3実施形態では、
図5の第1方位演算工程S10において、方位算出装置1の第1方位演算部20が、外界センサー16の検出結果に基づいて、第1方位Ψ
EXT,kを算出する。
図5の第2方位演算工程S20以降で方位算出装置1が行う処理は、第1方位Ψ
gnss,kに代えて第1方位Ψ
EXT,kを用いる点を除いて、第1実施形態又は第2実施形態と同様であるので、その説明を省略する。
【0147】
図9は、第3実施形態の方位算出方法の具体的な手順の一例を示すフローチャート図である。
図9において、
図6と同様の処理を行う工程には同じ符号が付されている。
図9では、角速度バイアスδΩ
kは、第2方位Ψ
ins,kの角速度のバイアスである。
【0148】
図9に示すように、まず、工程S1において、方位算出装置1は、時刻kを0に初期化する。
【0149】
次に、工程S12において、方位算出装置1の第1方位演算部20は、外界センサー1
6の検出結果に基づいて、第1方位Ψ
EXT,kを算出する。工程S12は、
図5の第1方位演算工程S10に相当する。
【0150】
次に、工程S21,S22,S23において、方位算出装置1の第2方位演算部30は、
図6の工程S21,S22,S23と同様の処理を行い、角速度バイアスが補正された第2方位Ψ
ins,kを算出する。工程S21,S22,S23は、
図5の第2方位演算工程S20に相当する。
【0151】
次に、工程S31において、方位算出装置1の第3方位演算部40は、工程S12で算出された第1方位Ψ
EXT,kと工程S23で算出された第2方位Ψ
ins,kとに基づいて、第3方位Ψ
est,kを算出する。工程S31は、
図5の第3方位演算工程S30に相当する。
【0152】
次に、工程S41,S42,S43,S44において、方位算出装置1の温度特性推定部60は、
図6の工程S41,S42,S43,S44と同様の処理を行い、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。工程S41,S42,S43,S44は、
図5の温度特性推定工程S40に相当する。
【0153】
次に、工程S51において、方位算出装置1の角速度バイアス予測部50は、
図6の工程S51と同様の処理を行い、第2方位Ψ
ins,kの角速度バイアスδΩ
kを予測する。
【0154】
そして、方位算出装置1は、工程S58において時刻kを1だけ増加させ、工程S60において方位の算出処理を終了するまで、工程S2~S58を繰り返し行う。
【0155】
図10は、第3実施形態の方位算出方法の具体的な手順の他の一例を示すフローチャート図である。
図10において、
図7と同様の処理を行う工程には同じ符号が付されている。
図10では、角速度バイアスδΩ
kは、角速度センサー13が検出するヨー軸回りの角速度ω
z,kのバイアスである。
【0156】
図10に示すように、まず、工程S1において、方位算出装置1は、時刻kを0に初期化する。
【0157】
次に、工程S12において、方位算出装置1の第1方位演算部20は、外界センサー16の検出結果に基づいて、第1方位Ψ
EXT,kを算出する。工程S12は、
図5の第1方位演算工程S10に相当する。
【0158】
次に、工程S21,S22a,S23aにおいて、方位算出装置1の第2方位演算部30は、
図7の工程S21,S22a,S23aと同様の処理を行い、角速度バイアスが補正された第2方位Ψ
ins,kを算出する。工程S21,S22a,S23aは、
図5の第2方位演算工程S20に相当する。
【0159】
次に、工程S31において、方位算出装置1の第3方位演算部40は、工程S12で算出された第1方位Ψ
EXT,kと工程S23aで算出された第2方位Ψ
ins,kとに基づいて、第3方位Ψ
est,kを算出する。工程S31は、
図5の第3方位演算工程S30に相当する。
【0160】
次に、工程S41,S42a,S43a,S44aにおいて、方位算出装置1の温度特性推定部60は、
図7の工程S41,S42a,S43a,S44aと同様の処理を行い、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新する。工程S41,S42a,S
43a,S44aは、
図5の温度特性推定工程S40に相当する。
【0161】
次に、工程S51aにおいて、方位算出装置1の角速度バイアス予測部50は、
図7の工程S51aと同様の処理を行い、ヨー軸回りの角速度バイアスδΩ
kを予測する。
【0162】
そして、方位算出装置1は、工程S58において時刻kを1だけ増加させ、工程S60において方位の算出処理を終了するまで、工程S2~S58を繰り返し行う。
【0163】
以上に説明したように、第3実施形態では、方位算出装置1が搭載される移動体が停止中であっても移動中であっても、第1方位演算部20が外界センサー16の検出結果に基づいて第1方位ΨEXT,kを算出することができ、第2方位演算部30が角速度センサー13から出力される角速度信号に基づいて第2方位Ψins,kを算出することができるので、第3方位演算部40は、第1方位ΨEXT,kと第2方位Ψins,kとに基づいて途切れなく周期的に第3方位Ψest,kを算出することができる。その結果、移動体が移動中であっても、温度特性推定部60が、第2方位Ψins,kと第3方位Ψest,kとに基づいて角速度バイアスδΩkの温度特性を周期的に推定し、記憶部70に記憶されている温度特性情報71を更新することができるので、第2方位演算部30は、角速度バイアス予測部50が温度特性情報71に基づいて予測した前回の角速度バイアスδΩk-1に基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位Ψins,kを算出することができる。また、温度特性推定部60は、温度センサー15が検出した温度Tkに対する角速度バイアスδΩkの温度特性を推定するので、角速度バイアスδΩkの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。したがって、第3実施形態によれば、方位算出装置1は、移動体が停止中であっても移動中であっても、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。その他、第3実施形態によれば、第1実施形態又は第2実施形態と同様の効果が得られる。
【0164】
4.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0165】
例えば、上記の各実施形態では、方位算出装置1が自動車5に搭載される例を挙げたが、方位算出装置1は自動車以外の移動体に搭載されてもよい。移動体としては、例えば、自動車の他、トラクターなどの農業機械、ショベルカーなどの建設機械、無人搬送車、ロボット芝刈機、ロボット掃除機、ジェット機やヘリコプター等の航空機、船舶、ロケット、人工衛星、鉄道車両等が挙げられる。
【0166】
また、例えば、上記の各実施形態では、方位算出装置1は、角速度センサー13と6Dofセンサー14とを備えるが、これらに代えて他のセンサーを備えてもよい。例えば、方位算出装置1は、2つの6Dofセンサーを備えてもよい。
【0167】
上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、各実施形態および各変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0168】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0169】
上述した実施形態および変形例から以下の内容が導き出される。
【0170】
方位算出装置の一態様は、
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算部と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算部と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算部と、
角速度バイアスの温度特性情報を記憶する記憶部と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する前記角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報を更新する温度特性推定部と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測部と、を備え、
前記第2方位演算部は、前記角速度バイアス予測部が予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する。
【0171】
この方位算出装置では、当該方位算出装置が搭載される移動体が停止中であっても移動中であっても、第1方位演算部が衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて第1方位を算出することができ、衛星信号が受信できない場合でも、第2方位演算部が角速度信号に基づいて第2方位を算出することができるので、第3方位演算部は、第1方位と第2方位とに基づいて途切れなく周期的に第3方位を算出することができる。その結果、移動体が移動中であっても、温度特性推定部が、第2方位と第3方位とに基づいて角速度バイアスの温度特性を周期的に推定し、温度特性情報を更新することができるので、第2方位演算部は、角速度バイアス予測部が温度特性情報に基づいて予測した前回の角速度バイアスに基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位を算出することができる。また、温度特性推定部は、温度センサーが検出した温度に対する角速度バイアスの温度特性を推定するので、角速度バイアスの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。したがって、この方位算出装置によれば、移動体が停止中であっても移動中であっても、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。
【0172】
前記方位算出装置の一態様において、
前記角速度バイアスは、温度変化を変数とする多項式で近似されてもよい。
【0173】
この方位算出装置によれば、角速度バイアスは、温度を変数とする多項式で近似されるのではなく、温度変化を変数とする多項式で近似されるので、温度特性推定部は、角速度バイアスの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。
【0174】
前記方位算出装置の一態様において、
前記温度特性情報は、複数の温度の各々に対する前記多項式の係数の値を含んでもよい。
【0175】
前記方位算出装置の一態様において、
前記多項式は、1次多項式であってもよい。
【0176】
この方位算出装置によれば、狭い温度範囲では角速度バイアスは温度変化を変数とする1次多項式によって精度よく近似されるので、温度特性推定部による角速度バイアスの温度特性の推定精度を維持しつつ推定のための計算負荷を低減させることができる。
【0177】
前記方位算出装置の一態様において、
前記角速度バイアスは、前記第2方位の角速度のバイアスであってもよい。
【0178】
前記方位算出装置の一態様において、
前記角速度バイアスは、前記角速度センサーが検出するヨー軸回りの角速度のバイアスであってもよい。
【0179】
前記方位算出装置の一態様において、
前記温度特性推定部は、前記温度特性として前記係数の値を推定し、推定した前記係数の分散を算出し、前記温度特性情報に、前記温度センサーが検出した前記温度に対する前記係数の値が含まれている場合、前記分散が所定の閾値以下のときは、前記温度特性情報に含まれている前記係数の値を、推定した前記係数の値に更新し、前記分散が所定の閾値よりも大きいときは、前記温度特性情報に含まれている前記係数の値を更新しなくてもよい。
【0180】
この方位算出装置によれば、温度特性推定部は、角速度バイアスを近似する多項式の係数の推定精度が所定値以上の場合のみ、温度特性情報に含まれている係数の値を更新するので、角速度バイアス予測部は、温度特性情報に基づいて、角速度バイアスを精度よく予測することができる。したがって、この方位算出装置によれば、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。
【0181】
本発明に係る方位算出方法の一態様は、
衛星信号受信機が受信した衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて、第1方位を算出する第1方位演算工程と、
角速度センサーが角速度を検出して出力した角速度信号に基づいて、第2方位を算出する第2方位演算工程と、
前記第1方位と前記第2方位とに基づいて第3方位を算出する第3方位演算工程と、
前記第2方位と前記第3方位とに基づいて、温度センサーが検出した温度に対する角速度バイアスの温度特性を推定し、推定した前記温度特性に基づいて、記憶部に記憶されている前記角速度バイアスの温度特性情報を更新する温度特性推定工程と、
前記温度センサーが検出した前記温度と前記記憶部に記憶されている前記温度特性情報とに基づいて、前記角速度バイアスを予測する角速度バイアス予測工程と、を含み、
前記第2方位演算工程では、前記角速度バイアス予測工程で予測した前回の前記角速度バイアスに基づいて、前記角速度バイアスが補正された前記第2方位を算出する。
【0182】
この方位算出方法では、移動体が停止中であっても移動中であっても、第1方位演算工程において衛星信号又は外界センサーの検出結果に基づいて第1方位を算出することができ、衛星信号が受信できない場合でも、第2方位演算工程において角速度信号に基づいて第2方位を算出することができるので、第3方位演算工程において、第1方位と第2方位とに基づいて途切れなく周期的に第3方位を算出することができる。その結果、移動体が移動中であっても、温度特性推定工程において、第2方位と前記第3方位とに基づいて角速度バイアスの温度特性を周期的に推定し、温度特性情報を更新することができるので、第2方位演算工程において、角速度バイアス予測工程で温度特性情報に基づいて予測した前回の角速度バイアスに基づいて、角速度バイアスが補正された第2方位を算出することができる。また、温度特性推定工程において、温度センサーが検出した温度に対する角速度バイアスの温度特性を推定するので、角速度バイアスの温度特性を狭い温度範囲毎に精度よく推定することができる。したがって、この方位算出方法によれば、移動体が停止中であっても移動中であっても、角速度バイアスが高精度に補正された方位を算出することができる。
【符号の説明】
【0183】
1…方位算出装置、5…自動車、10…センサーモジュール、11…衛星信号受信機、12…車輪速センサー、13…角速度センサー、14…6Dofセンサー、15…温度センサー、16…外界センサー、20…第1方位演算部、30…第2方位演算部、40…第3方位演算部、50…角速度バイアス予測部、60…温度特性推定部、70…記憶部、71…温度特性情報、72…地図情報