(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172789
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】鋼管杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/56 20060101AFI20241205BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20241205BHJP
E02D 7/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E02D5/56
E02D5/28
E02D7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090758
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】513017799
【氏名又は名称】有限会社勝実建設
(71)【出願人】
【識別番号】500121883
【氏名又は名称】株式会社第一工業
(71)【出願人】
【識別番号】500558780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】518345918
【氏名又は名称】株式会社明建
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(72)【発明者】
【氏名】片岡 正史
(72)【発明者】
【氏名】河邊 勝実
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和幸
(72)【発明者】
【氏名】野上 昌範
【テーマコード(参考)】
2D041
2D050
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA33
2D041BA35
2D041CA05
2D041DB02
2D041FA14
2D050AA06
2D050AA16
2D050CB23
(57)【要約】
【課題】礫層等でも効率よく掘削することができ、製作が容易な鋼管杭の提供。
【解決手段】鋼管杭1は、端板3に中央に形成された排土口5を挟んで対称配置に支持された一対の掘削刃7,7と、端板3の周縁部に鋼管杭本体2を挟んで対称配置された一対の切り欠き部6,6とを備え、両切り欠き部7,7の周方向端縁に掘削用ビット9,9が同一周方向の斜め下側に向けて支持されているとともに、両切り欠き部6,6の他方の端縁上面部に上面排土用チップ13,13が固定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管杭本体の下端を塞ぐ前記鋼管杭本体よりも大径の端板を備え、回転圧入工法により地盤に設置される鋼管杭において、
前記端板は、中央に形成された排土口と、周縁部に前記鋼管杭本体を挟んで対称配置された一対の切り欠き部とを備え、該両切り欠き部の周方向の一方の端縁に前記端板とは別体に形成され、前記端板と同じ曲率半径の円弧板状に形成された前記地盤の障害となる個所を掘削可能な高剛性の掘削用ビットが、周方向基端が前記切り欠き部の周方向端縁に固定され、先端部を同一周方向の斜め下側に向けて支持されているとともに、該両切り欠き部の他方の端縁上面部に上面排土用チップが固定されていることを特徴とする鋼管杭。
【請求項2】
前記上面排土用チップは、前記切り欠き部の他方の端縁より斜め切り欠き部側前方に傾いた返し用傾斜面を備えている請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記上面排土用チップ側の切り欠き部の内側部に傾斜面が形成されている請求項1又は2に記載の鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所謂回転貫入工法に使用される鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管杭の下端に円形の端板を溶接で固定し、鋼管杭を回転させつつ地盤に貫入する鋼管杭の回転貫入工法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
この種の鋼管杭には、端板の周縁部に沿って一端側をそれぞれ下方および上方に向けて立ち上げた切起こし羽根部を設けるとともに、切起こし羽根部を切起こしたことによって端板の周縁部に切り欠き部が形成されている。
【0004】
また、この鋼管杭は、端板の下面中央に掘削ビットを備え、地盤に対し鋼管を回転させつつ下向きに圧入することによって、上下逆向きに傾斜した切起こし羽根部が推進力を発揮しつつ、下向きの切起こし羽根部と掘削ビットによって掘削した土砂を切り欠き部より上方に移動させ、圧密させることによって、排土せずに鋼管杭を地盤に貫入できるようになっている。
【0005】
一方、地中に礫やその他の地中障害(以下、地中障害と総称する)が存在する場合、排土開口部へ礫等が絡み掘進が難航するという課題があり、本願発明者は、このような課題を解決するため、端板の周縁部に鋼管杭本体を挟んで対称配置された一対の切り欠き部を備え、両切り欠き部の周方向端縁に端板とは別個に円弧板状に形成された高剛性の掘削用ビットが、先端部を同一周方向の斜め下側に向けて基端部を切り欠き部の端縁に支持させた回転貫入工法に適した鋼管杭を開発するに至っている(特許文献2を参照)。
【0006】
この鋼管杭は、両切り欠き部の周方向端縁に端板とは別個に円弧板状に形成された高剛性の掘削用ビットを支持させたことによって、礫層等の硬い地盤(地中障害)においても掘削効率が損なわれず、少ない回転数で効率よく掘削できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010-281205号公報
【特許文献2】特開2022‐167394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の如き従来の技術では、礫層からなる硬い地盤等の地中障害地盤の掘削に際し、さらに作業の効率化が求められている。
【0009】
特に、鋼管杭を逆回転させながら引き抜く際に、掘削土が掘削用ビットとともに持ち上がられてしまい、不要な土砂まで引き上げられてしまうことがあり、そのような課題の解決が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、礫層等の地中障害地盤における掘削作業の更なる効率化を図ることができる鋼管杭の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、鋼管杭本体の下端を塞ぐ前記鋼管杭本体よりも大径の端板を備え、回転圧入工法により地盤に設置される鋼管杭において、前記端板は、中央に形成された排土口と、周縁部に前記鋼管杭本体を挟んで対称配置された一対の切り欠き部とを備え、該両切り欠き部の周方向の一方の端縁に前記端板とは別体に形成され、前記端板と同じ曲率半径の円弧板状に形成された前記地盤の障害となる個所を掘削可能な高剛性の掘削用ビットが、周方向基端が前記切り欠き部の周方向端縁に固定され、先端部を同一周方向の斜め下側に向けて支持されているとともに、該両切り欠き部の他方の端縁上面部に上面排土用チップが固定されていることにある。
【0012】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記上面排土用チップは、前記切り欠き部の他方の端縁より斜め切り欠き部側前方に傾いた返し用傾斜面を備えていることにある。
【0013】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記上面排土用チップ側の切り欠き部の内側部に傾斜面が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る鋼管杭は、請求項1乃至3に記載の構成を具備することによって、礫層等の硬い地盤においても掘削効率が損なわれず、少ない回転数で効率よく掘削することができる。また、鋼管杭を逆回転させながら引き抜く際に、上面排土用チップによって土砂が下方に押し下げられ、鋼管杭を効率的に引き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る鋼管杭の実施態様の一例を示す正面図である。
【
図2】同上の鋼管杭の下部を示す部分拡大正面図である。
【
図6】同上の正回転時の土砂の移動経路を示す図であって、(a)は縦断面図、(b)は正面図である。
【
図7】同上の逆回転時の土砂の移動経路を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明に係る鋼管杭の実施態様を
図1~
図6に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は鋼管杭である。
【0017】
この鋼管杭1は、
図1に示すように、鋼管からなる鋼管杭本体2と、鋼管杭本体2の下端を塞ぐ端板3とを備え、鋼管杭1を回転させつつ地盤4に貫入するようになっている。
【0018】
端板3は、一定の厚みを有する鋼管杭本体2より大径の円盤状に形成され、鋼管杭本体2の下端に溶接等によって同軸配置に固定されている。
【0019】
この端板3には、中央に形成された排土口5と、周縁部に対称配置された一対の切り欠き部6,6とを備えている。
【0020】
また、この端板3には、排土口5を挟んで対称配置に支持された一対の掘削刃7,7と、掘削刃7,7と間隔をおいて対称配置された一対の排土用チップ8,8と、排土口5を跨いで端板3の中央部に突設された掘削推進刃12と、両切り欠き部6,6の周方向端縁に同一周方向の斜め下側に向けて支持された掘削用ビット9,9とを備えるとともに、切り欠き部の他方の端縁上面部に上面排土用チップ13,13が固定されている。
【0021】
排土口5は、鋼管杭本体2の内径よりも小さい丸孔状に形成され、端板3の厚み方向に貫通し鋼管杭本体2と連通している。
【0022】
切り欠き部6,6は、端板3の周縁部に沿って上下及び外周側が開口した扇形凹状に形成され、両切り欠き部6,6の回転方向後方側の周方向端縁に掘削用ビット9,9が同一周方向の斜め下側に向けて支持されている。
【0023】
また、切り欠き部6,6の回転方向前方側(逆回転時の後方側)の周方向端縁部上面にそれぞれ上面排土用チップ13,13が固定されている。
【0024】
掘削用ビット9,9は、端板3の半径と略同じ曲率半径の円弧板状に形成され、基端が切り欠き部6,6の周方向端縁に溶接9aによって所定の角度で固定され、螺旋状を成し、且つ、先端側が端板3の下面より螺旋状斜め下向きに突出している。
【0025】
尚、この掘削用ビット9,9は、端板3とは別個に鋳造等によって一定の厚みを有する円弧板状に形成され、高い剛性を備えている。
【0026】
ここで高い剛性とは、端板3よりも高い剛性を具備し、且つ、硬い礫層等の地中障害地盤を掘削することが可能な高い剛性を具備していることをいう。より具体的には、応力度=300kN/mを超える地盤を掘削可能な強度(剛性)を具備しているものをいう。
【0027】
この掘削用ビット9,9には、周方向の先端部に刃部9bが一体に形成され、鋼管杭本体2の回転に伴い、刃部9bで土砂を掘削するとともに、推進力が得られるようになっている。
【0028】
また、掘削用ビット9,9は、端板3の下面に固定された補強部材10に側部が支持され、補強部材10を介して端板3に強固に固定されている。
【0029】
補強部材10は、円弧状の斜面10aを有するブロック状に形成され、端板3の下面に切り欠き部6,6の内側縁部に沿って溶接等によって固定され、その側面に掘削用ビット9,9の先端部側面が溶接等によって固定されている。
【0030】
尚、補強部材10は、斜面10aが掘削用ビット9,9の刃部9bの向きと周方向の反対側に向けて端板3に固定されている。
【0031】
上面排土用チップ13,13は、
図2~
図4に示すように、端板3とは別個に鋳造等によって平行四辺形状の断面を有するブロック状に形成され、高い剛性を備えている。
【0032】
ここで高い剛性とは、端板3よりも高い剛性を具備し、且つ、硬い礫層等の地中障害地盤を掘削することが可能な高い剛性を具備していることをいう。より具体的には、応力度=300kN/mを超える地盤を掘削可能な強度(剛性)を具備しているものをいう。
【0033】
この上面排土用チップ13,13は、切り欠き部6,6の他方の端縁より斜め切り欠き部側前方に傾いた返し用傾斜面13aを備え、返し用傾斜面13aと上面とによって鋭利なエッジ(掘削刃)13bが形成されている。
【0034】
また、上面排土用チップ13,13は、後方側にも返し用傾斜面13aと平行な傾斜面13cを備え、断面が平行四辺形状を成すブロック状を形成している。
【0035】
この上面排土用チップ13,13は、長手方向を端板3の半径方向に向け、端板3の外周縁から鋼管杭本体2の外周縁に亘って配置され、且つ、返し用傾斜面13aが切り欠き部6の他方の端縁より斜め切り欠き部側前方に傾いた状態で溶接等によって端板3の上面に固定されている。
【0036】
尚、上面排土用チップ13側の切り欠き部6端縁には、傾斜面6aが形成され、返し用傾斜面13aと一体的に機能するようになっている。
【0037】
尚、上述の実施例では、上面排土用チップ13を断面が平行四辺形状を成すブロック状とした場合について説明したが、上面排土用チップ13の態様は、上述の実施例に限定されず、例えば、切り欠き部6側の面が端板3の上面と直角を成す直方体状や断面三角形状に形成されていてもよく、切り欠き部6の端縁に沿って立設された壁状であってもよい。
【0038】
掘削推進刃12は、鋼板等によって三角形板状に形成され、鋭角部を下方に向けて端板3の下面中央部に突設されている。
【0039】
掘削刃7,7は、先端のエッジより傾斜した刃を有し、エッジ側を外側に向けて直径方向に対称配置に固定されている。
【0040】
排土用チップ8,8は、下面部に傾斜部8aを有する平板状に形成され、傾斜部8aは、外側が端板3下面からの距離が低くなるように形成されている。
【0041】
各排土用チップ8,8は、掘削刃7,7に対し、掘削用ビット9,9の刃部9bの向きと同じ側、即ち、鋼管杭1の回転方向と反対側に所定の間隔をおいて配置されている。
【0042】
尚、排土用チップ8の態様は、上述の如き実施例に限定されず、例えば、排土用チップ8を下面部に傾斜部8aを設けずに角棒状に形成してもよい。
【0043】
このように構成された鋼管杭1は、鋼管杭本体2及び端板3を所定の方向、即ち、掘削用ビット9,9の刃部側を回転方向前方として回転させることにより、螺旋状を成す掘削用ビット9,9によって推進力を得て、掘削推進刃12、掘削用ビット9,9及び掘削刃7,7によって地盤4を掘削し、掘削孔4aを形成しつつ地盤4下方に向けて圧入される。
【0044】
その際、
図6(a)に示すように、掘削推進刃12、掘削刃7,7及び掘削用ビット9,9によって掘削された土砂11aは、掘削刃7,7周辺の土砂が排土口5を通して鋼管杭本体2内に導入されるとともに、その他の部分の土砂11bが
図6(b)に示すように、排土用チップ8,8によって掘削用ビット9,9側に押しやられるとともに、切り欠き部6,6の掘削用ビット9とは反対側の端縁部上面に上面排土用チップ13,13を設けたことによって、上面排土用チップ13,13に切り欠き部6を通過しようとする土砂が上面排土用チップ13,13に堰き止められ、掘削用ビット9側に沿って移動し易くなる。
【0045】
尚、上面排土用チップ13,13に返し用傾斜面13aを設けている場合には、返し用傾斜面13aによって、土砂が掘削用ビット9側に押しやられ、より効率的に掘削用ビット9に沿って排土される。
【0046】
これによって土砂は、螺旋状を成す掘削用ビット9,9の上面に誘導され、切り欠き部6,6を通して鋼管杭本体2の外周側方、即ち掘削孔4a内に強制的に排出させて圧密され、無排出土、低振動、低騒音で鋼管杭1を地盤4に埋設することができる。
【0047】
また、地盤4の途中に硬い礫層等が障害となる地中障害地盤が存在している場合においても、切り欠き部6,6の端縁に強固な掘削用ビット9,9を支持させた構造であるので、掘削用ビット9,9によって礫層等の障害を少ない回転数で効率よく掘削できるようになっている。
【0048】
また、掘削用ビット9は、補強部材10によって強固に支持されているので、堅い礫等に対して好適に刃が入り、破損を防止できるようになっている。
【0049】
さらに、このように構成された鋼管杭1は、掘削用ビット9,9が直径方向に対称配置されているので、芯だしが容易で容易に製作することができる。
【0050】
一方、この鋼管杭1では、逆回転させて鋼管杭1を地盤より引き抜く際、
図7に示すように、鋼管杭本体2の外周側方、即ち掘削孔4a内の土砂14が上面排土用チップ13,13によって解され、その土砂14が上面排土用チップ13によって堰き止められ、掘削用ビット9,9に誘導されて掘削孔4a内に残置されるので、余分な土砂を引き上げることなく鋼管杭1を引き抜くことができる。
【0051】
また、上面排土用チップ13,13に返し用傾斜面13aを設けている場合には、上面排土用チップ13,13のエッジ13bによって土砂が効率的に解され、返し用傾斜面13aによって土砂14が下方に押しやられ、余分な土砂を引き上げることなく鋼管杭1を引き抜くことができる。
【0052】
尚、上述の実施例では、端板3の下面に排土用チップ8,8を設けた場合について説明したが、必要に応じて排土用チップ8,8を省略してもよい。
【0053】
また、上述の実施例では、端板3の下面に掘削刃7,7を設けた場合について説明したが、必要に応じて掘削刃7,7を省略してもよい。
【0054】
また、上述の実施例では、端板3を鋼管杭本体2に直接固定した場合について説明したが、端板をアタッチメント化してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 鋼管杭
2 鋼管杭本体
3 端板
4 地盤
5 排土口
6 切り欠き部
7 掘削刃
8 排土用チップ
9 掘削用ビット
10 補強部材
11 土砂
12 掘削推進刃
13 上面排土用チップ
14 土砂