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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172809
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/28 20060101AFI20241205BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/24 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090790
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】519338902
【氏名又は名称】有限会社アルファシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 大助
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA58
4K029CA02
4K029DA08
4K029DB03
4K029DB13
4K029DB20
4K029JA02
4K029KA01
(57)【要約】
【課題】高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる、成膜方法及び成膜装置を提供すること。
【解決手段】チャンバ10内に配置されたターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射することにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させて、蒸発したターゲット材料を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に供給すると共に、ラジカル50を基板4の表面に照射することで、基板4の表面にターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する、成膜方法。基板4の表面に対するターゲット材料の供給領域P1の中心と、基板4の表面に対するラジカル50の供給領域P2の中心とを、互いにずらす。基板4の表面が、ターゲット材料の供給領域P1の中心から、ラジカルの供給領域P2の中心へ向かうように、基板4を動かしながら成膜を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射することで、該基板の表面に上記ターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する、成膜方法であって、
上記基板の表面に対する上記ターゲット材料の供給領域の中心と、上記基板の表面に対する上記ラジカルの供給領域の中心とを、互いにずらし、
上記基板の表面が、上記ターゲット材料の供給領域の中心から、上記ラジカルの供給領域の中心へ向かうように、上記基板を動かしながら成膜を行う、成膜方法。
【請求項2】
チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射することで、該基板の表面に上記ターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する、成膜装置であって、
上記基板の表面に対する上記ターゲット材料の供給領域の中心と、上記基板の表面に対する上記ラジカルの供給領域の中心とが、互いにずれるよう構成されており、
上記基板の表面が、上記ターゲット材料の供給領域の中心から、上記ラジカルの供給領域の中心へ向かうように、上記基板を動かしながら成膜を行うよう構成されている、成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法及び成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パルスレーザ堆積法を用いて、III族金属等の膜を基板上に成膜する方法が提案されている。パルスレーザ堆積法は、成膜材料からなるターゲットの表面に、パルス状のレーザ光を照射し、材料を蒸発させ、基板に成膜する方法である。以下において、パルスレーザ堆積法を、PLD法ともいう。PLDは、Pulsed Laser Depositionの略である。
【0003】
また、基板表面へのターゲット材料の供給と共に、窒素ラジカルを基板表面に供給することで、基板の表面に、ターゲット材料の窒化物を成膜する方法が、特許文献1に開示されている。さらに、特許文献1には、均質な膜の形成のために、ターゲットへのパルス状のレーザ光の照射を、断続的に行う方法が記載されている。すなわち、ターゲットにレーザ光を照射してターゲット材料を基板へ供給するパルスレーザ発生期間(堆積期間)の直後に、ターゲットへのレーザ光の照射を停止するブランキング期間を設ける。この間、基板へのラジカル照射は継続的に行う。これにより、堆積期間において、ターゲット材料が基板の表面に堆積し、ブランキング期間において、堆積期間に堆積したターゲット材料の窒化反応が進行する。
【0004】
また、本願発明者らは、かかるブランキングを利用したPLD法について、非特許文献1においても既に発表している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-72231号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】児玉和樹他、第66回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集(2019)11p-W541-11
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のレーザブランキング法は、ブランキング期間を設ける分、成膜効率の観点で不利となりやすい。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる、成膜方法及び成膜装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射することで、該基板の表面に上記ターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する、成膜方法であって、
上記基板の表面に対する上記ターゲット材料の供給領域の中心と、上記基板の表面に対する上記ラジカルの供給領域の中心とを、互いにずらし、
上記基板の表面が、上記ターゲット材料の供給領域の中心から、上記ラジカルの供給領域の中心へ向かうように、上記基板を動かしながら成膜を行う、成膜方法にある。
【0010】
本発明の他の態様は、チャンバ内に配置されたターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射することで、該基板の表面に上記ターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する、成膜装置であって、
上記基板の表面に対する上記ターゲット材料の供給領域の中心と、上記基板の表面に対する上記ラジカルの供給領域の中心とが、互いにずれるよう構成されており、
上記基板の表面が、上記ターゲット材料の供給領域の中心から、上記ラジカルの供給領域の中心へ向かうように、上記基板を動かしながら成膜を行うよう構成されている、成膜装置にある。
【発明の効果】
【0011】
上記成膜方法においては、上記基板の各部が、ターゲット材料の供給領域を通過した後、ラジカルの供給領域を通過することとなる。これにより、基板の各部には、ターゲット材料が供給された後、ラジカルが照射されることとなる。それゆえ、均質な膜を形成することができる。そして、成膜の間、特にレーザ光の照射を停止する必要もないため、成膜効率を高くすることができる。したがって、上記成膜方法によれば、高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる、成膜方法及び成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における、成膜装置の説明図。
図2】実施形態1における、ターゲットへのレーザ光の入射を示す断面説明図。
図3】実施形態1における、(a)基板表面の局所へ供給されるガリウム及び窒素ラジカルを模式的に表した断面説明図、(b)(a)に対応して、各部に供給されるN/Ga比を示す線図。
図4】実施形態1における、基板の移動に伴う基板に対するガリウム及び窒素ラジカルの供給領域の移動を示す、Y方向から見た説明図。
図5】実施形態1における、基板のX方向の移動に伴う、ガリウム及び窒素ラジカルの供給領域に対する基板上の特定箇所の移動を示す、基板法線方向から見た説明図。
図6】実施形態1における、基板に対する原料供給領域の軌跡を示す説明図。
図7】実施形態1における、基板の法線方向から見た基板の移動を示す説明図。
図8図7に続く、基板の移動を示す説明図。
図9図8に続く、基板の移動を示す説明図。
図10】実施形態1における、シャッターを備えた成膜装置の説明図。
図11】実施形態2における、基板の自転に伴う、ガリウム及び窒素ラジカルの供給領域に対する基板上の特定箇所の移動を示す、基板法線方向から見た説明図。
図12】実施形態2における、基板に対する原料供給領域の軌跡を示す説明図。
図13】実施形態3における、基板の自転に伴う、ガリウム及び窒素ラジカルの供給領域に対する基板上の特定箇所の移動を示す、基板法線方向から見た説明図。
図14】実施形態3における、成膜装置の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
成膜方法及び成膜装置に係る実施形態について、図1図10を参照して説明する。
本形態の成膜方法は、以下のようにして基板4の表面に成膜を行う方法である。すなわち、図1図2に示すごとく、チャンバ10内に配置されたターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射する。これにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させて、蒸発したターゲット材料を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に供給する。これと共に、ラジカル50を基板4の表面に照射する。基板4の表面にターゲット材料の化合物を含む膜を成膜する。本形態の成膜方法は、いわゆるパルスレーザ堆積法(PLD法)である。
【0015】
そして、図1図3図5に示すごとく、基板4の表面に対するターゲット材料の供給領域P1の中心と、基板4の表面に対するラジカルの供給領域P2の中心とを、互いにずらす。また、基板4の表面が、ターゲット材料の供給領域P1の中心から、ラジカルの供給領域P2の中心へ向かうように、基板4を動かしながら成膜を行う。すなわち、図4図5に示す矢印sの向きに基板4を動かしながら成膜を行う。
【0016】
図1は、PLD法によって成膜を行う成膜装置1の概略図である。同図に示すように、成膜装置1は、チャンバ10と、ターゲット保持部12と、レーザ照射装置13と、基板保持部14とラジカル照射装置5とを有する。ターゲット保持部12は、チャンバ10内に配置され、ターゲット2を保持する。基板保持部14も、チャンバ10内に配置され、基板4を保持する。ターゲット2と基板4における被成膜面とが互いに対向するように、それぞれターゲット保持部12と基板保持部14とに保持される。また、基板保持部14は、基板4を加熱するヒータを有する。
【0017】
レーザ照射装置13は、チャンバ10の外部に配置されている。チャンバ10には、レーザ光3を透過する光透過窓101が設けてある。レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、レンズ16が介在している。レーザ照射装置13から放射されるレーザ光3は、レンズ16によって、ターゲット2の表面に集光される。なお、レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、適宜、他のレンズ等の光学素子を設置してもよい。
【0018】
ラジカル照射装置5は、チャンバ10内に配置された基板4へ向かってラジカル50を照射する。また、チャンバ10には、排気口102が設けてある。排気口102は、真空ポンプ(図示略)に接続されている。これにより、チャンバ10内のガスを排気口102から排気して、チャンバ10内を実質的な真空状態とすることができるよう構成されている。
【0019】
本形態においては、ターゲット2の表面を鉛直上向き、基板4の被成膜面を鉛直下向きとしている。ただし、ターゲット2及び基板4の配置の向きと、鉛直方向との関係は、特に限定されるものではない。基板保持部14は、基板4の表面に平行な方向に移動することができるよう構成されている。本形態においては、基板保持部14は、水平面に沿って、移動することができることとなる。なお、以下において、基板4の表面に平行な互いに直交する2つの方向を、X方向及びY方向というものとする。
【0020】
基板移動装置は、チャンバ10の本体部100に対して基板4の表面に平行な方向に移動する可動部61を有する。可動部61の少なくとも一部は、チャンバ10の外部に配置されている。チャンバ10内において基板4を保持する基板保持部14は、可動部61に固定されている。チャンバ10は、本体部100と可動部61との間の少なくとも一部を連結する連結封止部103を有する。連結封止部103は、チャンバ10の気密性を確保しつつ、チャンバ10の本体部100に対する可動部61の動きに追従して変形するよう構成されている。
【0021】
基板保持部14は、チャンバ10の上方に配置された可動部61に、連結固定部62を介して固定されている。可動部61は、チャンバ10の本体に対して、X方向に移動できるよう構成されている。すなわち、チャンバ10に固定されたターゲット2及びラジカル照射装置5に対して、X方向に移動できるよう構成されている。可動部61は、図示を省略するモータ等によって、X方向に移動できるよう構成されている。なお、可動部61は、X方向及びY方向の双方に移動できるよう構成することもできる。
【0022】
また、可動部61の移動は、図示を省略する制御部によって制御される。制御部は、CPU、ROM、RAM等からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成することができる。可動部61、連結固定部62、モータ、制御部等によって、基板移動装置が構成されている。
【0023】
また、チャンバ10の上部には、連結封止部103が設けてある。連結封止部103は、可動部61の動きに追従しつつ気密性を確保するよう構成されている。具体的には、連結封止部103は、ベローズ構造(蛇腹構造)を有する。略筒状の連結封止部103の内側に、連結固定部62が挿通されている。これにより、可動部61及びこれに付随するモータ等をチャンバ10の外部に配置しつつ、チャンバ10の気密性を確保し、チャンバ10の真空状態を確保している。可動部61及びこれに付随するモータ等の配置をチャンバ10の外部とすることで、これらのメンテナンス性を向上させることができる。
【0024】
以下において、上記成膜装置1を用いた本形態の成膜方法の一例につき、説明する。
ここでは、ターゲット2として、ガリウム(Ga)を用いる。ターゲット保持部12としては、例えば、酸化アルミニウムからなるるつぼを用いる。図2に示すごとく、ターゲット保持部12としてのるつぼ内に、ガリウムが液体の状態にて保持されている。液体のガリウムからなるターゲット2の表面は、その表面張力によって、一部が曲面状となっている。ただし、ターゲット2の表面の中央部付近は、法線方向が略鉛直上向きとなっており、基板4の方向を向いている。
【0025】
まず、チャンバ10内からガスを吸引して、チャンバ10内を実質的に真空の状態とする。また、基板保持部14のヒータにより、基板4を所定の温度(例えば400~800℃程度)に加熱する。また、ターゲット2の温度は、室温~100℃程度に保つ。なお、ターゲット2は、例えば、基板保持部14のヒータの加熱による輻射熱により加熱される構成としてもよい。この状態において、ラジカル照射装置5から、窒素ラジカル50を基板4へ向かって照射する。それと共に、レーザ照射装置13から、レンズ16、光透過窓101を介して、レーザ光3を、ターゲット2へ照射する。
【0026】
レーザ光3は、ターゲット2の表面に対して、斜めに入射する。すなわち、図2に示すごとく、ターゲット2の表面に対するレーザ光3の入射角θが、90°未満となるようにする。パルス状のレーザ光3は、例えば、パルス幅10~50ps、パルスの繰り返し周波数1~100kHz、照射エネルギ50~100μJ程度とすることができる。
【0027】
これにより、ターゲット2から、ガリウムが蒸発する。すなわち、ターゲット2の表面の一部がアブレーションされる。アブレーションされたターゲット2の材料であるガリウムは、イオン、原子、分子等となり、図1に示すごとく、プルーム20を形成する。プルーム20は、ターゲット2におけるレーザ光3の照射面の法線方向に向かうように形成される。これにより、ガリウムのイオン、原子、分子等が、基板4の表面に堆積する。
【0028】
ここで、図3に示すごとく、基板4の表面に対するターゲット材料(ガリウム)の供給領域P1の中心と、基板4の表面に対するラジカル(窒素ラジカル50)の供給領域P2の中心とを、互いにずらす。
【0029】
図3(a)は、ある時点における、基板4表面の局所への、ガリウムの供給と窒素ラジカル50の供給とを模式的に表した断面説明図である。そして、図3(b)は、同図(a)に対応して、各部に供給されるガリウムと、窒素ラジカル50との供給比(以下において、N/Ga比ともいう。)を表す。すなわち、同図(b)の縦軸は、ガリウムの供給量に対する窒素ラジカル50の供給量の比率を表す。
【0030】
図3(a)に示すように、基板4へのガリウムの供給量の分布は、供給中心をピークとしたガウス分布となる。基板4へのガリウムの供給領域P1の中心と窒素ラジカル50の供給領域P2の中心とを、X方向にずらす。図においては、ガリウムの供給領域P1と、窒素ラジカル50の供給領域P2とは、一部が重複しているが、供給中心は、ずれている。この供給中心のずらし方は、適宜調整することができる。また、ガリウムの供給領域P1と、窒素ラジカル50の供給領域P2とは、重複しないようにずらすこともできる。
【0031】
図3(b)に示すように、ガリウム及び窒素ラジカル50が供給された基板4の表面の局所において、N/Ga比が小さい部分から大きい部分へ、徐々にN/Ga比が変化することとなる。それゆえ、仮に、基板4を動かさずに、成膜を行うと、N/Ga比が小さい状態で成膜される部分と、N/Ga比が大きい状態で成膜される部分とが生じることとなる。
【0032】
本形態においては、図4図5に示すように、ガリウムの供給領域P1の中心から、窒素ラジカル50の供給領域P2の中心へ向かう方向sに、基板4を移動させる。
【0033】
これにより、基板4の各部において、ガリウムが供給された直後に、窒素ラジカル50が供給されることとなる。すなわち、例えば、図4に示すごとく、基板4の表面における特定箇所Qに着目する。同図(a)に示すように、特定箇所Qには、まず、主としてガリウムが供給される。その直後、基板4が移動して、同図(b)に示すように、特定箇所Qに、主として窒素ラジカルが供給される。この間、特定箇所QにおけるN/Ga比は徐々に大きくなることとなる。
【0034】
特定箇所Qにおいて、Gaの供給比率が高い時間帯においては、基板4上の特定箇所QにGaが液相の状態で多く付着する。その直後の時間帯において、特定箇所Qに対しては、Gaの供給比率が低く、窒素ラジカルの供給比率が高い状態となり、既に基板4の特定箇所Qに付着しているGa膜の窒化が進む。これらの現象が、基板4の表面の全体にわたって繰り返されることにより、結晶性に優れたGaN膜が、均一に形成される。このように、基板4上への窒化ガリウムの均一な成膜を容易に実現することができる。
【0035】
なお、この効果は、上述のレーザブランキング法により得られる効果に近似するものである。ただし、レーザブランキング法は、基板へのガリウムの供給量を時間的に変化させて、N/Ga比を変化させるものであるのに対し、本形態の方法は、基板4をXY平面に沿って移動させることで、基板4の表面の各部におけるN/Ga比を変化させる点で、異なる。前者の場合は、レーザ光3のフルエンスを時間変化させる等の必要があるが、後者の場合は、その必要が特にない。
【0036】
なお、図5における矢印sは、基板4のX方向の移動を示し、同図の矢印Qは、基板4の移動に伴う上述の特定箇所Qの移動を示す。
【0037】
また、基板4の被成膜面が大きい場合には、基板4を、X方向のみならず、Y方向にも移動させることが好ましい。例えば、図6に示すごとく、基板4の表面に対して、原料供給領域Pが、いわゆるラスタスキャンされるように、基板4を、XY平面に沿って移動させる。ここで、「原料供給領域P」は、基板4に対するターゲット材料の供給領域P1と、基板4の表面に対するラジカルの供給領域P2との双方を意味するものとする。以下においても、同様の意味合いにて、「原料供給領域P」を用いるものとする。
【0038】
これを実現させるために、本形態の成膜装置1においては、基板移動装置が、基板保持部14をX方向に移動させる機構と、基板保持部14をY方向に移動させる機構とを備える。すなわち、基板移動装置における可動部61が、X方向とY方向との双方に可動となっており、X方向に移動させるためのモータと、Y方向に移動させるためのモータとを備えるものとすることができる。
【0039】
この場合の基板4の動きの一部を、図7図9に例示する。
まず、図7に示すごとく、基板4への原料供給を行いながら、基板4をX方向に移動させる(図7の矢印s1参照)。これにより、原料供給領域Pが、相対的に基板4において、X方向にスキャンされる。そして、原料供給領域Pが、基板4の外周端部に到達した段階で、一旦基板4への原料供給を中断する。原料供給の中断は、例えば、図10に示すごとく、成膜装置1に設けたシャッター17を閉じることにより、行うことができる。
【0040】
基板4への原料供給を中断している間に、基板4をY方向に移動させる。また、基板4をX方向にも移動させて、原料供給領域Pが、基板4における他の外周端部となるようにする(図8のs2参照)。そして、この位置から、シャッター17を開けて基板4への原料供給を再開し、基板4をX方向に移動させる(図9の矢印s3参照)。
【0041】
このような基板4の動作及び原料供給を繰り返すことにより、基板4への原料供給領域Pを、図6に示すように、基板4表面の全体にわたり、走査させることができる。すなわち、基板4の表面に対して、原料供給領域Pをラスタスキャンすることができる。これにより、基板4が大きい場合にも、基板4の表面の全体にわたり、GaN膜を均一に成膜することができる。
【0042】
次に、本形態の作用効果につき、説明する。
上記成膜方法においては、基板4の各部が、ターゲット材料の供給領域P1を通過した後、ラジカルの供給領域P2を通過することとなる。これにより、基板4の各部には、ターゲット材料(Ga)が供給された後、ラジカル(窒素ラジカル)が照射されることとなる。それゆえ、均質な膜を形成することができる。これは、上述した特許文献1及び非特許文献1に記載されたレーザブランキング法と同様のメカニズムによる効果である。
【0043】
レーザブランキング法は、上述したように、基板への原料供給の仕方を以下のように行うものである。すなわち、ターゲットにレーザ光を照射してターゲット材料(Ga)を基板へ供給するパルスレーザ発生期間(堆積期間)の直後に、ターゲットへのレーザ光の照射を停止するブランキング期間を設ける。この間、基板へのラジカル照射は継続的に行う。これにより、堆積期間において、ターゲット材料が基板の表面に堆積し、ブランキング期間において、堆積期間に堆積したターゲット材料の窒化反応が進行する。堆積期間においては、基板表面にGaが液相の状態で多く付着する。その直後のブランキング期間において、窒素ラジカルが供給される。これにより、既に基板に付着しているGa膜の窒化が進む。これにより、結晶性に優れたGaN膜が、均一に形成される。
【0044】
本形態の成膜方法によれば、このようなレーザブランキング法と同様の現象を、特にブランキング期間を設けることなく生じさせることができる。すなわち、本形態のように、ターゲット材料の供給領域P1とラジカルの供給領域P2とを互いにずらした状態で、基板4を所定の向きに動かすことで、基板4の各部位には、ターゲット材料が供給された後に、ラジカルが照射されることとなる。つまり、基板4の各部位には、上述のレーザブランキング法における堆積期間に相当する期間と、それに続くブランキング期間に相当する期間とが順次訪れることとなる。それゆえ、実際にブランキング期間すなわちターゲット材料へのレーザ光の照射を停止する期間を特に設けなくても、レーザブランキング法と同様の作用効果を実現することができる。
【0045】
それゆえ、成膜の間、特にレーザ光の照射を停止したり、フルエンスを低くしたりする必要もないため、成膜効率を高くすることができる。したがって、上記成膜方法によれば、高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる。なお、上述したラスタスキャン(図6参照)の場合には、一時的に基板への原料の供給が中断される期間が生じるが、これは上述のブランキング期間とは無関係の期間である。
【0046】
以上のごとく、本形態によれば、高い成膜効率にて、均質な膜を形成することができる、成膜方法及び成膜装置を提供することができる。
【0047】
(実施形態2)
本形態は、図11に示すごとく、基板4を自転させることにより、基板4の表面が、ターゲット材料の供給領域P1の中心から、ラジカルの供給領域P2の中心へ向かうようにした形態である。図11における矢印rは、基板4の自転を示し、同図の矢印Qは、基板4の自転に伴う上述の特定箇所Qの移動を示す。
【0048】
本形態においても、原料供給領域Pが大きい場合には、基板4を、自転のみならず、径方向へも移動させる。この場合、成膜中において、上述のように基板4をXY平面に沿って二次元的に移動させる。具体的には、例えば、基板4の自転(図11における矢印r)と共に、基板4のX方向への移動をも行う。この動作を実現するために、基板移動装置は、基板保持部14を自転させる機構と、基板保持部14をX方向に移動させる機構とを、少なくとも備える。
【0049】
基板4の自転と、基板4のX方向への移動との双方を行うことにより、基板4に対するターゲット材料(すなわちGa)と窒素ラジカル50との供給領域を、基板4の表面に対して相対的にスキャンすることができる。すなわち、Ga及び窒素ラジカルの原料供給領域Pを、基板4に対して、相対的に、極座標スキャンすることとなる(図12参照)。
【0050】
具体的には、例えば、まず、基板4の中心付近に、原料供給領域P(ターゲット材料の供給領域P1及びラジカルの供給領域P2)を配置した状態で、基板4を自転させる。その後、原料供給領域Pが基板4の中心から離れるように基板4をX方向に所定量動かす。そして、その位置において、基板4を自転させる。これを繰り返すことにより、図12に示すような軌跡にて、原料供給領域Pが、基板4の表面において、相対的に極座標スキャンされる。
【0051】
その他は、実施形態1と同様である。本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0052】
なお、実施形態2に示した極座標スキャンにおいては、基板4のX方向への移動と停止とを繰り返す例を示したが、X方向の移動の仕方は、これに限定されるものではない。例えば、X方向の移動の停止を行わずに、連続して移動させることもできる。また、この場合、X方向の移動速度を適宜変化させることもできる。例えば、原料供給領域Pが基板中央から遠ざかるほど、X方向の移動速度を遅くすることが考えられる。
【0053】
また、実施形態2に示した極座標スキャンにおいて、基板4の自転速度を一定とする例を示したが、自転速度を適宜変化させることも考えられる。例えば、原料供給領域Pが基板中央から遠ざかるほど、自転速度を遅くすることが考えられる。そして、基板表面に対する原料供給領域Pの周速度(基板4の表面と原料供給領域Pとの間の相対速度)が、略一定になるようにすることが考えられる。
【0054】
(実施形態3)
本形態は、図13に示すごとく、基板4の動作を自転のみとした形態である。
例えば、原料供給領域Pの大きさに対する、基板4の被成膜面の大きさ割合が特に大きくない場合には、基板4の動かし方を、自転のみとすることも考えられる。例えば、基板4の被成膜面の直径が、供給領域P1の直径の約2倍程度であるような場合には、基板4を自転のみさせることで、基板4の被成膜面の略全域に、成膜を行うことができる。
【0055】
この場合、図14に示すごとく、成膜装置1の簡素化も可能となる。すなわち、本形態の場合、成膜装置1における基板保持部14は、自転が可能であればよく、特に、X方向への移動やY方向への移動は不要となる。つまり、成膜装置1において、実施形態1(図1参照)に示した基板移動装置(可動部61、連結固定部62等)及び連結封止部103は不要となる。
【0056】
その他は、実施形態1と同様の構成および作用効果を有する。
【0057】
また、上記実施形態においては、ターゲット材料をGaとした形態を示したが、ターゲット材料は、特に限定されるものではない。例えば、ターゲット材料として、Al、Ti等、他の金属、或いは合金等とすることもできる。また、ターゲット材料としては、成膜温度よりも融点が低い材料を用いることが好ましい。この場合には、ターゲット材料が、液体の状態にて基板に付着することで、基板上におけるターゲット材料の移動が生じやすくなり、その直後にラジカルと反応して成膜される際、より均一な成膜が実現しやすいと考えられる。
【0058】
また、上記実施形態においては、レーザアブレーションと共に窒素ラジカルの供給を行う形態を示したが、これに限らず、例えば、基板へ供給するラジカルを、酸素ラジカル等、他のラジカルとすることもできる。
【0059】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 成膜装置
10 チャンバ
2 ターゲット
3 レーザ光
4 基板
50 ラジカル
P1 ターゲット材料の供給領域
P2 ラジカルの供給領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14