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特開2024-172820植物成長促進材の製造方法、植物の成育方法、および植物成長促進材
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172820
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】植物成長促進材の製造方法、植物の成育方法、および植物成長促進材
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/40 20180101AFI20241205BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20241205BHJP
   A01G 24/23 20180101ALI20241205BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A01G24/40
A01G7/00 604Z
A01G24/23
A01K63/04 F
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090813
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】星野 文彦
(72)【発明者】
【氏名】高須 施聞
(72)【発明者】
【氏名】山本 正美
(72)【発明者】
【氏名】大森 俊英
(72)【発明者】
【氏名】竹川 秀人
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 正宜
(72)【発明者】
【氏名】市毛 敬介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 広樹
(72)【発明者】
【氏名】古田 芳一
(72)【発明者】
【氏名】水野 ひなの
【テーマコード(参考)】
2B022
2B104
【Fターム(参考)】
2B022BA11
2B022BB10
2B104AA01
2B104EE04
2B104EE11
2B104EF01
(57)【要約】
【課題】より簡便に利用可能であって、従来にはない優れた植物成長促能を有する成長促進材を提供する。
【解決手段】植物成長促進材の製造方法は、細菌および有機物のうちの少なくとも一方を吸着可能な吸着材を用意し、水生生物が生育する水である生育水に前記吸着材を浸漬し、前記植物成長促進材として、前記生育水から取り出した前記吸着材を取得する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物成長促進材の製造方法であって、
細菌および有機物のうちの少なくとも一方を吸着可能な吸着材を用意し、
水生生物が生育する水である生育水に前記吸着材を浸漬し、
前記植物成長促進材として、前記生育水から取り出した前記吸着材を取得する
植物成長促進材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材は、炭素材料または生物由来の有機材料を用いて構成される
植物成長促進材の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材は、多孔質または繊維質の吸着材である
植物成長促進材の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材を浸漬する前記生育水として、硝酸イオン濃度が50ppm以上の生育水を用いる
植物成長促進材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記生育水への前記吸着材の浸漬は、1日から1週間の期間行う
植物成長促進材の製造方法。
【請求項6】
植物の成育方法であって、
請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法により製造された前記植物成長促進材を、陸生植物に対して施用する
植物の成育方法。
【請求項7】
請求項6に記載の植物の成育方法であって、
前記陸生植物を栽培するための土壌に対して前記植物成長促進材を施用する
植物の成育方法。
【請求項8】
請求項6に記載の植物の成育方法であって、
前記陸生植物を水耕栽培するための培地に対して前記植物成長促進材を施用する
植物の成育方法。
【請求項9】
請求項7に記載の前記土壌、または、請求項8に記載の前記培地に前記植物成長促進材を施用する際の施用量は、前記土壌または前記培地に対して10体積%以上50体積%以下である
植物の成育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物成長促進材の製造方法、植物の成育方法、および植物成長促進材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の成長を促進する技術として、種々の技術が知られている。一般に、植物の成長を促進するためには、堆肥、化学肥料、バイオスティミュラント等が利用されるが、これら以外にも、窒素やリンを含む無機物を炭化物に吸着・担持させる技術、および、炭化物に吸着・担持させた上記無機物を、植物の成育のために利用する技術が知られている。例えば、特許文献1では、カルシウム導入処理した原料植物を炭化処理して得られる炭化物を酸溶液と接触させることによりイオン吸着性を持たせたものを、養殖場の飼育水等の浄化に用いる構成が開示されている。さらに、特許文献2では、上記のようにしてイオン吸着性を持たせた炭素材料に硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を吸着させて、その後に土壌に配置することによって、植物の成育を促進する土壌改良肥料として用いる構成が開示されている。また、特許文献3には、鉄化合物を担持させた炭化物と、リン酸を含有すると、を接触させて得たリン酸鉄を含む炭化物を、有機肥料源と混合して嫌気条件下で処理し、さらに塩基を混合することにより、水溶性リンの供給源として機能する堆肥を製造する構成が開示されている。また、特許文献4には、高度浄水処理に用いられた使用済み活性炭で、一定の陽イオン交換容量または交換性石灰含有量を有するものが、適当な培地に添加することで植物の初期成育を促進したり、接種した土壌中有用微生物を増殖させたりすることを開示している。また、特許文献5および非特許文献1には、上記した無機物とは異なる肥料として、富栄養化水域で栄養塩類を多量に吸収して成長するアオウキクサの発酵物を含有するイネ用肥料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-296933号公報
【特許文献2】特開2005-306716号公報
【特許文献3】特開2022-67352号公報
【特許文献4】特開2022-67352号公報(特許第5534850号)
【特許文献5】特開2016-160129号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】北陸作物学会報、56巻、2021、56、p.5-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1-3に記載のように、無機物を吸着・担持させた炭化物を用いて植物成育を促進する技術では、吸着・担持させた有効成分である硝酸性窒素や亜硝酸性窒素、あるいはリン等は、従来用いられてきた化学肥料そのものであったり堆肥に微量に含まれていたりする無機成分に限定される。特許文献4の炭化物は、高度に浄化した飲料水とするため、数年という長期間浸漬処理が必要であり、保肥力の指標となる陽イオン交換容量が一定以上あるか肥料としての石灰分を有することが求められている。特許文献5および非特許文献1では、従来知られる窒素やリンを含む無機物とは異なる種類の肥料を利用しているが、利用に先立って発酵工程や抽出工程などの煩雑な工程が必要になるという問題がある。そのため、より簡便に利用可能であって、従来にはない優れた植物成長促能を有する成長促進材に係る技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、植物成長促進材の製造方法が提供される。この植物成長促進材の製造方法は、細菌および有機物のうちの少なくとも一方を吸着可能な吸着材を用意し、水生生物が生育する水である生育水に前記吸着材を浸漬し、前記植物成長促進材として、前記生育水から取り出した前記吸着材を取得する。
この形態の植物成長促進材の製造方法によれば、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬させた後に取り出すという極めて簡便な操作により、生育水という水圏に存在する細菌や水生生物由来の有機物のように、陸生植物の成長促進のために従来利用されなかった有用要素を、陸生植物の成長促進のために取得することができる。
(2)上記形態の植物成長促進材の製造方法において、前記吸着材は、炭素材料または生物由来の有機材料を用いて構成されることとしてもよい。このような構成とすれば、植物成長促進材を、例えば土壌に混合して用いる場合に、地中に貯留された吸着材が環境等に望ましくない影響を与えることを抑えることができる。また、炭素材料を用いて吸着材を構成する場合には、植物成長促進材を、例えば土壌に混合して用いる場合に、炭素を地中に貯留可能になる。
(3)上記形態の植物成長促進材の製造方法において、前記吸着材は、多孔質または繊維質の吸着材であることとしてもよい。このような構成とすれば、吸着材において高い比表面積を確保することが容易になり、その結果、吸着材表面において、植物の成長を促進するための水圏由来の有用要素を、より高い密度で吸着することが可能になる。
(4)上記形態の植物成長促進材の製造方法において、前記吸着材を浸漬する前記生育水として、硝酸イオン濃度が50ppm以上の生育水を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、十分量の硝化菌が働く状態の生育水中の有用要素を、吸着材に吸着させることが可能になる。
(5)上記形態の植物成長促進材の製造方法において、前記生育水への前記吸着材の浸漬は、1日から1週間の期間行うこととしてもよい。このような構成とすれば、吸着材への有用要素の吸着量を確保することが容易になる。また、生育水への吸着材の浸漬時間をより長くすることも可能であるが、上記のような浸漬時間とすることで、植物成長促進材の製造コストを抑えることが可能になる。
(6)本開示の他の一形態によれば、植物の成育方法が提供される。この植物の成育方法は、(1)から(5)までのいずれか一項に記載の方法により製造された前記植物成長促進材を、陸生植物に対して施用する。
この形態の植物の成育方法によれば、生育水という水圏に存在する細菌や水生生物由来の有機物のように、陸生植物の成長促進のために従来利用されなかった有用要素を、陸生植物の成長促進材のために用いることができる。
(7)上記形態の植物の成育方法において、前記陸生植物を栽培するための土壌に対して前記植物成長促進材を施用することとしてもよい。このような構成とすれば、陸生植物の成長促進のために従来利用されなかった有用要素を含む土壌を用いて、陸生植物の成長を促進することができる。
(8)上記形態の植物の成育方法において、前記陸生植物を水耕栽培するための培地に対して前記植物成長促進材を施用することとしてもよい。このような構成とすれば、陸生植物の成長促進のために従来利用されなかった有用要素含む培地を用いて、陸生植物の成長を促進することができる。
(9)上記形態の植物の成育方法において、(7)に記載の前記土壌、または、(8)に記載の前記培地に前記植物成長促進材を施用する際の施用量は、前記土壌または前記培地に対して10体積%以上50体積%以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、陸生植物の成長を容易に促進することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、植物の成長を促進する有用要素の水圏から陸圏への移送方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】植物成長促進材を用いた植物成長の促進方法を表すフローチャート。
図2A】植物成長促進材を作製した方法を模式的に表す説明図。
図2B】植物成長促進材を作製した方法を模式的に表す説明図。
図2C】植物成長促進材を作製した方法を模式的に表す説明図。
図3A】植物成長促進材の製造に用いた生育水の水質を示す説明図。
図3B】植物成長促進材の製造に用いた生育水の水質を示す説明図。
図4】Hy炭およびCw炭の作製時における浸漬終了時の生育水の水質を示す説明図。
図5】各サンプル群の植物成育試験条件をまとめて示す説明図。
図6】植物成育試験の結果としての草姿を示す説明図。
図7】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図8】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図9】植物成育試験の結果としての草姿を示す説明図。
図10】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図11】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図12】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図13】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図14】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図15】植物成育試験の結果としての草姿を示す説明図。
図16】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図17】植物成育試験の結果としての草姿を示す説明図。
図18】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図19】植物成育試験の結果としての地上部生重量を測定した結果を示す説明図。
図20】PCR増幅の際に用いたプライマー配列を示す説明図。
図21】環境DNA解析から得られた菌叢分布に関する情報を示す説明図。
図22】菌叢分布に関する情報からTopic解析を行った結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、本開示の実施形態としての植物成長促進材を用いた植物成長の促進方法を表すフローチャートである。図1において、工程T100~T120は、植物成長促進材の製造方法を示す。
【0009】
植物成長促進材を製造する際には、まず、吸着材を用意する(工程T100)。工程T100で用意する吸着材は、細菌および有機物のうちの少なくとも一方を吸着可能な吸着材であればよい。吸着材は、例えば、炭素材料(炭素を含む材料)または生物由来の有機材料を用いて構成することができる。吸着材を、炭素材料または生物由来の有機材料を用いて構成するならば、例えば、後述するように植物成長促進材を土壌に混合して用いる場合に、地中に貯留された吸着材が環境等に望ましくない影響を与えることを抑えることができる。炭素材料を用いて吸着材を構成する場合には、吸着材の組成における炭素の含有量は、例えば、30質量%以上とすることが望ましく、50質量%以上とすることがより望ましく、70質量%以上とすることがさらに望ましい。
【0010】
炭素材料を用いて吸着材を構成する場合には、炭素材料としては、例えば、木炭や竹炭などの生物資源を材料とした、いわゆるバイオ炭を好適に用いることができる。本実施形態の植物成長促進材を用いて植物成長を促進させる際に、例えば、後述するように植物成長促進材を土壌に混合して用いる場合には、吸着材として上記炭素材料を用いることにより、炭素を地中に貯留可能になる。そのため、カーボンマイナスとなる。また、吸着材は、多孔質または繊維質とすることが望ましい。多孔質または繊維質とすることで、吸着材において高い比表面積を確保することが容易になり、その結果、吸着材表面において細菌や有機物などの有用要素を、より高い密度で吸着することが可能になる。このような吸着材は、特に、疎水性の多孔質体であることが望ましい。
【0011】
また、本実施形態の吸着材は、イオン交換能、特に、陰イオン交換能を、実質的に有していないことが望ましい。「イオン交換能を実質的に有していない」とは、吸着材が、イオン交換能を持たせるための特別な処理、具体的には、イオン交換能を発揮するための陰イオンを付加するための処理が行われていないことを指す。本実施形態の植物成長促進材は、後述するように、吸着材を水生生物の生育水に浸漬して、生育水中の細菌や有機物等の有用要素を吸着材に吸着させることによって製造する。ここで、生育水が、植物成長促進のために従来用いられてきた堆肥や化学肥料と同様の無機成分である硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を含み、生育水中に亜硝酸イオンや硝酸イオンが存在すると、陰イオン交換能を有する吸着材を用いる場合には、吸着材はこれらの陰イオンをイオン交換により吸着する。その結果、生育水中に存在する細菌や有機物などの、陰イオン以外の有用要素の吸着が妨げられることになる。本実施形態の吸着材は、イオン交換能を実質的に有していないことにより、亜硝酸イオンや硝酸イオンが存在する生育水に浸漬する場合であっても、亜硝酸イオンや硝酸イオンが吸着する動作に妨げられることなく、細菌や有機物などの有用要素を吸着することが可能になる。
【0012】
工程T100で吸着材を用意した後、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬する(工程T110)。これにより、生育水に含まれる細菌および有機物のうちの少なくとも一方が吸着材に吸着される。ここで、水生生物とは、水生動物の他、水生植物や水生微生物を含み得る。水生生物が生育する生育水としては、例えば、水生生物が魚類の場合には、魚の養殖池の水とすることができ、また、魚の養殖と野菜等の水耕栽培とが組み合わされたアクアポニックスにおいては、養魚槽の水や、養魚槽から供給された水を用いて水耕栽培を行う栽培用水槽の水などを用いることができる。
【0013】
このような水生生物の生育水には、一般に、水生生物の排泄物や死骸(水生生物が水生植物の場合には枯れた植物体を含む)などの有機物(有機物を含有する断片を含む)が含まれる。さらに、水生生物の生育水には、一般に、有機物分解菌が含まれている。そのため、水生生物の生育水には、上記した有機物に加えて、これらの有機物が有機物分解菌によって分解されて生じた、より分子量の小さい有機物やアンモニアなどの無機物が含まれている。また、水生生物が魚類などの水生動物の場合には、生育水には、水生動物が排出したアンモニアも含まれる。水生生物の生育水には、一般に、上記した有機物分解菌に加えて、さらに、硝化菌が含まれる。硝化菌は、アンモニアを酸化して亜硝酸を生じるアンモニア酸化菌や、亜硝酸を酸化して硝酸を生じる亜硝酸酸化菌を含み、例えば、生育水に浮遊し、あるいは水生動物、水生植物および構造物に付着して存在する。そのため、水生生物の生育水は、硝化菌の働きによって生じた亜硝酸や硝酸をさらに含む。工程T110で吸着材を生育水に浸漬することにより、生育水中の硝化菌等の細菌や、有機物(有機物を含有する断片や、有機物分解菌による分解により生じた有機物を含む)が、吸着材に吸着される。
【0014】
なお、吸着材は、植物成長促進に資する有用要素として、上記した細菌および有機物に加えて、さらに、無機物を吸着可能であってもよく、例えば、上記したアンモニア、亜硝酸、および硝酸のうちの少なくとも1種をさらに吸着してもよい。また、吸着材は、生育水に含まれるバイオスティミュラントとして機能する物質を吸着してもよい。バイオスティミュラントは、生体刺激資材とも呼ばれ、例えば、栄養素とは異なる経路で植物生理に作用して、植物の成育を促進するものとして知られている。バイオスティミュラントには、細菌や、アミノ酸、脂肪酸、ペプチド、多糖類、ビタミン類などの有機物も含まれ得るが、ミネラル類など、さらに他種の物質であってもよい。
【0015】
工程T110で生育水に吸着材を浸漬して、上記細菌や有機物等の有用要素を吸着材に吸着させると、その後、植物成長促進材として吸着材を生育水から取り出す(工程T120)。このとき、有用要素が効果を発揮するための必要量を吸着材に吸着していることを規定する目安として、工程T120では、吸着材を浸漬する生育水における硝酸イオン濃度(吸着材を取り出すときの生育水における硝酸イオン濃度)を、50ppm以上とすることが望ましい。
【0016】
例えば、魚類などの水生動物の生育を新たに開始する際には、一般に、水生動物の排泄により、まず、生育水中のアンモニア濃度が上昇し、これに伴いアンモニア酸化菌が増殖し、アンモニアを酸化して亜硝酸を生じる反応が進行する。その結果、生育水中の亜硝酸濃度が上昇し、これに伴い亜硝酸酸化菌が増殖し、亜硝酸を酸化して硝酸を生じる反応が進行する。そのため、生育水中でアンモニア酸化菌や亜硝酸酸化菌が増殖して安定して機能するようになるにつれて、生育水中の硝酸濃度が次第に高まる。上記のように、生育水中の硝酸濃度は、生育水中で十分に硝化菌が存在し、生育水として安定化していることの指標となるため、吸着材を浸漬する生育水における硝酸イオン濃度(吸着材を取り出すときの生育水における硝酸イオン濃度)を、50ppm以上のようにある程度高い値を確保することで、十分量の硝化菌が働く状態の生育水中の有用要素(例えば硝化菌を含む)を、吸着材に吸着させることが可能になる。
【0017】
上記のように十分に硝化菌が存在する生育水を用いて植物成長促進材を作製するために、例えば、吸着材を浸漬する生育水中の環境DNA解析を行ったときに、生育水中の菌叢においてRhizobiales.f (リゾビウム科) の占有率が5%以上である生育水を用いることが望ましい。また、吸着材を浸漬する生育水中の環境DNA解析として、生育水中の菌叢についてLEA(Latent-Environment Allocation)のTopic解析(Latent environment allocation of microbial community data. PLoS Comput Biol. 2018;14(6), e1006143)を行った結果が、植物の根圏、内生菌を示唆する菌群の占有率が5%以上である生育水を用いることが望ましい。LEA(Latent-Environment Allocation)は、微生物群の構造パターンと環境パターンとの関連性を見出すものであって、数万個の16SrRNA遺伝子アンプリコンサンプルについて、分類学的組成と自然言語によるサンプル記述の組にCorr-LDAモデルを適用し、学習結果を統合して開発された対話型ウェブアプリケーションである。
【0018】
また、吸着材への有用要素の吸着量を確保する観点から、工程T120で生育水から吸着材を取り出すまでの浸漬時間は、例えば、1日以上とすることが好ましく、2日以上とすることがより好ましく、3日以上とすることがさらに好ましい。また、上記浸漬時間は、例えば、3週間以下とすることができ、2週間以下であってもよく、1週間以下であってもよい。このような吸着材の浸漬は、水生動物の排泄物などの有機物が生育水中に集積され、好気的あるいは嫌気的な微生物分解が進行して、上記したように硝化菌が機能する環境下で行われることが望ましい。
【0019】
工程T120で生育水から吸着材を取り出して植物成長促進材を得ると、得られた植物成長促進材を陸生植物に対して施用することにより、植物の成長を促進することができる(工程T130)。植物成長促進材を植物に施用する方法としては、例えば、植物を栽培するための土壌に植物成長促進材を施用する方法が挙げられる。植物成長促進材を施用する土壌は、例えば、育苗用土、培養土、農用地(耕起栽培の農地および不耕起栽培の農地を含む)の土壌、農用地以外の植栽が施されている場所の土壌等とすることができる。また、植物成長促進材を植物に施用する他の方法としては、水耕栽培するための培地に対して植物成長促進材を施用する方法も挙げられる。ここで、「水耕栽培」とは、土壌に代えて例えばハイドロボール、ロックウール、ココピート等の固形培地を用いる方法(ハイドロカルチャー)と、固形培地を用いることなく培地として培養液のみを用いて植物を栽培する方法と、の双方を含む。植物成長促進材を施用する際には、固形培地を用いる水耕栽培では、固形培地中に植物成長促進材を混合して用いればよく、培養液のみを用いる水耕栽培では、培養液中に植物成長促進材を投入して用いればよい。
【0020】
上記のように土壌に植物成長促進材を施用する場合、あるいは、水耕栽培の培地に植物成長促進材を施用する場合に、植物成長促進材の施用量は、土壌や固形培地や培養液に対して、例えば、1体積%以上とすることができ、10体積%以上とすることが望ましい。また、植物成長促進材の施用量は、土壌や固形培地に対して、100体積%以下とすることができ、50体積%以下としてもよい。なお、以下では、土壌や固形培地や培養液に対する植物成長促進材の施用量の単位である体積%は、v/v%とも記載する。
【0021】
以上のように構成された本実施形態の植物成長促進材の製造方法によれば、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬させるという極めて簡便な操作により、生育水という水圏に存在する細菌や水生生物由来の有機物のように、陸生植物の成長促進のために従来利用されなかった有用要素を、陸生植物の成長促進のために取得することができる。そして、このようにして製造した植物成長促進材を、陸生植物に対して施用することにより、上記のように従来利用されなかった有用要素を、陸生植物の成長促進材のために用いることができる。例えば、実施形態の植物成長促進材を、発芽期や発芽後しばらくの成育初期の陸生植物に施用することで、このような時期の植物の成長を促進することができる。
【0022】
ここで、水生生物の生育水のような水圏において、アンモニアの分解を行う硝化菌群や、硝化菌群の影響を受けて生育する他の微生物群などの細菌群は、陸生植物が生育する土壌のような陸圏において同様にアンモニアや有機物等の分解に関与する細菌群とは異なるものであると考えられる。また、水生生物由来の有機物のような、水圏から得られる有機物などの有用要素は、陸生植物や陸生動物由来の材料を用いて得られる堆肥中の有機物などの有用要素とは異なる物質を含むと考えられる。本実施形態の植物の製造方法により製造した植物成長促進材を用いることにより、従来利用することができなかった水圏由来の有用要素を利用して、陸生植物の成長を促進させることが可能になる。
【0023】
また、本実施形態によれば、水生生物が成育する生育水に吸着材を浸漬させることによって吸着材に細菌や有機物を吸着させるため、簡便な操作により生育水中の細菌量や有機物量の増加を抑えて、生育水の水質汚染を抑制することができる。さらに、炭素材料を利用して吸着材を構成する場合には、有用要素を吸着材に吸着させた成長促進材を土壌に対して施用することにより、土壌微生物により分解されない炭素分として土壌中に安定的に隔離することができる。
【実施例0024】
以下では、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。以下に説明する実施例では、図1を用いて説明した植物成長促進材の製造方法により植物成長促進材を作製し、植物に施用して植物の成育試験を行った結果を示す。
【0025】
図2A図2Cは、実施形態で説明した植物成長促進材として、以下にGA炭、G炭、GH炭として説明する3種類の植物成長促進材を作製した方法を模式的に表す説明図である。また、図3Aおよび図3Bは、図2A図2Cに示す方法に従って植物成長促進材を製造したときの生育水の水質を示す説明図である。図3Aは、吸着材の浸漬を開始したときの生育水の水質を示し、図3Bは、吸着材の浸漬を終了したときの生育水の水質を示す。図3Aおよび図3Bでは、GA炭、G炭、GH炭の製造に係る生育水を、それぞれ、GA水、G水、GH水と記載している。また、図3Aおよび図3Bでは、生育水の水質として、アンモニウムイオン濃度、亜硝酸イオン濃度、硝酸イオン濃度、リン酸イオン濃度、カリウムイオン濃度、電気伝導度EC、およびpHを示している。生育水の水質の測定方法は、後述する。
【0026】
<植物成長促進材の作製>
(GA炭の作製)
図2Aは、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬して、植物成長促進材を作製する様子を模式的に示す説明図である。図2Aに示す方法で作製した植物成長促進材を、以下では、「GA炭」とも呼ぶ。植物成長促進材であるGA炭の作製のためには、魚の養殖と野菜等の水耕栽培とが組み合わされたアクアポニックスシステム10において、養魚槽から供給された水を用いて行う水耕栽培の栽培用水槽の水を、生育水として用いた。図2Aに示すアクアポニックスシステム10は、水生生物11である魚を養殖する養魚槽12と、養魚槽12から供給された水を用いて水耕栽培を行う栽培用水槽14と、養魚槽12から栽培用水槽14へと水を供給する第1循環流路16と、栽培用水槽14から養魚槽12へと水を供給する第2循環流路18と、を備える。アクアポニックスシステム10では、第1循環流路16および第2循環流路18を介して、養魚槽12と栽培用水槽14との間で水を循環させる。そして、養魚槽12において魚の排出物等が微生物によって分解され、得られた分解物が養分として栽培用水槽14に供給されることによって、栽培用水槽14では植物体17が成育する。
【0027】
植物成長促進材であるGA炭を作製するためのアクアポニックスシステム10は、株式会社アクポニ製の中型アクアポニックス水耕栽培DIYキットを用いて構成した。また、吸着材13としては、株式会社桜産業製の備長炭(粒径5mm)を使用した。アクアポニックスDIYキットの下部水槽(養魚槽12)において、総体重で400gの和金を水生動物11として飼育した。これと共に、上部水槽(栽培用水槽14)には、培地15としてハイドロボールを設置し、植物体17としてバジルを水耕栽培した。養魚槽12にはエアレーションを行い、養魚槽12の水をポンプで常時汲み上げ、栽培用水槽14に供給した。栽培用水槽14の水は自然落下させて、養魚槽12に循環させた。また、栽培用水槽14ではサイフォンの原理により水位を定期的に上下させた。給餌は4g/日のペースで行った。栽培用水槽14の水に吸着材(炭)100gを浸漬しており、浸漬のタイミングは、生育水(栽培用水槽14の水)の水質を指標として、アンモニウムイオン0.1ppm、亜硝酸イオン0.1ppm、硝酸イオン149.5ppmの状態(図3A)で開始し、1週間行った。その後、吸着材(炭)を生育水から回収し、自然乾燥させて、GA炭を得た。吸着材を回収したときの生育水(栽培用水槽14の水)の水質を、図3Bに示す。
【0028】
(G炭の作製)
図2Bは、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬して植物成長促進材を作製するための、他の例を模式的に示す説明図である。図2Bに示す方法で作製した植物成長促進材を、以下では、「G炭」とも呼ぶ。植物成長促進材であるG炭の作製のためには、魚を飼育する水槽(図2Bに示す水槽22)の水を、生育水として用いた。
【0029】
水槽22としては、鈴木製作所製の角型タライ16Lを用いた。また、吸着材13としては、株式会社桜産業製の備長炭(粒径5mm)を使用した。水槽22において、水生生物11として、総体重で100gの和金を導入した。給餌は2g/日のペースで行った。水槽22の水に吸着材(炭)100gを浸漬しており、浸漬のタイミングは、生育水(水槽22の水)の水質を指標として、アンモニウムイオン0.2ppm、亜硝酸イオン0.1ppm、硝酸イオン199.5ppmの状態で開始し、1週間行った。その後、吸着材(炭)を生育水から回収し、自然乾燥させて、G炭を得た。吸着材を回収したときの生育水(水槽22の水)の水質を、図3Bに示す。
【0030】
(GH炭の作製)
図2Cは、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬して植物成長促進材を作製するための、さらに他の例を模式的に示す説明図である。図2Cに示す方法で作製した植物成長促進材を、以下では、「GH炭」とも呼ぶ。植物成長促進材であるGH炭の作製のためには、魚を飼育する水槽(図2Cに示す水槽22)の水を、生育水として用いた。ただし、GH炭の製造方法は、水槽22に対して、図2Aに示すアクアポニックスシステム10の栽培用水槽14で用いた培地15であるハイドロボールをさらに加えた点で、図2Bに示すG炭の製造方法と異なっている。
【0031】
水槽22としては、鈴木製作所製の角型タライ16Lを用いた。また、吸着材13としては、株式会社桜産業製の備長炭(粒径5mm)を使用した。水槽22において、水生生物11として、総体重で100gの和金を導入し、ここに、図2Aのアクアポニックスシステム10の栽培用水槽14で用いたハイドロボール700gを浸漬した。給餌は2g/日のペースで行った。水槽にはエアレーションを行った。水槽22の水に吸着材(炭)100gを浸漬しており、浸漬のタイミングは、生育水(水槽22の水)の水質を指標として、アンモニウムイオン0.5ppm、亜硝酸イオン1.5ppm、硝酸イオン185.0ppmの状態で開始し、1週間行った。その後、吸着材(炭)を生育水から回収し、自然乾燥させて、GH炭を得た。吸着材を回収したときの生育水(水槽22の水)の水質を、図3Bに示す。
【0032】
(水質の測定方法)
アンモニウムイオン濃度、亜硝酸イオン濃度、硝酸イオン濃度、およびリン酸イオン濃度は、株式会社共立理化学研究所製のパックテストを用い、比色法にて測定した。カリウムイオン濃度は、株式会社堀場製作所製のコンパクトカリウムイオンメータを用いて、イオン電極法にて測定した。電気伝導度ECは、株式会社堀場製作所製のコンパクト電気伝導率計を用いて測定した。pHは、ガラス電極法により測定した。
【0033】
<その他の混合材の作製>
植物の成育試験を行う際には、実施形態の植物成長促進材に対応する上記したGA炭、G炭、GH炭に加えて、さらに、異なる種類の混合剤を作製し、上記した植物成長促進材との比較を行った。異なる種類の混合剤として作製した「Hy炭」および「Cw炭」について、以下に説明する。
【0034】
(Hy炭の作製)
Hy炭は、株式会社桜産業製の備長炭(粒径5mm)を吸着材として用いて、この吸着材に、液体肥料(株式会社ハイポネックスジャパン製、ハイポネックス6-10-5)の成分を分解させつつ吸着させたものである。吸着の動作を行う際には、コトブキ工芸のイージーポニックスを用い、下部水槽と上部水槽とを接続して、下部水槽の水中ポンプにより下部水槽と上部水槽の水を循環させた。このとき、下部水槽に水(井戸水)を6L、上部水槽に上記吸着材100gを設置し、これにハイポネックス10mLを添加して、2週間運転した。その後、吸着材(炭)を上部水槽から回収し、自然乾燥させて、Hy炭を得た。
【0035】
(Cw炭)
Cw炭は、株式会社桜産業製の備長炭(粒径5mm)を吸着材として用いて、この吸着材に、牛糞堆肥ペレット(朝日アグリア株式会社製、有機アグレット825eco)の成分を分解させつつ吸着させたものである。吸着の動作を行う際には、コトブキ工芸のイージーポニックスを用い、下部水槽と上部水槽とを接続して、下部水槽の水中ポンプにより下部水槽と上部水槽の水を循環させた。このとき、下部水槽に水(井戸水)を6L、上部水槽に上記吸着材100gを設置し、これに牛糞堆肥ペレット10gを添加して、2週間運転した。その後、吸着材(炭)を上部水槽から回収し、自然乾燥させて、Cw炭を得た。
【0036】
図4は、上記したHy炭およびCw炭の作製時において、吸着材の浸漬を終了したときの水槽を循環する水の水質を調べた結果を示す。図4では、アンモニウムイオン濃度、硝酸イオン濃度、および電気伝導度ECを測定した結果を示す。測定方法は、図3Aおよび図3Bに関して説明した方法と同様である。図4では、Hy炭、Cw炭の製造時に吸着材の浸漬を終了したときの水槽の水を、それぞれ、Hy水、Cw水と記載している。
【0037】
<植物成育試験の条件>
上記したGA炭、G炭、GH炭等の種々の混合材を土壌に施用して、植物体の成育試験を行った。成育試験は、市販の培養土を用い、これに、GA炭、G炭、GH炭等の種々の混合材を配合して試験用培土を調整し、調整した各々の試験用培土に植物の種子を播種して栽培を行った。上記市販の培養土としては、びわこ産業株式会社製の肥鉄培土1号(以下では「未配合培養土1」とも呼ぶ)と、株式会社サカタのタネ製のスーパーミックスA(以下では「未配合培養土2」とも呼ぶ)と、を用いた。植物の種子としては、コマツナ種子(中原採種場の夢わかな小松菜(F1))を用いた。上記市販の培養土に植物成長促進材や吸着材や肥料等を配合して試験用培土を調整し、得られた各試験用培土を、128穴セルトレーに充填した。その後、試験用培土を充填した各セルに種子を2粒ずつ播種し、セルトレーの底面から給水し栽培を開始した。生育水や液体肥料等を供給する場合には、セルトレーの底面から吸水する工程で、所定量の生育水や液体肥料等を共に供給した。常時24℃で制御し、明条件12時間、照度10,000LUXで栽培した。播種から12日経過後、本葉が出揃ったところで、草姿(外観)ないしは地上部生重量を比較した。
【0038】
図5は、植物成育試験を行った各サンプル群の試験条件をまとめて示す説明図である。図5では、用いた市販の培養土の種類と、市販の培養土に加えた混合材の種類と、市販の培養土に対する混合材の混合割合と、混合材を作製する際に吸着のために吸着材を液に浸漬させた時間(以下、「浸漬時間」と呼ぶ)と、植物成育試験における給水条件とを示している。以下では、各サンプル群の植物成育試験の条件を、図5に基づいて説明する。なお、サンプル群S1~S9で用いた混合材は、実施形態で説明した植物成長促進材に対応する。また、サンプル群S11~S25は、比較例のサンプル群である。
【0039】
(サンプル群S1)
市販培養土として未配合培養土1を用い、混合材としてGA炭を用い、混合材の混合割合を50v/v%とした。給水は、セルトレーの底面から水を供給することにより行った。図5では、このような給水条件を「水のみ」としている。
【0040】
(サンプル群S2)
市販培養土として未配合培養土1を用い、混合材としてGA炭を用い、混合材の混合割合を25v/v%とした。給水は、セルトレーの底面から水を供給することにより行った。
【0041】
(サンプル群S3)
市販培養土として未配合培養土1を用い、混合材としてGA炭を用い、混合材の混合割合を12.5v/v%とした。給水は、セルトレーの底面から水を供給することにより行った。
【0042】
(サンプル群S4)
市販培養土として未配合培養土1を用い、混合材としてGA炭を用い、混合材の混合割合を6.25v/v%とした。給水は、セルトレーの底面から水を供給することにより行った。
【0043】
(サンプル群S5)
市販培養土として未配合培養土2を用い、混合材としてG炭を用い、混合材の混合割合を6.25v/v%としたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0044】
(サンプル群S63)
混合材としてG炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0045】
(サンプル群S7)
混合材としてGH炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0046】
(サンプル群S8)
混合材として、混合材を作製する際の浸漬時間を2週間としたGH炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0047】
(サンプル群S9)
混合材として、混合材を作製する際の浸漬時間を2日としたGH炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0048】
(サンプル群S11)
混合材として、水10Lに対して吸着材100gを浸漬した後に8時間放置して作製した混合材(水処理炭)を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0049】
(サンプル群S12)
混合材として、浸漬を伴う処理を行っていない吸着材(無処理炭)を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0050】
(サンプル群S13)
混合材を用いることなく、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用い、サンプル群S1と同様に水のみを用いた給水を行った。
【0051】
(サンプル群S14)
混合材を用いることなく、未配合培養土2のみからなる試験用培土を用い、サンプル群S1と同様に水のみを用いた給水を行った。
【0052】
(サンプル群S15)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、図3Bに示した水質である浸漬終了時のG水100mLを、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、水を用いて底面給水した。
【0053】
(サンプル群S16)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、図3Bに示した水質である浸漬終了時のGH水100mLを、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、水を用いて底面給水した。
【0054】
(サンプル群S17)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、図3Bに示した水質である浸漬終了時のGH水100mLを、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、GH水を底面給水させ、その結果として、合計500mLのGH水を給水した。
【0055】
(サンプル群S18)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、液体肥料(株式会社ハイポネックスジャパン製、ハイポネックス6-10-5)の500倍希釈液を、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、水を用いて底面給水した。
【0056】
(サンプル群S19)
混合材として、牛糞堆肥ペレット(朝日アグリア株式会社製、有機アグレット825eco)を用い、市販培養土である未配合培養土1に対する混合材の混合割合を12v/v%としたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0057】
(サンプル群S20)
混合材として、牛糞堆肥ペレット(朝日アグリア株式会社製、有機アグレット825eco)を用い、市販培養土である未配合培養土1に対する混合材の混合割合を6v/v%としたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0058】
(サンプル群S21)
混合材として、牛糞堆肥ペレット(朝日アグリア株式会社製、有機アグレット825eco)を用い、市販培養土である未配合培養土1に対する混合材の混合割合を3v/v%としたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0059】
(サンプル群S22)
混合材として、Hy炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0060】
(サンプル群S23)
混合材として、Cw炭を用いたこと以外は、サンプル群S1と同様の条件で試験を行った。
【0061】
(サンプル群S24)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、図4に示したHy水100mLを、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、水を用いて底面給水した。
【0062】
(サンプル群S25)
サンプル群S13と同様に、未配合培養土1のみからなる試験用培土を用いた。さらに、給水は、図4に示したCw水100mLを、播種後のセルトレーにおいて底面給水させることにより行った。その後の給水は、適宜、水を用いて底面給水した。
【0063】
<植物成育試験の結果>
図6は、サンプル群S1(混合材はGA炭)、サンプル群S11(混合材は水処理炭)、サンプル群S12(混合材は無処理炭)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の草姿(外観)を示す説明図である。図6に示すように、サンプル群S1は、サンプル群S11-S13に比べて、明らかに地上部の成育が促進された。
【0064】
図7は、サンプル群S1、S2、S3、S4、(いずれも混合材はGA炭)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。サンプル群S1、S2、S3、S4はいずれも、サンプル群S13に比べて、危険率αが0.01未満であって、図7に示すように、明らかに地上部の成育が促進された。なお、図7、および、後述する図8図10-14、図16図18、および図19では、植物成育試験を行った種々のサンプル群における地上部生重量を示しているが、これらの値は、N=10として測定したときの1株当たりの重さの平均値を示している。
【0065】
以上より、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬することにより、植物の初期成育を促進する有用な植物成長促進材が得られることが確認された。すなわち、植物の成長を促進する有用要素を、水生生物が生育する水圏から、陸生植物が成育する陸圏へと移送できたことが確認された。そして、このように有用な植物成長促進材は、水生生物が生育する生育水への吸着材の浸漬時間が1週間という比較的短期間であっても得られることが確認された。植物成長促進材の土壌に対する混合割合については、6.25体積%以上で生育促進効果が確認され、また、50体積%という高配合においては、成育促進効果を示すと同時に成育障害が認められなかったことから、吸着材として炭素材料を用いた植物成長促進材を、炭素貯留のために農地に大量施用可能であることが確認された。
【0066】
図8は、サンプル群S5(未配合培養土2+6.25v/v%G炭)、およびサンプル群S14(未配合培養土2のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。図8は、既述したように平均値を示しており、エラーバーは標準偏差を示す。なお、サンプル群S5およびS14で用いた未配合培養土2(株式会社サカタのタネ製のスーパーミックスA)は、黒ピートモスを原料として用いており未配合培養土1に比べて、土壌微生物の排せつ物や動植物の死骸が微生物の作用により分解・変質してできた腐植を豊富に含むと共に植物の初期成育に必要な基本的肥料成分を含んでいる。
【0067】
未配合培養土2にG炭を加えたサンプル群S5は、未配合培養土2のみであるサンプル群S14に対して、危険率αが0.01未満で地上部の成育を15%促進した。このように、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬して得た植物成長促進材は、初期成育に必要な肥料分を有する土壌に施用する場合であっても、植物の初期成育をさらに促進した。したがって、本開示の植物成長促進材は、産業上極めて有用であると考えられる。
【0068】
図9は、サンプル群S1(混合材はGA炭)、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S7(混合材はGH炭)、サンプル群S15(混合材無しでG水を給水)、サンプル群S16(混合材無しでGH水を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の草姿(外観)を示す説明図である。また、図10は、サンプル群S1(混合材はGA炭)、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S7(混合材はGH炭)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。また、図11は、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S15(混合材無しでG水を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。また、図12は、サンプル群S7(混合材はGH炭)、サンプル群S16(混合材無しでGH水を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。
【0069】
図9および図10に示すように、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬して得た植物成長促進材(S1、S6、S7)は、いずれも、土壌に対して施用することにより、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の成育を促進することが確認された。これらの植物成長促進材の中では、サンプル群S6(G炭)が、最も成育促進の効果が高かった。
【0070】
図9および図11に示すように、G炭が浸漬されていた水(G水)を給水したサンプル群S15は、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の成育を促進したが、その効果は、G炭を施用したサンプル群S6には及ばなかった。同様に、図9および図12に示すように、GH炭が浸漬されていた水(GH水)を給水したサンプル群S16は、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の生育を促進したが、その効果は、GH炭を施用したサンプル群S7には及ばなかった。これらの結果から、水生生物が成育する生育水中の有用要素は、吸着材に吸着され、濃縮されていたと考えられる。
【0071】
図13は、サンプル群S8(混合材はGH炭)、サンプル群S17(混合材無しでGH水を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。サンプル群S8は、同じく混合材としてGH炭を用いたサンプルS7よりも吸着材の浸漬時間が長い。また、サンプル群S17は、同じくGH水を給水したサンプル群S16よりもGH水の吸水量を、100mLから500mLへと大きく増加させている。図13に示すように、有用要素を含有するGH水の供給量を増加させることにより、土壌における有用要素を限界まで濃縮させても、有用要素を吸着材に吸着させたGH炭を施用する場合には及ばなかった。以上より、吸着材に吸着させることによる有用要素の移送は、水生生物が生育する生育水の吸水量を増加させるよりも効率的に成長促進が可能であり、簡便であることが確認された。
【0072】
図14は、サンプル群S8(混合材はGH炭、浸漬時間は2週間)、サンプル群S9(混合材はGH炭、浸漬時間は2日)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。図14に示すように、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬する浸漬時間を2日間に短縮した場合においても、2週間浸漬した場合には及ばないものの、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の成育を促進することができ、水圏から陸圏への有用要素の移送を十分に行うことが可能であることが確認された。
【0073】
図15は、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S18(混合材無しで液体肥料を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の草姿(外観)を示す説明図である。また、図16は、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S18(混合材無しで液体肥料を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。
【0074】
図15および図16に示すように、液体肥料を給水したサンプル群S18は、土壌のみの場合(S13)に比べて、植物成長促進の効果が認められた。しかしながら、その効果は、本開示の植物成長促進材を用いたサンプル群S6(G炭)には及ばなかった。すなわち、本開示の植物成長促進材を用いたサンプル群S6(G炭)は、植物成長促進効果として、一般的な無機肥料を超える効果を示した。例えば、既述した特許文献1および2に示されているように、炭化物等を吸着材として用いる場合には陰イオン交換能を付与する等の特別な処理を施さないと、亜硝酸イオンや硝酸イオンなどの無機窒素を吸着材に吸着させることが困難であると考えられる。実施例の各サンプル群では、このようなイオン交換能を付与するための特別な処理を施していない吸着材(備長炭)を用いている。そのため、サンプル群3を含むサンプル群S1~S9の植物成長促進材が水圏から陸圏へと移送する有用要素は、主として、亜硝酸イオンや硝酸イオンなどの無機窒素とは異なるものであると考えられる。具体的には、吸着材上で繁殖する細菌や、炭材料に付着しやすい有機成分(有機肥料分や、その他バイオスティミュラント)であると推測される。
【0075】
図17は、サンプル群S6(混合材はG炭)、サンプル群S19(混合材は牛糞堆肥ペレットで、混合割合は12v/v%)、サンプル群S20(混合材は牛糞堆肥ペレットで、混合割合は6v/v%)、サンプル群S21(混合材は牛糞堆肥ペレットで、混合割合は3v/v%)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の草姿(外観)を示す説明図である。また、図18は、上記サンプル群S6、サンプル群S19、サンプル群S20、サンプル群S21、サンプル群S13の各々についての、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。
【0076】
図17および図18に示すように、混合材として牛糞堆肥ペレットを用いたサンプル群S19-S21は、土壌のみの場合(S13)に比べて、植物成長促進の効果が認められた。しかしながら、試験用培土における牛糞堆肥ペレットの濃度を高めると、いわゆる「肥料あたり」と呼ばれる障害を受ける株が多くなった。サンプル群S19-S21における植物成長促進効果は、本開示の植物成長促進材を用いたサンプル群S6(G炭)には及ばず、これは、上記した肥料あたり等による障害や、培土中の菌による有機物の分解が成育期間内では十分に進行しなかったこと等が要因であると考えられる。以上より、水生生物が生育する生育水に吸着材を浸漬することにより作製した植物成長促進材を用いることにより、障害の発生を抑えつつ植物の成育に十分な施用量を確保可能になると共に、少なくとも発芽後の初期成育においては、従来知られる有機系の堆肥等に比べて、極めて高い植物成長促進効果が得られることが確認された。
【0077】
図19は、サンプル群S1(混合材はGA炭)、サンプル群S22(混合材はHy炭)、サンプル群S23(混合材はCw炭)、サンプル群S24(混合材無しでHy水を給水)、サンプル群S25(混合材無しでCw水を給水)、サンプル群S13(土のみ)の各々についての植物成育試験の結果、すなわち、播種から12日経過後の地上部生重量を測定した結果を示す説明図である。
【0078】
図19に示すように、サンプル群S22(混合材は、液体肥料の成分を、存在し得る微生物により2週間分解させつつ吸着させたHy炭)は、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の成育を促進したが、その効果は、GA炭を施用したサンプル群S1には及ばなかった。サンプル群S22の成育性は、液体肥料を分解期間なしで施用したサンプル群S18と同等であり(図16参照)、サンプル群S22において成育性が高まったのは、吸着材に吸着したわずかな無機肥料によるものと考えられる。サンプル群S22の成育性向上に対する菌の関与について考察すると、吸着材上で繁殖した水(井戸水)由来の細菌が関与した可能性が考えられる。しかしながら、サンプル群S22の成育性が、液体肥料を分解期間なしで施用したサンプル群S18と同等であることから、このような井戸水中や空気中由来の細菌には、植物の成育性を高める効果は無いと考えられる。
【0079】
図19に示すように、サンプル群S23(混合材は、牛糞堆肥ペレットの成分を、存在し得る微生物により2週間分解させつつ吸着させたCw炭)は、土壌のみの場合(S13)と比較して、成育はほぼ同程度であった。また、牛糞堆肥ペレットを土に対して直接施用したサンプル群S20、S21よりも、成育性が悪かった(図18参照)。サンプル群S23の成育性に対する菌の関与について考察すると、吸着材上で繁殖した井戸水中や空気中由来の細菌と、牛糞堆肥ペレット由来の細菌とが、関与した可能性が考えられる。しかしながら、上記したように井戸水中や空気中由来の細菌には、植物の成育性を高める効果は無いと考えられる。また、サンプル群S23の成育性が、牛糞堆肥ペレットを直接施用したサンプル群S20、S21よりも悪かったことから、牛糞堆肥ペレット由来の細菌、すなわち、一般的に堆肥化の折に活動する陸圏由来の細菌では、植物の成育性向上の効果が発揮されないことが分かった。以上から、陸生植物の成育性向上のためには、水生生物が生育する水圏由来の細菌、好ましくは魚類由来の細菌が重要であり、炭素材は、上記のような水圏の菌を陸圏に移送するために好適な材料であると結論できる。
【0080】
図19に示すように、サンプル群S24(混合材を用いることなく、Hy水を給水)は、土壌のみの場合(S13)に比べて植物の成育を促進したが、その効果は、GA炭を施用したサンプル群S1には及ばなかった。サンプル群S24の成育性は、液体肥料を分解期間なしで施用したサンプル群S18と同等であり(図16参照)、サンプル群S23の成育性が土壌のみの場合(S13)に比べて高いのは、図4に示すHy水も、サンプル群S18で用いた500倍希釈されたハイポネックスも、共にEC値が1000(uS/cm)強であって、同程度の無機肥料分を植物に与えることができるためと考えられる。なお、植物の成育性に関与可能な細菌としては、Hy水を得る過程で水中にて増殖した井戸水中や空気中由来の細菌が挙げられるが、このような井戸水中や空気中由来の細菌には、既述したように植物の成育性を高める効果は無いと考えられる。
【0081】
図19に示すように、サンプル群S25(混合材を用いることなく、Cw水を給水)は、土壌のみの場合(S13)と比較して、成育はほぼ同程度であった。また、牛糞堆肥ペレットを土に対して直接施用したサンプル群S20、S21よりも、成育性が悪かった(図18参照)。サンプル群S25の成育性に対する菌の関与について考察すると、吸着材上で繁殖した井戸水中や空気中由来の細菌と、牛糞堆肥ペレット由来の細菌とが、関与した可能性が考えられる。しかしながら、上記したように井戸水由来の細菌には、植物の成育性を高める効果は無いと考えられる。また、サンプル群S25の成育性が、牛糞堆肥ペレットを直接施用したサンプル群S20、S21よりも悪かったことから、牛糞堆肥ペレット由来の細菌、すなわち、一般的に堆肥化の折に活動する陸圏由来の細菌では、植物の成育性向上の効果が発揮されないことが分かった。以上から、陸生植物の成育性向上のためには、水生生物が生育する水圏由来の細菌、好ましくは魚類由来の細菌が重要であると結論できる。
【0082】
<生育水中の環境DNA解析>
生育水中の環境DNA解析を、以下のようにして行った。まず、ゲノム抽出用として、図2A図2Cに示した各水槽から、生育水であるGA水、G水、GH水の各々を、100mLずつ採取した。4℃で保存したこれらの生育水を、それぞれ、分析テストフィルターロート145-0020 (Thermo Scientific Nalgene)を用いてフィルタリングした。フィルタリング後の各メンブレンを4分割し、そのうちの2つを2本のZymoBIOMICS DNA/RNA Miniprep Kit(ZymoResearch社製)のビーズチューブにそれぞれ入れて、DNA抽出まで-80℃で保存した。その後、同キットのプロトコルに従って、DNA抽出を行った。抽出したDNAに関して、16SrRNAのV4領域を、Forward側およびReverse側の両プライマーによってPCR増幅した。なお、生育水中の環境DNA解析を行う際には、生育水であるGA水、G水、GH水の各々を解析対象とすると共に、比較例として、井戸水についても同様の解析を行った(N=2であり、後述する図21および図22では、井戸水1および井戸水2として示す)。
【0083】
図20は、上記PCR増幅の際に用いたプライマー配列を示す説明図である。増幅産物は、AMPure XP (Beckman Coulter社製)を用いて精製し、さらにNextera XT Index Kit v2 Set D (イルミナ株式会社製)を用いてシーケンスアダプターとIndex配列を付加して再度PCRにより増幅した。得られた増幅産物は再度AMPure XPによって精製した。各サンプルの増幅産物を等量混合したものを50pMに希釈し、コントロールライブラリであるPhiX(イルミナ株式会社製)を20%添加することでライブラリを作製した。作製したライブラリについて、シーケンサーとしてIllumina iSeq100(イルミナ株式会社製)(iSeqは登録商標)を用いて、300bpシングルエンドでシーケンシングを行った。
【0084】
シーケンスの結果得られたFASTQファイルから、アプリコンシーケンス解析のための解析パイプラインであるQIIME2(Reproducible, interactive, scalable and extensible microbiome data science using QIIME 2. Nat Biotechnol. 2019;37, 852-857)のプラグインDADA2(DADA2: High-resolution sample inference from Illumina amplicon data. Nat Methods. 2016;13, 581-583)を用いて、アダプター配列の除去とエラー率0.25のフィルタリングを行った後、代表配列を取得した。そして、得られた代表配列を、参照配列データベースと照らし合わせ、属レベルでの系統分類を行った後、各属の占有率の算出を行った。また、プラグインdiversityを用いてUniFrac距離にもとづく主座標分析を行った。また、各サンプルについて、井戸水のマイクロバイオーム由来の割合を、ベイズ統計を用いた細菌の単離源の予測ツールであるSourceTracker2(Bayesian community-wide culture-independent microbial source tracking. Nat Methods. 2011;8, 761-763)を用いて算出した。さらに、細菌群集の系統組成を推定するツールであるVITCOMIC2(VITCOMIC2: visualization tool for the phylogenetic composition of microbial communities based on 16S rRNA gene amplicons and metagenomic shotgun sequencing. BMC Syst Biol., 2018;12(30), Suppl 2)、および、微生物群集から環境を予測するウェブツールであるLEA(Latent environment allocation of microbial community data. PLoS Comput Biol. 2018;14(6), e1006143)を用いて、各サンプルのマイクロバイオームの菌種組成と環境との関連性を確認した。
【0085】
図21は、上記のようにして行った次世代シーケンサーによる環境DNA解析から得られた菌叢分布に関する情報を示す説明図である。図21において、(1)および(2)は、グラム陰性の非芽胞形成好気性桿菌からなる科であるRhizobiales.f(リゾビウム科)の菌を示す。図21において、(1)は、Rhizobiales.incertae Sedis.g unculturedであり属不確定の未培養細菌を示し、(2)はDevosiaceae.g Devosiaを示す。リゾビウム科には、植物の根に存在する菌が含まれ、窒素固定能のある根粒菌やアグロバクテリウムが含まれる。(3)は、葉緑体由来であることを示し、微生物ではない。GA水は、アクアポニクスの条件から採取されたため、水耕栽培槽の植物に由来すると考えられる。(4)は、Flavobacteria細菌の1属である。この属の細菌には魚類の病原菌がある。魚類の細菌性鰓(えら)病菌(F.branchiophira)はサケ科魚類、フラボバクテリウム症菌(F.balustinum)はアメリカで海水魚の病原菌として知られている。他の例としても、新生児や未熟児に感染して化膿性髄膜炎(致死率約55%)の原因となり、成人では心内膜炎をおこすメニンゴセプチカム菌(F.meningosepiticum)が分類されている。(5)は、Chitinophagaceae科に含まれ、同じ科に属するFerruginibacter属は、淡水堆積物から分離されている。
【0086】
図21に示すように、生育水における菌叢分布としては、リゾビウム科(Rhizobiaceae.f) が優占していることが認められた。そのうち、Rhizobiales _incertae_Sedis.g uncultured 及びDevosiaceae.g_Devosia が優占していることがわかった。これらの菌は根に対する内生菌、根粒菌等に分類学上近く、植物の生長に関与している可能性があることが示唆された。
【0087】
図22は、次世代シーケンサーによる環境DNA解析から得られた菌叢分布に関する情報からTopic解析を行った結果を示す説明図である。図22において、(1)は、バイオフィルム(微生物が生育環境を確保するための膜)を示す。(2)は、内生菌、菌根菌、根圏(植物の根の分泌物と土壌微生物とによって影響されている土壌空間)を示す。これらは、すべての生育水(GA水、G水、GH水)で検出されている。(2)は、コマツナの成育が最も良いG炭が得られたG水で最も割合が高かった。このことから、アンモニアと炭の成育環境との関連が示唆される。(3)は、水、清水、汚水、川、湖を示す。(4)は、腸、マウスを示す。魚に与えた飼料、腸内細菌、糞、体表の感染菌などによることが考えられる。(5)は、ヘドロ、汚水を示す。(6)は、耕地を示す。
【0088】
図22に示すように、根の内生菌等、植物の生長への関与が示唆される微生物群(2)が優占していることがわかった。図21で規定されたリゾビウム科(Rhizobiaceae.f)の菌類(Rhizobiales _incertae_Sedis.g uncultured, Devosiaceae.g_Devosia) の他にも、有用な菌が存在していることが示唆された。
【0089】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0090】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
植物成長促進材の製造方法であって、
細菌および有機物のうちの少なくとも一方を吸着可能な吸着材を用意し、
水生生物が生育する水である生育水に前記吸着材を浸漬し、
前記植物成長促進材として、前記生育水から取り出した前記吸着材を取得する
植物成長促進材の製造方法。
[適用例2]
適用例1に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材は、炭素材料または生物由来の有機材料を用いて構成される
植物成長促進材の製造方法。
[適用例3]
適用例1または2に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材は、多孔質または繊維質の吸着材である
植物成長促進材の製造方法。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記吸着材を浸漬する前記生育水として、硝酸イオン濃度が50ppm以上の生育水を用いる
植物成長促進材の製造方法。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の植物成長促進材の製造方法であって、
前記生育水への前記吸着材の浸漬は、1日から1週間の期間行う
植物成長促進材の製造方法。
[適用例6]
植物の成育方法であって、
適用例1から5までのいずれか一項に記載の方法により製造された前記植物成長促進材を、陸生植物に対して施用する
植物の成育方法。
[適用例7]
適用例6に記載の植物の成育方法であって、
前記陸生植物を栽培するための土壌に対して前記植物成長促進材を施用する
植物の成育方法。
[適用例8]
適用例6に記載の植物の成育方法であって、
前記陸生植物を水耕栽培するための培地に対して前記植物成長促進材を施用する
植物の成育方法。
[適用例9]
適用例7に記載の前記土壌、または、適用例8に記載の前記培地に前記植物成長促進材を施用する際の施用量は、前記土壌または前記培地に対して10体積%以上50体積%以下である
植物の成育方法。
【符号の説明】
【0091】
10…アクアポニックスシステム
11…水生生物
12…養魚槽
13…吸着材
14…栽培用水槽
15…培地
16…第1循環流路
17…植物体
18…第2循環流路
22…水槽
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【配列表】
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