(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172821
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】検査装置及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20241205BHJP
G01N 29/34 20060101ALI20241205BHJP
G01N 29/04 20060101ALI20241205BHJP
G01N 27/90 20210101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N29/24
G01N29/34
G01N29/04
G01N27/90
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090814
(22)【出願日】2023-06-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】廿日出 好
(72)【発明者】
【氏名】大輪 凌平
【テーマコード(参考)】
2G047
2G053
【Fターム(参考)】
2G047AA06
2G047AB01
2G047BA01
2G047BC07
2G047CA02
2G047EA10
2G047GA20
2G047GC01
2G053AA11
2G053AB21
2G053BA03
2G053BA12
2G053BA26
2G053BC14
2G053CA03
2G053DA01
(57)【要約】
【課題】表面が保護部材で覆われている配管、タンク等、磁性材料の検査対象に直接接触することが難しい場合であっても、精度よく、検査対象の損傷の検査を行うことができる検査装置及び検査方法を提供する。
【解決手段】検査装置1は、送信ユニット11と受信ユニット12とを備える。送信ユニット11は、両磁極間にバイアス磁場を生じさせる送信バイアス用電磁石と、両磁極間の磁束を変化させ、磁歪効果により検査対象にガイド波を発生させる励振用電磁石と、を有し、送信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、励振用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置される。受信ユニット12は、両磁極間にバイアス磁場を生じさせる受信バイアス用電磁石と、ガイド波によって生じる誘導電流を検出するガイド波検出用電磁石と、を有し、受信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体の検査対象にガイド波を発生させる送信ユニットと、
前記送信ユニットから送信され、前記検査対象の損傷部で反射された前記ガイド波を受信する受信ユニットと、を備え、
前記送信ユニットは、
コイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせる送信バイアス用電磁石と、
コイルに交流電流を印加して前記検査対象に対向する両磁極間の磁束を変化させ、前記送信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された前記検査対象の領域に、磁歪効果により前記ガイド波を発生させる励振用電磁石と、を有し、
前記送信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記励振用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されており、
前記受信ユニットは、
コイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせる受信バイアス用電磁石と、
両磁極が前記検査対象に対向し、前記受信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された領域を通過する前記ガイド波によって生じる誘導電流を検出するガイド波検出用電磁石と、を有し、
前記受信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されている、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記送信ユニットは、
前記送信バイアス用電磁石によるバイアス磁場の方向が、前記送信ユニット又は前記受信ユニットから前記損傷部までの距離を測定する測距方向であり、
前記励振用電磁石による励振方向が、前記測距方向と直交する方向となるように配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記受信ユニットは、
前記受信バイアス用電磁石によるバイアス磁場の方向が、前記測距方向であり、
前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向が前記測距方向と直交する方向となるように配置される、
ことを特徴とする請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記検査対象は配管であり、
前記測距方向は前記配管の軸心方向であり、
前記測距方向と直交する方向は前記配管の周方向である、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記検査対象の前記測距方向と直交する方向に配置される複数の前記送信ユニット及び複数の前記受信ユニットを備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項6】
前記送信バイアス用電磁石及び前記励振用電磁石のコアは略U字形状であり、
前記励振用電磁石は、前記送信バイアス用電磁石のコアの脚部である両磁極の間に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項7】
前記受信バイアス用電磁石及び前記ガイド波検出用電磁石のコアは略U字形状であり、
前記ガイド波検出用電磁石は、前記受信バイアス用電磁石のコアの脚部である両磁極の間に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項8】
前記検査対象に渦電流を発生させ、前記渦電流の前記損傷部の迂回によって生じる磁界の変化を検出する渦電流ユニットを備え、
前記渦電流ユニットは、
コイルに交流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極周辺の前記検査対象に前記渦電流を生じさせる励磁用電磁石と、
前記渦電流によって生じる磁界を検出する渦電流検出用電磁石と、を有し、
前記励磁用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記渦電流検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項9】
前記検査対象は配管であり、
前記励磁用電磁石の両磁極を結ぶ方向は前記配管の軸心方向であり、
前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向は前記配管の周方向である、
ことを特徴とする請求項8に記載の検査装置。
【請求項10】
前記渦電流ユニットは、
前記送信ユニット又は前記受信ユニットを兼ねる、
ことを特徴とする請求項8に記載の検査装置。
【請求項11】
前記渦電流検出用電磁石で検出される磁界の強度を測定する磁気センサを備える、
ことを特徴とする請求項8に記載の検査装置。
【請求項12】
送信バイアス用電磁石のコイルに直流電流を印加することにより、磁性体の検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせ、
両磁極を結ぶ方向が前記送信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と直交するように配置される励振用電磁石のコイルに、交流電流を印加して、前記検査対象に対向する両磁極間の磁束を変化させ、前記送信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された前記検査対象の領域に、磁歪効果によりガイド波を発生させ、
受信バイアス用電磁石のコイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせ、
前記検査対象に対向する両磁極を結ぶ方向が前記受信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と直交するように配置されるガイド波検出用電磁石で、前記検査対象の損傷部で反射され、前記受信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された領域を通過する前記ガイド波によって生じる誘導電流を検出する、
ことを特徴とする検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置及び検査方法に関し、より詳細には磁性材料の検査対象の損傷を検査する検査装置及び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板材、配管等、磁性材料を用いた部材について、損傷の有無を非破壊検査する方法が開発されている。例えば、配管の長い区間について腐食、亀裂等の損傷を容易に検査する非破壊検査方法として、超音波ガイド波を用いた検査方法が開発されている。超音波ガイド波を用いた検査方法としては、特許文献1、特許文献2のように、磁性材料である配管の磁歪効果を利用してガイド波を発生させ、配管の損傷部で反射されたガイド波を測定する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-76296号公報
【特許文献2】特開2020-79790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の超音波探傷装置では、金属製の配管の断熱材を除去し、ローレンツ力を駆動力とするガイド波の送信センサと、ガイド波を受信する受信センサとを、直接配管に接触させて、探傷することとしている。しかしながら、ビル、工場等の配管は断熱材等で保護されている場合が多く、断熱材を除去して送信センサ、受信センサを配管に取り付ける場合、検査にかかる手間が大きい。また、配管等の検査対象の保護部材を取り外すことができない場合、検査対象がコーティングされている場合等においては、検査対象に直接送信センサ、受信センサを接触させることができないため、検査対象を検査することは難しい。
【0005】
また、特許文献2では、配管が保護部材で覆われている場合であっても、配管を均一に磁化した上で配管にガイド波を発生させて、配管検査を行うこととしている。これにより、ガイド波の強度を高めて精度よくガイド波の反射波を検出することが可能となっている。しかしながら、ガイド波信号強度は残留磁化による磁界の強さに依存するところ、残留磁化による磁界の強さは飽和磁場の6~7割程度にとどまると考えられる。したがって、残留磁化を増強してガイド波の検出精度を高めることが難しい場合がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、表面が保護部材で覆われている配管、コーティングが施されたタンク等、磁性材料の検査対象に直接接触することが難しい場合であっても、精度よく、検査対象の損傷の検査を行うことができる検査装置及び検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る検査装置は、
磁性体の検査対象にガイド波を発生させる送信ユニットと、
前記送信ユニットから送信され、前記検査対象の損傷部で反射された前記ガイド波を受信する受信ユニットと、を備え、
前記送信ユニットは、
コイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせる送信バイアス用電磁石と、
コイルに交流電流を印加して前記検査対象に対向する両磁極間の磁束を変化させ、前記送信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された前記検査対象の領域に、磁歪効果により前記ガイド波を発生させる励振用電磁石と、を有し、
前記送信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記励振用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されており、
前記受信ユニットは、
コイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせる受信バイアス用電磁石と、
両磁極が前記検査対象に対向し、前記受信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された領域を通過する前記ガイド波によって生じる誘導電流を検出するガイド波検出用電磁石と、を有し、
前記受信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されている。
【0008】
また、前記送信ユニットは、
前記送信バイアス用電磁石によるバイアス磁場の方向が、前記送信ユニット又は前記受信ユニットから前記損傷部までの距離を測定する測距方向であり、
前記励振用電磁石による励振方向が、前記測距方向と直交する方向となるように配置される、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記受信ユニットは、
前記受信バイアス用電磁石によるバイアス磁場の方向が、前記測距方向であり、
前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向が前記測距方向と直交する方向となるように配置される、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記検査対象は配管であり、
前記測距方向は前記配管の軸心方向であり、
前記測距方向と直交する方向は前記配管の周方向である、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記検査対象の前記測距方向と直交する方向に配置される複数の前記送信ユニット及び複数の前記受信ユニットを備える、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記送信バイアス用電磁石及び前記励振用電磁石のコアは略U字形状であり、
前記励振用電磁石は、前記送信バイアス用電磁石のコアの脚部である両磁極の間に配置される、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記受信バイアス用電磁石及び前記ガイド波検出用電磁石のコアは略U字形状であり、
前記ガイド波検出用電磁石は、前記受信バイアス用電磁石のコアの脚部である両磁極の間に配置される、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記検査対象に渦電流を発生させ、前記渦電流の前記損傷部の迂回によって生じる磁界の変化を検出する渦電流ユニットを備え、
前記渦電流ユニットは、
コイルに交流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極周辺の前記検査対象に前記渦電流を生じさせる励磁用電磁石と、
前記渦電流によって生じる磁界を検出する渦電流検出用電磁石と、を有し、
前記励磁用電磁石の両磁極を結ぶ方向と、前記渦電流検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向とが直交するように配置されている、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記検査対象は配管であり、
前記励磁用電磁石の両磁極を結ぶ方向は前記配管の軸心方向であり、
前記ガイド波検出用電磁石の両磁極を結ぶ方向は前記配管の周方向である、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記渦電流ユニットは、
前記送信ユニット又は前記受信ユニットを兼ねる、
こととしてもよい。
【0017】
また、前記渦電流検出用電磁石で検出される磁界の強度を測定する磁気センサを備える、
こととしてもよい。
【0018】
この発明の第2の観点に係る検査方法では、
送信バイアス用電磁石のコイルに直流電流を印加することにより、磁性体の検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせ、
両磁極を結ぶ方向が前記送信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と直交するように配置される励振用電磁石のコイルに、交流電流を印加して、前記検査対象に対向する両磁極間の磁束を変化させ、前記送信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された前記検査対象の領域に、磁歪効果によりガイド波を発生させ、
受信バイアス用電磁石のコイルに直流電流を印加することにより、前記検査対象に対向する両磁極間にバイアス磁場を生じさせ、
前記検査対象に対向する両磁極を結ぶ方向が前記受信バイアス用電磁石の両磁極を結ぶ方向と直交するように配置されるガイド波検出用電磁石で、前記検査対象の損傷部で反射され、前記受信バイアス用電磁石でバイアス磁場が印加された領域を通過する前記ガイド波によって生じる誘導電流を検出する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の検査装置及び検査方法によれば、バイアス磁場が印加された検査対象を、バイアス磁場と直交する方向に、磁歪効果により励振してガイド波を発生させ、損傷部で反射したガイド波を、印加されたバイアス磁場と直交するように配置された電磁石で検出するので、ガイド波の発生、検出時のS/N比を高め、検査対象が保護部材、コーティング等を有する場合であっても、精度よく検査対象の損傷の検査を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施の形態に係る検査装置の構成を示す概念図である。
【
図2】実施の形態に係る検査装置の機能ブロック図である。
【
図3】実施の形態に係る送信ユニットの構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のA-A’断面図、(C)は正面図である。
【
図4】実施の形態に係る受信ユニットの構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のA-A’断面図、(C)は正面図である。
【
図5】送信ユニットで生じる磁場を模式的に表す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【
図6】実施の形態に係る渦電流ユニットの構造を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)のA-A’断面図、(C)は正面図である。
【
図7】渦電流による磁気信号測定の原理を示す概念図であり、(A)は配管に損傷がない場合、(B)は配管に損傷がある場合の図である。
【
図8】実施の形態に係る検査処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】平板を用いて渦電流による磁気信号を検出した場合の実験装置の構成を示す図である。
【
図10】平板を用いて渦電流による磁気信号を検出した場合の実験に係る検出位置の例を示す図である。
【
図11】平板を用いて渦電流による磁気信号を検出した場合の実験結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る検査装置及び検査方法について説明する。
【0022】
本実施の形態では、
図1及び
図2に示す検査装置1を用いて、磁性材料で形成され、断熱材等の保護部材に外部を覆われた配管50を検査対象として探傷する場合を例として説明する。
【0023】
検査装置1は、配管50にガイド波を発生させる送信ユニット11、配管50の損傷部で反射されたガイド波を受信する受信ユニット12、損傷部の位置を特定するための渦電流ユニット13、検査装置1の動作を制御する制御ユニット20、直流電源31、ファンクションジェネレータ32、低ノイズアンプ33、ロックインアンプ34を備える。また、検査装置1は、送信ユニット11、受信ユニット12及び渦電流ユニット13等を配管50に固定する固定部材40を備える。
【0024】
送信ユニット11は、
図3(A)~(C)に示すように、送信バイアス用電磁石111、励振用電磁石112を備える。送信バイアス用電磁石111は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア111aとコイル111bとを備え、磁極となるコア111aの両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル111bは、略U字形状のフェライトコアであるコア111aの中央部に巻かれている。
【0025】
励振用電磁石112は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア112aとコイル112bとを備え、磁極となるコア112aの両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル112bは、略U字形状のフェライトコアであるコア112aの両脚部に直列に接続されて巻かれている。
【0026】
上述のように、コイル111bは、略U字形状のコア111aの中央部に巻かれ、コイル112bは、略U字形状のコア112aの両脚部に直列に接続されて巻かれていることとしている。これにより、コイル111bとコイル112bとの干渉を回避しつつ、送信ユニット11を小型化することができる。コイル111b及びコイル112bの巻付け位置はこれに限られず、例えば、コイル111bは、コア111aの中央部とともに、両脚部に巻かれていてもよいし、コイル112bは、コア112aの両脚部とともに中央部に巻かれていてもよい。これにより、コイル111b,112bで効率よく高い磁束密度を確保できるので、検査対象である配管50の励振を効率よく行うことができる。
【0027】
また、
図3(B)、(C)に示すように、励振用電磁石112は、送信バイアス用電磁石111のコア111aの脚部である両磁極の間に配置される。また、送信バイアス用電磁石111の両磁極を結ぶ方向と励振用電磁石112の両磁極を結ぶ方向とが直交するように、送信バイアス用電磁石111及び励振用電磁石112は配置されている。
【0028】
送信バイアス用電磁石111のコイル111bは、直流電源31に接続されており、コイル111bに電流が印加されることにより、コア111aの両脚部間に磁界(バイアス磁場)が生じる。送信バイアス用電磁石111によって生じるバイアス磁場の強度は、直流電源31によって印加される電流の大きさによって調整することができる。
【0029】
励振用電磁石112のコイル112bは、ファンクションジェネレータ32に接続されている。ファンクションジェネレータ32からコイル112bに交流電流が印加されることにより、配管50に磁歪効果が生じる。これにより、配管50にガイド波が発生する。
【0030】
磁歪を用いてガイド波を発生させる際、通常、磁性体である検査対象の磁区の向きはランダムになっている。したがって、励振磁場を印加すると、個々の磁区において磁歪が生じ、全体として位相の揃ったノイズの少ないガイド波を発生させることは難しい。本実施の形態に係る検査装置1では、バイアス磁場を加えることにより、強い磁歪を発現させる。具体的には、検査対象である配管50にバイアス磁場を加えることにより、配管50の磁区を揃えることができる。したがって、送信バイアス用電磁石111の内側に配置された励振用電磁石112を用いて、バイアス磁場が印加された領域を励振することにより、位相の揃った強い磁歪(振動)を生じさせることができる。
【0031】
検査対象に生じるガイド波の強さ(大きさ)は、磁歪効果が生じる領域にかけられているバイアス磁場の強度によって調整することが可能であり、バイアス磁場が強いほど磁歪は大きくなり、強いガイド波が発生する。本実施の形態では、励振用電磁石112の外部に送信バイアス用電磁石111を配置して、励振用電磁石112で磁歪効果を生じさせる領域のバイアス磁場を調整することとしている。したがって、検査対象である配管50の外部が断熱材等の保護部材に覆われており、励振用電磁石112を直接配管50に接触させることができない場合であっても、簡単な構成の送信ユニット11でノイズが少なくS/N比の高いガイド波を発生させることが可能となる。
【0032】
受信ユニット12は、
図4(A)~(C)に示すように、受信バイアス用電磁石121、ガイド波検出用電磁石122を備える。受信バイアス用電磁石121は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア121aとコイル121bとを備え、磁極となるコア121aの両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル121bは、略U字形状のフェライトコアであるコア121aの中央部に巻かれている。
【0033】
ガイド波検出用電磁石122は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア122aとコイル122bとを備え、磁極となるコア122aの両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル122bは、略U字形状のフェライトコアであるコア122aの両脚部に直列に接続されて巻かれている。
【0034】
上述のように、コイル121bは、略U字形状のコア121aの中央部に巻かれ、コイル122bは、略U字形状のコア122aの両脚部に直列に接続されて巻かれていることとしている。これにより、コイル121bとコイル122bとの干渉を回避しつつ、受信ユニット12を小型化することができる。コイル121b及びコイル122bの巻付け位置はこれに限られず、例えば、コイル121bは、コア121aの中央部とともに、両脚部に巻かれていてもよいし、コイル122bは、コア122aの両脚部とともに中央部に巻かれていてもよい。これにより、コイル121b,122bで効率よく高い磁束密度を確保できるので、ガイド波の反射波の検出感度を向上させることができる。
【0035】
また、
図4(B)、(C)に示すように、ガイド波検出用電磁石122は、受信バイアス用電磁石121のコア121aの脚部である両磁極の間に配置される。また、受信バイアス用電磁石121の両磁極を結ぶ方向とガイド波検出用電磁石122の両磁極を結ぶ方向とが直交するように、受信バイアス用電磁石121及びガイド波検出用電磁石122は配置されている。
【0036】
受信バイアス用電磁石121のコイル121bは、直流電源31に接続されており、コイル121bに電流が印加されることにより、コア121aの両脚部間に磁界(バイアス磁場)が生じる。受信バイアス用電磁石121によって生じるバイアス磁場の強度は、直流電源31によって印加される電流の大きさによって調整することができる。
【0037】
ガイド波検出用電磁石122のコイル122bは、低ノイズアンプ33を介して制御ユニット20に接続されており、ガイド波の反射波によって生じる誘導電流を検出する。受信ユニット12は、送信ユニット11の磁歪効果の逆効果を用いるので、ガイド波検出用電磁石122のガイド波検出領域にバイアス磁場を印加することにより、位相の揃った磁気信号を誘導電流として検出することができる。これにより、検査対象の検査の精度を向上させることが可能となる。
【0038】
上述のように、送信ユニット11及び受信ユニット12は、それぞれ2つの電磁石を備える電磁石ユニットであり、同様の構造となっている。したがって、いずれをファンクションジェネレータ32に接続して送信ユニット11として用いてもよく、いずれを制御ユニット20に接続して受信ユニット12として用いてもよいので、部品交換等の装置のメンテナンス性を高めることができる。
【0039】
また、
図1に示すように、送信ユニット11と受信ユニット12とは、損傷部までの距離を測定する測距方向、すなわち配管50の軸心方向(長手方向)に離間して配置される。
図5(A)、(B)に示すように、送信ユニット11は、送信バイアス用電磁石111の脚部である両磁極を結ぶ方向が配管50の軸心方向(
図5中のY軸方向)、励振用電磁石112の脚部である両磁極を結ぶ方向が配管50の軸心方向と直交する方向(周方向、
図5中のX軸方向)となるように、配管50の保護部材に接触するように配置される。これにより、励振用電磁石112による励振方向が配管50の周方向となり、配管50にT(0,1)モードのSH波であるガイド波を発生させることができる。また、配管50が保護部材を有しない場合、送信ユニット11が配管50に接触するように配置される。
【0040】
送信ユニット11及び受信ユニット12の各電磁石の脚部は、検査精度向上のため、配管50又は保護部材に接触するように配置されることが好ましい。しかしながら、配管50の径によっては直接接触させることが難しい場合もある。この場合、バイアス磁場を発生させるための入力電流の大きさの調整等によって検査精度を確保可能な範囲(例えば5mm以下程度の範囲)で配管50又は保護部材と脚部との間に隙間があってもよい。
【0041】
受信ユニット12は、
図5(A)、(B)に示す送信ユニット11と同様に、受信バイアス用電磁石121のコア121aの脚部である両磁極を結ぶ方向が配管50の軸心方向、ガイド波検出用電磁石122のコア122aの脚部である両磁極を結ぶ方向が配管50の軸心方向と直交する方向(周方向)となるように、配管50の保護部材に接触するように配置される。これにより、T(0,1)モードのSH波であるガイド波をガイド波検出用電磁石122で精度よく検出することができる。また、配管50が保護部材を有しない場合、受信ユニット12が配管50に接触するように配置される。
【0042】
また、
図1に示すように、本実施の形態に係る検査装置1では、配管50の周方向に略等間隔に複数の送信ユニット11、受信ユニット12が配置されている。送信ユニット11及び受信ユニット12の配置数は特に限定されないが、例えば配管50の全周に渡って8個ずつ配置される。また、送信ユニット11と受信ユニット12とは、配管50の軸心方向の位置が重なるように配置されている。これにより、配管50の周方向全体にガイド波を送信することができるので、各受信ユニット12で受信された反射波を解析することにより、配管50の損傷部の周方向の位置を大凡特定することができる。尚、損傷部の軸心方向の位置は、ガイド波の発生から反射波の受信までの時間と、ガイド波の伝搬速度とに基づいて算出することができる。
【0043】
渦電流ユニット13は、
図6(A)~(C)に示すように、励磁用電磁石131、渦電流検出用電磁石132を備える。励磁用電磁石131は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア131aとコイル131bとを備え、コア131aの磁極となる両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル131bは、略U字形状のフェライトコアであるコア131aの中央部に巻かれている。
【0044】
渦電流検出用電磁石132は、中央部と両脚部とからなる略U字形状の磁性体であるコア132aとコイル132bとを備え、コア132aの磁極となる両脚部の端面が配管50に対向するように配置される。本実施の形態では、コイル132bは、略U字形状のフェライトコアであるコア132aの両脚部に直列に接続されて巻かれている。
【0045】
上述のように、コイル131bは、略U字形状のコア131aの中央部に巻かれ、コイル132bは、略U字形状のコア132aの両脚部に直列に接続されて巻かれていることとしている。これにより、コイル131bとコイル132bとの干渉を回避しつつ、渦電流ユニット13を小型化することができる。コイル131b及びコイル132bの巻付け位置はこれに限られず、例えば、コイル131bは、コア131aの中央部とともに、両脚部に巻かれていてもよいし、コイル132bは、コア132aの両脚部とともに中央部に巻かれていてもよい。これにより、コイル131b,132bで効率よく高い磁束密度を確保できるので、後述する渦電流の発生を効率よく行うとともに、渦電流由来の磁気信号の検出感度を向上させることができる。
【0046】
また、
図6(B)、(C)に示すように、渦電流検出用電磁石132は、励磁用電磁石131のコア131aの脚部である両磁極の間に配置される。また、励磁用電磁石131の両磁極を結ぶ方向と渦電流検出用電磁石132の両磁極を結ぶ方向とが直交するように、励磁用電磁石131及び渦電流検出用電磁石132は配置されている。
【0047】
励磁用電磁石131のコイル131bは、ファンクションジェネレータ32に接続されており、コイル131bに交流電流が印加されることにより、コア131aの両脚部に磁界が生じ、配管50に鎖交する。これにより、コア131aの脚部である両磁極周辺の配管50に渦電流が発生する。
【0048】
渦電流検出用電磁石132のコイル132bは、ロックインアンプ34を介して制御ユニット20に接続されている。また、ロックインアンプ34は、ファンクションジェネレータ32と接続され、参照信号を受信する。
【0049】
上述のように、本実施の形態では励磁用電磁石131の両磁極の間を結ぶ方向と、渦電流検出用電磁石132の両磁極の間を結ぶ方向とが直交するように配置される。
図7(A)に示すように、外側に励磁用電磁石131を配置して、コイル131bに交流電流を印加すると、コア131aの脚部である両磁極の周りの配管50に渦電流が発生する。渦電流によって
図7(A)の紙面垂直方向に生じる磁場の影響により、渦電流検出用電磁石132のコイル132bに電流が流れる。
図7(B)に示すように、配管50に損傷がある場合、渦電流が損傷部を迂回するので、渦電流検出用電磁石132が受ける磁場の状態が変化し、これによりコイル132bに生じる電流(コイル132bの両端の電位差)が変化する。本実施の形態では損傷部付近の複数の位置で、コイル132bの両端の電位差を測定することにより、損傷部の位置を検出する。
【0050】
また、本実施の形態では励磁用電磁石131の両磁極の中心線上に、渦電流検出用電磁石132の両磁極の中心を結ぶ軸が位置するように配置される。
図7(A)に示すように、外側に励磁用電磁石131を配置して、交流電流を印加すると、両磁極となるコア131aの脚部を中心に正(湧き出し)と負(吸い込み)の磁束が発生する。ここで、励磁用電磁石131の励磁磁場が渦電流検出用電磁石132に鎖交すると、測定における背景ノイズとなり測定精度が低下する。また、鎖交した磁束量が大きくなると、磁気飽和が生じて、渦電流検出用電磁石132による磁気信号の検出ができなくなる。そこで、本実施の形態に係る渦電流ユニット13では、
図7(A)の紙面に垂直な方向の磁束密度が0となる、励磁用電磁石131の両磁極の中心線(
図7(A)中の一点鎖線)上に渦電流検出用電磁石132を配置することとしている。これにより、渦電流検出用電磁石132に、励磁用電磁石131の励磁磁場が鎖交することなく、渦電流由来の磁気信号を精度よく測定することができる。
【0051】
本実施の形態に係る検査装置1では、送信ユニット11及び受信ユニット12を用いて損傷部の配管軸心方向の位置を特定し、特定された損傷部付近に渦電流ユニット13を配置する。そして、損傷部付近で渦電流ユニット13の位置をずらしながら電流迂回によって生じる磁場の変化を測定することにより、損傷部の正確な位置を検出する。
【0052】
上述のように、渦電流ユニット13は、2つの電磁石を備える電磁石ユニットであり、送信ユニット11及び受信ユニット12と同様の構造である。
【0053】
制御ユニット20は、検査装置1全体の動作を制御する。具体的には、制御ユニット20は、直流電源31、ファンクションジェネレータ32、低ノイズアンプ33、ロックインアンプ34等を介して、送信ユニット11、受信ユニット12、渦電流ユニット13に接続されており、ガイド波の送受信の制御、損傷部までの距離の演算、渦電流による損傷位置の演算等を行う。
【0054】
制御ユニット20は、
図2の機能ブロック図に示すように、制御部21、記憶部22、表示部23、入力部24を備える。
【0055】
制御部21は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等から構成されており、送信ユニット11、受信ユニット12、渦電流ユニット13等を制御する。制御部21は、制御部21のROM、記憶部22等に記憶されている各種動作プログラム及びデータをRAMに読み込んでCPUを動作させることにより、
図2に示される制御部21の各機能を実現させる。これにより、制御部21は、ガイド波制御部211、距離演算部212、渦電流制御部213、損傷位置演算部214として動作する。
【0056】
ガイド波制御部211は、直流電源31を制御して、送信ユニット11の送信バイアス用電磁石111及び受信ユニット12の受信バイアス用電磁石121に、予め設定された直流電流を印加し、バイアス磁場を発生させる。また、ガイド波制御部211は、ファンクションジェネレータ32を制御して、励振用電磁石112に交流電流を印加し、配管50に磁歪効果によるガイド波を発生させる。
【0057】
距離演算部212は、受信ユニット12のガイド波検出用電磁石122の出力電圧から、配管50の損傷部で反射されたガイド波の到達時刻を演算する。また、距離演算部212は、演算したガイド波の到達時刻、ガイド波制御部211がガイド波を発生させた時刻及び予め設定されたガイド波の伝搬速度に基づいて、送信ユニット11又は受信ユニット12から損傷部までの配管50の軸心方向(測距方向)の距離を演算する。
【0058】
渦電流制御部213は、ファンクションジェネレータ32を制御して、渦電流ユニット13の励磁用電磁石131に交流電流を印加して、配管50に渦電流を発生させる。
【0059】
損傷位置演算部214は、それぞれの測定位置で渦電流ユニット13を用いて電圧変化として測定された磁気信号から損傷部の位置を演算する。
【0060】
記憶部22は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリであり、ガイド波及び渦電流を発生させるための印加電流の設定値、受信ユニット12の受信信号に基づいて損傷部までの距離を演算するプログラム等を記憶する。
【0061】
表示部23は、制御ユニット20に備えられた表示用デバイスであり、例えば液晶パネルである。表示部23は、ガイド波測定に基づいて演算された損傷部までの距離、渦電流を用いて演算された損傷部の位置等を表示する。
【0062】
入力部24は、ガイド波及び渦電流を発生させるための入力電流値等の設定パラメータ等を入力するための入力デバイスである。入力部24は、制御ユニット20に備えられたキーボード、マウス等である。
【0063】
固定部材40は、送信ユニット11、受信ユニット12、渦電流ユニット13等を配管50の外周に取り付け固定する、非磁性材料で構成される部材である。固定部材40は、送信ユニット11、受信ユニット12、渦電流ユニット13の各磁極が配管50又は保護部材の外周部に対向するように固定できるものであればよく、固定部材40の形状、固定方法等は特に限定されない。
【0064】
以下、
図8のフローチャートを参照しつつ、本実施の形態に係る検査処理の流れについて説明する。
【0065】
まず、送信ユニット11及び受信ユニット12を備える検査装置1の固定部材40を配管50に設置する(ステップS1)。固定部材40は、図示しない固定手段によって配管50に固定され、
図1に示すように、配管50の周方向に略等間隔で送信ユニット11、受信ユニット12が配置される。
【0066】
制御ユニット20のガイド波制御部211は、直流電源31を制御して送信ユニット11の送信バイアス用電磁石111のコイル111bに、予め設定された大きさの電圧を印加する(ステップS2)。これにより、コイル111bに直流電流が流れ、送信バイアス用電磁石111の両磁極である脚部の間にバイアス磁場が生じる。バイアス磁場が生じている領域では、配管50の磁区の方向が揃えられる。
【0067】
また、ガイド波制御部211は、直流電源31を制御して受信ユニット12の受信バイアス用電磁石121のコイル121bに、予め設定された大きさの電圧を印加する(ステップS3)。これにより、コイル121bに直流電流が流れ、受信バイアス用電磁石121の両磁極である脚部の間にバイアス磁場が生じる。バイアス磁場が生じている領域では、配管50の磁区の方向が揃えられる。
【0068】
続いて、ガイド波制御部211は、ファンクションジェネレータ32を制御して、送信ユニット11の励振用電磁石112のコイル112bに交流電流を印加して、磁歪効果により配管50にSH波であるガイド波を発生させる(ステップS4)。
【0069】
制御ユニット20の距離演算部212は、受信ユニット12のガイド波検出用電磁石122のコイル122bに接続された低ノイズアンプ33の出力である電圧から、ガイド波の反射波の受信時刻を導出する(ステップS5)。
【0070】
距離演算部212は、ステップS5で導出したガイド波の到達時刻と、ステップS4のガイド波の発生時刻とに基づいて、ガイド波送出から反射波の検出までの時間を算出する。また、予め実測等により取得され、記憶部22に記憶されているガイド波の伝搬速度に基づいて、送信ユニット11又は受信ユニット12から配管50の損傷部までの軸心方向の距離を算出する(ステップS6)。また、これらの距離の算出を、軸心方向に重なって配置された各送信ユニット11、受信ユニット12の組み合わせで行う。これにより、損傷部の大凡の周方向の位置が把握される。
【0071】
続いて、ステップS6で算出された距離に基づいて、渦電流ユニット13が損傷部付近に位置するように、検査装置1の固定部材40を移動させて配管50に固定する(ステップS7)。本実施の形態に係る渦電流ユニット13は、
図1に示すように、配管50の周方向に等間隔で複数配置されている。複数の渦電流ユニット13で順次測定を行うことにより、効率よく検査を行うことができる。
【0072】
渦電流制御部213は、各渦電流ユニット13について順次交流電流を印加して、配管50に生じる渦電流に基づく磁気信号の測定を行う(ステップS8)。本実施の形態では、渦電流に基づく磁気信号として、渦電流検出用電磁石132のコイル132bに生じる電位差を測定する。
【0073】
損傷位置演算部214は、測定値と測定位置を表す測定結果を表示部23に表示するとともに記憶部22に記憶させる(ステップS9)。各渦電流ユニット13について測定を行った後、作業者は表示部23に表示された測定結果を参照し、損傷部の位置、形状等が把握できるまで、測定を継続する(ステップS10のNO)。具体的には、作業者は測定結果を参照し、検査装置1の固定部材40を移動させて、渦電流ユニット13の軸心方向の位置を変更し、変更された位置を入力部24から入力する(ステップS11)。
【0074】
変更された位置で、ステップS8~S9の測定を繰り返す。具体的には、各渦電流ユニット13について、交流電流を印加し、渦電流に基づく磁気信号の測定を行う。そして、損傷位置演算部214は、ステップS11で変更された位置における測定結果と以前の測定結果とを併せて、表示部23に表示するとともに記憶部22に記憶させる。
【0075】
損傷部の位置、形状等を把握するための測定データの取得が完了すると、作業者は検査装置1の固定部材40を配管50から取り外し、配管検査を終了する。
【0076】
図9及び
図10は、検査対象として平板を用いて、渦電流による損傷部の探索を行った場合の実験装置の構成を示す図であり、
図11は測定結果の例である。本例では、
図9及び
図10に示すように、損傷部を模して作製したスリットの周辺の36カ所の測定位置に渦電流ユニット13を順次配置し、ファンクションジェネレータ32から正弦波電圧0.1V
pp、周波数10kHz、励磁電流値40mA
ppを励磁用電磁石131に入力した。励磁電流値は、1Ωの抵抗の両端電圧からオシロスコープで測定した。また、ロックインアンプ34の参照信号として、ファンクションジェネレータ32から周波数10kHzのクロック信号を印加した。
【0077】
また、渦電流に基づく磁気信号を表す測定値として、ロックインアンプ34の出力電圧を用いた。より具体的には、ロックインアンプ34のX(実部の電圧[mV])、Y(虚部の電圧[mV])で表示された値から、以下の式に基づいて電圧、位相差を算出した。
【数1】
【0078】
図11の測定電圧の大きさを表すコンターマップに示すように、損傷部を模したスリット部の位置を囲むように四重極パターンが観測されており、渦電流ユニット13を用いて損傷位置が特定できていることがわかる。
【0079】
以上、説明したように、本発明の検査装置及び検査方法によれば、バイアス磁場が印加された検査対象の領域を、バイアス磁場と直交する方向に、磁歪効果により励振してガイド波を発生させる。また、損傷部で反射し、バイアス磁場が印加された領域を通過するガイド波を、印加されたバイアス磁場と直交するように配置された電磁石で検出する。したがって、ガイド波の発生、検出時のS/N比を高め、検査対象が保護部材、コーティング等を有する場合であっても、精度よく磁性材料の検査対象の検査を行うことができる。
【0080】
また、本実施の形態に係る検査装置1では、送信ユニット11及び受信ユニット12のバイアス磁場の方向を測距方向とし、送信ユニット11の励振方向及び受信ユニット12のガイド波検出用電磁石122の両磁極を結ぶ方向を測距方向と直交する方向としている。これにより、他のモードのガイド波と分離し易く、周波数による伝搬速度の変化が小さいT(0,1)モードのガイド波を高いS/N比で効率よく発生、検出することができるので、検査精度が向上する。
【0081】
また、本実施の形態に係る検査装置1では、送信ユニット11又は受信ユニット12から損傷部までの距離を算出し、算出された距離に基づいて損傷部付近に渦電流ユニット13を配置して、損傷部の詳細な位置を特定するための測定を行うこととしている。渦電流ユニット13は、渦電流を発生させる励磁用電磁石131の磁極を結ぶ方向と、渦電流によって生じる磁界を検出する渦電流検出用電磁石132の磁極を結ぶ方向とが直交するように構成されている。これにより、簡素な構成で精度よく、渦電流に基づく磁気信号を検出し、損傷部の位置を特定することができる。
【0082】
上述の実施の形態では、磁性材料の配管を検査対象とした検査装置1について説明したが、検査対象は配管に限られない。例えば、磁性材料の検査対象として断熱塗装等のコーティングが施されたタンク、高速道路の鋼床版等に用いられる板材、コンテナ等を検査する場合であっても、本発明に係る検査装置、検査方法を用いることができる。この場合、検査対象の長手方向を測距方向として送信ユニット11、受信ユニット12を配置して、損傷部までの距離を算出し、算出された距離に基づいて損傷部付近に渦電流ユニット13を配置して、損傷部の詳細な位置を検出することにより、効率よく検査を行うことができる。
【0083】
また、本実施の形態に係る検査装置1では、送信ユニット11、受信ユニット12、渦電流ユニット13を同様の構造を有する、2つの電磁石を備える電磁石ユニットとしている。これにより、部品交換等の装置のメンテナンス性を高めることができる。
【0084】
本実施の形態では、渦電流ユニット13を送信ユニット11、受信ユニット12と別に設けることとしたがこれに限られない。例えば、受信ユニット12と渦電流ユニット13とを共用することとしてもよい。これにより、検査装置1の構造を簡素化し、製造コストを低減させることができる。この場合、送信ユニット11又は受信ユニット12と、直流電源31、ファンクションジェネレータ32、低ノイズアンプ33又はロックインアンプ34との間にスイッチを設け、接続先を切り替えることにより、送信バイアス用電磁石111又は受信バイアス用電磁石121を励磁用電磁石131として、励振用電磁石112又はガイド波検出用電磁石122を渦電流検出用電磁石132として動作させることとすればよい。
【0085】
本実施の形態では、送信ユニット11、受信ユニット12及び渦電流ユニット13の各電磁石はフェライトコアを有することとしたが、これに限られない。例えば、検査対象の磁歪効果が小さく、より強い磁場を印加したい場合には、各電磁石のコアの材料をパーマロイ、パーメンジュール等のより大きな飽和磁束密度を有する磁性体とすればよい。
【0086】
本実施の形態に係る検査装置1では、作業者が配管50に検査装置1の固定部材40を取り付け、移動させながら、配管検査を行うこととしたがこれに限られない。例えば、固定部材40に配管50の軸心方向の移動機構を備えることとしてもよい。これにより、ガイド波送受信による測定と渦電流による測定との切り替え、損傷部付近における渦電流による測定を効率よく行うことができる。
【0087】
本実施の形態に係る渦電流ユニット13は、渦電流検出用電磁石132の両磁極の間を結ぶ方向が配管50の軸心方向となるように、配置することとしたが、これに限られない。例えば、
図7(A)において、配管50の軸心方向(紙面左右方向)にスリット状の損傷部があり、渦電流検出用電磁石132の両磁極の間を結ぶ方向が直交するように渦電流ユニット13を配置した場合、渦電流は、検出用電磁石近傍で
図7(A)の上下方向に流れる。この場合、渦電流の方向に直交する損傷は電流の流れを乱すので検出されやすくなる。一方、
図7(A)において、スリット状の損傷部が上下方向である場合、渦電流の乱れは小さくなる。したがって、渦電流ユニット13による損傷位置測定においては、渦電流ユニット13を所定の角度で配置して検査を行った後、渦電流ユニット13を90°回転させて検査することが好ましい。これにより、配管50の損傷の見逃しの可能性を低減することができる。
【0088】
また、本実施の形態に係る検査装置1は、受信ユニット12の出力及び渦電流ユニット13の出力を、アンプを介して制御ユニット20で検出することとしたが、これに限られない。例えば、ガイド波検出用電磁石122及び渦電流検出用電磁石132の近傍に配置した磁気センサに信号を伝達して、測定を行うこととしてもよい。この場合、磁気センサは、検出する磁気信号の強度に応じて選択することとすればよい。具体的には、検出する磁気信号の強度が1×10-9T(=1nT)以下のオーダーとなる場合には、磁気センサとして、微小な磁界変化を検出可能なSQUID(superconducting quantum interference device)、フラックスゲート等の高感度磁気センサを用いることとすればよい。これにより、精度よく配管検査を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0089】
1 検査装置、11 送信ユニット、111 送信バイアス用電磁石、112 励振用電磁石、111a,112a コア、111b,112b コイル、12 受信ユニット、121 受信バイアス用電磁石、122 ガイド波検出用電磁石、121a,122a コア、121b,122b コイル、13 渦電流ユニット、131 励磁用電磁石、132 渦電流検出用電磁石、131a,132a コア、131b,132b コイル、20 制御ユニット、21 制御部、211 ガイド波制御部、212 距離演算部、213 渦電流制御部、214 損傷位置演算部、22 記憶部、23 表示部、24 入力部、31 直流電源、32 ファンクションジェネレータ、33 低ノイズアンプ、34 ロックインアンプ、40 固定部材、50 配管