(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172832
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20241205BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090831
(22)【出願日】2023-06-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、環境省、革新的な省CO2実現のための部材(GaN)や素材(CNF)の社会実装・普及展開加速化事業(超低抵抗GaNウエハを用いた高効率インバータの開発・検証)委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】隅 智亮
(72)【発明者】
【氏名】旭 雄大
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077AB01
4G077BE15
4G077DB08
4G077EB01
4G077ED06
4G077FG11
4G077GA01
4G077GA06
4G077TA04
4G077TB05
(57)【要約】
【課題】動作時の抵抗が低いデバイスを実現するため、良好なエピタキシャル層を形成可能な、高濃度に不純物添加されたIII族窒化物半導体基板を提供する。
【解決手段】III族窒化物半導体基板は、n型の伝導性を示し、n型ドーパント元素のキャリア濃度が10
19cm
-3以上のIII族窒化物半導体結晶と、III族窒化物半導体結晶の上に設けられ、III族窒化物半導体結晶と比べて、表面にダメージを有するIII族窒化物半導体層と、を備え、III族窒化物半導体層の厚さは、100nm以上1μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型の伝導性を示し、n型ドーパント元素のキャリア濃度が1019cm-3以上のIII族窒化物半導体結晶と、
前記III族窒化物半導体結晶の上に設けられ、前記III族窒化物半導体結晶と比べて、表面にダメージを有するIII族窒化物半導体層と、
を備え、
前記III族窒化物半導体層の厚さは、100nm以上1μm以下である、III族窒化物半導体基板。
【請求項2】
前記III族窒化物半導体層は、前記III族窒化物半導体結晶に比べて、カソードミネッセンスの発光スペクトルの最も発光強度が高い波長での発光強度が5分の1以下となる、請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板。
【請求項3】
前記III族窒化物半導体結晶の主たるIII族元素と前記III族窒化物半導体層の主たるIII族元素とが同一である、請求項1に記載のIII族窒化物半導体基板。
【請求項4】
前記III族窒化物半導体結晶の前記n型ドーパント元素が酸素である、請求項1から3のいずれか一項に記載の前記III族窒化物半導体基板。
【請求項5】
前記III族窒化物半導体結晶の中の酸素濃度が1×1020atoms・cm-3以上である、請求項4に記載の前記III族窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、III族窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物半導体は、半導体レーザー及び発光ダイオード等の光デバイス、並びに高周波又は高出力の電子デバイス等の分野で使用されている。近年、これらの半導体は、シリコン系のデバイスと比較して、電力変換の際のスイッチングロスの低減が期待できることから、特に注目を集めている。高周波又は高出力の電子デバイスを作製するためには、デバイス層に発生する結晶欠陥を抑えることが可能な高品質なIII族窒化物基板上へデバイスを作製する必要がある。
【0003】
III族窒化物結晶の製造方法は、例えば、ハイドライド気相成長法(以下、HVPE法ともいう)、アモノサーマル法、ナトリウムフラックス法、及び酸化物気相成長法(以下、OVPE法ともいう)を含む。
【0004】
基板製造方法として用いられることが最も多い、HVPE法では、単体のIII族原料上にハロゲン化水素ガスを導入してハロゲン化物ガスを生成させ、生成したIII族元素のハロゲン化物ガスを結晶成長用の原料ガスとして用いる。例えば、窒化ガリウム結晶を成長させる場合、Ga金属にHClガスを導入して塩化ガリウム(例えば、GaCl)ガスを製造し、塩化ガリウム含有ガスをIII族源として用いることで、高速成長が実現できる。HVPE法では、主に、シリコン元素をIII族窒化物結晶に添加することで、N型の導電性を有するIII族窒化物結晶を得られることが知られている。
【0005】
一方、OVPE法では、酸化物原料ガスを用いることで、III族窒化物結晶に酸素元素を高濃度に添加して、結晶を製造する。この方法では、III族酸化物ガスと窒素元素含有ガスとを反応させて、III族窒化物結晶を製造する。この方法で得られている基板では、転位密度が104cm―2台の低転位密度の基板が得られていて、高品質なIII族窒化物結晶を得る手段の一つである。
【0006】
上述のような各方法によって製造されたIII族窒化物結晶を機械的な加工もしくは化学反応などを用いて加工して、鏡面の表面を有するIII族窒化物基板を得ることができる。これら基板の上にIII族窒化物半導体のエピタキシャル膜を形成することで、デバイスを作製することができる。作製されるエピタキシャル膜は、基板の結晶品質を引き継ぐことが知られているが、そのためにはエピタキシャル層を形成する基板表面が、原子レベルで結晶としての配列が整っていて、前述の加工のダメージが除去されている必要がある(特許文献1,2)。そのために、基板表面の鏡面加工後に化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-112641号公報
【特許文献2】特開2009-29662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の加工及び表面の処理方法は、広く市販されているキャリア濃度が1×1019cm―3以下の窒化物半導体基板に対しては適切であり、化学機械研磨(CMP)がなされた基板の上に良好なエピタキシャル層を形成することができていた。
【0009】
しかしながら、低抵抗なデバイスを作製するため、基板のキャリア濃度をより高めるために不純物を高濃度に添加すると、窒化物半導体結晶の各原子間の結合力において、イオン結合性の力の寄与が不純物濃度の低い結晶と比べて若干大きくなるため、化学反応しやすくなる。すなわち、化学薬品で分解されやすいことや、高温にさらされると構成原子が表面から容易に脱離してしまう。そのため、CMPにおいて結晶表面に窪みが発生して荒れてしまう問題が発生することを、本発明者らは発見した。この窪みの発生には、不純物を高濃度に添加すると、結晶表面において不純物が大きな面内分布を持つことにより、CMPの加工レートに面内分布が発生し、CMP後の表面のエッチング量に分布が発生することが関係する。
【0010】
また、前述の基板上にエピタキシャル層を形成すると、エピタキシャル層形成のために基板を昇温すると基板の表面から構成原子が脱離するため、分解しやすい窪みの箇所が更に分解されて窪みのサイズが大きくなることや、新たな窪みが発生する。そのため、基板の上に形成されたエピタキシャル層に異常な結晶欠陥の発生を引き起こす場合がある。
【0011】
すなわち、本開示で解決すべき課題は、キャリア濃度が高い窒化物半導体結晶の表面に良好なエピタキシャル層を形成するために、結晶のエピタキシャル層を形成する表面での窪みの発生を抑えることである。
【0012】
本開示では、動作時の抵抗が低いデバイスを実現するため、良好なエピタキシャル層を形成可能な、高濃度に不純物添加されたIII族窒化物半導体基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示に係るIII族窒化物半導体基板は、n型の伝導性を示し、n型ドーパント元素のキャリア濃度が1019cm-3以上のIII族窒化物半導体結晶と、III族窒化物半導体結晶の上に設けられ、III族窒化物半導体結晶と比べて、表面にダメージを有するIII族窒化物半導体層と、を備え、III族窒化物半導体層の厚さは、100nm以上1μm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本開示に係るIII族窒化物半導体基板によれば、動作時の抵抗が低いデバイスを実現するための、良好なエピタキシャル層を形成可能な、高濃度に不純物添加されたIII族窒化物半導体基板を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体基板の一例の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
【
図2】窒化ガリウム結晶と加工ダメージのある窒化ガリウム層のカソードルミネッセンスのスペクトルである。
【
図3A】実施例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角1μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図3B】実施例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図4A】実施例1に係る窒化ガリウム基板の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
【
図4B】実施例1に係る窒化ガリウム基板の上に窒化ガリウム膜を成長させるために、1100℃に昇温した場合の窒化ガリウム基板の断面構造を示す概略断面図である。
【
図4C】
図4Bに続いて、窒化ガリウム基板の上にエピタキシャル成長させた窒化ガリウム膜の断面構造を示す概略断面図である。
【
図5A】実施例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図5B】実施例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角250μmのフォトルミネッセンス(PL)像である。
【
図6A】比較例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角1μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図6B】比較例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図7A】比較例1に係る窒化ガリウム基板の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
【
図7B】比較例1に係る窒化ガリウム基板の上に窒化ガリウム膜を成長させるために、1100℃に昇温した場合の窒化ガリウム基板の断面構造を示す概略断面図である。
【
図7C】
図7Bに続いて、窒化ガリウム基板の上にエピタキシャル成長させた窒化ガリウム膜の断面構造を示す概略断面図である。
【
図8A】比較例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
【
図8B】比較例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角250μmのフォトルミネッセンス(PL)像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本開示に至る経緯>
本発明者らは、容易にかつ追加のコスト発生を抑えて前記の課題を解決するために、化学機械研磨(CMP)加工後のダメージを受けている層を十分には除去せずに残しておくことで、窪みの発生及び拡大を抑えることができると考えた。
【0017】
また、高濃度に不純物を添加されたIII族窒化物半導体結晶では加工ダメージを受けているダメージ層も、不純物濃度の低い結晶基板と比べて、高温での分解反応速度が速い。そのため、ダメージの残ったダメージ層がIII族窒化物半導体結晶の表面に存在していても、エピタキシャル層を形成するために高温にすることで、ダメージ層が分解除去され、良好なエピタキシャル層を形成できる基板表面を得ることが可能であることを見出し、本開示に至った。
【0018】
以下に本開示の各態様について説明する。
【0019】
第1の態様に係るIII族窒化物半導体基板は、n型の伝導性を示し、n型ドーパント元素のキャリア濃度が1019cm-3以上のIII族窒化物半導体結晶と、III族窒化物半導体結晶の上に設けられ、III族窒化物半導体結晶と比べて、表面にダメージを有するIII族窒化物半導体層と、を備え、III族窒化物半導体層の厚さは、100nm以上1μm以下である。
【0020】
第2の態様に係るIII族窒化物半導体基板は、上記第1の態様において、III族窒化物半導体層は、III族窒化物半導体結晶に比べて、カソードミネッセンスの発光スペクトルの最も発光強度が高い波長での発光強度が5分の1以下となってもよい。
【0021】
第3の態様に係るIII族窒化物半導体基板は、上記第1又は第2の態様において、III族窒化物半導体結晶の主たるIII族元素とIII族窒化物半導体層の主たるIII族元素とが同一であってもよい。
【0022】
第4の態様に係るIII族窒化物半導体基板は、上記第1から第3のいずれかの態様において、III族窒化物半導体結晶の前記n型ドーパント元素が酸素であってもよい。
【0023】
第5の態様に係るIII族窒化物半導体基板は、上記第4の態様において、III族窒化物半導体結晶の中の酸素濃度が1×1020atoms・cm-3以上であってもよい。
【0024】
以下、本開示の実施の形態に係るIII族窒化物半導体基板及びその製造方法について、添付図面を用いて例を挙げて説明する。ただし、本開示は、以下の説明で使用する数値や、特定の元素を用いることによるいかなる制限も受けない。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、本開示の実施の形態1に係るIII族窒化物半導体基板10の一例の断面構造を模式的に示す概略断面図である。このIII族窒化物半導体基板10は、
図1に示すように、III族窒化物半導体結晶2と、該III族窒化物半導体結晶の上に設けられ、III族窒化物半導体結晶と比べて、表面にダメージを有するIII族窒化物半導体層(ダメージ層)4と、を備える。III族窒化物半導体層(ダメージ層)4の厚さは、100nm以上1μm以下である。
【0026】
実施の形態1に係るIII族窒化物半導体基板10によれば、動作時の抵抗が低いデバイスを実現するための、良好なエピタキシャル層を形成可能な、高濃度に不純物添加されたIII族窒化物半導体基板を得ることが可能である。
【0027】
なお、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4は、III族窒化物半導体結晶2の一部を機械加工したダメージのある層であるので、前記III族窒化物半導体結晶2、及び、前記III族窒化物半導体層4中のそれぞれの主たるIII族元素は同一である。機械加工後のダメージを含むIII族窒化物半導体層(ダメージ層)4は、III族窒化物半導体結晶の一部を機械加工したのみでは、機械加工の条件にもよるが、2~5μm程度有するが、本開示では、機械加工後にIII族窒化物半導体層の一部を化学機械加工(CMP)などの、ダメージを含む層を除去する工程により前述の厚みより薄くしてある。化学機械加工(CMP)によって、ダメージを含むIII族窒化物半導体層(ダメージ層)4を一部又は全部除去することができる。実施の形態1に係るIII族窒化物半導体基板10の製造方法によれば、化学機械加工(CMP)を、例えば、1時間以上5時間以下行うことによって、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4の残存する厚さを、100nm以上、1μm以下にすることができる。なお、化学機械加工(CMP)の時間は、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4の残存する厚さを上記範囲にするように適宜設定すればよい。
【0028】
また、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4は、エピタキシャル層を形成する際の昇温過程でIII族窒化物半導体結晶を保護するために、その厚みは100nm以上であることが好ましい。これにより、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4によって、III族窒化物半導体結晶2を昇温過程で保護することができ、その表面での分解による窪みの発生を抑えることが可能になる。厚みが100nmよりも小さい場合には昇温過程の途中で、III族窒化物半導体層4が容易に分解しきってしまうため、III族窒化物半導体結晶2が高温下に露出してしまい、窪みが形成されてしまうおそれがある。
【0029】
一方、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4は、エピタキシャル層を形成する際には容易に除去されていることが良好なエピタキシャル層を形成するために重要であるので、その厚みは1μm以下であることが好ましい。厚みが1μm以下であれば、エピタキシャル層を形成するための昇温過程で、表面から加工ダメージの残っているIII族窒化物半導体層を除去することが短時間で可能である。
【0030】
より厚みがある場合でも、前述のIII族窒化物半導体結晶2の昇温時の保護は達成可能であるが、エピタキシャル層を形成するための昇温過程で、表面から加工ダメージの残っているIII族窒化物半導体層(ダメージ層)4を除去するために長い時間、例えば、5時間を超える時間をかける必要があり、産業応用の観点から好ましくない。
【0031】
なお、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4は、加工してダメージを受けている層である。このため、例えば、カソードルミネッセンス(CL)による発光において、発光スペクトルの最も発光強度が高い波長での発光強度がIII族窒化物半導体結晶の5分の1以下であることを検出することによって、III族窒化物半導体層(ダメージ層)4の存在を確認できる。加工ダメージが大きいほど前記波長での発光強度が加工前の結晶と比べて低くなるため、さらに発光強度が低くなることがある。なお、発光強度が最も高いピーク波長は、不純物濃度が高くキャリア濃度が高い結晶では、高純度の結晶のピーク波長と比べて短波長側にシフトすることがあり、必ずしもバント端の波長とは一致しない。
【0032】
III族窒化物半導体結晶2は、その上にエピタキシャル層を形成して、デバイスを作製した際に、動作時のオン抵抗を低減するために、n型ドーパントとなる不純物が添加されていて、そのキャリア濃度は1019cm-3以上であることが好ましい。
III族窒化物半導体結晶のn型ドーパント元素は、例えば、シリコン元素、ゲルマニウム元素、及び酸素元素からなる群から選択される少なくとも一種類を含むことが好ましい。
III族窒化物半導体結晶のn型ドーパント元素は、酸素元素を含むことがより好ましい。この場合、特に、OVPE法によって基板に用いるIII族窒化物半導体結晶を作製する際に、酸素元素をIII族窒化物半導体結晶に容易に添加することが可能である。
III族窒化物半導体結晶のn型ドーパント元素が、酸素元素を含む場合、酸素元素が1×1020atoms・cm-3以上の濃度で添加されていることが好ましい。これにより、キャリア濃度を高めることが容易になる。
【0033】
(実施例1)
本実施例1では、III族窒化物半導体基板を窒化ガリウム基板、III族窒化物半導体結晶を窒化ガリウム結晶、III族窒化物半導体層を窒化ガリウム層とする。
本実施例1では、III族窒化物半導体基板として、OVPE法で製造された窒化ガリウム結晶上に加工によるダメージがある窒化ガリウム層を200nm備えるものを用いていた。上記加工は、機械加工であり、その後、化学機械研磨(CMP)によって上記ダメージの除去を約3時間行った。さらに、このIII族窒化物半導体基板の上に、有機金属気相成長法(MOVPE法)でIII族窒化物半導体である窒化ガリウム膜を形成した。
【0034】
図2は、窒化ガリウム基板を構成する、窒化ガリウム結晶と加工ダメージのある窒化ガリウム層のCLのスペクトルを示している。発光強度のピーク波長は、352nmであり、当該波長での発光強度について、窒化ガリウム結晶は、ダメージを有する窒化ガリウム層の5.6倍の強度であった。上記のことから、窒化ガリウム層4は、窒化ガリウム結晶2に比べて、カソードミネッセンスの発光スペクトルの最も発光強度が高い波長での発光強度が5分の1以下となっており、ダメージを有することが確認できた。また、窒化ガリウム層の厚さは、上記の通り200nmであった。
【0035】
窒化ガリウム結晶は、酸素濃度が4×1020atoms・cm-3であり、n型の伝導性を有し、キャリア濃度は8×1019cm-3で、厚みは400μmである。
【0036】
図3Aは、実施例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角1μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
図3Bは、実施例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
図3Aに示すように、視野角1μmのAFM像からは小さな線状の傷(加工痕:点線で囲んだ箇所)が複数確認できた。また、
図3Bに示すように、視野角90μmのAFM像からは平坦性の指標であるRoot Mean Square(RMS)は1.81nmと低い値であり、平坦な加工表面であることが確認できた。
【0037】
図4Aは、実施例1に係る窒化ガリウム基板10の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
図4Bは、実施例1に係る窒化ガリウム基板2(10)の上に窒化ガリウム膜を成長させるために、1100℃に昇温した場合の窒化ガリウム基板2(10)の断面構造を示す概略断面図である。
図4Cは、
図4Bに続いて、窒化ガリウム基板2(10)の上にエピタキシャル成長させた窒化ガリウム膜6の断面構造を示す概略断面図である。
窒化ガリウム基板2(10)の上に形成された窒化ガリウム膜6は、シリコンをドーパント元素として導入し、n型でキャリア濃度は2×10
16cm
―3で、厚みは8μmであった。
【0038】
図5Aは、本実施例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)であり、
図5Bは、実施例1に係る窒化ガリウム基板の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜の表面の状態を示す視野角250μmのフォトルミネッセンス(PL)像である。
図5Aに示すように、AFM像からは、RMSは5.35nmとエピタキシャル層としては低く、平坦な膜を形成できることを確認できた。また、
図5Bに示すように、PL像からは異常な結晶欠陥の発生は確認できず、良好なエピタキシャル層を形成できたことが確認できた。
【0039】
(比較例1)
比較例1では、III族窒化物半導体基板として、OVPE法で製造された窒化ガリウム結晶上の加工によるダメージを除去したものを用いた。上記加工は、機械加工であり、さらに、ダメージの除去は、化学機械研磨(CMP)によって、約10時間行った。さらに、このIII族窒化物半導体基板の上に、MOVPE法でIII族窒化物半導体である窒化ガリウム膜を形成した。窒化ガリウム結晶は、実施例1と同様の不純物濃度、キャリア濃度を有していて、厚みも実施例1と同様である。
【0040】
図6Aは、比較例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角1μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
図6Bは、比較例1に係る窒化ガリウム基板の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
図6Aに示すように、視野角1μmのAFM像からは実施例1と異なり線状の傷は確認できなかった。また、
図6Bに示すように、視野角90μmのAFM像からは点線で囲んだ箇所に窪みが確認でき、RMSは3.87nmであり、実施例1での窒化ガリウム基板の表面と比べて高い値であった。
【0041】
図7Aは、比較例1に係る窒化ガリウム基板22の断面構造を模式的に示す概略断面図である。
図7Bは、比較例1に係る窒化ガリウム基板22の上に窒化ガリウム膜を成長させるために、1100℃に昇温した場合の窒化ガリウム基板22の断面構造を示す概略断面図である。
図7Cは、
図7Bに続いて、窒化ガリウム基板22の上にエピタキシャル成長させた窒化ガリウム膜6の断面構造を示す概略断面図である。
図7Aに示すように、窒化ガリウム基板22には、窪み7が観察された。なお、比較例1に係る窒化ガリウム基板22では、窒化ガリウム結晶に比べて、カソードミネッセンスの発光スペクトルの最も発光強度が高い波長での発光強度が5分の1以下となるダメージを有する窒化ガリウム層は確認できなかった。
また、窒化ガリウム基板22上に形成する窒化ガリウム膜は、実施例1と同様に形成した。
【0042】
図8Aは、比較例1に係る窒化ガリウム基板22の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜6の表面の状態を示す視野角90μmの原子間力顕微鏡像(AFM像)である。
図8Bは、比較例1に係る窒化ガリウム基板22の上に成長させて得られた窒化ガリウム膜6の表面の状態を示す視野角250μmのフォトルミネッセンス(PL)像である。
図8Aに示すように、AFM像からは、RMSは6.47nmとエピタキシャル層としては低く、実施例1と同様に平坦な膜を形成できることを確認できた。しかしながら、
図8Bに示すように、PL像からは異常な結晶欠陥8の発生が確認できた。この異常な結晶欠陥は転位の集中箇所であり、デバイスとして動作する際にリーク原因になるなどの悪影響を与えるため、問題となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上のように、本開示に係るIII族窒化物半導体基板によれば、結晶欠陥の少ないIII族窒化物半導体エピタキシャル膜形成が可能であるため、低オン抵抗の電子デバイスの歩留まりや信頼性の向上が期待できる。
【符号の説明】
【0044】
2 III族窒化物半導体基板(III族窒化物半導体結晶、窒化ガリウム基板)
4 ダメージ層(III族窒化物半導体層、窒化ガリウム層)
6 エピタキシャル層(窒化ガリウム膜)
7 窪み
8 結晶欠陥
10 III族窒化物半導体基板
22 窒化ガリウム基板