(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017285
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/18 20060101AFI20240201BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240201BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240201BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240201BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240201BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16C19/18
F16C33/58
F16C33/78 D
F16J15/3204 201
B60B35/02 L
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119822
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 和雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智子
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE23
3J006AE28
3J006AE30
3J006AE40
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA21
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216DA01
3J216FA06
3J216GA03
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701DA01
3J701DA09
3J701FA15
3J701FA51
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB13
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】剛性を高めつつ、更なる軽量化を図ることができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1は、複列の外側軌道面23、24を有する外輪2と、複列の外側軌道面23、24に対向する複列の内側軌道面33、41を有する内方部材(ハブ輪3および内輪4)と、外輪2と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列のボール列5、6とを備える車輪用軸受装置1であって、ボール列5、6におけるボール7のピッチ円径bと、ボール列5、6におけるアウター側のボール7とインナー側のボール7とのボール間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
を備える車輪用軸受装置であって、
前記複列の転動体のピッチ円径bと、前記複列の転動体における、軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチaとが、
b/a≧2.0
の関係を満たすことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記内方部材の軸方向の一端部から径方向外側へ延びるフランジと、
前記フランジに形成されるボルト孔に圧入されるハブボルトと、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置であって、前記外方部材の軸方向一端側の外周面よりも外径側へ突出しない密封装置と、を備え、
前記ハブボルトのピッチ円径cを100としたときの、
前記複列の転動体のピッチ円径bと、前記複列の転動体における、軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチaとが、
b/a≦3.6
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記内方部材の軸方向の一端部から径方向外側へ延びるフランジと、
前記フランジに形成されるボルト孔に圧入されるハブボルトと、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置であって、前記外方部材の軸方向一端側の外周面よりも外径側へ突出する堰部を有する密封装置と、を備え、
前記ハブボルトのピッチ円径cを100としたときの、
前記複列の転動体のピッチ円径bと、前記複列の転動体における、軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチaとが、
b/a≦3.2
の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置を備え、
前記内方部材は、軸方向の一端から他端側へ向けて凹陥する凹部と、前記密封装置が摺接する摺接面とを有し、
前記内方部材において、
軸方向一側の前記内側軌道面が形成された部分および前記摺接面が形成された部分は熱処理硬化層を有しており、
前記摺接面と前記凹部の内周面との間の肉厚d1は、前記摺接面が形成された部分の熱処理硬化層の深さd2の2倍以上であり、
軸方向一側の前記内側軌道面と前記凹部の内周面との間の肉厚e1は、前記内側軌道面が形成された部分の熱処理硬化層の深さe2の2倍以上であり、
前記肉厚d1と前記肉厚e1との相互差は5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記内方部材は、軸方向一側の前記内側軌道面と、軸方向一側の前記内側軌道面よりも軸方向他側の外周面との間に傾斜面を有し、
前記内方部材において、
前記傾斜面が形成された部分は熱処理硬化層を有しており、
前記傾斜面と前記凹部の内周面との間の肉厚f1は、前記傾斜面が形成された部分の熱処理硬化層の深さf2の2倍以上であり、
前記肉厚f1と前記肉厚e1との相互差は5mm以下であることを特徴とする請求項4に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。
【0003】
車輪用軸受装置が用いられる車両においては、電気自動車の普及拡大が見込まれているが、電気自動車はバッテリーを搭載しているため車両重量が増加する傾向にあり、電気自動車に用いられる車輪用軸受装置も大型化して剛性を高める必要がある。しかし、車輪用軸受装置を単に大型化しただけでは車輪用軸受装置の重量が増加してしまうといった問題がある。
【0004】
従って、特許文献1に開示されるように、外輪部材の外輪軌道面と内輪部材の内輪軌道面との間に介装される複列の転動体群を含んだ車輪用軸受装置において、アウター側の転動体群のピッチ円径をインナー側の転動体群のピッチ円径よりも大きく設定して、重量の増加を抑えつつ大型化を図ることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、車輪用軸受装置においては、径方向の大きさを大きく形成するとともに、軸方向の大きさを小さく形成することで、剛性を高めつつ軽量化を図ることが可能である。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の車輪用軸受装置では、径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図るといった観点においては考慮がなされておらず、車輪用軸受装置の軽量化には限界があった。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、剛性を高めつつ、更なる軽量化を図ることができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備える車輪用軸受装置であって、前記複列の転動体のピッチ円径bと、前記複列の転動体における、軸方向一側の転動体と軸方向他側の転動体との転動体間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たす。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、車輪用軸受装置の剛性を高めつつ、車輪用軸受装置を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】アウター側シール部材を示す側面断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図4】第2実施形態に係る車輪用軸受装置のアウター側シール部材を示す側面断面図である。
【
図5】第3実施形態に係る車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
【
図6】第3実施形態に係る車輪用軸受装置における、ハブ輪の凹部が形成された部分の肉厚を示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0013】
[車輪用軸受装置]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の一実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、駆動輪用の車輪用軸受装置として構成されている。
【0014】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0015】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6と、アウター側シール部材9と、インナー側シール部材10とを具備する。
【0016】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材10が嵌合可能なインナー側開口部21が形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部22が形成されている。
【0017】
インナー側シール部材10がインナー側開口部21に嵌合されることにより、外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3および内輪4とによって形成された環状空間Sのインナー側の開口端が塞がれている。アウター側シール部材9がアウター側開口部22に嵌合されることにより、環状空間Sのアウター側の開口端が塞がれている。
【0018】
インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9は、環状空間Sの開口端を塞ぐ密封装置である。このように、インナー側シール部材10およびアウター側シール部材9により環状空間Sのインナー側およびアウター側の開口端を塞ぐことで、泥水等の異物が車輪用軸受装置1の内部へ浸入することを抑制している。
【0019】
外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面23と、アウター側の外側軌道面24とが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ25が一体的に形成されている。車体取り付けフランジ25には、車体側部材と外輪2とを締結する締結部材(ここでは、ボルト)が挿入されるボルト孔26が設けられている。
【0020】
ハブ輪3の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部31が形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ32が一体的に形成されている。
【0021】
車輪取り付けフランジ32は、内方部材の軸方向の一端部から径方向外側へ延びるフランジの一例である。車輪取り付けフランジ32には、複数のボルト孔35が形成されている。ボルト孔35には、ハブ輪3と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト36が圧入可能である。
【0022】
ハブ輪3においては、車輪取り付けフランジ32の基部側にアウター側シール部材9が摺接する摺接面34が形成されている。ハブ輪3の外周面には、外輪2のアウター側の外側軌道面24に対向するようにアウター側の内側軌道面33が設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面33が構成されている。
【0023】
ハブ輪3の内径部には、軸方向に沿って形成される軸孔37が形成されている。軸孔37はハブ輪3を軸方向に沿って貫通しており、軸孔37には等速自在継手の軸部が結合可能である。
【0024】
ハブ輪3の小径段部31には、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入によりハブ輪3の小径段部31に固定されている。内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面23と対向するようにインナー側の内側軌道面41が設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面41が構成されている。
【0025】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面41と、外輪2のインナー側の外側軌道面23との間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面33と、外輪2のアウター側の外側軌道面24との間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0026】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3および内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0027】
図2に示すように、アウター側シール部材9は、芯金91と、弾性部材92とを有している。芯金91は、例えば鋼板により円筒状に構成されており、外輪2のアウター側開口部22に内径嵌合されている。
【0028】
弾性部材92は、例えば合成ゴムによって構成されており、芯金91に加硫接着によって固着されている。弾性部材92は、芯金91に加硫接着される基部92aと、基部92aから延出し、それぞれ円環状に形成されるグリースリップ92b、第1サイドリップ92c、および第2サイドリップ92dとを有している。グリースリップ92b、第1サイドリップ92c、および第2サイドリップ92dは、ハブ輪3の摺接面34に摺接している。
【0029】
アウター側シール部材9は、アウター側開口部22よりも内径側に位置しており、外輪2における軸方向一端側の外周面27よりも外径側へ突出していない。
【0030】
[車輪用軸受装置1におけるボールのピッチ円径とボール間ピッチとの関係]
インナー側ボール列5を構成するボール7とアウター側ボール列6を構成するボール7とは、軸方向においてボール間ピッチがaとなるように配置されている。ボール間ピッチaは、インナー側ボール列5におけるボール7の中心P1と、アウター側ボール列6におけるボール7の中心P2との、軸方向における距離である。ボール間ピッチaは、転動体間ピッチaの一例である。
【0031】
インナー側ボール列5を構成するボール7のピッチ円径と、アウター側ボール列6を構成するボール7のピッチ円径とは同じ大きさに形成されており、インナー側ボール列5およびアウター側ボール列6を構成するボール7のピッチ円径はbである。
【0032】
ピッチ円径bは、回転軸心Xを中心とし、インナー側ボール列5におけるボール7の中心P1を通る円の直径である。また、ピッチ円径bは、回転軸心Xを中心とし、アウター側ボール列6におけるボール7の中心P2を通る円の直径である。ボール7のピッチ円径bは、転動体のピッチ円径bの一例である。
【0033】
さらに、車輪取り付けフランジ32のボルト孔35に圧入されたハブボルト36のピッチ円径はcである。ピッチ円径cは、回転軸心Xを中心とし、ハブボルト36の中心P3を通る円の直径である。
【0034】
車輪用軸受装置1においては、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)が2.0以上となるように設定されている。つまり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たすように設定されている。
【0035】
ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≧2.0となるように設定することで、車輪用軸受装置1の径方向の大きさを大きく形成するとともに、インナー側ボール列5の保持器8とアウター側ボール列6の保持器8とが干渉することを防ぎながら車輪用軸受装置1の軸方向の大きさを小さく形成することが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1の径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図って、車輪用軸受装置1の剛性や寿命を高めつつ、車輪用軸受装置1を軽量化することが可能となっている。
【0036】
また、車輪用軸受装置1においては、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)を、ハブボルト36のピッチ円径cを100としたときに、3.6以下となるように設定することが好ましい。つまり、ピッチ円径cを100としたときのピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.6の関係を満たすように設定することが好ましい。
【0037】
このように設定した場合、表1に示すように、例えばハブボルト36のピッチ円径cが100mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.6の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.6」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.6の関係を満たす。
【0038】
また、ハブボルト36のピッチ円径cが114.3mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦4.1の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cの114.3mmを100mmに換算して、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.59」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.6の関係を満たす。
【0039】
さらに、ハブボルト36のピッチ円径cが120mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦4.3の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cの120mmを100mmに換算して、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.58」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.6の関係を満たす。
【0040】
【0041】
このように、ピッチ円径cを100としたときのピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.6の関係を満たすように設定することで、車輪用軸受装置1を大径化した際に、ハブボルト36と外輪2とが干渉して、ハブボルト36を車輪取り付けフランジ32から抜き出すことが阻害されることを抑制できる。これにより、ハブボルト36の交換性を維持したうえで、車輪用軸受装置1の剛性を高めつつ、車輪用軸受装置1の更なる軽量化を図ることができる。
【0042】
[車輪用軸受装置の第2実施形態]
車輪用軸受装置1は、
図3に示す車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Aは、アウター側シール部材9に代えてアウター側シール部材19を備えている点で車輪用軸受装置1と異なっている。車輪用軸受装置1Aは、駆動輪用の車輪用軸受装置として構成されている。
【0043】
図4に示すように、アウター側シール部材19は、芯金191と、弾性部材192とを有している。芯金191は、例えば鋼板により円筒状に構成されており、外輪2のアウター側開口部22に内径嵌合されている。
【0044】
弾性部材192は、例えば合成ゴムによって構成されており、芯金191に加硫接着によって固着されている。弾性部材192は、芯金191に加硫接着される基部192aと、基部192aから延出し、それぞれ円環状に形成されるグリースリップ192b、第1サイドリップ192c、および第2サイドリップ192dと、外輪2のアウター側端部における外周面27よりも外径側に突出する堰部192eとを有している。
【0045】
グリースリップ192b、第1サイドリップ192c、および第2サイドリップ192dは、ハブ輪3の摺接面34に摺接している。堰部192eは、外輪2の外周面27に外径嵌合されている。
【0046】
このように、アウター側シール部材19においては、堰部192eが外輪2における軸方向一端側の外周面27よりも外径側に位置しており、アウター側シール部材19は外周面27よりも外径側へ突出している。車輪用軸受装置1Aのその他の構成については車輪用軸受装置1と同様であるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0047】
[車輪用軸受装置1Aにおけるボールのピッチ円径とボール間ピッチとの関係]
車輪用軸受装置1Aにおいては、車輪用軸受装置1の場合と同様に、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)が2.0以上となるように設定されている。つまり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たすように設定されている。
【0048】
ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≧2.0となるように設定することで、車輪用軸受装置1Aの径方向の大きさを大きく形成するとともに、インナー側ボール列5の保持器8とアウター側ボール列6の保持器8とが干渉することを防ぎながら軸方向の大きさを小さく形成することが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1Aの径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図って、車輪用軸受装置1Aの剛性や寿命を高めつつ、車輪用軸受装置1を軽量化することが可能となっている。
【0049】
また、車輪用軸受装置1Aにおいては、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)を、ハブボルト36のピッチ円径cを100としたときに、3.2以下となるように設定することが好ましい。つまり、ピッチ円径cを100としたときのピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.2の関係を満たすように設定することが好ましい。
【0050】
このように設定した場合、表2に示すように、例えばハブボルト36のピッチ円径cが100mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.2の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.2」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.2の関係を満たす。
【0051】
また、ハブボルト36のピッチ円径cが114.3mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.7の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cの114.3mmを100mmに換算して、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.24」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.2の関係を満たす。
【0052】
さらに、ハブボルト36のピッチ円径cが120mmであるときには、ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.9の関係を満たすように設定することができる。この場合、ピッチ円径cの120mmを100mmに換算して、ピッチ円径cを100としたときの「b/a」は「≦3.25」となり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとは、b/a≦3.2の関係を満たす。
【0053】
【0054】
このように、ピッチ円径cを100としたときのピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≦3.2の関係を満たすように設定することで、車輪用軸受装置1を大径化した際に、ハブボルト36と外輪2の外周面27よりも外径側に突出する堰部192eとが干渉して、ハブボルト36を車輪取り付けフランジ32から抜き出すことが阻害されることを抑制できる。これにより、ハブボルト36の交換性を維持したうえで、車輪用軸受装置1Aの剛性を高めつつ、車輪用軸受装置1Aの更なる軽量化を図ることができる。
【0055】
[車輪用軸受装置の第3実施形態]
車輪用軸受装置1は、
図5に示す車輪用軸受装置1Bのように構成することもできる。車輪用軸受装置1Bは、従動輪用の車輪用軸受装置として構成されており、主に、ハブ輪3に代えてハブ輪13を備えている点で車輪用軸受装置1と異なっている。
【0056】
ハブ輪13の外周面におけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部131が形成されている。ハブ輪13のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ132が一体的に形成されている。
【0057】
車輪取り付けフランジ132は、内方部材の軸方向の一端部から径方向外側へ延びるフランジの一例である。車輪取り付けフランジ132には、複数のボルト孔135が形成されている。ボルト孔135には、ハブ輪13と車輪又はブレーキ部品とを締結するためのハブボルト136が圧入可能である。
【0058】
ハブ輪13においては、車輪取り付けフランジ132の基部側にアウター側シール部材9が摺接する摺接面134が形成されている。ハブ輪13の外周面138には、外輪2のアウター側の外側軌道面24に対向するようにアウター側の内側軌道面133が設けられている。
【0059】
ハブ輪13の内径部には、軸方向のアウター側端からインナー端側へ向けて凹陥する凹部137が形成されている。凹部137は、軸方向において、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6との間の位置まで形成されている。ハブ輪13の小径段部131には、内輪4が設けられている。ハブ輪13のインナー側端部は内輪4のインナー側端面にかしめられており、内輪4は圧入およびかしめ加工によりハブ輪13の小径段部131に固定されている。
【0060】
ハブ輪13は、軸方向において、内側軌道面133と、内側軌道面133よりもインナー側の外周面138との間に傾斜面139を有している。ハブ輪3は、摺接面134が形成された部分から、内側軌道面133が形成された部分および傾斜面139が形成された部分を経て、外周面138に至るまで、熱処理硬化層Rを有している。
【0061】
車輪用軸受装置1Bにおいては、外輪2のインナー側開口部21にはインナー側シール部材10は嵌合されておらず、代わりにインナー側開口部21を閉塞するキャップ15が嵌合されている。車輪用軸受装置1Bのその他の構成については車輪用軸受装置1と同様であるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0062】
[車輪用軸受装置1Bにおけるボールのピッチ円径とボール間ピッチとの関係]
車輪用軸受装置1Bにおいては、車輪用軸受装置1の場合と同様に、ボール間ピッチaに対するピッチ円径bの比率(b/a)が2.0以上となるように設定されている。つまり、ピッチ円径bとボール間ピッチaとが、b/a≧2.0の関係を満たすように設定されている。
【0063】
ピッチ円径bとボール間ピッチaとを、b/a≧2.0となるように設定することで、車輪用軸受装置1Bの径方向の大きさを大きく形成するとともに、インナー側ボール列5の保持器8とアウター側ボール列6の保持器8とが干渉することを防ぎながら軸方向の大きさを小さく形成することが可能となる。これにより、車輪用軸受装置1Bの径方向の大きさと軸方向の大きさとの最適化を図って、車輪用軸受装置1Bの剛性や寿命を高めつつ、車輪用軸受装置1を軽量化することが可能となっている。
【0064】
[車輪用軸受装置1Bにおけるハブ輪の形状]
ハブ輪13の凹部137は、ハブ輪13の外形形状に沿って形成されており、ハブ輪13における摺接面134と凹部137の内周面との間の肉厚はd1であり、ハブ輪13における内側軌道面133と凹部137の内周面との間の肉厚はe1であり、ハブ輪13における傾斜面139と凹部137の内周面との間の肉厚はf1である。
【0065】
なお、肉厚d1は、摺接面134と凹部137の内周面との最短距離にて表され、肉厚e1は、内側軌道面133と凹部137の内周面との最短距離にて表され、肉厚f1は、傾斜面139と凹部137の内周面との最短距離にて表される。
【0066】
図6に示すように、ハブ輪13における摺接面134が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さはd2であり、ハブ輪13における内側軌道面133が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さはe2であり、ハブ輪13における傾斜面139が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さはf2である。
【0067】
車輪用軸受装置1Bにおいては、摺接面134と凹部137の内周面との間の肉厚d1は、摺接面134が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さd2の2倍以上の厚さに形成されており、内側軌道面133と凹部137の内周面との間の肉厚e1は、内側軌道面133が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さe2の2倍以上の厚さに形成されており、傾斜面139と凹部137の内周面との間の肉厚f1は、傾斜面139が形成された部分の熱処理硬化層Rの深さf2の2倍以上の厚さに形成されている。
【0068】
また、摺接面134と凹部137の内周面との間の肉厚d1と、内側軌道面133と凹部137の内周面との間の肉厚e1と、傾斜面139と凹部137の内周面との間の肉厚f1とは、肉厚d1、肉厚e1、および肉厚f1の相互差が5mm以下となるように設定されている。なお、肉厚d1、肉厚e1、および肉厚f1の相互差とは、肉厚d1、肉厚e1、および肉厚f1の最大値と最小値との差のことをいう。つまり、肉厚d1と肉厚e1と肉厚f1とは、相互差が5mm以下となるように設定されており、略均一の大きさとなっている。また、肉厚d1と肉厚e1とは相互差が5mm以下となるように設定されており、肉厚e1と肉厚f1とは相互差が5mm以下となるように設定されている。
【0069】
このように、車輪用軸受装置1Bにおいては、ハブ輪13に凹部137が形成されているため、車輪用軸受装置1Bの軽量化を図ることが可能となっている。この場合、ハブ輪13の肉厚d1、e1、f1は、熱処理硬化層Rの深さf2の2倍以上の厚さに形成されているため、ハブ輪13の剛性を確保することが可能となっている。また、ハブ輪13における肉厚d1、肉厚e1、および肉厚f1が略均一の大きさに形成されていると、ハブ輪13の鍛造加工によるファイバーフローが内側軌道面133に沿いながら車輪取り付けフランジ132側へ向かって良好に形成されるため、車輪用軸受装置1Bの寿命を向上することが可能となっている。
【0070】
なお、ハブ輪13においては、凹部137が軸方向において傾斜面139よりもアウター側の部分までにしか形成されていないこともある。この場合は、摺接面134と凹部137の内周面との間の肉厚d1と、内側軌道面133と凹部137の内周面との間の肉厚e1とを、肉厚d1および肉厚e1の相互差が5mm以下となるように設定することができる。この場合においても、ハブ輪13の鍛造加工によるファイバーフローは内側軌道面133に沿って良好に形成されることとなり、車輪用軸受装置1Bの寿命を向上することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1、1A、1B 車輪用軸受装置
2 外輪
3、13 ハブ輪
4 内輪
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
9、19 アウター側シール部材
23 (インナー側の)外側軌道面
24 (アウター側の)外側軌道面
27 外周面
32、132 車輪取り付けフランジ
33、133 (アウター側の)内側軌道面
35、135 ボルト孔
36、136 ハブボルト
41 (インナー側の)内側軌道面
134 摺接面
137 凹部
138 外周面
139 傾斜面
192e 堰部
a ボール間ピッチ
b (ボールの)ピッチ円径
c (ハブボルトの)ピッチ円径
d1 (ハブ輪の摺接面と凹部の内周面との間の)肉厚
d2 (ハブ輪の摺接面が形成された部分の)熱処理硬化層の深さ
e1 (ハブ輪の内側軌道面と凹部の内周面との間の)肉厚
e2 (ハブ輪の内側軌道面が形成された部分の)熱処理硬化層の深さ
f1 (ハブ輪の傾斜面と凹部の内周面との間の)肉厚
f2 (ハブ輪の傾斜面が形成された部分の)熱処理硬化層の深さ
R 熱処理硬化層