(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172861
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両制動方法及び車両制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/1755 20060101AFI20241205BHJP
B60T 8/172 20060101ALI20241205BHJP
B60T 8/171 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60T8/1755 Z
B60T8/172 Z
B60T8/171 Z
B60T8/172 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090866
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】塩澤 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】関 健一
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246DA01
3D246GA22
3D246GB12
3D246GB13
3D246HA03A
3D246HA64A
3D246HA74B
3D246HA81A
3D246HA93A
3D246HA94A
3D246HA95A
3D246HA98B
3D246HB02B
3D246HC01
3D246HC03
3D246HC04
3D246JA12
3D246JB53
(57)【要約】
【課題】自車両が実現できる制動力を向上する。
【解決手段】車両制動方法では、自車両に要求される要求制動力を設定し(S1)、路面の摩擦係数を検出し(S2)、自車両の前輪及び後輪のタイヤにそれぞれ発生している横力を算出し(S3)、少なくとも要求制動力と、摩擦係数と、横力とに基づいて、タイヤの摩擦限界に対するタイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出し(S4)、要求制動力を制動力配分比で配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる(S5、S6)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両に要求される要求制動力を設定し、
路面の摩擦係数を検出し、
前記自車両の前輪及び後輪のタイヤにそれぞれ発生している横力を算出し、
少なくとも前記要求制動力と、前記摩擦係数と、前記横力とに基づいて、前記タイヤの摩擦限界に対する前記タイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前記前輪と前記後輪との間で同一になるように、前記前輪と前記後輪との間の制動力配分比を算出し、
前記要求制動力を前記制動力配分比で配分した制動力を前記前輪及び前記後輪に発生させる、
ことを特徴とする車両制動方法。
【請求項2】
要求制動力に基づいて前記前輪及び前記後輪の輪荷重を算出し、
前記摩擦係数と、前記輪荷重と、前記横力に応じて算出される前記タイヤ力使用率を含んだ評価関数を用いて、前記制動力配分比を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の車両制動方法。
【請求項3】
前記評価関数は、前記前輪と前記後輪との間の輪荷重の荷重移動量を含み、
前記荷重移動量を、前記制動力配分比と前記要求制動力とに基づいて定義する、
ことを特徴とする請求項2に記載の車両制動方法。
【請求項4】
前記評価関数は、前記前輪と前記後輪との間の輪荷重の荷重移動量を含み、
前記荷重移動量を、前記要求制動力と前記自車両の車両諸元に基づいて算出する、
ことを特徴とする請求項2に記載の車両制動方法。
【請求項5】
前記自車両に発生させる要求制動力と、路面の摩擦係数と、前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している横力とに応じた、前記前輪と前記後輪との間でタイヤ力使用率が同一となる制動力配分比を予め記憶したマップを用いて、前記制動力配分比を算出することを特徴とする請求項1に記載の車両制動方法。
【請求項6】
次式(1)又は次式(2)に示す釣り合い式に基づいて前記マップを生成し、
【数1】
上式(1)及び上式(2)において、xは制動力配分比を定める変数、μ
Fは前記前輪における路面の摩擦係数、μ
Rは前記後輪における路面の摩擦係数、W
F(x)はxに応じた前記前輪の輪荷重、W
R(x)はxに応じた前記後輪の輪荷重、Ws
Fは前記前輪の静的輪荷重、Ws
Rは前記後輪の静的輪荷重、Fy
Fは前記前輪のタイヤの横力、Fy
Rは前記後輪のタイヤの横力、Fb
F(x)はxに応じた前記前輪の制動力、Fb
R(x)はxに応じた前記後輪の制動力であることを特徴とする請求項5に記載の車両制動方法。
【請求項7】
前記前輪と前記後輪との間の輪荷重の荷重移動量に基づいて、前記輪荷重WF(x)及びWR(x)を算出し、
前記荷重移動量を、前記制動力配分比と前記要求制動力とに基づいて定義するか、前記要求制動力と前記自車両の車両諸元に基づいて算出する、
ことを特徴とする請求項6に記載の車両制動方法。
【請求項8】
自車両に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、前記自車両の前輪及び後輪のタイヤにそれぞれ発生している横力を算出し、少なくとも前記要求制動力と、前記摩擦係数と、前記横力とに基づいて、前記タイヤの摩擦限界に対する前記タイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前記前輪と前記後輪との間で同一になるように、前記前輪と前記後輪との間の制動力配分比を算出し、前記要求制動力を前記制動力配分比で配分した制動力を前記前輪及び前記後輪に発生させるコントローラと、
を備えることを特徴とする車両制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制動方法及び車両制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車重推定値に基づいて理想制動力配分を補正する制動力制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の制動力制御装置は、路面の摩擦係数や自車両のタイヤが生じる横力を考慮せずに制動力配分を設定する。このため路面状態や自車両の走行状態によっては制動力が低下する虞があった。
本発明は、自車両が実現できる制動力を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による車両制動方法では、自車両に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、自車両の前輪及び後輪のタイヤにそれぞれ発生している横力を算出し、少なくとも要求制動力と、摩擦係数と、横力とに基づいて、タイヤの摩擦限界に対するタイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出し、要求制動力を制動力配分比で配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両が実現できる制動力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の車両制動装置の一例の概略構成図である。
【
図2】第1実施形態の車両制動方法の一例を説明する模式図である。
【
図3】第1実施形態の車両制動方法の一例のフローチャートである。
【
図4】第2実施形態のコントローラの機能構成の一例のブロック図である。
【
図5】(a)~(d)は、配分比マップの特性例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1は、実施形態の車両制動装置10の一例の概略構成図である。自車両1は、自車両1の制動力を制御する車両制動装置10を備える。車両制動装置10は、車輪速センサ11と、加速度センサ12と、ヨーレイトセンサ13と、ブレーキセンサ14と、コントローラ15と、ブレーキコントローラ16と、制動装置17を備える。
車輪速センサ11は、自車両1の右前輪、左前輪、右後輪及び左後輪の各々の車輪速をそれぞれ検出する。このような車輪速センサ11は、ABS(アンチロックブレーキシステム)、TCS(トラクションコントロールシステム)、ESC(横滑り防止機構)等の制御システムのため、多くの車種に搭載される。車輪速センサ11は、これらの車輪速の情報信号をコントローラ15へ出力する。
【0010】
加速度センサ12は、自車両1の3軸方向(すなわち前後方向、車幅方向、上下方向)の加速度及び減速度を検出し、加速度及び減速度の情報信号をコントローラ15へ出力する。
ヨーレイトセンサ13は、自車両1のヨーレイト(ヨー角の時間変化)を検出し、ヨーレイトの情報信号をコントローラ15へ出力する。
ブレーキセンサ14は、運転者によるブレーキペダル2の操作量であるブレーキ操作量を検出し、ブレーキ操作量の情報信号をコントローラ15へ出力する。
【0011】
コントローラ15は、自車両1に発生させる制動力を制御する電子制御ユニットである。例えばコントローラ15は、プロセッサ15aと、記憶装置15b等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサ15aは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置15bは、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置15bは、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリや、レジスタ、キャッシュメモリ、を含んでよい。
【0012】
以下に説明するコントローラ15の機能は、例えばプロセッサ15aが、記憶装置15bに格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
コントローラ15を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ15は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばコントローラ15はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0013】
制動装置17は、右前輪、左前輪、右後輪及び左後輪で発生する制動力を個々に制御できる制動機構である。例えば制動装置17は、摩擦ブレーキであってよい。
ブレーキコントローラ16は、制動装置17に発生させる制動トルクを制御する電子制御ユニットであり、コントローラ15から出力される制動トルク指令値に基づいて、制動装置17に制動トルクを発生させる。
【0014】
ブレーキコントローラ16は、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含む。ブレーキコントローラ16は、専用のハードウエアにより形成してもよい。
なお、コントローラ15とブレーキコントローラ16は、それぞれ別個のコントローラであってもよく、同じコントローラに統合してもよい。
【0015】
次に、第1実施形態の車両制動方法について説明する。
図2は、第1実施形態の車両制動方法の一例を説明する模式図である。
図2では、右輪及び左輪を車軸の中心に位置する1輪として近似する二輪モデルを用いて、前輪及び後輪のタイヤが発生する摩擦力を示している。
【0016】
矢印FbF及びFbRは、自車両1の減速時に前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生する縦力である前輪制動力及び後輪制動力を示す。
コントローラ15は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。なお、自車両1が自動運転車両である場合には、コントローラ15は、自車両1の目標経路と周囲環境とに基づいて設定された目標走行軌道と車速プロファイルに基づいて要求制動力Fbを設定してよい。コントローラ15は、前輪及び後輪の制動力の和(FbF+FbR)が要求制動力Fbとなるように、要求制動力Fbを前輪及び後輪にそれぞれ配分する。
【0017】
矢印FyF及びFyRは、前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生する横力である前輪横力及び後輪横力を示す。前輪制動力FbFと前輪横力FyFとの合力である前輪合力FrFは、前輪と路面との間に働く摩擦力の合計である。同様に後輪制動力FbRと後輪横力FyRとの合力である後輪合力FrRは、後輪と路面との間に働く摩擦力の合計である。
【0018】
ここで、タイヤと路面との間で発生させることができる最大摩擦力は「摩擦円」と呼ばれる各タイヤの摩擦限界によって制限される。
図2の破線の円は、前輪及び後輪のタイヤの摩擦限界の大きさを模式的に表している。前輪の摩擦限界は、前輪における路面の摩擦係数μ
Fと前輪にかかる輪荷重W
F(x)との積(μ
F×W
F(x))によって定まる。以下の説明において摩擦係数μ
Fを「前輪摩擦係数μ
F」と表記し、輪荷重W
F(x)を「前輪荷重W
F(x)」と表記することがある。
【0019】
同様に、後輪の摩擦限界は、後輪における路面の摩擦係数μRと後輪にかかる輪荷重WR(x)との積(μR×WR(x))によって定まる。以下の説明において摩擦係数μRを「後輪摩擦係数μR」と表記し、輪荷重WR(x)を「後輪荷重WR(x)」と表記することがある。
ここで、要求制動力Fbを前輪に配分した前輪制動力FbFと前輪に働いている前輪横力FyFとの前輪合力FrFの大きさが、前輪摩擦限界(μF×WF(x))を超えると、前輪で発生する摩擦力が前輪摩擦限界(μF×WF(x))によって制限されることにより、目標の前輪制動力FbFを実現できない。
【0020】
同様に、要求制動力Fbを後輪に配分した後輪制動力FbRと後輪に働いている後輪横力FyRとの後輪合力FrRの大きさが、後輪摩擦限界(μR×WR(x))を超えると、後輪で発生する摩擦力が後輪摩擦限界(μR×WR(x))によって制限されることにより、目標の後輪制動力FbRを実現できない。
このように、前輪又は後輪の一方において摩擦限界を超えると要求制動力Fbを実現できなくなるため、自車両1が実現できる最大制動力が低下する。
【0021】
そこで、コントローラ15は、タイヤの摩擦限界に対するタイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率(発生摩擦力/摩擦限界)が、前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出し、要求制動力を制動力配分比で配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる。
これにより、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。この結果、例えばタイヤグリップ限界における自車両1の最大制動力を向上させることができる。また、外乱などにより、タイヤ横力や輪荷重比が変動しても、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えて、自車両1の制動力が低下するのを抑制できる。
【0022】
(動作)
図3は、第1実施形態の車両制動方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてコントローラ15は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。
ステップS2においてコントローラ15は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rを検出する。例えばコントローラ15は、右前輪及び左前輪の車輪速に基づいて前輪のタイヤスリップ率を算出し、前輪のタイヤスリップ率に基づいて前輪摩擦係数μ
Fを検出してよい。また右後輪及び左後輪の車輪速に基づいて後輪のタイヤスリップ率を算出し、後輪のタイヤスリップ率に基づいて後輪摩擦係数μ
Rを検出してよい。
【0023】
ステップS3においてコントローラ15は、前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している前輪横力FyF及び後輪横力FyRを算出する。
例えばコントローラ15は、次式(1)~(4)に基づいて前輪横力FyF及び後輪横力FyRを推定してよい。
【0024】
【0025】
上式(1)~(4)において、lF及びlRはそれぞれ自車両1の重心点から前輪車軸及び後輪車軸までの距離であり、Fyは重心点に作用する横力であり、Mzは重心点のヨーモーメントであり、Mは自車両1の車重であり、ayは重心点の加速度であり、Izは自車両1の慣性モーメントであり、γは自車両1のヨーレイトである。
ステップS4においてコントローラは、少なくとも要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRと、前輪横力FyF及び後輪横力FyRとに基づいて、タイヤの摩擦限界に対するタイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出する。
【0026】
ステップS5においてコントローラ15は、要求制動力Fbを制動力配分比で配分することにより、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定する。
ステップS6においてブレーキコントローラ16は、制動力FbF及び制動力FbRを前輪及び後輪にそれぞれ発生させる。その後に処理は終了する。
【0027】
(第2実施形態)
続いて、第2実施形態について説明する。自車両1が発生可能な最大減速度を発生させるタイヤグリップ限界付近では、制動力配分比によっては前輪又は後輪でタイヤの摩擦力が摩擦限界を超える。このため、要求制動力Fbを実現できずに減速度が低下する。すなわち、制動力配分比によって自車両1に発生する減速度が変化する。
この結果、前輪と後輪との間で輪荷重の移動が生じ、前輪及び後輪のタイヤの摩擦限界が変化する。このため、前輪及び後輪のタイヤの摩擦限界の大きさを先に決定してから制動力配分比を算出することができなくなる。
【0028】
そこで、第2実施形態ではタイヤ力使用率を含んだ評価関数を用いて最適化演算を行うことにより、前輪と後輪との間でタイヤ力使用率が同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出する。
図4は、第2実施形態のコントローラ15の機能構成の一例のブロック図である。
第2実施形態のコントローラ15は、要求制動力設定部20と、路面摩擦係数検出部21と、タイヤ横力推定部22と、制動力配分比算出部23と、制動力設定部24とを備える。
【0029】
要求制動力設定部20は、ブレーキセンサ14が検出したブレーキ操作量に基づいて要求制動力Fbを設定する。なお、自車両1が自動運転車両である場合には、要求制動力設定部20は、自車両1の目標経路と周囲環境とに基づいて設定された目標走行軌道と車速プロファイルに基づいて要求制動力Fbを設定してよい。
路面摩擦係数検出部21は、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRを検出する。例えば路面摩擦係数検出部21は、上述したように前輪及び後輪のタイヤスリップ率にそれぞれ基づいて、前輪摩擦係数μFと後輪摩擦係数μRを検出してよい。
【0030】
タイヤ横力推定部22は、自車両1の横加速度ayとヨーレイトγに基づいて前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している前輪横力FyF及び後輪横力FyRを算出する。
例えばタイヤ横力推定部22は、上式(1)~(4)に基づいて前輪横力FyF及び後輪横力FyRを推定してよい。
制動力配分比算出部23は、要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRと、前輪横力FyF及び後輪横力FyRとに基づいて、後輪の制動力配分比κを算出する。制動力配分比算出部23の詳細については後述する。
【0031】
制動力設定部24は、前輪の制動力配分比(1-κ)と後輪の制動力配分比κに基づいて、要求制動力Fbを前輪及び後輪に配分することにより、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定する。
例えば制動力設定部24は、次式(5)及び(6)に基づいて制動力FbF及び後輪の制動力FbRを設定してよい。
FbF=(1-κ)×Fb …(5)
FbR=κ×Fb …(6)
制動力設定部24は、前輪の制動力FbF及び後輪の制動力FbRを指示する制動トルク指令値を、ブレーキコントローラ16に出力する。
【0032】
続いて、制動力配分比算出部23による処理について説明する。制動力配分比算出部23は、前輪のタイヤの摩擦限界に対する前輪のタイヤに発生している摩擦力の比率(発生摩擦力/摩擦限界)である前輪タイヤ力使用率RuFと、後輪のタイヤの摩擦限界に対する後輪のタイヤに発生している摩擦力の比率である後輪タイヤ力使用率RuRとが互いに等価になり、且つ最小化するように、前輪と後輪との間の制動力配分比を定める制御パラメータΔκを算出する。
【0033】
制動力配分比算出部23は、前輪と後輪と制動力配分比(1-κ)及びκを、制御パラメータΔκを用いて次式(7)及び(8)のように設定する。制動力FbF及び後輪の制動力FbRは、それぞれ次式(9)及び(10)により設定される。
前輪の制動力配分比(1-κ)=(κF-Δκ) …(7)
後輪の制動力配分比κ=(κR+Δκ) …(8)
FbF=(κF-Δκ)×Fb …(9)
FbR=(κR+Δκ)×Fb …(10)
【0034】
上式(7)~(10)において定数κFとκRは、それぞれ前輪制動力配分比基準値及び後輪制動力配分比基準値である。
制動力配分比算出部23は、前輪制動力配分比(κF-Δκ)と後輪制動力配分比(κR+Δκ)とが「0」~「1」の範囲の値となるように、制御パラメータΔκの値を-κR≦Δκ≦κFの範囲に制限する。
【0035】
ここで、求めるべき制御パラメータΔκを変数xとすると、前輪及び後輪の制動力はそれぞれ変数xの関数FbF(x)及びFbR(x)となる。
また、前輪荷重及び後輪荷重は、自車両1の減速度に応じた前後輪の荷重移動量に応じて変化し、荷重移動量は制動力配分比に応じて変化するため、前輪荷重及び後輪荷重並びに荷重移動量も、変数xの関数WF(x)及びWR(x)並びにΔW(x)となる。
【0036】
例えば、前輪荷重WF(x)及び後輪荷重WR(x)並びに荷重移動量ΔW(x)は次式(11)、(12)及び(13)のように定義してよい。
WF(x)=WsF+ΔW(x) …(11)
WR(x)=WsR-ΔW(x) …(12)
ΔW(x)=(C-B×x)×Fb …(13)
【0037】
ここで、WsF及びWsRは、それぞれ前輪及び後輪の静的輪荷重(以下の説明において「静的前輪荷重」及び「静的後輪荷重」と表記することがある)であり、C及びBは車両特性に応じて定まる定数である。
例えば本実施形態では、タイヤ力使用率RuF及びRuRを次式(14)及び(15)のように定義する。
【0038】
【0039】
前輪タイヤ力使用率RuFと後輪タイヤ力使用率RuRとが等価となり且つ最小化するように制御パラメータΔκを算出することにより、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。この結果、タイヤグリップ限界における自車両1の最大制動力を向上させることができる。また、外乱などにより、タイヤ横力や輪荷重比が変動しても、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えて、自車両1の制動力が低下するのを抑制できる。
【0040】
前輪タイヤ力使用率RuFと後輪タイヤ力使用率RuRとを等価とし、且つ最小化するために、望大特性のスラック変数ΔFF=μF
2×WF(x)2-FbF(x)2及びΔFR=μR
2×WR(x)2-FbR(x)2を定義する。
さらに、これらのスラック変数を無次元化してから、次式(16)の評価関数J(x)を生成する。
【0041】
【0042】
上式(16)の評価関数J(x)を変数xで偏微分し、次式(17)の方程式を解くことにより評価関数J(x)を最大化する最適化演算を行うと、次式(18)の算出式が得られる。
【0043】
【0044】
評価関数J(x)は、前後輪のタイヤの摩擦使用率を表す評価関数であり、上記の方程式(17)を解くことによって、前後輪のタイヤの摩擦使用率が最小且つ同値となる場合の制動力配分比を求めることができる。
制動力配分比算出部23は、要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRと、前輪横力FyF及び後輪横力FyRとを上式(18)に代入することにより、制御パラメータΔκを算出する。そして、制御パラメータΔκを上式(8)に代入して後輪の制動力配分比κを算出する。
【0045】
(第3実施形態)
第2実施形態の制動力配分比算出部23は、上式(18)に基づいて後輪の制動力配分比κを算出した。
第3実施形態では、予め要求制動力Fb、前輪摩擦係数μ
F及び後輪摩擦係数μ
R、並びに前輪横力Fy
F及び後輪横力Fy
Rの組合せと、後輪の制動力配分比κとを関連付けて記憶した配分比マップを生成して、記憶装置15bに格納しておく。
図5(a)~
図5(d)は配分比マップの一例の模式図である。
図5(a)~
図5(d)において前輪摩擦係数μ
F及び後輪摩擦係数μ
Rを総称して「μ」と表記している。例えば
図5(a)~
図5(d)の配分比マップは、前輪横力FyF及び後輪横力FyRと制動力配分比kとの間の関係性を表すマップであり、前輪摩擦係数μ
F、後輪摩擦係数μ
R及び要求制動力Fbの値ごとに異なる配分比マップを作成する。この配分比マップを用いて制動力配分比kを算出する。
【0046】
マップの算出方法として例えば、前輪及び後輪のタイヤ力使用率が同一になるように定義した以下の釣り合い式(19)に基づいて、要求制動力Fb、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μR、並びに前輪横力FyF及び後輪横力FyRの組合せに対応する後輪の制動力配分比κを算出してよい。
【0047】
【0048】
上式(19)を、変数x(制御パラメータΔκ)について解くことにより、以下の算出式(20)が導出される。
要求制動力Fbと、前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRと、前輪横力FyF及び後輪横力FyRとを次式(20)に代入することにより、制御パラメータΔκを算出する。制御パラメータΔκを上式(8)に代入すると後輪の制動力配分比κが得られる。
【0049】
【0050】
また、配分比マップは、前輪及び後輪のタイヤ力使用率が同一になるように定義した以下の釣り合い式(21)に基づいて生成してもよい。
【数7】
【0051】
制動力配分比算出部23は、要求制動力設定部20が設定した要求制動力Fbと、路面摩擦係数検出部21が検出した前輪摩擦係数μF及び後輪摩擦係数μRと、タイヤ横力推定部22が推定した前輪横力FyF及び後輪横力FyRの組合せに基づいて、配分比マップから、対応する後輪の制動力配分比κを読み出して、制動力設定部24に出力する。
【0052】
図5(a)~
図5(d)を参照して、配分比マップの一例の特性を模式的に説明する。
図5(a)~
図5(d)の配分比マップは、後輪の制動力配分比κの大きさを円の大きさで表している。
図5(a)は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rが比較的大きく、要求制動力Fbが比較的小さい場合の配分比マップの模式図である。
図5(b)は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rが比較的大きく、要求制動力Fbが比較的大きい場合の配分比マップの模式図である。
【0053】
図5(c)は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rが比較的小さく、要求制動力Fbが比較的小さい場合の配分比マップの模式図である。
図5(d)は、前輪摩擦係数μ
Fと後輪摩擦係数μ
Rが比較的小さく、要求制動力Fbが比較的大きい場合の配分比マップの模式図である。
【0054】
図5(a)~
図5(d)に示すように、配分比マップは、前輪横力Fy
Fが小さい場合に比べて大きい場合に、後輪の制動力配分比κがより大きくなるように生成してよい。例えば前輪横力Fy
Fが大きいほど制動力配分比κがより大きくなるように生成してよい。
また、配分比マップは、後輪横力Fy
Rが小さい場合に比べて大きい場合に、後輪の制動力配分比κがより小さくなるように生成してよい。例えば後輪横力Fy
Rが大きいほど制動力配分比κがより小さくなるように生成してよい。
【0055】
また、配分比マップは、要求制動力Fbが大きい場合に比べて小さい場合に、後輪の制動力配分比κがより大きくなるように生成してよい。例えば要求制動力Fbが小さいほど、制動力配分比κがより大きくなるように生成してよい。
また、配分比マップは、摩擦係数μFや摩擦係数μRが(以下、総称して「摩擦係数μ」と表記することがある)が大きい場合に比べて小さい場合に、前輪横力FyFの変化量に対する後輪の制動力配分比κの変化量の割合(制動力配分比κの変化量/前輪横力FyFの変化量)がより大きくなるように設定してよい。例えば摩擦係数μが小さいほど割合が大きくなるように設定してよい。
同様に、摩擦係数μが大きい場合に比べて小さい場合に、後輪横力FyRの変化量に対する後輪の制動力配分比κの変化量の割合(制動力配分比κの変化量/後輪横力FyRの変化量)がより大きくなるように設定してよい。例えば摩擦係数μが小さいほど割合が大きくなるように設定してよい。
【0056】
(変形例)
上記の第2実施形態の上式(16)及び第3実施形態の上式(19)及び(21)では、上式(13)で算出される荷重移動量としてΔW(x)を用いた。
これに代えて、上式(16)、(19)及び(21)において、次式(22)の荷重移動量ΔWを用いてもよい。次式(22)において、Lは自車両1のホイールベース長であり、hは自車両1のピッチセンターと重心との間の高低差である。
【0057】
【0058】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ15は、自車両1に要求される要求制動力を設定し、路面の摩擦係数を検出し、自車両1の前輪及び後輪のタイヤにそれぞれ発生している横力を算出し、少なくとも要求制動力と、摩擦係数と、横力とに基づいて、タイヤの摩擦限界に対するタイヤに発生している摩擦力の比であるタイヤ力使用率が、前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出し、要求制動力を制動力配分比で配分した制動力を前輪及び後輪に発生させる。
【0059】
これにより、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えるのを抑制できる。この結果、例えばタイヤグリップ限界における自車両1の最大制動力を向上させることができる。また、外乱などにより、タイヤ横力や輪荷重比が変動しても、前輪のタイヤ及び後輪のタイヤのどちらか一方が先に摩擦限界を超えて、自車両1の制動力が低下するのを抑制できる。
【0060】
(2)コントローラ15は、要求制動力に基づいて前輪及び後輪の輪荷重を算出し、摩擦係数と、輪荷重と、横力に応じて算出されるタイヤ力使用率を含んだ評価関数を用いて、制動力配分比を算出してよい。
これにより、自車両1が発生可能な最大減速度を発生させるタイヤグリップ限界付近においても、タイヤ力使用率が前輪と後輪との間で同一になるように、前輪と後輪との間の制動力配分比を算出できる。
【0061】
(3)評価関数は、前輪と後輪との間の輪荷重の荷重移動量を含んでよい。荷重移動量を、制動力配分比と要求制動力とに基づいて定義するか、要求制動力と自車両1の車両諸元に基づいて算出してよい。例えば上式(13)に基づいて定義するか、上式(22)に基づいて算出してよい。
これにより、要求制動力を含んだ評価関数を用いて制動力配分比を算出できる。
【0062】
(4)コントローラ15は、自車両1に発生させる要求制動力と、路面の摩擦係数と、前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している横力とに応じた、前輪と後輪との間でタイヤ力使用率が同一となる制動力配分比を予め記憶したマップを用いて、制動力配分比を算出してもよい。上記のマップは、例えば上式(19)又は上式(21)に示す釣り合い式に基づいてマップを生成してもよい。
これにより、制動時点におけるコントローラ15の処理負荷を低減できる。
【0063】
(5)上記のマップの生成において、前輪の輪荷重及び後輪の輪荷重を、前輪と後輪との間の輪荷重の荷重移動量に基づいて算出してよい。荷重移動量は、制動力配分比と要求制動力とに基づいて定義するか、要求制動力と自車両1の車両諸元に基づいて算出してよい。例えば上式(13)に基づいて定義するか、上式(22)に基づいて算出してよい。
これにより、要求制動力に基づいて制動力配分比を算出するマップを生成できる。
(6)前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している横力は、自車両1の横加速度とヨーレイトに基づいて算出してよい。
これにより、前輪及び後輪のタイヤがそれぞれ発生している横力を推定できる。
【符号の説明】
【0064】
1…自車両、2…ブレーキペダル、10…車両制動装置、11…車輪速センサ、12…加速度センサ、13…ヨーレイトセンサ、14…ブレーキセンサ、15…コントローラ、15a…プロセッサ、15b…記憶装置、16…ブレーキコントローラ、17…制動装置、20…要求制動力設定部、21…路面摩擦係数検出部、22…タイヤ横力推定部、23…制動力配分比算出部、25…制動力設定部