(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172863
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ヒンジ
(51)【国際特許分類】
E05D 7/10 20060101AFI20241205BHJP
H05K 5/03 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E05D7/10
H05K5/03 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090870
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000131511
【氏名又は名称】株式会社シブタニ
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100127340
【弁理士】
【氏名又は名称】飛永 充啓
(72)【発明者】
【氏名】植野 ひかり
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】川中 勝男
【テーマコード(参考)】
2E030
4E360
【Fターム(参考)】
2E030AB01
2E030BB01
2E030JA02
2E030JB02
2E030JC03
4E360BA06
4E360BB02
4E360BB12
4E360BB23
4E360BC05
4E360BD05
4E360EA16
4E360EC11
4E360EC12
4E360EC14
4E360GA46
4E360GB99
4E360GC08
(57)【要約】
【課題】筐体よりも前方の位置で扉を180°以上開くことができながら、扉が開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉を筐体から取り外し可能な状態にすることができるヒンジにおいて、扉側羽根の意匠性を良くし、扉開閉の際に筐体内の物体を傷つける懸念を無くす。
【解決手段】扉側羽根10の軸筒部12と枠側羽根20の軸筒部23間にピン30が亘った接続状態を維持するための弾性部材40を枠側羽根20とピン30間に配置する。ピン30の軸部31を扉100の前面部101よりも前方に配置する。ピン30の操作レバー部32を軸方向に移動させて扉を取り外し可能なピン退避位置とし、更に操作レバー部32を回転させて係止状態にする。枠側羽根20は、接続状態で軸方向移動を停止した操作レバー部32の回動を規制する第一係止部(22,23c)と、係止状態のときに操作レバー部32の軸方向移動を規制する第二係止部22aとを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉に取り付けられる扉側羽根と、筐体に取り付けられる枠側羽根と、前記枠側羽根の軸筒部及び前記扉側羽根の軸筒部に対して軸方向に移動可能に配置されたピンと、前記ピンが前記枠側羽根の軸筒部及び前記扉側羽根の軸筒部間に亘った接続状態を維持する方向へ当該ピンを付勢する弾性部材とを備え、
前記枠側羽根と前記扉側羽根の相対的な回動の中心軸となる前記ピンの軸部が、前記扉の前面部よりも前方に配置されており、
前記扉を開いた状態で前記ピンの操作レバー部を前記弾性部材の付勢に抗して軸方向に移動させるピン移動操作によって前記扉を軸方向に対して直角な方向に取り外し可能なピン退避位置とし、当該ピンを当該ピン退避位置に維持する係止状態に移行させることができるヒンジにおいて、
前記弾性部材が、前記枠側羽根と前記ピンとの間に配置されており、
前記枠側羽根が、前記接続状態で軸方向移動を停止した前記ピンの前記操作レバー部の回動を規制する第一係止部と、前記係止状態のときに前記操作レバー部の軸方向移動を規制する第二係止部とを有することを特徴とするヒンジ。
【請求項2】
前記枠側羽根が、前記扉に対して左右一方側に位置する側板部を有し、
前記枠側羽根の軸筒部が、前記側板部との間に前記操作レバー部を軸方向に出し入れ可能な空間を形成するように軸方向に延びる切欠き縁を有し、
前記第一係止部が、前記側板部と前記切欠き縁とで構成されており、
前記第二係止部が、前記側板部に設けられ、前記側板部と前記切欠き縁との間に挟まれた前記操作レバー部と軸方向に対向する位置に突き出た突起からなる請求項1に記載のヒンジ。
【請求項3】
前記枠側羽根の軸筒部が、前記第二係止部から外された前記ピン退避位置の前記操作レバー部と軸方向に対向する位置から前記切欠き縁まで前記ピンの軸部周りに延びる螺旋状縁を有する請求項2に記載のヒンジ。
【請求項4】
前記ピンの軸部が、軸方向の中間部で小径としかつ軸方向の両端側で大径とした段付き軸からなり、
前記操作レバー部が、前記段付き軸の中間部を一体回動可能に掴む割溝部を有する取付部材からなる請求項1から3のいずれか1項に記載のヒンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気電子機器用のキャビネットに好適なヒンジに関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子機器用のキャビネットは、電気電子機器を筐体の前面に開口した入口から電気電子機器を筐体内に収納し、その入口を扉で覆うようになっている。その扉と筐体はヒンジで繋がれている。扉は、ヒンジのピンを回動中心として開閉可能な状態で筐体に対して支持される。筐体の内部に電気電子機器を設置する作業を行う際、扉が作業の邪魔にならないようにするため、扉を筐体から取り外した状態にしてから当該設置作業を行うことがある。このため、その扉の取り外しを容易に行えることが求められる。
【0003】
また、電気電子機器用のキャビネットは、密に並列配置されることがある。例えば、通信サーバを収納するサーバラックは、隣接するサーバラックの筐体同士を隙間なく配置することがある。このような場合、扉を開いて筐体の入口を全開することが可能でありながらも、開いた扉が隣接するキャビネットと干渉しないことが求められる。
【0004】
そのような電気電子機器用のキャビネットに好適なヒンジとして、扉の前面部に取り付けられる扉側羽根と、筐体の前面に取り付けられる枠側羽根と、枠側羽根の軸筒部及び扉側羽根の軸筒部に対して軸方向に移動可能に配置されたピンと、ピンが枠側羽根の軸筒部及び扉側羽根の軸筒部間に亘った接続状態を維持する方向へ当該ピンを付勢する弾性部材とを備えるものがある(特許文献1)。
【0005】
特許文献1に開示されたヒンジは、枠側羽根に対する扉側羽根の回動中心となるピンの軸部が扉の前面部よりも前方に配置されているので、筐体よりも前方の位置で扉を180°以上開くことができる。
【0006】
また、特許文献1に開示されたヒンジは、扉を開いた状態でピンの操作レバー部を弾性部材の付勢に抗して軸方向に移動させるピン押し操作によって扉を軸方向に対して直角な方向に取り外し可能なピン退避位置とし、更に当該操作レバー部を回すピン回し操作によって当該ピンを当該ピン退避位置に維持可能な係止状態に移行させることができるので、扉を開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉を筐体から取り外し可能な状態にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたヒンジは、扉側羽根の軸筒部とピンとの間に弾性部材を配置し、ピンの操作レバー部を旋回したり係止したりするための移動溝部を扉側羽根の後面側に設けた構造であるため、扉の前面部からピンの回動中心までの距離が大きく、したがって、扉の前面部に対する扉側羽根の前方側(手前側)への突出量が大きくなる。このため、キャビネットの前面視において扉側羽根が突出して目立ち、意匠性が悪くなる問題がある。また、ピンの操作レバー部が扉の後面側(筐体の入口側)に向けて突き出ているため、扉を開閉する際に操作レバー部の先端が筐体内の電気電子機器や配線と干渉して傷つけてしまう可能性がある。
【0009】
上述の背景に鑑み、この発明が解決しようとする課題は、筐体よりも前方の位置で扉を180°以上開くことができながら、扉を開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉を筐体から取り外し可能な状態にすることができるヒンジにおいて、扉側羽根の意匠性を良くすると共に、扉を開閉する際に筐体内の物体を傷つける懸念を無くすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、この発明は、扉に取り付けられる扉側羽根と、筐体に取り付けられる枠側羽根と、前記枠側羽根の軸筒部及び前記扉側羽根の軸筒部に対して軸方向に移動可能に配置されたピンと、前記ピンが前記枠側羽根の軸筒部及び前記扉側羽根の軸筒部間に亘った接続状態を維持する方向へ当該ピンを付勢する弾性部材とを備え、前記枠側羽根と前記扉側羽根の相対的な回動の中心軸となる前記ピンの軸部が、前記扉の前面部よりも前方に配置されており、前記扉を開いた状態で前記ピンの操作レバー部を前記弾性部材の付勢に抗して軸方向に移動させるピン移動操作によって前記扉を軸方向に対して直角な方向に取り外し可能なピン退避位置とし、当該ピンを当該ピン退避位置に維持可能な係止状態に移行させることができるヒンジにおいて、前記弾性部材が、前記枠側羽根と前記ピンとの間に配置されており、前記枠側羽根が、前記接続状態で軸方向移動を停止した前記ピンの前記操作レバー部の回動を規制する第一係止部と、前記係止状態のときに前記操作レバー部の軸方向移動を規制する第二係止部とを有することを特徴とするヒンジ、という構成1を採用した。
【0011】
上記構成1によると、筐体よりも前方の位置で扉を180°以上開くことができながら、扉を開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉を筐体から取り外し可能な状態にすることができるヒンジにおいて、ピン及び弾性部材を枠側羽根に配置し、接続状態でのピン回動規制用の第一係止部と係止状態でのピン移動規制用の第二係止部とを枠側羽根に集約して配置しているので、扉の前面部に対する扉側羽根の前方側への突出量を抑えて扉側羽根の意匠性を良くすることができると共に、扉を開閉する際に操作レバー部が回動することを無くして筐体内の物体を傷つける懸念を無くすことができる。
【0012】
上記構成1において、前記枠側羽根が、前記扉に対して左右一方側に位置する側板部を有し、前記枠側羽根の軸筒部が、前記側板部との間に前記操作レバー部を軸方向に出し入れ可能な空間を形成するように軸方向に延びる切欠き縁を有し、前記第一係止部が、前記側板部と前記切欠き縁とで構成されており、前記第二係止部が、前記側板部に設けられ、前記側板部と前記切欠き縁との間に挟まれた前記操作レバー部と軸方向に対向する位置に突き出た突起からなる、という構成2を採用してもよい。
【0013】
上記構成2によると、ピンの軸部を扉の前面部よりも前方に配置するために必要な枠側羽根の側板部と軸筒部を利用して第一係止部を構成すると共に側板部と軸筒部の切欠き縁間の空間と第二係止部を同一平面上に配置して、開扉状態のときに操作レバー部を側板部上の第二係止部に掛けるのに必要なピン回し操作を最小限にすることができると共に、閉扉状態のときに枠側羽根の側板部及び軸筒部で操作レバー部、切欠き縁及び第二係止部を隠蔽することができる。
【0014】
上記構成2において、前記枠側羽根の軸筒部が、前記第二係止部から外された前記ピン退避位置の前記操作レバー部と軸方向に対向する位置から前記切欠き縁まで前記ピンの軸部周りに延びる螺旋状縁を有する、という構成3を採用してもよい。
【0015】
上記構成3によると、操作レバー部を第二係止部から外して弾性部材の付勢によるピンの軸方向移動を行わせると、操作レバー部が枠側羽根の螺旋状縁に当接し、これ以降、螺旋状縁に対する操作レバー部の摺動で操作レバー部を自動的に回転させながら切欠き縁まで移動させ、第一係止部を構成する側板部と切欠き縁間に進入させることができる。ひいては、筐体に対して扉を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0016】
上記構成1から3のいずれか1つにおいて、前記ピンの軸部が、軸方向の中間部で小径としかつ軸方向の両端側で大径とした段付き軸からなり、前記操作レバー部が、前記段付き軸の中間部を一体回動可能に掴む割溝部を有する取付部材からなる、という構成4を採用してもよい。
【0017】
上記構成4によると、操作レバー部の割溝部を軸部の中間部に押し込むだけで操作レバー部を軸部に接続してピンに組み立てることが可能なため、ねじ止めや円筒面同士の圧入嵌合で軸に操作レバー部を接続する場合に比してピンの組み立てを容易にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述のように、この発明は、上記構成1の採用により、筐体よりも前方の位置で扉を180°以上開くことができながら、扉を開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉を筐体から取り外し可能な状態にすることができるヒンジにおいて、扉側羽根の意匠性を良くすると共に、扉を開閉する際に筐体内の物体を傷つける懸念を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明の一例としての第一実施形態に係るヒンジを示す斜視図
【
図2】(a)は
図1のヒンジの閉扉状態を示す平面図、(b)は
図1のヒンジの180°開扉状態を示す平面図
【
図4】
図2のピンの操作レバー部を第一係止部で規制した様子を示す部分斜視図
【
図5】
図2のピンの操作レバー部を第二係止部で規制した様子を示す部分斜視図
【
図6】
図5の状態から
図4の状態へピンを復帰させる際の途中の様子を示す部分斜視図
【
図8】この発明の別例としての第二実施形態に係るヒンジを示す斜視図
【
図9】(a)は
図8のヒンジの閉扉状態を示す平面図、(b)は
図8のヒンジの270°開扉状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の一例としての第一実施形態に係るヒンジを添付図面の
図1~7に基づいて説明する。
【0021】
図1、
図2に例示するヒンジ(以下、「このヒンジ」という。)は、扉100を筐体110に対して開閉自在に支持するものである。筐体110は、前面に入口を有する箱体であり、例えば、電気電子機器を収納するために使用される。扉100は、筐体110の入口を前方から覆う所定の閉扉位置と、その閉扉位置から所定角度まで開けるように筐体110に対して支持された開閉体である。扉100は、筐体110の上下方向に延びる中心軸周りに開閉可能になっている。なお、
図1、
図2では、前面に入口を有する筐体110のうち、その入口を形成する前面枠部111における左右一方側の端部と、これに連続する側板部112とを部分的に抜粋して示し、また、その入口を前方から覆う扉100のうち、扉100の前面部101における左右一方側の端部と、これに連続する小口部102とを部分的に抜粋して示している。扉100を筐体110に対して所定の閉扉位置に保つための機構、例えばラッチ機構等の図示は省略する。
【0022】
このヒンジは、
図1~
図3に示すように、扉100に取り付けられた扉側羽根10と、筐体110に取り付けられた枠側羽根20と、扉側羽根10と枠側羽根20の相対的な回動の中心軸となる軸部31を有するピン30と、ピン30の軸部31を軸方向に付勢する弾性部材40と、を備える。ここで、軸方向は、前述の中心軸に沿った方向のことをいい、図示例において扉100及び筐体110を基準とした前述の上下方向に一致している。
【0023】
扉側羽根10は、扉側取付板部11と、扉側取付板部11の左右一方側に連続する軸筒部12とを繋ぎ目なく一体に有する。
図4に示すように、扉側取付板部11は、平面状に形成された取付面11aを有する。また、取付面11aに交差する複数の穴部11bが扉側取付板部11に形成されている。
図2に示すように、扉側羽根10の取付面11aと扉100の前面部101とを複数のねじ部材51で締結することにより、扉側羽根10が扉100に取り付けられる。
【0024】
扉側羽根10の軸筒部12は、ピン30の軸部31の一端部を軸方向に挿入可能な穴を形成しており、その穴の内面において軸部31の一端部を軸方向に対して直角な軸径方向に支持する。扉側羽根10の軸筒部12の軸方向長さは、扉側取付板部11の軸方向長さよりも短く設けられている。
【0025】
図1~
図3に示すように、枠側羽根20は、枠側取付板部21と、枠側取付板部21の左右一方側から前方に延びる側板部22と、側板部22の前方側に連続する軸筒部23とを繋ぎ目なく一体に有する。枠側取付板部21と側板部22は、互いに90°に交差するアングル板状に設けられている。枠側取付板部21は、平面状に形成された取付面21aを有する。また、取付面21aに交差する複数の穴部21bが枠側取付板部21に形成されている。枠側羽根20の取付面21aと筐体110の前面枠部111とを複数のねじ部材52で締結することにより、枠側羽根20が筐体110に取り付けられる。
【0026】
側板部22は、扉100の小口部102に対して左右一方側に位置する。枠側羽根20の軸筒部23は、ピン30の軸部31の他端部を軸方向に挿入可能な穴を形成しており、その穴の内面において軸部31の他端部を軸方向に対して直角な軸径方向に支持する。枠側羽根20の軸筒部23の軸方向長さは、側板部22の軸方向長さよりも短く設けられている。枠側羽根20の軸筒部23と扉側羽根10の軸筒部12との間には、円環状のスラセ部材53が配置されている。スラセ部材53は、枠側羽根20の軸筒部23の端部に嵌合されており、その嵌合部において軸筒部23に対して回動不可な状態に規制されている。スラセ部材53は、扉側羽根10の軸筒部12の対向端部を中心軸周りに円滑に摺動させるために設けられている。
【0027】
ピン30は、
図4~
図6に示すように、枠側羽根20の軸筒部23及び扉側羽根10の軸筒部12に対して軸方向に所定ストロークだけ往復移動可能に配置されている。弾性部材40は、ピン30の軸部31が枠側羽根20の軸筒部23及び扉側羽根10の軸筒部12間に亘った接続状態(以下、単に「接続状態」という。)を維持する方向へピン30を付勢する。
【0028】
ピン30の軸部31は、
図2に示すように、扉100の前面部101よりも前方に配置されている。扉100が所定の閉扉位置にあるとき、
図2(a)に示すように、枠側取付板部21と扉側取付板部11が平行かつ左右他方側に向く。扉100を所定の閉扉位置から180°まで開くことが可能になっている。扉100を180°開いたとき、
図2(b)に示すように、枠側取付板部21と扉側取付板部11が平行かつ枠側取付板部21が左右他方側に向き、扉側取付板部11が左右一方側に向く。
【0029】
枠側羽根20は、筐体110の側板部112に対して左右一方側に位置する部位をもたないため、筐体110の側板部112に他の筐体(図示省略)が隙間なく隣接させることができる。このように密に筐体110が並列配置される場合でも、
図2(b)から明らかなように扉100を隣接する筐体や扉と干渉しないように180°開くことができる。
【0030】
なお、扉100を180°を超えて開こうとしたときに扉側取付板部11の左右一方側の端部が枠側羽根20を傷つけるのを防止するため、枠側羽根20の側板部22には、
図3に示すように、緩衝部材54が取り付けられている。
【0031】
弾性部材40は、
図3、
図4に示すように、枠側羽根20とピン30との間に配置されたコイルばねからなる。枠側羽根20の軸筒部23は、弾性部材40の軸方向の一端を受ける有底筒状になっている。弾性部材40の軸方向の他端は、段付き軸からなる軸部31の他端部に受けられている。弾性部材40は、ピン30の軸部31を枠側羽根20の軸筒部23内から扉側羽根10の軸筒部12内に向けて付勢する。
【0032】
ピン30は、軸方向に対して直角な方向に軸部31から突き出た操作レバー部32を有する。軸部31は、軸方向の中間部で小径としかつ軸方向の両端側で大径とした段付き軸からなる。軸部31の両端側の大径部は、枠側羽根20の軸筒部23によって軸方向に案内される。操作レバー部32は、段付き軸からなる軸部31の小径部を成す中間部を一体回動可能に掴む割溝部32aを有する取付部材からなる。段付き軸からなる軸部31の両端側の大径部は、軸部31に対する操作レバー部32の軸方向移動を阻止する。
【0033】
枠側羽根20の軸筒部23には、
図4~
図6に示すように、軸筒部23の外に操作レバー部32を突出させ、また、操作レバー部32の割溝部32aを軸部31に押し込む組み立てを可能とし、操作レバー部32の軸方向移動を所定ストロークだけ許容するための切欠き窓が形成されている。
【0034】
枠側羽根20の軸筒部23は、
図4に示すように、接続状態にあるピン30の操作レバー部32を弾性部材40の付勢に抗して軸方向に係止するスリット終端縁23bと、側板部22との間に操作レバー部32を軸方向に出し入れ可能な空間を形成するように軸方向に延びる切欠き縁23cとを有する。
【0035】
ピン30の所定の軸方向ストロークは、接続状態においてスリット終端縁23bが操作レバー部32を軸方向に係止するピン突出位置(
図4参照)と、ピン30の軸部31を扉側羽根10の軸筒部12から完全に脱出させたピン退避位置(
図5参照)との間を移動可能に設定されている。
【0036】
側板部22と切欠き縁23cは、
図4に示すように、接続状態でピン突出位置にあるピン30の操作レバー部32の回動を規制する第一係止部を構成する。側板部22と切欠き縁23cとの間の間隔は、操作レバー部32を軸部31周りの方向に挟持して操作レバー部32の回動を実質的に不可とする程度に設定されている。
【0037】
側板部22には、側板部22と切欠き縁23cとの間に挟まれた操作レバー部32と軸方向に対向する位置に突き出た突起からなる第二係止部22aが設けられている。操作レバー部32には、
図3、
図6に示すように、枠側羽根20の軸筒部23の外部に位置する第二係止部22aに対応した形状の係合窓32bと指掛け部32cとが設けられている。
【0038】
図2(b)に示すように扉100を開いた状態で扉100を取り外す場合、
図4に示す接続状態のピン30の操作レバー部32を弾性部材40の付勢に抗して軸方向に移動させるピン押し操作を行う。このピン押し操作は、指掛け部32cを指で軸方向に押すことで実行可能である。このピン押し操作により、操作レバー部32が側板部22と切欠き縁23cとの間から軸方向に脱出し、やがて第二係止部22aの上側当接面22cに軸方向に当接する。この後、操作レバー部32を軸部31周りに側板部22から遠ざかる方へ回転(以下、正転という。)させることにより、操作レバー部32の係合窓32bを第二係止部22aと同じ高さとし、ピン30をピン退避位置にすることができる。続けて、操作レバー部32を正転とは逆方向に回転(以下、逆転という。)させるピン回し操作を行うことにより、
図5に示すように、係合窓32bを第二係止部22aに嵌合させて第二係止部22aに操作レバー部32を軸方向に引っ掛けると、ピン30をピン退避位置に維持する係止状態に移行させることができる。この係止状態にある限り、第二係止部22aは、操作レバー部32の軸方向移動を規制する。ここで、ピン押し操作で蓄勢した弾性部材40の付勢を利用して第二係止部22aと係合窓32bの引っ掛かりをしっかりと維持することが可能なため、操作レバー部32から指を離しても係止状態を維持することができる。したがって、
図2(b)に示す開扉状態の扉100を軸方向に対して直角な方向に取り外す作業は両手を使って行うことができる。なお、ピン押し操作により当接する指掛け部32cの下面32dと第二係止部22aの上側当接面22cを例えば
図4に示すように互いに傾斜面とすることで、ピン押し操作力の一部が操作レバー部32を正転させる力に変換されるため、接続状態から係止状態への移行をスムーズに行うことが可能である(
図6参照)。
【0039】
この係止状態で指掛け部32cに指を掛けて操作レバー部32を正転させると、第二係止部22aと係合窓32bの引っ掛かりを解消することができる。この解消後に操作レバー部32から指を離すと、弾性部材40の付勢によりピン30がピン退避位置から軸方向に移動させられて、係合窓32bが第二係止部22aに再掛かりすることができない状態となる。
【0040】
枠側羽根20の軸筒部23は、第二係止部22aから外されたピン退避位置の操作レバー部32と軸方向に対向する位置から切欠き縁23cまでピン30の軸部31周りに延びる螺旋状縁23dを有する。弾性部材40の付勢によってピン退避位置からピンが軸方向に移動させられると、やがて、操作レバー部32は、
図6に示すように螺旋状縁23dに当接する。この当接後は、当接部で弾性部材40の付勢をピン30の軸部31周りの方向に変換された分力が操作レバー部32に与えられる。このため、弾性部材40の付勢により、操作レバー部32が自動的に回転させられながら切欠き縁23cまで移動させられ、第一係止部を構成する側板部22と切欠き縁23c間に軸方向に進入させられ、最終的には操作レバー部32がスリット終端縁23bに軸方向に当接することでピン30が停止させられる。
【0041】
したがって、扉100を筐体110に対して取り付ける場合、
図2(b)に示す扉100の向きで枠側羽根20の軸筒部23と扉側羽根10の軸筒部12が軸方向に同軸上に対向する位置で扉側羽根10の軸筒部12を枠側羽根20のスラセ部材53上に載せた状態とし、この状態で係止状態にある指掛け部32cに指を掛けて操作レバー部32を正転させて第二係止部22aから係合窓32bから外し、指を操作レバー部32から離すだけで、ピン30の一端部が扉側羽根10の軸筒部12に所定の軸方向長さに突入した接続状態になる。このため、筐体110に対して扉100を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0042】
なお、扉側羽根10と枠側羽根20の素材は、特に限定されないが、枠側羽根20の形状が複雑なため、枠側羽根20を樹脂で形成することが好ましい。図示例では、枠側羽根20が一体成型されており、その軸筒部23の切欠き窓を金型のコアピンで成型するための抜き孔21cが枠側取付板部21に形成されている。
【0043】
また、側板部22には、
図2(a)及び
図7に示すように、所定の閉扉位置にある扉100の小口部102を軸方向に係止するための突出部22bも設けられている。突出部22bは、扉100の小口部102に形成された切欠き102a内に突出している。所定の閉扉位置にある扉100に誤って不正な軸方向外力が負荷された際、扉100が筐体110に対して軸方向に不正に移動させられることを自由に許すと、ピン30が扉側羽根10の軸筒部12から脱出してしまい、扉100が落下してしまう。このような懸念を無くすため、扉100を閉じると、側板部22の突出部22bが扉100の小口部102の切欠き102aに突入し、小口部102を軸方向に係止することが可能な状態となるようにしている。
【0044】
このヒンジは、上述のようなものであって(
図1~5を適宜参照)、扉100に取り付けられる扉側羽根10と、筐体110に取り付けられる枠側羽根20と、枠側羽根20の軸筒部23及び扉側羽根10の軸筒部12に対して軸方向に移動可能に配置されたピン30と、ピン30が枠側羽根20の軸筒部23及び扉側羽根10の軸筒部12間に亘った接続状態を維持する方向へ当該ピン30を付勢する弾性部材40とを備え、枠側羽根20と扉側羽根10の相対的な回動の中心軸となるピン30の軸部31が、扉100の前面部101よりも前方に配置されており、扉100を開いた状態でピン30の操作レバー部32を弾性部材40の付勢に抗して軸方向に移動させるピン移動操作によって扉100を軸方向に対して直角な方向に取り外し可能なピン退避位置とし、当該ピン30を当該ピン退避位置に維持可能な係止状態に移行させることができるものである。したがって、このヒンジは、筐体110よりも前方の位置で扉100を180°以上開くことができながら、扉100を開いた状態でピン操作を行って係止状態に移行させるだけで扉100を筐体110から取り外し可能な状態にすることができる。
【0045】
このヒンジは、特に、弾性部材40が枠側羽根20とピン30との間に配置されており、枠側羽根20が前述の接続状態で軸方向移動を停止したピン30の操作レバー部32の回動を規制する第一係止部(側板部22,切欠き縁23c)と、前述の係止状態のときに操作レバー部32の軸方向移動を規制する第二係止部22aとを有することにより、ピン30及び弾性部材40を枠側羽根20に配置し、接続状態でのピン回動規制用の第一係止部(側板部22,切欠き縁23c)と係止状態でのピン移動規制用の第二係止部22aとを枠側羽根20に集約して配置しているので、扉100の前面部101に対する扉側羽根10の前方側への突出量を抑えて扉側羽根10の意匠性を良くすることができると共に、扉100を開閉する際に操作レバー部32が回動することを無くして筐体110内の物体(図示省略)を傷つける懸念を無くすことができる。
【0046】
また、このヒンジは、枠側羽根20が扉100に対して左右一方側に位置する側板部22を有し、枠側羽根20の軸筒部23が側板部22との間に操作レバー部32を軸方向に出し入れ可能な空間を形成するように軸方向に延びる切欠き縁23cを有し、第一係止部が側板部22と切欠き縁23cとで構成されており、第二係止部22aが側板部22に設けられ側板部22と切欠き縁23cとの間に挟まれた操作レバー部32と軸方向に対向する位置に突き出た突起からなることにより、ピン30の軸部31を扉100の前面部101よりも前方に配置するために必要な枠側羽根20の側板部22と軸筒部23を利用して第一係止部を構成すると共に側板部22と切欠き縁23c間の空間と第二係止部22aを軸方向に沿った同一平面上に配置して、開扉状態のときに操作レバー部32を側板部22上の第二係止部22aに掛けるのに必要なピン回し操作を最小限にすることができると共に、閉扉状態のときに枠側羽根20の側板部22及び軸筒部23で操作レバー部32、切欠き縁23c及び第二係止部22aを隠蔽することができる。
【0047】
また、このヒンジは(
図4~
図6参照)、枠側羽根20の軸筒部23が第二係止部22aから外されたピン退避位置の操作レバー部32と軸方向に対向する位置から切欠き縁23cまでピン30の軸部31周りに延びる螺旋状縁23dを有することにより、操作レバー部32を第二係止部22aから外して弾性部材40の付勢によるピン30の軸方向移動を行わせると、操作レバー部32が螺旋状縁23dに当接し、これ以降、螺旋状縁23dに対する操作レバー部32の摺動で操作レバー部32を自動的に回転させながら切欠き縁23cまで移動させ、第一係止部を構成する側板部22と切欠き縁23c間に進入させることができ、ひいては、筐体110に対して扉100を取り付ける作業を容易にすることができる。
【0048】
また、このヒンジは(
図3参照)、ピン30の軸部31が軸方向の中間部で小径としかつ軸方向の両端側で大径とした段付き軸からなり、操作レバー部32が段付き軸の中間部を一体回動可能に掴む割溝部32aを有する取付部材からなることにより、割溝部32aを軸部31の中間部に押し込むだけで操作レバー部32を軸部31に接続してピン30に組み立てることが可能なため、ねじ止めや円筒面同士の圧入嵌合で軸に操作レバー部を接続する場合に比してピン30の組み立てを容易にすることができる。
【0049】
このヒンジでは、筐体同士が左右方向に隙間なく隣接する使用状況の場合にも対応できるようにするため、扉100の所定の閉扉位置から許容する扉100の開き角度を180°に設定した例を示したが、扉の開き角度を180°よりも大きく設定することも可能である。その一例としての第二実施形態を
図8~
図9に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
【0050】
第二実施形態では、扉側羽根60の扉側取付板部61の軸方向長さと軸筒部62の軸方向長さが同一に設けられている。扉側取付板部61の軸方向小寸法化しつつも扉側羽根60の扉100に対する姿勢安定性を確保するため、軸筒部62の後方側に連続する安定板部63が設けられている。安定板部63は、扉100の小口部102に沿って接触している。安定板部63と扉100の小口部102を重ねる空間を確保するため、枠側羽根70の枠側取付板部71及び側板部72の軸方向長さと枠側羽根70の軸筒部73の軸方向長さが同一に設けられている。これにより、扉100は、扉側取付板部61と側板部72の干渉で邪魔されることなく、扉100の前面部101と筐体110の側板部112が平行に対面する270°まで開くことができる。第二実施形態に係るヒンジは、筐体110同士が左右方向に間隔をおいて配置される場合に好適である。
【0051】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
10,60 扉側羽根
12,62 軸筒部
20,70 枠側羽根
22 側板部
22a 第二係止部
23 軸筒部
23c 切欠き縁
23d 螺旋状縁
30 ピン
31 軸部
32 操作レバー部
32a 割溝部
32b 係合窓
40 弾性部材
100 扉
101 前面部
110 筐体