(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172867
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】レーザ強度調節方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20241205BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241205BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G02F1/01 B
B23K26/00 N
H01L21/52 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090879
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】出口 真
(72)【発明者】
【氏名】藏下 陽光
【テーマコード(参考)】
2K102
4E168
5F047
【Fターム(参考)】
2K102AA21
2K102BA14
2K102BB01
2K102BC04
2K102BD10
2K102CA09
2K102EA25
2K102EB20
2K102EB22
4E168AD18
4E168AE05
4E168DA25
4E168DA26
4E168EA11
4E168EA15
4E168HA01
4E168KA04
5F047FA72
5F047FA79
5F047FA83
(57)【要約】
【課題】所定の強度に近いレーザ光を確実に得ることできるレーザ強度調節方法を提供する。
【解決手段】可変減衰器による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第Nの調節精度の複数種が設けられており、第1の調節精度における強度変更工程から順に実施され、第Mの調節精度においてレーザの強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、m回目の可変減衰器の設定でレーザの強度の測定値が基準強度値より低い値から基準強度値以上の値に切り替わったときに、可変減衰器の設定を(m-1)回目の設定に戻した後、調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値が基準強度値より低い値から基準強度値より高い値に切り替わったときに強度変更工程を終了する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、
レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、
前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、
前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、
が交互に行われ、
前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、
第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値が前記基準強度値より小さい値から前記基準強度値以上の値に切り替わったときに、前記強度調節部の設定を(m-1)回目の設定に戻した後、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、
第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値が前記基準強度値より小さい値から前記基準強度値以上の値になったときに前記強度変更工程を終了することを特徴とする、レーザ強度調節方法。
【請求項2】
レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、
レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、
前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、
前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、
が交互に行われ、
前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、
第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値が前記基準強度値より大きい値から前記基準強度値以下の値に切り替わったときに、前記強度調節部の設定を(m-1)回目の設定に戻した後、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、
第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値が前記基準強度値より大きい値から前記基準強度値以下の値になったときに前記強度変更工程を終了することを特徴とする、レーザ強度調節方法。
【請求項3】
レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、
レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、
前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、
前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、
が交互に行われ、
前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、
第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値と前記基準強度値の大小関係が切り替わったときに、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、
第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値と前記基準強度値との大小関係が切り替わったときもしくは前記基準強度値と等しくなったときに前記強度変更工程を終了することを特徴とする、レーザ強度調節方法。
【請求項4】
前記強度変更工程を行う前にレーザの強度を測定する初期レーザ強度測定工程が行われ、当該初期レーザ強度測定工程による測定値が前記基準強度値の近傍の所定の範囲内であった場合、前記強度変更工程は省略されることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のレーザ強度調節方法。
【請求項5】
前記強度調節部は、前記レーザ出射部に内蔵される可変減衰器であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載のレーザ強度調節方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばレーザ加工のためにレーザ光を出射するレーザ光源において出射されるレーザ光の強度を調節するためのレーザ強度調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップはコスト低減のために小型化され、この小型化した半導体チップを高精度に実装するための取組みが行われている。この小型化したチップを高速で実装するにあたり、転写基板に接合されたチップの転写基板との接合面へレーザを照射することによってアブレーションを生じさせ、チップを転写基板から剥離、付勢させて被転写基板へと転写する、いわゆるレーザリフトオフなる手法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、アブレーション技術を用いて素子を転写する素子の転写装置が開示されている。この素子の転写装置では、レーザビームを発生させるレーザ光源と、そのレーザ光源からのレーザビームを所要の方向に反射させる反射手段と、その反射手段と連動してレーザビームの照射及び非照射を制御する制御手段とを有するレーザ照射装置を用いて、転写元基板上に複数配列された素子の一部に対してレーザビームを選択的に照射し、アブレーション(溶発)を発生させる。この選択的なアブレーションによって素子の一部が転写先基板上に転写される。すなわち、レーザリフトオフにより素子が転写元基板から転写先基板へ転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される素子の転写方法では、レーザ光によって素子を破壊することなく、確実に素子を転写基板から切り離し、また、位置精度良く素子を被転写基板に転写するためには、正確な強度のレーザ光を素子に照射する必要がある。
【0006】
また、レーザ光を出射するユニットであるレーザ発振器には、レーザ光を発するレーザ光源のほかに、レーザ光源から発せられたレーザ光の強度を減衰させる方向に調節する可変減衰器(アッテネータ)が設けられるものがある。
【0007】
一方、レーザ光源から発したレーザ光の強度は、レーザ発振器の本体温度に依存して変化してしまう(いわゆるドリフトが発生してしまう)。
図5には可変減衰器の設定とレーザ発振器から出射されるレーザ光の強度との関係性を示す曲線(レーザ光の強度曲線と呼ぶ)を示しているが、レーザ光のドリフトが生じるとレーザ光の強度曲線が変化してしまう。そのため、たとえば先の条件では可変減衰器の設定A1において得られたレーザ光の強度がP1であって
図5にハッチングで示すOK範囲内であったにも関わらず、後の条件では可変減衰器の設定が同じA1であっても得られたレーザ光の強度がP2となってOK範囲から外れて正常に素子の転写ができなくなるおそれがあった。
【0008】
本願発明は、上記問題点を鑑み、所定の強度に近いレーザ光を確実に得ることができるレーザ強度調節方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のレーザ強度調節方法は、レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、が交互に行われ、前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値が前記基準強度値より小さい値から前記基準強度値以上の値に切り替わったときに、前記強度調節部の設定を(m-1)回目の設定に戻した後、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値が前記基準強度値より小さい値から前記基準強度値以上の値になったときに前記強度変更工程を終了することを特徴としている。
【0010】
本発明のレーザ強度調節方法によれば、始めは最も粗い第1の調節精度から強度調節部の設定の調節を行い、最後は最も細かい第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が基準強度値より小さい値から基準強度値以上の値に切り替わったときに前記強度変更工程を終了することにより、仮にレーザ光源から発せられるレーザ光の強度にばらつきがあったとしても比較的短時間で基準強度値に近い強度のレーザ光を得ることができる。
【0011】
また、上記課題を解決するために本発明のレーザ強度調節方法は、レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、が交互に行われ、前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値が前記基準強度値より大きい値から前記基準強度値以下の値に切り替わったときに、前記強度調節部の設定を(m-1)回目の設定に戻した後、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値が前記基準強度値より大きい値から前記基準強度値以下の値になったときに前記強度変更工程を終了することを特徴とするものであっても良い。
【0012】
また、上記課題を解決するために本発明のレーザ強度調節方法は、レーザ出射部から発せられたレーザを強度調節部を通過させることにより調節するレーザ強度調節方法であり、レーザの強度の基準値である基準強度値が設定され、前記強度調節部を経たレーザの強度を測定する強度測定工程と、前記強度調節部の設定を変更する強度変更工程と、が交互に行われ、前記強度調節部による調節精度は最も粗い第1の調節精度から最も細かい第N(Nは2以上の自然数)の調節精度の複数種が設けられており、前記第1の調節精度における前記強度変更工程から順に実施され、第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の前記強度調節部の設定でレーザの強度の測定値と前記基準強度値の大小関係が切り替わったときに、前記調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が前記基準強度値に近づくように前記強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値と前記基準強度値との大小関係が切り替わったときもしくは前記基準強度値と等しくなったときに前記強度変更工程を終了することを特徴とするものであっても良い。
【0013】
また、前記強度変更工程を行う前にレーザの強度を測定する初期レーザ強度測定工程が行われ、当該初期レーザ強度測定工程による測定値が前記基準強度値の近傍の所定の範囲内であった場合、前記強度変更工程は省略されても良い。
【0014】
こうすることにより、より短時間で所定の強度に近いレーザ光を得ることができる。
【0015】
また、前記強度調節部は、前記レーザ出射部に内蔵される可変減衰器であると良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレーザ強度調整方法により、所定の強度に近いレーザ光を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のレーザ強度調節方法を用いる装置の一例である転写装置を説明する図である。
【
図2】本発明の一実施形態におけるレーザ強度調節方法を説明するグラフである。
【
図3】本発明の一実施形態におけるレーザ強度調節方法を説明する動作フロー図である。
【
図4】本発明の他の実施形態におけるレーザ強度調節方法を説明するグラフである。
【
図5】従来のレーザ発振器において生じる問題を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のレーザ強度調節方法を用いる装置の一例である転写装置について、
図1を参照して説明する。
【0019】
転写装置10は、レーザ光11を照射するレーザ発振器12、転写基板22を保持して少なくともX軸方向、Y軸方向に移動可能な転写基板把持部13、転写基板把持部13の下側にあって転写基板22と隙間を有して対向するように被転写基板23を保持する被転写基板把持部14、および図示しない制御部を備えており、転写基板22にレーザ光11を照射することによって転写基板22でアブレーションを生じさせ、転写基板22から被転写基板23へ素子21を転写する。
【0020】
レーザ発振器12は、活性エネルギー線であるエキシマレーザなどのレーザ光11を照射する装置であり、転写装置10に固定して設けられる。本実施形態においては、レーザ発振器12はスポット状のレーザ光11を間欠的に出射し、レーザ光11は、制御部により角度が調節されるガルバノミラー15およびFθレンズ16を介してX軸方向およびY軸方向の照射位置が制御され、転写基板把持部13に保持された転写基板22に複数配置されている素子21に選択的に照射する。レーザ光11が転写基板22を通して素子21近傍に入射することによって、転写基板22と素子21との間で活性エネルギー(光エネルギー)の付与によるアブレーションが生じ、このアブレーションによって素子21は付勢され、転写基板22から被転写基板23へ素子21が転写される。なお、本説明では素子21はたとえば半導体チップやマイクロLEDなどである。
【0021】
レーザ発振器12は、レーザダイオード12aと可変減衰器12bとを内蔵している。
【0022】
レーザダイオード12aは、レーザ光11の発生源であって電力が供給されることにより発振し、レーザ光11を発生させる。本説明では、このレーザダイオード12aをレーザ出射部とも呼ぶ。
【0023】
可変減衰器12bは本説明における強度調節部であって、アッテネータ(Attenuator、ATT)とも呼ばれる素子であり、レーザ光源12aから発せられたレーザ光11の強度を減衰させる光学系である。可変減衰器12bでは、レーザ光11の強度の減衰度合いを調節することが可能であり、この減衰度合いの調節によって、可変減衰器12bを経たレーザ光11の強度を調節することができる。
【0024】
また、レーザ発振器12の近傍には、レーザ発振器12から出射されたレーザ光11の強度を測定する強度測定器18が設けられている。強度測定器18は、本実施形態では市販のレーザパワーメータであり、測定したレーザ光11の強度を数値データとして制御部に送る。
【0025】
また、転写装置10はレーザ発振器12から出射されたレーザ光11を真下(Z軸方向)に反射するミラー17aおよびミラー17aが反射したレーザ光11を反射してガルバノミラー15へ入射させるミラー17bを有している。また、レーザ出射部12とミラー17aの間には、音響光学効果によりレーザ光11を変調させる音響光学変調器19、および図示しないエキスパンダーレンズ、コリメートレンズなどの光学系が設けられている。
【0026】
また、
図1の二点鎖線に囲まれたミラー17b、ガルバノミラー15、Fθレンズ16は共通のフレームに取り付けられて一体となってZ軸方向に移動可能となっており、これらがZ軸方向に移動することにより、転写基板22近傍におけるレーザ光11のZ軸方向の焦点位置を調節することができる。
【0027】
転写基板把持部13は開口を有し、転写基板22の外周部近傍を吸着把持する。転写基板把持部13に保持された転写基板22へこの開口を介してレーザ発振器12から発せられたレーザ光11を当てることができる。
【0028】
転写基板22は、ガラスなどを材料としてレーザ光11を透過することが可能な基板であり、下面側で素子21を保持する。また、この転写基板22の素子21を保持する面にはリリース層24が形成されており、このリリース層24の表面は粘着性を有する。このリリース層24の表面の粘着力が素子21の保持力となり、素子21を粘着保持する。また、このリリース層24はレーザ光11が照射されることによりアブレーションが生じ、分解されてガス化することにより消失する。
【0029】
また、転写基板把持部13は図示しない移動機構により、少なくともX軸方向、Y軸方向に関して被転写基板把持部14に対して相対移動する。図示しない制御部がこの移動機構を制御し、転写基板把持部13の位置を調節することにより、転写基板22に保持された素子21の被転写基板23に対する相対位置を調節することができる。また、転写基板把持部13がZ方向にも移動可能であって、転写基板22や被転写基板23の厚みに応じて被転写基板把持部14に対する転写基板把持部13の相対高さが調節されても良い。
【0030】
被転写基板把持部14は、上面に平坦面を有し、素子21の転写工程中、転写基板22のリリース層24およびリリース層24が保持する素子21と被転写基板23の被転写面が対向するように被転写基板23を把持する。この被転写基板把持部14の上面には複数の吸引孔が設けられており、吸引力により被転写基板23の裏面(素子21が転写されない方の面)を把持する。
【0031】
ここで、本実施形態における被転写基板23は、ガラスなどを材料とする基板であり、被転写面(素子21を受ける側の面)には、粘着性を有するキャッチ層25が設けられ、転写基板22から転写された素子21を粘着保持する。
【0032】
なお、本実施形態では、転写基板把持部13のみがX軸方向およびY軸方向に移動することにより転写基板把持部13と被転写基板把持部14とがXY方向に相対移動する形態をとっているが、被転写基板23の寸法が大きく、レーザ光11の照射範囲の直下に被転写基板23の全面が位置できない場合には、被転写基板把持部14にもX軸方向およびY軸方向の移動機構が設けられていても良い。
【0033】
以上の構成を有する転写装置10におけるレーザ強度調節方法について説明する。
【0034】
上記の転写装置10において、転写基板22に照射するレーザ光11の強度が低すぎる場合は、リリース層24で満足なアブレーションが生じずに素子21が転写基板22から切り離されない可能性があり、逆にレーザ光11の強度が高すぎる場合は、レーザ光11がアブレーションを生じさせるだけでなく素子21に過度のエネルギーを付与して素子21を破損させる可能性がある。そのため、転写基板22に照射するレーザ光11の強度は略均一である必要がある。
【0035】
一方、レーザ発振器12においてレーザダイオード12aから発したレーザ光11の強度は、レーザ発振器12の本体温度に依存して変化してしまう(いわゆるドリフトが発生してしまう)という特性も有する。そのため、可変減衰器12bによる減衰度合いが同一であってもレーザ発振器12から出射されるレーザ光11の強度が同一であるとは限らない。そのため、定期的に可変減衰器12bの設定を見直し、レーザ光11の強度調節を行うことが好ましい。
【0036】
本発明のレーザ強度調節方法では、強度調節部(可変減衰器12b)の調節の精度が複数種設けられ、プロセスの実行に適したレーザ光11の強度値(基準強度値と呼ぶ)となるように、強度測定器18によるレーザ光11の強度の測定(強度測定工程と呼ぶ)と可変減衰器12bの設定の変更によるレーザ光11の強度の変更(強度変更工程と呼ぶ)とを繰り返す工程を最も粗い調節精度から始めて調節精度を細かくしていくことによりレーザ光11の強度を追い込むようにしている。
【0037】
本実施形態では、具体的には、調節精度をN種類設けた場合において、第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザ光11の強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の可変減衰器12bの設定でレーザ光11の強度の測定値が基準強度値より小さい値から基準強度値以上の値に切り替わったときに可変減衰器12bの設定を(m-1)回目の設定に戻した後、可変減衰器12bの調節精度を第Mの調節精度より1段階細かい第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザ光11の強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、レーザ光11の強度の測定値が基準強度値より小さい値から基準強度値以上の値に切り替わったときに強度変更工程を終了するようにしている。
【0038】
上記のレーザ強度調節方法による可変減衰器12bの設定値とレーザ光11の強度の測定値の変化の一例を
図2のグラフを用いて説明する。グラフの横軸は可変減衰器12bの設定値(ATT値と呼ぶ。単位:deg)であり、縦軸はレーザ光11の強度の測定値(単位:mW)である。また、各グラフに記載されている曲線はATT値とレーザ光11の強度の関連性を示す曲線であり、本レーザ強度調節方法を行うときはこの関連性は未知である。
【0039】
また、第Mの調節精度における第m回目のATT値をA
Mmと表し、また、第Mの調節精度における第m回目のレーザ光11の強度の測定値をP
Mmと表している。また、この
図2に示すレーザ強度調節方法において、調節精度は3種類設けられているものとする。また、グラフ上において一点鎖線で表されているレーザ光11の強度が基準強度値である。
【0040】
図2(a)のグラフは、最も粗いATT値の調節精度である第1の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。
【0041】
まず、第1の調節精度における1回目のATT値であるA11のときに強度測定器18によって測定したレーザ光11の強度の値P11が基準強度値よりも低かったとする。このとき、第1の調節精度に則してATT値をA11からA12へ変更し、レーザ光11の強度を大きくする。
【0042】
ATT値をA11からA12へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P12はまだ基準強度値よりも小さいため、第1の調節精度に則してATT値をA12からA13へ変更し、レーザ光11の強度をさらに大きくする。
【0043】
ATT値をA12からA13へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P13は基準強度値よりも大きくなった。このとき、本実施形態ではATT値をA13からA12へ戻してレーザ光11の強度を一度基準強度値より小さくする(強度P12に戻す)。その後、ATT値の調節精度を1段階細かい第2の調節精度にした調節を始める。
【0044】
図2(b)のグラフは、第2の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。第2の調節精度における1回目のATT値であるA
21およびそのときのレーザ光11の強度の値P
21は、調節精度を変更する直前の設定値および強度であるA
12およびP
12と同値である。そして、第2の調節精度に則してATT値をA
21からA
22へ変更し、レーザ光11の強度を大きくする。
【0045】
ATT値をA21からA22へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P22はまだ基準強度値よりも小さいため、第2の調節精度に則してATT値をA22からA23へ変更し、レーザ光11の強度をさらに大きくする。
【0046】
ATT値をA22からA23へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P23は基準強度値よりも大きくなった。このとき、先と同様にATT値をA23からA22へ戻してレーザ光11の強度を一度基準強度値より小さくする(強度P22に戻す)。その後、可変減衰器12bの調節精度をさらに1段階細かい第3の調節精度(最も細かい調節精度)にした調節を始める。
【0047】
図2(c)のグラフは、第3の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。第3の調節精度における1回目のATT値であるA
31およびそのときのレーザ光11の強度の値P
31は、調節精度を変更する直前の設定値および強度であるA
22およびP
22と同値である。そして、第3の調節精度に則してATT値をA
31からA
32へ変更し、レーザ光11の強度を大きくする。
【0048】
ATT値をA31からA32へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P32は基準強度値以上となった。このように最も細かい調節精度においてレーザ光11の強度の値が基準強度値より小さい値から基準強度値以上の値に切り替わったときに、レーザ強度調節方法が終了する。この方法により最終的に得られたレーザ光11の強度の値P32は基準強度値よりわずかに大きい値もしくは基準強度値と同値であるため、このレーザ光11はレーザ照射のプロセスに好適に用いられ得る。
【0049】
次に、本実施形態のレーザ強度調節方法の動作フロー図を
図3に示す。
【0050】
まず、所定のレーザ照射プロセスを行うにあたり、適切な強度のレーザ光11を出力するであろうATT値の初期値がレーザ照射プロセスの実行プログラムに設定されており、制御部がATT値をこの初期値に調節した(ステップS1)後、制御部はこのときのレーザ光11の強度を強度測定器18を用いて測定する(ステップS2)。
【0051】
次に、ステップS2で得られたレーザ光11の強度値が基準強度値の近傍の所定のOK範囲内であるか否かを制御部が判定する(ステップS3)。その結果、OK範囲内であった場合には、制御部はATT値のさらなる調節は行わずにこの初期のレーザ光11の強度にてレーザ照射のプロセスを開始するようにし、逆にOK範囲内でなかった場合には、制御部は
図2で示したようなレーザ強度調節工程を開始する(ステップS10)。
【0052】
このように初期のレーザ強度の測定結果が許容範囲以内であれば時間をかけて以降の工程を行う必要が無いとして、以降の調節工程を省略することにより、レーザ発振器12を用いたレーザ照射のプロセスを早く開始することができる。一方、このようなOK範囲の設定は設けず、必ず以降の工程が行われる形態であっても良い。
【0053】
レーザ強度調節工程では、制御部はまずATT値の最も粗い調節精度である第1の調節精度においてATT値を一つ進める(ステップS11、本説明の強度変更工程)。
【0054】
ステップS11においてATT値を1つ進めた後、制御部はこのときのレーザ光11の強度を強度測定器18を用いて測定する(ステップS12、本説明の強度測定工程)。
【0055】
次に、ステップS12で得られたレーザ光11の強度値が基準強度値以上であるか否かを制御部が判定する(ステップS13)。その結果、まだ基準強度値よりも小さい値であった場合には、ステップS11に戻って制御部はATT値をさらに1つ進め、そのときのレーザ光11の強度値を測定し(ステップS12)、その値が基準強度値以上か否かを判定する(ステップS13)。制御部はこの一連の工程を、レーザ光11の強度値が基準強度値以上となるまで繰り返し実施する。
【0056】
ここで、本実施形態では、制御部はATT値の調節回数をカウントしており、トータルの調節回数が予め設定してある所定回数を超えた場合、タイムオーバーとして本レーザ強度調節工程をエラー終了させる(ステップS14)。
【0057】
次に、ステップS13において、レーザ光11の強度値が基準強度値以上であると制御部が判定したとき、次に制御部は現在のATT値の調節精度が最も細かい調節精度であるか否かを判定し、その結果、まだ最も細かい調節精度でなかった場合、制御部はATT値を1つ戻すことによってレーザ光11の強度値が基準強度値より小さい値に戻し(ステップS16)、ATT値の調節精度を1段階進めた後(ステップS17)、あらためてレーザ光11の強度値が基準強度値以上となるまでステップS11乃至ステップS13を繰り返す。
【0058】
最後にステップS15において制御部が現在のATT値の調節精度が最も細かい調節精度であると判定したとき、レーザ強度調節工程が終了し、このときの強度のレーザ光11によってレーザ照射のプロセスが実行される。
【0059】
ここで、
図2および
図3で示したレーザ強度調節方法では、
図3におけるステップS16を有することによって各々の調節精度において基準強度値より小さいレーザ光11の強度値からレーザ光11の強度の調節が開始するようになっているが、それとは逆に各々の調節精度において基準強度値より大きいレーザ光11の強度値からレーザ光11の強度の調節が開始するようにして、調節後のレーザ光11の強度値が基準強度値以下となったときに調節精度を切り替えるようにしても良い。この場合、最終的に得られるレーザ光11の強度値は、基準強度値よりわずかに小さい値もしくは基準強度値と同値となる。たとえば、
図3のステップS2で測定した初期レーザ強度値が基準強度値より小さければ
図2、
図3で示したように各々の調節精度において基準強度値より小さいレーザ光11の強度値からレーザ光11の強度の調節が開始するようにし、初期レーザ強度値が基準強度値より大きければ各々の調節精度において基準強度値より大きいレーザ光11の強度値からレーザ光11の強度の調節が開始するようにする、というように初期レーザ強度値と基準強度値の大小関係に応じて2つの方法を使い分けても良い。
【0060】
次に、本発明の他の実施形態におけるレーザ強度調節方法を
図4のグラフを用いて説明する。
【0061】
上記のレーザ強度調節方法では、各々の調節精度において必ず基準強度値より小さいレーザ光11の強度値から、もしくは必ず基準強度値より大きいレーザ光11の強度値からレーザ光11の強度の調節が開始するように一度レーザ光の強度を戻してから次の調節精度でのレーザ光の強度の調節が行われるようになっているが、本実施形態のレーザ強度調節方法では、レーザ光11の強度値と基準強度値が切り替わった瞬間に次の調節精度に切り替わるようになっている。
【0062】
具体的には、第Mの調節精度(MはNより小さい自然数)においてレーザの強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、m回目(mは自然数)の強度調節部の設定でレーザの強度の測定値と基準強度値の大小関係が切り替わったときに、調節精度を第(M+1)の調節精度に切り替え、第Nの調節精度においてレーザの強度の測定値が基準強度値に近づくように強度変更工程が繰り返されて、レーザの強度の測定値と基準強度値との大小関係が切り替わったときもしくは基準強度値と等しくなったときに強度変更工程を終了するようにしている。
【0063】
上記のレーザ強度調節方法によるATT値とレーザ光11の強度の測定値の変化の一例を
図4のグラフを用いて説明する。グラフの横軸はATT値(単位:deg)であり、縦軸はレーザ光11の強度の測定値(単位:mW)である。また、各グラフに記載されている曲線はATT値とレーザ光11の強度の関連性を示す曲線であり、本レーザ強度調節方法を行うときはこの関連性は未知である。
【0064】
また、第Mの調節精度における第m回目のATT値をA
Mmと表し、また、第Mの調節精度における第m回目のレーザ光11の強度の測定値をP
Mmと表している。また、この
図4に示すレーザ強度調節方法において、調節精度は3種類設けられているものとする。また、グラフ上において一点鎖線で表されているレーザ光11の強度が基準強度値である。
【0065】
図4(a)のグラフは、最も粗いATT値の調節精度である第1の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。
【0066】
まず、第1の調節精度における1回目のATT値であるA11のときに強度測定器18によって測定したレーザ光11の強度の値P11が基準強度値よりも低かったとする。このとき、第1の調節精度に則してATT値をA11からA12へ変更し、レーザ光11の強度を大きくする。
【0067】
ATT値をA11からA12へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P12はまだ基準強度値よりも小さいため、第1の調節精度に則してATT値をA12からA13へ変更し、レーザ光11の強度をさらに大きくする。
【0068】
ATT値をA12からA13へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P13は基準強度値よりも大きくなった。このとき、本実施形態ではこの状態から、可変減衰器12bの調節精度を1段階細かい第2の調節精度にした調節を始める。ここで、第2の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節では、調節したレーザ光11の強度が再び基準強度値に近づいていくよう、レーザ光11の強度が小さくなる方向にATT値を調節する。
【0069】
図4(b)のグラフは、第2の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。第2の調節精度における1回目のATT値であるA
21およびそのときのレーザ光11の強度の値P
21は、調節精度を変更する直前の設定値および強度であるA
13およびP
13と同値である。そして、第2の調節精度に則してATT値をA
21からA
22へ変更し、レーザ光11の強度を小さくする。
【0070】
ATT値をA21からA22へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P22は基準強度値よりも小さくなったため、この状態から、可変減衰器12bの調節精度をさらに1段階細かい第3の調節精度(最も細かい調節精度)にした調節を始める。ここで、第3の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節では、調節したレーザ光11の強度が再び基準強度値に近づいていくよう、レーザ光11の強度が大きくなる方向にATT値を調節する。
【0071】
図4(c)のグラフは、第3の調節精度におけるレーザ光11の強度の調節工程を示している。第3の調節精度における1回目のATT値であるA
31およびそのときのレーザ光11の強度の値P
31は、調節精度を変更する直前の設定値および強度であるA
22およびP
22と同値である。そして、第3の調節精度に則してATT値をA
31からA
32へ変更し、レーザ光11の強度を大きくする。
【0072】
ATT値をA31からA32へ変更した後で測定したレーザ光11の強度の値P32は基準強度値以上となった。このように最も細かい調節精度においてレーザ光11の強度の値と基準強度値の大小関係が切り替わったときに、レーザ強度調節方法が終了する。
【0073】
以上のレーザ強度調節方法により、所定の強度に近いレーザ光を確実に得ることが可能である。
【0074】
ここで、本発明のレーザ強度調節方法は、以上で説明した形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。たとえば、上記の説明では本発明のレーザ強度調節方法は素子の転写装置に適用されているが、これに限らずレーザを用いる他のプロセス装置に適用しても構わない。
【0075】
また、複数種の調節精度でATT値の調節を行う際、途中でレーザ光の強度の測定値が基準強度値と等しくなる可能性もある。
図2、
図3、
図4を用いて示したレーザ強度調節方法では、途中でレーザ光の強度の測定値が基準強度値と等しくなってもATT値を一つ前の設定に戻して最も細かい調節精度での調節が完了するまでレーザ光の強度調節を続行するが、これに限らず途中で基準強度値と等しくなった場合にはそこで調節が終了するようにしてももちろん構わない。
【符号の説明】
【0076】
10 転写装置
11 レーザ光
12 レーザ発振器
12a レーザダイオード(レーザ出射部)
12b 可変減衰器(強度調節部)
13 転写基板把持部
14 被転写基板把持部
15 ガルバノミラー
16 Fθレンズ
17a ミラー
17b ミラー
18 強度測定器
19 音響光学変調子
21 素子
22 転写基板
22a ガラス面
23 被転写基板
24 リリース層
25 キャッチ層