(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172877
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】到来角推定システム及び位置推定システム
(51)【国際特許分類】
G01S 3/46 20060101AFI20241205BHJP
G01S 5/04 20060101ALI20241205BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01S3/46
G01S5/04
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090909
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】夢川 凌央
【テーマコード(参考)】
5J021
5J062
【Fターム(参考)】
5J021AA06
5J021FA17
5J021FA23
5J021FA24
5J021FA26
5J021HA01
5J062BB05
5J062CC14
(57)【要約】
【課題】送信デバイスの無線通信規格やシステムに依存せずに、且つ送信デバイスに専用のハードウェアを搭載したりソフトウェアをインストールすることなく、到来角の推定を行うことができる到来角推定システム、及びこの到来角推定システムを用いて送信デバイスの位置を推定する位置推定システムを提供する。
【解決手段】到来角推定システムは、送信デバイス1から送信された電波の取得に関する処理を実行するアナログ部12と、アナログ部で取得した電波の到来方向を推定する到来角推定処理を実行するデジタル部13とを備える。そして、複数のアンテナ11a,11b,11c,11dで受信し、アナログ部で取得した電波をデジタル部でデコード処理して、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、該対象と判断した場合、到来角推定処理を実行する、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信デバイスから送信された電波の取得に関する処理を実行するアナログ部と、
前記アナログ部で取得した電波の到来方向を推定する到来角推定処理を実行するデジタル部とを備え、
前記アナログ部で取得した電波を前記デジタル部でデコード処理して、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、該対象と判断した場合、前記到来角推定処理を実行する、ことを特徴とする到来角推定システム。
【請求項2】
前記アナログ部は、複数のアンテナで受信した電波と基準となる高周波信号が入力される複数のミキサーと、前記複数のミキサーにそれぞれ対応して設けられ、これらミキサーの出力が入力される複数のバンドパスフィルタと、前記複数のバンドパスフィルタにそれぞれ対応して設けられ、これらバンドパスフィルタの出力が入力される複数のレベル調整器と、前記複数のレベル調整器にそれぞれ対応して設けられ、これらレベル調整器の出力が入力される複数のA/D変換器と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の到来角推定システム。
【請求項3】
前記デジタル部は、前記複数のA/D変換器にそれぞれ対応して設けられ、これらA/D変換器の出力が入力される複数の波形処理回路と、前記複数の波形処理回路にそれぞれ対応して設けられ、これら波形処理回路の出力が入力される複数のデコーダと、これら波形処理回路の出力がそれぞれ入力され、前記到来角推定処理を実行する電波を抽出して到来角を推定する処理装置と、を備えることを特徴とする請求項2に記載の到来角推定システム。
【請求項4】
前記デコード処理は、前記送信デバイスから送信された電波に含まれる識別コードをデコードして、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断するものである、ことを特徴とする請求項1に記載の到来角推定システム。
【請求項5】
前記到来角の推定は、前記複数の波形処理回路の出力から電波の位相差を求め、これらの位相差に基づいて送信デバイスの方向を推定するものである、ことを特徴とする請求項3に記載の到来角推定システム。
【請求項6】
前記送信デバイスは、携帯型情報通信機器である、ことを特徴とする請求項1に記載の到来角推定システム。
【請求項7】
前記請求項1乃至6のいずれか1項に記載の到来角推定システムを複数備え、前記送信デバイスの方向と位置を特定する、ことを特徴とする位置推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信デバイスに専用のハードウェアやソフトウェア処理を組み込むことなく、到来角の推定を行うことができる到来角推定システム、及びこの到来角推定システムを複数用いて送信デバイスの位置を推定する位置推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、規定の通信規格に準拠した信号を送受信する第1、第2のアンテナを備え、信号到来角とアンテナ間位相差の関係に基づき、信号到来角の推定精度をより高めたい第1の領域から信号を受信した際と、この第1の領域以外の第2の領域から信号を受信した際とを比較し、第1の領域から信号を受信した際におけるアンテナ間位相差の絶対値が小さくなるように配置する通信装置が記載されている。そして、超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)の信号を用いることで、より高い精度で信号の到来角を推定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、送信機(送信デバイス)と受信機(受信デバイス)の両方に専用のハードウェアを搭載し、ソフトウェアをインストールする必要がある。また、送信機の無線通信規格やシステムに依存するため、到来角推定未対応の無線通信規格や到来角推定対応の無線通信規格が実装されていない無線通信装置では到来角推定ができない、という課題がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、送信デバイスの無線通信規格やシステムに依存せずに、且つ送信デバイスに専用のハードウェアを搭載したりソフトウェアをインストールすることなく、到来角の推定を行うことができる到来角推定システム、及びこの到来角推定システムを用いて送信デバイスの位置を推定する位置推定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る到来角推定システムは、送信デバイスから送信された電波の取得に関する処理を実行するアナログ部と、前記アナログ部で取得した電波の到来方向を推定する到来角推定処理を実行するデジタル部とを備え、前記アナログ部で取得した電波を前記デジタル部でデコード処理して、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、該対象と判断した場合、前記到来角推定処理を実行する、ことを特徴とする。
また、本発明に係る位置推定システムは、上記到来角推定システムを複数備え、送信デバイスの方向と位置を特定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、電波をデコード処理して、受信した電波が到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、受信した電波が到来角推定の対象であるときに、到来角推定処理を実行する電波を抽出して、送信デバイスからの電波の到来角を推定する。これによって、到来角推定未対応の無線通信規格、及び到来角推定対応の無線通信規格が実装されていない無線通信デバイスを用いた到来角推定が可能となる。また、この到来角推定システムを複数用いて電波を受信することで、異なる受信位置の到来角から送信デバイスの位置を推定できる。
【0008】
従って、本発明によれば、送信デバイスの無線通信規格やシステムに依存せずに、且つ送信デバイスに専用のハードウェアを搭載したりソフトウェアをインストールすることなく、到来角の推定を行うことができる到来角推定システム、及びこの到来角推定システムを用いて送信デバイスの位置を推定する位置推定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る到来角推定システム、及び位置推定システムの概略構成について説明するためのブロック図である。
【
図2】
図1に示した到来角推定システム、及び位置推定システムの概略的な動作について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る到来角推定システム及び位置推定システムの概略構成を示している。このシステムは、携帯型情報通信機器であるスマートフォン1などの送信デバイスと、複数台の無線機(受信デバイス)2-1,2-2,…と、これらの無線機2-1,2-2,…から得たデータを受け取って処理し、各種の制御を行うパーソナルコンピュータ3などの制御装置とで構成される。送信デバイスと受信デバイスとの間の無線通信には、Bluetooth(登録商標)、WiFi、5G、LTE、UWBなど日常で使用している電波の規格を用いる。
【0011】
無線機2-1は、スマートフォン1から送信された電波を受信するアンテナ11a,11b,11c,11dと、これらアンテナ11a,11b,11c,11dで受信した電波の周波数設定などの電波取得に関する処理を実行するアナログ部12と、このアナログ部12で取得した電波をデジタル処理(波形処理やデコード処理)して到来方向を推定する到来角推定処理を実行するデジタル部13とを備えている。そして、アナログ部12で取得した電波をデジタル部13でデコード処理して、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、到来角推定の対象と判断した場合に到来角推定処理を実行するようになっている。
【0012】
図1では無線機2-1のみ回路構成を詳細に示しているが、無線機2-2,…も同様に構成されている。無線機2-1,2-2,…がそれぞれ到来角推定システムであり、これら複数の無線機2-1,2-2,…で電波を受信し、異なる受信位置の到来角を推定することで、スマートフォン1の方向と位置を特定する位置推定システムとなる。
【0013】
なお、4本のアンテナ11a,11b,11c,11dで受信した電波を、4系統の回路で並列的に処理する例について説明するが、少なくとも2本のアンテナで受信した電波を2系統の回路で処理することで到来角を推定することができる。
【0014】
アナログ部12は、例えばBluetooth規格(BLE:Bluetooth Low Energy)を使った到来角推定(AoA:Angle of Arrival)を行うと仮定すると、BLEが使用する周波数帯(例えば2.4GHz帯)の電波を取得できるように設定を行う。このアナログ部12は、アンプ14a,14b,14c,14d、ミキサー15a,15b,15c,15d、バンドパスフィルタ16a,16b,16c,16d、レベル調整器17a,17b,17c,17d、及びA/D変換器18a,18b,18c,18dを含んで構成されている。
【0015】
アンテナ11a,11b,11c,11dで受信された電波はそれぞれ、アンプ14a,14b,14c,14dで増幅され、ミキサー15a,15b,15c,15dに入力される。これらのミキサー15a,15b,15c,15dにはそれぞれ、局部発振器(ローカルオシレータ)19から基準となる高周波信号が入力されている。ミキサー15a,15b,15c,15dの出力はそれぞれ、バンドパスフィルタ16a,16b,16c,16dに入力され、ノイズや受信したい周波数以外の電波がカットされて、所望の周波数の電波がレベル調整器17a,17b,17c,17dに出力される。レベル調整器17a,17b,17c,17dでは、ゲインを調整して一定の信号レベル出力に調整され、A/D変換器18a,18b,18c,18dに入力されてデジタル波形(IQデータ)に変換される。
【0016】
IQデータは、I軸(搬送波と同じ位相成分のI信号)とQ軸(搬送波と直交する位相成分のQ信号)で表わされ、I軸-Q軸の直交座標上の点(シンボルポイント)として表現される。そして、受信したIQデータが復調されてベースバンド信号が抽出される。
【0017】
デジタル部13は、このアナログ部12で取得した電波を波形処理(IQデータの管理)、取得した電波が例えばBLEの電波であるか判定、BLEの電波であると判定された場合にデコード処理して到来方向を推定する到来角推定処理、及び到来角推定(AoA)のための位相のキャリブレーションなどを実行するものである。デコード処理は、スマートフォン1から送信された電波に含まれる識別コード(通信パケットに含まれるID情報)をデコードして、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断する。到来角の推定は、複数の波形処理回路の出力から電波の位相差を求め、これらの位相差に基づいてスマートフォン1の方向を推定する。
【0018】
このデジタル部13は、波形処理回路21a,21b,21c,21dと、デコーダ22a,22b,22c,22dと、処理装置23として働くマイクロコンピュータ(マイコン)を含んで構成される。本例では、波形処理回路21a,21b,21c,21dと、デコーダ22a,22b,22c,22dは、FPGA(Field Programmable Gate Array)で形成されている。
【0019】
波形処理回路21a,21b,21c,21dにはそれぞれ、A/D変換器18a,18b,18c,18dから出力されるデジタルデータ(IQデータ)が入力されて波形処理が行われる。この波形処理によって、各波形処理回路21a,21b,21c,21dに入力されたIQデータの位相差(ずれ)が検出される。波形処理されたIQデータは、デコーダ22a,22b,22c,22dでデコード処理され、取得された電波がBLEの電波であるか否かが判定される。これらデコーダ22a,22b,22c,22dの出力は、処理装置23に入力され、位相のキャリブレーションが行われた後、到来角推定(AoA)が実行される。
【0020】
図2は、
図1に示した到来角推定システム及び位置推定システムの概略的な動作を示している。まず、送信デバイスであるスマートフォン1から電波を受信する(ステップS1)。4本のアンテナ11a,11b,11c,11dは、同期が取れており、電波を同時に受信する。しかし、アンテナ切替スイッチを用いて電波を1つずつ受信することもできる。
【0021】
アンテナ11a,11b,11c,11dで受信した電波はそれぞれ、アンプ14a,14b,14c,14d、ミキサー15a,15b,15c,15d、バンドパスフィルタ16a,16b,16c,16d、及びレベル調整器17a,17b,17c,17dを順次介してA/D変換器18a,18b,18c,18dに入力され、アナログ信号からデジタル信号に変換される(ステップS2)。
【0022】
続いて、A/D変換器18a,18b,18c,18dの出力を波形処理回路21a,21b,21c,21dで波形処理し、デコーダ22a,22b,22c,22dでデコード処理して(ステップS3)、意図した電波か否か判定する。本例では、Bluetooth(BLEのアドバタイズパケット)の電波であるか否かを切り分けの判断基準にする(ステップS4)。そして、意図した電波であれば処理装置23により位相キャリブレーションを行い(ステップS5)、到来角推定(AoA)を実行する(ステップS6)。
【0023】
ステップS6で得た到来角は、パーソナルコンピュータ3に入力されて各種の制御に応用される(ステップS7)。例えば、位置推定、エリア限定通信による認証や決済などの様々な分野に応用される。エリア限定通信では、ゲートに複数の無線機を搭載し、各々の無線機が取得する角度情報を組み合わせてユーザの位置を推定し、ゲートが定めた認証範囲内に位置するユーザのみと通信を確立する。この状態で、セキュリティゲートであれば通過を許可し、レジであれば決済を行う。
【0024】
そして、終了か否か判断し(ステップS8)、終了と判断されると処理を終了し、終了でないと判断されると、ステップS1に戻ってステップS1からステップS12の動作を繰り返す。
【0025】
ステップS4で意図したBluetoothの電波ではないと判定された場合には、WiFiの電波か否か判定する(ステップS9)。WiFiが意図した電波であれば、ステップS5に移動して処理装置23により位相キャリブレーションを行い、到来角推定を実行する(ステップS6)。
【0026】
ステップS9で意図したWiFiの電波ではないと判定された場合には、LTEの電波か否か判定する(ステップS10)。LTEが意図した電波であれば、ステップS5に移動して処理装置23により位相キャリブレーションを行い、到来角推定を実行する(ステップS6)。
【0027】
ステップS10で意図したLTEの電波ではないと判定された場合には、5Gの電波か否か判定する(ステップS11)。5Gが意図した電波であれば、ステップS5に移動して処理装置23により位相キャリブレーションを行い、到来角推定を実行する(ステップS6)。
【0028】
ステップS11で意図した5Gの電波ではないと判定された場合には、UWBの電波か否か判定する(ステップS12)。UWBが意図した電波であれば、ステップS5に移動して処理装置23により位相キャリブレーションを行い、到来角推定を実行する(ステップS6)。
一方、ステップS12で意図したUWBの電波ではないと判定された場合には、ステップS1に移動し、同様な動作を繰り返す。
このようにして、到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、対象と判断した場合には、到来角推定処理を実行する。
【0029】
なお、アナログ部12は、ソフトウェア無線機、もしくはPC基板上に部品を実装したハード無線機のいずれかでも可能であり、これらはデジタル部13と分離して構成することも可能である。また、複数の無線通信規格の電波を受信するためには、ソフトウェア無線機であれば周波数設定の変更を行えば良く、ハード無線機であればその無線通信規格が用いる周波数に対応した複数のハード無線機を用意し、順次切り替えることで対応できる。
【0030】
また、異なる通信規格を使用する場合に、その周波数帯の電波が取得できる回路に切り替えるだけで良く、専用のIC(集積回路)のようなハードウェアを搭載したり、ソフトウェアをインストールする必要はない。
【0031】
上述したように、本発明では、電波をデコード処理して、受信した電波が到来角推定の対象となる電波であるか否かを判断し、受信した電波が到来角推定の対象であるときに、到来角推定処理を実行する電波を抽出して、送信デバイスからの電波の到来角を推定する。
従って、送信デバイスの無線通信規格やシステムに依存しないので、到来角推定未対応の無線通信規格、及び到来角推定対応の無線通信規格が実装されていない無線通信デバイスを用いた到来角推定が可能となる。また、推定した到来角から送信デバイスの位置を推定することも可能である。
【0032】
以上の実施形態で説明された回路構成や制御手順等については、本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものに過ぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0033】
1…スマートフォン(送信デバイス)、2-1,2-2…無線機(受信デバイス)、3…パーソナルコンピュータ(制御装置)、11a,11b,11c,11d…アンテナ、12…アナログ部、13…デジタル部、14a,14b,14c,14d…アンプ、15a,15b,15c,15d…ミキサー、16a,16b,16c,16d…バンドパスフィルタ、17a,17b,17c,17d…レベル調整器、18a,18b,18c,18d…A/D変換器、21a,21b,21c,21d…波形処理回路、22a,22b,22c,22d…デコーダ、23…処理装置(マイクロコンピュータ)