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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001729
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】金属顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 3/10 20060101AFI20231227BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C09C3/10
C09C1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100581
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 信太郎
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037AA04
4J037AA05
4J037CC28
4J037EE03
4J037EE28
4J037FF09
(57)【要約】
【課題】金属顔料組成物の環境低負荷な製法を提供する。
【解決手段】(I)金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る工程と、
(II)前記金属粒子分散液に塩の水溶液を添加し、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る工程と、
(III)前記相分離させた相を相分離させた状態で、金属粒子表面にポリシロキサン化合物で被覆する処理を行なう工程と、
を含むことを特徴とする金属顔料組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る工程と、
(II)前記金属粒子分散液に塩の水溶液を添加し、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る工程と、
(III)前記相分離させた相を相分離させた状態で、金属粒子表面にポリシロキサン化合物で被覆する処理を行なう工程と、
を含むことを特徴とする金属顔料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)における溶媒の合計量が、金属粒子100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下である請求項1に記載の金属顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)における溶媒が、疎水性溶媒と親水性溶媒とを含み、前記疎水性溶媒と前記親水性溶媒の質量比(疎水性溶媒の質量/親水性溶媒の質量)が1/1~1/24である請求項2に記載の金属顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
前記工程(II)において添加する塩の量が、金属粒子100質量部に対して、0.1~40質量部である請求項1~3のいずれか一項に記載の金属顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(II)において添加する塩を構成する酸のpKaが3.0~5.5である請求項1~3のいずれか一項に記載の金属顔料組成物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(III)の被覆する処理において、前記ポリシロキサン化合物の原料として、下記一般式(1)に示すアルコキシシラン、下記一般式(2)に示すテトラハロシラン、下記一般式(3)~(5)のシランカップリング剤、およびそれらの部分縮合物の少なくとも一種であるケイ素含有化合物を用いる、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属顔料組成物の製造方法。
Si(OR (1)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基であり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
SiX (2)
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
Si(OR4-m (3)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基を含んでもよく、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基である。RとRは同一でも異なっていてもよく、R、またはRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦m≦3である。)
Si(OR4-p-q (4)
(式中、Rは他の官能基と化学結合し得る反応基を含む基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基である。R、R、又はRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦p≦3であり、0≦q≦2であり、1≦p+q≦3である。)
SiX 4-r (5)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基を含んでもよく、Rは同一でも異なっていてもよく、Rが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦r≦3である。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、Xが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
【請求項7】
前記金属粒子がアルミニウムである請求項1~3のいずれか一項に記載の金属顔料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物もしくはインキ組成物等、特に水性塗料もしくは水性インキ等に適する金属顔料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、メタリック塗料用、印刷インキ用、プラスチック練り込み用等に、メタリック感を重視する美粧効果を得る目的で金属顔料組成物が使用されている。近年、塗料分野においては、省資源、無公害化対策として、有機溶剤の使用量の少ない水性塗料への転換の必要性が高まっている。しかし、水性塗料に使用し得る金属顔料組成物の製造方法においては親水性有機溶媒を用いることが多く、製造時に用いる有機溶媒量にはさらなる削減が望まれる。
【0003】
特許文献1では、モノエタノールアミンをはじめとする、塩基性触媒を用いた条件下で生成したポリシロキサン化合物で表面を被覆されたアルミニウム顔料が開示されている。 当該文献のアルミニウム顔料の製造方法においては、スラリー高粘度化への懸念から、アルミニウム粒子100質量部に対して500質量部以上の親水性有機溶剤を用いるのが好ましいとしている。
【0004】
また、特許文献2では、アンモニアをはじめとする塩基性触媒や、酸性触媒を用いた条件下で生成したポリシロキサン化合物で表面を被覆された金属顔料組成物が開示されている。
当該文献の金属顔料組成物の製造方法においては、金属粒子のスラリー中濃度を5から20質量%が好ましいとしている。すなわち、金属粒子100質量部に対して400質量部以上の有機溶剤を用いるのが好ましいとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3948934号公報
【特許文献2】特開2019-151678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術に鑑み、製造工程において用いられる溶媒量(特に、親水性有機溶剤量)を削減し、反応槽壁面や撹拌翼に対する付着物量を削減したポリシロキサン化合物被覆金属顔料組成物の新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、金属粒子にポリシロキサン化合物被覆を施す際に、塩の水溶液を添加して相分離させると、相分離によって出現した疎水性溶媒相が、反応槽壁面や撹拌翼への付着物の増加を防ぐことを発見した。さらには、疎水性溶媒相による付着抑制効果が、スラリー中の金属粒子濃度が高い場合にも発揮されることを見出した。
さらなる検討の末、相分離を利用することにより、用いる溶媒量(特に、親水性有機溶媒の量)を削減した上で、水性塗料中での実使用時に必要となる、耐水性および分散性を付与できる水性化処理法を考案し、金属顔料組成物の製造方法として完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1]
(I)金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る工程と、
(II)前記金属粒子分散液に塩の水溶液を添加し、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る工程と、
(III)前記相分離させた相を相分離させた状態で、金属粒子表面にポリシロキサン化合物で被覆する処理を行なう工程と、
を含むことを特徴とする金属顔料組成物の製造方法。
[2]
前記工程(I)における溶媒の合計量が、金属粒子100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下である[1]に記載の金属顔料組成物の製造方法。
[3]
前記工程(I)における溶媒が、疎水性溶媒と親水性溶媒とを含み、前記疎水性溶媒と前記親水性溶媒の質量比(疎水性溶媒の質量/親水性溶媒の質量)が1/1~1/24である[2]に記載の金属顔料組成物の製造方法。
[4]
前記工程(II)において添加する塩の量が、金属粒子100質量部に対して、0.1~40質量部である[1]~[3]のいずれかに記載の金属顔料組成物の製造方法。
[5]
前記工程(II)において添加する塩を構成する酸のpKaが3.0~5.5である[1]~[3]のいずれかに記載の金属顔料組成物の製造方法。
[6]
前記工程(III)の被覆する処理において、前記ポリシロキサン化合物の原料として、下記一般式(1)に示すアルコキシシラン、下記一般式(2)に示すテトラハロシラン、下記一般式(3)~(5)のシランカップリング剤、およびそれらの部分縮合物の少なくとも一種であるケイ素含有化合物を用いる、[1]~[3]のいずれかに記載の金属顔料組成物の製造方法。
Si(OR (1)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基であり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
SiX (2)
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
Si(OR4-m (3)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基を含んでもよく、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基である。RとRは同一でも異なっていてもよく、R、またはRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦m≦3である。)
Si(OR4-p-q (4)
(式中、Rは他の官能基と化学結合し得る反応基を含む基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基である。R、R、又はRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦p≦3であり、0≦q≦2であり、1≦p+q≦3である。)
SiX 4-r (5)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基を含んでもよく、Rは同一でも異なっていてもよく、Rが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦r≦3である。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、Xが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
[7]
前記金属粒子がアルミニウムである[1]~[3]のいずれかに記載の金属顔料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属粒子をポリシロキサン化合物で表面被覆する際、金属粒子のスラリー中濃度が高い状態でも十分に撹拌可能であり、かつ、被覆処理終了後に金属粒子が反応槽壁面や撹拌翼に固着することを抑制することができる。従って、用いる溶媒量(特に、親水性溶媒の量)を削減した上で高い回収効率をもって金属顔料組成物を製造することができる。すなわち、金属顔料組成物の環境低負荷な製法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、特にその好ましい態様を中心に、詳細に説明する。
【0011】
本発明は、下記の製造方法である:
(I)金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る工程と、
(II)前記金属粒子分散液に塩の水溶液を添加し、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る工程と、
(III)前記相分離させた相を相分離させた状態で、金属粒子表面にポリシロキサン化合物で被覆する処理を行なう工程と、
を含むことを特徴とする金属顔料組成物の製造方法。
【0012】
<金属粒子>
本実施形態に用いる金属粒子としては、アルミニウム、チタニウム、亜鉛、鉄、マグネシウム、銅、ニッケル、クロムのような卑金属の粒子、及びそれらの合金の粒子を用いることが好ましい。これらのうち、アルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロムはより好ましく、アルミニウムが特に好ましい。
金属粒子の形状としては、平均粒径(d50)が2から20μmであり、平均厚み(t)が0.001から1μmの範囲であることが好ましく、0.01から0.8μmの範囲であることが更に好ましい。
顔料として用いられる金属粒子は、特に限定されないが、鱗片状のものが好ましい。
なお、金属粒子の平均粒径(d50)は、実施例においてアルミニウム顔料組成物に含まれる被覆粒子の平均粒径d50について後述されたものと同様の方法で測定され得る。
金属粒子の平均厚み(t)は、粒子の水面拡散面積および密度から算出することができる。水面拡散面積は、リーフィング現象を利用して乾燥した複合粒子を水面上に均一に拡散し、すきまのない状態に被覆したとき、単位質量当たりの乾燥複合粒子が占める面積を指す。水面拡散面積の計測は、JIS K5906:1998の規定に従って行うことができる。
特に好適なのはメタリック用顔料として多用されているアルミニウムフレークである。本発明に用いるアルミニウムフレークとしては、メタリック用顔料に要求される表面光沢性、白度、光輝性等の表面性状、粒径、形状を有するものが適している。
アルミニウムフレークは、通常ペースト状態で市販されており、これをそのまま用いてもよいし、予め有機溶剤等で表面の脂肪酸等を除去して用いてもよい。このようなアルミニウムフレークの粉末は、一般的には、アトマイズドアルミニウム粉および/またはアルミニウム箔を乾式ボールミル法、湿式ボールミル法、アトライター法、スタンプミル法等の顔料業界で常用されている方法を用い、粉砕助剤や不活性溶剤の存在下で粉砕して、いわゆる鱗片状にし、さらにこの工程後、篩分(分級)、ろ過、洗浄、混合等の必要とする工程を経て得られる。
また、別の一実施形態としては、平均粒径(d50)が3から30μm、平均厚み(t)が5から50nmのいわゆるアルミニウム蒸着箔も使用可能である。
【0013】
<ケイ素含有化合物>
本実施形態において、ポリシロキサン化合物を生成するための原料として用いるケイ素含有化合物は、下記一般式(1)に示すアルコキシシラン、下記一般式(2)に示すテトラハロシラン、下記一般式(3)~(5)のシランカップリング剤、およびそれらの部分縮合物から選ばれる少なくとも一種を用いるのが好ましい。
【0014】
Si(OR (1)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基であり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
【0015】
SiX (2)
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
【0016】
Si(OR4-m (3)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれか)を含んでもよく、Rは水素原子、または炭素原子数1から8の炭化水素基である。RとRは同一でも異なっていてもよく、R、またはRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦m≦3である。)
【0017】
Si(OR4-p-q (4)
(式中、Rは他の官能基と化学結合し得る反応基を含む基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から30の、任意にハロゲン基を含んでもよい炭化水素基であり、Rは水素原子、又は炭素原子数1から8の炭化水素基である。R、R、又はRが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦p≦3であり、0≦q≦2であり、1≦p+q≦3である。)
【0018】
SiX 4-r (5)
(式中、Rは水素原子、または炭素原子数1から30の炭化水素基であって、任意にハロゲン基(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれか)を含んでもよく、Rは同一でも異なっていてもよく、Rが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。1≦r≦3である。Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のいずれかであり、Xが2つ以上ある場合は、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。)
【0019】
式(1)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、とくにメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。また、4つのRは、全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
【0020】
このような式(1)のケイ素含有化合物(有機珪素化合物)の好ましい例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
式(3)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であっても、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基や、窒素、酸素等のヘテロ原子を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から18の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。分子中のRの数は、式(3)において、m=1から3、すなわち1から3個であるが、m=1又は2であることがより好ましい。式(3)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、特にメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。さらに、RまたはRが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
【0022】
このような式(3)のケイ素含有化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリブトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジブチルジブトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジオクチルエトキシブトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ジデシルジメトキシシラン、ジデシルジエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ジオクタデシルジメトキシシラン、ジオクタデシルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
式(4)のRにおける他の官能基と化学結合し得る反応基の例としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、ポリスルフィド基、イソシアネート基等が挙げられる。
また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。分子中のRの数は、式(4)において、p=1から3、すなわち1から3個であるが、p=1であることがより好ましい。
【0024】
式(4)のRの炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であっても、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン基を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から18の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つの場合には、それらは同一でも、異なっていてもよい。
【0025】
式(4)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもよい。これらの炭化水素基の中でも、とくにメチル、エチル、プロピル、及びブチルが好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
【0026】
このような式(4)のケイ素含有化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル-トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-メチル-3-アミノプロピル-トリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
式(5)のRにおける炭化水素基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オレイル、ステアリル、シクロヘキシル、フェニル、ベンジル、ナフチル等が挙げられ、これらは分岐していても直鎖状であってもフッ素、塩素、臭素等のハロゲン基を含んでいてもよい。これらの中でも、とくに炭素数が1から12の炭化水素基が好ましい。また、Rが2つ以上ある場合には、それらは全てが同一でも、一部が同一でも、全てが異なっていてもよい。
【0028】
このような式(5)のシリコン含有化合物(シランカップリング剤)の好ましい例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、オクチルジメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、テトラクロロシラン等が挙げられる。
【0029】
本実施形態により得られる金属顔料組成物において、前記ケイ素含有化合物から生成されたポリシロキサン化合物により金属粒子が被覆されていることが望ましい。該ポリシロキサン化合物は、金属粒子100質量部に対して、加水分解および縮合反応が完了した状態換算で合計0.1~50質量部含有されるのが好ましく、1~40質量部含有されるのがさらに好ましい。塗料等としての貯蔵安定性と塗膜の色調などの光学特性とを両立させやすくする観点では、該ポリシロキサン化合物は、金属粒子100質量部に対して3~40質量部含有されるのが更により好ましい。
【0030】
上記一般式(1)で表されるアルコキシシランに由来するポリシロキサン化合物の生成量は、本金属顔料組成物の製造にあたって使用した一般式(1)で表されるアルコキシシランの質量に、当該アルコキシシランが全て加水分解し、縮合反応した場合の反応前後の質量比を乗ずることにより、推算することができる。
【0031】
例えば、一般式(1)で表されるアルコキシシランとしてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合には、以下の加水分解および縮合反応前後の質量比を用いて、ポリシロキサン化合物の生成量を推算することができる。また、この一般式から反応に必要とされる水の理論量も把握されるから、理論量に対して過剰な量の水を用いることで実質的に化学量論に従う反応を行うことができる。
(加水分解)
Si(OC (分子量:208) + 4H
→ Si(OH) (分子量:96) + (COH)
(縮合)
Si(OH) (分子量:96)+ Si(OH) (分子量:96)
→ (SiO (分子量:60×2) + 4H
【0032】
以上の加水分解および縮合反応前後で、テトラエトキシシランが全て加水分解し、縮合反応した場合、質量比は60/208=0.288倍となると算出される。したがって、例えば未処理の金属顔料粒子100質量部に対して、TEOSを40質量部使用した場合、その加水分解物および/またはその縮合物の生成量は、その0.288倍、すなわち11.5質量部になると推算される。
【0033】
上記一般式(2)~(5)のテトラハロシランおよびシランカップリング剤においても同様に、ポリシロキサン化合物の生成量を推算することができる。
【0034】
《工程(I):金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る工程》
本実施形態の金属顔料の製造方法においては、まず金属粒子を、少なくとも疎水性溶媒を含む溶媒中に分散させて、金属粒子分散液を得る。
【0035】
<溶媒>
本実施形態において、金属粒子を分散させるための溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、好ましくは10~1000質量部とし、より好ましくは50~800質量部、さらに好ましくは80~500質量部とすることが好ましい。
これら溶媒は疎水性溶媒および親水性溶媒を含んでよい。その疎水性溶媒/親水性溶媒の質量比(疎水性溶媒の質量/親水性溶媒の質量)は、1/1~1/24とすることが好ましく、1/1~1/18がより好ましく、1/1~1/15がさらに好ましい。疎水性溶媒/親水性溶媒の比率が前述の範囲であると、塩の水溶液を添加した際に相分離が起こりやすく、相分離によって生じる疎水性溶媒相による付着抑制効果が、スラリー中の金属粒子濃度が高い場合にも十分に発揮される。
疎水性溶媒の好ましい例としては、ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、並びにそれらの異性体が挙げられる。
親水性溶媒は、アルコール系化合物が好ましい。その中でも第二級アルコール類がより好ましく、第二級アルコール類としては、イソプロピルアルコール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
本実施形態にて被覆処理対象となる金属粒子を、疎水性溶媒あるいは親水性溶媒を含むペースト状で原料として用いる場合には、ペーストより持ち込まれる溶媒も金属粒子に対する質量部および疎水性溶媒/親水性溶媒の比の計算時に勘案する。
例えば、疎水性溶媒を30%含む、固形分(不揮発分)70%の金属ペースト143gを原料とする場合、金属粒子は100gであり43gの疎水性溶媒が含まれる。ここで溶媒量を金属粒子100質量部に対して300質量部、疎水性溶媒/親水性溶媒比を1/6と設定した場合、必要な溶媒量は300gとなり、疎水性溶媒は43g、親水性溶媒は257gとなる。疎水性溶媒は金属ペーストに含まれているため、加える溶媒は親水性溶媒257gのみとなる。
【0036】
《工程(II):前記金属粒子分散液に塩の水溶液を添加し、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る工程》
次に、工程(I)で得られた金属粒子分散液に塩の水溶液を添加して、親水相と疎水性溶媒相に相分離させた相を得る。
【0037】
<塩の水溶液>
本実施形態おいて、水溶液として添加する塩は、金属粒子100質量部に対して0.1~40質量部が好ましく、より好ましくは1~35質量部、さらに好ましくは4~30質量部とする。
塩を添加する際には、市販されているものを水溶液として用いてもよいし、酸・塩基を個別に用意して水溶液として調製したものを用いてもよい。
塩を構成する酸は、pKa3~5.5のものがよく、好ましい例としては、有機酸、炭酸であり、安息香酸、トルイル酸等の芳香族化合物や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、アクリル酸、炭酸等が挙げられる。上記範囲内のpKaの酸から構成される塩を用いることにより、後述する触媒の効果を妨げることなく、ケイ素含有化合物の加水分解および縮合反応を円滑に進行させることができる。
塩を構成する塩基は、親水性塩基が好ましく、水溶性に優れるアンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が好ましい。
塩を溶解する水の量は特に限定されないが、金属粒子の分散に用いた溶媒と同程度の質量で用いるのが好ましい。
【0038】
<相分離>
本実施形態において、ポリシロキサン化合物による金属粒子の表面被覆処理(下記の工程(III))は、系が親水性溶媒、塩、水、金属粒子からなるスラリー状の親水相(以下では単にスラリーともいう)と、上澄みの疎水性溶媒相(以下では単に上澄みともいう)とで相分離した状態で行う。相分離が起こっている場合は、撹拌を停止した際にスラリーと上澄み液との界面を確認することができる。
疎水性溶媒には不溶または難溶である塩が、水溶液として系外から添加されることにより、スラリーを形成する一方で、スラリーから分離した疎水性溶媒相が存在することにより、反応槽壁面や撹拌翼とスラリーとが長時間接触し続けることを防ぎ、金属顔料組成物の付着、固着を抑制することができる。
【0039】
《工程(III):前記相分離させた相を相分離させた状態で、金属粒子表面にポリシロキサン化合物で被覆する処理を行なう工程》
本実施形態では、工程(II)で得られた液相(前記相分離させた相)を相分離させた状態で、ケイ素含有化合物の加水分解および縮合反応を利用して得られたポリシロキサン化合物で金属粒子表面を被覆する。好ましくは、工程(III)は、撹拌しながら行なう。
【0040】
<触媒>
この加水分解および縮合反応のため、塩基性化合物を触媒として用いてもよく、その触媒量はケイ素含有化合物に対して0.1モル%以上120モル%以下が好ましく、5モル%以上100モル%以下がより好ましい。触媒量がこの範囲の上限以下であることによって、ケイ素含有化合物の加水分解および縮合反応が適度な速度に保たれ、金属粒子間での凝集や色調の低下が防止され得る。また、触媒量がこの範囲の下限以上であることによって、反応が適切に進行し、ひいては良好な貯蔵安定性が得られ、水性塗料または水性インキ中での分散性が十分に保持されることで、好ましい色調を達成し得る。
塩基性化合物の種類としては、アンモニア水、モノエタノールアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリンなどの窒素化合物が例示される。
【0041】
<水>
加水分解および縮合反応のために、必要があれば、更に水を加えてもよい。添加する水の量は特に限定されないが、ケイ素含有化合物に対して等モル量以上が好ましい。
【0042】
<温度>
被覆処理は、室温(15~30℃程度)から80℃の間の適当な温度で行うことができる。
【0043】
<表面改質>
本実施形態の製造方法では、ケイ素含有化合物の加水分解および縮合反応に先立ち、モリブデン酸またはヘテロポリアニオン化合物もしくは混合配位型ヘテロポリアニオン化合物による表面改質を行なってもよい。
この表面改質工程は、金属粒子の有機溶媒分散液中にて、例えば、室温(15~30℃程度)から80℃の間の適当な温度で行うことができる。ここでの有機溶媒としては、以下に例示されたものと同様の溶媒を用いることができる。この工程の反応時間は、特に限定されないが、例えば5分~5時間であってよい。
【0044】
<表面改質剤>
前記表面改質工程に用いるヘテロポリアニオン化合物としては、HPMo1240・nHO(リンモリブデン酸・n水和物)、HPW1240・nHO(リンタングステン酸・n水和物)、HSiMo1240・nHO(ケイモリブデン酸・n水和物)、HSiW1240・nHO(ケイタングステン酸・n水和物)等のヘテロポリ酸が例示され、これらを用いることが好ましい(但し、n≧0である。)。また、混合配位型ヘテロポリアニオン化合物としては、HPWMo12-x40・nHO(リンタングストモリブデン酸・n水和物)、H3+xPVMo12-x40・nHO(リンバナドモリブデン酸・n水和物)、HSiWMo12-x40・nHO(ケイタングストモリブデン酸・n水和物)、H4+xSiVMo12-x40・nHO(ケイバナドモリブデン酸・n水和物)等の混合配位型ヘテロポリ酸が例示される(但し、1≦x≦11、n≧0である。)。
【0045】
<金属顔料組成物>
ポリシロキサン化合物で表面が被覆された金属粒子を形成する工程が終了した後は、得られた被覆粒子を洗浄、固液分離等の公知の処理を実施し回収するのが好ましい。例えば、得られたスラリーを水/有機溶媒(好ましくは親水性溶媒)によって洗浄した後にフィルターを用いて濾過し、被覆粒子を含有するスラリーから水と未反応物を除去することが好ましい。また、その後、必要に応じて、濾過済みのスラリーを例えば100~500℃の範囲の温度で加熱処理してもよい。
【0046】
上述の方法により得られた金属顔料組成物は、金属粒子(及び存在する場合には表面改質剤)ならびにポリシロキサン化合物を含み、また、固形分(不揮発分)の残分として、製造過程で用いられた水/有機溶媒(好ましくは親水性溶媒)などの溶媒を含むと捉えられる。
本実施形態により得られる金属顔料組成物において、ポリシロキサン化合物は、金属粒子100質量部に対して0.1~50質量部含有されるのが好ましく、1~40質量部含有されるのがさらに好ましい。金属顔料組成物の塗料等としての貯蔵安定性と塗膜の色調などの光学特性とを両立させやすくする観点では、金属顔料組成物中において該ポリシロキサン化合物は、金属粒子100質量部に対して3~40質量部含有されるのが更により好ましい。
金属顔料組成物には、好ましくは、任意選択で用いられるモリブデン酸またはヘテロポリアニオン化合物もしくは混合配位型ヘテロポリアニオン化合物等の表面改質剤が、金属粒子100質量部に対して、0.01から10質量部存在し得る。
金属顔料組成物には、上記成分(不揮発分)の残分として、製造過程で用いられた水/有機溶媒(好ましくは親水性溶媒)を含む溶媒が存在し得る。水/有機溶媒を含む溶媒の量は、例えば、金属顔料組成物の0.5~95質量%であってよい。あるいは、水/有機溶媒を含む溶媒の量は、金属顔料組成物の1~90質量%、または2~80質量%、または5~70質量%であってよい。
【0047】
本実施形態の製造方法によって得られる金属顔料組成物は、有機溶剤系の塗料、インキ等に用いることができる。このとき、本実施形態の製造方法によって得られる金属顔料組成物を、塗膜形成成分である樹脂類が水を主とする媒体中に溶解または分散している水性塗料もしくは水性インキに加えることにより、メタリック水性塗料もしくはメタリック水性インキとすることができる。
【0048】
本実施形態の製造方法によって得られる金属顔料組成物は、塗料やインキに用いる場合は、そのまま(水性)塗料もしくは(水性)インキに加えてもよいが、予め溶媒に分散させてから加える方が好ましい。この際に使用する溶媒としては、水や、テキサノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。
【0049】
上記塗料またはインキ中における本実施形態に係る金属顔料組成物の含有量は、限定的ではないが、通常は0.1~50質量%とすれば良く、特に1~30質量%とすることが好ましい。この含有量が0.1質量%以上であることによって、高い装飾(メタリック)効果を得ることができる。また、この含有量が50質量%以下であることによって、水性塗料または水性インキの特性、例えば、耐候性、耐食性、機械強度等が損なわれることが防止され得る。この際の溶媒の含有量は、特に限定されないが、樹脂バインダー含有量に対して20~200質量%であってよい。溶媒の含有量がこの範囲内であることによって、塗料、インキの粘度が適当な範囲に調節され、取扱いおよび成膜が容易になり得る。
また、酸化防止剤、光安定剤、重合禁止剤、界面活性剤等の任意の添加剤は、金属顔料組成物を水性塗料もしくは水性インキ等に配合する際に添加してもよい。
【0050】
また、本実施形態の製造方法によって得られる金属顔料組成物は、樹脂等と混練して耐水性のバインダー、フィラーとして用いることもできる。樹脂類としては例えば、アクリル樹脂類、ポリエステル樹脂類、ポリエーテル樹脂類、エポキシ樹脂類、フッ素樹脂類、ロジン樹脂類などが挙げられる。
アクリル樹脂類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸-3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキシブチル等の活性水素を持つ(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類;アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド類;およびメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル、p-スチレンスルホン酸、アリルスルホコハク酸等のその他の重合性モノマー類等から選ばれた単独または混合物を重合させて得られるアクリル樹脂類が挙げられる。
その重合方法としては、乳化重合が一般的であるが、懸濁重合、分散重合、溶液重合でも製造できる。乳化重合では段階的に重合することもできる。
【0051】
ポリエステル樹脂類としては、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等のカルボン酸の群から選ばれた単独または混合物と、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2-エチル-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、2,2,4-トリメチルペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオールなどのジオール類、例えばグリセリン、トリメチロールプロパンなどのトリオール類、例えばジグリセリン、ジメチロールプロパン、ペンタエリトリトールなどのテトラオール類の群から選ばれた多価アルコールの単独または混合物との縮合反応によって得られるポリエステル樹脂類、および例えば低分子量ポリオールの水酸基にε-カプロラクトンを開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0052】
ポリエーテル樹脂類としては、多価ヒドロキシ化合物の単独または混合物に、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどの水酸化物、アルコキシド、アルキルアミンなどの強塩基性触媒を使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドの単独または混合物を付加して得られるポリエーテルポリオール類、更にエチレンジアミン類等の多官能化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類の開環重合によって得られるポリエーテルポリオール類、および、これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等が含まれる。これらの樹脂類は水に乳化、分散あるいは溶解することが好ましい。水に乳化、分散あるいは溶解するために、樹脂類に含まれるカルボキシル基、スルホニル基などを中和することができる。
【0053】
カルボキシル基、スルホニル基などの中和するための中和剤としては、例えば、アンモニア、および、モノエタノールアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、n-プロピルアミン、ジn-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリンなどの水溶性アミノ化合物から選択される1種以上を用いることができる。好ましい中和剤としては、第三級アミンであるトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0054】
好ましい樹脂類は、アクリル樹脂類、ポリエステル樹脂類である。必要に応じて、メラミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ウレタンディスパージョンなどの樹脂を併用することができる。更には、これらの樹脂類と、一般的に塗料に加えられる無機顔料、有機顔料、体質顔料、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、分散剤、沈降防止剤、レべリング剤、増粘剤、消泡剤とを組み合わせてもよい。塗料への樹脂類の分散性を向上させるために、更に界面活性剤を添加してもよい。塗料の保存安定性を向上させるために、更に酸化防止剤、光安定剤、および重合禁止剤を添加してもよい。
【実施例0055】
以下に、本発明の実施例、比較例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、例示の目的で記載されたものであり、いかなる意味においても本発明を限定するものではない。
【0056】
[実施例1]
市販のアルミペースト(旭化成株式会社製、商品名「GX-4100」(金属アルミニウム粒子の平均粒径d50:10μm、不揮発分74%))135g(金属アルミニウム粒子100g及び疎水性溶媒のミネラルスピリット35gを含むもの)を、245gのイソプロピルアルコール(親水性溶媒)中で分散させた(工程(I))後、リンタングストモリブデン酸(HPWMo40)の水和物0.5gを加え、スラリー温度を50℃に保ちながら1時間撹拌した。その後、2gの安息香酸アンモニウムを250gの水に溶解してから(塩の水溶液)添加した(工程(II))。さらにテトラエトキシシラン(ポリシロキサン化合物の原料)を42g、28%アンモニア水(触媒)を12.1g加えた。ここで、アンモニア水を加えて1分後に一時的に撹拌を停止し、相分離が起こったことを確認した。すぐに撹拌を再開し、6時間撹拌した(工程(III))。反応終了後、室温まで冷却後にスラリーを濾過し、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。
ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(イソプロピルアルコール)の質量比は35/245すなわち1/7であった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、280(=35+245)質量部である。
実施例及び比較例の処理条件を表1に示す。
【0057】
[実施例2]
アンモニア水を添加して6時間後に(すなわち、反応の最後に)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(ポリシロキサン化合物の原料)を0.1g加え、2時間撹拌した工程を追加した以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(イソプロピルアルコール)の比は35/245すなわち1/7であった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、280(=35+245)質量部である。
【0058】
[実施例3]
親水性溶媒を、245gのイソプロピルアルコールの代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテル140gとした以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の比は35/140すなわち1/4であった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、175(=35+140)質量部である。
【0059】
[実施例4]
親水性溶媒を、245gのイソプロピルアルコールの代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテル350gとし、安息香酸アンモニウムを5gとした以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の比は35/350すなわち1/10であった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、385(=35+350)質量部である。
【0060】
[比較例1]
親水性溶媒を、245gのイソプロピルアルコールの代わりにプロピレングリコールモノメチルエーテル1000gとし、安息香酸アンモニウムを40gとした以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(プロピレングリコールモノメチルエーテル)の比は35/1000すなわち1/29であり、相分離は確認されなかった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、1035(=35+1000)質量部である。すなわち、比較例1は、実施例1に比べ、工程(I)における溶媒の合計量が多く、親水性溶媒の量が多い(疎水性溶媒と親水性溶媒の質量比(疎水性溶媒の質量/親水性溶媒の質量)が低い)。
【0061】
[比較例2]
安息香酸アンモニウムの水溶液(塩の水溶液)を加えなかった以外は実施例1と同様に行い、不揮発分50%のアルミニウム顔料組成物を得た。すなわち、工程(II)は行なわなかった。ここで、疎水性溶媒(原料アルミペーストに由来)/親水性溶媒(イソプロピルアルコール)の比は35/245すなわち1/7であり、相分離は確認されなかった。なお、工程(I)における溶媒の合計量は、金属粒子100質量部に対して、280(=35+245)質量部である。
【0062】
[評価1(反応槽壁面および撹拌翼への付着物量)]
水性化処理に用いた反応槽壁面および撹拌翼への付着物量をそれぞれ確認し、下記のように評価した。得られた評価結果を、表2に示す。
◎:ほぼ付着物がない
○:わずかに付着物がある
×:付着物が多い
【0063】
[評価2(耐水性評価)]
得られたアルミニウム顔料組成物20g(不揮発分10g)をフラスコに採取し、60℃の恒温水槽で24時間まで水素ガス累積発生量を観察した。ガスの発生量に応じて下記のように評価し、アルミニウム顔料組成物の水性化処理の指標とした。得られた評価結果を、表2に示す。
○:5.0mL未満・・・十分に水性化処理できている。
×:5.0mL以上・・・水性化処理が不十分である。
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、塗料組成物もしくはインキ組成物等、特に水性塗料若しくは水性インキ等に使用可能な金属顔料組成物を、従来技術よりも使用溶媒量(特に、有機溶媒量)を削減した、環境負荷の小さい手法により提供することができる。従って、本発明の金属顔料組成物は、実用上高い価値を有するものであり、塗料やインキの製造や、自動車、家電、印刷等の産業の幅広い分野において好適に用いられうる。