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特開2024-172903溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172903
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/70 20140101AFI20241205BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K26/70
B23K26/21 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090949
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA21
4E168CB03
4E168CB08
4E168DA02
4E168DA28
4E168DA43
4E168EA17
(57)【要約】
【課題】溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う際に、ワークの変形が生じにくい溶接用治具を提供する。
【解決手段】溶接用治具は、溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられる。第1押さえ部材及び第2押さえ部材が、レーザ照射面に接触してワークをベース部材に押し付ける。第1押さえ部材に、溶接経路のうち、周方向の一部である第1部分に沿う第1スリットが設けられている。第2押さえ部材に、溶接経路のうち、第1部分以外の全域である第2部分に沿う第2スリットが設けられている。溶接経路の凸包に複数の角部が現れる。第1スリットの少なくとも一部分が、溶接経路の凸包に現れるすべての角部のそれぞれの少なくとも一部分と重なる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられ溶接用治具であって、
前記レーザ照射面に接触して、前記ワークをベース部材に押し付ける第1押さえ部材及び第2押さえ部材を備え、
前記第1押さえ部材に、前記溶接経路のうち、周方向の一部である第1部分に沿う第1スリットが設けられており、
前記第2押さえ部材に、前記溶接経路のうち、前記第1部分以外の第2部分に沿う第2スリットが設けられており、
前記溶接経路の凸包に複数の角部が現れ、
前記第1スリットの少なくとも一部分が、前記溶接経路の凸包に現れるすべての角部のそれぞれの少なくとも一部分と重なる溶接用治具。
【請求項2】
前記第1スリットの長さが、前記溶接経路の周長の80%以上である請求項1に記載の溶接用治具。
【請求項3】
前記第1スリットは、前記溶接経路の周方向に分離された複数のスリット部分で構成され、前記複数のスリット部分の各々の長さは、前記複数のスリット部分の長さの平均値の80%以上120%以下である請求項1または2に記載の溶接用治具。
【請求項4】
前記第1スリットは、前記溶接経路の周方向に分離された複数のスリット部分で構成され、前記溶接経路のうち前記第1スリットに沿う部分以外の複数の部分経路の各々の長さは、前記複数の部分経路の長さの平均値の80%以上120%以下である請求項1または2に記載の溶接用治具。
【請求項5】
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記溶接経路の凸包に複数の角部が現れ、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の外側及び内側の領域に第1押さえ部材を接触させて、前記ワークを押さえた状態で、少なくとも、前記溶接経路の凸包に現れるすべての角部のそれぞれの少なくとも一部分にレーザビームを入射させて第1溶接を行い、
前記第1押さえ部材を前記レーザ照射面から引き離し、前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の外側及び内側の領域に第2押さえ部材を接触させて、前記ワークを押さえた状態で、前記溶接経路のうち前記第1溶接で溶接されていない部分にレーザビームを入射させて第2溶接を行うレーザ溶接方法。
【請求項6】
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられる溶接用治具であって、
前記レーザ照射面を平面視したとき、前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触し、前記ワークをベース部材に押し付ける外側押さえ部材と、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の内側の領域に接触し、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける第1内側押さえ部材と、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の内側の領域に接触し、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける第2内側押さえ部材と、
前記第1内側押さえ部材を保持し、前記第1内側押さえ部材が前記レーザ照射面に接触した押し付け状態と、前記レーザ照射面から離れた退避状態とを実現する第1支持機構と、
前記第2内側押さえ部材を保持し、前記第2内側押さえ部材が前記レーザ照射面に接触した押し付け状態と、前記レーザ照射面から離れた退避状態とを実現する第2支持機構と、
を備えた溶接用治具。
【請求項7】
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の外側の領域に外側押さえ部材を接触させ、かつ前記溶接経路の内側の領域に第1内側押さえ部材を接触させて、前記ワークを前記ベース部材に押し付け、
前記外側押さえ部材及び前記第1内側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記溶接経路の周方向の一部分にレーザビームを照射して第1溶接を行い、
前記第1溶接の後、前記外側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態を維持したまま、前記第1内側押さえ部材を前記レーザ照射面から引き離し、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に第2内側押さえ部材を接触させ、前記外側押さえ部材及び前記第2内側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記溶接経路のうち前記第1溶接で溶接されなかった部分にレーザビームを照射して第2溶接を行うレーザ溶接方法。
【請求項8】
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられ、前記ワークを固定する溶接用治具と、
前記溶接用治具で固定された前記ワークの前記溶接経路にレーザビームを照射するレーザ照射装置と
を備え、
前記溶接用治具は、
前記レーザ照射面に接触して前記ワークをベース部材に押し付ける押さえ部材と
を含み、
前記押さえ部材は、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける外側押さえ部分と、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける内側押さえ部分と、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分とを相互に接続する接続部分と
を含み、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分との間に、前記溶接経路に沿う隙間が形成されており、
前記外側押さえ部分及び前記内側押さえ部分を前記レーザ照射面に接触させた状態で、前記接続部分と前記隙間との交差箇所において、前記接続部分と前記レーザ照射面との間に空隙が形成されており、
前記レーザ照射装置は、前記レーザ照射面のうち、前記接続部分に対して前記空隙を隔てて対向する領域に、前記レーザ照射面に対して斜めの方向からレーザビームを入射させる機能を有するレーザ溶接システム。
【請求項9】
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記レーザ照射面に押さえ部材を接触させて、前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記レーザ照射面の前記溶接経路に沿ってレーザビームを照射するレーザ溶接方法であって、
前記押さえ部材は、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける外側押さえ部分と、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける内側押さえ部分と、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分とを相互に接続する接続部分と
を含み、
前記外側押さえ部分及び前記内側押さえ部分を前記レーザ照射面に接触させた状態で、前記接続部分が前記レーザ照射面から空隙を隔てて配置され、
前記レーザ照射面のうち、前記接続部分に前記空隙を隔てて対向する領域にレーザビームを照射するときに、前記レーザ照射面に対して斜めの方向からレーザビームを入射させるレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池のセパレータ(バイポーラプレートとも呼ばれる。)は、薄板を重ね合わせてレーザ溶接を行うことによる作製される(特許文献1、2)。セパレータの作製には、閉じた溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程が含まれる。閉じた溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う際には、溶接対象のワークのレーザ照射すべき閉じた溶接経路の外側の部分及び内側の部分を治具で押さえて、溶接経路にレーザビームを入射させる。特許文献1、2には、治具で押さえる具体的な構成について説明されていない。
【0003】
一例として、治具のうちレーザ照射すべき閉じた溶接経路の外側を押さえる部分と内側を押さえる部分とを接続しなければならない。この接続部分が、閉じた溶接経路と交差する。この接続部分がレーザビームを遮るため、接続部分と閉じた溶接経路との交差箇所にレーザビームを入射させることができない。交差箇所を溶接するために、一旦治具を取り外し、他の治具でワークを押さえなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-226920号公報
【特許文献2】特開2020-38814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶接経路の一部分を溶接した後、治具を取り外すと、レーザ照射時に発生した熱応力によってワークの変形が生じる。本発明の目的は、溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う際に、ワークの変形が生じにくい溶接用治具、溶接方法、及びレーザ溶接システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点によると、
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられる溶接用治具であって、
前記レーザ照射面に接触して、前記ワークをベース部材に押し付ける第1押さえ部材及び第2押さえ部材と
を備え、
前記第1押さえ部材に、前記溶接経路のうち、周方向の一部である第1部分に沿う第1スリットが設けられており、
前記第2押さえ部材に、前記溶接経路のうち、前記第1部分以外の全域である第2部分に沿う第2スリットが設けられており、
前記溶接経路の凸包に複数の角部が現れ、
前記第1スリットの少なくとも一部分が、前記溶接経路の凸包に現れるすべての角部のそれぞれの少なくとも一部分と重なる溶接用治具が提供される。
【0007】
本発明の第2観点によると、
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記溶接経路の凸包に複数の角部が現れ、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の外側及び内側の領域に第1押さえ部材を接触させて、前記ワークを押さえた状態で、前記溶接経路の凸包に現れるすべての角部のそれぞれの少なくとも一部分にレーザビームを入射させて第1溶接を行い、
前記第1押さえ部材を前記レーザ照射面から引き離し、前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の外側及び内側の領域に第2押さえ部材を接触させて、前記ワークを押さえた状態で、前記溶接経路のうち前記第1溶接で溶接されていない部分にレーザビームを入射させて第2溶接を行うレーザ溶接方法が提供される。
【0008】
本発明の第3観点によると、
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられる溶接用治具であって、
前記レーザ照射面を平面視したとき、前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触し、前記ワークをベース部材に押し付ける外側押さえ部材と、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の内側の領域に接触し、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける第1内側押さえ部材と、
前記レーザ照射面のうち、前記溶接経路の内側の領域に接触し、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける第2内側押さえ部材と、
前記第1内側押さえ部材を保持し、前記第1内側押さえ部材が前記レーザ照射面に接触した押し付け状態と、前記レーザ照射面から離れた退避状態とを実現する第1支持機構と、
前記第2内側押さえ部材を保持し、前記第2内側押さえ部材が前記レーザ照射面に接触した押し付け状態と、前記レーザ照射面から離れた退避状態とを実現する第2支持機構と、
を備えた溶接用治具が提供される。
【0009】
本発明の第4観点によると、
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の外側の領域に外側押さえ部材を接触させ、かつ前記溶接経路の内側の領域に第1内側押さえ部材を接触させて、前記ワークを前記ベース部材に押し付け、
前記外側押さえ部材及び前記第1内側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記溶接経路の周方向の一部分にレーザビームを照射して第1溶接を行い、
前記第1溶接の後、前記外側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態を維持したまま、前記第1内側押さえ部材を前記レーザ照射面から引き離し、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に第2内側押さえ部材を接触させ、前記外側押さえ部材及び前記第2内側押さえ部材で前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記溶接経路のうち前記第1溶接で溶接されなかった部分にレーザビームを照射して第2溶接を行うレーザ溶接方法が提供される。
【0010】
本発明の第5観点によると、
溶接対象となる重ねられた複数の金属プレートを含むワークの一方の面であるレーザ照射面に定義される溶接経路に沿ってレーザ溶接を行う工程で用いられ、前記ワークを固定する溶接用治具と、
前記溶接用治具で固定された前記ワークの前記溶接経路にレーザビームを照射するレーザ照射装置と
を備え、
前記溶接用治具は、
前記レーザ照射面に接触して前記ワークをベース部材に押し付ける押さえ部材と
を含み、
前記押さえ部材は、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける外側押さえ部分と、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける内側押さえ部分と、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分とを相互に接続する接続部分と
を含み、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分との間に、前記溶接経路に沿う隙間が形成されており、
前記外側押さえ部分及び前記内側押さえ部分を前記レーザ照射面に接触させた状態で、前記接続部分と前記隙間との交差箇所において、前記接続部分と前記レーザ照射面との間に空隙が形成されており、
前記レーザ照射装置は、前記レーザ照射面のうち、前記接続部分に対して前記空隙を隔てて対向する領域に、前記レーザ照射面に対して斜めの方向からレーザビームを入射させる機能を有するレーザ溶接システムが提供される。
【0011】
本発明の第6観点によると、
レーザ照射面にレーザ照射すべき溶接経路が定義されているワークであって、溶接対象となる複数の金属プレートを含む前記ワークをベース部材の上に配置し、
前記レーザ照射面に押さえ部材を接触させて、前記ワークを前記ベース部材に押し付けた状態で、前記レーザ照射面の前記溶接経路に沿ってレーザビームを照射するレーザ溶接方法であって、
前記押さえ部材は、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路を連続的に取り囲む環状の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける外側押さえ部分と、
前記レーザ照射面のうち前記溶接経路の内側の領域に接触して、前記ワークを前記ベース部材に押し付ける内側押さえ部分と、
前記外側押さえ部分と前記内側押さえ部分とを相互に接続する接続部分と
を含み、
前記外側押さえ部分及び前記内側押さえ部分を前記レーザ照射面に接触させた状態で、前記接続部分が前記レーザ照射面から空隙を隔てて配置され、
前記レーザ照射面のうち、前記接続部分に前記空隙を隔てて対向する領域にレーザビームを照射するときに、前記レーザ照射面に対して斜めの方向からレーザビームを入射させるレーザ溶接方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
第1観点による溶接用治具において、第1押さえ部材に設けられている第1スリットの長さが溶接経路の周長の80%以上であるため、第1押さえ部材でワークを抑えた状態で溶接経路の周長の80%以上の部分を溶接することができる。第2観点によるレーザ溶接方法では、第1溶接において、溶接経路の周長の80%以上の部分を溶接する。このため、第1押さえ部材をワークから引き離した時のワークの変形を抑制することができる。
【0013】
第3観点による溶接用治具を用いる場合、外側押さえ部材及び第1内側押さえ部材でワークを押し付けて第1溶接を行い、その後、外側押さえ部材でワークを押さえ付けた状態を維持したまま、第1内側押さえ部材をワークから引き離し、第2内側押さえ部材でワークを押さえ付けることができる。第4観点によるレーザ溶接方法では、第1溶接の後、外側押さえ部材でワークをベース部材に押し付けた状態を維持したまま、第1内側押さえ部材をワークから引き離し、第2内側押さえ部材でワークを押さえ付ける。このように、外側押さえ部材でワークを押さえ付けた状態が維持されることにより、第1内側押さえ部材をワークから引き離したときのワークの変形を抑制することができる。
【0014】
第5観点によるレーザ溶接システム及び第6観点によるレーザ溶接方法では、接続部分に空隙を隔てて対向する領域にレーザビームを照射するときに、レーザ照射面に対して斜めの方向からレーザビームを入射させる。このため、溶接経路の全域にレーザビームを入射させることができる。溶接開始から終了まで、押さえ部材をワークから引き離さないため、ワークの変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1実施例によるレーザ溶接システムの概略斜視図である。
図2図2A及び図2Bは、それぞれワークの平面図及び断面図である。
図3図3Aは、第1実施例による溶接用治具の第1押さえ部材の平面図であり、図3Bは、第1押さえ部材でワークをベース部材に押し付けた状態のワーク及び溶接用治具の断面図である。
図4図4は、第1実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。
図5図5A及び図5Bは、それぞれ比較例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図であり、図5Cは、第1押さえ部材でワークを押さえ付けて溶接を行い、その後、第1押さえ部材をワークから引き離したときのワークの断面図である。
図6図6A及び図6Bは、それぞれ第1実施例の一変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図7図7A及び図7Bは、それぞれ第1実施例の他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図8図8A及び図8Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図9図9A及び図9Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図10図10A及び図10Bは、第1実施例のさらに他の変形例で溶接対象となるワークの平面図である。
図11図11A及び図11Bは、それぞれ図10に示したワーク用の溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図12図12A及び図12Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図13図13A及び図13Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材及び第2押さえ部材の平面図である。
図14図14Aは、第2実施例による溶接用治具の概略平面図であり、図14Bは、第2実施例による溶接用治具及びワークの概略側面図である。
図15図15A及び図15Bは、それぞれ外側押さえ部材及び第2内側押さえ部材が押し付け状態であり、第1内側押さえ部材が退避状態である場合の概略平面図及び概略側面図である。
図16図16A及び図16Bは、それぞれ外側押さえ部材、第1内側押さえ部材、及び第2内側押さえ部材が、すべて退避状態である場合の概略平面図及び概略側面図である。
図17図17は、第2実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。
図18図18Aは、第3実施例による溶接用治具の概略平面図であり、図18B及び図18Cは、それぞれ図18Aの一点鎖線18B-18B及び一点鎖線18C-18Cにおける断面図である。
図19図19は、第3実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。
図20図20Aは、第3実施例の変形例によるレーザ溶接システムの概略側面図であり、図20Bは、溶接用治具とスキャンエリアとの平面視における位置関係を示す図である。
図21図21A及び図21Bは、第4実施例による溶接用治具及びワークの一部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図4を参照して第1実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムについて説明する。
【0017】
図1は、第1実施例によるレーザ溶接システムの概略斜視図である。レーザ溶接システムは、レーザ照射装置及び溶接用治具30を含む。レーザ照射装置は、多関節ロボット10、直動機構11、レーザ加工ヘッド12、レーザ発振器60、レーザ伝送ファイバ61、及び制御装置70を含む。多関節ロボット10のアームの先端に、直動機構11を介してレーザ加工ヘッド12が支持されている。多関節ロボット10には、例えば6軸ロボットが用いられる。
【0018】
レーザ発振器60から出力された加工用のレーザビームが、レーザ伝送ファイバ61を経由してレーザ加工ヘッド12まで伝送される。レーザ発振器60として、例えば波長約1070nmのパルスレーザビームを出力するファイバレーザ発振器が用いられる。レーザ加工ヘッド12まで伝送された加工用のレーザビームは、レーザ加工ヘッド12の先端から出力される。直動機構11は、相互に直交する3軸の並進自由度を持ち、レーザ加工ヘッド12の位置を微調整する。多関節ロボット10、直動機構11、レーザ発振器60は、制御装置70によって制御される。
【0019】
多関節ロボット10の可動範囲内に、ワーク20が配置される。ワーク20は、溶接用治具30によって固定される。レーザ加工ヘッド12から出力されるレーザビーム63により、ワーク20に対して溶接加工が行われる。
【0020】
図2A及び図2Bは、それぞれワーク20の平面図及び断面図である。ワーク20は、平板状の2枚の上側の金属プレート21及び下側の金属プレート22を含む。下側の金属プレート22の上に上側の金属プレート21が重ねられている。上側の金属プレート21の上面(以下、レーザ照射面という場合がある。)にレーザビームを入射させることにより、レーザ溶接が行われる。
【0021】
ワーク20の上面に、レーザ照射すべき閉じた溶接経路25、及び2つの閉じた溶接経路26が定義されている。閉じた溶接経路25は、ワーク20の縁よりやや内側に、ワーク20の縁に沿って配置されており、2つの閉じた溶接経路26は、閉じた溶接経路25で囲まれた領域に配置されている。溶接経路25は、角丸長方形の外周線に沿う形状を有する。このため、溶接経路25は、4つの角部25Cを有する。ここで、「角部」とは、尖った角を形成する部分、及び丸まった角(丸角)を形成する部分を意味する。図2Aにおいて、閉じた溶接経路25、26を破線で表している。閉じた溶接経路25、26の位置及び形状を定義する情報が、制御装置70(図1)に格納されている。
【0022】
図3Aは、第1実施例による溶接用治具30(図1)の第1押さえ部材32の平面図であり、図3Bは、第1押さえ部材32でワーク20をベース部材31に押し付けた状態のワーク20及び溶接用治具30の断面図である。
【0023】
図3Aに示すように、第1押さえ部材32に、ワーク20に定義された外周側の閉じた溶接経路25(図2A)の周方向の一部分に沿う第1スリット32A及び内側の閉じた溶接経路26(図2A)のそれぞれの周方向の一部分に沿う内側のスリット32Bが設けられている。図3Aにおいて、第1押さえ部材32にハッチングを付している。第1スリット32Aは、周方向に分離された2つのスリット部分で構成されており、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、4つの角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。2つのスリット部分の長さは、ほぼ等しい。例えば、閉じた溶接経路25は、角丸長方形の外周に沿う形状を有しており、第1スリット32Aは、角丸長方形の1対の長辺のそれぞれのほぼ中央で分離されている。第1スリット32Aが分離された箇所において、第1押さえ部材32のうち閉じた溶接経路25(図2A)の外側の部分と内側の部分とが接続される。
【0024】
図3Bに示すように、ベース部材31の上面にワーク20が配置される。ワーク20のレーザ照射面に第1押さえ部材32を接触させ、第1押さえ部材32をワーク20に押し付けることにより、ベース部材31と第1押さえ部材32との間にワーク20が固定される。
【0025】
図3Cは、第1実施例による溶接用治具30(図1)の第2押さえ部材33の平面図であり、図3Dは、第2押さえ部材33でワーク20をベース部材31に押し付けた状態のワーク20及び溶接用治具30の断面図である。図3Cにおいて、第2押さえ部材33にハッチングを付している。
【0026】
図3Cに示すように、第2押さえ部材33に、ワーク20に定義された外周側の閉じた溶接経路25(図2A)の周方向の一部分に沿う第2スリット33A及び内側の閉じた溶接経路26(図2A)のそれぞれの周方向の一部分に沿う内側のスリット33Bが設けられている。第2スリット33Aは、閉じた溶接経路25のうち第1スリット32A(図3A)が沿う部分以外の部分に沿っている。なお、第2スリット33Aは、閉じた溶接経路25のうち第1スリット32A(図3A)が沿う部分の一部分と重なっていてもよい。すなわち、第1押さえ部材32と第2押さえ部材33とを位置合わせして重ねたとき、第1スリット32Aの端部と、第2スリット33Aの端部とが重なっていてもよい。内側のスリット33Bは、内側の閉じた溶接経路26のうち内側のスリット32B(図3A)が沿う部分以外の部分に沿っている。
【0027】
図3Dに示すように、ベース部材31の上面にワーク20が配置され、ワーク20のレーザ照射面に第2押さえ部材33が接触し、第2押さえ部材33がワーク20をベース部材31に押し付けることにより、第2押さえ部材33とベース部材31との間にワーク20が固定される。
【0028】
次に、図4を参照して第1実施例によるレーザ溶接方法について説明する。図4は、第1実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【0029】
まず、ワーク20をベース部材31の上面に配置する(ステップSA1)。次に、図3Bに示すように、第1押さえ部材32をワーク20のレーザ照射面に接触させて、ワーク20をベース部材31に押し付ける(ステップSA2)。この状態で、第1スリット32Aを通してワーク20にレーザビーム63(図3B)を入射させ、レーザビーム63の入射位置を第1スリット32Aに沿って移動させる第1溶接を行う(ステップSA3)。ワーク20に、第1スリット32Aに沿う溶接済の溶接線27(図3B)が形成される。さらに、内側のスリット32Bを通してワーク20にレーザビーム63を入射させ、レーザビーム63の入射位置を内側のスリット32Bに沿って移動させる。
【0030】
第1溶接(ステップSA3)の後、第1押さえ部材32をワーク20から引き離す(ステップSA4)。次に、図3Dに示すように、第2押さえ部材33をワーク20のレーザ照射面に接触させて、ワーク20をベース部材31に押し付ける(ステップSA5)。このとき、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)のうち第1溶接(ステップSA3)で溶接されなかった部分と、第2スリット33A(図3C)との位置を合わせる。この状態で、内側の閉じた溶接経路26(図2A)のうち第1溶接(ステップSA3)で溶接されなかった部分に、内側のスリット33B(図3C)が整合する。
【0031】
第2スリット33Aを通してワーク20にレーザビーム63を入射させ、レーザビーム63の入射位置を第2スリット33Aに沿って移動させる第2溶接を行う(ステップSA6)。さらに、内側のスリット33Bを通してワーク20にレーザビーム63を入射させ、レーザビーム63の入射位置を内側のスリット33Bに沿って移動させる。
【0032】
第2溶接(ステップSA6)の後、第2押さえ部材33をワーク20から引き離す(ステップSA7)。ここまでの工程で、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)及び内側の閉じた溶接経路26(図2A)に沿う溶接が完了する。
【0033】
次に、図5A図5Cに示す比較例と比較して、第1実施例の優れた効果について説明する。
図5A及び図5Bは、それぞれ比較例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。図5A及び図5Bにおいて、第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33にハッチングを付している。第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33に、それぞれ第1スリット32A及び第2スリット33Aが設けられている。
【0034】
第1実施例(図3A)では、第1押さえ部材32に設けられている第1スリット32Aの長さが、閉じた溶接経路25(図2A)の周長の80%以上であるが、比較例においては、第1スリット32Aの長さが、閉じた溶接経路25(図2A)の周長の80%未満である。さらに、第1実施例(図3A)では、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25の4つの角部25C(図2A)のそれぞれと重なるが、比較例においては、第1スリット32Aの一部分が、溶接経路25の2つの角部25C(図2Aにおいて上側の2つの角部)と重なるが、第1スリット32Aは、他の2つの角部25C(図2Aにおいて下側の2つの角部)には重ならない。第2押さえ部材33に設けられた第2スリット33Aを通した溶接と、第1押さえ部材32に設けられた第1スリット32Aを通した溶接とにより、閉じた溶接経路25の周方向の全域の溶接が行われる。
【0035】
図5Cは、第1押さえ部材32(図5A)でワーク20を押さえ付けて溶接を行うことにより溶接線27を形成し、その後、第1押さえ部材32をワーク20から引き離したときのワーク20の断面図である。第1押さえ部材32をワーク20から引き離すと、溶接時に発生した熱応力が解放され、ワーク20に反り等の変形が生じる。この変形は、特に溶接経路25の未溶接の角部25Cが配置された部分で生じやすい。ワーク20が変形していると、第2押さえ部材33(図5B)でワーク20を押し付けるときに、溶接線27と第2押さえ部材33の第2スリット33Aとの位置合わせを行うことが困難である。
【0036】
これに対して第1実施例では、図3Aに示すように、第1押さえ部材32に設けられている第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25のすべての角部25Cと重なる。このため、ステップSA3(図4)の第1溶接において、溶接経路25のすべての角部25Cで溶接が行われる。これにより、第1押さえ部材32をワーク20から引き離したときに、ワーク20に反り等の変形が生じにくいという優れた効果が得られる。
【0037】
さらに、第1実施例では、第1押さえ部材32に設けられている第1スリット32Aの長さが、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)の周長の80%以上である。ステップSA3(図4)の第1溶接において、閉じた溶接経路25の周長の80%以上の部分において、ワーク20の溶接行われる。このため、第1押さえ部材32をワーク20から引き離したとき(ステップSA4)のワークの変形を抑制することができる。
【0038】
次に、図6A図13Bを参照して、第1実施例の変形例による溶接用治具について説明する。
【0039】
図6A及び図6Bは、それぞれ第1実施例の一変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。図6A及び図6Bにおいて、第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33にハッチングを付している。なお、図7A図9B図11A図13Bにおいても同様である。
【0040】
第1実施例(図3A)では、第1スリット32Aが、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)が沿う角丸長方形の1対の長辺の中央で分離(図3Aにおいて上下に分離)されている。これに対して図6Aに示した変形例では、第1スリット32Aが、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)が沿う角丸長方形の1対の短辺の中央で分離(図6Aにおいて左右に分離)されている。図6Bに示すように、第2スリット33Aは、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)が沿う角丸長方形の1対の短辺の中央に位置する。
【0041】
図7A及び図7Bは、それぞれ第1実施例の他の変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。第1実施例(図3A)では、第1スリット32Aが2つのスリット部分に分離されている。これに対して図7Aに示した変形例では、第1スリット32Aが4つのスリット部分に分離されている。具体的には、第1スリット32Aが、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)が沿う角丸長方形の1対の長辺の中央及び1対の短辺の中央で分離(図7Aにおいて上下左右に分離)されている。図7Bに示すように、第2スリット33Aは、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)が沿う角丸長方形の1対の長辺の中央及び1対の短辺の中央に配置されている。
【0042】
図6A図7Bに示した変形例においても、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25の4つの角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。このため、第1実施例と同様に、第1押さえ部材32をワーク20から引き離したときに、ワーク20に反り等の変形が生じにくいという優れた効果が得られる。さらに、第1押さえ部材32に設けられている第1スリット32Aの長さが、溶接経路25(図2A)の周長の80%以上である。このため、第1実施例と同様に、ワーク20に反り等の変形がさらに生じにくいという優れた効果が得られる。
【0043】
図8A及び図8Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。本変形例では、図6Aに示した変形例と比べて、第1スリット32Aの合計の長さが短い。第1スリット32Aの長さは、溶接経路25(図2A)の周長の80%未満である。ただし、第1スリット32Aの長さが短くなっても、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25のすべての角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。
【0044】
図9A及び図9Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。本変形例では、図7Aに示した変形例と比べて、第1スリット32Aの合計の長さが短い。第1スリット32Aの長さは、溶接経路25(図2A)の周長の80%未満である。ただし、第1スリット32Aの長さが短くなっても、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25のすべての角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。
【0045】
図8A図9Bに示した変形例においても、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25のすべての角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。このため、第1実施例と同様に、第1押さえ部材32をワーク20から引き離したときに、ワーク20に反り等の変形が生じにくいという優れた効果が得られる。
【0046】
第1実施例(図3A)、及び変形例(図6A図7A図8A図9A)のいずれにおいても、第1スリット32Aが分離されている箇所(切れ目)は、外周側の閉じた溶接経路25(図2A)で囲まれた領域の幾何中心に関して点対称となる位置に配置されている。このため、第1スリット32Aの形状の対称性が確保される。このように、第1スリット32Aを、対称性が確保される形状にすることにより、ステップSA4(図4)で第1押さえ部材32をワーク20から引き離したときのワーク20の変形を抑制する効果が高まる。
【0047】
なお、第1スリット32Aは、必ずしも幾何学的に正確な対称性を維持している必要はない。例えば、第1スリット32Aの複数のスリット部分の各々の長さを、複数のスリット部分の長さの平均値の80%以上120%以下にすることが好ましい。このようにすることで、対称性の低下が抑制される。
【0048】
次に、図10A図11Bを参照して、第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具について説明する。
【0049】
図10A及び図10Bは、本変形例で溶接対象となるワーク20の平面図である。第1実施例(図2A)では、溶接経路25が外側に向かって凸状に湾曲した部分を含み、内側に向って凸状に湾曲した部分を含んでいない。これに対して本変形例では、溶接経路25が、外側に向かって凸状に湾曲した部分、及び内側に向かって湾曲した部分の両方を含む。外側に向かって湾曲した部分として、4つの角部25C及び2つの角部25Dを含み、内側に向かって湾曲した部分として、2つの角部25Eを含む。本変形例では、内側の溶接経路26(図2A)は定義されていない。なお、第1実施例(図2A)と同様に、内側の溶接経路26が定義されていてもよい。
【0050】
図10Bに示すように、溶接経路25の凸包28を定義する。「凸包」とは、与えられた図形に含まれるすべての点を包含する最小の凸集合をいう。例えば、溶接経路25を輪ゴムで囲んだとき、輪ゴムで囲まれた領域が凸包28に相当する。溶接経路25は、その凸包28に複数の角部が現れる形状を有している。すなわち、溶接経路25は、1本の直線ではなく、円周状でもない。凸包28の外周線は、外側に向かって凸状に湾曲した部分及び直線部分で構成され、内側に向かって湾曲した部分を含まない。図10Bに示した例において、溶接経路25の4つの角部25Cは、凸包28にも角部として現れるが、2つの角部25D及び2つの角部25Eは、凸包28に角部として現れない。
【0051】
第1実施例(図2A)のように、溶接経路25が、外側に向って凸状に湾曲した部分及び直線状の部分のみを含む場合は、溶接経路25の外周線と、溶接経路25の凸包28の外周線とが一致する。
【0052】
図11A及び図11Bは、それぞれ本変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。第1押さえ部材32に4つの第1スリット32Aが設けられており、4つの第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25の凸包28に現れているすべての角部25Cのそれぞれと重なる。第2押さえ部材33には、溶接経路25のうち、第1スリット32Aが沿う部分以外の部分に沿うように4つの第2スリット33Aが設けられている。
【0053】
本変形例では、ステップSA3(図4)の第1溶接において、凸包28に現れない溶接経路25の角部25D、25Eの部分が溶接されない。ただし、凸包28に現れない角部25D、25Eの部分は、第1溶接において溶接されていなくても、ワーク20の反りの発生に大きな影響を与えない。第1スリット32Aの少なくとも一部分が、凸包28に現れているすべての角部25Cのそれぞれと重なる構成とすることにより、ワーク20の反りを抑制することができる。
【0054】
なお、溶接経路25の角部25Cに加えて、角部25D、25Eの少なくとも一部分と重なるように、第1スリット32Aを設けてもよい。
【0055】
次に、図12A及び図12Bを参照して、第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具について説明する。図12A及び図12Bは、本変形例による溶接用治具30の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。第1実施例(図3A)、及び変形例(図6A図7A図8A図9A図11A)では、第1スリット32Aが偶数個のスリット部分に分離されているが、図12Aに示した変形例では、第1スリット32Aが3個のスリット部分に分離されている。図12Bに示した第2スリット33Aも同様に、3個設けられている。第1スリット32Aの少なくとも一部分が、第1実施例等と同様に、溶接経路25の4つの角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。
【0056】
本変形例のように、第1スリット32Aを3個のスリット部分に分離してもよいし、または5個以上の奇数個のスリット部分に分離してもよい。この場合、第1スリット32Aの形状の対称性の低下を抑制するために、第1スリット32Aの複数のスリット部分の各々の長さを、複数のスリット部分の長さの平均値の80%以上120%以下にすることが好ましい。さらに、溶接経路25のうち第1スリット32Aが沿う部分以外の複数の部分経路の各々長さを、複数の部分経路の長さの平均値の80%以上120%以下にすることが好ましい。
【0057】
図13A及び図13Bは、それぞれ第1実施例のさらに他の変形例による溶接用治具の第1押さえ部材32及び第2押さえ部材33の平面図である。本変形例では、第1スリット32Aの切れ目が1カ所のみに設けられており、第1スリット32Aは複数の部分に分離されていない。図13Bに示すように、第2押さえ部材33には、1個の第2スリット33Aが設けられている。第1実施例等と同様に、第1スリット32Aの一部分が、溶接経路25の4つの角部25C(図2A)のそれぞれと重なる。
【0058】
本変形例のように、第1スリット32Aは、必ずしも複数のスリット部分に分離しなくてもよい。本変形例においても、第1スリット32Aの長さを、閉じた溶接経路25の周長の80%以上にすることにより、第1実施例と同様に、ワーク20の変形を抑制することができる。
【0059】
第1実施例及びその変形例では、溶接経路25(図2A等)が閉じた曲線で構成されているが、溶接経路25が、閉じた経路のうち少なくとも1か所において切断された形状を有していてもよい。溶接経路25が切断された部分を有している場合、第1押さえ部材32の第1スリット32A(図3A等)を、溶接経路25の全域に沿うように設けることが可能である。そうすれば、第1押さえ部材32を用いた第1溶接(図4のステップSA3)のみで溶接を完了することができる。ところが、溶接経路25の切断箇所が短くなると、第1押さえ部材32のうち溶接経路25の内側の部分と外側の部分とを接続する接続部分の機械的強度が不足する場合がある。このような場合は、第1実施例及びその変形例のように、第1押さえ部材32と第2押さえ部材33とを用いることにより、第1押さえ部材32の機械的強度を十分高めることができる。
【0060】
第1実施例等では、第1スリット32Aの少なくとも一部分が、溶接経路25の凸包28(図10B)に現れるすべての角部25Cのそれぞれの全域と重なるが、すべての角部25Cのそれぞれの一部分と重なる構成としてもよい。ここで、「角部25Cの全域」とは、2本の直線部分の間に配置された曲線部分の全域を意味する。
【0061】
第1実施例等では、溶接経路25の凸包28が角丸長方形であるが、他の形状であってもよい。例えば、角丸三角形等の角丸多角形であってもよい。
【0062】
次に、図14A図17を参照して、第2実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムについて説明する。以下、図1図4を参照して説明した第1実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムと共通の構成については説明を省略する。
【0063】
図14Aは、第2実施例による溶接用治具30の概略平面図であり、図14Bは、第2実施例による溶接用治具30及びワーク20の概略側面図である。第2実施例による溶接用治具30は、ベース部材31、外側押さえ部材34、第1内側押さえ部材35、第2内側押さえ部材36、外側押さえ部材支持機構44、第1支持機構45、及び第2支持機構46を含む。
【0064】
外側押さえ部材34は、ワーク20のレーザ照射面のうち、閉じた溶接経路25(図2A)の外側の部分に接触し、ワーク20をベース部材31に押し付ける。第1内側押さえ部材35及び第2内側押さえ部材36は、それぞれワーク20のレーザ照射面のうち、閉じた溶接経路25(図2A)の内側の部分に接触し、ワーク20をベース部材31に押し付ける。第1内側押さえ部材35には、第1実施例の第1押さえ部材32(図3A)と同様に、内側のスリット35Bが設けられている。
【0065】
外側押さえ部材支持機構44は、回転中心44Cを中心として外側押さえ部材34を揺動させることにより、外側押さえ部材34がワーク20に接触した状態(以下、押し付け状態という。)と、ワーク20から引き離された状態(以下、退避状態という。)を実現する。第1支持機構45は、回転中心45Cを中心として第1内側押さえ部材35を揺動させることにより、第1内側押さえ部材35の押し付け状態と退避状態とを実現する。第2支持機構46は、回転中心46Cを中心として第2内側押さえ部材36を揺動させることにより、第2内側押さえ部材36の押し付け状態と退避状態とを実現する。図14A及び図14Bは、外側押さえ部材34及び第1内側押さえ部材35が押し付け状態であり、第2内側押さえ部材36が退避状態である場合を示している。
【0066】
外側押さえ部材34及び第1内側押さえ部材35が押し付け状態のとき、外側押さえ部材34の内周側の縁と、第1内側押さえ部材35の縁との間に隙間35Aが形成される。この隙間35Aは、平面視において、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)に沿う。平面視において、第1支持機構45と隙間35Aとが、交差箇所35Xにおいて交差する。
【0067】
図15A及び図15Bは、それぞれ外側押さえ部材34及び第2内側押さえ部材36が押し付け状態であり、第1内側押さえ部材35が退避状態である場合の概略平面図及び概略側面図である。この状態で、外側押さえ部材34の内周側の縁と、第2内側押さえ部材36の縁との間に隙間36Aが形成される。この隙間36Aも、隙間35A(図14A)と同様に、平面視において、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)に沿う。平面視において、第2支持機構46と隙間36Aとが、交差箇所36Xにおいて交差する。交差箇所35X(図14A)と交差箇所36X(図15A)とは、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)の周方向に関して異なる箇所に位置する。
【0068】
図16A及び図16Bは、それぞれ外側押さえ部材34、第1内側押さえ部材35、及び第2内側押さえ部材36が、すべて退避状態である場合の概略平面図及び概略側面図である。ベース部材31の上にワーク20が配置されており、ワーク20のレーザ照射面の全域が露出している。
【0069】
図17は、第2実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。
まず、ワーク20をベース部材31の上に配置する(ステップSB1)。図14A及び図14Bに示すように、外側押さえ部材支持機構44を動作させて外側押さえ部材34を押し付け状態にするとともに、第1支持機構45を動作させて第1内側押さえ部材35も押し付け状態にする(ステップSB2)。
【0070】
この状態で、外側押さえ部材34と第1内側押さえ部材35との隙間35A(図14A)に沿って、レーザビームを入射させ、さらに第1内側押さえ部材35に設けられている内側のスリット35B(図14A)に沿ってレーザビームを入射させる第1溶接を実行する(ステップSB3)。第1溶接では、交差箇所35X(図14A)にはレーザビームを入射させない。
【0071】
第1溶接の後、第1支持機構45を動作させて、第1内側押さえ部材35を退避状態にする(ステップSB4)。その後、第2支持機構46を動作させて、図15Bに示すように、第2内側押さえ部材36を押し付け状態にする(ステップSB5)。この状態で、閉じた溶接経路25(図2A)のうち第1溶接(ステップSB3)において溶接されていない箇所にレーザビームを入射させるとともに、第2内側押さえ部材36の設けられた内側のスリット36B(図15A)に沿ってレーザビームを入射させる第2溶接を実行する(ステップSB6)。
【0072】
第2溶接の後、外側押さえ部材支持機構44を動作させて外側押さえ部材34を対比状態にするとともに、第2支持機構46を動作させて第2内側押さえ部材36を退避状態にする(ステップSB7)。
【0073】
次に、第2実施例の優れた効果について説明する。
第2実施例では、第1溶接(ステップSB3)の後、第1内側押さえ部材35を退避状態(ステップSB4)に設定しても、外側押さえ部材34は押し付け状態を維持する。このため、第1溶接時に発生した熱応力に起因するワーク20の変形を抑制することができる。
【0074】
次に、図18A図19を参照して第3実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムについて説明する。以下、図1図4を参照して説明した第1実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムと共通の構成については説明を省略する。
【0075】
図18Aは、第3実施例による溶接用治具の概略平面図であり、図18B及び図18Cは、それぞれ図18Aの一点鎖線18B-18B及び一点鎖線18C-18Cにおける断面図である。第3実施例による溶接用治具30は、ベース部材31及び押さえ部材を含む。押さえ部材は、外側押さえ部分37、内側押さえ部分38、及び接続部分39を含む。
【0076】
外側押さえ部分37は、ワーク20のレーザ照射面のうち閉じた溶接経路25(図2A)を連続的に取り囲む環状の領域に接触し、ワーク20をベース部材31に押し付ける。内側押さえ部分38は、ワーク20のレーザ照射面のうち閉じた溶接経路25の内側の領域に接触して、ワーク20をベース部材31に押し付ける。外側押さえ部分37と内側押さえ部分38との間に、隙間37Aが形成される。隙間37Aは、閉じた溶接経路25に沿って配置される。接続部分39は、外側押さえ部分37と内側押さえ部分38とを接続する。
【0077】
平面視において、接続部分39は十字の形状を有し、4箇の交差箇所37Xで隙間37Aと交差する。外側押さえ部分37及び内側押さえ部分38をワークのレーザ照射面に接触させた状態で、交差箇所37Xにおいて接続部分39とレーザ照射面との間に空隙65が形成される。接続部分39の、隙間37Aに沿う断面は、ワーク20に対向する面がその反対側の面より小さくなる形状、例えば逆台形状である。なお、断面形状は、必ずしも逆台形状である必要はなく、長方形であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0078】
レーザビーム63(図18C)をワーク20のレーザ照射面に対して斜めに入射させることにより、交差箇所37Xのレーザ照射面にレーザビームを入射させることができる。このため、平面視において接続部分39で隠れた領域にも、レーザビームを入射させることができる。レーザビーム63の斜め入射は、多関節ロボット10の姿勢を調整することにより実現可能である。
【0079】
図19は、第3実施例によるレーザ溶接方法の手順を示すフローチャートである。まず、ワーク20をベース部材31の上に配置する(ステップSC1)。外側押さえ部分37、内側押さえ部分38、及び接続部分39を有する押さえ部材でワーク20をベース部材31に押し付ける(ステップSC2)。この状態で、外側押さえ部分37と内側押さえ部分38との間の隙間37Aに沿ってレーザビームを入射させ、溶接を行う(ステップSC3)。このとき、接続部分39の直下の領域には、図18Cに示すようにレーザビームを斜め入射させることにより、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)の全周に亘って溶接を完了させる。
【0080】
溶接後、外側押さえ部分37、内側押さえ部分38、及び接続部分39を含む押さえ部材をワーク20から引き離す(ステップSC4)。
【0081】
次に、第3実施例の優れた効果について説明する。
第3実施例では、溶接すべき閉じた溶接経路25(図2A)の溶接開始から全周の溶接が完了するまで、押さえ部材がワーク20を押し付けた状態が継続する。このため、溶接途中に発生する熱応力に起因する変形が生じにくい。接続部分39(図18C)の断面形状を逆台形状にすると、斜め入射するレーザビームの経路を遮ることなく、接続部分39の機械的強度を高めることができる。
【0082】
次に、図20A及び図20Bを参照して第3実施例の変形例によるレーザ溶接システムについて説明する。
【0083】
図20Aは、本変形例によるレーザ溶接システムの概略側面図である。第3実施例では、図1に示すように、レーザ加工ヘッド12が多関節ロボット10の先端に取り付けられており、多関節ロボット10の姿勢を変化させることにより、レーザビームの経路を移動させる。これに対して本変形例では、レーザ加工ヘッド12にビーム走査器が搭載されており、ビーム走査器を動作させてレーザビームの経路を移動させる。ビーム走査器として、例えば1対のガルバノミラーを含むガルバノスキャナが用いられる。
【0084】
架台16の上に、X軸移動機構15X及びY軸移動機構15Yを介して溶接用治具30が配置される。溶接用治具30によってワーク20が固定される。Z軸移動機構15Zによってレーザ加工ヘッド12が溶接用治具30の上方に支持される。X軸移動機構15X及びY軸移動機構15Yは、それぞれ溶接用治具30を水平面内で相互に直交するX方向及びY方向に移動させる。Z軸移動機構15Zは、レーザ加工ヘッド12を昇降させる。制御装置70が、X軸移動機構15X,Y軸移動機構15Y、Z軸移動機構15Z、及びレーザ発振器60を制御する。
【0085】
レーザ発振器60から出力されたレーザビームがレーザ伝送ファイバ61を経由してレーザ加工ヘッド12に入力される。レーザ加工ヘッド12から出力されたレーザビーム63が、溶接用治具30で固定されたワーク20に入射する。レーザ加工ヘッド12に搭載されたビーム走査器が、レーザビーム63をX方向及びY方向の2方向に走査する。レーザビーム63を走査することによってレーザビームを入射させることができる領域をスキャンエリア69ということする。
【0086】
図20Bは、溶接用治具30とスキャンエリア69との平面視における位置関係を示す図である。十字の形状を有する接続部分39によって、隙間37Aが4つの部分に仕切られる。制御装置70がX軸移動機構15X及びY軸移動機構15Yを動作させて、隙間37Aの4つの部分のうち1つをスキャンエリア69内に配置し、溶接を行う。その後、隙間37Aの4つの部分のそれぞれを順番にスキャンエリア69内に配置し、溶接を行う。
【0087】
溶接時には、接続部分39が、スキャンエリア69の縁の近傍に位置するように、スキャンエリア69と溶接用治具30とを位置決めする。スキャンエリア69の縁の近傍では、XY面の法線に対するレーザビーム63の傾斜角が大きくなる。このため、図18Cに示したように、ワーク20のレーザ照射面のうち接続部分39の直下の領域にレーザビーム63を入射させることができる。
【0088】
次に、図21A及び図21Bを参照して第4実施例による溶接用治具について説明する。以下、図1図4を参照して説明した第1実施例による溶接用治具、レーザ溶接方法、及びレーザ溶接システムと共通の構成については説明を省略する。
【0089】
図21A及び図21Bは、第4実施例による溶接用治具30及びワーク20の一部分の断面図である。第4実施例による溶接用治具30は、第1実施例(図3A図3D)による溶接用治具30と同様に、ベース部材31、第1押さえ部材32(図21A)、第2押さえ部材33(図21B)を含む。図21Aは、ワーク20をベース部材31と第1押さえ部材32とで固定した状態の一部分の断面図であり、図21Bは、ワーク20をベース部材31と第2押さえ部材33とで固定した状態の一部分の断面図である。
【0090】
第1実施例(図2A図2B)による溶接用治具30が固定するワーク20の2枚の金属プレート21、22は、単純な平板である。これに対して第4実施例による溶接用治具30が固定するワーク20の2枚の金属プレートのそれぞれは、平板をプレス加工等によって変形させたものである。
【0091】
例えば、下側の金属プレート22の一部分が、下側に向かって突き出た凹凸部22Aを有しており、上側の金属プレート21が、上側に向かって突き出た凹凸部21Aを有している。2枚の金属プレート21、22を重ねると、下側の凹凸部22Aと上側の凹凸部21Aとの間に空洞が形成される。凹凸部21A、22Aが形成されてない領域では、2枚の金属プレート21、22が接触している。
【0092】
ベース部材31(図21A図21B)の上面に、下側の金属プレート22の凹凸部22Aが収容される凹部31Cが設けられている。下側の金属プレート22は、凹凸部22A以外の領域においてベース部材31の上面に接触する。第1押さえ部材32(図21A)の下面に、上側の金属プレート21の凹凸部21Aを収容する凹部32Cが設けられており、第2押さえ部材33(図21B)の下面にも、凹凸部21Aを収容する凹部33Cが設けられている。上側の金属プレート21は、凹凸部21A以外の領域において、第1押さえ部材32(図21A)の下面及び第2押さえ部材33(図21B)の下面に接触する。このように、ワーク20は、凹凸部21A、22A以外の領域で、溶接用治具30に固定される。
【0093】
閉じた溶接経路25(図2A)は、凹凸部21A、22A以外の箇所に定義されている。第1押さえ部材32に、閉じた溶接経路25(図21A)に沿う第1スリット32Aが設けられている。第1押さえ部材32をワーク20に接触させた状態で、第1スリット32Aを通してワーク20にレーザビームを入射させて溶接を行う(図4のステップSA3に相当)。その後、図21Bに示すように、第2押さえ部材33をワーク20に接触させる。第1スリット32Aと重なっていた領域に、溶接済の溶接線27が形成されている。
【0094】
第2押さえ部材33(図21B)をワーク20に接触させた状態で、未溶接の箇所の溶接を行う(図4のステップSA6に相当)。
【0095】
次に、第4実施例の優れた効果について説明する。第4実施例のように、ワーク20に凹凸部21A、22Aが設けられている場合でも、溶接用治具30に凹凸部21A、22Aを収容する凹部31C、32C、33Cを設けることにより、閉じた溶接経路25(図2A)に沿う溶接を行う際に、ワーク20を溶接用治具30で固定することができる。さらに、第1実施例と同様に、熱応力に起因するワーク20の変形を抑制することができる。
【0096】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0097】
10 多関節ロボット
11 直動機構
12 レーザ加工ヘッド
15X X軸移動機構
15Y Y軸移動機構
15Z Z軸移動機構
16 架台
20 ワーク
21 上側の金属プレート
21A 凹凸部
22 下側の金属プレート
22A 凹凸部
25 外周側の閉じた溶接経路
26 内側の閉じた溶接経路
27 溶接線
28 溶接経路の凸包
30 溶接用治具
31 ベース部材
31C 凹部
32 第1押さえ部材
32A 第1スリット
32B 内側のスリット
32C 凹部
33 第2押さえ部材
33A 第2スリット
33B 内側のスリット
33C 凹部
34 外側押さえ部材
35 第1内側押さえ部材
35A 隙間
35B 内側のスリット
36 第2内側押さえ部材
36A 隙間
36B 内側のスリット
37 外側押さえ部分
37A 隙間
37X 交差箇所
38 内側押さえ部分
39 接続部分
44 外側押さえ部材支持機構
44C 回転中心
45 第1支持機構
45C 回転中心
46 第2支持機構
46C 回転中心
60 レーザ発振器
61 レーザ伝送ファイバ
63 レーザビーム
65 空隙
69 スキャンエリア
70 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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図12
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図21