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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172906
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20241205BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H59/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090955
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 健司
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA07
3J552MA17
3J552NA01
3J552NB01
3J552PA23
3J552RA03
3J552RA12
3J552RC09
3J552SA34
3J552SB09
3J552SB25
3J552SB33
3J552VA32W
3J552VA43W
3J552VA74W
3J552VC01W
(57)【要約】
【課題】2段階アップシフトを防止する。
【解決手段】プライマリシャフトとセカンダリシャフトの間の変速比を変えて動力を伝達する変速機を制御する制御装置であって、制御装置は、1つまたは複数のプロセッサと、プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、を有し、プロセッサは、プライマリシャフトの目標回転数が第1の所定値以上になったときに変速機のアップシフトを行う第1制御を実行することと、エンジン回転数が第2の所定値以上になった際に変速機のアップシフトを行う第2制御を実行することと、を含む処理を実行し、目標回転数が変速機の変速段ごとに設定された設定値以上である場合に、第2制御を実行し、目標回転数が設定値未満である場合に、第2制御を実行しない。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリシャフトとセカンダリシャフトの間の変速比を変えて動力を伝達する変速機を制御する制御装置であって、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記プライマリシャフトの目標回転数が第1の所定値以上になったときに前記変速機のアップシフトを行う第1制御を実行することと、
エンジン回転数が第2の所定値以上になった際に前記変速機のアップシフトを行う第2制御を実行することと、
を含む処理を実行し、
前記目標回転数が前記変速機の変速段ごとに設定された設定値以上である場合に、前記第2制御を実行し、前記目標回転数が前記設定値未満である場合に、前記第2制御を実行しない、
変速機の制御装置。
【請求項2】
前記変速段のうち変速比が大きい側の前記設定値は、前記変速比が小さい側の前記設定値よりも小さい数値に設定されている、
請求項1に記載の変速機の制御装置。
【請求項3】
トルクコンバータのロックアップクラッチのクローズ状態の前記設定値は、前記ロックアップクラッチのオープン状態の前記設定値よりも小さい数値に設定されている、
請求項1または2に記載の変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、自動変速機および当該自動変速機の変速比を制御する制御装置が搭載される場合がある。自動変速機の制御装置では、車速とアクセル開度に応じて変速比を自動的に決定する自動変速モードを有することが知られている。また、自動変速機の制御装置では、自動変速モードに加えて、車両に設けられたシフトレバーをドライバが操作することで変更されるギヤ段に応じて自動変速機の変速比を設定するマニュアルモードを有することが知られている。
【0003】
特許文献1には、自動変速モードおよびマニュアルモードを有する無段変速機の制御装置において、エンジン回転数または無段変速機の入力回転数がエンジンの許容回転数を超えないように、変速比を自動的に変更することについて開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3491423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マニュアルモードにおいては、無段変速機の入力回転数が許容回転数を超えないようにアップシフトするオートアップ制御と、エンジン回転数が許容回転数を超えないようにアップシフトするオーバーレブ判定とが併用される場合がある。
【0006】
オートアップ制御およびオーバーレブ判定を併用した場合、特定条件下において、オートアップ制御によるアップシフトとオーバーレブ判定によるアップシフトとが連続して行われ、2段階アップシフトが発生してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、2段階アップシフトを防止可能な変速機の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の変速機の制御装置は、
プライマリシャフトとセカンダリシャフトの間の変速比を変えて動力を伝達する変速機を制御する制御装置であって、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記プライマリシャフトの目標回転数が第1の所定値以上になったときに前記変速機のアップシフトを行う第1制御を実行することと、
エンジン回転数が第2の所定値以上になった際に前記変速機のアップシフトを行う第2制御を実行することと、
を含む処理を実行し、
前記目標回転数が前記変速機の変速段ごとに設定された設定値以上である場合に、前記第2制御を実行し、前記目標回転数が前記設定値未満である場合に、前記第2制御を実行しない。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、2段階アップシフトを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態に係る車両の構成を示す概略構成図である。
図2図2は、本実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、2段階アップシフトの発生を説明するためのグラフである。
図4図4は、本実施形態のオーバーレブ判定の処理を説明するためのグラフである。
図5図5は、本実施形態に係る制御装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、本実施形態に係る車両1の構成を示す概略構成図である。車両1は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)等のハイブリッド車両であり、エンジン10および走行用モータ11を備える。車両1は、本実施形態に示す構成要素のみならず、様々な構成要素をさらに備えてもよい。
【0013】
エンジン10は、内部を貫通するようにクランクシャフト10aが配置され、燃焼室における爆発圧力でピストンを往復動させてクランクシャフト10aを回転させる。クランクシャフト10aの端部には、ギヤ10bおよびプーリ10cが設けられる。
【0014】
走行用モータ11は、例えば、同期型回転電機である。走行用モータ11は、動力源として機能する場合、高電圧バッテリ12から供給される電力によってプライマリシャフト11aを回転させる。また、走行用モータ11は、発電機として機能する場合、発電することにより得られた電力を高電圧バッテリ12に供給することで、高電圧バッテリ12を充電する。
【0015】
エンジン10の近傍には、スタータ13およびISG(Integrated Starter Generator)15が設けられる。スタータ13は、エンジン始動に用いられる。ただし、スタータ13は、運転サイクルの最初の始動時のみ利用される。スタータ13のシャフト13aには、ギヤ13bが設けられる。ギヤ13bが後述するトルクコンバータ16の外周に設けられたギヤ10bと噛み合わされていることにより、シャフト13aとクランクシャフト10aとの間で動力が伝達される。
【0016】
ISG15は、エンジン10の駆動力をアシストする。また、ISG15は、アイドルストップ等のエンジン10の停止時において、エンジン10の始動用モータとして機能する。ISG15は、始動用モータとして機能する場合、補機バッテリ14から供給される電力によってシャフト15aを回転させる。シャフト15aに設けられたプーリ15bからプーリ10cにベルト15cが張架されている。ISG15の駆動力が、シャフト15a、プーリ15b、ベルト15c、プーリ10cを介してクランクシャフト10aに伝達されてエンジン10が始動される。また、ISG15は、オルタネータとして機能する。ISG15は、オルタネータとして機能する場合、エンジン10の駆動力をクランクシャフト10a、プーリ10c、ベルト15c、プーリ15bを介してシャフト15aに伝達して発電する。ISG15は、発電することにより得られた電力で補機バッテリ14を充電する。
【0017】
また、クランクシャフト10aの端部には、トルクコンバータ16、入力クラッチ17を介して変速機18が接続される。
【0018】
トルクコンバータ16は、クランクシャフト10aに接続されたフロントカバー16aと、フロントカバー16aに固定されたポンプインペラ16bとを含む。また、フロントカバー16a内においては、タービンランナ16cがポンプインペラ16bに対向配置されている。タービンランナ16cには、タービンシャフト16dが接続される。ポンプインペラ16bおよびタービンランナ16cの間の内周側にはステータ16eが配置され、内部に作動流体が封入されている。
【0019】
トルクコンバータ16は、ポンプインペラ16bが回転することで作動流体が外周側に送出され、作動流体をタービンランナ16cに送ることでタービンランナ16cを回転させる。これにより、クランクシャフト10aからタービンランナ16cに動力が伝達される。
【0020】
ステータ16eは、タービンランナ16cから送り出された作動流体の流動方向を変化させてポンプインペラ16bに還流させ、ポンプインペラ16bの回転を促進させる。そのため、トルクコンバータ16はタービンシャフト16dへの伝達トルクを増幅することができる。
【0021】
また、トルクコンバータ16では、タービンシャフト16dに固定されたロックアップクラッチ16fがフロントカバー16aの内面に対向配置されている。ロックアップクラッチ16fは、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させることができる。つまり、ロックアップクラッチ16fは、クランクシャフト10aとタービンシャフト16dとを直接的に係合させるクローズ状態と、これらを直接的に係合させないオープン状態とに切り替えられるようになっている。
【0022】
ロックアップクラッチ16fがオープン状態である場合、クランクシャフト10aのトルクは、増幅されてタービンシャフト16dに伝えられる。ロックアップクラッチ16fがクローズ状態である場合、クランクシャフト10aのトルクは、直接的にタービンシャフト16dに伝えられる。
【0023】
このように、トルクコンバータ16は、オープン状態である場合、クランクシャフト10aのトルクを増幅してタービンシャフト16dに伝達する。これと引き換えに、タービンシャフト16dの回転数は、クランクシャフト10aの回転数より低下する。そうすると、ドライバは、アクセルペダルを操作してエンジン10の回転数を上げても、車両1が直ぐには加速しないといった滑り感を覚えることとなる。
【0024】
ここでは、ロックアップクラッチ16fをクローズ状態にすることで、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させ、トルクコンバータ16の機能をキャンセルできる。したがって、クランクシャフト10aからタービンシャフト16dへのトルクの増幅がなくなるものの、エンジン10の回転数がタービンシャフト16dに直接伝わることとなる。こうして、ドライバは、滑り感のない走行を楽しむことができる。以下、このようなロックアップクラッチ16fにより、クランクシャフト10aをタービンシャフト16dに直接的に係合させることをロックアップという。
【0025】
入力クラッチ17では、タービンシャフト16dに固定された固定ケース17aと、プライマリシャフト11aに固定された移動部材17bとが対向配置されている。移動部材17bは、不図示の油圧ポンプから供給される作動油の油圧により、固定ケース17aに向けて移動する。
【0026】
入力クラッチ17は、固定ケース17aと移動部材17bとが離間した解放状態において、タービンシャフト16dとプライマリシャフト11aとの間の動力の伝達を遮断する。また、入力クラッチ17は、油圧により固定ケース17aに移動部材17bが押し付けられた連結状態において、タービンシャフト16dとプライマリシャフト11aとの間で動力を伝達する。
【0027】
変速機18は、プライマリプーリ19、セカンダリプーリ20およびベルト21を含む。プライマリプーリ19は、プライマリシャフト11aに設けられる。セカンダリプーリ20は、プライマリシャフト11aに対して平行に配置されたセカンダリシャフト22に設けられる。ベルト21は、例えばリンクプレートをピンで連結したチェーンベルトで構成され、一対のプライマリプーリ19とセカンダリプーリ20との間に掛け渡される。ベルト21は、プライマリプーリ19とセカンダリプーリ20との間で動力を伝達する。
【0028】
プライマリプーリ19は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19bを含む。固定シーブ19aおよび可動シーブ19bは、互いにプライマリシャフト11aの軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ19aおよび可動シーブ19b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面となっており、このコーン面によってベルト21が掛け渡される溝が形成される。
【0029】
同様に、セカンダリプーリ20は、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bを含む。固定シーブ20aおよび可動シーブ20bは、互いにセカンダリシャフト22の軸方向に対向して設けられる。また、固定シーブ20aおよび可動シーブ20b双方の対向面が、略円錐形状のコーン面となっており、このコーン面によってベルト21が掛け渡される溝が形成される。
【0030】
プライマリプーリ19の可動シーブ19bは、不図示の油圧ポンプから油圧制御弁を介し供給されるオイルの油圧により、プライマリシャフト11aの軸方向の位置が可変に構成されている。また、セカンダリプーリ20の可動シーブ20bは、油圧ポンプから供給されるオイルの油圧により、セカンダリシャフト22の軸方向の位置が可変に構成されている。
【0031】
このように、プライマリプーリ19は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19bの対向間隔が可変であり、セカンダリプーリ20は、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bの対向間隔が可変である。そして、ベルト21が掛け渡される溝は、固定シーブ19aおよび可動シーブ19b、固定シーブ20aおよび可動シーブ20bの径方向内方が狭く、径方向外方が広くなっている。そのため、コーン面の対向間隔が変わり、ベルト21が掛け渡される溝幅が変更されると、ベルト21の掛け渡される位置が変わる。
【0032】
変速機18は、ベルト21の掛け渡される位置が変わることで、ベルト21の巻き掛け径が可変となる。つまり、プライマリプーリ19およびセカンダリプーリ20は、ベルト21の有効径が可変に構成されている。変速機18は、プライマリシャフト11aとセカンダリシャフト22の間の変速比を変えて動力を伝達する変速機である。こうして、変速機18は、プライマリシャフト11aとセカンダリシャフト22との間の伝達トルクを無段変速する無段変速機として機能する。
【0033】
セカンダリシャフト22は、ギヤ機構23を介して出力軸24に接続される。出力軸24は、第1出力軸24aと第2出力軸24bとを備えている。ギヤ機構23は、セカンダリシャフト22と第1出力軸24aとを連結し、両者を一体回転させる。第1出力軸24aと第2出力軸24bとは、出力クラッチ25を介して接続されている。出力クラッチ25は、第2出力軸24bに固定された固定ケース25aと、第1出力軸24aに設けられた移動部材25bとを備えている。固定ケース25aと移動部材25bとは対向配置される。移動部材25bは、不図示の油圧ポンプから供給される作動油の油圧により、固定ケース25aに向けて移動する。
【0034】
出力クラッチ25は、固定ケース25aと移動部材25bとが離間した解放状態において、第1出力軸24aと第2出力軸24bとの間の動力の伝達を遮断する。また、出力クラッチ25は、油圧により固定ケース25aに移動部材25bが押し付けられた連結状態において、第1出力軸24aと第2出力軸24bの間で動力を伝達し、その動力が第2出力軸24bに接続された駆動輪26に出力される。なお、出力クラッチ25は、作動油の油圧に応じて第1出力軸24aと第2出力軸24bとの間で伝達されるトルク容量が調整可能である。
【0035】
出力クラッチ25は、変速機18のトルク容量よりも小さいトルク容量に設定されており、変速機18からのトルクを駆動輪26に伝達する。一方で、出力クラッチ25は、自己のトルク容量より大きな外乱等のトルクが駆動輪26から入力された場合には、固定ケース25aに対して移動部材25bが滑るので、トルクの伝達がトルク容量以下に制限される。このため、出力クラッチ25は、変速機18のトルク容量よりも大きなトルクを変速機18に伝達することがない。すなわち、出力クラッチ25は、トルクヒューズとして機能する。
【0036】
また、車両1には、クランク角センサS1、プライマリ回転数センサS2、セカンダリ回転数センサS3、車速センサS4、アクセル開度センサS5が設けられる。クランク角センサS1、プライマリ回転数センサS2、セカンダリ回転数センサS3、車速センサS4、アクセル開度センサS5は、それぞれ信号線により制御装置30と電気的に接続されている。
【0037】
クランク角センサS1は、クランクシャフト10aに設けられ、クランクシャフト10aの回転数、すなわちエンジン10の回転数(以下、エンジン回転数と呼ぶ)を検出し、当該エンジン回転数を示す信号を制御装置30に出力する。
【0038】
プライマリ回転数センサS2は、プライマリシャフト11aに設けられ、プライマリシャフト11aの回転数(以下、プライマリ回転数と呼ぶ)を検出し、当該プライマリ回転数を示す信号を制御装置30に出力する。
【0039】
セカンダリ回転数センサS3は、セカンダリシャフト22に設けられ、セカンダリシャフト22の回転数(以下、セカンダリ回転数と呼ぶ)を検出し、当該セカンダリ回転数を示す信号を制御装置30に出力する。
【0040】
車速センサS4は、車両1の車速を検出し、当該車速を示す信号を制御装置30に出力する。アクセル開度センサS5は、車両1に設けられた不図示のアクセルペダルの踏み込み量を検出し、当該踏み込み量を示す信号を制御装置30に出力する。
【0041】
制御装置30は、エンジン10および走行用モータ11を含む上記の各構成要素に接続され、車両1全体を制御する。本実施形態では、主に、制御装置30が変速機18を制御する内容について詳細に説明する。
【0042】
制御装置30は、1または複数のプロセッサ30a、1または複数のメモリ30bを含む。プロセッサ30aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。メモリ30bは、例えば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含む。ROMは、CPUが使用するプログラムおよび演算パラメータ等を記憶する記憶素子である。RAMは、CPUにより実行される処理に用いられる変数およびパラメータ等のデータを一時記憶する記憶素子である。
【0043】
図2は、本実施形態に係る制御装置30の機能構成の一例を示すブロック図である。例えば、図2に示されるように、制御装置30は、変速比制御部40、オートアップ制御部50、オーバーレブ判定部60、ロックアップ制御部70を含む。
【0044】
プロセッサ30aは、メモリ30bに含まれるプログラムと協働し、メモリ30bに含まれるプログラムを実行することで、上記の変速比制御部40、オートアップ制御部50、オーバーレブ判定部60、ロックアップ制御部70により行われる以下で説明する処理を含む各種処理を実現する。
【0045】
変速比制御部40は、変速機18の変速比を制御する。変速比制御部40は、自動変速モードと、マニュアルモードとを有する。自動変速モードは、車速とアクセル開度に応じて変速比を自動的に制御する。また、マニュアルモードは、車両1に設けられた不図示のシフトレバーをドライバが操作することで変更されるギヤ段に応じて変速機18の変速比を制御する。
【0046】
本実施形態では、変速比制御部40は、マニュアルモード時に、車速とギヤ段に基づいて目標変速比を導出し、セカンダリ回転数センサS3で検出したセカンダリ回転数に目標変速比を乗算することで目標プライマリ回転数を導出する。そして、変速比制御部40は、プライマリ回転数センサS2で検出したプライマリ回転数が目標プライマリ回転数となるように変速機18の変速比を制御する。以下、目標プライマリ回転数を、単に目標回転数とも呼ぶ。
【0047】
オートアップ制御部50は、マニュアルモード時において、プライマリ回転数、あるいは、目標回転数が第1の所定値以上になったときに変速機18のアップシフトを行う。上述したように、プライマリ回転数は目標回転数に近づくように制御されるため、プライマリ回転数と目標回転数が近似している場合、オートアップ制御部50は、プライマリ回転数と目標回転数のいずれかを用いてアップシフトの制御を行う。以下、オートアップ制御部50による変速機18のアップシフトの制御を、オートアップ制御(第1制御)とも呼ぶ。
【0048】
オーバーレブ判定部60は、マニュアルモード時において、クランク角センサS1で検出したエンジン回転数が第2の所定値以上になった際に変速機18のアップシフトを行う。以下、オーバーレブ判定部60による変速機18のアップシフトの制御を、オーバーレブ判定(第2制御)とも呼ぶ。
【0049】
ロックアップ制御部70は、ロックアップクラッチ16fをオープン状態あるいはクローズ状態に制御する。例えば、ロックアップ制御部70は、タービンシャフト16dの回転速度が一定速度未満である場合、ロックアップクラッチ16fをオープン状態に制御する。一方、ロックアップ制御部70は、タービンシャフト16dの回転速度が一定速度以上である場合、ロックアップクラッチ16fをクローズ状態に制御する。
【0050】
ところで、マニュアルモード時に、オートアップ制御部50は、プライマリ回転数、あるいは、目標回転数が第1の所定値以上になったときにオートアップ制御を行う。また、マニュアルモード時に、オーバーレブ判定部60は、エンジン回転数が第2の所定値以上になった際にオーバーレブ判定を行う。
【0051】
このオートアップ制御とオーバーレブ判定とが連続して行われると、本来1段階のアップシフトを行うべきところ、意図せず2段階のアップシフトが発生してしまうという問題が発生する。
【0052】
図3は、2段階アップシフトの発生を説明するためのグラフである。図3中、実線で示されるG1、G2、G3は、目標ギヤ段であり、G1は第1ギヤ段、G2は第2ギヤ段、G3は第3ギヤ段である。第2ギヤ段は、第1ギヤ段より1段階上のギヤ段であり、第3ギヤ段は、第2ギヤ段より1段階上のギヤ段である。
【0053】
破線で示されるR1および二点鎖線で示されるR2は、エンジン回転数、および、プライマリ回転数である。破線で示されるR1は変速追従遅れが発生している場合のエンジン回転数およびプライマリ回転数であり、二点鎖線で示されるR2は変速追従遅れが発生していない場合のエンジン回転数およびプライマリ回転数である。
【0054】
一点鎖線で示されるTh1、Th2は、第1の所定値、および、第2の所定値である。図3では、Th1が第1の所定値を示し、Th2が第2の所定値を示す。また、横軸は時間である。
【0055】
図3に示されるように、時間T1より前の期間P1において、目標ギヤ段は第1ギヤ段G1に設定され、車速の増加に応じてエンジン回転数およびプライマリ回転数R1が徐々に増加している。
【0056】
時間T1に到達すると、エンジン回転数およびプライマリ回転数R1が第1の所定値Th1に到達する。このとき、オートアップ制御部50は、プライマリ回転数R1が第1の所定値Th1以上となったとして、オートアップ制御を行い、目標ギヤ段を第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2に変更する処理を実行する。
【0057】
時間T1から時間T2までの期間P2において、目標ギヤ段が第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2に変更されたことにより、二点鎖線で示されるエンジン回転数およびプライマリ回転数R2は徐々に減少していく。第2ギヤ段G2への変更が完了した後、エンジン回転数およびプライマリ回転数R2は、車速の増加に応じて徐々に増加していく。
【0058】
この場合、期間P2、および、時間T2以降の期間P3において、エンジン回転数およびプライマリ回転数R2は、第2の所定値Th2を超えていない。そのため、図3中、二点鎖線で示すように、目標ギヤ段は、期間P3においても第2ギヤ段G2のまま維持されている。
【0059】
一方、期間P2において、第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2への変更に遅れが生じ、エンジン回転数およびプライマリ回転数R1が第2の所定値Th2以上となる場合がある。第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2への変更の遅れは、例えば、車両1に搭載される各構成要素の個体差のバラツキや油圧制御の応答遅れ等の変速追従遅れである。
【0060】
時間T2に到達すると、破線で示されるエンジン回転数およびプライマリ回転数R1は、第2の所定値Th2に到達する。このとき、オーバーレブ判定部60は、エンジン回転数R1が第2の所定値Th2以上となったとして、オーバーレブ判定を行い、目標ギヤ段を第2ギヤ段G2から第3ギヤ段G3に変更する処理を実行する。
【0061】
このように、変速追従遅れが発生した場合、オートアップ制御とオーバーレブ判定とが連続して行われ、本来1段階のアップシフトを行うべきところ、意図に反しアップシフトが連続して行われる2段階アップシフトが発生してしまうという問題が発生する。
【0062】
そこで、2段階アップシフトを防止すべく、本実施形態のオーバーレブ判定部60は、オーバーレブ判定を実行する条件に制限を設けている。以下、本実施形態のオーバーレブ判定部60によるオーバーレブ判定の実行条件について詳細に説明する。
【0063】
図4は、本実施形態のオーバーレブ判定の処理を説明するためのグラフである。図4中、実線で示されるG1、G2は、目標ギヤ段であり、G1は第1ギヤ段、G2は第2ギヤ段である。第2ギヤ段は、第1ギヤ段より1段階上のギヤ段である。図4に示す第1ギヤ段G1および第2ギヤ段G2は、図3に示す第1ギヤ段G1および第2ギヤ段G2と同じである。
【0064】
破線で示されるR1は、変速追従遅れが発生している場合のエンジン回転数およびプライマリ回転数である。二点鎖線で示されるTPR1は、変速比制御部40で導出されるプライマリシャフト11aの目標回転数である。目標回転数の導出方法については、上述したとおりである。
【0065】
一点鎖線で示されるTh1、Th2は、第1の所定値、および、第2の所定値である。図4では、Th1が第1の所定値を示し、Th2が第2の所定値を示す。図4に示す第1の所定値Th1および第2の所定値Th2は、図3に示す第1の所定値Th1および第2の所定値Th2と同じである。
【0066】
また、一点鎖線で示されるTh3は、変速機18の変速段ごとに設定された設定値である。設定値は、予め実験等により得られた値である。本実施形態では、変速段のうち変速比が大きい側、すなわち、ギヤ段が小さい側の設定値は、変速比が小さい側、すなわち、ギヤ段が大きい側の設定値よりも小さい数値に設定されている。また、ロックアップクラッチ16fのクローズ状態の設定値は、ロックアップクラッチ16fのオープン状態の設定値よりも小さい数値に設定されている。
【0067】
図4に示されるように、時間T1より前の期間P1において、目標ギヤ段は第1ギヤ段G1に設定され、車速の増加に応じてエンジン回転数およびプライマリ回転数R1が徐々に増加している。
【0068】
時間T1に到達すると、エンジン回転数およびプライマリ回転数R1が第1の所定値Th1に到達する。このとき、オートアップ制御部50は、プライマリ回転数R1が第1の所定値Th1以上となったとして、オートアップ制御を行い、目標ギヤ段を第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2に変更する処理を実行する。
【0069】
また、時間T1から時間T2までの期間P2において、上述した変速追従遅れにより、第1ギヤ段G1から第2ギヤ段G2への変更に遅れが生じ、時間T2に到達した時点で、エンジン回転数およびプライマリ回転数R1が第2の所定値Th2に到達する。
【0070】
このとき、オーバーレブ判定部60は、目標回転数TPR1が設定値Th3以上であるか否かの判定を行う。そして、オーバーレブ判定部60は、当該判定結果に応じて、オーバーレブ判定の実行可否を決定する。
【0071】
具体的に、オーバーレブ判定部60は、目標回転数TPR1が設定値Th3以上である場合に、オーバーレブ判定を実行し、目標回転数TPR1が設定値Th3未満である場合に、オーバーレブ判定を実行しない。
【0072】
時間T2において、目標回転数TPR1は、設定値Th3未満の値となっている。そのため、時間T2において、プライマリ回転数R1が第2の所定値Th2に到達していた場合でも、オーバーレブ判定部60によるアップシフトの制御が行われずに、目標ギヤ段は、第2ギヤ段G2のまま維持されている。
【0073】
以上のように、本実施形態のオーバーレブ判定部60は、目標回転数TPR1が設定値Th3以上である場合に、オーバーレブ判定を実行し、目標回転数TPR1が設定値Th3未満である場合に、オーバーレブ判定を実行しない。これにより、変速追従遅れが発生した場合に発生する2段階アップシフトを防止することができる。
【0074】
また、本実施形態の設定値Th3は、変速機18の変速段ごとに設定されており、変速段のうち変速比が大きい側の設定値Th3は、変速比が小さい側の設定値Th3よりも小さい数値に設定されている。これにより、変速段ごとに適した設定値Th3が設定され、変速段ごとに2段階アップシフトを効果的に防止することができる。
【0075】
また、本実施形態の設定値Th3は、ロックアップクラッチ16fの状態に応じて異なる値が設定されている。具体的に、ロックアップクラッチ16fのクローズ状態の設定値Th3は、ロックアップクラッチ16fのオープン状態の設定値Th3よりも小さい数値に設定されている。ロックアップクラッチ16fがクローズ状態である場合のプライマリ回転数は、ロックアップクラッチ16fがオープン状態である場合に比べて高くなりやすい。そのため、プライマリ回転数が許容回転数を超え難くするため、クローズ状態の設定値Th3をオープン状態の設定値Th3よりも小さい数値に設定している。
【0076】
図5は、本実施形態に係る制御装置30の処理の流れを示すフローチャートである。図5では、マニュアルモード時における制御装置30の処理の流れについて説明する。図5に示すように、まず、変速比制御部40は、不図示のシフトレバーをドライバが操作することで変更されるギヤ段に基づいて、目標ギヤ段を決定する(ステップS100)。
【0077】
つぎに、変速比制御部40は、決定された目標ギヤ段の値と、車速センサS4から取得される車速値に基づいて、目標変速比を決定する(ステップS200)。なお、目標変速比は、車速と目標ギヤ段とに紐付けられた値を有し、制御装置30の不図示の記憶部にマップとして記憶されている。また、目標変速比は、車速が大きくなるほど、小さくなる値を有し、目標ギヤ段が大きくなるほど、小さくなる値を有する。そして、変速比制御部40は、決定された目標変速比の値と、セカンダリ回転数センサS3から取得される値に基づいて、目標回転数を導出する(ステップS300)。具体的に、変速比制御部40は、セカンダリ回転数に目標変速比を乗算することで、目標回転数を導出する。変速比制御部40は、プライマリ回転数センサS2から取得された値が、目標回転数となるように変速比を制御する(ステップS400)。
【0078】
変速比制御部40は、車速センサS4から取得された値と、アクセル開度センサS5から取得された値に基づいて、ダウンシフトを実行するか否かの判定を行う(ステップS500)。ダウンシフトを実行すると判定した場合(ステップS500のYES)、ステップS100に戻り、変速比制御部40は、目標ギヤ段を現在のギヤ段から1段階下げたギヤ段に決定する。
【0079】
オートアップ制御部50は、プライマリ回転数、あるいは、目標回転数が第1の所定値Th1以上であるか否かの判定を行う(ステップS600)。第1の所定値Th1以上であると判定した場合(ステップS600のYES)、オートアップ制御部50は、オートアップ制御を実行し、ステップS100において、目標ギヤ段を現在のギヤ段から1段階上げたギヤ段に決定する。
【0080】
オーバーレブ判定部60は、目標回転数TPR1が設定値Th3以上であるか否かの判定を行う(ステップS700)。オーバーレブ判定部60は、設定値Th3以上であると判定した場合(ステップS700のYES)、オーバーレブ判定の実行を許可し、設定値Th3未満であると判定した場合(ステップS700のNO)、オーバーレブ判定の実行を不許可とする。
【0081】
そして、設定値Th3以上であると判定した場合(ステップS700のYES)、オーバーレブ判定部60は、エンジン回転数が第2の所定値Th2以上であるか否かの判定を行う(ステップS800)。第2の所定値Th2以上であると判定した場合、オーバーレブ判定部60は、オーバーレブ判定を実行し、ステップS100において、目標ギヤ段を現在のギヤ段から1段階上げたギヤ段に決定する。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0083】
なお、上述した本実施形態に係る制御装置30による一連の処理は、ソフトウェア、ハードウェア、または、ソフトウェアとハードウェアとの組合せのうちいずれを用いて実現されてもよい。ソフトウェアを構成するプログラムは、例えば、各装置の内部または外部に設けられる非一時的な記憶媒体(non-transitory media)に予め格納される。そして、プログラムは、例えば、非一時的な記憶媒体(例えば、ROM)から一時的な記憶媒体(例えば、RAM)に読み出され、CPUなどのプロセッサにより実行される。
【0084】
上記各装置の各機能を実現するためのプログラムを作成し、上記各装置のコンピュータにインストールすることが可能である。プロセッサが、メモリに記憶されているプログラムを実行することにより、上記各機能の処理が実行される。このとき、複数のプロセッサによりプログラムを分担して実行してもよいし、1つのプロセッサでプログラムを実行してもよい。また、通信ネットワークにより相互に接続された複数のコンピュータを用いるクラウドコンピューティングにより、上記各装置の各機能を実現してもよい。なお、プログラムは、外部装置から通信ネットワークを通じた配信により、各装置のコンピュータに提供されて、インストールされてもよい。
【0085】
上記実施形態では、マニュアルモードにおけるオートアップ制御を行う例について説明したが、自動変速モードでの同様なアップシフトを行う制御について適用されてもよい。上記実施形態では、プライマリ回転数あるいは目標回転数に基づいて、オートアップ制御を行う例について説明した。しかし、これに限定されず、プライマリ回転数あるいは目標回転数の代わりに、タービンシャフト16dの回転数、あるいは、車速およびアクセル開度に基づいて、オートアップ制御が行われてもよい。また、上記実施形態では、プライマリ回転数に基づいて、変速制御を行う例について説明した。しかし、これに限定されず、プライマリ回転数の代わりに、タービンシャフト16dの回転数に基づいて、変速制御が行われてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、セカンダリ回転数に基づいて、目標回転数を導出する例について説明した。しかし、これに限定されず、セカンダリ回転数の代わりに、出力軸24の回転数に基づいて、目標回転数を導出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 車両
10 エンジン
10a クランクシャフト
11a プライマリシャフト
18 変速機
19 プライマリプーリ
20 セカンダリプーリ
21 ベルト
22 セカンダリシャフト
30 制御装置
30a プロセッサ
30b メモリ
40 変速比制御部
50 オートアップ制御部
60 オーバーレブ判定部
70 ロックアップ制御部
図1
図2
図3
図4
図5