(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172925
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】記憶制御システム、システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 3/004 20230101AFI20241205BHJP
G06Q 90/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G06N3/004
G06Q90/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090992
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】591280485
【氏名又は名称】ソフトバンクグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 正義
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049DD06
5L050DD06
(57)【要約】
【課題】感情に応じてデータを適切に記録すること。
【解決手段】記憶制御システムは、記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する情報取得部と、情報取得部によって取得されたイベント情報に基づいて、対象オブジェクトの感情の強さを決定する感情決定部と、感情決定部によって決定された感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる記憶制御部とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部によって取得された前記イベント情報に基づいて、前記対象オブジェクトの感情の強さを決定する感情決定部と、
前記感情決定部によって決定された前記感情の強さと前記イベント情報とを対応づけて記憶させる記憶制御部と
を備える記憶制御システム。
【請求項2】
前記感情決定部は、前記情報取得部によって取得された前記イベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに基づいて、前記感情の強さを決定する
請求項1に記載の記憶制御システム。
【請求項3】
前記感情決定部は、前記情報取得部によって予め定められた取得間隔内に取得された同じ前記イベント情報の数が多いほど、前記感情の強さを高い値に決定する
請求項2に記載の記憶制御システム。
【請求項4】
前記記憶制御部は、前記感情決定部によって決定された前記感情の強さ、前記対象オブジェクトの注意力及び性格、前記対象オブジェクトによって注目される注目対象の数、並びに前記情報取得部によって取得された前記イベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに基づいて、前記記憶の定着量を決定する
請求項1から3のいずれか1項に記載の記憶制御システム。
【請求項5】
前記記憶制御部は、前記感情の強さ、前記対象オブジェクトの注意力及び性格、前記注目対象の数、並びに前記イベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに応じて、前記記憶の定着量の初期値及び時間経過による変化量の少なくとも一方を変更する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項6】
前記記憶制御部は、前記感情決定部によって決定された前記感情の強さが予め定められた値を超えるまで、前記感情の強さが強いほど前記記憶の定着量を高い値に決定する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項7】
前記記憶制御部は、前記注意力が高いほど、前記記憶の定着量を高い値に決定する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項8】
前記記憶制御部は、前記注目対象の数が少ないほど、前記記憶の定着量を高い値に決定する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項9】
前記記憶制御部は、前記性格が几帳面である場合に、当該性格が大雑把である場合に比べて、前記記憶の定着量を高い値に決定する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項10】
前記感情決定部は、前記情報取得部によって予め定められた取得間隔内に取得された同じ前記イベント情報の数が多いほど、前記記憶の定着量を高い値に決定する
請求項4に記載の記憶制御システム。
【請求項11】
前記記憶制御部は、前記対象オブジェクトの周辺の環境に関する付帯記憶情報をさらに対応づけて記憶させる
請求項1に記載の記憶制御システム。
【請求項12】
前記記憶制御部は、前記対象オブジェクトの周辺の匂い、気温、湿度、位置及び天候並びに人の数、表情及び感情の少なくとも一つに関する前記付帯記憶情報をさらに対応づけて記憶させる
請求項11に記載の記憶制御システム。
【請求項13】
記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部によって取得された前記イベント情報に基づいて、前記対象オブジェクトの感情の強さを決定する感情決定部と、
前記感情決定部によって決定された前記感情の強さと前記イベント情報とを対応づけて記憶させる記憶制御部と、を備える記憶制御システムと、
前記対象オブジェクトと
を備えるシステム。
【請求項14】
記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する情報取得ステップと、
前記情報取得ステップによって取得された前記イベント情報に基づいて、前記対象オブジェクトの感情の強さを決定する感情決定ステップと、
前記感情決定ステップによって決定された前記感情の強さと前記イベント情報とを対応づけて記憶させる記憶制御ステップと
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶制御システム、システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザと通話相手との会話を学習してユーザの問いかけに対する通話相手の返答を返答テーブルに蓄積する端末が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ユーザ情報、機器情報及び自身の現在の感情状態を入力して次回の感情状態を出力するニューラルネットを備える感情生成装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、方向性人工シナプス接続性を備えるレイヤ・ニューラルネット関係を備える複数の電子ニューロンを含む連想メモリに時空パターンを記憶する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-253389号公報
【特許文献2】特開平10-254592号公報
【特許文献3】特表2013-535067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、感情に応じてデータを適切に記録できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る記憶制御システムは、記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部によって取得された前記イベント情報に基づいて、前記対象オブジェクトの感情の強さを決定する感情決定部と、前記感情決定部によって決定された前記感情の強さと前記イベント情報とを対応づけて記憶させる記憶制御部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、感情に応じてデータを適切に記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係るシステム10の全体構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】ロボット40及びサーバ60の機能ブロック構成を概略的に示す図である。
【
図4】システム10が用いるニューラルネットワークの一部を概略的に示す図である。
【
図5】蓄電池の残存容量と内分泌物質とを対応づけるセンサ対応情報の一例を示す図である。
【
図6】ノルアドレナリンの分泌量と結合係数BSとを対応づける結合係数対応情報の一例を示す図である。
【
図7】ロボット40における興奮度の時間変化を概略的に示す図である。
【
図8】格納部280に記憶される記憶情報の記憶強度の時間変化の一例を概略的に示す図である。
【
図9】格納部280に記憶される記憶情報の記憶強度の時間変化の他の例を概略的に示す図である。
【
図10】記憶情報に付帯される付帯記憶情報の取得シーケンスを説明するための図である。
【
図11】格納部280に格納される情報の一例を示す図である。
【
図12】記憶情報に付帯される付帯記憶情報の取得シーケンスを説明するための図である。
【
図13】想起情報とは異なるイベント又は想起情報を否定するイベントが生じた場合に反映される内分泌物質を説明する図である。
【
図14】想起情報として選択することが許容される想起情報を示す選択許容情報を示す図である。
【
図15】同じイベント情報の数と感情の強さとの関係の一例を概略的に示す図である。
【
図16】感情の強さと記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。
【
図17】注意力と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。
【
図18】注目対象の数と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。
【
図19】同じイベント情報の数と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。
【
図20】サーバ60の動作フローの一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本実施形態に係るシステム10の全体構成の一例を概略的に示す図である。システム10は、サーバ60と、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cとを備える。なお、サーバ60は、記憶制御システムとして機能し得る。ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cのそれぞれは、記憶制御システムによる記憶の制御対象である対象オブジェクトの一例である。
【0010】
ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cは、例えば家庭に配置される。ユーザ50aは、ロボット40aのユーザである。ユーザ50aは、ロボット40aが配置された家庭の家族や、その家庭を訪れた他人である。ロボット40aは、ユーザ50aと会話する等のやりとりを行う。同様に、ロボット40b及びロボット40cは、それぞれユーザ50b及びユーザ50cと会話する等のやりとりを行う。なお、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cは、店舗や事務所の受付等に配置されて、来訪した顧客に応対する等の利用形態も適用できる。ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cの利用形態は、これらの利用形態に限られない。
【0011】
サーバ60は、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cとは遠隔に設けられる。サーバ60は、通信ネットワーク90を通じてロボット40a、ロボット40b及びロボット40cを制御することができる。例えば、サーバ60は、ロボット40aで検出されたセンサ情報を、通信ネットワーク90を通じて取得して、取得したセンサ情報に基づいてロボット40aの感情やロボット40aに行わせる動作を決定して、通信ネットワーク90を通じて制御情報を送信してロボット40aに指示する。
【0012】
なお、ロボット40b及びロボット40cは、ロボット40aと略同一の機能を有する。システム10の説明において、ロボット40a、ロボット40b及びロボット40cを、ロボット40と総称する場合がある。また、システム10では、ロボット40の感情や動作を決定する処理をサーバ60が実行する。しかし、ロボット40の感情や動作を決定する処理の一部又は全てを、ロボット40が実行してもよい。
【0013】
ロボット40は、ユーザ50の音声及び画像や、ロボット40が受けた外力の情報等、センサで検出した各種の情報を取得して、サーバ60に送信する。サーバ60は、ロボット40から取得した情報に基づいて、ニューラルネットワーク(NN)を用いて、ロボット40を制御するための制御情報を生成する。
【0014】
具体的に説明すると、サーバ60は、ユーザ50aの音声や画像から、ユーザ50aの存在を認識するとともに、ユーザ50aが「A君」であると認識して、「A君がいる」というイベント情報を生成する。また、ロボット40から取得した外力情報から、「撫でられた」等のイベント情報を生成する。また、サーバ60は、ロボット40から取得した情報から、ニューラルネットワークへの入力情報を生成する。
【0015】
サーバ60は、感情の決定に作用する作用情報として、生体における内分泌物質の量に対応する情報を用いて、生成した入力情報から感情を決定する。例えば、サーバ60は、ドーパミン量、ノルアドレナリン量、セロトニン量等の内分泌物質の分泌量をパラメータとして用いたニューラルネットワークを用いて、感情を決定する。ニューラルネットワークにおいては、ドーパミン量の増加は、「嬉しい」に類する感情の生成に作用する。また、ノルアドレナリン量の増加は、「怒り」に類する感情の生成に作用する。また、セロトニン量の増加は、「嬉しい」や「怒り」等の感情の強さを抑制する方向に作用する。ニューラルネットワークにより、これらの内分泌物質の分泌量の総和によって、どのような感情が生まれ易くなるかが決まる。
【0016】
ここで、サーバ60は、ドーパミン量とノルアドレナリン量の合計値が閾値を超えた場合に、感情の強さが閾値を超えたと判断する。この場合、サーバ60は、ロボット40から取得した情報に基づく記憶情報とともに、内分泌物質の量を示す分泌情報を記憶する。記憶情報としては、上述した「A君がいる」、「撫でられた」というイベント情報や、ロボット40から取得した画像やビデオ情報等、予め定められた種別の情報を例示できる。
【0017】
ここで、サーバ60は、記憶情報を記憶した後に新たに取得した情報から、「A君がいる」というイベント情報が生成されたとする。この場合、サーバ60は、ロボット40の現在の内分泌物質の分泌量を、「A君がいる」及び「撫でられた」という記憶情報とともに記憶されている内分泌物質の分泌量と比較する。内分泌物質の分泌量が類似していると判断すると、サーバ60は、「A君がいる」という記憶情報とともに記憶されている「撫でられた」という記憶情報を、想起すべき情報として選択する。
【0018】
その後、サーバ60は、ロボット40から新たに取得した情報から、「撫でられた」という情報が実際に生成されると、「A君がいる」「撫でられた」という記憶情報とともに記憶されている内分泌物質の分泌量をニューラルネットワークの処理に反映して、ロボット40の感情を決定する。これにより、過去に撫でられたときに「嬉しい」の感情が生じた場合には、過去に生じた「嬉しい」の感情とは全く反する感情が強く出てしまうことを抑制できる。
【0019】
一方で、ロボット40から新たに取得した情報からは「撫でられた」という情報が生成されなかった場合は、「A君がいる」「撫でられた」という記憶情報とともに記憶されている内分泌物質の分泌量に相反する分泌量をニューラルネットワークの処理に反映して、ロボット40の感情を決定する。これにより、例えば「嬉しい」とは異なる感情が得られ易くなる。これにより、例えば残念な感情が生じたりする。
【0020】
このように、システム10によれば、ロボット40が過去に取得した印象的な記憶情報を、内分泌物質の分泌量を考慮して取り出すことができる。そのため、ロボット40から取得した情報に応じた適切な記憶情報を取り出すことができる。その上、取り出される記憶情報が、ロボット40から取得した情報から画一的に定まるようなことがなく、過去に学習した情報と現在の状況に応じて多様な感情を生成することができる。
【0021】
図2は、ロボット40及びサーバ60の機能ブロック構成を概略的に示す図である。まず、ロボット40の機能ブロック構成について説明する。ロボット40は、センサ部120と、情報処理部130と、制御対象160と、通信部102とを有する。情報処理部130は、MPU等のプロセッサであってよい。通信部102は、サーバ60との通信を担う。通信部102は、ネットワークIF等の通信デバイスであってよい。
【0022】
制御対象160は、ロボット40の動作の制御対象であり、スピーカを含む。制御対象160はまた、ロボット40の肢部や頭部等の可動部を駆動するモータ等を含む。
【0023】
センサ部120は、マイク、ジャイロセンサ、モータセンサ、カメラ、電池残量センサ、赤外線センサ等の各種のセンサを有する。センサ部120のマイクは、周囲の音声を取得する。例えば、センサ部120のマイクは、ユーザ50の音声を取得する。センサ部120のカメラは、可視光によって撮影して動画や静止画の画像情報を生成する。センサ部120の赤外線センサは、赤外線により周囲の物体を検出する。センサ部120のジャイロセンサは、ロボット40全体及びロボット40の各部の角速度を検出する。センサ部120のモータセンサは、ロボット40の可動部を駆動するモータの駆動軸の回転角度を検出する。センサ部120の電池残量センサは、ロボット40が備える電池の残存容量を検出する。
【0024】
センサ部120は、マイクで取得された音声データ、カメラで撮影された画像、ジャイロセンサで検出された角速度、モータセンサで検出された回転角度、電池残量センサで検出した残存容量、赤外線センサで検出した物体情報等の各種のセンサデータを、情報処理部130に出力する。情報処理部130は、取得したセンサ信号を通信部102に供給して、サーバ60へ送信させる。また、情報処理部130は、サーバ60から取得した制御情報に基づいて、ロボット40のスピーカから発話させたり、ロボット40の肢部を動作させたりする。
【0025】
次に、サーバ60の機能ブロック構成について説明する。サーバ60は、処理部270と、通信部202と、格納部280とを有する。処理部270は、分泌情報生成部200と、入力情報生成部210と、パラメータ調整部220と、感情決定部260と、制御部250と、情報選択部284と、イベント情報生成部286と、記憶制御部282とを備える。感情決定部260は、NN演算部230と感情判定部240とを有する。通信部202は、情報取得部204を有する。
【0026】
通信部202は、ロボット40との通信を担う。通信部202は、ネットワークIF等の通信デバイスであってよい。格納部280は、ハードディスク装置、フラッシュメモリ等の記憶媒体を有する。また、格納部280は、RAM等の揮発性記憶装置を有する。格納部280は、処理部270が実行時に読み出すプログラムコードや各種の一時データの他、処理部270の処理の実行に必要なデータ等を格納する。
【0027】
情報取得部204は、記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する。例えば、情報取得部204は、ロボット40のセンサ部120によって検出されたイベント情報を、通信ネットワーク90を通じて取得する。また、情報取得部204は、ロボット40の感情を決定するための情報を取得する。例えば、情報取得部204は、ロボット40のセンサ部120で検出された情報を、通信ネットワーク90を通じて取得する。上述の例では、情報取得部204は、イベント情報を直接的に取得しているが、間接的に取得してもよい。この場合、イベント情報生成部286は、情報取得部204が取得したロボット40の感情を決定するための情報に基づいて、イベント情報を生成する。例えば、イベント情報生成部286は、「A君がいる」「撫でられた」等のイベント情報を生成する。情報取得部204は、イベント情報生成部286によって生成されたイベント情報を取得する。イベント情報は、記憶情報として格納部280に格納され得る。
【0028】
分泌情報生成部200は、情報取得部204が取得した情報に基づいて、ロボット40の感情の決定に作用する内分泌物質の分泌量を示す分泌情報を生成する。記憶制御部282は、情報取得部204が取得した情報に基づいて決定されたロボット40の感情の強さが予め定められた値を超えた場合に、分泌情報と、情報取得部204が取得した情報に基づく記憶情報とを対応づけて記憶させる。具体的には、記憶制御部282は、分泌情報と、情報取得部204が取得した情報に基づく記憶情報とを、格納部280に格納させる。情報選択部284は、分泌情報に対応づけて記憶されている記憶情報のうち、ロボット40が想起する記憶情報を、分泌情報に基づいて選択する。
【0029】
記憶制御部282は、情報取得部204が取得した第1の情報に基づいて決定されたロボット40の感情の強さが予め定められた値を超えた場合に、第1の情報に基づく第1の記憶情報と、第1の情報の前に情報取得部204が取得した第2の情報に基づく第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組と分泌情報とを対応づけて記憶させる。情報選択部284は、情報取得部204が第2の記憶情報に適合する新たな情報を取得した場合に、分泌情報生成部200により生成された分泌情報が、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組に対応づけて記憶されている分泌情報に適合することを条件として、ロボット40が想起する記憶情報として、第1の記憶情報と、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組とを選択する。これにより、いわゆる連合学習のような記憶制御を実装することができる。
【0030】
記憶制御部282は、情報選択部284により第1の記憶情報が選択された場合において、情報取得部204が第1の記憶情報に適合する新たな情報を更に取得したことを条件として、感情の起伏を抑制する作用を持つ内分泌物質の分泌量を増加した分泌情報を、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組に対応づけて記憶させる。これにより、高い頻度で生じるイベントに対する慣れを生じさせることができる。
【0031】
分泌情報生成部200は、情報選択部284により第1の記憶情報が選択された場合において、情報取得部204が第1の記憶情報に適合する新たな情報を更に取得したことを条件として、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組に対応づけて記憶されている分泌情報が示す内分泌物質の分泌量を、現在における内分泌物質の分泌量を示す分泌情報に反映する。これにより、過去に生じた感情からかけ離れた感情が生まれることを抑制できる。
【0032】
記憶制御部282は、情報取得部204が取得した第1の情報に基づいて決定されたロボット40の感情の強さが予め定められた値を超えた場合に、第1の情報に基づく第1の記憶情報と、第1の情報の前に情報取得部204が取得した第2の複数の情報に基づく第2の複数の記憶情報の任意の組み合わせのそれぞれ及び第1の記憶情報の組と、分泌情報とを、対応づけて記憶させる。情報選択部284は、情報取得部204が第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせに適合する新たな情報を取得した場合に、分泌情報生成部200により生成された分泌情報が、第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせ及び第1の記憶情報の組に対応づけて記憶されている分泌情報に適合することを条件として、対象オブジェクトが想起する記憶情報として、第1の記憶情報と、第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせ及び第1の記憶情報の組とを選択する。
【0033】
記憶制御部282は、情報取得部204が取得した第1の情報に基づいて決定されたロボット40の感情の強さが予め定められた値を超えた場合に、第1の記憶情報と、第2の複数の記憶情報の任意の組み合わせのそれぞれ並びに第1の記憶情報及び情報取得部204が第1の情報に続けて取得した第3の情報に基づく第3記憶情報のシーケンスの組と、分泌情報とを対応づけて記憶させる。情報選択部284は、情報取得部204が第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせに適合する新たな情報を取得した場合に、分泌情報生成部200により生成された分泌情報が、第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせ並びに第1の記憶情報及び第3記憶情報のシーケンスの組に対応づけて記憶されている分泌情報に適合することを条件として、ロボット40が想起する記憶情報として、第1の記憶情報と、第2の複数の記憶情報の第1の組み合わせ並びに第1の記憶情報及び第3記憶情報のシーケンスの組とを選択する。
【0034】
格納部280は、1つ以上の判断情報に対応づけて、当該1つ以上の判断情報に適合する情報が取得された場合に、ロボット40が想起する情報として選択することが許容される1以上の記憶情報を格納する。そして、情報選択部284は、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組に対応づけて許容情報格納部に格納されている判断情報に適合する情報と、第2の記憶情報に適合する情報とを、情報取得部204が予め定められた時間内に取得した場合に、ロボット40が想起する記憶情報として第1の記憶情報を選択する。これにより、過去に全く異なる場面で学習した情報に基づいて動作することを抑制できる。
【0035】
分泌情報生成部200は、情報選択部284により第1の記憶情報が選択された場合において、情報取得部204が第1の記憶情報否定する新たな情報を取得したときは、第2の記憶情報及び第1の記憶情報の組に対応づけて記憶されている分泌情報が示す分泌量の内分泌物質による作用とは相反する作用を持つ分泌量の内分泌物質を、第2の記憶情報及び新たな情報に基づく第3の記憶情報の組に対応づけて記憶されている分泌情報に反映する。この場合、分泌情報生成部200は、当該相反する作用を持つ分泌量の内分泌物質が反映された、第2の記憶情報及び第3の記憶情報の組に対応づけて記憶される分泌情報を、現在における内分泌物質の分泌量を示す分泌情報に反映してよい。これにより、想起した記憶情報とは異なるイベントが生じた場合には、想起した記憶情報どおりのイベントが生じた場合とは相反する感情を生成することができる。
【0036】
感情決定部260は、情報取得部204によって取得されたイベント情報に基づいて、対象オブジェクトの感情の強さを決定する。例えば、感情決定部260は、情報取得部204によって取得されたイベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに基づいて、ロボット40の感情の強さを決定する。一例として、感情決定部260は、イベント情報の内容が「撫でられなかった」という内容である場合の感情の強さの値よりも「撫でられた」という内容である場合の感情の強さの値を高い値に決定する。このように、感情決定部260は、イベント情報の数、内容や取得間隔等、より詳細なイベント情報に基づいて、人の感情の強さの決まり方に近いアルゴリズムによってロボット40の感情の強さを適切に決定できる。
【0037】
また、感情決定部260は、分泌情報が示す内分泌物質の分泌量と情報取得部204が取得した情報とに基づいて、ロボット40の感情を決定する。感情決定部260は、情報取得部204が取得した情報に基づく入力情報を入力とするニューラルネットワークを用いて、ロボット40の感情を決定する。具体的には、NN演算部230がニューラルネットワークの演算を行い、感情判定部240がNN演算部230によるニューラルネットワークの演算結果に基づいて感情を判定することにより、感情を決定する。
【0038】
記憶制御部282は、感情決定部260によって決定された感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。例えば、記憶制御部282は、感情の強さとイベント情報とが対応づけられたものを、ロボット40の記憶情報として格納部280に格納させる。
【0039】
記憶制御部282は、感情決定部260によって決定された感情の強さ、対象オブジェクトの注意力及び性格、対象オブジェクトによって注目される注目対象の数、並びに情報取得部204によって取得されたイベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに基づいて、記憶の定着量を決定してよい。例えば、記憶制御部282は、ロボット40の感情の強さ、注意力及び性格、注目対象の数並びにイベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに基づいて、ロボット40の記憶情報として定着される記憶の定着量を決定する。これにより、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方に近いアルゴリズムによって、記憶の定着量を適切に決定することができる。なお、「記憶の定着量」とは、対象オブジェクトによって思い出される記憶の量に関する値のことをいう。「記憶の定着量」には、対象オブジェクトによって思い出される記憶の割合である「記憶の定着率」も含まれ得る。
【0040】
記憶制御部282は、感情の強さ、対象オブジェクトの注意力及び性格、注目対象の数、並びにイベント情報の数、内容及び取得間隔の少なくとも一つに応じて、記憶の定着量の初期値及び時間経過による変化量の少なくとも一方を変更してよい。例えば、記憶制御部282は、ロボット40の感情の強さ、注意力及び性格、注目対象の数並びにイベント情報の数、内容(質)及び取得間隔に応じて、ロボット40の記憶情報として定着される記憶の定着率の初期値(ロボット40によって当初に記憶される記憶の割合)及び時間経過による記憶の定着率の下がり方(忘却曲線)を変更する。これにより、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0041】
一例として、記憶制御部282は、ロボット40の性格が几帳面である場合に、性格が大雑把である場合に比べて、記憶の定着量を高い値に決定する。具体的には、記憶制御部282は、ロボット40の性格が几帳面である場合に、性格が大雑把である場合に比べて、記憶の定着率の初期値を高い値に決定し、時間経過による記憶の定着率の下がり方が緩やかになるように決定する。ここで、大雑把な性格の人は、たとえ(経験することによって抱かれる感情の強さが弱い)イベントを繰り返し経験したところで、その間隔が長いと、そのイベントが大したことではないとして、几帳面な性格の人に比べて、結局すぐ忘れてしまう傾向がある。そのため、記憶制御部282は、ロボット40の性格が几帳面である場合に、ロボット40の性格が大雑把である場合に比べて、記憶の定着量を高い値に決定することによって、ロボット40が大雑把な性格である場合、大雑把な性格の人と同様に、たとえイベントが繰り返し経験したところで、その間隔が長いとそのイベントが大したことではないとして、結局すぐ忘れてしまうかのように、記憶の定着量を決定することができる。これにより、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0042】
また、記憶制御部282は、ロボット40の感情の強さ、注意力及び性格、注目対象の数並びにイベント情報の数、内容及び取得間隔に基づいて、格納部280に格納されたロボット40の記憶情報のうち、定着させる記憶情報及び定着させない記憶情報を決定する。一例として、記憶制御部282は、ロボット40の感情及び注意力の少なくとも一方が強かったイベント及び注目対象の少なくとも一方に関する記憶情報を定着させる記憶情報に決定し、そうでない記憶情報を定着させない記憶情報に決定する。続いて、記憶制御部282は、時間経過とともに、格納部280に格納された記憶情報から、定着させない記憶情報を徐々に削除する。一例として、記憶制御部282は、忘却曲線に沿って、格納部280に格納された記憶情報の量が下限値まで対数関数的に減少するように、格納部280に格納された記憶情報から定着させない記憶情報を削除する。ここで、人の記憶は、時間経過とともに徐々に忘れられていく(削除されていく)傾向がある。そのため、記憶制御部282は、上述のように定着させる記憶情報及び定着させない記憶情報を決定することによって、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0043】
記憶制御部282は、対象オブジェクトの周辺の環境に関する付帯記憶情報をさらに対応づけて記憶させてよい。例えば、記憶制御部282は、ロボット40の周辺の環境に関する付帯記憶情報がさらに対応づけられたものを、ロボット40の記憶情報として格納部280に格納させる。これにより、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方に近いアルゴリズムによって、適切に記憶させることができる。
【0044】
記憶制御部282は、対象オブジェクトの周辺の匂い、気温、湿度、位置及び天候並びに人の数、表情及び感情の少なくとも一つに関する付帯記憶情報をさらに対応づけて記憶させてよい。例えば、記憶制御部282は、ロボット40の周辺の匂い、気温、湿度、GPS(Global Positioning System)による位置及び天候並びに人の数、表情及び感情に関する付帯記憶情報がさらに対応づけられたものを、ロボット40の記憶情報として格納部280に格納させる。これにより、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、より適切に記憶させることができる。
【0045】
パラメータ調整部220は、分泌情報生成部200が生成した分泌情報が示す内分泌物質の分泌量に基づいて、入力情報から感情を決定するための演算パラメータを調整する。感情決定部260は、演算パラメータを用いて、入力情報から感情を決定する。ここで、分泌情報が示す内分泌物質の分泌量は、ニューラルネットワークに含まれる人工シナプスの結合係数に作用する。
【0046】
ニューラルネットワークは、感情が定められた人工ニューロンである複数の感情人工ニューロンを含む。感情決定部260は、複数の感情人工ニューロンのそれぞれの現在の発火状態に基づいて、現在の感情を決定する。例えば、感情決定部260は、ロボット40の感情として、発火した感情人工ニューロンに割り当てられている感情を決定してよい。
【0047】
制御部250は、感情決定部260が決定した感情に応じて、ロボット40を制御する。例えば、感情決定部260によって「嬉しい」の感情が決定された場合、制御部250は、嬉しさを表す行動を実行させる制御情報を生成してロボット40へ送信させる。また、制御部250は、明るい口調の音声をロボット40のスピーカから出力する制御情報を生成して、ロボット40にユーザと会話させてよい。
【0048】
サーバ60の各部の機能、コンピュータにより実現されてよい。例えば、処理部270は、MPU等のプロセッサ等によって実現され、格納部280は、不揮発性メモリ等の記録媒体により実現されてよい。格納部280は、プロセッサによって実行されるプログラムを格納してよい。プロセッサが当該プログラムを実行することで、分泌情報生成部200、入力情報生成部210及びパラメータ調整部220と、NN演算部230及び感情判定部240を含む感情決定部260と、制御部250と、記憶制御部282と、情報選択部284と、イベント情報生成部286とが実装され、格納部280の制御が実現されてよい。当該プログラムは、プロセッサが光ディスク等の記録媒体290から読み取られて格納部280に格納されてよいし、ネットワークを通じてサーバ60に提供されて格納部280に格納されてよい。格納部280及び記録媒体290は、コンピュータ読み取り可能な非一時的記録媒体であってよい。
【0049】
図3は、感情マップ300を概略的に示す図である。感情マップ300において、感情は、中心から放射状に同心円に配置されている。同心円の中心に近いほど、原始的状態の感情が配置されている。同心円のより外側には、心境から生まれる状態や行動を表す感情が配置されている。感情とは、情動や心的状態も含む概念である。同心円の左側には、概して脳内で起きる反応から生成される感情が配置されている。同心円の右側には概して、状況判断で誘導される感情が配置されている。
【0050】
NN演算部230が演算対象とするニューラルネットワークは、感情マップ300に示す各感情に割り当てられた人工ニューロンを含む。ニューラルネットワークはまた、感情マップ300において同心円の最も内側に位置する入力にも、それぞれ入力用の複数の人工ニューロンが割り当てられている。複数の入力用の人工ニューロンには、情報取得部204が取得した情報から入力情報生成部210が生成した入力情報が入力される。そして、概ね内側から外側に向かって人工ニューロンが人工シナプスで接続されて、ニューラルネットワークを形成する。
【0051】
NN演算部230は、入力情報に基づいて繰り返しニューラルネットワークの演算を行って、各人工ニューロンの発火状態を決定する。感情判定部240は、各人工ニューロンの発火状態からロボット40の感情を判定する。例えば、感情判定部240は、発火した人工ニューロンが割り当てられている感情を、ロボット40に抱かせる1つの感情として判定する。
【0052】
図4は、システム10が用いるニューラルネットワークの一部を概略的に示す図である。図示されるニューラルネットワークの一部は、人工ニューロンN
1、N
2、N
3、N
4及びN
5と、人工シナプスS
12、S
14、S
23、S
25、S
42、S
43、S
45及びS
53とを含む。人工ニューロンは、生体におけるニューロンに対応する。人工シナプスは、生体におけるシナプスに対応する。
【0053】
E1は、検出信号に基づく入力情報を示す。人工ニューロンN1は、入力用の人工ニューロンである。人工ニューロンN1には、それぞれセンサの検出信号に基づいて生成されたn個の入力情報E1
1・・・入力情報En
1が入力される。
【0054】
人工シナプスS12は、人工ニューロンN1と人工ニューロンN2とを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS12は、人工ニューロンN1の出力を、人工ニューロンN2に入力する人工シナプスである。人工シナプスS14は、人工ニューロンN1と人工ニューロンN4とを接続する人工シナプスである。特に、人工シナプスS14は、人工ニューロンN1の出力を、人工ニューロンN4に入力する人工シナプスである。なお、j、kを整数として、人工ニューロンNjの出力を人工ニューロンNkに入力する人工シナプスを、人工シナプスSjkと表記する。
【0055】
ここで、iを整数として、各人工ニューロンをNiで表記するものとする。Niは、Niのステータスを表すSiと、Niが表す人工ニューロンの内部状態を表すVimと、Niの発火の閾値を表すTiとをパラメータとして持つ。また、人工シナプスSjkは、パラメータとして、結合係数BSjkを持つ。なお、本実施形態においては、人工ニューロンを、その添え字を省略して人工ニューロンNと総称する場合がある。また、人工シナプスを、その添え字を省略して人工シナプスSと総称する場合がある。同様に、人工ニューロンのパラメータについても、それらの添え字を省略して、内部状態Vm、閾値Tと総称する場合がある。
【0056】
人工ニューロンNのステータスS、内部状態Vm、及び閾値Tは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。ステータスSは、ニューロンの発火状態に関する情報であり、人工ニューロンが発火状態にあるか非発火状態にあるかを少なくとも示す。内部状態Vmは、ニューロンの膜電位に関する情報であり、人工ニューロンNの内部状態又は出力を表すパラメータの一例である。
【0057】
また、人工シナプスSのパラメータである結合係数BSは、時刻の進展とともに更新され得るパラメータである。結合係数BSは、シナプスの可塑性に関する情報であり、人工シナプスSが結合する人工ニューロンN同士の間の結合強度を示す。
【0058】
NN演算部230は、入力情報から、ニューラルネットワークにおける上述したパラメータを更新して、各人工ニューロンNの内部状態Vmを算出する。なお、本実施形態において、人工ニューロンNは、内部状態Vmが閾値Tを超えた場合に、ステータスSが「発火」状態となる。発火状態になると、人工ニューロンNからは、予め定められた時間にわたって予め定められた信号を出力する。予め定められた時間が経過すると、NのステータスSは末発火に戻る。
【0059】
ここで、NN演算部230による演算内容を、N2を取り上げてより具体的に説明する。NN演算部230は、N2への入力I2を、BS12×Vm1×f(S1)+BS42×Vm4×f(S4)により算出する。ここで、f(S)は、Sが未発火を表す値の場合は0を返し、Sが上昇相又は下降相を示す値の場合は1を返す関数である。なお、このf(S)は、ニューロンが発火した場合のみシナプスが活動電位を伝達するモデルに対応する。なお、f(S)=1であってもよい。これは、ニューロンの発火状態によらず膜電位を伝達するモデルに対応する。f(S)として、膜電位の他の伝達モデルに対応する関数を適用してよい。
【0060】
一般には、NN演算部230は、N
iへの入力I
iを、Σ
jBS
ji×Vm
j×f(S
j)+Σ
jE
j
iにより算出する。NN演算部230は、現時刻におけるBS
ji、Vm
j、S
j、E
jを用いて、次の時刻におけるN
iへの入力I
i及びS
i等を算出する。NN演算部230は、これを時間的に繰り返すことにより、各人工ニューロンNのステータスSをリアルタイムに決定する。そして、感情判定部240は、各人工ニューロンNのステータスSに基づき、ロボット40の感情を判定する。例えば、
図3における「嬉しい」という感情が割り当てられた人工ニューロンが発火した場合、感情判定部240は、ロボット40が「嬉しい」という感情を持つと判定し得る。
【0061】
ここで、パラメータ調整部220は、ロボット40から取得した情報に基づいて、BSを調整する。例えば、ロボット40が有する蓄電池の残量である残存容量が50%以下であることが検出された場合、分泌情報生成部200は、内部変数としての「ノルアドレナリン」の分泌量を増加させる。そして、パラメータ調整部220は、「ノルアドレナリン」の分泌量に基づいて、「ノルアドレナリン」に対応づけられた人工シナプスSの結合係数BSを調整する。後述するように、「ノルアドレナリン」の生成は、例えば、「不安」や「怒り」等の感情に対応する人工感情ニューロンが発火する経路上の人工シナプスSの結合係数BSを強化するように設定されている。これにより、「ノルアドレナリン」は、「不安」や「怒り」等の感情が生成され易くなる方向に作用する。
【0062】
内部分泌物質の分泌量は特定の人工シナプスSの結合係数BSに対応づけられている。これにより、ロボット40で取得した情報によって、内部分泌物質の分泌量を介して、ニューラルネットワークにおける各所の人工シナプスSにおける信号の伝わり易さを変えることができる。そのため、ロボット40で取得した情報から多様な感情を生み出すことが可能になる。
【0063】
図5は、蓄電池の残存容量と内分泌物質とを対応づける対応情報の一例を示す図である。格納部280は、蓄電池の残存容量の複数の値に対応づけて、ノルアドレナリンを示す情報を格納する。より具体的には、格納部280は、蓄電池の残存容量のそれぞれに対応づけて、ノルアドレナリンの分泌量の増加量を示す情報を格納する。なお、分泌量の増加量は、NN演算部230が使用する内部変数が表す分泌量の上限値1に対する割合で示す。これにより、蓄電池の残存容量が減少するほど、ノルアドレナリンの分泌量が多くなり、「不安」や「怒り」の感情が生成され易くなる。
【0064】
図6は、ノルアドレナリンの分泌量と結合係数BSとを対応づける結合係数対応情報の一例を示す図である。格納部280は、ノルアドレナリンの総分泌量に対応づけて、人工シナプスS14の結合係数BS
14の増加係数と、人工シナプスS
45の結合係数BS
45の増加係数と、人工シナプスS
43の結合係数BS
43の増加係数とを対応づける情報を格納する。なお、ここで取り上げる人工シナプスSは、強結合で人工ニューロンNを接続しているとする。
【0065】
図示されるように、結合係数BS
14の増加係数及び結合係数BS
45の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより大きい値が対応づけられる。一方、結合係数BS
43の増加係数には、ノルアドレナリン量が多くなるほどより小さい値が対応づけられる。これにより、例えば、
図4に示すニューラルネットワークにおいて、N
1からN
3に向かう方向より、N
1からN
5に向かう方向の方が、入力情報により生じた信号が伝わり易くなる。そのため、N
1からN
5に向かう方向に配置された人工ニューロンが、より発火し易くなる。そのため、例えば
図3に示す感情マップにおいて、ノルアドレナリンが増えるほど、同心円の中心部に対して特定の方向に配置された感情、例えば「不安」や「怖い」という感情が発火し易くなる。そのため、人間が空腹な場合に生じる感情に似た感情がロボット40で生まれ易くなるようにすることができる。
【0066】
なお、ここでは、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くする方向に調整する場合について説明した。しかし、人工シナプスSの結合係数BSを、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくする方向に調整できるように、増加係数が設定されていてもよい。例えば、人工シナプスSが強結合の場合は、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができる。一方、人工シナプスSが抑制結合で人工ニューロンNを接続している場合、増加係数を大きくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させにくくすることができ、増加係数を小さくすることで、出力先の人工ニューロンNを発火させ易くすることができる。
【0067】
パラメータ調整部220は、結合係数対応情報を参照して、各内部分泌物質の総分泌量に応じた量だけ、対応する結合係数BSを調整する。これにより、ロボット40で取得された情報から、結合係数BSの調整量を複雑に調整することができ、ひいては、多様な組み合わせで感情人工ニューロンを発火させることができる。しかも、ロボット40で取得された情報と内分泌物質との関係、及び、各内分泌物質と結合係数BSとの関係を、人間に置き換えて意味づけして対応づけることで、人間にとって違和感のない自然な感情を生成できる。
【0068】
なお、
図5に関連して、ロボット40から取得する情報としての蓄電池の残存容量とノルアドレナリンとの対応関係を例示した。また、
図6に関連して、ノルアドレナリンと結合係数BSとの対応関係を例示した。しかし、これらの情報の対応関係は、ニューラルネットワークおける内分泌物質の作用を分かり易く説明するために例示したものである。
図5及び
図6に関連して説明した対応関係以外の対応関係を定めてよいことは言うまでもない。
【0069】
図7は、ロボット40における興奮度の時間変化を概略的に示す図である。感情決定部260は、例えばドーパミンの分泌量とノルアドレナリンの分泌量との和を、興奮度として算出する。なお、興奮度は、ロボット40の感情の強さの一例である。算出された興奮度が記憶閾値を超えた場合に、対応するタイミングでイベント情報生成部286が生成したイベント情報が、格納部280に格納される。
【0070】
例えば、
図7に示されるように、時刻t3の情報に基づく入力情報に基づいてNN演算部230が演算を行った結果、興奮度が記憶閾値を超えると、時刻t3の情報の情報から生成された「撫でられた」というイベント情報が格納部280に記憶される。また、時刻t13の情報に基づく入力情報に基づいてNN演算部230が演算を行った結果、興奮度が記憶閾値を超えると、時刻t13の情報から生成された「無視された」というイベント情報が格納部280に記憶される。
【0071】
図8は、格納部280に記憶される記憶情報の記憶強度の時間変化の一例を概略的に示す図である。ここでは、時刻t13の情報から得られた「無視された」という記憶情報について説明する。時刻t13における記憶強度は、時刻t13の情報に基づく入力情報から得られた興奮度に応じた強度である。格納部280は、記憶情報に対応づけて記憶強度を格納する。ここで、格納部280は、記憶情報に対応づけて格納する記憶強度を、時間経過に応じて漸減させる。
図8に示されるように、時間あたりの記憶強度の減少率は、時間経過に応じて減少してよい。記憶強度の減少は忘却を表す。時間と記憶強度との間の関係を示す曲線として、忘却曲線を適用してよい。一方で、時間当たりの記憶強度の減少率は、時間によらず一定であってよい。
【0072】
記憶情報は、記憶強度に応じた態様で記憶される。具体的には、記憶強度が記憶レベル閾値th1を超える記憶情報は、顕在意識情報として格納部280に記憶される。顕在意識情報として格納部280に記憶されている記憶情報は、予め定められた頻度で自発的に想起される。具体的には、情報選択部284は、「無視された」という情報を、予め定められた頻度で想起情報として選択する。
図8においては、3回想起されている。
【0073】
図8は、「無視された」という記憶情報を想起したときに、ロボット40から取得した情報から「無視された」という状況が生じていないと判断された場合を示す。この場合、格納部280に格納される記憶強度は高められず、時間とともに漸減する。
【0074】
記憶強度が記憶レベル閾値th1以下であり、かつ、記憶強度が記憶レベル閾値th2を超える記憶情報は、潜在意識情報として格納部280に記憶される。潜在意識情報として格納部280に記憶されている記憶情報は、自発的には想起されない。記憶強度が記憶レベル閾値th2以下になった場合は、記憶情報は格納部280から消去される。
【0075】
このように、記憶情報が想起された場合に、想起した記憶情報に適合する情報をロボット40から取得していない場合には、当該記憶情報の記憶強度は漸減する。その結果、最終的には格納部280から消去される。このように、ロボット40において頻繁に生じない状況で生成された記憶情報は消去される。そのため、格納部280の記憶領域を有効利用できる。
【0076】
図9は、格納部280に記憶される記憶情報の記憶強度の時間変化の他の例を概略的に示す図である。ここでは、時刻t3の情報から得られた「撫でられた」という記憶情報について説明する。時刻t3における記憶強度は、時刻t3の情報に基づく入力情報から得られた興奮度に応じた強度である。
図8に関連して説明したように、格納部280は、記憶情報に対応づけて格納する記憶強度を、時間経過に応じて漸減させる。
【0077】
図9においては、時刻t3から続く4回の自発的な想起のうち、4回目に想起した場合に、ロボット40から取得した情報から「撫でられた」というイベントが生じていると判断された場合を示す。例えば、「撫でられた」という記憶情報を4回目に想起した後の予め定められた時間内に、ロボット40から取得した情報から「撫でられた」というイベントが生じたと判断されたとする。この場合、格納部280は、「撫でられた」という記憶情報に対応づけて格納する記憶強度を、予め定められた強度だけ高める。なお、この記憶強度の上昇量は可変であってよい。また、格納部280は、その後に記憶強度の時間当たりの減少率を低下させる。
図9に示されるように、想起した時点からの時間当たりの記憶強度の減少率は、時刻t3において記憶した時点からの時間当たりの記憶強度の減少率より小さい。また、情報選択部284は「撫でられた」という情報を想起する頻度を低下させる。想起頻度を低下させるためのパラメータの詳細については、後述する。
【0078】
図9において、「撫でられた」という記憶情報は、4回目の自発的な想起の後に、低い想起頻度で2回の自発的な想起を行った後、潜在意識情報となる。潜在意識情報となった後、「撫でられた」という記憶情報が生成されたときのイベントに適合するイベントが新たに生じた場合には、潜在意識情報となった後においても想起される。例えば、「撫でられた」という記憶情報は、「A君がいる」という付帯記憶情報に対応づけられている。ここで、「A君がいる」というイベントに適合する情報がロボット40から得られた場合には、「A君がいる」という付帯記憶情報が対応づけられた「撫でられた」という記憶情報が、想起され得る。なお、この記憶処理及び想起処理の具体例については、後述する。
【0079】
図9においては、上述した4回目の自発的な想起と同様に、ロボット40から取得した情報から「撫でられた」というイベントが生じたと判断された場合を示す。この場合、格納部280は、「撫でられた」という記憶情報に対応づけて格納する記憶強度を、予め定められた強度だけ高める。また、格納部280は、その後に記憶強度の時間当たりの減少率を低下させる。
図9に示されるように、今回想起した時点からの時間当たりの記憶強度の減少率は、前回想起した時点からの時間当たりの記憶強度の減少率より小さい。このように、想起する度に時間当たりの記憶強度の減少率は小さくなり、記憶強度はなだらかに低下していく。また、情報選択部284は「撫でられた」という情報を想起する頻度を低下させる。このように、記憶情報に適合するイベントが頻繁に生じる場合は、記憶強度が高まるとともに記憶強度の時間当たりの減少率が低くなり、記憶情報の想起頻度が低下する。したがって、記憶情報に適合するイベントが頻繁に生じる場合は、その記憶情報は、いわばより定着した、ありふれた記憶として記憶されることになる。このように、システム10によれば、人間が繰り返し学習することで記憶が定着していくような態様で、記憶情報を記憶することができる。
【0080】
図10は、ロボット40から取得する情報の取得シーケンスを説明するための図である。上述したように、「撫でられた」という記憶情報は、時刻t3の情報にもとづいて生成されたイベント情報である。時刻t3より予め定められた時間だけ前の時刻t1の情報からは、「晴れの日」という付帯記憶情報が生成され、時刻t2の情報から、「A君がいる」という付帯記憶情報が生成されているとする。いずれの付帯情報も、「撫でられた」という記憶情報に対応づけて格納部280に格納される。
【0081】
また、時刻t13より予め定められた時間だけ前の時刻t11の情報からは、「曇りの日」という付帯記憶情報が生成され、時刻t12の情報から、「A君がいる」という付帯記憶情報が生成されているとする。生成された付帯情報はいずれも、「無視された」という記憶情報に対応づけて格納部280に格納される。
【0082】
なお、以後の説明においては、簡略に説明することを目的として、「撫でられた」をE3、「晴れの日」をE1、「A君がいる」をE2で表す。また、「無視された」をE13、「曇りの日」をE11で表す。
【0083】
図11は、格納部280に格納される情報の一例を示す図である。E3、E1→E3、E2→E3、E13、E11→E13、E2→E13の各記憶情報は、それぞれ複数の内分泌物質の分泌量に対応づけて格納部280に格納される。記憶情報に対応づけられる内分泌物質の分泌量は、当該記憶情報に適合するイベントが生じた場合に、それぞれの内分泌物質が作用する感情を呼び起こす強さを示す。
【0084】
例えば、ドーパミンの分泌量は、記憶情報に適合するイベントが生じた場合に、「嬉しい」の感情を呼び起こす強さを示す。ノルアドレナリンの分泌量は、記憶情報に適合するイベントが生じた場合に、「不安」の感情を呼び起こす強さを示す。また、セロトニンの分泌量は、記憶情報に適合するイベントが生じた場合に、感情の起伏を抑制する強さを示す。
【0085】
なお、セロトニンの分泌量は、対応する記憶情報の定着度合いを示す。例えば、セロトニンの分泌量が多いほど、記憶がより定着したことを示す。したがって、セロトニンの分泌量が多いほど、自発的な想起頻度を低くし、記憶強度の単位時間当たりの減少率を小さくする。すなわち、格納部280は、セロトニンの分泌量がより多い記憶情報の記憶強度の単位時間当たりの減少率を小さくする。また、情報選択部284は、より多いセロトニンの分泌量に対応づけて格納部280に格納されている記憶情報を、想起情報としてより低い頻度で選択する。また、情報選択部284は、格納部280に格納されている記憶情報のうち、記憶強度が記憶レベル閾値th1を超える記憶情報のみを自発的な想起情報として選択する。
【0086】
図11に示されるように、格納部280は、E3の記憶情報に対応づけて、ドーパミンの分泌量0.6、ノルアドレナリンの分泌量0、セロトニンの分泌量0.5を格納している。よって、E3が示すイベントは、他の記憶情報に対応するイベントに比べて比較的に頻繁に生じることを意味する。また、格納部280には、E13の記憶情報に対応づけて、ドーパミンの分泌量0、ノルアドレナリンの分泌量0.9、セロトニンの分泌量0.05を格納している。よって、E13の記憶情報を想起して実際にE13に適合するイベントが生じた場合は、「不安」の感情が大きく呼び起こされることを意味する。
【0087】
E1→E3は、E1が生じた後にE3が生じることを示す。同様に、E2→E3は、E2が生じた後にE3が生じることを示す。
図11に示される情報によれば、ロボット40は晴れの日に撫でられることより、A君がいる状況で撫でられることに慣れておらず、A君がいる状況で撫でられることで「嬉しい」の感情がより大きく呼び起こされることを示している。
【0088】
E11→E13は、E11が生じた後にE13が生じることを示す。同様に、E2→E13は、E2が生じた後にE13が生じることを示す。
図11に示される内分泌物質の分泌量によれば、ロボット40は、無視されることにあまり慣れておらず、無視されることを想起した場合に無視されるというイベントが生じると、「不安」の感情が強く呼び起こされることを示している。
【0089】
なお、E3及びE13の記憶情報だけでなく、E1→E3、E2→E3、E11→E13、E2→E13の記憶情報も、対応するセロトニンの分泌量に応じた頻度で想起される。そして、対応するイベントが生じた場合には、対応する内分泌物質の分泌量が、NN演算部230におけるロボット40の感情の算出に反映される。例えば、E1→E3の記憶情報を取り上げて説明すると、晴れの日に撫でられた場合に、ドーパミンの分泌量0.6、ノルアドレナリンの分泌量0、及びセロトニンの分泌量0.4が、現在の内分泌物質の分泌量に反映される。例えばドーパミンの分泌量は、ドーパミンの現在の分泌量と0.6の平均値に調整され、ノルアドレナリンの分泌量は、ノルアドレナリンの現在の分泌量と0の平均値に調整され、セロトニンの分泌量は、セロトニンの現在の分泌量と0.4の平均値に調整される。なお、現在の内分泌物質の分泌量に反映する内分泌情報は、E1→E3に対応づけられている内分泌物質の分泌量に限られない。例えば、E1→E3の記憶情報において時間順に後の記憶情報であるE3に対応づけられたドーパミンの分泌量0.6、ノルアドレナリンの分泌量0,セロトニンの分泌量0.5を、現在の内分泌物質の分泌量に反映してもよい。その他、E1→E3の記憶情報において時間順で後の記憶情報であるE1に対応づけられた内分泌物質の分泌量を、現在の内分泌物質の分泌量に反映してもよい。
【0090】
また、E3の記憶情報は、E1→E3又はE2→E3の記憶情報に基づいて、E1又はE2のイベントに適合するイベントが生じた場合に、想起情報として選択される場合がある。例えば、情報選択部284は、E1のイベントに適合するイベントが生じた場合において、現在の内分泌物質の分泌量の分布と、格納部280においてE1→E3に対応づけられた内分泌物質の分泌量の分布との一致度が予め定められた閾値を超えることを条件として、E3の記憶情報を想起情報として選択する。なお内分泌物質の分泌量の一致度は、各内分泌物質の分泌量を成分とするベクトルの距離の短さを指標としてよい。例えば、iを内分泌物質の識別記号として、内分泌物質の現在の分泌量qit、格納部280において記憶情報に対応づけられた内分泌物質の分泌量qicとした場合に、{Σi(qit-qic)2}1/2の逆数を、内分泌物質の分泌量の一致度として用いてよい。ここで、Σiは、iについての和をとることを表す。なお、E3の記憶情報を想起情報として選択した場合において、E3に適合する入力情報が入力されて、E3と同一のイベント又はE3に適合するイベントが生じた場合は、E1→E3の記憶情報に対応付けられている分泌量情報のうち、セロトニンの分泌量を予め定められた量だけ増加させる。
【0091】
同様に、E13の記憶情報は、E11→E13又はE2→E13の記憶情報に基づいて、E11又はE2のイベントに適合するイベントが生じた場合に、想起情報として選択される場合がある。なお、E2のイベントに適合するイベントが生じた場合には、E3及びE13の両方が想起情報として選択される可能性がある。この場合に、情報選択部284は、E3及びE13の一方のみを想起情報として選択してよい。例えば、情報選択部284は、現在の内分泌物質の分泌量の分布により近い内分泌物質の分泌量の分布が対応づけられている記憶情報のみを想起してよい。例えば、情報選択部284は、E2→E3に対応づけられた内分泌物質の分泌量の分布と現在の内分泌物質の分泌量の分布との一致度と、E2→E13に対応づけられた内分泌物質の分泌量の分布と現在の内分泌物質の分泌量の分布との一致度とを比較して、高い一致度が得られた方の記憶情報のみを、想起情報として選択してよい。この場合においても情報選択部284は、内分泌物質の分泌量の分布との一致度が予め定められた値より小さい場合は、想起情報として選択しなくてよい。
【0092】
図12は、記憶情報に付帯される付帯記憶情報の取得シーケンスを説明するための図である。
図11においては、E1→E3、E2→E3、E11→E13、E2→E13のように、1対1の記憶情報の組を取り上げて説明した。しかし、記憶情報の組は、時間順で前の記憶情報として、2以上の記憶情報を含んでよい。例えば、
図12に示す情報の取得シーケンスにおいて、E1、E2及びE3が同じ時間ステップで生じたことに続いて、E4が生じた場合に、格納部280は、E1、E2及びE3の任意の組み合わせをEcとして、Ecのそれぞれについて、Ec→E4の記憶情報の組を、内分泌物質の分泌量に対応づけて格納してよい。ここで、Ecは、[E1、E2、E3]、[E1、E2]、[E1、E3]、[E2、E3]、[E1]、[E2]、[E3]の7つである。つまり、7個の記憶情報の組[E1、E2、E3]→E4、[E1、E2]→E4、[E1、E3]→E4、[E2、E3]→E4、[E1]→E4、[E2]→E4、[E3]→E4が、内分泌物質の分泌量に対応づけて格納される。これらの記憶情報の各組Ec→4も、それぞれ予め定められた時間間隔で想起される。そして、Ecに続いてE4に適合するイベントが生じた場合は、該当するEc→E4の記憶強度が高められる。また、該当するEc→E4に対応する分泌量情報のうち、セロトニンの分泌量が増加される。これにより、頻繁に生じる記憶情報の組は定着した記憶情報となっていく。一方で、頻繁に生じない記憶情報の組は、比較的に早期に顕在意識情報から潜在意識情報に移行する。そして、滅多に生じない記憶情報の組は、最終的には忘却されたものとして消去される。
【0093】
また、記憶情報の組は、時間順で後の記憶情報として、2以上の記憶情報を含んでよい。例えば、
図12に示す情報の取得シーケンスにおいて、E4に続いてE5、E6のイベントが時間順に続いた場合は、記憶情報の組として、[E1、E2、E3]→[E4→E5→E6]、[E1、E2]→[E4→E5→E6]、[E1、E3]→[E4→E5→E6]、[E2、E3]→[E4→E5→E6]、[E1]→[E4→E5→E6]を、分泌量情報に対応づけて格納してよい。ここで、[E1、E2、E3]→[E4→E5→E6]の記憶情報の組を取り上げて想起処理を説明する。同じ時間ステップでE1、E2及びE3のイベントが生じた場合、E4、E5及びE6の記憶情報のシーケンスが選択され得る。すなわち、E1、E2及びE3のイベントに応じて、E4、E5及びE6の順番でイベントが生じることを想起する。そして、同じ時間ステップでE1、E2及びE3のイベントが生じた後に、E4、E5及びE6がこのシーケンスで続けて生じた場合に、記憶強度が高められる。そして、対応する分泌量情報のうち、セロトニンの分泌量が増加される。なお、[E4→E5→E6]に適合するか否かは、E4、E5、E6のシーケンスで生じた場合に限り、真と判断される。例えば、E4、E6、E5のシーケンスで生じた場合は、[E4→E5→E6]に適合しないと判断される。これにより、頻繁に生じないシーケンスを持つ記憶情報の組は、頻繁に生じるシーケンスを持つ記憶情報の組より、早期に潜在意識情報に移行する。そして、滅多に生じないシーケンスを持つ記憶情報の組は、最終的には忘却されたものとして消去される。これにより、シーケンス性を考慮した記憶処理を実現できる。
【0094】
図13は、想起情報とは異なるイベント又は想起情報を否定するイベントが生じた場合に反映される内分泌物質を説明する図である。ベクトル1200は、感情マップ300において、ドーパミンの作用により引き起こされる感情のベクトルを示す。すなわち、入力人工ニューロンに入力情報を入力した場合に、ドーパミンの作用によって、中央の入力部からベクトル1200で示される方向に情報伝達が促進されることを示す。なお、ベクトル1200は、ドーパミンが情報伝達を促進する経路の平均的な方向を示しており。ドーパミンがベクトル1200の方向のみに情報伝達を促進することを意味していない。
【0095】
ベクトル1202及びベクトル1204は、感情マップ300において、それぞれノルアドレナリン及びセロトニンの作用により引き起こされ得る感情の代表的な方向を示す。ベクトル1210は、E2→E3に対応づけられた分泌量の内分泌物質の作用によって引き起こされる感情の代表的な方向を示す。ベクトル1210は、E2→E3に対応づけられた分泌量に応じてベクトル1200、ベクトル1202及びベクトル1204を重み付けして加算したものである。つまり、E2→E3の記憶情報に基づいてE3の記憶情報を想起情報として選択した場合において、E3と同一又はE3に適合するイベントが生じたときには、ベクトル1210が示す方向の内分泌物質の分泌量が、現在の内分泌物質の分泌量に反映される。
【0096】
ここで、E2→E3の記憶情報に基づいてE3の記憶情報を想起情報として選択した場合において、E3を否定する入力情報が入力され、当該入力情報から、E3とは異なる又はE3を否定するイベントであるE4が生じた場合について説明する。なお、E3が「撫でられた」である場合、E4のイベントは「撫でられなかった」というイベントや「叩かれた」という、所定の否定関係にあると判断されるイベントであってよい。この場合、分泌情報生成部200は、ベクトル1210の逆向きのベクトル1212の方向に作用する内分泌物質とその分泌量を、E2→E4に対応づけられた内分泌物質の分泌量に反映する。また、分泌情報生成部200は、ベクトル1212の方向に作用する内分泌物質とその分泌量が反映された、E2→E4に対応づけられた内分泌物質の分泌量を、現在の内分泌物質の分泌量に反映する。ベクトル1212は、例えば、
図13のベクトル1206をバソプレッシンの作用により引き起こされる感情の代表的な方向であるとすると、分泌情報生成部200は、ノルアドレナリンの分泌量0.7と、バソプレッシンの分泌量0.3を示す分泌情報を生成して、現在の内分泌物質の分泌量に反映する。これにより、想起したイベントが生じなかった場合には、想起したイベントが生じた場合に対して感情マップ300内で相反する方向の感情を引き起こし易くすることができる。これにより、想起したイベントが外れた場合に期待される感情の動きをロボット40において適切に反映することができる。
【0097】
図14は、想起情報として選択することが許容される想起情報を表す選択許容情報を示す図である。格納部280は、第1の選択許容情報として、E21及びE22のイベント情報に対応づけて、顕在意識情報として記憶されるE31→E32、E33→E34及びE35と、潜在意識情報として記憶されているE41→E42及びE43→E44とを格納する。また、格納部280は、第2の選択許容情報として、E51及びE52のイベント情報に対応づけて、顕在意識情報として記憶されるE61→E62、E61→E65及びE63→E64と、潜在意識情報として記憶されているE71→E72及びE73→E74とを格納する。また、格納部280は、第3の選択許容情報として、E81及びE82のイベント情報に対応づけて、顕在意識情報として記憶されるE61→E31、E61→E34及びE62→E33と、潜在意識情報として記憶されているE71→E41及びE72→E43とを格納する。
【0098】
第1の選択許容情報は、E31→E32の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている場合において、E21及びE22に続けてE31が生じた場合には、E32を想起情報として選択可能であることを示している。同様に、E33→E34の記憶情報が顕在意識情報として記憶され、E41→E42及びE43→E44の記憶情報が潜在意識情報として記憶されている場合においては、E21及びE22に続けてE33が生じた場合はE34を、E21及びE22に続けてE41が生じた場合はE42を、E21及びE22に続けてE43が生じた場合はE44を、想起情報として選択可能であることを示している。また、E35の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている場合においては、E21及びE22が生じた場合に、E35が想起情報として選択可能であることを示している。
【0099】
同様に、第2の選択許容情報は、E61→E62の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている場合において、E51及びE52に続けてE61が生じた場合には、E62又はE64を想起情報として選択可能であることを示している。同様に、E63→E64の記憶情報が顕在意識情報として記憶され、E71→E72及びE73→E74の記憶情報が潜在意識情報として記憶されている場合においては、E51及びE52に続けてE63が生じた場合はE64を、E51及びE52に続けてE71が生じた場合はE72を、E51及びE52に続けてE73が生じた場合はE74を、想起情報として選択可能であることを示している。
【0100】
なお、第2の選択許容情報においては、E61→E62及び61→E65の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている。これらの記憶情報の組は、時間順で前の記憶情報として同一のE61を持つ。この場合において、E61→E62及び61→E65の記憶情報のうち、想起情報として優先的に選択するべき記憶情報を、内分泌物質の現在の分泌量又は特定の内分泌物質の分泌量に基づいて選択してよい。例えば、
図11に関連して上述したように、格納部280においてE61→E62の記憶情報に対応づけられている内分泌物質の分泌量及び格納部280においてE61→E65の記憶情報に対応づけられている内分泌物質の分泌量のそれぞれを、内分泌物質の現在の分泌量と比較して、最も一致度が高い記憶情報を、想起情報としてより優先して選択してよい。ここで、内分泌物質の分泌量の一致度は、上述したように、各内分泌物質の分泌量を成分とするベクトルの距離の短さを指標としてよい。例えば、E61→E65の記憶情報に対応づけられている内分泌物質の分泌量と内分泌物質の現在の分泌量との一致度が、E61→E62の記憶情報に対応づけられている内分泌物質の分泌量と内分泌物質の現在の分泌量との一致度より高い場合は、E61→E65の記憶情報及びE65の記憶情報を想起情報として選択してよい。
【0101】
なお、E61→E62及び61→E65の記憶情報のうち、想起情報として優先的に選択するべき記憶情報を特定の内分泌物質の分泌量に基づいて選択する場合、当該特定の内分泌物質の分泌量として、ユーザにより選択された記憶情報に対応づけられた分泌物質の分泌量を適用してよい。例えば、複数の記憶情報を提示して、所定の順で並べ替えるようユーザに依頼する。具体的には、最も楽しかった順で記憶情報を並べ替えるよう依頼する。ユーザにより最も上位の記憶情報に対応づけられた内分泌物質の分泌量を、特定の内分泌物質の分泌量として適用してよい。
【0102】
同様に、第3の選択許容情報は、E61→E31の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている場合において、E81及びE82に続けてE61が生じた場合には、E31又はE34を想起情報として選択可能であることを示している。同様に、E62→E33の記憶情報が顕在意識情報として記憶され、E71→E41及びE72→E43の記憶情報が潜在意識情報として記憶されている場合においては、E81及びE82に続けてE62が生じた場合はE33を、E81及びE82に続けてE71が生じた場合はE41を、E81及びE82に続けてE72が生じた場合はE74を、想起情報として選択可能であることを示している。第3の選択許容情報においては、E61→E31及び61→E34の記憶情報が顕在意識情報として記憶されている。これらの記憶情報の組は、時間順で前の記憶情報として同一のE61を持つ。この場合において、E61→E31及び61→E34の記憶情報のうち、想起情報として優先的に選択するべき記憶情報を、内分泌物質の現在の分泌量又は特定の内分泌物質の分泌量に基づいて選択してよい。この選択処理には、第2の選択許容情報におけるE61→E62及び61→E65の選択処理と同様の処理を適用できるので、その説明を省略する。
【0103】
したがって、例えば、E51及びE52に続けてE31が生じた場合には、E32が想起情報として選択することは禁止される。また、E51及びE52に続けてE61が生じた場合は、E62が想起情報として選択され得る。一方で、E51及びE52とは異なるE81及びE82に続けてE61が生じた場合は、E31が想起情報としてされ得る。このように、直前に生じたイベントのシーケンスに応じて、想起情報として選択することが許容される情報を制限又は切り替えることができる。これにより、例えばロボット40が子供とオセロをして楽しんでいる場合には、過去にロボット40がオセロで学習した情報に基づいて行動させることができる。そのため、例えばロボット40が子供とオセロを楽しんでいる場合に、誤ってロボット40が父親と将棋を指しているときに学習した行動をとってしまうことを抑制できる。
【0104】
図15は、同じイベント情報の数と感情の強さとの関係の一例を概略的に示す図である。感情決定部260は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が多いほど、感情の強さを高い値に決定してよい。例えば、
図15に示されるように、感情決定部260は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が予め定められた値であるn1を超えるまでロボット40の感情の強さの値を下限値であるp1に決定する。感情決定部260は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数がn1を超えた場合に、この同じイベント情報の数が多いほど、感情の強さを高い値に決定し、感情の強さを指数関数的に増加させる。すなわち、感情決定部260は、ロボット40によって同じイベントが予め定められた間隔内に繰り返し経験された場合、そのイベントの個々の経験を通してロボット40によって抱かれる感情が強い感情でなくても、感情の強さを高い値に決定する。
【0105】
ここで、人の感情の強さは、予め定められた間隔内に同じイベントが繰り返されるほど、そのイベントが意味づけられるため、高くなる傾向がある。そのため、感情決定部260は、人の感情の強さの決まり方により近いアルゴリズムによって、ロボット40の感情の強さをより適切に決定できる。
【0106】
上述の例では、感情決定部260は、同じイベント情報の数がn1を超えた場合に、同じイベント情報の数の増加に応じて、ロボット40の感情の強さを指数関数的に増加させているが、上述の例に限定されず、人の感情の強さの決まり方に応じて、任意の態様によって感情の強さを増加させてもよい。例えば、感情決定部260は、同じイベント情報の数の増加に応じて、ロボット40の感情の強さを一次関数的に増加させてよい。この場合も、感情決定部260は、人の感情の強さの決まり方により近いアルゴリズムによって、ロボット40の感情の強さをより適切に決定することができる。
【0107】
また、上述の例では、情報取得部204によって同じイベント情報が取得される取得間隔が予め定められた取得間隔内である場合について説明しているが、取得間隔が予め定められた取得間隔外である場合には、感情決定部260は、情報取得部204によって取得された同じイベント情報の数が多くても、感情の強さを高い値に決定しなくてよい。すなわち、感情決定部260は、イベントの個々の経験を通してロボット40によって抱かれる感情が強い感情でなく、取得間隔が長い場合には、たとえロボット40によってイベントが繰り返し経験されたところで、感情の強さを高い値に決定しなくてよい。
【0108】
ここで、大雑把な性格の人は、たとえ(経験することによって抱かれる感情の強さが弱い)イベントを繰り返し経験したところで、その間隔が長いと、そのイベントが大したことではないとして、強い感情を抱かない傾向がある。そのため、感情決定部260は、情報取得部204によって同じイベント情報が取得される取得間隔が予め定められた取得間隔外である場合には、情報取得部204によって取得された同じイベント情報の数が多くても、感情の強さを高い値に決定しないことにより、人の感情の強さの決まり方により近いアルゴリズムによって、ロボット40の感情の強さをより適切に決定できる。
【0109】
図16は、感情の強さと記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。記憶制御部282は、感情決定部260によって決定された感情の強さが予め定められた値を超えるまで、感情の強さが強いほど、記憶の定着量を高い値に決定してよい。例えば、
図16に示されるように、記憶制御部282は、感情の強さがp1から予め定められた値であるp2を超えるまで、感情の強さと正比例する、下限値であるq1から上限値であるq2までの値にロボット40の記憶の定着量の値を決定し、感情の強さが予め定められた値であるp2を超えると、感情の強さと反比例する、q1からq2までの値に記憶の定着量の値を決定する。具体的には、記憶制御部282は、感情の強さがp1からp2に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで上に凸の二次関数的に増加させ、感情の強さがp2から予め定められた値であるp3に増加するまで記憶の定着量をq2からq1まで上に凸の二次関数的に減少させる。なお、記憶制御部282は、感情の強さが強い場合と弱い場合とのいずれの場合も、感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。
【0110】
ここで、人の記憶の定着量は、感情の強さに応じて異なり、ある程度まで感情の強さが強いほど多くなり、ある程度を超えると少なくなる傾向がある。例えば、感情の高ぶりがストレスになるため、注意力の散漫、処理能力の低下、記憶の定着を妨げる場合がある。そのため、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0111】
上述の例では、記憶制御部282は、感情の強さがp1からp2に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで上に凸の二次関数的に増加させ、感情の強さがp2からp3に増加するまで記憶の定着量をq2からq1まで上に凸の二次関数的に減少させている。ただし、記憶制御部282は、上述の例に限定されず、人の記憶の定着量の決まり方に応じて、任意の態様によって記憶の定着量を増減させてよい。例えば、記憶制御部282は、感情の強さがp1からp2に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで一次関数的に増加させ、感情の強さがp2からp3に増加するまで記憶の定着量をq2からq1まで一次関数的に減少させてよい。この場合も、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定できる。
【0112】
図17は、注意力と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。記憶制御部282は、注意力が高いほど、記憶の定着量を高い値に決定してよい。例えば、
図17に示されるように、記憶制御部282は、ロボット40の注意力が予め定められた値であるp4から予め定められた値であるp5に増加するまで記憶の定着量を下限値であるq1から上限値であるq2まで対数関数的に増加させ、ロボット40の注意力がp5を超えると記憶の定着量をq2のままに決定する。なお、記憶制御部282は、注意力が高い場合と低い場合とのいずれの場合も、感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。
【0113】
ここで、記憶の定着量は、注意深く観察することや集中することによって増加する傾向がある一方で、人の脳は限られた容量しか記憶できず、記憶の定着量には限界がある。そのため、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0114】
上述の例では、記憶制御部282は、注意力がp4からp5に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで対数関数的に増加させているが、上述の例に限定されず、人の記憶の定着量の決まり方に応じて、任意の態様により記憶の定着量を増加させてもよい。例えば、記憶制御部282は、注意力がp4からp5に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで一次関数的に増加させてよい。この場合も、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって記憶の定着量をより適切に決定できる。
【0115】
図18は、注目対象の数と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。記憶制御部282は、注目対象の数が少ないほど、記憶の定着量を高い値に決定してよい。例えば、
図18に示されるように、記憶制御部282は、ロボット40によって注目される注目対象の数が予め定められた値であるn2から予め定められた値であるn3に増加するまで、忘却曲線に沿って、記憶の定着量を上限値であるq2から下限値であるq1まで対数関数的に減少させる。記憶制御部282は、注目対象の数が多い場合、何かに注目してほしいというユーザ50からの指示があったとしても、ロボット40に多くを記憶させないように、記憶の定着量を低い値に決定する。また、記憶制御部282は、注目対象の数が少ない場合、何かに注目してほしいというユーザ50からの指示があれば、ロボット40に多く鮮明に記憶させるように、記憶の定着量を高い値に決定する。なお、記憶制御部282は、注目対象の数が多い場合と少ない場合とのいずれの場合も、感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。
【0116】
ここで、人は、注目対象が複数存在する場合、人の脳の記憶の定着量に限界があることや注意力の分散による全体の記憶力の低下等の理由から、各注目対象については少しの内容しか記憶できない傾向がある。そのため、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定できる。
【0117】
上述の例では、記憶制御部282は、忘却曲線に沿って、注目対象の数がn2からn3に増加するまで記憶の定着量をq2からq1まで対数関数的に減少させているが、上述の例に限定されず、人の記憶の定着量の決まり方に応じて、任意の態様によって記憶の定着量を減少させてもよい。例えば、記憶制御部282は、注意力がp4からp5に増加するまで記憶の定着量をq2からq1まで一次関数的に減少させてよい。この場合も、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0118】
図19は、同じイベント情報の数と記憶の定着量との関係の一例を概略的に示す図である。記憶制御部282は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が多いほど、記憶の定着量を高い値に決定してよい。例えば、
図19に示されるように、記憶制御部282は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が予め定められた値であるn1から予め定められた値であるn4に増加するまで記憶の定着量を下限値であるq1から上限値であるq2まで対数関数的に増加させ、n4を超えると記憶の定着量をq2のままに決定する。なお、記憶制御部282は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が多い場合と少ない場合とのいずれの場合も、感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。
【0119】
ここで、人の記憶の定着量は、予め定められた間隔内に同じイベントが繰り返されるほど、そのイベントが意味づけられるため、高くなる傾向がある。そのため、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0120】
上述の例では、記憶制御部282は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数がn1からn4に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで対数関数的に増加させているが、上述の例に限定されず、人の記憶の定着量の決まり方に応じて、任意の態様により記憶の定着量を増加させてもよい。例えば、記憶制御部282は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数がn1からn4に増加するまで記憶の定着量をq1からq2まで一次関数的に増加させてよい。この場合も、記憶制御部282は、人の記憶の定着量の決まり方により近いアルゴリズムによって、記憶の定着量をより適切に決定することができる。
【0121】
また、上述の例では、情報取得部204によって同じイベント情報が取得される取得間隔が予め定められた取得間隔内である場合について説明しているが、取得間隔が予め定められた取得間隔外である場合には、記憶制御部282は、情報取得部204によって取得された同じイベント情報の数が多くても、記憶の定着量を高い値に決定しなくてよい。すなわち、記憶制御部282は、取得間隔が長い場合には、たとえロボット40によってイベントが繰り返し経験されたところで、記憶の定着量を高い値に決定しなくてよい。
【0122】
ここで、大雑把な性格の人は、たとえ(経験することによって抱かれる感情の強さが弱い)イベントを繰り返し経験したところで、その間隔が長いと、そのイベントが大したことではないとして、結局すぐ忘れてしまい、記憶の定着率が低い傾向がある。そのため、記憶制御部282は、情報取得部204によって同じイベント情報が取得される取得間隔が予め定められた取得間隔外である場合に、情報取得部204によって取得された同じイベント情報の数が多くても、感情の強さを高い値に決定しないことにより、人の感情の強さの決まり方により近いアルゴリズムによって、ロボット40の感情の強さをより適切に決定することができる。
【0123】
図20は、サーバ60の動作フローの一例を概略的に示す図である。ステップS1において、情報取得部204は、記憶の制御対象である対象オブジェクトによって経験されたイベントに関するイベント情報を取得する。例えば、情報取得部204は、ロボット40によってイベントが経験された場合に、イベント情報を取得する。
【0124】
ステップS2において、感情決定部260は、情報取得部204によって取得されたイベント情報に基づいて、対象オブジェクトの感情の強さを決定する。例えば、感情決定部260は、情報取得部204によって予め定められた取得間隔内に取得された同じイベント情報の数が多いほど、ロボット40の感情の強さを高い値に決定する。すなわち、感情決定部260は、ロボット40によって同じイベントが予め定められた間隔内に繰り返し経験された場合、そのイベントの個々の経験を通してロボット40によって抱かれる感情が強い感情でなくても、ロボット40の感情の強さを高い値に決定する。
【0125】
ステップS3において、記憶制御部282は、感情決定部260によって決定された感情の強さとイベント情報とを対応づけて記憶させる。例えば、記憶制御部282は、感情の強さとイベント情報とが対応づけられたものを、ロボット40の記憶情報として格納部280に格納させる。
【0126】
以上に説明したサーバ60の機能は、1以上のコンピュータによって実装されてよい。サーバ60の少なくとも一部の機能は、仮想マシンによって実装されてよい。また、サーバ60の機能の少なくとも一部は、クラウドで実装されてよい。また、ロボット40は、対象オブジェクトの一例である。対象オブジェクトとして、ロボット以外の様々な形態を採用し得る。
【0127】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0128】
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階などの各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」などと明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」などを用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0129】
10 システム
40 ロボット(対象オブジェクト)
50 ユーザ
60 サーバ(記憶制御システム)
90 通信ネットワーク
102 通信部
120 センサ部
130 情報処理部
160 制御対象
200 分泌情報生成部
204 情報取得部
210 入力情報生成部
220 パラメータ調整部
230 NN演算部
240 感情判定部
250 制御部
260 感情決定部
270 処理部
280 格納部
282 記憶制御部
284 情報選択部
286 イベント情報生成部
290 記録媒体
300 感情マップ