IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-制振装置 図1
  • 特開-制振装置 図2
  • 特開-制振装置 図3
  • 特開-制振装置 図4
  • 特開-制振装置 図5
  • 特開-制振装置 図6
  • 特開-制振装置 図7
  • 特開-制振装置 図8
  • 特開-制振装置 図9
  • 特開-制振装置 図10
  • 特開-制振装置 図11
  • 特開-制振装置 図12
  • 特開-制振装置 図13
  • 特開-制振装置 図14
  • 特開-制振装置 図15
  • 特開-制振装置 図16
  • 特開-制振装置 図17
  • 特開-制振装置 図18
  • 特開-制振装置 図19
  • 特開-制振装置 図20
  • 特開-制振装置 図21
  • 特開-制振装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172930
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】制振装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241205BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20241205BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F7/12
F16F15/02 K
F16F15/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090997
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】森川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】冨吉 雄太
(72)【発明者】
【氏名】半澤 徹也
(72)【発明者】
【氏名】濱 智貴
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139AB11
2E139AC19
2E139BA05
2E139BA12
2E139BD16
3J048AA01
3J048AA02
3J048AC06
3J048AD11
3J048BA24
3J048BC09
3J048BE10
3J048DA04
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA04
3J066BB01
3J066BD07
3J066BF01
(57)【要約】
【課題】ギャップを有しつつ、設置スペースを縮小できるとともに設置コストを抑えることができる制振装置を提供する。
【解決手段】第1取付部3は、芯材21の第1端部21aを柱12(第1構造体)に取り付け、芯材21と柱12との軸線方向の相対変位を拘束する。第2取付部4は、芯材21の第2端部21bをシアリンクブレース14(第2構造体)に取り付け、芯材21とシアリンクブレース14とが互いに離れる引張方向の第1ギャップ量および互いに近づく圧縮方向の第2ギャップ量の相対変位を許容するギャップを有する。柱12とシアリンクブレース14とが引張方向に相対変位し、芯材21とシアリンクブレース14との相対変位量が第1ギャップ量を超えると芯材21に引張力が作用し、柱12とシアリンクブレース14とが圧縮方向に相対変位し、芯材21とシアリンクブレース14との相対変位量が第2ギャップ量を超えると芯材21に圧縮力が作用する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対変位可能な第1構造体と第2構造体との間に設けられ、
前記第1構造体と前記第2構造体との相対変位を抑制するダンパー本体部と、
前記ダンパー本体部を前記第1構造体に取り付ける第1取付部と、
前記ダンパー本体部を前記第2構造体に取り付ける第2取付部と、を有し、
前記ダンパー本体部は、
鋼製の芯材と、
前記芯材が同軸に挿入され、前記芯材の座屈を拘束する鋼管と、を有し、
前記芯材の軸線方向の一方側の第1端部は、前記鋼管の軸線方向の一方側の第1端部と固定され、
前記芯材の軸線方向の他方側の第2端部は、前記鋼管の軸線方向の他方側の第2端部から突出し、
前記第1取付部は、
前記芯材の第1端部を前記第1構造体に取り付け、前記芯材と前記第1構造体との軸線方向の相対変位を拘束し、
前記第2取付部は、
前記芯材の第2端部を前記第2構造体に取り付け、前記芯材と前記第2構造体とが軸線方向における互いに離れる引張方向の第1ギャップ量、および互いに近づく圧縮方向の第2ギャップ量の相対変位を許容するギャップを有し、
前記第1構造体と前記第2構造体とが引張方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第1ギャップ量を超えると、前記芯材に引張力が作用し、
前記第1構造体と前記第2構造体とが圧縮方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第2ギャップ量を超えると、前記芯材に圧縮力が作用する制振装置。
【請求項2】
前記第2取付部は、前記第2構造体に固定され前記芯材の第2端部側が挿入される作用部材と、
前記芯材に固定され、前記作用部材よりも前記芯材の第2端部側に前記第1ギャップ量の間隔をあけて配置される引張接触部材と、
前記芯材に固定され、前記作用部材よりも前記芯材の第1端部側に前記第2ギャップ量の間隔をあけて配置される圧縮接触部材と、を有し、
前記第1構造体と前記第2構造体とが引張方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第1ギャップ量を超えると、前記作用部材が前記引張接触部材に接触して前記芯材に引張力が作用し、
前記第1構造体と前記第2構造体とが圧縮方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第2ギャップ量を超えると、前記作用部材が前記圧縮接触部材に接触して前記芯材に圧縮力が作用する請求項1に記載の制振装置。
【請求項3】
前記引張接触部材および前記作用部材の少なくとも一方には、他方と接触する面に緩衝材が設けられ、
前記圧縮接触部材および前記作用部材の少なくとも一方には、他方と接触する面に緩衝材が設けられている請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
前記第1ギャップ量と前記第2ギャップ量とは、等しく設定されている請求項1から3のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項5】
前記第1構造体は、建物の層間に設けられた柱とブレースのいずれか一方であり、
前記第2構造体は、前記柱と前記ブレースの他方であり、
前記第1ギャップ量および前記第2ギャップ量は、層間の1/200以上1/80以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項6】
前記鋼管の弾性座屈耐力は、前記芯材の圧縮降伏荷重よりも大きい請求項1から3のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項7】
初期状態において前記芯材の外周面と、前記鋼管の内周面との接触を防止する接触防止部材を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の制振装置。
【請求項8】
前記接触防止部材は、前記鋼管の内周面から突出し、
初期状態では前記接触防止部材の先端部と前記芯材の外周面との間に隙間が設けられている請求項7に記載の制振装置。
【請求項9】
前記接触防止部材の先端部と前記芯材の外周面との隙間は、1mm以上、かつ前記芯材の直径と前記鋼管の内径との差の1/2以下である請求項8に記載の制振装置。
【請求項10】
前記第1構造体は、免震層の下方の下部構造体および前記免震層の上方の上部構造体のいずれか一方であり、
前記第2構造体は、前記下部構造体および前記上部構造体の他方であり、
前記第1取付部は、前記芯材の第1端部を前記第1構造体にピン接合し、
前記第2取付部は、前記芯材の第2端部を前記第2構造体にピン接合している請求項1から3のいずれか一項に記載の制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時の建物の変形を抑制することを目的として、建物に鉄骨ブレースや制震ダンパーなどを設けることがある。極大地震に対応するためには、より多くの鉄骨ブレースや制震ダンパーなどを建物に設ける必要がある。一方で、鉄骨ブレースや制震ダンパーなどの耐震要素を増やしすぎると建物が短周期化するため、中小地震に対してはかえって応答加速度を増大させることになる。
これに対し、鉄骨ブレースや鋼材ダンパーに所定の大きさの変位を許容するギャップを設け、中小地震によって生じるような所定値以下の変位では作用せず、極大地震によって生じるような所定値を超える変位に対してのみ作用するようにした制振装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、免震建物に免震層の過大変形を抑制するフェールセーフとして設けられる制振装置においても、ギャップを設け、中小地震によって生じるような所定値以下の免震層の変形に対しては作用せず、極大地震や風荷重によって生じるような所定値を超える免震層の変形に対しては作用する制振装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
上記のようなギャップを設けた制振装置には、例えば、テンションロッドやタイロッドなどと呼ばれる芯材が引張力にのみ作用してエネルギーを吸収するディティールの鋼材ダンパーが使用される。このような鋼材ダンパーを使用することによって、高耐力かつコンパクトさらにローコストの制振装置を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-180547号公報
【特許文献2】特開2022-123461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼材ダンパーなどの引張力にのみ作用する、すなわち1方向にしか作用しないディティールの制振装置を採用する場合、1方向に対して対称なるように対に設置する必要がある。このため、制振装置の設置台数が多くなり、設置スペースが広くなるとともに設置コストが嵩むという問題がある。
さらに、芯材が引張降伏して塑性変形すると残留変形が生じ、繰り返し作用した状況に応じてギャップ量が徐々に大きくなり、エネルギー吸収性能が低下するという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、ギャップを有しつつ、設置スペースを縮小できるとともに設置コストを抑えることができる制振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る制振装置は、相対変位可能な第1構造体と第2構造体との間に設けられ、前記第1構造体と前記第2構造体との相対変位を抑制するダンパー本体部と、前記ダンパー本体部を前記第1構造体に取り付ける第1取付部と、前記ダンパー本体部を前記第2構造体に取り付ける第2取付部と、を有し、前記ダンパー本体部は、鋼製の芯材と、前記芯材が同軸に挿入され、前記芯材の座屈を拘束する鋼管と、を有し、前記芯材の軸線方向の一方側の第1端部は、前記鋼管の軸線方向の一方側の第1端部と固定され、前記芯材の軸線方向の他方側の第2端部は、前記鋼管の軸線方向の他方側の第2端部から突出し、前記第1取付部は、前記芯材の第1端部を前記第1構造体に取り付け、前記芯材と前記第1構造体との軸線方向の相対変位を拘束し、前記第2取付部は、前記芯材の第2端部を前記第2構造体に取り付け、前記芯材と前記第2構造体とが軸線方向における互いに離れる引張方向の第1ギャップ量、および互いに近づく圧縮方向の第2ギャップ量の相対変位を許容するギャップを有し、前記第1構造体と前記第2構造体とが引張方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第1ギャップ量を超えると、前記芯材に引張力が作用し、前記第1構造体と前記第2構造体とが圧縮方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第2ギャップ量を超えると、前記芯材に圧縮力が作用する。
【0009】
本発明では、芯材が座屈を拘束する鋼管に挿入されているため、芯材が引張力のみでなく圧縮力に対しても作用する。制振装置は、引張方向の第1ギャップ量および圧縮方向の第2ギャップ量の相対変位を許容するギャップを有するため、引張方向および圧縮方向のいずれの方向の振動に対しても、ギャップ量を超えた場合に作用する構成にすることができる。これにより、制振装置は、第1ギャップ量および第2ギャップ量を調整することによって、中小地震に対しては作用せず、極大地震に対して作用する構成にすることができる。
制振装置は、1台で引張方向および圧縮方向の両方向の変位に対して作用するため、引張力のみに作用する制振装置を圧縮方向および引張方向それぞれに対して設置する場合と比べて、設置台数を半分にできる。このため、制振装置の設置スペースを縮小できるとともに、設置や管理にかかるコストを削減できる。
ギャップが第2構造体に取り付けられた第2取付部に設けられていることにより、ギャップ量を超える変形が生じた場合に、第2取付部から芯材に直接荷重が伝達する形態にできるため、制振装置を簡便な構造、かつ納まりをコンパクトにできる。
【0010】
また、本発明に係る制振装置では、前記第2取付部は、前記第2構造体に固定され前記芯材の第2端部側が挿入される作用部材と、前記芯材に固定され、前記作用部材よりも前記芯材の第2端部側に前記第1ギャップ量の間隔をあけて配置される引張接触部材と、前記芯材に固定され、前記作用部材よりも前記芯材の第1端部側に前記第2ギャップ量の間隔をあけて配置される圧縮接触部材と、を有し、前記第1構造体と前記第2構造体とが引張方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第1ギャップ量を超えると、前記作用部材が前記引張接触部材に接触して前記芯材に引張力が作用し、前記第1構造体と前記第2構造体とが圧縮方向に相対変位して、前記芯材と前記第2構造体との相対変位量が前記第2ギャップ量を超えると、前記作用部材が前記圧縮接触部材に接触して前記芯材に圧縮力が作用するようにしてもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、制振装置を簡便な構造で、ギャップ量を超える変形が生じた場合に、作用部材から芯材に直接荷重が伝達する形態にできる。
引張力のみに作用する制振装置において、所定量の相対変位を許容するギャップが設けられている場合、芯材が引張降伏して塑性変形すると残留変形が生じ、繰り返し作用した状況に応じてギャップ量が徐々に大きくなり、エネルギー吸収性能が低下する虞がある。本発明による制振装置では、引張方向のギャップと圧縮方向のギャップとが作用部材の両側に配置されているため、荷重を受けた側ギャップ量が大きくなっても、大きくなった分その反対側のギャップ量が小さくなるため、全体のギャップ量は変わらず、エネルギー吸収性能を一定に維持できる。
【0012】
また、本発明に係る制振装置では、前記引張接触部材および前記作用部材の少なくとも一方には、他方と接触する面に緩衝材が設けられ、前記圧縮接触部材および前記作用部材の少なくとも一方には、他方と接触する面に緩衝材が設けられていてもよい。
【0013】
このような構成とすることにより、作用部材が引張接触部材と接触した際の衝撃力および作用部材が圧縮接触部材と接触した際の衝撃力を和らげることができるため、これらの衝撃力が第1構造体や第2構造体に伝達することを防止できる。
【0014】
また、本発明に係る制振装置では、前記第1ギャップ量と前記第2ギャップ量とは、等しく設定されていてもよい。
【0015】
このような構成とすることにより、引張側と圧縮側とで同様に振動を抑制できる。
【0016】
また、本発明に係る制振装置では、前記第1構造体は、建物の層間に設けられた柱とブレースのいずれか一方であり、前記第2構造体は、前記柱と前記ブレースの他方であり、前記第1ギャップ量および前記第2ギャップ量は、層間の1/200以上1/80以下に設定してもよい。
【0017】
このような構成とすることにより、制振装置を中小地震に対しては作用せず、極大地震に対して作用する構成とできる。
【0018】
また、本発明に係る制振装置では、前記鋼管の弾性座屈耐力は、前記芯材の圧縮降伏荷重よりも大きく設定されていてもよい。
【0019】
このような構成とすることにより、芯材が圧縮降伏するよりも前に鋼管が座屈することを防止でき、芯材が圧縮降伏する前に座屈することを防止できる。
【0020】
また、本発明に係る制振装置では、初期状態において、前記芯材の外周面と、前記鋼管の内周面との接触を防止する接触防止部材を有していてもよい。
【0021】
このような構成とすることにより、芯材に圧縮力が作用した際の膨張を鋼管が阻害しないようにできる。また、芯材の外周面と鋼管の内周面とが接触していると、芯材に荷重が作用した場合に、鋼管に摩擦荷重が生じ、摩擦荷重が生じない場合と比べて全体座屈しやすい。本発明の制振装置では、初期状態において芯材の外周面と鋼管の内周面とが接触しないため、全体座屈を抑制できる。
【0022】
また、本発明に係る制振装置では、前記接触防止部材は、前記鋼管の内周面から突出し、初期状態では前記接触防止部材の先端部と前記芯材の外周面との間に隙間が設けられていてもよい。
【0023】
このような構成とすることにより、芯材に圧縮力が作用した際の膨張を接触防止部材が阻害しないようにできる。
【0024】
また、本発明に係る制振装置では、前記接触防止部材の先端部と前記芯材の外周面との隙間は、1mm以上、かつ前記芯材の直径と前記鋼管の内径との差の1/2以下であってもよい。
【0025】
このような構成とすることにより、芯材に圧縮力が作用した際の膨張を接触防止部材が阻害しないようにできる。また、接触防止部材の先端部と芯材の外周面との隙間が大きいと芯材が局部座屈を起こして圧縮軸力が低下する虞があるが、接触防止部材の先端部と芯材の外周面との隙間を芯材の直径と鋼管の内径との差の1/2以下とすることによって、芯材が局部座屈しにくい構成にできる。
【0026】
また、本発明に係る制振装置では、前記第1構造体は、免震層の下方の下部構造体および前記免震層の上方の上部構造体のいずれか一方であり、前記第2構造体は、前記下部構造体および前記上部構造体の他方であり、前記第1取付部は、前記芯材および前記鋼管それぞれの軸線方向の一方側の端部を前記第1構造体にピン接合し、前記第2取付部は、前記芯材および前記鋼管それぞれの軸線方向の他方側の端部を前記第2構造体にピン接合していてもよい。
【0027】
このような構成とすることにより、制振装置を免震層の過大変形を抑制するフェールセーフとして使用できる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、設置スペースを縮小できるとともに設置コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1実施形態による制振装置が設けられた架構を示す図である。
図2】第1実施形態による制振装置の側面図である。
図3】第1実施形態による制振装置の分解図である。
図4】引張力が作用している制振装置の側面図である。
図5】圧縮力が作用している制振装置の側面図である。
図6】ギャップを有し引張力のみに作用する制振装置の復元力特性のイメージを示すグラフである。
図7】第1実施形態による制振装置の復元力特性のイメージを示すグラフである。
図8】芯材と押しボルトの模式図である。
図9】三次元FEM解析による制振装置の変形および応力コンター図である。
図10】FEM解析の荷重変形関係のグラフである。
図11】押しボルトの有無を比較する鋼材の変形と荷重との関係を示すグラフである。
図12】摺動材の有無を比較する鋼材の変形と荷重との関係を示すグラフである。
図13】押しボルトの箇所を比較する鋼材の変形と荷重との関係を示すグラフである。
図14】鋼管のサイズを比較する鋼材の変形と荷重との関係を示すグラフである。
図15】試験体No.4の変形と荷重との関係を示すグラフである。
図16】加振後の試験体No.2のテンションロッドの座屈状況を示す画像である。
図17】第2実施形態による制振装置の側面図である。
図18】第2実施形態による制振装置の平面図である。
図19】第2実施形態による制振装置の分解図である。
図20】時刻歴応答解析の結果による荷重変形関係を示すグラフである。
図21】緩衝材として皿ばねを用いた制振装置の側面図である。
図22】緩衝材として皿ばねを用いた制振装置の圧縮力が作用している様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による制振装置について、図1図8に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による制振装置1は、建物11の柱12と梁18とに囲まれた架構13に設けられている。架構13には、シアリンクブレース14が設けられている。シアリンクブレース14は、V字形の耐震ブレースである。柱12とシアリンクブレース14との間には、制振装置1とは別にオイルダンパー19が設けられている。架構13に沿った水平方向をX方向と表記し、X方向に直交する水平方向をY方向と表記する。X方向およびY方向に直交する方向をZ方向と表記する。
制振装置1は、柱12(第1構造体)とシアリンクブレース14(第2構造体)との間に設けられる。制振装置1は、柱12とシアリンクブレース14とのX方向の相対変位を抑制する。
【0031】
図2に示すように、制振装置1は、ダンパー本体部2と、第1取付部3と、第2取付部4と、を有する。ダンパー本体部2は、直線状に延びる長尺に形成され、軸線方向がX方向となる向きで、柱12とシアリンクブレース14との間に配置される。ダンパー本体部2の軸線方向の一方側の端部を第1端部2aと表記し、他方側の端部を第2端部2bと表記する。第1端部2aがX方向の一方側に配置され、第2端部2bがX方向の他方側に配置される。第1取付部3は、ダンパー本体部2の第1端部2aを柱12に取り付ける。第2取付部4は、ダンパー本体部2の第2端部2bをシアリンクブレース14に取り付ける。
【0032】
制振装置1には、柱12とシアリンクブレース14とのX方向の互いに離れる方向(以下、引張方向と表記する)の相対変位量が所定量(以下、第1ギャップ量と表記する)を超えるとダンパー本体部2に引張力が作用するようにする第1ギャップと、柱12とシアリンクブレース14とのX方向の互いに近づく方向(以下、圧縮方向と表記する)の相対変位量が所定値(以下、第2ギャップ量と表記する)を超えると、圧縮力が作用するようにする第2ギャップと、が設けられている。柱12とシアリンクブレース14とのX方向の相対変位が第1ギャップ量、第2ギャップ量以下の場合は、ダンパー本体部2には引張力および圧縮力が作用しない。
【0033】
図2および図3に示すように、ダンパー本体部2は、芯材21と、鋼管22と、複数の押しボルト23と、を有する。
芯材21は、第1芯材24と、第2芯材25と、連結部材26と、を有する。
第1芯材24および第2芯材25は、テンションロッド、タイロッドなどと呼ばれる直線状に延びる丸棒状の鋼材である。第1芯材24と第2芯材25とは、連結部材26で同軸に連結されている。第1芯材24は、第2芯材25のX方向の一方側に配置されている。
【0034】
図3に示すように、第1芯材24の軸線方向の両端部には、中間部241よりも径が大きい拡径部242が形成されている。拡径部242は、例えば、アプセット加工などによって形成されている。拡径部242の外周面には、ネジ山が形成されている。第2芯材25は、第1芯材24のような拡径部が形成されておらず、第1芯材24の拡径部242と同等の径である。第2芯材25の両端部252には、ネジ山が形成されている。
連結部材26は、例えばカプラで、第1芯材24のX方向の他方側の端部の拡径部242と、第2芯材25のX方向の一方側の端部252とを連結している。第1芯材24のX方向の一方側の端部を、芯材21の第1端部21aと表記する。第2芯材25のX方向の他方側の端部252を、芯材21の第2端部21bと表記する。
【0035】
鋼管22は、円筒状であり、直線状に延びている。鋼管22には、芯材21が同軸に挿入されている。鋼管22は、芯材21よりも短く形成され、芯材21のうちの第1芯材24が挿入されている。鋼管22の内径dは、芯材21の拡径部242の直径φよりも大きく形成されている。鋼管22のX方向の一方側の端部を第1端部22aと表記する。鋼管22のX方向の他方側の端部を第2端部22bと表記する。
鋼管22の第1端部22aは、第1芯材24のX方向の一方側の拡径部242と重なっている。鋼管22の第2端部22bは、第1芯材24のX方向の他方側の拡径部242と重なっている。鋼管22のX方向の中間部221は、第1芯材24の中間部241と重なっている。鋼管22の内周面と、第1芯材24の外周面との間には、隙間が形成されている。
【0036】
鋼管22は、連結部材26のX方向の一方側に配置されている。連結部材26のX方向の一方側には、ガイド鋼管27が同軸に接合されている。ガイド鋼管27には、第1芯材24が貫通しているとともに、鋼管22のX方向の第2端部22bが挿入されている。ガイド鋼管27は、芯材21と鋼管22とを同軸に維持するために設けられている。
芯材21の第2端部21bは、鋼管22の第2端部22bよりもX方向の他方側に突出している。
【0037】
鋼管22の中間部221には、径方向に貫通する複数の孔部224が周方向および軸線方向それぞれに配列されている。複数の孔部224には、それぞれ鋼管22の外側から押しボルト23が挿入されている。複数の押しボルト23の先端部は、鋼管22の内周面から鋼管22の中心側に突出している。押しボルト23の先端部は、第1芯材24の外周面と接触せず、第1芯材24の外周面との間に隙間sが形成されている。この第1芯材24の外周面とは、第1芯材24の中間部241の外周面に相当する。隙間sの設定については後述する。
【0038】
図2に示すように、第1取付部3は、第1接合部31と、第1取付板部32と、ナット33と、を有する。第1接合部31は、第1取付板部32を柱12に接合する。第1接合部31は、断面形状がC字形やH形の鋼材である。第1接合部31は、柱12からX方向の他方側、すなわちシアリンクブレース14側に突出している。第1取付板部32は、第1接合部31の先端部に接合されている。第1取付板部32は、平板状に形成されている。第1取付板部32の板面は、X方向を向いている。第1取付板部32には、板面を貫通する孔部321が形成されている。
【0039】
第1取付板部32には、芯材21のX方向の一方側の第1端部21aが固定されている。芯材21の第1端部21aは、第1芯材24のX方向の一方側の拡径部242に相当する。芯材21の第1端部21aは、第1取付板部32の孔部321を貫通している。芯材21の第1端部21aは、第1取付板部32の両側に第1取付板部32を挟むように設けられたナット33が締結されている。
鋼管22は、ナット33よりもX方向の他方側に配置されている。ナット33の外径は、鋼管22の内径dよりも大きい。鋼管22の内部にナット33が入らないように設定されている。
【0040】
第2取付部4は、第2接合部41と、第2取付板部42(作用部材)と、引張接触部材43と、圧縮接触部材44と、を有する。第2接合部41は、第2取付板部42をシアリンクブレース14に接合する。第2接合部41は、断面形状がC字形やH形の鋼材である。第2接合部41は、シアリンクブレース14の外周面からX方向の一方側、すなわち柱12側に突出している。第2取付板部42は、第2接合部41の先端部に接合されている。第2取付板部42は、平板状に形成されている。第2取付板部42の板面は、X方向を向いている。第2取付板部42には、板面を貫通する孔部421が形成されている。
第2取付板部42は、第1取付板部32とX方向に間隔をあけて対向する位置に配置されている。
【0041】
第2取付板部42には、芯材21の第2端部21bがX方向に変位可能に取り付けられている。上述しているように、芯材21の第2端部21bは、第2芯材25のX方向の他方側の端部252に相当する。芯材21の第2端部21bは、第2取付板部42の孔部421を貫通している。第1芯材24と第2芯材25とを連結する連結部材47は、第2取付板部42のX方向の一方側に位置している。
【0042】
図2および図3に示すように、引張接触部材43および圧縮接触部材44は、第2芯材25の外周面に固定されている。引張接触部材43および圧縮接触部材44は、芯材21と相対変位が拘束されている。引張接触部材43および圧縮接触部材44は、それぞれ環状に形成され、芯材21の外周面から径方向の外側に突出している。
引張接触部材43は、第2取付板部42よりもX方向の他方側、すなわち芯材21の第1端部21a側に配置されている。圧縮接触部材44は、第2取付板部42よりもX方向の一方側、すなわち芯材21の第2端部21b側に配置されている。
【0043】
引張接触部材43は、第2芯材25に固定された鋼板431と鋼板431に取り付けられた緩衝材432と、を有する。鋼板431は、円板状に形成されている。鋼板431には、板面を貫通する孔部453が形成されている。鋼板431は、板面がX方向を向く姿勢で第2芯材25に固定されている。緩衝材432は、例えばゴムリングである。緩衝材432は、鋼板431のX方向の一方側を向く面に取り付けられている。緩衝材432は、第2取付板部42のX方向の他方側の面42bに対向して配置される。
【0044】
圧縮接触部材44は、引張接触部材43の鋼板431および緩衝材432と同様の構造でX方向に対称となる向きに配置された鋼板441および緩衝材442を有する。圧縮接触部材44の緩衝材442は、第2取付板部42のX方向の一方側の面42aに対向して配置される。
引張接触部材43および圧縮接触部材44の外径は、第2取付板部42の孔部421の内径よりも大きい。引張接触部材43および圧縮接触部材44は、第2取付板部42の孔部421を通り抜けできない。
【0045】
初期状態では、引張接触部材43と第2取付板部42とがX方向に所定間隔をあけ、圧縮接触部材44と第2取付板部42とがX方向に所定間隔をあけて設置される。初期状態における引張接触部材43と第2取付板部42との間隔D1は、第1ギャップに相当し、その寸法が第1ギャップ量に相当する。初期状態における圧縮接触部材44と第2取付板部42との間隔D2は、第2ギャップに相当し、その寸法が第2ギャップ量に相当する。第1ギャップ量と、第2ギャップ量とは、等しく設定されている。
【0046】
本実施形態のように、制振装置1を柱12とシアリンクブレース14との間に水平に設置する場合、第1ギャップ量および第2ギャップ量は、架構13が設けられる階の階高(層間寸法)の1/200以上1/80以下の範囲で設定することが好ましい。例えば、階高が4000mmであれば、ギャップ量を20mm以上50mm以下の範囲で設定する。
【0047】
図4に示すように、地震が生じ、柱12とシアリンクブレース14とが引張方向(X方向の互いに離れる方向)に相対変位すると、ダンパー本体部2に対してシアリンクブレース14に取り付けられている第2取付板部42がX方向の他方側に移動する。これにより、第2取付板部42がダンパー本体部2の引張接触部材43に向かって移動する。第2取付板部42と引張接触部材43との引張方向の相対変位量が第1ギャップ量を超えると、第2取付板部42が引張接触部材43と接触し、引張接触部材43をX方向の他方側に押す。これにより、引張接触部材43と接続された芯材21が引っ張られ、引張力に対して芯材21が作用する。
【0048】
図5に示すように、地震が生じ、柱12とシアリンクブレース14とが圧縮方向(X方向に互いに近づく方向)に相対変位すると、ダンパー本体部2に対してシアリンクブレース14に取り付けられている第2取付板部42がX方向の一方側に移動する。これにより、第2取付板部42がダンパー本体部2の圧縮接触部材44に向かって移動する。第2取付板部42と圧縮接触部材44との圧縮方向の相対変位量が第2ギャップ量を超えると、第2取付板部42が圧縮接触部材44と接触し、圧縮接触部材44をX方向の一方側に押す。これにより、圧縮接触部材44と接続された芯材21が圧縮され、圧縮力に対して芯材21が作用する。芯材21は、鋼管22に挿入されていることにより、座屈が拘束されている。このため、芯材21は、圧縮力に作用できる。芯材21が圧縮力に作用することによって第2取付板部42とダンパー本体部2との相対変位が抑制され、柱12とシアリンクブレース14との相対変位が抑制される。
このようにダンパー本体部2は、引張側および圧縮側のいずれに対しても振動を抑制できる。
【0049】
本実施形態では、鋼管22の弾性座屈耐力Pcrを芯材21の圧縮降伏荷重Fよりも大きく設定している(Pcr>F)。このようにすることによって、芯材21が圧縮降伏する前に、鋼管22が座屈してしまうことを回避できる。
鋼管22の弾性座屈耐力Pcrおよび芯材21の圧縮降伏荷重Fを、例えば、以下のように設定する。
芯材21は、φ42、NHT740材、鋼管22は、φ101.6×t20、L=1500mmとする。
【0050】
=σ×A=540×(42/2)×π/1000=748[kN]
cr=π(EI)/Lk=π×205000×{π/64(101.6-61.6)}/(1500)/1000=4068[kN]
【0051】
本実施形態による制振装置1の復元力特性について説明する。
本実施形態による制振装置1は、圧縮または引張を受けると、その加力によって生じた残留変形に応じてギャップ量が変化する。従来のような引張にしか作用しないギャップ付き鋼材ダンパーを相反する方向に作用するように対にして配置した場合は、図6のように加力され塑性変形する度にギャップ量が広がっていく。これに対し、図7に示すよう、本実施形態による制振装置1では、加力を受けた側と反対側のギャップ量が、初期位置よりも小さくなる(縮まる)ため、より早期から制振装置1が作用する。
なお、初期位置における引張側の第1ギャップ量と圧縮側の第2ギャップ量との和の関係は変わらない。
【0052】
上述しているように、押しボルト23の先端部は、芯材21の外周面(第1芯材24の中間部241の外周面)と接触せず、芯材21の外周面との間に隙間sが形成されている。
芯材21の外周面と鋼管22の内周面との隙間が大きいと芯材21が局部座屈を起こして、圧縮軸力が低下する。一方、芯材21の外周面と鋼管22の内周面とが隙間がなく密着していると、芯材21が圧縮軸力を受けて鋼材のポアソン比に応じ膨張した場合に芯材21と鋼管22との間に摩擦荷重が生じる。これにより、鋼管22に芯材21の軸力が作用するため、全体座屈しやすくなる。
このため、押しボルト23と芯材21との間に隙間がないと、押しボルト23と芯材21との間に摩擦荷重が生じ、摩擦荷重が生じない場合と比べて座屈しやすくなってしまうことから、押しボルト23と芯材21との間に隙間sを設けている。具体的な押しボルト23と芯材21との隙間sは、鋼材のポアソン比0.3を元に、縦ひずみを芯材21の材軸方向の最大歪みを5%とした場合の横歪みが1.5%(=0.05×0.3)とすると、芯材21の直径φの42mmの1.5%が0.63mmとなることから、これを上回るように1mmの隙間を設けるように設定した。
この隙間sは、例えば、下式に示すように、1mm以上、第1芯材24の中間部241の直径φと鋼管22の内径dとの差の1/2以下である。
1.0≦s≦(d-φ)/2
【0053】
本実施形態では、押しボルト23の配置は、芯材21の降伏軸力を座屈耐力が上回る高次の座屈モードで座屈するように等間隔で配置する。ただし、押しボルト23相互の間隔は等間隔とするが、鋼管22の端部と押しボルト23との間隔は規定していない。
ここで、図8に示すように、ダンパー本体部2の支持条件を一端ピン、他端ピンローラーと仮定したオイラー座屈を考えれば、押しボルト23の位置を節とした座屈モードが生じるとして、押しボルト23の箇所数nに応じ、下式で座屈耐力を算定できる。
cr,n=(n+1)πEI/L
≦Pcr,n 本実施形態では、左式を満足させる。
ここで、
は、芯材21の降伏軸力を表し、N=α・σ・Aである。
Aは、芯材21の断面積である。
σは、降伏点である。
αは、芯材21の耐力上昇率で、降伏点に応じて以下の表の通りとする。
【0054】
【表1】
【0055】
例として、
芯材21は、φ42、σ=540N/mm、Ls(芯材の長さ)=1620mm、
n(軸線方向に配列される押しボルトの数)=3、α=1.9の場合
Ny=α・σy・A=1.9×540×1385/1000=1421kN
cr,n=(n+1)πEI/L =4π×205000×152745/1620/1000=1884kN
≦Pcr,nを満足する。
【0056】
本実施形態による制振装置1の性能を確認するFEM解析および実大実験を行った。
図9に三次元FEM解析による制振装置の変形および応力コンター図を示す。FEM解析では、制振装置1のダンパー本体部2の第1端部2a側を固定し、加力プレート(第2取付部4の第2取付板部42)に強制変位を入力した。第2取付板部42における強制変位を入力する位置を強制変位入力位置と表記する。
座屈解析で得られた座屈形状の0.001倍を初期不整として考慮した。加力は、下図に示す強制変位入力位置においてX方向に±75mmの強制変位を1ループ与えた。支持条件は、左端の座金位置において固定、強制変位入力位置においてピン支持を設定した。座屈拘束鋼管(鋼管22)とテンションロッド(芯材21)との間、および、ナット(圧縮接触部材44)と加力プレートとの間には接触条件を設定した。幾何非線形と材料非線形を考慮した。材料非線形特性は材料試験に基づいたマルチリニアとした。ギャップ量を45mmとした。
図9に示す加力後の解析結果および図10に示すFEM解析の荷重変形関係のグラフから、座屈拘束鋼管によってテンションロッドの座屈が拘束されていることが確認できる。
【0057】
実大実験では、制振装置1単体の静的圧縮載荷時におけるテンションロッド(芯材21)の座屈拘束鋼管(鋼管22)による座屈拘束効果確認,および圧縮引張繰り返し載荷時の復元力特性の確認である。載荷試験は、制振装置1のダンパー本体部2の第1端部2a側を固定し、3軸加力振動台を加振機として用いて第2取付部4の第2取付板部42を加振した。
試験体は、下記表2に示すNо.1からNо.1の5ケースであり、座屈拘束鋼管のサイズ、加振サイクル,座屈拘束鋼管の内周面とテンションロッドの外周面における摺動材の有無、座屈拘束鋼管とテンションロッドとの隙間を保持する押しボルト23の有無および箇所数をパラメータにそれぞれ1体ずつ実施した。共通で、座屈拘束鋼管の材質はSTKM13Aとし、摺動材は摩擦係数約0.1のフッ素繊維織物を用いた。また,ギャップ量は20mmとし目標振幅(片振幅)はギャップ量を含め階高4200mmの層間変形角1/70に相当する60mmとした。なお、テンションロッドはφ42の引張強さ740N/mmの高張力鋼を用いた。ただし、本実験では引張接触部材43の緩衝材432は省略した。
【0058】
【表2】
【0059】
各加振ケースの圧縮時のX方向(ダンパー本体部2の軸線方向)の荷重変形関係を試験No.2と比較して図11に示す。図11は押しボルト有無の比較である(No.1、2)。押しボルトのないNo.1は明確な降伏荷重を示さず約700kNから緩やかに剛性低下するのに対し,固定側(第1端部2a側)から305mmピッチで3箇所に押しボルトを配置したNo.2は約830kNまで剛性低下せず座屈拘束効果の上昇が確認できる。図12はテンションロッドと座屈拘束鋼管の接触面における摺動材有無の比較である(No.2、3)。摺動材のないNo.3の荷重に対して、摺動材のあるNo.2は変形量が45mmを超えるあたりで荷重が低減されており、摩擦低減効果が確認できる。図13はギャップ側端部に押しボルトを1箇所追加して計4箇所としたNo.4との比較である(No.2、4)。降伏荷重や二次勾配はほぼ変わらず、端部の押しボルトの影響は小さい。なお、No.4は圧縮0.5サイクルだけを抜き出した。図14は座屈拘束鋼管の断面サイズの比較である。断面サイズの小さいNo.5は降伏後の荷重上昇が大きい。これは降伏後に圧縮変形クリアランスでNo.2よりも大きな曲げ変形が見られたことから,座屈拘束鋼管との摩擦力が大きくなったためと推察する。一方、降伏荷重はほぼ一致していることから、φ101.6×20とφ89.1×15とで座屈拘束効果に差はないと判断する。
【0060】
図15に試験No.4の引張加振を含む1.5サイクルの荷重変形関係を示す。初期のギャップ量は圧縮と引張それぞれ±20mmに設定しているが,圧縮側に約+60mm加振した後の引張側加振では約+10mmから荷重が立ち上がる。これは塑性変形により内側ナット位置が初期位置から約+30mm移動したためであり,引張側に塑性変形した後の圧縮時も圧縮と引張を合わせたギャップ量40mmの関係は変わらず立ち上がり開始点が移動している。なお,圧縮から引張に転じる際は,座屈に伴う曲げ変形の残留の影響で明確な降伏点を示さず荷重は緩やかに増加する。
図16に加振後の加振ケースNo.2のテンションロッドの座屈状況を示す。想定した高次の座屈波形が生じており,押しボルトを設置した試験体ではいずれも押しボルト位置を節とする座屈モードが見られた。
【0061】
次に、本実施形態による制振装置の作用・効果について説明する。
本実施形態による制振装置1では、芯材21が座屈を拘束する鋼管22に挿入されているため、芯材21が引張力のみでなく圧縮力に対しても作用する。制振装置1は、引張方向の第1ギャップ量および圧縮方向の第2ギャップ量の相対変位を許容するギャップを有するため、引張方向および圧縮方向のいずれの方向の振動に対しても、ギャップ量を超えた場合に作用する構成にすることができる。これにより、制振装置1は、第1ギャップ量および第2ギャップ量を調整することによって、中小地震に対しては作用せず、極大地震に対して作用する構成にすることができる。
制振装置1は、1台で引張方向および圧縮方向の両方向の変位に対して作用するため、引張力のみに作用する制振装置を圧縮方向および引張方向それぞれに対して設置する場合と比べて、設置台数を半分にできる。このため、制振装置1の設置スペースを縮小できるとともに、設置や管理にかかるコストを削減できる。
ギャップがシアリンクブレース14に取り付けられた第2取付部4に設けられていることにより、ギャップ量を超える変形が生じた場合に、第2取付部4から芯材21に直接荷重が伝達する形態にできるため、制振装置1を簡便な構造、かつ納まりをコンパクトにできる。
【0062】
第2取付部4は、シアリンクブレース14に固定される第2取付板部42と、芯材21に固定され、第2取付板部42よりも芯材21の第2端部側に第1ギャップ量の間隔をあけて配置される引張接触部材43と、芯材21に固定され、第2取付板部42よりも芯材21の第1端部側に第2ギャップ量の間隔をあけて配置される圧縮接触部材44と、を有する構成である。
このような構成とすることにより、制振装置1を簡便な構造で、ギャップ量を超える変形が生じた場合に、第2取付板部42から芯材21に直接荷重が伝達する形態にできる。
引張力のみに作用する制振装置において、所定量の相対変位を許容するギャップが設けられている場合、芯材が引張降伏して塑性変形すると残留変形が生じ、繰り返し作用した状況に応じてギャップ量が徐々に大きくなり、エネルギー吸収性能が低下する虞がある。本実施形態による制振装置1では、引張方向のギャップと圧縮方向のギャップとが第2取付板部42の両側に配置されているため、荷重を受けた側ギャップ量が大きくなっても、大きくなった分その反対側のギャップ量が小さくなるため、全体のギャップ量は変わらず、エネルギー吸収性能を一定に維持できる。
【0063】
本実施形態では、引張接触部材43における第2取付板部42と接触する面、および圧縮接触部材44における第2取付板部42と接触する面には、緩衝材432,442が設けられている。
このような構成とすることにより、第2取付板部42が引張接触部材43と接触した際の衝撃力および第2取付板部42が圧縮接触部材44と接触した際の衝撃力を和らげることができるため、これらの衝撃力が柱12やシアリンクブレース14に伝達することを防止できる。
【0064】
本実施形態では、第1ギャップ量と前記第2ギャップ量とは、等しく設定されている。
このような構成とすることにより、引張側と圧縮側とで同様に振動を抑制できる。
【0065】
本実施形態では、第1ギャップ量および第2ギャップ量は、層間の1/200以上1/80以下に設定されている。
このような構成とすることにより、制振装置1を中小地震に対しては作用せず、極大地震に対して作用させることができる。
【0066】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、説明する。上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
図17に示すように、第2実施形態による制振装置1Bは、免震構造物の免震層15に設置されている。制振装置1Bは、免震層15の上方の上部構造体16(第1構造体)および免震層15の下方の下部構造体17(第2構造体)それぞれにピン接合されている。
図17から図19に示すように、ダンパー本体部2Bの第1端部2aを上部構造体16に取り付ける第1取付部3Bは、クレビス34を有し、ダンパー本体部2を上下方向に延びる鉛直軸線回りに回転可能に上部構造体16に取り付けている。
【0067】
ダンパー本体部2Bの第2端部2bを下部構造体17に取り付ける第2取付部4Bは、トラニオン35を有し、ダンパー本体部2を上下方向に延びる鉛直軸線回りに回転可能に下部構造体17に取り付けている。トラニオン35には、芯材21の第2芯材25が軸線方向に移動可能に貫通している。引張接触部材43は、トラニオン35よりも芯材21の第2端部21b側において第2芯材25に取り付けられている。圧縮接触部材44は、トラニオン35の芯材21の第1端部21a側において第2芯材25に取り付けられている。
【0068】
初期状態では、引張接触部材43とトラニオン35との間には、第1ギャップが設けられている。芯材21とトラニオン35とが軸線方向に相対変位して引張接触部材43とトラニオン35とが接触し、引張接触部材43がトラニオン35に引張方向(芯材21の第2端部21bに向かう方向)に押されると、芯材21に引張力が作用する。
初期状態では、圧縮接触部材44とトラニオン35との間には、第2ギャップが設けられている。芯材21とトラニオン35とが軸線方向に相対変位して圧縮接触部材44とトラニオン35とが接触し、圧縮接触部材44がトラニオン35に圧縮方向(芯材21の第1端部21aに向かう方向)に押されると、芯材21に圧縮力が作用する。トラニオン35は、特許請求の範囲の作用部材に相当する。
制振装置1Bは、免震層15に、単独または、オイルダンパーと並列に設けられている。
【0069】
上記の第2実施形態による制振装置では、免震構造物においても第1実施形態による制振装置1と同様の効果を奏する。制振装置1Bは、第1ギャップ量および第2ギャップ量を調整することによって、免震層15が過大変形した場合にその変形を抑制するフェールセーフとして使用できる。
【0070】
第2実施形態による免震用の制振装置1Bの応答解析結果の例を図20に示す。
解析では、制振装置1Bを免震層にオイルダンパーおよび高減衰ゴム支承と並列で配置している。入力地震動は、告示神戸NS Lv2の2.5倍の地震動である。図20には、比較対象として、引張力のみを負担する制振装置をX方向の両方向に対して作用するように設置した従来のケースの応答解析結果も示す。
本実施形態による制振装置1Bは、圧縮または引張を受けると、その加力によって生じた残留変形に応じてギャップ量が変化する。従来のような引張にしか作用しないギャップ付き鋼材ダンパーを相反する方向に作用するように対で配置した場合は、上述しているように加力され塑性変形する度にギャップ量が広がっていく。これに対し、本実施形態による制振装置1Bでは、加力を受けたのと反対のギャップ量が、初期位置よりも縮まることで、変形量の少ないより早期から作用していることがわかる。
【0071】
以上、本発明による制振装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、ギャップを有する第2取付部4がダンパー本体部2をシアリンクブレース14に取り付け、ギャップの無い第1取付部3がダンパー本体部2を柱12に取り付けている。これに対し、ギャップを有する第2取付部4がダンパー本体部2を柱12に取り付け、ギャップの無い第1取付部3がダンパー本体部2をシアリンクブレース14に取り付けるようにしてもよい。
上記の第1実施形態では、制振装置1が柱12とシアリンクブレース14との間に設けられ、第2実施形態では、制振装置1Bが免震層15の上方の上部構造体16と下部構造体17との間に設けられている。制振装置1,1Bは、柱12とシアリンクブレース14との間、上部構造体16と下部構造体17との間以外の第1構造体と第2構造体との間に設けられていてもよい。
上記の第1実施形態では、柱12とシアリンクブレース14との間には、制振装置1とは別にオイルダンパー19が設けられているが、オイルダンパー19が設けられていなくてもよい。
【0072】
上記の実施形態では、引張接触部材43および圧縮接触部材44には、緩衝材432,442が設けられているが、設けられていなくてもよい。引張接触部材43および圧縮接触部材44に代わって、第2取付板部42(作用部材)の引張接触部材43と接触する面、および圧縮接触部材44と接触する面に緩衝材が設けられていてもよい。
また、上記の実施形態では、緩衝材432,442は、ゴムリングであるが、皿ばね等の弾性部材であってもよい。
【0073】
図21には、第2取付部4Cの緩衝材432C,442Cに皿ばね481を採用し、第2取付板部42(作用部材)に取り付けられている制振装置1Cを示す。皿ばね481は、皿ばねハウジング482によって第2取付板部42の両面42a,42bに取り付けられている。芯材21における第2取付板部42よりも第2端部21b側に位置するナット281が引張接触部材に相当する。芯材21における第2取付板部42よりも第1端部21a側に位置するナット282が圧縮接触部材に相当する。図22には、芯材21に圧縮力が作用している様子を示す。
【0074】
上記の実施形態では、第2取付部4は、シアリンクブレース14に固定される第2取付板部42と、芯材21に固定される引張接触部材43と、芯材21に固定される圧縮接触部材44と、を有する構成である。これに対し、第2取付部4の構成は、上記以外であってもよい。
【0075】
上記の実施形態では、芯材21の外周面と鋼管22の内周面との接触を防止する接触防止部材として、鋼管22の複数の孔部224に押しボルト23が挿し込まれている。接触防止部材は、押しボルト23以外の部材によって構成されていてもよい。押しボルト23の先端部と芯材21の外周面との間隔は、適宜設定されてよい。
【0076】
2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。
本実施形態に係る制振装置は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「11.住み続けられるまちづくりを」の目標などの達成に貢献し得る。
【符号の説明】
【0077】
1,1B 制振装置
2 ダンパー本体部
2a 第1端部
2b 第2端部
3,3B 第1取付部
4,4B 第2取付部
11 建物
12 柱(第1構造体)
13 架構
14 シアリンクブレース(第2構造体)
15 免震層
16 上部構造体(第1構造体)
17 下部構造体(第2構造体)
21 芯材
21a 第1端部
21b 第2端部
22 鋼管
22a 第1端部
22b 第2端部
23 押しボルト
27 ガイド鋼管
35 トラニオン(作用部材)
42 第2取付板部(作用部材)
43 引張接触部材
44 圧縮接触部材
432,442 緩衝材
D1 間隔(第1ギャップ)
D2 間隔(第2ギャップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22