(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172947
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両用座席
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20241205BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091027
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】江村 陽平
(72)【発明者】
【氏名】福井 清香
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】茅野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 泰希
(72)【発明者】
【氏名】牧野 貴駿
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 智史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利一
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊男
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CD03
3B087DB02
3B087DB04
3B087DE01
(57)【要約】
【課題】高い乗員保護性能が発揮される車両用座席を提供する。
【解決手段】座席20は、乗員の着座方向に並ぶ態様で車両に設けられる。座席20は、乗員が着座する座部と、座部に設けられた背もたれ部23とを有する。座席20は、背もたれ部23の幅方向に延在する板状をなすパネル部材40を有する。パネル部材40は、背もたれ部23の骨格を構成するフレーム部材30の上部と同フレーム部材30の下部との間に架設される。パネル部材40は、フレーム部材30の上部と同フレーム部材30の下部との間で、背もたれ部23の後方に向けて膨らむように突出して延びる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の着座方向に並ぶ態様で車両に設けられる車両用座席であって、
前記乗員が着座する座部と、
前記座部に設けられた背もたれ部と、
前記背もたれ部の幅方向に延在する板状をなすとともに、前記背もたれ部の骨格を構成するフレーム部材の上部と同フレーム部材の下部との間に、前記背もたれ部の後方に向けて膨らむように突出して延びる態様で架設されるパネル部材と、を備える車両用座席。
【請求項2】
前記パネル部材は、上側の部分を構成する上パネルと下側の部分を構成する下パネルとを有するとともに、前記上パネルの下部と前記下パネルの上部とが前記着座方向において重ね合わされた状態で接合された構造をなしており、
前記パネル部材において前記重ね合わされた状態で接合された部分である接合部分は、前記車両の衝突時における前記乗員の頭部の移動軌跡上に配置されている、
請求項1に記載の車両用座席。
【請求項3】
前記パネル部材は、前記接合部分とは異なる部分に設けられた貫通孔を有する、
請求項2に記載の車両用座席。
【請求項4】
前記フレーム部材は、前記幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイドフレームを有してなるとともに、金属線によって構成されたワイヤー部材が前記一対のサイドフレームの間に蛇行形状で延びる態様で架設されてなり、
前記パネル部材の上部および下部の少なくとも一方は、前記ワイヤー部材に固定されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用座席。
【請求項5】
前記フレーム部材は、前記幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイドフレームと、前記一対のサイドフレームを連結する態様で前記幅方向に延びる連結フレームと、を有してなるとともに、金属線によって構成されたワイヤー部材が前記一対のサイドフレームの間に蛇行形状で延びる態様で架設されてなり、
前記パネル部材の下部は、前記ワイヤー部材に固定されており、
前記パネル部材の上部は、前記連結フレームに固定されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用座席に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、運転者が着座する運転席など、乗員が着座する座席が設けられている。また、車両に対して、同車両の前後方向に並ぶ態様で、複数の座席を設けることが多用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記車両では、前面衝突時において、後側の座席に着座している乗員が、前側の座席の背もたれ部に衝突するおそれがある。この場合、乗員保護の観点から、後側の座席に着座している乗員に加わる衝撃をうまく吸収することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための装置の各態様を記載する。
[態様1]乗員の着座方向に並ぶ態様で車両に設けられる車両用座席であって、前記乗員が着座する座部と、前記座部に設けられた背もたれ部と、前記背もたれ部の幅方向に延在する板状をなすとともに、前記背もたれ部の骨格を構成するフレーム部材の上部と同フレーム部材の下部との間に、前記背もたれ部の後方に向けて膨らむように突出して延びる態様で架設されるパネル部材と、を備える車両用座席。
【0006】
上記構成では、車両の衝突時において、着座方向後側の座席(以下、後側座席)に着座している乗員(詳しくは、その頭部)が、着座方向前側の座席(以下、前側座席)の背もたれ部の後面に衝突するおそれがある。
【0007】
この点、上記構成では、パネル部材が、後方に向けて膨らむように突出して延びる態様でフレーム部材に設けられている。そのため、車両衝突に際して、後側座席に着座している乗員の頭部が前側座席の背もたれ部の後面に衝突するときには、乗員の頭部をパネル部材に衝突させることが可能になる。そして、このときには、パネル部材を前側に変形させることで、乗員の衝突に伴うエネルギーを吸収しながら、同パネル部材によって乗員を受け止めることができる。これにより、フレーム部材などの高い剛性を有する部材に乗員がぶつかることを抑えることができる。上記構成によれば、このようにして高い乗員保護性能が発揮されるようになる。
【0008】
[態様2]前記パネル部材は、上側の部分を構成する上パネルと下側の部分を構成する下パネルとを有するとともに、前記上パネルの下部と前記下パネルの上部とが前記着座方向において重ね合わされた状態で接合された構造をなしており、前記パネル部材において前記重ね合わされた状態で接合された部分である接合部分は、前記車両の衝突時における前記乗員の頭部の移動軌跡上に配置されている、[態様1]に記載の車両用座席。
【0009】
上記構成によれば、車両衝突時において乗員の頭部がパネル部材に衝突するときには、パネル部材の接合部分、言い換えれば適度に高い剛性を有する部分によって乗員の頭部を受け止めることができる。これにより、パネル部材における乗員の頭部が衝突する部分およびその周辺部分の変形を適度に抑えることができるため、乗員の頭部の移動量を抑えることができる。しかも、このときパネル部材における接合部分とは異なる部分、言い換えれば上パネルまたは下パネルのみによって構成されるために比較的剛性が低い部分については、比較的大きい変形が許容されるようになる。したがって、上記構成によれば、パネル部材の接合部分の変形が抑えられるとはいえ、接合部分とは異なる部分の比較的大きい変形を通じて、乗員の衝突に伴うエネルギーを吸収する機能を得ることができる。
【0010】
[態様3]前記パネル部材は、前記接合部分とは異なる部分に設けられた貫通孔を有する、[態様2]に記載の車両用座席。
上記構成によれば、パネル部材における接合部分とは異なる部分(以下、異部分)に貫通孔を設けるといった簡素な構造で、異部分の剛性を低くすることができるため、異部分をより大きく変形させることができる。
【0011】
[態様4]前記フレーム部材は、前記幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイドフレームを有してなるとともに、金属線によって構成されたワイヤー部材が前記一対のサイドフレームの間に蛇行形状で延びる態様で架設されてなり、前記パネル部材の上部および下部の少なくとも一方は、前記ワイヤー部材に固定されている、[態様1]~[態様3]のいずれか一つに記載の車両用座席。
【0012】
上記構成によれば、パネル部材の非変形時においては、同パネル部材を、ワイヤー部材を介してサイドフレームにしっかりと支持させることができる。また、このようにしてパネル部材がワイヤー部材に支持されているとはいえ、パネル部材の変形時においては、蛇行の度合いが小さくなるようにワイヤー部材を変形させることで、パネル部材を大きく変形させることが可能になる。このように上記構成によれば、蛇行形状のワイヤー部材を設けることにより、パネル部材の非変形時において同パネル部材をしっかりと支持する機能と、パネル部材の変形時において同パネル部材を大きく変形させる機能とを実現することができる。
【0013】
[態様5]前記フレーム部材は、前記幅方向に間隔を置いて配置されて上下方向に延びる一対のサイドフレームと、前記一対のサイドフレームを連結する態様で前記幅方向に延びる連結フレームと、を有してなるとともに、金属線によって構成されたワイヤー部材が前記一対のサイドフレームの間に蛇行形状で延びる態様で架設されてなり、前記パネル部材の下部は、前記ワイヤー部材に固定されており、前記パネル部材の上部は、前記連結フレームに固定されている、[態様1]~[態様3]のいずれか一つに記載の車両用座席。
【0014】
車両衝突時における乗員の頭部の移動量を小さくするためには、パネル部材に乗員の頭部が衝突する衝突期間の初期において、同パネル部材の変形が適度に抑えられることが好ましい。通常、車両の衝突時において車両用座席に着座している乗員の頭部は、前方且つ斜め下方に移動する。このことから、衝突期間の初期において乗員の頭部はパネル部材の上部に衝突すると云える。したがって、車両衝突時における乗員の頭部の移動量を小さくするためには、パネル部材の上部が適度に変形し難いことが好ましい。
【0015】
一方、衝突期間の全体にわたってパネル部材の変形が抑えられると、乗員の衝突に伴うエネルギーをうまく吸収できなくなるおそれがある。このことから、衝突期間の後期においては、パネル部材が比較的変形し易くなることが好ましい。衝突期間の後期においては、パネル部材の変形が同パネル部材の下部にまで進む。このことから、乗員の衝突に伴うエネルギーを適正に吸収するためには、そうしたパネル部材の下部は、比較的変形し易いことが好ましい。
【0016】
この点、上記構成によれば、パネル部材の上部は高い剛性を有するフレーム部材の連結フレームに固定および支持されているため、同パネル部材の上部を適度に変形し難くすることができる。これにより、車両衝突時における乗員の頭部の移動量を抑えることができる。しかも、パネル部材の下部は蛇行形状のワイヤー部材に固定されているため、同パネル部材の下部を比較的変形し易くすることができる。これにより、パネル部材を大きく変形させることが可能になるため、乗員の衝突に伴うエネルギーを適正に吸収することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い乗員保護性能が発揮されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態の車両用座席の配置態様を示す略図である。
【
図2】同車両用座席の背もたれ部の内部構造を示す背面図である。
【
図3】同車両用座席の背もたれ部の内部構造を示す斜視図である。
【
図4】非変形時におけるパネル部材およびその周辺の構造を示す略図である。
【
図5】変形時におけるパネル部材およびその周辺の構造を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、車両用座席の一実施形態について説明する。
以降において、車両の前後方向を前後方向Lとし、車両の幅方向を車幅方向Wとし、車両の上下方向を上下方向Hとして説明する。また、前後方向Lにおける前側および後側をそれぞれ単に「前側」および「後側」とし、車幅方向Wにおける右側および左側をそれぞれ単に「右側」および「左側」とし、上下方向Hにおける上側および下側をそれぞれ単に「上側」および「下側」として説明する。
【0020】
<車両>
図1に示すように、車両10には、複数の座席20が設けられる。複数の座席20は、前後方向Lにおいて一列に並ぶように配置される。
図1には、複数の座席20のうちの2つのみを示している。複数の座席20は、同一の構造をなす。本実施形態では、前後方向Lと各座席20の着座方向とが一致している。詳しくは、乗員Mが車両10の前方を向いた状態で着座するように、各座席20は配置される。複数の座席20の各々は、シートベルト装置21を有する。
【0021】
<座席>
座席20は、座部22と背もたれ部23とを有する。
座部22は、乗員Mが着座する部分を構成する。座部22は、骨格をなすフレーム部材(図示略)を有している。座部22のフレーム部材は車両10のフロア11に固定されている。これにより、座部22は車両10のフロア11に固定されている。本実施形態では、座部22のフレーム部材は、座部22の内部に設けられている。詳しくは、座部22のフレーム部材は、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッドや、同シートパッドを被覆する表皮等によって覆われた状態になっている。
【0022】
<背もたれ部>
図1~
図3に示すように、背もたれ部23は、座席20に着座した乗員Mの背中を支持する部分を構成する。本実施形態では、背もたれ部23の幅方向と車幅方向Wとが一致している。
【0023】
図2および
図3に示すように、背もたれ部23は、骨格をなすフレーム部材30を有している。フレーム部材30は、金属管や金属板などの金属材料からなる部材によって一体に構成されている。フレーム部材30は、一対のサイドフレーム31R,31L、連結フレーム32、および補強部材34を有している。一対のサイドフレーム31R,31Lは、上下方向Hに延びる態様で、車幅方向Wに間隔を置いて配置される。右側のサイドフレーム31Rには、上記シートベルト装置21の取り付けのためのブラケット33が一体に設けられる。連結フレーム32は、右側のサイドフレーム31Rの上端と左側のサイドフレーム31Lの上端とを一体に連結する態様で、車幅方向Wに延びる。補強部材34は、金属板によって構成される。補強部材34の一端は、右側のサイドフレーム31Rの下部、詳しくは右側のサイドフレーム31Rの上下方向Hにおける中間位置に溶接固定される。補強部材34の他端は、左側のサイドフレーム31Lの下部、詳しくは左側のサイドフレーム31Lの上下方向Hにおける中間位置に溶接固定される。このようにして補強部材34は、右側のサイドフレーム31Rの下部と左側のサイドフレーム31Lの下部とを一体に連結する態様で、それらサイドフレーム31R,31Lの間に架設されている。
【0024】
本実施形態では、背もたれ部23のフレーム部材30の下部が、座部22のフレーム部材の後部に取り付けられて支持されている。これにより、背もたれ部23は座部22に設けられている。
【0025】
本実施形態の座席20には、車両10の衝突時における乗員保護を目的に、パネル部材40およびワイヤー部材50が設けられる。
以下、これらパネル部材40およびワイヤー部材50について詳しく説明する。
【0026】
パネル部材40およびワイヤー部材50は、背もたれ部23のフレーム部材30に設けられる。なお本実施形態では、フレーム部材30、パネル部材40、およびワイヤー部材50は、背もたれ部23の内部に設けられている。詳しくは、フレーム部材30、パネル部材40、およびワイヤー部材50は、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッドや、同シートパッドを被覆する表皮等によって覆われた状態になっている。
【0027】
<パネル部材>
パネル部材40は、上側の部分を構成する上パネル41と下側の部分を構成する下パネル43とを有している。
【0028】
上パネル41は、金属板によって構成される。上パネル41の上部41Uは、前後方向Lおよび車幅方向Wに延在する略平板形状をなす。上パネル41の上部41Uには、延在方向における中央に、断面矩形状をなす貫通孔44が設けられている。なお本実施形態では、上パネル41の上部41Uが、前記接合部分とは異なる部分に相当する。上パネル41の下部41Bは、上下方向Hおよび車幅方向Wに延在する略平板形状をなす。上パネル41の下部41Bは、上部41Uの後側の端部から下側に向けて突出する態様で延びる。上パネル41の上部41Uおよび下部41Bは、鈍角をなす態様で延在する。
【0029】
下パネル43は、金属板によって構成される。
下パネル43の上部43Uは、上下方向Hおよび車幅方向Wに延在する略平板形状をなす。下パネル43の上部43Uは、上パネル41の下部41Bに、前後方向Lに重ね合わされた状態で溶接固定されている。
図1中の線LHは、標準的な体型の乗員Mがシートベルトを装着した正しい姿勢で座席20に着座している状況で、車両10が前面衝突した場合において、乗員Mの頭部が移動する移動軌跡を示している。
図1~
図3から明らかなように、上パネル41の下部41Bと下パネル43の上部43Uとが重ね合わされた状態で接合された部分である接合部分45は、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動軌跡(
図1中の線LH参照)上に配置される。
【0030】
下パネル43における上下方向Hの中間部分43Mは、車幅方向Wに延在する略平板形状をなす。下パネル43の中間部分43Mは、上部43Uの下端を始点に、前方且つ斜め下方に向けて突出する態様で延びる。下パネル43の上部43Uおよび中間部分43Mは、鈍角をなす態様で延在する。
【0031】
下パネル43の下部43Bは、車幅方向Wおよび上下方向Hに延在する板状をなす。下パネル43の下部43Bは、中間部分43Mの下端を始点に、下方に向けて突出する態様で延びる。下部43Bの下端部分は、下側が開口するコの字状をなす態様で延在する。
【0032】
<ワイヤー部材>
ワイヤー部材50は、金属線によって構成されている。ワイヤー部材50は、一対のサイドフレーム31R,31Lの間に架設される。具体的には、ワイヤー部材50の一端は、右側のサイドフレーム31Rの上下方向Hにおける中間位置に溶接固定されている。ワイヤー部材50の他端は、左側のサイドフレーム31Lの上下方向Hにおける中間位置に溶接固定されている。本実施形態では、ワイヤー部材50は、前記補強部材34よりも上側に設けられる。また、ワイヤー部材50は、一対のサイドフレーム31R,31Lの間において、蛇行形状で延びている。具体的には、ワイヤー部材50は、略直角に曲げられた形状をなす曲げ部51を複数有している。
【0033】
本実施形態では、パネル部材40は、フレーム部材30の上部と同フレーム部材30の下部との間に架設される。詳しくは、パネル部材40の上側の部分を構成する上パネル41の上部41Uは、フレーム部材30の上部を構成する連結フレーム32に溶接固定される。また、パネル部材40の下側の部分を構成する下パネル43の下部43Bは、ワイヤー部材50に溶接固定されている。これにより、パネル部材40の下部は、ワイヤー部材50を介して、フレーム部材30の下部、詳しくはサイドフレーム31R,31Lの上下方向Hにおける中間位置に固定される。本実施形態では、このようにしてパネル部材40がフレーム部材30に固定されることで、パネル部材40は、フレーム部材30の上部と下部との間で、後方に向けて膨らむように突出して延びる形状をなす。
【0034】
<作用>
以下、車両10の前面衝突時における本実施形態の座席20の作用を説明する。
車両10の前面衝突時において、シートベルトを着用した状態で座席20に着座している乗員Mの頭部は、
図1中に矢印Aで示すように、前方且つ斜め下方に移動する。このとき後側の座席20に着座している乗員Mの頭部は、前側の座席20の背もたれ部23の後面に衝突する。
【0035】
本実施形態では、
図4に示すように、車幅方向Wに延在する板状をなすパネル部材40が、後方に向けて膨らむように突出して延びる態様で、背もたれ部23のフレーム部材30に設けられている。パネル部材40の接合部分45は、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動軌跡(
図4中の線LH参照)上に配置されている。そのため、車両10の前面衝突時に際して乗員Mの頭部が前側の座席20の背もたれ部23にぶつかるときには、同乗員Mの頭部は、背もたれ部23を構成するシートパッドや表皮を介して同背もたれ部23の内部のパネル部材40の接合部分45に衝突する。
図5に示すように、その後においてパネル部材40は、乗員Mの頭部による荷重を受けることで、前側に向けて曲がるように変形するようになる。なお
図5においては、変形後のパネル部材40を実線で示すとともに、変形前のパネル部材40を一点鎖線で示している。
【0036】
図3~
図5に示すように、本実施形態では、パネル部材40の下部41Bはワイヤー部材50に固定されている。そのため、乗員Mの頭部による荷重を受けてパネル部材40が前側に変形するときには、同パネル部材40によってワイヤー部材50が前側に押圧されるようになる。このときワイヤー部材50は、蛇行の度合いが小さくなる態様で、具体的には各曲げ部51の曲げ度合いが小さくなる態様で前側に変形する。本実施形態では、このようにして、ワイヤー部材50とパネル部材40の下部41Bとの固定部分を前側に移動させつつ、パネル部材40が前側に変形するようになる。
【0037】
本実施形態によれば、このようにして、車両10の前面衝突時にパネル部材40が前側に変形することで、乗員Mの頭部の衝突に伴うエネルギーを吸収しながら、同パネル部材40によって乗員Mの頭部を受け止めることができる。これにより、乗員Mの頭部の移動量を小さくすることができるため、乗員Mの頭部がフレーム部材30の下部まで移動することが抑えられる。そのため、フレーム部材30の下部に設けられる補強部材34に乗員Mの頭部がぶつかることを抑えることができる。本実施形態の座席20によれば、このようにして高い乗員保護性能が発揮されるようになる。
【0038】
ここで、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動量を小さくするためには、パネル部材40に乗員Mの頭部が衝突する衝突期間の初期において、同パネル部材40の変形が適度に抑えられることが好ましい。このようにすることで、衝突期間の初期において、乗員Mの頭部による荷重をパネル部材40によって適度に受け止めることができるため、乗員Mの頭部の衝突に伴うエネルギーをある程度吸収することができる。これにより、乗員Mの頭部の移動量を抑えることが可能になる。
【0039】
この点、本実施形態では、パネル部材40の接合部分45が車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動軌跡上に配置される。そのため、車両10の前面衝突に際しては先ず、乗員Mの頭部はパネル部材40の接合部分45に衝突するようになる。そして、パネル部材40の接合部分45は、重ね合わされた2枚のパネル41,43によって構成されるため、パネル部材40における接合部分45とは異なる部分、詳しくは2枚のパネル41,43のうちの一方によって構成される部分と比較して剛性が高くなる。
【0040】
本実施形態によれば、車両10の前面衝突時において乗員Mの頭部がパネル部材40に衝突するときには、そうしたパネル部材40の接合部分45、言い換えれば適度に高い剛性を有する部分によって乗員Mの頭部が受け止められる。これにより、パネル部材40における乗員Mの頭部が衝突する部分およびその周辺部分の変形が適度に抑えられるため、乗員Mの頭部の移動量が抑えられるようになる。
【0041】
また前述したように、車両10の前面衝突時において、シートベルトを着用した状態で座席20に着座している乗員Mの頭部は、前方且つ斜め下方に移動する。このことから、衝突期間の初期において乗員Mの頭部はパネル部材40の上部に衝突すると云える。したがって、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動量を小さくするためには、パネル部材40の上部が適度に変形し難いことが好ましい。
【0042】
この点、本実施形態では、パネル部材40の上部を構成する上パネル41の上部41Uが、高剛性のフレーム部材30における連結フレーム32に直接固定されて支持されている。これにより、パネル部材40の上部は、比較的低い剛性のワイヤー部材50を介してフレーム部材30に固定されたパネル部材40の下部と比較して、適度に変形し難くなっている。このように、本実施形態によれば、衝突期間の初期において乗員Mの頭部が衝突する部分であるパネル部材40の上部が適度に変形し難くなっているため、乗員Mの頭部の移動量が抑えられる。
【0043】
パネル部材40の上部の剛性は適度に高いことが好ましいとはいえ、パネル部材40の上部の剛性を高くし過ぎると、同パネル部材40が十分に変形しなくなることで、乗員Mの衝突に伴うエネルギーを上手く吸収できなくなるおそれがある。本実施形態では、発明者等による各種の実験やシミュレーションの結果をもとに、パネル部材40の上部の剛性が適度に高くなるように、同パネル部材40の延設形状、上パネル41および下パネル43の形状、貫通孔44の形状が定められている。
【0044】
本実施形態では、パネル部材40において上パネル41のみによって構成された部分、すなわち上パネル41の上部41Uに貫通孔44が設けられている。貫通孔44を設けることにより、上パネル41の上部41Uの剛性が低くなっている。したがって、貫通孔44が設けられない場合と比較して、上パネル41の上部41Uは大きく変形するようになる。
【0045】
本実施形態によれば、上パネル41の上部41Uに貫通孔44を設けるといった簡素な構造で、上パネル41の上部41Uを大きく変形させることができる。したがって、パネル部材40の接合部分45の変形が抑えられるとはいえ、接合部分45とは異なる部分である上パネル41の上部41Uの比較的大きい変形を通じて、乗員Mの衝突に伴うエネルギーを吸収する機能を得ることができる。また本実施形態によれば、上パネル41の上部41Uに貫通孔44が設けられないものと比較して、上パネル41の上部41Uの剛性を高い自由度で設定することができる。
【0046】
衝突期間の全体にわたってパネル部材40の変形が抑えられると、パネル部材40を設けたところで、乗員Mの衝突に伴うエネルギーをうまく吸収できなくなるおそれがある。このことから、衝突期間の後期においては、パネル部材40が比較的変形し易くなることが好ましい。衝突期間の後期においては、パネル部材40の変形が同パネル部材40の下部にまで進む。このことから、パネル部材40を変形させることで乗員Mの衝突に伴うエネルギーを適正に吸収するためには、そうしたパネル部材40の下部は、比較的変形し易いことが好ましい。
【0047】
この点、本実施形態では、パネル部材40の下部、詳しくは接合部分45よりも下側の部分は、下パネル43のみによって構成される。これにより、パネル部材40の下部、詳しくは下パネル43の中間部分43Mおよび下部43Bは、高剛性の接合部分45を有するパネル部材40の上部よりも、変形し易くなっている。したがって本実施形態によれば、衝突期間の後期においても、パネル部材40を適度に変形させることが可能になるため、乗員Mの衝突に伴うエネルギーを好適に吸収することができる。
【0048】
また本実施形態では、パネル部材40の下部において、下パネル43の下部41Bがワイヤー部材50を介してフレーム部材30の下部に固定されている。そして、このワイヤー部材50は、一対のサイドフレーム31R,31Lの間で蛇行形状で延びている。本実施形態によれば、車両10が前面衝突していないパネル部材40の非変形時においては、同パネル部材40は、蛇行形状をなすワイヤー部材50を介してサイドフレーム31R,31Lにしっかりと支持される。しかも、車両10の前面衝突に際してパネル部材40が変形するときには、蛇行の度合いが小さくなるようにワイヤー部材50が変形することで、パネル部材40を前方に大きく変形させることが可能になる。このように本実施形態によれば、蛇行形状のワイヤー部材50を設けることにより、パネル部材40の非変形時においてパネル部材40をしっかりと支持する機能と、パネル部材40の変形時においてパネル部材40を大きく変形させる機能とが実現される。
【0049】
<効果>
本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)座席20は、車幅方向Wに延在する板状をなすパネル部材40を有する。パネル部材40は、フレーム部材30の上部と同フレーム部材30の下部との間に、背もたれ部23の後方に向けて膨らむように突出して延びる態様で架設される。
【0050】
本実施形態によれば、乗員Mの頭部がフレーム部材30の下部まで移動することを抑えることができるため、フレーム部材30の下部に設けられる補強部材34に乗員Mの頭部がぶつかることを抑えることができる。本実施形態によれば、このようにして高い乗員保護性能が発揮されるようになる。
【0051】
(2)パネル部材40の接合部分45は、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動軌跡上に配置されている。
本実施形態によれば、車両10の前面衝突時において乗員Mの頭部がパネル部材40に衝突するときには、パネル部材40の接合部分45、言い換えれば適度に高い剛性を有する部分によって乗員Mの頭部を受け止めることができる。これにより、パネル部材40における乗員Mの頭部が衝突する部分およびその周辺部分の変形を適度に抑えることができるため、乗員Mの頭部の移動量を抑えることができる。しかも、このときにはパネル部材40における接合部分45とは異なる部分、言い換えれば上パネル41または下パネル43のみによって構成されるために比較的剛性が低い部分については、比較的大きい変形が許容されるようになる。したがって、本実施形態によれば、パネル部材40の接合部分45の変形が抑えられるとはいえ、接合部分45とは異なる部分の比較的大きい変形を通じて、乗員Mの衝突に伴うエネルギーを吸収する機能を得ることができる。
【0052】
(3)パネル部材40は、上パネル41の上部41Uに設けられた貫通孔44を有する。本実施形態によれば、パネル部材40における接合部分45とは異なる部分である上パネル41の上部41Uに貫通孔を設けるといった簡素な構造で、上パネル41の上部41Uの剛性を低くすることができる。これにより、車両10の前面衝突時において、上パネル41の上部41Uをより大きく変形させることができる。
【0053】
(4)金属線によって構成されたワイヤー部材50は、一対のサイドフレーム31R,31Lの間に蛇行形状で延びる態様で架設されている。ワイヤー部材50に、パネル部材40の下部は固定されている。本実施形態によれば、蛇行形状のワイヤー部材50を設けることにより、パネル部材40の非変形時においてパネル部材40をしっかりと支持する機能と、パネル部材40の変形時においてパネル部材40を大きく変形させる機能とを実現することができる。
【0054】
(5)パネル部材40の上部は、高い剛性を有するフレーム部材30の連結フレーム32に固定および支持されている。これにより、衝突期間の初期において乗員Mの頭部が衝突する部分であるパネル部材40の上部を適度に変形し難くすることができるため、車両10の前面衝突時における乗員Mの頭部の移動量を抑えることができる。パネル部材40の下部は、蛇行形状のワイヤー部材50に固定されている。これにより、パネル部材40を前方に大きく変形させることが可能になるため、乗員Mの衝突に伴うエネルギーを適正に吸収することができる。
【0055】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0056】
・パネル部材40をベースパネルおよびサブパネルによって構成するとともに、ベースパネルにサブパネルを重ね合わせて接合することで、ベースパネルの一部とサブパネルの全体とからなる接合部分を構成するようにしてもよい。
【0057】
・パネル部材40としては、1枚の金属板によって形成されたものなど、2枚の金属板が重ね合わされた状態で接合された部分である接合部分を有していないものを採用することができる。パネル部材を1枚の金属板によって形成する場合には、同パネル部材における任意の部位に貫通孔を設けることで、パネル部材の各部に剛性の差を付けることができる。
【0058】
・上パネル41や下パネル43を、重ね合わされた複数枚の金属板によって構成するようにしてもよい。
・上パネル41の上部41Uに形成される貫通孔44の断面形状や同貫通孔44の形成数は、任意に変更することができる。要は、上パネル41の上部が適度に変形し易くなる態様で、貫通孔44の断面形状や形成数を定めればよい。上パネル41の上部が適度に変形し易くなるのであれば、貫通孔44を省略することも可能である。
【0059】
・下パネル43の中間部分43Mや下部43Bに、貫通孔を設けるようにしてもよい。同構成によれば、貫通孔を設けるといった簡素な構造で、パネル部材40における接合部分45とは異なる部分である下パネル43の中間部分43Mや下部43Bの剛性を低くすることができる。これにより、車両10の前面衝突時において、下パネル43の中間部分43Mや下部43Bをより大きく変形させることができる。
【0060】
・ワイヤー部材50として、一対のサイドフレーム31R,31Lの間で蛇行形状で延びるものを採用することに限らず、後側に突出するように湾曲して延びるものを採用したり、直線状に延びるものを採用したりすることができる。
【0061】
・パネル部材40の固定態様は任意に変更することができる。例えば、一対のサイドフレーム31R,31Lの間に架設されるワイヤー部材をフレーム部材30の上部に設けるとともに、このワイヤー部材に、パネル部材40の上部を固定することができる。その他、フレーム部材30の下部に一対のサイドフレーム31R,31Lを連結する態様で車幅方向Wに延びる連結フレームを設けるとともに、この連結フレームに、パネル部材40の下部を溶接固定すること等も可能である。
【0062】
・上パネル41の各部の形状や下パネル43の各部の形状は、平板形状にすることに限らず、一方に湾曲した湾曲形状にするなど、任意に変更することができる。要は、パネル部材40をフレーム部材30の上部と同フレーム部材30の下部との間に架設した場合に、同パネル部材40が背もたれ部23の後方に向けて膨らむように突出して延びる形状になればよい。
【0063】
・上記実施形態にかかる車両用座席は、着座方向と車幅方向Wとが一致する態様で同車幅方向Wにおいて一列に並ぶように配置される車両用座席など、乗員の着座方向に並ぶ態様で車両に設けられる車両用座席であれば適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10…車両
11…フロア
20…座席
21…シートベルト装置
22…座部
23…背もたれ部
30…フレーム部材
31R,31L…サイドフレーム
32…連結フレーム
33…ブラケット
34…補強部材
40…パネル部材
41…上パネル
41U…上部
41B…下部
43…下パネル
43U…上部
43M…中間部分
43B…下部
44…貫通孔
45…接合部分
50…ワイヤー部材
51…曲げ部