(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172956
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】シミュレーションシステム及びシミュレーションプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/04 20120101AFI20241205BHJP
G06Q 10/06 20230101ALI20241205BHJP
G16Z 99/00 20190101ALI20241205BHJP
【FI】
G06Q50/04
G06Q10/06
G16Z99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091040
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】門井 優文
(72)【発明者】
【氏名】松本 健介
(72)【発明者】
【氏名】徳田 茂史
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】ショウ アンビ
(72)【発明者】
【氏名】伴 拓実
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
(72)【発明者】
【氏名】宮原 謙太
(72)【発明者】
【氏名】山内 慎祐
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA09
5L049AA09
5L049CC04
5L049DD02
5L050CC04
5L050DD02
(57)【要約】
【課題】作業ラインにおいて行われる各種作業に利用される機械において発生するトラブルに応対可能な作業員を適切に配置しつつ、この配置によって作業ライン全体の作業効率が低下するのを抑える。
【解決手段】現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションと、前記現実空間の作業ラインにおいて行われる各種作業に携わる作業員を割り当てる人員配置処理と、が行われる。前記シミュレーションでは、前記デジタル空間の作業ラインにおける前記各種作業に利用される作業機械でのトラブルの発生と、前記トラブルの困難レベルと、が予測される。前記人員配置処理では、前記トラブルに応対可能な作業員が選定され、この作業員が、前記トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現実空間の作業ラインにおいて行われる各種作業に関するデータと、前記各種作業に利用される作業機械に関するデータと、前記現実空間の作業ラインにおいて行われる前記各種作業に携わる作業員に関するデータと、が格納された記憶装置と、
前記現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションと、前記現実空間の作業ラインにおける前記各種作業を担当する作業員を割り当てる人員配置処理と、を行うプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、前記シミュレーションにおいて、
前記各種作業に関するデータと、前記作業機械に関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ラインにおける前記各種作業に利用される作業機械でのトラブルの発生と、前記トラブルの困難レベルと、を予測し、
前記プロセッサは、前記人員配置処理において、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルと、前記作業員に関するデータと、に基づいて、前記トラブルに応対可能な作業員を選定し、
前記トラブルに応対可能な作業員として選定された作業員を、前記シミュレーションにおいて前記トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てる
ことを特徴とするシミュレーションシステム。
【請求項2】
前記プロセッサは、更に、
前記作業員に関するデータに基づいて、前記作業員のトラブルに応対する能力レベルを設定し、
前記プロセッサは、前記トラブルに応対可能な作業員の選定において、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルに見合う能力レベルを特定し、
前記設定された能力レベルが前記特定された能力レベル以上の作業員を、前記トラブルに応対可能な作業員の候補とし、
前記トラブルに応対可能な作業員の候補と、前記作業員に関するデータと、に基づいて、前記トラブルに応対可能な作業員を特定する
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーションシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記人員配置処理において、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルに基づいて、前記所定距離を可変に設定する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記人員配置処理において、
前記シミュレーションにおいて前記トラブルが発生すると予測された作業機械が少なくとも2つであり、かつ、前記少なくとも2つの作業機械において発生するそれぞれのトラブルに応対可能な1名の作業員を選定する場合は、前記少なくとも2つの作業機械からそれぞれ前記所定距離内で行われる作業に、前記1名の作業員を割り当てる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーションシステム。
【請求項5】
現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションと、前記現実空間の作業ラインにおいて行われる各種作業に携わる作業員を割り当てる人員配置処理と、をコンピュータに行わせるシミュレーションプログラムであって、
前記シミュレーションでは、
前記現実空間の作業ラインにおける前記各種作業に関するデータと、前記各種作業に利用される作業機械に関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ラインにおける前記各種作業に利用される作業機械でのトラブルの発生と、前記トラブルの困難レベルと、が予測され、
前記人員配置処理では、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルと、前記作業員に関するデータと、に基づいて、前記トラブルに応対可能な作業員が選定され、
前記トラブルに応対可能な作業員として選定された作業員が、前記シミュレーションにおいて前記トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てられる
ことを特徴とするシミュレーションプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業ラインに関するシミュレーションを行うシステム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2022-035516号公報は、設備における生産物の生産計画を生成する装置を開示する。この従来の装置は、生産計画の生成に際し、設備を構成する機械を操作する作業員の人員配置を行う。この人員配置では、作業員ごとに学習された改善能力データが用いられる。改善能力データは、機械において過去に発生した異常や故障に応対した作業員と、この異常等からの復帰時間とを関連付けることにより生成される。改善能力データを用いた人員配置によれば、異常や故障が発生しやすい機械に改善能力の高い作業員を配置することができる。そのため、仮に、異常や故障が発生しやすい機械において異常等が発生したときには、これを短時間で解消することができる。
【0003】
本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特開2022-035516号公報の他に、特開平1-274956号公報を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-035516号公報
【特許文献2】特開平1-274956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、異常や故障といったトラブルが発生しやすい機械に改善能力の高い作業員を優先的に配置すると、このトラブルが発生する前に設備全体の生産効率が低下する可能性がある。また、単純なものから複雑なものまで多岐にわたることが考えられ、故に、このトラブルの解消の難易度にも幅があることが予想される。この観点は従来技術にはなく、故に、改良の余地がある。
【0006】
本開示の1つの目的は、作業ラインにおいて行われる各種作業に利用される機械(以下、「作業機械」とも称す。)において発生するトラブルに応対可能な作業員を適切に配置しつつ、この配置によって作業ライン全体の作業効率が低下するのを抑えることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の観点は、シミュレーションシステムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションシステムは、記憶装置と、プロセッサと、を備える。
前記記憶装置には、現実空間の作業ラインにおいて行われる各種作業に関するデータと、前記各種作業に利用される作業機械に関するデータと、前記現実空間の作業ラインにおいて行われる前記各種作業を担当する作業員に関するデータと、が格納される。
前記プロセッサは、前記現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションと、前記現実空間の作業ラインにおける前記各種作業を担当する作業員を割り当てる人員配置処理と、を行うように構成されている。
前記プロセッサは、前記シミュレーションにおいて、
前記各種作業に関するデータと、前記作業機械に関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ラインにおける前記各種作業に利用される作業機械でのトラブルの発生と、前記トラブルの困難レベルと、を予測する。
前記プロセッサは、前記人員配置処理において、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルと、前記作業員に関するデータと、に基づいて、前記トラブルに応対可能な作業員を選定し、
前記トラブルに応対可能な作業員として選定された作業員を、前記シミュレーションにおいて前記トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てる。
【0008】
本開示の第2の観点は、シミュレーションプログラムであり、次の特徴を有する。
前記シミュレーションプログラムは、現実空間の作業ラインに対応するデジタル空間の作業ラインにおけるシミュレーションと、前記現実空間の作業ラインにおいて行われる各種作業に携わる作業員を割り当てる人員配置処理と、をコンピュータに行わせる。
前記シミュレーションでは、
前記現実空間の作業ラインにおける前記各種作業に関するデータと、前記各種作業に利用される作業機械に関するデータと、に基づいて、前記デジタル空間の作業ラインにおける前記各種作業に利用される作業機械でのトラブルの発生と、前記トラブルの困難レベルと、が予測される。
前記人員配置処理では、
前記シミュレーションにおいて予測された前記トラブルの困難レベルと、前記作業員に関するデータと、に基づいて、前記トラブルに応対可能な作業員が選定され、
前記トラブルに応対可能な作業員として選定された作業員が、前記シミュレーションにおいて前記トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てられる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、作業機械において発生すると予測されたトラブルの困難レベルに応じて、このトラブルに応対可能な作業員が選定される。そして、この選定作業員が、トラブルが発生すると予測された作業機械から所定距離内で行われる作業に割り当てられる。従って、作業機械においてトラブルが発生していない間は、この作業機械から所定距離内で行われる作業に選定作業員を従事させ、作業機械においてトラブルが実際に発生したときには、選定作業員によってこの解消を速やかに図ることが可能となる。従って、作業機械において発生するトラブルに応対可能な作業員を適切に配置しつつ、この配置によって作業ライン全体の作業効率が低下するのを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態が適用される作業ラインの例を説明する図である。
【
図4】トラブルに応対する作業員の選定例を説明する図である。
【
図5】実施形態に係るシミュレーションシステムの構成例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。尚、各図において、同一又は相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化し又は省略する。
【0012】
1.第1実施形態
図1-5を参照しながら本開示の第1実施形態について説明する。
【0013】
1-1.作業ライン
図1は、第1実施形態が適用される作業ラインの例を説明する図である。
図1に描かれる作業ラインWLは、製品の生産、保管、包装といった作業を行うためにライン化されたものである。作業ラインWLは、製品を大量生産する工場の敷地内、製品やその原材料を保管し又は製品をパッキングして出荷する物流倉庫の敷地内、商品の入荷、検品、保管、ピッキング、パッキング、出荷などを行う物流センタの敷地内に設けられる。
【0014】
図1に示される例では、作業ラインWLに、作業機械WM1、WM2及びWM3が設置されている。作業機械WM1、WM2及びWM3は、作業ラインWLにおいて行われる各種作業の少なくとも一部に利用される。作業機械WM1、WM2及びWM3は、ロボットアームといった大型の機械でもよいし、フォークリフトといった移動型の機械でもよいし、タグリーダといった携帯型の機械でもよい。各種作業には、上述した製品の生産、保管、包装、保管、パッキング、出荷や、上述した商品の入荷、検品、保管、ピッキング、パッキング、出荷が含まれる。
【0015】
コンピュータPC1、PC2及びPC3は、作業機械WM1、WM2及びWM3を操作するために設けられる。コンピュータPC1、PC2及びPC3の各機能は、操作対象の作業機械WMの作業内容に応じて任意に設計される。尚、
図1に示される例では、コンピュータPC1、PC2及びPC3は、作業機械WM1、WM2及びWM3の外部にそれぞれ設けられている。但し、コンピュータPC1、PC2及びPC3のそれぞれが、作業機械WM1、WM2及びWM3の内蔵コンピュータでもよい。
【0016】
作業員WK1、WK2及びWK3は、作業機械WM1、WM2及びWM3を利用する作業に携わる人員である。作業員WK1、WK2及びWK3の人員配置は、第1実施形態に係るシミュレーションシステム(以下、単に「システム」とも称す。)による処理(人員配置処理)により実現される。この人員配置処理の詳細については後述される。尚、
図1に示される例では、作業機械WM1、WM2及びWM3を利用する各作業に作業員WK1、WK2及びWK3が1人ずつ割り当てられている。但し、1つの作業機械WMを利用する作業に割り当てられる作業員WKの総数は2以上でもよいし、ゼロでもよい。また、作業機械WMを利用しない作業ラインWL上の作業(例えば、手作業)に1人以上の作業員WKが割り当てられてもよい。
【0017】
1-2.第1実施形態の特徴
第1実施形態では、デジタル空間を用いたシミュレーション(以下、「デジタルツインシミュレーション」又は「DTS」とも称す。)が行われる。このデジタル空間は、
図1で説明した作業ラインWLが設けられる現実空間に基づいて再現されたものである。DTSでは、このデジタル空間において、現実の作業ラインWLで行われる各種作業と同じ各種作業を行い、作業ラインWLにおける将来の状態が予測される。この将来の状態には、各種作業の進捗状況と、作業機械WMの稼働状況とが含まれる。
【0018】
現実空間の作業ラインWLでは、作業機械WMにおいて異常や故障といったトラブルが発生する。作業機械WMにおいてトラブルが発生した場合は、その解消を図るために作業員WKが応対する必要がある。DTSでは、作業機械WMの稼働状況(トラブル状況)として、作業機械WMでのトラブルの発生が予測される。以下、説明の便宜上、トラブルが発生する作業機械WMを「トラブル機械WM_TR」とも称す。DTSでは、また、トラブル機械WM_TRにおいて発生したトラブルに関連する情報として、トラブルが発生する時間(時刻)も予測される。
【0019】
但し、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの内容は、単純なものから複雑なものまで多岐にわたると考えられ、故に、このトラブルの解消の難易度にも幅があることが予想される。そこで、DTSでは、更に、トラブル機械WM_TRにおいて発生したトラブルに関連する情報として、トラブルの困難レベルLTRが予測される。困難レベルLTRは、トラブルの解消の難易度を表すものであり、例えば、トラブルの内容を考慮した次の3段階が設定される。
困難レベルLTR「低」のトラブル=作業員WKによる目視確認+確認ボタン操作により解消が期待されるトラブル
困難レベルLTR「中」のトラブル=作業機械WM(又はコンピュータPC)からの指示、又はマニュアル通りに操作等することにより短時間で解消が期待されるトラブル
困難レベルLTR「高」のトラブル=「中」レベルのトラブルのうち、その解消に長時間を要するトラブル、及び、トラブルの原因が不明のトラブル
【0020】
第1実施形態では、DTSにより予測された作業機械WMの稼働状況(トラブル状況)に基づいて、作業員WKの人員配置処理が行われる。人員配置処理では、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルに応対可能な作業員WK(以下、「応対作業員WK_TR」とも称す。)が選定される。
【0021】
既に説明したように、作業機械WMの稼働状況(トラブル状況)には、トラブル機械WM_TRと、このトラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間(時刻)と、が含まれている。そのため、人員配置処理では、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間に、このトラブル機械WM_TRの設置場所に応対作業員WK_TRが待機している状況となるように応対作業員WK_TRが配置される。
【0022】
ここで、作業機械WMにおいてトラブルが発生することが予測されて応対作業員WK_TRが選定された直後に、この作業機械WMに選定された応対作業員WK_TRを張り付かせることを考える。この場合は、作業機械WMにおいてトラブルが発生したら速やかにこれを解消することが可能となる。しかしながら、応対作業員WK_TRの選定直後の張り付けは、作業ラインWLの全体の作業効率を低下させる可能性がある。この理由は、応対作業員WK_TRとして選定された作業員WKがトラブル機械WM_TRを用いた作業に携わっていない場合、この作業員WKが持ち場を離れる必要があり、そうすると現在の作業に支障を来すことになるからである。
【0023】
このような問題に鑑み、人員配置処理では、トラブル機械WM_TRから所定距離D_TR内で行われる作業に応対作業員WK_TRが割り当てられる。この所定距離D_TRは、トラブル機械WM_TRの基準位置からの直線距離である。この基準位置は任意に設定できる。
【0024】
所定距離D_TRは、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間に、このトラブル機械WM_TRの設置場所に応対作業員WK_TRが駆けつけることが可能な距離である。所定距離D_TRは固定値でもよいが、困難レベルLTRに応じて可変に設定することが望ましい。
図2には、困難レベルLTRに応じた所定距離D_TRの設定例が示されている。この例では、困難レベルLTRが高くなるにつれて所定距離D_TRが短くなっている。
【0025】
所定距離D_TRが可変に設定されることで、応対作業員WK_TRは、トラブル機械WM_TRとは異なる作業機械WMを用いた作業に携わりながら、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生したら速やかにそれを解消することが可能となる。例えば、応対作業員WK_TRは、シミュレーションシステムからの指示に従い、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間に間に合うように現在の持ち場を離れてトラブル機械WM_TRに向かう。そして、応対作業員WK_TRは、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生したら速やかにそれを解消し、元の持ち場に戻る。
【0026】
図3には、所定距離D_TRの一例が描かれている。
図3に示される例では、作業機械WM2においてトラブルが発生すると仮定する。応対作業員WK_TRの有力候補は、作業員WK2である。但し、作業機械WM2において発生するトラブルの困難レベルLTRが「中」の場合は、所定距離D_TRが長くなる。所定距離D_TRが距離D1の場合は、作業員WK2に加えて作業員WK1が応対作業員WK_TRの候補となる。トラブルの困難レベルLTRが「低」の場合の所定距離D_TRが距離D2(<D1)のときは、作業員WK2に加えて作業員WK1及びWK3が応対作業員WK_TRの候補となる。
【0027】
このように、困難レベルLTRに応じた所定距離D_TRが設定されることで、応対作業員WK_TRの候補が増える。人員配置処理では、応対作業員WK_TRの候補が複数の場合は、これらの候補のうちから少なくとも1人が選定される。応対作業員WK_TRの選定例については後述される。
【0028】
困難レベルLTRに応じた応対作業員WK_TRの選定が行われることで、次のような人員配置が可能となる。即ち、作業機械WM2を用いた作業が相対的に容易であることから作業員WK2を割り当てるが、作業機械WM2においてトラブルが発生することが予測されたときには、困難レベルLTRに応じて選定された作業員WK1又はWK3が一時的に駆けつけてこれを解消することが可能となる。又は、作業機械WM2を用いた作業が作業員WKを必要としないものであるが、作業機械WM2においてトラブルが発生することが予測されたときには、困難レベルLTRに応じて作業員WK1又はWK3が一時的に駆けつけてこれを解消することも可能となる。
【0029】
応対作業員WK_TRの選定例について説明する。
図4は、トラブルに応対する作業員の選定例を説明する図である。
図4には、困難レベルLTRと、作業員WKの能力レベルLWKとの関係が示されている。能力レベルLWKは、作業員WKがトラブルを解消する能力の高さを表すものであり、作業員WKごとに設定される。能力レベルLWKは、例えば、作業員WKが過去に応対した作業機械WMのトラブルの内容、このトラブルの解消に要した時間などに基づいて設定される。
【0030】
図4に示される例では、能力レベルLWKが6段階で示され、困難レベルLTRが3段階で示されている。前者と後者の関係は、能力レベルLWKが高い作業員WKであれば、困難レベルLTRの高いトラブルに応対可能であることを示している。具体的に述べると、能力レベルLWKが1の作業員WKは、困難レベルLTRが1のトラブルに応対可能である。能力レベルLWKが3の作業員WKは、困難レベルLTRが3以下のトラブルに応対可能である。能力レベルLWKが6の作業員WKは、全ての困難レベルLTRのトラブルに応対可能である。
【0031】
図4には、上述したトラブル応対可能レベルに加えて、優先応対レベルが示されている。優先応対レベルは、作業員WKが優先して応対すべきトラブルの困難レベルLTRを示したものである。具体的に述べると、能力レベルLWKが2の作業員WKは、困難レベルLTRが1のトラブルに優先して応対する。能力レベルLWKが4の作業員WKは、困難レベルLTRが3のトラブルに優先して応対する。能力レベルLWKが6の作業員WKは、困難レベルLTRが5のトラブルに優先して応対する。
【0032】
トラブル機械WM_TRに応対作業員WK_TRを割り当てれば、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルは解消しうる。しかしながら、作業員WKが有する能力レベルLWKが困難レベルLTRに見合っていない場合は、トラブルの解消に時間を要するリスクがある。この点、応対作業員WK_TRの選定に
図4で説明した「トラブル応対可能レベル」の考え方を適用すれば、トラブルの解消に時間を要するリスクを軽減できる可能性がある。また、
図4で説明した「優先応対レベル」の考え方を適用すれば、リスク軽減効果を高めることが可能になる。これに加え、自身の能力レベルLWKに見合った困難レベルLTRのトラブルに応対することで、作業員WKの能力レベルLWKの向上に繋がるという副次的効果が期待される。
【0033】
1-3.構成例
1-3-1.システム構成例
図5は、実施形態に係るシステムの構成例を説明する図である。
図5に示されるシミュレーションシステム1は、作業ラインWLが設けられる実工場2内の現実空間を再現したデジタル空間を用いたシミュレーション(つまり、デジタルツインシミュレーション)を行うための構成として、データベース11と、データ処理装置12と、を備えている。
【0034】
データベース11は、本開示の記憶装置に相当する構成である。データベース11は、例えば、ハードディスク、フラッシュメモリの内部に形成される。
図5に示される例では、データベース11は、2種類のデータベース11a及び11bを含んでいる。データベース11aには、作業ラインデータDWLが格納されている。データベース11bには、作業員データDWKが格納されている。
【0035】
作業ラインデータDWLは、作業ラインWLに関するデータである。作業ラインデータDWLは、実工場2の作業ラインWLに設けられた各種センサ、この作業ラインWLの作業機械WMに取り付けられた各種センサなどから取得される。DTSを実行するとデジタル空間内の作業ラインWLからもデータが取得される。このDTSの実行により得られたデータも、作業ラインデータDWLに含まれる。但し、現実空間から得られた作業ラインデータDWLと、デジタル空間から得られたそれとは区別されてデータベース11aに格納される。
【0036】
作業ラインデータDWLとしては、作業ラインWLにおいて行われる各種作業に関するデータDWCと、この各種作業に用いられる作業機械WMに関するデータDWMとが例示される。データDWCには、各種作業の進捗状況に関するデータが含まれている。データDWMには、作業機械WMの識別データと、作業機械WMの稼働状況に関するデータと、作業機械WMのトラブル状況に関するデータとが含まれている。作業機械WMのトラブル状況に関するデータには、トラブルの内容に関するデータと、このトラブルの解消に要した時間に関するデータとが含まれている。
【0037】
作業員データDWKは、作業ラインWLにおいて行われる各種作業に携わる作業員WKに関するデータである。作業員データDWKとしては、作業員WKの識別データと、作業員WKの勤務状況に関するデータが含まれる。勤務状況に関するデータには、勤務時間に関するデータと、作業履歴に関するデータとが含まれる。作業履歴に関するデータには、作業員WKが担当した作業機械WMの種類に関するデータと、作業員WKがこの作業機械WMを担当した時間に関するデータとが含まれる。作業履歴に関するデータには、作業員WKがそのトラブルに応対した作業機械WMの種類に関するデータと、作業員WKがそのトラブルに応対した時間に関するデータも含まれている。
【0038】
データ処理装置12は、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのメモリとを含むコンピュータである。少なくとも1つのプロセッサは、CPU(Central Processing Unit)を含む。少なくとも1つのメモリには、DTS、人員配置処理、及びその他のデータ処理を実行するためのプログラムが格納されている。これらのプログラムは、データ処理装置12が読み取り可能な記録媒体に格納されていてもよい。
【0039】
1-3-2.データ処理装置の機能構成例
図5には、データ処理装置12が有する機能として、レベル設定部12aと、シミュレーション部12bと、人員配置処理部12cとが描かれている。これらの機能は、データ処理装置12のプロセッサが、データ処理装置12のメモリに格納された各種プログラムを実行することにより実現される。
【0040】
レベル設定部12aは、困難レベルLTRの設定処理と、能力レベルLWKの設定処理とを行う。困難レベルLTRの設定処理では、まず、作業ラインデータDWLに含まれる作業機械WMのトラブル状況に関するデータが取得される。既に説明したように、作業機械WMのトラブル状況に関するデータには、トラブルの内容に関するデータと、このトラブルの解消に要した時間に関するデータとが含まれている。困難レベルLTRの設定処理では、取得したデータが事前に設計されたモデルに入力され、このモデルの出力として困難レベルLTRを得る。尚、困難レベルLTRの設定に使用するモデルは、例えば、機械学習により生成することができる。
【0041】
能力レベルLWKの設定処理では、まず、作業員データDWKに含まれる作業履歴に関するデータが取得される。既に説明したように、作業履歴に関するデータには、作業員WKがそのトラブルに応対した作業機械WMの種類に関するデータと、作業員WKがそのトラブルに応対した時間に関するデータとが含まれている。能力レベルLWKの設定処理では、取得したデータが事前に設計されたモデルに入力され、このモデルの出力として能力レベルLWKを得る。尚、能力レベルLWKの設定に使用するモデルは、例えば、機械学習により生成することができる。
【0042】
シミュレーション部12bは、DTSを実行する。DTSでは、データベース11に格納されている各種データ(作業ラインデータDWL及び作業員データDWK)、実工場2における生産計画のデータ、実工場2における人員配置のデータなどに基づいて、作業ラインWLにおける将来の状態が予測される。この将来の状態には、各種作業の進捗状況と、作業機械WMの稼働状況とが含まれる。既に説明したように、作業機械WMの稼働状況には、トラブル機械WM_TRにおいて発生したトラブルに関連する情報として、トラブルが発生する時間(時刻)と、このトラブルの困難レベルLTRとが予測される。作業機械WMの稼働状況のデータは、人員配置処理部12cに送信される。
【0043】
人員配置処理部12cは、データベース11に格納されている各種データ(作業ラインデータDWL及び作業員データDWK)、実工場2における生産計画のデータなどに基づいて、実工場2における人員配置処理を行う。シミュレーション部12bから作業機械WMの稼働状況のデータを受信した場合、人員配置処理では、このデータを用いて、実工場2における人員配置を更新するための処理を行う。人員配置を更新するための処理には、作業員データDWKと、トラブル機械WM_TRにおいて発生したトラブルに関連する情報と、に基づいて応対作業員WK_TRを選定する処理が含まれる。
【0044】
例えば、応対作業員WK_TRを選定する処理では、まず、トラブル機械WM_TRと、このトラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間(時刻)と、このトラブルの困難レベルLTRとが特定される。続いて、特定されたトラブル発生時間に、特定されたトラブル機械WM_TRから所定距離D_TR内で行われる作業に携わる作業員WKが特定される。所定距離D_TRは、固定値でもよいし、困難レベルLTRに応じて設定されてもよい。困難レベルLTRに応じて所定距離D_TRを設定する場合は、
図2で説明した関係が用いられる。
【0045】
作業員WKが特定されたら、応対作業員WK_TRが選定される。作業員WKが1人の場合はこの作業員WKが応対作業員WK_TRとして選定される。作業員WKが2人以上の場合は、これらの作業員WKは応対作業員WK_TRの候補とされる。この場合は、応対作業員WK_TRの候補のうちから1名を応対作業員WK_TRとして選定する。この選抜に際しては、作業員WKの能力レベルLWKが考慮されることが望ましい。好ましい例では、能力レベルLWKが最も高い作業員WKが選定される。
【0046】
応対作業員WK_TRの選定に際しては、
図4で説明した「トラブル応対可能レベル」の考え方を適用して、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの困難レベルLTRに見合う作業員WKの能力レベルLWK_Cが特定されることが望ましい。この能力レベルLWK_Cが特定された場合は、能力レベルLWK_C以上の能力レベルLWKを有する作業員WKが応対作業員WK_TRの候補として抽出される。好ましい例では、抽出された候補のうちから、能力レベルLWKが最も高い作業員WKが選定される。
【0047】
応対作業員WK_TRの選定に際しては、
図4で説明した「優先応対レベル」の考え方を適用して、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの困難レベルLTRに見合う作業員WKの能力レベルLWK_Cが特定されてもよい。この能力レベルLWK_Cが特定された場合は、能力レベルLWK_Cを有する作業員WKが応対作業員WK_TRの候補として抽出される。好ましい例では、抽出された候補のうちから、トラブル機械WM_TRの基準位置からの直線距離が最も短い作業員WKが選定される。
【0048】
応対作業員WK_TRが選定されたら、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生する時間に間に合うように応対作業員WK_TRの割り当てが行われる。応対作業員WK_TRの割り当てが応対作業員WK_TRの現在の持ち場を離れるようなものである場合、応対作業員WK_TRを除いた残りの作業員WKを含めた人員再配置が行われる。人員配置処理の結果は、実工場2及び作業員WKに通知される。作業員WKへの通知は、例えば、作業員WKが携帯する端末に行われる。通知内容は、例えば、作業員WKが携わる作業(機械操作、トラブル応対など)と、その作業を行う場所及び時間である。
【0049】
1-4.効果
以上説明した第1実施形態によれば、DTSにより作業機械WMにおいてトラブルが発生すると予測された場合、トラブル機械WM_TRから所定距離D_TR内で行われる作業に応対作業員WK_TRが選定される。従って、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルに応対可能な作業員WKを適切に配置しつつ、この配置によって作業ラインWL全体の作業効率が低下するのを抑えることが可能となる。
【0050】
また、第1実施形態によれば、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの困難レベルLTRに応じて応対作業員WK_TRの選定を行うことができる。また、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの困難レベルLTRに見合う作業員WKの能力レベルLWK_Cが特定され、この能力レベルLWK_C以上の能力レベルLWKを有する作業員WKが応対作業員WK_TRとして選定されれば、トラブル機械WM_TRにおいて実際に発生したトラブルを速やかに解消することが可能となる。
【0051】
また、第1実施形態によれば、所定距離D_TRが可変に設定される。そのため、応対作業員WK_TRは、トラブル機械WM_TRとは異なる作業機械WMを用いた作業に携わりながら、トラブル機械WM_TRにおいてトラブルが発生したら速やかにそれを解消することが可能となる。このことは、作業ラインWL全体の作業効率の低下に寄与することが期待される。
【0052】
2.第2実施形態
図6を参照しながら本開示の第2実施形態について説明する。尚、第1実施形態と共通する内容についての記載は適宜省略される。
【0053】
2-1.第2実施形態の特徴
第1実施形態では、DTSによって作業ラインWLにおける将来の状態が予測された。第1実施形態では、また、作業機械WMの稼働状況(トラブル状況)として、作業機械WMでのトラブルの発生が予測された。このDTSは第2実施形態においても行われる。
【0054】
第2実施形態では、少なくとも2つの作業機械WMにおいてトラブルが発生することが予測された場合を考える。この場合は、各トラブルに対して応対作業員WK_TRを選定すればよい。但し、これらのトラブルの困難レベルLTRが何れも「低」の場合には、応対効率の観点から1名の作業員WKがこれらのトラブルに応対することが望ましいことがある。また、少なくとも2つの作業機械WMが連携して動作するような場合は、これらの作業機械WMにおいて発生したトラブルを決められた順に解消することが望ましいこともある。このような場合は、応対手順の観点から1名の作業員WKがこれらのトラブルに応対することが望ましい。
【0055】
そこで、第2実施形態の人員配置処理では、事前に設定した応対条件が満たされる場合、少なくとも2つの作業機械WMにおいて発生したトラブルについて1名の応対作業員WK_TRが選出される。また、この場合、作業機械WM1から所定距離D_TR内、かつ、作業機械WM3から所定距離D_TR内において行われる作業に、この1名の応対作業員WK_TRが割り当てられる。
【0056】
図6には、1名の応対作業員WK_TRが選出される場合の所定距離D_TRの一例が描かれている。
図6に示される例では、作業機械WM1及びWM3において同時間帯にトラブルが発生すると仮定する。所定距離D_TRが固定値(距離D3)の場合は、所定距離D_TRは距離D4(<D3)よりも長い。そのため、
図6に示される例では、応対作業員WK_TRには、1名の応対作業員WK_TRとして作業員WK2が選定されることになる。
【0057】
第1実施形態同様、第2実施形態では、所定距離D_TRが困難レベルLTRに応じて可変に設定されてもよい。但し、少なくとも2つの作業機械WMにおいて発生したトラブルの困難レベルLTRが異なる場合は、可変に設定された少なくとも2つの所定距離D_TRのうち、最も長い所定距離D_TRを基準として1名の応対作業員WK_TRを選定することが望ましい。
【0058】
2-2.効果
以上説明した第2実施形態によれば、少なくとも2つの作業機械WMにおいて発生したトラブルについて1名の応対作業員WK_TRを選出することができる。そのため、応対効率や手順効率の向上を図りながら、トラブル機械WM_TRにおいて発生するトラブルの解消を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 シミュレーションシステム、2 実工場、11 データベース、12 データ処理装置、D1-D4 距離、WK,WK1-WK3 作業員、WL 作業ライン、WM,WM1-WM3 作業機械 DWK 作業員データ、DWL 作業ラインデータ、LTR 困難レベル、LWK 能力レベル