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特開2024-172974麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、焙燥麦芽、及び発酵麦芽飲料
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  • 特開-麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、焙燥麦芽、及び発酵麦芽飲料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172974
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、焙燥麦芽、及び発酵麦芽飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 1/067 20060101AFI20241205BHJP
   C12G 3/04 20190101ALI20241205BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20241205BHJP
【FI】
C12C1/067
C12G3/04
A23L2/38 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091062
(22)【出願日】2023-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 学会「2023 ASBC Meeting」のウェブサイトに掲載された発表要旨、https://events.rdmobile.com/Sessions/Details/1808167(掲載アドレス)、令和5年4月24日(掲載年月日)
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
(72)【発明者】
【氏名】松村 奈美
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115LG03
4B115LP02
4B117LC10
4B117LG16
4B117LP03
4B117LP05
4B117LP09
4B128CP03
(57)【要約】
【課題】麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる麦芽の製造方法を提供する。
【解決手段】発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であり、ここで、前記最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とすること特徴とする麦芽の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であり、ここで、前記最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とすること特徴とする麦芽の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法。
【請求項3】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であり、ここで、前記最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とすること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法。
【請求項4】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われ、ここで、(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽の製造方法。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法。
【請求項6】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われ、ここで、(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
【請求項7】
麦芽比率が50質量%以上であり、
麦芽比率(質量%)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y≦0.0561x+0.9
を満たすことを特徴とする発酵麦芽飲料。
【請求項8】
2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルが8.0μg/l以下であることを特徴とする焙燥麦芽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、焙燥麦芽、及び発酵麦芽飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2021-27828号公報(特許文献1)には、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含むビール様飲料用風味改善剤が記載され、かかるビール様飲料用風味改善剤によって、ビール様飲料の風味を改善できることが示されている。
【0003】
一方で、飲用者には、2-アセチルテトラヒドロピリジンの香気を、不快な穀物香と感じ、オフフレーバーと捉える人もいて、飲用者の嗜好に応じて、2-アセチルテトラヒドロピリジンの量を低減することも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-27828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
麦芽飲料に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンは、通常、麦芽に由来した成分であると考えられ、原料中の麦芽比率を調整することで、2-アセチルテトラヒドロピリジンの量を調整する手法が考えられる。しかしながら、原料中の麦芽比率を調整した場合、麦芽に由来した他の成分も影響を受けてその量が増減してしまい、所望の香味に調整することが困難になる場合がある。また、酒税法上のビールとして販売するために麦芽比率を50%以上とする場合には、2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減するにも限界が生じることになる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、新たに、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる麦芽の製造方法、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が低減された麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが低減された焙燥麦芽、及び2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が低減された発酵麦芽飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、発芽した麦を焙燥する焙燥工程において最高温度を80℃未満とすることで、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減できることを見出した。また、本発明者は、更に検討を進めたところ、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して特定の温度及び時間の条件で焙燥を行うことでも、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減できることを見出した。更に、本発明者は、2-アセチルテトラヒドロピリジンが低減された焙燥麦芽、及び麦芽比率が同程度である従来の発酵麦芽飲料に比べて2-アセチルテトラヒドロピリジンが低減された発酵麦芽飲料を提供できることを見出した。
【0008】
従って、本発明の第1の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であり、ここで、前記最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とすること特徴とする麦芽の製造方法である。
【0009】
また、本発明の第1の麦芽飲料の製造方法は、上述の本発明の第1の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法である。
【0010】
また、本発明の第1の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であり、ここで、前記最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とすること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法である。
【0011】
また、本発明の第2の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われ、ここで、(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽の製造方法である。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
【0012】
また、本発明の第2の麦芽飲料の製造方法は、上述の本発明の第2の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法である。
【0013】
また、本発明の第2の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われ、ここで、(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法である。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
【0014】
また、本発明の発酵麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であり、
麦芽比率(質量%)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y≦0.0561x+0.9
を満たすことを特徴とする発酵麦芽飲料である。
【0015】
また、本発明の焙燥麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルが8.0μg/l以下であることを特徴とする焙燥麦芽である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる麦芽の製造方法、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が低減された麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが低減された焙燥麦芽、及び2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が低減された発酵麦芽飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ビールのATHP濃度(μg/l)を縦軸(y軸)とし、ビールの麦芽比率(質量%)を横軸(x軸)とし、試験3の分析結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法、焙燥麦芽、及び発酵麦芽飲料に関する。
【0019】
本発明において、麦芽は、発芽した麦を意味する。発酵麦芽飲料等の麦芽飲料には、一般に、発芽した麦を乾燥させ、根の部分を取り除いたものを原料として使用できる。麦芽は、大麦麦芽を指す場合も多いが、これに限定されず、各種麦類の麦芽、例えば小麦麦芽、オート麦麦芽、ライ麦麦芽等がある。なお、焙燥処理前の発芽した麦を緑麦芽と称する場合がある。焙燥処理後の発芽した麦を焙燥麦芽と称する場合がある。
【0020】
本発明において、麦芽飲料は、原料に麦芽を使用して製造される飲料であるが、原料に麦芽を使用して製造される飲料にさらなる液を混合して製造される飲料も含まれる。例えば、麦芽由来の糖化液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の糖化液又は発酵液をさらなる液と混合して得られる飲料などは麦芽飲料に該当する。ここで、さらなる液としては、水、炭酸水、アルコール含有蒸留液等が挙げられる。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液である。アルコール含有蒸留液は、可食性のものであれば、特に限定されるものではなく、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。蒸留酒としては、例えば、焼酎、スピリッツ、ウォッカ、ラム、ジン、ウィスキー、ブランデー、テキーラ、原料用アルコール等がある。呈味に対する影響が少なく、麦芽感等を損なうおそれが小さいため、アルコール含有蒸留液は、スピリッツであることがより好ましい。麦芽飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。
【0021】
本発明において、麦芽飲料は、発酵麦芽飲料であってもよいし、非発酵麦芽飲料であってもよい。
【0022】
本発明において、発酵麦芽飲料は、原料に麦芽を使用し、これを発酵させて得られる飲料であるが、原料に麦芽を使用し発酵させて得られる飲料にさらなる液を混合して製造される飲料も含まれる。例えば、麦芽由来の糖化液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の発酵液をさらなる液と混合して得られる飲料などは発酵麦芽飲料に該当する。ここで、さらなる液としては、水、炭酸水、アルコール含有蒸留液(例えばスピリッツ等の蒸留酒)等が挙げられる。発酵麦芽飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。
【0023】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、アルコールの含有量は特に制限されず、アルコール飲料であってもよいし、ノンアルコール飲料であってもよい。本発明において「ノンアルコール飲料」とは、アルコール含量が1%未満である飲料をいう。
【0024】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、ビールテイスト飲料であることが好ましい。ビールテイスト飲料とは、アルコールの含有量とは無関係に、ビールの風味を有する飲料をいう。具体例としては、ビール、発泡酒、新ジャンル(発泡性酒類のうち、ホップを原料の一部とした酒類で、ビール及び発泡酒に該当しないもの)、ノンアルコールビール等を挙げることができる。
【0025】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料がビールテイストのアルコール飲料である場合、そのアルコール含量は、1~10%であることが好ましい。本明細書において、アルコール含量は、飲料全体の体積に対する該飲料に含まれるエチルアルコールの体積の百分率で表され、「%」は「v/v%」と表記することもできる。
【0026】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、発泡性飲料であってもよいし、非発泡性飲料であってもよい。発泡性飲料は、炭酸を含んだ飲料である場合が多い。
【0027】
本発明において、2-アセチルテトラヒドロピリジンの語は、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン、又は2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの混合物を指す。本明細書では、2-アセチルテトラヒドロピリジンをATHPと称する場合がある。2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンは、互変異性の関係にある異性体(互変異性体)である。
【0028】
まず、本発明の麦芽の製造方法について説明する。なお、「本発明の麦芽の製造方法」とは、後述の本発明の第1の麦芽の製造方法と本発明の第2の麦芽の製造方法の両方を指す表現である。
【0029】
本発明の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含む。焙燥は、発芽した麦を熱し、乾燥させ、焦げ色をつけるプロセスである。また、焙燥により、発芽した麦の成長を止め、麦芽の保存性を高めることもできる。本発明においては、発芽した麦に加熱した風(通常、空気)を吹き付けることで焙燥が行われる。例えば、焙燥工程において、発芽した麦は、焙燥窯内の多孔板又は金網で作られた棚(モルトベット)に広げて置かれており、ここに加熱した風を吹き込むことで焙燥を行うことができる。
【0030】
本発明の第1の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であることを特徴とする。
ここで、焙燥工程における最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とする。
【0031】
焙燥工程では、徐々に温度を上げながら焙燥が行われ、焙燥終期には最高温度が80℃以上に達することが通常であった。このような状況下、本発明者は、麦芽の製造方法においてATHPの生成を制御することについて検討したところ、焙燥工程における最高温度とその保持時間がATHPの生成に影響することを見出した。即ち、焙燥工程における最高温度が80℃以上である場合と比べて、焙燥工程における最高温度が80℃未満であると、得られる麦芽に含まれるATHPを低減できることを見出した。そして、かかる麦芽を原料に用いることで、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる。なお、焙燥工程において一時的に80℃以上の温度に達した場合であっても本発明の目的を達成できることから、「発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しない」という条件を設定した。
【0032】
本発明の第1の麦芽の製造方法において、焙燥工程における最高温度は、55~79℃であることが好ましく、55~75℃であることがより好ましく、60~70℃であることが更に好ましい。
【0033】
本発明の第1の麦芽の製造方法において、最高温度での焙燥時間は、1~72時間であることが好ましく、1~48時間であることがより好ましく、1~24時間であることが更に好ましく、1~12時間であることが特に好ましい。最高温度での焙燥時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0034】
本発明の第1の麦芽の製造方法において、最高温度で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。なお、発芽した麦の含水率は、凍結乾燥や焙燥工程の初期段階で適宜調整することが可能である。最高温度で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0035】
本発明において、発芽した麦の含水率(質量%)は、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.2 水分に記載の方法により測定することができる。
【0036】
本発明の第1の麦芽の製造方法においては、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われることが好ましい。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
また、(1)~(3)の条件における温度は、焙燥工程における最高温度であってもよいし、焙燥工程における最高温度でなくてもよいが、焙燥工程における最高温度であることが好ましい。
【0037】
本発明の第1の麦芽の製造方法において、(1)の条件では、温度が70℃以上78℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上12時間以内であることが好ましい。(2)の条件では、温度が60℃以上68℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上36時間以内であることが好ましい。(3)の条件では、温度が55℃以上58℃以下であることが好ましく、時間が72時間未満であることが好ましく、8時間以上48時間以内であることがより好ましい。
【0038】
本発明の第1の麦芽の製造方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の第1の麦芽の製造方法は、焙燥工程における最高温度に達するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0040】
本発明の第2の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われることを特徴とする。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0041】
本発明者は、麦芽の製造方法においてATHPの生成を制御することについて更に検討したところ、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して特定の温度及び時間の条件で焙燥を行うことで、従来の焙燥工程を経て製造された麦芽と比較して、麦芽に含まれるATHPを低減できることを見出した。そして、かかる麦芽を原料に用いることで、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる。
【0042】
本発明の第2の麦芽の製造方法において、(1)の条件では、温度が70℃以上78℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上12時間以内であることが好ましい。(2)の条件では、温度が60℃以上68℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上36時間以内であることが好ましい。(3)の条件では、温度が55℃以上58℃以下であることが好ましく、時間が72時間未満であることが好ましく、8時間以上48時間以内であることが好ましい。
【0043】
本発明の第2の麦芽の製造方法において、(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましい。(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0044】
本発明の第2の麦芽の製造方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0045】
本発明の第2の麦芽の製造方法は、(1)~(3)のいずれかの条件での焙燥を開始するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0046】
本発明の麦芽の製造方法は、焙燥工程に加えて、製麦(モルティング)で行われるさらなる工程を含むことができる。本発明の麦芽の製造方法の一実施形態は、麦を水に漬ける浸漬工程と、麦を発芽させる発芽工程と、発芽した麦を焙燥する焙燥工程とを含むことができる。
【0047】
本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が8.0μg/l以下であることが好ましく、7.5μg/lであることがより好ましく、6.0μg/lであることが更に好ましく、5.0μg/lであることが特に好ましい。
【0048】
本発明において、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルとは、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従って調製された麦汁の2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル濃度(ATHP濃度)を標準化した値であり、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンの量の指標となる。ここで、麦汁が2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの両方を含む場合、ATHP濃度は、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの総濃度を指す。
【0049】
2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルの求め方は、以下のとおりである。
【0050】
1.麦汁の調製
改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従って麦汁を調製する。具体的には、4.3.1 コングレス麦汁の調製における5.操作方法の(1)試料の調製、(2)仕込及び(3)ろ過に従って操作を行い、麦汁を調製する。
【0051】
2.ATHP濃度の測定
オートクレーブを用いて、上記「1.麦汁の調製」に従い調製された麦汁を105℃で60分間加熱し、ATHP濃度測定用の麦汁を用意する。
次いで、20gの麦汁に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷する。
次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させる。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(例えば、AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦汁のATHP濃度(μg/l)を測定する。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用できる。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とする。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用することができる。
【0052】
3.ATHP濃度の標準化
上記「2.ATHP濃度の測定」に従い測定されたATHP濃度の標準化のため、麦汁のATHP濃度(μg/l)を、上記「1.麦汁の調製」に従い調製された麦汁のエキス値(質量%)からエキス値10%に換算し(ATHP濃度×(10/エキス値))、得られた値(μg/l)をATHPポテンシャルとする。
ここで、麦汁のエキス値は、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の7.2 エキスに従って求められるエキス値(質量%)である。
【0053】
次に、本発明の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法について説明する。本明細書では、「本発明の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法」を「本発明のATHP低減方法」とも称する。本発明のATHP低減方法は、本発明の麦芽の製造方法、特にその焙燥工程を利用する方法であり、本発明の第1の麦芽の製造方法を利用する方法を「本発明の第1のATHP低減方法」と称し、本発明の第2の麦芽の製造方法を利用する方法を「本発明の第2のATHP低減方法」と称する場合がある。
【0054】
本発明の第1のATHP低減方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程における最高温度が80℃未満であることを特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法である。
ここで、焙燥工程における最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とする。
【0055】
本発明の第1のATHP低減方法において、焙燥工程における最高温度は、55~79℃であることが好ましく、55~75℃であることがより好ましく、60~70℃であることが更に好ましい。
【0056】
本発明の第1のATHP低減方法において、最高温度での焙燥時間は、1~72時間であることが好ましく、1~48時間であることがより好ましく、1~24時間であることが更に好ましく、1~12時間であることが特に好ましい。最高温度での焙燥時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0057】
本発明の第1のATHP低減方法において、最高温度で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、8質量%以下であることが特に好ましい。最高温度で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0058】
本発明の第1のATHP低減方法においては、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われることが好ましい。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
また、(1)~(3)の条件における温度は、焙燥工程における最高温度であってもよいし、焙燥工程における最高温度でなくてもよいが、焙燥工程における最高温度であることが好ましい。
【0059】
本発明の第1のATHP低減方法においては、(1)の条件では、温度が70℃以上78℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上12時間以内であることが好ましい。(2)の条件では、温度が60℃以上68℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上36時間以内であることが好ましい。(3)の条件では、温度が55℃以上58℃以下であることが好ましく、時間が72時間未満であることが好ましく、8時間以上48時間以内であることがより好ましい。
【0060】
本発明の第1のATHP低減方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0061】
本発明の第1のATHP低減方法は、焙燥工程における最高温度に達するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0062】
本発明の第2のATHP低減方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して少なくとも以下の(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥が行われることを特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを低減させる方法である。
(1)70℃以上80℃未満の温度で24時間未満
(2)60℃以上70℃未満の温度で48時間未満
(3)55℃以上60℃未満の温度
(1)~(3)の条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0063】
本発明の第2のATHP低減方法において、(1)の条件では、温度が70℃以上78℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上12時間以内であることが好ましい。(2)の条件では、温度が60℃以上68℃以下であることが好ましく、時間が8時間以上36時間以内であることが好ましい。(3)の条件では、温度が55℃以上58℃以下であることが好ましく、時間が72時間未満であることが好ましく、8時間以上48時間以内であることが好ましい。
【0064】
本発明の第2のATHP低減方法において、(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましい。(1)~(3)のいずれかの条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0065】
本発明の第2のATHP低減方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0066】
本発明の第2のATHP低減方法は、(1)~(3)のいずれかの条件での焙燥を開始するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0067】
本発明のATHP低減方法は、焙燥工程に加えて、製麦(モルティング)で行われるさらなる工程を含むことができる。本発明のATHP低減方法の一実施形態は、麦を水に漬ける浸漬工程と、麦を発芽させる発芽工程と、発芽した麦を焙燥する焙燥工程とを含むことができる。
【0068】
本発明のATHP低減方法により得られる麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が8.0μg/l以下であることが好ましく、7.5μg/lであることがより好ましく、6.0μg/lであることが更に好ましく、5.0μg/lであることが特に好ましい。
【0069】
次に、本発明の麦芽飲料の製造方法について説明する。本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法であり、本発明の第1の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法を「本発明の第1の麦芽飲料の製造方法」と称し、本発明の第2の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法を「本発明の第2の麦芽飲料の製造方法」とも称する。
【0070】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用すること以外は特に限定されず、公知の麦芽飲料の製造方法で行われる工程を含むことができる。
【0071】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、麦芽飲料が非発酵の飲料である場合、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽及び必要に応じて適宜選択される原料を混合する混合工程と、得られた混合液に対して糖化を行う糖化工程と、必要に応じて、得られる糖化液にさらなる液を混合する追加の混合工程とを含むことができる。
【0072】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、麦芽飲料が発酵麦芽飲料である場合、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽及び必要に応じて適宜選択される原料を混合する混合工程と、得られた混合液に対して糖化を行う糖化工程と、得られる糖化液に対して発酵を行う発酵工程と、必要に応じて、得られる発酵液にさらなる液を混合する追加の混合工程とを含むことができる。
【0073】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として用いる。ここで、原料として使用される麦芽は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽のみであってもよいし、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を、本発明の麦芽の製造方法に該当しない方法により得られた麦芽と併用してもよい。
【0074】
本発明の麦芽飲料の製造方法に使用できる麦芽以外の原料としては、飲用水や、麦芽以外の穀物や炭水化物といった糖質原料等が挙げられる。麦芽以外の糖質原料としては、大麦、小麦、エン麦等の麦類、米、とうもろこし(コーン)、スターチ、こうりゃん、大豆等の豆類等の穀物原料、ばれいしょ等のイモ類等、液糖や砂糖等の糖質原料が挙げられる。麦芽以外の糖質原料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
また、本発明の麦芽飲料の製造方法は、原料として、ホップを用いることができる。ホップは、ビールテイスト飲料にビールの風味及び苦味を付与する原料として通常使用される。ホップは加工品であってもよい。ホップ加工品とは、ホップを種々加工して得られるホップ製品をいう。ホップ加工品には、例えば、ホップを乾燥しただけの乾燥毬花、ホップをペレット状にしたホップペレット、ホップを有機溶媒や炭酸ガスで抽出したホップエキス、ホップをイソ化させたイソ化ホップエキス等が含まれる。麦芽飲料が発酵麦芽飲料(特にビール)である場合、通常、発酵工程を行う前に糖化液(特に麦汁)にホップを加える。
【0076】
本発明の麦芽飲料の製造方法に使用できる他の原料としては、着色剤、pH調整剤(重曹など)、ビタミン類、ペプチド、アミノ酸、水溶性食物繊維、酸化防止剤、安定化剤、乳化剤等、食品分野で通常用いられている原料や食品添加物等が挙げられる。
【0077】
本発明の麦芽飲料の製造方法において、糖化工程では、原料である麦芽と、必要に応じて使用される他の糖質原料の澱粉質から糖化液(特に麦汁)を調製することができる。
【0078】
糖化工程の具体例としては、麦芽や他の糖質原料と、温水とを仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。ここで、麦芽や他の糖質原料は、細かく砕いた形状で使用されることが好ましく、糊化、更には液化した状態で使用されることが好ましい。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、40~60℃で20~90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、他の原料や、糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤等を添加してもよい。本発明において、糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味し、麦芽自身にも含まれるものであるが、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0079】
その後、マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる(糖化処理)。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~76℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、固形分が除去された麦汁を得る。その他、麦芽の一部、他の糖質原料の一部又は全部、及び温水を仕込釜に加えて混合して調製したマイシェを、糖化処理した後、前述の仕込槽で糖化させたマイシェと混合したものを、麦汁濾過槽にて濾過することにより麦汁を得てもよい。
【0080】
また、糖化処理後の麦汁を煮沸してもよい(煮沸処理)。また、原麦汁エキス量を調整するため、煮沸処理を行う前に水を麦汁に加えてもよい。麦芽飲料がビールテイストの発酵麦芽飲料である場合、通常、得られた麦汁を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で混合してもよい。また、必要に応じて、ホップ以外の原料を麦汁に加えることもできる。煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。
【0081】
本発明の麦芽飲料の製造方法において、発酵工程では、糖化液に、酵母を加えて発酵タンクに移し、発酵が行われる。発酵に供される糖化液を発酵前液ともいう。発酵温度は、通常8~15℃であり、その期間は3日間から10日間が好ましい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、発酵前液中の糖質をアルコールと二酸化炭素に分解できる酵母であれば使用できるが、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。例えば、麦芽飲料がビールテイストの発酵麦芽飲料である場合、ビール酵母を用いることができる。酵母は、上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよい。発酵工程後の発酵液を濾過することにより酵母等を除去して、発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0082】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、発酵工程により得られる発酵液を熟成させる工程(貯酒工程)を含むことができる。貯酒工程では、発酵工程により得られる発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件で貯蔵し安定化させる。熟成後の発酵液を濾過することにより酵母等を除去して、発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0083】
本発明の麦芽飲料の製造方法においては、所望のアルコール濃度とするために、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に適量の加水を行って希釈してもよい。また、本発明の麦芽飲料の製造方法においては、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に、炭酸ガスを添加してもよい。
【0084】
本発明の麦芽飲料の製造方法においては、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に、アルコール含有蒸留液を混和して、リキュール類等としてもよい。
【0085】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、容器に充填・密封することにより、容器詰め飲料として提供することができる。容器としては、褐色容器、びん容器、褐色びん容器等が好適に挙げられる。容器の具体例としては、瓶(好ましくは褐色、茶色又は黒色のビール用びん)、缶(好ましくはアルミ缶)、樽等の他、ペットボトル等のプラスチック製の容器や紙製の容器等も挙げられる。
【0086】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、発酵麦芽飲料であってもよいし、非発酵麦芽飲料であってもよいが、発酵麦芽飲料であることが好ましく、ビールテイストの発酵麦芽飲料であることが更に好ましい。
【0087】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。ここで、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽は、麦芽飲料の製造に用いられる麦芽の質量の合計に対して25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0088】
本発明において、麦芽比率は、麦芽飲料の製造に用いられる原料のうち、水及びホップ以外の原料の質量の合計に対する麦芽の質量の割合である。
【0089】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(ATHP濃度)が10.0μg/l以下であることが好ましく、0.5~6.0μg/lであることが更に好ましい。
【0090】
本発明において、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度は、以下のように測定することができる。
20gの麦芽飲料に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷する。
次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させる。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(例えば、AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦芽飲料のATHP濃度(μg/l)を測定する。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用できる。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とする。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用することができる。
【0091】
次に、本発明の焙燥麦芽について説明する。
【0092】
本発明の焙燥麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルが8.0μg/l以下であることを特徴とする焙燥麦芽である。本発明の焙燥麦芽は、従来の焙燥麦芽に比べて2-アセチルテトラヒドロピリジンが低減されている。これにより、例えば高い麦芽比率である場合にも麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を低減することができる。
【0093】
本発明の焙燥麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が、7.5μg/lであることが好ましく、6.0μg/lであることが更に好ましく、5.0μg/lであることが特に好ましい。
【0094】
本発明の焙燥麦芽は、本発明の麦芽の製造方法によって製造することができる。
【0095】
次に、本発明の発酵麦芽飲料について説明する。
【0096】
本発明の発酵麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であり、
麦芽比率(質量%)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y≦0.0561x+0.9
を満たすことを特徴とする発酵麦芽飲料である。
【0097】
本発明の発酵麦芽飲料によれば、麦芽比率が50質量%以上であるにもかかわらず、麦芽比率と2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が特定の関係式を満たすことで、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度が低減された発酵麦芽飲料を提供することができる。これにより、穀物様香気を抑えることができる。
【0098】
y≦0.0561x+0.9の関係式を満たす発酵麦芽飲料は、本発明の麦芽飲料の製造方法によって製造することができる。
【0099】
y≦0.0561x+0.9の関係式は、後述の実施例で説明されるとおり、市販の麦芽を原料として使用して製造された発酵麦芽飲料と、本発明の麦芽の製造方法によって得られた麦芽を原料として使用して製造された発酵麦芽飲料の麦芽比率及びATHP濃度から得られた関係式である。
【0100】
本発明の発酵麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であり、60質量%以上であることが好ましい。ここで、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽は、本発明の発酵麦芽飲料の製造に用いられる麦芽の質量の合計に対して25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0101】
本発明の発酵麦芽飲料は、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(ATHP濃度)が10.0μg/l以下であることが好ましく、0.5~6.0μg/lであることが更に好ましい。より具体的には、本発明の発酵麦芽飲料において、麦芽比率が100質量%であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは7.0μg/l以下、より好ましくは6.5μg/l以下、さらに好ましくは6.0μg/l以下であり、麦芽比率が90質量%以上100質量%未満であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは7.0μg/l以下、より好ましくは6.0μg/l以下、さらに好ましくは5.5μg/l以下であり、麦芽比率が80質量%以上90質量%未満であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは6.0μg/l以下、より好ましくは5.5μg/l以下、さらに好ましくは5.0μg/l以下であり、麦芽比率が70質量%以上80質量%未満であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは5.5μg/l以下、より好ましくは5.0μg/l以下、さらに好ましくは4.5μg/l以下であり、麦芽比率が60質量%以上70質量%未満であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは5.0μg/l以下、より好ましくは4.3μg/l以下、さらに好ましくは4.0μg/l以下であり、麦芽比率が50質量%以上60質量%未満であるときの発酵麦芽飲料のATHP濃度は、好ましくは4.3μg/l以下、好ましくは3.8μg/l以下、さらに好ましくは3.5μg/l以下である。
【実施例0102】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0103】
<試験1>
1.発芽した麦(緑麦芽)
大麦麦芽を用いて、含水率が40質量%である緑麦芽を用意した。具体的に、浸麦と通気、排水を適宜繰り返し行いながら2日間麦を浸麦し、5日間発芽工程に供した。最終的な緑麦芽の含水率が40質量%程度となるように発芽工程中の散水量を調整した。
また、該緑麦芽を凍結乾燥して含水率を5質量%に調整した麦芽を用意した。
【0104】
2.熱処理
80℃の風を緑麦芽に48時間吹き付けて、緑麦芽を熱した。ここでは、実験室用の恒温器(EYELA LTI-601SD)を使用して、送風し、焙燥を行った。焙燥中に緑麦芽が乾燥しないよう、恒温器の内部に水槽を設置し、湿度を維持した。
【0105】
3.分析
熱処理前後の麦芽について、上述した方法に従い、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルを求めた。
具体的には、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従い麦汁を調製した。オートクレーブを用いて、麦汁を105℃で60分間加熱し、ATHP濃度測定用の麦汁を用意した。次いで、20gの麦汁に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷した。次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させた。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦汁のATHP濃度(μg/l)を測定した。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用した。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とした。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用した。
測定されたATHP濃度の標準化のため、麦汁のATHP濃度(μg/l)を、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の7.2 エキスに従って求められる麦汁のエキス値からエキス値10%に変換し(ATHP濃度×(10/エキス値))、得られた値(μg/l)をATHPポテンシャルとした。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1から、乾燥した緑麦芽への熱処理によってATHPポテンシャルが増大することが分かる。また、含水率が40質量%である緑麦芽に対して熱処理を行った後、当該麦芽の含水率を測定したところ、5質量%となっていた。熱処理により麦芽の含水率が低下した後、麦芽のATHPが増大したものと考えられる。
【0108】
<試験2>
1.発芽した麦(緑麦芽)
大麦麦芽を乾燥させて含水率が10質量%以下である緑麦芽を用意した。
【0109】
2.焙燥
最高温度を80℃、70℃、60℃、50℃、40℃、及び30℃とする条件にて緑麦芽の焙燥を行った。最高温度での焙燥時間は、8時間、24時間、及び48時間とした。
【0110】
3.分析
焙燥後の麦芽について、試験1と同様に、ATHPポテンシャルを求めた。結果を表2に示す。表中の温度は焙燥工程における最高温度を示し、時間は最高温度での焙燥時間を示す。
【0111】
【表2】
【0112】
表2から、含水率が10質量%以下である緑麦芽に焙燥を行う場合、焙燥工程における最高温度が80℃未満であると、最高温度での焙燥時間が同じあるが焙燥工程における最高温度が80℃である場合と比べて、焙燥後の麦芽に含まれるATHPを低減できることが分かる。また、最高温度での焙燥時間を短くすることで、麦芽に含まれるATHPを低減できることも分かる。
【0113】
<試験3>
1.使用した麦芽
試験2の各条件で焙燥を行った麦芽を用いた。
また、市販の焙燥された麦芽(15種類)を比較用に用いた。市販の焙燥麦芽(15種類)についてATHPポテンシャルを求めたところ、8.5~15.2μg/lであった。
【0114】
2.ビールの製造
麦芽比率50質量%(副原料:スターチ)、麦芽比率67質量%(副原料:スターチ)、麦芽比率100質量%の条件にて、常法に従いビールを製造した。
【0115】
3.分析
ビールについて、上述した方法に従い、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を求めた。
具体的には、20gのビールに50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷した。次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させた。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、ビールのATHP濃度(μg/l)を測定した。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用した。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とした。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用した。
【0116】
図1は、ビールのATHP濃度(μg/l)を縦軸(y軸)とし、ビールの麦芽比率(質量%)を横軸(x軸)とし、試験3の分析結果をプロットしたグラフである。本発明に従う条件で焙燥された麦芽を原料として使用したビールのうち、麦芽比率50%において最も高いATHP濃度を示すプロットと麦芽比率100%において最も高いATHP濃度を示すプロットを結び、y=0.0561x+0.9の関係式を得た。図1において、y=0.0561x+0.9の関係式上にある2点のプロットと、その下部のプロットが本発明に従う条件で焙燥された麦芽を原料として使用したビールであり、上部のプロットが市販の麦芽を原料として使用したビールである。
【0117】
図1から、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽(ATHPポテンシャルの低い麦芽)を原料として用いて製造されたビールは、市販の麦芽を原料として用いて製造されたビールと比較してATHP濃度が低いことが分かる。これにより、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用することで、麦芽比率が同程度である従来の発酵麦芽飲料に比べてATHP濃度の低い発酵麦芽飲料を提供することができる。
また、図1から、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽(ATHPポテンシャルの低い麦芽)を原料として用いて製造されたビールは、y≦0.0561x+0.9の関係式を満たしていることも分かる。
【0118】
4.官能評価
本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽(ATHPポテンシャルの低い麦芽)を原料として用いて製造されたビールは、市販の麦芽を原料として用いて製造されたビールと比較して、穀物様香気の強度が低減されていた。
図1