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特開2024-172975麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、麦芽、及び麦芽飲料
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  • 特開-麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、麦芽、及び麦芽飲料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172975
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、麦芽、及び麦芽飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 1/067 20060101AFI20241205BHJP
   C12C 1/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C12C1/067 Z
C12C1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091063
(22)【出願日】2023-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 学会「2023 ASBC Meeting」のウェブサイトに掲載された発表要旨、https://events.rdmobile.com/Sessions/Details/1808167(掲載アドレス)、令和5年4月24日(掲載年月日)
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
(72)【発明者】
【氏名】松村 奈美
【テーマコード(参考)】
4B128
【Fターム(参考)】
4B128CP03
(57)【要約】
【課題】麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させることができる麦芽の製造方法を提供する。
【解決手段】発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われ、ここで、前記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われ、ここで、前記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法。
【請求項3】
発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われ、ここで、前記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法。
【請求項4】
色度(°EBC)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y>0.0586x+9.7914
を満たすことを特徴とする麦芽。
【請求項5】
請求項4に記載の麦芽を原料とする麦芽飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、麦芽、及び麦芽飲料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2021-27828号公報(特許文献1)には、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン及びその互変異性体である2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンから成る群から選択される少なくとも一種の2-アセチルテトラヒドロピリジン化合物を含むビール様飲料用風味改善剤が記載され、かかるビール様飲料用風味改善剤によって、ビール様飲料の風味を改善できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-27828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、ビール様飲料の風味を改善するために2-アセチルテトラヒドロピリジンを添加することは有効である。しかしながら、ビールでの2-アセチルテトラヒドロピリジンの量を増加させるために2-アセチルテトラヒドロピリジンを添加した場合、かかる飲料は、ビールではなく、酒税法上の発泡酒に分類されることになる。また、飲用者には、食品添加物の使用を忌避する人もいて、使用される食品添加物の量はできるだけ抑えることが望ましい場合もある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させることができる麦芽の製造方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大された麦芽を用いた麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大された麦芽、及び該麦芽を用いた麦芽飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して特定の温度及び時間の条件で焙燥を行うことで、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大できることを見出した。更に、本発明者は、色度が同程度である麦芽に比べて2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大された麦芽を提供できることを見出した。
【0007】
従って、本発明の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われ、ここで、前記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽の製造方法である。
【0008】
また、本発明の麦芽飲料の製造方法は、上述の本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法である。
【0009】
また、本発明の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われ、ここで、前記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間であること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法である。
【0010】
また、本発明の麦芽は、色度(°EBC)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y>0.0586x+9.7914
を満たすことを特徴とする麦芽である。
【0011】
また、本発明の麦芽飲料は、上述の本発明の麦芽を原料とする麦芽飲料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させることができる麦芽の製造方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大された麦芽を用いた麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大された麦芽、及び該麦芽を用いた麦芽飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】麦芽のATHPポテンシャル(μg/l)を縦軸(y軸)とし、麦芽の色度(°EBC)を横軸(x軸)とし、試験2の分析結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、麦芽の製造方法、麦芽飲料の製造方法、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法、麦芽、及び麦芽飲料に関する。
【0015】
本発明において、麦芽は、発芽した麦を意味する。発酵麦芽飲料等の麦芽飲料には、一般に、発芽した麦を乾燥させ、根の部分を取り除いたものを原料として使用できる。麦芽は、大麦麦芽を指す場合も多いが、これに限定されず、各種麦類の麦芽、例えば小麦麦芽、オート麦麦芽、ライ麦麦芽等がある。なお、焙燥処理前の発芽した麦を緑麦芽と称する場合がある。焙燥処理後の発芽した麦を焙燥麦芽と称する場合がある。
【0016】
本発明において、麦芽飲料は、原料に麦芽を使用して製造される飲料であるが、原料に麦芽を使用して製造される飲料にさらなる液を混合して製造される飲料も含まれる。例えば、麦芽由来の糖化液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の糖化液又は発酵液をさらなる液と混合して得られる飲料などは麦芽飲料に該当する。ここで、さらなる液としては、水、炭酸水、アルコール含有蒸留液等が挙げられる。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液である。アルコール含有蒸留液は、可食性のものであれば、特に限定されるものではなく、一般に蒸留酒に分類されるものを用いることができる。蒸留酒としては、例えば、焼酎、スピリッツ、ウォッカ、ラム、ジン、ウィスキー、ブランデー、テキーラ、原料用アルコール等がある。呈味に対する影響が少なく、麦芽感等を損なうおそれが小さいため、アルコール含有蒸留液は、スピリッツであることがより好ましい。麦芽飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。
【0017】
本発明において、麦芽飲料は、発酵麦芽飲料であってもよいし、非発酵麦芽飲料であってもよい。
【0018】
本発明において、発酵麦芽飲料は、原料に麦芽を使用し、これを発酵させて得られる飲料であるが、原料に麦芽を使用し発酵させて得られる飲料にさらなる液を混合して製造される飲料も含まれる。例えば、麦芽由来の糖化液を発酵させて得られる飲料、麦芽由来の発酵液をさらなる液と混合して得られる飲料などは発酵麦芽飲料に該当する。ここで、さらなる液としては、水、炭酸水、アルコール含有蒸留液(例えばスピリッツ等の蒸留酒)等が挙げられる。発酵麦芽飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、ビール又は発泡酒をアルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類等が挙げられる。
【0019】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、アルコールの含有量は特に制限されず、アルコール飲料であってもよいし、ノンアルコール飲料であってもよい。本発明において「ノンアルコール飲料」とは、アルコール含量が1%未満である飲料をいう。
【0020】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、ビールテイスト飲料であることが好ましい。ビールテイスト飲料とは、アルコールの含有量とは無関係に、ビールの風味を有する飲料をいう。具体例としては、ビール、発泡酒、新ジャンル(発泡性酒類のうち、ホップを原料の一部とした酒類で、ビール及び発泡酒に該当しないもの)、ノンアルコールビール等を挙げることができる。
【0021】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料がビールテイストのアルコール飲料である場合、そのアルコール含量は、1~10%であることが好ましい。本明細書において、アルコール含量は、飲料全体の体積に対する該飲料に含まれるエチルアルコールの体積の百分率で表され、「%」は「v/v%」と表記することもできる。
【0022】
本発明において、麦芽飲料及び発酵麦芽飲料は、発泡性飲料であってもよいし、非発泡性飲料であってもよい。発泡性飲料は、炭酸を含んだ飲料である場合が多い。
【0023】
本発明において、2-アセチルテトラヒドロピリジンの語は、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジン、2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジン、又は2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの混合物を指す。本明細書では、2-アセチルテトラヒドロピリジンをATHPと称する場合がある。2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンは、互変異性の関係にある異性体(互変異性体)である。
【0024】
まず、本発明の麦芽の製造方法について説明する。
【0025】
本発明の麦芽の製造方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含む。焙燥は、発芽した麦を熱し、乾燥させ、焦げ色をつけるプロセスである。また、焙燥により、発芽した麦の成長を止め、麦芽の保存性を高めることもできる。本発明においては、発芽した麦に加熱した風(通常、空気)を吹き付けることで焙燥が行われる。例えば、焙燥工程において、発芽した麦は、焙燥窯内の多孔板又は金網で作られた棚(モルトベット)に広げて置かれており、ここに加熱した風を吹き込むことで焙燥を行うことができる。
【0026】
本発明の麦芽の製造方法は、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われることを特徴とする。
上記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0027】
本発明者は、麦芽の製造方法においてATHPの生成を制御することについて検討したところ、焙燥工程における温度及び時間がATHPの生成に影響することを見出した。更に検討を進め、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して特定の温度及び時間の条件で焙燥を行うことで、得られる麦芽に含まれるATHPを増大できることを見出した。そして、かかる麦芽を原料に用いることで、食品添加物を使用せずに、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を増大させることができる。
【0028】
本発明の麦芽の製造方法において、上記条件は、温度が85℃以上110℃以下であることが好ましく、時間が9時間以上72時間以内であることが好ましい。
【0029】
本発明の麦芽の製造方法において、上記条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましい。なお、発芽した麦の含水率は、凍結乾燥や焙燥工程の初期段階で適宜調整することが可能である。上記条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0030】
本発明において、発芽した麦の含水率(質量%)は、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.2 水分に記載の方法により測定することができる。
【0031】
本発明の麦芽の製造方法において、焙燥工程における最高温度は、85~110℃であることが好ましく、85~100℃であることが更に好ましい。
【0032】
本発明において、焙燥工程における最高温度は、発芽した麦に吹き付ける風の最高温度であるが、発芽した麦に吹き付ける時間が1時間より短い温度は最高温度と認定しないことを条件とする。最高温度での焙燥時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0033】
本発明の麦芽の製造方法において、最高温度での焙燥時間は、9~72時間であることが好ましく、10~48時間であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の麦芽の製造方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0035】
本発明の麦芽の製造方法は、上記条件での焙燥を開始するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0036】
本発明の麦芽の製造方法は、焙燥工程に加えて、製麦(モルティング)で行われるさらなる工程を含むことができる。本発明の麦芽の製造方法の一実施形態は、麦を水に漬ける浸漬工程と、麦を発芽させる発芽工程と、発芽した麦を焙燥する焙燥工程とを含むことができる。
【0037】
本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が10μg/l以上であることが好ましく、15~40μg/lであることが更に好ましい。
【0038】
本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽は、色度が1~300°EBCであることが好ましく、3~100°EBCであることが更に好ましい。
【0039】
本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽は、色度(°EBC)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y>0.0586x+9.7914
を満たすことが好ましい。
【0040】
本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が0~50°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは10μg/l以上であることが好ましく、13μg/l以上であることがより好ましく、16μg/l以上であることがさらに好ましい。また、本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が50~100°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは13μg/l以上であることが好ましく、16μg/l以上であることがより好ましく、19μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が100~150°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは16μg/l以上であることが好ましく、19μg/l以上であることがより好ましく、22μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が150~200°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは19μg/l以上であることが好ましく、22μg/l以上であることがより好ましく、25μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が200~250°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは22μg/l以上であることが好ましく、25μg/l以上であることがより好ましく、28μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が250~300°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは25μg/l以上であることが好ましく、28μg/l以上であることがより好ましく、31μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽の製造方法により得られる麦芽において、色度が300~350°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは28μg/l以上であることが好ましく、31μg/l以上であることがより好ましく、34μg/l以上であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明において、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルとは、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従って調製された麦汁の2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル濃度(ATHP濃度)を標準化した値であり、麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンの量の指標となる。ここで、麦汁が2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの両方を含む場合、ATHP濃度は、2-アセチル-3,4,5,6-テトラヒドロピリジンと2-アセチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリジンの総濃度を指す。
【0042】
2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルの求め方は、以下のとおりである。
【0043】
1.麦汁の調製
改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従って麦汁を調製する。具体的には、4.3.1 コングレス麦汁の調製における5.操作方法の(1)試料の調製、(2)仕込及び(3)ろ過に従って操作を行い、麦汁を調製する。
【0044】
2.ATHP濃度の測定
オートクレーブを用いて、上記「1.麦汁の調製」に従い調製された麦汁を105℃で60分間加熱し、ATHP濃度測定用の麦汁を用意する。
次いで、20gの麦汁に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷する。
次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させる。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(例えば、AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦汁のATHP濃度(μg/l)を測定する。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用できる。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とする。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用することができる。
【0045】
3.ATHP濃度の標準化
上記「2.ATHP濃度の測定」に従い測定されたATHP濃度の標準化のため、麦汁のATHP濃度(μg/l)を、上記「1.麦汁の調製」に従い調製された麦汁のエキス値(質量%)からエキス値10%に換算し(ATHP濃度×(10/エキス値))、得られた値(μg/l)をATHPポテンシャルとする。
ここで、麦汁のエキス値は、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の7.2 エキスに従って求められるエキス値(質量%)である。
【0046】
本発明において、麦芽の色度の求め方は、以下のとおりである。具体的に、上記「1.麦汁の調製」に従って麦汁を調製する。得られた麦汁の430nmでの吸光度を光路長10mmのセルで測定し、その測定値に25を乗じた数値を、麦汁の調製に用いた麦芽の色度(°EBC)とする。
【0047】
次に、本発明の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法について説明する。本明細書では、「本発明の麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法」を「本発明のATHP増大方法」とも称する。本発明のATHP増大方法は、本発明の麦芽の製造方法、特にその焙燥工程を利用する方法である。
【0048】
本発明のATHP増大方法は、発芽した麦を焙燥する焙燥工程を含み、焙燥工程において、含水率が10質量%以下である発芽した麦に対して80℃以上の温度及び8時間以上の条件で少なくとも焙燥が行われること特徴とする麦芽に含まれる2-アセチルテトラヒドロピリジンを増大させる方法である。
上記条件において、温度は、発芽した麦に吹き付ける風の温度であり、時間は、当該温度の風を発芽した麦に吹き付ける時間である。ここで、上記条件における時間は、連続した時間であることが好ましいが、断続した時間の合計であってもよい。
【0049】
本発明のATHP増大方法において、上記条件は、温度が85℃以上110℃以下であることが好ましく、時間が9時間以上72時間以内であることが好ましい。
【0050】
本発明のATHP増大方法において、上記条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率は、10質量%以下であり、8質量%以下であることが好ましい。上記条件で焙燥される際の発芽した麦の含水率の下限値は、例えば、3質量%である。
【0051】
本発明のATHP増大方法において、焙燥工程における最高温度は、85~110℃であることが好ましく、85~100℃であることが更に好ましい。
【0052】
本発明のATHP増大方法において、最高温度での焙燥時間は、9~72時間であることが好ましく、10~48時間であることが更に好ましい。
【0053】
本発明のATHP増大方法は、焙燥工程の開始時の温度(即ち、焙燥工程の開始時における発芽した麦に吹き付ける風の温度)が20~50℃であることが好ましく、20~30℃であることが更に好ましい。
【0054】
本発明のATHP増大方法は、上記条件での焙燥を開始するまで、焙燥工程の温度(即ち、発芽した麦に吹き付ける風の温度)を1~5℃/時間の速度で上昇させることが好ましく、1~3℃/時間の速度で上昇させることが更に好ましい。
【0055】
本発明のATHP増大方法は、焙燥工程に加えて、製麦(モルティング)で行われるさらなる工程を含むことができる。本発明のATHP低減方法の一実施形態は、麦を水に漬ける浸漬工程と、麦を発芽させる発芽工程と、発芽した麦を焙燥する焙燥工程とを含むことができる。
【0056】
本発明のATHP増大方法により得られる麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が10μg/l以上であることが好ましく、15~40μg/lであることが更に好ましい。
【0057】
本発明のATHP増大方法により得られる麦芽は、色度が1~300°EBCであることが好ましく、3~100°EBCであることが更に好ましい。
【0058】
本発明のATHP増大方法により得られる麦芽は、色度(°EBC)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y>0.0586x+9.7914
を満たすことが好ましい。
【0059】
本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が0~50°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは10μg/l以上であることが好ましく、13μg/l以上であることがより好ましく、16μg/l以上であることがさらに好ましい。また、本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が50~100°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは13μg/l以上であることが好ましく、16μg/l以上であることがより好ましく、19μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が100~150°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは16μg/l以上であることが好ましく、19μg/l以上であることがより好ましく、22μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が150~200°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは19μg/l以上であることが好ましく、22μg/l以上であることがより好ましく、25μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が200~250°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは22μg/l以上であることが好ましく、25μg/l以上であることがより好ましく、28μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が250~300°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは25μg/l以上であることが好ましく、28μg/l以上であることがより好ましく、31μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明のATHP増大方法により得られる麦芽において、色度が300~350°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは28μg/l以上であることが好ましく、31μg/l以上であることがより好ましく、34μg/l以上であることがさらに好ましい。
【0060】
次に、本発明の麦芽飲料の製造方法について説明する。本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用する麦芽飲料の製造方法である。
【0061】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として使用すること以外は特に限定されず、公知の麦芽飲料の製造方法で行われる工程を含むことができる。
【0062】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、麦芽飲料が非発酵の飲料である場合、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽及び必要に応じて適宜選択される原料を混合する混合工程と、得られた混合液に対して糖化を行う糖化工程と、必要に応じて、得られる糖化液にさらなる液を混合する追加の混合工程とを含むことができる。
【0063】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、麦芽飲料が発酵麦芽飲料である場合、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽及び必要に応じて適宜選択される原料を混合する混合工程と、得られた混合液に対して糖化を行う糖化工程と、得られる糖化液に対して発酵を行う発酵工程と、必要に応じて、得られる発酵液にさらなる液を混合する追加の混合工程とを含むことができる。
【0064】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を原料として用いる。ここで、原料として使用される麦芽は、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽のみであってもよいし、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽を、本発明の麦芽の製造方法に該当しない方法により得られた麦芽と併用してもよい。
【0065】
本発明の麦芽飲料の製造方法に使用できる麦芽以外の原料としては、飲用水や、麦芽以外の穀物や炭水化物といった糖質原料等が挙げられる。麦芽以外の糖質原料としては、大麦、小麦、エン麦等の麦類、米、とうもろこし(コーン)、スターチ、こうりゃん、大豆等の豆類等の穀物原料、ばれいしょ等のイモ類等、液糖や砂糖等の糖質原料が挙げられる。麦芽以外の糖質原料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
また、本発明の麦芽飲料の製造方法は、原料として、ホップを用いることができる。ホップは、ビールテイスト飲料にビールの風味及び苦味を付与する原料として通常使用される。ホップは加工品であってもよい。ホップ加工品とは、ホップを種々加工して得られるホップ製品をいう。ホップ加工品には、例えば、ホップを乾燥しただけの乾燥毬花、ホップをペレット状にしたホップペレット、ホップを有機溶媒や炭酸ガスで抽出したホップエキス、ホップをイソ化させたイソ化ホップエキス等が含まれる。麦芽飲料が発酵麦芽飲料(特にビール)である場合、通常、発酵工程を行う前に糖化液(特に麦汁)にホップを加える。
【0067】
本発明の麦芽飲料の製造方法に使用できる他の原料としては、着色剤、pH調整剤(重曹など)、ビタミン類、ペプチド、アミノ酸、水溶性食物繊維、酸化防止剤、安定化剤、乳化剤等、食品分野で通常用いられている原料や食品添加物等が挙げられる。
【0068】
本発明の麦芽飲料の製造方法において、糖化工程では、原料である麦芽と、必要に応じて使用される他の糖質原料の澱粉質から糖化液(特に麦汁)を調製することができる。
【0069】
糖化工程の具体例としては、麦芽や他の糖質原料と、温水とを仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。ここで、麦芽や他の糖質原料は、細かく砕いた形状で使用されることが好ましく、糊化、更には液化した状態で使用されることが好ましい。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、40~60℃で20~90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、他の原料や、糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤等を添加してもよい。本発明において、糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味し、麦芽自身にも含まれるものであるが、例えば、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0070】
その後、マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる(糖化処理)。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60~76℃にて30~90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76~78℃で10分間程度保持した後、マイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、固形分が除去された麦汁を得る。その他、麦芽の一部、他の糖質原料の一部又は全部、及び温水を仕込釜に加えて混合して調製したマイシェを、糖化処理した後、前述の仕込槽で糖化させたマイシェと混合したものを、麦汁濾過槽にて濾過することにより麦汁を得てもよい。
【0071】
また、糖化処理後の麦汁を煮沸してもよい(煮沸処理)。また、原麦汁エキス量を調整するため、煮沸処理を行う前に水を麦汁に加えてもよい。麦芽飲料がビールテイストの発酵麦芽飲料である場合、通常、得られた麦汁を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で混合してもよい。また、必要に応じて、ホップ以外の原料を麦汁に加えることもできる。煮沸した麦汁を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。
【0072】
本発明の麦芽飲料の製造方法において、発酵工程では、糖化液に、酵母を加えて発酵タンクに移し、発酵が行われる。発酵に供される糖化液を発酵前液ともいう。発酵温度は、通常8~15℃であり、その期間は3日間から10日間が好ましい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、発酵前液中の糖質をアルコールと二酸化炭素に分解できる酵母であれば使用できるが、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。例えば、麦芽飲料がビールテイストの発酵麦芽飲料である場合、ビール酵母を用いることができる。酵母は、上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよい。発酵工程後の発酵液を濾過することにより酵母等を除去して、発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0073】
本発明の麦芽飲料の製造方法は、発酵工程により得られる発酵液を熟成させる工程(貯酒工程)を含むことができる。貯酒工程では、発酵工程により得られる発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件で貯蔵し安定化させる。熟成後の発酵液を濾過することにより酵母等を除去して、発酵麦芽飲料を製造することができる。
【0074】
本発明の麦芽飲料の製造方法においては、所望のアルコール濃度とするために、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に適量の加水を行って希釈してもよい。また、本発明の麦芽飲料の製造方法においては、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に、炭酸ガスを添加してもよい。
【0075】
本発明の麦芽飲料の製造方法においては、発酵工程又は貯酒工程により得られる発酵液の濾過前又は濾過後に、アルコール含有蒸留液を混和して、リキュール類等としてもよい。
【0076】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、容器に充填・密封することにより、容器詰め飲料として提供することができる。容器としては、褐色容器、びん容器、褐色びん容器等が好適に挙げられる。容器の具体例としては、瓶(好ましくは褐色、茶色又は黒色のビール用びん)、缶(好ましくはアルミ缶)、樽等の他、ペットボトル等のプラスチック製の容器や紙製の容器等も挙げられる。
【0077】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、発酵麦芽飲料であってもよいし、非発酵麦芽飲料であってもよいが、発酵麦芽飲料であることが好ましく、ビールテイストの発酵麦芽飲料であることが更に好ましい。
【0078】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。ここで、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽は、麦芽飲料の製造に用いられる麦芽の質量の合計に対して5質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0079】
本発明において、麦芽比率は、麦芽飲料の製造に用いられる原料のうち、水及びホップ以外の原料の質量の合計に対する麦芽の質量の割合である。
【0080】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(ATHP濃度)が10μg/l以上であることが好ましく、10~50μg/lであることが更に好ましい。
【0081】
本発明において、麦芽飲料の2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度は、以下のように測定することができる。
20gの麦芽飲料に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷する。
次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させる。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(例えば、AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦芽飲料のATHP濃度(μg/l)を測定する。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用できる。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とする。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用することができる。
【0082】
本発明の麦芽飲料の製造方法により得られる麦芽飲料は、色度が5~190°EBCであることが好ましく、10~50°EBCであることが更に好ましい。
【0083】
本発明において、麦芽飲料の色度は、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の8.8 色度に記載の方法により測定することができる。
【0084】
次に、本発明の麦芽について説明する。
【0085】
本発明の麦芽は、色度(°EBC)をxとし、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(μg/l)をyとしたときに、xとyが以下の関係式:
y>0.0586x+9.7914
を満たすことを特徴とする麦芽である。
【0086】
本発明の麦芽は、色度と2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルが特定の関係式を満たしていることから、色度が同程度である従来の麦芽に比べて、2-アセチルテトラヒドロピリジンが増大している。これにより、麦芽飲料の穀物様香気を効果的に増強させることができる。
【0087】
y>0.0586x+9.7914の関係式を満たす麦芽は、本発明の麦芽の製造方法によって製造することができる。
【0088】
y>0.0586x+9.7914の関係式は、後述の実施例で説明されるとおり、市販の麦芽と、本発明の麦芽の製造方法によって得られた麦芽のATHPポテンシャル及び色度から得られた関係式である。
【0089】
本発明の麦芽は、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャル(ATHPポテンシャル)が10μg/l以上であることが好ましく、15~40μg/lであることが更に好ましい。
【0090】
本発明の麦芽は、色度が1~300°EBCであることが好ましく、3~100°EBCであることが更に好ましい。
【0091】
本発明の麦芽において、色度が0~50°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは10μg/l以上であることが好ましく、13μg/l以上であることがより好ましく、16μg/l以上であることがさらに好ましい。また、本発明の麦芽において、色度が50~100°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは13μg/l以上であることが好ましく、16μg/l以上であることがより好ましく、19μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽において、色度が100~150°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは16μg/l以上であることが好ましく、19μg/l以上であることがより好ましく、22μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽において、色度が150~200°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは19μg/l以上であることが好ましく、22μg/l以上であることがより好ましく、25μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽において、色度が200~250°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは22μg/l以上であることが好ましく、25μg/l以上であることがより好ましく、28μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽において、色度が250~300°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは25μg/l以上であることが好ましく、28μg/l以上であることがより好ましく、31μg/l以上であることがさらに好ましい。本発明の麦芽において、色度が300~350°EBCであるとき、ATHPポテンシャルは28μg/l以上であることが好ましく、31μg/l以上であることがより好ましく、34μg/l以上であることがさらに好ましい。
【0092】
次に、本発明の麦芽飲料について説明する。本発明の麦芽飲料は、本発明の麦芽を原料とする麦芽飲料であり、本発明の麦芽飲料の製造方法によって製造することができる。
【0093】
本発明の麦芽飲料は、発酵麦芽飲料であってもよいし、非発酵麦芽飲料であってもよいが、発酵麦芽飲料であることが好ましく、ビールテイストの発酵麦芽飲料であることが更に好ましい。
【0094】
本発明の麦芽飲料は、麦芽比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることが更に好ましい。ここで、本発明の麦芽飲料の原料として使用された本発明の麦芽は、本発明の麦芽飲料の原料として使用された麦芽の質量の合計に対して5質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0095】
本発明の麦芽飲料は、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度(ATHP濃度)が10μg/l以上であることが好ましく、10~50μg/lであることが更に好ましい。
【0096】
本発明の麦芽飲料は、色度が5~190°EBCであることが好ましく、10~50°EBCであることが更に好ましい。
【実施例0097】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0098】
<試験1>
1.発芽した麦(緑麦芽)
大麦麦芽を用いて、含水率が40質量%である緑麦芽を用意した。具体的に、浸麦と通気、排水を適宜繰り返し行いながら2日間麦を浸麦し、5日間発芽工程に供した。最終的な緑麦芽の含水率が40質量%程度となるように発芽工程中の散水量を調整した。
また、該緑麦芽を凍結乾燥して含水率を5質量%に調整した麦芽を用意した。
【0099】
2.熱処理
80℃の風を緑麦芽に48時間吹き付けて、緑麦芽を熱した。ここでは、実験室用の恒温器(EYELA LTI-601SD)を使用して、送風し、焙燥を行った。焙燥中に緑麦芽が乾燥しないよう、恒温器の内部に水槽を設置し、湿度を維持した。
【0100】
3.分析
熱処理前後の麦芽について、上述した方法に従い、2-アセチルテトラヒドロピリジンポテンシャルを求めた。
具体的には、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の4.3.1 コングレス麦汁の調製に従い麦汁を調製した。オートクレーブを用いて、麦汁を105℃で60分間加熱し、ATHP濃度測定用の麦汁を用意した。次いで、20gの麦汁に50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷した。次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させた。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、麦汁のATHP濃度(μg/l)を測定した。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用した。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とした。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用した。
測定されたATHP濃度の標準化のため、麦汁のATHP濃度(μg/l)を、改訂BCOJビール分析法 2013年増補改訂(公益財団法人日本醸造協会)の7.2 エキスに従って求められる麦汁のエキス値からエキス値10%に換算し(ATHP濃度×(10/エキス値))、得られた値(μg/l)をATHPポテンシャルとした。結果を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1から、乾燥した緑麦芽への熱処理によってATHPポテンシャルが増大することが分かる。なお、含水率が40質量%である緑麦芽に対して熱処理を行った後、当該麦芽の含水率を測定したところ、5質量%となっていた。熱処理により麦芽の含水率が低下した後、麦芽のATHPが増大したものと考えられる。
【0103】
<試験2>
1.発芽した麦(緑麦芽)
大麦麦芽を乾燥させて含水率が10質量%以下である緑麦芽を用意した。
また、市販の焙燥された麦芽(15種類)を比較用に用意した。
【0104】
2.焙燥
最高温度を80℃、70℃、60℃、50℃、40℃、及び30℃とする条件にて緑麦芽の焙燥を行った。最高温度での焙燥時間は、8時間、24時間、及び48時間とした。
【0105】
3.分析
焙燥後の麦芽について、試験1と同様に、ATHPポテンシャルを求めた。結果を表2に示す。表中の温度は焙燥工程における最高温度を示し、時間は最高温度での焙燥時間を示す。
【0106】
【表2】
【0107】
表2から、含水率が10質量%以下である緑麦芽に焙燥を行う場合、焙燥工程における最高温度が80℃であると、最高温度での焙燥時間が同じあるが焙燥工程における最高温度が80℃未満である場合と比べて、焙燥後の麦芽に含まれるATHPを増大できることが分かる。また、最高温度での焙燥時間を長くすることで、麦芽に含まれるATHPを増大できることも分かる。
【0108】
更に、焙燥後の麦芽の色度と、市販の麦芽(15種類)のATHPポテンシャル及び色度とを求めた。
【0109】
図1は、麦芽のATHPポテンシャル(μg/l)を縦軸(y軸)とし、麦芽の色度(°EBC)を横軸(x軸)とし、焙燥後の麦芽及び市販の麦芽のデータをプロットしたグラフである。市販の麦芽のうち、色度に対するATHPポテンシャルの値が高いプロット2点を結び、y=0.0586x+9.7914の関係式を得た。市販の麦芽はすべてy≦0.0586x+9.7914の関係式を満たしている。図1において、y=0.0586x+9.7914の関係式より上部のプロットが本発明に従う条件で焙燥された麦芽であり、y=0.0586x+9.7914の関係式上にある2点のプロットと、その下部のプロットが市販の麦芽である。
【0110】
図1から、麦芽の色度が高いほどATHPポテンシャルが高い傾向にあることが分かる。特に、本発明の麦芽の製造方法により得られた麦芽は、その色度に対して、従来の麦芽よりも高いATHPポテンシャルを示しており、y>0.0586x+9.7914の関係式を満たしていることが分かる。
【0111】
<試験3>
1.使用した麦芽
試験2において最高温度80℃及び最高温度での焙燥時間48時間の条件で焙燥された麦芽(ATHPポテンシャル21μg/l、色度71°EBC)を用いた。
また、上記15種類の市販の麦芽のうち、ATHPポテンシャルが9.5μg/l、色度が60°EBCである麦芽を比較用に用いた。
【0112】
2.ビールの製造
麦芽比率100質量%のビールを常法に従い製造した。
【0113】
3.分析
ビールについて、上述した方法に従い、2-アセチルテトラヒドロピリジン濃度を求めた。
具体的には、20gのビールに50μLの内部標準溶液(4μg/mLのATHP安定同位体を含有する)、200μLのギ酸及び10mLの蒸留水を加え、得られた液をカラム(例えば、Waters社製OASIS MCX 500mg/6ml)に負荷した。次いで、5mLの1%ギ酸水でカラムを洗浄後、5mLの2%アンモニアのメタノール溶液でカラムに負荷した液を溶出させた。溶出液を蒸留水で2倍に希釈し、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS/MS)(AB-SCIEX社製5500QTRAP)により分析を行い、ビールのATHP濃度(μg/l)を測定した。
液体クロマトグラフ質量分析計では、カラムとしてWaters社製ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm、2.1×100mmを使用した。移動相条件は、例えば、A液:10mM 炭酸水素アンモニウム、B液:アセトニトリルを用い、(B体積%、t):(10体積%、1min)、(50体積%、6min)、ATHPのトラジションは126→84(コリジョンエナジー:23V)とした。定量には、標準品を添加して作成した検量線を使用した。
【0114】
ATHPポテンシャルが21μg/l、色度が71°EBCである麦芽を原料として用いたビール(実施例)は、ATHP濃度が20.98μg/lであり、色度が42.1°EBCであった。
また、ATHPポテンシャルが9.5μg/l、色度が60°EBCである麦芽を原料として用いたビール(比較例)は、ATHP濃度が9.6μg/lであり、色度が49.5°EBCであった。
【0115】
4.官能評価
実施例のビールは、比較例のビールと同程度の色度であったが、ATHP濃度が高く、穀物様香気の強度が増強されていた。
図1