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特開2024-172981情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172981
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20241205BHJP
【FI】
G06N20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091074
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 亘佑
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 優大
(57)【要約】
【課題】実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じ得る場合であっても、より確信度の高い情報を提供することが可能な情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】実施形態の情報処理装置は、対象事象の観測データを取得し、第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出し、数値計算モデルを用いて、前記成分量セットから、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成し、第2機械学習モデルを用いて、前記観測データから前記観測データの特徴量表現である第1特徴量表現を生成し、前記疑似観測データから前記疑似観測データの特徴量表現である第2特徴量表現を生成し、少なくとも前記第1特徴量表現と前記第2特徴量表現とに基づいて、前記第1機械学習モデルを学習する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象事象の観測データを取得する取得部と、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出する成分量算出部と、
数値計算モデルを用いて、前記成分量セットから、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成する疑似観測データ生成部と、
第2機械学習モデルを用いて、前記観測データから前記観測データの特徴量表現である第1特徴量表現を生成し、前記疑似観測データから前記疑似観測データの特徴量表現である第2特徴量表現を生成する特徴量表現生成部と、
少なくとも前記第1特徴量表現と前記第2特徴量表現とに基づいて、前記第1機械学習モデルを学習する機械学習部と、
を備える情報処理装置。
【請求項2】
前記機械学習部は、前記第1特徴量表現及び前記第2特徴量表現の差分である第1差分と、前記観測データ及び前記疑似観測データの差分である第2差分とが含まれる第1損失関数に基づいて、前記第1機械学習モデルを学習する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記第1損失関数は、前記第1差分及び前記第2差分が小さいほど、より小さな損失を出力する関数であり、
前記機械学習部は、前記損失が小さくなるように、前記第1機械学習モデルを学習する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記疑似観測データ生成部は、前記成分量セットから、疑似的な前記成分量セットである疑似成分量セットであって、前記主成分量が互いに同じ複数の疑似成分量セットと、前記主成分量が互いに異なる複数の疑似成分量セットとを生成し、前記数値計算モデルを用いて、前記複数の疑似成分量セットの其々について第2疑似観測データを生成し、
前記特徴量表現生成部は、前記第2機械学習モデルを用いて、前記疑似成分量セットごとに生成された前記第2疑似観測データの其々について、前記第2疑似観測データの特徴量表現である第3特徴量表現を生成し、
前記機械学習部は、前記第2疑似観測データの其々の前記第3特徴量表現同士の差分に基づいて、前記第2機械学習モデルを学習する、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記機械学習部は、前記主成分量が同じ前記第3特徴量表現同士の差分である第3差分と、前記主成分量が異なる前記第3特徴量表現同士の差分である第4差分とのうち少なくとも一方が含まれる第2損失関数に基づいて、前記第2機械学習モデルを学習する、
請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記第2損失関数は、前記第3差分が小さいほど、より小さな損失を出力し、前記第4差分が大きいほど、より小さな損失を出力する関数であり、
前記機械学習部は、前記損失が小さくなるように、前記第2機械学習モデルを学習する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記観測データには、患者の皮膚を撮像した画像から得られる分光反射率が含まれ、
前記成分量セットには、前記患者の生体内部成分量が含まれる、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記第1機械学習モデルは、ニューラルネットワーク又は遺伝的アルゴリズムを用いたモデルであり、
前記数値計算モデルは、モンテカルロ法、クベルカムンク理論、又はランベルト-ベールの法則を用いたモデルであり、
前記第2機械学習モデルは、ニューラルネットワークを用いたモデルである、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項9】
コンピュータを用いた情報処理方法であって、
対象事象の観測データを取得すること、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出すること、
数値計算モデルを用いて、前記成分量セットから、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成すること、
第2機械学習モデルを用いて、前記観測データから前記観測データの特徴量表現である第1特徴量表現を生成し、前記疑似観測データから前記疑似観測データの特徴量表現である第2特徴量表現を生成すること、
少なくとも前記第1特徴量表現と前記第2特徴量表現とに基づいて、前記第1機械学習モデルを学習すること、
を含む情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
対象事象の観測データを取得すること、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出すること、
数値計算モデルを用いて、前記成分量セットから、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成すること、
第2機械学習モデルを用いて、前記観測データから前記観測データの特徴量表現である第1特徴量表現を生成し、前記疑似観測データから前記疑似観測データの特徴量表現である第2特徴量表現を生成すること、
少なくとも前記第1特徴量表現と前記第2特徴量表現とに基づいて、前記第1機械学習モデルを学習すること、
を含むプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
浮腫は心不全や静脈血栓といった多様な疾患の重要な所見である。適切な治療を施すためには浮腫の原因疾患の特定が必要である。一般的には、医師は視診や触診で得た情報を基に診断を行う。しかしながら、医師の主観的判断のため、診断精度が医学的知見や技量に大きく左右される。この問題を解決するために、カメラから得られた画像を解析する方法があり、浮腫に関連する情報を非侵襲かつ簡便に定量化することができる。
【0003】
光学カメラを用いた浮腫認識手法として、シミュレーションと機械学習を組み合わせた方法がある。例えば、オートエンコーダと呼ばれる機械学習モデルを用いて画像からシミュレーションの入力パラメータ(生体内部成分)を推定することが考えられる。しかしながら、シミュレーションと実際の現象には乖離があるにも関わらず、観測値を復元するようにオートエンコーダを学習すると、患者の状態が反映された主成分を含む生体内部成分を正しく推定することができない。
【0004】
オートエンコーダを学習する手法として、例えば、画像特徴量の誤差を含む損失関数に基づきオートエンコーダを学習する手法や、エンコーダとデコーダを組み合わせた変分オートエンコーダを用いて、入力データを次元圧縮することで潜在変数を生成するとともに、潜在変数を復元して出力データを生成し、他のエンコーダを用いて出力データを次元圧縮することで潜在変数を生成し、2つの潜在変数の誤差を含む損失関数に基づき変分オートエンコーダを学習する手法が知られている。
【0005】
しかしながら、これらの手法を実際の現象(観測値)とシミュレーション結果(復元値)との間に乖離があるシーンに適用すると、乖離を無視して学習が進められてしまう場合がある。その結果、実際の患者の状態と異なる状態が推定されてしまい、浮腫状態の誤認識を引き起こす場合があった。
【0006】
実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じるシーンは、浮腫以外の他の症状や疾患においても存在する。また、実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じるシーンは、医学的分野に限らず、物理、化学、工学、生物、地学、情報、金融、経済といったあらゆる分野においても出現し得る。従って、上記の問題は、実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じ得るあらゆる分野において共通するところである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-71808号公報
【特許文献2】特開2020-154561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題は、実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じ得る場合であっても、より確信度の高い情報を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の情報処理装置は、取得部と、成分量算出部と、疑似観測データ生成部と、特徴量表現生成部と、機械学習部とを持つ。前記取得部は、対象事象の観測データを取得する。前記成分量算出部は、第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出する。前記疑似観測データ生成部は、数値計算モデルを用いて、前記成分量セットから、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成する。前記特徴量表現生成部は、第2機械学習モデルを用いて、前記観測データから前記観測データの特徴量表現である第1特徴量表現を生成し、前記疑似観測データから前記疑似観測データの特徴量表現である第2特徴量表現を生成する。前記機械学習部は、少なくとも前記第1特徴量表現と前記第2特徴量表現とに基づいて、前記第1機械学習モデルを学習する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における情報処理装置100の構成例を表す図。
図2】実施形態に係る処理回路120の一連の処理の流れを表すフローチャート。
図3図2に表すフローチャートのサブルーチン。
図4】疑似生体内部成分量の生成方法について説明するための図。
図5】第2疑似分光反射率R^の生成方法と、正ペア及び負ペアの分類方法について説明するための図。
図6】表現生成モデルMDL3の学習方法を説明するための図。
図7】エンコーダMDL1の学習方法を説明するための図。
図8】実施形態に係る処理回路120の一連の処理の流れを表すフローチャート。
図9】生体内部成分量マップが表示されたディスプレイ113aの画面例を表す図。
図10】生体内部成分量マップが表示されたディスプレイ113aの画面例を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、実施形態の情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムについて説明する。
【0012】
[概要]
実施形態の情報処理装置は、対象事象を観測したときに得られる観測データ(以下、実観測データという)を取得する。例えば、対象事象は、医学的分野においては「浮腫」であり、その実観測データは、浮腫画像から得られる「分光反射率」である。なお対象事象は浮腫に限らず、その他の症状や疾患であってもよい。また、対象事象は医学的分野に限らず、物理、化学、工学、生物、地学、情報、金融、経済といった、その他の分野において解析したい対象であってよい。本実施形態では、一例として、対象事象が「浮腫」であるものとして説明する。
【0013】
実施形態の情報処理装置は、浮腫画像を取得すると、更に、第1機械学習モデルを用いて、浮腫画像から得られる分光反射率(浮腫画像の各画素値に相当する分光反射率)から、浮腫を患う患者の生体内部成分量を算出する。
【0014】
生体内部成分量には、例えば、CHb,CH2O,Cmelなどの様々な特徴量が含まれてよい。CHbは、真皮に含まれるヘモグロビン濃度[g/L]であり、CH2Oは、皮下組織に含まれる水分濃度[g/L]であり、Cmelは、表皮に含まれるメラニン濃度[g/L]である。つまり、生体内部成分量とは、複数の成分量が組み合わされた成分量セットである(各成分量を一つの要素とした場合、生体内部成分量は多次元ベクトルで表されてよい)。観測データが「浮腫」でなく、例えばコンクリートの「亀裂」である場合、第1機械学習モデルを用いて得られる成分量セットには、硬度、ひずみ、炭素量、超音波の伝搬速度などの成分量が含まれてよい。
【0015】
実施形態の情報処理装置は、数値計算モデルを用いて、生体内部成分量から分光反射率を復元(再構成)する。言い換えれば、情報処理装置は、数値計算モデルを用いて、生体内部成分量から、疑似的に分光反射率を再現した疑似分光反射率を生成する。疑似分光反射率は「疑似観測データ」の一例である。
【0016】
実施形態の情報処理装置は、第1機械学習モデルと異なる第2機械学習モデルを用いて、分光反射率の特徴量表現を生成するとともに、疑似分光反射率の特徴量表現を生成する。分光反射率の特徴量表現は、「第1特徴量表現」の一例であり、疑似分光反射率の特徴量表現は、「第2特徴量表現」の一例である。
【0017】
そして実施形態の情報処理装置は、分光反射率及び疑似分光反射率の其々の特徴量表現に少なくとも基づいて、第1機械学習モデルを学習する。「少なくとも」とは、分光反射率及び疑似分光反射率の其々の特徴量表現に加えて更に、他の要素(後述する分光反射率と疑似分光反射率との差分等)が含まれてよいことを意味する。
【0018】
このように学習された第1機械学習モデルを用いて、患者の浮腫画像から、その患者の生体内部成分量を推定し、その生体内部成分量を基に患者を診断することができる。この結果、実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じ得る場合であっても、より確信度の高い情報(ここでは生体内に浮腫が存在するか否かという診断結果)を提供することができる。
【0019】
[情報処理装置の構成]
図1は、実施形態における情報処理装置100の構成例を表す図である。情報処理装置100は、例えば、通信インタフェース111と、入力インタフェース112と、出力インタフェース113と、メモリ114と、処理回路120とを備える。
【0020】
通信インタフェース111は、通信ネットワークNWを介して外部装置と通信する。通信ネットワークNWは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味してよい。例えば、通信ネットワークNWは、病院基幹LAN(Local Area Network)等の無線/有線LANやインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワーク等を含む。通信インタフェース111は、例えば、NIC(Network Interface Card)や無線通信用のアンテナ等を含む。
【0021】
入力インタフェース112は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路120に出力する。例えば、入力インタフェース112は、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパネル等を含む。入力インタフェース112は、例えば、マイクロフォン等の音声入力を受け付けるユーザインタフェースであってもよい。入力インタフェース112がタッチパネルである場合、入力インタフェース112は、後述する出力インタフェース113に含まれるディスプレイ113aの表示機能を兼ね備えるものであってもよい。
【0022】
なお、本明細書において入力インタフェース112はマウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース112の例に含まれる。
【0023】
出力インタフェース113は、例えば、ディスプレイ113aやスピーカ113bなどを備える。ディスプレイ113aは、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ113aは、処理回路120によって生成された画像や、操作者からの各種の入力操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を表示する。例えば、ディスプレイ113aは、LCD(Liquid Crystal Display)や、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等である。スピーカ113bは、処理回路120から入力された情報を音声として出力する。
【0024】
メモリ114は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスクによって実現される。これらの非一過性の記憶媒体は、NAS(Network Attached Storage)や外部ストレージサーバ装置といった通信ネットワークNWを介して接続される他の記憶装置によって実現されてもよい。また、メモリ114には、ROM(Read Only Memory)やレジスタ等の非一過性の記憶媒体が含まれてもよい。メモリ114には、処理回路120のハードウェアプロセッサによって実行されるプログラムや、処理回路120による各種演算結果、モデル情報などが格納される。
【0025】
モデル情報は、後述のエンコーダMDL1及びデコーダMDL2を含むオートエンコーダと、オートエンコーダの学習の際に利用される特徴量表現を生成するための表現生成モデルMDL3とを定義した情報(プログラムまたはアルゴリズム)である。MDLは、MODELの省略形を表した単なる符号である。
【0026】
処理回路120は、例えば、取得機能121と、疑似観測データ生成機能122と、成分量算出機能123と、特徴量表現生成機能124と、機械学習機能125と、出力制御機能126とを備える。処理回路120は、例えば、ハードウェアプロセッサ(コンピュータ)がメモリ114(記憶回路)に記憶されたプログラムを実行することにより、これらの機能を実現するものである。取得機能121は「取得部」の一例であり、疑似観測データ生成機能122は「疑似観測データ生成部」の一例であり、成分量算出機能123は「成分量算出部」の一例であり、特徴量表現生成機能124は「特徴量表現生成部」の一例であり、機械学習機能125は「機械学習部」の一例である。
【0027】
処理回路120におけるハードウェアプロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit; ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device; SPLD)または複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device; CPLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array; FPGA))等の回路(circuitry)を意味する。メモリ114にプログラムを記憶させる代わりに、ハードウェアプロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合、ハードウェアプロセッサは、回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。上記のプログラムは、予めメモリ114に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROM等の非一時的記憶媒体に格納されており、非一時的記憶媒体が情報処理装置100のドライブ装置(不図示)に装着されることで非一時的記憶媒体からメモリ114にインストールされてもよい。ハードウェアプロセッサは、単一の回路として構成されるものに限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのハードウェアプロセッサとして構成され、各機能を実現するようにしてもよい。また、複数の構成要素を1つのハードウェアプロセッサに統合して各機能を実現するようにしてもよい。
【0028】
[情報処理装置の処理フロー:トレーニングの前半]
以下、フローチャートに即しながら、情報処理装置100の処理回路120による一連の処理について説明する。図2は、実施形態に係る処理回路120の一連の処理の流れを表すフローチャートである。図3は、図2に表すフローチャートのサブルーチンである。本フローチャートの処理は、後述のエンコーダMDL1を学習(トレーニング)する際に実行される。
【0029】
まず、取得機能121は、学習対象である患者の浮腫画像を取得する(ステップS100)。
【0030】
浮腫画像とは、例えば、浮腫が存在し得る部位の皮膚の分光反射率Rを可視化するカメラで当該皮膚が撮像された画像である。浮腫画像は、例えば、幅xと、高さyと、可視化する際の波長λとによって表される三次元画像であってよい。浮腫画像の各画素の画素値は、分光反射率Rである。
【0031】
浮腫画像の生成に利用されるカメラは、典型的には、複数の波長帯(スペクトル)の分光反射率Rを可視化するマルチスペクトルカメラであるがこれに限られず、単一の波長帯の分光反射率Rのみを可視化するカメラであってもよい。
【0032】
以下、浮腫画像の各画素の画素値に相当する分光反射率Rを、「実分光反射率R」と称して説明する。実分光反射率Rを画素値としてもつ浮腫画像、又はその浮腫画像の各画素の実分光反射率Rは、「実観測データ」の一例である。
【0033】
例えば、取得機能121は、通信インタフェース111を介して、外部装置であるデータベースにアクセスし、そのデータベースから浮腫画像を取得してよい。また、患者の主治医などが入力インタフェース112に浮腫画像を入力した場合、取得機能121は、入力インタフェース112から浮腫画像を取得してもよい。更に、メモリ114に浮腫画像が格納された場合、取得機能121は、メモリ114から浮腫画像を取得してもよい。
【0034】
取得機能121は、カメラによって撮像された浮腫画像を取得することに加えて、又は代えて、患者の腕や足などに装着されたウェアラブルセンサにより検出された皮膚表面の吸光度を浮腫画像として取得してもよい。
【0035】
取得機能121は、浮腫画像を取得すると、その浮腫画像に対して、平滑化フィルタやエッジ抽出といった画像処理を行ってもよい。これによって、浮腫画像に写りこむ掌紋や体毛などを除去することができ、浮腫画像から浮腫の特徴量をより精度よく抽出することができる。
【0036】
次に、成分量算出機能123は、取得機能121によって取得された浮腫画像に含まれる多数の画素の中から、学習対象とする一つの画素を選択する(ステップS102)。
【0037】
次に、成分量算出機能123は、メモリ114に格納されたモデル情報によって定義されたエンコーダMDL1を用いて、学習対象の画素の画素値、つまり実分光反射率Rから生体内部成分量を算出する(ステップS104)。生体内部成分量は「成分量セット」の一例である。
【0038】
冒頭で説明した通り、生体内部成分量には、例えば、CHb(ヘモグロビン濃度[g/L]),CH2O(皮下組織に含まれる水分濃度[g/L]),Cmel(表皮に含まれるメラニン濃度[g/L])などの様々な成分量が含まれてよい。
【0039】
エンコーダMDL1は、オートエンコーダの前段部分の機械学習モデルであり、実分光反射率Rから生体内部成分量に変換する。エンコーダMDL1によって出力される生体内部成分量は、いわゆる潜在変数zに相当する。エンコーダMDL1は「第1機械学習モデル」の一例である。
【0040】
エンコーダMDL1は、例えば、ある患者の浮腫画像の各画素の実分光反射率Rに、後述のデコーダMDL2の出力結果(当該患者の浮腫画像の各画素の分光反射率R^)が近づくように学習されたニューラルネットワークによって実装されてよい。エンコーダMDL1は、ニューラルネットワークに代えて、遺伝的アルゴリズムを用いて実装されてもよい。更に、エンコーダMDL1は、ベイズ最適化や、グリッドサーチ、ランダムサーチ、CMA-ES、Nelder-Mead法、準ニュートン法といったその他の最適化手法を用いて実装されてよい。
【0041】
エンコーダMDL1や後述の表現生成モデルMDL3がニューラルネットワークによって実装される場合、モデル情報には、例えば、当該ニューラルネットワークを構成する入力層、一以上の隠れ層(中間層)、出力層の其々の層に含まれるユニットが互いにどのように結合されるのかという結合情報や、結合されたユニット間で入出力されるデータに付与される結合係数がいくつであるのかという重み情報などが含まれる。
【0042】
結合情報は、例えば、各層に含まれるユニット数や、各ユニットの結合先のユニットの種類を指定する情報、各ユニットを実現する活性化関数、隠れ層のユニット間に設けられたゲートなどの情報を含む。
【0043】
ユニットを実現する活性化関数は、例えば、ReLU(Rectified Linear Unit)関数やELU(Exponential Linear Units)関数、クリッピング関数、シグモイド関数、ステップ関数、ハイパポリックタンジェント関数、恒等関数などであってよい。ゲートは、例えば、活性化関数によって返される値(例えば1または0)に応じて、ユニット間で伝達されるデータを選択的に通過させたり、重み付けたりする。
【0044】
結合係数は、例えば、ニューラルネットワークの隠れ層において、ある層のユニットから、より深い層のユニットにデータが出力される際に、出力データに対して付与される重みを含む。また、結合係数は、各層の固有のバイアス成分などを含んでもよい。
【0045】
例えば、成分量算出機能123は、エンコーダMDL1に対して、学習対象の画素の画素値に相当する実分光反射率Rを入力する。これを受けて、エンコーダMDL1は、実分光反射率Rが入力されたことに応じて、生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)を出力する。つまり、成分量算出機能123は、エンコーダMDL1を用いて、学習対象の画素の画素値に相当する実分光反射率Rを、生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)に変換(エンコード)する。
【0046】
以下、エンコーダMDL1によって実分光反射率Rから算出又は変換される生体内部成分量を、「実生体内部成分量」と称して説明する。
【0047】
次に、疑似観測データ生成機能122は、メモリ114に格納されたモデル情報によって定義されたデコーダMDL2を用いて、成分量算出機能123によって実分光反射率Rから算出又は変換された実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から、元の実分光反射率Rを疑似的に再現した分光反射率R^を算出又は生成する(ステップS106)。
【0048】
デコーダMDL2は、ある患者の生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から、当該患者の浮腫画像の各画素の分光反射率R^を計算又はシミュレートする数値計算モデルである。デコーダMDL2は、例えば、モンテカルロ法、クベルカムンク理論、又はランベルト-ベールの法則に基づいて実装されてよい。デコーダMDL2は、シミュレータとも呼ばれる。
【0049】
例えば、疑似観測データ生成機能122は、デコーダMDL2に対して、実分光反射率Rから算出又は変換された実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)を入力する。これを受けて、デコーダMDL2は、実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)が入力されたことに応じて、分光反射率R^をシミュレートして出力する。つまり、疑似観測データ生成機能122は、デコーダMDL2を用いて、実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から分光反射率R^を復元(デコード)する。デコーダMDL2を用いて、実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から分光反射率R^を復元することは「再構成」と読み替え、更に復元された分光反射率R^のことを「再構成結果R^」と読み替えてもよい。
【0050】
以下、デコーダMDL2によって実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から復元された分光反射率R^を、「第1疑似分光反射率R^」と称して説明する。
【0051】
次に、機械学習機能125は、メモリ114に格納されたモデル情報によって定義された表現生成モデルMDL3が学習済みであるのか否かを判定する(ステップS108)。学習済みとは、例えば、何度も繰り返し学習されて、その学習が十分である状態(表現生成モデルMDL3の性能が安定している状態)である。
【0052】
表現生成モデルMDL3が学習済みでない場合、機械学習機能125は、未学習の表現生成モデルMDL3を学習する。
【0053】
表現生成モデルMDL3は、例えば、実分光反射率R又は疑似分光反射率R^が入力されると、それら分光反射率から、分光反射率を識別可能な特徴量を生成する(分光反射率を特徴空間に埋め込む)ように学習される機械学習モデルである。表現生成モデルMDL3は、いわゆる距離学習(Distance metric learning)を用いてニューラルネットワークによって実装される。以下、表現生成モデルMDL3によって生成された特徴量のことを特に特徴量表現と称して説明する。特徴量表現は特徴量ベクトルと読み替えてもよい。
【0054】
[サブルーチン:表現生成モデルのトレーニング]
以下、図3のサブルーチンのフローチャートを用いて、表現生成モデルMDL3のトレーニング方法について説明する。
【0055】
まず、疑似観測データ生成機能122は、エンコーダMDL1を用いて実分光反射率Rから変換された実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)を基に、多数の疑似的な生体内部成分量(以下、疑似生体内部成分量という)を算出する(ステップS200)。
【0056】
例えば、疑似観測データ生成機能122は、実生体内部成分量に含まれる複数の成分量のうち、所定の成分量を主成分量に決定し、残りの成分量を非主成分量に決定する。主成分となり得る所定の成分量は、例えば、CHb(ヘモグロビン濃度[g/L])やCH2O(皮下組織に含まれる水分濃度[g/L])であってよい。非主成分量は、例えば、残りのCmel(表皮に含まれるメラニン濃度[g/L])や皮膚の厚さなどであってよい。
【0057】
疑似観測データ生成機能122は、主成分量を一定量ずつ増加させて、非主成分量を所定の上下限範囲でランダムに変動させる(例えば正規分布に従って変動させる)ことで、多数の疑似生体内部成分量を生成する。所定の上限及び下限には、臨床研究などによって公知となった値を採用してよい。
【0058】
図4は、疑似生体内部成分量の生成方法について説明するための図である。例えば、主成分量をCHb(ヘモグロビン濃度[g/L])とした場合、疑似観測データ生成機能122は、主成分量CHbを50[%]に決定し、更に非主成分量(CH2O,Cmel,…)をランダムに決定し、CHbが50[%]で同じであり、かつ非主成分量(CH2O,Cmel,…)が互いに異なるN個の疑似生体内部成分量を生成する。図示の例では、CHbが50[%]で共通の疑似生体内部成分量のサンプルがN個生成されている(Nは任意の自然数である)。
【0059】
同様に、疑似観測データ生成機能122は、主成分量CHbを60[%]に決定し、更に非主成分量(CH2O,Cmel,…)をランダムに決定し、CHbが60[%]で同じであり、かつ非主成分量(CH2O,Cmel,…)が互いに異なるN個の疑似生体内部成分量を生成する。主成分量CHbが70[%]や80[%]のときも同様にN個の疑似生体内部成分量が生成される。
【0060】
サブルーチンの説明に戻る。次に、疑似観測データ生成機能122は、デコーダMDL2を用いて、互いに異なる複数の主成分量の其々において生成されたN個の疑似生体内部成分量から、疑似生体内部成分量ごとに疑似分光反射率R^を算出又は生成する(ステップS202)。
【0061】
以下、デコーダMDL2によって疑似生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel,…)から復元された分光反射率R^を、「第2疑似分光反射率R^」と称して説明する。第2疑似分光反射率R^は、「第2疑似観測データ」の一例である。
【0062】
次に、疑似観測データ生成機能122は、主成分量の近さに基づいて、多数の第2疑似分光反射率R^を、正ペアと負ペアに分類する(ステップS204)。
【0063】
図5は、第2疑似分光反射率R^の生成方法と、正ペア及び負ペアの分類方法について説明するための図である。図示のように、主成分量CHbが50[%]で同じであり、かつ非主成分が互いに異なるN個の疑似生体内部成分量が生成された場合、N個の疑似生体内部成分量の其々について第2疑似分光反射率R^が算出される。主成分量CHbが60[%]、70[%]、80[%]のときも同様である。
【0064】
疑似観測データ生成機能122は、各第2疑似分光反射率R^に対して、撮影時に生じるノイズを再現した信号処理を適用してもよい。例えば、陰影の写り込みを再現するために、全波長における分光反射率を一律で低下させてよい。また、カメラセンサのノイズを再現するために、特定の波長のみ分光反射率を変化させてもよい。
【0065】
疑似観測データ生成機能122は、多数の第2疑似分光反射率R^のうち、主成分量が同一であり、かつ非主成分量が異なる2つの第2疑似分光反射率R^を、正ペアに分類し、主成分量が異なる2つの第2疑似分光反射率R^(非主成分量は同一でもよいし異なっていてもよい)を、負ペアに分類する。
【0066】
例えば、説明の便宜上、主成分量CHbが50[%]の第2疑似分光反射率R^をp1とし、p1同様に主成分量CHbが50[%]であるものの、非主成分がp1と異なる第2疑似分光反射率R^をp2とする。更に、p1とは異なり主成分量CHbが60[%]である第2疑似分光反射率R^をn1とする。
【0067】
このような場合、疑似観測データ生成機能122は、p1とp2は正ペアに分類し、p1とn1は負ペアに分類する。図では示されていないが、p2とn1もまた負ペアに分類される。
【0068】
サブルーチンの説明に戻る。次に、機械学習機能125は、正ペアと負ペアに基づいて、ある損失関数Lに従って損失を算出し(ステップS206)、その損失に基づいて、表現生成モデルMDL3を学習する(ステップS208)。
【0069】
損失を計算するための損失関数Lは、例えば、数式(1)によって表すことができる。数式(1)に示す損失関数Lは、「第2損失関数」の一例である。
【0070】
【数1】
【0071】
は、表現生成モデルMDL3がp1の第2疑似分光反射率R^から生成した特徴量表現を表している。x は、表現生成モデルMDL3がp2の第2疑似分光反射率R^から生成した特徴量表現を表している。x は、表現生成モデルMDL3がn1の第2疑似分光反射率R^から生成した特徴量表現を表している。第2疑似分光反射率R^由来の特徴量表現は「第3特徴量表現」の一例である。
【0072】
τは、典型的には0を含む定数であるがこれに限られず、負ペア(p1、n1)における主成分量の差分であってもよい。例えば、p1の主成分量CHbが50[%]であり、n1の主成分量CHbが60[%]である場合、τは差分の10となる。また数式(1)においてτは、バイアス成分(加算要素)であるがこれに限られず、重み係数(乗算要素)であってもよい。
【0073】
数式(1)に示すように、損失関数Lは、p1由来の特徴量表現x と、p2由来の特徴量表現x との差分(x -x )が小さくなるほど、より小さな損失を出力し、p1由来の特徴量表現x と、n1由来の特徴量表現x との差分(x -x )が大きくなるほど、より小さな損失を出力する関数である。正ペアの特徴量表現同士の差分(x -x )は、「第3差分」の一例であり、負ペアの特徴量表現同士の差分(x -x )は、「第4差分」の一例である。
【0074】
機械学習機能125は、損失関数Lに基づき計算した損失が小さくなるように、表現生成モデルMDL3のパラメータ(重み係数やバイアス成分など)を調整する。
【0075】
図6は、表現生成モデルMDL3の学習方法を説明するための図である。機械学習機能125は、p1の第2疑似分光反射率R^と、p2の第2疑似分光反射率R^と、n1の第2疑似分光反射率R^とを表現生成モデルMDL3に入力する。これを受けて、表現生成モデルMDL3は、特徴量表現x 、x 、x を出力する。
【0076】
機械学習機能125は、損失を小さくするために、特徴空間上において、p1由来の特徴量表現x と、p2由来の特徴量表現x とを互いに近づかせ(正ペアは近づける)、かつ、p1由来の特徴量表現x と、n1由来の特徴量表現x とを互いに遠ざける(負ペアは遠ざける)ように表現生成モデルMDL3のパラメータを調整する。このように表現生成モデルMDL3を学習することで、主成分量の違いを反映しつつ、非主成分量の違いを吸収する(影響を受けない)特徴量表現を獲得することができる。
【0077】
なお、損失関数Lは、例えば、数式(2)によって表すこともできる。
【0078】
【数2】
【0079】
tは、正ペアの特徴量表現の損失を計算対象にする場合と、負ペアの特徴量表現の損失を計算対象にする場合とで値が変動するパラメータである。例えば、正ペアの特徴量表現の損失を計算対象にする場合、t=1となり、負ペアの特徴量表現の損失を計算対象にする場合、t=0となる。つまり、数式(2)の損失関数Lは、正ペアの特徴量表現同士の差分(x -x )、及び負ペアの特徴量表現同士の差分(x -x )のいずれか一方のみを計算する。その他のパラメータx 、x 、x 、τは、数式(1)同様である。
【0080】
サブルーチンの説明に戻る。次に、機械学習機能125は、損失が一定値に収束したか否かを判定し(ステップS210)、損失が一定値に収束していない場合、上述したS200に処理を戻し、新たな正ペアと負ペアに基づいて、表現生成モデルMDL3の学習を繰り返す。このように、損失が一定値に収束するまで表現生成モデルMDL3の学習が繰り返される。
【0081】
一方、損失が一定値に収束した場合、機械学習機能125は、サブルーチンを終了させ、メインのフローチャートに復帰する。
【0082】
[情報処理装置の処理フロー:トレーニングの後半]
特徴量表現生成機能124は、表現生成モデルMDL3の学習が済むと、その学習済みの表現生成モデルMDL3を用いて、エンコーダMDL1に入力された実分光反射率Rの特徴量表現f(R)と、デコーダMDL2から出力された第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)とを生成する(ステップS110)。実分光反射率Rの特徴量表現f(R)は「第1特徴量表現」の一例であり、第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)は「第2特徴量表現」の一例である。
【0083】
次に、機械学習機能125は、実分光反射率Rの特徴量表現f(R)及び第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)に基づいて、ある損失関数Fに従って損失を算出し(ステップS112)、その損失に基づいて、エンコーダMDL1を学習する(ステップS114)。
【0084】
損失関数Fは、例えば、数式(3)によって表すことができる。数式(3)に示す損失関数Fは、「第1損失関数」の一例である。
【0085】
【数3】
【0086】
数式(3)に表される損失関数Fは、前段の第1項と、後段の第2項とを含む。第1項は、第1疑似分光反射率R^と実分光反射率Rとの差分(R^-R)の大きさを表しており、例えば、平均二乗誤差や平均絶対値誤差によって表されてよい。第2項は、第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)と実分光反射率Rの特徴量表現f(R)との差分(f(R^)-f(R))の大きさを表しており、例えば、平均二乗誤差や平均絶対値誤差によって表されてよい。損失関数Fは、差分(R^-R)及び(f(R^)-f(R))が小さくなるほど、より小さな損失を出力する関数である。差分(f(R^)-f(R))は「第1差分」の一例であり、差分(R^-R)は「第2差分」の一例である。
【0087】
図7は、エンコーダMDL1の学習方法を説明するための図である。例えば、機械学習機能125は、エンコーダMDL1がニューラルネットワークによって実装されている場合、確率的勾配降下法や最急降下法を用いて、損失が小さくなるようにニューラルネットワークのパラメータ(重み係数やバイアス成分)を調整する。また、機械学習機能125は、エンコーダMDL1が遺伝的アルゴリズムによって実装されている場合、損失が小さくなるように遺伝的アルゴリズムのパラメータ(交叉率、突然変異率、選択のパターン、交叉のパターン等)を調整する。
【0088】
次に、機械学習機能125は、損失が一定値に収束したか否かを判定し(ステップS116)、損失が一定値に収束していない場合、上述したS102に処理を戻す。これを受けて、成分量算出機能123は、浮腫画像に含まれる多数の画素の中から、前回選択した画素とは異なる画素を選択し直し、その画素の画素値に相当する分光反射率Rから生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)を算出する。このように、損失が一定値に収束するまで画素が選択され続け、エンコーダMDL1の学習が繰り返される。
【0089】
一方、損失が一定値に収束した場合、機械学習機能125は、本フローチャートの処理を終了する。
【0090】
[情報処理装置の処理フロー・ランタイム]
図8は、実施形態に係る処理回路120の一連の処理の流れを表すフローチャートである。図8に示すフローチャートの処理は、エンコーダMDL1の学習が済んだ後に実行される。
【0091】
まず、取得機能121は、診断対象である患者(浮腫を患う患者)の浮腫画像を取得する(ステップS300)。上述したように、取得機能121は、浮腫画像を取得すると、その浮腫画像に対して、平滑化フィルタやエッジ抽出といった画像処理を行ってもよい。
【0092】
次に、成分量算出機能123は、取得機能121によって取得された浮腫画像に含まれる多数の画素の中から、評価対象とする一つの画素を選択する(ステップS302)。
【0093】
次に、成分量算出機能123は、学習済みのエンコーダMDL1を用いて、評価対象の画素の画素値である実分光反射率Rから実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)を算出する(ステップS304)。言い換えれば、成分量算出機能123は、学習済みのエンコーダMDL1を用いて、評価対象の画素の画素値である実分光反射率Rを、実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)に変換(エンコード)する。
【0094】
次に、成分量算出機能123は、浮腫画像に含まれる全画素を評価対象として選択したか否かを判定する(ステップS306)。
【0095】
全画素を評価対象として選択していない場合、成分量算出機能123は、上述したS302に処理を戻す。つまり、成分量算出機能123は、前回選択した画素とは異なる画素を選択し直し、その画素の画素値である実分光反射率Rから実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)を算出する。このように、全画素の実分光反射率Rから実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)が算出されるまで処理が繰り返される。
【0096】
一方、全画素が評価対象として選択された場合、出力制御機能126は、全画素の画素値を実生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)に置き換えた画像(以下、生体内部成分量マップという)を生成し、この生体内部成分量マップを、出力インタフェース113を介して出力する(ステップS208)。生体内部成分量マップには、主成分量と非主成分量とが含まれるため、出力制御機能126は、主成分量のみを含む生体内部成分量マップを出力することもできる。
【0097】
例えば、出力制御機能126は、ディスプレイ113aに生体内部成分量マップを表示させてよい。また、出力制御機能126は、通信インタフェース111を介して、外部装置(例えば、診断対象である患者の主治医などが利用するコンピュータ)に生体内部成分量マップを送信してもよい。これによって、本フローチャートの処理が終了する。
【0098】
図9及び図10は、生体内部成分量マップが表示されたディスプレイ113aの画面例を表す図である。例えば、ディスプレイ113aの画面には、浮腫画像や、実分光反射率R、デコーダMDL2を用いてシミュレートされた第1疑似分光反射率R^、第1疑似分光反射率R^にデコードされる前の実生体内部成分量のうち主成分量(例えばCHb)が表示される。更に、ディスプレイ113aの画面には、主成分量(例えばCHb)の反映度として、特徴空間に分布させた正ペアの特徴量表現と負ペアの特徴量表現とが表示される。このような情報をディスプレイ113aに表示させることで、医師などは、主成分量以外(陰影)の影響を受けないことを確認しつつ、患者状態を反映する情報を参照して患者を診断することができる。
【0099】
以上説明した実施形態によれば、情報処理装置100の処理回路120は、浮腫画像を取得する。処理回路120は、エンコーダMDL1を用いて、浮腫画像の各画素値に相当する実分光反射率Rから、CHb,CH2O,Cmelなどの様々な特徴量(いずれかは主成分量)が含まれる実生体内部成分量を算出する。処理回路120は、デコーダMDL2を用いて、実生体内部成分量から第1疑似分光反射率R^を生成する。処理回路120は、表現生成モデルMDL3を用いて、エンコーダMDL1に入力された実分光反射率Rの特徴量表現f(R)と、デコーダMDL2から出力された第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)とを生成する。そして、処理回路120は、少なくとも実分光反射率Rの特徴量表現f(R)と第1疑似分光反射率R^の特徴量表現f(R^)とに基づいて、エンコーダMDL1を学習する。
【0100】
このように学習されたエンコーダMDL1を用いて、患者の浮腫画像から、その患者の生体内部成分量を推定し、その生体内部成分量を基に患者を診断することができる。この結果、実際の現象とシミュレーション結果との間に乖離が生じ得る場合であっても、より確信度の高い情報(例えば生体内に浮腫が存在するか否かという診断結果)を提供することができる。この結果、医師や患者は、浮腫のような対象事象を精度よく認識することができる。
【0101】
(その他の実施形態)
以下、その他の実施形態について説明する。上述したように、実施形態の情報処理装置100は、「浮腫」のような事象だけでなく、その他の事象についても適用することができる。例えば、放射線治療計画プログラム(放射線治療装置)において、シミュレーション(例えばモンテカルロ法)を行って、対象患者の治療領域に照射できる幾何学的パラメータ(照射角度、位置)を特定するようなシーンに実施形態の情報処理装置100を適用することができる。
【0102】
また上述した実施形態では、モンテカルロ法、クベルカムンク理論、又はランベルト-ベールの法則に基づき実装されたデコーダMDL2を用いて、生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)から分光反射率R^を復元(デコード)するものとして説明したがこれに限られない。例えば、第2のデコーダMDL2#を用いて、生体内部成分量(CHb,CH2O,Cmel)から分光反射率R^を復元してもよい。第2のデコーダMDL2#は、エンコーダMDL1同様に、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムによって実装されてよい。つまり、エンコーダ及びデコーダは、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムによって実装されてよい。
【0103】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0104】
以上の実施形態に関し、発明の一側面および選択的な特徴として以下の付記を開示する。
(付記1)
対象事象の観測データを取得する取得部と、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出する成分量算出部と、
前記成分量セットから、疑似的な前記成分量セットである疑似成分量セットであって、前記主成分量が互いに同じ複数の疑似成分量セットと、前記主成分量が互いに異なる複数の疑似成分量セットとを生成し、数値計算モデルを用いて、前記複数の疑似成分量セットの其々について、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成する疑似観測データ生成部と、
第2機械学習モデルを用いて、前記疑似成分量セットごとに生成された前記疑似観測データの其々について、前記疑似観測データの特徴量表現を生成する特徴量表現生成部と、
前記特徴量表現同士の差分に基づいて、前記第2機械学習モデルを学習する機械学習部と、
を備える情報処理装置。
【0105】
(付記2)
コンピュータを用いた情報処理方法であって、
対象事象の観測データを取得すること、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出すること、
前記成分量セットから、疑似的な前記成分量セットである疑似成分量セットであって、前記主成分量が互いに同じ複数の疑似成分量セットと、前記主成分量が互いに異なる複数の疑似成分量セットとを生成すること、
数値計算モデルを用いて、前記複数の疑似成分量セットの其々について、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成すること、
第2機械学習モデルを用いて、前記疑似成分量セットごとに生成された前記疑似観測データの其々について、前記疑似観測データの特徴量表現を生成すること、
前記特徴量表現同士の差分に基づいて、前記第2機械学習モデルを学習すること、
を含む情報処理方法。
【0106】
(付記3)
コンピュータに実行させるためのプログラムであって、
対象事象の観測データを取得すること、
第1機械学習モデルを用いて、前記観測データから、前記観測データの主成分量を含む成分量セットを算出すること、
前記成分量セットから、疑似的な前記成分量セットである疑似成分量セットであって、前記主成分量が互いに同じ複数の疑似成分量セットと、前記主成分量が互いに異なる複数の疑似成分量セットとを生成すること、
数値計算モデルを用いて、前記複数の疑似成分量セットの其々について、疑似的な前記観測データである疑似観測データを生成すること、
第2機械学習モデルを用いて、前記疑似成分量セットごとに生成された前記疑似観測データの其々について、前記疑似観測データの特徴量表現を生成すること、
前記特徴量表現同士の差分に基づいて、前記第2機械学習モデルを学習すること、
を含むプログラム。
【符号の説明】
【0107】
100…情報処理装置、111…通信インタフェース、112…入力インタフェース、113…出力インタフェース、113a…ディスプレイ、114…メモリ、120…処理回路、121…取得機能、122…疑似観測データ生成機能、123…成分量算出機能、124…特徴量表現生成機能、125…機械学習機能、126…出力制御機能
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10