(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172985
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ガス吸着材成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091082
(22)【出願日】2023-06-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1. http://www3.scej.org/meeting/53f/index.html ウェブサイトの公開日: 令和4年8月31日 2. 化学工学会 第53回秋季大会 信州大学 長野(工学)キャンパス 発表日: 令和4年9月16日 3. 第73回コロイドおよび界面化学討論会 広島大学 東広島キャンパス 講演日: 令和4年9月20日 4. 粉体工学会 2022年度秋期研究発表会 東京ビッグサイト 会議棟 講演日: 令和4年12月6日 5. 国際粉体工業展(東京2022) 東京ビッグサイト 会議棟 講演及び発表日: 令和4年12月8日 6. 化学工学会 2022東海シンポジウム会告(オンライン) 講演日: 令和5年1月20日 7. 日本化学会 第103春季年会(2023) 東京理科大学 野田キャンパス 講演日: 令和5年3月23日 8. 技術情報協会 CO2吸着吸収セミナー(オンライン) 講演日: 令和5年4月28日
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】平出 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 哲
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA49A
4G066AA56A
4G066AB10A
4G066AB12A
4G066AB24B
4G066AC02D
4G066AC11B
4G066AC12D
4G066AC21D
4G066BA22
4G066BA25
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066FA11
4G066FA25
4G066FA37
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】ガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体を提供する。
【解決手段】複数の構造柔軟性MOF粒子と、前記複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物とを含み、下記式(1)を満たすガス吸着材成形体。
ε≧(1-π√2/6/(1+x))×100 ・・・(1)
【選択図】
図7A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造柔軟性MOF粒子と、前記複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物とを含み、下記式(1)を満たすガス吸着材成形体。
ε≧(1-π√2/6/(1+x))×100 ・・・(1)
式(1)において、εは前記ガス吸着材成形体の空隙率(体積%)であり、xは、前記構造柔軟性MOF粒子の構造転移による体積膨張率である。
【請求項2】
前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、10000以上である、請求項1に記載のガス吸着材成形体。
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物は繊維状の部分を含む、請求項1または2に記載のガス吸着材成形体。
【請求項4】
球状である請求項1または2に記載のガス吸着材成形体。
【請求項5】
複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液を、凍結乾燥させることを含む、ガス吸着材成形体の製造方法。
【請求項6】
前記複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の合計重量に対する水の含有量は40重量%以上である、請求項5に記載のガス吸着材成形体の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性高分子化合物水溶液は、重量平均分子量が10000以上である水溶性高分子化合物を含む、請求項5または6に記載のガス吸着材成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガス吸着材成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分離装置などにおいて、ゼオライトおよび活性炭などの、いわゆる多孔体と呼ばれるガス吸着材が広く利用されている(特許文献1等)。
【0003】
一般に、ゼオライトおよび活性炭などの既存の多孔体は、いわゆるIUPACの吸着等温線の6分類で分類可能である。すなわち、既存の多孔体は、圧力上昇に応じてガス吸着力が増加する特性を有している。一方で、IUPACの6分類では分類できない、特殊な吸着等温線を示す材料が発表されている。これらは、金属イオン、配位子から形成される金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)の一種で、構造柔軟性MOFなどと呼ばれ、これらが示す特殊なガス吸着挙動は、ゲート現象、またはゲート吸着などと呼ばれている。
【0004】
ゲート現象とは、主として、構造柔軟性MOFの構造が変化することで、ガスの吸着量が急激に変化する現象である。ガス圧が一定値未満の場合は、構造柔軟性MOFはガスをほとんど吸着しないが、ガス圧が一定値(この圧がゲート圧と呼ばれる)に達すると、構造柔軟性MOFの構造が変化(例えば、積層がずれる、層間が広がる等)し、ガス分子が取り込まれる。このため、ゲート圧を境にガス吸着量は急激に増加する。これは、ゲート圧未満では、構造柔軟性MOFとガス分子が別々に存在している方がエネルギー的に安定であるが、ゲート圧以上では、構造柔軟性MOFとガス分子が別々に存在しているよりも、ガス分子が構造柔軟性MOFの内部に取り込まれる方が、より安定な包摂体を形成し、エネルギー的に有利になるためと考えられている。
【0005】
ガス放出では逆の現象が生じる。すなわち、ガス圧がゲート圧未満になると、構造柔軟性MOFに取り込まれていたガス分子が放出され、元の構造柔軟性MOFの構造に戻ろうとする為、ガスの放出が急激に生じる。すなわち、このようなゲート現象は、構造柔軟性MOFの柔軟性に基づいており、当該柔軟性を有していない既存多孔体であるゼオライトおよび活性炭では生じ得ない、構造柔軟性MOF特有の現象である。
【0006】
特許文献2は、ゲート型多孔性高分子錯体をガス吸着材として利用したガス分離装置を開示している。しかしながら、特許文献2は、ゲート型多孔性高分子錯体を主に粉末(すなわち複数の粒子)として利用しており、ガス分離装置に用いると圧力損失が生じる、飛散しやすいなどの弊害がある。そのためゲート型多孔性高分子錯体は、成形体(すなわち、複数の粒子の集合体)にして利用することが好ましい。
【0007】
特許文献3は、柔軟性多孔性高分子金属錯体と、バインダーとしてパルプ繊維とを含む成形体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000-061244号公報
【特許文献2】特開2017-87101号公報
【特許文献3】特開2018-153740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討の結果、構造柔軟性MOFの粉末を成形体にすると、構造柔軟性MOFの重量当たりのガス吸着量が顕著に低下するという問題が生じることがわかった。また、特許文献3に開示されるような成形体においても、更なる改善の余地があった。
【0010】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、ガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、
複数の構造柔軟性MOF粒子と、前記複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物とを含み、下記式(1)を満たすガス吸着材成形体である。
ε≧(1-π√2/6/(1+x))×100 ・・・(1)
式(1)において、εは前記ガス吸着材成形体の空隙率(体積%)であり、xは、前記構造柔軟性MOF粒子の構造転移による体積膨張率である。
【0012】
本発明の態様2は、
前記水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、10000以上である、態様1に記載のガス吸着材成形体である。
【0013】
本発明の態様3は、
前記水溶性高分子化合物は繊維状の部分を含む、態様1または2に記載のガス吸着材成形体である。
【0014】
本発明の態様4は、
球状である、態様1~3のいずれか1つに記載のガス吸着材成形体である。
【0015】
本発明の態様5は、
複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液を、凍結乾燥させることを含む、ガス吸着材成形体の製造方法である。
【0016】
本発明の態様6は、
前記複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の合計重量に対する水の含有量は40重量%以上である、態様5に記載のガス吸着材成形体の製造方法である。
【0017】
本発明の態様7は、
前記水溶性高分子化合物水溶液は、重量平均分子量が10000以上である水溶性高分子化合物を含む、態様5または6に記載のガス吸着材成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、ガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体、およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、ガス吸着前(左)とガス吸着後(右)のELM-11粉末の写真である。
【
図2】
図2は、構造柔軟性MOFの各ゲート圧力を表した図である。
【
図3】
図3は、ELM-11を例にして、ゲート係数を説明する図である。
【
図4】
図4は、水溶性高分子化合物の繊維状の部分の一例を示す。
【
図5】
図5は、pre-ELM-11粒子の表面SEM像を示す。
【
図6】
図6は、成形体No.2(凍結乾燥品、左)および成形体No.4(加熱乾燥品、右)の写真を示す。
【
図7A】
図7Aは、成形体No.2(凍結乾燥品)の表面SEM像を示す。
【
図7B】
図7Bは、成形体No.4(加熱乾燥品)の表面SEM像を示す。
【
図8】
図8は、成形体No.1~5および粉末No.1の、二酸化炭素吸着等温線測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、構造柔軟性MOF粉末と比較して、構造柔軟性MOFの重量当たりのガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体を実現するべく、様々な角度から検討した。
図1は、構造柔軟性MOF粉末(複数の粒子)のガス吸着前後の変化を示す写真である。
図1に示すように、本発明者らの検討の結果、構造柔軟性MOF粉末は、従来のゼオライトなどの吸着材とは異なり、ガス吸着により顕著に膨張することがわかった。そして、本発明者らは、成形体において、バインダー等により構造柔軟性MOF粒子同士が密着することにより、当該膨張が抑制されると共に、ガス吸着量が低下すると考えた。そこで、成形体において、構造柔軟性MOF粒子が最大限膨張し得る空間を確保するように定められた所定量の空隙を設けておくことにより、構造柔軟性MOF粉末と比較して、構造柔軟性MOFの重量当たりのガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体が得られることを見出した。また、バインダーとして水溶性高分子化合物を用いることにより、構造柔軟性MOF粉末と均一に混合することが可能となり、成形体内において不均一が生じにくくなり、成形体全体においてガス吸着量の低下を抑制することが可能となる。
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0021】
<1.ガス吸着材成形体>
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体は、複数の構造柔軟性MOF粒子と、前記複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物とを含み、下記式(1)を満たすガス吸着材成形体。
ε≧(1-π√2/6/(1+x))×100 ・・・(1)
式(1)において、εは前記ガス吸着材成形体の空隙率(体積%)であり、xは、前記構造柔軟性MOF粒子の構造転移による体積膨張率である。
上記ガス吸着材成形体は、ガス吸着材である構造柔軟性MOFの粉末と比較して、構造柔軟性MOFの重量当たりのガス吸着量の低下を十分に抑制することができる。なお、ここでいう構造柔軟性MOFとは、水分を除去することにより構造柔軟性MOFとなるような前駆体も含むものとする。
なお、本発明の実施形態では、構造柔軟性MOFとして、目的に応じて複数の種類を混合して用いる場合も含む。
以下、各構成について詳述する。
【0022】
(構造柔軟性MOF粒子)
構造柔軟性MOFは、ゲート型の等温線を示す材料である。ゲート型とは、主として構造変化により、
図2に示すような変曲点を示す吸着およびまたは脱着等温線を意味する。構造柔軟性MOFの等温線は、
図2に示すように、吸着開始ゲート圧力、吸着完了ゲート圧力、ゲート吸着量、脱着開始ゲート圧力、脱着完了ゲート圧力、ゲート脱着量で定義される。
【0023】
吸着開始ゲート圧力とは、吸着工程において、吸着初期の吸着量-圧力の比例関係が急激に大きくなる(ガスの圧力増分に対し、吸着量増分が急に大きくなる)圧力である。吸着完了ゲート圧力とは、吸着工程において吸着開始ゲート圧力以降の吸着量-圧力の比例関係が急激に小さくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に小さくなる)圧力である。ゲート吸着量とは、吸着開始ゲート圧から、吸着完了ゲート圧力の間の吸着量である。また、脱着開始ゲート圧力とは、脱着工程に於いて脱着初期の吸着量-圧力の比例関係が急激に大きくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に大きくなる)圧力である。脱着完了ゲート圧力とは、脱着工程に於いて脱着開始ゲート圧力以降の吸着量-圧力の比例関係が急激に小さくなる(ガスの圧力増分に対し、脱着量増分が急に小さくなる)圧力である。ゲート脱着量とは、脱着開始ゲート圧力以降、脱着完了ゲート圧力までの脱着量である。
【0024】
また、構造柔軟性MOFの、吸着ゲート係数は下記式(2)で示され、脱着ゲート係数は下記式(3)で示され得る。
吸着ゲート係数=(吸着完了ゲート圧での吸着量-吸着開始ゲート圧での吸着量)/(吸着完了ゲート圧-吸着開始ゲート圧) ・・・(2)
脱着ゲート係数=(脱着開始ゲート圧での吸着量-脱着完了ゲート圧での吸着量)/(脱着開始ゲート圧-脱着完了ゲート圧) ・・・(3)
ここで吸着量は、測定ガスの測定温度における吸着量であって、単位はmL/g(STP)であり、圧力の単位はkPaである。
【0025】
構造柔軟性MOFとして知られているものは、ELM(Elastic Layerstructured metal organic frameworks)類、カゴメ類、MIL類、CID類、等である。これらの構造柔軟性MOFの文献は以下の通りである。ELMは、上代らの、Int. J. Mol. Sci. 2010, 11,3803の文献に示されている。カゴメ類は、佐藤らの、SCIENCE(2014)343、167、及びZaworotkoらの、Chem. Commun., 2004, 2534の文献に示されている。MIL類は、Fereyら、Chem. Soc. Rev., 2009, 38, 1380の文献に示されている。CID類は、Inubushiら、Chem. Commun., 2010, 46, 9229、及びNakagawaら、Chem. Commun., 2010, 46, 4258の文献に示されている。その他の例は、Kitauraら、Angew. Chem. Int. Ed. 2003, 42, 428の文献に示されている。これらの中でもELM類、カゴメ類、MIL類、CID類が、明確なゲート現象を示すため好ましい。
【0026】
構造柔軟性MOFの一例であるELM-11のゲート係数を、
図3を用いて説明する。ELM-11の273Kにおける二酸化炭素の吸脱着等温線は
図3に示す通りである。x軸が、圧力(kPa)であり、y軸が、吸着量(mL/g(STP))である。この場合、各等温線は、以下の点を通ることから、それらの等温線は下記の式で近似できる。
【0027】
吸着ゲート前吸着等温線:
代表的な通過点1:x=5.23,y=0.188;通過点2:x=27.4,y=0.665であり、近似式y=0.022x+0.0753である。
吸着ゲート後吸着等温線:
代表的な通過点1:x=34.2,y=23.3;通過点2:x=35.2,y=50.7であり、近似式y=27.4x-913である。
【0028】
上記連立方程式を解いて、x(「吸着開始ゲート圧」)=33.4kPa(ゲート前吸着量は1.1mL/g(STP))である。
同様に等温線から算出された「吸着完了ゲート圧」は、36.0kPaであり、その時点での吸着量は74.4mLである。
上記から吸着ゲート係数=(77.4-1.1)/(36.0-33.4)=29.3と算出される。
同様に脱着開始ゲート圧=28.41kPa(吸着量は75.2mL/g(STP))である。また、脱着完了ゲート圧=26.20kPa(吸着量は2.71mL/g(STP))である。
上記から脱着ゲート係数=(75.2-2.71)/(28.41-26.20)=32.8と算出される。
【0029】
本発明の実施形態において、構造柔軟性MOFは、吸着ゲート係数が0.7~75で、脱着ゲート係数が0.4~80であることが好ましい。
吸着ゲート係数が0.7未満である場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が小さすぎ、一般的な吸着材との明確な差が得られず、ゲート型挙動とは言いがたい。また吸着ゲート係数が75を超える場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が急峻過ぎ、急激な吸着熱の発生、又は急激な特定ガスの吸着による混合ガスの濃度比の急激な変化があり、ガス分離材料としては実用的に使いづらい(制御しづらい)。脱着ゲート係数が0.4未満である場合は、圧力変動に対する吸着量の変動量が小さすぎ、一般的な吸着材との明確な差が得られず、ゲート型挙動とは言いがたい。また脱着ゲート係数が80を超える場合は、圧力変動に対する脱着量の変動量が急峻過ぎ、急激な脱着熱による温度低下、又は急激な特定ガスの放出による混合ガスの濃度比の急激な変化があり、ガス分離材料としては実用的に使いづらい(制御しづらい)。
【0030】
本発明の実施形態において、構造柔軟性MOFは、吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が、2kPa~8000kPaであることが好ましい。吸着完了ゲート圧と脱着完了ゲート圧の圧力差が2kPa未満である場合は、吸着圧力と脱着圧力が近接しすぎており、PSA装置で制御仕切れない。一方、8000kPaを超える場合は、吸着圧力と脱着圧力が離れすぎており、このような材料から吸着ガスを回収するためには非常に大きな圧力変動を行う必要があり、このための電力コストおよび操作時間が大きく、ゲート現象をガス分離に使うメリットが無い。
【0031】
本発明の実施形態において、構造柔軟性MOFは、様々なガスの分離に適用することができる。ガス種としては、例えば、酸素、窒素、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水素、アルカン類、アルケン類、アルキン類等が挙げられる。
【0032】
本発明の実施形態において、構造柔軟性MOF粒子の形状および粒径は、特に制限されないが、例えば、構造柔軟性MOF粒子の平均円相当直径(メディアン径)100nm~100μmであることが好ましい。構造柔軟性MOF粒子の平均円相当直径を100nm以上にすることで、MOF粒子を回収しやすくなる及び/又は水溶性高分子化合物と混合しやすくなるなど、製造時の取り扱い性が向上し得る。一方で、構造柔軟性MOF粒子の平均円相当直径を100μm以下にすることで、MOF粒子内部で吸着ガスが拡散しやすくなり、ガス吸着材成形体のガス吸着速度が向上し得る。
【0033】
本発明の実施形態において、構造柔軟性MOF粒子の含有量は、多いほどガス吸着量が増大するため好ましく、成形体の重量に対して、70重量%以上、80重量%以上および90重量%以上であること順に好ましい。一方で、構造柔軟性MOF粒子の含有量は、成形体としての強度を向上させる観点で、成形体の重量に対して99重量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
(水溶性高分子化合物)
複数の構造柔軟性MOF粒子を、水溶性高分子化合物を用いて連結することにより、構造柔軟性MOF(すなわちガス吸着材)の成形体が得られる。水溶性高分子化合物は、構造柔軟性MOF粒子が分散容易な水に溶解し、当該溶液中で構造柔軟性MOF粒子と均一に混合し得るため、得られる成形体内において不均一が生じにくく、成形体全体において構造柔軟性MOFの重量当たりのガス吸着量の低下を抑制することが可能となる。また、水溶性高分子化合物を用いることにより均一な成形体が得られるため、例えば水溶性高分子化合物が少量であっても、ガス吸着前後で成形体の形態を維持し、例えば成形体の崩壊及び微粉化も抑制できる。
【0035】
水溶性高分子化合物としては、例えば、ポリアルキレングリコール(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコール-グリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリコール-グリセリルエーテル、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロックエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルグリコール、ポリオキシプロピレンアルキルグリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリ(2-ヒドロキシ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン)(PHP)、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の合成高分子;タンパク質、多糖(デキストラン、デンプン、シゾフィラン、グアーガム、キサンタンガム等)等の天然又は半合成高分子等が挙げられる。水溶性高分子化合物は、後述する繊維状を形成しやすい観点で、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、シゾフィラン、グアーガム及びキサンタンガムからなる群から選択されるいずれか1種以上が好ましい。
【0036】
水溶性高分子化合物は、2種以上の構成単位で形成されたコポリマーとすることもできる。この場合、例えば、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー等が挙げられる。
【0037】
水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、10000以上であることが好ましい。これにより、ガス吸着時の成形体の膨張(主にガス吸着材である構造柔軟性MOFの膨張)に起因する成形体の崩壊及び微粉化を抑制できる。水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、25000以上、50000以上、100000以上、200000以上、および300000以上であることが、順により好ましい。これらの重量平均分子量は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により測定できる。
【0038】
構造柔軟性MOF粒子及び水溶性高分子化合物の合計重量に対する水溶性高分子化合物の重量分率(以下「ωPB」とも称する)は、1重量%以上であることが好ましく、より好ましくは3重量%以上である。これにより、成形体としての強度を向上させることができる。一方で、ωPBは、少ないほど、構造柔軟性MOF粒子の重量分率を増加させてガス吸着量を増加させることが可能となり好ましく、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下であることが順に好ましい。なお、構造柔軟性MOF粒子は、製造工程において結晶中に水分子を含む前駆体として取り扱う場合には、水溶性高分子化合物の重量分率を求める際に、当該前駆体の重量を用いてよい。
【0039】
複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物は、繊維状の部分を含むことが好ましい。繊維状部分により、構造柔軟性MOF粒子同士が結合されるので、構造柔軟性MOFの膨張に必要な空隙及び変形能を確保しつつ、ガス吸着時の成形体の膨張に起因する成形体の崩壊及び微粉化を効果的に抑制できる。
図4に、本発明の実施形態に係る水溶性高分子化合物の繊維状の部分の一例を示す。なお、
図4は、後述する
図7Aの点線で囲った部分の拡大図である。
図4に示すように、複数の構造柔軟性MOF粒子1を連結する水溶性高分子化合物において、繊維状の部分2が観察される。ここで、繊維状の一指標として、例えば、平面視において、構造柔軟性MOF粒子間における、長手方向の長さと、それに直交する方向の最大長さのアスペクト比(長手方向の長さ/直交方向の長さ)が3以上であり得る。アスペクト比の上限は特に制限されないが、例えば100以下または50以下であり得る。
また、構造柔軟性MOF粒子の平均円相当直径に対する上記繊維状の部分の長手方向の長さの比は、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。これにより、MOF粒子間の間隔を確保でき、ガス吸着によるMOF粒子の体積膨張を阻害しにくくなる。一方、当該比は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。これにより、成形体の体積当たりのガス吸着量を多くすることができる。
【0040】
(ガス吸着材成形体の空隙率ε)
本発明者らは、ガス吸着材成形体の空隙率εに係る上記式(1)を、以下のように導出した。構造柔軟性MOF粒子を球とし、膨張前の構造柔軟性MOF粒子の体積をVclとし、膨張後の構造柔軟性MOF粒子の体積をVopとし、且つ構造柔軟性MOF粒子が膨張後に、例えば六方最密構造などの最密構造(充填率:π×√2/6)に近づく状況を仮定する。その場合、構造柔軟性MOF粒子が最大限膨張し得るように定められる空隙率ε(体積%)は、下記式(1’)のようになる。
空隙率ε≧(1-π×√2/6×Vcl/Vop)×100 ・・・(1’)
ここで、構造柔軟性MOF粒子の構造転移による体積膨張率をxとし、Vop=(1+x)×Vclを上記式(1’)に代入すると、上記式(1)が得られる。なお、水溶性高分子の体積については、水溶性高分子が構造柔軟性MOF粒子の最密構造の隙間に入り込み得る等の理由により、上記式(1)において考慮しなくてもよいと考えられる。すなわち、水溶性高分子が構造柔軟性MOF粒子の最密構造の隙間に入る場合を仮定すると、構造柔軟性MOF粒子が最大限膨張するために必要な空隙率は(1)式の右辺よりも低い値であってもよく、空隙率εを(1)式の右辺の値以上にしておくことで、構造柔軟性MOF粒子が膨張するための十分な空間を確保できると考えられる。
【0041】
本発明者ら、上記のように定めた空隙率εで空隙を設けておくことにより、ガス吸着量の低下が十分に抑制されたガス吸着材成形体が得られることを見出した。
上記式(1)において、空隙率εは、好ましくは、上記式(1)の右辺×1.2以上であることが好ましく、より好ましくは上記式(1)の右辺×1.4以上である。これらにより、より確実にガス吸着量の低下を抑制できる。一方で、空隙率εは、90体積%以下であることが好ましく、80体積%以下であることがより好ましい。これにより、成形体の体積当たりのガス吸着量を多くすることができる。 上記式(1)において、xは、ガス吸着前後の構造柔軟性MOF粒子の構造についてX線回折測定を行い、結晶構造を決定することにより、体積膨張率を決定できる。
例えば構造柔軟性MOF粒子がELM-11粒子の場合、上記方法で求められるxは0.28であるため、上記式(1)は、ε≧42体積%と計算される。
【0042】
(ガス吸着材成形体の形態)
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体は、後述する製造方法により、球状を形成しやすい。ガス吸着材成形体は、球状であることにより、例えばガス分離装置内に密に充填しやすく好ましい。ここで球状とは、完全な球形だけでなく、球形に近い形状も含み得る。球状の一指標として、例えば、円形度(Φ)により判断され得る。円形度は、粒子の二次元的な投影面において粒子の面積(S)と周囲長(L)を計測し、Φ=4πS/L2により算出できる。粒子が真球で粒子投影像が真円となる場合はΦ=1となる。本発明の実施形態において、球状のガス吸着材成形体は、容器への充填の容易さおよび充填率の調整のしやすさから、例えば0.6≦Φ≦1であり得る。
【0043】
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体のサイズは特に制限されないが、例えば円相当直径は、0.5mm以上10mm以下又は1mm以上5mm以下であり得る。
【0044】
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体は、本発明の目的を達成する限り、他の材料を含んでもよい。
【0045】
<2.ガス吸着材成形体の製造方法>
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体の製造方法は、複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液を、凍結乾燥させることを含む。なお、ここでいう構造柔軟性MOF粒子とは、水分を除去することにより構造柔軟性MOF粒子となるような前駆体も含むものとする。
ガス吸着材成形体を製造する際、通常、複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液を単に加熱して水分を蒸発させること(以下、「加熱乾燥」とも称する)等が考えられる。しかし、本発明者らが検討した結果、加熱乾燥では、十分な空隙率を有するガス吸着材成形体を製造することが困難であった。そこで、本発明者らは、上記水溶性高分子化合物を凍結乾燥させることを見出し、これにより上記式(1)を満たすガス吸着材成形体を製造できた。
【0046】
複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液はどのように準備してもよい。例えば、水溶性高分子化合物を水に溶解させ、その後、複数の構造柔軟性MOF粒子を分散させることにより準備してもよい。水は、例えば、イオン交換水、限外ろ過水又は蒸留水であってよい。複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の合計重量に対する水の含有量は、成形体において十分な空隙量を確保するため、溶解前の比率で40重量%以上とすることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上である。当該水の含有量の上限は特に制限されないが、例えば99重量%以下または90重量%以下であり得る。また、水溶性高分子化合物の重量に対する水の重量は、成形体において繊維状の水溶性高分子化合物を形成しやすい観点で、5~300倍であることが好ましく、10~200倍であることがより好ましく、20~100倍が更に好ましい。ここで、水溶性高分子化合物を溶解させる水の量には、構造柔軟性MOFの前駆体に存在する水分子の量は含まないものとする。また、複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液は、必要に応じて分散剤等の添加剤を含んでもよい。
本発明の一実施形態によれば、水の含有量Zと乾燥後の空隙率εの関係について、下記式(4)を満たすことが好ましい。
Z≧((1-ωPB)ρMOF+ωPBρPB)/((1-ωPB)ρPB+ωPBρPB+ε/(1-ε)ρice) ・・・(4)
ここで、Zは水の含有量(質量%)であり、ωPBは水溶性高分子化合物の含有量(質量%)であり、ρMOF、ρPBおよびρiceは、それぞれ構造柔軟性MOF粒子、水溶性高分子化合物、および氷の密度である。
【0047】
凍結乾燥は公知の方法で行ってよい。例えば、まず、上記複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液を、液体窒素などの氷点より低温の液体に滴下することにより凍結させることができる。このとき、当該水溶液は、滴下されると表面張力により球状を形成しやすく、低温液体中でそのまま凍結され得る。その後、低温液体から取り出し、溶け出す前に公知の凍結乾燥装置に入れ、周囲を氷点下に保ったまま減圧(昇華熱により過度に温度が下がる場合などは必要に応じて加熱)して、水分を昇華させることにより、水分が存在していた部分に空隙が形成され、本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体が得られる。このとき、複数の構造柔軟性MOF粒子を連結する水溶性高分子化合物において繊維状の部分も形成され得る。
【0048】
構造柔軟性MOF粒子として、その前駆体を用いた場合は、ガス吸着材成形体が得られた段階においても、構造柔軟性MOFは前駆体の状態を保っていることがある。この場合、ガス吸着材成形体としての使用前に、真空加熱処理を行うことで、構造柔軟性MOFに含有された水分子は放出され、本来のガス吸着材成形体が得られる。真空加熱処理は、処理量によって異なる場合があるが、典型的には、100Pa以下の真空度、80℃以上150℃以下において2時間以上、16時間以下行われる。なお、当該真空加熱処理等により、構造柔軟性MOFの前駆体から水分が放出されても、構造柔軟性MOF結晶の形状が若干変化するのみであり、成形体としての空隙形成にはほとんど寄与し得ない。
【0049】
本発明の実施形態に係るガス吸着材成形体の製造方法は、本発明の目的を達成する限り、他の工程を含んでもよい。
【実施例0050】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0051】
<構造柔軟性MOF粒子の作製>
Cu(BF4)2の45重量%水溶液(関東化学製)を800rpmで撹拌しながら、当該水溶液に4,4’-ビピリジンC3H4N(bpy、純度98%、東京化成工業製)のメタノール溶液をシリンジポンプで2時間かけて滴下したのちに、さらに800rpmで1日攪拌混合することにより反応させた。その後、反応液を吸引ろ過することにより粒子を回収し、回収した粒子を超純水で洗浄し、減圧下で一晩静置させることで乾燥させた。反応後に得られる粉末は、一般に水分子を取り込んだpre-ELM-11(すなわち水分を除去することにより構造柔軟性MOFとなる前駆体)と知られており、水分子を除去することでELM-11となる。なお、原料濃度は[Cu2+]=0.8M、[bpy]=1.6Mとし、反応温度は室温とした。
【0052】
図5に上記pre-ELM-11粒子の表面SEM像を示す。
図5に示すように、pre-ELM-11粒子の円相当直径は、おおよそ1~20μmの範囲内であった。
【0053】
<構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の作製>
所定の水溶性高分子化合物粉末を、所定量の超純水(抵抗率≧18MΩ・cm)に添加し、ホットスターラーを用いて加熱しながら混合して完全に溶解させることにより、水溶性高分子化合物水溶液を得た。なお、水溶性高分子化合物として、ポリビニルピロリドン(PVP、重量平均分子量Mw=2500、40000、360000、Aldrich製)、ポリエチレンオキシド(PEO、重量平均分子量Mw=600000、Aldrich製)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、重量平均分子量Mw=370000、Aldrich製)を使用した。
上記水溶液に対し、所定量のpre-ELM-11粉末を加え、10分程度攪拌して、構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液(ペーストまたはスラリー)を得た。
【0054】
<ガス吸着材成形体の作製>
上記構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶液において、水分量が多く(例えば40重量%以上で)スラリー状であった場合、1000~10000μLのピペットチップを用いて十分量の液体窒素を入れたデュワー瓶に滴下後、賦形物を回収し、3日程度上述したような凍結乾燥を行うことで、後述の表1に示す成形体No.1~3および7~12のガス吸着材成形体を得た。
一方、上記構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶液において、水分量が少なく(例えば40重量%未満で)ペースト状であった場合、直径2mmの注射器に充填したのち、十分量の液体窒素を入れたデュワー瓶にそのまま射出後、賦形物を回収し、3日程度上述したような凍結乾燥を行うことで、後述の表1に示す成形体No.6のガス吸着材成形体を得た。
【0055】
比較として、上記構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶液を直径2mmの注射器に充填し、シリコンシート上に射出した。射出されたペーストを35℃の乾燥器内で12時間以上加熱乾燥させたのち取り出して、後述の表1に示す成形体No.4~5のガス吸着材成形体を得た。さらに比較として、上記構造柔軟性MOF粉末(後述の表1に示す粉末No.1)を準備した。
【0056】
一例として、
図6に成形体No.2(凍結乾燥品、左)および成形体No.4(加熱乾燥品、右)の写真を、定規(下、数字の単位はcm)と共に示す。
図6に示すように、凍結乾燥品は球状であり、円形度Φは0.6~1.0の範囲内であった。
【0057】
一例として、
図7Aに成形体No.2(凍結乾燥品)の表面SEM像を示し、
図7Bに成形体No.4(加熱乾燥品)の表面SEM像を示す。
図7Aに示すように、凍結乾燥品は空隙が多く観察された。また
図7Aに示すように、複数の構造柔軟性MOF粒子を連結している水溶性高分子化合物において、アスペクト比(長手方向の長さ/直交方向の長さ)が3以上50以下であり、且つ構造柔軟性MOF粒子の平均円相当直径に対する上記繊維状の部分の長手方向の長さの比が0.2~3.0の範囲内である繊維状の部分が確認された(例えば
図7Aの点線で囲んだ部分、及びその拡大図である
図4の繊維状の部分2参照)。同様の繊維状の水溶性高分子化合物が、成形体No.1および10においても確認された。一方で、
図7Bに示すように、加熱乾燥品は、複数のMOF粒子が密に連結されており空隙が少なく、また繊維状の水溶性高分子化合物が確認されなかった。
成形体内部の空隙率は、別途水銀ポロシメトリーにより測定した。
【0058】
<ガス吸着材成形体のガス吸着量評価>
成形体No.1~12および粉末No.1について、二酸化炭素吸着等温線測定(BELSORPmini II,マイクロトラック・ベル)を行なった。なお、測定前に、10Pa以下かつ120℃の条件下で10時間の前処理を行なった。
【0059】
図8に、一例として、成形体No.1~5および粉末No.1の、二酸化炭素吸着等温線測定結果を示す。成形体No.1~3は、水溶性高分子化合物の割合が増大するにつれて吸着量の低下がみられるものの、例えば、吸着量がある程度飽和している圧力として、ELM-11の吸着ゲート圧(33.4kPa)の3倍である100kPaにおいて、MOF粒子の重量当たりの吸着量で換算すると、粉末No.1と遜色ない結果が得られた。一方、水溶性高分子化合物の割合が20重量%で同じであって、凍結乾燥品の成形体No.2と加熱乾燥品の成形体No.4を比較すると、凍結乾燥品の方が、高い吸着量を示した。加熱乾燥品については、MOF粒子の重量当たりの吸着量で換算しても、粉末No.1と比較して大きく吸着量が低下していた。
表1に、二酸化炭素吸着等温線測定の結果をまとめる。なお、表1において、「水含有量」は、複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の合計重量に対する水の含有量(重量%)であり、「成形体の重量当たりのガス吸着量A
F@100kPa」は、100kPaにおける成形体(又は粉末)の重量当たりのガス吸着量であり、「MOF粒子の重量当たりのガス吸着量A
MOF@100kPa」は、A
Fを構造柔軟性MOF粒子の重量(すなわち成形体(又は粉末)重量から水溶性高分子化合物の重量を差し引いた重量)当たりの数値に換算した値であり、「A
MOF-成形体/A
MOF-粉末」は、粉末No.1のA
MOFに対する、各成形体のA
MOFの割合(%)である。
【0060】
【0061】
表1から以下のことがわかる。成形体No.1~3および8は、いずれも本発明の実施形態に係る全ての要件を満足する例であり、AMOF-成形体/AMOF-粉末」が高く(例えば90%以上)であり、構造柔軟性MOF粉末(すなわち粉末No.1)と比較して、構造柔軟性MOF粒子の重量当たりのガス吸着量の低下が十分に抑制されていた。なお、成形体No.7および成形体No.9~12も、成形体No.1~3および8と同様の方法で作製し、AMOF-成形体/AMOF-粉末」が高い値を示しているため、本発明の実施形態に係る全ての要件(例えば式(1))を満足していると考えられる。
一方で、成形体No.4~6は、本発明の実施形態に係る要件のうち式(1)を満たしておらず、構造柔軟性MOF粒子の重量当たりのガス吸着量が低かった。
【0062】
さらに、一部の成形体において、二酸化炭素吸着等温線測定後に観察を行い、成形体の崩壊及び微粉化の程度を、以下のように評価した。
A:微粉化が見られなかった。
B:一部の成形体に微粉化が見られた。
C:全ての成形体に微粉化が見られた。
上記結果を以下の表2にまとめる。なお、表2において、「水含有量」は、複数の構造柔軟性MOF粒子が分散された水溶性高分子化合物水溶液の合計重量に対する水の含有量(重量%)である。また、表2の各評価結果において、「-」は未測定(または未観察)であることを示す。
【0063】
【0064】
表2から以下のことがわかる。成形体No.1~2、10および12は、本発明の実施形態の好ましい要件として、水溶性高分子化合物の分子量が1万以上であること、および繊維状の水溶性高分子化合物を含むこと、のいずれか1つ以上を満たしており、二酸化炭素吸着等温線測定後の成形体の崩壊および微粉化が抑制されていた。そのうち、成形体No.1~2および12は、本発明の実施形態のより好ましい要件(水溶性高分子化合物の分子量が5万以上)を満たしており、成形体の崩壊および微粉化がさらに抑制されていた。
【0065】
さらに、成形体No.1について複数回二酸化炭素の吸脱着測定を行うことで耐久性を確認した。具体的には273Kで10Pa以下の状態にした成形体No.1に対して、CO2ガスを流入して100kPaにし、その後減圧する、という工程を10回繰り返した。その結果、二酸化炭素の吸脱着を10回繰り返しても、成形体No.1は、試験前後でその形態が変化しておらず、崩壊および微粉化することはなかった。