(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172992
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】光駆動熱硬化性樹脂組成物、複合構造物及び複合構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/46 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C08F2/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091093
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151367
【弁理士】
【氏名又は名称】柴 大介
(72)【発明者】
【氏名】小酒井 一輝
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011AC04
4J011CA02
4J011FB01
4J011PA34
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA06
4J011QA18
4J011QA25
4J011SA14
4J011SA16
4J011UA01
4J011VA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】塗工された領域の少なくとも一部に光照射することで、熱硬化が早期に進行する光駆動熱硬化性樹脂組成物と、当該光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体で貼合された複合構造物と、当該複合構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】(1)アクリルアミド誘導体(化合物A)、光重合開始剤(化合物B)並びに熱重合開始剤(化合物C)を含む光駆動熱硬化性樹脂組成物であって、前記化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下であり、特定の標準試験で測定される光駆動熱硬化長が20mm以上である光駆動熱硬化性樹脂組成物。
(2)部材1と部材2を、前項(1)記載の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせて、部材1、部材2及び光駆動熱硬化性樹脂組成物の貼合体を得る工程1と、工程1の後、貼合体中の光駆動熱硬化性樹脂組成物の少なくとも一部に光照射して光駆動熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程2とを有する複合構造物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルアミド誘導体(化合物A)、光重合開始剤(化合物B)並びに熱重合開始剤(化合物C)を含む光駆動熱硬化性樹脂組成物であって、
前記化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下であり、
下記標準試験で測定される光駆動熱硬化長が20mm以上である光駆動熱硬化性樹脂組成物。
記
厚み1mm、幅26mm、長さ75mmのスライドガラス1(松浪硝子工業製S1126)上に、前記スライドガラス1の長さ方向に沿って、高さ1mm、長さ85±5mmの角柱のシリコンゴムを20mmの距離になるように設置し、
前記スライドガラス1上に幅20mm、深さ1mm、長さ75mmの凹部を設け、前記凹部に光駆動熱硬化性樹脂組成物を充填し、前記スライドガラス1と同形・同材質のスライドガラス2(松浪硝子工業製S1126)を貼り合わせ(但し、前記スライドガラス1と前記スライドガラス2の重なりが、幅方向が19~20mm、長さ方向が74~75mmになるように重ね合わせて貼り合せる)、
前記スライドガラス2の上方から、前記スライドガラス2の長さ方向の一方の端部に接する直径15±2mmの円形照射スポットになるように、水銀キセノンランプ(浜松ホトニクス製LC-8)で照度100mW/cm2、照射時間10秒の光照射を行い、
前記凹部内の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が停止したときの、
前記スライドガラス2の長さ方向に平行な直線が、前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化領域の、前記スライドガラス2の長さ方向の一方の端部側と前記硬化領域と未硬化領域の境界線で切り取られてなる線分の最大長(光駆動熱硬化長)を測定する(但し、前記硬化領域が他方の端部まで達した場合は、光駆動熱硬化長は75mmとする)。
【請求項2】
部材1及び部材2を含む複合構造物であって、
前記部材1及び前記部材2が請求項1記載の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着している複合構造物。
【請求項3】
部材1及び部材2を含む複合構造物の製造方法であって、
前記部材1と前記部材2を、請求項1記載の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせて、前記部材1、前記部材2及び前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の貼合体を得る工程1と、
前記工程1の後、前記貼合体中の前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の少なくとも一部に光照射して前記光駆動熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程2とを有する複合構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によって熱硬化が進行する光駆動熱硬化性樹脂組成物、並びに、当該光駆動熱硬化性樹脂組成物で接着された複合構造物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂は電子部品や光学部品の接着や固定などに一般的に用いられているが、接着や固定する箇所に光が当たらない部分(影部、遮光部)がある場合は硬化が進行しないため、熱硬化や湿気硬化を併用したデュアル硬化や、光が当たる部分の光硬化による発熱を利用したフロンタル重合硬化が用いられている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-043864号公報
【特許文献2】特開2019-044030号公報
【特許文献3】特開2019-099636号公報
【0004】
しかしながら、熱硬化や湿気硬化を併用するデュアル硬化の場合は、追加で加熱工程が必要で、硬化時間が光硬化に比べ長く、フロンタル重合硬化でも硬化時間が光硬化に比べ長くなる傾向が顕著であった。
【0005】
本発明は、塗工された領域の少なくとも一部に光照射することで、熱硬化が早期に進行する光駆動熱硬化性樹脂組成物と、当該光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体で貼合された複合構造物と、当該複合構造物の製造方法を提供することを課題とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕アクリルアミド誘導体(化合物A)、光重合開始剤(化合物B)並びに熱重合開始剤(化合物C)を含む光駆動熱硬化性樹脂組成物であって、
前記化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下であり、
下記標準試験で測定される光駆動熱硬化長が20mm以上である光駆動熱硬化性樹脂組成物。
記
厚み1mm、幅26mm、長さ75mmのスライドガラス1(松浪硝子工業製S1126)上に、前記スライドガラス1の長さ方向に沿って、高さ1mm、長さ85±5mmの角柱のシリコンゴムを20mmの距離になるように設置し、
前記スライドガラス1上に幅20mm、深さ1mm、長さ75mmの凹部を設け、前記凹部に光駆動熱硬化性樹脂組成物を充填し、前記スライドガラス1と同形・同材質のスライドガラス2(松浪硝子工業製S1126)を貼り合わせ(但し、前記スライドガラス1と前記スライドガラス2の重なりが、幅方向が19~20mm、長さ方向が74~75mmになるように重ね合わせて貼り合せる)、
前記スライドガラス2の上方から、前記スライドガラス2の長さ方向の一方の端部に接する直径15±2mmの円形照射スポットになるように、水銀キセノンランプ(浜松ホトニクス製LC-8)で照度100mW/cm2、照射時間10秒の光照射を行い、
前記凹部内の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が停止したときの、
前記スライドガラス2の長さ方向に平行な直線が、前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化領域の、前記スライドガラス2の長さ方向の一方の端部側と前記硬化領域と未硬化領域の境界線で切り取られてなる線分の最大長(光駆動熱硬化長)を測定する(但し、前記硬化領域が他方の端部まで達した場合は、光駆動熱硬化長は75mmとする)(以下「本発明1」ともいう)、
〔2〕部材1及び部材2を含む複合構造物であって、
前記部材1及び前記部材2が前項〔1〕記載の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着している複合構造物(以下「本発明2」ともいう)、及び、
〔3〕部材1及び部材2を含む複合構造物の製造方法であって、
前記部材1と前記部材2を、請求項1記載の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせて、前記部材1、前記部材2及び前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の貼合体を得る工程1と、
前記工程1の後、前記貼合体中の前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の少なくとも一部に光照射して前記光駆動熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程2とを有する複合構造物の製造方法(以下「本発明3」ともいう)に関する。
【0007】
以下では、本発明1~3をまとめて「本発明」ともいう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗工された領域の少なくとも一部に光照射することで、熱硬化が早期に進行する光駆動熱硬化性樹脂組成物と、当該光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体で貼合された複合構造物と、当該複合構造物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1-1】スライドガラス1(11-1)上に、スライドガラス1(11-1)の長さ(75mm)方向に沿って、2本の角柱シリコンゴム(12)を、対向する側面の距離が20mmになるように設置し、スライドガラス1(11-1)上に幅20mm、深さ1mm、長さ75mmの凹部(13)が設けられた態様である((a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は平面図であり、
図1-2~1-4も同様である)。
【
図1-2】凹部(13)樹脂組成物(14)が充填された態様である。
【
図1-3】角柱シリコンゴム(12)と樹脂組成物(14)の液面に対してスライドガラス2(11-2)を貼り合わせて得られた測定装置ケース態様である。
【
図1-4】
図1-3の態様において、樹脂組成物(14)が充填された凹部(13)の長さ方向の一方の端部に、水銀キセノンランプで照度100mW/cm
2、照射時間10秒の光照射(L)を行っている模式図である。スライドガラス1とスライドガラス2の縦方向の重なりが、
図1-4(a)は75mm、
図1-4(b)は74mmである(但し、
図1-4(b)は、角柱シリコンゴムを図示していない)。
【
図2-1】比較例1の組成物が充填された測定装置ケースに対する標準試験における光照射後の写真(光駆動熱硬化長18mm、剥がれなし)である。
【
図2-2】実施例2の組成物が充填された測定装置ケースに対する標準試験における光照射後の写真(光駆動熱硬化長75mm、剥がれなし)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《本発明1》
本発明1は、アクリルアミド誘導体(化合物A)、光重合開始剤(化合物B)並びに熱重合開始剤(化合物C)を含む光駆動熱硬化性樹脂組成物であって、
前記化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下であり、
上記標準試験で測定される光駆動熱硬化長が20mm以上である光駆動熱硬化性樹脂組成物。
である。
【0011】
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の光駆動熱硬化長が20mm以上であることを「光駆動熱硬化性」ともいう。
【0012】
化合物Aのアクリル当量の中央値とは、化合物A中の各アクリルアミド誘導体のアクリル当量の小さい順に並べたときの、並んだ全Nモルのアクリルアミド誘導体の中の中央のアクリルアミド誘導体のアクリル当量の値をいう。
【0013】
Nは、組成物中のn種類のアクリルアミド誘導体Ai(i=1,2,・・・n)(nは正の整数)の各アクリルアミド誘導体Aiのモル数Niの総和ΣNiであり、
Ni、は重量部WAiの分子量Miアクリルアミド誘導体Aiの対して、WAikg中のモル数Ni≡WAi/Miの小数第1位を四捨五入した値とする。
【0014】
並んだ全Nモルのアクリルアミド誘導体の中の中央のアミド誘導体のアクリル当量とは、
Nが奇数の場合は、アクリル当量の小さい方から〔(N―1)×(1/2)+1〕番目のアクリルアミド誘導体のアクリル当量をいい、
Nが偶数の場合は、〔N×(1/2)―1〕番目と〔N×(1/2)+1〕番目のアクリルアミド誘導体のアクリル当量の平均値をいう。
【0015】
後述する比較例1~7及び実施例1~10について、化合物Aのアクリル当量の中央値は以下の表1に示すようにことができる。
【0016】
【0017】
〔化合物A〕
化合物Aは、アクリルアミド及び/又はその誘導体である。
【0018】
化合物Aは、本発明1が塗工された領域の少なくとも一部に光照射することで、熱硬化が早期に進行する早期光駆動熱硬化性の観点から、本発明1中の化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下、好ましくは140以下、更に好ましくは130以下、更に好ましくは120以下となるように選ぶ。
【0019】
本発明1中の化合物Aのアクリル当量の中央値が150以下であれば、化合物Aは、アクリル当量が150超のアクリルアミド誘導体を含んでもよい。
【0020】
化合物Aであるアクリル当量が150以下のアクリルアミド誘導体等としては、例えば、
ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド等のヒドロキシル基含有アルキルアクリルアミド誘導体;
アクリロイルモルフォリン等の環状アミド系アクリルアミド誘導体;
N-メトキシメチルアクリルアミド等のアルコキシアルキルアクリルアミド誘導体;
N-オクチルアクリルアミド等のアルキルアクリルアミド誘導体;
N-ビニル-2-ピロリドン等の複素環含有アクリルアミド誘導体;
ジメチルアミノエチルアクリルアミド等のアミノ基含有モノマー;
ジメチルアミノエチルアクリレート等の含窒素アクリロイル基含有モノマー;
ジエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド等のジアルキルアクリルアミド誘導体等が挙げられる。
【0021】
これらは、ラジカル重合性官能基として、一分子中にアクリロイル基を一つのみ有する単官能モノマーでも、一分子中にアクリロイル基を含む二つ以上のラジカル重合性官能基を有する多官能モノマーでもよいが、多官能モノマーを混合すると、本発明1の被着体への接着安定性や、硬化体の靭性が向上する場合がある。
【0022】
なお、多くの場合、単官能モノマーは液状で、多官能モノマーは粉末状であるため、本発明1の部材への塗工性の観点から、単官能モノマーを主体にすることが好ましく、多官能モノマーを使用する場合は、単官能モノマーを含む溶剤を混合して液状にすることが好ましい。
単官能の化合物Aとしては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、N-メトキシメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン等が挙げられる。
【0023】
多官能の化合物Aとしては、例えば、NN’-メチレンビスアクリルアミド、N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド、N,N’-1,2-エタンジイルビス{N-[2-(アクリロイルアミノ)エチル]アクリルアミド}、N,N’-[オキシビス(2,1-エタンジイルオキシ-3,1-プロパンジイル)]ビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0024】
化合物Aであるアクリル当量が150超のアクリルアミド誘導体等としては、N,N’-[オキシビス(2,1-エタンジイルオキシ-3,1-プロパンジイル)]ビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0025】
〔化合物B〕
化合物Bは、光重合開始剤であり、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物において、光励起によってラジカル重合を開始できる機能を有し、例えば、モノカルボニル化合物、ジカルボニル化合物、アセトフェノン化合物、ベンゾインエーテル化合物、アシルフォスフィンオキシド化合物、アミノカルボニル化合物などが挙げられる。
【0026】
化合物Bとしては、紫外線重合開始剤や可視光重合開始剤等が挙げられ、
紫外線重合開始剤としては、ベンゾイン系、ベンゾフェノン系、及びアセトフェノン系等が挙げられ、
可視光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド系、チオキサントン系、メタロセン系、及びキノン系等が挙げられる。
【0027】
紫外線重合開始剤としては、具体的には、
ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、及びビスジエチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系重合開始剤;
2,2-ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン系重合開始剤;
ベンジル、ベンゾイン、及びベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン系重合開始剤;
ベンジルジメチルケタールなどのアルキルフェノン系重合開始剤;
1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンなどのヒドロキシアルキルフェノン系重合開始剤が挙げられる。
【0028】
可視光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド光重合開始剤;
チオキサントンなどのチオキサントン系重合開始剤;
カンファーキノン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン-1などのケトン系重合開始剤等が挙げられる。
【0029】
化合物Bとして、上記例示の中でも、光照射による光駆動熱硬化性樹脂組成物の発熱性の観点から、ヒドロキシアルキルフェノン系重合開始剤及び/又はアシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤がより好ましい。
【0030】
化合物Bは、例えば、上記例示した光重合開始剤を2種類以上組合わせて使用してもよい。
【0031】
〔化合物C〕
化合物Cは、熱重合開始剤であり、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物において、光照射による光ラジカル重合による発熱によってラジカル重合を開始できる機能を有する。
【0032】
化合物Cとしては、例えば、イミダゾール類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩類、三フッ化ホウ素アミン錯体、オルガノホスフィン類、オルガノホスホニウム塩等のイオン触媒、ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート及びヒドロパーオキシド等の有機過酸化物並びにアゾ類等が挙げられる
【0033】
アゾ化合物としては、更に具体的には、例えば、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)とポリアルキレングリコールの重縮合物、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)と末端アミノ基を有するポリジメチルシロキサンの重縮合物等が挙げられる。
【0034】
有機過酸化物の具体例としては、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキシドのようなジアシルパーオキシド類;1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド(例えば、化薬アグゾ社製のカヤクメンH)、t-ブチルヒドロパーオキシドのようなヒドロパーオキシド類;ジクミルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3のようなジアルキルパーオキシド類;2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ジ-t-ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2-ジ-t-ブチルペルオキブタンのようなパーオキシケタール類;1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエートのようなパーオキシエステル類;ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンのようなパーオキシカーボネート類等が挙げられる。
【0035】
化合物Cは、例えば、上記例示した熱重合開始剤を2種類以上組合わせて使用してもよい。
【0036】
〔任意成分〕
【0037】
(1)化合物A以外のラジカル重合化合物(化合物A’)
本発明1には、光駆動熱硬化性を阻害しない範囲で、化合物A以外のラジカル重合化合物(化合物A’)を加えてもよい。
【0038】
化合物A’としては、
エチレン、プロピレン、フッ化ビニル、塩化ビニル、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル等の1置換モノマー及びその誘導体モノマー、誘導体オリゴマー;
メタクリル酸メチル、メタクリル酸、α-メチルスチレン、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等の1,1-二置換モノマー及びその誘導体モノマー;
N-アルキルマレイミド、炭酸ビニレン、無水マレイン酸、クロトン酸等の1,2-二置換モノマー及びその誘導体モノマー;
1,3-ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエンモノマー及びその誘導体モノマー;
メタクリルアミド及び/又はその誘導体;
脂環式(メタ)アクリレートモノマー、水酸基含有(メタ)アクリレートモノマー、芳香族(メタ)アクリレートモノマー、アルキル(メタ)アクリレートモノマー、ヘテロ環構造を有する(メタ)アクリレートモノマー;
(メタ)アクリレートウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー等の(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0039】
(2)連鎖移動剤(化合物D)
本発明1には、本発明1の硬化体の水溶性の向上の観点から、本発明1の光駆動熱硬化性を阻害しない範囲で、連鎖移動剤(化合物D)を加えてもよい。
【0040】
化合物Dは、本発明1の光駆動熱硬化性組成物の硬化体が低分子量化するように(その結果、水溶性が向上するように)化合物Aのラジカル重合反応を調整していると考えられる。
【0041】
化合物Dとしては、例えば、
α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;
アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;
四塩化炭素、クロロホルム等のハロゲン類;及び、
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ノルマルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のチオール基を持つ化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物が挙げられる。
【0042】
化合物Dは、例えば、上記例示した連鎖移動剤を2種類以上組合わせて使用してもよい。
【0043】
(3)溶剤(化合物E)
例えば、アクリルアミド誘導体が粉末の多官能モノマーである場合、溶剤(化合物E)を併用して、本発明1を液状にすることが好ましい。
【0044】
化合物Eは、常圧における沸点が、好ましくは50~120℃、より好ましくは55~100℃であり、例えば、
メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;
ベンゼン、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン、n-ヘキサン、メチルシクロヘキサン、スチレンなどの炭化水素類;ジエチルエーテルなどのエーテル類;
酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸プロピレンなどのエステル類;
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの窒素類;
ブチルグリコール、メチルジグリコール、ブチルジグリコール、3-メチル-3-メトキシブタノール、テトラヒドロフランなどのグリコールエーテル類;
塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼンなどの塩素類;
ジメチルスルホキシド;アセトニトリル;ギ酸、酢酸等のカルボン酸類;及び水からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、
より好ましくは、アルコール類、炭化水素類、エステル類及びケトン類からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物、
更に好ましくは、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール及び炭酸ジエチルからなる群から選ぶことができる。
【0045】
(4)その他の化合物(化合物F)
本発明1の早期光駆動熱硬化性を阻害しない範囲で、本発明1には、公知の添加剤、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤、増量剤、粘度調節剤、粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、平滑化剤、発泡剤、離型剤等の添加剤を使用することができる。
【0046】
〔光駆動熱硬化性樹脂組成物の配合〕
【0047】
本発明1の光駆動熱硬化性の観点から、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物における各化合部の好適配合は以下の通りである。
【0048】
例えば、
アクリル当量が150以下のアクリルアミド誘導体等100重量部に対して、
アクリル当量が150超のアクリルアミド誘導体等を、
好ましくは0~50重量部、より好ましくは0.2~40重量部、更に好ましくは0.5~30重量部、更に好ましくは1~20重量部、更に好ましくは2~15重量部、更に好ましくは5~10重量部で、本発明1中の化合物Aのアクリル当量が150以下になるように配合する。
【0049】
化合物A’は、化合物A100重量部に対して、
好ましくは0~150重量部、より好ましくは0.1~140重量部、更に好ましくは0.2~125重量部、更に好ましくは0.5~100、更に好ましくは1~50重量部、更に好ましくは2~20重量部、更に好ましくは3~10重量部、更に好ましくは3~5重量部である。
【0050】
化合物Bは、化合物A及びA’の合計100重量部に対して、
好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~7重量部、更に好ましくは0.5~5重量部、更に好ましくは1~3重量部である。
【0051】
化合物Cは、化合物A及びA’の合計100重量部に対して、
好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは0.2~4重量部、更に好ましくは0.3~3重量部、更に好ましくは1~2.5重量部である。
【0052】
化合物Dは、化合物A及びA’の合計100重量部に対して、
好ましくは0.1~5重量部、より好ましくは0.2~4重量部、更に好ましくは0.3~3重量部、更に好ましくは0.5~2重量部である。
【0053】
本発明1の光駆動熱硬化性の観点から、化合物A及びA’、化合物B並びに化合物Cの合計量は、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物中、
好ましくは60~100重量%、より好ましくは70~99重量%、更に好ましくは80~98重量%、更に好ましくは90~97重量%、更に好ましくは93~96重量%である。
【0054】
〔光駆動熱硬化性樹脂組成物の外観〕
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物は、
光学貼り合わせ用途の場合は、硬化体が透明であることが好ましく、
位置固定、影部硬化用途の場合は、硬化体の透明性よりも、被着体への接着安定性を優先してよい場合がある。
【0055】
〔光駆動熱硬化性樹脂組成物の発熱性〕
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物は、最初の光照射による光ラジカル重合に伴う発熱により、熱ラジカル重合が誘発するため、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介した貼合体は、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を熱硬化するために、従前のデュアル硬化における高加熱(例えば、特許文献1実施例4は100℃で90分の加熱)を必要としない。
【0056】
《本発明2》
本発明2は、部材1及び部材2を含む複合構造物であって、
部材1及び部材2が本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着している複合構造物である。
【0057】
〔複合構造物〕
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の好適な使用対象は、部材1及び部材2を含み、部材1及び部材2が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着している複合構造物である。
【0058】
部材1及び部材2が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着しているとは、部材1と部材2の表面が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を間に挟んで光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体に接触して接着している(部材1と部材2の光駆動熱硬化性樹脂組成物の近傍の相対的位置が固定されている)ことをいう。
【0059】
複合構造物において、部材1及び2を接着している光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体に対して、さらに、例えば、溶剤を接触して溶解除去して部材1及び2の接着を解除することを予定している場合、部材1及び部材2が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介しての接着を仮固定という。
【0060】
部材1及び部材2がプレートである場合は、例えば、
好ましくは部材1及び/又は部材2の厚み方向の面が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着又は仮固定されるか、より好ましくは部材1及び/又は部材2のプレート面が光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着又は仮固定されるかして、
部材1及び部材2が前記光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して接着して、部材1及び部材2が積層体を構成していてもよい。
【0061】
なお、治療・美容等のために、口腔内部の歯又は歯茎等に歯科用部材を接着又は仮固定して装着するために、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介して歯科用部材を接着又は仮固定することができるが、説明上、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化体を介した口腔内部と当歯科用部材の貼合部を複合構造物とみなす(即ち、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物は歯科用光駆動熱硬化性樹脂組成物として使用できる)。
【0062】
プレートは表裏面の面積に比べて厚みの薄い構造物であるが、板状でもよく、薄膜状でもよく、平面状でも曲面状でもよい。
【0063】
本発明2の複合構造物としては、部材1及び部材2の少なくとも一方の部材が、液晶表示パネル、有機EL表示パネル、保護パネル、タッチパネル、ガラス又はプラスチック板であることが好ましく、以下を例示することができる。
【0064】
(1)各種フィルム等の光学部材を備える液晶表示体であって、光学部材が接着又は仮固定されて積層体等を構成している液晶表示体。
(2)液晶セルを備える液晶表示体であって、液晶セル内が接着又は仮固定されている液晶表示体。
(3)ウエハーなどの表面平滑性を要する物品を基材上に複数個仮固定して、表面加工を同時に行い、基材を除去して使用する。
(4)防眩ミラー,電子ペーパ,電池又はコンデンサー等の電解液を用いるデバイスであって、電極やセパレータ、集電体等の部材が接着又は仮固定されているデバイス。仮固定剤として使用する場合、溶解した光駆動熱硬化性樹脂組成物が電解液に混入しても電解液の性能が阻害されないように光駆動熱硬化性樹脂組成物の構成化合物を選択することが好ましい。
(5)光学レンズを研磨するための研磨装置であって、光学レンズと光学レンズの固定支持台が仮固定された研磨装置。
(6)光学レンズ等の原材料を複数個仮固定して所定の形状に機械的加工を行った後接光駆動熱硬化性樹脂組成物を除去して各々を部品として使用する。
【0065】
(7)フラットパネル(2D)ディスプレイ周辺部材:
(7-1)破損したガラスの飛散を防止するための飛散防止フィルムと保護ガラスを光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせた積層体;
(7-2)液晶パネルの破損防止および光反射防止のための保護パネルと液晶パネルを光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせた積層体;
(7-3)機能性部材を光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせて積層したタッチセンサーパネル(フィルム);
(7-4)複数の光学フィルムを光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせて積層したバックライト。
【0066】
(8)立体パネル(2.5D、3D)保護パネル・ディスプレイ。
【0067】
(9)破損ガラスの飛散防止および衝撃強度改善のために光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせた建築用の防犯ガラスや安全ガラス。
【0068】
(10)受光面材と裏面材の封止のために光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせた太陽電池モジュール。
【0069】
(11)強度改善のために光駆動熱硬化性樹脂組成物で貼り合わせた包装用フィルム。
【0070】
従って、部材1及び2の材質は、ガラス、PET、TAC、COP、ポリイミド、PMMA、ポリカーボネート、塩化ビニル、PVA、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコン、グラファイト、アルミニウム、銅、SUS等が好ましく、部材の表面に有機ハードコート層や無機ハードコート層が処理されていても良く、導電性を持たせるためにITOやIZO、カーボンナノチューブなどの透明導電性材料が処理されていても良く、電極や配線材料として表面に銀、銅などの金属がパターニングされていても良い。
【0071】
《本発明3》
本発明3は、部材1及び部材2を含む複合構造物の製造方法であって、
部材1と部材2を、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせて、部材1、部材2及び光駆動熱硬化性樹脂組成物の貼合体を得る工程1と、
工程1の後、貼合体中の光駆動熱硬化性樹脂組成物の少なくとも一部に光照射して光駆動熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程2とを有する複合構造物の製造方法である。
【0072】
本発明3の好適な製造目的物は本発明2の複合構造物である。
【0073】
〔工程1〕
工程1は、部材1と部材2を、本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を介して貼り合わせて、部材1、部材2及び光駆動熱硬化性樹脂組成物の貼合体を得る工程である。
【0074】
工程1では、部材1及び部材2のどちらか一方又は両方に本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を塗布する。
【0075】
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の塗布は、部材1及び部材2の貼り合わせる表面全域に必要な塗布厚みで塗布したり、貼り合せる表面の一部に面状に塗布したり、スポット状に塗布してよい。部材の角部を貼り合せる場合は、部材の角部に沿って線状又はスポット状に塗布してもよい。
【0076】
本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物を塗布をする装置としては、例えば、面状に塗布する場合は、スリットコートやスピンコート、スクリーンなど各種印刷などを使用でき、スポット状又は線状に塗布する場合は、ディスペンサーやスクリーンなど各種印刷などが使用できる。
【0077】
〔工程2〕
工程2は、工程1の後、貼合体中の光駆動熱硬化性樹脂組成物の少なくとも一部に光照射して光駆動熱硬化性樹脂組成物を硬化させる工程である。
【0078】
本発明3では、工程1で塗工された本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物の連続した塗工領域の少なくとも一部に光照射すると、光照射部分の本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物において、化合物B(光重合開始剤)により化合物Aの光ラジカル硬化反応が開始すると共に、当該ラジカル硬化反応に伴う発熱によって化合部C(熱重合開始剤)により化合物Aの熱ラジカル硬化反応が誘発し、熱ラジカル硬化反応に伴う発熱によって、化合物Aの熱ラジカル硬化反応が連鎖し、光照射されなかった光駆動熱硬化性樹脂組成物も硬化する。
【0079】
従って、本発明3では、貼合体中の硬化前の本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物に、光照射に対して、光が当たらない部分(影部、遮光部)がある場合でも、硬化が進行する。
【0080】
光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化を十分に進行させる観点から、照射光量は、塗膜の厚みにより異なるが、1500~10000mJ/cm2であることが好ましく、2000~9000mJ/cm2であることがより好ましく、3000~9000mJ/cm2であることが更に好ましく、4000~7000mJ/cm2であることが更に好ましい。
【0081】
光源としては、露光する光線の種類に応じて選択でき、例えば、紫外線の場合は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光(ヘリウム-カドミウムレーザー、エキシマレーザーなど)などを用いることができる。
【0082】
〔実施例〕
【0083】
(1)化合物原料
(化合物A:アクリルアミド誘導体)
【0084】
(A1-1)HEAA:N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド(KJケミカルズ社製)
(A1-2)ACMO:アクリロイルモルフォリン(KJケミカルズ社製)
(A1-3)DMAA:ジメチルアクリルアミド(KJケミカルズ社製)
(A1-4)NBM-2:N-(ブトキシメチル)アクリルアミド(笠野興業社製)
(A2-1)MBA:NN'-メチレンビスアクリルアミド(笠野興業社製)
(A2-2)FOM-03007:N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フィルム和光純薬社製)
(A2-3)FOM-03009:N,N'-1,2-エタンジイルビス{N-[2-(アクリロイルアミノ)エチル]アクリルアミド}(富士フィルム和光純薬社製)
(A2-4)FOM-03008:N,N'-[オキシビス(2,1-エタンジイルオキシ-3,1-プロパンジイル)]ビスアクリルアミド(富士フィルム和光純薬社製)
【0085】
(化合物A’:化合物A以外のラジカル重合化合物)
(A'1-1)4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート(大阪有機化学工業社製)
(A'1-2)TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製)
(A'1-3)IBOA:イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業社製)
(A'1-4)THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート(大阪有機化学工業社製)
(A'1-5)UV-3310B:ウレタンアクリレート(三菱ケミカル社製)
(A'1-6)Ebecryl3708:変性エポキシアクリレート(ダイセルオルネクス社製)
(A'2-1)MMMA:N-メトキシメチルメタクリルアミド(笠野興業社製)
(A'2-2)NBMM:N-(ブトキシメチル)メタアクリルアミド(笠野興業社製)
【0086】
(化合物B:光重合開始剤)
(B-1)オムニラッド1173:2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(IGM RESINS社製)
【0087】
(化合物C:熱重合開始剤)
(C-1)ハ゜ーオクタO:2-エチルヘキサンヘ゜ルオキシ酸1,1,3,3-テトラメチルフ゛チル(日油社製)
【0088】
(化合物D:連鎖移動剤)
(D-1)PE-1:テトラメルカプト酪酸ペンタエリスリチル(昭和電工社製)
(D-2)BD-1:1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(昭和電工社製)
【0089】
(化合物F:添加剤)
(F-1)カーホ゛フ゛ラック♯2600:カーボンブラック(三菱ケミカル社製)
【0090】
(2)樹脂組成物の製造
表1を参照して説明する。
【0091】
化合物A及び/又は化合物A’について表1記載の重量部を秤量し、
ビーカー(500ml)に充填し、スリーワンモータ撹拌機BlH300(アズワン社製)を使用して200回転/分で30分間攪拌して、化合物A及び/又は化合物A’含む混合樹脂組成物1を得た後、
化合物B、化合物C、化合物D及び化合物Fについて、
表1記載の重量部を秤量し、混合樹脂組成物1に混合して得た混合樹脂組成物2を、
さらに同じ攪拌条件で10分撹拌して、実施例の光駆動熱硬化性樹脂組成物と比較例の液状の樹脂組成物を得た。
【0092】
(3)樹脂組成物の物性
比較例及び実施例の液状の樹脂組成物に対して、室温環境(25℃、湿度50%)で以下の物性を測定した。
【0093】
【0094】
(1)器具
(1-1)部材1(スライドガラス1;厚み1mm、幅26mm、長さ75mm;松浪硝子工業製S1126)
(1-2)部材2(スライドガラス2;厚み1mm、幅26mm、長さ75mm;松浪硝子工業製S1126)
(1-3)角柱シリコンゴム(厚み1mm、幅1mm、長さ80mm;アズワン社製)
(1-4)スパーテル(ステンレス製;アズワン社製)
(1-5)水銀キセノンランプ(浜松ホトニクス製LC-8UV)
【0095】
(2)測定条件
(2-1)スライドガラス1(11-1)上に、前記スライドガラス1(11-1)の長さ(75mm)方向に沿って、角柱シリコンゴム(12)を、互いの対向する側面の距離が20mmになるように設置し、
前記スライドガラス1上(11-1)に幅20mm、深さ1mm、長さ75mmの凹部(13)を設ける(
図1-1)。
【0096】
(2-2)前記凹部に、スパーテルを用いて実施例と比較例の樹脂組成物を滴下充填し(
図1-2)、角柱シリコンゴム(12)と樹脂組成物(14)の液面に対してスライドガラス2(11-2)を貼り合わせる(但し、前記スライドガラス1と前記スライドガラス2の重なりが、幅方向が19~20mm、長さ方向が74~75mmになるように重ね合わせて貼り合せる(例えば、
図1-4(a)又は(b)))(以下、スライドがラス1(11-1)、スライドがラス2(11-2)及び角柱シリコンゴム(12)で構成された凹部(13)に樹脂組成物(又はその硬化体)(14)が充填された状態の装置系全体を測定装置ケースという)。測定装置ケースの凹部(13)の長さ方向の両端からははみ出した樹脂組成物は除去する)。
【0097】
(2-3)前記凹部(13)の長さ方向の一方の端部に、水銀キセノンランプで照度100mW/cm
2、照射時間10秒の光照射(L)をする(
図1-4)。
【0098】
光照射は、スライドガラス2の長さ方向の一方の端部に接する直径15±2mmの円形照射スポットになるように、スライドガラス2の上方から行う、
【0099】
凹部に充填された光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が停止したときの、
スライドガラスの長さ方向に平行な直線が、光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化領域のスライドガラス2の長さ方向の一方の端部側と硬化領域と未硬化領域の境界線で切り取られてなる線分の最大長(光駆動熱硬化長)を測定する(但し、硬化領域が他方の端部まで達した場合は、光駆動熱硬化長は75mmとする)(
図2-1、
図2-2)。
【0100】
光駆動熱硬化長を測定する際に、硬化領域と未硬化領域の境界が判別し難い場合は、未硬化領域をスライドガラス端部から流しだして除去したり、未硬化領域の粘性が高い場合は、硬化領域が溶解しない溶剤を使用して未硬化領域をスライドガラス端部から流しだして除去してもよい。
【0101】
(2-4)
図2-1に、比較例1の組成物が充填された測定装置ケースの光照射後の写真(光駆動熱硬化長18mm、剥がれなし)を掲載し、
図2-2に、実施例1の組成物が充填された測定装置ケースの光照射後の写真(光駆動熱硬化長75mm、剥がれなし)を掲載した。
【0102】
なお、硬化領域は、スライドガラス2の光照射した側の端部1からはみだしたり、端部1の反対側の端部2から端部1の方向にズレたりする場合がある。
【0103】
(剥がれ)
光駆動熱硬化長が20mm以上の実施例の光駆動熱硬化性樹脂組成物の硬化部を目視して、光駆動熱硬化性樹脂組成物とスライドガラスの剥離の有無を確認した。
【0104】
図2-1に、比較例1の組成物が充填された測定装置ケースの光照射後の写真(光駆動熱硬化長3mm、剥がれなし)を掲載し、
図2-2に、実施例1の組成物が充填された測定装置ケースの光照射後の写真(光駆動熱硬化長70mm、剥がれなし)を掲載した。
【0105】
以上の実施例及び比較例の組成及び物性について結果を表2にまとめた。
【0106】
【0107】
表2によれば、
比較例1が、特許文献1の実施例1の配合例2に相当し、
比較例2が、特許文献2の表5の実施例4の配合に相当し、
比較例3が、特許文献3の実施例7の配合に相当する場合であり、
比較例4が、化合物Aのアクリル当量の中央値が150を超えている場合、
比較例5が、化合物Aに対して、アクリル化合物が多く配合されている場合、
比較例6及び7が、化合物Aをメタクリルアミド誘導体に置き換えた場合であるが、
いずれも、光駆動熱硬化性(光駆動熱硬化長)が実施例1~10に比べて著しく小さいことがわかる。
【0108】
そして、表2によれば、実施例1~10の本発明1の光駆動熱硬化性樹脂組成物は、光駆動熱硬化性(光駆動熱硬化長)が比較例1~7に比べて著しく大きいことが示された。
【符号の説明】
【0109】
11-1 スライドガラス1
11-2 スライドガラス2
12 角柱シリコンゴム
13 凸部
14 光駆動熱硬化性樹脂組成物
L 光照射
ISP 照射スポット
CA 硬化領域
UCA 未硬化領域