(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172998
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】山留め工法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20241205BHJP
E02D 5/18 20060101ALI20241205BHJP
E02D 29/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E02D17/04
E02D5/18 101
E02D29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091101
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 直宏
(72)【発明者】
【氏名】氏原 将之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕久
(72)【発明者】
【氏名】船越 健司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】河野 貴穂
(72)【発明者】
【氏名】杉本 南
【テーマコード(参考)】
2D049
2D147
【Fターム(参考)】
2D049GA02
2D049GB05
2D147AB01
(57)【要約】
【課題】既存地下外壁を補強するための専用の補助部材を用いることなく、既存地下外壁の変形を防止した上で、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工することである。
【解決手段】山留め工法は、既存建物の地上部分を解体したコンクリートガラを既存建物の地下空間に埋め戻して既存地下外壁に囲まれた作業地盤を施工する工程と、オールケーシング工法によって既存基礎梁及び既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して一の円柱状の流動化処理土を既存地下外壁に沿って間隔をあけて複数形成する工程と、一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が発現した後、隣り合う一の円柱状の流動化処理土の間に、オールケーシング工法によって既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して他の円柱状の流動化処理土を既存地下外壁に沿って複数形成することで処理土壁を形成する工程と、処理土壁の中に山留め壁を施工する工程と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下の既存耐圧盤及び水平方向に間隔をあけて複数設けられた既存基礎梁を有する既存建物の地上部分を解体したコンクリートガラを既存建物の地下空間に埋め戻して前記既存建物の既存地下外壁に囲まれた作業地盤を施工する工程と、
オールケーシング工法によって前記既存基礎梁及び前記既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して一の円柱状の流動化処理土を前記既存地下外壁に沿って間隔をあけて複数形成する工程と、
前記一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が発現した後、隣り合う前記一の円柱状の流動化処理土の間に、オールケーシング工法によって前記既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して他の円柱状の流動化処理土を前記既存地下外壁に沿って複数形成することで処理土壁を形成する工程と、
水平方向において前記処理土壁の中に山留め壁を施工する工程と、
を備える山留め工法。
【請求項2】
前記一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度は、前記他の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度と比して高くされている、
請求項1に記載の山留め工法。
【請求項3】
前記山留め壁を施工する工程では、前記一の円柱状の流動化処理土が形成されている部位に一のソイルセメント柱を施工した後に、隣り合う前記一のソイルセメント柱の間に他のソイルセメント柱を複数施工することでソイルセメント柱列壁である前記山留め壁を施工する、
請求項1又は2に記載の山留め工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、山留め工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の山留め工法では、ディープウェル等で地下水位を下げ、山留壁予定部の既存躯体の全ての床及び耐圧版を解体し、地下水の常水位より高い位置まで流動化処理土を打設し、既存建物の梁を残したまま梁の両側に山留壁を施工し、山留壁の未施工部である既存躯体の梁の部分は、山留壁頭部近辺の梁に地盤改良用孔をドリリングし、その孔を利用し、あるいは梁の両側から地盤改良機械により山留壁未施工部分の山留壁の裏側に当たるエリアの地盤を地盤改良により固める施工を行い、さらに、必要に応じて地盤改良と山留壁との隙間から地下水の漏水を防ぐため、地盤改良と山留壁の両側の堺部分に薬液による地盤固結剤を注入して山留壁の要求品質を完成させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存地下を有する既存建物を解体して、新築建物を構築することがある。このような場合に、既存建物の地上部分を解体したコンクリートガラでは既存建物の地下空間が埋まりきらず、作業地盤を既存建物の既存地下外壁の上端に対して例えば10〔m〕程度下げて新築建物を構築する工事を開始することがある。
【0005】
作業地盤が既存地下外壁に囲まれているため、既存地下外壁を山留め壁として利用する必要がある。ここで、新築建物の地下が既存建物の地下に対して深い場合や、新築建物の地下が既存建物の地下に対して浅い場合でも遮水目的で既存地下外壁の内側に新たな山留め壁が必要となる。
【0006】
既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工するため、既存建物の耐圧盤を障害撤去工法にて撤去する必要がある。しかし、既存建物の耐圧盤は山留め壁として利用している既存地下外壁を支える床板でもある。このため、障害撤去によって耐圧盤が無くなることで山留め壁として利用している既存地下外壁が変形して周辺地盤に沈下などの悪影響を及ぼす恐れがある。
【0007】
従来、このような状況において、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工する場合には、既存地下外壁の変形防止対策として、既存地下外壁を補強するための鋼製の斜梁やバットレスを新たに設けるなどの専用の補助部材を必要としていた。
【0008】
本開示の課題は、既存地下外壁を補強するための専用の補助部材を用いることなく、既存地下外壁の変形を防止した上で、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1態様に係る山留め工法は、地下の既存耐圧盤及び水平方向に間隔をあけて複数設けられた既存基礎梁を有する既存建物の地上部分を解体したコンクリートガラを既存建物の地下空間に埋め戻して前記既存建物の既存地下外壁に囲まれた作業地盤を施工する工程と、オールケーシング工法によって前記既存基礎梁及び前記既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して一の円柱状の流動化処理土を前記既存地下外壁に沿って間隔をあけて複数形成する工程と、前記一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が発現した後、隣り合う前記一の円柱状の流動化処理土の間に、オールケーシング工法によって前記既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して他の円柱状の流動化処理土を前記既存地下外壁に沿って複数形成することで処理土壁を形成する工程と、水平方向において前記処理土壁の中に山留め壁を施工する工程と、を備える。
【0010】
上記態様によれば、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工するときに、先ず、オールケーシング工法によって既存基礎梁及び既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して一の円柱状の流動化処理土を既存地下外壁に沿って間隔をあけて複数形成する。
【0011】
つまり、既存地下外壁を内側で支えている既存基礎梁及び既存耐圧盤のうち荷重が大きく作用している既存基礎梁を既存耐圧盤に先行して撤去し、流動化処理土で埋め戻して一の円柱状の流動化処理土を既存地下外壁に沿って間隔をあけて複数形成する。
【0012】
このように、間隔をあけて障害物である既存基礎梁及び既存耐圧盤を撤去することで、既存地下外壁を支持するために既存基礎梁及び既存耐圧盤に作用している荷重が分散する。
【0013】
そして、一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が発現した後、隣り合う一の円柱状の流動化処理土の間に、オールケーシング工法によって既存耐圧盤の一部を含む障害物を円柱状に撤去し、流動化処理土で埋め戻して他の円柱状の流動化処理土を既存地下外壁に沿って複数形成することで処理土壁を形成する。
【0014】
このように、一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が発現した後、他の円柱状の流動化処理土を形成することで、既存地下外壁を支持するための荷重が、一の円柱状の流動化処理土を介して既存の構造物に伝達される。そして、一の円柱状の流動化処理土及び他の円柱状の流動化処理土によって形成された処理土壁の中に山留め壁を施工する。
【0015】
以上説明したように、既存地下外壁を補強するための専用の補助部材を用いることなく、既存地下外壁の変形を防止した上で、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工することができる。
【0016】
なお、既存基礎梁を先行して撤去するのは、既存耐圧盤を先行して撤去すると既存基礎梁を撤去するときに既存基礎梁に作用する荷重が大きくなり、オールケーシング工法で用いられるケーシングチューブの側面にかかる荷重が大きくなってケーシングチューブの撤去が困難になるためである。
【0017】
第2態様に係る山留め工法は、第1態様に記載の山留め工法において、前記一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度は、前記他の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度と比して高くされていることを特徴とする。
【0018】
上記態様によれば、一の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度が他の円柱状の流動化処理土を構成する流動化処理土の強度と比して高くされている。換言すれば、既存基礎梁の一部を撤去しその撤去された部分を埋め戻すのに用いる流動化処理土の強度が、既存耐圧盤の一部を撤去しその撤去された部分を埋め戻すのに用いる流動化処理土の強度と比して高くされている。
【0019】
このように、既存地下外壁の荷重が大きく作用する既存基礎梁に用いる流動化処理土の強度を高くすることで、既存地下外壁の変形を効果的に抑制することができる。
【0020】
第3態様に係る山留め工法は、第1又は2態様に記載の山留め工法において、記山留め壁を施工する工程では、前記一の円柱状の流動化処理土が形成されている部位に一のソイルセメント柱を施工した後に、隣り合う前記一のソイルセメント柱の間に他のソイルセメント柱を複数施工することでソイルセメント柱壁である前記山留め壁を施工することを特徴とする。
【0021】
上記態様によれば、一の円柱状の流動化処理土が形成されている部位に一のソイルセメント柱を施工した後に、隣り合う一のソイルセメント柱の間に他のソイルセメント柱を複数施工する。このように、流動化処理土の強度の発現順にソイルセメント柱を施工することで、工期を短縮することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、既存地下外壁を補強するための専用の補助部材を用いることなく、既存地下外壁の変形を防止した上で、既存地下外壁の内側に新たな山留め壁を施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される山留め壁が解体後に施工される既存建物を示した模式図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される山留め壁が解体後に施工される既存建物の解体状態を示した模式図である。
【
図3】本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される山留め壁が解体後に施工される既存建物の既存地下外壁、既存耐圧盤、及び既存基礎梁を示した斜視図である。
【
図4】(A)(B)本開示の実施形態に係る山留め工法の一工程であって、作業地盤を施工する工程を示した断面図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る山留め工法においてオールケーシング工法に用いられる重機を示した断面図である。
【
図6】(A)(B)本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される円柱状の流動化処理土の位置を示した平面図である。
【
図7】(A)(B)本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される円柱状の流動化処理土の位置と順番を示した斜視図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工される円柱状の流動化処理土を示した断面図である。
【
図9】本開示の実施形態に係る山留め工法においてソイル・ミキシング・ウォール工法に用いられる重機を示した断面図である。
【
図10】本開示の実施形態に係る山留め工法によって施工されるソイルセメント柱及び山留め壁を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本開示の実施形態に係る山留め工法の一例について、
図1~
図10を用いて説明する。具体的には、既存の建物(以下「既存建物」)を解体し、解体した跡地に新築建物を構築するための山留め壁を施工する方法である。なお、各図に示す矢印Hは、構造物の上下方向であって鉛直方向を示し、各図に示す矢印Wは、構造物の幅方向であって、水平方向を示し、各図に示す矢印Dは、構造物の奥行方向であって、矢印Wと直交する水平方向を示す。
【0025】
(既存建物10)
解体される既存建物10は、
図1に示されるように、地下階を有する建物であって、例えば、鉄骨造(S造)によって構築されている。具体的には、既存建物10の地下には、地下空間12を取り囲む既存地下外壁14と、既存地下外壁14を支持する床板である既存耐圧盤18とが設けられている。さらに、既存建物10の地下には、既存耐圧盤18に下端が連結されると共に断面が鉛直方向に延びる矩形状とされ、奥行方向に間隔をあけて複数形成された既存基礎梁22(
図3参照)と、複数の既存柱26と、スラブ(符号省略)等とが設けられている。
【0026】
(既存建物10の解体工程)
既存建物10の解体工程では、
図2に示されるように、既存建物10の地上部分を解体し、解体によって生じたコンクリートガラGAを地下空間12に埋め戻す。なお、コンクリートガラGAとは、解体工程の際に排出されるコンクリートのがれきのことである。換言すれば、コンクリートガラGAとは、コンクリートの破片のことである。
【0027】
本実施形態では、既存建物10の地上部分を解体したコンクリートガラGAでは既存建物10の地下空間12が埋まりきらず、埋め戻されたコンクリートガラGAの上面は、既存地下外壁14の上端に対して低く、既存地下外壁14に囲まれてしまう。
【0028】
(作業地盤28を施工する工程)
作業地盤28を施工する工程では、
図4(A)(B)に示されるように、地下空間12に埋め戻されたコンクリートガラGAの上面に捨てコンクリート(所謂「捨てコン」)を打設することで、既存地下外壁14に囲まれた作業地盤28を施工する。
【0029】
(既存基礎梁22及び既存耐圧盤18を撤去する工程)
障害物である既存基礎梁22及び既存耐圧盤18を撤去する工程では、オールケーシング工法(所謂「CD工法」)が用いられる。オールケーシング工法では、先端にカッターが取り付けられたケーシングチューブを全周回転させて地中に圧入して地中の障害物を切削し、ケーシングチューブ内の障害物をハンマグラブ等で撤去する。
【0030】
本実施形態では、
図5に示されるように、回転機84に取り付けられた円筒状のケーシングチューブ82と、クレーン車88に取り付けられたハンマグラブ(図示省略)とが用いられる。
【0031】
具体的には、
図6(A)に示されるように、既存地下外壁14の内側で既存地下外壁14から数m離れた部分の既存基礎梁22の上方から回転するケーシングチューブ82(
図5参照)を地中に圧入する。そして、既存基礎梁22及び既存耐圧盤18の一部を含む障害物を円柱状に切削し、ケーシングチューブ82内の障害物をハンマグラブで撤去する。
【0032】
さらに、ケーシングチューブ82内を流動化処理土で埋め戻し、ケーシングチューブ82を引き抜くことで、
図6(A)、
図7(A)、
図8に示されるように、円柱状の流動化処理土30が形成される。円柱状の流動化処理土30は、一の円柱状の流動化処理土の一例である。
【0033】
また、上方から見て既存地下外壁14に沿って、既存基礎梁22が設けられた部分に対して前述した工程を複数回行うことで、円柱状の流動化処理土30が、既存地下外壁14に沿って間隔をあけて複数形成される。
【0034】
ここで、流動化処理土とは、土に水及びセメントを配合することで形成されており、本実施形態では、1.0〔N/mm2〕の強度の流動化処理土が、既存基礎梁22を撤去した部分を埋め戻すのに用いられている。換言すれば、円柱状の流動化処理土30は、1.0〔N/mm2〕の強度の流動化処理土を用いて形成される。
【0035】
(既存耐圧盤18を撤去して処理土壁38を施工する工程)
隣り合う円柱状の流動化処理土30の間の既存耐圧盤18の部分を撤去して処理土壁38を施工する工程では、オールケーシング工法が用いられる。
【0036】
本実施形態では、円柱状の流動化処理土30を構成する流動化処理土の強度が発現した後に、
図6(B)、
図7(B)に示されるように、隣り合う円柱状の流動化処理土30の間に、オールケーシング工法を用いて複数の円柱状の流動化処理土34が、隣の円柱状の流動化処理土30、34と端部が重なるように施工される。
【0037】
具体的には、先ず、奥行方向の奥側の円柱状の流動化処理土30に対して奥行方向の手前に、円柱状の流動化処理土30の端部と端部が重なるように、回転するケーシングチューブ82(
図5参照)を地中に圧入し、既存耐圧盤18の一部を含む障害物を円柱状に切削し、ケーシングチューブ82内の障害物をハンマグラブで撤去する。さらに、ケーシングチューブ82内を流動化処理土で埋め戻し、ケーシングチューブ82を引き抜くことで、
図6(B)、
図7(B)に示されるように、円柱状の流動化処理土34が形成される。この円柱状の流動化処理土34の外径は、円柱状の流動化処理土30の外径と同様とされている。円柱状の流動化処理土34は、他の円柱状の流動化処理土の一例である。
【0038】
さらに、前述した手順で、前工程で形成された円柱状の流動化処理土34に対して奥行方向の手前側に、円柱状の流動化処理土34を形成する。これを繰り返すことで、隣り合う円柱状の流動化処理土30の間に、複数の円柱状の流動化処理土34を形成する。これにより、複数の円柱状の流動化処理土30及び複数の円柱状の流動化処理土34によって、処理土壁38が施工される。
【0039】
(山留め壁42を施工する工程)
山留め壁42を施工する工程では、ソイル・ミキシング・ウォール工法(所謂「SWM工法」)が用いられる。ソイル・ミキシング・ウォール工法では、クローラ杭打機に取り付けられたオーガースクリュウを回転させて地中に挿入させる。そして、オーガースクリュウの先端からセメントスラリーを吐出さて土とセメントスラリーとを混合撹拌しながら削孔し、円柱状のソイルセメント柱を施工する。なお、このソイルセメント柱の外径は、円柱状の流動化処理土30、34の外径と比して小さくされている。
【0040】
本実施形態では、
図9に示されるように、クローラ杭打機90と、クローラ杭打機90に取り付けられたオーガースクリュウ92とが用いられる。
【0041】
そして、
図6(B)に示す円柱状の流動化処理土30が形成された部分に、先端からセメントスラリーを吐出させながらオーガースクリュウ92と回転させて地中に挿入させて土とセメントスラリーとを混合撹拌しながら削孔する。これにより、
図10に示されるように、円柱状のソイルセメント柱46が形成される。ソイルセメント柱46は、一のソイルセメント柱の一例である。
【0042】
そして、円柱状の流動化処理土30が設けられた部分に対して前述した工程を複数回行うことで、ソイルセメント柱46が、既存地下外壁14に沿って間隔をあけて複数形成される。
【0043】
次に、奥行方向の奥側のソイルセメント柱46に対して奥行方向の手前に、ソイルセメント柱46の端部と端部が重なるように、先端からセメントスラリーを吐出させながらオーガースクリュウ92と回転させて地中に挿入させて土とセメントスラリーとを混合撹拌しながら削孔する。これにより、
図10に示されるように、円柱状のソイルセメント柱48が形成される。
【0044】
さらに、前述した手順で、前工程で形成されたソイルセメント柱48に対して奥行方向の手前側に、ソイルセメント柱48を形成する。これを繰り返すことで、隣り合うソイルセメント柱46の間に、複数のソイルセメント柱48を施工する。これにより、
図10に示されるように、複数のソイルセメント柱46及び複数のソイルセメント柱48によって、ソイルセメント柱壁である山留め壁42が施工される。
【0045】
(まとめ)
以上説明したように、本実施形態の山留め工法においては、既存地下外壁14を内側で支える既存基礎梁22及び既存耐圧盤18のうち荷重が大きく作用している既存基礎梁22を既存耐圧盤18に先行して撤去する。そして、流動化処理土で埋め戻して円柱状の流動化処理土30を既存地下外壁14に沿って間隔をあけて複数形成する。このように、間隔をあけて障害物である既存基礎梁22を撤去することで、既存地下外壁14を支持するために既存基礎梁22及び既存耐圧盤18に作用している荷重が分散する。
【0046】
さらに、円柱状の流動化処理土30を構成する流動化処理土の強度が発現した後、隣り合う円柱状の流動化処理土30の間の既存耐圧盤の部分を撤去して流動化処理土で埋め戻して円柱状の流動化処理土34を既存地下外壁14に沿って複数形成して処理土壁38を形成する。このように、円柱状の流動化処理土30を構成する流動化処理土の強度が発現した後、円柱状の流動化処理土34を形成することで、既存地下外壁14を支持するための荷重が、円柱状の流動化処理土30を介して円柱状の流動化処理土30に対して内側の既存基礎梁22に伝達される。
【0047】
そして、円柱状の流動化処理土30及び円柱状の流動化処理土34によって形成された処理土壁38の中に山留め壁42を施工する。
【0048】
このようにして、既存地下外壁14を補強するための専用の補助部材を用いることなく、既存地下外壁14の変形を防止した上で、既存地下外壁14の内側に新たな山留め壁42を施工することができる。
【0049】
なお、既存基礎梁22を先行して撤去するのは、既存耐圧盤18を先行して撤去すると既存基礎梁22を撤去するときに既存基礎梁22に作用する荷重が大きくなり、オールケーシング工法で用いられるケーシングチューブ82の側面にかかる荷重が大きくなってケーシングチューブ82の撤去が困難になるためである。
【0050】
また、本実施形態の山留め工法においては、円柱状の流動化処理土30を構成する流動化処理土の強度が円柱状の流動化処理土34を構成する流動化処理土の強度と比して高くされている。換言すれば、既存基礎梁22の一部を撤去してその撤去された部分を埋め戻すのに用いる流動化処理土の強度が、既存耐圧盤18の一部を撤去してその撤去された部分を埋め戻すのに用いる流動化処理土の強度と比して高くされている。
【0051】
このように、既存地下外壁14の荷重が大きく作用する既存基礎梁22に用いる流動化処理土の強度を高くすることで、既存地下外壁14の変形を効果的に抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態の山留め工法においては、円柱状の流動化処理土30が形成されている部位にソイルセメント柱46を施工した後に、隣り合うソイルセメント柱46の間に他のソイルセメント柱48を複数施工することでソイルセメント柱壁である山留め壁42を施工する。このように、流動化処理土の強度の発現順にソイルセメント柱を施工することで、工期を短縮することができる。
【0053】
なお、本開示を特定の実施形態について詳細に説明したが、本開示は係る実施形態に限定されるものではなく、本開示の範囲内にて他の種々の実施形態をとることが可能であることは当業者にとって明らかである。特許請求の範囲、明細書および図面の記載から当業者が認識することができる技術的思想に反しない限り、変更、削除、付加、及び各実施形態の組み合わせが可能である。
【0054】
また、上記実施形態では、解体される既存建物10は、鉄骨造(S造)であったが、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)等であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、山留め壁42をSWM工法で施工したが、他の工法で山留め壁42を施工してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では特に説明しなかったが、新築の作業地盤が、既存地下外壁の上端よりも低くなくてもよく、新築建物の地下が既存建物の地下に対して浅い場合でも遮水目的で既存地下外壁の内側に新たな山留め壁が必要となる場合に、前述した山留め工法を用いてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では特に説明しなかったが、捨てコンの作業地盤ではなく、コンクリートガラGAを踏み固めた作業地盤等であってもよい。
【0058】
また、上記実施形態では特に説明しなかったが、山留め壁にH鋼等を挿入してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 既存建物
12 地下空間
14 既存地下外壁
18 既存耐圧盤
22 既存基礎梁
28 作業地盤
30 円柱状の流動化処理土(一の円柱状の流動化処理土の一例)
34 円柱状の流動化処理土(他の円柱状の流動化処理土の一例)
38 処理土壁
42 山留め壁
46 ソイルセメント柱(一のセメント柱の一例)
48 ソイルセメント柱(他のセメント柱の一例)