(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000173
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】等速自在継手及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 3/20 20060101AFI20231225BHJP
F16D 3/223 20110101ALI20231225BHJP
【FI】
F16D3/20 J
F16D3/223
F16D3/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098782
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】杉山 達朗
(72)【発明者】
【氏名】小林 智茂
(72)【発明者】
【氏名】小林 正純
(57)【要約】
【課題】等速自在継手の保持器と外側継手部材及び内側継手部材との摺接部における滑り抵抗を下げて、耐久性を高める。
【解決手段】保持器24の外周面24b及び内側継手部材22の外周面22bに、多数の研削筋Pを有する研削面を設ける。研削面は、研削筋Pの境界に設けられる凸部Qの先端を除去してなる除去部Rを有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面と摺接する保持器とを備えた等速自在継手において、
前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面に、多数の加工筋を有する加工面が設けられ、
前記加工面が、前記加工筋の境界に設けられる凸部の先端を除去してなる除去部を有する等速自在継手。
【請求項2】
前記外側継手部材と前記内側継手部材との間の軸方向変位および角度変位の両方を許容する摺動式の等速自在継手であって、
前記ボールの数が8個である請求項1に記載の等速自在継手。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の等速自在継手を有するドライブシャフト。
【請求項4】
内周面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面と摺接する保持器とを備えた等速自在継手の製造方法において、
前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面に機械加工を施す工程と、
前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面にバレル加工を施すことにより、前前記機械加工で形成された加工筋の境界の凸部の先端を除去する工程とを有する等速自在継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速自在継手及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のドライブシャフトは、車輪に取り付けられるアウトボード側の等速自在継手と、デファレンシャルギヤに取り付けられるインボード側の等速自在継手と、両等速自在継手を連結する中間シャフトとで構成される。通常、アウトボード側の等速自在継手には、大きな作動角を取れるが軸方向に変位しない固定式等速自在継手が使用される。一方、インボード側の等速自在継手には、最大作動角は比較的小さいが、作動角を取りつつ軸方向変位が可能な摺動式等速自在継手が使用される。
【0003】
近年、自動車の低燃費化に伴い、ドライブシャフトの小型・軽量化が求められ、これに設けられる等速自在継手にも小型・軽量化が求められている。例えば、下記の特許文献1及び2には、ボール数を8個として小型・軽量化を図った等速自在継手が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-103365号公報
【特許文献2】特開平10-73129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように等速自在継手は小型化されている一方で、等速自在継手に入力される作動角やトルク及び回転数には変更がないため、各部品が小型化された分だけ各部品に加わる荷重は大きくなっている。この場合、部品同士の接触部における発熱量が大きくなるため、耐久性の低下を招く。耐久性を高めるためには、互いに接触する部品の相対移動時の抵抗を低減する必要がある。例えば、等速自在継手の転動部(例えば、ボールとトラック溝との接触部)における転がり抵抗は、ボール個数増加による負荷分散や、転がり率増加、高機能潤滑剤の使用などにより軽減することができる。一方、保持器と外側継手部材及び内側継手部材との摺接部は、転がり部分がない滑り接触であるため、滑り抵抗を下げるための手段が少ない。
【0006】
そこで、本発明は、等速自在継手の保持器と外側継手部材及び内側継手部材との摺接部における滑り抵抗を下げて、耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、内周面に複数のトラック溝が形成された外側継手部材と、外周面に複数のトラック溝が形成された内側継手部材と、前記外側継手部材のトラック溝と前記内側継手部材のトラック溝とで形成されるボールトラックに配された複数のボールと、前記複数のボールを保持する複数のポケットを有し、前記外側継手部材の内周面及び前記内側継手部材の外周面と摺接する保持器とを備えた等速自在継手において、
前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面に、多数の加工筋を有する加工面が設けられ、
前記加工面が、前記加工筋の境界に設けられる凸部の先端を除去してなる除去部を有する等速自在継手を提供する。
【0008】
上記の固定式等速自在継手は、前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面に機械加工を施す工程と、前記保持器の外周面及び前記内側継手部材の外周面にバレル加工を施すことにより、前記機械加工で形成された加工筋の境界の凸部の先端を除去する工程とを経て製造することができる。
【0009】
保持器の外周面及び内側継手部材の外周面に機械加工を施すと、
図6に示すような多数の加工筋Pを有する加工面が形成される。この加工面にバレル加工を施すことにより、
図9に示すように、隣接する加工筋Pの境界に設けられた凸部Qの先端が除去され、加工面の表面性状が滑らかになる。このような滑らかな加工面を、保持器の外周面及び内側継手部材の外周面に設けることで、これらの面と外側継手部材の内周面及び保持器の内周面との接触部における滑り抵抗を低減することができる。また、バレル加工後の加工面には、凹状の加工筋が残っているため、この加工筋(凹部)が油溜りとして機能することで、上記の接触部における滑り抵抗がさらに低減される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、等速自在継手の保持器と外側継手部材及び内側継手部材との摺接部における滑り抵抗を下げることができるため、摺接部における発熱を抑えて耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】外側継手部材の製造工程を示すフロー図である。
【
図5】バレル加工を施していない研削面を拡大して示す図(写真)である。
【
図6】バレル加工を施していない研削面の断面図である。
【
図7】内側継手部材の製造工程を示すフロー図である。
【
図8】バレル加工を施した研削面を拡大して示す図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
[ドライブシャフトの基本的構成]
図1に示すドライブシャフト1は、インボード側(図中右側)に設けられた摺動式等速自在継手2と、アウトボード側(図中左側)に設けられた固定式等速自在継手3と、両等速自在継手2,3を連結する中間シャフト4とを備える。摺動式等速自在継手2は、軸方向変位および角度変位の両方を許容し、固定式等速自在継手3は、角度変位のみを許容するものである。インボード側の摺動式等速自在継手2はデファレンシャルギヤに連結され、アウトボード側の固定式等速自在継手3は車輪に連結される。エンジンから出力された回転駆動力が、トランスミッション及びプロペラシャフトを介してデファレンシャルギヤに伝達され、そこから左右のドライブシャフト1を介して左右の車輪に伝達される。本実施形態のドライブシャフト1は、自動車の後輪に取り付けられる後輪用ドライブシャフトである。
【0014】
摺動式等速自在継手2は、外側継手部材21と、内側継手部材22と、外側継手部材21と内側継手部材22との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では8個)のボール23と、複数のボール23を保持する保持器24とを備える。外側継手部材21はデファレンシャルギヤに取り付けられ、内側継手部材22は中間シャフト4のインボード側端部に取り付けられる。
【0015】
図2に示すように、外側継手部材21は、アウトボード側が開口したカップ状のマウス部21aと、マウス部21aの底部からインボード側に延びるステム部21bとを一体に有する。マウス部21aの円筒状の内周面21cには、軸方向に延びる複数(本実施形態では8本)の直線状のトラック溝21dが設けられる。ステム部21bのインボード側端部の外周面には、デファレンシャルギヤのスプライン穴に挿入されるスプライン21eが設けられる。
【0016】
内側継手部材22の軸心には、中間シャフト4が挿入されるスプライン穴22aが設けられる。内側継手部材22の球面状の外周面22bには、軸方向に延びる複数(本実施形態では8本)の直線状のトラック溝22cが設けられる。
【0017】
外側継手部材21のトラック溝21dと内側継手部材22のトラック溝22cとが半径方向で対向して複数(本実施形態では8本)のボールトラックが形成される。各ボールトラックにはボール23が一個ずつ配される。
【0018】
保持器24は、ボール23を保持する複数(本実施形態では8個)のポケット24aを有する。ポケット24aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器24の外周面には、外側継手部材21の円筒状の内周面21cと摺接する球面部24bと、球面部24bの軸方向両端部から接線方向に延びる円すい部24cとが設けられる。円すい部24cは、摺動式等速自在継手2が最大作動角を取ったときに、外側継手部材21の内周面21cと線接触して、それ以上作動角が大きくなることを規制するストッパとして機能する。保持器24の軸心に対する円すい部24cの傾斜角度θは、摺動式等速自在継手2の最大作動角の1/2の値に設定される。保持器24の内周面には、内側継手部材22の球面状の外周面22bと摺接する球面部24dが設けられる。保持器24の外周面の球面部24bと外側継手部材21の円筒状の内周面21cとが軸方向に摺動することで、外側継手部材21と内側継手部材22との間の軸方向変位が許容される。
【0019】
保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O24bと、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O24d(すなわち、内側継手部材22の球面状外周面22bの曲率中心)は、継手中心O(s)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、保持器24の外周面の球面部24bの曲率中心O24bが継手中心O(s)に対してインボード側(継手奥側)にオフセットし、保持器24の内周面の球面部24dの曲率中心O24dが継手中心O(s)に対してアウトボード側(継手開口側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器24で保持されたボール23が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材21と内側継手部材22との間での等速性が確保される。
【0020】
本実施形態の摺動式等速自在継手2は、後輪用ドライブシャフト専用とすることで、小型・軽量化が図られている。具体的に、従来品では最大作動角が25°以上であったところ、本実施形態では、後輪用ドライブシャフト専用とすることで最大作動角を20°以下に制限している。
【0021】
図1に示すように、固定式等速自在継手3は、車輪に取り付けられる外側継手部材31と、中間シャフト4のアウトボード側端部に取り付けられる内側継手部材32と、外側継手部材31と内側継手部材32との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では8個)のボール33と、複数のボール33を保持する保持器34とを備える。
【0022】
図3に示すように、外側継手部材31は、インボード側が開口したカップ状のマウス部31aと、マウス部31aの底部からアウトボード側に延びるステム部31bとを一体に有する。マウス部31aの球面状の内周面31cには、軸方向に延びる複数(本実施形態では8本)の円弧状のトラック溝31dが形成されている。ステム部31bの外周面には、車輪側のスプライン穴に挿入されるスプライン31eが設けられる。
【0023】
内側継手部材32の軸心には、中間シャフト4が挿入されるスプライン穴32aが設けられる。内側継手部材32の球面状の外周面32bには、軸方向に延びる複数(本実施形態では8本)の円弧状のトラック溝32cが設けられる。
【0024】
外側継手部材31のトラック溝31dと内側継手部材32のトラック溝32cとが半径方向で対向して複数(本実施形態では8本)のボールトラックが形成される。各ボールトラックにはボール33が一個ずつ配される。
【0025】
外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dと、内側継手部材32のトラック溝32cの曲率中心O32cは、継手中心O(f)に対して軸方向反対側に等距離だけオフセットしている。図示例では、外側継手部材31のトラック溝31dの曲率中心O31dが、継手中心O(f)に対してインボード側(継手開口側)にオフセットし、内側継手部材32のトラック溝32cの曲率中心O32cが、継手中心O(f)に対してアウトボード側(継手奥側)にオフセットしている。これにより、任意の作動角において、保持器34で保持されたボール33が常に作動角の二等分面内に配置され、外側継手部材31と内側継手部材32との間での等速性が確保される。
【0026】
保持器34は、ボール33を保持する複数(本実施形態では8個)のポケット34aを有する。ポケット34aは、全て同形状をなし、円周方向等間隔に配されている。保持器34の球面状の外周面34bは、外側継手部材31の球面状の内周面31cと摺接する。保持器34の球面状の内周面34cは、内側継手部材32の球面状の外周面32bと摺接する。保持器34の外周面34bの曲率中心(すなわち、外側継手部材31の球面状の内周面31cの曲率中心)及び内周面34cの曲率中心(すなわち、内側継手部材32の球面状の外周面32bの曲率中心)は、それぞれ継手中心O(f)と一致している。
【0027】
本実施形態の固定式等速自在継手3は、後輪用ドライブシャフト専用とすることで、小型・軽量化が図られている。具体的に、従来品では最大作動角が45°以上であったところ、本実施形態では、後輪用ドライブシャフト専用とすることで最大作動角を20°以下に制限している。
【0028】
中間シャフト4は、
図1に示すように、軸方向の貫通孔を有する中空シャフトを使用することができる。中間シャフト4のインボード側端部のスプライン41は、摺動式等速自在継手2の内側継手部材22のスプライン穴22aに挿入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材22とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。摺動式等速自在継手2の外側継手部材21の外周面と中間シャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ25がブーツバンドにより取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材21とブーツ25とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0029】
中間シャフト4のアウトボード側端部のスプライン42は、固定式等速自在継手3の内側継手部材32のスプライン穴32aに挿入される。これにより、中間シャフト4と内側継手部材32とがスプライン嵌合によりトルク伝達可能に連結される。固定式等速自在継手3の外側継手部材31の外周面と中間シャフト4の外周面との間には、蛇腹状ブーツ35がブーツバンドにより取り付け固定されている。継手内部(外側継手部材31とブーツ35とで密封された空間)には、潤滑剤としてのグリースが封入されている。
【0030】
以下、摺動式等速自在継手2の各部品の製造方法を説明する。
【0031】
[外側継手部材の製造方法]
外側継手部材21は、
図4に示すように、鍛造工程、旋削工程、スプライン加工工程、熱処理工程、及び機械加工工程(本実施形態では研削工程)を経て製造される。
【0032】
鍛造工程では、軸状素材に鍛造加工を施して、外側継手部材21と概ね同形状の素形材を成形する。本実施形態では、マウス部21a及びステム部21bを一体に有する素形材を成形する。
【0033】
旋削工程では、素形材に旋削加工を施して、マウス部21aの外周面及びステム部21bの外周面の寸法精度を高めると共に、マウス部21aの外周面にブーツ装着溝を形成する。
【0034】
スプライン加工工程では、ステム部21bの外周面に転造加工を施してスプライン21eを形成する。
【0035】
熱処理工程では、素形材の必要部位に熱処理を施す。本実施形態では、マウス部21aの内周面21c、トラック溝21d、及びステム部21bのスプライン21eに熱処理を施す。熱処理としては、例えば、高周波焼き入れ焼き戻しや、浸炭焼き入れ焼き戻しを適用できる。
【0036】
研削工程では、素形材の必要部位に研削加工を施す。本実施形態では、ステム部21bに研削加工が施される。
【0037】
[内側継手部材の製造方法]
内側継手部材22は、
図7に示すように、鍛造工程、旋削工程、スプライン加工工程、熱処理工程、機械加工工程(本実施形態では研削工程)、及びバレル加工工程を経て製造される。
【0038】
鍛造工程では、筒状素材に鍛造加工を施して、内側継手部材22と概ね同形状の素形材を成形する。
【0039】
旋削工程では、素形材の外周面及び軸方向両端面に旋削加工を施して、これらの寸法精度を高める。
【0040】
スプライン加工工程では、素形材の内周面にブローチ加工等を施してスプライン穴22aを形成する。
【0041】
熱処理工程では、素形材の必要部位に熱処理を施す。本実施形態では、素形材の外周面22b、トラック溝22c、及びスプライン穴22aに熱処理を施す。熱処理としては、例えば、浸炭焼き入れ焼き戻しが施される。
【0042】
研削工程では、素形材の必要部位に研削加工を施す。本実施形態では、素形材の球面状外周面22b及びトラック溝22cに研削加工が施される。これにより、外周面22b及びトラック溝22cに、
図5に示すような研削面が形成される。この研削面には、
図6に示すように、多数の研削筋Pが形成されている。隣接する研削筋Pの境界には、先端が尖った凸部Qが形成されている。研削筋P及び凸部Qは加工方向に沿って延びている。
【0043】
バレル加工工程では、素形材にバレル加工を施す。バレル加工とは、容器(バレル)の中にワーク(素形材)とメディアを投入し、容器を運動させることにより、ワークとメディアとの相互摩擦によりワークを加工する方法である。バレル加工としては、回転バレル加工、振動バレル加工、遠心バレル加工、流動バレル加工などが知られている。何れのバレル加工も採用可能であるが、特に振動バレル加工及び流動バレル加工が好ましい。具体的に、保持器に対しては振動バレル加工が最も好ましく、内輪継手部材に対しては流動バレル加工が最も好ましい。
【0044】
バレル加工は、ワークの外周面にメディアが衝突しやすいため、主に、素形材の外周面22b及びトラック溝22cにバレル加工が施される。このバレル加工により、研削面が
図8に示すように滑らかになる。詳しくは、
図9に示すように、研削筋Pの境界に設けられた凸部Qにメディアが衝突することで凸部Qの先端が除去され、除去部Rが形成される。このように、凸部Qの先端を除去して滑らかな除去部Rを形成することで、研削面全体を滑らかに仕上げることができる。また、バレル加工により凸部Qは完全に除去されず、研削面には凹状の研削筋Pが残っている。
【0045】
[保持器の製造方法]
保持器24は、
図10に示すように、プレス成形工程、旋削工程、ポケット打ち抜き工程、熱処理工程、機械加工工程(本実施形態では研削工程)、及びバレル加工工程を経て製造される。
【0046】
プレス成形工程では、円筒状素材にプレス成形を施して、保持器24と概ね同形状の樽形の素形材を成形する。
【0047】
旋削工程では、素形材の外周面及び内周面に旋削加工を施して、これらの寸法精度を高める。
【0048】
ポケット打ち抜き工程では、樽形の素形材を金型で半径方向に打ち抜くことにより、複数のポケット24aを形成する。
【0049】
熱処理工程では、素形材の必要部位に熱処理を施す。本実施形態では、素形材のポケット24aの内面に熱処理を施す。熱処理としては、例えば、浸炭焼き入れ焼き戻しが施される。
【0050】
研削工程では、素形材の必要部位に研削加工を施す。本実施形態では、素形材のポケット24aの内面、外周面の球面部24b、及び内周面の球面部24dに研削加工が施される。これにより、ポケット24aの内面、外周面の球面部24b及び内周面の球面部24dに、
図5に示すような研削面が形成される。この研削面には、
図6に示すように、多数の研削筋Pが形成されている。隣接する研削筋Pの境界には、先端が尖った凸部Qが形成されている。研削筋P及び凸部Qは加工方向に沿って延びている。
【0051】
バレル加工工程では、素形材にバレル加工を施す。バレル加工の詳細は、上記の内側継手部材22のバレル加工と同様であるため、説明を省略する。バレル加工により、保持器24の素形材の表面(主に外周面)に、
図8、9に示すような滑らかな研削面が形成される。
【0052】
以上のように、摺動式等速自在継手2の外側継手部材21の内周面21cには、先端が尖った凸部Qを有する研削面(
図6参照)が形成されている。一方、保持器24の外周面の球面部24bには、研削筋Pの境界の凸部Qの先端が除去された滑らかな除去部Rを有する研削面(
図9参照)が形成されている。このように、保持器24の外周面の球面部24bを滑らかな研削面とすることで、外側継手部材21の内周面21cとの摺接部における滑り抵抗が低減される。また、保持器24の外周面の球面部24bには、凹状の研削筋Pが残っているため、この研削筋Pが油溜りとして機能することで、外側継手部材21の内周面21cとの摺接部における滑り抵抗がさらに低減される。
【0053】
また、摺動式等速自在継手2の保持器24の内周面の球面部24dには、バレル加工の後でも先端が尖った凸部Qを有する研削面(
図6参照)が形成されている。一方、内側継手部材22の外周面22bには、研削筋Pの境界の凸部Qの先端が除去された滑らかな除去部Rを有する研削面(
図9参照)が形成されている。このように、内側継手部材22の外周面22bを滑らかな研削面とすることで、保持器24の内周面の球面部24dとの摺接部における滑り抵抗が低減される。また、内側継手部材22の外周面22bには、凹状の研削筋Pが残っているため、この研削筋Pが油溜りとして機能することで、保持器24の内周面の球面部24dとの摺接部における滑り抵抗がさらに低減される。
【0054】
以上のように、摺動式等速自在継手2において、部品同士の摺接部における滑り抵抗を低減することにより、ドライブシャフト1の回転時における摺動式等速自在継手2の発熱を抑えて、耐久性を高めることができる。
【0055】
固定式等速自在継手3の製造方法は、摺動式等速自在継手と同様であるため、詳細な説明は省略する。固定式等速自在継手3においては、外側継手部材31の内周面31cには先端が尖った凸部Qを有する研削面(
図6参照)が形成されている一方で、保持器34の外周面34bには、研削筋Pの境界に、凸部Qの先端が除去された滑らかな除去部Rを有する研削面(
図9参照)が形成されている。また、保持器34の内周面34cには、バレル加工の後でも先端が尖った凸部Qを有する研削面(
図6参照)が形成されている一方で、内側継手部材32の外周面32bには、研削筋Pの境界に、凸部Qの先端が除去された滑らかな除去部Rを有する研削面(
図9参照)が形成されている。これにより、各摺接部における滑り抵抗を低減することができるため、ドライブシャフト1の回転時における固定式等速自在継手3の発熱を抑えて、耐久性を高めることができる。
【0056】
本発明は、上記の実施形態に限られない。例えば、上記の実施形態では、等速自在継手2、3のボール23、33の数が8個である場合を示したが、ボールの数はこれに限らず、例えば6個としてもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、バレル加工前の機械加工として研削加工を示したが、これに限らず、バレル加工前の機械加工を切削加工としてもよい。この場合、切削加工後の断面は
図6と同様の形態を示し、バレル加工後の断面は
図9と同様の形態を示す。
【0058】
また、上記の実施形態では、後輪用ドライブシャフト専用の等速自在継手2、3を示したが、これに限らず、前輪用ドライブシャフトとしても使用できる従来の等速自在継手に本発明を適用してもよい。
【0059】
また、本発明を適用できる等速自在継手の種類は上記に限らず、例えば、クロスグルーブ型の等速自在継手に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ドライブシャフト
2 摺動式等速自在継手
3 固定式等速自在継手
4 中間シャフト
21 外側継手部材
22 内側継手部材
23 ボール
24 保持器
25 ブーツ
31 外側継手部材
32 内側継手部材
33 ボール
34 保持器
35 ブーツ
P 研削筋(加工筋)
Q 凸部
R 除去部