IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立オートモティブシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-緩衝装置、懸架装置 図1
  • 特開-緩衝装置、懸架装置 図2
  • 特開-緩衝装置、懸架装置 図3
  • 特開-緩衝装置、懸架装置 図4
  • 特開-緩衝装置、懸架装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173002
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】緩衝装置、懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/58 20060101AFI20241205BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16F9/58 A
F16F9/32 C
F16F9/32 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091105
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】片山 洋平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 立矢
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 智亮
(72)【発明者】
【氏名】奥山 嘉津貴
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069CC05
3J069CC10
3J069DD26
3J069EE54
(57)【要約】
【課題】ロッドが最大伸長位置に向かって移動する際に、正常な作動音とは異なる音が発生することを抑制することができる技術を提供する。
【解決手段】緩衝装置2は、第1筒状部51と、第2筒状部52と、第1筒状部51と第2筒状部52とを接続する第3筒状部53とを有するシリンダ50と、シリンダ50の内部に一端が挿入され、シリンダ50に対して移動可能なロッド20と、ロッド20におけるシリンダ50の内部に挿入された部分に固定されているとともにロッド20の外周面から突出した円環状部112を有し、第1筒状部51内を移動可能な固定部材110と、ロッド20の外周面とシリンダ50の第2筒状部52の内周面との間に配置されているとともに、環状であり、内径が円環状部112の外径よりも小さく、固定部材110と磁力にて引き合い第2筒状部52に対して摺動可能かつ第3筒状部53に係止される摺動部材120と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部と、前記第1筒状部よりも前記中心線方向の第2側に設けられている筒状の第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを接続するとともに前記第2筒状部よりも少なくとも一部が小径である筒状の第3筒状部とを有するシリンダと、
前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、
前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定されているとともに前記ロッドの外周面から突出した突出部を有し、前記第1筒状部内を移動可能な固定部材と、
前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第2筒状部の内周面との間に配置されているとともに、環状であり、内径が前記突出部の外径よりも小さく、前記固定部材と磁力にて引き合い前記第2筒状部に対して摺動可能かつ前記第3筒状部に係止される摺動部材と、
を備える緩衝装置。
【請求項2】
前記固定部材は、磁石を有し、
前記摺動部材は、磁性体及び磁石のいずれかを有する、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記摺動部材は、磁石を有し、
前記固定部材は、磁性体を有する、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記固定部材が前記第2筒状部内に位置する状態から前記第1側に移動したときには、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触する前は前記固定部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第1側に移動し、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触した後は前記摺動部材が前記第3筒状部に係止されて前記固定部材が前記第1筒状部内に移動する、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項5】
中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部と、前記第1筒状部よりも前記中心線方向の第2側に設けられている筒状の第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを接続するとともに前記第2筒状部よりも少なくとも一部が小径である筒状の第3筒状部とを有するシリンダと、
前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、
前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定され、前記第1筒状部内を移動可能な固定部材と、
前記固定部材の前記第2側において前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第1筒状部の内周面との間に位置することが可能であるとともに、環状であって磁石又は磁石を有する構造体であり、前記磁石による磁力にて前記固定部材に吸着する吸着部材と、
前記吸着部材の前記第2側において前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第2筒状部の内周面との間に位置するとともに、環状であり、内径が前記吸着部材の内径よりも大きく、前記吸着部材と磁力にて引き合い前記第2筒状部に対して摺動可能な摺動部材と、
を備える緩衝装置。
【請求項6】
前記固定部材及び前記摺動部材は、磁性体及び磁石の少なくともいずれかを有する、
請求項5に記載の緩衝装置。
【請求項7】
前記固定部材が前記第1筒状部内に位置する状態から前記第2側に移動したときには前記吸着部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第2側に移動可能である、
請求項5に記載の緩衝装置。
【請求項8】
前記吸着部材が前記第2筒状部内に位置する状態から前記第1側に移動したときには、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触する前は前記吸着部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第1側に移動し、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触した後は前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されて前記固定部材が前記第1筒状部内に移動する、
請求項5に記載の緩衝装置。
【請求項9】
前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されたときに、前記吸着部材は前記固定部材とともに前記第1筒状部内に移動する、
請求項8に記載の緩衝装置。
【請求項10】
前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されたときに、前記吸着部材は前記摺動部材に吸着したまま、前記固定部材は、前記吸着部材と離れて前記第1筒状部内に移動する、
請求項8に記載の緩衝装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の緩衝装置と、
前記緩衝装置の周囲に配置されたコイルスプリングと、
を備える懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置及び懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の装置は、油圧作動液で満たされた上部チャンバと下部チャンバを分離するピストンに連動式で固定されたロッドが内部に位置する管状ハウジングを含む。そして、特許文献1に記載の装置は、ピストンとロッドの運動時において、それら2つの部材が管状ハウジングの内部を一緒に、相対的かつ軸方向に移動し、油圧作動液が一方のチャンバから他方のチャンバへ、それらチャンバの相対的容積を変えながら移動する。また、特許文献1に記載の装置は、最大伸張位置へ向かって進むピストンの一方の方向への移動に対して抵抗しながら圧縮されて働くスプリングをさらに含む。そして、最大伸張位置及びその他の相対位置での減衰力を調整するために、両端部が調整可能な中間スペースを画定する開口弾性リングをさらに含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2016-534290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置においては、最大伸長位置へ向かって進むピストンの一方の方向への移動に対して抵抗しながら圧縮されて働くスプリングが、圧縮の過程で径方向に捩れるおそれがある。そして、スプリングが径方向に捩れると、スプリングが管状ハウジングに接触し、接触する際の音が、正常な作動音とは異なる音として聞こえてしまうおそれがある。
本発明は、ロッドが最大伸長位置に向かって移動する際に、正常な作動音とは異なる音が発生することを抑制することができる緩衝装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと完成させた本発明は、中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部と、前記第1筒状部よりも前記中心線方向の第2側に設けられている筒状の第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを接続するとともに前記第2筒状部よりも少なくとも一部が小径である筒状の第3筒状部とを有するシリンダと、前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定されているとともに前記ロッドの外周面から突出した突出部を有し、前記第1筒状部内を移動可能な固定部材と、前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第2筒状部の内周面との間に配置されているとともに、環状であり、内径が前記突出部の外径よりも小さく、前記固定部材と磁力にて引き合い前記第2筒状部に対して摺動可能かつ前記第3筒状部に係止される摺動部材と、を備える緩衝装置である。
ここで、前記固定部材は、磁石を有し、前記摺動部材は、磁性体及び磁石のいずれかを有しても良い。
また、前記摺動部材は、磁石を有し、前記固定部材は、磁性体を有しても良い。
また、前記固定部材が前記第2筒状部内に位置する状態から前記第1側に移動したときには、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触する前は前記固定部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第1側に移動し、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触した後は前記摺動部材が前記第3筒状部に係止されて前記固定部材が前記第1筒状部内に移動しても良い。
他の観点から捉えると、本発明は、中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部と、前記第1筒状部よりも前記中心線方向の第2側に設けられている筒状の第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを接続するとともに前記第2筒状部よりも少なくとも一部が小径である筒状の第3筒状部とを有するシリンダと、前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定され、前記第1筒状部内を移動可能な固定部材と、前記固定部材の前記第2側において前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第1筒状部の内周面との間に位置することが可能であるとともに、環状であって磁石又は磁石を有する構造体であり、前記磁石による磁力にて前記固定部材に吸着する吸着部材と、前記吸着部材の前記第2側において前記ロッドの外周面と前記シリンダの前記第2筒状部の内周面との間に位置するとともに、環状であり、内径が前記吸着部材の内径よりも大きく、前記吸着部材と磁力にて引き合い前記第2筒状部に対して摺動可能な摺動部材と、を備える緩衝装置である。
ここで、前記固定部材及び前記摺動部材は、磁性体及び磁石の少なくともいずれかを有しても良い。
また、前記固定部材が前記第1筒状部内に位置する状態から前記第2側に移動したときには前記吸着部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第2側に移動可能であっても良い。
また、前記吸着部材が前記第2筒状部内に位置する状態から前記第1側に移動したときには、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触する前は前記吸着部材と前記摺動部材とが磁力にて引き合って一体的に前記第1側に移動し、前記摺動部材が前記第3筒状部に接触した後は前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されて前記固定部材が前記第1筒状部内に移動しても良い。
また、前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されたときに、前記吸着部材は前記固定部材とともに前記第1筒状部内に移動しても良い。
また、前記摺動部材が前記第3筒状部に拘束されたときに、前記吸着部材は前記摺動部材に吸着したまま、前記固定部材は、前記吸着部材と離れて前記第1筒状部内に移動しても良い。
他の観点から捉えると、本発明は、上述した緩衝装置と、前記緩衝装置の周囲に配置されたコイルスプリングと、を備える懸架装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ロッドが最大伸長位置に向かって移動する際に、正常な作動音とは異なる音が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る懸架装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】第2ピストン部の断面の一例を示す図である。
図3】ロッドの突出量が多くなる伸長行程における第2ピストン部の作用の一例を示す図である。
図4】第2実施形態に係る緩衝装置の断面の一例を示す図である。
図5】伸長行程における第2ピストン部の作用の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る懸架装置1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、第2ピストン部100の断面の一例を示す図である。
懸架装置1は、乗用自動車等の四輪車に用いられるサスペンションであり、図1に示すように、油圧式の緩衝装置2と、緩衝装置2の外側に配置されたコイルスプリング3とを備える。また、懸架装置1は、コイルスプリング3における、後述するロッド20の軸方向の第1側(図1では下側)の端部を支持する下スプリングシート4と、コイルスプリング3における、ロッド20の軸方向の第2側(図1では上側)の端部を支持する上スプリングシート5とを備える。
【0009】
また、懸架装置1は、ロッド20の軸方向の第2側の端部に取り付けられて、この懸架装置1を車両に取り付けるための車体側ブラケット6と、後述するシリンダ部10におけるロッド20の軸方向の第1側の端部に固定されて、懸架装置1を車輪に取り付けるための車輪側ブラケット7とを備える。また、懸架装置1は、シリンダ部10及びロッド20の少なくとも一部を覆うダストカバー8を備える。
【0010】
以下では、ロッド20の軸方向を、単に「軸方向」と称する場合がある。軸方向は、後述する円筒状のシリンダ50の中心線方向でもある。また、軸方向の第1側(図1では下側)、軸方向の第2側(図1では上側)を、それぞれ、単に「第1側」、「第2側」と称する場合がある。また、軸方向に交差する方向(例えば、直交方向)を、「半径方向」と称する。半径方向において、シリンダ50の中心線側を単に「内側」と称し、中心線から離れる側を単に「外側」と称する場合がある。
【0011】
以下、緩衝装置2について詳述する。
緩衝装置2は、オイルを収容するシリンダ部10と、第2側の端部がシリンダ部10から突出して設けられるとともに第1側の端部がシリンダ部10内に挿入されるロッド20とを備える。また、緩衝装置2は、ロッド20の第1側の端部に設けられる第1ピストン部30と、シリンダ部10の第1側の端部に設けられるボトム部40とを備える。また、緩衝装置2は、第1ピストン部30よりも第2側に設けられて、ロッド20が伸びる際に衝撃を緩和する第2ピストン部100を備える。
【0012】
シリンダ部10は、オイルを収容するシリンダ50と、シリンダ50の外側に設けられる外筒体12とを有する。また、シリンダ部10は、ロッド20を移動可能に支持するロッドガイド部14と、外筒体12における第2側の端部に装着されたバンプストッパキャップ15と、シリンダ部10内のオイルの漏れやシリンダ部10内への異物の混入を防ぐオイルシール16とを備える。
そして、シリンダ部10は、シリンダ50の外周面と外筒体12の内周面とで、リザーバ室Rを形成している。
【0013】
シリンダ50は、中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部51と、第1筒状部51よりも中心線方向の第2側に設けられている筒状の第2筒状部52と、第1筒状部51と第2筒状部52とを接続する第3筒状部53とを有する。
第1筒状部51及び第2筒状部52は、円筒状であり、第2筒状部52における内径及び外径は、それぞれ、第1筒状部51における内径及び外径よりも大きい。
第3筒状部53は、内径及び外径が、第1側から第2側に行くに従って徐々に大きくなるように形成されている。
【0014】
ロッド20は、軸方向に長く延びる棒状の部材である。ロッド20は、第1側に第1ピストン部30を保持する。また、ロッド20は、第2側にて車体側ブラケット6を介して例えば車体に連結される。
【0015】
第1ピストン部30は、ピストン31と、ピストン31に形成された複数の油路の内の一部の油路における第1側の端部を塞ぐバルブ群32と、ピストン31に形成された一部の油路における第2側の端部を塞ぐバルブ群33と、を備えている。
ピストン31は、その外周面に設けられたシール部材を介してシリンダ50の第1筒状部51の内周面に接触し、シリンダ50内のオイルが封入された空間を、ピストン31よりも第1側の第1油室Y1と、ピストン31よりも第2側の第2油室Y2とに区画する。
【0016】
ボトム部40は、図1に示すように、軸方向に貫通する複数の油路を有するバルブボディ41と、バルブボディ41の第1側に設けられるバルブ42と、バルブボディ41の第2側に設けられるバルブ43とを備える。
ボトム部40のバルブボディ41は、第1油室Y1とリザーバ室Rとを区画する。
【0017】
〔第2ピストン部100〕
第2ピストン部100は、ロッド20に固定された固定部材110と、ロッド20とシリンダ50の第2筒状部52との間に配置されてシリンダ50に対して摺動可能な摺動部材120とを備える。
【0018】
(固定部材110)
固定部材110は、ロッド20の周囲を覆う円筒状部111と、円筒状部111の第2側に設けられた円環状部112とを有する。固定部材110は、磁性体である。
【0019】
円筒状部111は、内径がロッド20の外周面の径よりも少しだけ大きい。例えば、円筒状部111の内径は、ロッド20の外周面の径よりも0.1mm~1mm大きい。そして、固定部材110は、円筒状部111がロッド20に溶接されることによりロッド20に固定されている。ただし、固定部材110をロッド20に固定する方法は特に限定されない。
【0020】
円環状部112は、内径がロッド20の外周面の径よりも少しだけ大きく、外径が円筒状部111の径よりも大きい。また、円環状部112の外径は、シリンダ50の第1筒状部51の内径よりも小さい。円環状部112における第2側の端面は、中心線方向に直交な平坦な面である。
【0021】
(摺動部材120)
摺動部材120は、ロッド20を通すための貫通孔が中央部に形成された円環状部材である。摺動部材120は、磁石である。
摺動部材120の内周面121の径はロッド20の外周面の径よりも大きいため、摺動部材120は、ロッド20に対して移動可能である。そして、摺動部材120の内周面121とロッド20の外周面との間に、環状隙間140が形成される。
【0022】
摺動部材120は、外周面の径が、シリンダ50の第3筒状部53における内径が最小の部分よりも大きい。摺動部材120は、外周面から凹んだ凹部122に嵌め込まれて、摺動部材120の外周面と第2筒状部52の内周面との隙間をシールするシール部材125を有する。それゆえ、摺動部材120は、第2油室Y2を、シール部材125よりも第1側の第3油室Y3と、シール部材125よりも第2側の第4油室Y4とに区画する。シール部材125は、ゴムにて成形されたOリングであることを例示することができる。なお、摺動部材120は、シール部材125を有していなくても良い。摺動部材120の外周面の径が、シリンダ50の第2筒状部52の内周面の径よりも少しだけ小さく設定されることで、摺動部材120が、第2油室Y2を、摺動部材120よりも第1側の第3油室Y3と、摺動部材120よりも第2側の第4油室Y4とに区画しても良い。
【0023】
摺動部材120の外周部における第1側の端部には、外径が第1側から第2側に行くに従って徐々に大きくなるように形成された面取り123が施されていても良い。面取り123の中心線方向に対する傾斜角は、シリンダ50の第3筒状部53の傾斜角と同一であることを例示することができる。これにより、摺動部材120は、面取り123がシリンダ50の第3筒状部53に接触することで、第1側への移動が抑制される。
摺動部材120における第1側の端面は、中心線方向に直交な平坦な面である。
【0024】
(第2ピストン部100の作用)
次に、第2ピストン部100の作用について説明する。
図3は、ロッド20の突出量が多くなる伸長行程における第2ピストン部100の作用の一例を示す図である。
図2に示すように、固定部材110の円環状部112がシリンダ50の第1筒状部51の内側に位置する状態においては、摺動部材120は、面取り123がシリンダ50の第3筒状部53に接触する位置で留まっている。この状態から、ロッド20が第2側に移動し、固定部材110の円環状部112が摺動部材120に接触すると、図3に示すように、固定部材110と摺動部材120とが磁力にて引き合う。また、固定部材110の円環状部112における第2側の端面及び摺動部材120における第1側の端面は、中心線方向に直交な平坦な面である。それゆえ、環状隙間140を介して第3油室Y3と第4油室Y4とは連通していないため、伸長行程において第4油室Y4の圧力が高まったとしても、第4油室Y4のオイルは、摺動部材120の内周面121とロッド20の外周面との環状隙間140を通って第3油室Y3へ移動し難い。第4油室Y4のオイルは、摺動部材120の外周面の径が、シリンダ50の第2筒状部52の内周面の径よりも少しだけ小さく設定されているため、この隙間をオリフィスとして第3油室Y3へ移動する。これにより、減衰力が生じ、例えば、車両が走行している路面に凹みがありロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃が緩和される。
【0025】
図3に示すように、固定部材110の円環状部112がシリンダ50の第2筒状部52の内側に位置する状態から、ロッド20が第1側に移動すると、摺動部材120は、固定部材110と磁力にて引き合っているので、固定部材110とともに第1側に移動する。その後、摺動部材120は、シリンダ50の第3筒状部53に係止されることで、第1側への移動が抑制され、摺動部材120は、固定部材110から離れる。そして、図2に示すように、固定部材110は、シリンダ50の第1筒状部51の内側に位置する状態となる。
【0026】
以上、説明したように、緩衝装置2は、中心線方向の第1側に設けられた筒状の第1筒状部51と、第1筒状部51よりも中心線方向の第2側に設けられているとともに第1筒状部51よりも内径が大きい筒状の第2筒状部52と、第1筒状部51と第2筒状部52とを接続する第3筒状部53とを有するシリンダ50を備えている。また、緩衝装置2は、シリンダ50の内部に一端が挿入され、シリンダ50に対して移動可能なロッド20と、ロッド20におけるシリンダ50の内部に挿入された部分に固定されているとともにロッド20の外周面から突出した突出部の一例としての円環状部112を有し、第1筒状部51内を移動可能な固定部材110とを備えている。また、緩衝装置2は、ロッド20の外周面とシリンダ50の第2筒状部52の内周面との間に配置されているとともに、環状であり、内径が円環状部112の外径よりも小さく、固定部材110と磁力にて引き合い第2筒状部52に対して摺動可能な摺動部材120を備えている。
【0027】
以上のように構成された緩衝装置2によれば、伸長行程において摺動部材120が固定部材110と磁力にて引き合って第2側に移動可能であるので、第4油室Y4の圧力が高まったとしても、第4油室Y4のオイルは第3油室Y3へ移動し難い。これにより、減衰力が生じ、ロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃が緩和される。そして、緩衝装置2はスプリングを有することなく伸長行程における衝撃の緩和を実現する。それゆえ、例えばスプリングを有することに起因して最大伸長位置に向かって移動する際にスプリングがシリンダ50に接触して正常な作動音とは異なる音が発生することが抑制される。
【0028】
緩衝装置2においては、固定部材110が第1筒状部51内に位置する状態から第2側に移動したときには固定部材110と摺動部材120とが磁力にて引き合って一体的に第2側に移動可能である。それゆえ、緩衝装置2は、確度高く減衰力を生じさせることができる。
【0029】
他方、固定部材110が第2筒状部52内に位置する状態から第1側に移動したときには、摺動部材120が第3筒状部53に接触する前は固定部材110と摺動部材120とが磁力にて引き合って一体的に第1側に移動する。そして、摺動部材120が第3筒状部53に接触した後は摺動部材120が第3筒状部53に拘束されて固定部材110が第1筒状部51内に移動する。
【0030】
以上のように構成された緩衝装置2によれば、伸長行程から圧縮行程に移ったときに、摺動部材120が第3筒状部53に接触する位置まで、摺動部材120を確度高く第1側に移動させることができる。それゆえ、その後の伸長行程において確度高く減衰力を発生させることが可能である。つまり、緩衝装置2によれば、摺動部材120が最大伸長位置に到達した後であっても、例えばスプリングによる反発力を用いることなく、摺動部材120は、磁力にて固定部材110と引き合って第3筒状部53と接触する位置まで戻る。それゆえ、緩衝装置2は、次回の伸長行程において確度高く減衰力を発生させることが可能である。
【0031】
緩衝装置2においては、固定部材110と摺動部材120とが磁力にて引き合うように、摺動部材120は磁石であり、固定部材110は磁性体である。ただし、固定部材110と摺動部材120とが磁力にて引き合うのであれば、かかる態様に限定されない。例えば、摺動部材120は少なくとも一部に磁石を有していれば良い。また、固定部材110は少なくとも一部に磁性体を有していれば良い。また、摺動部材120と固定部材110とがともに磁石であるか、あるいは、摺動部材120と固定部材110とがともに少なくとも一部に磁石を有していても良い。つまり、摺動部材120は、磁石又は磁石を有する構造体であり、固定部材110は、磁性体又は磁性体を有する構造体、及び、磁石又は磁石を有する構造体の少なくともいずれかであると良い。
【0032】
また、固定部材110が磁石で、摺動部材120が磁性体であっても良い。また、固定部材110が少なくとも一部に磁石を有し、摺動部材120が少なくとも一部に磁性体を有しても良い。つまり、固定部材110は、磁石又は磁石を有する構造体であり、摺動部材120は、磁性体及び磁石の少なくともいずれかを有すると良い。
【0033】
なお、シリンダ50の形状は特に限定されない。固定部材110が第2筒状部52内に位置する状態から第1側に移動したときに、摺動部材120が第3筒状部53に接触して拘束されるのであれば、第1筒状部51と第2筒状部52とは同径で、第3筒状部53は、第1筒状部51及び第2筒状部52の内周面から内側に突出した部位であっても良い。あるいは、図2に示した例とは逆に第2筒状部52が第1筒状部51よりも小径で、第3筒状部53は、第2筒状部52の内周面から内側に突出した部位であっても良い。
【0034】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る緩衝装置202の断面の一例を示す図である。
第2実施形態に係る緩衝装置202は、第1実施形態に係る緩衝装置2に対して、第2ピストン部100に相当する第2ピストン部200が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第2実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0035】
第2ピストン部200は、固定部材110に相当する固定部材210と、摺動部材120に相当する摺動部材220と、固定部材210と摺動部材220との間に介在して磁力にて固定部材210及び摺動部材220に吸着する吸着部材230とを備える。固定部材210は、固定部材110と同じであるので、その詳細な説明は省略する。また、摺動部材220は、摺動部材120に対して、磁性体である点が異なる。
【0036】
吸着部材230は、ロッド20を通すための貫通孔が中央部に形成された円環状部材である。吸着部材230は、磁石又は磁石を有する構造体である。例えば、吸着部材230は、磁石と、磁石の周囲を被覆する部材とにより構成されたものであることを例示することができる。
吸着部材230の内周面231の径は、ロッド20の外周面の径よりも大きく、摺動部材220の内周面の径よりも小さい。吸着部材230の外周面の径は、シリンダ50の第1筒状部51の内径よりも小さい。吸着部材230における第1側の端面及び第2側の端面は、中心線方向に直交な平坦な面である。
【0037】
第2ピストン部200においては、固定部材210と摺動部材220との間に介在する吸着部材230が磁石であり、固定部材210及び摺動部材220は磁性体であるので、吸着部材230は、磁石による磁力にて固定部材210及び摺動部材220に吸着する。なお、吸着部材230と固定部材210との吸着力は、吸着部材230と摺動部材220との吸着力よりも大きい構成が例示できるが、吸着力の大小関係は逆であったり略同じであったりしても良い。
【0038】
(第2ピストン部200の作用)
次に、第2ピストン部200の作用について説明する。
図5は、伸長行程における第2ピストン部200の作用の一例を示す図である。
図4に示すように、固定部材210の円環状部112がシリンダ50の第1筒状部51の内側に位置する状態においては、摺動部材220は、面取り123がシリンダ50の第3筒状部53に接触する位置で留まっている。また、吸着部材230は固定部材210に吸着している。この状態から、ロッド20が第2側に移動し、吸着部材230が摺動部材220に接触すると、図5に示すように、吸着部材230と摺動部材220とが磁力にて引き合って吸着する。また、吸着部材230における第2側の端面及び摺動部材220における第1側の端面は、中心線方向に直交な平坦な面である。また、吸着部材230の内周面の径は摺動部材220の内周面の径よりも小さい。それゆえ、環状隙間140を介して第3油室Y3と第4油室Y4とは連通していないため、伸長行程において第4油室Y4の圧力が高まったとしても、第4油室Y4のオイルは、摺動部材220の内周面121とロッド20の外周面との環状隙間140を通って第3油室Y3へ移動し難い。第4油室Y4のオイルは、摺動部材220の外周面の径が、シリンダ50の第2筒状部52の内周面の径よりも少しだけ小さく設定されているため、この隙間をオリフィスとして機能させつつ第3油室Y3へ移動する。これにより、減衰力が生じ、例えば、車両が走行している路面に凹みがありロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃が緩和される。
【0039】
図5に示すように、吸着部材230がシリンダ50の第2筒状部52の内側に位置する状態から、ロッド20が第1側に移動すると、摺動部材220は、吸着部材230と磁力にて引き合っているので、吸着部材230とともに第1側に移動する。その後、図4に示すように、摺動部材220は、面取り123がシリンダ50の第3筒状部53に接触することで、第1側への移動が抑制される。吸着部材230と固定部材210との吸着力は、吸着部材230と摺動部材220との吸着力よりも大きいので、吸着部材230は固定部材210とともに第1側に移動する。なお、吸着力が逆の場合は、吸着部材230は摺動部材220に吊り下げられるようにして、保持される。
【0040】
以上、説明したように、緩衝装置202は、シリンダ50と、ロッド20と、固定部材210とを備えている。また、緩衝装置202は、固定部材210の第2側においてロッド20の外周面とシリンダ50の第1筒状部51の内周面との間に位置することが可能であるとともに、環状であって磁石又は磁石を有する構造体であり、磁石による磁力にて固定部材210に吸着する吸着部材230を備える。また、緩衝装置202は、吸着部材230の第2側においてロッド20の外周面とシリンダ50の第2筒状部52の内周面との間に配置されているとともに、環状であり、内径が吸着部材230の内径よりも大きく、吸着部材230と磁力にて引き合い第2筒状部52に対して摺動可能な摺動部材220を備える。
【0041】
以上のように構成された緩衝装置202によれば、伸長行程において摺動部材220が吸着部材230と磁力にて引き合って第2側に移動可能であるので、第4油室Y4の圧力が高まったとしても、第4油室Y4のオイルは第3油室Y3へ移動し難い。これにより、減衰力が生じ、ロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃が緩和される。そして、緩衝装置202はスプリングを有することなく伸長行程における衝撃の緩和を実現するので、例えばスプリングを有することに起因して正常な作動音とは異なる音が発生することが抑制される。
【0042】
緩衝装置202においては、固定部材210が第1筒状部51内に位置する状態から第2側に移動したときには吸着部材230と摺動部材220とが磁力にて引き合って一体的に第2側に移動可能である。それゆえ、緩衝装置202は、確度高く減衰力を生じさせることができる。
【0043】
他方、吸着部材230が第2筒状部52内に位置する状態から第1側に移動したときには、摺動部材220が第3筒状部53に接触する前は吸着部材230と摺動部材220とが磁力にて引き合って一体的に第1側に移動する。そして、摺動部材220が第3筒状部53に接触した後は摺動部材220が第3筒状部53に拘束されて固定部材210が第1筒状部51内に移動する。
【0044】
以上のように構成された緩衝装置202によれば、伸長行程から圧縮行程に移ったときに、摺動部材220が第3筒状部53に接触する位置まで、摺動部材220を確度高く第1側に移動させることができる。それゆえ、その後の伸長行程において確度高く減衰力を発生させることが可能である。つまり、緩衝装置202によれば、摺動部材220が最大伸長位置に到達した後であっても、例えばスプリングによる反発力を用いることなく、摺動部材220は、磁力にて吸着部材230と引き合って第3筒状部53と接触する位置まで戻る。それゆえ、緩衝装置202は、次回の伸長行程において確度高く減衰力を発生させることが可能である。
【0045】
なお、上述した緩衝装置202においては、摺動部材220が第3筒状部53に拘束されたときに、吸着部材230は固定部材210とともに第1筒状部51内に移動する。ただし、摺動部材220が第3筒状部53に拘束されたときに、吸着部材230は摺動部材220に吸着したままで、固定部材210は、吸着部材230と離れて第1筒状部51内に移動しても良い。吸着部材230と摺動部材220との吸着力を、吸着部材230と固定部材210との吸着力よりも大きくすることで、かかる態様を実現できる。
【0046】
また、緩衝装置202においては、固定部材210と吸着部材230とが磁力にて引き合うとともに、吸着部材230と摺動部材220とが磁力にて引き合うように、吸着部材230は磁石又は磁石を有する構造体であり、固定部材210及び摺動部材220は磁性体である。ただし、固定部材210と吸着部材230とが磁力にて引き合うとともに、吸着部材230と摺動部材220とが磁力にて引き合うのであれば、かかる態様に限定されない。例えば、固定部材210及び摺動部材220は少なくとも一部に磁性体を有していれば良い。また、固定部材210及び摺動部材220がともに磁石又は磁石を有する構造体であっても良い。つまり、吸着部材230が磁石又は磁石を有する構造体であり、固定部材210及び摺動部材220が、磁性体又は磁性体を有する構造体、及び、磁石又は磁石を有する構造体の少なくともいずれかであると良い。また、吸着部材230が磁石又は磁石を有する構造体であり、固定部材210及び摺動部材220のいずれか一方が磁石又は磁石を有する構造体であり、他方が磁性体又は磁性体を有する構造体であると良い。
【符号の説明】
【0047】
1…懸架装置、2,202…緩衝装置、3…コイルスプリング、10…シリンダ部、20…ロッド、50…シリンダ、51…第1筒状部、52…第2筒状部、53…第3筒状部、100,200…第2ピストン部、110,210…固定部材、112…円環状部、120,220…摺動部材、230…吸着部材
図1
図2
図3
図4
図5