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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173004
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】緩衝装置、懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/58 20060101AFI20241205BHJP
   F16F 9/48 20060101ALI20241205BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
F16F9/58 A
F16F9/48
F16F9/32 C
F16F9/32 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091108
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴則
(72)【発明者】
【氏名】小仲井 誠良
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069CC05
3J069CC13
3J069DD02
3J069EE54
(57)【要約】
【課題】ロッドとシリンダとの相対回転を円滑に行わせることができる技術を提供する。
【解決手段】緩衝装置2は、筒状のシリンダ11と、シリンダ11の内部に一端が挿入され、シリンダ11に対して移動可能なロッド20と、ロッド20におけるシリンダ11の内部に挿入された部分に固定された固定部材25と、ロッド20の外周面とシリンダ11の内周面との間に配置されるとともに、外周面との間に第1隙間を形成し、ロッド20及びシリンダ11に対して摺動可能な摺動部材110と、摺動部材110を固定部材25の方に向けて加圧することが可能なスプリング105と、ロッド20の軸方向において、固定部材25と摺動部材110との間に設けられて、スプリング105による加圧に応じて弾性変形し、第1隙間と連通する、固定部材25との第2隙間及び摺動部材110との第3隙間の大きさを変更可能な弾性部材130と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシリンダと、
前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、
前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定された固定部材と、
前記ロッドの外周面と前記シリンダの内周面との間に配置されるとともに、前記外周面との間に第1隙間を形成し、前記ロッド及び前記シリンダに対して摺動可能な摺動部材と、
前記摺動部材を前記固定部材の方に向けて加圧することが可能な加圧部材と、
前記ロッドの軸方向において、前記固定部材と前記摺動部材との間に設けられて、前記加圧部材による加圧に応じて弾性変形し、前記第1隙間と連通する、前記固定部材との第2隙間及び前記摺動部材との第3隙間の大きさを変更可能な弾性部材と、
を備える緩衝装置。
【請求項2】
前記弾性部材は、前記摺動部材が前記加圧部材から予め定められた圧力以上の圧力を受けた場合に弾性変形し、前記第2隙間及び前記第3隙間の大きさを減少させる、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
前記摺動部材には、前記シリンダの内周面と摺動する外周面から内側に凹んだ溝が前記軸方向の全域に亘って形成されている、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項4】
前記軸方向において、前記摺動部材と前記加圧部材との間に介在し、前記加圧部材による加圧に応じて弾性変形し、前記溝と連通する、前記摺動部材との第4隙間の大きさを変更可能な介在部材をさらに備える、
請求項3に記載の緩衝装置。
【請求項5】
前記弾性部材は、ウェーブワッシャである、
請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の緩衝装置と、
前記緩衝装置の周囲に配置されたコイルスプリングと、
を備える懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置及び懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載のショックアブソーバは、ハイドロストッパ付きである。ハイドロストッパは、ロッド部に沿って相対変位可能であり上室と下室とに区画するストッパピストンと、下室内にてロッド部に固定されたストッパディスクに対しストッパピストンを付勢する圧縮コイルスプリングと、を含む。ストッパピストンは上室及び下室を接続するオリフィス通路を有し、ハイドロストッパは、上室内の圧力が下室内の圧力よりも高く且つそれらの圧力の差が大きいほど、弾性変形量が大きくなって実効通路断面積の低減量を大きくする弾性変形部材としての弾性ディスクを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-67173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝装置(特許文献1においてはショックアブソーバ)においては、ロッドとシリンダとが、ロッドの軸心回りに相対的に回転するおそれがある。それゆえ、ロッドとシリンダとの相対回転を円滑に行わせる構造であることが望ましい。特許文献1に記載の緩衝装置においては、弾性変形部材がゴム状弾性材にて形成されているため、ロッドとシリンダとの相対回転を円滑に行わせるという点において改善の余地があった。
本発明は、ロッドとシリンダとの相対回転を円滑に行わせることができる緩衝装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと完成させた本発明は、筒状のシリンダと、前記シリンダの内部に一端が挿入され、前記シリンダに対して移動可能なロッドと、前記ロッドにおける前記シリンダの内部に挿入された部分に固定された固定部材と、前記ロッドの外周面と前記シリンダの内周面との間に配置されるとともに、前記外周面との間に第1隙間を形成し、前記ロッド及び前記シリンダに対して摺動可能な摺動部材と、前記摺動部材を前記固定部材の方に向けて加圧することが可能な加圧部材と、前記ロッドの軸方向において、前記固定部材と前記摺動部材との間に設けられて、前記加圧部材による加圧に応じて弾性変形し、前記第1隙間と連通する、前記固定部材との第2隙間及び前記摺動部材との第3隙間の大きさを変更可能な弾性部材と、を備える緩衝装置である。
ここで、前記弾性部材は、前記摺動部材が前記加圧部材から予め定められた圧力以上の圧力を受けた場合に弾性変形し、前記第2隙間及び前記第3隙間の大きさを減少させても良い。
また、前記摺動部材には、前記シリンダの内周面と摺動する外周面から内側に凹んだ溝が前記軸方向の全域に亘って形成されていても良い。
また、前記軸方向において、前記摺動部材と前記加圧部材との間に介在し、前記加圧部材による加圧に応じて弾性変形し、前記溝と連通する、前記摺動部材との第4隙間の大きさを変更可能な介在部材をさらに備えても良い。
また、前記弾性部材は、ウェーブワッシャであっても良い。
他の観点から捉えると、本発明は、上述した緩衝装置と、前記緩衝装置の周囲に配置されたコイルスプリングと、を備える懸架装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ロッドとシリンダとの相対回転を円滑に行わせることができる緩衝装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態に係る懸架装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】スプリングユニットの概略構成の一例を示す図である。
図3】スプリングユニットの断面の一例を示す図である。
図4】弾性部材が弾性変形した後の状態の一例を示す図である。
図5】ロッドの突出量が多くなる伸長行程及びロッドの突出量が少なくなる圧縮行程における、ロッドの変位量と減衰力との関係の一例を示す図である。
図6】第2実施形態に係る緩衝装置の断面の一例を示す図である。
図7】介在部材が弾性変形した後の状態の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る懸架装置1の概略構成の一例を示す図である。
図2は、スプリングユニット100の概略構成の一例を示す図である。
図3は、スプリングユニット100の断面の一例を示す図である。
懸架装置1は、乗用自動車等の四輪車に用いられるサスペンションであり、図1に示すように、油圧式の緩衝装置2と、緩衝装置2の外側に配置されたコイルスプリング3とを備える。また、懸架装置1は、コイルスプリング3における、後述するロッド20の軸方向の第1側(図1では下側)の端部を支持する下スプリングシート4と、コイルスプリング3における、ロッド20の軸方向の第2側(図1では上側)の端部を支持する上スプリングシート5とを備える。
【0009】
また、懸架装置1は、ロッド20の軸方向の第2側の端部に取り付けられて、この懸架装置1を車両に取り付けるための車体側ブラケット6と、後述するシリンダ部10におけるロッド20の軸方向の第1側の端部に固定されて、懸架装置1を車輪に取り付けるための車輪側ブラケット7とを備える。また、懸架装置1は、シリンダ部10及びロッド20の少なくとも一部を覆うダストカバー8を備える。
【0010】
以下では、ロッド20の軸方向を、単に「軸方向」と称する場合がある。軸方向は、後述する円筒状のシリンダ11の中心線方向でもある。また、軸方向の第1側(図1では下側)、軸方向の第2側(図1では上側)を、それぞれ、単に「第1側」、「第2側」と称する場合がある。また、軸方向に交差する方向(例えば、直交方向)を、「半径方向」と称する。半径方向において、シリンダ11の中心線側を単に「内側」と称し、中心線から離れる側を単に「外側」と称する場合がある。
【0011】
以下、緩衝装置2について詳述する。
緩衝装置2は、オイルを収容するシリンダ部10と、第2側の端部がシリンダ部10から突出して設けられるとともに第1側の端部がシリンダ部10内に挿入されるロッド20とを備える。また、緩衝装置2は、ロッド20の第1側の端部に設けられるピストン部30と、シリンダ部10の第1側の端部に設けられるボトム部40とを備える。また、緩衝装置2は、ロッド20が伸びる際に衝撃を緩和するリバウンドスプリングユニット(以下、「スプリングユニット」と称する場合がある。)100を備える。
【0012】
シリンダ部10は、オイルを収容するシリンダ11と、シリンダ11の外側に設けられる外筒体12とを有する。また、シリンダ部10は、ロッド20を移動可能に支持するロッドガイド部60と、外筒体12における第2側の端部に装着されたバンプストッパキャップ15と、シリンダ部10内のオイルの漏れやシリンダ部10内への異物の混入を防ぐオイルシール16とを備える。
そして、シリンダ部10は、シリンダ11の外周面と外筒体12の内周面とで、リザーバ室Rを形成している。
【0013】
ロッド20は、軸方向に長く延びる棒状の部材である。ロッド20は、第1側にピストン部30を保持する。また、ロッド20は、第2側にて車体側ブラケット6を介して例えば車体に連結される。
また、ロッド20は、ロッド20に固定された固定部材25を有する。固定部材25は、ロッド20の周囲を覆う円筒状部26と、円筒状部26の第2側に設けられた円環状部27とを有する。円環状部27における第2側の面は平坦な面である。固定部材25は鉄にて成形されており、ロッド20に溶接等にて固定されている。
【0014】
ピストン部30は、ピストン31と、ピストン31に形成された複数の油路の内の一部の油路における第1側の端部を塞ぐバルブ群32と、ピストン31に形成された一部の油路における第2側の端部を塞ぐバルブ群33と、を備えている。
ピストン31は、その外周面に設けられたシール部材を介してシリンダ11の内周面に接触し、シリンダ11内のオイルが封入された空間を、ピストン31よりも第1側の第1油室Y1と、ピストン31よりも第2側の第2油室Y2とに区画する。
【0015】
ボトム部40は、図1に示すように、軸方向に貫通する複数の油路を有するバルブボディ41と、バルブボディ41の第1側に設けられるバルブ42と、バルブボディ41の第2側に設けられるバルブ43とを備える。
ボトム部40のバルブボディ41は、第1油室Y1とリザーバ室Rとを区画する。
【0016】
ロッドガイド部60は、内側に配置された薄肉円筒状のガイド61と、ガイド61を内側に保持するガイドケース70とを備えている。
ガイド61は、ガイドケース70よりも耐摩耗性に優れた材質にて成形されている。
【0017】
ガイドケース70は、内側に設けられた円筒状の内側円筒状部71と、内側円筒状部71の外側に設けられた円筒状の外側円筒状部72とを有している。内側円筒状部71と外側円筒状部72とは、内側円筒状部71における第2側の部位の外周面と、外側円筒状部72における第1側の部位の内周面とが連続するように一体的に成形されている。
【0018】
内側円筒状部71の内側にガイド61が嵌め込まれている。内側円筒状部71の外径はシリンダ11の内径よりも小さく成形されており、シリンダ11の内側に配置される。
外側円筒状部72は、シリンダ11の第2側において、ロッド20と外筒体12との間に配置されている。外側円筒状部72の外径は、外筒体12の第2側の端部の内径よりも小さい。
【0019】
〔スプリングユニット100〕
スプリングユニット100は、ロッド20の周囲に配置されるスプリング105と、スプリング105における第1側の端部に配置されてロッド20及びシリンダ11に対して摺動可能な摺動部材110とを備える。また、スプリングユニット100は、スプリング105における第2側の端部に配置されてスプリング105を保持する保持部材120と、摺動部材110と固定部材25との間に配置された弾性部材130とを備える。なお、摺動部材110、保持部材120は、金属、又は、樹脂にて成形されていることを例示することができる。弾性部材130の材質については後で詳述する。
【0020】
(スプリング105)
スプリング105は、コイルスプリングであり、第1側の端部に形成された座巻部である第1座巻部106と、第2側の端部に形成された座巻部である第2座巻部107と、第1座巻部106と第2座巻部107との間に形成されて伸縮する伸縮部108とを有する。
【0021】
(摺動部材110)
摺動部材110は、ロッド20を通すための貫通孔が中央部に形成された円板状の円板状部111と、円筒状の円筒状部112とを有している。
摺動部材110の内周面113の径はロッド20の外周面の径よりも大きい。ゆえに、摺動部材110は、ロッド20に対して移動可能である。以下では、摺動部材110の内周面113とロッド20の外周面との隙間を、「第1隙間151」と称する場合がある。なお、摺動部材110に、内周面113から外側に凹んだ溝(不図示)が形成されていても良い。溝が形成されている場合には、第1隙間151は、溝も含む大きさとなる。
【0022】
円板状部111は、外周面の径が、円筒状部112の外周面の径よりも大きい円筒状である。そして、円板状部111の外周面の径は、シリンダ11の内周面の径よりも少しだけ小さく設定されている。例えば、円板状部111の外周面の径は、シリンダ11の内周面の径よりも0.1mm~1mm小さい。それゆえ、円板状部111は、第2油室Y2を、円板状部111よりも第1側の第3油室Y3と、円板状部111よりも第2側の第4油室Y4とに区画する。
【0023】
円板状部111の外周部には、軸方向の全域に亘って外周面から凹んだ溝114が形成されている。そして、溝114を介して、第3油室Y3と第4油室Y4とが連通する。溝114は、周方向に複数形成されていても良い。
【0024】
円筒状部112の外周面の径はスプリング105の内径よりも大きく、円筒状部112はスプリング105の内側に圧入されている。摺動部材110は、円板状部111における第2側の面がスプリング105の第1側の端部に接触するまで、円筒状部112がスプリング105の内側に挿入されている。円筒状部112の軸方向の長さはスプリング105の第1座巻部106の長さよりも大きい。このようにして、摺動部材110は、スプリング105の第1側の端部を保持する。
【0025】
(保持部材120)
保持部材120は、ロッド20を通すための貫通孔が中央部に形成された部材である。保持部材120は、第1側に設けられた円筒状の第1円筒状部121と、第2側に設けられた円筒状の第2円筒状部122と、第1円筒状部121と第2円筒状部122とを接続する円板状の円板状部123とを有している。
【0026】
第1円筒状部121の第1内周面124の径は、ロッド20の外周面の径よりも大きく、ガイドケース70の内側円筒状部71の内周面の径よりも小さい。第1円筒状部121の第1外周面125の径は、スプリング105の内径よりも大きく、第1円筒状部121はスプリング105の内側に圧入されている。
【0027】
第2円筒状部122の第2内周面126の径、第2外周面127の径は、それぞれ、第1円筒状部121の第1内周面124の径、第1外周面125の径よりも大きい。また、第2内周面126の径は、ガイドケース70の内側円筒状部71の外周面の径よりも小さい。第2外周面127の径は、シリンダ11の内周面の径よりも小さい。
【0028】
以上のように構成された保持部材120は、第2円筒状部122がガイドケース70の内側円筒状部71の外側に圧入されることで、ロッドガイド部60に固定されている。そして、保持部材120は、円板状部123における第1側の面がスプリング105の第2側の端部に接触するまで、第1円筒状部121がスプリング105の内側に挿入されている。第1円筒状部121の軸方向の長さはスプリング105の第2座巻部107の長さよりも大きい。このようにして、保持部材120は、スプリング105の第2側の端部を保持する。なお、保持部材120をロッドガイド部60に固定する態様は特に限定されない。例えば、保持部材120をロッドガイド部60にかしめても良いし、接着しても良い。
【0029】
(弾性部材130)
弾性部材130は、円環状であるとともに円周方向に山部131と谷部132とを交互に有する。弾性部材130は、樹脂の他、高炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼等のばね鋼の薄板を用いて成形されていることを例示することができる。弾性部材130の内径は、ロッド20の外周面の径よりも大きく、固定部材25の外径よりも小さい。また、弾性部材130の外径は、固定部材25の円環状部27の外径とほぼ同じであり、シリンダ11の内径よりも小さい。
【0030】
図3は、弾性部材130が弾性変形する直前の状態の一例を示す図でもある。
弾性部材130は、摺動部材110と固定部材25との間に配置されており、図3に示した、弾性部材130の複数の山部131が摺動部材110に接触するとともに、弾性部材130の複数の谷部132が固定部材25に接触する状態において、第1隙間151と連通する隙間を形成する。より具体的には、弾性部材130の第1側の面における、複数の谷部132の内の隣接する谷部132間の部位と、固定部材25の円環状部27における第2側の端面とで、第2隙間152を形成する。また、弾性部材130の第2側の面における、複数の山部131の内の隣接する山部131間の部位と、摺動部材110の円板状部111における第1側の端面とで、第3隙間153を形成する。図3に示した状態において、第2隙間152は、弾性部材130の内側であってロッド20の外側に形成された隙間を介して第1隙間151と連通し、第3隙間153は、直接的に第1隙間151と連通する。それゆえ、第1隙間151と、第2隙間152又は第3隙間153とを介して、第3油室Y3と第4油室Y4とが連通する。
【0031】
図4は、弾性部材130が弾性変形した後の状態の一例を示す図である。
弾性部材130が固定部材25及び摺動部材110から力を受けると、図4に示すように、弾性部材130の第1側の面が固定部材25の円環状部27における第2側の端面に接触するとともに、弾性部材130の第2側の面が摺動部材110の円板状部111における第1側の端面に接触するように、弾性部材130が弾性変形する。これにより、第2隙間152及び第3隙間153が小さくなるか又は完全になくなり、第1隙間151を介して、第3油室Y3と第4油室Y4との連通が制限又は遮断される。
【0032】
(スプリングユニット100の作用)
次に、スプリングユニット100の作用について説明する。
図5は、ロッド20の突出量が多くなる伸長行程及びロッド20の突出量が少なくなる圧縮行程における、ロッド20の変位量と減衰力との関係の一例を示す図である。
伸長行程において第4油室Y4の圧力が高まると、第4油室Y4のオイルは、摺動部材110の円板状部111の溝114、第1隙間151等を通って第3油室Y3へ移動する。そして、これにより、減衰力が生じる。圧縮行程において第3油室Y3の圧力が高まると、第3油室Y3のオイルは、摺動部材110の円板状部111の溝114、第1隙間151等を通って第4油室Y4へ移動する。そして、これにより、減衰力が生じる。
【0033】
伸長行程においては、弾性部材130の複数の山部131が摺動部材110に接触するとともに、弾性部材130の複数の谷部132が固定部材25に接触する状態になった後、さらにロッド20の突出量が多くなって、弾性部材130が弾性変形し始めると、第1隙間151を通ってオイルが第4油室Y4から第3油室Y3へ移動し難くなる。つまり、弾性部材130が弾性変形すると、第2隙間152、第3隙間153が小さくなり、オイルの流路面積が小さくなるので、弾性部材130が弾性変形する前と比べると、減衰力が大きくなる。また、弾性部材130が弾性変形し始めると、第2隙間152、第3隙間153が徐々に小さくなるので、オイルの流路面積が徐々に小さくなる。その結果、図5に示す実線のように、減衰力の変化量が緩やかになる。なお、図5に示す破線は、実施形態に係るスプリングユニット100に対して、例えば摺動部材110や弾性部材130を備えていない点が異なるスプリングユニットにおける減衰力の変化である。
【0034】
また、スプリングユニット100においては、弾性部材130の弾性変形量が最大になる(図4の状態)とともに、スプリング105が最も縮んだ状態(以下、「最圧縮状態」と称する場合がある。)となることで、ロッド20の突出量が最も多い状態となる。ロッド20の突出量が最も多い状態となる過程で、弾性部材130が弾性変形するとともにスプリング105が縮むこと、及び、オイルにより減衰力が発生することにより、例えば、車両が走行している路面に凹みがありロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃を吸収する。
なお、最圧縮状態から圧縮行程に切り替わると、スプリング105の力を受けて、摺動部材110が第1側へ移動する。
【0035】
また、スプリングユニット100においては、例えば、タイヤ交換を行う場合に車両本体が吊り上げられた状態で車輪が回転させられたり、車輪が路面の凹みに入った状態で転舵されたりする場合に、スプリング105が最圧縮状態となり、最圧縮荷重が生じている状態でシリンダ部10とロッド20とが軸心回りに相対的に回転する。これに対して、例えば、弾性部材130の代わりにゴムを用いて成形された弾性体を有するスプリングユニットにおいては、摺動部材110と固定部材25とが相対的に回転し難くなるので、スプリング105が、最圧縮荷重が生じている状態で第1側の端部と第2側の端部とが相対的に回転して捩れて塑性変形が生じてしまうおそれがある。また、スプリング105が変形してシリンダ11の内周面を傷つけてしまったり摩耗粉が発生したりするおそれがある。
【0036】
第1実施形態に係るスプリングユニット100においては、摺動部材110と固定部材25との間に弾性部材130が介在する。それゆえ、スプリング105に最圧縮荷重が生じている状態でシリンダ部10とロッド20とが軸心回りに相対的に回転した場合に、少なくとも、摺動部材110と弾性部材130とが滑るか、弾性部材130と固定部材25とが滑るので、摺動部材110と固定部材25とが相対的に回転し易くなる。弾性部材130がばね鋼にて成形されているからであり、また、弾性部材130が弾性変形するときに、第2隙間152に存在していたオイルが弾性部材130と固定部材25との間に介在し、第3隙間153に存在していたオイルが弾性部材130と摺動部材110との間に介在し、潤滑し易くなるからである。その結果、スプリングユニット100においては、スプリング105が塑性変形したり、スプリング105が変形してシリンダ11の内周面を傷つけたりしてしまうことが抑制される。
【0037】
以上、説明したように、緩衝装置2は、筒状のシリンダ11と、シリンダ11の内部に一端が挿入され、シリンダ11に対して移動可能なロッド20と、ロッド20におけるシリンダ11の内部に挿入された部分に固定された固定部材25と、を備える。また、緩衝装置2は、ロッド20の外周面とシリンダ11の内周面との間に配置されるとともに、外周面との間に第1隙間151を形成し、ロッド20及びシリンダ11に対して摺動可能な摺動部材110と、摺動部材110を固定部材25の方に向けて加圧することが可能な加圧部材の一例としてのスプリング105と、を備える。また、緩衝装置2は、ロッド20の軸方向において、固定部材25と摺動部材110との間に設けられて、スプリング105による加圧に応じて弾性変形し、第1隙間151と連通する、固定部材25との第2隙間152及び摺動部材110との第3隙間153の大きさを変更可能な弾性部材130を備える。
【0038】
以上のように構成された緩衝装置2によれば、例えば摺動部材110や弾性部材130を備えていない構成に比べて、減衰力を大きくすることができるとともに、減衰力の変化量を緩やかすることができる。また、緩衝装置2によれば、スプリング105に最圧縮荷重が生じている状態においても、シリンダ11とロッド20との軸心回りの相対的な回転を円滑に行わせることができる。なお、摺動部材110を固定部材25の方に向けて加圧するのは、スプリング105に限定されない。例えば、ゴムを用いて成形された部材であっても良い。
【0039】
弾性部材130は、摺動部材110がスプリング105から予め定められた所定圧力以上の圧力を受けた場合に弾性変形し、第2隙間152及び第3隙間153の大きさを減少させる。所定圧力は、特に限定されない。例えば、所定圧力は、スプリング105が最圧縮状態となり最圧縮荷重が生じているときの圧力であっても良いし、スプリング105が予め定められた長さ縮んだとき(例えば最圧縮状態のときの縮み量の半分)のばね力に応じた圧力であっても良い。
【0040】
なお、弾性部材130は、ウェーブワッシャであることを例示することができる。弾性部材130がウェーブワッシャであることにより、確度高く、所定圧力以上の圧力を受けた場合に弾性変形させることができる。
【0041】
また、摺動部材110には、シリンダ11の内周面と摺動する外周面から内側に凹んだ溝114が軸方向の全域に亘って形成されている。これにより、第2隙間152及び第3隙間153の大きさが小さくなったとしても、減衰力が高くなり過ぎることを抑制することができる。ただし、溝114は形成されていなくても良い。
【0042】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態に係る緩衝装置202の断面の一例を示す図である。
第2実施形態に係る緩衝装置202は、第1実施形態に係る緩衝装置2に対して、スプリングユニット100に相当するスプリングユニット200が異なる。スプリングユニット200は、スプリングユニット100に対して、スプリング105と摺動部材110との間に介在部材230が介在する点が異なる。以下、第1実施形態と異なる点について説明する。第1実施形態と第2実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0043】
介在部材230は、弾性部材130と同じ部材であることを例示することができる。つまり、介在部材230は、円環状であるとともに円周方向に山部231と谷部232とを交互に有する。介在部材230は、ばね鋼の薄板を用いて成形されていることを例示することができる。介在部材230の内径は、円筒状部112の外周面の径よりも大きく、スプリング105の中心径よりも小さい。また、介在部材230の外径は、スプリング105の外径よりも大きく、シリンダ11の内径よりも小さい。また、介在部材230の外径は、ロッド20の軸心から摺動部材110の溝114の底部までの距離よりも大きく、軸方向に見た場合に、介在部材230は、溝114におけるオイルの流路と重複する大きさである。
【0044】
図6に示すように、介在部材230は、スプリング105の第1座巻部106と摺動部材110の円板状部111における第2側の端面との間に配置されている。介在部材230の複数の山部231は第1座巻部106に接触し、介在部材230の複数の谷部232は円板状部111における第2側の端面に接触する。そして、介在部材230の第1側の面における、複数の谷部232の内の隣接する谷部232間の部位と、円板状部111における第2側の端面とで、第4隙間154を形成する。図6に示した状態において、第4隙間154は、溝114と連通する。それゆえ、介在部材230の内側であってロッド20の外側に形成された隙間、第4隙間154、溝114を通って、オイルが第3油室Y3と第4油室Y4との間で流通する。
【0045】
図7は、介在部材230が弾性変形した後の状態の一例を示す図である。
伸長行程において、介在部材230が弾性変形し始めると、第4隙間154を通ってオイルが第4油室Y4から第3油室Y3へ移動し難くなる。つまり、介在部材230が弾性変形すると、第4隙間154が小さくなり、オイルの流路面積が小さくなるとともに、溝114におけるオイルの流路の一部を塞ぐので、介在部材230が弾性変形する前と比べると、減衰力が大きくなる。また、介在部材230が弾性変形し始めると、第4隙間154が徐々に小さくなるので、オイルの流路面積が徐々に小さくなる。その結果、減衰力の変化量が緩やかになる。
【0046】
また、スプリングユニット200においては、ロッド20の突出量が最も多い状態である場合には、介在部材230が弾性変形して平坦である。ロッド20の突出量が最も多い状態となる過程で、介在部材230が弾性変形することでも、例えば、車両が走行している路面に凹みがありロッド20の突出量が急に多くなった場合の衝撃を吸収する。
【0047】
また、スプリングユニット200においては、スプリング105と摺動部材110との間に介在部材230が介在する。それゆえ、スプリング105に最圧縮荷重が生じている状態でシリンダ部10とロッド20とが軸心回りに相対的に回転した場合に、スプリング105と介在部材230とが滑るか、介在部材230と摺動部材110とが滑るので、スプリング105と摺動部材110とが相対的に回転し易くなる。介在部材230がばね鋼にて成形されているからであり、また、介在部材230が弾性変形するときに、第4隙間154に存在していたオイルが介在部材230と摺動部材110との間に介在し易くなるからである。その結果、スプリングユニット200においては、スプリング105が塑性変形したり、スプリング105が変形してシリンダ11の内周面を傷つけたりしてしまうことが抑制される。
【0048】
以上、説明したように、緩衝装置202は、軸方向において、摺動部材110とスプリング105との間に介在し、スプリング105による加圧に応じて弾性変形し、溝114と連通する、摺動部材110との第4隙間154の大きさを変更可能な介在部材230をさらに備える。
【0049】
以上のように構成された緩衝装置202によれば、例えば介在部材230を備えていない構成に比べて、減衰力を大きくすることができるとともに、減衰力の変化量を緩やかすることができる。また、緩衝装置202によれば、スプリング105に最圧縮荷重が生じている状態においても、シリンダ11とロッド20との軸心回りの相対的な回転を円滑に行わせることができる。
【符号の説明】
【0050】
1…懸架装置、2,202…緩衝装置、3…コイルスプリング、10…シリンダ部、11…シリンダ、20…ロッド、25…固定部材、60…ロッドガイド部、100,200…リバウンドスプリングユニット、105…スプリング、110…摺動部材、120…保持部材、130…弾性部材、151…第1隙間、152…第2隙間、153…第3隙間、154…第4隙間、230…介在部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7