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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173033
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】水中油滴型離型剤
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20241205BHJP
   A23L 29/25 20160101ALI20241205BHJP
   A21D 8/08 20060101ALI20241205BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241205BHJP
【FI】
A23D7/00 504
A23L29/25
A21D8/08
A23L5/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091148
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 健浩
(72)【発明者】
【氏名】高橋 菜央
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK01
4B026DK05
4B026DK10
4B026DL10
4B026DX04
4B032DB01
4B032DB08
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK26
4B032DL12
4B032DP33
4B032DP51
4B035LC16
4B035LG08
4B035LG09
4B035LG12
4B035LG13
4B035LG20
4B035LK19
4B035LP02
4B035LP21
4B035LP26
4B035LP42
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH09
4B041LK08
4B041LK18
4B041LK50
4B041LP04
(57)【要約】
【課題】油相比率を低減し、低コストで、保存安定性、洗浄性が良好で、糖分が多いパン、菓子に対しても高い離型性を発揮する、水中油滴型離型剤及びこれを用いたパン、菓子の製造方法を提供する。
【解決手段】離型剤の全重量基準で、長鎖脂肪酸トリグリセリド20~40重量%と、レシチン0.5~10重量%と、親油性乳化剤0.5~5重量%と、親水性乳化剤2~30重量%と、増粘剤と、水とを含む水中油滴型離型剤により上述の課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤の全重量基準で、長鎖脂肪酸トリグリセリド20~40重量%と、レシチン0.5~10重量%と、親油性乳化剤0.5~5重量%と、親水性乳化剤2~20重量%と、増粘剤と、水とを含む水中油滴型離型剤。
【請求項2】
前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、720~3000nmであることを特徴とする請求項1に記載の水中油滴型離型剤。
【請求項3】
前記離型剤の粘度が、150~1500mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤。
【請求項4】
前記増粘剤が、ガティガムである請求項1又は2のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
【請求項5】
前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、720~2200nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤。
【請求項6】
前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、1000~2200nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤。
【請求項7】
前記離型剤の用途が、パンの製造、菓子の製造である請求項1又は2のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は器に塗布する第一のステップと、
第一のステップで請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を発酵させる第二のステップと、
第二のステップで発酵させたパン生地又は菓子生地を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第三のステップとを備えることを特徴とするパン・菓子の製造方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は容器に塗布する第一のステップと、
第一のステップで請求項1又は2に記載の水中油滴型離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を焼成する第四のステップと、
第四のステップで焼成して成るパン又は菓子を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第五のステップとを備えることを特徴とするパン・菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油滴型離型剤及びこの離型剤を用いてパン又は菓子を製造するパン・菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン生地又は菓子生地を発酵及び/又は焼成する場合において、天板、鉄板、金型又は容器への付着を防止すると共に、天板、鉄板、金型又は容器からの型離れをよくするため、天板、鉄板、金型又は容器とパン生地又は菓子生地との接触面に離型剤を塗布することは一般的に行われている。
【0003】
離型剤には、固形状のものと液状のものがある。固形状のものは、離型性とコゲ付き防止の点から優れているが、粘性が非常に高いため、スプレー噴霧には適さず、刷毛やモップ等で手塗りをする必要があることから、液状のものが一般的に用いられている。
【0004】
液状の離型剤は、全油タイプと乳化タイプに大別され、乳化タイプは、分散相が水である油中水滴型(W/O)と分散相が油である水中油滴型(O/W)に分類される。
【0005】
全油タイプは、乳化タイプに比べ、水を含まないため油水分離の問題が発生せず、離型性も優れている。しかし、凹凸のある天板、鉄板、金型又は容器において、天板、鉄板、金型又は容器の表面に満遍なく塗布した場合でも、天板、鉄板、金型又は容器に付着した油相の濃淡が発生する。その結果、油の多い部分では油で揚げたような状態となり、食品の形状、色調、風味が損なわれる。一方、油の少ない部分では離型性が低下するという、液だれ現象を起こすという問題がある。
【0006】
油中水滴型は、乳化状態を長期間安定して維持することが難しく、全油タイプよりも液だれ現象は改善されるが、依然として液だれ現象を防止するという点で不十分である。また、従来の水中油滴型は、天板、鉄板、金型又は容器に塗布した直後に撥水してしまうため、離型性能が十分発揮されないという欠点がある。したがって、現在、国内市場に流通している乳化タイプの離型剤は、油中水滴型である。
【0007】
離型剤をスプレー噴霧することは、作業性の観点、天板、鉄板、金型又は容器の表面への均一塗布の観点、異物混入防止の観点等から好ましいため、広く行われている。スプレーガンを使用した離型剤の噴霧は、高圧噴霧である。噴霧された離型剤は、天板、鉄板、金型又は容器の外側に飛散するため、天板、鉄板、金型又は容器の周囲が汚れる。さらに、全油タイプや油中水滴型は、油性が強いため、飛散した離型剤の清掃が手間であるという問題があった。
【0008】
以上のことを考慮すると、離型剤としては、水中油滴型(O/W)が好ましいと考えられる。
【0009】
水中油滴型(O/W)の離型剤としては、例えば、特許文献1に記載されているような、食用油脂5~60重量%、還元水飴の固形分3.5~17.5重量%、乳化剤0.05~10重量%、カゼインナトリウム0.05~1重量%及び水11.5~91.4重量%を含有する水中油滴型の米飯用乳化油脂組成物、特許文献2に記載されているような、飽和脂肪酸のジグリセリドを油相中に7.45~20重量%含有する米飯用O/W型エマルション組成物、特許文献3に記載されているような、全体量に対して0.1~50重量%の油脂が水相中に油滴状に乳化分散してなる水中油型乳化物であって、該油滴の平均粒子径が1μm以下である米の炊飯の際に使用する米飯用改質剤が挙げられる。
【0010】
しかしながら、特許文献1~3に記載された水中油滴型の離型剤は、いずれも米飯用である。
【0011】
これらの米飯用の水中油滴型離型剤を製パン又は製菓に用いた場合、デンプンの老化防止、つや出し及び乳化安定性の目的で混合した、液糖や多価アルコールが、200℃前後のパン又は菓子の焼成温度で水飴状となり、天板、鉄板、金型又は容器に固着して、離型性が悪化するだけでなく、コゲが発生するため、異物混入の原因にもなりかねないという問題がある。また、水飴状の付着物が固着した天板、鉄板、金型又は容器を連続して使用すると、さらに離型性が低下する。そのため、水飴状の付着物が固着した時点で、天板、鉄板、金型又は容器を洗浄する必要がある。しかし、水飴状の付着物を直ちに取り除くことは難しく、手間と時間がかかるという問題がある。
【0012】
これらの理由から、米飯用の水中油滴型の離型剤をパン又は菓子の製造に用いることは現在行われていない。
【0013】
一方、天板、鉄板、金型又は容器の外側へ離型剤を飛散しにくくするため、手動式スプレーを使用する場合も少なくない。しかし、手動式スプレーを使用して離型剤を噴霧した場合、全油タイプ、油中水滴型の離型剤、米飯用の水中油滴型離型剤は、一定以上の粘稠性を有しているため、ミスト状にならず、線状に出るか又は吐出口から出ないという問題点があった。よって、天板、鉄板、金型又は容器の表面へ極めて短時間で均一に塗布することは困難であった。
【0014】
したがって、乳化状態を長期間安定して維持することができ、液だれ現象を効果的に防止することが可能であり、全油タイプや油中水滴型の離型剤と同等の離型性能を有し、洗浄性もよく、スプレー噴霧した場合には、ミスト状に噴霧して、天板、鉄板、金型又は容器の表面へ極めて短時間で均一に塗布することができる、製パン・製菓用離型剤及びこれを用いたパン・菓子の製造方法を提供することが課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001-69928号公報
【特許文献2】特許第3163166号公報
【特許文献3】特許第3202858号公報
【特許文献4】特開2013-247881公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献1~3に記載された水中油滴型離型剤に係る前記課題は、特許文献4に記載された製パン・製菓用離型剤及びこれを用いたパン・菓子の製造方法の提供により大幅に改善された。
一方、近年では、世界的に油脂原料価格が高騰しており、油脂原料を多く含む特許文献4に記載された製パン・製菓用離型剤は、原料コストが高いことが問題となっている。
さらに、天板、鉄板、金型又は容器の油汚れの洗浄には、洗浄剤が使用され、油汚れが多いほど、洗浄剤を多量に使用する。環境負荷低減の観点から、洗浄剤の使用量低減に関心が高まっており、洗浄性の高い離型剤が求められている。
また、特許文献4に記載された製パン・製菓用離型剤は、糖分が多い菓子パン、菓子に対して高い離型性能を発揮せず、適していない。
以上より、本発明は、油相比率を低減し、低コストで、保存安定性、洗浄性が良好で、糖分が多い菓子パン、菓子に対しても高い離型性を発揮する、水中油滴型離型剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は以下の内容に関する。
[1]離型剤の全重量基準で、長鎖脂肪酸トリグリセリド20~40重量%と、レシチン0.5~10重量%と、親油性乳化剤0.5~5重量%と、親水性乳化剤2~20重量%と、増粘剤と、水とを含む水中油滴型離型剤。
[2]前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、720~3000nmである[1]に記載の水中油滴型離型剤。
[3]前記離型剤の粘度が150~1500mPa・sである[1]又は[2]に記載の水中油滴型離型剤。
[4]前記増粘剤が、ガティガムである[1]から[3]のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
[5]前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、720~2200nmである[1]から[4]のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
[6]前記離型剤において、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径が、1000~2200nmである[1]から[5]のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
[7]前記離型剤の用途が、パンの製造、菓子の製造である[1]から[6]のいずれかに記載の水中油滴型離型剤。
[8][1]~[7]のいずれか1項に記載の水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は器に塗布する第一のステップと、第一のステップで[1]~[7]のいずれか1項に記載の水中油滴型離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を発酵させる第二のステップと、第二のステップで発酵させたパン生地又は菓子生地を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第三のステップとを備えるパン・菓子の製造方法。
[9][1]~[7]のいずれか1項に記載の水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は容器に塗布する第一のステップと、第一のステップで[1]~[7]のいずれか1項に記載の水中油滴型離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を焼成する第四のステップと、第四のステップで焼成して成るパン又は菓子を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第五のステップとを備えるパン・菓子の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、油相比率を低減し、低コストで、保存安定性、洗浄性が良好で、糖分が多い菓子パン、菓子に対しても高い離型性を発揮する、水中油滴型離型剤及びこの離型剤を用いてパン又は菓子を製造するパン・菓子の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について実施の形態を挙げて説明するが本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
[水中油滴型離型剤]
本発明者等は、前記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、油相比率を低減し、低コストで、保存安定性、洗浄性が良好で、糖分が多い菓子パン、菓子に対しても高い離型性を発揮する水中油滴型離型剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は離型剤の全重量基準で、長鎖脂肪酸トリグリセリド20~40重量%と、レシチン0.5~10重量%と、親油性乳化剤0.5~5重量%と、親水性乳化剤2~20重量%と、増粘剤と、水とを配合する水中油滴型離型剤に関する。
【0020】
水中油滴型離型剤は、全油タイプや油中水滴型の離型剤と同等の離型性能を有するため、パン生地又は菓子生地の焼成後の離型に用いる離型油としての使用はもちろんのこと、パン生地又は菓子生地の発酵後の離型に用いるボックスオイルとしての使用もすることができ、用途範囲が広い。
【0021】
水中油滴型離型剤は、天板、鉄板、金型又は容器への濡れ性が悪いという、従来の水中油滴型の離型剤の欠点が改善され、かつ液だれ現象を効果的に抑制することができるため、例えば、マドレーヌのような凹凸のある型、複雑な形をした型、深い型などの離型にも使用可能となる。
【0022】
なお、水中油滴型離型剤は、天板、鉄板、金型又は容器への濡れ性が良好であるため、手動式スプレー、ポンプ式スプレー、スプレーガンだけではなく、刷毛やモップ塗りも可能となる。
【0023】
離型剤は、水中油滴型であるため、洗浄性に優れ、拭き取り性も良好であることから、天板、鉄板、金型又は容器の表面からの除去が容易であり、天板、鉄板、金型又は容器の周囲の清掃も簡便である。
【0024】
水中油滴型離型剤は、粘度が低いため、スプレー噴霧した場合には、ミスト状に噴霧して、天板、鉄板、金型又は容器の表面へ極めて短時間で均一に塗布することが可能となる。
【0025】
水中油滴型離型剤は、油水分離や、時間の経過とともに浮上した油相成分が凝集・合一するいわゆるネックリングなどの乳化の不安定要因が少なく、乳化状態を長期間安定して維持することができ、製剤安定性に優れ、2年という長期間に渡り、上述した性能が維持される。
【0026】
パン・菓子の製造方法を用いることにより、作業性が向上し、清掃の手間も軽減され、生産ライン等の切り替えもスムーズになる。
【0027】
(長鎖脂肪酸トリグリセリド)
本発明において長鎖脂肪酸トリグリセリドを用いるのは、従来は、スプレー性を向上させるため、中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合して、粘度を低下させていたが、中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合した場合には、液だれ現象が発生する可能性が高く、離型性も悪くなるからである。
【0028】
長鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、含有するトリグリセリドを構成する脂肪酸鎖の平均炭素数が12より大きければ、天然のものも、化学合成のものであってもよく、液体、固体を問わず、食用に適するものであれば全て使用可能である。具体的には、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米糠油、ごま油、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油等の植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂等の動物性油脂、これらの油脂の硬化油、これらの油脂のエステル交換油、これらの油脂を分別して得られる液体油又は固体脂から選ばれた一種又は二種以上の混合物が挙げられる。なお、脂肪酸鎖を構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であっても差し支えない。
【0029】
長鎖脂肪酸トリグリセリドの含有率は、離型剤全体に対し、40重量%以下であることが好ましい。油相比率が低減することで、低コストで、水中油滴型離型剤を製造することができるからである。
長鎖脂肪酸トリグリセリドの含有率の下限値は、離型剤全体に対し、10重量%よりも多いことが好ましい。長鎖脂肪酸トリグリセリドの含有率が離型剤全体に対して10重量%以下の場合には、十分な製剤安定性が得られず、離型性が低下するからである。
なお、長鎖脂肪酸トリグリセリドの含有率は、離型剤全体に対し、好ましくは10重量%よりも多く、40重量%以下であり、より好ましくは20~40重量%である。
【0030】
(レシチン)
レシチンを用いるのは、離型性を向上させ、天板、鉄板、金型又は容器への濡れ性が悪いという、従来の水中油滴型の離型剤の欠点を改善するためである。
【0031】
レシチンとしては、天然由来のレシチンであれば特に限定されず、具体的には、例えば、大豆レシチン、ナタネレシチン等の植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン、高純度レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン等が挙げられる。ここにいう分別レシチンは、植物レシチン、卵黄レシチンからエタノールなどの有機溶媒を用い、溶解度の差を利用して、特定成分を分画して得られたものである。また、酵素分解レシチンは、植物レシチン、卵黄レシチン、分別レシチン等にホスホリパーゼを作用させて、加水分解、転移反応等を行わせることによって得られたものである。なお、酵素分解レシチンは、レシチンの種類やホスホリパーゼの種類によって種々のものが得られるが、本発明においては、これらを総称して酵素分解レシチンといい、いずれの種類の酵素分解レシチンであってもよい。これらの中でも、大豆レシチン、卵黄レシチン、高純度レシチン、酵素分解レシチンが好ましい。なお、本発明においては、上述したレシチンを一種で使用してもよく、二種以上の混合物として使用してもよい。
【0032】
レシチンの含有率は、離型剤全体に対し、0.5~10重量%が好ましい。レシチンの含有率が離型剤全体に対して0.5重量%未満の場合には、天板、鉄板、金型又は容器への濡れ性が低下し、離型性が悪化するからである。逆に、レシチンの含有率が離型剤全体に対して10重量%を超えると、製剤安定性が悪くなり、焼成後のパン又は菓子の風味が悪くなるからである。なお、レシチンの含有率は、離型剤全体に対し、より好ましくは2~8重量%であり、最も好ましくは3~5重量%である。
【0033】
(親油性乳化剤)
親油性乳化剤としては、食用に適するものであれば特に限定されず、種々のものを用いることができる。HLB値は4~5が好ましい。例えばグリセリン脂肪酸エステルを用いることができる。
親油性乳化剤の含有率は、離型剤全体に対し、2~4重量%が好ましく、より好ましくは2.5~3.5重量%である。
【0034】
(親水性乳化剤)
本発明に用いる親水性乳化剤としては、食用に適するものであれば特に限定されず、HLB値は7~16が好ましく、12~16がより好ましく、13~15がさらに好ましい。親水性乳化剤の構成脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸などが挙げられる。
【0035】
親水性乳化剤としては、例えば、デカグリセリンモノミリステート、デカグリセリンモノパルミテート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノオレエート等のグリセリンの重合度が通常4以上、好ましくは4~12のポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが挙げられる。
【0036】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、平均重合度が4以上、好ましくは6~15、より好ましくは8~10のポリグリセリンと、炭素数8~18の脂肪酸(例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸)とのエステルである。ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノパルミチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル等が挙げられ、市販品としては、例えば、日光ケミカルズ株式会社製のNIKKOLDecaglyn1-OV,NIKKOLDecaglyn1-SV,三菱化学フーズ株式会社製のリョートーポリグリエステルM-10D、M-7D、P-8D、S-28D、S-24D、SWA-20D、SWA-15D、SWA-10D、太陽化学株式会社社製のサンソフトQ-17UL、サンソフトQ-14S、サンソフトA-141C、理研ビタミン株式会社製のポエムJ-0021などが挙げられる。
【0037】
上述した親水性乳化剤は、一種で使用してもよく、二種以上の混合物として使用してもよい。
【0038】
親水性乳化剤の含有率は、離型剤全体に対し、2~20重量%が好ましい。親水性乳化剤の含有率が離型剤全体に対して2重量%未満の場合には、油水分離の可能性が高く、十分な製剤安定性が得られないからである。逆に、親水性乳化剤の含有率が離型剤全体に対して20重量%を超えると、増粘して、十分なスプレー噴霧性が得られず、スプレー噴霧時にミストにならないだけでなく、焼成後のパン又は菓子の風味が悪くなるからである。なお、親水性乳化剤の含有率は、離型剤全体に対し、より好ましくは2~10重量%であり、最も好ましくは2~6重量%である。
【0039】
なお、本発明において、親水性乳化剤は、一般的には親水性成分中に溶解させるが、親油性成分中に溶解させてもよい。
【0040】
(増粘剤)
増粘剤としては、食用に適するものであれば特に限定されず、種々のものを用いることができるが、例えばガティガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドシードガムを用いることができる。中でもガティガムが好ましい。
増粘剤の含有率は、離型剤全体に対し、0.1~0.3重量%が好ましく、より好ましくは0.15~0.25重量%である。0.1重量%未満では安定性が向上せず、0.3重量を超えると離型油としての離型性能が低下するからである。
【0041】
(その他)
水中油滴型離型剤には、本発明の効果を損なわない範囲において、長鎖脂肪酸トリグリセリド、レシチン、親油性乳化剤、親水性乳化剤、増粘剤、水以外の成分として、例えば、香料、着色料、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤などを添加してもよい。
【0042】
水中油滴型離型剤の製造方法は、特に限定されず、例えば、親水性成分を溶解した中に、親油性成分を徐々に添加しながら混合してもよく、全成分を一挙に混合してもよい。なお、本発明においては、水中油滴型離型剤に含有される各成分を混合するため、例えば、ホモミキサー、ホモジェッター、クレアミックスなどの攪拌機や、高圧ホモジナイザー、アルティマイザー、マイクロフルイダイザーなどの均質化装置を用いてもよい。
【0043】
(水中油滴の平均粒子径)
水中油滴型離型剤においては、動的光散乱法で測定した水中油滴の平均粒子径は、好ましくは720~3000nmであり、より好ましくは720~2200nmであり、最も好ましくは1000~2200nmである。
【0044】
(粘度)
水中油滴型離型剤においては、粘度は、好ましくは150~1500mPa・sが好ましく、より好ましくは230~1490mPa・sであり、最も好ましくは260~1480mPa・sである。
【0045】
(パン・菓子の製造方法)
第一のパン・菓子の製造方法は、水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は容器に塗布する第一のステップと;第一のステップで、本発明の製パン・製菓用離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を発酵させる第二のステップと;第二のステップで発酵させたパン生地又は菓子生地を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第三のステップとを備える。
【0046】
水中油滴型離型剤が塗布された天板、鉄板、金型又は容器の面上に、パン生地又は菓子生地を配置すると、発酵時に、天板、鉄板、金型又は容器とパン生地又は菓子生地に膜が形成されるため、発酵後におけるパン生地又は菓子生地の離型性が向上する。
【0047】
第二のパン・菓子の製造方法は、本発明の水中油滴型離型剤を、天板、鉄板、金型又は容器に塗布する第一のステップと;第一のステップで、本発明の水中油滴型離型剤を塗布した天板、鉄板、金型又は容器の面上にパン生地又は菓子生地を配置して、パン生地又は菓子生地を焼成する第四のステップと;第四のステップで焼成して成るパン又は菓子を天板、鉄板、金型又は容器から離型する第五のステップとを備える。
【0048】
本発明の水中油滴型離型剤が塗布された天板、鉄板、金型又は容器の面上に、パン生地又は菓子生地を配置すると、焼成時に、離型剤に含まれる油脂成分が天板、鉄板、金型又は容器の表面に現れるため、焼成後におけるパン又は菓子の離型性が向上する。
【0049】
ここで、第一のステップは、作業性をより向上し、作業時間をさらに短縮するだけでなく、異物混入の可能性をより低下させるため、本発明の水中油滴型離型剤を、手動式スプレー、ポンプ式スプレー、スプレーガンのいずれかを用いて、天板、鉄板、金型又は容器に塗布するのが好ましい。
【0050】
本発明で用いる手動式スプレーは、一回の噴霧で、本発明の水中油滴型離型剤0.1~1.0gをミスト状に噴霧することができるものであれば特に限定されず、機構も不問であり、具体的には、例えば、タスマン株式会社製のキャニオンスプレー、株式会社フルプラ製のダイヤスプレー、株式会社三谷バルブ製のミストポンプ・トリガーポンプが挙げられる。
【0051】
本発明で用いるポンプ式スプレーは、一回の噴霧で、本発明の水中油滴型離型剤0.1~1.0gをミスト状に噴霧することができるものであれば特に限定されず、機構も不問であり、具体的には、例えば、タスマン株式会社製のポンプディスペンサー、マルハチ産業株式会社製のポンプ式スプレーボトルが挙げられる。
【0052】
本発明で用いるスプレーガンは、一回の噴霧で、本発明の水中油滴型離型剤0.1~1.0gをミスト状に噴霧することができるものであれば特に限定されず、機構も不問であり、具体的には、例えば、若林工業株式会社製のTG-3グリーサースプレー、旭サナック株式会社製のピークベア、アネスト岩田株式会社製のエアレス式噴霧装置ALS-122、加圧式噴霧装置COT-20、静電塗布装置E-SC24Lが挙げられる。
【0053】
なお、ベーカリーチェーンでは、連続ラインの製パン・製菓工場で使用されているスプレーガンは、飛散があり、導入のコストもかかるため、充填ガスが、環境に悪影響があり、引火の危険性もあり、廃棄にも手間がかかるという欠点があるにもかかわらず、エアゾールスプレー缶に入った離型剤を使用するのが主流であるが、本発明により、手動式スプレー又はポンプ式スプレーでミストを噴霧することが可能であるため、従来より、低コストで、作業の安全性も高くなる。
【実施例0054】
以下、処方例、試験例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明の範囲は、これらの処方例、試験例によって限定されるものではない。処方例1-1、処方例1-2は実施例に相当し、処方例2-1~処方例2-7は比較例に相当する。
【0055】
(1)水中油滴型離型剤の作成
(処方例1-1)
水257gをホモミキサーで3000rpmの速度で攪拌しながら、増粘剤1(ガティガム)0.8gを添加し、80℃まで加熱した。さらに、親水性乳化剤2(ポリグリセリン脂肪酸エステル(HLB14.5))12g、親水性乳化剤3(モノグリセリン脂肪酸エステル(HLB7.2))2gを添加し、溶解させ、親水性成分Aを作成した。
これとは別に、長鎖脂肪酸トリグリセリド(市販の菜種油)80gに、レシチン8g、酵素分解レシチン8g、親油性乳化剤1(グリセリン脂肪酸エステル(HLB4.2))12g、ミックストコフェロール製剤0.2gを添加し、70℃まで加熱して、溶解させ、親油性成分Bを作成した。
親水性成分Aをホモミキサーで5000rpmの速度で攪拌しながら、親油性成分Bを少量ずつ添加した。親水性成分Bを全量添加した後、冷却しながら10分攪拌した。40℃以下であることを確認した後、エタノール製剤を20g添加し、ホモミキサーで3000rpmの速度で5分攪拌し、水中油滴型離型剤を得た。
【0056】
(処方例1-2)
水を257gから169gに代え、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12gから20gに代え、長鎖脂肪酸トリグリセリドを80gから160gに代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。
【0057】
(処方例2-1)
水を257gから152gに代え、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12gから20gに代え、長鎖脂肪酸トリグリセリドを80gから200gに代え、レシチンを8gから20gに代え、グリセリン脂肪酸エステルを12gから8gに代え、
ガティガム、モノグリセリン脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、ミックストコフェロール製剤、エタノール製剤を添加しない以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。なお、処方例2-1は特許文献4に記載の水中油滴型離型剤の処方に相当する。
【0058】
(処方例2-2)
水を257gから88gに代え、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12gから20gに代え、長鎖脂肪酸トリグリセリドを80gから280gに代え、グリセリン脂肪酸エステルを12gから4gに代え、ガティガム、モノグリセリン脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、ミックストコフェロール製剤、エタノール製剤を添加しない以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。なお、処方例2-2は特許文献4に記載の水中油滴型離型剤の処方に相当する。
【0059】
(処方例2-3)
ガティガムをキサンタンガムに代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、本発明となる水中油滴型離型剤を得た。
【0060】
(処方例2-4)
ガティガムを増粘剤4(アラビアガム)に代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。
【0061】
(処方例2-5)
ガティガムを増粘剤5(タマリンドシードガム)に代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。
【0062】
(処方例2-6)
ガティガムを増粘剤2(ローカストビーンガム)に代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。
【0063】
(処方例2-7)
水を257gから301gに代え、ポリグリセリン脂肪酸エステルを12gから8gに代え、長鎖脂肪酸トリグリセリドを80gから40gに代えた以外は処方例1-1と同様の操作を繰り返し、水中油滴型離型剤を得た。
【0064】
処方例1-1~処方例2-7の成分の配合比を表1に示す。表の値の単位はgとし、かっこ書きは、全重量に対する重量を%で表記した場合の値である。
【表1】
【0065】
(2)水中油滴型離型剤の物性試験
(試験例1)粘度
処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤について、B型粘度計を用いて、25℃での粘度を測定した。
【0066】
(試験例2)油滴の平均粒子径
処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤について、大塚電子株式会社製ELS-Zを用い、動的光散乱法で、油滴の平均粒子径を測定した。
【0067】
(3)水中油滴型離型剤の特性試験
(試験例3)25℃における製剤安定性試験
100mlのスクリュービンを9個用意し、それぞれに処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤を80g入れ、25℃の恒温槽に2週間以上静置し、分離状態を経時的に観察した。2週間以上分離、ネックリングが見られなったものを「〇」、2週間以内にネックリングが発生したものを「△」、1週間以内に分離したものを「×」とした。
【0068】
(試験例4)40℃における製剤安定性試験
40℃の恒温槽に試験体を静置する以外は試験例3と同じ操作を繰り返した。
【0069】
(試験例5)水洗による洗浄性試験
平天板を9枚用意し、刷毛を用いて、それぞれの表面に処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤を1g塗布した。塗布後、オーブンに入れ、180℃で15分加熱した後、水道水で洗浄した。こすり洗いすることなく、水で30秒以内に容易に洗浄できたものを「〇」、1分以内に洗浄できたものを「△」、1分以上かけて洗浄できたものを「×」とした。
【0070】
(試験例6)拭き取りによる洗浄性試験
平天板を9枚用意し、刷毛を用いて、それぞれの表面に処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤を1g塗布した。その後、乾いた布巾で拭き取った。1回の拭き取りで離型剤を完全に拭き取ることができたものを「〇」、2回の拭き取りで完全に拭き取ることができたものを「△」、3回以上の拭き取りで完全に拭き取ることができたものを「×」とした。
【0071】
(試験例7)パンの焼成後の離型性試験
一斤用ステンレス容器を9個用意し、刷毛を用いて、一斤用ステンレス容器の内側面に処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤を1gずつ塗布した。離型剤を塗布した容器に、解凍し、発酵させたスイートブレッド生地(敷島製パン株式会社製冷凍パン生地)を収容し、35℃、湿度80%の環境下で、40分間放置し、パン生地を二次発酵させた。そして、それぞれの容器をオーブンに入れ、200℃で25分間焼成した。その後、ステンレス容器を逆さにし、パン生地がステンレス容器から離型するかどうか確認した。ステンレス容器を逆さにしたら離型したものを「〇」、試作台に叩きつけ、再度逆さにしたら離型したものを「△」、前記操作で離型しなかったものを「×」とした。
【0072】
(試験例8)菓子(マドレーヌ)の離型性試験
全卵1000gを容器に入れ、株式会社愛工舎製作所製のケンミックスミキサーで気泡させながら、篩通ししたグラニュー糖1000g、薄力粉960g、ベーキングパウダー40gを加えた。さらにマーガリン1000gを加えた後、ザラメ120gを加え生地を調製し、比重が約0.8の菓子生地を得た。
1個あたり横45mm、縦80mm、深さ15mmのマドレーヌ型の窪みが12個ついた型天板を9枚用意し、それぞれの窪みに処方例1-1~処方例2-7の水中油滴型離型剤を0.5gずつ塗布した。離型剤を塗布した窪みに、作成した菓子生地を15gずつ合計8個充填し、180℃のオーブンで16分間焼成した。その後、型天板を逆さにして、菓子が型天板から離型するかどうか確認した。離型した菓子の個数が8個だったものを「〇」、4~7個だったものを「△」、3個だったものを「×」とした。
【0073】
試験例1~8の結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表2の結果より、処方例1-1の水中油滴型離型剤の25℃における粘度は、271mPa・sであり、油滴の平均粒子径は795nmであった。処方例1-2の水中油滴型離型剤の25℃における粘度は、1489mPa・sであり、油滴の平均粒子径は2156nmであった。
表2の水中油滴型離型剤の特性試験の結果より、本発明の実施例に相当する処方例1-1、処方例1-2の水中油滴型離型剤は、25℃、40℃における製剤安定性、水洗による洗浄性、拭き取りによる洗浄性、パン、マドレーヌの離型性に優れていた。
【0076】
長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が50重量%である処方例2-1の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が2132mPa・sであり、油滴の平均粒子径が1041nmであった。
処方例2-1の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃における製剤安定性が良好であったが、40℃における製剤安定性、水洗による洗浄性、拭き取りによる洗浄性、パン、マドレーヌの離型性が良好ではなかった。
【0077】
長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が70重量%である処方例2-2の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が3181mPa・sであり、油滴の平均粒子径が1942nmであった。
処方例2-2の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃、40℃における製剤安定性、水洗による洗浄性が良好であったが、拭き取りによる洗浄性、パン、マドレーヌの離型性が良好ではなかった。
【0078】
増粘剤3(キサンタンガム)を配合した処方例2-3の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が1614mPa・sであり、油滴の平均粒子径が985nmであった。
処方例2-3の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃、40℃における製剤安定性が良好であったが、パンの離型性が良好ではなく、水洗による洗浄性、拭き取りによる洗浄性、マドレーヌの離型性が悪かった。
【0079】
増粘剤4(アラビアガム)を配合した処方例2-4の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が108mPa・sであり、油滴の平均粒子径が635nmであった。
処方例2-4の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃における製剤安定性、水洗による洗浄性、拭き取りによる洗浄性が良好であったが、40℃における製剤安定性、パン、マドレーヌの離型性が良好ではなかった。
【0080】
増粘剤5(タマリンドシードガム)を配合した処方例2-5の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が1018mPa・sであり、油滴の平均粒子径が716nmであった。
処方例2-5の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃における製剤安定性、拭き取りによる洗浄性が良好であったが、40℃における製剤安定性、水洗による洗浄性、パンの離型性が良好ではなく、マドレーヌの離型性が悪かった。
【0081】
増粘剤2(ローカストビーンガム)を配合した処方例2-6の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が1941mPa・sであり、油滴の平均粒子径が718nmであった。
処方例2-6の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、25℃、40℃における製剤安定性、水洗による洗浄性が良好であったが、拭き取りによる洗浄性が良好ではなく、パン、マドレーヌの離型性が悪かった。
【0082】
長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が10%である処方例2-7の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が60mPa・sであり、油滴の平均粒子径が485nmであった。
処方例2-7の水中油滴型離型剤の特性試験の結果は、拭き取りによる洗浄性が良好であったが、水洗による洗浄性、マドレーヌの離型性が良好ではなく、25℃、40℃における製剤安定性、パンの離型性が悪かった。25℃、40℃における製剤安定性については、静置してから一週間以内で分離した。
【0083】
以上の結果から、処方例1-1と、処方例2-1及び処方例2-2との対比より、長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が50重量%未満の場合、水中油滴型離型剤の洗浄性、パン、マドレーヌの離型性が良好になることが分かった。なお、処方例1-2と、処方例2-1及び処方例2-2との対比からも同様のことがいえた。
【0084】
処方例1-1と処方例1-2の対比より、処方例1-1は、処方例1-2よりも長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合が少ないにもかかわらず、25℃、40℃における製剤安定性、水洗、拭き取りによる洗浄性、パン、マドレーヌの離型性について、処方例1-2と性能に差が無く、良好であることが分かった。したがって、長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が20重量%というかなり低い油相比率でも、保存安定性、洗浄性が良好で、パン、菓子に対しても高い離型性を発揮する水中油滴型離型剤が得られることが示された。
【0085】
特許文献4の菓子の処方に相当する処方例2-1、処方例2-2は、特許文献4の菓子の離型性試験では良好な結果が得られていた。しかし、生地にザラメ120gを加えることにより、特許文献4の菓子の離型性試験よりも厳しい試験条件で水中油滴型離型剤の離型性を評価した試験例8において、処方例2-1、処方例2-2は、処方例1-1、処方例1-2よりもマドレーヌの離型性が悪かった。したがって、処方例1-1、処方例1-2の水中油滴型離型剤は、厳しい条件下であっても、処方例2-1、処方例2-2よりも離型性が優れていることが確認された。
【0086】
処方例1-1と処方例2-3の対比より、25℃における粘度は、処方例2-3が1614mPa・s、処方例1-1が271mPa・sであり、水洗による洗浄性、拭き取りによる洗浄性は、処方例1-1は処方例2-3よりも良好であった。このことから、25℃における粘度が1600mPa・s未満である場合、水洗、拭き取りによる洗浄性、パン、マドレーヌの離型性に優れる水中油滴型離型剤が得られることが分かった。
【0087】
処方例2-5の水中油滴型離型剤は、25℃における粘度が1018mPa・sであり、粘度が1600mPa・sより小さかったが、油滴の平均粒子径が716nmであった。
処方例1-1と処方例2-5の対比より、油滴の平均粒子径が719nmよりも大きい場合、パン、マドレーヌの離型性に優れる水中油滴型離型剤が得られることが分かった。
【0088】
処方例2-4と処方例2-5の対比より、25℃における粘度は処方例2-4が108mPa・s、処方例2-5が1018mPa・sであり、パン、マドレーヌの離型性は処方例2-4が処方例2-5よりもが悪かったことより、25℃における粘度が150mPa・sよりも小さい場合、水中油滴型離型剤のパン、マドレーヌの離型性が悪くなることが分かった。
【0089】
処方例1-1と処方例2-7の対比より、長鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比が10重量%よりも多い場合、水中油滴型離型剤が分離することなく、25℃、40℃における製剤安定性が良好で、パン、マドレーヌの離型性に優れる水中油滴型離型剤が得られることが分かった。
【0090】
また、処方例1-1と処方例2-3~処方例2-6の対比より、増粘剤にガティガムを使用することで、25℃、40℃における製剤安定性、水洗、拭き取りによる洗浄性が良好で、パン、マドレーヌの離型性に優れる水中油滴型離型剤が得られることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明による水中油滴型離型剤は、保存安定性、洗浄性、離型性に優れていることから、パン、菓子の製造工程において、天板、鉄板、金型又は容器に塗布し、パン又は菓子生地の付着を防止するとともに、焼成後のパン又は菓子の型離れを改善する離型剤として使用することができる。本発明による水中油滴型離型剤は、糖分が多いパン、菓子に対しても高い離型性を発揮することから、糖分が多いパン、菓子の製造工程における離型剤としても使用することができる。