(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173047
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】無フラックスろう付用ブレージングシート
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20241205BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20241205BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20241205BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20241205BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20241205BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241205BHJP
C22F 1/043 20060101ALN20241205BHJP
C22F 1/04 20060101ALN20241205BHJP
C22F 1/053 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 J
C22C21/02
C22C21/00 L
C22C21/10
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22F1/00 651A
C22F1/00 626
C22F1/00 627
C22F1/00 630M
C22F1/00 614
C22F1/00 623
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691A
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
C22F1/00 640A
C22F1/00 630A
C22F1/00 691Z
C22F1/043
C22F1/04 B
C22F1/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091167
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】江戸 正和
(72)【発明者】
【氏名】山田 詔悟
(72)【発明者】
【氏名】本間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】福田 太郎
(57)【要約】
【課題】本発明は、無フラックスろう付用ブレージングシートの提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、心材と第1ろう材層と第2ろう材層を備えたアルミニウムブレージングシートであり、第1ろう材層は特定量のSi、Mg、Biを含有し、Mg/Bi≦10の関係を満たすAl-Si-Mg-Bi系合金からなり、第2ろう材層は特定量のSi、Mn、Zr、Mgを含有するAl-Si-Mn-Zr系合金からなり、第1ろう材層と第2ろう材層のクラッド率を特定し、ろう付熱処理中550℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.15質量%以下、580℃到達時の表面のMg濃度が0.10~0.30質量%、600℃到達時の表面のMg濃度が0.10~0.30質量%、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲であり、心材は、Mn、Si、Cu、Mg、Fe、Tiを含有するアルミニウム合金からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材と、当該心材の少なくとも一方の面にクラッドされた第1ろう材層と、前記第1ろう材層上にクラッドされた第2ろう材層を有するアルミニウムブレージングシートであって、
前記第1ろう材層は、質量%でSi:5~13%、Mg:0.2~2.0%、Bi:0.10~0.25%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有し、MgとBiの含有量が質量%比でMg/Bi≦10の関係を満たすAl-Si-Mg-Bi系合金からなり、
前記第2ろう材層は、質量%でSi:8~13%、Mn:0.05~0.4%、Zr:0.03~0.2%を含有し、Mgを0.05%未満に制限し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するAl-Si-Mn-Zr系合金からなり、
前記第1ろう材層のクラッド率が5~20%、第2ろう材層のクラッド率が2~10%、
ろう付熱処理中550℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.15質量%以下、
580℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30質量%、
600℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30質量%であり、
さらに、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲にあり、
加えて、前記心材は、質量%でMn:1.0~1.6%、Si:0.3~0.8%、Cu:0.5~1.0%、Mg:0.15~0.6%、Fe:0.08~0.5%、Ti:0.05~0.2%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることを特徴とする、無フラックスろう付用ブレージングシート。
【請求項2】
前記心材にさらに質量%でZr:0.2%以下、Cr:0.5%以下、Zn:0.5%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の無フラックスろう付用ブレージングシート。
【請求項3】
前記心材と前記第1ろう材層と前記第2ろう材層に加え、犠牲材層を有し、
該犠牲材層が、質量%でZn:6.0%以下、Mn:1.5%以下、Si:1.0%以下、Mg:0.5%以下、Fe:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Cr:0.5%以下のうち1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の無フラックスろう付用ブレージングシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無フラックスろう付用ブレージングシートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム製ブレージングシートを用いた無フラックスろう付において、ろう付対象物における積層構造や閉塞部での接合は好適なMg、Biの添加により確保できるようになってきているが、開放部における接合性は不十分であった。
これに対し、ろう材を2層構成とし、表層側のろう材をMg無添加あるいは微量のMgに制限することで、ろう付中のMgO生成を抑制し、かつ酸化皮膜破壊のためのMgを内側のろう材から供給することでろう付性を向上させた技術が提案されている。
【0003】
例えば、無フラックスろう付用ブレージングシートとして、以下の特許文献1に記載の技術が知られている。
このブレージングシートは、心材の片面または両面にろう材層1とろう材層2を積層した構成であり、ろう材層1のSi量、Mg量を特定の範囲に規定し、ろう材層2のSi量、Na量、Sr量、Sb量を特定の範囲に規定している。更に、ろう材層1の厚さとろう材層2の厚さ、及びろう材層1のMg含有量に関し、これらを特定の式で限定する範囲内に調整した特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ただし、従来知られている無フラックスろう付用ブレージングシートにおいては、ろう付熱処理中に、内側のろう材層から外側のろう材層にMgが拡散等により移動し、Mgの移動量に応じてMgOが生成される。
そのため、初期のMg添加量や添加位置を規定するのみでは、MgOの生成を抑制することが不十分であり、種々形状の継手などにおいて安定したろう付性を得ることが困難であった。
そこで本発明者は、ろう付熱処理時の各温度域におけるろう材表面のMg濃度とろう付の関連性について調査した。更に、ろう材表面層のMg濃度は初期の添加Mg量や配置のみならず、ろう材のクラッド率、ろう材のSi含有量、ろう材のMg含有量によって大きく変化し、一義的には決定できないものの、ろう付熱処理時の各温度域における表層Mg濃度を所定値以下に調整することでろう付性を劇的に向上できることを見出した。
【0006】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、ろう付熱処理時の各温度域における表層Mg濃度を規定することにより、ろう付対象物の隙間充填性に優れるとともに、離間した他部材への流動性に優れたろう付を無フラックスで実現可能なブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本形態に係る無フラックスろう付用ブレージングシートは、心材と、当該心材の少なくとも一方の面にクラッドされた第1ろう材層と、前記第1ろう材層上にクラッドされた第2ろう材層を有するアルミニウムブレージングシートであって、前記第1ろう材層は、質量%でSi:5~13%、Mg:0.2~2.0%、Bi:0.10~0.25%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有し、MgとBiの含有量が質量%比でMg/Bi≦10の関係を満たすAl-Si-Mg-Bi系合金からなり、前記第2ろう材層は、質量%でSi:8~13%、Mn:0.05~0.4%、Zr:0.03~0.2%を含有し、Mgを0.05%未満に制限し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するAl-Si-Mn-Zr系合金からなり、前記第1ろう材層のクラッド率が5~20%、第2ろう材層のクラッド率が2~10%、ろう付熱処理中550℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.15質量%以下、580℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30質量%、600℃到達時の前記第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30質量%であり、さらに、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲にあり、加えて、前記心材は、質量%でMn:1.0~1.6%、Si:0.3~0.8%、Cu:0.5~1.0%、Mg:0.15~0.6%、Fe:0.08~0.5%、Ti:0.05~0.2%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることを特徴とする。
【0008】
(2)前記(1)に記載の無フラックスろう付用ブレージングシートにおいて、前記心材にさらに質量%でZr:0.2%以下、Cr:0.5%以下、Zn:0.5%以下の1種または2種以上を含有することが好ましい。
(3)前記(1)または(2)に記載の無フラックスろう付用ブレージングシートにおいて、前記心材と前記第1ろう材層と前記第2ろう材層に加え、犠牲材層を有し、該犠牲材層が、質量%でZn:6.0%以下、Mn:1.5%以下、Si:1.0%以下、Mg:0.5%以下、Fe:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Cr:0.5%以下のうち1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る無フラックスろう付用ブレージングシートは、ろう付時の隙間充填性に優れ、小さい隙間であっても隙間にろう材を良好に充填したろう付ができるとともに、ろう材の流動性を高め、離間した位置にある隙間であっても良好にろう材を埋めることが可能なろう付ができるブレージングシートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る第1実施形態のブレージングシートを示す断面図。
【
図2】本発明に係る第2実施形態のブレージングシートを示す断面図。
【
図3】比較例に係るブレージングシートを示す断面図。
【
図4】実施例において用いた試料のEPMA分析結果の一例を示すグラフ。
【
図5】実施例においてろう付性の測定試験に用いたブレージングシートを含む供試材を示すもので、(A)は側面図、(B)は斜視図。
【
図6】実施例において他部材への溶融ろう流動試験に用いたブレージングシートを含む供試材を示す側面図。
【
図7】実施例において他部材への溶融ろう流動試験に用いたブレージングシートを含む供試材を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照し、実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0012】
本発明の第1実施形態に係る無フラックスろう付用のアルミニウムブレージングシートAは、
図1に示すように、アルミニウム合金からなるシート状の心材Cの片面側(上面側)に第1ろう材層1と第2ろう材層2が積層され、心材Cの他面側(下面側)に犠牲材層3が積層された4層構造を有する。
また、
図2に示す第2実施形態の無フラックスろう付用ブレージングシートBのように、心材Cの片面側(上面側)に第1ろう材層1が積層され、第1ろう材層1上に第2ろう材層2が積層され、犠牲材層3が略された3層構造であっても良い。
なお、本発明に係るブレージングシートは、心材Cの両面にそれぞれ第1ろう材層1と第2ろう材層2を積層した5層構造を採用しても良い。
【0013】
なお、本発明に係るブレージングシートは、更に別の構造を採用することができ、例えば、心材Cを複層構造とする多層構造、心材Cと犠牲材層3との間に第1ろう材層1と第2ろう材層2を積層した多層構造など、種々の構成を採用できる。また、ブレージングシートの積層数は、3層~7層構造など、3層以上の多層構造も適宜採用できる。
【0014】
ブレージングシートA、Bは、ろう材層1、2の溶融温度以上に加熱すると、ろう材層1、2が溶融してブレージングシートA、Bの片面側あるいは両面側においてろう材が濡れ広がり、ブレージングシートA、Bに対しろう付け対象とする他の部材をろう付けするために使用する。また、ブレージングシートA、Bは、無フラックスろう付用途に用いることができる。
ブレージングシートA、Bは、熱交換器に適用する場合、チューブに加工されるかフィンに加工されるか、他の熱交換器用構成部材に加工されるなど、必要な形状に加工され、ろう付け対象物と接近または接触した状態でろう付加熱される。
以下、ブレージングシートAを構成する各層について詳しく説明する。
【0015】
「第1ろう材層」
第1ろう材層1は、例えば、質量%でSi:5~13%、Mg:0.2~2.0%、Bi:0.10~0.25%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するAl-Si-Mg-Bi系合金からなる。
なお、本願明細書において「~」を用いて特定の範囲を表記する場合、特に注記しない限り、下限と上限を含む範囲とする。従って、5~13%は、5%以上13%以下の範囲を意味する。
Si:5~13%
第1ろう材層1において、Siはろう付時のろうを形成するために必要な元素であり、Si含有量が5%未満であるとろう付時のフィレット形成が不十分となり、Si含有量が13%を超えるとシートとして製造することが困難となる。
Mg:0.2~2.0%
Mgはろう付時にアルミニウムの酸化皮膜を破壊するために第1ろう材層1に含まれている。Mg含有量が0.2%未満であると、酸化皮膜の破壊が不十分となり易く、Mg含有量が2.0%を超えるとろう付時にMgOが過剰に生成する結果、ろう付性が悪化する。
【0016】
Bi:0.10~0.25%
Biはろう付時に生成するMgOに入り込んでMgOを破壊し易くする。Bi含有量が0.10%未満ではMgOの破壊効果が少なくなり、Bi含有量が0.25%を超えるとブレージングシートを製造することが困難となる。
【0017】
MgとBiの含有量が質量%比でMg/Bi≦10の関係を示す。
第1ろう材層1に添加されたMgとBiは、ろう溶融前の低温の段階ではMg-Bi化合物を形成する。したがって、Mgは添加量≒固溶量となっていない。
ここで、ろう付中のMgOの形成は固溶したMgが材料表面に拡散し、雰囲気中の酸素と反応することによって生じる。Mg/Bi比は固溶Mgの量、ひいてはMgOの形成難易を示す指標となる。Mg/Bi比が大きい場合、Mgに対しBiが不足している状態(BiによるMgの化合化が不十分な状態)であり、ろう付中にMgOが形成されやすい。そのため、Mg/Bi比が10超の場合にはろう付性が低下する。
【0018】
「第2ろう材層」
第2ろう材層2は、例えば、質量%でSi:8~13%、Mn:0.05~0.4%、Zr:0.03~0.2%を含有し、Mgを0.05%未満に制限し、残部Alおよび不可避不純物とした組成を有するAl-Si-Mn-Zr系合金からなる。
Si:8~13%
第2ろう材層2において、Siはろう付時のろうを形成するために必要な元素であり、Si含有量が8%未満であるとろう付時のフィレット形成が不十分となり、Si含有量が13%を超えるとブレージングシートを製造することが困難となる。第2ろう材層2に含まれるSiは、ろう付時、第1ろう材層1からのMg移動の流路を形成する。第2ろう材層2のSi含有量が低い場合、液相が生成される箇所が限定されることで第1ろう材層1からのMg移動が特定の箇所に集中するようになり、ろう材表面に多くのMgが存在し易くなる。
【0019】
Mg:0.05%未満
第2ろう材層2において、MgはMgOの生成に寄与する。しかし、Mg含有量が0.05%を超えるとMgOの生成量が増加し、ろう付性を阻害する。
Mn:0.05~0.4%
第2ろう材層2において、Mnは化合物を形成して酸化皮膜破壊の起点となり、ろう付性向上に寄与する。Mn含有量が0.05%未満ではこの効果が得られず、Mn含有量が0.2%を超えると酸化皮膜破壊効果が飽和する。
Zr:0.03~0.2%
第2ろう材層2において、Zrは化合物を形成して酸化皮膜破壊の起点となり、ろう付性を向上させる。Zr含有量が0.03%未満ではこの効果が得られず、Zr含有量が0.2%を超えると酸化皮膜破壊効果が飽和する。Zrは他の添加元素と比較し、高価な元素であることから、材料コストの面から添加量を少なくすることが望ましい。
【0020】
「心材と犠牲材層」
心材Cは、例えば、質量%で、Mn:1.0~1.6%、Si:0.3~0.8%、Cu:0.5%~1.0%、Mg:0.15~0.6%、Fe:0.08~0.5%、Ti:0.05~0.2%を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることが好ましい。なお、心材Cには、前述の元素に加え、Zr:0.2%以下、Cr:0.5%以下、Zn:0.5%以下のうち、1種又は2種以上を含有しても良い。
犠牲材層3は、例えば、質量%で、Zn:6.0%以下、Mn:1.5%以下、Si:1.0%以下、Mg:0.5%以下、Fe:0.5%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.2%以下、Cr:0.5%以下のうち、1種あるいは2種以上を含有し、残部Alと不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0021】
以下、心材Cと犠牲材層3を構成するアルミニウム合金に含まれる元素について説明する。
Mn:
Mnは、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物として析出し、材料強度を向上させる。さらに固溶により材料の電位を貴にして耐食性を向上させる。ただし、Mn含有量が過大であると、材料が硬くなり素材圧延性が低下する。また、犠牲材層3にMnを添加した場合、腐食の起点を分散させる効果がある。
Si:
Siは、Alに対する固溶により材料強度を向上させる他、Mg2SiやAl-Mn-Si化合物として析出し、材料強度を向上させる効果がある。ただし、Si含有量が過大であると、心材の固相線温度が低下し、ろう付時に溶融するおそれがある。
【0022】
Cu:
Cuは、Alに固溶して材料強度を向上させる。ただし、Cu含有量が過大であると、心材Cの固相線温度が低下し、ろう付時に心材Cが溶融するおそれがある。
Mg:
Mgは、Siなどとの化合物が析出すること、および固溶Mgとして材料強度を向上する。ただし、Mg含有量が過大であると、心材Cの固相線温度が低下し、ろう付時に溶融し易くなる。また、Mg含有量が過大であると、材料が硬く脆くなるため、素材製造が困難になる。
【0023】
Fe:
Feは、金属間化合物としてアルミニウム合金マトリックス中に析出して材料強度を向上させる効果がある。ただし、Fe含有量が下限未満であると、効果が不十分であり、一方、Fe含有量が過大であると、鋳造時に巨大な晶出物を形成し、その後の材料製造が困難になる。
Ti:
Tiは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、Ti含有量が過大であると、鋳造時に巨大な晶出物を形成し、その後の材料製造が困難になる。また、Tiを含有させると層状にTiの濃淡層を形成し、深さ方向への腐食進行を抑制し、耐孔食性を向上させる効果がある。
【0024】
Zr:
Zrは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、Zr含有量が過大であると、鋳造時に巨大な晶出物を形成し、その後の材料製造が困難になる。
Cr:
Crは、微細な金属間化合物を形成し材料強度を向上させる。ただし、Cr含有量が過大であると、鋳造時に巨大な晶出物を形成し、その後の材料製造が困難になる。
Zn:
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にし、犠牲防食効果を発揮する。ただし、Zn含有量が過大であると効果が飽和するとともに自己耐食性が低下する。
【0025】
本実施形態のブレージングシートA、Bは、ろう付熱処理の際、550℃到達時の第2ろう材層2の表面のMg濃度が0.15%以下、580℃到達時の第2ろう材層2の表面のMg濃度が0.10~0.30%、600℃到達時の第2ろう材層の表面のMg濃度が0.10~0.30%である特徴を有する。また、ブレージングシートA、Bは、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲である特徴を有する。
【0026】
「ろう付熱処理中550℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.15%以下」
ろう溶融前にMgが材料表面に存在すると、ろう付性を阻害するMgOが形成されるためろう付性が低下する。そのため、550℃到達時のろう材表面(第2ろう材層2の表面)のMg濃度が0.15%超であるとろう付性が低下する。
よって、550℃到達時のろう材表面(第2ろう材層2の表面)のMg濃度を0.15%以下にすると、無フラックスろう付において良好なろう付性を得ることができる。
【0027】
550℃到達時のろう材表面(第2ろう材層2の表面)のMg濃度については、この加熱時点でブレージングシートAをろう付用の加熱炉から取り出して急冷し、急冷したブレージングシートから観察用試料を採取し、成分分析を行って特定できる。例えば、観察用試料の第2ろう材層表面部分の断面を切り出してEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)による成分分析を実施することでMg濃度を計測できる。
【0028】
「580℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30%」
材料中に添加されたMgはろう付昇温中の固相拡散およびろう溶融に伴ってろう材表面に移動する。材料表面に移動したMgは、酸化皮膜を破壊する効果(ろう付に対して正の効果)と、MgOを生成して新生面露出を阻害する効果(ろう付に対して負の効果)をもたらす。
第2ろう材層表面のMg濃度が0.10%以下であると、酸化皮膜の破壊が不十分となり、ろう付性が低下する。第2ろう材層表面のMg濃度が0.30%を超えると、MgOの生成が顕著となることでろう付性が低下する。
このため、580℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30%であることが好ましい。このMg濃度測定については、上述したEPMAによる成分分析を採用できる。580℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度については0.11~0.30%の範囲であることがより好ましい。
【0029】
「600℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30%」
材料中に添加されたMgはろう付昇温中の固相拡散およびろう溶融に伴ってろう材表面に移動する。材料表面に移動したMgは、酸化皮膜を破壊する効果(ろう付に対して正の効果)と、MgOを生成して新生面露出を阻害する効果(ろう付に対して負の効果)をもたらす。
第2ろう材層表面のMg濃度が0.10%未満であると酸化皮膜の破壊が不十分でろう付性が低下する。第2ろう材層表面のMg濃度が0.30%を超えるとMgOの生成が顕著となることでろう付が低下する。
このため、600℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30%であることが好ましい。このMg濃度測定については、上述したEPMAによる成分分析を採用できる。600℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度については0.12~0.30%の範囲であることがより好ましい。
【0030】
「600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5」
ろうの流動性(流動係数)が低い場合、ろう付接合部に所望のフィレットが形成されない。一方で、ろうの流動性(流動係数)が高すぎると、ろうが流動しやすい箇所に優先的に流動してしまい、接合部にろうが十分に供給されずに所望のフィレットが形成されない。
無フラックスろう付においては、従来のフラックスを使用したろう付に比較すると、必然的に濡れ性が悪く、隙間充填性に劣るため、上述のような特徴が必要となる。
このため、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲であることが必要となる。
【0031】
ドロップ式流動試験は、ブレージングシートを垂直に立てた状態で、加熱処理すると、ブレージングシートの下側に向けてろう材相の一部が流下し、ブレージングシートの下側にろう材溜まり部が形成される。流動係数Kdは、加熱前のブレージングシート全体の重量をW0とし、ろう材溜まり部を含む加熱後のブレージングシートの下側4分の1の重量をWbとしたとき、
Kd=(4Wb-W0)/(3W0×クラッド率)
で算出できる。なお、クラッド率は全体板厚に対するろう材層の厚みの割合である。
【0032】
「ブレージングシートAのろう付時挙動」
以下、
図3に示すろう材層4を備えた単層ろうタイプの比較例のブレージングシートDと対比しつつ、本実施形態に係るブレージングシートAのろう付時の挙動について以下に説明する。
図3は心材Cの片面のみにろう材層4を備えた単層ろうタイプのブレージングシートDの断面構造を示す。ろう材層4は、例えば、質量%で、Si:5~13%、Mg:0.2~2.0%を含有し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するAl-Si-Mg系合金からなる。
この単層ろうタイプのブレージングシートDの場合、ろう付用の加熱炉に収容し、600~620℃程度に数分~数10分程度加熱することにより、ろう材層4の溶融がなされる。
ブレージングシートDのろう材層4の表面には、
図3では略しているがアルミニウムの酸化皮膜(Al
2O
3皮膜)が生成されている。このアルミニウムの酸化皮膜は、アルミニウムを加熱する過程で必然的にアルミニウムの表面にある程度の厚さに形成されるので、ろう付に際し、この酸化皮膜を破壊しつつろう付を実施する必要がある。
【0033】
ろう付加熱により、ろう材層4の溶融温度に近づくと、ろう材層4に含まれているMgが一部酸化皮膜側に拡散し、Mgが拡散した酸化皮膜表面の一部にMgO相が生成する。
ろう付加熱により更に温度が上昇し、ろう材層4が溶融初期段階(ろう流動手前状態)になると、酸化皮膜中に部分的にスピネル(MgAl2O4)が生成する。ろう材層4の溶融初期段階において、ろう材層4の一部は溶融ろうとなるので、ろう材層4の一部に前記スピネルの生成とは別に溶融ろう領域が生成する。
次いで、ろう付加熱により、ろう流動状態になると、酸化皮膜の表面にMgO相が残留したまま、酸化皮膜の内部にスピネルが存在し、ろう材層の大部分が溶融ろう領域に移行する。この状態から溶融ろうが被ろう付物に沿って流動し、ろう付が進行するが、酸化皮膜の表面にMgO相が存在した状態で無フラックスろう付がなされると、良好なろう付性を得ることができなくなる。
【0034】
これに対し、理想状態としてのろう付は以下に説明する状態であると考えられる。
ろう材層にMgが含まれ、酸化皮膜が生成されていたと仮定すると、ろう付加熱により昇温しても、酸化皮膜の表面にMgO相が生成しない状態が理想状態と考えられる。
次いで、ろう材層の溶融初期段階になって酸化皮膜の内部にスピネルが生成し、次いでろう流動状態に移行し、ろう材層の大部分が溶融ろうとなり、酸化皮膜中にスピネルが生成している状態になる。この状態で無フラックスろう付が進行するのであれば、良好なろう付性を確保できると考えられる。
【0035】
本実施形態において先に説明した第1ろう材層1と第2ろう材層2を備えたブレージングシートA、Bであれば、前述の理想状態に近いろうの溶融状態を得ることができるので、理想状態に近いろう付性を得ることができると考えられる。
以下、本実施形態のブレージングシートAのろう付挙動について説明する。
【0036】
ブレージングシートAにおいては、ろう付加熱により、ろう溶融前の状態において、第1ろう材層(内ろう)1に適量のMgが含まれ、第2ろう材層(外ろう)2にはほとんどMgが含まれておらず、表面に酸化皮膜が生成されている。
ろう付加熱により第1ろう材層1の溶融温度に達すると、第1ろう材層(内ろう)1の内部に溶融ろう領域が生成する。この状態で第1ろう材層1のMgの一部は心材C側に拡散するとともに、第2ろう材層2側にも拡散する。
【0037】
ろう付加熱の進行により第2ろう材層2の溶融温度に達すると、第2ろう材層2の内部に溶融ろう領域が生成し始めるとともに、第1ろう材層1の内部において溶融ろう領域が増加し、第1ろう材層1に含まれていたMgが第2ろう材層2側に順次拡散する。
この状態において第2ろう材層2においてはMg量が少ないため、酸化皮膜の内部においてスピネルの生成は開始されるが、MgO相の生成は抑制される。
【0038】
ろう付加熱の進行により、第1ろう材層1と第2ろう材層2のろう流動状態に達するが、前述したようにMgO相の生成が抑制されているので、流動ろうによるろう伸展の持続性が得られる。MgO相の生成は、前述の理想状態よりは発生すると推定されるが、前述した
図3を基に説明した単層ろうの単純な構成よりは抑制されると考えられる。
更に、ブレージングシートAにあっては、酸化皮膜に拡散するMg量も少なく、スピネルの生成も緩慢となるので、より良好なろう溶融状態を保持できると考えられる。
【0039】
ろう付加熱の進行により、ろう流動状態が保持されるが、酸化皮膜の表面に生成するMgO相が先に
図3を基に説明した単層ろうの場合の構造より少なく、酸化皮膜中に生成するスピネルの生成も緩慢状態を維持できる。このため、良好なろう付性を確保できる。
【0040】
以上説明した理想状態に近いろう付け状態を得るために、上述のブレージングシートAは、第1ろう材層1と第2ろう材層2を備えた2層構造のろう材層を有するとともに、第1ろう材層1にSi:5~13%、Mg:0.2~2.0%、Bi:0.10~0.25%を含有し、第2ろう材層2にSi:8~13%、Mn:0.05~0.4%、Zr:0.03~0.2%を含有し、Mgを0.05%未満に制限している。
更に、ブレージングシートAでは、ろう付熱処理中の550℃到達時の第2ろう材層の表面のMg濃度を0.15%以下とし、580℃到達時の第2ろう材層の表面のMg濃度を0.10~0.30%とし、600℃到達時の第2ろう材層の表面のMg濃度を0.10~0.30%とし、さらに、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数を0.2~0.5の範囲としている。
【0041】
上述の構成を採用することでブレージングシートAを用いた無フラックスろう付を実施した場合、酸化皮膜表面に存在するMgO相の影響を抑制し、溶融ろうの良好な流動性を確保しつつ、ろう付ができる。従って、無フラックスろう付であっても、良好なろう付性を得ることができるブレージングシートAを提供できる。ブレージングシートBの構成であっても、ブレージングシートAと同様の効果が得られる。
また、ブレージングシートA、Bは、ろう付時の良好な流動性を維持できるので、被ろう付物の狭い隙間にろう材を良好に充填したろう付ができるとともに、離間した位置にも溶融ろうが良好に濡れ広がる。この結果、被ろう付物が積層部や閉塞部を有していたとしても良好にろう材を充填したろう付ができるとともに、被ろう付け物が開放部を有していたとして、開放部における良好なろう付性を確保できる。
【実施例0042】
半連続鋳造により、表1~表4に示す組成(残部がAlと不可避不純物)を有する心材用合金鋳塊と第1ろう材層用合金鋳塊と第2ろう材層用合金鋳塊と犠牲材用合金鋳塊を製造した。得られた各合金鋳塊は550℃×10hで均質化処理を行った。
心材用合金の鋳塊に、所定のクラッド率となるように熱間圧延にて厚さ調整されたろう材用合金を組み合わせるか、これらに加えて、同様に厚さ調節された犠牲材用合金を組み合わせてそれぞれ熱間圧延し、表1~表4に示す組み合わせ組成のクラッド材を得た。さらに、これらのクラッド材を所定の厚さ(0.25mm)まで冷間圧延し、冷間圧延材を得た。その後、各冷間圧延材に対し、最終焼鈍を200℃で6時間行ってH24調質のクラッド材からなるブレージングシートを作製した。
表1~表3に示すNo.1~77のブレージングシートは犠牲材を有していない3層構造のブレージングシートであり、表4に示すNo.78~85のブレージングシートは犠牲材層を有する4層構造のブレージングシートである。
No.1~85のブレージングシートの第1ろう材層のクラッド率と第2ろう材層のクラッド率を後記する表5~表8にまとめて記載した。
【0043】
「第2ろう材層表面Mg濃度の測定」
これらブレージングシートを複数用いて所定条件で昇温(600℃までの平均昇温速度20℃/min)し、550℃、580℃、600℃のそれぞれの温度となったところで加熱炉からすばやく加熱温度毎のサンプルを取り出し、各サンプルを常温まで急冷した。この後、取り出した各サンプルから断面埋め込み試験片を作成した。各試験片は、第2ろう材層の表面部分を含むように鏡面研磨し、第2ろう材層の表面部分についてEPMA分析を実施した。ろう溶融前に取り出したサンプルは第2ろう材層の任意箇所を選択し、ろう溶融後に取り出したサンプルについては、第2ろう材層表面部分に生成している共晶部を選択的に測定し、サンプル毎に表面のMg濃度を算出した。
【0044】
図4は、熱処理後の試料において、ろう材層の共晶部におけるMg濃度測定結果の一例を示す。このMg濃度はEPMA分析結果を示す。
この例のようにEPMA分析を実施し、550℃、580℃、600℃のそれぞれの温度に到達時にそれぞれ取り出して試料を作成し、各試料の第2ろう材層表面のMg濃度(質量%)を測定し、以下の表5~表8にまとめて記載した。
【0045】
なお、本発明では、第2ろう材層のろう溶融前の結晶粒径を10~100μmの範囲、かつ、第2ろう材層と第1ろう材層のろう溶融前の結晶粒径差(第2ろう材層の結晶粒径/第1ろう材層の結晶粒径)を0.5~2.0の範囲、さらに、第2ろう材層のSi粒子の分布がろう溶融前において、結晶粒界上のSi粒子の割合が全粒子に対して70%以上の範囲にあることが好ましい。
前記ろう材層の金属組織の状態を実現するために、第2ろう材層は均質化処理なし、あるいは350~450℃×1~10hの条件で均質化処理を実施し、一方で第1ろう材層は均質化処理なし、あるいは350~450℃×1~10hの条件で均質化処理が負荷される。また、クラッドとしての組付け前のろう材の熱間圧延では、430℃以上での圧延時間が1分以上、1パス辺りの圧延量の平均が20mm以上に制御され、熱間クラッド圧延では、熱間圧延中の400℃以上での圧延時間が2分以上の条件に制御される。さらに、冷間圧延では、2.0~1.0mmの板厚範囲の1パス辺りの圧延率が20%以上に制御される。
これらの条件をまとめて後記する表9に記載する。
【0046】
後記する表5~表8には、第2ろう材層の粒径、第2ろう材層/第1ろう材層の粒径差、第2ろう材層の結晶粒界上のSi粒子の割合を記載しておく。
「ろう溶融前の結晶粒径や粒径差、結晶粒界上のSi粒子の割合の測定方法」
ブレージングシートを所定条件で昇温(600℃までの平均昇温速度20℃/min)し、530℃となったところで加熱炉からすばやく加熱温度毎のサンプルを取り出し、各サンプルを常温まで急冷した。この後、取り出した各サンプルから断面埋め込み試験片を作製し、光学顕微鏡観察により、結晶粒径や結晶粒界上のSi粒子の割合を算出した(観察面は圧延方向平行断面)。
結晶粒径:圧延方向平行方向に対する切断法で計測した。
Si粒子割合:結晶粒界と接する、あるいは結晶粒界上に存在するSi粒子/全粒子で算出した。
【0047】
「600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数測定」
ドロップ式流動試験は、上述の各ブレージングシートを垂直に立てた状態で、加熱炉に装入し、600℃到達後素早く加熱炉から取り出し、ブレージングシートの下側に向けてろう材層の一部を流下させてブレージングシートの下側にろう材溜まり部を形成する。この後、素早く加熱炉から取り出し、以下の手順で流動係数を測定した。
流動係数Kdは、加熱前のブレージングシート全体の重量をW0とし、ろう材溜まり部を含む加熱後のブレージングシートの下側4分の1の重量をWbとしたとき、
Kd=(4Wb-W0)/(3W0×クラッド率)
で算出した。なお、クラッド率は全体板厚に対するろう材層の厚みの割合である。
【0048】
「ろう付性の測定試験」
図5(A)、(B)に示すように水平に設置した幅25mm、長さ60mmのブレージングシート(水平材)10の上に、幅25mm、長さ55mmのA3003材からなる板材11を横長となるように垂直に起立させた状態において、長さ方向端部とブレージングシート10との間にJIS規定SUS304製の丸棒からなるスペーサロッド12を挟み込むように配置する。
なお、水平材としてブレージングシート10のみでは強度が不足するので、詳細には
図7に示す補強板13の上に板材11を配置することとする。
JIS規定SUS304製の細線14を
図7に示すようにブレージングシート10と板材11の周囲を周回するように巻き付けて板材11を倒れ止めした。ブレージングシート10に近い側の板材11の長辺は、ブレージングシート10の上面に対し若干の傾斜角を有し傾斜した状態で保持される。ブレージングシート10と板材11の間に、板材の長辺に沿って、スペーサロッド12の設置部分が最も大きく、スペーサロッド12から離れるにつれて徐々に狭くなる隙間を形成した。なお、ブレージングシート10の幅方向両端縁は細線14との干渉を回避するため、若干の幅、折り曲げて配置した。
スペーサロッド12はψ1、ψ2、ψ3あるいはψ4mmのものを用いることができるが、本試験では、ψ1mmのスペーサロッド12を用いた。
【0049】
図7に示すようにブレージングシート10と板材11とスペーサロッド12と細線14を組み付けて構成した供試材を加熱炉(酸素濃度40ppm)に装入し、600℃に3分間加熱後冷却するろう付相当熱処理を施し、ろう材層を溶融させてブレージングシートと板材の間の隙間をろう材で埋める試験を実施した。
その際の昇温と冷却は、それぞれ、室温から600℃までの平均昇温速度が30℃/min、ろう付終了後の冷却速度が100℃/minである。
以下の各評価項目でのろう付相当熱処理は本記載と同条件である。
なお、ろう付条件は上記に限定されるものではない。
ブレージングシートと板材の隙間をろう材が埋めて充填する場合、充填長さが45mm超であれば◎、充填長さが30~45mmであれば○、充填長さが30mm未満の状態であれば×と判定し、表5~表8にろう付性の結果を記載した。
【0050】
「他部材への優先流動試験」
図6に示すように水平に設置した幅25mm、長さ100mmのブレージングシート18の上面右側に、幅25mm、長さ55mmのA3003材からなる板材19を横長となるように垂直に起立させた状態において、板材19の長さ方向端部とブレージングシート18との間にJIS規定SUS304製の丸棒からなるスペーサロッド20を挟み込むように配置した。スペーサロッド20はψ1mmのものを用いた。なお、
図6では略されているが、ブレージングシート18の底面側には
図7に示す構造と同様に補強板が配置されている。
先に説明したろう付試験と同様に補強板とブレージングシート18と板材19の周囲を周回するように、SUS304製の細線(図示略)を巻き付けて板材19を倒れ止めした。
【0051】
ブレージングシート18に近い側の板材19の長辺は、ブレージングシート18の上面に対し若干の傾斜角を有し傾斜した状態で保持される。ブレージングシート18と板材19の間に、板材19の長辺に沿って、スペーサロッド20の設置部分が最も大きく、スペーサロッド20から離れるにつれて徐々に狭くなる隙間を形成した。
長さ100mmのブレージングシート18の上面の左側半分程度のスペース上に、アルミニウム合金からなるコルゲートフィン21とチューブ22を積み上げて疑似熱交換器構造体を構築した。
コルゲートフィン21は、A3003からなる厚さ0.06mmのアルミニウム合金板材からなり、チューブ22は、A3003/(4045+0.3質量%Mg)の組成のアルミニウム合金管からなる。
【0052】
図6に示すようにブレージングシート18と板材19とスペーサロッド20とコルゲートフィン21とチューブ22を組み付けて構成した供試体を加熱炉に装入し、600℃に3分間加熱後冷却するろう付相当熱処理を施した。これにより、ろう材層を溶融させてブレージングシート18と板材19の間の隙間を溶融ろうで埋めるとともに、ブレージングシート18上に流動した溶融ろうがブレージングシート18上を流動して濡れ広がり、コルゲートフィン21とブレージングシート18との接触部分に到達し、接触部分をろう付する他部材への優先流動試験を実施した。
ブレージングシート18と板材19の隙間をろう材が埋める場合、
図5に示したろう付試験における充填長さに対して、
図6に示したろう付試験における充填長さが80%超の状態であれば他部材への優先流動結果○、前記同様の対比において60~80%の状態であれば他部材への優先流動結果△、前記同様の対比において60%未満の状態であれば他部材への優先流動結果×と判定し、表5~表8に結果を記載した。
【0053】
「引張強さ」
前述の構成のブレージングシートの供試材にろう付相当熱処理を施し、熱処理後常温にて引張試験を実施し(圧延方向平行方向、JIS13号B)、引張強さを測定して評価した。評価基準は、引張強さ170MPa以上のブレージングシートは○と判定し、170MPa未満のブレージングシートは×と判定した。
【0054】
「耐食性」
犠牲材層を設けた試料のみOY水浸漬試験を実施した。
全ての実施例で腐食は犠牲材層内で停止する良好な結果が得られた。
犠牲材層を設けたブレージングシートについて、ろう付相当熱処理を施したサンプルから30×40mmのサンプルを切り出し、犠牲材面以外(端部およびろう材面)をマスキングした。マスキングしたサンプルを、Cl-:195ppm、SO4
2-:60ppm、Cu2+:1ppm、Fe3+:30ppmを含む水溶液(OY水)中で80℃×8hr→室温×16hrのサイクルで浸漬試験を4週間実施した。
腐食試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に10min浸漬して腐食生成物を除去した後、最大腐食部の断面観察を実施して腐食深さを測定した。
腐食が犠牲材層内のものは〇と判定し、心材に到達していたものは×と判定した。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
試料No.3、5~8、11、13、15、18~20、22、23、26、28、29、31、38、39、41、43、45、46、49、50、53、54、57、58、61、62、65、66、68、70、72、77~85で示す各実施例の第1ろう材層は、Si:5~13%、Mg:0.2~2.0%、Bi:0.10~0.25%を含有し、残部Alと不可避不純物を含有するAl-Si-Mg-Bi系合金からなる。
また、これら実施例の第2ろう材層は、Si:8~13%、Mn:0.05~0.4%、Zr:0.03~0.2%を含有し、Mgを0.05%未満に制限し、残部Alおよび不可避不純物の組成を有するAl-Si-Mn-Zr系合金からなる。
更にこれらの実施例は、ろう付熱処理中の550℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.15%以下、580℃到達時の第2ろう材層表面のMg濃度が0.10~0.30%、600℃到達時の第2ろう材層の表面のMg濃度が0.10~0.30%であり、600℃到達時のドロップ式流動性試験における流動係数が0.2~0.5の範囲にあるブレージングシートである。
これら実施例のブレージングシートは、ろう付性に優れ、他部材への溶融ろう優先流動性に優れ、ろう付相当熱処理後の引張強度に優れた特徴を有している。
【0065】
No.1の比較例は、第1ろう材層のMg量が少なく、580℃到達時と600℃到達時のMg濃度が低い試料、No.2の比較例は、580℃到達時と600℃到達時のMg濃度が低い試料であるが、何れもろう付性が劣っていた。
No.4の比較例は、第1ろう材層のクラッド率が低く、580℃到達時と600℃到達時のMg濃度が低い試料であるが、ろう付性が劣っていた。
No.9、10の比較例は、55℃到達時と580℃到達時と600℃到達時のいずれかのMg濃度が高すぎる試料であるが、いずれもろう付性が劣っていた。
No.12の比較例は、第1ろう材層のMg濃度が高すぎて質量%比であるMg/Bi比が高い試料であり、550℃到達時のMg濃度と580℃到達時のMg濃度と600℃到達時のMg濃度が高すぎる試料であるが、ろう付性が劣っていた。
【0066】
No.14、16の比較例は、580℃到達時のMg濃度と600℃到達時のMg濃度が高すぎる試料であるが、ろう付性が劣っていた。
No.17の比較例は、第2ろう材層のSi濃度が低く、580℃到達時と600℃到達時のMg濃度が高く、流動係数も高すぎる試料であるが、ろう付性が劣っていた。
No.21の比較例は、第2ろう材層のSi含有量が高すぎる例であるが、巨大なSi粒子が生成し、圧延困難となるため製造不可であった。
No.24の比較例は、流動係数が高すぎる例であるが、他部位への優先流動性に問題を生じた。
No.25の比較例は、第1ろう材層のSi含有量が高すぎる例であるが、巨大なSi粒子が生成し、圧延困難となるため製造不可であった。
【0067】
No.27の比較例は、第1ろう材層のSi含有量が低すぎる例であるが、流動係数が低くろう付性が劣っていた。
No.30の比較例は、第2ろう材層のMg含有量が高すぎる例であるが、ろう付性が劣っていた。
【0068】
No.32の比較例は、第1ろう材層のBi含有量が低く、Mg/Bi比が大きすぎるため、ろう付性が劣っていた。
No.33の比較例は、第1ろう材層のBi含有量が高すぎて、鋳造時にBiを含有する粗大化合物が生成したため製造不可であった。
No.34の比較例は、第2ろう材層のMn含有量が低く、ろう付性に劣り、No.35の比較例は、第2ろう材層のMn含有量が高い試料であるが、効果は飽和する傾向となる。Mnは比較的高価な元素であるため、含有量については低くすることが望ましい。
【0069】
No.36の比較例は、第2ろう材層にZrを含んでいない試料であるが、ろう付性に劣り、No.37の比較例は、第2ろう材層のZr含有量が高い試料であるが、効果は飽和する傾向となる。Mnは比較的高価な元素であるため、含有量については低くすることが望ましい。
No.40の比較例は、第1ろう材層のBi含有量を低くした試料であるが、Mg/Bi比が大きすぎるため、ろう付性が劣っていた。
【0070】
No.42の比較例は、Mg/Bi比が大きすぎるため、ろう付性が劣っていた。
No.44、47、48、51、52、55、56、59、60、63、64、67は、心材のMn含有量、Si含有量、Cu含有量、Mg含有量、Fe含有量、Ti含有量のいずれかを望ましい範囲外とした試料であるが、ろう付後強度不足、製造不可、著しいエロージョン発生、圧延困難かつ著しいエロージョン発生のいずれかに該当した。
No.69は心材Zr量が多すぎて、鋳造時に粗大なZr含有化合物を生成したため製造不可、No.71は心材Cr量が多すぎて、鋳造時に粗大なCr含有化合物を生成したため製造不可となった。
No.73は、心材Zn含有量が多すぎて、心材の電位が卑となる問題を生じた。
No.74、75、76の比較例は、580℃到達時のMg濃度と600℃到達時のMg濃度が高すぎる試料であるが、ろう付性が劣っていた。
A、B…ブレージングシート、1…第1ろう材層、2…第2ろう材層、3…犠牲材層、4…ろう材層、10…ブレージングシート、11…板材、14…細線、18…ブレージングシート、19…板材、20…スペーサロッド、21…コルゲートフィン、22…チューブ。