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特開2024-17306セルバランシング方法及びそのシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017306
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】セルバランシング方法及びそのシステム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20240201BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20240201BHJP
   B60L 58/13 20190101ALI20240201BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20240201BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H02J7/02 H
B60L50/60
B60L58/13
B60L58/16
H02J7/00 P
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119849
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】若林 謙太
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA03
5G503BB02
5G503CA08
5G503CB11
5G503CB16
5G503EA05
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5G503HA01
5G503HA03
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF41
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC12
5H125BC16
5H125CC01
5H125DD01
5H125EE25
5H125EE27
5H125EE29
5H125EE51
(57)【要約】      (修正有)
【課題】電気自動車に搭載される電池パックを構成する複数のリチウムイオン電池のセルについて、各セル毎に的確に劣化の促進を抑制することのできるセルバランシング方法及びそのシステムを提供する。
【解決手段】方法は、電気自動車が停車してから次の始動時までの停車時間を予測する予測停車時間設定工程と、予測された予測停車時間の経過後である次の始動時におけるリチウムイオン電池の各セルの容量維持率を推定する容量維持率算出推定工程と、推定された容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、容量維持率の最大値と最小値の差を所定値以内とするためのSOC調整値を設定するSOC調整値設定工程と、電気自動車が停車中に、セルのSOCを増減調整可能なSOC調整装置により最大値及び最小値の何れか一方又は双方のSOCを、SOC調整値設定工程で設定されたSOC調整値に調整するSOC調整工程と、を有する。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車にその動力源として搭載される複数のセルから構成されるリチウムイオン電池のセルのSOCを調整するセルバランシング方法において、
前記電気自動車が停車してから次の始動時までの停車時間を、所定期間に亘り収集した停車時間の統計値に基づいて予測する予測停車時間設定工程と、
前記予測された予測停車時間の経過後である前記次の始動時における前記リチウムイオン電池の各セルの容量維持率を、前記各セルの停車中の測定温度又は推定温度、SOC、及び劣化係数に基づいて算出して推定する容量維持率算出推定工程と、
前記推定された前記容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、前記容量維持率の最大値と最小値の差を前記所定値以内とするための前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値を設定するSOC調整値設定工程と、
前記電気自動車が停車中に、前記セルのSOCを増減調整可能なSOC調整装置により前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のSOCを、前記SOC調整値設定工程で設定された前記SOC調整値に調整するSOC調整工程と、
を有することを特徴とするセルバランシング方法。
【請求項2】
前記予測停車時間設定工程における前記電気自動車の予測停車時間は、予め所定の期間に亘って収集した各曜日毎の停車時間の実測値に基づいて予測されることを特徴とする請求項1に記載のセルバランシング方法。
【請求項3】
前記容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの容量維持率Fは、
前記各セルの停車中の温度に対応するSOCと、
前記各セルの停車中の温度とSOCに対応する劣化係数αと、
前記停車時間予測工程で予測された停車時間T(year(1/2))と、に基づいて、
F=Finitial-α・T (Finitial :停車時の容量維持率)
で計算されることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルバランシング方法。
【請求項4】
電気自動車にその動力源として搭載される複数のセルから構成されるリチウムイオン電池のセルの温度を測定又は推定する温度判定装置と、
前記セルのSOCを測定又は推定するSOC判定装置と、
前記セルのSOCを増減調整可能なSOC調整装置と、
前記温度判定装置、前記SOC判定装置、及び前記SOC調整装置とデータの送受信を行う情報処理装置とを、を有し、
前記情報処理装置は、
所定期間に亘り収集した停車時間の統計値に基づいて、次の始動時までの停車時間を予測する予測停車時間設定部と、
前記予測された予測停車時間の経過後である前記次の始動時における前記リチウムイオン電池の各セルの容量維持率を、前記温度判定装置による各セルの停車中の温度又は推定温度、前記SOC判定装置によるSOC、及び劣化係数に基づいて算出して推定する容量維持率算出推定部と、
前記推定された前記容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、前記容量維持率の最大値と最小値の差を前記所定値以内となるための前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値を設定するSOC調整値設定部と、を有し、
前記SOC調整装置は、前記SOC調整値設定部からの前記SOC調整値に基づいて前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOCを調整することを特徴とするセルバランシングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルバランシング方法及びそのシステム、特に電気自動車に搭載された電池パックを構成するリチウムイオン電池のセルの充電率を調整するセルバランシング方法及びそのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に搭載された動力源であるリチウムイオン電池は、使用環境により特性が劣化して行く。例えば、当初維持していた電池容量は、高温で放置するほど劣化が進行し、時間の経過と共に電池容量が低下する。また、充電率(SOC:State of Charge)の高い状態で放置するほど劣化が進行し、時間の経過と共に電池容量が低下する。このようにリチウムイオン電池には、高温、高SOCの状態で時間が経過する程、劣化が促進される傾向が有る。
【0003】
また、この劣化の問題は、電池パックを構成するリチウムイオン電池の各セルにおいてもそれぞれ生起し、その配置位置などによって劣化度合いは異なり、劣化のバラつきはリチウムイオン電池の作用に悪影響を与える。
【0004】
特許文献1では、電気自動車が停車中に、バッテリが高温かつ高SOC状態に有ることを所定時間内において所定回数検知した場合に、電気自動車の補機を作動させてバッテリを放電させSOCを下げている。このようにして、バッテリが高温かつ高SOC状態に晒されないようにしてバッテリの劣化を抑止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-37011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法では、バッテリが、劣化の促進される高温、高SOCの状態下に有る場合にのみ、劣化を抑制するための動作が行われている。しかし、その動作はバッテリ全体で統一して行うため、バッテリを構成する個々のセル毎に制御して劣化の促進を抑制することはできない。バッテリを構成するセルは、上述のようにその全てが同じ劣化状況に有る分けではなく、セル毎に容量、SOC、SOCが時間の経過とともに低下する割合を表す「容量維持率」、この容量維持率に関わる劣化の促進の程度を表す「劣化係数」などが異なることから、セル毎に劣化の進行状態が異なっている。特に、セル間での容量維持率のバラツキが大きい場合は、バッテリ全体としてみた場合に特性の劣化が著しい。例えば、容量維持率の低いセルについて放電が早いことなどから生じる種々の問題がバッテリ全体に悪影響を与えることが知られている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電気自動車に搭載される電池パックを構成する複数のリチウムイオン電池のセルについて、各セル毎に的確に劣化の促進を抑制することのできるセルバランシング方法及びそのシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の達成のため請求項1に記載のセルバランシング方法は、
電気自動車にその動力源として搭載される複数のセルから構成されるリチウムイオン電池のセルのSOCを調整するセルバランシング方法において、
前記電気自動車が停車してから次の始動時までの停車時間を、所定期間に亘り収集した停車時間の統計値に基づいて予測する予測停車時間設定工程と、
前記予測された予測停車時間の経過後である前記次の始動時における前記リチウムイオン電池の各セルの容量維持率を、前記各セルの停車中の測定温度又は推定温度、SOC、及び劣化係数に基づいて算出して推定する容量維持率算出推定工程と、
前記推定された前記容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、前記容量維持率の最大値と最小値の差を前記所定値以内とするための前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値を設定するSOC調整値設定工程と、
前記電気自動車が停車中に、前記セルのSOCを増減調整可能なSOC調整装置により前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のSOCを、前記SOC調整値設定工程で設定された前記SOC調整値に調整するSOC調整工程と、
を有することを特徴とする。
【0009】
この方法によれば、容量維持率算出推定工程により電気自動車が停車してから次の始動時における各セルの容量維持率が推定され、容量維持率の最大値と最小値の差が所定値(閾値)以上となる場合に、次の始動時には最大値及び最小値の差が所定値以内となるように最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値が設定され、停車中に最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOCが設定されたSOC調整値になるように調整される。すなわち、電気自動車の停車中に、次の始動時におけるセルの容量維持率の差が所定の範囲内に収まるようにセルのSOCが調整され、例えば、最小値のセルのSOCを高く又は最大値のセルのSOCを低く、更に、その両方を行うことなどが行われる。これにより、セル間のSOCの差を小さいものとすることができ、バッテリ全体のセルの機能のバランスが良好に図られる。したがって、長期間に亘りリチウムイオン電池の性能を良好に保つことが可能となる。
【0010】
請求項2に記載のセルバランシング方法は、請求項1に記載のセルバランシング方法において、
前記予測停車時間設定工程における前記電気自動車の予測停車時間は、予め所定の期間に亘って収集した各曜日毎の停車時間の実測値に基づいて予測されることを特徴とする。
【0011】
したがって、前記予測停車時間設定工程で予測される停車時間は曜日毎の傾向を反映させることができ、より確度の高いものとなり、これを基に容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの容量維持率は信頼性が高いものとなる。これにより、効果的なセルバランシングを行うことが可能となる。
【0012】
請求項3に記載のセルバランシング方法は、請求項1又は2に記載のセルバランシング方法において、
前記容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの容量維持率Fは、
前記各セルの停車中の温度に対応するSOCと、
前記各セルの停車中の温度とSOCに対応する劣化係数αと、
前記停車時間予測工程で予測された停車時間T(year(1/2)
と、に基づいて、
F=Finitial-α・T (Finitial :停車時の容量維持率)
で計算されることを特徴とする。
【0013】
これにより、容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの劣化の状態を意味する容量維持率が的確に求められ、信頼性の高いものとなる。これにより効果的なセルバランシングを行うことが可能となる。
【0014】
上記目的の達成のため請求項4に記載のセルバランシングシステムは、
電気自動車にその動力源として搭載される複数のセルから構成されるリチウムイオン電池のセルの温度を測定又は推定する温度判定装置と、
前記セルのSOCを測定又は推定するSOC判定装置と、
前記セルのSOCを増減調整可能なSOC調整装置と、
前記温度判定装置、前記SOC判定装置、及び前記SOC調整装置とデータの送受信を行う情報処理装置とを、を有し、
前記情報処理装置は、
所定期間に亘り収集した停車時間の統計値に基づいて、次の始動時までの停車時間を予測する予測停車時間設定部と、
前記予測された予測停車時間の経過後である前記次の始動時における前記リチウムイオン電池の各セルの容量維持率を、前記温度判定装置による各セルの停車中の温度又は推定温度、前記SOC判定装置によるSOC、及び劣化係数に基づいて算出して推定する容量維持率算出推定部と、
前記推定された前記容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、前記容量維持率の最大値と最小値の差を前記所定値以内となるための前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値を設定するSOC調整値設定部と、を有し、
前記SOC調整装置は、前記SOC調整値設定部からの前記SOC調整値に基づいて前記最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOCを調整することを特徴とする。
【0015】
この構成により、容量維持率算出推定部により電気自動車が停車してから次の始動時における各セルの容量維持率が推定され、容量維持率の最大値と最小値の差が所定値(閾値)以上となる場合に、次の始動時には最大値及び最小値の差が所定値以内となるように最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値が設定され、停車中に最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOCが設定されたSOC調整値になるように調整される。すなわち、電気自動車の停車中に、次の始動時におけるセルの容量維持率の差が所定の範囲内に収まるようにセルのSOCが調整され、例えば、最小値のセルのSOCを高く又は最大値のセルのSOCを低く、更に、その両方を行うことなどが行われる。これにより、セル間のSOCの差を小さいものとすることができ、バッテリ全体のセルの機能のバランスが良好に図られる。したがって、長期間に亘りリチウムイオン電池の性能を良好に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のセルバランシング方法及びそのシステムによれば、電気自動車の停車中に、次の始動時におけるセル間での容量維持率の最大値と最小値の差が所定の範囲内に収まるようにセルのSOCが調整される。したがって、電池パックを構成するリチウムイオン電池の各セル毎に的確に劣化の促進を抑制することができるため、電池パックの性能が長い期間に亘り保たれると共に、常に快適に電気自動車を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のセルバランシングシステムの一実施の形態の概略構成図である。
図2A】本発明のセルバランシング方法の一実施の形態のフロー図である(前半)。
図2B】本発明のセルバランシング方法の一実施の形態のフロー図である(後半)。
図3】容量維持率の算出方法の説明図である。
図4】容量維持率の算出方法の説明図である。
図5】容量維持率の算出方法の説明図である。
図6】容量維持率の算出に用いる劣化係数の説明図である。
図7】各セルのセルバランシングを説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のセルバランシング方法及びそのシステムの一実施の形態について、図面を用いて詳述する。以下で詳述するように、本発明の特徴は、電気自動車が停車中で次の始動時までに、電池パックを構成する複数のリチウムイオン電池のセルのSOCを調整し、次の始動時には複数のセルの容量維持率のバラツキを所定値内に制御することにある。
【0019】
図1は、本発明のセルバランシングシステムの一実施の形態の概略構成図(ブロック図)である。本実施の形態のセルバランシングシステム10は、リチウムイオン電池12の各セルの温度を測定又は推定する温度判定装置14、各セルのSOCを測定又は推定するSOC判定装置16、各セルのSOCを増減調整するSOC調整装置18、温度判定装置14、SOC判定装置16及びSOC調整装置18とデータの送受信を行う情報処理装置20と有する。
【0020】
情報処理装置20は、図示しないCPUとプログラム部22とメモリ部24を有し、プログラム部22内には、電気自動車が停車してから次の始動時までの停車時間を、所定期間に亘り収集した停車時間の統計値に基づいて予測する予測停車時間設定部22-1と、予測された予測停車時間の経過後である次の始動時におけるリチウムイオン電池の各セルの容量維持率を、温度判定装置14による各セルの停車中の温度又は推定温度、SOC判定装置16によるSOC、及び劣化係数に基づいて算出して推定する容量維持率算出推定部22-2と、推定された容量維持率の最大値と最小値の差が所定値以上となる場合に、容量維持率の最大値と最小値の差を所定値以内となるための最大値及び最小値の何れか一方又は双方のセルのSOC調整値を設定するSOC調整値設定部22-3を有する。
【0021】
メモリ部24には、予測停車時間設定に必要な電気自動車の各曜日毎の停車時間の統計値24-1、容量維持率算出推定に必要な各セルの劣化係数(マップ)24-2、各セルの温度とSOCの対応表24-3などのデータが格納されている。
【0022】
本発明の特徴は、前述のように、電気自動車が停車中で次の始動時までに、電池パックを構成する複数のリチウムイオン電池のセルのSOCを調整し、次の始動時には複数のセルの容量維持率のバラツキを所定値内に制御することにあり、以下で説明するセルバランシング方法の各工程は、図1で示した情報処理装置20のプログラム部22内の予測停車時間設定部22-1、容量維持率算出推定部22-2、SOC調整値設定部22-3で行われ、各セルのSOCの増減調整はSOC調整装置18により行われる。
【0023】
図2A図2Bは、セルバランシング方法のフロー図を示す。まず、電気自動車が停車中か否か判定する(ステップS1)。停車中でなければ、停車するまで待機する。停車を確認したら、停車中における各セルの測定温度又は推定温度とSOCの対応値と、予測停車時間と、劣化係数から次回始動時の容量維持率を算出する(ステップS2、予測停車時間設定工程、容量維持率算出推定工程)。
【0024】
容量維持率算出推定工程における容量維持率の計算は、各セルの停車中における測定温度又は推定温度とSOCの対応値と、予測停車時間設定工程で予測された停車時間T(year(1/2))と、各セルの停車中の測定温度又は推定温度とSOCに対応する劣化係数αと、に基づいて、
F=Finitial-α・T (Finitial :停車時の容量維持率)
で計算される。これにより、容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの劣化の状態を意味する容量維持率が的確に求められ、信頼性の高いものとなる。ここで、各セルの温度は、実測値、又は隣接電池セルの温度の実測値等から推定した推定温度であっても良い。
【0025】
停車中における測定温度又は推定温度とSOCの対応値は、各セルの温度とその温度におけるSOCを対応付けしたもので、所定の期間に亘って、リチウムイオン電池の各セルの温度とその温度におけるSOCを計測することにより、例えば、表に纏められており、一例として例えば、セルAについて、温度20℃で最も多く計測されたSOCは40%、次に60%、次に20%・・・というデータが得られた場合、セルAは温度20℃ではSOCは40%と対応付けられる。すべてのセルにおいて同様の対応付けがなされる。これらのデータは、情報処理装置20のメモリ部24の各セルの温度とSOCの対応表24-3に収められている。
【0026】
予測停車時間設定工程における予測停車時間は、例えば、所定の期間に亘って、各曜日とその曜日における停車時間の実測値を集計しておき、各曜日とその曜日における典型的な停車時間を表に纏めておくことで、所定の曜日の停車時間が予測される。例えば、月曜日の停車時間は8時間、日曜部の停車時間は9時間と予測される等である。これにより、予測停車時間設定工程で予測される停車時間は曜日毎の傾向を反映させることができ、より確度の高いものとなり、これを基に容量維持率算出推定工程で算出推定される各セルの容量維持率は信頼性が高いものとなる。
【0027】
劣化係数は、セルの温度、SOCにより実測により求められたもので、セルの測定温度又は推定温度とSOCが分かれば即座に劣化係数が求められる。劣化係数は高SOCかつ高温である程大きくなる。例えば、温度が-30℃でSOCが20%であれば劣化係数は0.1、温度が40℃でSOCが90%であれば劣化係数は0.9と求められる。この劣化係数に関するデータは、情報処理装置20のメモリ部24の劣化係数(マップ)24-2に収められている。
【0028】
ステップS2における容量維持率の算出方法について図3を用いて説明する。図3は、4つの区間に亘り、セルの状態(測定温度又は推定温度、SOC)がそれぞれ異なっている場合について、容量維持率がどの様に求められるか示したものである。あるセルについて、4の区間について容量維持率と時間の関係ついて示したのが図3(a)である。時間は区間1~区間4に分かれており、区間1では測定温度又は推定温度が20℃、対応するSOCが80%であったとすると、図3(b)に示す表から劣化係数α1が0.8と求められる。次に、区間1は停車時間又は放置時間((year)1/2)T1が0.1であるので、容量維持率の計算式(F1=Finitial-α1・T1)から容量維持率が0.92と求められる。ここで、Finitialは1である。
【0029】
以下、区間2~区間4について同様に計算を行うと、例えば、図3(c)に示すように容量維持率が求められる。すなわち、区間2では0.88、区間3では0.86、区間4では0.77と求められる。
【0030】
次に、図4を用いて、本実施の形態において、次の始動時に容量維持率の最大値と最小値の差が閾値を超えると推定された場合に、どのように閾値以内に収めるのかを説明する。電池パックは多数のリチウムイオン電池のセルで構成されており、この中で最大容量維持率の電池セルをセルA、最小容量維持率の電池セルをセルBとして、セルAとセルBの容量維持率の差を閾値(0.02)以内に収める場合について説明する。閾値0.02は例として示している。
【0031】
まず、セルAとセルBについて、停車時の容量維持率について求める、図5には、各区間におけるセルA、セルBの各温度(測定温度又は推定温度)、各SOC、各放置時間(各停車時間)が載せられている。これを基に、電池セルAは、区間Aで温度20℃、SOCは80%であり、図6の劣化係数の表から劣化係数は0.7と求められる。容量維持率の計算式により、区間Aの終点では容量維持率は0.93と求められる。同様にして区間Bの終点(停車時)では容量維持率は0.82と求められる。
【0032】
電池セルBについても同様に求められ、区間Aの終点では容量維持率は0.925、区間Bの終点(停車時)では容量維持率は0.805と求められる。
【0033】
次に、次回始動時の容量維持率を求める。上述の容量維持率の計算式により、電池セルAは、0.71、電池セルBは0.685と求められる。これらは、次回始動時のセルA、セルBの算出推定された容量維持率であり、容量維持率の差は0.025となる。ここで、例えば閾値を0.02とした場合は、閾値を超えていることとなる。
【0034】
フロー図に戻り、ステップS3で予測停車時間が閾値以上か否か判定する。閾値は、例えば8時間とすることができる。閾値以上でなければ制御を終了する。閾値以上であれば、次回始動時の容量維持率の最大偏差が閾値以上か否か判定する(ステップS4)。
【0035】
最大偏差が閾値以上でなければ、ステップS10の各セルのSOCの調整を実行する(SOC調整工程)。ここでのSOCの調整、所謂セルバランシングは、図7(b)に示すように、全てのセルのSOCが同一になるような制御である。
【0036】
ここで、セルバランシングするための一般的なセルバランシング装置(パッシブ方式)は、各電池セルと並列に抵抗がスイッチを介して接続されており、スイッチをONにすることによって、電池セルのエネルギーを抵抗体で熱に変換し、電池セルのSOCを下げることが可能になっている。また、アクティブセルバランシング方式でセルバランシングを行ってもよいことは勿論である。
【0037】
ステップ4で、次回始動時の推定容量維持率の最大偏差が閾値以上であれば、ステップS5の「温度とSOCの対応値と予測停車時間と劣化係数から、次回始動時に容量維持率の最大偏差が閾値に収まるような各セルのSOCを算出」する(SOC調整値設定工程)。
【0038】
SOC調整値設定工程におけるSOC(SOC調整値)の算出方法を図3図4に戻り説明する。先の説明においては、次回始動時の推定容量維持率は、電池セルAが0.71、電池セルBが0.685と閾値0.02を超えていることを説明した。以下に、この偏差を0.02とするための電池セルBの目標SOC(SOC調整値)について説明する。
【0039】
次回始動時の推定容量維持率は電池セルAが0.71であるから、電池セルBの推定容量維持率は0.69にしなければならない。容量維持率の計算式により、そのための電池セルBの劣化係数は0.575と求められる。図6の劣化係数の表から、劣化係数を0.575とするためのSOC調整値は、電池温度0℃の行の線形補完により0.75(75%)と求められる。
【0040】
セルBの目標のSOC(SOC調整値)を設定した後、電気自動車の停車中にセルBのSOCを設定したSOC調整値になるように調整(セルバランシング)する(SOC調整工程)。このセルバランシングは、図7(a)に示す様に、各セルは、各セルの目標SOCになるように個々に調整される。なお、図示されている数値は例である。一般に、この段階でのセルバランシングは、SOCの高いセルはSOCを低く、SOCの低いセルはSOCを高くするような制御となる。
【0041】
次に、予測停車時間の経過を待つ(ステップS7)。そして、温度とSOCの対応値と実際の経過停車時間と劣化係数から、現時点での容量維持率の最大偏差(最大値と最小値の差)を算出する(ステップS8)。停車してから次の始動時までの間で、算出推定に用いた数値(温度、劣化係数、予測停車時間など)と実際の温度、劣化係数、経過した停車時間などが同じであれば、最大偏差は閾値内となる。
【0042】
次に、現時点(次回始動時)での容量維持率の最大偏差が閾値以下か否か判定する(ステップS9)。閾値以下でない場合(閾値外の場合)は、フローを終了する。閾値以下(閾値内)であれが、ステップ10の各セルのSOCの調整(セルバランシング)を行う。このセルバランシングは、図7(b)に示すように各セルのSOCが同一になるような制御である。このようにして、リチウムイオン電池の容量を増加させ、電気自動車の走行可能距離を延ばすことができる。
【0043】
本実施形態のセルバランシング方法及びそのシステムによれば、電気自動車の停車中に、次の始動時におけるセルの容量維持率の最大偏差(最大値と最小値の差)が所定の範囲内に収まるようにセルのSOCが調整される。したがって、リチウムイオン電池を構成する各セル毎に的確に劣化の促進を抑制するため、リチウムイオン電池の性能が保たれると共に、常に快適に電気自動車を使用することができる。
【0044】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、図4において、停車時における容量維持率は、区間が2つ(区間A、区間B)の過去の履歴を用いて求めたが、これも例示であってこれに限定されない。また、容量維持率の差の閾値は0.02としたが、これも例示であって、これ例外でも良い。
【符号の説明】
【0045】
10 セルバラシングシステム
12 リチウムイオ電池
14 温度判定装置
16 SOC判定装置
18 SOC調整装置
20 情報処理装置
22 プログラム部
24 メモリ部
22-1 予測停車時間設定部
22-2 容量維持率算出推定部
22-3 SOC調整値設定部
24-1 停車時間統計値
24-2 劣化係数マップ
24-3 温度とSOCの対応表
SOC 充電率
F1~F4、F、Finitial 容量維持率
T1~T4、T 停車時間(year(1/2)
α 劣化係数
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7